(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の有機熱電変換材料は、キャリア輸送特性を有する多環芳香族環からなる基本骨格と、これに結合するアルキル基またはアルキル基を有する置換基とを有し、所定温度で構造相転移を生じる導電性化合物を熱電変換物質として含有するものである。
【0018】
本発明で用いる導電性化合物は、平面π共役構造を有し一般にキャリア輸送能の高い多環芳香族化合物に由来する基本骨格を有する。このような構造では、隣接分子間でπ‐πスタッキングが期待され、隣接分子間のトランスファー積分が室温でバンド伝導が期待できるほど大きい。一方、本発明で用いる導電性化合物は、所定の温度で熱運動により基本骨格の分子間距離や分子パッキング構造の変化を引き起こす置換基が多環式芳香族環に結合している。このような置換基は、アルキル基またはアルキル基を有する置換基のように回転自由な結合を有しており、所定の温度で熱運動して、隣接する分子間距離や分子パッキング構造を変化させ、導電性化合物の体積変化や構造相転移を生じさせる。この結果、温度変化を敏感に捉え熱起電力(ゼーベック係数)が高められるものと解される。
【0019】
ここで、本願明細書中で用いる幾つかの用語について定義を記載する。
「多環芳香族化合物」とは、多環芳香属環を有する化合物を意味し、「多環芳香族化合物からなる基本骨格」とは、このような化合物の全構造のうち、置換基部分を除いた構造を意味する。
「ファンデルワールス体積」とは、分子を構成する原子をファンデルワールス半径を有する球体で近似した場合の、分子あるいはその構成要素の体積を意味する。「ファンデルワールス体積比」とは、分子の構成する複数の構成要素のファンデルワールス体積の比である。
「側鎖の長さ」とは、主骨格を構成する原子のうち側鎖が化学結合している原子の中心位置から、側鎖を構成する原子のうち安定構造において最も距離が離れた原子の中心位置までの距離を意味する。
「π共役構造」とは、多重結合が単結合と交互に連なった構造を表わし、「平面π共役構造」とは、π共役構造を形成する原子が同一平面状に存在する構造を意味する。
「熱起電力(ゼーベック係数)」とは、電気伝導性を有する物質上の異なる2カ所に生じる定常的な電位差の温度依存性を測定し、その勾配からS=−ΔV/ΔT(ΔVは電位差、ΔTは温度差)で計算される値を意味する。
「導電率」とは、ソース・メーター等によって測定された材料の電流−電圧特性から求められる電気コンダクタンスに対し、電流経路の長さを乗じ、断面積で除した値を意味する。
「熱伝導率」とは、サーモリフレクタンス法、温度波分析法、定常熱流法などによって測定した熱拡散率に、材料の比熱と密度を乗じることによって求めた値を意味する。
本願明細書において「構造相転移」とは、物質の空間的に均一とみなすことのできる構造(秩序構造でも無秩序構造でもよい)が、温度などの外的条件によって異なる状態の構造へと転移することを意味し、「構造相転移温度」とは、その変化が現れる温度を意味する。構造相転移温度は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)によって測定した際において吸熱あるいは発熱ピークが現れることや、比熱の温度依存性が変化する(比熱を温度で微分した勾配が急変する)ことで測定される。また、半導体材料における導電率の温度依存性がアレニウス型の熱活性を示すのに対し、その活性化エネルギーが急変する温度としても測定される。
【0020】
本発明の有機熱電変換材料に含有される導電性化合物としては、典型的には下記一般式(1)又は(2)で表される化合物が挙げられる。
【化11】
【化12】
式(1)および(2)中、Xはキャリア輸送特性を有する多環芳香族環を表し、Rはそれぞれ独立してアルキル基またはアルキル基を有する置換基を表す。mはRがXに結合可能な最大数以下の数であり、基本骨格により異なるが例えば1〜8の整数、典型的には、1〜2の整数を表す。式(1)中のnは1以上の整数であり、nが2以上の場合には、Xはそれぞれ異なる多環式芳香族環であってもよい。
【0021】
上述の通り、本発明の有機熱電変換材料に熱電変換物質として含有される導電性化合物の基本骨格を構成する上記Xで表される多環芳香族環は、芳香族環が2以上縮合した構造であり、平面π共役構造を有している。このため、分子が配向して並び隣接分子間のスタッキング効果を生じ易くなり、分子間の電子又は正孔の移動が容易になるため高いキャリア移動度を得られ易い。
【0022】
上記Xで表される多環芳香族環は、芳香族炭化水素、及び芳香族複素環の何れか一方又は両方で構成することができ、キャリア移動度が高い多環構造を選択することが好ましい。
【0023】
上記Xで表される多環芳香族環の具体例としては、例えば、
ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、アセナフテン、ナフタセン、アズレン、フェナレン、ベンゾアントラセン、フェナントレン、クリセン、アンタントレン、ピラントレン、インデノインデン、ピセン、トリフェニレン、ペリレン、ナフトペリレン、コロネン、オバレン、ピレン、ベンゾピレン、ヘキサヘリセン、ヘプタヘリセン、オクタヘリセン、ノナヘリセン、デカヘリセン、ウンデカヘリセン、ドデカヘリセン等;テトラフェン、ペンタフェン、ヘキサフェン、ヘプタフェン、オクタフェン、ノナフェン、デカフェン、ウンデカフェン、ドデカフェン、C60フラーレン、C70フラーレンなどの多環芳香族炭化水素;並びに
インドール、イソインドール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、ベンゾピラン、アクリジン、キサンテン、ベンゾイミダゾール、インダゾール、フェナジン、ナフチリジン、ベンゾチアジアゾール、ベンゾチアゾール、ジチエノシロール、フルオレン、チエノチオフェン、カルバゾール、フェノチアジン、フェノオキサジン、ベンゾチエノベンゾチオフェン、ジチエノチオフェン、ベンゾジチオフェン、ベンゾジセレノフェン、ジナフトチエノチオフェン、ジアンスラチエノチオフェン、ベンゾビスオキサゾールなどのヘテロアセン系及びこれらが複数結合したポリヘテロアセン類、フェナントレン、フェナントリジン、シクロペンタジチオフェン、ベンゾ-C-シンノリン、ペリレンジカルボキシイミド、ベンゾトリフラン、ベンゾトリチオフェン、ポルフィリン、クロリン、コリン、フタロシアニン、ポルフィラジンなどの多環芳香族複素環が挙げられる。
