特許第6474057号(P6474057)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474057
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】光治療器
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20190218BHJP
【FI】
   A61N5/06 Z
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-156157(P2013-156157)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-24060(P2015-24060A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年6月21日
【審判番号】不服2017-18484(P2017-18484/J1)
【審判請求日】2017年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸博
(72)【発明者】
【氏名】内田 優美子
(72)【発明者】
【氏名】森本 幸裕
【合議体】
【審判長】 芦原 康裕
【審判官】 二階堂 恭弘
【審判官】 林 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−514498(JP,A)
【文献】 特表2009−525773(JP,A)
【文献】 特開平11−76434(JP,A)
【文献】 特開2003−324650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光ダイオードを含む光源部を備えた黄疸治療のための光治療器において、
前記複数の発光ダイオードは、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとを含み、
前記青色発光ダイオードは、ピーク波長が470nm未満に存在し、且つ、波長400nm〜455nmの範囲内のいずれかの光を少なくとも含む光を出射可能となっており、
前記緑色発光ダイオードは、ピーク波長が505nm〜530nmの範囲内に存在し、且つ、波長505nm〜510nmの範囲内のいずれかの光を少なくとも含む光を出射可能となっており、
治療時において、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとが同時点灯可能となっており、
出生体重1500g未満の新生児の黄疸治療に用いられることを特徴とする光治療器。
【請求項2】
光源部からの出射光に含まれる波長440nm以下の光の割合が、5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の光治療器。
【請求項3】
治療時において、青色発光ダイオードと前記緑色発光ダイオードとが、3時間以上同時点灯可能となっている、請求項1に記載の光治療器。
【請求項4】
上記複数の発光ダイオードは、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとのみからなる、請求項1に記載の光治療器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとを備えた光治療器に関する。特に、本発明は新生児黄疸などの黄疸治療のための光治療器に関する。
【0002】
本発明にかかる光治療器は、出生体重1500g未満の新生児(極低出生体重児)の黄疸治療において、特に好ましく用いられる。
【背景技術】
【0003】
「黄疸(「高ビリルビン血症」ともいう。)」とは、主として血液中の赤血球中に含まれる酸素輸送色素タンパク質であるヘモグロビンが分解して生じたビリルビンが、皮膚に沈着し、黄染した状態をいう。この黄疸のうち、血中のビリルビン濃度が生理的範囲を超えて上昇した場合を、特に病的黄疸という。
【0004】
病的黄疸に至った場合、ビリルビンが中枢神経系の運動抑制制御機構が集積する基底核等に影響を及ぼし、脳性まひ等の病型アテトーゼ麻痺が発症する場合がある。またビリルビンは細胞内の呼吸鎖に非可逆的障害を与え、重篤な神経障害(核黄疸)が発症し、脳障害などの後遺症が残る場合がある。
【0005】
ビリルビンは、上述の通り、主に赤血球中のヘモグロビンのヘムタンパク質に由来する。血液中のビリルビンは、体外排泄過程において、肝臓に取り込まれ、糞便中の糞便色素として体外へ排泄される。ビリルビンは、肝細胞内でグルクロン酸抱合を受け、肝臓へ取り込まれる。グルクロン酸で抱合されたビリルビン(「抱合型ビリルビン」という。)は、ジアゾ試薬と直接的に反応して検出されることから、「直接ビリルビン」ともいわれる。一方、グルクロン酸に抱合されていないビリルビン(「非抱合型ビリルビン」という。)の濃度は、血液中のビリルビンを直接ビリルビンに変換して測定された総ビリルビン濃度から、直接ビリルビン濃度を減算して求められることから、「間接ビリルビン」とも言われている。
【0006】
直接ビリルビンは、グルクロン酸に抱合されているため、脂溶性から水溶性に変化し、毒性もなく、糞便や尿などから排泄される。一方、間接ビリルビンは、分子構造上、ヘムがポルフィリン骨格を有していることから脂溶性であり、中枢神経系に対して毒性を有する。さらに、この間接ビリルビンは、血液中で、主に両極性を有するアルブミンを結合した状態で存在するものと、アルブミンと結合せずに遊離した状態で存在するものとがある。アルブミンと結合した間接ビリルビンよりも、遊離した状態で存在する間接ビリルビン(「遊離ビリルビン」という。)の方が、毒性が高く、これが脳障害の原因となり得る。上述のビリルビンの分類については、図9が参照される。
【0007】
黄疸の治療の目的は、血液中の総ビリルビン、間接ビリルビン、および遊離ビリルビンを低下させることである。ビリルビンの脳細胞への取り込みは、血液脳関門(Blood-Brain Barrier)で阻止されるが、生後早期の血液脳関門が未完成な時期が最も危険性が高く、早急に血液中からビリルビンを除去し得る治療法が望まれた。1925年に交換輸血が施行され、その後1946〜1948年にかけて交換輸血法が考案された。さらに、1958年に英国Cremerが、光照射によってビリルビンが低下することを発見し、その後、ビリルビン低下に最適な波長が420nmであることを明らかにした。そしてCremerによって、白色蛍光ランプを備えた光治療器が開発された。後に、米国で、黄疸の光治療法の有効性が臨床的に証明されたため、光治療器の普及と開発が全世界へ波及した。なお、黄疸の光治療における有効波長は、Cremerが見出した420nmの光波長域(青色領域波長)であることが世界的に認められており、現在も世界的には青色光を利用した光治療器が主流である。
