特許第6474051号(P6474051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6474051複合材料成形体、リアクトル、及び複合材料成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474051
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】複合材料成形体、リアクトル、及び複合材料成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20190218BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20190218BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20190218BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20190218BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20190218BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   H01F27/255
   H01F37/00 M
   H01F27/24 K
   H01F41/02 D
   H01F37/00 A
   H01F1/147 191
   H01F1/26
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-1997(P2016-1997)
(22)【出願日】2016年1月7日
(65)【公開番号】特開2017-123407(P2017-123407A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】高田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】南原 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】草別 和嗣
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/015581(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/136391(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/118507(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/099099(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/255
H01F 1/147
H01F 1/26
H01F 27/24
H01F 37/00
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末と前記軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む複合材料成形体であって、
前記複合材料成形体の表面のうち、前記複合材料成形体内に励磁される磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように前記複合材料成形体を合計9個の部位に分割したとき、
これら部位のうち、最大の密度Dmaxの部位に対する最小の密度Dminの部位の密度減少率Dd={(Dmax−Dmin)/Dmax}×100が、1.2%以下である複合材料成形体。
【請求項2】
軟磁性粉末と前記軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む複合材料成形体であって、
前記複合材料成形体の表面のうち、前記複合材料成形体内に励磁される磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように前記複合材料成形体を合計9個の部位に分割したとき、
これら部位のうち、最小の密度Dminの部位に対する最大の密度Dmaxの部位の密度増加率Di={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100が、1.3%以下である複合材料成形体。
【請求項3】
軟磁性粉末と前記軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む複合材料成形体であって、
前記複合材料成形体の表面のうち、前記複合材料成形体内に励磁される磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように前記複合材料成形体を合計9個の部位に分割したとき、
これらの部位のうち最大の密度Dmaxの部位と最小の密度Dminの部位との密度差ΔD=Dmax−Dminと、平均密度Davとの密度比率DR=(ΔD/Dav)×100が、1.4%以下である複合材料成形体。
【請求項4】
前記最小の密度Dminと平均密度Davとの比率(Dmin/Dav)×100が、99%以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合材料成形体。
【請求項5】
前記最大の密度Dmaxと平均密度Davとの比率(Dmax/Dav)×100が、100.6%以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合材料成形体。
【請求項6】
前記軟磁性粉末が、Siを1.0質量%以上8.0質量%以下含むFe基合金の軟磁性粒子を含む請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の複合材料成形体。
【請求項7】
前記軟磁性粉末の前記複合材料成形体全体に対する含有量が、80体積%以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の複合材料成形体。
【請求項8】
前記軟磁性粉末の平均粒径が、5μm以上300μm以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の複合材料成形体。
【請求項9】
巻線を巻回してなるコイルと、前記コイルが配置される磁性コアとを備えるリアクトルであって、
前記磁性コアは、複数のコア部材と、これらコア部材の間に介在されるギャップとを備え、
複数の前記コア部材の少なくとも一つは、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の複合材料成形体を備えるリアクトル。
【請求項10】
軟磁性粉末と溶融された樹脂とを含む混合物を金型内に注入し、前記樹脂を固化させて複合材料成形体を成形する工程を備える複合材料成形体の製造方法であって、
前記軟磁性粉末の前記混合物全体に対する含有量が、80体積%以下であり、
溶融された前記樹脂の温度Trと前記金型の温度Tdとの差Tr−Tdが200℃以上であり、
前記金型の温度Tdが前記樹脂のガラス転移点Tg以下、かつ100℃以下である複合材料成形体の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂であり、
前記金型の温度Tdが、前記樹脂のガラス転移点Tg−10℃以上前記樹脂のガラス転移点Tg+10℃以下である請求項10に記載の複合材料成形体の製造方法。
【請求項12】
