特許第6474099号(P6474099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474099
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20190218BHJP
   F16H 61/686 20060101ALI20190218BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20190218BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20190218BHJP
   F16H 3/46 20060101ALI20190218BHJP
   F16H 3/62 20060101ALI20190218BHJP
   F16H 3/02 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   F16H61/12
   F16H61/686
   F16H61/02
   F16H61/682
   F16H3/46
   F16H3/62
   F16H3/02 A
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-96102(P2015-96102)
(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公開番号】特開2016-211661(P2016-211661A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592058315
【氏名又は名称】アイシン・エーアイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082337
【弁理士】
【氏名又は名称】近島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】宮地 尚
(72)【発明者】
【氏名】姜 栄成
(72)【発明者】
【氏名】藤田 宏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 雅仁
(72)【発明者】
【氏名】村田 広伸
(72)【発明者】
【氏名】大橋 周平
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓海
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 健太
(72)【発明者】
【氏名】植松 隼矢
(72)【発明者】
【氏名】伊興田 直樹
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−169648(JP,U)
【文献】 特開2010−247603(JP,A)
【文献】 特開2015−078765(JP,A)
【文献】 特開2002−130458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/00− 3/78
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
B60K 23/00−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に駆動連結される入力部材と、車両の走行状態を切換可能なトランスファに駆動連結される出力部材と、前記入力部材から前記出力部材までの動力伝達経路上に設けられ、油圧の給排により係脱し、同時係合又は同時解放する組み合わせにより前記入力部材から前記出力部材に動力が伝達される伝達状態と前記入力部材から前記出力部材に動力が遮断される非伝達状態とを選択的に形成可能な複数の係合要素と、を有する変速機構と、
前記係合要素に対して油圧を給排可能な油圧制御装置と、を備えた自動変速機の制御装置であって、
前記トランスファにより前記車両の走行状態を切り換える際に、係合により前記出力部材を停止する停止用係合要素を係合し、前記トランスファの切り換えを開始した後、前記トランスファが切換不能の場合には前記停止用係合要素を解放する、自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記停止用係合要素の解放後、前記トランスファが切換不能の場合には前記停止用係合要素を再び係合し、前記停止用係合要素の解放及び係合を前記トランスファが切り換わるまで繰り返す、請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記非伝達状態において前記トランスファにより前記車両の走行状態の切り換えを開始する、請求項1又は2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
車両停止状態において前記トランスファにより前記車両の走行状態の切り換えを開始する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記トランスファは、
同軸上に配置され相対回転可能な第1の回転要素及び第2の回転要素と、
前記第1の回転要素及び前記第2の回転要素に対して同軸上で軸方向に相対移動可能で、前記第1の回転要素及び前記第2の回転要素の両方に係合して連結する連結状態と、前記第1の回転要素及び前記第2の回転要素の一方に係合して連結を解除する非連結状態と、に切換可能な連結部材と、
前記連結部材を軸方向に付勢可能な付勢機構と、を有し、
前記トランスファにより前記車両の走行状態を切り換える際には、前記付勢機構は、前記第1の回転要素及び前記第2の回転要素を連結する方向に前記連結部材を付勢し続ける、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記複数の係合要素は、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記変速機構は、少なくとも第1の遊星回転要素、第2の遊星回転要素、第3の遊星回転要素を含むプラネタリギヤセットを有し、
前記第1の遊星回転要素は、前記出力部材に連結され、
前記第2の遊星回転要素は、前記停止用係合要素としてのブレーキに連結され、
前記第3の遊星回転要素は、前記停止用係合要素としてのワンウェイクラッチに連結される、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項8】
