特許第6473938号(P6473938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6473938
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】抗線維化化合物、その方法および使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20190218BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20190218BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   A61K31/198
   A61K31/47
   A61P17/02
   A61P11/00
   A61P13/12
   A61P1/16
   A61P9/00
   A61P9/10
   A61P19/08
   A61P37/00
   A61P15/00
   A61P43/00 105
【請求項の数】18
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2016-517101(P2016-517101)
(86)(22)【出願日】2014年6月4日
(65)【公表番号】特表2016-521695(P2016-521695A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】CA2014000484
(87)【国際公開番号】WO2014194407
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2017年6月2日
(31)【優先権主張番号】61/831,404
(32)【優先日】2013年6月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】300066874
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100163991
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 慎司
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(74)【代理人】
【識別番号】100153947
【弁理士】
【氏名又は名称】家成 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】ガハリー,アジズ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ユンユアン
(72)【発明者】
【氏名】キラニ,ルハンギズ,ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ハートウェル,ライアン
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−520587(JP,A)
【文献】 J. Investig. Dermatol., 2012, Vol.132, No.5, pp.1501-1505
【文献】 Cancer Res., 2012, Vol.72. No.21, pp.5435-5440
【文献】 J. Biol. Chem., 2004, Vol.279, No.24, pp.25284-25293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/198
A61K 31/47
A61P 1/16
A61P 9/00
A61P 9/10
A61P 11/00
A61P 13/12
A61P 15/00
A61P 17/02
A61P 19/08
A61P 37/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維性疾患を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が化合物または薬学的に許容され得るその塩および薬学的に許容され得る賦形剤を含み、前記化合物が以下の式I:
式I
ここで、
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
Rは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、または環状である1〜6個の炭素を有する基であり、;
Aは、HまたはNHであり;
Dは、
もしくは
であり、または、
AおよびDは、以下:

;および
から選択される6員環を形成しており;
Gは、CHまたはNであり;
は、OH、NH、またはSHであり;
は、H、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、Hである;
で表される構造を有し、
前記線維性疾患が、以下:ケロイド、肥厚性瘢痕、肺線維症、腎線維症、肝硬変、心内膜心筋線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、陳旧性心筋梗塞、強皮症、全身性硬化症、および子宮筋腫から選択される医薬組成物。
【請求項2】
治療の対象が哺乳動物である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
が、H、OH、NH、OCH、CH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
が、H、OH、NH、OCH、CH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
が、H、OH、NH、OCH、CH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
が、H、OH、NH、OCH、CH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
Aが、HまたはNHであり;
Dが、
であり;または
AおよびDが、以下:
;および
から選択される6員環を形成し;
Gが、CHまたはNであり;
が、OH、NHまたはSHであり;
が、H、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;および
が、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIである
請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
が、H、OH、NH、OCHまたはCHであり;
が、H、OH、NH、OCHまたはCHであり;
が、H、OH、NH、OCHまたはCHであり;
が、H、OH、NH、OCHまたはCHであり;
Aが、HまたはNHであり;
Dが、
;または
AおよびDが、以下:
;および
から選択される6員環を形成し;
Gが、CHまたはNであり;
が、OHまたはNHであり;および
が、H、OHまたはNHである請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項5】
が、H、OH、NH、OCHまたはCHであり;
が、H、OH、NH、OCHまたはCHであり;
が、H、OH、NH、OCHまたはCHであり;
が、H、OH、NH、OCHまたはCHであり;
Aが、HまたはNHであり;および
Dが、
;または
AおよびDが、以下:
の構造を有する6員環を形成する請求項1〜4のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項6】
が、H、OHまたはNHであり;
が、H、OHまたはNHであり;
が、H、OHまたはNHであり;
が、H、OHまたはNHであり;
Aが、HまたはNHであり;および
Dが、
であり;または
AおよびDが、以下:
の構造を有する6員環を形成する請求項1〜5のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記化合物が、以下の式II:
II
ここで、
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
Aは、HまたはNHである、
構造を有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記化合物が、以下の式III:
III
ここで、
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、OH、NH、またはSHである
構造を有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
がOHまたはNHである請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
がOHである請求項8記載の医薬組成物。
【請求項11】
が、HまたはOHであり;
が、H、OHまたはNHであり;
が、H、OHまたはNHであり;および
が、H、OHまたはNHである請求項1〜10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項12】
が、H、OHまたはNHであり;
が、HまたはOHであり;
が、H、OHまたはNHであり;および
が、H、OHまたはNHである請求項1〜10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項13】
が、H、OHまたはNHであり;
が、H、OHまたはNHであり;
が、HまたはOHであり;および
が、H、OHまたはNHである請求項1〜10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項14】
が、H、OHまたはNHであり;
が、H、OHまたはNHであり;
が、HまたはOHであり;および
が、HまたはNHである請求項1〜10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項15】
が、HまたはOHであり;
が、HまたはOHであり;
が、HまたはOHであり;および
が、HまたはNHである請求項1〜10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記化合物が、以下:




、および
から選択される請求項1記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記化合物が、以下:




、および
から選択される請求項1記載の医薬組成物。
【請求項18】
(a)線維性疾患を治療するための医薬組成物であって、化合物または薬学的に許容され得るその塩および薬学的に許容され得る賦形剤を含み、前記化合物が以下の式I:
式I
ここで、
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、R、OR、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
Rは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、または環状である1〜6個の炭素を有する基であり、;
Aは、HまたはNHであり;
Dは、
もしくは
であり、または、