【0008】
一方、香川大学の大西らは、青色領域波長は近紫外領域であるためにDNA損傷が危惧されることから、青色領域波長よりも長波長の光を検索し、緑色蛍光管を用いた光照射によってビリルビンを低下させることを見出した。その結果、我が国では、緑色光に着目した光治療器の開発が進められた。
【0009】
なお、従来は蛍光ランプによる光照射が行われていたが、光照射の熱により新生児の体温が上昇することや、水分喪失することが懸念された。青色発光ダイオードの実用化後は、上記リスクが低く、省エネルギーの観点、および準単色光照射が可能である等の理由から、青色発光ダイオードを備えた光治療器の開発が進められた。
【0010】
特許文献1には、青色から緑色に至る光波長(400nmから550nmまで)領域内の光を発光のピーク波長とする発光ダイオードを備えた、黄疸治療のための光線治療装置が記載されている(特許文献1の特許請求の範囲を参照のこと。)。
【0011】
また特許文献2には、新生児などの黄疸の治療または予防に用いられる青色および緑色発光ダイオードを備えた光線治療器が開示されている(特許文献2の段落〔0001〕を参照のこと。)。そして、黄疸治療において、青色発光ダイオードの青色光を例えば30分間照射し、次に緑色発光ダイオードの緑色光を例えば15分間照射して、単色光の連続照射より治療効果を高めることができることが記載されている(特許文献2の段落〔0011〕を参照のこと。)。特許文献2に記載の光線治療器には、点灯順序を、青から緑或いは緑から青に設定する切換スイッチを備えられていることも開示されている(特許文献2の段落〔0024〕を参照のこと。)。また、治療後に治療効果を確認する時には、青色、緑色及び赤色発光ダイオードを同時に点灯させて、標準の自然光下で新生児を目視することができると記載されている(特許文献2の段落〔0011〕を参照のこと。)。なお、特許文献2の青色発光ダイオードは470nmの波長にピークを有し、緑色発光ダイオードは525nmの波長にピークを有することが開示されている(特許文献2の段落〔0016〕を参照のこと。)。
【0012】
また特許文献3は、新生児黄疸のための光線治療器が開示されている(特許文献3の請求項3、段落〔0002〕および〔0024〕等を参照のこと。)。そして、新生児黄疸の治療のために、410nmから550nmの波長範囲で、青色から緑色の光を含む光が照射されることが記載されている(特許文献3の段落〔0076〕を参照のこと。)。特許文献3においては、青色が450から490nm、緑色が490から560nmと定義されている(特許文献3の段落〔0047〕を参照のこと。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−38221号公報(公開日:平成9(1997)年2月10日)
【特許文献2】特開平11−76434号公報(公開日:平成11(1999)年3月23日)
【特許文献3】特表2012−514498号公報(公表日:平成24(2012)年6月28日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、新生児に対して黄疸の光治療を行う際に、青色光を新生児に照射すると、新生児の酸化ストレスが上昇するという問題点があることに着目した。特に、本発明者らは、出生体重が1500g未満の新生児(極低出生体重児)に対して黄疸の光治療を行う場合に、酸化ストレスによる悪影響が顕著に表れることが懸念される。
【0015】
そこで、本発明者らは、青色光を照射することなく、緑色発光ダイオードによる緑色光のみによる黄疸の光治療の効果を、ラットを用いた実験により検証した。緑色発光ダイオードによる緑色光のみをラットに照射すると、酸化ストレスを低減することはできたが、血液中の総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を有意に低下させることはできなかった(本明細書の比較例4、および図6−8を参照のこと。)。
【0016】
一方、本発明者らは、青色光による酸化ストレスを低減させるべく、青色発光ダイオードの光出力を通常の1/2にしてラットに照射したところ、確かに酸化ストレスを有意に低減させることはできたが、血液中の総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を有意に低下させることができなかった(本明細書の比較例3、および図6-8を参照のこと。)。
【0017】
そこで、本発明は、新生児に対する酸化ストレスを低減させつつ、血液中のビリルビン濃度を低下させることができる黄疸治療用光治療器を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、黄疸の光治療時に、特定の波長を有する青色発光ダイオードと、緑色発光ダイオードとを同時に点灯させることによって、新生児に与える酸化ストレスを低減させつつ、血液中のビリルビン濃度を低下させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
【0019】
本発明にかかる光治療器は、複数の発光ダイオードを含む光源部を備えた黄疸治療のための光治療器において、
前記複数の発光ダイオードは、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとを含み、
前記青色発光ダイオードは、ピーク波長が470nm未満に存在し、且つ、波長400nm〜455nmの範囲内のいずれかの光を少なくとも含む光を出射可能となっており、
前記緑色発光ダイオードは、ピーク波長が505nm〜530nmの範囲内に存在し、且つ、波長505nm〜510nmの範囲内のいずれかの光を少なくとも含む光を出射可能となっており、
治療時において、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとが同時点灯可能となっていることを特徴としている。
【0020】
また、本発明にかかる光治療器においては、上記光源部からの出射光に含まれる波長440nm以下の光の割合が、5%以下であることが好ましい。
