特許第6474138号(P6474138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6474138ラッカーゼによるリグニンの解重合のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474138
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】ラッカーゼによるリグニンの解重合のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/00 20060101AFI20190218BHJP
   C07G 1/00 20110101ALI20190218BHJP
【FI】
   C12P1/00
   C07G1/00
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-534941(P2016-534941)
(86)(22)【出願日】2014年11月26日
(65)【公表番号】特表2017-505754(P2017-505754A)
(43)【公表日】2017年2月23日
(86)【国際出願番号】EP2014075680
(87)【国際公開番号】WO2015078920
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2017年10月26日
(31)【優先権主張番号】1361718
(32)【優先日】2013年11月27日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516152859
【氏名又は名称】アンスティテュ・ポリテクニック・ド・ボルドー
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT POLYTECHNIQUE DE BORDEAUX
(73)【特許権者】
【識別番号】516152860
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ド・ボルドー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BORDEAUX
(73)【特許権者】
【識別番号】508106611
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィック (セーエヌエールエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】グレリエ、ステファーヌ
(72)【発明者】
【氏名】コンバ・ヨヤ、ジョルジュ
【審査官】 金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−077589(JP,A)
【文献】 特開2000−064185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07G 1/00−99/00
C07H 1/00−99/00
B09B 1/00− 5/00
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンの解重合のための方法であって、
少なくとも1種の溶媒中で、非フェノール性リグニン、ラッカーゼ、酸化還元メディエータおよび酸素源を組み込むことによって非フェノール性リグニンを酸化し、それによって、酸化されたリグニンを含む混合物が得られる工程と、
それにより得られた前記酸化されたリグニンを、酸化剤の添加により解重合する工程と
を含み、
前記非フェノール性リグニンが、フェノール性リグニンのフェノール官能基をアルコキシ官能基を得るためにアルキルで官能化することによって前記フェノール性リグニンから得られるアルキル化リグニンである、方法。
【請求項2】
前記非フェノール性リグニンが、フェノール性リグニンのフェノール官能基をメトキシ官能基を得るためにメチルで官能化することによって前記フェノール性リグニンから得られるメチル化リグニンである請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記メチル化リグニンが、塩基性水溶液中で、フェノール性リグニンおよびメチル化剤を組み込むことによって得られる請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記メチル化剤が、硫酸ジメチルである請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸素源が、純酸素または空気である請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化還元メディエータが、2,2−アジノ−ビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)である請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化剤が、過酸化水素である請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化工程が、塩基性媒体中で行われる請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記非フェノール性リグニンが、クラフトリグニンまたはサトウキビバガスリグニンのフェノール官能基の官能化から得られる請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンの解重合のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、セルロースに次いで2番目に豊富な再生可能なバイオポリマーであり、これらは合わせて全バイオマスの70%超を占めている。
【0003】
