(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474096
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補修構造及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/38 20060101AFI20190218BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20190218BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
E21D11/38 Z
E04G23/02 B
C09K3/10 E
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-5444(P2015-5444)
(22)【出願日】2015年1月14日
(65)【公開番号】特開2016-130436(P2016-130436A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】松島 太司
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−105211(JP,A)
【文献】
特開2000−336942(JP,A)
【文献】
特表2005−536429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/38
E04G 23/02
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの止水対象領域に前記コンクリートの表面側から非貫通で形成され、前記止水対象領域に間隔を開けて複数設けられる注入孔と、
前記注入孔の各々に略充填するように設けられ、且つ前記注入孔の各々を起点として拡散し前記コンクリートの微小空隙に浸透するように設けられる止水部とを備え、
前記止水部が、粘度1〜5mPa・sで比重1.075±0.025のアクリル酸ナトリウムを主成分とする第1主剤と、粘度1〜5mPa・sで比重1.025±0.025の過硫酸ナトリウムを主成分とする第2主剤と、硬化時間を調整する硬化調整剤から構成される止水材によって形成されていることを特徴とするコンクリート構造物の補修構造。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート構造物の補修構造の施工方法であって、
前記注入孔を形成して、前記注入孔の孔奥と孔外の連通を閉塞可能なパッカーを前記注入孔の口元に設置する第1工程と、
粘度1〜5mPa・sで比重1.075±0.025のアクリル酸ナトリウムを主成分とする第1主剤と、粘度1〜5mPa・sで比重1.025±0.025の過硫酸ナトリウムを主成分とする第2主剤と、硬化時間を調整する硬化調整剤を混合しつつ、前記止水材として、前記注入孔の口元の連通部分から前記注入孔内に200kPa以下の圧力で注入する第2工程と、
前記コンクリートの表面からの前記止水材の滲み出しを確認する第3工程と
を備えることを特徴とするコンクリート構造物の補修構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル、地下施設、建築物等のコンクリート構造物で発生する漏水を止水して補修するコンクリート構造物の補修構造及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の漏水を止水する補修工法として、
図6に示すように、コンクリート壁20に生じたひび割れ21に対し、ひび割れ21を横断するように所定角度で且つ壁厚の約2/3程度の深い位置まで注入孔22を形成すると共に、ひび割れ21のコンクリート壁20の表層部位を急結セメント23で閉塞し、この状態で700〜1400mPa・sの高粘度の止水材を注入孔22とひび割れ21に10〜20MPaの高圧で注入し、水との化学反応で発泡させて注入孔22とひび割れ21に充填するように止水部24を形成するものがある(特許文献1参照)。尚、図中、31は土壌、32はコンクリート壁20と土壌31との間の水が存在している背面空洞である。
【0003】
また、
