(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す溶接は、
図8のように、配管を通すための挿通孔7Aを有する梁補強部材24の外側面である傾斜面25と鉄骨梁1のウェブ1Aの貫通孔2の開口形成面2Aにて形成される縦断面が三角形状の開先Sを有する突合せ溶接により前記ウェブ1Aに前記梁補強部材24は固定されるが、ルートギャップを持っていないため、前記ウェブ1Aの前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの端部に前記梁補強部材24の前記傾斜面25がその部位SS2において接する周辺の広がりが極端に狭く、溶接トーチ10の十分な振幅運動範囲mが確保できず、初層溶接部W1は溶接材料の溶け込みが悪く、母材との融合がうまくいかず、溶け込み不良が発生する。
【0006】
即ち、上記特許文献1に示す溶接は、前記梁補強部材24の開先底である前記部位SS2において溶接範囲が極端に狭く、溶接材料の先端が溶接のねらい点に到達する前に、周辺材とスパークしてしまい、前述した開先底である前記部位SS2までアークが届かない。従って、トーチ角度θ1が20度前後確保できるも前記開先底の周辺に広い空間が無いので、前記溶接トーチ10の振幅運動が十分できないので滑らかに移行できず、溶接材料の溶け込みが悪く、母材との融合がうまくいかず、溶け込み不良が発生するという不具合がある。
【0007】
そこで本発明は、突き合わせ溶接の際にルートギャップを設ける必要もなく、初層溶接部の広がりを広くできるので溶接トーチの十分な振幅運動範囲が確保できて健全な溶接を行うことができる梁補強部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため
本発明は、鉄骨梁のウェブに形成された貫通孔に設けられる梁補強部材であって、
リング状を呈して配管を通すための挿通孔が開設され、
その周側面の縦断面形状を前記貫通孔内に挿入させる際の先端側に近い部位では外径が小さく同じく先端側から遠い部位では外径が大きい円形状として、前記周側面を連続して滑らかな曲面状に形成し、前記先端側から前記ウェブの前記貫通孔に挿入された際に前記貫通孔の内径よりその外径が大きくなる部位において前記周側面が前記貫通孔の開口形成面の開口形成端部に当接する挿入部と、
この挿入部に連なり且つ前記貫通孔より外径が大きくて前記貫通孔内に挿入できない挿入不可部と
を備え、
前記挿入部を前記先端側から前記ウェブの前記貫通孔に挿入させた際に、前記周側面を前記貫通孔の前記開口形成面の前記開口形成端部に当接させて線接触した部位を境として、前記周側面と前記ウェブの前記貫通孔の前記前記開口形成面との間に形成される開先の反対側に、前記周側面とこの周側面が当接する前記ウェブの前記開口形成端部に連通する一方の面との間に初層溶接の際に使用するシールドガスを抜くためのガス抜き用の空間を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、突き合わせ溶接の際にルートギャップを設ける必要もなく、初層溶接部の広がりを広くできるので溶接トーチの十分な振幅運動範囲が確保できて健全な溶接を行うことができる。
また、シールドガス抜き用の空間を介してガス抜きができて初層溶接の際の溶接材料の溶け込みが促進され、溶け込み不良が起こりにくく良好である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。先ず、
図1は本発明の第1の実施形態に係る梁補強部材4を鉄骨梁1のウェブ1Aに装着した状態を示す縦断面図であり、
図2は
図1の矢印の指示する方向から見た外形図である矢視図である。
【0014】
断面形状がI形状のI型鋼や、本実施形態であるH形状のH型鋼から構成される前記鉄骨梁1は補強される母材である前記ウェブ1Aとフランジ1Bとから成り、前記ウェブ1Aの中間部には断面が円形状の貫通孔2が開設されている。
【0015】
前記梁補強部材4は中央部に建築構造物内部に設けられる配管(図示せず)を通すための断面が円形状の挿通孔7が開設されてリング状を呈している。そして、前記梁補強部材4は挿入側先端面4T(
