(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記各杭要素が前記埋設地盤から受ける反力は、該埋設地盤のN値を定数に換算しつつ前記杭部分の変位の非線形関数として特定される骨格曲線に基づいて、特定の変位に対して線形的に変化する一次関数に変換するものであり、該一次関数は、原点を通る直線を基準とし、これに隣接する杭要素、およびさらに隣接する杭要素における反力を、杭要素ごとに異なる傾きおよび切片を有する直線によって換算されるものである請求項1に記載の支柱の安定化法。
前記杭部分を有限杭長とするときの長さは、複数の長さを想定するものとし、支柱の上端の変位および前記杭部分の変位総量が、前記許容範囲となる複数の有限杭長を算出するとともに、これらの杭長のうち最も短尺となるものを選択して使用するものである請求項1または2に記載の支柱の安定化法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献のうち、特許文献1に掲げる方法によれば、設置現場においてコンクリートの打設工程を必要としないことから工期が短縮できることとなり、特許文献2に掲げる方法によれば、基礎を構築することなく鋼管杭を設置できることから基礎工事を行う必要がないという利点を有している。
【0007】
しかしながら、前記の従来技術は、基本的には、道路内部に埋設されている水道管やガス管等の制約から地中深くに基礎部分を構築できないとの想定であるところ、地中埋設部分が極めて浅いことから、支柱の保持強度が十分でないという問題点があった。
【0008】
他方、基礎杭によって支柱を支持する方法は、建築物や橋梁などの支柱を構築する際に使用されているが、この場合、専らChangの公式によって杭長が算出されているため、基礎杭の水平抵抗に有効な範囲の杭長としては、一般論として、π/β(「β」は無限杭長における特性値を意味する)としなければならなかった。
【0009】
ところが、Changの公式は、弾性領域地盤による反力の算出にあたって、杭部分の弾性限度を固定値として設定することから、杭部分の変位の絶対値が弾性限度内に収まるように杭の性質を選択しなければならなかった。また、いわゆる無限杭長であるため、不必要に長尺な杭部分が算出されるという不具合があった。すなわち、無限杭長を想定する場合、支柱に作用する水平方向の荷重を杭部分の全体で収束させるように算出することが原因と考えられる。
【0010】
そこで、本願の発明者は、無限杭長を想定することなく、短尺な杭部分によって支柱を安定的に設置できる安定化法を提供するとともに、当該設置安定化法を実現する設置方法を提供するために、有限杭長による支柱の安定化法を提案した(特願2014−249390)。
【0011】
しかしながら、上記支柱の安定化法は、Changの公式による杭長よりも短尺にできるとしても、杭部分が埋設地盤から受ける反力を小さく見積もることから、有限杭長としても未だ短尺化し得るものであった。
【0012】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、さらに杭部分の一層の短尺化を可能にしつつ、十分に支柱を安定的に立設し得る安定化法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、支柱の安定化法にかかる本発明は、支柱に連続する杭部分を有限杭長として地中に埋設する場合の該支柱の安定化法であって、杭部分の長さ(杭長)を暫定的に定めるとともに、該杭部分を任意の位置において区分された適宜長さの複数の杭要素を想定し、支柱に作用する水平荷重から算出される杭部分のせん断力、曲げモーメント、たわみ角および変位によって特定されるたわみ挙動に基づいて、各杭要素の変位により各杭要素が埋設地盤から受ける反力を算出するとともに、該反力を反映させた各杭要素のたわみ挙動を求め、隣接する杭要素の間の境界の条件を維持しつつ伝達挙動を反映させて、杭頭から順次杭先端に至るたわみ挙動を算出し、これらに基づいて最終的な杭頭のたわみ角および変位を求め、前記杭頭におけるたわみ角および変位の双方が、支柱に許容される範囲内となるような有限杭長をもって杭部分の長さとして、前記埋設地盤によって支持させることを特徴とするものである。
【0014】
