(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御装置において、
前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御する過給圧制御部と、
前記内燃機関の回転数が上昇する回転数上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する回転数判断部と、
前記回転数上昇速度が閾値未満ではない場合には、前記過給圧制御部が前記排気流量調整バルブを閉め側に変化可能な開度の限界値である前記所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、前記過給圧制御部に過給圧を制御させる閉方向限界値可変部と、を備えることを特徴とする過給機付き内燃機関の制御装置。
内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御装置において、
前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御する過給圧制御部と、
燃料噴射量が上昇する噴射量上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する燃料噴射量判断部と、
前記噴射量上昇速度が閾値未満ではない場合には、前記過給圧制御部が前記排気流量調整バルブを閉め側に変化可能な開度の限界値である前記所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、前記過給圧制御部に過給圧を制御させる閉方向限界値可変部と、を備えることを特徴とする過給機付き内燃機関の制御装置。
内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御装置において、
前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御する過給圧制御部と、
前記過給圧が上昇する過給圧上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する過給圧判断部と、
前記過給圧上昇速度が閾値未満ではない場合には、前記過給圧制御部が前記排気流量調整バルブを閉め側に変化可能な開度の限界値である前記所定の開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、前記過給圧制御部に過給圧を制御させる閉方向限界値可変部と、を備えることを特徴とする過給機付き内燃機関の制御装置。
内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御方法において、
前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御するステップと、
前記内燃機関の回転数が上昇する回転数上昇速度が閾値未満であるか否かを判断するステップと、
前記回転数上昇速度が閾値未満ではない場合には、前記排気流量調整バルブを閉め側に変化可能な開度の限界値である前記所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化して、前記過給圧を制御するステップと、を有することを特徴とする過給機付き内燃機関の制御方法。
内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御方法において、
前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御するステップと、
燃料噴射量が上昇する噴射量上昇速度が閾値未満であるか否かを判断するステップと、
前記噴射量上昇速度が閾値未満ではない場合には、前記排気流量調整バルブを閉め側に変化可能な開度の限界値である前記所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化して、前記過給圧を制御するステップと、を有することを特徴とする過給機付き内燃機関の制御方法。
内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御方法において、
前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御するステップと、
前記過給圧が上昇する過給圧上昇速度が閾値未満であるか否かを判断するステップと、
前記過給圧上昇速度が閾値未満ではない場合には、前記排気流量調整バルブを閉め側に変化可能な開度の限界値である前記所定の開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化して、前記過給圧を制御するステップと、を有することを特徴とする過給機付き内燃機関の制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された過給システムなどでは、上述したウエストゲートバルブなどの排気流量調整バルブの開度を変化させることで、過給圧を制御している。たとえば加速中など過渡運転時では、定常運転時と比較して過給圧の応答性を高くするため、上述したウエストゲートバルブなどの排気量調整用バルブの開度をできるだけ閉め側に変化させることにより排気流量を制限して排気圧を高め、タービンに高負荷をかけることが望ましいが、排気圧がハードウェアで許容される上限値を超えてしまう虞がある。一方、排気圧がハードウェアで許容される上限値を超えないようにするため、排気量調整バルブの開度について閉方向の限界値(リミット)をより開き側に設定すると、過給圧の応答性が悪化したり定常運転時に達成できる過給圧の低下を招き、応答性能(ドライバビリティ)やエンジン性能が悪化してしまう。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、過給機付き内燃機関において過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を上限値以下に抑制可能な過給機付き内燃機関の制御装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した従来の課題を解決するため、本発明は、以下の手段を有する。
