特許第6473885号(P6473885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473885
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】めっき廃水処理工程
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20060101AFI20190218BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20190218BHJP
   C02F 1/36 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C02F1/28 B
   C02F1/62 Z
   C02F1/36
   C02F1/28 J
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-520971(P2017-520971)
(86)(22)【出願日】2017年3月6日
(65)【公表番号】特表2018-513771(P2018-513771A)
(43)【公表日】2018年5月31日
(86)【国際出願番号】CN2017075734
(87)【国際公開番号】WO2017152817
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2017年5月19日
(31)【優先権主張番号】201610135746.2
(32)【優先日】2016年3月10日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518459938
【氏名又は名称】深▲ゼン▼市欧科力科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】周艶紅
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第106219796(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102351271(CN,A)
【文献】 中国特許第101205088(CN,B)
【文献】 中国特許出願公開第101204644(CN,A)
【文献】 特開2015−097995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業廃棄物である赤泥、農業廃棄物である藁及び海水を用いてめっき廃水中の重金属イオンを処理するめっき廃水処理工程であって、具体的には、
A.藁とめっき廃水を混合するステップであって、藁を粉砕し、粉砕した藁とめっき廃水を30〜50分攪拌混合して備え、めっき廃水1リットルあたりに投入する藁の質量を40〜50gとするステップと、
B.海水と赤泥を混合するステップであって、海水と赤泥を20〜30分攪拌混合し、pHを8.5〜9.5に調節して2〜3時間静置した後に、濾過することで濾液を取得して備え、海水1リットルあたりに投入する赤泥の質量を200〜300gとするステップと、
C.金属イオンを吸着するステップであって、ステップAの混合液とステップBの濾液を混合し、超音波振動により30〜50分混合して3〜5時間静置してから、再び超音波振動で20〜30分混合し、1〜2時間静置した後に濾過するステップと、
D.ステップCで取得した濾液をpH7に調整するステップと、を含むことを特徴とするめっき廃水処理工程。
【請求項2】
ステップAにおいて、藁の粉砕粒径は60〜100メッシュであることを特徴とする請求項1記載のめっき廃水処理工程。
【請求項3】
ステップAにおいて、粉砕した藁とめっき廃水を混合する前に、粉砕した藁を空気排除条件下において250〜350℃で加熱し、加熱時間を1.5〜3時間とすることを特徴
とする請求項1記載のめっき廃水処理工程。
【請求項4】
前記めっき廃水は、クロム含有廃水、銅含有廃水、ニッケル含有廃水、カドミウム含有廃水、亜鉛含有廃水及び銀含有廃水であることを特徴とする請求項1記載のめっき廃水処理工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚水処理の技術分野に関し、特に、めっき廃水処理工程に関する。
【背景技術】
【0002】
中国経済の発展は、工業、特に加工業の下支えなくしてはあり得ない。また、中国の加工業においては、めっき業界が重要な力となっている。しかし、めっき工業の発展に伴い、めっき廃水による公害問題が日々深刻さを増している。めっきにより排出されるめっき廃水には各種の重金属イオンが含有されており、廃水中の重金属イオンを処理しないまま自然環境に排出してしまうと、人間やその他生物の生存に計り知れない被害をもたらすことになる。そのため、めっき廃水処理に関する研究は必須である。
【0003】
重金属汚染廃水の管理方法にはいくつかあるが、現在のめっき廃水処理方法の中では化学的処理法が確実とされている。しかし、この方法には、処理効率が悪い、処理深度が浅い、更には大量の化学薬剤を使用せねばならないことから処理コストが極めて高い、といった欠点がある。その他の方法の場合にも、投資が嵩む、エネルギー消費が大きい、操作が困難、二次汚染が発生しやすい等の問題が同等に存在している。
【0004】
一方、赤泥は、ボーキサイトから酸化アルミニウムを抽出した後に排出される産業固形廃棄物である。一般的には酸化鉄の含有量が多く、外観が赤い泥土に似ていることから赤泥と呼ばれる。通常、酸化アルミニウムを1トン生産するごとに、平均で1.0〜2.0トンの赤泥が発生する。中国では赤泥の年間排出量が数百万トンにも達しているが、現状の赤泥処理工程は複雑であり、コストも嵩んでしまう。よって、十分且つ有効な処理ができないばかりか、広大なストックヤードに積載するために多くの土地が占有されている。更には、環境汚染の発生も深刻である。