前記金型の温度Tdが、前記樹脂の融点Tm−135℃以下である請求項10又は請求項11に記載の複合材料成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルなどの磁気部品に備える磁性コアに適した複合材料成形体、この複合材料成形体を備えるリアクトル、及びこの複合材料成形体の製造方法に関する。特に、漏れ磁束が少なく磁気特性に優れるリアクトルを構築できる複合材料成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。リアクトルは、ハイブリッド自動車などの車両に搭載されるコンバータに利用される。そのリアクトルとして、例えば、特許文献1に示すものがある。
【0003】
特許文献1のリアクトルは、一対のコイル素子(巻回部)を有するコイルと、コイルの内側に配置される一対の内側コア部、及び一対の内側コア部の端面同士を連結する一対の外側コア部を有する磁性コアとを備える(明細書0105〜0116)。内側コア部と外側コア部とは、磁性体粉末と樹脂とを含む複合材料(複合材料成形体)で構成される。複合材料の製造は、磁性体粉末と溶融した樹脂との混合物を金型に充填し、樹脂を固化(硬化)して行われる。
【0004】
例えば、上述のように複合材料成形体からなる複数のコア部材を組み合わせて磁性コアを構成する場合、コア部材間には、インダクタンスを調整するためにギャップを介在させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−118352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リアクトルが複合材料成形体からなる複数のコアとそのコア間に介在されるギャップとを備える磁性コアを用いる場合に、そのギャップからの漏れ磁束を低減して磁気特性を向上することが望まれている。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、漏れ磁束が少なく磁気特性に優れるリアクトルを構築できる複合材料成形体を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、上記複合材料成形体を備えるリアクトルを提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、上記複合材料成形体を製造する複合材料成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る複合材料成形体は、軟磁性粉末と前記軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む。この複合材料成形体は、複合材料成形体の表面のうち、複合材料成形体内に励磁される磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように複合材料成形体を合計9個の部位に分割したとき、以下の(1)〜(3)の条件の少なくとも一つを満たす。
(1)上記部位のうち、最大の密度Dmaxの部位に対する最小の密度Dminの部位の密度減少率Dd={(Dmax−Dmin)/Dmax}×100が、1.8%以下である。
(2)上記部位のうち、最小の密度Dminの部位に対する最大の密度Dmaxの部位の密度増加率Di={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100が、1.8%以下である。
(3)上記部位のうち、最大の密度Dmaxの部位と最小の密度Dminの部位との密度差ΔD=Dmax−Dminと、平均密度Davとの密度比率DR=(ΔD/Dav)×100が、1.8%以下である。
【0011】
本発明の一態様に係るリアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、コイルが配置される磁性コアとを備える。磁性コアの少なくとも一部は、上記本発明の一態様に係る複合材料成形体を備える。
【0012】
本発明の一態様に係る複合材料成形体の製造方法は、軟磁性粉末と溶融された樹脂とを含む混合物を金型内に注入し、前記樹脂を固化させて複合材料成形体を成形する工程を備える。この製造方法は、溶融された樹脂の温度Trと金型の温度Tdとの差Tr−Tdが180℃以上である。
【発明の効果】
【0013】
上記複合材料成形体は、漏れ磁束が少なく磁気特性に優れるリアクトルを構築できる。
【0014】
上記リアクトルは、漏れ磁束が少なく磁気特性に優れる。
【0015】
上記複合材料成形体の製造方法は、上記複合材料成形体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態1に係る複合材料成形体を備えるリアクトルを示し、上図は概略斜視図であり、下図は分解斜視図である。
図2】試験例1において、各試料のコア部材における内側コア部(複合材料成形体)の密度測定部位を示す説明図である。
図3】試験例2でのシミュレーション用の試料を示し、上図は概略斜視図であり、下図はその試料の内側コア部を示す概略斜視図である。
図4】試験例2における試料No.2−100の磁束密度の分布状態を示す分布図である。
図5】試験例2における試料No.2−1の磁束密度の分布状態を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《本発明の実施形態の説明》
本発明者らは、複合材料成形体からなる複数のコア部材とコア部材間に介在されるギャップとを備える磁性コアにおいて、ギャップからの漏れ磁束を低減するべく、従来の複合材料成形体を分析した。この分析は、詳しくは後述する試験例で示すが、シミュレーションにより、複合材料成形体の磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように複合材料成形体を合計9個の部位に分割して行った。その結果、以下の知見を得た。
(i)上記9個の部位において、磁束密度(密度)に差異(ばらつき)があること。
(ii)最大の密度Dmaxの部位に対する最小の密度Dminの部位の密度減少率Ddが大きくなる場合があること。
(iii)最小の密度Dminの部位に対する最大の密度Dmaxの部位の密度増加率Diが大きくなる場合があること。
(iv)最大の密度Dmaxの部位と最小の密度Dminの部位との密度差ΔDと、平均密度Davとの密度比率DRが大きくなる場合があること。
(v)これら密度減少率Dd、密度増加率Di、及び密度比率DRが大きい複合材料成形体は漏れ磁束が多いこと。
【0018】
本発明者らは、これらの知見から、上記密度減少率Dd、上記密度増加率Di、及び上記密度比率DRの少なくとも一つが小さい複合材料成形体は漏れ磁束を低減できるのではないかと考えた。そこで、シミュレーションにより、上記9個の部位における上記密度減少率Dd、上記密度増加率Di、及び上記密度比率DRが実質的に0である複合材料成形体の漏れ磁束を算出した。その結果、従来の複合材料成形体に比べて漏れ磁束が少ないことが分かった。
【0019】
更に、本発明者らは、上記密度減少率Dd、上記密度増加率Di、及び上記密度比率DRの少なくとも一つが小さい複合材料成形体の製造方法を検討した。その結果、その複合材料成形体は、溶融された樹脂の温度Trと金型の温度Tdとの温度差Tr−Tdを従来よりも大きくすることで得られるとの知見を得た。本発明は、これらの知見に基づくものである。最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0020】
(1)本発明の一態様に係る第一の複合材料成形体は、軟磁性粉末と前記軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む。この複合材料成形体は、複合材料成形体の表面のうち、複合材料成形体内に励磁される磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように複合材料成形体を合計9個の部位に分割したとき、これら部位のうち、最大の密度Dmaxの部位に対する最小の密度Dminの部位の密度減少率Dd={(Dmax−Dmin)/Dmax}×100が、1.8%以下である。