【0008】
本発明の第1態様は、内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御装置であって、前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御する過給圧制御部と、前記内燃機関の回転数が上昇する回転数上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する回転数判断部と、前記回転数上昇速度が所定
値未満ではない場合には、前記所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、前記過給圧制御部に過給圧を制御させる閉方向限界値可変部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記第1態様において、閉方向限界値とは、排気流量調整バルブを閉めることができる開度の限界値(リミット値)である。上記第1態様によれば、回転数上昇速度が閾値未満ではない場合には、排気圧が所定の許容値を超える虞があるものとして、所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させる。つまり、排気圧が所定の許容値を超える虞がある場合に限って、排気流量調整バルブの閉方向限界値を開方向に変化させて排気圧の上昇を抑制する。
【0010】
このようにして所定条件に限って排気流量調整バルブの閉方向限界値を開方向に変化させて過給圧を制御することにより、過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【0011】
本発明の第2態様は、内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御装置であって、前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御する過給圧制御部と、燃料噴射量が上昇する噴射量上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する燃料噴射量判断部と、前記噴射量上昇速度が所定値未満ではない場合には、前記所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、前記過給圧制御部に過給圧を制御させる閉方向限界値可変部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記第2態様によれば、噴射量上昇速度が閾値未満ではない場合には、排気圧が所定の許容値を超える虞があるものとして、所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて過給圧を制御することにより、過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【0013】
本発明の第3態様は、内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御装置であって、前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定の開度範囲で変化させることにより、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御する過給圧制御部と、前記過給圧が上昇する過給圧上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する過給圧判断部と、前記過給圧上昇速度が所定値未満ではない場合には、前記所定の開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、前記過給圧制御部に過給圧を制御させる閉方向限界値可変部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
上記第3態様によれば、過給圧上昇速度が閾値未満ではない場合には、排気圧が所定の許容値を超える虞があるものとして、所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて過給圧を制御することにより、過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の第1乃至第3態様において、前記タービン上流の排気圧が所定値を超えたか否かを判断する排気圧判断部をさらに備え、前記閉方向限界値可変部は、前記タービン上流の排気圧が所定値を超えた場合に限り、前記所定開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、前記過給圧制御部に過給圧を制御させることが好ましい。
【0016】