図7に示すように、コンクリート壁20に背面まで貫通する貫通孔25を形成し、貫通孔25に水に近い比重の止水材を注入してコンクリート壁20の背面に沿って放射状に広範囲に拡散させ、コンクリート壁20の背面側に硬化した止水膜26を形成する工法もある(特許文献2参照)。この止水膜26は、漏水しているひび割れ21が多数存在する箇所や、漏水経路が特定できない箇所でも止水することを意図している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−251010号公報
【特許文献2】特開2014−208970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、
図6のひび割れ21を横断するように所定角度で注入孔22を形成して止水材をひび割れ21に充填する工法では、ひび割れ21を横断しないように注入孔22を形成してしまう場合も多々生じ、この場合には、ひび割れ21に止水材が充填されず止水されないことになる。この横断の成否は、止水材の注入圧の圧力管理においても、正常な注入完了でも注入孔がひび割れに当たってない場合の注入完了でも同じように圧が上昇してしまうため、判別することは困難である。更に、高圧注入を行うためには、高価な高圧ポンプを準備する必要があると共に、高圧注入を行うと予期しない箇所から止水材が噴出する可能性も高まり、施工管理に手間を要するという問題もある。
【0006】
他方において、
図7のコンクリート壁20の背面側に止水膜26を形成する工法では、上述の注入孔22のひび割れ21に対する横断で止水性が阻害されることはないが、背面空洞が大きい場合には止水材が貫通孔25の出口周りに留まらず流出して無くなってしまい、止水膜26を形成することができないという別の問題を生ずる。更に、コンクリート壁20の壁厚が大きい場合には、貫通孔25の穿孔作業に多大な労力が必要になるという不具合もある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、注入孔がひび割れを横断しない場合やコンクリートの背面に大きな空洞がある場合でも確実に止水することができると共に、施工コストが低く、施工効率に優れるコンクリート構造物の補修構造及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコンクリート構造物の補修構造は、コンクリートの止水対象領域に前記コンクリートの表面側から非貫通で形成され、前記止水対象領域に間隔を開けて複数設けられる注入孔と、前記注入孔の各々に略充填するように設けられ、且つ前記注入孔の各々を起点として拡散し前記コンクリートの微小空隙に浸透するように設けられる止水部とを備え、前記止水部が、
粘度1〜5mPa・sで比重1.075±0.025のアクリル酸ナトリウムを主成分とする第1主剤と、粘度1〜5mPa・sで比重1.025±0.025の過硫酸ナトリウムを主成分とする第2主剤と、硬化時間を調整する硬化調整剤から構成される止水材によって形成されていることを特徴とする。
これによれば、止水材はコンクリートの止水対象領域全体に浸透して、微小空隙に浸透した止水部を含めて止水対象領域全体が止水される為、注入孔がひび割れを横断していない場合にも浸透した止水材がひび割れに到達して略充填することになるから、注入孔がひび割れを横断しない場合にも確実に止水することができる。更に、コンクリート自体に浸透して止水部が構成されるから、コンクリートの背面の空洞の大小に拘わらず確実に止水することができる。また、
粘度1〜5mPa・s以下の主剤から構成される止水材を加圧注入する際には、安価な低圧ポンプの圧力で加圧注入すれば止水材を極微細な微小間隙まで拡散、浸透させることができ、高圧性能を有する高価な高圧ポンプが不要で、低コストで施工することができる。更に、注入孔を深く穿孔せずとも、低圧の加圧注入で止水材を十分に拡散、浸透させることができることから、穿孔作業の労力を低減し、施工効率を高めることができる。更に、低圧の加圧注入では予期しない箇所から止水材が噴出することがなく、施工管理に要する労力も低減できると共に、補修するコンクリートに加圧で負荷される負担も少なくて済む。
また、硬化した止水部を弾力性、密着性、接着力に富むもの、水や有機物による溶脱がないものとすることができ、コンクリートの背面が地盤の場合には地盤の安定化を期することも可能となる。また、止水材の比重が水に近いため、現に水漏れが生じている場合でも、水に浮いたり沈んだりすることなく、きちんと止水材を行き渡らせることができる。また、硬化調整剤の添加量を調整することにより、ゲルタイムを現場状況に応じてその場で調整することも可能となる。
【0009】