【0021】
上記の構成によれば、上記密度減少率Ddが小さく上記各部位の密度差が略均一であるため、この複合材料成形体内に励磁した際、上記各部位の磁束密度のばらつきを低減し易い。そのため、この複合材料成形体をリアクトルの磁性コアに用いた場合、具体的にはギャップを介して連結されるコア部材に用いた場合、ギャップから磁束が漏れ難いリアクトルが得られる。
【0022】
(2)本発明の一態様に係る第二の複合材料成形体は、軟磁性粉末と前記軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む。この複合材料成形体は、複合材料成形体の表面のうち、複合材料成形体内に励磁される磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように複合材料成形体を合計9個の部位に分割したとき、これら部位のうち、最小の密度Dminの部位に対する最大の密度Dmaxの部位の密度増加率Di={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100が、1.8%以下である。
【0023】
上記の構成によれば、上記密度増加率Diが小さいため、上記第一の複合材料成形体と同様、ギャップから磁束が漏れ難いリアクトルが得られる。
【0024】
(3)本発明の一態様に係る第三の複合材料成形体は、軟磁性粉末と前記軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む。この複合材料成形体は、複合材料成形体の表面のうち、複合材料成形体内に励磁される磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように複合材料成形体を合計9個の部位に分割したとき、これら部位のうち最大の密度Dmaxの部位と最小の密度Dminの部位との密度差ΔD=Dmax−Dminと、平均密度Davとの密度比率DR=(ΔD/Dav)×100が、1.8%以下である。
【0025】
上記の構成によれば、上記密度比率DRが小さいため、上記第一及び第二の複合材料成形体と同様、ギャップから磁束が漏れ難いリアクトルが得られる。上記平均密度Davとは、9個の部位の密度の平均である。
【0026】
(4)上記第一〜第三の複合材料成形体の一形態として、最小の密度Dminと平均密度Davとの比率(Dmin/Dav)×100が、99%以上であることが挙げられる。
【0027】
上記比率(Dmin/Dav)×100が99%以上であれば、全体的に高密度であるため、磁気特性に優れるリアクトルを構築できる磁性コアを構成できる。
【0028】
(5)上記第一〜第三の複合材料成形体の一形態として、最大の密度Dmaxと平均密度Davとの比率(Dmax/Dav)×100が、100.6%以下であることが挙げられる。
【0029】
上記比率(Dmax/Dav)×100が100.6%以下であれば、上記密度減少率Dd、密度増加率Di、及び密度比率DRの少なくとも一つが小さいため、最小の密度Dminが高くて全体の密度が高い。そのため、磁気特性に優れるリアクトルを構築できる磁性コアを構成できる。
【0030】
(6)上記第一〜第三の複合材料成形体の一形態として、軟磁性粉末が、Siを1.0質量%以上8.0質量%以下含むFe基合金の軟磁性粒子を含むことが挙げられる。
【0031】
Siを1.0質量%以上含むFe基合金は、電気抵抗率が高く渦電流損を低減し易い。その上に、純鉄に比較して硬いため、製造過程で歪が導入され難いためヒステリシス損を低減し易いことから、鉄損をより低減できる。Siを8.0質量%以下含むFe基合金は、Siの量が過度に多すぎず、低損失と高飽和磁化とを両立させ易い。
【0032】
(7)上記第一〜第三の複合材料成形体の一形態として、軟磁性粉末の複合材料成形体全体に対する含有量が、80体積%以下であることが挙げられる。
【0033】
上記含有量が80体積%以下であれば、磁性成分の割合が過度に高過ぎないため、成形時の金型への混合物の充填性が確保し易く、軟磁性粒子同士の絶縁性を高められ、渦電流損を低減できる。
【0034】
(8)上記第一〜第三の複合材料成形体の一形態として、軟磁性粉末の平均粒径が、5μm以上300μm以下であることが挙げられる。
【0035】
軟磁性粉末の平均粒径が5μm以上であれば、凝集し難く粉末粒子間に十分に樹脂を介在させ易いため渦電流損を低減し易い。軟磁性粉末の平均粒径が300μm以下であれば、過度に大きくないため、粉末粒子自体の渦電流損を低減でき、ひいては複合材料成形体の渦電流損を低減できる。その上、充填率を高められる。そのため、上記密度減少率Dd、密度増加率Di、及び密度比率DRを低減し易い上に、複合材料成形体の飽和磁化を高め易い。
【0036】
(9)本発明の一態様に係るリアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、コイルが配置される磁性コアとを備える。磁性コアは、複数のコア部材がギャップを介して組み合わされてなる。複数のコア部材の少なくとも一つは、上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の複合材料成形体を備える。
【0037】
上記の構成によれば、磁性コアが上記複合材料成形体を備えるため、漏れ磁束が少なく磁気特性に優れる。
【0038】
(10)本発明の一態様に係る複合材料成形体の製造方法は、軟磁性粉末と溶融された樹脂とを含む混合物を金型内に注入し、前記樹脂を固化させて複合材料成形体を成形する工程を備える。この製造方法は、溶融された樹脂の温度Trと金型の温度Tdとの差Tr−Tdが180℃以上である。
【0039】
上記の構成によれば、上記温度差Tr−Tdを大きくすることで、上述の密度減少率Dd、密度増加率Di、及び密度比率DRの少なくとも一つを満たす複合材料成形体を製造できる。この理由は定かではないが、混合物の外周側の樹脂の固化速度が早いことに起因していると考えられる。
【0040】
上記温度差Tr−Tdが小さいと、混合物の樹脂の固化速度が遅くなり易い。通常、混合物の樹脂の固化は、外周側が中央よりも先に行われる。混合物における外周側の樹脂の固化速度が遅ければ、外周側の樹脂が固化するまでの間に、冷却(固化)時の外周側の樹脂の収縮に連動して固化前の中央の混合物が外周側へ引っ張られて流動する流動代が大きい。それにより、重量物である軟磁性粉末も外周側に移動し、中央の密度が低下し易くなる。その結果、必ずしも中央の密度が最小になるとは限らないものの、中央の密度が最小になることが多い。こうして、最大の密度の部位と最小の密度の部位との密度差が大きくなり易い。
【0041】
これに対して、温度差Tr−Tdが大きいと、外周側の樹脂の固化速度を早められる。それにより、固化前の中央の混合物が外周側へ流動する前に外周側の樹脂を固化させられるため上記流動代を小さくし易い。即ち、中央の密度が低下する前に外周側の樹脂が固化する。そのため、最大の密度の部位と最小の密度の部位との密度差を小さくできると考えられる。
【0042】
(11)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、金型の温度Tdが100℃以下であることが挙げられる。
【0043】
Td≦100℃とすれば、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく180℃≦Tr−Tdを満たし易い。混合物の流動性を確保しつつ、樹脂の温度Trが過度に高くならないことにより樹脂の熱分解を抑制し易く、強度など複合材料成形体の物性低下を抑制し易い。その上、複合材料成形体の表面の焼けなどを抑制し易い。
【0044】