AおよびDは、以下:

;および
から選択される6員環を形成しており;
Gは、CHまたはNであり;
は、OH、NH、またはSHであり;
は、H、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIであり;
は、Hである;
で表される構造を有する、医薬組成物、および
(b)線維性疾患を治療するための前記医薬組成物の使用説明書であって、前記線維性疾患が、以下:ケロイド、肥厚性瘢痕、肺線維症、腎線維症、肝硬変、心内膜心筋線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、陳旧性心筋梗塞、強皮症、全身性硬化症、および子宮筋腫から選択される、使用説明書
を含む線維性疾患を治療するための市販用パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年6月5日に出願された「抗線維化化合物およびその方法」と題する米国仮出願第61/831,404号の利益を主張するものである。
【0002】
技術分野
本発明は線維症の治療のための新規方法に関する。具体的には、本明細書中の記載は、線維性疾患、特には例えばケロイドおよび肥厚性瘢痕などの皮膚の疾患または症状の治療のための、キヌレニン、キヌレン酸、キサンツレン酸および/または関連化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
線維増殖性の症状に属する障害である一群の線維症は、例えば皮膚、肝臓、肺、腎臓および動脈などの種々の器官において見られる。米国における全死亡事例の約40%は、部分的には線維増殖性障害によると推定されている。フィブロネクチン、I型およびIII型コラーゲンなどのマトリックスの過剰産生、もしくはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などのマトリックス分解酵素の低いレベル、のどちらかまたはその両方に起因する細胞外マトリックスの過剰蓄積がこれら全ての線維化症状の共通の特徴である。
【0004】
全ての他の器官の場合のように、皮膚における創傷治癒は、様々な種類の損傷に対する組織応答を含むダイナミックプロセスである。このプロセスは、組織修復の非常に複雑なプロセスを組織化するために、血小板、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、免疫細胞が、それらの通常の分域の外側で一体となるシグナルおよび応答の連続的なシークエンスを含む。主に成長因子(GF)およびサイトカインであるこれらのシグナルは、創傷治癒の開始、持続および終結を組織化する(Scottら、1994年)。創傷部位におけるサイトカインおよびGFsの合成および遊離の不均衡が、遅延された創傷治癒(例えば糖尿病患者群や高齢者群などにおいて)または過剰な治癒(例えば線維増殖性障害、外科的切開後の合併症、外傷性創傷および重度熱傷など)に至る可能性がある。したがって、創傷治癒の重要な要素は、その時宜を得た停止であり、そしてそのような時宜を得た停止なしには、世界中の何百万人もの患者において見られる過剰なマトリックスの蓄積、有害線維症症状があるかもしれない。
【0005】
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)は、例えば胚の成長と発生、子宮修復、骨の成長、骨吸収および創傷治癒などの生理学的状態のあいだのECMの代謝回転および結合組織修復に関与する多種多様なタンパク質分解酵素群の代表的なものである。正常細胞におけるMMP発現のレベルは低く、そしてこれは正常な結合組織修復を可能にする。しかしながら、MMPsの発現における不均衡は、例えば皮膚線維症、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、ならびに腫瘍浸潤および転移などの多くの病態に関与している。
【0006】
肥大瘢痕(HSc)およびケロイドなどの皮膚の線維増殖性障害を含む線維症状態に対する現状の治療法は不十分である。従って、様々な線維性疾患と症状の治療について治療戦略をたてることが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、部分的に、ある特定の化合物、キヌレニンおよびそのアナログ/アイソフォーム、キヌレン酸、ならびにキサンツレン酸が、コラーゲンおよびフィブロネクチンの発現を抑制しつつ、MMP1およびMMP3の発現を刺激することができるという驚くべき発見に基づく。さらに、本明細書中に記載されるように、これらの化合物はインビボで適用された場合、ケロイド瘢痕形成の抑制、防止または低減が可能である。
【0008】
一実施形態において、以下の式I:

式I
ここで、EはH、OH、NH、R、OR、NHR、NR、SH、SR、F、Cl、BrまたはIであり;
はH、OH、NH、R、O、NHR、NR、SH、SR、F、Cl、BrまたはIであり;
はH、OH、NH、R、OR、NHR、NR、SH、SR、F、Cl、BrまたはIであり;
はH、OH、NH、R、OR、NHR、NR、SH、SR、F、Cl、BrまたはIであり;
Rは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族であってもよい1〜20個の炭素基であって、各炭素は、任意にはO、S、SO、SO、NHまたはNR’で代替されていてもよく、および、各炭素は、任意には一またはそれ以上のOH、OR’、R、F、Cl、Br、I、=O、SH、SR’、NH2、NHR’、N(R’)、OSOH、OPO、COH、CON(R’)およびCOR’で置換されていてもよく;
R’は、独立して、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜10個の炭素基からなる群より選択され;
Aは、HまたはNHであり;
Dは、
または
であり;または
AおよびDは、以下:







;または
から選択される6員環を形成していてもよく;
Gは、CHまたはNであり;
Jは、SまたはOであり;
は、OH、OQ、NH、NHQ、NQ、SHまたはSQであり、
はO、SQ’またはNQ’であり;
は、OH、OQ、NH、NHQ、NQ、SHまたはSQであり;
Qは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族であってもよい1〜20個の炭素基であって、各炭素は任意には0、S、SO、SO、NHまたはNQ’で代替されていてもよく、および、各炭素は、任意には一またはそれ以上のOH、OQ’、Q’、F、Cl、Br、I,=O、SH、SQ’、NH、NHQ’、N(Q’)、OSOH、OPO、COH、CON(Q’)およびCOQ’で置換されていてもよく;
Q’は、独立して、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖直鎖、環状の、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜10個の炭素基からなる群より選択され;
は、H、OH、NH、T、OT、NHT、NT、SH、ST、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、T、OT、NHT、NT、SH、ST、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、T、OT、NHT、NT、SH、ST、F、Cl、BrまたはIであり;
は、OH、NH、T、OT、NHT、NT、SH、ST、F、Cl、BrまたはIであり;
TはH、または、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族であってもよい1〜20個の炭素基であって、各炭素は、O、S、SO、SO、NHまたはNT’で代替されていてもよく、および、各炭素は、任意には一またはそれ以上のOH、OT’、T’、F、Cl、Br、I、=O、SH、ST’、NH2、NHT’、N(T’)、OSOH、OPO、COH、CON(T’)およびCO、T’で置換されていてもよく;
T’は、独立して、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族であってもよい1〜10個の炭素基からなる群より選択され;
は、H、OH、NH、Z、OZ、NHZ、NZ、SH、SZ、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH、Z、OZ、NHZ、NZ、SH、SZ、F、Cl、BrまたはIであり;
は、H、OH、NH2、Z、OZ、NHZ、NZ、SH、SZ、F、Cl、BrまたはIであり;および
Zは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜20個の炭素基であって、各炭素は、任意にはO、S、SO、SO、NH、NZ’で代替されていてもよく、および、各炭素は、任意には一またはそれ以上のOH、OZ’、Z’、F、Cl、Br、I、=O、SH、SZ’、NH、NHZ’、N(Z’)、OSOH、OPO、COH、CON(Z’)およびCOZ’で置換されていてもよく;および
Z’は、独立して、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族であってもよい1〜10個の炭素基からなる群より選択される、
構造を有する化合物の、線維性疾患の治療または線維性疾患を治療するための医薬の製造のための使用が提供される。
【0009】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための方法が提供され、方法は、化合物または薬学的に許容され得るその塩を哺乳動物細胞に投与する工程を含み、化合物は式Iの構造を有している。
【0010】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための方法が提供され、方法は、化合物または薬学的に許容され得るその塩を哺乳動物細胞に投与する工程を含み、化合物は式IIの構造を有している。
【0011】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための方法が提供され、方法は、化合物または薬学的に許容され得るその塩を哺乳動物細胞に投与する工程を含み、化合物は式IIIの構造を有している。
【0012】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための方法が提供され、方法は、化合物または薬学的に許容され得るその塩を、それを必要としている対象に投与する工程を含み、化合物は式Iの構造を有している。
【0013】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための方法が提供され、方法は、化合物または薬学的に許容され得るその塩を、それを必要としている対象に投与する工程を含み、化合物は式IIの構造を有している。
【0014】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための方法が提供され、方法は、化合物または薬学的に許容され得るその塩を、それを必要としている対象に投与する工程を含み、化合物は式IIIの構造を有している。
【0015】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための医薬組成物が提供され、医薬組成物は、化合物または薬学的に許容され得るその塩および薬学的に許容され得る賦形剤を含み、化合物は式Iの構造を有している。