【0024】
中でも、キャリア輸送能が高い点で、ナフタレン、アンスラセン、ナフタセン、ペンタセン等のアセン系炭化水素や、ベンゾジチオフェン、ベンゾチエノベンゾチオフェン、ジナフトジチオフェン等のヘテロアセン類、或いはポルフィリン、フタロシアニン、ポルフィラジン等が好ましい。
【0025】
多環芳香族化合物の基本骨格の非限定的な具体例を以下に示す。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
上述の通り、導電性化合物の基本骨格は、2以上の多環芳香族環が単結合で連結してπ共役構造を形成してもよい。基本骨格が複数の多環芳香族環が連結して構成される場合、多環芳香族環の数は、一般的には2〜2000とすることができ、2〜1000とすることが好ましく、2〜100とすることがより好ましく、2〜5とすることが更に好ましい。勿論、単一の多環芳香族環で基本骨格を構成してもよい。また、単数又は複数の多環芳香族環によって構成される基本骨格の分子量(Mw)は、50〜200000でもよく、好ましくは100〜100000であり、より好ましくは200〜50000Mwであり、特に好ましくは200〜30000である。
【0026】
本発明の有機熱電変換材料に含まれる導電性化合物は、上記の多環芳香族環によって発達したπ共役構造が形成されていると共に、当該多環芳香族環に上記Rで表されるアルキル基又はアルキル基を有する置換基が結合している。
このような置換基は、回転自由な結合を有しており、所定の温度、好ましくは−50℃〜200℃の範囲の何れかの温度で熱運動を生じる。このような置換基は、熱に敏感に応答して運動し、導電性化合物の体積変化や構造相転移を生じさせる。この結果、多環芳香族化合物の基本骨格等によるキャリア輸送能を変調させ、高効率の熱電変換を可能にする。このような置換基の熱運動による導電性化合物の構造相転移は、示差走査熱量測定(DSC)の吸発熱ピークにより確認することができる。
【0027】
熱に敏感に応答して熱運動を生じるには、置換基は、多環芳香族骨格に回転自由な共有結合で結合することが好ましい。また、置換基自体も多数の回転自由な共有結合を有することが好ましく、このような点から、置換基は、アルキル基を有する置換基であることが好ましく、鎖状のアルキル基を主鎖とする置換基であることがより好ましく、直鎖のアルキル基が更に好ましい。
【0028】
また、高い熱起電力(ゼーベック係数)を達成するためには、多環芳香族環による発達したπ共役構造を維持しながら、置換基の熱運動により熱に敏感に応答して構造相転移をもたらすことが重要と考えられ、この観点から、多環芳香族骨格に対する側鎖のファンデルワールス体積比は指標の1つと考えられる。多環芳香族骨格の違いにより結晶性や結晶形による凝集力が異なり、その分子間の結合力は異なるが、一般的に本発明の熱電変換材料に含有される導電性化合物においては、同化合物中における置換基が占めるファンデルワールス体積比が、5%〜80%であることが好ましく、25〜60%であることが好ましく、30〜60%がより好ましい。また10〜50%であることが更に好ましく、15〜50%であることが特に好ましい。この多環芳香族骨格に対する側鎖のファンデルワールス体積比を設計することにより構造相転移の温度や熱運動をコントロールすることが可能となる。素子を使用する環境により、求められる温度(温度差)が異なるが、この能力を活用することにより、適した素子を設計することが出来る。
【0029】
同様の点から、アルキル基またはアルキル基を有する置換基のアルキル基部分は、鎖状又は環状の、好ましくは直鎖状の炭素原子数1〜20の基であり、より好ましくは炭素数2〜18の基であり、更に好ましくは炭素数4〜15の基である。
【0030】
具体的には、直鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基が挙げられ、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基が好ましく、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基がより好ましい。
【0031】
また分岐鎖アルキル基としては、例えばイソプロピル基、イソブチル基、イソアミル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−メチルブチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルオクチル基、2−エチルオクチル基を挙げることができ、イソブチル基、イソアミル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−メチルブチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルオクチル基、2−エチルオクチル基が挙げられる。また環状のアルキル基としてシクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0032】
アルキル基を有する置換基としては、例えば、アルキル基が以下の置換基で置換された基が挙げられる。
1)フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基
2)フリル基、チエニル基、チエニレン基、テニル基、ピリジル基、ピペリジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾリル基、モルホリノ基、ベンゾチエニル基、ベンゾフェニル基等の単環式芳香族複素環残基
3)アルキル基又は芳香族環残基で置換されたアミノ基、アルキルオキシ基、アルキルチオキシ基、エステル基、カルバモイル基、アセトアミド、チオ基又はアシル基
4)フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基
これらの置換基は1つ又は複数有しても良い。
【0033】
また、アルキル基が、以下の化学構造を介して多環芳香族骨格に結合している基が挙げられる。
1)酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子などのヘテロ原子
2)フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基