【0021】
また、本発明にかかる光治療器は、治療時において、青色発光ダイオードと前記緑色発光ダイオードとが、3時間以上同時点灯可能となっていることが好ましい。
【0022】
また、本発明にかかる光治療器においては、上記複数の発光ダイオードが、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとからなるものであってもよい。
【0023】
また、本発明にかかる光治療器は、出生体重1500g未満の新生児(極低出生体重児)の黄疸治療に好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる光治療器によれば、黄疸の光治療時に、特定の波長を有する青色発光ダイオードと、緑色発光ダイオードとを同時に点灯させることによって、新生児に酸化ストレスを与える原因となる青色光を低減させた場合であって、血液中のビリルビン濃度を低下させることができる。よって、本発明によれば、新生児に与える酸化ストレスを低減させつつ、血液中のビリルビン濃度を低下させることができる黄疸治療用の光治療器を提供することができる。
【0025】
本発明者らは、(i)新生児に酸化ストレスを低減させるべく青色光を低減させた場合に、血液中のビリルビン濃度を有意に低下させることができなく場合があること、(ii)緑色発光ダイオードの緑色光のみによる黄疸の光治療では、血液中のビリルビン濃度を有意に低下させることができない場合があるという課題を独自に見出した。そして、本発明者らは、驚くべきことに、特定の波長を有する青色発光ダイオードに、単独では血液中のビリルビン濃度を有意に低下させることができないと考えられた緑色発光ダイオードを組み合わせて、これらを同時に点灯させることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。単独では血液中のビリルビン濃度を有意に低下させることができないと考えられた緑色発光ダイオードが、青色発光ダイオードの効果(血液中のビリルビン濃度を低下させる効果)の低下を補完できるということは、全く予想できないことであった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態にかかる光治療器の光源部の断面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる光治療器の光源部の基板を発光ダイオード側から観た平面図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる光治療器の斜視図である。
図4】実施例および比較例において使用した実験用光治療器の写真図であり、(a)は代謝ケージ(テクニプラスト・ジャパン株式会社、代謝ケージ ラット用 体重150〜300g未満 3700M071)に光源部を設置した実験用光治療器の全体を撮影した写真図であり、(b)は光源部が設置されたケージカバーを撮影した写真図であり、(c)は光源部を発光ダイオード側から撮影した写真図である。
図5】実施例および比較例において使用した光源部からの出射光のスペクトルである。
図6】光照射前(光照射0時間)のラット血液中の総ビリルビン濃度に対する光照射24後のラット血液中の総ビリルビン濃度の変化率を示す箱ヒゲ図である。
図7】光照射前(光照射0時間)のラット血液中の遊離ビリルビン濃度に対する光照射24時間後のラット血液中の遊離ビリルビン濃度の変化率を示す箱ヒゲ図である。
図8】光照射6時間後のラット尿中のDNA酸化損傷マーカー(8−OH dG)の濃度に対する、光照射24時間後のラット尿中のDNA酸化損傷マーカー(8−OH dG)の濃度の変化率を示す箱ヒゲ図である。
図9】ビリルビンの分類を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。また、本明細書中に記載された公知文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0028】
なお、本明細書において、範囲を示す「〜」は特記しない限り「以上、以下」を示す。例えば「A〜B」と表記すれば、「A以上、B以下」を意味する。
【0029】
(1)本発明にかかる光治療器
本発明にかかる光治療器は、複数の発光ダイオードを含む光源部を備えた黄疸治療のための光治療器において、
前記複数の発光ダイオードは、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとを含み、
前記青色発光ダイオードは、ピーク波長が470nm未満に存在し、且つ、波長400〜455nmの範囲内のいずれかの光を少なくとも含む光が出射可能となっており、
前記緑色発光ダイオードは、ピーク波長が505nm〜530nmの範囲内に存在し、且つ、波長505nm〜510nmの範囲内のいずれかの光を少なくとも含む光が出射可能となっており、
治療時において、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとが同時点灯可能となっていることを特徴としている。
【0030】
図1に、本発明の一実施形態にかかる光治療器の光源部の断面図を示す。ただし、本発明にかかる光治療器は、これに限定されるものではない。図1に示す光源部(10)は、基板(2)に複数の発光ダイオード(1)が設置されており、複数の発光ダイオード(1)を備える基板(2)は筐体(3)内に格納されている。さらに、発光ダイオード(1)の光出射方向に光透過窓(4)が、光源部(10)に備えられている。なお、図示しないが、発光ダイオード(1)は電源に接続されており、電源から電力が発光ダイオード(1)に供給される。また、発光ダイオード(1)には調光ユニットが接続されており、光強度が調整可能となっていてもよい。
【0031】