(12)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂であることが挙げられる。この場合、金型の温度Tdが、樹脂のガラス転移点Tg−10℃以上樹脂のガラス転移点Tg+10℃以下であることが好ましい。
【0045】
樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂である場合、Tg−10℃≦Tdとすれば、金型の温度Tdが過度に低くなり難い。そのため、樹脂の固化速度が過度に早くならず、複合材料成形体の内部にクラックが発生することを抑制し易い。
【0046】
Td≦Tg+10℃とすれば、金型の温度Tdが高くなりすぎず、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく180℃≦Tr−Tdを満たし易い。また、固化速度が過度に遅くならず、離型性を高め易い。
【0047】
(13)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、金型の温度Tdが、樹脂の融点Tm−135℃以下であることが挙げられる。
【0048】
Td≦Tm−135℃とすれば、金型の温度Tdを低くし易く、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく180℃≦Tr−Tdを満たし易い。
【0049】
(14)上記複合材料成形体の製造方法の一形態として、軟磁性粉末の前記混合物全体に対する含有量が80体積%以下であることが挙げられる。
【0050】
上記の構成によれば、上述の密度減少率Dd、密度増加率Di、及び密度比率DRの少なくとも一つを満たす複合材料成形体を製造し易い。軟磁性粉末の上記含有量が多いほど、混合物の外周側の固化時に、固化前の中央の混合物が外周側へ流動し難いからである。
【0051】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0052】
《実施形態1》
図1を参照して実施形態1に係る複合材料成形体10を説明する。複合材料成形体10は、軟磁性粉末と軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む。複合材料成形体10の主たる特徴とするところは、複合材料成形体10内に励磁される磁束に交差する鎖交面が縦横にそれぞれ3等分されるように複合材料成形体10を合計9個の部位に分割したとき、各部位の密度の差が小さい点にある。この複合材料成形体10は、代表的にはリアクトル1に備わる磁性コア3の少なくとも一部を構成する。リアクトル1は、詳しくは後述するが、例えば、図1に示すコイル2と磁性コア3とを備える。コイル2は、巻線2wを螺旋状に巻回した一対の巻回部2a、2bを互いに並列状態で接続してなる。磁性コア3は、同一の形状を有する二つのコア部材30と、その間に介在されるギャップ31gとを組み合わせることで環状に構成される。この両コア部材30はいずれも、一対の内側コア部11と、一対の内側コア部11の一端側で両内側コア部11をつなぐ外側コア部12とで構成されている。ここでは、コア部材30のうち、一対の内側コア部11を複合材料成形体10で構成する例を説明する。一対の内側コア部11の並列方向を左右(横)方向とし、この左右方向及び内側コア部11内に励磁される磁束に沿った方向の両方向に直交する方向を上下(縦)方向とする。図中の同一符号は同一名称物を示す。図1の二点鎖線は、内側コア部11における9個の部位の分割線を示す。
【0053】
[コア部材]
コア部材30の一対の内側コア部11と外側コア部12とは、一対の内側コア部11の一端側で一体に連結されている。コア部材30の上方から見た形状は、略U字状である。一対の内側コア部11は、コア部材30をコイル2(図1)に組み付けた際、一対の巻回部2a、2b内にそれぞれ配置される。外側コア部12は、同様にコア部材30をコイル2に組み付けた際、コイル2の端面から突出される。内側コア部11と外側コア部12の上面は略面一である。一方、外側コア部12の下面は、内側コア部11の下面よりも突出して、コア部材30をコイル2と組み合わせた際、コイル2の下面と略面一になるように外側コア部12の大きさを調整している。
【0054】
(内側コア部:複合材料成形体)
各内側コア部11の形状は、コイル2の形状(コイル2の内部空間)に合わせた形状とすることが好ましい。ここでは、直方体状であり、その角部を巻回部2a,2bの内周面に沿うように丸めている。各内側コア部11の表面は、内側コア部11の端面で磁束に交差(ここでは直交)する鎖交面11Eと、磁束を軸とする周方向に沿った周回面(巻回部2a、2bの周方向に沿った面)とで構成されている。内側コア部11の鎖交面11Eは、周回面に連続して形成される。
【0055】
内側コア部11は、複合材料成形体10で構成される。即ち、各内側コア部11の密度は、実質的に全域に亘って均一である。具体的には、内側コア部11の鎖交面11Eが縦横にそれぞれ3等分されるように内側コア部11を合計9個の部位に分割したとき(図1二点鎖線で示す)、以下の(1)〜(3)の条件の少なくとも一つを満たす。ここでいう3等分とは、体積を3等分ではなく縦・横方向に沿った長さの3等分である。平均密度Davとは、9個の部位の密度の平均である。
(1)最大の密度Dmaxの部位に対する最小の密度Dminの部位の密度減少率Dd={(Dmax−Dmin)/Dmax}×100が、1.8%以下である。
(2)最小の密度Dminの部位に対する最大の密度Dmaxの部位の密度増加率Di={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100が、1.8%以下である。
(3)最大の密度Dmaxの部位と最小の密度Dminの部位との密度差ΔD=Dmax−Dminと、平均密度Davとの密度比率DR=(ΔD/Dav)×100が、1.8%以下である。
【0056】
内側コア部11がこれら(1)〜(3)の条件の少なくとも一つを満たすことで、上記9個の部位の密度のばらつきが小さく内側コア部11内に励磁される磁束密度のばらつきが生じ難い。そのため、ギャップ31gからの漏れを抑制し易い磁性コアを構築でき、磁気特性に優れるリアクトルとすることができる。上記密度減少率Ddは、1.6%以下が好ましく、更に1.4%以下が好ましく、特に1.2%以下が好ましい。上記密度増加率Diは、1.6%以下が好ましく、更に1.3%以下、特に1.2%以下が好ましい。密度比率DRは、1.6%以下、更に1.5%以下が好ましく、1.4%以下が好ましく、特に1.2%以下が好ましい。密度差ΔDは、0.10g/cm以下が好ましく、更に0.09g/cm以下、0.08g/cm以下が好ましく、特に0.07g/cm以下、0.06g/cm以下が好ましい。内側コア部11はこれら(1)〜(3)の条件から選択される複数、特に全ての条件を満たすことが好ましい。
【0057】
最小の密度Dminの部位は、上記9個の部位のうち、中央の部位であることが多い。但し、複合材料成形体10(内側コア部11)の形状や、複合材料成形体10の製造時に混合物を金型内に充填するゲートの位置・形状・大きさなどによっては、中央以外の部位が最小の密度Dminの部位となることもある。中央以外の部位が最小の密度Dminの部位となる場合は、ゲートの位置から最も近い箇所に位置する部位が最小の密度Dminの部位となることが挙げられる。例えば、複合材料成形体10の形状がU字状で、ゲートの位置が外側コア部12の外端面12oの上下左右の略中央にある場合などでは、最小の密度Dminの部位は、中央の部位の左隣りの部位と右隣りの部位のどちらかの部位が挙げられる。具体的には、鎖交面11E側から一対の内側コア部11を見たとき、左側の内側コア部11では中央の部位の右隣りの部位が最小の密度Dminの部位となり、右側の内側コア部11では中央の部位の左隣りの部位が最小の密度Dminの部位となることがある。