本発明のコンクリート構造物の補修構造の施工方法は、本発明のコンクリート構造物の補修構造を施工する方法であって、前記注入孔を形成して、前記注入孔を形成して、前記注入孔の孔奥と孔外の連通を閉塞可能なパッカーを前記注入孔の口元に設置する第1工程と、粘度1〜5mPa・sで比重1.075±0.025のアクリル酸ナトリウムを主成分とする第1主剤と、粘度1〜5mPa・sで比重1.025±0.025の過硫酸ナトリウムを主成分とする第2主剤と、硬化時間を調整する硬化調整剤を混合しつつ、前記止水材として、前記注入孔の口元の連通部分から前記注入孔内に200kPa以下の圧力で注入する第2工程と、前記コンクリートの表面からの前記止水材の滲み出しを確認する第3工程とを備えることを特徴とする。
これによれば、止水材を硬化して設ける止水部を弾力性、密着性、接着力に富むもの、水や有機物による溶脱がないものとすることができ、コンクリートの背面が地盤の場合には地盤の安定化を期することも可能となる。また、止水材の比重が水に近いため、現に水漏れが生じている場合でも、水に浮いたり沈んだりすることなく、きちんと止水材を行き渡らせることができる。また、硬化調整剤の添加量を調整することにより、ゲルタイムを現場状況に応じてその場で調整することも可能となる。また、200kPa以下の加圧注入により、止水材の十分な拡散、浸透を図りつつ、加圧注入で補修するコンクリートにかかる負担を最小限に留めることができる。また、コンクリートの表面からの止水材の滲み出しで注入完了を効率的に認識することができ、より一層施工効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート構造物の補修構造或いはその施工方法によれば、注入孔がひび割れを横断しない場合やコンクリートの背面に大きな空洞がある場合でも確実に止水することができると共に、低い施工コスト、優れた施工効率での施工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による実施形態のコンクリート構造物の補修構造の施工途中状態を示す一部断面説明図。
【
図2】本発明による実施形態のコンクリート構造物の補修構造を示す縦断面図。
【
図3】漏水しているコンクリートの止水対象領域を示す縦断面図。
【
図4】
図3のコンクリートの止水対象領域に注入孔を穿孔してシールを施した状態を示す縦断面図。
【
図5】
図4の状態から注入孔にパッカーを設置して止水材を注入した状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態のコンクリート構造物の補修構造及びその施工方法〕
本発明による実施形態のコンクリート構造物の補修構造は、
図1に示すように、トンネル1の覆工コンクリート2を補修するものである。覆工コンクリート2の外側の土壌3と覆工コンクリート2との間の背面空洞4には水が存在しており、覆工コンクリート2に生じたひび割れ5からの漏水を止水するように補修構造が設けられる。
【0013】
本実施形態の補修構造では、
図1及び
図2に示すように、覆工コンクリート2の止水対象領域に、覆工コンクリート2の表面側から注入孔6が非貫通で形成されている。非貫通の注入孔6は、止水対象領域に間隔を開けて複数設けられており、各々の注入孔6の先端位置が、覆工コンクリート2の表面側から覆工コンクリート2の厚さ方向の1/2以下の位置となるように形成されており、好ましくは止水材のより広範囲な拡散浸透の観点から厚さ方向の1/2以下1/3以上の位置となるように形成される。
【0014】
各注入孔6の口元にはパッカー7が設置されており、注入孔6のパッカー7よりも孔奥の部分に止水部8a、注入孔6のパッカー7よりも手前の部分に止水部8bが注入孔6を略充填するようにして設けられている。更に、注入孔6がひび割れ5に横断している箇所ではひび割れ5に充填されるようにして止水部9aが設けられ、覆工コンクリート2の背面側におけるひび割れ5の開口を覆うように止水部9bが設けられている。更に、注入孔6の各々を起点として拡散し、止水対象領域の覆工コンクリート2の微小空隙に浸透するようにして止水部10が設けられている。
【0015】
止水部8a、8bと、止水部9a、9bと、止水部10は、粘度5mPa・s以下の主剤から構成される低粘度、高浸透性の止水材によって形成され、止水材は、例えば粘度1〜5mPa・sで比重1.075±0.025のアクリル酸ナトリウムを主成分とする第1主剤と、粘度1〜5mPa・sで比重1.025±0.025の過硫酸ナトリウムを主成分とする第2主剤と、硬化時間を調整する硬化調整剤から構成することが好ましい。