したがって、リグニンの高価値化(valorisation)は重要な課題である。
【0004】
製紙産業では、大量のリグニンが副産物または廃棄物として得られ、そのわずかな割合が、化学形態で高価値化される(valorisee)に過ぎない。製糖産業でも、大量のリグニンがサトウキビ汁の抽出の際の廃棄物として得られる。リグニンは、主に、結合剤または分散剤として、または高温処理(800℃〜1000℃)によってバイオガスを調製するのに使用される。環境的観点から不十分である、塩素化誘導体を伴うリグニンの解重合のための方法も存在している。
【0005】
現在のところ、化合物を製造するために原料としてリグニンを使用する経済的に実行可能な方法はほとんどない。
【0006】
したがって、経済的に実行可能であり、かつ環境的観点から受け入れられる、リグニンの高価値化のための新規な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、バイオリファイナリー、農業用飼料産業またはさらには化粧品などの様々な産業分野において、アップグレード可能な解重合生成物を得ることを可能にする、効率的でかつ環境的観点から好適である、リグニンの解重合のための新規な方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、3,4−ジメトキシ安息香酸(メチル化バニリン酸)、ベラトルムアルデヒド(メチル化バニリン)、ベラトロール(メチル化グアイアコール)またはメチル化ジホルミルグアイアコールなどの、様々なサイズの解重合生成物を制御された方法で得ることを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方法は、酵素の作用と酸化剤の作用との連続的な組合せを提供する。
【0010】
より詳細には、本発明は、リグニンの解重合のための方法であって、
少なくとも1種の溶媒中で、非フェノール性リグニン、ラッカーゼ、酸化還元メディエータおよび酸素源を組み込むことによって非フェノール性リグニンを酸化し、それによって、酸化された非フェノール性リグニンを含む混合物が得られる工程と、
それにより得られた酸化された非フェノール性リグニンを、酸化剤の添加により解重合する工程と
を含み、前記非フェノール性リグニンが、フェノール性リグニンのフェノール官能基の官能化によって前記フェノール性リグニンから得られる、方法に関する。
【0011】
本発明の方法は、ラッカーゼを内因的に発現する微生物(真菌など)が使用されないという意味で、非微生物性である。
【0012】
本発明者らは、酸化還元メディエータおよび酸素源の存在下におけるラッカーゼの非フェノール性リグニンに対する作用と、その後の酸化剤の添加とが、リグニンの構造を効率的に解重合する効果を与えることに意外にも気付いた。
【0013】
本方法の第1の工程(酸化工程)の間、非フェノール性リグニンのベンジル位におけるヒドロキシル官能基が、ケトン官能基へと酸化される。この工程の間、リグニンの高分子構造は分解されず、実質的にC−C結合は切断されない。
【0014】
本方法の第2の工程(分解工程としても知られている解重合工程)の間、リグニンの高分子構造のC−C結合は破断される。特定の理論に制約されるものではないが、それによって破断されるC−C結合は、本方法の第1の工程中に形成されたケトン官能基の近傍に見られるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法は、以下の例示的スキームによって示すことができる。
【0016】
【化1】
【0017】
式中、基−ORは、非フェノール性リグニンの官能化されたフェノール官能基を表し、基−R’は、示されているフェニル基の任意選択的な他の置換基(フェノール官能基と異なる)を表す。基−R’の存在、数および種類は、使用されるリグニンに応じて決まる。これは、例えば、1つまたはいくつかのメトキシ基であり得る。
【0018】
上記のスキームは、あくまでも例示的なものであり、リグニンの構造を概略的に示すに過ぎない。
【0019】
これがさらに説明されるように、本方法の両方の工程は、同じ反応器中で次々に行われるのが有利である。
【0020】
本発明の方法の工程の反応条件が、さらに説明される。
【0021】
一般に、本出願の範囲内において、「反応媒体」とは、本方法の工程がその中で行われ、リグニン誘導体、ラッカーゼ、酸化還元メディエータ、酸素源、少なくとも1種の溶媒、および任意選択的に酸化剤(それが既に加えられたか否かに応じて)を含む媒体を意味する。
【0022】
「それらを組み込む」とは、反応媒体中への試薬の添加を意味する。
【0023】
前記反応媒体は、本出願において記載されるように他の試薬も含み得る。
【0024】
これより、本方法に適用される原料、すなわち、非フェノール性リグニンが説明される。
【0025】
<非フェノール性リグニン>
「非フェノール性リグニン」とは、フェノール性リグニン(単に「リグニン」とも呼ばれる)のフェノール官能基(Ph−OH)の官能化による反応生成物であるフェノール性リグニン誘導体を意味する。
【0026】
非フェノール性リグニンは、少なくとも1つのフェノール官能基が修飾された、修飾または官能化されたリグニンである。好ましくは、リグニンのフェノール基の少なくとも50%、またはさらに少なくとも60%、またはさらに少なくとも70%、またはさらに少なくとも80%、またはさらに少なくとも90%、またはさらに少なくとも95%、またはさらに少なくとも99%が修飾される。
【0027】
ある種類の非フェノール性リグニンは、Srebotnik et al.(Journal of Biotechnology 81(2000),179−188)に特に記載されている。
【0028】
好ましくは、非フェノール性リグニンは、遊離フェノール官能基(官能化されていない)を含まない。
【0029】
