【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
本実施例では、
図1に例示した層間剥離装置1の層間剥離モジュール3を表2に示すとおりに構成して、グラファイトの層間剥離試験を行った。なお、通液剥離部材31、32、33として用いたストレートチューブおよびスパイラルチューブは、長さ30cmのものを用いた。
【0054】
【表2】
【0055】
本実施例では、SEM観察用のサンプルは、Siウエハ上にグラフェンの分散液を数mL滴下して調製した。SEM観察は、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM、JSM−6500、JEOL社)を用いて行った。
【0056】
TEM観察用のサンプルは、ホーリーカーボングリッド上にグラフェンの分散液を数mL滴下して調製した。TEM観察は、JEOL 2100(JEOL社)を用いて200kVにて行った。
【0057】
<実施例1>
表2に示す各々のパターンの層間剥離モジュールを備える層間剥離装置を用いて、表1に示す原料懸濁液No.2を、圧力100MPaで原料供給部から供給して、層間剥離モジュールを連続的に10回通液させた。
【0058】
回収した原料懸濁液を6000rpmで60分間遠心分離して、層間剥離されなかったグラファイトの沈殿物を除去することにより、グラフェンの分散液とした。また、得られた分散液を真空ろ過して分散媒を除去し、残渣を120℃で乾燥して、グラフェンの粉末を得た。
【0059】
得られたグラフェンのSEM観察結果を
図2に示す。
図2(a)〜(e)は、それぞれ、表2に示すパターン4〜6およびパターン1〜2に対応する((a)パターン4、(b)パターン5、(c)パターン6、(d)パターン1、(e)パターン2)。
【0060】
図2の結果から、ノズル部を有するパターン4〜6(
図2(a)〜(c))と比較して、ノズル部を有さないパターン1および2(
図2(d)、(e))の場合には、面方向の粒径がより大きいグラフェンが得られていることがわかる。
【0061】
また、得られたグラフェンおよび原料のグラファイトについて、比表面積および細孔分布の分析をBET法により行った結果を
図3に示す。
図3(a)〜(e)は、それぞれ、グラファイト、表2に示すパターン4〜6およびパターン1に対応する((a)グラファイト、(b)パターン4、(c)パターン5、(d)パターン6、(e)パターン1)。なお、本分析は、AUTOSORB(カンタクローム・インスツルメンツ社)を用いて行った。
【0062】
図3の結果から、原料のグラファイトの比表面積は19.6m
2/gであり(
図3(a))、ノズル部を有するパターン4〜6(
図3(b)〜(d))の場合には、グラフェンの比表面積は30.0〜37.0m
2/g程度にとどまっているのに対して、ノズル部を有さないパターン1(
図3(e))では、63.5m
2/gと高い比表面積を有するグラフェンが得られていることがわかる。
【0063】
このように、ノズル部を有さない層間剥離モジュールを用いて、高圧処理したグラファイトの懸濁液を通過させることによって、グラファイトの層間剥離が精度よく行うことができることが確認された。
【0064】
<実施例2>
表2に示すパターン2の層間剥離モジュール3を備える層間剥離装置1を用いて、表1に示す原料懸濁液No.2を、圧力100MPaで原料供給部から供給して、層間剥離モジュールを連続的に120分間通液させた。なお、通液時の原料懸濁液の流速は、約140ml/minであった。
【0065】
回収した原料懸濁液を6000rpmで60分間遠心分離して、層間剥離されなかったグラファイトの沈殿物を除去することにより、グラフェンの分散液とした。また、得られた分散液を真空ろ過して分散媒を除去し、残渣を乾燥(120℃)して、グラフェンの粉末を得た。得られたグラフェンの収率は約15%(約1.5mg/mLの濃度に相当)であった。
【0066】
図4は、得られたグラフェンのTEM観察結果を示す画像である。
図4より、実施例2で得られたグラフェンは、層方向の厚さが4nm未満であり、少なくとも10層未満の薄層グラフェンであることがわかる。
【0067】
また、得られたグラフェンについて、以下のようにしてラマン分光分析を行った。
【0068】
分析用サンプルとして、Siウエハ上にグラフェンを蒸着させた。また、原料のグラファイトを用いて比較用サンプルを作製した。
【0069】