前記変速機構は、少なくとも第1の遊星回転要素及び他の遊星回転要素を含むプラネタリギヤセットを有し、
前記第1の遊星回転要素は、前記出力部材に連結され、
前記他の遊星回転要素のうちの少なくとも1つの回転要素は、クラッチを介して前記入力部材に連結され、
前記停止用係合要素は、係合により前記入力部材の回転を停止することで前記出力部材の回転が停止される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項9】
前記第1の回転要素及び前記第2の回転要素と前記連結部材とはドグクラッチである、請求項5に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項10】
前記トランスファは、高速段及び低速段を選択的に切り換えることにより、前記車両の走行状態を切換可能である、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に搭載される自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラッチ及びブレーキの係脱を切り換えることにより、複数の変速段を選択的に形成可能な変速機構を有する例えば車両用の自動変速機が広く普及している。このような自動変速機を搭載した車両では、自動変速機の出力軸と駆動輪との間にトランスファを設け、このトランスファにより四輪駆動及び二輪駆動を切り換えたり、あるいは高速段及び低速段を切り換えたりするものが知られている。
【0003】
このようなトランスファにおいて、例えば、高速段及び低速段を切り換えるための機構として、外周部に外スプラインを有する同径の複数の回転板と、これらの回転板の周囲を軸方向に移動可能で、複数の回転板の外スプラインに同時に係合可能な内スプラインを有するスリーブと、を有する機構がある(例えば、図2参照)。この機構によれば、スリーブを軸方向に移動させ、内外のスプラインが同時係合する回転板を切り換えることで、高速段及び低速段を切換可能になっている(例えば、図4(a)〜(c)参照)。
【0004】
このトランスファを有する車両において、例えば、停車中に、変速機構の全てのクラッチ及びブレーキが解放されるニュートラル(N)レンジが選択されている場合に、運転者によってトランスファの高速段及び低速段を切り換える操作がなされることがある。この場合、駆動源である内燃エンジンはアイドリング回転をしており、変速機構はNレンジであってもクラッチにおいて連れ回りが発生し得ることから、自動変速機の出力部材(出力軸)がある程度の速度で回転する可能性がある。これにより、トランスファにおいて、出力部材に連結された回転板の外スプラインに対してスリーブの内スプラインを係合しようとしても、回転板の回転によりスリーブが弾かれて切り換えできない可能性がある。
【0005】
これを解決するために、トランスファが連結された自動変速機においてNレンジが選択されている場合に、一部のクラッチ及びブレーキを係合し、自動変速機の出力部材の回転速度を低下させて、出力部材に連結された回転板に対してスリーブを係合し易くする自動変速機の制御装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−247603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された自動変速機の制御装置では、トランスファが切り換わるまで一部のクラッチ及びブレーキを係合したままであるので、例えば、出力部材に連結された回転板の外スプライン及び内スプラインの軸方向の対向面同士が当接し、外スプラインは回転方向に押圧し、内スプラインは軸方向に押圧することで、両者とも動けなくなってしまう可能性がある(例えば、図4(c)参照)。即ち、自動変速機の出力部材に連結されたトランスファの回転要素に対してスリーブが当接して完全に切り換わる前に動けなくなってしまい、トランスファが切換不能になってしまう可能性がある。この場合、このまま待ち続けてもトランスファが切り換わらず、車両の走行状態を切り換えできない可能性があるという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、変速機構のニュートラルレンジ時に、トランスファのスリーブが軸方向に移動不能になって、トランスファにより車両の走行状態を切り換えできなくなることを回避できる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る自動変速機の制御装置は、駆動源に駆動連結される入力部材と、車両の走行状態を切換可能なトランスファに駆動連結される出力部材と、前記入力部材から前記出力部材までの動力伝達経路上に設けられ、油圧の給排により係脱し、同時係合又は同時解放する組み合わせにより前記入力部材から前記出力部材に動力が伝達される伝達状態と前記入力部材から前記出力部材に動力が遮断される非伝達状態とを選択的に形成可能な複数の係合要素と、を有する変速機構と、前記係合要素に対して油圧を給排可能な油圧制御装置と、を備えた自動変速機の制御装置であって、前記トランスファにより前記車両の走行状態を切り換える際に、係合により前記出力部材を停止する停止用係合要素を係合し、前記トランスファの切り換えを開始した後、前記トランスファが切換不能の場合には前記停止用係合要素を解放する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の自動変速機の制御装置によると、トランスファにより車両の走行状態を切り換える際に、係合により少なくとも出力部材を停止するように作用する停止用係合要素を係合し、トランスファの切り換えを開始した後、トランスファが切換不能の場合には停止用係合要素を解放する。停止用係合要素が解放されることにより、出力部材を停止しようとする力が解除されるので、出力部材が回転可能になり、トランスファにより車両の走行状態を切り換えできなくなることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態の車両を示す概略図。
図2】本実施の形態の自動変速機及びトランスファを示すスケルトン図。
図3】本実施の形態の自動変速機における係合表。
図4】本実施の形態の外スプライン及び内スプラインの係合状態を示す平面図であり、(a)は各スプラインの当接面がワンウェイクラッチの回転可能な方向に当接した場合、(b)は(a)の後、内スプラインが外スプラインの間に進入した場合、(c)は各スプラインの当接面がワンウェイクラッチの回転不能な方向に当接した場合である。