上記構成によれば、杭部分のたわみ挙動の全体を参照しつつ、適宜長さの杭要素についての個別の反力を反映させた個別のたわみ挙動を求めることから、杭部分の全体に対する反力を反映させた場合よりも現実的な埋設地盤の反力に基づくたわみ挙動を得ることができ、支柱に作用する水平荷重を支持するための反力を現実に近い状態で反映させることができる。これにより、支柱を支持するための杭部分の長さ(杭長)は、水平荷重に十分に耐え得る長さとしつつ、許容の限界に接近することとなり、短尺な杭長によって安定的に支持することができることとなる。なお、杭頭とは、杭部分が軸線を鉛直にして地中に埋設されるときの当該杭部分の上端を示し、杭先端とは、当該杭部分の下端を示す。
【0015】
上記構成の発明においては、前記各杭要素が前記埋設地盤から受ける反力は、該埋設地盤のN値を定数に換算しつつ前記杭部分の変位の非線形関数として特定される骨格曲線に基づいて、特定の変位に対して線形的に変化する一次関数に変換するものであり、該一次関数は、原点を通る直線を基準とし、これに隣接する杭要素、およびさらに隣接する杭要素における反力を、杭要素ごとに異なる傾きおよび切片を有する直線によって換算されるものとすることができる。
【0016】
上記構成の場合には、個別の杭要素ごとに反力を計算するとともに、その反力計算において、異なる傾きおよび切片を有する一次関数が使用されることから、杭要素を数多く区分することにより骨格曲線(非線形地盤反力曲線)に近似した反力曲線に基づく反力計算値をえることができる。従来法では、骨格曲線を使用しつつ、変位に対する反力を一つの一次関数に変換しており、杭部分全体の変位に対して反力は線形的に変化することを前提としていたことから、極めて小さい反力が杭部分に作用するものとされ、不必要に長尺な杭長を設計せざるを得なかった。しかし、本発明では、杭要素ごとに変位を算出し、当該変位に基づく反力を個別の一次関数によって算出することから、杭部分が埋設地盤から受ける反力を反映しつつ杭長を設計し得るものとなる。
【0017】
また、上記各構成の発明においては、前記杭部分を有限杭長とするときの長さは、複数の長さを想定するものとし、支柱の上端の変位および前記杭部分の変位総量が、前記許容範囲となる複数の有限杭長を算出するとともに、これらの杭長のうち最も短尺となるものを選択して使用するものとすることができる。
【0018】
上記構成によれば、予め複数の有限杭長を経験的に設定するとともに、設定された有限杭長のうち、許容範囲に収まる杭長をもって杭部分の長さとすることができる。経験的に設定される有限杭長は、過去の杭長を参照するほか、従来法による有限杭長により算出された許容範囲の程度に応じて、どの程度の短尺化が可能であるかを経験的に判断することが含まれ、そのように設定される有限杭長の中から最も短尺な杭長を選択することにより、杭部分の短尺化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
支柱の安定化法にかかる本発明によれば、これまでよりも短尺な杭長により支柱を安定化させることができる。これは、単なる杭長の設計法に留まるものではなく、支柱に要求される設置強度の許容範囲内において杭長を短尺化できることから、支柱(特に杭部分)に使用する材料を減少させることとなり、材料費の軽減により工事費用の低減に資することとなる。また、杭部分が短尺となることから支柱の運搬が容易となるうえに、杭部分の埋設工事も容易となる。これは、特に、支柱の地上部分と杭部分とが一体となった材料を使用する場合に顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳述するため、図面を参照しつつ説明する。支柱の設置安定化法に係る発明は、支柱に水平方向の荷重が作用した場合のたわみの状態を波動としており、その波動を支配する支配方程式を使用して解析され、その支配方程式は次式(式(1))に記載のとおりである。
【0023】
上記の支配方程式におけるたわみ挙動の定義として、たわみ角θ、曲げモーメントMおよびせん断力は、次に示す各式によって定義され、支柱に作用する反力(単位長さ当たりの反力)Pは、こられで定義されるものによって前記支配方程式が導かれる。
【0025】
上記の支配方程式に支配されるたわみ挙動は、連続する支柱のうち、反力(地盤反力)を受ける杭部分(地中に埋設される部分)と、この種の反力を受けない地上部分(地表面から立設される部分)とでは、当然に異なる要素解および一般解が導かれる。そこで、杭部分と地上部分における要素解および一般解を次のとおり示すこととする。