【0016】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための医薬組成物が提供され、医薬組成物は、化合物または薬学的に許容され得るその塩および薬学的に許容され得る賦形剤を含み、化合物は式IIの構造を有している。
【0017】
さらなる実施形態において、線維性疾患を治療するための医薬組成物が提供され、医薬組成物は、化合物または薬学的に許容され得るその塩および薬学的に許容され得る賦形剤を含み、化合物は式IIIの構造を有している。
【0018】
さらなる実施形態において、医薬組成物が提供され、医薬組成物は、化合物または薬学的に許容され得るその塩および薬学的に許容され得る賦形剤を含み、その化合物は式Iの構造を有している。
【0019】
さらなる実施形態において、医薬組成物が提供され、医薬組成物は、化合物または薬学的に許容され得るその塩および薬学的に許容され得る賦形剤を含み、その化合物は式IIの構造を有している。
【0020】
さらなる実施形態において、医薬組成物が提供され、医薬組成物は、化合物または薬学的に許容され得るその塩および薬学的に許容され得る賦形剤を含み、その化合物は式IIIの構造を有している。
【0021】
さらなる実施形態において、(a)本明細書に記載の医薬組成物;および(b)線維性疾患を治療するためのその使用のための使用説明書を含む市販用パッケージが提供される。
【0022】
さらなる実施形態において、(a)式Iの化合物;および(b)線維性疾患を治療するためのその使用のための使用説明書を含む市販用パッケージが提供される。
【0023】
さらなる実施形態において、(a)式IIの化合物;および(b)線維性疾患を治療するためのその使用のための使用説明書を含む市販用パッケージが提供される。
【0024】
さらなる実施形態において、(a)式IIIの化合物;および(b)線維性疾患を治療するためのその使用のための使用説明書を含む市販用パッケージが提供される。
【0025】
さらなる実施形態において、線維性疾患の治療のための式Iの化合物が提供される。
【0026】
さらなる実施形態において、線維性疾患の治療のための式IIの化合物が提供される。
【0027】
さらなる実施形態において、線維性疾患の治療のための式IIIの化合物が提供される。
【0028】
線維性疾患は、一またはそれ以上の以下:ケロイド、肥厚性瘢痕、肺線維症、腎線維症、肝硬変、白膜慢性炎症(CITA)、心内膜心筋線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、クローン病、陳旧性心筋梗塞、強皮症、全身性硬化症、子宮筋腫および再狭窄から選択され得る。
【0029】
Qは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜6個の炭素基である。Rは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜6個の炭素基である。Tは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜6個の炭素基である。Zは、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜6個の炭素基である。
【0030】
Q’は、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜6個の炭素基である。R’は、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜6個の炭素基である。T’は、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜6個の炭素基である。Z’は、任意には飽和、不飽和、直鎖、分岐を含む直鎖、環状、分岐を含む環状、芳香族、部分的に芳香族または非芳香族である1〜6個の炭素基である。
【0031】
は、H、OH、NH、OCH、CH、SH、F、Cl、BrまたはIである。Eは、H、OH、NH、OCH、CH、SH、F、Cl、BrまたはIである。Eは、H、OH、NH、OCH、CH、SH、F、Cl、BrまたはIである。Eは、H、OH、NH、OCH、CH、SH、F、Cl、BrまたはIである。Aは、HまたはNHである。Dは、
または
である。代替的には、AおよびDは、以下:


から選択される6員環を形成していてもよい。Gは、CHまたはNである。Lは、OH、NH2、SHである。Mは、H、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIである。Mは、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIである。Xは、H、OH、NH、SH、F、Cl、BrまたはIである。
【0032】
は、H、OH、NH、OCHまたはCHである。Eは、H、OH、NH、OCHまたはCHである。Eは、H、OH、NH、OCHまたはCHである。Eは、H、OH、NH、OCHまたはCHである。Aは、HまたはNHである。Dは、
であってもよい。代替的には、AおよびDは、以下:
または
から選択される6員環を形成していてもよい。Gは、CHまたはNである。Lは、OHまたはNHである。Mは、H、OHまたはNHである。
【0033】
は、H、OH、NH、OCHまたはCHである。Eは、H、OH、NH、OCHまたはCHである。Eは、H、OH、NH、OCHまたはCHである。Eは、H、OH、NH、OCHまたはCHである。Aは、HまたはNHである。Dは、
であってもよい。代替的には、AおよびDは、以下の構造:
を有する6員環を形成していてもよい。
【0034】
は、H、OHまたはNHである。Eは、H、OHまたはNHである。Eは、H、OHまたはNHである。Eは、H、OHまたはNHである。Aは、HまたはNHである。Dは、
であってもよい。代替的には、AおよびDは、以下の構造:
を有する6員環を形成していてもよい。
【0035】
化合物は、式II:
II
の構造を有していてもよい。化合物は、式III:
III
の構造を有していてもよい。Lは、OHまたはNHである。LはOHであってもよい。Eは、HまたはOHである。Eは、H、OHまたはNHである。Eは、H、OHまたはNHである。Eは、H、OHまたはNHである。
【0036】
は、H、OHまたはNHである。Eは、HまたはOHである。Eは、H、OHまたはNHである。Eは、H、OHまたはNHである。
【0037】
は、H、OHまたはNHである。Eは、H、OHまたはNHである。Eは、HまたはOHである。Eは、H、OHまたはNHである。
【0038】
は、H、OHまたはNHである。Eは、H、OHまたはNHである。Eは、HまたはOHである。Eは、HまたはNHである。
【0039】
は、HまたはOHである。Eは、HまたはOHである。Eは、HまたはOHである。Eは、HまたはNHである。
【0040】
化合物は、一またはそれ以上の以下:






および
から選択されてもよい。
【0041】
化合物は、一またはそれ以上の以下:





および
から選択されてもよい。化合物は、
であってもよい。化合物は、
であってもよい。化合物は、
であってもよい。化合物は、
であってもよい。化合物は、
であってもよい。化合物は、

であってもよい。化合物は、
であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】ヒト皮膚線維芽細胞中のMMP−1発現のインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)アップレギュレーション。パネルAは、未処理(C)、アデノウイルスベクター(V)、またはIDOの組み換え遺伝子を有するベクター(IDO)のいずれかで48時間形質導入された線維芽細胞を示しており、そして、IDOとその活性は、それぞれ、ウエスタンブロット(左パネル)およびキヌレニンレベルの測定(右パネル)によって検出された(「N.D」はキヌレニンのレベルが検出できなかったことを示す)。パネルBは、48時間培養された後、細胞溶解された、未処理、アデノウイルスベクター、およびIDO形質導入線維芽細胞を示し、そして、MMP−1発現がウエスタンブロッティングにより検出された。パネルCは、対照、空のベクター、またはIDOアデノウイルスベクターで48時間形質導入された線維芽細胞のいずれかから採取された馴化培地とインキュベートされた線維芽細胞を示し、ここで、MMP−1発現はウエスタンブロッティングによって分析された。b−アクチンがパネルA、BおよびCにおけるローディング対照として使用された。は、p<0.001であることを示す。
図2】ヒト皮膚線維芽細胞におけるMMP−1の発現に対するキヌレニンとトリプトファンの効果。パネルAおよびBは、様々な濃度のキヌレニンの存在下48時間培養された皮膚線維芽細胞を示し、ここで細胞は収集され、そして細胞溶解されており、その後ウエスタンブロッティングが行われ、βアクチンに対するMMP−1の比がパネルBに示されている。パネルCは、トリプトファン(25ミmg/mL)の存在下または非存在下で48時間培養された皮膚線維芽細胞を示し、ここで細胞は収集され、そして細胞溶解されており、そしてMMP−1の発現がウエスタンブロッティングによって評価された。パネルDは、種々のトリプトファンの濃度の存在下で48時間培養された線維芽細胞を示し、MMP−1の発現がウエスタンブロッティングにより評価された。β−アクチンは、すべてのパネルにおいてローディング対照のために使用された。
図3】ヒト皮膚線維芽細胞におけるMMP−2及び−3発現におけるキヌレニンの効果。図は様々な濃度のキヌレニンの存在下で48時間培養された皮膚線維芽細胞を示しており、ここで細胞は収集されそして細胞溶解され、その後ウサギモノクローナル抗ヒトMMP−2抗体(パネルA)、またはマウスモノクローナルMMP−3抗体(パネルB)を用いてウエスタンブロッティングが行われた。パネルCは、3つの独立した実験における、b−アクチンに対するMMP−3発現の比を示す。β−アクチンは、すべての実験において、ローディング対照として使用された。
図4】SensoLyte520ジェネリックMMP分析蛍光キットを用いたヒト皮膚線維芽細胞の馴化培地中のMMP活性の検出。図は、50μg/mLのキヌレニンの存在下(Kyn)または非存在下(CTL)で、48時間培養された線維芽細胞を示し、ここで細胞馴化培地は収集され、その後1000×gで10分間遠心分離された後、上清が、製造業者の使用説明書に従ってMMPの活性を検出するために使用された(培地は、37℃で、1mMのAPMAと共に3時間インキュベートされた。1ウェル当たり50μLのMMP含有サンプルが、50μLのMMP基質溶液と混合され、基質対照として使用され、そして1時間のインキュベーション後、EX/EM=490nm/520nmでの蛍光強度が測定された)。MMPの活性は相対蛍光単位(RFU)として示される。データは、標準偏差(n=3)の平均値として示される。*はP<0.05を示している。
図5】異なるタイプの間葉系細胞におけるMMP−1発現に対するキヌレニンの効果 − 細胞は、12.5〜150μg/mLの濃度のキヌレニンとともに48時間培養され、処置され、そしてMMP−1発現がウエスタンブロッティングによって分析され、β−アクチンが全ての実験においてローディング対照として使用された。パネルAは、滑膜細胞におけるMMP−1の発現を示す。パネルBは、肺線維芽細胞株IMR−90におけるMMP−1の発現を示す。