3)フリル基、チオフェン基、チエニル基、チエニレン基、テニル基、ピリジル基、イミダゾリル基、モルホリノ基、ベンゾチエニル基、ベンゾフェニル基等の芳香族複素環残基
4)カルボニル基、チオカルボニル基
【0034】
アルキル基を有する置換基としては、例えば、シリルエチニル基で置換されたアルキル基、アリール基(例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等)で置換されたアルキル基、芳香族複素環基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、イミダゾリル基等)で置換されたアルキル基、アルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシル基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)で置換されたアルキル基、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)で置換されたアルキル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)で置換されたアルキル基、アルキルスルファモイル基、アルキルカルボニル基、アルキルチオカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルキルカルバモイル基、アルキルウレイド基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アルキル基が置換したアリールスルホニル基、アルキルアミノ基、フルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、アルキルシリル基等が挙げられる。
本発明の導電性材料に含まれる導電性化合物では、上述した多環芳香族環の1つに対して複数の置換基を有してもよく、通常多環芳香族環の1つ当たり1〜8の置換基を有することができ、1〜4の置換基を有することが好ましく、1〜3の置換基を有することがより好ましく、2の置換基を有することが特に好ましい。
【0035】
また、本発明を構成する導電性化合物では、上述した置換基のアルキル基部分(置換基がアルキル基である場合にはアルキル基自体)の分子量が導電性化合物全体の分子量に対して5〜80%を占めることが好ましい。例えば、多環芳香族骨格部分の一方の幅がベンゼン環一個程度に狭くもう一方の幅がそれより長い棒状の化合物では、その割合は25〜60%を占めることがより好ましく、多環芳香族骨格部分の幅がベンゼン環二個程度以上に幅広い化合物で、その割合は10〜50%を占めることが好ましい。また、置換基全体で回転自由な結合が複数存在することが好ましい。一方、アルキル基以外の構造は、多環芳香族環と共にπ共役構造を形成してもよい。適宜、アルキル基の数、置換位置、分鎖数、長さを調整することで最適な特性を得ることが可能となる。
【0036】
導電性化合物の構造相転移を生じる温度は、上記の多環芳香族化合物の基本骨格と、上記の置換基との組合せによって変動する。したがって、導電性化合物が使用されることが予想される温度に応じて、適宜好ましい分子設計をすることが好ましい。特に、本発明の導電性化合物では、導電性化合物のアルキル基の長さをコントロールすることで、熱電変換材料の相転移の温度の制御や熱運動の制御が可能と考えられる。従って、素子を用いる環境に応じて、基本骨格と置換基との組合せ、特にアルキル基の長さ又はファンデルワールス体積比を適宜選択し、効果的な熱電変換素子を得ることができると考えられる。
熱電変換素子の通常の用途からすると、−50℃〜200℃の範囲の温度で構造相転移を生じる分子設計とすることが好ましく、0〜180℃の範囲の温度で構造相転移を生じる分子設計とすることがより好ましく、10〜150℃の範囲の温度で構造相転移を生じる分子設計とすることが更に好ましい。従って、このような温度範囲で構造相転移を生じるように、基本骨格と置換基との組合せ、特にアルキル基の長さ又はファンデルワールス体積比を選択することが好ましい。
導電性化合物の構造相転移を生じる温度(構造相転移点)は、示差走査熱量測定(DSC)の吸発熱ピークにより確認することができる。導電性化合物の構造相転移がみられる温度の近傍に大きなパワーファクターの相対値を示す熱電変換素子は、当該温度付近を使用温度とするのに最適な熱電変換材料であると確認できる。
【0037】
このような観点から、好ましい導電性化合物の代表的な例を以下に示す。
【0038】
(1)ポルフィリン骨格を有する導電性化合物
【化18】
式(5)中、Mは金属原子を表す。式(4)及び(5)中、Zはそれぞれ独立して水素原子、或いは無置換、又はアルキル基若しくはアルキル基を有する置換基で置換された芳香族炭化水素又は芳香族複素環であり、無置換の芳香族炭化水素又は芳香族複素環が好ましい。複数のZは同じでも異なってもよい。
Wはそれぞれ独立してN又はCR
3を表し、少なくとも1つのWはCR
3を表し、R
3は水素原子、アルキル基又はアルキル基を有する置換基を表し、少なくとも1つのR
3はアルキル基又はアルキル基を有する置換基を表す。好ましくは対向する1組のWは、CR
3を表し、R
3がアルキル基若しくはアルキル基を有する置換基であり、他の対抗する1組のWは、N又はCR
3を表し、R
3は水素原子であり、より好ましくはCR
3を表し、R
3は水素原子である。
【0039】
Zを構成する芳香族炭化水素環としては、例えば、フェニル、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、アセナフテン、ナフタセン、アズレン、フェナレン、ベンゾアントラセン、フェナントレン、クリセン、アンタントレン、ピラントレン、インデノインデン、ピセン、トリフェニレン、ペリレン、ナフトペリレン、コロネン、オバレン、ピレン、ベンゾピレン、ヘキサヘリセン、ヘプタヘリセン、オクタヘリセン、ノナヘリセン、デカヘリセン、ウンデカヘリセン、ドデカヘリセン等;テトラフェン、ペンタフェン、ヘキサフェン、ヘプタフェン、オクタフェン、ノナフェン、デカフェン、ウンデカフェン、ドデカフェン、C60フラーレン、C70フラーレン等を挙げることができ、フェニル、ビフェニル、ナフタレンが好ましい。芳香族複素環としては、例えばフリル、チオフェン、チエニル、チエニレン、テニル、ピリジル、イミダゾリル、モルホリノ、ベンゾチエニル、ベンゾフェニル等を挙げることができる。これら芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を任意選択で置換するアルキル基又はアルキル基を有する置換基としては、式(1)及び(2)のRで説明した基を挙げることができ、炭素数1〜15の直鎖アルキル基が好ましい。また、R