本発明の光治療器の光源部(10)は、少なくとも1つの青色発光ダイオードと、少なくとも1つの緑色発光ダイオードとの複数の発光ダイオードを備えていればよい。青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードは、それぞれ1つずつ光源部(10)に備えられていてもよいし、また2つ以上の青色発光ダイオードおよび2つ以上の緑色発光ダイオードが備えられていてもよい。光源部(10)に含まれる青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードの個数は、同数であっても、異なっていてもよい。また青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードの個数が異なっている場合、前者の方が後者より多くても、後者の方が前者より多くてもよい。なお、光源部(10)には、少なくとも青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードが含まれていればよいため、青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードのみが含まれているものであってもよいが、青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオード以外の発光ダイオード(例えば赤色発光ダイオード等。)が含まれていてもよい。例えば、青色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、および赤色発光ダイオードを同時点灯させることによって、光源部から白色光を出射することができ、光治療器内の患者を観察する際に内部が見やすくなるために好ましい。
【0032】
本発明の光源部(10)の光透過窓(4)は、後述する青色発光ダイオードからの青色光、および後述する緑色発光ダイオードからの緑色光を透過させ得るものであれば特に限定されるものではない。すなわち、光透過窓(4)は、少なくとも波長400nm〜455nmの青色光および505nm〜510nmの緑色光を透過するものであればよく、種々の材料によって形成され得る。例えばアクリル樹脂、ポリカーボネートなどの光透過性の樹脂材料や、ガラス等で、光透過窓(4)は形成され得る。なお、光透過窓(4)は、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードの光を拡散し、両者の光を混色する拡散面を有するものであれば、さらに好ましい。上記拡散面を有することによって、青色光および緑色光が、患者に対して均一かつ広範囲に照射され、黄疸に対する治療効率が上がることが期待される。
【0033】
図2に、光源部(10)を構成する基板(2)を、発光ダイオード側から観た平面図を示す。図2における「B」は青色発光ダイオード(1b)を示し、「G」は緑色発光ダイオード(1g)を示す。図2に示すように、青色発光ダイオード(1b)と緑色発光ダイオード(1g)とが、基板(2)の長手方向に向かって交互に配置されている態様が一例として挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではなく、光透過窓から青色発光ダイオードの光が出射され、且つ、緑色発光ダイオードの光が出射される配置であれば、種々の配置が可能である。図2に示す基板(2)は、青色発光ダイオード(1b)および緑色発光ダイオード(1g)のみが設置されているが、上述の通り、本発明にかかる光源部には、青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオード以外の発光ダイオード(例えば、波長範囲620nm〜750nmの赤色光を発する赤色発光ダイオード等。)が含まれていてもよい。
【0034】
なお、本発明において利用され得る発光ダイオードは、特に限定されるものではなく、無機発光ダイオードであっても、有機発光ダイオードであってもよい。ただし、本発明においては無機発光ダイオードであることがより好ましい。無機発光ダイオードを利用することによって、より大きな輝度の制御、より低い発熱、装置製造時の材料および構成要素の加工のしやすさ、より軽い重量、大面積装置の実現、均等照明の実現、および、低いコスト等の効果を享受することができる。
【0035】
青色発光ダイオード(1b)は、ピーク波長が470nm未満(より好ましくは450nm〜460nmの範囲内)に存在し、且つ、波長400nm〜455nmの範囲内(より好ましくは波長440nmを超え、455nm以下の範囲内)のいずれかの光を少なくとも含む光(青色光)を出射可能となっている。上記条件を満たす青色光を照射することによって、有毒な脂溶性のビリルビン(ZZ−ビリルビン)に、可逆性の立体異性化反応が起こり、無毒の水溶性のビリルビン(ZE−ビリルビンまたはEZ−ビリルビン)へと変化させることができる。
【0036】
なお、上記青色光には、波長400nm〜455nmの範囲内の全ての光が含まれていてもよいし、その一部(例えば、波長440nmを超え455nm以下の範囲内の光)が含まれていてもよい。また上記範囲外の光が、上記青色光に含まれていてもよい。後述する比較例1においては、ピーク波長を452nmに有し、波長範囲420nm〜520nm、半値全幅18nmの光を照射し得る青色発光ダイオードが用いられた。そして、比較例2においては、比較例1に記載の光をフィルタに通すことによって、ピーク波長を458nmに有し、波長範囲440nm〜520nm、半値幅23nmの光を照射し得る青色発光ダイオードが用いられた。本発明においては、上記比較例1および2において利用された青色光も利用され得る。
【0037】
また緑色発光ダイオード(1g)は、ピーク波長が505nm〜530nmの範囲内に存在し、且つ、波長505nm〜510nmの範囲内のいずれかの光を少なくとも含む光(緑色光)が出射可能となっている。水溶性のビリルビン(ZE−ビリルビンまたはEZ−ビリルビン)に対して、上記緑色光を照射することによって、不可逆的な構造異性化反応が起こり、効率よく体外へ排出され得るシクロビリルビン(ZE−シクロビリルビンまたはEZ−シクロビリルビン)へ変化させることができる。
【0038】
なお、上記緑色光には、波長505nm〜510nmの範囲内の全ての光が含まれていてもよいし、その一部が含まれていてもよい。また上記範囲外の光が、上記緑色光に含まれていてもよい。後述する実施例および比較例4においては、ピーク波長を518nmに有し、波長範囲478nm〜590nm、半値全幅30nmの光を照射し得る緑色発光ダイオードが用いられた。
【0039】
