(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に採用する有機繊維としては、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビニロンなどの合成繊維などがあげられる。また、該有機繊維は、銀系化合物を効率的に含有させるため、酸性基を含有することが望ましい。かかる酸性基としては、スルホン酸基やカルボン酸基を挙げることができる。
【0010】
上記繊維に含有させる酸性基としては、スルホン酸の場合であれば、繊維重量に対して好ましくは0.01〜4mmol/g、より好ましくは0.01〜1mmol/gである。かかる範囲の上限を超える場合には、染色した際に斑が発生する可能性があるため実用上問題があり、下限を下回る場合には、後述する量の銀とカブリ防止剤を繊維中に含有できない場合がある。
【0011】
また、カルボン酸の場合であれば、繊維重量に対して好ましくは0.01〜8mmol/g、より好ましくは0.01〜7mmol/g、さらに好ましくは0.01〜6mmol/gである。かかる範囲の上限を超える場合には、繊維の水膨潤性が高くなりすぎて実用的な繊維物性を得られない場合があり、下限を下回る場合には、後述する量の銀とカブリ防止剤を繊維中に含有できない場合がある。
【0012】
酸性基を繊維に含有させる方法としては、従来から様々な方法が提案されている。例えば、繊維を構成するポリマーの作成時に酸性基を含有するモノマーを共重合成分として重合をおこなう方法、繊維の紡糸時に酸性基を持つ機能性物質を導入する方法、あるいは、繊維を薬剤で処理することにより、繊維中に酸性基を生成させる方法などがあげられる。
【0013】
上述のように酸性基を含有させるという点からは、本発明に採用する有機繊維としては、モノマー種類の豊富なビニル系モノマーを共重合できるアクリロニトリル系繊維などが好適である。
【0014】
本発明に採用する銀系化合物は、抗菌性、抗黴性、抗ウイルス性、消臭性などの機能を発現させる構成要素である。かかる銀系化合物としては、銀、酸化銀、硫化銀、硝酸や硫酸などの無機酸の銀塩、酢酸、蓚酸などの有機酸の銀塩、銀錯体化合物などを挙げることができる。また、本発明に採用する銀系化合物は、繊維を構成する高分子の官能基に銀イオンが結合あるいは配位した形であってもよい。
【0015】
繊維に含有せしめるべき銀系化合物の量としては、特に限定はないが、最終的に得られる耐変色性繊維中における銀としての含有率が、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜5重量%となるようにするのが良い。銀としての含有率が0.1重量%を下回る場合には、上述した抗菌性等の機能が得られない場合があり、10重量%を上回る場合には、後述するカブリ防止剤による銀の変色抑制効果が十分に得られない場合がある。
【0016】
本発明に採用するカブリ防止剤としては、特開平10−62899号公報、特開平9−281637号公報、特開平9−329864号公報に記載の化合物などが挙げられる。特に、下記化3で示される特開2003−98622号公報に記載のハロゲン化合物が好ましい。
【0017】
【化3】
[式中、Qはアルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表し、これらの基は置換基を有してもよい。X
1、X
2及びX
3は水素原子、ハロゲン原子、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルフォニル基、アリール基を表すが、少なくとも一つはハロゲン原子である。Yは−NR−C(=O)−、−C(=O)−、−Z−C(=O)−、−Z−S(=O)−、−SO−または−SO
2−を表し、nは0〜2の整数を、mは1〜10を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表し、Qと環構造を形成していても良い。Zは酸素原子または硫黄原子を表す。]
【0018】
特に、かかる化3の化合物において、X
1、X
2及びX
3のいずれかが臭素である場合に、より良好な耐変色性が得られる。さらに、化3の化合物において、臭素の数が多いほど耐変色性が向上する傾向があり、mは2以上であることが好ましく、さらに、X
1、X
2及びX
3の全てが臭素であることがより好ましい。また、カブリ防止剤の分子量が小さい場合には、繊維の染色や洗濯等の処理において脱落するカブリ防止剤の量が多くなり耐変色性を十分に発揮できない場合があるため、この点からも臭素の数が多い方が好ましい。
【0019】
また、カブリ防止剤の添加量としては、銀の重量に対して0.5倍の重量以上とすることが好ましく、より好ましくは1倍の重量以上である。カブリ防止剤が少なすぎる場合には十分な変色抑制効果が得られない場合がある。一方、カブリ防止剤の添加量の上限としては、過剰に添加しても未反応のカブリ防止剤が残存するだけで、変色抑制効果は一定レベル以上には向上しないことから、銀のモル量と同じモル量までとするのが好ましい。
【0020】
上述してきた本発明の耐変色性繊維の製造方法としては、銀系化合物とカブリ防止剤を混合したのち有機繊維に付着させる方法や、銀系化合物を含有させた有機繊維にカブリ防止剤を付着させる方法をあげることが出来る。
【0021】
以下に、有機繊維としてアクリロニトリル系繊維を採用する場合を例に挙げて、本発明の耐変色性繊維を製造する方法を説明する。
【0022】
アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体から形成された繊維であって、かかるアクリロニトリル系重合体としては、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは80重量%以上のアクリロニトリルと公知のモノマーとの共重合体を用いることができる。かかるアクリロニトリル系重合体を溶媒に溶解させた溶液を紡糸原液とし、これを紡糸することによりアクリロニトリル系繊維を得ることができる。紡糸条件としては、従来公知の紡糸条件を採用することができる。前記溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機系溶媒や硝酸、塩化亜鉛水溶液、チオシアン酸ナトリウム水溶液などの無機系溶媒を挙げることができる。
【0023】
上記のアクリロニトリル系重合体において、アクリロニトリルと共重合させることのできるコモノマーとしては他の重合性不飽和ビニル化合物など、アクリロニトリルと共重合するものであれば特に制限はなく、例えば酢酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル又はビニリデン類;アクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸低級アルキルエステル類(以下、(メタ)アクリルの記載はアクリルとメタアクリルの両方を表現するものとする);アクリルアミド、スチレン、メタアリルスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、パラスチレンスルホン酸ソーダ、ビニルスルホン酸ソーダ等のスルホン酸基含有単量体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有単量体等を使用することができる。
【0024】
ここで、アクリロニトリル系繊維に、スルホン酸基やカルボン酸基などの酸性基を含有させるため、コモノマーとしてスルホン酸基やカルボン酸基などの酸性基を含有する単量体を0.1〜20重量%含有させることができる。
【0025】
なお、スルホン酸基やカルボン酸基などの酸性基を含有させる方法としては、スルホン酸基やカルボン酸基などの酸性基を含有する重合開始剤や重合触媒を用いて、アクリロニトリル系重合体にこれらの酸性基を導入する方法や、アクリロニトリル系繊維の形成後に加水分解処理を行って、繊維中にカルボン酸基を生成させる方法なども採用することができる。
【0026】
上述のようにして得られるアクリロニトリル系繊維に銀系化合物を含有せしめる方法としては特に制約はなく、例えば、特開平3−199418号公報に開示されている方法、すなわちアクリロニトリル系繊維を製造するに際し、乾燥、熱緩和工程前のゲル構造繊維を硝酸銀などの銀塩水溶液で連続的に処理し、繊維に銀系化合物を含有させる方法や、特開昭52−92000号公報に開示されている方法、すなわち通常の方法によりアクリロニトリル系繊維を製造した後、硫酸銀や硝酸銀などの水溶液に浸漬して、銀イオンを含有させる方法をあげることができる。
【0027】
また、特開平7−243169号公報に開示されている方法、すなわち特開昭52−92000号公報に開示されている方法と同様にして得られる銀イオン含有アクリロニトリル系繊維を、シュウ酸、安息香酸、フタル酸などの陰イオンを含有する水溶液で処理して、銀系化合物を含有させる方法も採用できる。
【0028】
以上のようにして得られる銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維を、該繊維が含有している銀の重量に対して0.5倍以上の重量のカブリ防止剤を含有する溶液に浸漬することで本発明の耐変色性繊維を得ることができる。
【0029】
また、上述したアクリロニトリル系繊維に限らず、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリウレタン繊維等に銀系化合物を含有させた公知の繊維にカブリ防止剤を付与することによっても本発明の耐変色性繊維を得ることもできる。さらに、銀系化合物を含有しないアクリロニトリル系繊維などの有機繊維を、銀系化合物とカブリ防止剤を混合した溶液に浸漬する方法によっても本発明の耐変色性繊維を得ることができる。
【0030】
本発明の繊維構造物としては、糸、ヤーン、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体及びこれらの組み合わせによる複合体などが挙げられる。これらの繊維構造物は、そのままあるいはさらに加工をすることで、皮膚に直接接するタオル類、衣類、敷物類、履物類などに使用でき、抗菌性、抗カビ性さらには消臭性を付与することができる。具体的な製品としては、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、インソール、靴の内張り材、パジャマ、バスローブ、タオル、バスマット、カーペット、毛布、寝具、カーテン、椅子張り地などを挙げることができる。
【実施例】
【0031】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。実施例中の部および百分率は断りのない限り重量基準で示す。なお、実施例において記述する評価方法は以下の通りである。
【0032】
(1)耐変色性
試料繊維1gを亜ジチオン酸ナトリウム0.1gと炭酸ナトリウム0.05gを添加した水溶液100mlに浸漬し、98℃で30分処理を行い、変色の程度を確認する。変色の程度は、前記処理を行わなかった試料との視感による比較において、以下の基準により判定する。判定が◎または○であれば、実用上問題の無いレベルである。
◎:変色を確認できない
○:変色がほとんどない
×:変色が明確である
【0033】
(2)抗菌性
JIS L 1902(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)を基に、黄色ブドウ球菌を用いて、菌数測定を行い下式により静菌活性値を求める。一般に静菌活性値が2.0以上あれば抗菌性能が有ると見なされる。