図3における前記梁補強部材4の上面であって、外形形状が円形である。)の外径が最も小さく前記挿入側先端面4Tより離れるに従って末広がりにその外径が広がるような周側面5が滑らかな曲面状に形成されると共に前記挿入側先端面4Tから前記ウェブ1Aの前記貫通孔2に挿入された際に前記貫通孔2の開口形成面2Aの開口形成下端部2A1に前記貫通孔2の内径よりその外径が大きくなる部位SS1(開先底である。)において前記周側面5が当接する挿入部4Aと、この挿入部4Aに連なり且つ前記貫通孔2より外径が大きくて前記貫通孔2内に挿入できない縦断面が中空円柱状を呈する挿入不可部4Bとを備えている。
【0016】
即ち、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aの前記周側面5は滑らかな曲面状を呈し、前記挿入部4Aの先端側が前記貫通孔2内に挿入された際に、前記挿入部4Aはその外径が前記貫通孔2の内径より小さい部分(前記貫通孔2内に挿入できる部分。)と同じく前記貫通孔2の内径より大きい部分(前記貫通孔2内に挿入できない部分。)とがあり、前記貫通孔2の内径よりその外径が大きくなる前記周側面5の部位SS1において、前記挿入部
4Aの前記周側面5が前記鉄骨梁1の前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1に線接触で当接する。
【0017】
そして、前記ウェブ1Aの前記貫通孔2に前記梁補強部材4の前記挿入部4Aを挿入して、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aの前記周側面5と前記ウェブ1Aの前記貫通孔2の前記開口形成面2Aとを突合せ溶接するため、前記挿入部4Aの前記周側面5には後述するような特殊な形状が形成され、下向きの突合せ溶接を容易に行うことができる。なお、前記梁補強部材4の材質は前記鉄骨梁1と同一又は類似の材質の金属で構成する。
【0018】
前記梁補強部材4の開先は突き合わせ溶接を行うのであれば、本来しっかりとした大きなルートギャップを設けるべきであるが、本実施形態では前記挿入部4Aを特殊な形状にすることにより、突き合わせ溶接の際にルートギャップを設けなくても、初層溶接部の広がりを広くできるので溶接トーチ10の十分な振幅運動範囲m1が確保できて健全な溶接が行える。
【0019】
即ち、
図3に示すように、前記挿入部4Aの前記周側面5と前記ウェブ1Aの前記貫通孔2の前記開口形成面2Aとを突合せ溶接するために、前記貫通孔2に前記梁補強部材4の前記挿入部4Aの先端側を挿入させて、前記挿入部4Aの前記周側面5を前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1に当接させた際に、前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1は前記挿入部4Aの前記周側面5の前記部位SS1において線接触する。
【0020】
この場合、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aの前記周側面5は滑らかな曲面状を呈しているので、前記部位SS1を境として前記挿入部4Aの前記周側面5と前記貫通孔2の前記開口形成面2Aとの間に形成される開先(空間)S1の反対側に、前記挿入部4Aの前記部位SS1における前記周側面5と前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1との微小の隙間を介して初層溶接の際に使用するシールドガスを抜くためのガス抜き用の空間S2(大気に連通する。)が形成される(
図4参照)。なお、前記ガス抜き用の空間S1の縦断面の形状はゆるいすり鉢状を呈して、その深さは浅く、前記部位SS1からの横幅は前記梁補強部材4の外径方向に数mm程度である。
【0021】
次に、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aについて詳述するが、ルートギャップを持たない前記開先S1を形成するために初層溶接部W2の広がりを広くする必要がある。先ず、