なお、後述の実施例において示すように、波長440nm以下の光は、新生児等の患者に対して酸化ストレスを与える恐れがあるために、黄疸の光治療においては波長440nm以下の光ができるだけ少ないことが好ましい。このため、光源部10からの出射光に含まれる波長440nm以下の光の割合が、5%以下(好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、さらにより好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.3%以下。)であることが好ましい。究極的には、光源部10からの出射光に含まれる波長440nm以下の光の割合が、0%であることが好ましい。上記の割合は、出射光のスペクトルを作成し、波長440nm以下の光強度を、出射光全体の光強度で除することによって計算することができる。
【0040】
本発明の光治療器は、治療時において、上記青色発光ダイオードと上記緑色発光ダイオードとが同時点灯可能となっていることを特徴としている。これにより、新生児に酸化ストレスを与える原因となる青色光を低減させた場合であって、血液中のビリルビン濃度を低下させることができる。出生体重1500g未満の新生児(極低出生体重児)に対しては酸化ストレスの悪影響が特に懸念されるため、本発明の光治療器は、極低出生体重児の黄疸治療において特に好ましく用いられる。治療時において、上記青色発光ダイオードと上記緑色発光ダイオードとを同時点灯させるため、本発明の光治療器は、上記青色発光ダイオードと上記緑色発光ダイオードとが、3時間以上、(好ましくは6時間以上、より好ましくは12時間以上、最も好ましくは24時間以上)同時点灯可能となっていることが好ましい。
【0041】
なお、特許文献2には、治療効果を確認するときには、青色、緑色及び赤色発光ダイオードを同時に点灯させて、標準の自然光下で新生児を目視することができると記載されているが(特許文献2の段落〔0011〕を参照のこと。)、これは治療時における同時点灯ではない。また、特許文献2における青色発光ダイオードは470nmの波長にピークを有しているため、本願発明の青色発光ダイオードとはそもそも異なっている。
【0042】
本発明の光治療器を用いた黄疸治療においては、青色発光ダイオードからの青色光の強度と、緑色発光ダイオードからの緑色光の強度とは、同じであっても異なっていてもよい。強度が異なっている場合には、青色光より緑色光の方が高くてもよく、また緑色光より青色光の方が高くてもよい。青色光および緑色光の強度は、新生児等の患者との距離、患者の体重、症状、治療効果等に応じて適宜、調整され得る。
【0043】
図3に本発明の一実施形態にかかる光治療器(100)の斜視図を示す。光治療器(100)は、光源部(10)、フード部(11)、およびベッド部(12)を備えている。光源部(10)としては、例えば図1および2で示される光源部(10)が適用可能である。ベッド部(12)は、その上面に新生児等の患者を寝かせるための部材であり、フード部(11)は、ベッド部(12)を覆うように、当該ベッド部(12)上に設置されている。そしてフード部(11)は、埃、各種細菌、各種ウイルス等から新生児等の患者を防御する役割を担う。フード部(11)は、新生児等の患者を外部から観察できるようにするとともに、アクリル樹脂等の透明部材で形成されていることが好ましい。またフード部(11)の側面には、医師や看護師が新生児等の患者を処置する際に手を入れるための操作孔(13)が備えられている。操作孔(13)は開閉可能となっており、医師や看護師が新生児等の患者を処置する際に開放される。
【0044】
図3に示されるように、光源部(10)がフード部(11)の外部に設けられ、外部から新生児等の患者に光を照射する場合は、少なくとも400nm〜455nmの青色光および505nm〜510nmの緑色光を透過するものであることが好ましい。フード部(11)は開閉可能となっており、フード部(11)を開けて新生児等の患者を入出させることができる。
【0045】
図3に示す光治療器(100)おいては、光源部(10)がフード部(11)の外部上面に設置されているが、本発明の光治療器は光源部(10)からの光がフード部(11)内部の新生児等の患者に対して照射されるように設置されていれば特に限定されるものではない。よって、光源部(10)が、フード部(11)の外部側面に設置されていてもよく、またフード部(11)内部上面に設置されていてもよい。また光源部(10)がフード部(11)内部のベッド部(12)に設置され、光源部(10)からの光が、鉛直下側から新生児等の患者に対して照射されるようになっていてもよい。
【0046】
なお、本発明の光治療器は、特に光源部に特徴点を有している為、それ以外の構成については、一般に使用されている光治療器や保育器が利用可能であり、本発明の光治療器において使用される光源部を一般に使用されている光治療器や保育器に設置すればよい。保育器としては、例えばアトムメディカル株式会社製の保育器などが挙げられる。本発明の光治療器に適用される保育器としては、定置型保育器や移動用保育器であってもよく、またフード部を備えない開放式保育器であってもよい。ただし、開放式保育器が本発明の光治療器に適用される場合には、クリーンルーム内で治療が行われることが好ましい。さらに、本発明の光治療器は、特許文献1の図4に記載されたようなブランケット式の光治療器であってもよい。
【0047】
なお、本発明の光治療器には、新生児等の患者を保温するためのヒータ等の保温部が備えられていてもよい。また、本発明の光治療器には、フード部内を加湿するための加湿部が備えられていてもよい。また、フード部内に酸素を供給するための酸素供給部が備えられていてもよい。さらに、本発明の光治療器は、ウイルス等の侵入を防ぐためにエアフィルタを介して外気がフード部内に供給されるようになっていてもよい。
【0048】
(2)本発明にかかる光治療器の利用
上記本発明にかかる光治療器を用いることによって、黄疸治療を行うことができる。よって、本発明は黄疸の治療方法をも包含しているといえる。本発明にかかる光治療器を用いた黄疸の治療方法は、血中のビリルビン濃度を低下させることができる為、黄疸を発症した場合の治療のみならず、黄疸の予防的な措置として用いることができる。また本発明にかかる光治療器を用いた黄疸の治療方法(以下「本発明にかかる治療方法」という。)は、患者に与える酸化ストレスが低減されている為、酸化ストレスによって悪影響を受けやすい新生児、特に出生体重1500g未満の新生児(極低出生体重児)に対して好ましく適用され得る。極低出生体重児が酸化ストレスを受けると、中枢神経障害、肺障害、未熟児網膜症、血球障害等の問題が生じ得る。本発明にかかる治療方法によれば、上記のリスクを回避することができる。なお、本発明にかかる治療方法は、ヒトのみならず、黄疸を発症し得る非ヒト哺乳動物(マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウマ、ヒツジ、ウシなどのサル、等)においても適用可能である。