図6】異なるタイプの間葉系細胞におけるMMP−1発現に対するキヌレニンの効果 − 12.5〜150μg/mLの濃度のキヌレニンとともに48時間培養され、および処置された細胞を示し、MMP−1発現は、ウエスタンブロッティングによって分析され、β−アクチンが全ての実験においてローディング対照として使用され、ここで上部パネルと下部左側のパネルは、それぞれ負および正の対照として使用された、未処置およびキヌレニン処置された線維芽細胞の細胞溶解物を示す。
図7】キヌレニンはヒト皮膚線維芽細胞においてERK1/2リン酸化を刺激する − 100μg/mLのキヌレニンの存在または非存在下で、60分間培養された皮膚線維芽細胞を示し、ここで細胞は収集され、そして細胞溶解バッファで溶解され、その後抗体アレイがヒトホスホキナーゼアレイキット(R&Dシステム(登録商標))を用いて行われた。ここで、スポット1、正の対照;スポット2、ホスホ−P38α;スポット3、ホスホERK1/2;スポット4、ホスホGSK−3α/β;スポット5、ホスホP53;スポット6、正の対照である。
図8】ヒト皮膚線維芽細胞におけるMEKおよびERK1/2リン酸化のキヌレニン刺激 − 100μg/mLのキヌレニンの存在下、示された時間で培養された皮膚線維芽細胞を示し、ここで細胞は収集されそして細胞溶解され、リン酸化MEKまたはリン酸化ERK1/2抗体のいずれかを用いてウエスタンブロットが行なわれた(βアクチンがローディング対照として使用された)。
図9】− MEKまたはERK1/2リン酸化阻害剤の添加は、皮膚線維芽細胞におけるキヌレニン刺激性MMP−1発現の効果を無効にする。パネルA: 様々な濃度のPD98059の存在下あるいは非存在下で、100μg/mLのキヌレニンの存在下あるいは非存在下で培養された皮膚線維芽細胞を示す。パネルB:30μMのPD98059(ERK1/2阻害剤)、30μMのU0126(MEK阻害剤)、10μMのU0126を用いてまたは用いずに、100μg/mlのキヌレニンの存在下あるいは非存在下で培養された皮膚線維芽細胞を示す。MMP−1発現は、ウエスタンブロットによって検出された(βアクチンは、すべての実験におけるローディング対照として用いた)。
図10】− 皮膚線維芽細胞におけるI型プロコラーゲン発現に対するキヌレニン、キヌレン酸、キサンツレン酸の効果 − 示された濃度のキヌレニンで48時間処置されたヒト皮膚線維芽細胞を示し(上側)、ここで細胞は収集され、そして細胞溶解バッファで溶解され、そして計50μgのタンパク質が8% SDS−PAGEによって分画され、その後プロコラーゲンに対する抗体を用いてウエスタンブロッティングが行われた。β−アクチンは、ローディング対照として使用され、キヌレン酸(KA)またはキサンツレン酸(XA)もまた試験された(下側)。
図11】− 線維芽細胞増殖に対するキヌレニンの効果 − 示された濃度のキヌレニン存在下で、48時間培養されたヒト皮膚線維芽細胞を示す。MTT細胞増殖アッセイが、本明細書中に記載されるように行われ、ここで、細胞増殖はMTTアッセイにおける細胞指数(OD 570nm)として示されている。
図12】− 創傷および瘢痕の臨床的外観および組織学 − 8日目から開始して3週間、未処置(CTL)、CMCゲルのみ(Gel)、または0.1mLのCMCゲル中50μgキヌレニン(kyn)のいずれかで毎日処置されたウサギの耳の創傷を示す。パネルA:未処置(CTL)、CMCゲル(Gel)、またはCMCゲル中キヌレニン(kyn)の処置を受けた、28日目の、25倍顕微鏡による創傷の顕微鏡組織診を示す。パネルB:測定された瘢痕隆起指数(SEI)を示す(未処置、CMCゲル、CMCゲル中のキヌレニンで処置された創傷におけるSEIの平均±標準偏差)。*はキヌレニン処置および未処置の対照間の顕著な差を示す(P<0.001)。**はキヌレニンおよびCMCゲル対照群の間の顕著な差を示す(P <0.01)。パネルC:未処置皮膚創傷(左パネル)、クリーム処置創傷(中央パネル)、キヌレニン処置創傷(右パネル)の25倍および100倍に拡大されたマッソントリクローム染色された全層皮膚切片を示す。パネルD: 未処置創傷(計4つの創傷)、クリーム処置創傷(計4つの創傷)、キヌレニン処置創傷(計8つの創傷)のいずれかからの皮膚の総ヒドロキシプロリン含有量を示す。*はP<0.01を示す。
図13】− キヌレニン局所的適用は、ウサギの耳の皮膚におけるI型α1コラーゲンを減少させ、MMP−1発現を増加させる − 上記と同様、未処置(CTL)、またはゲルのみ(Gel)、またはキヌレニンが添加されたゲル(Kyn)のいずれかで処置されたウサギの耳における創傷を示す。皮膚創傷は、トリゾール(登録商標)による全RNAを抽出するために使用され、そして1μgのRNAが、I型コラーゲン、MMP−1、β−アクチンの定量的RT−PCRのcDNAを合成するために使用された。パネルA:ウサギの耳皮膚組織におけるI型α1コラーゲン相対的発現レベルを示す。パネルB:ウサギの耳皮膚組織におけるMMP−1の相対的発現レベルを示す。*はp<0.05を示す。
図14】− ヒト皮膚線維芽細胞中でのMMP−1の発現に対するキヌレニンアイソフォームの効果 − 50μg/mlのDL−キヌレニン(DL−Kyn)、またはD−キヌレニン(D−Kyn)、またはL−キヌレニン(L−Kyn)のいずれかの存在下あるいは非存在下(CTL)で48時間培養された皮膚線維芽細胞を示し、この時点で、細胞は収集され、そしてタンパク質溶解バッファで溶解され、(そして計50μgのタンパク質が10% SDSアクリルアミドゲル上へとロードされて)β−アクチンをローディング対照として使用して抗ヒトMMP−1抗体でウエスタンブロッティングが行われ、すべての試験されたキヌレニンアイソフォームは皮膚線維芽細胞中でのMMP−1発現を増加させたが、L−キヌレニンが他の2つのアイソフォームと比較してより大きな活性化を有しているようである。
図15】− ヒト皮膚線維芽細胞中でのコラーゲン発現に対するキヌレニン(FS1)アナログの効果 − 様々な濃度の、DL−キヌレニン(FS1)、L−キヌレニン、D−キヌレニン、キヌレン酸(FS2)のいずれかで処置された皮膚線維芽細胞、および、リアルタイムPCRによって検出された、β−アクチンを対照として用いたmRNAレベル中の対応するコラーゲン発現を示す。
図16】− ヒト皮膚線維芽細胞中でのフィブロネクチン発現に対するキヌレニン(FS1)アナログの効果 − 様々な濃度のDL−キヌレニン(FS1)、L−キヌレニン、D−キヌレニン、キヌレン酸(FS2)のいずれかで処置された皮膚線維芽細胞、および、リアルタイムPCRによって検出された、β−アクチンを対照として用いたmRNAレベル中の対応するコラーゲン発現を示す。
図17】− ConA刺激性脾細胞増殖における、50、100、150μg/mLのトリプトファン代謝物(FS1、LK、FS2、DK)の抑制効果の比較 − 100および150μg/mLのD−Kyn、L−Kyn、DL−Kyn(FS−1)およびキヌレン酸(FS2)での処置後、96時間で、脾細胞の増殖におけるほぼ1/5の減少が観察され(p<0.05)、48時間後では、100および150μg/mlのD−Kyn、L−Kyn、およびDL−Kynでは脾臓細胞の増殖が、約1/2に顕著に減少したが、FS2は増殖に対してより少ない効果しか示さなかった。
図18】− FS1(DL−キヌレニン)処置されたまたは未処置のマウス脾細胞における免疫因子タンパク質マイクロアレイ − FS1は、IL−1、IL−2、CXCL9、およびCXCL10、FS1などのいくつかの炎症性サイトカインおよびケモカインの産生に対する免疫抑制効果を有し、そしてFS1は、炎症において重要な役割を果たすと考えられるIL−17産生に顕著な減少をもたらしている。パネルA:48時間、未処置のままの(ConA)、または、100μg/mLのKynで処置された(ConA+Kyn)活性化脾細胞を示し、この時点で、馴化培地(CM)が未処置のおよび処置された細胞から集められ、そしてその後プロテオームプロファイラ抗体アレイ(登録商標)メンブレンへと暴露され、パネルBに示されているそれぞれの参照スポットにおける、未処置のおよび処置された細胞の両方の細胞の密度値パーセンテージが示されている。パネルB:プロテオームプロファイラ抗体アレイメンブレンによって識別されたシグナルを示す。パネルC:パネルBに示されているスポット番号が示す参照タンパク質を表す。
図19】− ヒト皮膚線維芽細胞中のMMP1発現におけるFS1とFS2の持続効果。パネルA:キヌレニン(FS1)とキヌレン酸(FS2)のMMP1発現に対する持続効果を示し、ここで線維芽細胞は、FS1またはFS2(100μg/mL)で48時間処置され、そして培地が交換され、そして細胞が直ちに収集され、そして処置の除去後12、24、48時間で、ウエスタンブロット法を用いて皮膚線維芽細胞中のMMP1発現が評価された。パネルB:処置された線維芽細胞中で算定されたMMP1/βアクチン発現比を示す。データは4つの独立した実験の平均±平均値の標準誤差である(*はP値<0.05および**はP値<0.01、n=4)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本明細書中で直接定義されていない用語は、本発明の技術内で理解される、それらに通常関連する意味を有していると理解されるべきである。本明細書を通して使用されるように、以下の用語は、特に明記されない限り、以下の意味を有すると理解されるべきである。
【0044】
本明細書で使用されるように、「対象(subject)」は、例えば鳥類または哺乳類などの動物を指す。特定の動物としては、ラット、マウス、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタまたは霊長目が挙げられる。対象は、さらにヒトであってもよく、代替的には患者と称される。対象はさらにトランスジェニック動物であってもよい。対象は、さらに、例えばビーバー、マウスまたはラットなどの齧歯動物であってもよい。
【0045】
本明細書で使用されるように、「阻害剤(inhibitor)」とは、生理的、化学的、または酵素的な作用または機能を抑制するまたは遅延させる薬物、化合物または薬剤を指す。阻害剤は、酵素の活性において少なくとも5%の減少をもたらし得る。阻害剤は、また、遺伝子もしくはタンパク質の発現、転写または翻訳を防げるまたは減少させる薬物、化合物もしくは薬剤を指す。
【0046】
「インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ」または「IDO」は、トリプトファンをN−ホルミルキヌレニンへ、さらにはキヌレニン(Kyn)へと触媒するヘム含有律速酵素であり、非肝細胞中の主にマクロファージおよびトロホブラスト中に見られる。最近の発見は、必須アミノ酸であるトリプトファンのIDOによる異化が免疫寛容に関与していることを示している(Kahari and Saarialho-Kere、1997年)。本明細書中に示されるように、キヌレニンならびにその分解生成物であるキヌレン酸およびキサンツレン酸が、MMPおよびMMPを誘導し、インビトロおよびインビボで線維形成の減少が見られる。
【0047】
「マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloprotease)」または「MMP」ファミリーは、哺乳類系において、25個の亜鉛およびカルシウム依存性プロテイナーゼで構成される。それらの基質特異性、一次構造、細胞局在性にしたがって、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロメライシン、マトリリシンおよび膜型MMPsとして知られる密接に関係する5つの異なるサブファミリーのメンバーが同定されている(Murphyら、2002年)。これらの全てのMMPsのうち、MMP1は、コラーゲン分解プロセスに関与し、例えばI型、II型およびIII型などの間質コラーゲンを分解するプロセスに関与する、主な酵素であり、MMP3(ストロメリシン−1)は、例えばフィブロネクチン、プロテオグリカンおよびラミニンなどのECMの非コラーゲンを主に分解することが知られているプロテアーゼである(Kahari and Saarialho-Kere、1997年)。MMP1およびMMP−3の発現および線維芽細胞による遊離の両方における増大は、ECMのほぼすべての主要成分の分解を開始し得る(Sausら、1988年)。現在では、ケラチノサイトによって産生されるMMPsが上皮移動を容易にする一方、線維芽細胞によって発現されるMMPsは組織修復を促進することが認められている(Saloら、1991年)。
【0048】
「線維症(fibrosis)」は、器官または組織の正常な構成要素としての線維組織の形成とは対照的に、修復または反応プロセスとしての器官または組織における線維性結合組織の過剰な形成または発達を意味する一般的な用語である。瘢痕は、その下にある器官または組織の構造を消し去る集密的線維形成である。線維形成によって特徴付けられるまたは繊維形成と関連付けられる多くの疾患および/または症状があり、これらに限定される訳ではないが、例えば、ケロイド、肥厚性瘢痕、肺線維症、腎線維症、肝硬変、白膜慢性炎症(CITA)、心内膜心筋線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、クローン病、陳旧性心筋梗塞、強皮症および全身性硬化症などが挙げられる。
【0049】
本明細書において、線維症によって特徴付けられるまたは線維症に関連する疾患または症状の治療における使用のためのいくつかの化合物が提供される。この記載の文脈において、用語「治療(treatment)」とは、既存の線維症または線維性疾患の治療を意味していてもよく、また代替的には、線維症の発症または進行を防止するための、線維形成プロセスの前またはそのあいだに発生する治療を指していてもよい。本明細書に記載の化合物は、単離されていてもよく、または、トレーサー化合物、リポソーム、炭水化物担体、ポリマー担体または当該技術分野における当業者にとって明白である他の薬剤もしくは賦形剤と連結されている、または組み合わされていてもよい。代替的な実施形態において、このような化合物は、医薬品を含んでいてもよく、ここでこのような化合物は薬学的に効果的な量で存在していてもよい。線維症または線維性疾患の予防または治療によって対象が利益を得るという事実によって、化合物はそれらを必要とする対象への投与に適しているかもしれない。化合物はまた、互変異性体または立体異性体を含んでいてもよい。
【0050】
本明細書中で使用される「FS」は、FibroStops(例えば、FSはキヌレニン(またはDL−キヌレニンもしくはDL−Kyn)の省略形として使用され、および、FS2またはKAはキヌレン酸の省略形として使用され得る)を指す。L−キヌレンは本明細書においてL−Kynとして表され、D−キヌレニンは本明細書においてD−Kynとして表され得る。同様に、キサンツレン酸は本明細書においてXAとして表され得る。
【0051】
本明細書で使用される用語「医薬(medicament)」とは、患者または試験対象に投与され得る、そして患者または試験対象において効果をもたらすことのできる組成物を指す。効果は、化学的、生物学的または物理的であり得、患者または試験対象は、ヒト、または非ヒト動物、例えば齧歯動物もしくは遺伝子組み換えマウスまたはイヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ハムスター、モルモット、ウサギもしくはブタなどであり得る。医薬は、有効な化学成分単独で、または薬学的に許容され得る賦形剤との組み合わせから構成され得る。
【0052】
用語「薬学的に許容され得る賦形剤(pharmaceutically acceptable excipient)」には、生理学的に適合可能である、あらゆる溶媒、分散溶媒、コーティング剤、抗細菌、抗菌または抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。賦形剤は、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、髄腔内、局所的または経口投与に適しているかもしれない。賦形剤は、滅菌された注射可能な溶液または分散液の即時調製のための滅菌水溶液または分散液を含んでいてもよい。医薬の調製のためのこのような媒体の使用は当該技術分野において公知である。
【0053】
幾つかの実施形態による組成物または化合物は、公知のさまざまな経路により投与され得る。化合物の投与に適切であろう方法の例としては例えば、経口、静脈内、吸入、筋肉内、皮下、局所的、腹腔内、直腸内または膣内坐剤、舌下などが挙げられる。本明細書に記載の化合物は、滅菌水溶液として投与されてもよく、または、脂溶性賦形剤中で、もしくは適切な別の溶液、懸濁液、パッチ、錠剤またはペースト形式中で投与されてもよい。本明細書中に記載の化合物を含む組成物は、吸入による投与のために処方されてもよい。例えば、化合物はエアロゾル中での分散を可能にするような賦形剤と組み合わせられてもよい。吸入製剤の例は、当該技術分野における当業者にとって公知であろう。本明細書中に記載の化合物と組み合わせて、取り込みまたは代謝を助けるため、または、宿主内での分散を遅延させるために例えば徐放性製剤中などに他の薬剤が含まれていてもよい。徐放性製剤の例は当業者にとって公知であり、そして、マイクロカプセル化、炭水化物またはポリマーマトリックス内への挿入などが挙げられる。製剤を製造するための当該技術分野において公知の他の方法は、例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、(19th edition)、ed. A. Gennaro、1995、Mack Publishing Company、Easton、Paなどに見出すことができる。
【0054】
本明細書中に記載のいくつかの実施形態の組成物または化合物の投与量は、投与経路(経口、静脈内、吸入等)および組成物または化合物がその中で投与される形状(溶液、徐放性など)に依存して変わり得る。適切な投与量の決定は、当業者の通常の能力の範囲内である。本明細書中で使用されるように、医薬の「有効量(effective amount)」、「治療上の有効量(’therapeutically effective amount)」、「薬学的有効量(pharmacologically effective amount)」とは、薬物が使用される期間にわたってデリバリーされた薬物の治療的なレベルをもたらすような濃度で存在する医薬の量を意味する。これは、デリバリーのモード、投与期間、医薬を受け取る側の対象の年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事に依存し得る。有効量を決定するための方法は、当該技術分野において公知である。
【0055】
一実施形態において、線維性疾患を患うまたは線維性疾患が疑われる対象の治療のための方法であって、式I、IIまたはIIIに対応する構造を有する化合物の治療上の有効量を対象に投与する工程を含む方法が提供される。線維性疾患は以下うちの1つであり得る:ケロイド、肥厚性瘢痕、肺線維症、腎線維症、肝硬変、白膜慢性炎症(CITA)、心内膜心筋線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、クローン病、陳旧性心筋梗塞、強皮症、全身性硬化症、子宮筋腫、再狭窄。
【0056】
材料および方法
細胞培養
新生児包皮および関節が、線維芽細胞、ケラチノサイト、滑膜細胞源として使用された。手続きはブリティッシュコロンビア大学のヒト倫理委員会の承認に基づいて行われた。ヒト包皮線維芽細胞の培養は、以前に記載されている方法で確立された(Liら、2006年)。簡潔には、包皮が採集され、そして、抗菌性−抗カビ性調製物(100u/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン、0.25μg/mL アムホテリシンB)(インビトロジェンライフテクノロジーズ(登録商標)、メリーランド州ゲーサーズバーグ)で補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;GIBCO(登録商標)、ニューヨーク州グランドアイランド)で3回洗浄された。検体は、脂肪を含まないように解剖され、そして直径2.0mm未満の小片に切り刻まれ、DMEMで6回洗浄され、60×15mmのペトリ皿に分配され、そして5%CO雰囲気中、水が添加された加湿インキュベーター中で、37℃でインキュベートされた。培地は週2回交換された。コンフルエンスに達したところで、細胞は、トリプシン処理(0.1% トリプシン、インビトロジェンライフテクノロジー(登録商標))および(0.02% EDTA、シグマ(登録商標)、セントルイス、MO)によって剥離され、1:6の比で継代培養のために分割され、そして75cmのフラスコ中に再播種された。3〜7代の継代培養からの線維芽細胞が本研究のために使用された。
【0057】
ヒト包皮ケラチノサイトは以前に記載されている方法で確立された(Ghaharyら、1998年)。細胞は、ウシ下垂体抽出物(50μg/mL)およびEGF(0.2ng/mL)で補充された無血清ケラチノサイト培地(KSFM;インビトロジェンライフテクノロジーズ(登録商標))中で培養された。これらの細胞は、2〜5代の継代培養で使用された。
【0058】
滑膜細胞は、関節置換術のあいだに関節リウマチを患う患者からの滑膜の、RPMI1640(インビトロジェンライフテクノロジーズ(登録商標))中での37℃で4時間、1mg/mLのコラゲナーゼ(Sigma(登録商標))を用いた酵素消化によって採取された。分離された細胞は、ペニシリンGナトリウム(100U/mL)、硫酸ストレプトマイシン(100μg/mL)およびアムホテリシンB(0.25μg/mL)で補充された滑膜細胞増殖培地(Cell Application Inc.(登録商標)、サンディエゴ、カリフォルニア)中に播種された。滑膜細胞は、形態学的に均一な繊維芽細胞様細胞であることが発見され、2〜5代で使用された。
【0059】
頭頸部癌を患う患者由来の扁平上皮癌(UMSCC)細胞株(ATCC(登録商標)、マナッサス、VA)が、10%FBSを含むRPMI−1640培地中で維持された。ヒトケラチノサイト細胞株HACAT(ATCC)およびヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株A549(ATCC(登録商標))が、10%FBSを含むDMEM中で培養された。正常二倍体肺線維芽細胞 IMR−90(ATCC(登録商標))が、10%FBSを含む最小必須培地(MEM、Invitrogen(登録商標))中で維持された。