非フェノール性リグニンは、本方法の酸化工程中に、フェノール性リグニンのフェノール官能基を非反応性官能基へと転化することが可能な官能化剤と前記フェノール性リグニンとの反応によって得られる。リグニンの官能化は、本方法の酸化工程中にフェノール官能基を保護し、それらが反応するのを防ぐ目的を有する。したがって、非フェノール性リグニンの官能化されたフェノール官能基は、ラッカーゼによる酸化工程中に反応性でない。
【0030】
本発明の範囲内において、「リグニンの官能化」とは、フェノール官能基の選択的官能化、すなわち、リグニンの他のヒドロキシル官能基(特に、脂肪族アルコール)が官能化されないことを意味する。好ましくは、官能化は完全であり、すなわち、全てのフェノール官能基が官能化される。
【0031】
本発明者らは、本発明の方法に係るフェノール性リグニンを使用することによって、リグニンの解重合が向上されることを発見した。
【0032】
アルキル化は、本方法を適用するのに好適な官能化の例である。このために、アルキル化剤が官能化剤として使用される。
【0033】
一実施形態によれば、非フェノール性リグニンとしてアルキル化リグニンを使用することができる。
【0034】
「アルキル化リグニン」とは、アルコキシ官能基を得るためにフェノール官能基がアルキル(典型的にC〜C12アルキル)で官能化された非フェノール性リグニンを意味する。
【0035】
好ましくは、アルキル化リグニンは、遊離フェノール官能基を含まず、すなわち、アルキル化リグニンは、全て(またはほぼ全て)がアルコキシ官能基の形態である。
【0036】
有利な実施形態によれば、非フェノール性リグニンとしてメチル化リグニンを使用することができる。
【0037】
このために、メチル化剤が官能化剤として使用される。
【0038】
「メチル化リグニン」とは、メトキシ官能基を得るためにフェノール官能基がメチルで官能化されたアルキル化リグニンを意味する。
【0039】
好ましくは、メチル化リグニンは、遊離フェノール官能基を含まず、すなわち、メチル化リグニンは、全て(またはほぼ全て)がメトキシ官能基の形態である。
【0040】
フェノール性リグニンの官能化の後、官能化の程度および官能化の選択性を制御するために、31P NMRによって、残っている可能性のあるフェノール官能基(官能化されていない)の量を定量化することができる。その方法は、Granat et al.J.Agric.Food Chem.,1995,43(6),1538−1544に特に記載されている。
【0041】
一実施形態によれば、非フェノール性リグニンは、塩基性水溶液中で、フェノール性リグニンおよびアルキル化剤を組み込むことによって得られるアルキル化リグニンである。
【0042】
本発明の範囲内において、アルキル化剤は、(アルコキシ官能基を得るために)フェノール官能基の水素原子をアルキル基で置換することによって、アルキル基で前記フェノール官能基を官能化することが可能な化合物である。
【0043】
好ましくは、リグニンのフェノール官能基を選択的にアルキル化することを可能にするアルキル化剤が使用され、すなわち、リグニンの他のヒドロキシル官能基(特に、第二級アルコール)は、アルコキシ官能基へとアルキル化されない。
【0044】
好ましくは、リグニンのフェノール官能基を完全にアルキル化することを可能にするアルキル化剤が使用され、すなわち、リグニンの全て(またはほぼ全て)のフェノール官能基がアルコキシ官能基へとアルキル化される。
【0045】
有利な実施形態によれば、非フェノール性リグニンは、好ましくは、塩基性水溶液中で、リグニンおよびメチル化剤を組み込むことによって得られるメチル化リグニンである。
【0046】
本発明の範囲内において、メチル化剤は、フェノール官能基の水素原子をメチル基で置換することによって、メチル基で前記フェノール官能基を官能化することが可能な化合物である。
【0047】
好ましくは、リグニンのフェノール官能基を選択的にメチル化することを可能にするメチル化剤が使用され、すなわち、リグニンの他のヒドロキシル官能基(特に、第二級アルコール)は、メトキシ官能基へとメチル化されない。
【0048】
メチル化剤を組み込む工程は、典型的に、滴下して行われる。
【0049】
組み込む工程の後、典型的に、反応媒体を典型的に50℃〜100℃の温度に加熱するための工程が続く。
【0050】
メチル化剤として、硫酸ジメチル(dimethylsulfate)(または硫酸ジメチル(sulfate de dimethyle))、炭酸ジメチル(DMC)、ヨウ化メチルおよびジアゾメタンが挙げられる。
【0051】
好ましくは、フェノール性リグニンのフェノール官能基の完全かつ選択的なメチル化を可能にする硫酸ジメチルが使用される。
【0052】
リグニンのメチル化のための工程は、典型的に、Sadeghifar et al.Ind.Eng.Chem.Res.2012,51,16713−16720に記載されている方法にしたがって行われ得る。
【0053】
リグニンは、塩基性水溶液、典型的に、炭酸ソーダ(例えば0.7M)に溶解される。得られた混合物は、典型的に、室温で撹拌され、メチル化剤が、(フェノール官能基の当量数を基準にして約50当量のメチル化剤の量で)好ましくは滴下して加えられる。混合物は、典型的に、試薬が消費されるまで(例えば80℃に)加熱される。次に、混合物は、酸性化され、ろ過され、得られた固体が蒸留水で洗浄され、乾燥されて、メチル化リグニンが得られる。
【0054】
特定の理論に制約されるものではないが、本発明者らは、フェノール官能基を選択的および完全にブロックすることによるリグニンのメチル化が、ラッカーゼの作用の際にリグニンの重合反応を非常に効率的に防ぎ、それによって、解重合を向上させることに気付いた。
【0055】
メチル化の効果は、後述される比較例に特に示される。本発明の方法によって処理された(メチル化されていない)非フェノール性リグニンは、解重合されない。
【0056】
<フェノール性リグニン>