図5】本実施の形態の自動変速機におけるトランスファの切換開始前の動作を示すフローチャート。
図6】本実施の形態の自動変速機におけるトランスファの切換開始後の動作を示すフローチャート。
図7】本実施の形態の自動変速機における運転者の操作と各部の信号等とのタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施の形態に係る自動変速機3の制御装置を、図1乃至図7に沿って説明する。尚、本明細書中で駆動連結とは、互いの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、それら回転要素が一体的に回転するように連結された状態、あるいはそれら回転要素がクラッチ等を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いる。
【0013】
本実施形態の自動変速機3の制御装置を備える車両1の概略構成について図1に沿って説明する。車両1は、内燃エンジン(駆動源)2と、自動変速機3と、トランスファ4と、前輪5と、後輪6と、ECU(車両側制御装置)7と、変速機ECU(制御装置)8等を備えている。内燃エンジン2は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、自動変速機3に連結されている。
【0014】
前輪5は、トランスファ4に連結された前駆動軸50と、前駆動軸50に連結された前ディファレンシャル51と、前ディファレンシャル51に連結された左右の前ドライブ軸52とを介して、トランスファ4に連結されている。後輪6は、トランスファ4に連結された後駆動軸60と、後駆動軸60に連結された後ディファレンシャル61と、後ディファレンシャル61に連結された左右の後ドライブ軸62とを介して、トランスファ4に連結されている。このため、前輪5及び後輪6は、トランスファ4からの駆動力により回転し、車両1は四輪駆動で走行可能になっている。
【0015】
図2に示すように、自動変速機3は、自動変速機3の入力軸31と、発進装置10と、変速機構20の入力軸(入力部材)32と、変速機構20と、出力軸(出力部材)33とを、同一軸線上に並べて備え、また、これらを収容するミッションケース(ケース)34を備えている。自動変速機3の入力軸31は、内燃エンジン2のクランク軸2aに接続されている。
【0016】
発進装置10は、トルクコンバータ11と、それをロックアップし得るロックアップクラッチ12とを備えている。トルクコンバータ11は、自動変速機3の入力軸31に接続されたポンプインペラ11aと、作動流体である油を介してポンプインペラ11aの回転が伝達されるタービンランナ11bと、それらの間に配置されると共にワンウェイクラッチ11dにより一方向に回転が規制されたステータ11cとを有している。タービンランナ11bは、変速機構20の入力軸32に接続されている。ロックアップクラッチ12は、係合によりフロントカバー12aと変速機構20の入力軸32とを直接係合し、トルクコンバータ11をロックアップした状態にする。
【0017】
変速機構20は、ケース34に収容され、入力軸32側から順に、第1プラネタリギヤDP1と、第2及び第3プラネタリギヤSP2,DP3からなるプラネタリギヤセットPSと、を備えている。第1,第3プラネタリギヤSP1,SP3は、いずれもダブルピニオンプラネタリギヤにより構成され、第2プラネタリギヤSP2は、シングルピニオンプラネタリギヤにより構成されている。
【0018】
第1プラネタリギヤDP1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、それら第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1に噛合する第1ピニオンP1及び第2ピニオンP2を回転自在に支持する第1キャリヤCR1と、を有している。
【0019】
第1サンギヤS1は、ケース34に対して固定されている。第1リングギヤR1は、第1クラッチC1及び第3クラッチC3に駆動連結されている。第1キャリヤCR1は、変速機構20の入力軸32に常時駆動連結されると共に、第4クラッチC4に駆動連結されている。
【0020】
プラネタリギヤセットPSは、第2プラネタリギヤSP2と、第3プラネタリギヤDP3とを有している。第2プラネタリギヤSP2は、第3クラッチ(停止用係合要素)C3、第4クラッチC4、第1ブレーキ(停止用係合要素)B1に駆動連結された第2サンギヤ(第2の遊星回転要素)S2と、第2サンギヤS2及び第3リングギヤ(第1の遊星回転要素)R3に噛合する第3ピニオンP3を回転自在に支持する第2キャリヤCR2(第3の遊星回転要素)と、を有している。
【0021】
また、第3プラネタリギヤDP3は、第1クラッチC1に駆動連結された第3サンギヤS3と、出力軸33に駆動連結された第3リングギヤR3と、第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3に噛合する第4ピニオンP4及び第5ピニオンP5を回転自在に支持する第3キャリヤCR3(第3の遊星回転要素)と、を有している。
【0022】
プラネタリギヤセットPSにおいて、第3ピニオンP3と第5ピニオンP5とは1つのロングピニオンにより構成されている。プラネタリギヤセットPSにおける第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3は、変速機構20の入力軸32との間に介在された第2クラッチC2に接続されていると共に、ケース34に対して回転を係止し得る第2ブレーキB2に接続され、かつケース34に対して回転を一方向に規制するワンウェイクラッチF1に接続されている。即ち、この変速機構20は、動力伝達経路上に設けられると共に、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1の係合時に出力軸33を一方向にのみ回転可能にするワンウェイクラッチF1を有している。第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3には、第2クラッチC2を介して入力軸32の回転が選択的に入力し得ると共に、その回転がワンウェイクラッチF1により内燃エンジン2からの回転方向に対して許容され、かつ逆の回転方向に対して規制(駆動力出力状態で係合)され、更に、その回転が第2ブレーキB2により係止し得るように構成されている。
【0023】