<地上部分>
まず、地上部分におけるたわみの状態を示せば、前記式(1)から導かれる要素解および一般解は次のとおりとなる。すなわち、地上に立設される支柱部分については、反力が作用しないことからp=0となり、その要素解は次式のとおりである。
【0027】
さらに、立設される支柱の地上部分における一般解を次式のように導くことができる。
【0029】
上記の式から次の一般解を求めることができる。
【0031】
<杭部分>
他方、地中に埋設される杭部分については、変位δに応じて反力Pを受けることとなり、その反力Pが杭部分の挙動に作用することから、前記のような地上部分とは異なるものとなる。ここでは、例示として、均等地盤における杭部分のたわみの状態について、前記式(1)から導かれる要素解および一般解を下記のように示す。
【0032】
まず、要素解は、次のように導くことができる。
【0034】
また、一般解は次のように導くことができる。
【0036】
上記式より、次式の一般解を得ることができる。
【0038】
そこで、具体的な有限杭長における変位の算出方法について説明する。まず、
図1に想定される長尺物の設置状態を示す。この図は、弾性領域地盤による単層均質地盤に杭部分を埋設した状態を示している。この図において、Fは、支柱に取り付ける設置物(看板等)に水平方向に作用する荷重を示し、pは、長尺物に作用する分布風荷重を示す。hは、支柱部分の全長を示し、h
Fは、地表面から設置物(看板等)に対する荷重(F)が作用する位置までの高さ、h
pは地表面から分布風荷重(p)の作用する位置までの支柱部分の長さを示す。lは、杭部分の長さであり、z
0は、支柱部分上端を0とした鉛直方向下向きの座標、zは地表面を0とした鉛直方向下向きの座標である。δ
0は、杭頭における変位であり、θ
0は、杭頭におけるたわみ角である。なお、風荷重は、支柱部分に対しては等分布荷重とし、設置物に対しては集中荷重とすることができるが、これらを積算したうえで、全荷重を一点に作用するものと置き換えることができる。
【0039】
この図に示される条件により、前記一般解からδ
0およびθ
0を算出し、さらに、支柱部分上端の変位を算出するのである。
【0040】
ここで、各点における条件を整理する。
【0041】
地上部分における一般解は、次のとおりである。
【0043】
地中部分における一般解は、次のとおりである。
【0045】
各境界点における条件は次のとおりである。
<条件1>
支柱部分の上端(z
0=0)については、次の条件(条件1)が与えられる。
【0047】
<条件2>
杭頭(地表面)については、次の条件(条件2)が与えられる。
【0049】
<条件3>
杭頭(地表面)については、さらに、次の条件(条件3)も与えられる。
【0051】
<条件4>
杭部分の下端(z
1=l)については、次の条件(条件4)が与えられる。
【0053】
上記に基づいて、各条件1〜4に従って一般式を利用すると、条件1からは、次の式(解1)を得ることができる。
【0055】
また、条件2からは、次の式(解2)を得ることができる。
【0057】
また、条件3からは、次の式(解3)を得ることができる。
【0059】
ここで、上記により与えられた各式をまとめることにより、次のようなマトリックス方程式を組み立てることができ、このマトリックス方程式を解くことにより未定の定数であるa,b,c,dの解を得ることができる。
【0061】
さらに、得られたa,b,c,dを条件2に基づく式(解2)に代入することにより、杭頭(地表面)における変位θ
sおよびたわみ角δ
sを得ることができる。
【0063】
上記により算出された杭頭(地表面)における変位とひずみ角を、地上の支柱部分における式(解1)に代入することにより、支柱部分上端におけるせん断力(Q
0)および曲げモーメント(M
0)を算出し、さらに、一般解より変位(δ
0)およびたわみ角(θ
0)を算出するのである。このとき、水平方向の全荷重Fが作用する位置または全反力pが作用する位置までの範囲では、せん断力および曲げモーメントが異なることとなるから、それぞれの範囲ごとに積算することにより、全体の変位およびたわみ角を算出することとなる。
【0064】