本発明の範囲内において、「フェノール性リグニン」または「リグニン」とは、遊離フェノール官能基(Ph−OH)を含む、自然形態のリグニンを意味する。
【0057】
リグニンの構造は、骨格としてフェニルプロパン単位を有する基本単位の重合からの複雑な3次元格子として現れる。したがって、リグニンは、より一般に、それを構成する基本単位に応じたリグニンを指す。モノリグノールとも呼ばれるリグニンの基本単位の中から、主に、パラクマリルアルコール、コニフェリルアルコールおよびシナピルアルコールが挙げられる。
【0058】
本発明の範囲内において、「解重合」とは、リグニンの高分子構造の共有結合が破断される反応を意味し、それによって、初期のリグニンより小さいサイズの解重合生成物が得られる。
【0059】
「より小さいサイズ」とは、本発明の方法にしたがって得られる解重合生成物が、初期の非フェノール性リグニンの分子量より低い分子量を有することを意味する。
【0060】
しかしながら、本発明の範囲内において、「解重合」という用語の意味は、上記の基本単位への非フェノール性リグニンの変換に限定されるべきではない。
【0061】
典型的に、本発明の方法にしたがって得られるリグニンの解重合生成物は、1つの基本単位、数個の基本単位、またはさらに数十個の基本単位で形成される。一般に、様々な数の基本単位を含む解重合生成物の混合物が得られる。
【0062】
一般に、リグニンの複合構造を考えると、本発明の方法は、ケトン、アルデヒド、酸、フェノール、アルコールまたはメトキシ基、例えば、好ましくは、酸、メトキシ、アルコールおよびケトン基などの様々な官能基を有し得る、様々なサイズおよび構造を有する解重合生成物の混合物を提供する。
【0063】
前記解重合生成物は、非フェノール性リグニンの「モノマー」、「オリゴマー」または「断片」として定義され得る。
【0064】
したがって、「解重合方法」とは、リグニンの構造の「分解方法」も意味する。
【0065】
本発明の方法にしたがって得られる解重合生成物は、100g/mol〜5,000g/mol、好ましくは、150g/mol〜4,000g/mol、有利には、200g/mol〜3,000g/mol、優先的に、500g/mol〜2,500g/molのサイズを有する。
【0066】
リグニンの解重合生成物の混合物は、典型的に、その平均分子量Mによって特徴付けられ、平均分子量Mは、各生成物の質量で秤量される平均モル質量を表し、式:
【0067】
【数1】
【0068】
(式中、nが、生成物iの数を表し、Mが、生成物iの分子量を表す)で表される。
【0069】
本発明の方法にしたがって得られる解重合生成物の場合、平均分子量Mが、立体排除クロマトグラフィー(SECは、「サイズ排除クロマトグラフィー」を表す)によって測定され得る。
【0070】
解重合生成物の混合物は、典型的に、100g/mol〜5,000g/mol、好ましくは、150g/mol〜4,000g/mol、有利には、200g/mol〜3,000g/mol、優先的に、500g/mol〜2,500g/molの平均分子量Mを有する。
【0071】
また、本発明の方法にしたがって得られる解重合生成物の混合物は、前記混合物の質量平均分子量Mと初期のリグニンの質量平均分子量Mligとの間のモル比によって特徴付けられ得る。
【0072】
典型的に、本発明の方法を使用することによって、1/3〜1/10のモル比M/Mligが得られる。
【0073】
本発明の方法において原料として使用される非フェノール性リグニンは、商業的供給源であるか、または他にリグニンが豊富な産業廃棄物から抽出されるかにかかわらず、フェノール性リグニンの任意の利用可能な供給源から、それ自体公知の任意の官能化方法(アルキル化、メチル化、...)によって得ることができる。
【0074】
フェノール性リグニンの供給源として、任意選択的に精製された、後述されるリグニン、好ましくは、クラフトリグニン(例えば、黒液から得られる)、またはサトウキビバガスのリグニン、または任意の他の産業用リグニンを使用することができる。
【0075】
本発明の範囲内において使用され得るリグニンは、Lignins and Lignans:Advances in Chemistry,Cyril Heitne,John Schmidt,CRC Press,Taylor&Francis Group,2010に特に記載されている。
【0076】
有利には、リグニンは、水性媒体に可溶性になるように前処理されている。
【0077】
フェノール性リグニンとして、例えば、黒液から抽出されたクラフトリグニンを使用することができる。
【0078】
クラフトリグニン(チオリグニンとも呼ばれる)は、硫酸イオンを使用することによって紙パルプの工業生産から得られる水溶性化合物である。
【0079】
本発明の方法に使用され得るクラフトリグニンは、典型的に、クラフト紙の製造から得られる蒸解液である黒液の抽出によって得られる。これは、紙パルプからのリグニンおよび溶解されたヘミセルロースの残渣、ならびに他の無機化合物(溶解塩)からなる水溶液である。
【0080】
黒液の精製は、典型的に、以下のように行われる。黒液は、リグニンの沈殿を引き起こすために酸性化される。得られた固体は遠心分離され、単離され、エタノールで抽出される。液体画分が回収され、エタノールを蒸発させることによって濃縮される。残渣は、残留塩を除去するために酸性溶液で洗浄される。それによって、クラフトリグニンが得られる。
【0081】
黒液から抽出されたクラフトリグニンは、不純物(典型的に、モノフェノール化合物および分解残渣)を除去するために、以下のようにさらに精製され得る。クラフトリグニンは、テトラヒドロフランと組み合わされ、得られた混合物は、固体を除去するためにろ過され、ろ液が、溶媒を蒸発させることによって濃縮され、次に、得られた固体は、モノフェノール化合物(バニリン、バニリン酸、...)および分解残渣などの有機不純物を除去するためにジエチルエーテルで洗浄される。回収された固体は、精製されたクラフトリグニンを得るために乾燥される。