以上のような本発明は、過給機付き内燃機関の制御方法として捉えることも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、過給機付き内燃機関において過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態(以下、本実施形態という。)について具体例を示して説明する。本実施形態は、車両等に搭載される過給機付き内燃機関の制御装置に関する。具体的に、当該制御装置は、例えば
図1に示すような、エンジン制御系1に組み込まれるものである。以下では、
図1を参照して、エンジンに過給する空気の過給圧を制御する過給圧制御に着目して、エンジン制御系1の構成及びその動作について説明する。
【0020】
1.エンジン制御系
エンジン制御系1は、
図1に示すように、エンジン2と、ターボチャージャー3と、エンジンコントロールユニット100(以下、ECU100という。)とを備える。
【0021】
エンジン2は、本発明に係る内燃機関であって、例えばディーゼル燃料を動力源とするディーゼルエンジン、ガソリン燃料を動力源とするガソリンエンジンなどのレシプロエンジンである。具体的に、エンジン2は、外気取込口と繋がった吸気経路である吸気管2aから外気(空気)を吸入し、燃料を燃焼させることにより動力を発生させる。そして、エンジン2は、燃焼後の排気ガスを排気経路である排気管2bに排気する。以下では、エンジン2はディーゼルエンジンであるものとして説明する。
【0022】
ターボチャージャー3は、エンジン2に空気を過給する過給機であって、例えば
図1に示すような高圧段ターボチャージャー3aと低圧段ターボチャージャー3bとが直列接続された2ステージターボチャージャーである。具体的に、ターボチャージャー3は、吸気管2aの上流から下流(エンジン2側)に、低圧段コンプレッサ311と、高圧段コンプレッサ312と、インタークーラー313と、スロットルバルブ314と、過給圧センサ315と、温度センサ316と、を備える。また、ターボチャージャー3は、排気管2bの上流(エンジン2側)から下流に、高圧段タービン321と、低圧段タービン322とを備える。
【0023】
また、エンジン制御系1には、排気ガス中のNOx等の低減のため、排気再循環(EGR)経路330が設けられている。具体的に、EGR経路330は、エンジン2の排気口からエンジン2の吸気口へ排気ガスを還流させる経路であり、排気ガスの還流量を調整するためのEGRバルブ331が設けられている。
【0024】
高圧段コンプレッサ312と高圧段タービン321とは、同一回転軸上で支持するベアリング部341を介して機械的に結合され、高圧段タービン321の回転エネルギにより高圧段コンプレッサ312を回転させてエンジン2に空気を過給する高圧段ターボチャージャー3aを構成する。ここで、高圧段コンプレッサ312には、当該コンプレッサの迂回経路に流れる空気量を調整するコンプレッサバイパスバルブ312aが設けられている。また、高圧段タービン321には、当該タービンの排気ガス通過面積を変化させる可変ノズルターボバルブ321aと、当該タービンの迂回経路に流れる空気量を調整する高圧段ウエストゲートバルブ321bとが設けられている。
【0025】
低圧段コンプレッサ311と低圧段タービン322とは、同一回転軸上で支持するベアリング部342を介して機械的に結合され、低圧段タービン322の回転エネルギにより低圧段コンプレッサ311を回転させてエンジン2に空気を過給する低圧段ターボチャージャー3bを構成する。ここで、低圧段タービン322には、当該タービンの迂回経路に流れる空気量を調整する低圧段ウエストゲートバルブ322aが設けられている。
【0026】
過給圧センサ315は、高圧段コンプレッサ312からエンジン2までの吸気経路に設けられた圧力センサであって、エンジン2に過給される空気の圧力(過給圧)を検出して、検出した過給圧(実過給圧)をECU100に通知する。
【0027】
温度センサ316は、高圧段コンプレッサ312からエンジン2までの吸気経路に設けられた温度センサであって、エンジン2に過給される空気の温度を検出して、検出した温度をECU100に通知する。
【0028】
以上のような構成からなるターボチャージャー3では、高圧段ターボチャージャー3aと低圧段ターボチャージャー3bとがそれぞれ仕事をすることによって、エンジン2により多くの空気を送り込むことができる。
【0029】
ECU100は、入出力装置と、各種演算処理を行う演算装置と、演算処理データを一時記憶するメインメモリと、演算プログラムを記憶する記憶装置とからなるマイクロコンピュータであって、当該記憶装置にエンジン制御系1を制御する制御用プログラムをインストールすることで、次のような処理を実現する。すなわち、ECU100は、アクセルポジションなどの運転手による操作情報および各種センサからの検出情報に基づいて、エンジン2に噴射する燃料噴射量、ターボチャージャー3が備える各種バルブ及びスロットルの開度を調整することにより、エンジン2及びターボチャージャー3の動作を制御する。つまり、本発明が適用される過給機付き内燃機関の制御装置は、ECU100の一機能として実現される。
【0030】
なお、ECU100は、上述したマイクロプロセッサに限らず、例えばプログラマブルロジックデバイスなど、エンジン制御系1を制御するために設計された専用ハードウェアであってもよい。
【0031】
2.過給機付き内燃機関の制御装置
(全体構成)
次に、ECU100の内部構成について
図2を参照して具体的に説明する。
【0032】
EUC100は、エンジン2に空気を過給する過給圧を制御する過給圧制御部110と、エンジン2の回転数の変動を判断する回転数判断部120と、エンジン2に噴射する燃料噴射量および噴射タイミングを制御する燃料噴射制御部130と、過給圧の変動を判断する過給圧判断部140と、排気圧を推測する排気圧推測部150と、後述する排気流量調整バルブの開度の閉方向限界値を変化させる閉方向限界値可変部160と、を備える。