【0049】
本発明にかかる治療方法を、より具体的に説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。(i)光治療器内に新生児等の患者を収容する。(ii)新生児等の患者の体温を適切に調整する。この時、光治療器内の湿度を適切に調整する。また必要に応じて酸素を光治療器内に供給する。(iii)光源部の青色発光ダイオードおよび緑色発光ダイオードのスイッチをオンにし、光照射を開始する。照射する光強度は患者と光源部との距離、患者の体重、症状、治療効果等に応じて適宜設定する。(iv)6時間〜24時間程度光照射後、新生児等の患者の適宜採血を行って、血液中のビリルビン濃度を測定する。(v)血液中のビリルビンの基準値(遊離ビリルビンの基準値:出生体重1500g未満の新生児の場合0.8μg/dL、出生体重1500g以上の新生児の場合1.0μg/dL。)を指標に、治療効果を確認し、治療効果が確認できるまで光照射を繰り返す。なお、光照射の繰り返しは、患者に副作用が出ない程度に行われることは言うまでもない。
【0050】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0051】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0052】
(1)実験動物
黄疸モデルラットとして、Gunnラット(系統名: Gunn-Ugt1a1j/Slc、通称:Gunn/Slc-j/j、5−7週齢オス)を日本エスエルシー株式会社より購入して実験に用いた。Gunnラットは、黄疸モデルラットとして周知のラットであり、黄疸治療に関する実験に広く用いられているラットである。以下の説明において、Gunnラットを単に「ラット」と表記する。なお、以下の実験において、1実験区あたり、3匹、5匹、または6匹のラットを用いて実験を行った。
【0053】
(2)装置
実験用光治療器として、代謝ケージ(テクニプラスト・ジャパン株式会社、代謝ケージ ラット用 体重150〜300g未満 3700M071)のケージカバーに光源部(各種発光ダイオード)を設置したものを使用した。実験用光治療器の写真を図4に示した。図4(a)は実験用光治療器の全体を撮影した写真図であり、(b)は光源部が設置されたケージカバーを撮影した写真図であり、(c)は光源部を発光ダイオード側から撮影した写真図である。図4(c)に示される発光ダイオードは、左から比較例1、比較例2、比較例4にかかる光源部を示す。
【0054】
(3)光源部
ピーク波長が452nmにある青色発光ダイオード(株式会社エピテックス製 L450−01)と、ピーク波長が518nmにある緑色発光ダイオード(株式会社エピテックス製 L525−01)を用いて、比較例1〜4および実施例1にかかる光源部を作製した。
【0055】
〔比較例1〕
サイズ200mm×200mmの基板の上に、上記青色発光ダイオードを100個、均等に配置した。照度をコントロール出来るように調光ユニットを光源部に取り付け、0〜20Wの範囲で入力可変を可能とした。光透過窓として、300nm以上の光を透過する半透明のプラスチック製の板を光源部に取り付けた。光源部から13cmの距離で照度を測り、0.6mW/cmになるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0056】
比較例1にかかる光源部からの出射光のスペクトルを図5に示す。比較例1にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を452nmに有し、波長範囲420nm〜520nm、その半値全幅は18nmであった。比較例1にかかる光源部からの出射光における波長440nm以下の光は、7.5%であった。
【0057】
〔比較例2〕
比較例1における光透過窓の替りに、波長440nm以下の光を実質的にカットするガラス製フィルタを取り付けた以外は比較例1と同様にした。光源部から13cmの距離で照度を測り、0.6mW/cmになるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0058】
比較例2にかかる光源部からの出射光のスペクトルを図5に示す。比較例2にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を458nmに有し、波長範囲440nm〜520nm、その半値全幅は23nmであった。比較例2にかかる光源部からの出射光における波長440nm以下の光は、0.3%であった。
【0059】
〔比較例3〕
比較例2と同じ光源部を用い、光源部から13cmの距離で照度を測り、0.3mW/cmになるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0060】
比較例3にかかる光源部からの出射光のスペクトルを図5に示す。比較例3にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を458nmに有し、波長範囲440nm〜520nm、その半値全幅は20nmであった。比較例3にかかる光源部からの出射光における波長440nm以下の光は、0.2%であった。
【0061】
〔比較例4〕
サイズ200mm×200mmの基板の上に、ピーク波長が518nm、半値幅30nmである緑色発光ダイオードを100個、均等に配置した。照度をコントロール出来るように調光ユニットを光源部に取り付け、0〜70Wの範囲で入力可変を可能とした。光透過窓として、可視光(波長380〜780nm)を少なくとも透過するガラス製の板を光源部に取り付けた。光源部から13cmの距離で照度を測り、0.8mW/cmになるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0062】
比較例4にかかる光源部からの出射光のスペクトルを図5に示す。比較例4にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を518nmに有し、波長範囲478nm〜590nm、その半値全幅は30nmであった。
【0063】
〔実施例1〕