【0082】
フェノール性リグニンとして、サトウキビバガスに由来するリグニンを使用することもできる。
【0083】
サトウキビバガスは、サトウキビ汁を抽出した後に得られるサトウキビの繊維質残渣である。サトウキビバガスは、製糖産業の重大な廃棄物であり、十分に高価値化されていない。サトウキビバガスリグニンは、市販されている(Solvay)。
【0084】
産業用リグニンの供給源または他にリグニンを含む化合物の混合物、典型的に、リグニンならびにセルロースおよび/またはヘミセルロースなどの他の成分を含むバイオマス混合物、またはさらにはクラフトリグニンの混合物も使用することができる。
【0085】
本発明の方法に使用されるリグニンは、典型的に、1,000〜10,000g/mol、好ましくは、1,000〜5,000g/molの質量平均分子量(Mlig)を有する。
【0086】
初期のリグニンの質量平均分子量(Mlig)は、各サイズのリグニンの質量で秤量されるモル質量の質量を表し、式:
【0087】
【数2】
【0088】
(式中、nが、サイズjのリグニン分子の数を表し、Mが、サイズjのリグニンの分子量を表す)で表される。
【0089】
この値は、一般に、リグニン供給業者によって示されるか、または他に上述されるようにサイズ排除クロマトグラフィー測定によって決定され得る。
【0090】
これより、本発明の方法の工程が説明される。
【0091】
<ラッカーゼによる酸化工程>
本発明の方法の第1の工程は、少なくとも1種の溶媒中で、上記の非フェノール性リグニン、ラッカーゼ、酸化還元メディエータおよび酸素源を組み込むことからなる。
【0092】
この工程は、酸素源の存在下でラッカーゼ/メディエータ系の作用によって非フェノール性リグニンの酸化を引き起こし、それによって、酸化された非フェノール性リグニンを含む混合物が得られる。
【0093】
「酸化された非フェノール性リグニン」とは、ベンジル位におけるヒドロキシル官能基がケトン官能基へと選択的に転化された、上に定義される非フェノール性リグニンを意味する。
【0094】
この工程中、非フェノール性リグニンは、本質的に解重合されず、すなわち、この工程は、リグニンの高分子構造に全く影響を与えず(またはごくわずかな影響を与え)、特に、C−C結合を破断しない(またはごくわずかに破断する)。
【0095】
<ラッカーゼ>
ラッカーゼ(EC1.10.3.2)は、多くの植物、真菌および微生物中で見られる酵素のファミリーである。
【0096】
生体内で、ラッカーゼは、酸化活性を有し、酵素酸化プロセスにおいて触媒としての役割を果たす。
【0097】
本発明の方法に使用され得るラッカーゼは、植物、真菌または微生物に由来し得る。真菌に由来するラッカーゼとしては、アスペルギルス属(Aspergillus)、アカパンカビ属(Neurospora)(例えば、アカパンカビ(Crassa Neurospora))、ポドスポラ属(Podospora)、ボトリチス属(Botrytis)、モリノカレバタケ属(Collybia)、ツリガネタケ属(Fomes)、シイタケ属(Lentinus)、ヒラタケ属(Pleurotus)、カワラタケ属(Trametes)(例えば、フルイカワラタケ(Trametes villosa)およびカワラタケ(Trametes versicolor))、リゾクトニア属(Rhizoctonia)(例えば、紋枯病菌(Rhizoctonia solani))、ササクレヒトヨタケ属(Coprinus)(例えば、ネナガヒトヨタケ(Coprinus cinereus)、ササクレヒトヨタケ(Coprinus comatus)、ヒメヒトヨタケ(Coprinus friesii)およびヒメヒガサヒトヨタケ(Coprinus plicatilis))、ナヨタケ属(Psathyrella)(例えば、イタチタケ(Psathyrella condelleana))、ヒカゲタケ属(Panaeolus)(例えば、ワライタケ(Panaeolus papilionaceus))、マイセリオフソラ属(Myceliophthora)(例えば、マイセリオフソラ・サーモフィラ(Myceliophthora thermophila))、スキタリジウム属(Schytalidium)(例えば、スキタリジウム・サーモフィルム(Schytalidium thermophilum))、タマチョレイタケ属(Polyporus)(例えば、ポリポラス・ピンシタス(Polyporus pinsitus))、シワウロコタケ属(Phlebia)(例えば、コガネシワウロコタケ(Radiata Phlebia))、シュタケ属(Pycnoporus)(例えば、シュタケ(Pycnoporus cinnabarinus))またはカワラタケ属(Coriolus)(例えば、アラゲカワラタケ(Coriolus hirsutus))のラッカーゼが特に挙げられる。細菌に由来するラッカーゼは、例えば、バチルス属(Bacillus)に由来する。
【0098】
好ましくは、Sigma Aldrichによって販売される、カワラタケ(Trametes versicolor)に由来するラッカーゼが使用される。
【0099】
反応媒体中に存在する非フェノール性リグニンの初期の量(グラム単位)に対する組み込まれるラッカーゼの量(mg単位)の比率は、一般に、0.1/1〜5/1である。
【0100】
多量の分子(典型的に、5,000g/molを超える分子量)からなる基質の酸化のための、インビトロでのそれらの使用の範囲内において、ラッカーゼは、一般に、「酸化還元メディエータ」と関連付けられ、酸化還元メディエータは、ラッカーゼの分子と、酸化される基質分子との間の酸化還元中間体として作用する小さいサイズの化合物(典型的に、1,000g/mol未満の分子量を有する)である。酸化還元メディエータは、Bourbonnais R.Appl.Enviro.Microbiol.1995,61,1876−1880に特に記載されている。
【0101】