プラネタリギヤセットPSにおける第3リングギヤR3は、出力軸33に接続されており、第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3、第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3の回転状態により定まる回転を、出力軸33からトランスファ4に出力する。
【0024】
ここで、プラネタリギヤセットPSにおける第3サンギヤは、入力軸32に駆動連結された第1キャリヤCR1に対して所定の減速比で駆動連結された第1リングギヤR1に、第1クラッチC1を介して連結され、第2キャリヤCR2及び第3キャリヤCR3は、第2クラッチC2を介して入力軸32に連結されている。
【0025】
即ち、本実施の形態では、変速機構20は、内燃エンジン2に駆動連結される入力軸32と、車両1の走行状態を切換可能なトランスファ4に駆動連結される出力軸33と、入力軸32から出力軸33までの動力伝達経路上に設けられ、油圧の給排により係脱し、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能な複数の係合要素C1,C2,C3,C4,B1,B2と、を有している。
【0026】
また、本実施の形態では、変速機構20は、少なくとも第3リングギヤR3、第2サンギヤS2、第2及び第3キャリヤCR2,CR3を含むプラネタリギヤセットPSを有し、第3リングギヤR3は出力軸33に連結され、第2サンギヤS2は停止用係合要素C3,B1としての第1ブレーキB1に連結され、第2及び第3キャリヤCR2,CR3は停止用係合要素C3,B1,F1としてのワンウェイクラッチF1に連結される。このため、停止用係合要素C3,B1の係合時に出力軸33を停止する方向の力が発生しても、出力軸33は一方向には回転可能になる。したがって、前進方向はフリー、後進方向はロックするようにできる。尚、ここでは、プラネタリギヤセットPSとして、第2プラネタリギヤSP2と第3プラネタリギヤDP3とを有するものとしたが、これには限られない。例えば、単独のリングギヤとサンギヤとキャリヤとを有するシングルプラネタリとして、リングギヤは出力軸33に連結され、サンギヤは停止用係合要素C3,B1としての第1ブレーキB1に連結され、キャリヤは停止用係合要素C3,B1,F1としてのワンウェイクラッチF1に連結されるようにしてもよい。
【0027】
また、本実施の形態では、変速機構20は、少なくとも第3リングギヤR3及び他の遊星回転要素を含むプラネタリギヤセットPSを有し、第3リングギヤR3は、出力軸33に連結され、他の遊星回転要素のうちの少なくとも1つの回転要素(第2及び第3キャリヤCR2,CR3)は、第2クラッチC2を介して入力軸32に連結され、停止用係合要素C3,B1は、係合により入力軸32の回転を停止することで出力軸33の回転が停止される。このため、非伝達状態において、内燃エンジン2及び入力軸32からの回転が第2クラッチC2の引き摺りによって出力軸33に伝達されてしまう場合でも、入力軸32の回転を停止することで、出力軸33の回転を停止することができる。
【0028】
以上のように構成された自動変速機3は、図2のスケルトンに示す各第1〜第4クラッチC1〜C4、第1及び第2ブレーキB1,B2、ワンウェイクラッチF1が、図3の係合表に示す組み合わせで作動されることにより、前進1速段(1st)〜前進8速段(8th)、後進1速段(Rev1)及び後進2速段(Rev2)を達成する。
【0029】
油圧制御装置30は、例えばバルブボディにより構成されており、オイルポンプから供給された油圧からライン圧等を生成し、変速機ECU8からの制御信号に基づいて各第1〜第4クラッチC1〜C4と、第1及び第2ブレーキB1,B2とをそれぞれ制御するための油圧を給排可能になっている。
【0030】
変速機ECU8は、例えば、CPUと、処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備えており、油圧制御装置30の各ソレノイドバルブへの制御信号等、各種の信号を出力ポートから出力する。変速機ECU8は、油圧制御装置30を電気的に制御する。変速機ECU8は、例えば、第3クラッチC3の油圧サーボに供給する油圧を制御するためのC3供給圧制御信号や第1ブレーキB1の油圧サーボに供給する油圧を制御するためのB1供給圧制御信号を生成し、油圧制御装置30に送信する。
【0031】
ECU7は、例えば、CPUと、処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備えており、例えば、内燃エンジン2に対してスロットル開度や燃料噴射量の制御等を行ったり、トランスファ4に対して変速段の切換えの制御等を行ったりすることができる。なお、本実施の形態では、ECU7を1つのECUとして記載しているが、これには限られず、例えば、エンジンECUやトランスファECU等、制御対象ごとにECUを設け、それらのECUを統括するECUを備えるようにしてもよい。
【0032】
また、ECU7は、不図示のシフトポジションセンサ、出力軸33の不図示の回転速度センサ、フットブレーキのオンオフを検出する不図示のブレーキセンサ、トランスファ4の切換スイッチ等が接続されている。このため、ECU7は、出力軸33の回転速度に基づいて車速を演算可能であり、また、シフトポジションの位置を示すシフトポジション信号、トランスファ4の切換スイッチの状態を示すT/Fスイッチ信号、ブレーキの操作状態を示すブレーキ操作信号等を制御する。更に、ECU7は、所定時間ΔT1〜ΔT4を計測可能なタイマを有している。
【0033】
図2に示すように、トランスファ4は、入力軸41と、入力軸41に設けられた入力ギヤ42と、回転軸43に設けられた大ドライブギヤ44及び小ドライブギヤ45と、高速側ドリブンギヤ46と、低速側ドリブンギヤ47と、各ドリブンギヤ(第1の回転要素)46,47の間に設けられる中間回転板(第2の回転要素)48と、中間回転板48の外周側に設けられる切換スリーブ(連結部材)49と、切換スリーブ49を移動させる付勢機構49a(フォーク及びアクチュエータ等)を備えている。入力軸41は、自動変速機3の出力軸33に駆動連結されている。入力ギヤ42は、大ドライブギヤ44に噛合している。大ドライブギヤ44は、小ドライブギヤ45よりも大径になっている。
【0034】