図5(ア)に示すように、前記ウェブ1Aの前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1(前記挿入部4Aの前記部位SS1でもある。)と前記挿入部4Aの前記挿入側先端面4Tの点Yとを結んだ線分とで形成される角度θ2を約40度にし、前記周側面5が滑らかな曲面状を呈する前記挿入部4Aを例えば3個の部分から構成する。
【0022】
即ち、溶接の際に、前記鉄骨梁1を寝せて前記貫通孔2内に下方から前記梁補強部材4の前記挿入部4Aの一部を挿入させた状態における
図3を参照しながら、説明する。前記挿入部4の前記挿入側先端面4Tから部位Z1までの前記挿入部4Aの上段部4A1(挿入側の最先端部)の周側面の形状を一番大きな径で描かれる曲面とし、次に前記部位Z1から部位Z2までの前記挿入部4Aの中段部4A2の周側面の形状を前記上段部4A1の前記径より僅か小径で描かれる曲面とし、次に前記部位Z2から前記挿入不可側端部4Bの上面部(前記部位2との境界部)Z3までの前記挿入部4Aの下段部4A3の周側面の形状を前記中段部4A2の前記径より僅か小径で描かれる曲面とする。なお、以上の前記挿入部4Aの前記上段部4A1、前記中段部4A2及び前記下段部4A3の周側面である曲面を形成する各径は夫々中心は異なる。
【0023】
以上のように、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aを前記上段部4A1、前記中段部4A2及び前記下段部4A3から構成したので、これらの周側面の曲面を縦断面したときの連続曲線は滑らかな放物線の一部に似ており、前記連続曲線は前記挿入部4Aの前記下段部4A3の周側面の小さな半径の円弧と、前記下段部4A3の前記円弧に連続する前記中段部4A2の周側面の前記下段部4A3の円弧より半径の大きい円弧と、前記中段部4A2の前記円弧に連続する前記上段部4A1の周側面の前記中段部4A2の円弧より半径の大きい円弧とから構成される。
【0024】
このため、前記下段部4A3の前記円弧より前記中段部4A2の前記円弧の方が立ち上がる形状となり、更に前記中段部4A2の前記円弧より前記上段部4A1の前記円弧の方が立ち上がる形状となる。即ち、前記開先S1の底部は前記開口形成面2Aに対し横に広がった空間を持ち、前記開口形成面2Aから水平方向に離れた前記中段部4Aの前記円弧や、前記上段部4A1の前記円弧は鉛直方向に伸びるような形状となる。また、前記開先S1を形成する前記挿入部4Aの前記上段部4A1、前記中段部4A2及び前記下段部4A3の各円弧は連続した曲線であって、滑らかで引っ掛かりや段差はなく自然な曲線である。
【0025】
従って、
図7に示すように、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aを以上のような形状にすることにより形成された前記開先S1は、前記溶接トーチ10の十分な振幅運動範囲m1が確保できるために、前記初層溶接部W2は前記開先S1の底部で大きな広がりを持つ空間内で形成される。また、前述したようなすり鉢状の曲線である前記挿入部4Aの前記周側面5と前記開口形成面2Aとで形成される前記開先S1はその底部でルートギャップ相当の広がりを持ち、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aでは開先角度が約40度確保できるような形状であって、3種類の半径を持つ前記円弧の連結で形成する開先である。なお、前記挿入部4Aの前記周側面5の縦断面の形状が放物線の一部に似た曲線であって、3種類の半径を持って連結した前記円弧群であったが、前記円弧群の数に制限はなく、2個以上であればよく、2個から8個が望ましい。1個であれば、溶接量が多くなり過ぎたり、開先底の周辺が狭くなって前記溶接トーチ10の十分な振幅運動範囲mが確保できないという問題がある。逆に、個数が多すぎると、加工が面倒であるという問題がある。
【0026】
また、
図4は