酸化還元メディエータは、ラッカーゼと、酸化される基質との間の電子移動を促進するため、電子移動剤とも呼ばれる。
【0102】
酸化還元仲介の原理は、それ自体公知の技術である。
【0103】
酸化還元メディエータの非存在下における、ラッカーゼによるリグニンの処理の範囲内において、大きいサイズのタンパク質であるラッカーゼと、大きいサイズのポリマーであるリグニン分子との間の化学的相互作用は、好ましくないであろう。したがって、ラッカーゼによって触媒される酵素酸化プロセスを促進するために、酸化還元メディエータが加えられる。
【0104】
組み込まれるラッカーゼの量(mg単位)に対する組み込まれる酸化還元メディエータの量(mmol単位)の比率は、一般に、1/1〜1/50である。
【0105】
好ましくは、本発明の方法にしたがって適用される酸化還元メディエータは、2,2−アジノ−ビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)である。
【0106】
このメディエータは、ラッカーゼによるリグニンの酸化に特に適している。
【0107】
仲介活性の喪失によってラッカーゼの存在下で容易に分解する(HOBtが酸素の喪失によってHBtになる)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)などの他の酸化還元メディエータと異なり、ABTSは、酸化還元メディエータとしてより良好な活性を有する。
【0108】
以下の酸化還元メディエータも、本発明を適用するのに好適であり得る:ビオルル酸、ヒドロキシアントラニル酸、TEMPO、N−ヒドロキシフタルイミド(Chakar et al.Can.J.Chem 82:344−352(2004))。
【0109】
<酸素源>
「酸素源」とは、上記の酵素酸化プロセスの範囲内において関与するラッカーゼの活性部位を再生(再酸化)することが可能な試薬を意味し、上記の酵素酸化プロセスにより、最終的に、非フェノール性リグニンから酸化された非フェノール性リグニンが得られる。「酸素」とは、本明細書において二酸素(O)を意味する。
【0110】
好ましくは、酸素源は、空気または純酸素などの酸素を含むガスである。
【0111】
酸素源として、純酸素(O)が挙げられ、純酸素(O)は、酸化工程の開始時に、非フェノール性リグニン、ラッカーゼ、酸化還元メディエータおよび少なくとも1種の溶媒を含む反応媒体中で、大気圧または数バールの圧力下でバブリングすることによって組み込まれる。このように、溶解された酸素で反応媒体を有利に飽和させることができる。
【0112】
酸素源として、空気または酸素が豊富なガスの任意の混合物も挙げることができる。
【0113】
「酸素源を組み込む」とは、本発明の方法の反応媒体中への前記酸素源の導入を意味する。前記組み込む工程は、1回でまたは持続した方法で、好ましくは、持続した方法で行うことができ、その目指す目的は、溶解された酸素で反応媒体を飽和させることである。
【0114】
あるいは、酸素源の代わりに、上記の酵素酸化プロセスに関与するラッカーゼの活性部位を再生(再酸化)することが可能な任意の酸化剤を使用することができる。
【0115】
本方法の第1の工程は、使用されるラッカーゼの反応性に好適なpHおよび温度の条件、すなわち、ラッカーゼの特性を変化させないpHおよび温度の条件下で行われるのが有利である。
【0116】
好ましくは、本発明の方法の第1の工程は、酸性媒体中で、典型的に、pH=4の緩衝液中で行われる。
【0117】
好ましくは、本発明の方法の第1の工程は、20℃〜60℃の温度、好ましくは、約40℃で行われる。
【0118】
これらの条件は、カワラタケ(Trametes versicolor)に由来するラッカーゼを適用するのに特に適している。
【0119】
使用されるラッカーゼの種類に関連した最適なpHおよび温度条件を選択することができ、所与のラッカーゼのためのこれらの条件は一般に知られている。
【0120】
本発明に係る方法の第1の工程は、少なくとも1種の溶媒の存在下で行われる。
【0121】
一実施形態によれば、溶媒は、水と極性有機溶媒とを含む混合物である。
【0122】
好ましくは、溶媒は、酸性pHの緩衝液(典型的に、pH=4)と極性有機溶媒とを含む混合物である。
【0123】
溶媒としてのこのような混合物の使用は、全ての試薬が組み込まれるだけでなく、非フェノール性リグニンを可溶化する利点を有する。それによって、均質な反応混合物が得られ、化学的相互作用が促進される。
【0124】
この実施形態によれば、溶媒は、好ましくは、溶媒の全体積を基準にして、30体積%〜70体積%、有利には、40%〜60%の水を含む。
【0125】
追加の溶媒は、典型的に、任意選択的に減圧下で、蒸発によって解重合生成物を分離させるのに十分に揮発性であるのが好ましい極性有機溶媒からなる。
【0126】
溶媒は、典型的に、ラッカーゼを可溶化するための水と、ジオキサンなどの、非フェノール性リグニンを可溶化することが可能なエーテルとの混合物である。ジオキサン/水(1/1)混合物が、典型的に使用され得る。
【0127】
第1の工程は、1gの非フェノール性リグニン当たり、10ml〜100ml、好ましくは、30ml〜70mL、典型的に、50mlの溶媒の体積が使用されるような希釈によって行われる。
【0128】
当業者は、初期の非フェノール性リグニンの溶解性、反応の温度および/または反応混合物の粘度に応じて、反応媒体の希釈を選択することができる。
【0129】
<解重合工程>
本発明者らは、酸化剤によって、本発明の方法の第1の工程から得られる酸化された非フェノール性リグニンを組み込むことによって、リグニンの解重合生成物を得るように、リグニンの構造を効率的に解重合することができることを発見した。
【0130】
「酸化剤」とは、反応媒体中に存在する種を酸化することが可能な物質を意味する。好ましくは、酸化剤は、求核性である。
【0131】