【0033】
過給圧制御部110は、排気経路を流れる排気ガスの流量を調整する排気流量調整バルブの開度を所定開度範囲で変化させることにより、エンジンに空気を過給する過給圧が目標過給圧になるように制御する。ここで、排気流量調整バルブとは、上述したターボチャージャー3において、可変ノズルターボバルブ321aと高圧側ウエストゲートバルブ321bと低圧側ウエストゲートバルブ322aに該当する。
【0034】
具体的に、過給圧制御部110は、アクセルポジションセンサ202からのアクセルポジション情報、燃料噴射制御部130による燃料噴射量、エンジン回転数センサ201からの回転数などの情報に基づいて過給圧の目標値(目標過給圧)を設定する。そして、実過給圧と目標過給圧との差分が0に収束するように、バルブの絞り式、タービンとコンプレッサとの変換効率式などの物理式に基づいて、排気流量調整バルブの開度を調整して過給圧を制御する。
【0035】
上述した3つの排気流量調整バルブのうち、過給圧制御部110は、エンジン2の負荷(回転数)により区分けした3種類の負荷領域に応じて、2つの排気流量調整バルブの開度を全開または全閉に固定にした状態で残りの一の排気流量調整バルブ(以下、開度可変対象バルブともいう。)の開度を変化させる。
【0036】
まず、排気ガスが少ない低負荷領域において、過給圧制御部110は、高圧段ウエストゲートバルブ321bと低圧段ウエストゲートバルブ322aとを全閉に固定した状態で、可変ノズルターボバルブ321aを開度可変対象バルブとして開度を変化させることにより、過給圧を制御する。続いてエンジン2の回転数が上昇して排気ガスが低負荷領域よりも多くなる中負荷領域において、過給圧制御部110は、可変ノズルターボバルブ321aの開度を全開状態に固定し、低圧段ウエストゲートバルブ322aを全閉状態に固定した状態で、高圧段ウエストゲートバルブ321bを開度可変対象バルブとして開度を変化させることにより、過給圧を制御する。さらにエンジン2の回転数が上昇して排気ガスが中負荷領域よりもさらに多くなる高負荷領域において、過給圧制御部110は、可変ノズルターボバルブ321a及び高圧側ウエストゲートバルブの開度を全開状態に固定し、低圧段ウエストゲートバルブ322aを開度可変対象バルブとして開度を変化させることにより、過給圧を制御する。
【0037】
また、排気圧がハードウェア上許容される上限値を超えないようにするため、可変対象バルブの排気流量調整バルブの開度には、後述する閉方向限界値可変部160によって閉方向限界値、すなわち閉め側の限界値が設定されている。つまり、過給圧制御部110は、所定開度範囲内で排気流量調整バルブの開度を変化させることにより、過給圧を制御する。
【0038】
回転数判断部120は、エンジン回転数センサ201からの検出結果を用いてエンジンの回転数が単位時間(例えば1秒)当たりに上昇する回転数上昇速度[rpm/sec]を算出し、算出した回転数上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する。当該判断結果は、閉方向限界値可変部160に通知される。
【0039】
燃料噴射制御部130は、エンジン回転数センサ201から検出したエンジン回転数、アクセルポジションセンサ202から検出したアクセルポジションなどの情報に応じて、エンジン2に噴射する燃料噴射量およびタイミングを制御する。
【0040】
また、燃料噴射制御部130は、燃料噴射量の変動について判断する燃料噴射量判断部131を有する。具体的に、燃料噴射量判断部131は、単位時間(1秒)当たりに燃料噴射量が上昇する噴射量上昇速度[mg/st/sec]を算出して、算出した噴射量上昇
速度が閾値未満であるか否かを判断する。当該判断結果は、閉方向限界値可変部160に通知される。
【0041】
過給圧判断部140は、過給圧センサ315からの検出結果を用いて単位時間(例えば1秒)当たりに実過給圧が上昇する過給圧上昇速度[hPa/sec]を算出し、算出した過給圧上昇速度が所定値以上であるか否かを判断する。当該判断結果は、閉方向限界値可変部160に通知される。
【0042】
排気圧推測部150は、バルブの絞り式、タービンとコンプレッサとの変換効率式などの物理式によって表現されたエンジン制御系1の物理モデル、及び各種センサの検出値に基づいて、高圧側タービン321の上流側の排気圧の推測値[hPa]、具体的にはエンジン2の排気口付近の排気圧の推測値を算出する。また、排気圧推測部150は、排気圧の変動について判断する排気圧判断部151を有する。具体的に、排気圧判断部151は、排気圧の推測値が、ハードウェア上の許容値より低く設定した所定値を超えたか否かを判断する。例えば排気圧が所定値を超えた場合には、排気圧がハードウェア上の許容値に近づくほど上昇していると判断することができる。当該判断結果は、閉方向限界値可変部160に通知される。
【0043】
閉方向限界値可変部160は、回転数判断部120、燃料噴射量判断部131、過給圧判断部140および排気圧判断部151による判断結果に基づいて、具体的には
図3に示す処理に従って、過給圧制御部110により調整可能な排気流量調整バルブの閉方向限界値を変化させる。ここで、閉方向限界値とは、過給圧制御部110が排気流量調整バルブを閉め側に変化可能な開度の限界値(リミット値)である。
【0044】
以上のような構成からなるECU100では、例えば
図3に示すようなフローチャートに従って、排気流量調整バルブの閉方向限界値を変化させる。