【0058】
最小の密度Dminと平均密度Davとの比率(Dmin/Dav)×100は、99%以上が好ましい。この比率(Dmin/Dav)×100が99%以上であれば、全体的に高密度であるため、磁気特性に優れるリアクトルを構築できる磁性コアを構成できる。この比率(Dmin/Dav)×100は、更に99.15%以上が好ましく、特に99.3%以上が好ましい。
【0059】
最小の密度Dminは、5.57g/cm以上が好ましい。最小の密度Dminが5.57g/cm以上であれば、全体的に高密度であるため、磁気特性に優れるリアクトルを構築できる磁性コアを構成できる。最小の密度Dminは、更に5.58g/cm以上が好ましく、特に5.60g/cm以上が好ましい。
【0060】
最大の密度Dmaxの部位は、通常、上記9個の部位のうち、中央の部位を除く残りの部位、即ち、外周の8個の部位のいずれかである。この8個の部位のうち最大の密度Dmaxの部位は、ゲートの位置から最も遠い箇所に位置する部位である。例えば、複合材料成形体10の形状がU字状で、ゲートの位置が外側コア部12の外端面12oの上下左右の略中央にある場合などでは、鎖交面11E側から一対の内側コア部11を見たとき、左側の内側コア部11では左側の3個の部位のいずれかの部位が最大の密度Dmaxの部位となり、右側の内側コア部11では右側の3個の部位のいずれかの部位が最大の密度Dmaxの部位となる。特に、ゲートの位置が外端面12oの中央より下側(上側)にあるときは、左側の内側コア部11では左上(左下)の部位が最大の密度Dmaxの部位となり、右側の内側コア部11では右下(右上)の部位が最大の密度Dmaxの部位となる。
【0061】
最大の密度Dmaxと平均密度Davとの比率(Dmax/Dav)×100は、100.6%以下が好ましい。この比率(Dmax/Dav)×100が99.85%以上であれば、上記密度減少率Dd、密度増加率Di、及び密度比率DRの少なくとも一つが小さいため、最小の密度Dminが高くて全体の密度が高い。また、密度差ΔDも小さいため最小の密度Dminが高くて全体の密度が高い。そのため、磁気特性に優れるリアクトルを構築できる磁性コアを構成できる。この比率(Dmax/D)×100は、更に100.5%以下が好ましく、特に100.45%以下が好ましい。この比率(Dmax/D)×100は、99.85%以上が好ましい。この比率(Dmax/D)×100は、更に99.87%以上が好ましく、特に99.9%以上が好ましい。
【0062】
最大の密度Dmaxは、5.660g/cm超が好ましい。最大の密度Dmaxが5.660g/cm超であれば、上記密度減少率Dd、密度増加率Di、及び密度比率DRの少なくとも一つが小さいため、最小の密度Dminが高くて全体の密度が高い。また、密度差ΔDも小さいため最小の密度Dminが高くて全体の密度が高い。そのため、磁気特性に優れるリアクトルを構築できる磁性コアを構成できる。最大の密度Dmaxは、更に5.661g/cm以上が好ましく、特に5.663g/cm以上が好ましい。
【0063】
通常、上記9個の部位のうち、外周の8個の部位の外周平均密度Doは、中央の部位の密度Dcよりも大きい。上記密度Dcと上記外周平均密度Doとの「密度Dc<外周平均密度Do」の関係は、上述のように最小の密度Dminの部位が中央の部位かその左右隣りの一方の部位のいずれであっても満たし、最大の密度Dmaxの部位が外周の8個の部位のいずれであっても満たす。外周の8個の部位の外周平均密度Doに対する中央の部位の密度Dcの密度減少率Dd={(Do−Dc)/Do}×100は、0.8%以下が好ましく、更には0.5%以下が好ましく、特に0.3%以下が好ましい。中央の部位の密度Dcに対する外周の8個の部位の外周平均密度Doの密度増加率Di={(Do−Dc)/Dc}×100は、0.8%以下が好ましく、更には0.5%以下が好ましく、特に0.3%以下が好ましい。外周の8個の部位の外周平均密度Doと中央の部位の密度Dcとの密度差ΔD=Do−Dcと、平均密度Davとの密度比率DR=(ΔD/Dav)×100は、0.8%以下が好ましく、更には0.5%以下が好ましく、特に0.3%以下が好ましい。密度差ΔDは、0.04g/cm以下が好ましく、更に0.03g/cmが好ましく、特に0.02/cmが好ましい。上記密度Dcは、5.59g/cm以上が好ましく、更に5.60g/cm以上、特に5.61g/cm以上が好ましい。上記外周平均密度Doは、5.63g/cm以上が好ましく、更に5.635g/cm以上が好ましく、特に5.64g/cm以上が好ましい。
【0064】
(構成材料)
〈軟磁性粉末〉
軟磁性粉末の材質は、鉄族金属やFeを主成分とするFe基合金、フェライト、アモルファス金属などの軟磁性材料が挙げられる。軟磁性粉末の材質は、渦電流損や飽和磁化の点から鉄族金属やFe基合金が好ましい。鉄族金属は、Fe,Co,Niが挙げられる。特に、Feは純鉄(不可避的不純物を含む)であるとよい。Feは飽和磁化が高いため、Feの含有量を高くするほど複合材料の飽和磁化を高められる。Fe基合金は、添加元素としてSi,Ni,Al,Co,及びCrから選択される1種以上の元素を合計で1.0質量%以上20.0質量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することが挙げられる。Fe基合金は、例えば、Fe−Si系合金,Fe−Ni系合金,Fe−Al系合金,Fe−Co系合金,Fe−Cr系合金,Fe−Si−Al系合金(センダスト)などが挙げられる。特に、Fe−Si系合金やFe−Si−Al系合金といったSiを含有するFe基合金は、電気抵抗率が高く、渦電流損を低減し易い上に、ヒステリシス損も小さく、複合材料成形体10の低鉄損化を図れる。例えば、Fe−Si系合金の場合、Siの含有量は1.0質量%以上8.0質量%以下が挙げられ、3.0質量%以上7.0質量%以下が好ましい。軟磁性粉末は、材質の異なる複数種の粉末が混合されていても良い。例えば、FeとFe基合金との両方の種類の粉末を混合したものが挙げられる。
【0065】
軟磁性粉末の平均粒径は、5μm以上300μm以下が好ましい。軟磁性粉末の平均粒径が5μm以上であれば、凝集し難く軟磁性粒子間に十分に樹脂を介在させ易いため渦電流損を低減し易い。軟磁性粉末の平均粒径が300μm以下であれば、過度に大きくないため、粉末自体の渦電流損を低減でき、ひいては複合材料成形体10の渦電流損を低減できる。その上、充填率を高められて複合材料成形体10の飽和磁化を高め易い。軟磁性粉末の平均粒径は、特に10μm以上100μm以下が好ましい。軟磁性粉末の平均粒径の測定は、SEM(走査型電子顕微鏡)で断面の画像を取得し、市販の画像解析ソフトを用いて解析することで行える。その際、円相当径を粒子の粒径とする。円相当径とは、軟磁性粒子の輪郭を特定し、その輪郭で囲まれる面積Sと同一の面積を有する円の径とする。つまり、円相当径=2×{上記輪郭内の面積S/π}1/2で表される。
【0066】
軟磁性粉末は、粒径が異なる複数種の粉末が混合されたものでも良い。微細な粉末と粗大な粉末とを混合した軟磁性粉末を複合材料成形体10の材料に用いた場合、飽和磁束密度が高く、低損失なリアクトル1が得られ易い。微細な粉末と粗大な粉末を混合した軟磁性粉末を用いる場合、一方をFe、他方をFe基合金とするように異種材質とすることが好ましい。このように両粉末の材質を異種とすれば、Feの特性(飽和磁化が高い)とFe基合金の特性(電気抵抗が高く渦電流損を低減し易い)の両方の特性を兼ね備えられ、飽和磁化の向上効果と鉄損のバランスが良い。両粉末の材質を異種とする場合、粗粒粉末と微粒粉末のどちらをFe(Fe基合金)としてもよいが、微粒粉末をFeとすることが好ましい。即ち、粗粒粉末をFe基合金とすることが好ましい。そうすれば、微粒粉末がFe基合金で、粗粒粉末がFeである場合に比べて、低鉄損である。