3を構成するアルキル基又はアルキル基を有する置換基も、式(1)及び(2)のRで説明した基を挙げることができる。好ましくは、1組の対向する位置のR
3が炭素数1〜30の直鎖アルキル基又は炭素数1〜30の直鎖アルキル基を有する基であることが好ましく、炭素数5〜20の直鎖アルキル基又は炭素数5〜20の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましく、炭素数8〜15の直鎖アルキル基又は炭素数8〜15の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましい。
また、アルキル基又はアルキル部分の導電性化合物全体に対するファンデルワールス体積比は、5〜60%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましく、15〜50%であることが更に好ましい。
【0040】
このようなポルフィリンを基本骨格とする導電性化合物としては、以下の一般式(10)〜(13)で表される化合物が好ましい。
【化19】
式(10)、(11)、(12)又は(13)中、R
47乃至R
50は上記式(1)のRと同じであり、R
47乃至R
49は少なくとも1つのWに結合しており、R
50は基本骨格の結合可能な位置に結合できるが、好ましくは少なくとも1つのWに結合しており、m
1乃至m
4は上記式(1)のmと同じである。m
1、m
2、m
3又はm
4が2以上の場合、複数のR
47、R
48、R
49又はR
50は異なっていても同じでもよい。R
47乃至R
50を構成するアルキル基又はアルキル基を有する置換基も、式(1)及び(2)のRで説明した基を挙げることができる。好ましくは、1組の対向する位置のR
47、R
48、R
49又はR
50が炭素数1〜20の直鎖アルキル基又は炭素数1〜20の直鎖アルキル基を有する基であることが好ましく、炭素数4〜15の直鎖アルキル基又は炭素数4〜15の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましく、炭素数8〜13の直鎖アルキル基又は炭素数8〜13の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましい。
また、アルキル基又はアルキル部分の導電性化合物全体に対するファンデルワールス体積比は、5〜60%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましい。特に15〜50%であることが好ましい。
【0041】
このようなポルフィリン構造を基本骨格とする導電性化合物は、例えば、アルキル基又はアルキル部分を炭素数4〜15の直鎖アルキル基又は炭素数4〜15の直鎖アルキル基を有する基とした場合の構造相転移は30〜120℃の温度領域において生じる。そのため、例えば30〜150℃での使用が想定される場合、アルキル基又はアルキル部分を炭素数4〜15の直鎖アルキル基又は炭素数4〜15の直鎖アルキル基を有する基とすることが好ましい。
【0042】
(2)へテロアセンを基本骨格とする導電性化合物
【化20】
式(3)中、Yはそれぞれ独立して、S、Se、SO
2、O、N(R
51)、Si(R
51)(R
52)を表し、R
51及びR
52はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を表し、好ましい置換基としてはアリール基、単環式芳香族複素環残基;アルキル基又は芳香族環残基で置換されたアミノ基、アルキルオキシ基、アルキルチオキシ基、エステル基、カルバモイル基、アセトアミド、チオ基又はアシル基;ハロゲン原子、ニトロ基、又はシアノ基である。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、単環式芳香族複素環残基としては、フリル基、チエニル基、チエニレン基、テニル基、ピリジル基、ピペリジル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾリル基、モルホリノ基、ベンゾチエニル基、ベンゾフェニル基等が挙げられ、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。Yは、好ましくはS又はSeであり、特に好ましくはSである。
Z
1及びZ
2はそれぞれ独立して、アルキル基又はアルキル基を有する置換基、或いはアルキル基又はアルキル基を有する置換基で置換された芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表し、Z
1及びZ
2は同じでも異なっても良い。
芳香族炭化水素環としては、例えば、単環式、又は複数の環が連結又は縮合した芳香族炭化水素環を挙げることができる。単環式芳香族炭化水素環としては、例えば炭素数3〜7、好ましくは4〜6の芳香族炭化水素環を挙げることができる。また、複数の環が連結又は縮合した芳香族炭化水素環としては、炭素数3〜7、好ましくは4〜6の芳香族炭化水素環が2以上(例えば2〜7個、2〜5個、又は2〜3個)連結又は縮合した構造を挙げることができる。具体的な芳香族炭化水素環の例としては、例えばフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、テトラフェン、ピレン、ピセン、ペンタフェン、ペリレン、ヘリセン、コロネン等を挙げることができる。芳香族複素環としては、例えばフリル、チオフェン、チエニル、チエニレン、テニル、ピリジル、イミダゾリル、モルホリノ、ベンゾチエニル、ベンゾフェニル等を挙げることができる。
アルキル基又はアルキル基を有する置換基としては、式(1)及び(2)のRで説明した基を挙げることができる。好ましくは、炭素数1〜30の直鎖アルキル基又は炭素数1〜30の直鎖アルキル基を有する基であることが好ましく、炭素数1〜20の直鎖アルキル基又は炭素数1〜20の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましく、炭素数5〜15の直鎖アルキル基又は炭素数5〜15の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましい。