図3の点線で描いた円A内の拡大図である。前述したように、前記鉄骨梁1の前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1は、前記挿入部4Aの曲面状の前記周側面5と面接触ではなく、前記挿入部4Aの前記部位SS1において線接触する。本実施形態では、前記挿入部4Aの前記下段部4A3の曲面状の周側面上の前記部位SS1において線接触することとなり、前記下段部4A3の前記周側面は前記部位SS1から更に前記挿入不可側端部4Bの周側面の前記上面部Z3の外端部(前記挿入不可部4Bの周側面の上端部でもある。)まで延びる。従って、前記ウェブ1Aの一方の面である下面1A1(前記開口形成下端部2A1に連通する。)と前記下段部4A3の前記周側面との間にガス抜き用の空間S2が形成される。
【0027】
一般に、溶接は溶接材料(溶着金属)をシールドガスで保護しながら行うが、溶接直後から前記シールドガスは不要であってガス抜きを行うことが重要であり、もしガス抜きしないと不要なガスは溶接側から抜けようとする。不要なガスが前記溶接側から抜ける場合は、まだ固まっていない溶着金属の中からガスが沸いて来るような現象となるので溶着金属が固まる前に不要なガスを抜けさせることが重要で、抜けきらない時はブローホールの様な泡状の欠陥が溶着金属内に発生してしまう。溶接の初層溶接のための空間は上層部よりも狭い空間なので、特にガス抜きは重要で、できる限り広い初層溶接のための空間でガスを逃がすためのルートギャップが通常設けられる。しかし、本実施形態ではこのルートギャップを持たないため初層溶接のための空間の広がりを広くすると共に不要なガスを逃がすガス抜き用の空間として前述した空間S2が前記部位SS1を境として前記開先S1の反対側に形成されている。
【0028】
従って、前記挿入部4Aの前記下段部4A3の前記周側面は前記ガス抜き用の空間S2を形成すると共に前記開先S1の一部を形成し、この下段部4A3の前記周側面は前記中段部4A2の前記周側面、更に前記上段部4A1の前記周側面に連通し、これらの周側面はその断面が滑らかで引っ掛かりや段差はなく自然な曲線で形成される。また、初層溶接の際に前記ガス抜き用の空間S2を設けて、前記挿入部4Aの前記部位SS1における前記周側面5と前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1との微小の隙間及び前記ガス抜き用の空間S2を介して初層溶接のシールドガスを抜くことにより、シールドガス抜き不良で起こる前述したブローホール欠陥の発生を大幅に防ぐことができる。このガス抜き効果により、前記部位SS1は初層溶接の際の溶接材料の溶け込みが促進され、溶け込み不良が起こりにくく良好であり、溶接の初層は十分な広がりを持つ前記開先S1があるので前記溶接トーチ10の十分な振幅運動範囲m1も確保できて前記母材との融合が良好なので、突合せ溶接は良好である。
【0029】
そして、
図5(ア)に示すように、前記挿入部4Aの前記上段部4A1、前記中段部4A2及び前記下段部4A3の周側面で形成される開先角度θ2は、前記ウェブ1Aの前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1(前記挿入部4Aの前記部位SS1でもある。)と前記挿入部4Aの前記挿入側先端面4Tの点Yとを結んだ線分とで40度程度確保できれば、健全な溶接を行うことができる。
【0030】
ところが、
図5(イ)に示すように、挿通孔7Aを有する梁補強部材14の挿入部14Aの縦断面が直線状の傾斜面である周側面15と前記開口形成面2Aとで形成される従来技術のレ形開先S5の場合には、前記ウェブ1Aの前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1から水平方向にルートギャップGを6mmとした場合は、開先角度は45度程度で、同じくルートギャップGが7mmのとき開先角度は35度程度である。本実施形態の前記梁補強部材4の溶接の特徴は前述した従来技術で要求される前記レ形開先S5を形成する前記挿入部14Aの前記周側面15の位置まで前記開先を形成する位置を広げなくても、健全な突合せ溶接を行うことができる。