【0016】
止水部8a、8b、9a、9b、10は、覆工コンクリート2の止水対象領域の略全体に亘って設けられ、
図1の例では、注入孔6を起点に拡散して周囲の微小空隙に浸透するように設けられている止水部10が、近隣の止水部10と一部重なるようにして形成されている。
【0017】
本実施形態のコンクリート構造物の補修構造を施工する際には、
図3及び
図4に示すように、ひび割れ5から漏水LWが発生している覆工コンクリート2の止水対象領域に穿孔を施して注入孔6を形成する。
図4の例では、覆工コンクリート2の表面の施工面から覆工コンクリート2の内部に向かって下側に傾斜するようにして注入孔6を形成し、且つ先端位置が覆工コンクリート2の厚さ方向の1/2以下の位置となるようにして注入孔6を形成しており、ひび割れ5を横断する注入孔6と、ひび割れ5の無い箇所に設けられる注入孔6を形成している。この際、止水対象領域のひび割れ5、或いは注入孔6の横断で止水材が直接注入されるひび割れ5等の所要のひび割れ5については、覆工コンクリート2の表面側の開口を覆うようにしてシール材15を塗布或いは貼着等で設ける。
【0018】
そして、
図5に示すように、注入孔6の口元に、注入孔6の孔奥と孔外の連通を閉塞可能なパッカー7を設置する。このパッカー7は、例えば注入孔6への設置後に袋内に膨張材を充填して膨張するもの、膨張ゴムを締め付けて膨張させるものなど適宜である。
【0019】
その後、パッカー7を設置した注入孔6内に、孔奥と孔外との連通部分を介して、止水材を200kPa以下の圧力で注入する。この止水材として、例えば上述の粘度1〜5mPa・sで比重1.075±0.025のアクリル酸ナトリウムを主成分とする第1主剤と、粘度1〜5mPa・sで比重1.025±0.025の過硫酸ナトリウムを主成分とする第2主剤と、硬化調整剤から構成される止水材を注入する場合には、
図1に示すように、第1主剤と第2主剤を低圧ポンプ16で別々に供給し、注入孔6の近傍でミキシングユニット17により硬化調整剤を添加して混合しつつ、注入孔6内に低圧注入する。そして、注入孔6内への止水材の注入は、覆工コンクリート2の表面からの止水材の滲み出しを確認できた段階で完了とする。
【0020】
この際、本実施例の止水材はアクリル樹脂硬化体である為、基本的には無色透明であり、滲み出しにより覆工コンクリート2の表面を汚したくない場合にはこのまま用い、より明確に施工完了を確認したい場合には任意の着色料を混ぜておくことができ、現場条件に応じた色遣いが可能である。
【0021】
この注入孔6内への止水材の注入により、ひび割れ5を横断していない注入孔6においては、注入孔6に充填された止水材が所定時間経過後に硬化して止水部8aが形成されると共に、注入孔6を起点にして注入された止水材が周囲の微小空隙に拡散、浸透することによって止水部10が形成され、更に、注入孔6のパッカー7の手前まで浸透、到達して止水部8bが形成される。
【0022】
また、ひび割れ5を横断している注入孔6においては、注入孔6に注入された止水材はひび割れ5の覆工コンクリート2の裏面側の開口から外側に一部が流れて、その開口を覆うようにして止水部9bが形成され、止水部9bとシール材15との間ではひび割れ5を充填するようにして止水部9aが形成され、更に、注入孔6に止水材が充填されて止水部8aが形成されると共に、注入孔6を起点にして注入された止水材が周囲の微小空隙に拡散、浸透することによって止水部10が形成され、更に、注入孔6のパッカー7の手前まで浸透、到達して止水部8bが形成される。
【0023】
本実施形態によれば、止水部10が覆工コンクリート2の止水対象領域全体に浸透して、微小空隙に浸透した止水部を含めて止水対象領域全体が止水される為、注入孔6がひび割れ5を横断していない場合にも浸透した止水材がひび割れ5に到達して略充填することになるから、注入孔6がひび割れ5を横断せずとも確実に止水することができる。更に、覆工コンクリート2自体に浸透して止水部が構成されるから、覆工コンクリート2の背面空洞4の大小に拘わらず確実に止水することができる。
【0024】
また、