【0060】
アデノウイルスベクターによる遺伝子トランスフェクション
インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ(IDO)発現アデノウイルスベクターの構築は、以前に記載されている(Liら、2004年)。組換えアデノウイルスが、感染多重度(MOI)100で、ヒト皮膚線維芽細胞を感染させるために使用された。遊離のウイルス粒子は感染後30時間で培地から取り除かれた。感染の成功は、レポーター遺伝子GFPを観察するためのフルオレセインイソチオシアネート(FITC)フィルターを備えた、MOTIC(登録商標)倒立顕微鏡(MOTICインスツルメンツ(登録商標)、リッチモンド、ブリティッシュコロンビア、カナダ)を用いて蛍光顕微鏡法によって確認された。IDOの発現は、以前に記載されているように、抗ヒトIDO抗体を用いてウエスタンブロットによって評価された(Liら、 2004年)。IDOの生物学的活性は、馴化培地中に存在するトリプトファン分解産物、キヌレニンのレベルを測定することによって評価された。
【0061】
馴化培地中のキヌレニン測定
キヌレニンのレベルは、以前に記載されている方法により測定された(Tokikawaら、1988年)。簡潔には、約2mLの馴化培地が、同じ数の細胞数で開始された、トランスフェクション3日後の培養物から採集された。馴化培地からのタンパク質が、トリクロロ酢酸により沈殿された。沈殿したタンパク質を除去するための遠心分離後、約0.5mLの上清が新しい1.5mLチューブに移され、そして室温で10分間、等容積のエーリック試薬(シグマ(登録商標))を用いてインキュベートされた。得られた溶液の吸収が、2時間以内に、分光光度計によって、490nmで測定された。馴化培地中のキヌレニンの値は、規定のキヌレニン濃度(0〜20mg/mL)を用いた標準曲線により算出された。
【0062】
細胞処理
馴化培地の収集のために、線維芽細胞は、添加なしまたは対照モックベクターまたはIDOアデノウイルスによって、30時間形質導入された。ウイルスはPBSを用いた洗浄により除去された。10%FBSおよび抗生物質を含む新鮮なDMEMが添加され、そして、細胞はさらに48時間培養され続けた。その後、未処置、モックベクターまたはIDOアデノウイルスにより形質導入された線維芽細胞からの馴化培地が収集された。80%コンフルエンスである線維芽細胞が、10%FBSの存在下で、90%の馴化培地に加えて10%の新鮮培地を含む培地で処置された。その後細胞は48時間後に回収され、ウエスタンブロット分析が行われた。
【0063】
実験の別のセットでは、80%のコンフルエンスである線維芽細胞が、結果の項で記載されている濃度でキヌレニンまたはトリプトファンのいずれかと、2%のFBSと抗生物質を含むDMEM中で48時間処置された。その後、細胞がトリプシン処理により収集され、ウエスタンブロット分析が行われた。
【0064】
同様に、滑膜細胞、IMR−90、ケラチノサイト、UMSCCおよびA549などの他の細胞が、上述されたように、各細胞型に対して適切な培地中で48時間、12.5〜150μg/mLの濃度のキヌレニンを用いて処置された。その後、細胞はウエスタンブロット分析のため収集された。
【0065】
ウエスタンブロット分析
細胞は、トリプシン/EDTAによって採集され、50mMのTris−HCl(pH7.40)、150mMのNaCl、10mMのEDTA、5mMのEGTA、1%トリトンX−100(登録商標)、0.5%のIgepal CA−630、0.025%NaN3およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma(登録商標))を含む細胞溶解バッファを用いて溶解された。細胞片は、10分間、20,000×gで遠心分離によって除去された。上清中のタンパク質濃度は、MicroBCA(登録商標)法(ピアース(登録商標)、ロックフォード、イリノイ)を用いて測定された。上清中のタンパク質は、タンパク質サンプルローディングバッファ(最終濃度:60mM トリス−HCl(pH6.80)、2% SDS、10% グリセロール、1.5% βーメルカプトエタノール、0.002% ブロモフェノールブルー)と混合され、そしてサイズは10% SDSポリアクリルアミドゲルによってサイズ分画された。タンパク質が、iBlot(登録商標)(インビトロジェンライフテクノロジー(登録商標))によってニトロセルロースメンブレン上に転写された後、非特異的結合が、5%スキムミルクを含むリン酸緩衝化生理食塩水twenty20(PBS−T)を用いて、1時間、ブロックされた。膜はその後、一次抗体とともに終夜インキュベートされた。二次抗体との1時間のインキュベーション後、タンパク質バンドが、高感度化学発光(ECL(登録商標))検出システム(サンタクルーズバイオテクノロジー(登録商標)、サンタクルーズ、カリフォルニア)によって可視化された。本研究で用いられた一次抗体は、マウスモノクローナル抗ヒトMMP−1(R&Dシステムズ(登録商標)、ミネアポリス、ミネソタ)、マウスモノクローナル抗ヒトMMP−3(R&Dシステム(登録商標))、ウサギモノクローナル抗ヒトMMP−2(Epitomics(登録商標)、バーリンゲーム、カリフォルニア)、ウサギポリクローナル抗リン酸化MEK1/2(Ser217/221(登録商標))(セルシグナリングテクノロジー(登録商標)、ダンバース、マサチューセッツ)、ウサギポリクローナル抗リン酸化P44/42 MAPK(Thr202/Tyr204)(セルシグナリングテクノロジー(登録商標))、モノクローナル抗βアクチン(Sigma(登録商標))、マウス抗1型プロコラーゲン(Developmental Studies Hybridoma Bank(登録商標)、アイオワシティー、アイオワ)であった。二次抗体は、ヤギ抗マウスIgG(H+L)HPRコンジュゲートまたはヤギ抗ウサギIgG(H+L)HPRコンジュゲート(Bio−Rad Laboratory(登録商標)(ミシソーガ、ON、カナダ)のいずれかであった。二次抗体は、1:3000の濃度で使用された。
【0066】
MMP活性アッセイ
MMPsの活性は、製造業者のプロトコールに従って、MMP基質として、F−FAM / QXL(登録商標)520蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)ペプチド(SensoLyte 520汎用MMPアッセイキット、AnaSpec Inc.(TM)、フレモント、カリフォルニア)を使用して評価された。簡潔には、細胞は50μg/mLのキヌレニンと共に、または無しで48時間処理された。馴化培地が回収され、そして、3時間、37℃で1mM APMA(4−アミノフェニル酢酸水銀、成分C中、AnaSpect(登録商標))と共にインキュベートした。APMAによるMMPs活性化後、96ウェルプレートで1ウェル当たり50μLの馴化培地が50μLのMMP基質溶液と混合された。室温で60分間インキュベートされた後、基質対照を含む各サンプルにおいて、EX/EM=490nm/520nmでの蛍光強度が、Infinite F500(登録商標)蛍光マイクロプレートリーダー(Tecan Group Ltd(登録商標)、モリスビル、ノースカロライナ)を使用して測定された。
【0067】
タンパク質アレイのリン酸化
90%コンフルエンスでのヒト線維芽細胞が、FBSを含まないDMEM中終夜飢餓状態とされた後、2時間、100μg/mLのキヌレニンを用いてまたは無しで処置された。タンパク質のリン酸化は、製造業者の使用説明書に従ってHuman Phospho−Kinase Array(登録商標)(R&Dシステム(登録商標))を用いて評価された。簡潔には、捕捉および対照抗体が、ニトロセルロースメンブレン上に2つ組でスポットされた(合計で46個のキナーゼリン酸化部位)。細胞溶解物(アレイ当たり300μgの総タンパク質)がアレイとともに終夜でインキュベートされた。アレイは未結合のタンパク質を除去するために洗浄され、続いてビオチン化検出抗体のカクテルとともにインキュベートされた。ストレプトアビジン−HPRとの30分間のインキュベーション後、シグナルがECL検出システム(サンタクルーズ(登録商標))によって可視化された。ブロットはデンシトメトリーによって分析され、そしてタンパク質のリン酸化がそれぞれのメンブレンにおいて示されている正の対照に対して正規化された。
【0068】
ウサギの耳の肥厚性瘢痕モデルとキヌレニンの局所的適用
4.5〜5kgの体重のメスのウサギ(ニュージーランドホワイト)がこの研究のために使用された。プロトコールは、ブリティッシュコロンビア大学動物飼育委員会によって検討および承認された。ウサギ耳の肥厚性瘢痕のモデルは以前に記載されている方法で作製された(Rahmani−Neishaboorら、2010年)。簡潔には、2匹のウサギは、ケタミン(22.5mg/kg)およびキシラジン(2.5mg/kg)の筋肉内注射によって、さらに気管挿管を通じたイソフルランガスによって麻酔された。皮膚の全層の切片を除去するため、8ミリの皮膚生検パンチを使用して、それぞれの耳の腹側の軟骨を露出するために4つの傷が作製された。キヌレニン処置が開始されるまで、毎日、抗生物質が傷に適用された。
【0069】
500μg/mLの濃度であるCMCゲル中のキヌレニン(Rahmani−Neishaboorら、2010年)が創傷後1週間から開始して、3週間毎日、実験群の創傷へ局所的に適用された(傷当たり0.1mL)。対照群の創傷は、毎日、等量のクリーム単独による処置を受けた。
【0070】
動物は処置後3週間で犠牲死させた。瘢痕(10mmパンチ生検)が収集された。各瘢痕は、その長手方向軸に沿って2つに切断し、そしてそれらの半分は通常の組織学的分析のために処理され、他の半分は将来の使用のために−80℃で保管された。
【0071】
瘢痕隆起は、H&E染色した組織切片からの瘢痕隆起指数(SEI)を測定することにより定量化された。SEIは、肥厚性瘢痕の下の正常組織にたいする創傷組織中の総計の高さの比である。1のSEIは、瘢痕の高さが周囲の無傷の真皮と等しいことを示し、1より大きいSEIは隆起した肥厚性瘢痕を示す。
【0072】
MTTアッセイ
ヒト皮膚線維芽細胞の増殖に対するキヌレニンの効果がMTT[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド]アッセイによって検出された。簡潔には、10,000個の細胞が24ウェルプレート上に播種され、48時間、種々の濃度のキヌレニンとともにインキュベートされた。培地が除去され、そして0.2mLのMTT(2%FBS含有DMEM中5mg/mL)が添加された。細胞はMTTと共に4時間インキュベートされた。PBSを用いて3回洗浄した後、0.2mLのDMSOが結晶を溶解させるために添加された。吸収が570nmで測定された。
【0073】
皮膚試料からのヒドロキシプロリン含量の測定:以前に記載されている方法(Gawronskao−Kozak Bら、2006年)にしたがい、直径8mmの皮膚パンチの半分が秤量され、そして−80℃で凍結された。皮膚は、2mLのPBS中で、ホモジナイズされ、そして4℃で終夜保管された。翌日、1mLの6N HClが添加され、そして混合物が120℃で5時間加熱された。20μLの冷却された試料および50μLのクロラミンT溶液が96ウェルプレートに添加され、そして室温で20分間インキュベートされた。50μLのエーリッヒ溶液が次いで添加され、そして混合物が15分間65℃でインキュベートされた。吸光度が570 nmで測定された。ヒドロキシプロリン濃度は標準曲線によって算定された。
