【実施例】
【0052】
(1)実験動物
黄疸モデルラットとして、Gunnラット(系統名: Gunn-Ugt1a1j/Slc、通称:Gunn/Slc-j/j、5−7週齢オス)を日本エスエルシー株式会社より購入して実験に用いた。Gunnラットは、黄疸モデルラットとして周知のラットであり、黄疸治療に関する実験に広く用いられているラットである。以下の説明において、Gunnラットを単に「ラット」と表記する。なお、以下の実験において、1実験区あたり、3匹、5匹、または6匹のラットを用いて実験を行った。
【0053】
(2)装置
実験用光治療器として、代謝ケージ(テクニプラスト・ジャパン株式会社、代謝ケージ ラット用 体重150〜300g未満 3700M071)のケージカバーに光源部(各種発光ダイオード)を設置したものを使用した。実験用光治療器の写真を
図4に示した。
図4(a)は実験用光治療器の全体を撮影した写真図であり、(b)は光源部が設置されたケージカバーを撮影した写真図であり、(c)は光源部を発光ダイオード側から撮影した写真図である。
図4(c)に示される発光ダイオードは、左から比較例1、比較例2、比較例4にかかる光源部を示す。
【0054】
(3)光源部
ピーク波長が452nmにある青色発光ダイオード(株式会社エピテックス製 L450−01)と、ピーク波長が518nmにある緑色発光ダイオード(株式会社エピテックス製 L525−01)を用いて、比較例1〜4および実施例1にかかる光源部を作製した。
【0055】
〔比較例1〕
サイズ200mm×200mmの基板の上に、上記青色発光ダイオードを100個、均等に配置した。照度をコントロール出来るように調光ユニットを光源部に取り付け、0〜20Wの範囲で入力可変を可能とした。光透過窓として、300nm以上の光を透過する半透明のプラスチック製の板を光源部に取り付けた。光源部から13cmの距離で照度を測り、0.6mW/cm
2になるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0056】
比較例1にかかる光源部からの出射光のスペクトルを
図5に示す。比較例1にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を452nmに有し、波長範囲420nm〜520nm、その半値全幅は18nmであった。比較例1にかかる光源部からの出射光における波長440nm以下の光は、7.5%であった。
【0057】
〔比較例2〕
比較例1における光透過窓の替りに、波長440nm以下の光を実質的にカットするガラス製フィルタを取り付けた以外は比較例1と同様にした。光源部から13cmの距離で照度を測り、0.6mW/cm
2になるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0058】
比較例2にかかる光源部からの出射光のスペクトルを
図5に示す。比較例2にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を458nmに有し、波長範囲440nm〜520nm、その半値全幅は23nmであった。比較例2にかかる光源部からの出射光における波長440nm以下の光は、0.3%であった。
【0059】
〔比較例3〕
比較例2と同じ光源部を用い、光源部から13cmの距離で照度を測り、0.3mW/cm
2になるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0060】
比較例3にかかる光源部からの出射光のスペクトルを
図5に示す。比較例3にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を458nmに有し、波長範囲440nm〜520nm、その半値全幅は20nmであった。比較例3にかかる光源部からの出射光における波長440nm以下の光は、0.2%であった。
【0061】
〔比較例4〕
サイズ200mm×200mmの基板の上に、ピーク波長が518nm、半値幅30nmである緑色発光ダイオードを100個、均等に配置した。照度をコントロール出来るように調光ユニットを光源部に取り付け、0〜70Wの範囲で入力可変を可能とした。光透過窓として、可視光(波長380〜780nm)を少なくとも透過するガラス製の板を光源部に取り付けた。光源部から13cmの距離で照度を測り、0.8mW/cm
2になるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0062】
比較例4にかかる光源部からの出射光のスペクトルを
図5に示す。比較例4にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を518nmに有し、波長範囲478nm〜590nm、その半値全幅は30nmであった。
【0063】
〔実施例1〕
サイズ200mm×200mmの基板の上に、ピーク波長が450nm、半値幅20nmである青色発光ダイオードを50個と、ピーク波長が518nm、半値幅30nmである緑色発光ダイオードを50個とを配置した。照射面で混色の照明が成立するように、
図2に示すように、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとを交互に配置した。
【0064】
照度をコントロールするために調光ユニットを光源部に取り付け、0〜20Wの範囲で入力可変が可能とした。光透過窓として、波長440nm以下の光を実質的にカットするガラス製フィルタを取り付けた。光源部から出射されるスペクトルは、440〜590nmに渡り、ピーク波長は458nmと518nmの2波長に存在するものであった。光源部から13cmの距離で照度を測り、0.6mW/cm
2になるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0065】
実施例1にかかる光源部からの出射光のスペクトルを
図5に示す。実施例1にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を458nmに有し、波長範囲440nm〜520nm、その半値全幅が24nmである青色光と、ピーク波長を518nmに有し、波長範囲478nm〜590nm、その半値全幅が30nmである緑色光とを混色したものであった。実施例1にかかる光源部からの出射光における波長440nm以下の光は、0.2%であった。
【0066】
(4)実験方法
脱毛させたラットを上記実験用光治療器内に置き、比較例1〜4または実施例1にかかる光源部の光を所定時間照射した。この時、光源部とラットとの距離は、約13cmであった。光照射中、経時的にラットの採血および採尿を行った。血液サンプルを用いてビリルビン濃度の測定を行い、尿サンプルを用いてDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の測定を行った。
【0067】
〔ビリルビン測定〕
光照射直前および光照射6時間および24時間後に、ラットの尾静脈より採血された血液サンプルを遠心分離して血清を調製した。
【0068】
血清中の総ビリルビン濃度は、ユービーアナライザー(株式会社アローズ)を用いて吸光度(460nm)を測定することにより、定量された。
【0069】
また、血清中の遊離ビリルビン濃度を、酵素法で測定した。酵素法は、アンバウンドビリルビン測定試薬キット「UBテスト」(株式会社 アローズ)を用い、キットに付属の説明書に従って実施された。測定機器として、前出のユービーアナライザーが用いられた。
【0070】
〔尿中8−OHdG(DNA酸化損傷マーカー)の測定〕
代謝ゲージに溜まった尿を所定時間後(6時間後および24時間後)に一定量採取し、株式会社 タニタの「8−OHdG測定用前処理キット」を用いて8−OHdGを抽出した。その後、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製)を用いて尿中8−OHdG濃度を測定した。なお、8−OHdGの抽出操作は、キットに付属の説明書に従って実施された。
【0071】
(5)結果
図6に、光照射前(光照射0時間)のラット血液中の総ビリルビン濃度に対する光照射24時間後のラット血液中の総ビリルビン濃度の変化率を示す。なお、
図6中、総ビリルビンを「TB」と表記する。
【0072】
また
図7に、光照射前(光照射0時間)のラット血液中の遊離ビリルビン濃度に対する光照射24時間後のラット血液中の遊離ビリルビン濃度の変化率を示す。なお、
図7中、遊離ビリルビンを「UB」と表記する。
【0073】
また
図8に、光照射6時間後のラット尿中のDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の濃度に対する、光照射24時間後のラット尿中のDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の濃度の変化率を示す。なお、コントロールは、光照射をしなかったラットの尿中のDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の濃度の変化率である。
【0074】
図6〜8のデータはMann-Whitney U testによる有意差検定が行われており、危険率5%未満で有意差ありと判定されたデータに「*」を付し、危険率1%未満で有意差ありと判定されたものに「**」を付した。
図6〜8には、median±SE(中央値±標準偏差)を併せて表記した。
【0075】
比較例1にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり青色発光ダイオードを用いて光照射した場合)、総ビリルビン濃度の変化率および遊離ビリルビン濃度の変化率ともに1.00未満(0.85±0.05および0.85±0.05)となっており、ビリルビンを低下させる効果が確認できた(
図6,7を参照のこと。)。しかし、
図8において、酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度が、コントロールに比して約2倍(2.0±0.45)に増加した(危険率1%未満で有意差有り。)。つまり、比較例1にかかる光源部を用いた場合、血液中のビリルビン濃度(総ビリルビン濃度、遊離ビリルビン濃度)を低下させることはできるが、酸化ストレスが高くなることが確認された。
【0076】
比較例2にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり、酸化ストレスの原因と考えられた波長440nm以下の光を実質的にカットした青色発光ダイオードからの青色光を照射した場合)、総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を低下させる効果は確認できたものの(
図6において0.89±0.04。
図7において0.94±0.07。)、酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度については、比較例1の結果と有意差がなかった(
図8において1.3±0.30。)。
【0077】
比較例3にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり、比較例2と同じ青色光を1/2の光強度にして照射した場合。)、酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度が、比較例1の結果に対して有意に低下した(