また、アルキル基又はアルキル部分の導電性化合物全体に対するファンデルワールス体積比は5〜80%であることが好ましく、25〜60%であることがより好ましく、30〜60%であることが更に好ましい。
【0043】
このようなヘテロアセンを基本骨格とする導電性化合物としては、以下の化合物が好ましい
(2−1)BTBT又はそれに類似する構造を基本骨格とする導電性化合物
【化21】
式(6)中、X
1及びX
2は式(3)のYと同じであり、好ましくはS又はSeであり、特に好ましくはSである。R
1及びR
2の少なくとも1つ、好ましくは両方、上記式(1)及び(2)のRで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基と同じでよい。もっとも、式(6)の化合物では、炭素数1〜15の直鎖アルキル基又は炭素数1〜15の直鎖アルキル基を有する基であることが好ましく、炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は炭素数6〜12の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましい。
また、アルキル基又はアルキル部分の導電性化合物全体に対するファンデルワールス体積比は5〜80%であることが好ましく、25〜60%であることがより好ましく、30〜60%であることが更に好ましい。
このような構造を基本骨格とする導電性化合物は、例えば、アルキル基又はアルキル部分を炭素数5〜12の直鎖アルキル基又は炭素数5〜12の直鎖アルキル部分とした場合の構造相転移は70〜120℃の温度領域において生じる。そのため、例えば50℃〜150℃での使用が想定される場合には、アルキル基又はアルキル部分を炭素数5〜12の直鎖アルキル基又は炭素数5〜12の直鎖アルキル部分とすることが好ましい。
なお、式(6)の化合物は、例えばWO2008/047896に記載の方法で製造することができ、その内容を参照により本願明細書に組み込む。
【0044】
(2−2)DNTT又はそれに類似する構造を基本骨格とする導電性化合物
【化22】
式(7)中、X
1及びX
2は上記式(3)のYと同じであり、好ましくはS又はSeであり、特に好ましくはSである。R
3乃至R
14は、水素、又は上記式(1)及び(2)のRで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基であり、R
3乃至R
14の少なくとも1つは、上記式(1)及び(2)のRで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基である。もっとも、式(7)の化合物では、R
4及至R
7、及びR
10及至R
13の何れかは、アルキル基又はアルキル基を有する置換基であることが好ましく、特にR
6及びR
12、又はR
5及びR
11に位置することがより好ましい。また、アルキル基又はアルキル基を有する置換基としては、炭素数1〜20の直鎖アルキル基又は炭素数1〜20の直鎖アルキル基を有する基であることが好ましく、炭素数4〜16の直鎖アルキル基又は炭素数4〜16の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましく、炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は炭素数6〜12の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましい。
また、アルキル基又はアルキル部分の導電性化合物全体に対するファンデルワールス体積比は5〜80%であることが好ましく、25〜60%であることがより好ましく、30〜60%であることが更に好ましい。
このような構造を基本骨格とする導電性化合物は、例えば、アルキル基又はアルキル部分を炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は炭素数6〜12の直鎖アルキル部分とした場合の構造相転移は100〜140℃の温度領域において生じる。そのため、例えば80℃〜150℃での使用が想定される場合には、アルキル基又はアルキル部分を炭素数6〜12の直鎖アルキル基又は炭素数6〜12の直鎖アルキル部分とすることが好ましい。
なお、式(7)の化合物は、例えばWO/2010/098372に記載の方法で製造することができ、その内容を参照により本願明細書に組み込む。
【0045】
(4)DATT又はそれに類似する構造を基本骨格とする導電性化合物
【化23】
式(8)中、X
1及びX
2は上記式(3)のYと同じであり、好ましくはS又はSeであり、特に好ましくはSである。R
15乃至R
30は、水素、又は上記式(1)及び(2)のRで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基であり、R
15乃至R
30の少なくとも1つは、Rで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基である。もっとも、式(8)の化合物では、R
15乃至R
30中、R
18及びR
26は、上記式(1)及び(2)のRで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基であり、他は、水素であることが好ましい。また、アルキル基又はアルキル基を有する置換基としては、炭素数1〜25の直鎖アルキル基又は炭素数1〜25の直鎖アルキル基を有する基であることが好ましく、炭素数5〜20の直鎖アルキル基又は炭素数5〜20の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましく、炭素数6〜15の直鎖アルキル基又は炭素数6〜15の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましい。
また、アルキル基又はアルキル部分の導電性化合物全体に対するファンデルワールス体積比は5〜80%であることが好ましく、25〜60%であることがより好ましく、30〜60%であることが更に好ましい。
このような構造を基本骨格とする導電性化合物は、例えば、アルキル基又はアルキル部分を炭素数6〜15の直鎖アルキル基又は炭素数6〜15の直鎖アルキル部分とした場合の構造相転移は100〜140℃の温度領域に生じる。そのため、例えば80℃〜150℃での使用が想定される場合には、アルキル基又はアルキル部分を炭素数6〜15の直鎖アルキル基又は炭素数6〜15の直鎖アルキル部分とすることが好ましい。