【0074】
RNA抽出、cDNA合成および定量的RT−PCR
RNAは、トリゾール(登録商標)(インビトロジェンライフテクノロジーズ(登録商標))により抽出した。簡潔には、1mLのトリゾール(登録商標)がホモジナイズされた皮膚組織に添加された。混合物は室温で5分間静置された後、250μLのクロロホルムが添加された。20,000×gでの10分間の遠心分離後、上層の水相が新たなエッペンドルフチューブに移された。等量のイソプロパノールが水相に添加され、そして静かに混合された。20分間の遠心分離後、ペレットは1mLの75%エタノールで洗浄された。RNAは、DEPC処理したHO中に溶解され、そしてその濃度をNanodrop2000(登録商標)によって測定された。cDNAは、製造業者の説明にしたがい、それぞれのサンプル中1μgの総RNAを使用して、ロシュ製cDNA合成キットにより合成された。ウサギI型α1コラーゲン、MMP−1およびハウスキーパー遺伝子であるβアクチンに関する定量的リアルタイムPCRがViiA7(インビトロジェン(登録商標))で行われた。cDNAサンプルが、STBRグリーンマスターミックス(登録商標)(Rox)(ロシュ(登録商標)、インディアナポリス、インディアナポリス)を含むPCR反応マスターミックスに添加された。全ての反応は、以下のサイクル条件を用いて、2つ組で行われた:95℃で10分間を1サイクル。95℃で15秒および60℃で1分間を40サイクル。それぞれのサンプル中のI型α1コラーゲンおよびMMP−1の発現レベルが、βアクチンに対して正規化された。RT−PCRプライマーは、ウサギI型α1コラーゲン:5’−ACAAGGGTGAGACAGGCGAAC−3’(フォーワード)、5’−GCCGTTGAGTCCATCTTTCCC−3’(リバース);MMP−1:5’−TCTGGCCACATCTGCCAATGG−3’(フォーワード)、5’−AGGGAAGCCAAAGGAGCTGTG−3’(リバース);b−アクチン、5’−AACGAGCGCTTCCGTTGGCCC−3’(フォーワード)、5’−CTTCTGCATGCGGTCCGCGA−3’(リバース)。
【実施例】
【0075】
実施例1 インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)発現はヒト皮膚線維芽細胞中のMMP−1の発現を上方制御する。
MMP−1発現におけるIDOの効果を評価するため、ヒトIDO組換えアデノウイルスベクターが、以前に報告された手順(Liら、2004年)によって、ヒト皮膚線維芽細胞での遺伝子導入のために使用された。トランスフェクション効率は、それぞれ、ウエスタンブロット分析を介したIDOタンパク質発現およびその活性の検出、ならびに、馴化培地中でのキヌレニン測定によって評価された。図1Aの左パネルに示されるように、IDOタンパク質は、IDOのアデノウイルス形質導入線維芽細胞中で発現されたが、対照およびモックアデノウイルス形質導入された線維芽細胞においては検出できなかった。キヌレニンのレベル、IDO活性のインデックスは、形質導入されていない、またはモック形質導入された対象(図1A、右パネル)中のものと比較して、IDOのアデノウイルス形質導入線維芽細胞において顕著により高かった(14.3±0.46μg/mL、n=3)。
【0076】
対照、モック形質導入されたおよびIDO発現の線維芽細胞中でのMMP−1の発現が、ウエスタンブロット分析を用いて試験された。図1Bに示されるように、モック形質導入された線維芽細胞(1.37±0.59、N=3)および未処理の対照線維芽細胞(1±0、N=3)中のものと比較して、IDO発現線維芽細胞中のMMP−1発現において9倍以上の増大が見られた(12.56±2.37、n=3)。この発見は、モック形質導入された線維芽細胞がMMP−1発現において未処置の線維芽細胞からの顕著な差異を示さなかったため、IDO発現線維芽細胞におけるMMP−1発現のアップレギュレーションはアデノウイルス感染に起因するものでないことを示唆している。
【0077】
IDOはトリプトファンをキヌレニンへと変換する細胞内酵素である。よって、IDO発現線維芽細胞におけるMMP−1刺激の効果が、IDOタンパク質自体に起因するのか、またはトリプトファン代謝物に起因するのかどうかを明確にする必要がある。これに対処するために、IDO発現線維芽細胞および対照の両方からの馴化培地を、48時間後に収集した。90%の収集された馴化培地と10%の新鮮な培地との組み合わせを、その後、皮膚線維芽細胞を処置するために使用された。細胞は処置後48時間で回収された。図1Cに示されるように、MMP−1発現の著しい増加が、モック形質導入された線維芽細胞(1.16±0.31、n=3)または未処置の対照線維芽細胞(1±0、n=3)におけるものと比べて、IDO形質導入線維芽細胞(2.06±0.62、n=3)からの馴化培地で処理された細胞において観察された。この結果は、細胞内IDOタンパク質でなくむしろ、IDOアデノウイルス感染した線維芽細胞からの馴化培地における因子(または複数の因子)が、線維芽細胞におけるMMP−1発現レベルの上昇を引き起こしたことを示唆するものである。
【0078】
実施例2 − ヒト皮膚線維芽細胞において、トリプトファン枯渇ではなく、キヌレニンがMMP−1発現を誘導する
IDOはトリプトファンをキヌレニンへ転換する酵素である。どの因子(トリプトファン枯渇またはキヌレニンの増加のいずれか)が、MMP−1発現のIDOアップレギュレーションの原因であるのかを調べる。どの因子がMMP−1発現のIDOアップレギュレーションの原因であるのかを調べるため、線維芽細胞は、トリプトファン枯渇培養培地または種々の濃度のキヌレニンを含む通常の培地のいずれかの中で培養された。細胞はその後、ウエスタンブロッティングを使ってMMP−1発現を評価された。図2Cに示されるように、トリプトファン枯渇培養培地中または25μg/mLのトリプトファンの存在下で増殖された線維芽細胞のあいだで、MMP−1発現には顕著な差は認められなかった。しかし、MMP−1の発現はキヌレニンの異なる投与量(25〜150μg/mL)に応答して著しく増加した(図2Aおよび図2B)。これらの発見は、トリプトファン枯渇でなくキヌレニンの存在が、IDO発現細胞におけるMMP−1のアップレギュレーションに寄与していることを示唆している。さらに、発明者らは、わずか12.5μg/mLというキヌレニンが、皮膚線維芽細胞におけるMMP−1の発現を刺激し得ることを発見した(データは示さず)。キヌレニンのこの濃度は、IDO発現線維芽細胞からの馴化培地中で検出されたものと同程度である(図1A、右パネル)。同様の構造を有するさまざまな濃度のトリプトファンの添加では、皮膚線維芽細胞におけるMMP−1の発現を増加させることはできなかった(図2D)ため、したがって、線維芽細胞におけるMMP−1の刺激は明らかにキヌレニンに特有である。
【0079】
実施例3 − 皮膚線維芽細胞におけるMMP−2およびMMP−3発現に対するキヌレニンの効果
キヌレニンが他のMMPの発現に影響を与えるかどうかを調べるために、図2で使用されたものと同様な濃度のキヌレニンによって皮膚線維芽細胞を処置した。MMP−2およびMMP−3発現を検出するため対照として未処理の細胞を用いてウエスタンブロットが使用された。図3Aに示されるように、キヌレニン処置された線維芽細胞と未処理の線維芽細胞のあいだにおいて、MMP−2発現について顕著な差は見られなかった。しかし、同様の条件下で、キヌレニン処置は、皮膚皮線維芽細胞におけるMMP−3の発現を、用量依存的に、顕著に増加させた(図3B/3C)。さらに、キヌレニン処置された線維芽細胞における増大されたMMPが増大されたMMP活性を伴っているのかどうかを試験するために、50μg/mLのキヌレニンの存在下または非存在下における線維芽細胞からの馴化培地が処置後48時間収集された。馴化培地中のMMP活性は、MMP基質として、5−FAM/QXL(登録商標)520蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)ペプチドを用いて、一般的なMMPアッセイキットであるSensoLyte 520(登録商標)によって検出された。図4に示されるように、キヌレニン処置された線維芽細胞からの馴化培地中の平均MMP活性は、対照培地中と比較して著しく高かった。これはキヌレニンによって処置された線維芽細胞における増大されたMMPsは酵素活性を有していることを示している。
【0080】
実施例4 − 間葉系および上皮細胞はキヌレニン処置に対して異なる応答をする
どのような種類の細胞がキヌレニン誘導性MMP−1発現に対して感受性であるのかを調べるために、間葉系細胞(固定化肺線維芽細胞株IMR−90および線維芽細胞様滑膜細胞など)および上皮細胞(肺上皮癌細胞株A549、一次皮膚ケラチノサイト、固定化ヒトケラチノサイト細胞株HACAT、および頭頸部扁平上皮癌細胞株UMSCCなど)の両方が使用された。図5に示されるように、皮膚線維芽細胞と同様に、滑膜細胞およびIMR−90におけるMMP−1発現は、12.5μg/mL〜150μg/mLの濃度のキヌレニン処置によってアップレギュレートされた。しかしながら、皮膚ケラチノサイト、HACAT、A549およびUMSCCを含む、テストされた全ての上皮細胞においてMMP−1の発現は、さまざまな濃度のキヌレニンに対する応答において未処置の対照と顕著には違わなかった(図6)。これらの結果は、キヌレニン刺激性MMP−1発現への応答において間葉系および上皮細胞の間に差異があることを示唆している。
【0081】
実施例5− キヌレニンで処置された細胞中のホスホキナーゼアレイによるリン酸化シグナル分子の同定
皮膚線維芽細胞におけるキヌレニンによりアップレギュレーションされるMMP−1発現の考えられるメカニズムを決定するため、ホスホキナーゼアレイを使用して、複数のセリン、スレオニン、チロシンキナーゼの活性化を分析した。このアレイは、46種のタンパク質キナーゼおよびその下流転写因子の活性化ステータスを同時に検出可能である。図7に示されているように、皮膚線維芽細胞におけるキヌレニンによる処置の1時間後、細胞外シグナル制御キナーゼ1/2(ERK1/2)が活性化された。
【0082】
ホスホキナーゼアレイからのこれらの結果を確認するために、皮膚線維芽細胞が、100μg/mLのキヌレニンで種々の時間処置された。アレイ上に配置されたものと異なる抗体を用いたイムノブロット分析が、その後、ERK1/2およびその上流分子のマイトジェン活性化タンパク質/細胞外シグナル調節キナーゼキナーゼ(MEK)のリン酸化を検出するために使用された。図8に示されるように、ERK1/2は、キヌレニンで処置された細胞中でリン酸化された。この結果はさらに、キヌレニンで処置された細胞におけるERK1/2上流のシグナル分子MEKのリン酸化の検出によって確認された(図8)。ERK1/2およびMEKの両方は、キヌレニン処置の後8時間に、そのピークを有する類似した活性化パターンを示した(図8)。
【0083】
実施例6 − MEK−ERK1/2リン酸化に対する阻害剤の添加は、皮膚線維芽細胞中でのキヌレニン刺激性MMP−1発現の効果を無効にする