【0031】
また、
図5(イ)の点線で示すように、第1の実施形態においては、前記鉄骨梁1の前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1を前記挿入部4Aの前記周側面5の前記部位SS1に線接触させて当接させて溶接するが、この当接位置である前記部位SS1が溶接の開始位置となる。
図5(イ)において、実線にて従来技術のレ形開先S5の前記ルートギャプGを6mmとした場合の開先角度を35度とした開先の例を示し、この従来技術のレ形開先S5に比べて、本実施形態により形成される前記開先S1は明らかに空間容積が小さく形成されるので、溶接の材料の低減に資することができる。
【0032】
即ち、
図5(イ)に示すように、本発明の前記梁補強部材4の前記開先S1内に溶接される溶接材料の体積は従来技術のレ形開先S5内に溶接される溶接材料の体積より少ないことが理解できる。そして、
図5(イ)は前記ルートギャップGを6mm、開先角度を35度として説明したが、実務では前記ルートギャップを6mmとしたとき開先角度を45度、もしくは前記ルートギャップを7mmとしたとき開先角度35度とするような開先形状が一般的な基本形であるが、本実施形態の前記梁補強部材4を用いた溶接量はこの従来の基本形の開先溶接より遙かに少なくなる。
【0033】
次に、前記梁補強部材4を溶接により前記ウェブ1Aに取付ける場合の、どこまで溶接するかの溶接の終了位置について、第1の実施形態を示す
図3及び第2の実施形態を示す
図6に基づいて説明する。
図3に示すように、溶接の際に、前記鉄骨梁1を寝せて前記貫通孔2に下方から前記梁補強部材4の前記挿入部4Aを挿入して、前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの前記開口形成下端部2A1を前記挿入部4Aの前記部位SS1に線接触させて当接させた状態では、前記挿入部4Aの前記上段部4A1の一部が前記貫通孔2より突き抜ける(上方に位置する。)。そして、前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの開口形成上端部2B1(前記ウェブ1Aの一方の面である下面1A1の反対側の他方の面である上面に連通する。)の位置が前記挿入部4Aの前記上段部4A1の前記挿入側先端面4T(前記開先S1を形成する前記上段部4A1の周側面の挿入側先端部)の位置より低い場合は、溶接により補強に必要な溶接部9の充填の高さが前記貫通孔2の前記開口形成面2Aの前記開口形成上端部2B1の前記位置まで形成できたら、溶接を終了する。
【0034】
逆に、第2の実施形態を示す
図6に示すように、鉄骨梁11のウェブ11Aの厚さが
図3に示す前記ウェブ1Aより厚くて、前記ウェブ11Aの貫通孔22に下方から前記梁補強部材4の前記挿入部4Aを挿入した際に、前記挿入部4Aは前記貫通孔22より突き抜けない。そして、前記鉄骨梁11の前記ウェブ11Aに開設した前記貫通孔22の開口形成面22Aの開口形成上端部22B1の位置が前記挿入部4Aの前記上段部4A1の前記上段部4A1の前記挿入側先端面4T(前記開先S1を形成する前記上段部4A1の周側面の挿入側先端部)の位置より高い場合は、溶接により補強に必要な前記溶接部9の充填の高さが前記上段部4A1の前記挿入側先端面4Tの位置まで形成できたら、溶接を終了する。従って、
図3、
図7のいずれの場合にも、溶接終了の検査は、溶接ゲージや他の検査機器など使用しないでも目視で判定を行うことができる。
【0035】
なお、前記貫通孔2、22の前記開口形成面2A、22Aの前記開口形成上端部2B1、22B1の位置と前記挿入部4Aの前記上段部4A1の前記挿入側先端面4Tの位置のいずれが高いか低いかの判断は、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aの前記周側面5と前記ウェブ1A、11Aの前記貫通孔2、22の前記開口形成面2A、22Aとが接する部位(開先底である。)SS1、SS2からの距離に基づいて判断し、短い方が低いものとする。
【0036】