各ドリブンギヤ46,47と中間回転板48とは、同軸上に配置されている。中間回転板48は、同軸上に配置された前駆動軸50及び後駆動軸60の間に設けられて、外スプライン48sを備えている。高速側ドリブンギヤ46は、例えば、前駆動軸50に対して同軸上の外周側に配置され、大ドライブギヤ44に噛合するギヤ部46aと、中間回転板48に隣接する外スプライン46sとを備えている。低速側ドリブンギヤ47は、例えば、後駆動軸60に対して同軸上の外周側に配置され、小ドライブギヤ45に噛合するギヤ部47aと、中間回転板48に隣接する外スプライン47sとを備えている。各外スプライン46s,47s,48sの外径は、同径になっている。
【0035】
切換スリーブ49は、スリーブ状で、内周部に各外スプライン46s,47s,48sに係合可能な内スプライン49sを備え、これら外スプライン46s,47s,48sに対して軸方向に移動可能に設けられている。切換スリーブ49は、移動により、中間回転板48と高速側ドリブンギヤ46とを連結した状態(高速段)、中間回転板48と低速側ドリブンギヤ47とを連結した状態(低速段)、いずれも連結しない状態(ニュートラル状態)との3つの状態に切り換わることができる。なお、本実施の形態では、切換スリーブ49はアクチュエータの駆動によりフォークを介して移動するものとしている。但し、切換スリーブ49を移動させるための機構としては、これに限られず、既知の適宜な機構を適用することができる。また、トランスファ4は、切換スリーブ49の位置を検出する不図示の位置センサを備えており、切り換えの状態をECU7に送信する。
【0036】
このトランスファ4では、高速段形成時には、切換スリーブ49の内スプライン49sは、中間回転板48の外スプライン48sと高速側ドリブンギヤ46の外スプライン46sとに跨って係合し、切換スリーブ49が中間回転板48と高速側ドリブンギヤ46とを連結する。これにより、入力軸41の回転は、入力ギヤ42、大ドライブギヤ44、高速側ドリブンギヤ46、切換スリーブ49を介して、中間回転板48に伝達される。また、低速段形成時には、切換スリーブ49の内スプライン49sは、中間回転板48の外スプライン48sと低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sとに跨って係合し、切換スリーブ49が中間回転板48と低速側ドリブンギヤ47とを連結する。これにより、入力軸41の回転は入力ギヤ42、大ドライブギヤ44、回転軸43、小ドライブギヤ45、低速側ドリブンギヤ47、切換スリーブ49を介して、中間回転板48に伝達される。低速段形成時は、高速段形成時に比べてより大きく減速するように、各部のギヤ比が設定されている。
【0037】
ここで、内燃エンジン2の駆動中で車両1の停止時に、自動変速機3において停止用係合要素である第3クラッチC3及び第1ブレーキB1のみを係合した状態で、トランスファ4の切り換えを行う場合について、詳細に説明する。ここでの停止用係合要素は、係合により少なくとも出力軸33を停止する方向の力を発生するものであり、本実施の形態ではワンウェイクラッチF1を備えていることから、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1を係合した際には出力軸33は一方向のみに回転可能になり、反対方向には回転不能になる。なお、車両1が停止しているので、中間回転板48は回転不能になっている。
【0038】
この状態で、トランスファ4を、例えば、高速段から低速段に切り換える場合、切換スリーブ49の内スプライン49sは、中間回転板48の外スプライン48sと高速側ドリブンギヤ46の外スプライン46sとに跨って係合する状態から移動して、中間回転板48の外スプライン48sのみに係合する状態を経て、図4(a)に示すように、移動方向A2に移動して低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sと係合しようとする。ここで、低速側ドリブンギヤ47は、小ドライブギヤ45、大ドライブギヤ44及び入力軸41を介して自動変速機3の出力軸33に連結されているので、ワンウェイクラッチF1の作用により一方向のみに回転可能になる。本実施の形態では、回転方向A1にのみ回転可能とする。また、切換スリーブ49の内スプライン49sの軸方向の先端部と、低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sの軸方向の先端部とは、それぞれ楔状に形成されている。
【0039】
そして、図4(a)に示すように、切換スリーブ49の内スプライン49sの回転方向A1側の先端面49saが、対向する低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sの先端面47saに当接した場合は、回転不能な中間回転板48の外スプライン48sに係合する切換スリーブ49の内スプライン49sの先端面49saが、回転方向A1に回転可能な低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sの先端面47saを押し込んで、低速側ドリブンギヤ47を回転方向A1に回転させる。さらに、図4(b)に示すように、切換スリーブ49の内スプライン49sが低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sに係合し、中間回転板48と低速側ドリブンギヤ47とを連結する。
【0040】
一方、図4(c)に示すように、切換スリーブ49の内スプライン49sの回転方向A1の反対側の先端面49sbが、対向する低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sの先端面47sbに当接した場合は、回転不能な中間回転板48の外スプライン48sに係合する切換スリーブ49の内スプライン49sの先端面49sbが、回転方向A1の反対方向には回転不能な低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sの先端面47sbを押し込んでも、低速側ドリブンギヤ47は回転しない。このため、この場合は、このまま動けずに、切り換えを行うことができない可能性がある。そこで、本実施の形態では、変速機ECU8は、トランスファ4により車両1の走行状態を切り換える際に、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1を係合し、トランスファ4の切り換えを開始した後、トランスファ4が切換不能の場合には第3クラッチC3及び第1ブレーキB1を解放する。これにより、出力軸33を両方向に回転可能にし、切換スリーブ49の内スプライン49sが低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sに係合できるようにする。