以上のような手法により算出された杭頭(地表面)の変位と、支柱部分上端における変位について、使用される長尺物の材質、径(外径)および肉厚等により、許容される範囲内(たわみに耐えることができる程度)の変位であるか否かを比較し、許容範囲内であれば、当該長尺物を設置した場合に倒壊することなく安定した状態となり、許容範囲を逸脱する場合には、設置できないものと判断されるのである。上述のとおり、上記杭頭(地表面)および支柱上端の変位は、杭部分を有限杭長としたときの当該杭部分の長さによって異なるため、十分な長さが要求されることとなるが、杭部分の長さに関する複数の数値を使用して、そのときの変位を算出するとともに、許容範囲内となる杭部分の長さのうち、最も短尺となるものを選択することにより、可能な限り短尺の杭部分による設置を可能とすることができる。
【0065】
ところで、杭部分が埋設地盤から受ける反力は、非線形の反力であり、一般的には次式で表され、
図2に示す2次元曲線(これを骨格曲線と称する)を描くものである。
【0067】
ここで、
図2に示す骨格曲線上の点kは、地盤による反力係数(kN/m
3)であり、次式に示すように変位δに依存するものである。
【0069】
なお、埋設地盤における反力挙動を決定するパラメータは、地盤の基準反力係数(k
0)のみであり、この基準反力係数の値は、地盤調査によって求めることができる。但し、この基準反力係数は、支柱(杭部分)の外径(または外寸法)(D)の関数でもあり、下式のように、地盤調査により得られるN値から換算することができる。N値は、一般的に基準貫入試験(スウェーデン式サウンディング)によって求められる。
【0070】
このように、ある1点における変位δが決定すれば、その変位δに対する反力Pが決定することとなるが、当該変位δまでの範囲の全体において杭部分が受ける反力の総和を得ることができない。そこで、これまでは、最大となる変位δ(骨格曲線上の1点)に対し一次関数(P=kδ)を導き、当該一次関数における反力の総和をもって、杭部分の反力としていた。
【0071】
しかし、このような手法では、杭部分が受ける反力を小さく見積り過ぎるため、支柱を支持するための力(支持力)が小さくなり、結果として杭長を長く設計することとなっていた。そこで、本発明においては、前記骨格曲線にできる限り近似させるために、複数の一次関数を用いることを提案するものである。
【0072】
すなわち、
図3に示すように、骨格曲線上の2点(変位の異なる2点)を通過する一次関数を求めることにより、骨格曲線に近似させ、反力の総和を大きく見積もることができるのである。そのため、杭部分を任意の長さで適宜区分し(区分した部分を杭要素と称する)、当該杭部分ごとに変位の範囲(骨格曲線の2点の範囲)について一次関数を求めるのである。
【0073】
例えば、変位δ1とδ2との範囲を区分する場合の一次関数は、次式として示すことができる。
【0075】
ここで、上記一次関数を用いて、均等地盤にけるたわみ挙動を示せば次のように導くことができる。
【0077】
このときの特殊解、一般解、基本解はそれぞれ次式のとおりとなる。
<特殊解>
特殊解は次のとおり。
【0083】
さらに、この場合におけるたわみ挙動は、前記数10における式を参照すれば次式となる。
【0085】
さらに、個々の杭要素について、たわみ変数を消去することにより、たわみ特性(たわみベクトルの変化)を次のとおり導くことができる。これは応答挙動に関するものであり、そのときの杭要素の状態を
図4に示す。
【0087】
さらに、各杭要素間における境界条件を満たしつつ、杭要素間のたわみ特性(たわみベクトルの変化)の伝達挙動を示す。ここでは、
図5に示すように、地表面側(杭部分の上端側)から杭部分の先端側(下端側)へ向かってn番目の杭要素と次順位のn+1番目の杭要素との間における伝達挙動を示している。lは杭要素の長さである。
【0089】
上記の境界条件を満たしつつ、整理すると次式のようになる。
【0091】
このように、伝達挙動を地表面側(杭部分の上端)から順次積算することにより、全体の伝達挙動を導くことができる。
図6にその伝達挙動を図示し、全体挙動を以下に示す。
【0093】
上記において、杭部分の上端(杭頭)および下端(杭端)における境界条件を考慮すれば、杭要素の総数をNとした場合の解を次のように導くことができる。なお、この状態を
図7に示す。
<境界条件>
境界条件は次のとおり。
【0095】
<杭端のたわみ挙動>
杭要素をNとしたときの杭端のたわみ挙動は次のとおり。
【0097】
上記式より、数33の両式に、数32の境界条件を代入することによって、杭頭におけるたわみ角θ