【0005】
また、成熟した農作物の茎や葉の部分を総称して藁という。農作物の光合成産物は半分以上が藁に存在するため、藁には、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、有機物等が豊富に含有される。即ち、藁は様々な用途に用いられる再生可能な生物資源である。中国では農業生産量の増加に伴い大量の藁が蓄積されているが、再利用率は低く、余剰藁の大部分が焼却処理されている。そのため、大量の有効資源が無駄となっているだけでなく、藁の焼却によりスモッグが発生することもある。また、大量の有毒・有害物質の発生により、人間やその他生物の健康が脅かされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、汚染物である赤泥と農村廃棄物である藁を代用することで大量の化学薬剤の使用を減少させ、めっき廃水を有効に処理可能とするとともに、赤泥と藁の総合利用を実現することで、廃棄物で廃棄物を処理し、処理コストを削減するとともに、効率よく環境を保護するめっき廃水処理工程を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を実現するために、本発明は以下の技術方案を用いる。
【0008】
即ち、産業廃棄物である赤泥、農業廃棄物である藁及び海水を用いてめっき廃水中の重金属イオンを処理するめっき廃水処理工程であって、具体的に以下のステップを含む。
【0009】
A.藁とめっき廃水を混合するステップ:藁を粉砕し、粉砕した藁とめっき廃水を30〜50分攪拌混合して備える。めっき廃水1リットルあたりに投入する藁の質量は40〜50gとする。当該ステップでは、藁とめっき廃水を攪拌混合すると、めっき廃水によって藁が加水分解し、めっき廃水中の重金属イオンを初期段階として吸着する。これにより、めっき廃水中の重金属イオンの一部が除去される。なお、藁を粉砕してからめっき廃水と混合することで、藁の表面積が大きくなり、吸着効果が高まるとの利点がある。
【0010】
B.海水と赤泥を混合するステップ:海水と赤泥を20〜30分攪拌混合し、pHを8.5〜9.5に調節して2〜3時間静置した後に、濾過することで濾液を取得して備える。海水1リットルあたりに投入する赤泥の質量は200〜300gとする。経験的に、赤泥のpHはたいへん高く、浸出液のpH値は12.1〜13.5となることが知られている。pH値が高くなる原因としては、赤泥中のアルミノケイ酸ナトリウム水和物にNaOが含有されていることが影響している。これに対し、海水中には大量のCaCl、MgSO、NaClが含有されており、これらが赤泥中のNaOと交換されることでNaOを除去する目的が達せられ、NaOの含有量を0.8%以下まで低下させられる。これにより、赤泥のpHが低下するため、海水で処理された赤泥は工業生産セメントの原料要求を満たすことになる。
【0011】
C.金属イオンを吸着するステップ:ステップAの混合液とステップBの濾液を混合し、超音波振動により30〜50分混合して3〜5時間静置してから、再び超音波振動で20〜30分混合し、1〜2時間静置した後に濾過する。当該ステップでは、濾液のpHが海水処理後に8.5〜9.5に調節されているため、アルカリ条件である第2濾液と第1濾液とが混合されるとともに、超音波振動によって十分に混ぜ合わされる。これにより、ステップAの重金属イオンがアルカリ条件下で十分に加水分解されて沈殿物を形成する。また、ステップAの藁がアルカリ条件下で加水分解されて形成される水酸基とカルボニル基によって、金属イオンをいっそう有効に吸着可能となる。以上2つのメカニズムと相互作用によって、めっき廃水中の重金属イオンが有効に除去されるため、良好な浄化効果を備えることになる。
【0012】
D.ステップCで取得した濾液をpH7に調整する。
【0013】
具体的に、ステップCにおいて、第1濾液と第2濾液の体積比率は1:0.8〜1.2である。
【0014】
具体的に、ステップAにおいて、藁の粉砕粒径は60〜100メッシュである。
【0015】
具体的には、ステップAにおいて、粉砕した藁とめっき廃水を混合する前に、粉砕した藁を空気排除条件下において250〜350℃で加熱する。なお、加熱時間は1.5〜3時間とする。当該方案では、藁を空気排除下で加熱調節して炭化させる。炭化した藁の表面には含酸素官能基が豊富に含まれることから、炭化藁は高pH下において表面に大量の負電荷を保有し、重金属の陽イオンに対して強い吸着能力を有する。炭化した藁は、めっき廃水中の重金属イオンに対する吸着効果がより良好なため、浄化効果がいっそう強力となる。また、炭化した藁は燃料として回収され、再利用が可能なため、環境にやさしく、二次汚染が発生しない。
【0016】
具体的に、前記めっき廃水は、クロム含有廃水、銅含有廃水、ニッケル含有廃水、カドミウム含有廃水、亜鉛含有廃水及び銀含有廃水である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下のような有益な効果を有する。
1.農業廃棄物である藁、産業廃棄物である赤泥及び海水を総合利用してめっき廃水を処理することで、めっき廃水中の重金属におけるゼロエミッションを実現可能であり、処理効果が良好となる。
2.構築物の建築を一切必要としないほか、処理過程においてその他いかなる化学薬剤も使用しないため、処理コストを極めて低く抑えつつ、処理後の排出基準を満たすことができる。