【0067】
軟磁性粉末は、絶縁性を向上するために軟磁性粒子の表面(外周)に例えばシリコーン樹脂やリン酸塩などからなる絶縁被覆を備えていてもよい。軟磁性粉末は、樹脂との馴染み性や樹脂に対する分散性を高めるための表面処理(例えば、シランカップリング処理など)を施したものでもよい。
【0068】
複合材料成形体10中の軟磁性粉末の含有量は、複合材料成形体10を100体積%とするとき、80体積%以下が好ましい。軟磁性粉末が80体積%以下であると、磁性成分の割合が過度に高過ぎないため、軟磁性粒子同士の絶縁性を高められ、渦電流損を低減できる。また、軟磁性粉末と樹脂との混合物の流動性に優れ、複合材料成形体10の製造性に優れる。軟磁性粉末の含有量は、例えば、30体積%以上とすることができる。軟磁性粉末が30体積%以上であることで、磁性成分の割合が十分に高いため、この複合材料成形体10を用いてリアクトル1を構築した場合、飽和磁化を高め易い。軟磁性粉末の含有量は、50体積%以上、更に55体積%以上、特に60体積%以上、70体積%以上とすることができる。軟磁性粉末の含有量は、特に75体積%以下が挙げられる。軟磁性粉末の含有量は、複合材料成形体の断面における軟磁性粉末の面積割合と等価と見做す。ここで複合材料成形体の断面における軟磁性粉末の面積割合とは、断面画像において軟磁性粒子の面積割合を算出し、その面積割合の平均値とする。即ち、その平均値を軟磁性粉末の複合材料成形体全体に対する含有量(体積%)と見做す。複合材料成形体を構成する軟磁性粒子の平均粒径及び含有量は、複合材料成形体の原料粉末を構成する軟磁性粒子の平均粒径及び含有量と実質的に同一である。
【0069】
〈樹脂〉
樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン9T)、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。その他、常温硬化性樹脂、不飽和ポリエステルに炭酸カルシウムやガラス繊維が混合されたBMC(Bulk molding compound)、ミラブル型シリコーンゴム、ミラブル型ウレタンゴムなどを用いることもできる。
【0070】
〈その他〉
複合材料成形体10には、軟磁性粉末及び樹脂に加えて、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性材料からなる粉末(フィラー)が含有されていても良い。フィラーは、放熱性の向上、軟磁性粉末の偏在の抑制(均一的な分散)に寄与する。また、フィラーが微粒であり、軟磁性粒子間に介在すれば、フィラーの含有による軟磁性粉末の割合の低下を抑制できる。フィラーの含有量は、複合材料を100質量%とするとき、0.2質量%以上20質量%以下が好ましく、更に0.3質量%以上15質量%以下が好ましく、特に0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0071】
(外側コア部)
外側コア部12の形状は、略台形柱状である。外側コア部12は、磁束と平行な上下面と、内側コア部11の鎖交面11Eとの反対側で上下面を繋ぎ磁束と平行な外端面12oと、外端面12oの反対側の内端面とを備える。内端面は、両内側コア部11の間で、両内側コア部11の内側の側面に連続して形成される。ここでは、内端面は、各内側コア部11の下面にも連続して形成されている平面である。外側コア部12の構成材料は、内側コア部11と同様であり、上述の軟磁性粉末と軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む。ここでは、外側コア部12は、内側コア部11と同一の材質で一対の内側コア部11と一連(一体)に形成されている。
【0072】
〔複合材料成形体の作用効果〕
上述の複合材料成形体10によれば、上記9個の部位における上記密度減少率Dd、上記密度増加率Di、及び密度比率DRが小さいため、複合材料成形体10内に励磁される磁束密度のばらつきが小さい。そのため、この複合材料成形体10をリアクトル1の磁性コア3に用いた場合、具体的にはギャップ31gを介して連結されるコア部材30に用いた場合、ギャップ31gから磁束が漏れ難いリアクトル1が得られる。そのため、この複合材料成形体10は、リアクトル1の磁性コア3(コア部材30)に好適に利用できる。
【0073】
〔複合材料成形体の製造方法〕
複合材料成形体10の製造は、軟磁性粉末と溶融された樹脂とを含む未固化(流動性のある状態)の混合物を金型内に注入し、樹脂を固化させて成形体素材を成形する成形工程を備える複合材料成形体の製造方法により行える。金型を用いた成形体素材の作製手法としては、射出成形、熱プレス成形、MIM(Metal Injection Molding)を利用することができる。この複合材料成形体の製造方法は、上記成形工程を特定の温度条件で行う。
【0074】
(成形工程)
成形工程は、溶融した樹脂の温度Trと金型の温度Tdとを特定の温度条件で行う。それにより、上述した(1)〜(3)の条件の少なくとも一つを満たす複合材料成形体10を製造する。
【0075】
〈温度条件〉
成形工程における温度条件は、溶融した樹脂の温度Trと金型の温度Tdとの温度差(Tr−Td)が、「180℃≦(Tr−Td)」を満たすことが挙げられる。この温度差(Tr−Td)が180℃以上を満たすことで、複合材料成形体10を製造できる。上記温度差(Tr−Td)は、更に「200℃≦(Tr−Td)」を満たすことが好ましい。上記温度差(Tr−Td)は、「(Tr−Tc)≦250℃」を満たすことが好ましく、更に「(Tr−Td)≦230℃」を満たすことが好ましく、特に「(Tr−Td)≦220℃」を満たすことが好ましい。
【0076】
金型の温度Tdは、樹脂の種類にもよるが、例えば、「Td≦100℃」を満たすことが好ましい。そうすれば、金型の温度Tdを低くし易く、樹脂の温度Trが過度に高くなることなく「180℃≦(Tr−Td)」を満たし易い。金型の温度Tdは、流動性が過度に低下しない温度とすることが挙げられる。流動性に優れるほど、密度の高い複合材料成形体10が得られるからである。この金型の温度Tdは、「80℃≦Td」を満たすことが好ましい。
【0077】
金型の温度Tdと樹脂のガラス転移点Tgとの関係は、樹脂の種類に応じて適宜選択できる。例えば、PPS樹脂の場合には、「(Tg−10℃)≦Td≦(Tg+10℃)」を満たすことが好ましい。金型の温度Tdと樹脂のガラス転移点Tgとの関係は、更に「Td≦Tg」を満たすことが好ましい。
【0078】
金型の温度Tdと樹脂の融点Tmとの関係は、樹脂の種類にもよるが「Td≦(Tm−135℃)」を満たすことが好ましい。金型の温度Tdと樹脂の融点Tmとの関係は、例えばPPS樹脂の場合、「(Tm−155℃)≦Td」を満たすことが更に好ましい。
【0079】
上述のように複合材料成形体10で構成される内側コア部11が外側コア部12と一体に連結されている場合、金型のうち複合材料成形体10の内側コア部11を形成する箇所の温度と樹脂の温度Trとが上記関係を満たせばよい。即ち、金型のうち外側コア部12を形成する箇所の温度は上記樹脂の温度Trとの関係を満たしてもよいし満たさなくてもよい。両コア部11、12を形成する箇所の金型温度を異ならせる場合には、金型の分割面が外側コア部12と一対の内側コア部11との境界にあり、金型のうち外側コア部12を成形する箇所の温度と内側コア部11を成形する箇所の温度とを独立して制御可能な金型を用いる。例えば、金型の外側コア部12を成形する箇所と内側コア部11を成形する箇所とで独立した温度調節機を設けることが挙げられる。温度調節機の具体例としては、ヒータや熱媒体の流通機構などが挙げられる。この金型の型抜方向は、外側コア部12と一対の内側コア部11とが並ぶ方向(周回面に平行な方向、鎖交面11Eに直交する方向)となる。この場合、内側コア部11の周回面は金型の内面と摺接する摺接面であり、鎖交面11Eは金型の内面と摺接しない非摺接面である。