静菌活性値 = (Mb−Ma)−(Mc−Mo)
ここで、記号Ma、Mb、Mo、Mcは以下を示す。
Ma:標準布の試験菌液接種直後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Mb:標準布の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Mo:試験試料の試験菌液接種直後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
Mc:試験試料の18時間培養後の3検体の生菌数の常用対数値の平均値
【0034】
(3)繊維中の銀含有量
試料繊維0.1gを、95%の濃硫酸と62%の濃硝酸溶液で湿式分解した溶液を日本ジャ−レルアッシュ(株)製原子吸光分析装置AA855型を用いて原子吸光度を測定して求める。
【0035】
(4)洗濯方法
JIS−L−0217,103法に従い、水1Lに対して2gの割合で合成洗剤(花王(株)製アタック(登録商標))を溶解し、この洗濯液を40℃にして、浴比が1対30になるように試料繊維を投入して洗濯を5回繰り返す。
【0036】
(5)スルホン酸基量
十分乾燥した試料約0.25gを精秤し(S[g])、20mLのジメチルホルムアミドに溶解させる。次いでアンバーライトIR−120B(ローム・アンド・ハース株式会社製、強酸性カチオン交換樹脂)10mLを加え、15分間撹拌した後、ろ別する。ジメチルホルムアミドを加えてろ液を50mLに希釈し、0.0075mol/Lの水酸化ナトリウムエタノール溶液で伝導度滴定を行い、滴定曲線を求めた。該滴定曲線からスルホン酸基に消費された水酸化ナトリウム消費量(V[mL])を求め、次式によってスルホン酸基量を算出する。
スルホン酸基量[mmol/g]=0.0075V/S
【0037】
(実施例1)
常法に従って重合して得られたアクリロニトリル91.1%、アクリル酸メチル8.6%、メタアリルスルホン酸ナトリウム0.3%からなるアクリロニトリル系重合体を、濃度45%のチオシアン酸ナトリウム水溶液に溶解し、重合体濃度が12%である紡糸原液を作成した。該紡糸原液を紡出し、水洗、延伸、熱処理を行うことによって、アクリロニトリル系繊維を作成した。該繊維のスルホン酸基量は0.035mmol/gであった。次いで、銀を該繊維に導入するため、0.05%硝酸銀水溶液1000mlを硝酸でpH3に調整した溶液中に、前記アクリロニトリル系繊維を100g投入して、98℃で130分間処理を行い、水洗、乾燥した。得られた繊維全てを0.1%シュウ酸ナトリウム水溶液1000mlに投入して、98℃で10分間処理を行い、水洗、乾燥を行い、銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維を作成した。次に、作製した銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維全てを、前記繊維に含有される銀と同重量のカブリ防止剤(CH
3)
2C(NHC(=O)CBr
3)
2を添加した水溶液1000mlに投入して98℃で60分処理し、実施例1の耐変色性繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例2)
カブリ防止剤の量を銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維に含有される銀の1.5倍の重量とすること以外は実施例1と同様にして耐変色性繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0040】
(実施例3)
カブリ防止剤の量を銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維に含有される銀の0.67倍の重量とすること以外は実施例1と同様にして耐変色性繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0041】
(実施例4)
カブリ防止剤として(CH
3)
2C(NHC(=O)CBr
3)
2の代わりに(CH
3)
2CHCH
2O(CH
2)
3NHC(=O)CBr
3を用いること以外は実施例1と同様にして耐変色性繊維を得た。
【0042】
(実施例5)
実施例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維を作成した。次いで、銀を該繊維に導入するため、濃度0.05%の硝酸銀水溶液1000mlに、該水溶液に含有される銀と同重量のカブリ防止剤(CH
3)
2C(NHC(=O)CBr
3)
2を添加混合し、硝酸でpH3に調整した溶液を作成した。該溶液中に、前記アクリロニトリル系繊維を100g投入して、98℃で130分間処理を行い、水洗、乾燥した。得られた繊維を0.1%シュウ酸ナトリウム水溶液1000mlに投入して、98℃で10分間処理を行い、水洗、乾燥を行い、耐変色性繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1)
実施例1における、カブリ防止剤による処理を行う前の銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維について、評価した結果を表1に示す。
【0044】
表1の結果より実施例1〜5では比較例1と比較してカブリ防止剤の添加により耐変色性を発揮することがわかる。また、カブリ防止剤の添加は抗菌性を低下させず、洗濯を行っても機能低下が起こらないことが分かる。また、実施例1〜3の傾向よりカブリ防止剤の添加量が多いほど、耐変色効果が高いことが分かる。