【0045】
ステップS301において、回転数判断部120は、エンジン回転数上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する。エンジン回転数上昇速度が閾値未満である場合(S301:Yes)にはステップS302に進む。一方、エンジン回転数上昇速度が閾値未満ではない場合(S301:No)、すなわちエンジン回転数上昇速度が閾値以上である場合にはステップS304に進む。
【0046】
ステップS302において、燃料噴射量判断部131は、燃料噴射量の上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する。燃料噴射量の上昇速度が閾値未満である場合(S302:Yes)にはステップS303に進む。一方、燃料噴射量の上昇速度が閾値未満ではない場合(S302:No)、すなわち燃料噴射量の上昇速度が閾値以上の場合にはステップS304に進む。
【0047】
ステップS303において、過給圧判断部140は、過給圧上昇速度が閾値未満であるか否かを判断する。過給圧上昇速度が閾値未満である場合(S303:Yes)にはステップS305に進む。一方、過給圧上昇速度が閾値未満ではない場合(S303:No)、すなわち過給圧上昇速度が閾値以上である場合にはステップS304に進む。
【0048】
ステップS304において、排気圧判断部151は、排気圧推測部150により推定した排気圧の推定値が、所定値を超えたか否かを判断する。そして、排気圧の推定値が所定値を超えた場合(S304:Yes)にはステップS306に進む。一方、排気圧の推定値が所定値を超えていない場合(S304:No)、すなわち排気圧の推定値が所定値以下である場合(S304:No)にはステップS305に進む。
【0049】
ステップS305において、閉方向限界値可変部160は、バルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値に設定して、
図3に示す処理を終了する。ここで、第1閉方向限界値とは、バルブの閉め側の開度限界値であって、後述する第2閉方向限界値と比べてより閉め側の値となる。つまり、バルブ開度を第1閉方向限界値に設定することで、後述する第2閉方向限界値に設定した場合と比べて、過給圧制御部110は、バルブの開度をより閉方向の範囲まで排気流量調整バルブを閉めることができる。
【0050】
ステップS306において、閉方向限界値可変部160は、バルブ開度の閉方向限界値を第2閉方向限界値に設定して、
図3に示す処理を終了する。第2閉方向限界値は、上述したようにバルブの閉め側の開度限界値であって、第1閉方向限界値と比べてより開き側の値となる。つまり、バルブ開度を第2閉方向限界値に設定することで、過給圧制御部110は、バルブの開度の閉方向限界値を、第1閉方向限界値に設定した場合に比べて開き側に制限した範囲で排気流量調整バルブの開度を変化させる。
【0051】
上記
図3に示した処理によれば、ステップS301乃至ステップS303のうちのいずれか一の条件を満たさない場合には、排気経路の排気ガスの圧力が所定の上限値を超える虞があるものとして、ステップS304に進む。さらに、ステップS304において排気圧が所定値を超えた場合にはステップS306に進み、閉方向限界値可変部160により排気流量調整バルブの閉方向限界値を、第1閉方向限界値から第2閉方向限界値に変化させる。つまり、上記
図3に示す処理によれば、排気経路の排気ガスの圧力が所定の上限値を超える虞がある場合に限って、排気流量調整バルブの閉方向限界値を開方向に変化させる。なお、第1閉方向限界値から第2閉方向限界値への変化は、ステップ状に変化させてもよく、時間軸方向に緩やかに変化させてもよい。
【0052】
このようにして所定条件に限って排気流量調整バルブの閉方向限界値を開方向に変化させて過給圧を制御することにより、例えばバルブ開度の閉方向限界値を固定した場合に比べて、過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【0053】
まず、第1比較例として、バルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値に固定した状態で、過給圧制御部110により過給圧を制御したときの各種時間応答を、
図4を参照して説明する。具体的に、
図4(A)はアクセルポジションの時間応答を示し、縦軸上側が、アクセル開度が大きいことを表している。また、
図4(B)は目標過給圧(破線)と実過給圧(実線)との時間応答を示し、縦軸上側が、過給圧が高いことを表している。また、
図4(C)はバルブ開度の閉方向限界値(二点鎖線)と実際のバルブ開度(実線)との時間応答を示し、縦軸上側がバルブの閉まり側を表している。
図4(D)は高圧段タービン321上流側の排気圧の許容値(点線)と実測値(実線)との時間応答を示し、縦軸上側が、排気圧が高いことを表している。
【0054】
図4(A)乃至
図4(C)から明らかなように、第1比較例では、バルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値とすることで、過渡状態Trにおいて過給圧をアクセルポジションの変化に素早く応答して上昇させることができる。さらに、
図4(B)に示す定常状態Stの時間帯St1において、定常偏差がなく実過給圧を目標過給圧に追従させることができる。
【0055】
しかしながら、第1比較例では、バルブ開度を比較的閉め側に調整しているため、
図4(D)に示す過渡状態Trの時間帯Tr1において、排気圧が上昇してハードウェア上の許容値を超えてしまうこととなり、望ましくない。