求核酸化剤として、例えば、過酸化水素(H)および過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、あるいはO、KMnOおよびNaIOなどの化合物、またはさらには有機化学において通常使用される任意の求核酸化剤が挙げられる。
【0132】
酸化剤は、好ましくは、過酸化水素(H)である。
【0133】
過酸化水素は、典型的に、約10Mのモル濃度に相当する35質量%の水溶液として利用可能である。
【0134】
好ましくは、典型的に、酸化剤が過酸化水素である場合、反応媒体中に存在する酸化された非フェノール性リグニンの量(グラム単位)に対する組み込まれる酸化剤の量(mol単位)の比率は、0.01/1〜0.02/1である。
【0135】
特に、酸化剤が過酸化水素である場合、本方法の第2の工程は、好ましくは、塩基性媒体中で行われる。したがって、本方法の第1の工程が、中性または酸性pHを有する媒体中で行われる場合、好ましくは、酸化剤を組み込む前に、塩基性媒体に移す必要がある。塩基性媒体中に移すために、反応媒体への、塩基性水溶液、典型的に、炭酸ソーダの添加などのそれ自体公知の任意の方法を使用することができる。
【0136】
<本方法の適用>
これより、本発明の方法の典型的な適用が説明される。
【0137】
本方法の工程は、典型的に、同じ反応器中で次々に適用される。
【0138】
あるいは、2つの別個の反応器中で、これらの工程の両方を別々に行うことができる。
【0139】
特定の実施形態によれば、加熱システム、撹拌手段および任意選択的に冷却手段を備えた反応器中に、非フェノール性リグニンおよび溶媒の一部が導入され、完全に溶解するまで撹拌される。次に、酸化還元メディエータ溶液が溶媒の一部に加えられ、次に、ラッカーゼ溶液が溶媒の残りの部分に加えられる。
【0140】
次に、酸素源がガスである場合、酸素源は、典型的に、反応媒体中でバブリングすることによって、好ましくは連続して組み込まれる。
【0141】
非フェノール性リグニンの完全な酸化が達成されるまで、混合物の温度は、典型的に、20℃〜60℃、好ましくは、約40℃に維持される。この段階で、本方法の第1の工程が完了される。
【0142】
次に、酸化された非フェノール性リグニンを回収することができる。
【0143】
あるいは、同じ反応器中で第2の工程を行うことによって、本方法を有利に続けることができる。この実施形態によれば、必要に応じて反応媒体を塩基性化することによって、塩基性pHにすることができる。
【0144】
次に、酸化剤が溶液である場合、酸化剤を、好ましくは、連続して、典型的には滴下して加えることができる。
【0145】
混合物の温度は、典型的に、70℃超、典型的に、約90℃であるように維持される。
【0146】
反応の進行を、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって追跡する。
【0147】
反応媒体の撹拌および加熱が、所望の解重合度が得られるまで続けられる。
【0148】
解重合が完了したら、リグニンの解重合生成物は、当該技術分野における標準的な精製技術、すなわち、ろ過、抽出、蒸留および/またはクロマトグラフィーによる分離を使用することによって回収され得る。特に、溶媒は、任意選択的に減圧下で、蒸発によって除去され得る。
【0149】
これより、本発明の方法が、実施例および比較例によって例示される。
【実施例】
【0150】
<試薬>
黒液(SMURFIT Kappaによって供給される)
硫酸ジメチル(Sigma Aldrichによって販売される)
サトウキビバガスリグニン(SOLVAYによって供給される)
2,2−アジノ−ビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)(Sigma Aldrichによって販売される)
カワラタケ(Trametes versicolor)に由来するラッカーゼ(Sigma Aldrichによって販売される)
酢酸緩衝液(pH=4;50mM)
過酸化水素(35%)(Sigma Aldrichによって販売される)
【0151】
<例1−黒液からのクラフトリグニンの抽出>
沈殿を引き起こすように、酸処理によって蒸解液(SMURFIT KAPPAによって販売される)からクラフトリグニンを抽出した。エタノールによる後処理により、残留するナトリウム塩を除去することが可能になる。
【0152】
800gの黒液を、2Lの蒸留水に溶解させ、6NのHCl溶液によって、混合物をゆっくりと酸性化する(pH=13からpH=1.5まで)。次に、混合物を、10分間にわたって4000rpmで遠心分離し、ペレットを回収し、pH=1.5のHCl溶液で再度処理し、再度遠心分離する(pH=1.3で、HClで3回処理する)。次に、得られた固体にエタノールを加える。ろ過の後、エタノール相を蒸発させ、残留塩を除去するために、残渣をpH=1.5のHCl溶液で洗浄する。遠心分離の後、ペレットを回収し、凍結乾燥させる。180gのクラフトリグニンが得られる。
【0153】
それによって得られた180gのクラフトリグニンから、10gを取り、それを200mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させる。超音波を用いて30分間撹拌した後、THFに不溶性の白色の固体堆積物を除去するために混合物をろ過する。THFの蒸発の後、9.2gの褐色の固体が得られる。この褐色の固体を、100mlのジエチルエーテル(EtO)に溶解させる。ある画分は、EtO(8.1g)に不溶性のままであり、可溶性の画分(0.9g)を、これらの化合物を揮発性にするためのシリル化の後、GC−MSによって分析する。
【0154】
この分析は、バニリンまたはバニリン酸のようなモノフェノールおよび糖の分解からの残渣の存在を実証している。不溶性の画分は、精製されたクラフトリグニンからなり、精製されたクラフトリグニンは、本発明のメチル化および解重合方法に後に使用され得る。