【0041】
次に、上述した自動変速機3及びトランスファ4の動作について、図5及び図6のフローチャート、並びに図7のタイムチャートに沿って説明する。ここでは、車両1の停止時で自動変速機3のシフトポジションがNレンジである場合に、トランスファ4を高速段から低速側に切り換える動作について説明する。また、内燃エンジン2の駆動中、車両1の停止時で自動変速機3のシフトポジションがNレンジである場合に、例えば第2クラッチC2に引き摺りが発生して、内燃エンジン2のアイドリングの回転が出力軸33に伝達されて出力軸33が回転してしまう可能性があるものとする。
【0042】
まず、内燃エンジン2は駆動し、車両1は停止しており、自動変速機3のシフトポジションはNレンジであり、フットブレーキ等の車両1の制動装置はオフであるものとする(図7のt0)。このときは、全ての係合要素C1,C2,C3,C4,B1,B2が解放されている。変速機ECU8は、自動変速機3のシフトポジションがNレンジであるか否かを判断する(図5のステップS1)。ここでの判断は、ECU7により生成されたシフトポジション信号を参照して行う。変速機ECU8が、シフトポジションはNレンジではないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。
【0043】
変速機ECU8は、シフトポジションがNレンジであると判断した場合は、車両1が停車中であるか否かを判断する(図5のステップS2)。ここでの判断は、出力軸33の回転速度センサの検出結果によるECU7の判断に基づいて行う。変速機ECU8は、車両1が停車中ではないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。
【0044】
変速機ECU8は、車両1が停車中であると判断した場合は、フットブレーキ等が操作されているか否かを判断する(図5のステップS3)。ここでの判断は、ECU7により生成されたブレーキ操作信号を参照して行う。変速機ECU8は、フットブレーキ等が操作されていないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。
【0045】
運転者によりブレーキ操作がなされ、ブレーキ操作信号がオンされると(図7のt1)、ECU7は、フットブレーキが操作されたと判断し、N時B1係合信号をオンする(図5のステップS4)。また、変速機ECU8は、B1供給圧制御信号を解放圧から第1係合圧に上昇し、第1ブレーキB1を係合状態にする(図5のステップS5)。
【0046】
変速機ECU8は、トランスファ4の切換操作があったか否かを判断する(図5のステップS6)。ここでの判断は、ECU7により生成されたT/Fスイッチ信号を参照して行う。変速機ECU8は、トランスファ4の切換操作がないと判断した場合は、処理を終了して再度ステップS1から実行する。
【0047】
運転者によりトランスファ4の切換操作がなされ、ECU7によってT/Fスイッチ信号がハイ(高速段)からロー(低速段)に変化すると(図7のt2)、ECU7は、出力軸停止要求フラグをオンする(図5のステップS7)。その後、変速機ECU8は、ECU7からの信号を受け、C3B1係合信号をオンし(図7のt3、図5のステップS8)、C3供給圧制御信号を係合圧に、B1供給圧制御信号を第2係合圧にする。これにより、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1が係合状態になり(図5のステップS9)、第2クラッチC2の引き摺りによって回転していた出力軸33が停止する。
【0048】
また、変速機ECU8は、出力軸制御状態信号を「非制御」から「制御中」に切り換える。変速機ECU8は、出力軸制御状態信号を「制御中」に切り換えてから所定時間、例えばΔT1経過後、出力軸制御状態信号を「停止制御」に切り換える(図7のt4、図5のステップS10)。ECU7は、出力軸制御状態信号を「停止制御」に切り換えてから所定時間、例えばΔT2経過後、トランスファ4の低速段への切り換えを開始し(図7のt5、図5のステップS11)、T/F状態信号をハイからニュートラルにする(図5のステップS12)。
【0049】
ECU7は、T/F状態信号をニュートラルにしてから所定時間、例えばΔT3経過前にT/F状態信号がローになったか否かを判断する(図6のステップS13)。ECU7が、ΔT3経過前にT/F状態信号がローになったと判断した場合は、ブレーキ操作信号がオンのままであれば、第3クラッチC3を係合する必要がなくなるので、第3クラッチC3を解放し、後述するステップS19の処理を実行する。
【0050】
ECU7は、ΔT3経過前にT/F状態信号がローになっていないと判断した場合は、出力軸停止要求フラグをオフにする(図7のt6、図6のステップS14、切換不能の信号)。変速機ECU8は、ECU7から出力された出力軸停止要求フラグのオフにより、C3B1係合信号及びN時B1係合信号をいずれもオフにし(図6のステップS15)、C3供給圧制御信号及びB1供給圧制御信号をいずれも解放圧にする。これにより、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1が解放状態になり(図6のステップS16)、出力軸33が両回転方向に回転可能になる。また、変速機ECU8は、出力軸制御状態信号を「停止制御」から「非制御」に切り換える(図6のステップS17)。
【0051】
ECU7は、出力軸停止要求フラグをオフにして出力軸33を両回転方向に回転可能にしてから所定時間、例えばΔT4経過前にT/F状態信号がローになったか否かを判断する(図7のt7、図6のステップS18)。ECU7が、ΔT4経過前にT/F状態信号がローになっていないと判断した場合は、出力軸停止要求フラグをオフにし、変速機ECU8はステップS7〜ステップS17の処理を繰り返す(図7のt7〜t10)。即ち、本実施の形態では、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1の解放後、トランスファ4が切換不能の場合には第3クラッチC3及び第1ブレーキB1を再び係合し、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1の解放及び係合をトランスファ4が切り換わるまで繰り返す。
【0052】