【0056】
次に、第2比較例として、バルブ開度の閉方向限界値を第2閉方向限界値に固定した状
態で、過給圧制御部110により過給圧を制御したときの各種時間応答を、
図5を参照して説明する。具体的に、
図5(A)はアクセルポジションを示し、
図5(B)は目標過給圧(破線)と実過給圧(実線)とを示し、
図5(C)はバルブ開度の閉方向限界値(二点鎖線)と実際のバルブ開度(実線)とを示し、
図5(D)は高圧段タービン321上流側の排気圧の許容値(点線)と実測値(実線)とを示している。
【0057】
図5(A)乃至
図5(C)から明らかなように、第2比較例では、バルブ開度の閉方向限界値を第2閉方向限界値に固定しているため、過渡状態Trにおいてアクセルポジションの変化に対する過給圧の応答が遅くなり、定常状態Stの時間帯St2において実過給圧が目標過給圧に追従できず定常偏差が生じてしまう。しかしながら、第2比較例では、過渡状態Trにおいてバルブ開度が比較的開き側に固定しているため排気圧の上昇を抑制することができ、
図5(D)に示す過渡状態Trの時間帯Tr2において、排気圧が上昇してハードウェア上の許容値を超えることがない。
【0058】
上記の通り、第1及び第2比較例では、過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができない。
【0059】
次に、上記
図3に示す処理によりバルブ開度の閉方向限界値を閉方向限界値可変部160により可変にした実施例について、その時間応答を
図6を参照して説明する。具体的に、
図6(A)はアクセルポジションを示し、
図6(B)は目標過給圧(破線)と実過給圧(実線)とを示し、
図6(C)はバルブ開度の閉方向限界値(二点鎖線)と実際のバルブ開度(実線)とを示し、
図6(D)は高圧段タービン321上流側の排気圧の許容値(点線)と実測値(実線)とを示している。
【0060】
図6(A)乃至
図6(C)から明らかなように、本実施例では、過給圧が上昇しはじめる過渡状態Trの初期段階ではバルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値とすることで、アクセルポジションの上昇に素早く応答して実過給圧を上昇させ、実過給圧を目標過給圧に追従するように速く立ち上げて上昇させることができる。このようにして過給圧を速く立ち上げることで、時間帯Tr31においてバルブ開度の閉方向限界値を第2閉方向限界値に変更しても、定常状態Stの時間帯St3において定常偏差なく実過給圧を目標過給圧まで追従させることができる。さらに、時間帯Tr31においてバルブ開度の閉方向限界値を第2閉方向限界値とすることで、
図4(D)に示すの時間帯Tr32において、排気圧の上昇がピークを迎えるが、ハードウェア上の許容値を超えることがないようにすることができる。
【0061】
以上のように、上記
図3に示す処理を行うECU100では、
図6(A)に示したように過渡状態Trにおいて過給圧の上昇が急激になる場合など、所定条件に限って排気流量調整バルブの閉方向限界値を開方向に変化させて過給圧を制御することにより、過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【0062】
なお、
図3に示した処理のうち、ステップS301乃至ステップS303から、ステップS304を行わずに直接ステップS306に進んでもよい。つまり、ステップS301乃至ステップS303の判断条件を満たさない場合には、排気圧が所定の許容値を超える虞があるものとして所定の開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて過給圧を制御してもよい。特にステップS304における判断処理を行うことにより、本来であれば排気圧が許容値を超えないような場合まで不要に閉方向限界値を開き側に変化させることを抑制し、過給圧制御系の応答性ないし追従性の悪化を防ぐことができる点で好ましい。
【0063】
3.その他
なお、実過給圧は、上述した過給圧センサ315に限らず、エンジン制御系1に設けられた各種センサの値から推定した値を用いてもよい。また、本発明が適用される過給機は、上述したような2ステージターボチャージャー3に限らず、1基の過給機であっても適用可能である。
【0064】
さらに、本発明は、上記の実施形態の機能を実現するエンジン制御用プログラムが記録された非一時的な記録媒体をECUに提供し、当該ECUの演算処理装置(CPU、MPU)に対して、当該記録媒体に記録されたエンジン制御用プログラムを読み出して実行させることによって実現してもよい。
【0065】
この場合、当該非一時的な記録媒体から読み出されたエンジン制御用プログラムは、上述の実施形態の機能を実現する。したがって、当該エンジン制御用プログラム及びこのプログラムが記録された非一時的な記録媒体も、本発明の一態様である。
【0066】
当該エンジン制御用プログラムを提供する非一時的な記録媒体は、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RWなどの光ディスク、磁気テープ、不揮発性メモリカード、及びROMを含む。或いは、当該プログラムは、通信ネットワークを介してダウンロード可能であってもよい。
【0067】
典型的な実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、ここに開示する典型的な態様に限定されないことはもちろんである。特許請求の範囲は、このような変更と、同等の構造及び機能とをすべてを含むように最も広く解釈することが可能である。