図8において1.0±0.12。)。しかし、総ビリルビン濃度を低下させる効果が見られなかった(
図6において1.07±0.05。)。つまり、酸化ストレスを有意に低下させるべく、光強度を1/2に低下させた場合、酸化ストレスを有意に低下させることはできたが、総ビリルビン濃度を低下させることができなくなるということが分かった。
【0078】
比較例4にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり、緑色発光ダイオードを用いて光照射を行った場合。)、総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を低下させる効果が確認できなかった(
図6において1.04±0.04。
図7において1.09±0.07。)。一方、酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度については、有意な増加が見られなかった(
図8において1.3±0.21。)。つまり、緑色発光ダイオード単独の利用では、総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を有意に低下させることはできないということが分かった。これまで、緑色蛍光管を用いた試験においては血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が見られていただけに、これは実に予想外の結果であった。緑色蛍光管からの出射光には、発光ダイオードに比して広範囲の波長領域の光(比較的短波長の光を含む)が含まれているために、血液中のビリルビン濃度を低下させることができたが、波長領域が狭い緑色発光ダイオードからの出射光では、血液中のビリルビン濃度を低下させる効果のある比較的短波長の光が含まれていないために、それ単独では血液中のビリルビン濃度を低下させることができなかったものと、本発明者らは推察する。
【0079】
実施例1にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとを混色した光を照射した場合)は、血液中の総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を低下させることができ(
図6において0.90±0.03。
図7において0.89±0.03。)、且つ酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度を有意に増加させないということが確認された(
図8において1.4±0.29。)。つまり、酸化ストレスを低下させるべく、青色発光ダイオードからの光強度を低下させた際に、血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が低下するという問題点を、それ単独では血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が認められなかった緑色発光ダイオードからの光によって見事に補完することができたのである。
【0080】
比較例2、比較例4および実施例1について、光照射6時間後における各ラット血液中の遊離ビリルビン濃度を、光照射前(光照射0時間)における各ラット血液中の遊離ビリルビン濃度で除した値の中央値(つまり「光照射6時間後の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値」。)を比較した(表1を参照のこと。)。また、比較例2、比較例4および実施例1について、光照射24時間後における各ラット血清中の遊離ビリルビン濃度を、光照射前(光照射0時間)における各ラット血清中の遊離ビリルビン濃度で除した値の中央値(つまり「光照射24時間後の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値」。)を比較した(表2を参照のこと。)。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
比較例4においては、いずれの照射時間(6時間および24時間)についても、血清中の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値が1を上回った。また、比較例2においては、照射時間(6時間)について、血清中の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値が1を上回った。これに対して、実施例1においては、照射時間(6時間および24時間)に関わらず、血清中の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値が1を下回った。よって、実施例1については、照射時間に関わらず血清中の遊離ビリルビン濃度を低下することができるということが確認された。これは、緑色発光ダイオードと青色発光ダイオードとを組み合わせたことによる効果に他ならない。
【0084】
当業者であれば、血液中のビリルビン濃度を低下させる効果を向上させるために、単独では血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が認められなかった緑色発光ダイオードを適用することはあり得ない。またこのような緑色発光ダイオードを青色発光ダイオードと組み合わせて同時点灯させることによって、酸化ストレスを低下させつつ、血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が得られるなどということは、当業者は当然予想することすらできない。