なお、第1の実施形態を示す
図7に示すように、前記開先S1を形成して前記梁補強部材4を前記ウェブ1Aに突き合わせ溶接する際の前記溶接トーチ10のトーチ角度θ3は20度前後が確保されており、かつ初層溶接部W2を形成するための空間は十分な広がりがあるので、突合せ溶接には何の問題も無く、
図6に示す第2の実施形態も同様である。
【0037】
即ち、
図8の前記特許文献1に示す前記梁補強部材24は開先を有するもルートギャップを持っていないため、前記溶接トーチ10の振幅運動範囲mが極端に狭く、十分な振幅運動範囲mが確保できず、初層溶接における溶接材料の溶け込みが悪く、母材との融合がうまくいかず、溶け込み不良が発生したが、本実施形態によれば、これらの問題は解消できる。
【0038】
以上のように本発明によれば、
図3の点線で描いた円A内の拡大図である
図4(
図6の点線で描いた前記円A内の拡大図でもある。)に示すように、前記挿入部4Aの前記周側面5と前記ウェブ1A、11Aの前記貫通孔2、22の前記開口形成面2A、22Aとを突合せ溶接する際には、前記挿入部4Aの前記周側面5を前記貫通孔2、22の前記開口形成面2A、22Aの開口周縁の開口形成下端部2A1、22A1に当接させた際に、前記開口形成面2A、22Aの前記開口形成下端部2A1、22A1は前記部位SS1、SS2において前記挿入部4Aの前記周側面5と線接触することになる。この場合、前記下段部4A3の前記周側面は曲面状を呈して前記挿入不可側端部4Bの前記上面部Z3の端部まで延びているので、前記ウェブ1A、11Aの前記下面1A1、11A1との間にはすり鉢状の前記ガス抜き用の空間S2が形成される。もし、前記貫通孔2、22の前記開口形成面2A、22Aの前記開口形成下端部2A1、22A1が前記挿入部4Aの前記周側面5に当接する位置が
図4に示す前記部位SS1の位置より高くなると、前記ガス抜き用の空間S2は広がる方向で大きなすり鉢状として形成される。
【0039】
そして、前記梁補強部材4の前記周側面5の形状が全て曲面で、縦断面が曲線状を呈して滑らかであって引っ掛かりがないことは、前記貫通孔2、22の断面が円形状を呈しているため、前記梁補強部材4の前記挿入部4Aを前記ウェブ1A、11Aの前記貫通孔2、22に納めるときに、前記貫通孔2、22の円の中心に向かって納まろうとする重力の性質が働き、前記挿入部4Aを前記貫通孔2、22に挿入すると前記梁補強部材4は前記貫通孔2、22中心に向かって納まろうとする。但し、前記貫通孔2、22に前記挿入部4Aを挿入しただけでは前記梁補強部材4は完全に中心に納まる訳ではないが、挿入した後に前記梁補強部材4を上下左右、特に水平方向の左右に振ってやると、前記梁補強部材4はさらに納まりの良い位置にセットすることができる。前記梁補強部材4の前記挿入部4Aの前記周側面5の形状を曲面形状とすることにより、前記梁補強部材4を所定の位置にセットするための中心線や罫書きマークなどは不要で、溶接の際の扱いが非常に簡単である。
【0040】
以上のように、本発明の実施態様について説明したが、上述の説明に基づいて当業者にとって種々の代替例、修正又は変形が可能であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で前述の種々の代替例、修正又は変形を包含するものである。
【課題】突き合わせ溶接の際にルートギャップを設ける必要もなく、初層溶接部の広がりを広くできるので溶接トーチの十分な振幅運動範囲が確保できて健全な溶接が行える補強部材を提供すること。
【解決手段】梁補強部材4は挿入側先端面4Tの外径が最も小さく前記挿入側先端面4Tより離れるに従って末広がりにその外径が広がるような周側面5が滑らかな曲面状に形成されると共に前記挿入側先端面4Tからウェブ1Aの貫通孔2に挿入された際に前記貫通孔2の開口形成面2Aの開口形成下端部2A1に前記貫通孔2の内径よりその外径が大きくなる部位SS1において前記周側面5が当接する挿入部4Aと、この挿入部4Aに連なり且つ前記貫通孔2より外径が大きくて前記貫通孔2内に挿入できない縦断面が中空円柱状を呈する挿入不可部4Bとを備えている。