【0080】
[複合材料成形体の製造方法の作用効果]
上述の製造方法によれば、特定の温度条件に制御することで、混合物を金型内に注入し樹脂を固化させるだけで上記密度減少率Dd、密度増加率Di、及び密度比率DRの少なくとも一つが小さい複合材料成形体10を製造できる。そのため、上述の製造方法によれば、この複合材料成形体10を容易に製造でき、この複合材料成形体10の生産性に優れる。
【0081】
〔リアクトル〕
リアクトル1は、実施形態1の冒頭で説明したように、一対の巻回部2a、2bを有するコイル2と、同一の形状を有する二つのコア部材30とその間のギャップ31gとを有する磁性コア3とを備える(図1)。この両コア部材30のうち一対の内側コア部11は、上述の複合材料成形体10で構成される。
【0082】
[コイル]
一対の巻回部2a、2bは、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなり、連結部2rを介して連結されている。巻線2wは、銅製の平角線の導体の外周にエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる絶縁被覆を備える被覆平角線を利用できる。各巻回部2a,2bは、この被覆平角線をエッジワイズ巻きにしたエッジワイズコイルで構成している。巻回部2a、2bの配置は、各軸方向が平行するように並列(横並び)した状態としている。巻回部2a、2bの形状は、互いに同一の巻数の中空の筒状体(四角筒)である。巻回部2a、2bの端面形状は、矩形枠の角部を丸めた形状である。連結部2rは、コイル2の一端側(図1紙面右側)において巻線の一部をU字状に屈曲して構成している。巻回部2a、2bの巻線2wの両端部2eは、ターン形成部から引き延ばされている。両端部2eは、図示しない端子部材に接続され、この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行なう電源などの外部装置(図示せず)が接続される。
【0083】
[磁性コア]
磁性コア3は、一方と他方のコア部材30と、そのコア部材30における内側コア部11の鎖交面11E(端面)同士の間に介在されるギャップ31gとで構成されている。このギャップ31gを介して両鎖交面11E同士を巻回部2a,2b内で連結することで環状の磁性コア3が形成される。このコア部材30同士の連結により、コイル2を励磁したとき、閉磁路を形成し、磁束は内側コア部11の長手方向に平行となって鎖交面に直交する。内側コア部11が上述の複合材料成形体10で構成されていることで、ギャップ31gからの漏れ磁束を低減できる。
【0084】
ギャップ31gは、コア部材30よりも低透磁率な材質の板材が挙げられる。コア部材30よりも低透磁率な材質としては、例えば、アルミナなどの非磁性材料、PPS樹脂などの非磁性材料と磁性材料(鉄粉など)とを含む混合物などが挙げられる。ギャップ31gを板材で構成する場合、コア部材30とギャップ31gとは接着剤で接着することが挙げられる。接着剤は、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂などの熱硬化性接着剤、PPS樹脂などの熱可塑性接着剤、アクリレート系の紫外線(光)硬化型接着剤など絶縁性の接着剤を好適に利用できる。なお、ギャップは、隙間(エアギャップ)で構成してもよい。
【0085】
〔リアクトルの作用効果〕
上述のリアクトル1によれば、磁性コア3の内側コア部11の密度が均一であるため、ギャップ31gからの漏れ磁束が少ない。そのため、リアクトル1は磁気特性に優れる。
【0086】
《試験例1》
軟磁性粉末とこの軟磁性粉末を分散した状態で内包する樹脂とを含む複合材料成形体の試料を作製し、複合材料成形体を複数の部位に分割して各部位の密度を測定した。
【0087】
〔試料No.1−1〜試料No.1−4〕
試料No.1−1〜1−4として、原料準備工程と成形工程とを経て、図2に示すように、上述の実施形態1で説明した複合材料成形体10からなる一対の内側コア部11と、外側コア部12とを備えるU字状のコア部材30を作製した。
【0088】
[原料準備工程]
原料準備工程では、軟磁性粉末と樹脂との混合物を準備した。軟磁性粉末には、平均粒径が80μmで、Siを6.5質量%含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するFe−Si合金の粉末を用いた。一方、樹脂には、PPS樹脂(ガラス転移点Tg=90℃、融点Tm=235℃)を用いた。この軟磁性粉末と樹脂とを混合し、樹脂を溶融状態で軟磁性粉末と練り合わせて混合物を作製した。各試料における混合物中の軟磁性粉末の含有量(体積%)は、表1に示す値とした。
【0089】
[成形工程]
成形工程では、射出成形により一対の内側コア部11と外側コア部12とを備えるU字状のコア部材30を作製した。この作製は、外側コア部12における一対の内側コア部11との境界に分割面を有する金型を用い、その金型に上記混合物を充填し冷却固化することで行った。即ち、型抜方向は、外側コア部12と一対の内側コア部11とが並ぶ方向(内側コア部の長手方向)である。この金型のゲートは、図示は省略しているが、外側コア部における外端面の上下左右の略中央に対して少し下側にずれた位置となるように設けた。この金型は、外側コア部12を成形する箇所の温度と内側コア部11を成形する箇所の温度を独立して調節可能な温度調節機を備える。ここでは、混合物における溶融状態の樹脂の温度Trと、金型の内側コア部11を成形する箇所の温度Tdとをそれぞれ表1に示すように種々変更した。金型の外側コア部12を成形する箇所の温度は、130℃とした。
【0090】
【表1】
【0091】
〔密度の測定〕
各試料のコア部材における内側コア部を図2に示すように鎖交面11Eが縦横にそれぞれ3等分されるように合計9個の部位に分割し、各部位の密度(g/cm)を測定し、その9個の部位の平均密度Davを算出した。図2の二点鎖線は、切断箇所を示し、丸付き数字は、部位No.を示す。各部位の密度は、サイズと質量から算出した見かけ密度とした。それらの結果を表2に示す。ここでは、鎖交面11E側からみて左側の内側コア部11における各部位の密度を測定したが、右側の内側コア部11でも同様に9分割した際の各部位の密度は、左側の内側コア部11の各部位を左右対称にした場合に実質的に相当する。
【0092】
また、測定した各部位の密度から、以下の(1)〜(9)の値を算出した。その結果を表3に示す。
(1)最大の密度Dmaxの部位に対する最小の密度Dminの部位の密度減少率Dd={(Dmax−Dmin)/Dmax}×100
(2)最小の密度Dminの部位に対する最大の密度Dmaxの部位の密度増加率Di={(Dmax−Dmin)/Dmin}×100
(3)最大の密度Dmaxの部位と最小の密度Dminの部位との密度差ΔD=Dmax−Dminと、平均密度Davとの密度比率DR=(ΔD/Dav)×100
(4)密度差ΔD=Dmax−Dmin
(5)最小の密度Dminと平均密度Davとの比率(Dmin/Dav)×100
(6)最大の密度Dmaxと平均密度Davとの比率(Dmax/Dav)×100
(7)外周の8個の部位(No.1〜4,6〜9)の外周平均密度Do
(8)外周平均密度Doと中央の部位(No.5)の密度Dcとの密度差ΔD=Do−Dc
(9)密度差ΔDと平均密度Davとの密度比率DR=(ΔD/Dav)×100
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