3.処理原料の入手先が広範囲に及び、且つ、いずれの原料も廃棄物であることから、廃棄物による廃棄物の処理と総合利用が実現される。また、処理後の藁及び赤泥廃棄物は回収のうえで再利用することが可能なため、二次汚染が生じず、省エネとなり、環境にも優しい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、具体的実施例によって本発明を更に説明する。
【0019】
めっき廃水は、東莞市の某めっき製品有限公司から入手し、めっき廃水中の主な重金属イオン濃度として、Cr6+:76mg/L、Cu2+:34mg/L、Zn2+:47mg/L、Ni2+:30mg/L、Ag:22mg/L、CD2+:52mg/Lが測定された。めっき廃水のpHは2.5であった。また、赤泥は河北省の某新素材有限公司から入手し、pH値は13.5であった。
【0020】
実施例1
めっき廃水のサンプルを10L準備した。また、藁を粒径60メッシュの粒子となるまで粉砕し、400g計量した。そして、めっき廃水に藁粒子を投入して30分攪拌混合した。続いて、海水を10L取り、2000gの赤泥を海水に加えて20分攪拌混合し、pH値を8.5に調節した。これを2時間静置して濾過し、濾液を取得した。そして、藁とめっき廃水の混合液と濾液とを混合し、超音波振動により30分混合して3時間静置した。その後、再び超音波振動で20分混合し、1時間静置した後に濾過した。濾液のpHは7に調節した。
【0021】
実施例2
めっき廃水のサンプルを10L準備した。また、藁を粒径80メッシュの粒子となるまで粉砕し、500g計量した。そして、めっき廃水に藁粒子を投入して40分攪拌混合した。続いて、海水を10L取り、3000gの赤泥を海水に加えて20分攪拌混合し、pH値を9に調節した。これを2時間静置して濾過し、濾液を取得した。そして、藁とめっき廃水の混合液と濾液とを混合し、超音波振動により30分混合して3時間静置した。その後、再び超音波振動で20分混合し、1時間静置した後に濾過した。濾液のpHは7に調節した。
【0022】
実施例3
めっき廃水のサンプルを10L準備した。また、藁を粒径100メッシュの粒子となるまで粉砕し、500g計量した。そして、めっき廃水に藁粒子を投入して40分攪拌混合した。続いて、海水を10L取り、3000gの赤泥を海水に加えて25分攪拌混合し、pH値を9に調節した。これを2.5時間静置してから濾過し、濾液を取得した。そして、藁とめっき廃水の混合液と濾液とを混合し、超音波振動により40分混合して3時間静置した。その後、再び超音波振動で25分混合し、1.5時間静置した後に濾過した。濾液のpHは7に調節した。
【0023】
実施例4
めっき廃水のサンプルを10L準備した。また、藁を粒径100メッシュの粒子となるまで粉砕し、500g計量した。そして、めっき廃水に藁粒子を投入して50分攪拌混合した。続いて、海水を10L取り、3000gの赤泥を海水に加えて30分攪拌混合し、pH値を9.5に調節した。これを3時間静置して濾過し、濾液を取得した。そして、藁とめっき廃水の混合液と濾液とを混合し、超音波振動により50分混合して3時間静置した。その後、再び超音波振動で30分混合し、2時間静置した後に濾過した。濾液のpHは7に調節した。
【0024】
実施例5
めっき廃水のサンプルを10L準備した。また、藁を粒径60メッシュの粒子となるまで粉砕し、500g計量した。そして、粉砕処理した前記の藁を空気排除条件下において250℃で加熱した。なお、加熱時間は1.5時間とした。これにより炭化藁を形成し、炭化藁の粒子をめっき廃水に投入して50分攪拌混合した。続いて、海水を10L取り、3000gの赤泥を海水に加えて30分攪拌混合し、pH値を9.5に調節した。これを3時間静置して濾過し、濾液を取得した。そして、炭化藁とめっき廃水の混合液と濾液とを混合し、超音波振動により50分混合して3時間静置した。その後、再び超音波振動で30分混合し、2時間静置した後に濾過した。濾液のpHは7に調節した。
【0025】
実施例6
めっき廃水のサンプルを10L準備した。また、藁を粒径100メッシュの粒子となるまで粉砕し、500g計量した。そして、粉砕処理した前記の藁を空気排除条件下において300℃で加熱した。なお、加熱時間は2時間とした。これにより炭化藁を形成し、炭化藁の粒子をめっき廃水に投入して50分攪拌混合した。続いて、海水を10L取り、3000gの赤泥を海水に加えて30分攪拌混合し、pH値を9.5に調節した。これを3時間静置して濾過し、濾液を取得した。そして、藁とめっき廃水の混合液と濾液とを混合し、超音波振動により50分混合して3時間静置した。その後、再び超音波振動で30分混合し、2時間静置した後に濾過した。濾液のpHは7に調節した。
【0026】
実施例1〜6で処理しためっき廃水中のクロムイオン、銅イオン、ニッケルイオン、カドミウムイオン、亜鉛イオン及び銀イオンの濃度を検定し、測定結果をめっき汚染物排出基準(GB21900‐2008)と比較した。表1に比較結果を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1より、実施例1〜6は、いずれもめっき汚染物排出基準(GB21900−2008)の要求を満たしていることがわかる。これより、本発明は処理効果が良好であり、且つ、低コストで効率のよい環境保護がなされるため、めっき工程を有するあらゆる中小企業への普及に適していることが示された。
【0029】
以上の実施形態は本発明における好ましい実施形態を述べたにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の設計主旨から逸脱しないことを前提に、当業者が本発明の技術方案について実施する各種の変形及び改良は、いずれも本発明の特許請求の範囲で特定する保護範囲に包含されるものとする。