hおよび変位(たわみ量)δ
hを求めることができる。
【0098】
以上のように、杭部部分を複数の杭要素に区分し、各杭要素のたわみ挙動を算出するとともに、これらを総合して杭部分全体のたわみ挙動を算出することにより、各杭要素における反力が反映されることとなる。これにより、短尺化しつつ十分な支持力を有して支柱を立設することが可能となる。
【0099】
これを均等地盤について、4つの杭要素に区分した場合を
図8に示し、その場合の各杭要素に作用する反力の曲線を
図9に示す。
【0100】
この図から明らかなとおり、反力を示す一次関数は折れ線状態となり、杭部分が受ける反力(斜線部分)は、骨格曲線に近似することとなる。
【0101】
これは、層状地盤においても同様であり、同様に4つの杭要素に区分した場合の状態を
図10に示し、反力の曲線を
図11に示す。なお、層状地盤は、便宜上2層としている。
【0102】
この図のように、2層の層状地盤においては、異なるN値により骨格曲線は2種類となる。この2種類の骨格曲線のうち、各杭要素において変位する位置の地質に応じて、いずれかの骨格曲線に従った反力が計算されることとなる。
【0103】
従って、3層地盤さらにそれ以上の多層地盤においても同様に、複数の骨格曲線に基づく反力が計算されることとなり、いずれも場合も骨格曲線に近似した折れ線状の一次曲線によって示される反力を反映させることができる。
【0104】
次に、本発明にかかる支柱の安定化法の使用例について説明する。本発明が使用できるものとしては、第1に、前述の
図1に示したような長尺物の立設がある。
図1に示した長尺物は1本の支柱が独立して設置されるものであり、看板または標識等を支持するための支柱がある。これと同様に、1本で自立させるものであれば用途は特に限定されない。例えば、街灯設置のための支柱があり、また、風力発電機を設置するための支柱などがあり得る。さらには、地滑り抑止のための杭としても使用できる。地滑り抑止杭とは、移動層(地滑り層)の下層に存在する不動層(基岩層)まで鋼管またはH鋼を到達させ、地滑り力の抵抗となるように立設されるものである。風力発電機用支柱や地滑り抑止杭などは、比較的大径かつ長尺な支柱であるが、これらを支持する杭部分の杭長についても、前述の安定化法により短尺化することができるものである。
【0105】
また、複数の支柱によって連続した板状部材等を支持するための個々の支柱を支持するために使用することも可能である。例えば、
図12は、フェンス状の長尺板状部材を支持する状態を示している。
図12(a)は正面視における状態を示し、(b)は平面視における状態を示す。この種の長尺板状部材としては、遮音壁や防護壁などがあり得る。これらを構築する際には、この
図12に示されているように、複数の壁面材10a,10b,10c・・・によって、一連の壁面1を構成するのであるが、各壁面材10a,10b,10c・・・は、境界部分に立設される支柱11,12,13,14・・・によって両端が固定される構造とすることが一般的である。ところで、これらの支柱11,12,13,14・・・は、地中に杭部分を埋設するか、または橋梁等においてはコンクリート構造物に杭部分を埋設することによって支持されるものである(図は、地中埋設型として示している)。そこで、この各支柱11,12,13,14・・・のそれぞれの杭部分21,22,23,24・・・について、前述の安定化法を使用するのである。
【0106】
この種の遮音壁等の場合には、支柱11,12,13,14・・・に作用する荷重は、それぞれ支持すべき壁面材10a,10b,10c・・・の重量のほかに、各壁面材10a,10b,10c・・・に対する風荷重等の水平荷重であり、これを両側に位置する各支柱11,12,13,14・・・に分散しつつ支持されるものである。そこで、杭部分21,22,23,24・・・に要求される支持力は、前記各荷重を総合的に算出し、耐え得る長さの杭長を求めることとなるものである。
【0107】
さらに、同様に連続する板状部材を支持するための構築物には、山留や擁壁なども想定される。
図13は山留としての使用状態を示し、
図14は擁壁としての使用状態を示す。