なお、式(8)の化合物は、例えばWO2008/050726に記載の方法で製造することができ、その内容を参照により本願明細書に組み込む。
【0046】
(4)DCTT又はそれに類似する構造を基本骨格とする導電性化合物
【化24】
式(9)中、X
1及びX
2は上記式(3)のYと同じであり、好ましくはS又はSeであり、特に好ましくはSである。R
31乃至R
46は、水素、又は上記式(1)及び(2)のRで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基であり、R
31乃至R
46の少なくとも1つは、Rで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基である。もっとも、式(9)の化合物では、R
31乃至R
46中、R
34及びR
41は、上記式(1)及び(2)のRで説明したアルキル基又はアルキル基を有する置換基であり、他は水素であることが好ましい。また、アルキル基又はアルキル基を有する置換基としては、炭素数1〜25の直鎖アルキル基又は炭素数1〜25の直鎖アルキル基を有する基であることが好ましく、炭素数5〜20の直鎖アルキル基又は炭素数5〜20の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましく、炭素数6〜15の直鎖アルキル基又は炭素数6〜15の直鎖アルキル基を有する基であることがより好ましい。
また、アルキル基又はアルキル部分の導電性化合物全体に対するファンデルワールス体積比は、5〜60%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましい。特に15〜50%であることが好ましい。
このような構造を基本骨格とする導電性化合物は、上述の通り、アルキル基又はアルキル部分の長さを調整することで、熱電変換材料の構造転移の温度の制御や熱運動の制御が可能と考えられ、例えば70℃〜150℃での使用が想定される場合には、アルキル基又はアルキル部分を炭素数6〜15の直鎖アルキル基又は炭素数6〜15の直鎖アルキル部分とすることが好ましい。
なお、式(9)の化合物は、例えばWO2008/050726に記載の方法で製造することができ、その内容を参照により本願明細書に組み込む。
【0047】
本発明の有機熱電変換材料は、任意選択で、ドーパントを含んでもよい。ドーパントとしては、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、アンモニウム塩、カルボニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩化合物;カンファースルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸や、2−ナフタレンスルホン酸等の有機酸;Cl
2、Br
2、I
2、ICl、ICl
3、IBr、IF等のハロゲン;PF
5、AsF
5、SbF
5、BF
3、BCl
3、BBr
3、SO
3等のルイス酸;HF、HCl、HNO
3、H
2SO
4、HClO
4、燐酸等のプロトン酸;FeCl
3、FeOCl、TiCl
4、ZrCl
4、HfCl
4、NbF
5、NbCl
5、TaCl
5、MoF
5、WF
6等の遷移金属化合物、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、Eu等のランタノイド、その他R
4N
+、R
4P
+、R
4As
+、R
3S
+(R:アルキル基)、アセチルコリンなどを挙げることができる。
【0048】
本発明においては、ドーパントは必須成分ではなく、有機熱電変換材料中、0〜60重量%含有することが好ましく、0〜20重量%含有することがより好ましい。
【0049】
本発明の熱電変換材料は、高い熱起電力を備えており、有機熱電変換素子の熱電変換材料として有用である。このため、本発明の熱電変換材料は、有機熱電変換素子の熱電変換層を形成するために効果的に用いることができる。従って、本発明の他の実施形態によれば、本発明の熱電変換材料の熱電変換層を形成するための使用、熱電変換材料を含む熱電変換層を有する熱電変換素子、及び熱電変換材料を含む熱電変換層によって熱電変換させる方法も提供される。
【0050】
本発明の熱電変換素子は、基材上に、第1の電極、熱電変換層および第2の電極を有し、熱電変換層は本発明の熱電変換材料を含有している。
本発明の熱電変換素子は、基材上に、第1の電極、熱電変換層および第2の電極を有するものであればよく、第1の電極および第2の電極と熱電変換層との位置関係等、その他の構成について特に限定されない。本発明の熱電変換素子において、熱電変換層は、その少なくとも一方の面に第1の電極および第2の電極に接するように配置されていればよい。基材に対して横方向に温度差がある場合が横型の熱電変換素子(
図5)、基材に対して縦方向に温度差がある場合が縦型の熱電変換素子(
図6)である。本発明の熱電変換素子における熱電変換層は、2つの電極に接するように配置されていればよく、この電極間に温度差を設けることにより起電力を発生する。
【0051】
基材としては、ガラス、金属、プラスチックフィルム、不織布、紙等の電極及び熱電変換材料を保持できるものが用いることができる。デバイスにフレキシビリティーを与えるため、フレキシブルなプラスチックフィルムなどを用いることが好ましい。
【0052】
電極材料としてはITO等の透明電極、金、銀、銅、アルミニウム等の金属電極、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素電極、PEDOT:PSS等の有機導電性材料などが挙げられ、熱電変換材料との接触抵抗の低い材料が好ましい。また熱電変換材料との接触抵抗を下げるためコンタクトドーピング等の処理をすることが可能である。
【0053】
本発明の熱電変換素子の熱電変換層は本発明の熱電変換材料を用いる。熱電変換層は1層でもよく、複数の層であってもよい。本発明の熱電変換素子が複数の熱電変換層を有する場合、本発明の熱電変換材料を用いて形成された熱電変換層のみを複数層有する素子であっても良いし、本発明の熱電変換材料を用いて形成された熱電変換層と、本発明の熱電変換材料以外の熱電変換材料を用いて形成された熱電変換層を有する素子であっても良い。本発明の熱電変換材料は、上述の通り、素子を使用する温度に応じて最も高い熱起電力を発揮するように設計することができるので、使用温度に応じて、置換基の分子設計を適宜変更することができる。