図5に、比較用サンプル(a)および分析用サンプル(b)のラマンスペクトルを示す。
【0070】
図5(a)に示すように、比較用サンプル(原料のグラファイト)では、2つの特徴的なピークが1580cm
−1(Gピーク)および2714cm
−1(2Dピーク)に確認され、加えて、グラファイトのクリスタライト層の境界に帰属される弱いバンドが1355cm
−1(Dピーク)に確認される。一方、
図5(b)に示すように、分析用サンプル(本実施例で得られたグラフェン)では、上記のDピークの強度が顕著に増加していることがわかる。
【0071】
ここで、DピークとGピークとの比(I
D/I
G)を算出すると、原料のグラファイトでは0.15であり、本実施例で得られたグラフェンでは0.55と計算される。このI
D/I
G値は、これまでに還元型酸化グラフェンについて報告された値(I
D/I
G>1)よりも有意に小さく、このことは、本発明に係る層状物質の層間剥離方法が、層状物質の基礎となる面方向の二次元構造の破壊を有効に抑制していることを示している。
【0072】
原料のグラファイトと比較して本実施例で得られたグラフェンのI
D/I
G値がわずかに増加しているのは、得られたグラフェンのエッジ効果によるものであると考えられる。
【0073】
また、
図5(a)と
図5(b)とを比較すると、本実施例で得られたグラフェンでは2Dピークに変化が見られることがわかる。
【0074】
原料のグラファイトの2Dピークでは、2714cm
−1にピーク、2693cm
−1にショルダーを有しており、これらはグラファイトの積層構造に特徴的なピークプロファイルである。一方、本実施例で得られたグラフェンの2Dピークでは、わずかに低波数側にシフト(2697cm
−1)しており、かつ対称的な形状を有している。このことは、本実施例で得られたグラフェンが、単層もしくは数層のフレーク状構造体で占められていることを強く示唆している。
【0075】
<スーパーキャパシタの作製と特性評価>
実施例2で得られたグラフェン(以下、「サンプルグラフェン」という。)を用いて、以下の手順に従ってスーパーキャパシタを作製し、その特性を評価した。
【0076】
サンプルグラフェンとポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)とを、質量比90:10の割合で、NMP中で混合した。次いで、この溶液を、多孔質膜(Hydrophilic、0.2μm PTFE)上で吸引ろ過して電極膜を形成した。この電極膜を25℃で24時間真空乾燥させた後、直径15mmにカットして、重さが約0.8mgの電極を作製した。
【0077】
テスト用セルとして、電解液にはイオン液体(1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、EMI−TFSI)を用い、セパレーターにはガラス繊維を用い、電流コレクターには導電物として炭素が塗布されたアルミ箔(Exopack
TM 0.5mil 両面塗布)を用いた。なお、テスト用セルは、アルゴンガス雰囲気下のグローブボックス内で組み立てた。また、サンプルグラフェンの代わりに原料のグラファイトを用いて比較用セルを作製した。
【0078】
テスト用セルおよび比較用セルについて、VMP3 マルチチャンネル ポテンショスタット/ガルバノスタット(Biologic社)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)、電気化学インピーダンス測定(EIS)およびガルバノスタティック測定(GC)を行った。
【0079】
図6に、特性評価結果をまとめて示す。
図6(a)は原料のグラファイトを用いた作製したキャパシタ(比較用セル)のサイクリックボルタモグラム(CV曲線)であり、(b)はサンプルグラフェンを用いた作製したスーパーキャパシタ(テスト用セル)のCV曲線である。
図6(c)は比較用セルおよびテスト用セルの電気化学インピーダンス測定結果を示すグラフであり、(d)は比較用セルおよびテスト用セルの充放電特性を示すグラフである。
【0080】
特筆すべき点として、
図6(d)に示すように、比較用セルの比キャパシタンスが12F/gであったのに対して、テスト用セルでは、75F/gの比キャパシタンスを示した。このように、テスト用セルについて確認された比キャパシタンスの増大は、実施例1に関して示した
図3からも理解されるように、原料のグラファイトに比べてサンプルグラフェンの比表面積が大きいことによってもたらされたものであると考えられる。