図13に示すように、山留(土留と呼ばれることもある)1を設ける場合には、建築工事における杭工事(パイルP1,P2・・・の打ち込み工事等)の後に、H鋼や鋼管等の支柱11a,12a,11b・・・を立設し、その支柱によって矢板10a,10b・・・を支持させるものである。この場合、一枚の矢板10a,10b・・・をそれぞれ複数の支柱11a,12a・・・で支持するため、一枚の矢板10a,10b・・・に作用する土圧(横荷重)を、これら複数の支柱11a,11b・・・によって支持できるように、杭部分21a,22a,21b・・・が地中に埋設されるものである。このような杭部分21a,22a,21b・・・の杭長について、前記安定化法によれば、短尺に構成することができるものである。なお、図は(a)に平面視の状態を示し、(b)に側面視の状態を示すものである。
【0108】
擁壁に使用する場合には、
図14に示すように、山留と同様に複数の支柱11a,12a・・・によって、壁面材10a,10b,・・・を支える構成となる。なお、
図14(a)および(b)は、擁壁1を水平に設置する場合を示し、
図14(c)および(d)は、擁壁1をスロープ状に設置する場合を示している。なお、擁壁は、造成地等における盛土を壁面で支えるなどのために設置されることもあり得るが、図では専ら法面との間に盛土によって造成される場合を示している。
【0109】
これらの
図14(a)〜(d)に示されているように、擁壁1は、複数の壁面材10a,10b,・・・を連続して構成されるものであって、各壁面材10a,10b,・・・は、それぞれ複数の支柱11a,12a,・・・11b,・・・によって支持されるものである。擁壁1を構成する壁面材10a,10b,・・・には、盛土Aの土圧(盛土Aの重量が横向きに作用する圧力)が作用することから、各支柱11a,12a,・・・11b,・・・のそれぞれは、前記と同様の水平方向の荷重が作用し、同様のたわみ挙動を生じさせることとなる。
【0110】
ここで、擁壁1を水平に設置する場合(
図14(a)および(b)参照)には、1枚の壁面材10a,10b,・・・の表面全体に対して盛土Aの土圧が均等に作用するため、その1枚の壁面材に作用する土圧を支柱11a,12a,・・・11b,・・・に均等に分散させるのである。これは、山留(
図13)の場合と同様である。これに対し、スロープ状に設置する場合(
図14(c)および(d)参照)には、支柱11a,12a,・・・11b,・・・の長さを変更し、その支柱11a,12a,・・・11b,・・・の長さに応じて異なるように土圧を分散させるのである。いずれの場合においても、各支柱11a,12a,・・・11b,・・・は、杭部分21a,22a,・・・21b,・・・を地中に埋設することにより、支持されるものであり、その杭部分21a,22a,・・・21b,・・・の杭長を前記支柱の安定化法に基づいて定めるのである。
【0111】
このように、長尺板状部材(
図12〜
図14参照)を支持する場合には、長尺板状部材に作用する荷重を複数の支柱に分散して支持することとなる。そのため、それぞれの支柱に対する回転モーメント(軸回りの回転力荷重)は生じないこととなり、水平方向の分布荷重のみが各支柱に作用することとなる。そのため、杭部分の杭長は、前述の支柱の安定化法と同じ方法によって決定され、使用されることにより、安定的な構築物を設置することができるのである。
【0112】
以上が本発明の実施形態であるが、これらは一例であって、本発明が前記実施形態に限定されることを意図するものではない。従って、本発明の趣旨の範囲内において種々の形態とすることができる。例えば、前記実施形態では支柱の断面形状を特に限定していないことからも理解されるように、支柱は、円筒状の鋼管や角状の鋼管のいずれを使用してもよい。
【0113】
また、支柱は杭部分と地上部分とが一体となった連続の長尺物で構成した実施形態としているが、杭部分と地上部分とを分離したものであってもよい。この場合、杭部分は、例えば、掘削された穴に挿入して埋設するほかに、湿式柱状改良法により地中に埋設したものであってもよい。湿式柱状改良法とは、セメント系固化剤と水とによるスラリ状の混合物を地盤に低圧で注入しつつ撹拌翼で撹拌する地盤改良法であり、スラリ状混合物が硬化する前に杭部分を挿入することで、掘削することなく杭部分を地中に埋設することができるものである。そして、杭部分に地上部分を接続することにより連続した支柱を構成するのである。この接続方法は種々検討され得るが、杭部分を筒状鋼管で構成し、その内部に地上部分の一部を挿入することによる方法があり得る。この場合には、さらに、地上部分の一部が筒状鋼管に適宜範囲で挿入された状態で両者を固定させるように構成してもよい。