粘度1〜5mPa・s以下の主剤から構成される止水材を加圧注入する際には、安価な低圧ポンプ16の圧力で加圧注入すれば止水材を極微細な微小間隙まで拡散、浸透させることができ、高圧性能を有する高価な高圧ポンプが不要で、低コストで施工することができる。更に、注入孔6を深く穿孔せずとも、低圧の加圧注入で止水材を十分に拡散、浸透させることができることから、穿孔作業の労力を低減し、施工効率を高めることができる。更に、低圧の加圧注入では予期しない箇所から止水材が噴出することがなく、施工管理に要する労力も低減できると共に、補修する覆工コンクリート2に加圧で負荷される負担も少なくて済む。
【0025】
また、覆工コンクリート2の止水対象領域の略全体に亘って止水部が設けられることにより、近い将来ひび割れ5が生ずる可能性が高い箇所も含め、漏れなく止水処理を行うことができ、現に漏水しているひび割れ5を塞いだら別のひび割れ5に水が回って漏水し、そこに止水処理を別途行うような堂々巡りも無くすことができる。特に、本実施形態では止水部がアクリル樹脂硬化体により形成されるので、アクリル樹脂が吸水によって膨潤し、乾燥収縮しても弾性状態を維持し、再度水を含めば膨潤するのを繰り返すという性質を活かしてして止水している為、硬化後の止水材の収縮による隙間の再形成の懸念もなく、安定的且つ長期に亘っての止水効果が期待できる。
【0026】
また、粘度1〜5mPa・sで比重1.075±0.025のアクリル酸ナトリウムを主成分とする第1主剤と、粘度1〜5mPa・sで比重1.025±0.025の過硫酸ナトリウムを主成分とする第2主剤と、硬化時間を調整する硬化調整剤から構成される止水材を用いて止水部を設ける場合には、硬化した止水部を弾力性、密着性、接着力に富むもの、水や有機物による溶脱がないものとすることができ、覆工コンクリート2の背面が地盤の場合には地盤の安定化を期することも可能となる。また、止水部がアルカリ性となるため、中性化した覆工コンクリート2の健全性を復元することができる。また、止水材の比重が水に近いため、現に水漏れが生じている場合でも、水に浮いたり沈んだりすることなく、きちんと止水材を行き渡らせることができる。また、硬化調整剤の添加量を調整することにより、ゲルタイムを現場状況に応じてその場で調整することも可能となる。
【0027】
また、補修構造を施工する際に、覆工コンクリート2の表面からの止水材の滲み出しを目視して注入完了を効率的に認識することができ、より一層施工効率を向上することができる。
【0028】
なお、上記の実施例においては、ひび割れ5の覆工コンクリート2の裏面側の開口から外側に一部が流れて、その開口を覆うようにして止水部9bが形成されている例を述べたが、本発明は、注入孔6をひび割れ5に交差させてこれを充填することを必須要件とはしておらず、止水材を躯体に対して広範囲に拡散浸透させるものである為、図示例は、注入孔6がひび割れ5に当たってしまって、表面側にリターンしてこない場合の対処として、硬化促進剤を止水材に追加で混合添加して使用し、止水部9bを形成した場合の例であり、注入孔6がひび割れ5に当たらなかった場合にはこうした処理は不要である。或いは、現場条件によっては、硬化促進剤の使用量を抑制し、覆工コンクリート2を貫通するひび割れ5を利用して裏面側の背面空洞4に積極的に止水材を流し込み、背面空洞4を止水材で充填しても構わない。
【0029】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明、実施形態、各例の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含むものであり、下記変形例も包含する。
【0030】
例えば本発明のコンクリート構造物の補修構造或いはその施工方法の適用対象は、トンネルの覆工コンクリート2に限定されず、地下施設、建築物等の各種コンクリート構造物の補修に適用することができる。また、本発明で使用する止水材は、粘度5mPa・s以下の主剤から構成される止水材であれば、本発明の趣旨の範囲内で適宜である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、例えばトンネル、地下施設、建築物等のコンクリート構造物で発生する漏水を止水する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…トンネル 2…覆工コンクリート 3…土壌 4…背面空洞 5…ひび割れ 6…注入孔 7…パッカー 8a、8b、9a、9b、10…止水部 15…シール材 16…低圧ポンプ 17…ミキシングユニット LW…漏水 20…コンクリート壁 21…ひび割れ 22…注入孔 23…急結セメント 24…止水部 25…貫通孔 26…止水膜 31…土壌 32…背面空洞