【0054】
本発明の熱電変換素子における熱電変換層等の製膜方法は特に限定されず、例えば、印刷などの溶液プロセスや真空プロセスなどの方法が挙げられる。デバイス製造コストを考慮すると溶液プロセスが好ましく、キャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、ソフトリソグラフィー法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。
【0055】
上述の通り、本発明の熱電変換素子は、導電性化合物自体の高い熱起電力を通じて、高い熱電変換効率を達成することができ、高性能な有機熱電変換素子を提供する新たなアプローチを提供する。特に非常に高いゼーベック係数を有することから高電圧のデバイス設計が容易となり、特徴のある熱電変換素子を提供することが可能となる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づき本発明をより詳しく説明する。しかし、以下の実施例は本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
【0057】
(合成例1)(6,20-Didodecyl-29H,3H-tetrabenzo[b,g,l,q] porphyrin)
【化25】
【0058】
アルゴン置換した反応容器にジピロメタン(0.30g,1.0mmol)を加え、ジクロロメタン(200ml)に溶解させた。ここにアルゴンガスを10分間バブリングした。ついでトリデカナール(0.3ml,1.1nnol)とトリフルオロ酢酸(TFA)(2滴)を順に加え、遮光下17時間撹拌した。ここに2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)(0.35g)を加え、さらに2時間撹拌した。反応終了後、溶液が半量になるまで溶媒を除去し、アルミナカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)を行った。さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン)及びGPCを用いて精製し、最後に再結晶(クロロホルム/メタノール)を行うことで、目的物を赤褐色個体として得た。収率:80%(389mg、0.405mmol)
【0059】
【0060】
(合成例2) C
12H
25-H
2BP
【化26】
【0061】
上記で得られたポルフィリンをガラスチューブオーブン中真空下、200℃で30分間加熱することによりベンゾポルフィリンが緑色個体として得られた。
【0062】
【0063】
図2に示す通り、DSC(170−570K)により、320−360Kにシャープなピークとブロードなピークが認められ、440K付近にピークが認められ、構造相転移を生じていることが示された。
【0064】
(合成例3)29H,3H-tetrabenzo[b,g,l,q] porphine(BP、LUMO:−2.26eV、HOMO:−4.69eV ALDRICH社製)。
図3に示す通り、DSC(170−570K)には、明確なピークが認められなかった。
(合成例4)C8BTBTの合成
(1)2,7-Di(1-octynyl1)[1]benzothieno[3,2-b][1]benzothiopheneの合成
【0065】
【化27】
【0066】
窒素雰囲気下、2,7−ジヨードベンゾチエノベンゾチオフェン(1.0g,2.0mmol)を無水ジイソプロピルアミン(15ml)と無水ベンゼン(15ml)に溶解後、脱気を30分行った。10mol% PdCl2(PPh3)2(140mg)、20mol% CuI(76mg)、1−octyne(0.81ml,5.5mmol)を加え8時間室温で攪拌した。攪拌終了後、水(30ml)を加え、クロロホルム(30ml×3)で抽出した。抽出液を水(100ml×3)で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下で留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、塩化メチレン:へキサン=1:3、Rf=0.6)により精製し、ヘキサンから再結晶することで上記式で表される目的化合物の無色板状晶を得た(収量710mg、収率77%)。
【0067】
【0068】
(2) 2,7-Dioctyl[1]benzothieno[3,2-b][1]benzothiopheneの合成
【0069】
【化28】
【0070】
得られた化合物(300mg,0.66mmol)、Pd/C(70mg)を無水トルエン(10mL)に加え、アスピレーターによる減圧−水素パージを数回繰り返した後、8時間攪拌した。反応終了後溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、へキサン、Rf=0.6)により精製し(収量286mg、収率94%)、ヘキサンから再結晶することで、目的化合物の無色粉末固体を得た(収量250mg、収率82%)。
【0071】
【0072】
(実施例)
各実施例において、各化合物を用いた有機熱電変換素子を作製し、特性を評価した。評価装置として、自家製超高抵抗試料対応熱電特性評価装置を用いた。前記特性評価装置は、超高真空チャンバー中において、(1)クヌーセンセルによる昇華性材料の精密蒸着、(2)ケースレー6430ソースメーターを利用した10
14Ω程度を上限とする試料抵抗測定、および、(3)自家製高入力インピーダンス差動増幅回路を利用した10
13Ω程度の試料抵抗を上限とする高精度ゼーベック係数測定、を行う機能を有する。(非特許文献:中村, 応用物理 82 (2013) 954を参照)
【0073】
(実施例1) 化合物(C12BP)を用いた熱電変換素子の作製・評価
本実施例において、合成例1で合成した化合物を用いた有機熱電変換素子を作製して、特性を評価した。
電極作製用シャドウマスクを取り付けた白板ガラスを真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱蒸着法によって、金を0.1Å/secの蒸着速度で30nmの厚さに蒸着し、電極付き基板を得た。