ΔT4経過前に、変速機ECU8がT/F状態信号がローになったと判断した場合は、N時B1係合信号をオンにして(図7のt11、図6のステップS19)、B1供給圧制御信号を解放圧から第1係合圧に上昇し、第1ブレーキB1を係合状態にする(図6のステップS20)。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態の自動変速機3の変速機ECU8によると、トランスファ4により車両1の走行状態を切り換える際に、係合により少なくとも出力軸33を停止する方向の力を発生する、即ち、停止するように作用する第3クラッチC3及び第1ブレーキB1を係合し、トランスファ4の切り換えを開始した後、トランスファ4が切換不能の場合には第3クラッチC3及び第1ブレーキB1を解放する。第3クラッチC3及び第1ブレーキB1が解放されることにより、出力軸33を停止しようとする力が解除されるので、出力軸33が回転可能になり、これに伴い出力軸33に連結されたトランスファ4の高速側ドリブンギヤ46及び低速側ドリブンギヤ47が回転可能になる。このため、高速側ドリブンギヤ46又は低速側ドリブンギヤ47に当接して動けなくなっていたトランスファ4の切換スリーブ49が軸方向に移動可能になるので、トランスファ4により車両1の走行状態を切り換えできなくなることを回避することができる。
【0054】
また、本実施の形態の自動変速機3によれば、変速機構20はワンウェイクラッチF1を有しているので、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1の係合時に出力軸33を停止する方向の力が発生しても一方向には回転可能になる。このため、例えば、図4(a)及び図4(b)に示すように、切換スリーブ49の内スプライン49sの回転方向A1側の先端面49saが、対向する低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sの先端面47saに当接した場合に、切換スリーブ49の内スプライン49sの先端面49saが、低速側ドリブンギヤ47の外スプライン47sの先端面47saを押し込んで、中間回転板48と低速側ドリブンギヤ47とを連結することができる。
【0055】
また、本実施の形態の自動変速機3の変速機ECU8によれば、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1の解放後、トランスファ4が切換不能の場合には第3クラッチC3及び第1ブレーキB1を再び係合し、第3クラッチC3及び第1ブレーキB1の解放及び係合をトランスファ4が切り換わるまで繰り返す。これにより、トランスファ4が高速段及び低速段のいずれも形成することなく処理を停止することで、車両1が停止状態になってしまうことを防止できる。
【0056】
また、本実施の形態の自動変速機3の変速機ECU8によれば、トランスファ4の切換開始から所定時間ΔT3経過しても切り換わっていない場合に、ECU7が出力軸停止要求フラグをオフにすることで変速機ECU8に切換不能の信号を送信し(図9のt6、t10)、変速機ECU8はECU7から切換不能の信号を受信した場合に、トランスファ4が切換不能であると判断する。このため、変速機ECU8は、所定時間ΔT3を計測するタイマを有する必要が無く、処理を簡素化することができる。
【0057】
尚、上述した実施の形態では、トランスファ4を高速段から低速段に切り換える動作について説明したが、これには限られず、トランスファ4を低速段から高速段に切り換える動作についても同様である。
【0058】
また、本実施の形態では、駆動源として内燃エンジン2を適用した場合ついて説明したが、これには限られず、駆動源として電動機を適用してもよい。この場合、例えば、電動機により油圧確保のためにアイドリングを行う際にトランスファ4を切り換える場合に、本実施の形態を適用することができる。
【0059】
また、本実施の形態では、変速機構として前進8速段、後進2速段の変速機構20を適用した場合について説明したが、これには限られず、他の変速段を有する変速機構を適用してもよい。あるいは、変速機構としては多段式には限られず、例えば副変速機付き無段変速機(CVT)を適用してもよい。この場合、副変速機は、同時係合する組み合わせにより出力軸33を停止するように作用する停止用係合要素としてのクラッチ又はブレーキを有するものとする。この副変速機付き無段変速機によれば、トランスファ4により車両1の走行状態を切り換える際に、停止用係合要素を係合し、トランスファ4の切り換えを開始した後、トランスファ4が切換不能の場合には停止用係合要素を解放することで、上述した実施の形態と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0060】
尚、本実施の形態は、以下の構成を少なくとも備える。本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)は、駆動源(2)に駆動連結される入力部材(32)と、車両(1)の走行状態を切換可能なトランスファ(4)に駆動連結される出力部材(33)と、前記入力部材(32)から前記出力部材(33)までの動力伝達経路上に設けられ、油圧の給排により係脱し、同時係合又は同時解放する組み合わせにより前記入力部材(32)から前記出力部材(33)に動力が伝達される伝達状態と前記入力部材(32)から前記出力部材(33)に動力が遮断される非伝達状態とを選択的に形成可能な複数の係合要素(C1,C2,C3,C4,B1,B2)と、を有する変速機構(20)と、前記係合要素(C1,C2,C3,C4,B1,B2)に対して油圧を給排可能な油圧制御装置(30)と、を備えた自動変速機(3)の制御装置(8)であって、前記トランスファ(4)により前記車両(1)の走行状態を切り換える際に、係合により前記出力部材(33)を停止する停止用係合要素(C3,B1)を係合し、前記トランスファ(4)の切り換えを開始した後、前記トランスファ(4)が切換不能の場合には前記停止用係合要素(C3,B1)を解放する。この構成によれば、停止用係合要素(C3,B1)が解放されることにより、出力部材(33)を停止するように作用する力が解除されるので、出力部材(33)が回転可能になり、トランスファ(4)により車両(1)の走行状態を切り換えできなくなることを回避することができる。