表1に示すように、成形工程で、溶融された樹脂の温度Trと金型の温度Tdの温度差(Tr−Td)が「180℃≦(Tr−Td)」を満たす試料No.1−3、1−4は、表3に示すように、密度減少率Dd≦1.8%、密度増加率Di≦1.8%、及び密度比率DR≦1.8%であった。この試料No.1−3、1−4は、表3に示すように、密度差ΔD≦0.10(g/cm)であった。また、試料No.1−3、1−4は、表3に示すように、(Dmin/Dav)×100≧99%、(Dmax/Dav)×100≦100.6%であった。更に、試料No.1−3、1−4は、外周平均密度Do≧5.630g/cmでかつ外周平均密度Do≧密度Dcであり、密度差ΔD≦0.04g/cmであった。そして、試料No.1−3、1−4は、密度比率DR≦0.8%であった。即ち、この試料No.1−3、1−4はいずれも高密度で密度のばらつきの小さな内側コア部11を備える。これらの結果から、上記温度差(Tr−Td)が大きいと、高密度化できて、かつ密度のばらつきを低減できることが分かった。
【0096】
一方、成形工程で上記温度差(Tr−Td)が「(Tr−Td)<180℃」を満たす試料No.1−1,1−2は、表3に示すように、密度減少率Dd>1.8%、密度増加率Di>1.8%、及び密度比率DR>1.8%であった。この試料No.1−1,1−2は、密度差ΔD>0.10g/cmであった。また、試料No.1−1,1−2は、表3に示すように、(Dmin/Dav)×100<99%、(Dmax/Dav)×100>100.6%であった。更に、試料No.1−1、1−2は、外周平均密度Do<5.630g/cm、及び密度差ΔD>0.04g/cmであった。即ち、これら試料No.1−1,1−2は、試料No.1−3、1−4に比べて、内側コア部11の密度が均一でないことが分かった。この結果から、上記温度差(Tr−Td)が小さいと、密度のばらつきが大きいことが分かった。
【0097】
《試験例2》
内側コア部の密度減少率Ddの違いによる漏れ磁束の多寡をシミュレーションにより調べた。ここでは、漏れ磁束の評価用の試料No.2−100、2−1〜2−4は、実際に製造したものではなく、シミュレーションソフト上で磁気特性を設定したものである。試料No.2−100は内側コア部の密度分布を均一とし、試料No.2−1〜2−4は、内側コア部の密度分布を試験例1の試料No.1−1〜1−4相当とした。
【0098】
〔試料No.2−100,試料No.2−1〜試料No.2−4〕
各試料は、図3に示すように、コイル200と、一つの内側コア部310と一対の外側コア部320とで構成される磁性コア300とで構成する。コイル200は、図3上図に示すように半筒状に形成した。内側コア部310は、コイル200の内側に配置され、図3下図に示すように、軸方向に並列する一対のコア片311と一対のコア片311の間に介在されるギャップ315とで構成した。各コア片311は、四角柱状の中央部位312と、その中央部位312の四方のうち三方を囲む外周部位313とで構成した。一対の外側コア部320は、コイル200の外側に配置され、内側コア部310の各端面に連結される。
【0099】
各試料の中央部位312と外周部位313の密度は、種々変更した。試料No.2−100の中央部位312と外周部位313の密度は、同一とした。試料No.2−1〜2−4の中央部位312の密度はそれぞれ、試料No.1−1〜1−4の最小の密度Dminの部位と同等とし、試料No.2−1〜2−4の外周部位313の密度はそれぞれ、試料No.1−1〜1−4の最大の密度Dmaxの部位と同等とした。
【0100】
〔漏れ磁束の評価〕
漏れ磁束の評価は、最大の密度Dmaxの部位に対する最小の密度Dminの部位の密度減少率Dd={(Dmax−Dmin)/Dmax}×100が漏れ損に与える影響を評価することで行った。漏れ磁束は、漏れ損が大きいと多く、漏れ損が小さいと少ない。漏れ損は、磁束密度の分布状態(磁束密度の大きさ)を色別(磁束密度が大きい順に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)で表すことが可能な公知のシミュレーションソフトを用いて求められる。その結果を、表4に示す。ここでは、試料No.2−1〜2−4の漏れ損は、試料No.2−100の漏れ損を100としたときの比で示している。なお、代表して試料No.2−100と試料No.2−1(試料No.1−1相当)のシミュレーションによる磁束密度の分布状態をそれぞれ図4図5に示す。この図4図5はグレースケールで示すが、実際には上記色別がある。
【0101】
【表4】
【0102】
表4に示すように、上記Dd≦1.8%を満たす試料No.2−3、2−4は、漏れ損が103以下であり、漏れ損が小さかったのに対し、上記Dd>1.8%の試料No.2−1,2−2は、漏れ損が110以上であり、漏れ損が大きかった。従って、試料No.2−3、2−4は、試料No.2−1,2−2に比較して漏れ磁束が少ないことが分かった。
【0103】
この結果により、試料No.1−3、1−4相当の試料No.2−3、2−4の漏れ磁束が少ないことから、試料No.1−3、1−4の漏れ磁束も少ないことが分かる。
【0104】
上記Dd=0の試料No.2−100の内側コア部は、図4に示すように、ほぼ全域に亘って均一的に青緑色であった。そして、図示は省略しているが、コイルの軸方向全長に亘って略同じ紫色であり、コイルのうちギャップに近接する箇所の色とギャップと外側コア部との間に位置する箇所の色とが略同じ紫色であった。即ち、上記密度差のない試料No.2−100の内側コア部は、コイルへの磁束の影響が殆どないことから、ギャップでの漏れ磁束が少ないことが分かる。
【0105】
一方、上記Dd>1.8%の試料No.2−1の内側コア部は、図5に示すように、中央部位と外周部位の色が不均一である。具体的には、中央部位が青色〜水色の間の色であるのに対し、外周部位が青緑色であった。そして、図示は省略しているが、コイルのうちギャップと外側コア部との間に位置する箇所の色が紫色であるのに対して、ギャップに近接する箇所の色は紫〜藍色であった。これは、ギャップで磁束が漏れて、コイルに対して影響を及ぼしたからだと考えられる。その結果、上記表4に示すように、漏れ損が大きくなったと考えられる。
【0106】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、コア部材の形状は磁性コアの複数のコア部材の組み合わせにより適宜選択できる。複数のコア部材の組み合わせを、上述のU−U型コアの他、外側コア部に一つの内側コア部が一体化されたL−L(J−J)型コアなどと呼ばれる形態とすることができる。また、巻回部が一つのみであるコイルと、E−E型コアやE−I型コアなどと呼ばれる磁性コアとを備えるリアクトルとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の複合材料成形体は、各種の磁気部品(リアクトル、チョークコイル、トランス、モータなど)の磁性コアやその素材に好適に利用できる。本発明の複合材料成形体の製造方法は、上記複合材料成形体の製造に好適に利用できる。本発明のリアクトルは、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車などの車両に搭載される車載用コンバータ(代表的にはDC−DCコンバータ)や空調機のコンバータなどの種々のコンバータ、電力変換装置の構成部品に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0108】
10 複合材料成形体
11 内側コア部 11E 鎖交面(端面)
12 外側コア部 12o 外端面
1 リアクトル
2 コイル
2a、2b 巻回部 2r 連結部 2w 巻線 2e 端部
3 磁性コア
30 コア部材 31g ギャップ
200 コイル
300 磁性コア
310 内側コア部
311 コア片
312 中央部位 313 外周部位
315 ギャップ
320 外側コア部
図1
図2
図3
図4
図5