本基板にシャドウマスクを取り付けたうえで熱電対及び電極への配線を行い、前記特性評価装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10
−4Pa以下になるまで排気し、抵抗加熱蒸着法によって、化合物(C12BP)の薄膜(160nm)を形成し、本発明の熱電変換素子(電極間の距離:10mm、電極の幅:7.6mm)を得た。
得られた熱電変換素子は、装置内の真空度が1.0×10
−5Pa以下の条件で温度を定めて電圧を印加、電流値を読み取り、導電率を計測した。また電極間に温度勾配を設け、熱起電力値を読み取ることでゼーベック係数を測定した。
その結果、340Kでの導電率は3.0×10
−8Scm
−1であり、ゼーベック係数は123mV/Kであった。また、
図1に示す通り、C12BPの側鎖のファンデルワールス体積比は50%(Winmostarソフトを使用した)であった。
【0074】
(実施例2) 化合物(C8−BTBT)を用いた熱電変換素子の作製・評価
実施例1で用いた化合物の代わりに合成例2で合成した化合物(C8−BTBT)を用いて有機熱電変換素子を作製し、評価した。
白板ガラス基板に0.5wt%C8−BTBTのヘプタン溶液を滴下、スピンコート(1000rpm×1min)製膜し、乾燥して有機薄膜(30nm)基板を得た。この有機薄膜基板に電極形成用シャドウマスクを取り付け、真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱蒸着法によって、金を0.1Å/secの蒸着速度で30nmの厚さに蒸着し、熱電変換素子(電極間の距離:5mm、電極の幅:7.6mm)を得た。
本素子に熱電対及び電極への配線を行い、前記評価装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10−5Pa以下の条件で温度を定めて電圧を印加、電流値を読み取り、導電率を計測した。また電極間に温度勾配を設け、熱起電力値を読み取ることでゼーベック係数を測定した。
その結果、340Kでの導電率は2.1×10
−8Scm−1であり、ゼーベック係数は190mV/Kであった。
【0075】
実施例2で得られた(C8−BTBT)では、DSC(170−570K)により、380K付近に2本と400Kにシャープなピークが認められ構造相転移を生じていることが示された。
また、
図1に示す通り、C8BTBTの側鎖のファンデルワールス体積比は60%であった。
【0076】
(実施例3) 化合物(C10DNTT)を用いた熱電変換素子の作製・評価
実施例1にて用いた化合物の代わりに化合物(C10DNTT)を用いて有機熱電変換素子を作製し、評価した。
電極作製用シャドウマスクを取り付けた白板ガラスを真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10
−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱蒸着法によって、金を0.1Å/secの蒸着速度で30nmの厚さに蒸着し、電極付き基板を得た。
本基板にシャドウマスクを取り付けたうえで熱電対及び電極へ配線を行い、前記評価装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10
−4Pa以下になるまで排気し、抵抗加熱蒸着法によって、0.5Å/secの蒸着速度で化合物(C10DNTT)の薄膜(20nm)を形成し、本発明の熱電変換素子(電極間の距離:5mm、電極の幅:7.6mm)を得た。
得られた熱電変換素子は、装置内の真空度が1.0×10
−5Pa以下の条件で温度を定めて電圧を印加、電流値を読み取り、導電率を計測した。また電極間に温度勾配を設け、熱起電力値を読み取ることでゼーベック係数を測定した。
その結果、315Kでの導電率は1.1×10
−7Scm
−1であり、ゼーベック係数は128mV/Kであった。
また、
図1に示す通り、C10DNTTの側鎖のファンデルワールス体積比は57%であった。
図4に示す通り、実施例1で得られたC10DNTTでは、DSC(170−620K)により、390K、500K、570K及び580Kにそれぞれシャープなピークが認められ、構造相転移を生じていることが示された。
【0077】
(実施例4) 化合物(C8−BTBT)を用いた縦型熱電変換素子の作製・評価
合成例2で合成した化合物 (C8−BTBT)を用いて縦型有機熱電変換素子を作製し、評価した。
ITOガラス基板(旭硝子製)にPEDOT/PSSをスピンコート(7000rpm×20sec)製膜、乾燥し基板を作製した。
作製した基板2枚でハイミラン(50μm 三井デュポンポリケミカル製)を挟み、150℃で加熱することにより25μmの隙間を持つ基板対を作製した。
作製した基板対に130℃で溶融した化合物 (C8BTBT)を注入し、熱電変換素子(電極間距離:25μm,電極サイズ100mm2)を得た。
得られた熱電変換素子のITO面に配線を行い、電極間に温度勾配を設けることにより、熱起電力が生じたことを確認した。
【0078】
(実施例5)
実施例1で作製した熱電変換素子(C12BP)において、温度(27〜127℃)を変えて導電率とゼーベック係数を測定し、パワーファクターを算出した。
図7に27〜227℃までのバルクのC12BPのDSCの分析データと27℃を基準としたパワーファクターの相対値(27〜127℃)を示した。
この結果よると、材料の構造相転移がみられる温度(80〜90℃)の近傍に大きなパワーファクターを示していることが確認できる。このことによりこの熱電変換素子では、70℃〜100℃、より好ましくは80〜90℃で使用することで、効率的な熱電変換を実施できることがわかる。従って、本発明熱電変換素子では、各熱電変換材料に応じて、最適な使用温度を選択することで非常に効率的な熱電変換が可能となることが示された。
【0079】
(比較例1)
実施例3と同様に、化合物をC10DNTTではなく、DNTTを用いて、同様な素子を作製した。その結果、360Kでの導電率は8.3×10
−9Scm
−1であり、ゼーベック係数は35mV/Kであった。
比較例1で得られたDNTTでは、DSC(170−570K)によりピークは認められなかった。
【0080】
(比較例2)
実施例3と同様に、化合物をC10DNTTではなく、ペンタセンを用いて、同様な素子を作製した。その結果、300Kでの導電率は1.3×10
−6Scm
−1であり、ゼーベック係数は2.4mV/Kであった。