サイズ200mm×200mmの基板の上に、ピーク波長が450nm、半値幅20nmである青色発光ダイオードを50個と、ピーク波長が518nm、半値幅30nmである緑色発光ダイオードを50個とを配置した。照射面で混色の照明が成立するように、図2に示すように、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとを交互に配置した。
【0064】
照度をコントロールするために調光ユニットを光源部に取り付け、0〜20Wの範囲で入力可変が可能とした。光透過窓として、波長440nm以下の光を実質的にカットするガラス製フィルタを取り付けた。光源部から出射されるスペクトルは、440〜590nmに渡り、ピーク波長は458nmと518nmの2波長に存在するものであった。光源部から13cmの距離で照度を測り、0.6mW/cmになるように調光ユニットを調整して実験を行った。
【0065】
実施例1にかかる光源部からの出射光のスペクトルを図5に示す。実施例1にかかる光源部からの出射光は、ピーク波長を458nmに有し、波長範囲440nm〜520nm、その半値全幅が24nmである青色光と、ピーク波長を518nmに有し、波長範囲478nm〜590nm、その半値全幅が30nmである緑色光とを混色したものであった。実施例1にかかる光源部からの出射光における波長440nm以下の光は、0.2%であった。
【0066】
(4)実験方法
脱毛させたラットを上記実験用光治療器内に置き、比較例1〜4または実施例1にかかる光源部の光を所定時間照射した。この時、光源部とラットとの距離は、約13cmであった。光照射中、経時的にラットの採血および採尿を行った。血液サンプルを用いてビリルビン濃度の測定を行い、尿サンプルを用いてDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の測定を行った。
【0067】
〔ビリルビン測定〕
光照射直前および光照射6時間および24時間後に、ラットの尾静脈より採血された血液サンプルを遠心分離して血清を調製した。
【0068】
血清中の総ビリルビン濃度は、ユービーアナライザー(株式会社アローズ)を用いて吸光度(460nm)を測定することにより、定量された。
【0069】
また、血清中の遊離ビリルビン濃度を、酵素法で測定した。酵素法は、アンバウンドビリルビン測定試薬キット「UBテスト」(株式会社 アローズ)を用い、キットに付属の説明書に従って実施された。測定機器として、前出のユービーアナライザーが用いられた。
【0070】
〔尿中8−OHdG(DNA酸化損傷マーカー)の測定〕
代謝ゲージに溜まった尿を所定時間後(6時間後および24時間後)に一定量採取し、株式会社 タニタの「8−OHdG測定用前処理キット」を用いて8−OHdGを抽出した。その後、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製)を用いて尿中8−OHdG濃度を測定した。なお、8−OHdGの抽出操作は、キットに付属の説明書に従って実施された。
【0071】
(5)結果
図6に、光照射前(光照射0時間)のラット血液中の総ビリルビン濃度に対する光照射24時間後のラット血液中の総ビリルビン濃度の変化率を示す。なお、図6中、総ビリルビンを「TB」と表記する。
【0072】
また図7に、光照射前(光照射0時間)のラット血液中の遊離ビリルビン濃度に対する光照射24時間後のラット血液中の遊離ビリルビン濃度の変化率を示す。なお、図7中、遊離ビリルビンを「UB」と表記する。
【0073】
また図8に、光照射6時間後のラット尿中のDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の濃度に対する、光照射24時間後のラット尿中のDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の濃度の変化率を示す。なお、コントロールは、光照射をしなかったラットの尿中のDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の濃度の変化率である。
【0074】
図6〜8のデータはMann-Whitney U testによる有意差検定が行われており、危険率5%未満で有意差ありと判定されたデータに「*」を付し、危険率1%未満で有意差ありと判定されたものに「**」を付した。図6〜8には、median±SE(中央値±標準偏差)を併せて表記した。
【0075】
比較例1にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり青色発光ダイオードを用いて光照射した場合)、総ビリルビン濃度の変化率および遊離ビリルビン濃度の変化率ともに1.00未満(0.85±0.05および0.85±0.05)となっており、ビリルビンを低下させる効果が確認できた(図6,7を参照のこと。)。しかし、図8において、酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度が、コントロールに比して約2倍(2.0±0.45)に増加した(危険率1%未満で有意差有り。)。つまり、比較例1にかかる光源部を用いた場合、血液中のビリルビン濃度(総ビリルビン濃度、遊離ビリルビン濃度)を低下させることはできるが、酸化ストレスが高くなることが確認された。
【0076】
比較例2にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり、酸化ストレスの原因と考えられた波長440nm以下の光を実質的にカットした青色発光ダイオードからの青色光を照射した場合)、総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を低下させる効果は確認できたものの(図6において0.89±0.04。図7において0.94±0.07。)、酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度については、比較例1の結果と有意差がなかった(図8において1.3±0.30。)。
【0077】
比較例3にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり、比較例2と同じ青色光を1/2の光強度にして照射した場合。)、酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度が、比較例1の結果に対して有意に低下した(図8において1.0±0.12。)。しかし、総ビリルビン濃度を低下させる効果が見られなかった(図6において1.07±0.05。)。つまり、酸化ストレスを有意に低下させるべく、光強度を1/2に低下させた場合、酸化ストレスを有意に低下させることはできたが、総ビリルビン濃度を低下させることができなくなるということが分かった。