他のセットの実験において、キヌレニンによるMEK−ERK1/2 MAPK経路の活性化が、皮膚線維芽細胞中でのキヌレニン刺激性MMP−1発現に関連しているのかどうかをテストした。これを行うために、MEKまたはERK1/2リン酸化の阻害剤の、キヌレニン刺激性MMP−1発現における効果を調べた。図9Aに示されているように、ERK1/2活性化に対する特異的阻害剤であるPD98059の添加は、用量依存的に、MMP−1発現に対するキヌレニンの刺激作用を効果的に防止した。同様に、MEKの活性化に対する特異的な阻害剤であるU0126の10μMおよび30μMを用いた細胞の処置はまた、キヌレニンによるMMP−1発現のアップレギュレーションを顕著に減少させた(図9B)。これらの結果は、MEK−ERK1/2シグナル伝達経路の活性化が皮膚線維芽細胞中でキヌレニンによって誘導されるMMP−1発現のアップレギュレーションに寄与することを示している。
【0084】
実施例7 − 皮膚線維芽細胞中のコラーゲン発現におけるキヌレニンの効果および線維芽細胞の増殖
インビボにおけるその抗線維化の役割を検討する前に、キヌレニンは、コラーゲン発現および細胞増殖に対するその効果について試験された。図10(上部)に示されるように、25〜150μg/mLのキヌレニンの添加は、I型プロコラーゲンの発現を著しく減少させた。しかしながら、細胞が150μg/mLの濃度までのキヌレニンで培養された場合であっても、線維芽細胞の増殖における顕著な効果は見られなかった(図11)。また、キヌレニンアナログ/代謝物、キヌレン酸、キサンツレン酸を試験すると、これらの化合物はまたI型プロコラーゲン(図10下部)の発現を阻害するのに有効であることが示された。
【0085】
実施例8 − ウサギの耳の創傷へのキヌレニンの局所的適用が瘢痕化を低減する
キヌレニンによる皮膚線維芽細胞の処置が、MMP−1およびMMP−3の両方の発現における増加ならびにI型プロコラーゲン発現における減少を示したため、キヌレニンが抗線維化剤として肥厚性瘢痕の治療または予防に使用され得るのかどうかを調べることは興味深いと考えられる。以前に記載されているように(Rahmani−Neishaboorら、2010年;Kloetersら、2007年;Xieら、2008年)、ウサギの耳の肥厚性瘢痕のモデルが使用された。創傷後8日目から開始して3週間のあいだ、50μgのキヌレニンを含むカルボキシメチルセルロース(CMC)ゲル0.1mLで創傷が毎日処置された。創傷1か所あたり50ミリグラムのキヌレニンという用量は、最適な結果をもたらすインビトロ系において使用される量に一致するものである。この結果は、未処置またはCMCゲルで処置された対照のどちらと比較しても、キヌレニン処置された創傷において創傷閉鎖に対して有意な差異がないことを示した(データは示さず)。しかしながら、図12Aに示されるように、キヌレニンで処置した創傷においては、3週間後、未処理の創傷またはビヒクルのみの対照創傷のと比較して、顕著により小さな瘢痕しか見られなかった。平均の瘢痕隆起指数(SEI)は、ビヒクルのみの対照群(1.978±0.442、n=4、p<0.01)および未処置群(2.098±0.324、n=4、p<0.001)と比較して、キヌレニン処置群(1.172±0.156、n=8)において、著しく低下した(図12B)。コラーゲンに関するマッソントリクローム染色によって、未処置またはゲルのみの処置を受けた創傷と比較して、キヌレニンで処置された創傷におけるコラーゲン含有量が著しくに低下したことが明らかとなった(図12C)。この発見と一致して、ヒドロキシプロリン含有量(組織コラーゲン含有量の指標として使用される)は、未処置またはゲルのみの処置を受けた創傷と比較して、キヌレニンで処置された創傷において著しく低かった(図12D)。
【0086】
最終的に、発明者らは、ウサギの耳の線維化モデルにおけるキヌレニンの局所的適用が、未処置またはゲルのみの処置を受けた創傷と比較して、I型α1コラーゲンの発現を減少させ、そしてMMP−1の発現を増加させていることを示した(図13)。これらの結果は、さらに、キヌレニンが肥大性瘢痕、および、熱傷または外科的切開を受けた患者において頻繁に見られるケロイドでさえを処置するための抗線維化因子として使用できる可能性があるという仮定を支持するものである。
【0087】
実施例9 − ヒト皮膚線維芽細胞におけるMMP−1発現に対するキヌレニンアイソフォームの効果
キヌレニンの種々のアイソフォームが、それらのMMP−1の発現に影響を与える可能性について試験された。試験されたアイソフォームは、DL−キヌレニン(DL−Kyn)またはD−キヌレニン(D−Kyn)およびL−キヌレニン(L−Kyn)であった。結果は、全てのアイソフォームが皮膚線維芽細胞におけるMMP−1の発現を増加させることが示したが、L−キヌレンは他の2つのアイソフォームと比較してより高い活性を有しているようである。図14を参照のこと。
【0088】
実施例10 − ヒト皮膚線維芽細胞中のコラーゲン発現における種々のキヌレニンアイソフォーム/アナログの効果
図15に示されるように、皮膚線維芽細胞が、FS−1(DL−キヌレニン)またはD−キヌレニンまたはL−キヌレニンまたはFS−2(キヌレン酸)のいずれかで処置された。I型α1コラーゲンの発現がリアルタイムPCRにより検出された。結果は、これらのアイソフォーム/アナログがコラーゲン発現を減少させることにおいて同様の効果を有していることを示す。
【0089】
実施例11 − キヌレニンおよびその代謝物は、培養線維芽細胞中のフィブロネクチン発現をダウンレギュレーションする
図16に示されるように、皮膚線維芽細胞が、さまざまな濃度のDL−キヌレニン(FS)、L−キヌレニン、D−キヌレニンまたはキヌレン酸(FS)のいずれかによって処置された。フィブロネクチンの発現は、リアルタイムPCRにより検出された。結果は、キヌレニン、DL−キヌレニンおよびL−キヌレニンは、全て、フィブロネクチン発現をダウンレギュレーションする能力を有していることを示しており、これは、キヌレニン代謝産物が線維増殖性障害の予防または治療にも適切である可能性があることを示している。
【0090】
実施例12 − キヌレニンおよび代謝物/アナログは、脾臓細胞に顕著な効果をもつ
図17に記載の発見は、96時間の100および150μg/mLのD−キヌレニン、L−キヌレニンまたはDL−キヌレニンを用いた処置後に、ConA誘発性脾細胞増殖においてほぼ5倍の低下が見られた(P<0.05)が、脾細胞増殖は、100および150μg/mLのD−キヌレニン、L−キヌレニンまたはDL−キヌレニンによって48時間後、約2倍顕著に減少していたことを示した。他の代謝産物と比較して、FSは増殖に対してあまり効果がない。図18に記載の発見は、FSが、例えばIL−1、IL−2、CXCL9およびCXCL10などのいくつかの炎症性サイトカインおよびケモカインの産生に、免疫抑制効果があることを示した。そのうえ、炎症において重要な役割を果たしていると考えられているIL−17産生を顕著に低減し得る。
【0091】
実施例13 − 線維芽細胞におけるMMP1発現に対するキヌレン酸およびキヌレニンの持続的効果
線維芽細胞におけるMMP1発現に対するキヌレン酸(KynA)とキヌレニン(Kyn)の持続的効果を測定するために、細胞は、100μg/mLの薬剤で処理された。処理後48時間で、培地が新鮮な培地と交換され、そして細胞が、処置後0、12、24、48時間で取り出され収集された。処置後48時間で、KynAまたはKyn処置のいずれかに応答した、線維芽細胞のMMP1発現の顕著な増大が見られた。KynおよびKynAの除去後、MMP1発現は、その後24時間、未処理の細胞と比較して顕著に高い状態に維持された(図19A)。興味深いことに、MMP1タンパク質発現は、Kynの除去後の48時間以内に徐々に正常レベルへと低下した一方、KynAに応答したMMP1発現は対照より高く維持続された(図19A)。図19Bは、図19Aに示されているデータの定量的な分析を示している(*P値<0.05、**P値<0.01、n=4)。これらの結果から、処置された線維芽細胞において、Kynと比較してKynAはMMP−1の発現においてより長く持続する効果を有しているようである。
【0092】
さまざまな実施形態が本書に開示されているが、多くの改変および変更は、当該技術分野における当業者の一般常識にしたがって、本発明の範囲内で行われ得る。このような変更は、実質的に同じ方法で同じ結果を達成するために、本発明の任意の態様に対する公知の等価物による置換を含む。数値範囲は範囲を規定している数値を包含する。「含む(comprising)」という用語は、「を含むがこれらに限定されない」という表現と実質的に同等の非限定的用語として本明細書で使用され、そして「含む(comprises)」という用語は対応する意味をもつ。本明細書で使用される通り、文脈によって明確に指示されない限り、単数形の「a」、「an」および「the」は複数も含む。したがって、例えば、「1つのもの(a thing)」に対する言及はそのようなものを二以上含む。本明細書中の参考文献の引用は、このような参考文献が本発明の実施形態に対する先行技術であると認めるものではない。本発明は本明細書中の上記に実質的に記載されたおよび実施例および図面に実質的に関連する全ての実施形態および変更形を含む。
【0093】
参考文献:
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Ghahary A、Tredget EE、LJチャンその他著(1998年)遺伝子組換え皮膚ケラチノサイトによる増殖因子β1変換の高レベル発現J Invest Dermatol 、110:800−805頁
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Kloeters O、Tandara A、Mustoe T (2007年) ウサギの耳で肥大瘢痕モデル、傷跡削減のためのシリコーンゲルシート上の新しい観察と瘢痕組織の挙動を研究するための再現可能なモデル創傷修復リジェネ 15:S40−S45
Li Y、Tredget EE、Ghaffari A その他著(2006年)インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼの局所的発現による異種代用皮膚の移植の保護J Invest Dermatol 、126:128−136頁
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Rahmani−Neishaboor E, Yau FM, Jalili R, その他著(2010年) ウサギ耳モデルの局所抗線維形成の抗炎症因子による肥大瘢痕の改善創傷修復リジェネ 18:S40−S45
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Xie JL, Bian HN, Qi SH その他著(2008年)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)による創傷治癒におけるウサギの耳モデルの傷跡の緩和創傷修復リジェネ 16:S40−S45
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-A】
図12-B】
図12-C】
図12-D】
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
図19