【0061】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、前記停止用係合要素(C3,B1)の解放後、前記トランスファ(4)が切換不能の場合には前記停止用係合要素(C3,B1)を再び係合し、前記停止用係合要素(C3,B1)の解放及び係合を前記トランスファ(4)が切り換わるまで繰り返す。この構成によれば、トランスファ(4)が走行可能な状態に切り換わらず処理を停止することで、車両(1)が停止状態になってしまうことを防止できる。
【0062】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、前記非伝達状態において前記トランスファ(4)により前記車両(1)の走行状態の切り換えを開始する。この構成によれば、ニュートラル時におけるトランスファ(4)の切り換えに対して適用することができる。
【0063】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、車両停止状態において前記トランスファ(4)により前記車両(1)の走行状態の切り換えを開始する。この構成によれば、車両(1)の停止時におけるトランスファ(4)の切り換えに対して適用することができる。
【0064】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、前記トランスファ(4)は、同軸上に配置され相対回転可能な第1の回転要素(46,47)及び第2の回転要素(48)と、前記第1の回転要素(46,47)及び前記第2の回転要素(48)に対して同軸上で軸方向に相対移動可能で、前記第1の回転要素(46,47)及び前記第2の回転要素(48)の両方に係合して連結する連結状態と、前記第1の回転要素(46,47)及び前記第2の回転要素(48)の一方に係合して連結を解除する非連結状態と、に切換可能な連結部材(49)と、前記連結部材(49)を軸方向に付勢可能な付勢機構(49a)と、を有し、前記トランスファ(4)により前記車両(1)の走行状態を切り換える際には、前記付勢機構(49a)は、前記第1の回転要素(46,47)及び前記第2の回転要素(48)を連結する方向に前記連結部材(49)を付勢し続ける。この構成によれば、トランスファ(4)が切り換わらなかった場合に、トランスファ(4)の切り換えを再度実行する必要はなく、停止用係合要素(C3,B1)を解放することで、付勢機構(49a)の作用によってトランスファ(4)が切り換わるので、制御を容易にすることができる。
【0065】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、前記複数の係合要素(C1,C2,C3,C4,B1,B2)は、同時係合する組み合わせにより複数の変速段を選択的に形成可能である。この構成によれば、自動変速機(3)の制御装置(8)を多段変速機に適用することができる。
【0066】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、前記変速機構(20)は、少なくとも第1の遊星回転要素(R3)、第2の遊星回転要素(S2)、第3の遊星回転要素(CR2,CR3)を含むプラネタリギヤセット(PS)を有し、前記第1の遊星回転要素(R3)は、前記出力部材(33)に連結され、前記第2の遊星回転要素(S2)は、前記停止用係合要素(C3,B1)としてのブレーキ(B1)に連結され、前記第3の遊星回転要素(CR2,CR3)は、前記停止用係合要素(C3,B1,F1)としてのワンウェイクラッチ(F1)に連結される。この構成によれば、停止用係合要素(C3,B1)の係合時に出力部材(33)を停止する方向の力が発生しても、出力部材(33)は一方向には回転可能になる。このため、トランスファ(4)の切り換え時に出力部材(33)を回転させる方向に作動する場合は、停止用係合要素(C3,B1)の係合時であってもトランスファ(4)を切り換えることができ、迅速な切換え動作を実現することができる。
【0067】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、前記変速機構(20)は、少なくとも第1の遊星回転要素(R3)及び他の遊星回転要素を含むプラネタリギヤセット(PS)を有し、前記第1の遊星回転要素(R3)は、前記出力部材(33)に連結され、前記他の遊星回転要素のうちの少なくとも1つの回転要素(CR2,CR3)は、クラッチ(C2)を介して前記入力部材(32)に連結され、前記停止用係合要素(C3,B1)は、係合により前記入力部材(32)の回転を停止することで前記出力部材(33)の回転が停止される。この構成によれば、非伝達状態において、駆動源(2)及び入力部材(32)からの回転が係合要素(C2)の引き摺りによって出力部材(33)に伝達されてしまう場合でも、入力部材(32)の回転を停止することで、出力部材(33)の回転を停止することができる。
【0068】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、前記第1の回転要素(46,47)及び前記第2の回転要素(48)と前記連結部材(49)とはドグクラッチである。この構成によれば、摩擦係合要素である場合に比べて大きな駆動力を伝達可能である。
【0069】
また、本実施の形態の自動変速機(3)の制御装置(8)では、前記トランスファ(4)は、高速段及び低速段を選択的に切り換えることにより、前記車両(1)の走行状態を切換可能である。この構成によれば、変速段を切換可能なトランスファ(4)に適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 車両
2 内燃エンジン(駆動源)
3 自動変速機
4 トランスファ
8 変速機ECU(制御装置)
20 変速機構
30 油圧制御装置
32 入力軸(入力部材)
33 出力軸(出力部材)
46 高速側ドリブンギヤ(第1の回転要素)
47 低速側ドリブンギヤ(第1の回転要素)
48 中間回転板(第2の回転要素)
49 切換スリーブ(連結部材)
49a 付勢機構
B1 第1ブレーキ(係合要素、停止用係合要素)
B2 第2ブレーキ(係合要素)
C1 第1クラッチ(係合要素)
C2 第2クラッチ(係合要素)
C3 第3クラッチ(係合要素、停止用係合要素)
C4 第4クラッチ(係合要素)
CR2 第2キャリヤ(第3の遊星回転要素)
CR3 第3キャリヤ(第3の遊星回転要素)
F1 ワンウェイクラッチ
PS プラネタリギヤセット
R3 第3リングギヤ(第1の遊星回転要素)
S2 第2サンギヤ(第2の遊星回転要素)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7