【0078】
比較例4にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり、緑色発光ダイオードを用いて光照射を行った場合。)、総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を低下させる効果が確認できなかった(図6において1.04±0.04。図7において1.09±0.07。)。一方、酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度については、有意な増加が見られなかった(図8において1.3±0.21。)。つまり、緑色発光ダイオード単独の利用では、総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を有意に低下させることはできないということが分かった。これまで、緑色蛍光管を用いた試験においては血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が見られていただけに、これは実に予想外の結果であった。緑色蛍光管からの出射光には、発光ダイオードに比して広範囲の波長領域の光(比較的短波長の光を含む)が含まれているために、血液中のビリルビン濃度を低下させることができたが、波長領域が狭い緑色発光ダイオードからの出射光では、血液中のビリルビン濃度を低下させる効果のある比較的短波長の光が含まれていないために、それ単独では血液中のビリルビン濃度を低下させることができなかったものと、本発明者らは推察する。
【0079】
実施例1にかかる光源部を用いて光照射した場合(つまり、青色発光ダイオードと緑色発光ダイオードとを混色した光を照射した場合)は、血液中の総ビリルビン濃度および遊離ビリルビン濃度を低下させることができ(図6において0.90±0.03。図7において0.89±0.03。)、且つ酸化ストレスの指標として知られているDNA酸化損傷マーカー(8−OHdG)の尿中の濃度を有意に増加させないということが確認された(図8において1.4±0.29。)。つまり、酸化ストレスを低下させるべく、青色発光ダイオードからの光強度を低下させた際に、血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が低下するという問題点を、それ単独では血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が認められなかった緑色発光ダイオードからの光によって見事に補完することができたのである。
【0080】
比較例2、比較例4および実施例1について、光照射6時間後における各ラット血液中の遊離ビリルビン濃度を、光照射前(光照射0時間)における各ラット血液中の遊離ビリルビン濃度で除した値の中央値(つまり「光照射6時間後の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値」。)を比較した(表1を参照のこと。)。また、比較例2、比較例4および実施例1について、光照射24時間後における各ラット血清中の遊離ビリルビン濃度を、光照射前(光照射0時間)における各ラット血清中の遊離ビリルビン濃度で除した値の中央値(つまり「光照射24時間後の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値」。)を比較した(表2を参照のこと。)。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
比較例4においては、いずれの照射時間(6時間および24時間)についても、血清中の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値が1を上回った。また、比較例2においては、照射時間(6時間)について、血清中の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値が1を上回った。これに対して、実施例1においては、照射時間(6時間および24時間)に関わらず、血清中の遊離ビリルビン濃度の変化率の中央値が1を下回った。よって、実施例1については、照射時間に関わらず血清中の遊離ビリルビン濃度を低下することができるということが確認された。これは、緑色発光ダイオードと青色発光ダイオードとを組み合わせたことによる効果に他ならない。
【0084】
当業者であれば、血液中のビリルビン濃度を低下させる効果を向上させるために、単独では血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が認められなかった緑色発光ダイオードを適用することはあり得ない。またこのような緑色発光ダイオードを青色発光ダイオードと組み合わせて同時点灯させることによって、酸化ストレスを低下させつつ、血液中のビリルビン濃度を低下させる効果が得られるなどということは、当業者は当然予想することすらできない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
上記説示したように、本発明にかかる光治療器によれば、黄疸の光治療時に、特定の波長を有する青色発光ダイオードと、緑色発光ダイオードとを同時に点灯させることによって、新生児に酸化ストレスを与える原因となる青色光を低減させた場合であって、血液中のビリルビン濃度を低下させることができる。よって、本発明によれば、新生児に与える酸化ストレスを低減させつつ、血液中のビリルビン濃度を低下させることができる黄疸治療用の光治療器を提供することができる。本発明は特に酸化ストレスによる悪影響が懸念される、出生体重1500g未満の新生児(極低出生体重児)の黄疸治療において、特に効果が期待される。
【0086】
したがって、本発明は黄疸治療に関連した医療および医療機器に関わる産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 発光ダイオード
1b 青色発光ダイオード
1g 緑色発光ダイオード
2 基板
3 筐体
4 光透過窓
10 光源部
11 フード部
12 ベッド部
13 操作孔
100 光治療器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9