【0155】
<例2A−クラフトリグニンのメチル化>
1gのクラフトリグニンを、20mlの0.7MのNaOH溶液(0.56g)に溶解させ、混合物を室温で10分間撹拌し、次に、0.8mLの硫酸ジメチル((MeO)SO)を(滴下して)ゆっくりと加える。撹拌を、室温で30分間続ける。次に、反応媒体を均質化するために0.7MのNaOH溶液を加えながら(約10mLのさらに0.7MのNaOHを加える)、反応混合物を4時間にわたって80℃に加熱する。反応の4時間後、混合物を室温に戻し、2MのHCl溶液を用いてpH=2になるように酸性化する。粗反応物をろ過し、得られた固体を蒸留水で洗浄し、次に、凍結乾燥によって乾燥させる。0.874gのメチル化リグニンが得られる。
【0156】
<例2B−サトウキビバガスリグニンのメチル化>
サトウキビバガスリグニンは、SOLVAYによって供給されたものであり、これを予備的な前処理なしで使用した。
【0157】
バガスリグニンを、例2Aに記載されている条件下で処理する。0.92gのメチル化リグニンが得られる。
【0158】
<例3A−(クラフトリグニンに由来する)メチル化リグニンの解重合>
例2Aにおいて得られた1gのメチル化リグニンを25mLのジオキサンに溶解させ、完全に溶解するまで混合物を室温で撹拌する。
【0159】
次に、1mlの酢酸緩衝液(pH=4;50mM)中の51mgの2,2−アジノ−ビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)(0.1mmol)の溶液を調製し、それをメチル化リグニン溶液に加える。
【0160】
次に、200mLの酢酸緩衝液中の5mgのラッカーゼの溶液を調製し、この溶液を24ml取り、それを、40℃でメチル化リグニンを含有する媒体にゆっくりと加える。ラッカーゼを加えた後、酸素が充填されたフラスコを用いて、40℃で1時間バブリングすることによって、酸素ガスを混合物中に導入する。
【0161】
40℃における反応の22時間後、1mLの3MのNaOH溶液を加え、次に、過酸化水素(35%、10mmol)の1mLの水溶液をゆっくりと加え、混合物を90℃で撹拌する。
【0162】
反応の進行を、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって追跡する。pH=12になるまで1Mの水酸化ナトリウムおよび溶離剤として浸透水中のNaN(3%)を用いて、連続して結合された3つのTSKゲルタイプのカラム(3000 PW、4000 PW、3000 PW)を使用することによって、SECによる分析を行う。流量は1mL/分であり、280nmの波長でUVによって検出を確実にする。
【0163】
反応の第1の工程(ラッカーゼ/ABTS系の作用)は、低い解重合をもたらす。第2の工程(過酸化水素の作用)は、強い解重合をもたらし、低分子量の分子の形成を伴い、それを単離し、同定した。
【0164】
反応の40時間後、1NのHCl溶液によって、混合物をpH=6〜7に戻し、粗反応物をジクロロメタン(3×50ml)で抽出する。硫酸ナトリウム(NaSO)上で有機相を乾燥させ、揮発性溶媒を蒸発させた後、粗材料を、フラッシュクロマトグラフィー(溶離剤として:ジクロロメタン/メタノール99/1〜90/1を用いた)によって精製する。
【0165】
30mgの3,4−ジメトキシ安息香酸を、例2Aにおいて得られた1gのメチル化リグニンからこのように単離した。
【0166】
<比較例1>
比較として、例3Aに記載されている反応条件を直接適用する(すなわち、リグニンのメチル化を行わない)ことによって、例1において得られた精製されたクラフトリグニンをラッカーゼ/ABTS系の作用に供した。
【0167】
反応の進行をSEC(上述される条件)によって追跡する。
【0168】
【表1】
【0169】
:分子量ピーク(g/mol)
:数平均分子量(g/mol)
:質量平均分子量(g/mol)
【0170】
存在する種の平均分子量が、反応の持続時間とともに増加することが観察される。
【0171】
したがって、ラッカーゼ/ABTS系の作用が、メチル化されていないクラフトリグニンに対して行われる場合、解重合は観察されず、むしろリグニンの分子量の増加が観察される。
【0172】
<例3B−(バガスリグニンに由来する)メチル化リグニンの解重合>
例3Aに記載されている反応条件(ラッカーゼの作用が、65時間にわたって持続され、その後、過酸化水素が加えられる)を適用することによって、例2Bにおいて得られたメチル化リグニンを処理する。
【0173】
反応の進行をSEC(上述される条件)によって追跡する。
【0174】
【表2】
【0175】
反応の第1の工程(ラッカーゼ/ABTS)は、低い解重合をもたらす。第2の工程(t=65時間の時点における過酸化水素の添加)は、低分子量のフェノールの生成とともに解重合をもたらし、低分子量のフェノールは、単離されず、同定もされなかった。
【0176】
<比較例2>
比較として、例3Aに記載されている反応条件を直接適用する(すなわち、リグニンのメチル化を行わない)ことによって、バガスリグニンをラッカーゼ/ABTS系の作用に供する。
【0177】
反応の進行をSEC(上述される条件)によって追跡する。
【0178】
【表3】
【0179】
存在する種の平均分子量が、反応の持続時間とともに増加することが観察される。
【0180】
したがって、ラッカーゼ/ABTS系の作用が、メチル化されていないリグニンバガスに対して行われる場合、解重合は観察されず、むしろリグニンの分子量の増加が観察される。
【0181】
<比較例3>
比較として、例2Bにおいて得られたメチル化リグニンを、予めラッカーゼ/ABTS系の作用に供さずに、塩基性媒体中の過酸化水素の作用に供する。
【0182】
例2Bにおいて得られた1gのメチル化リグニンを、25mLのジオキサンに溶解させ、完全に溶解するまで混合物を室温で撹拌する。
【0183】
次に、25mLの浸透水を混合物に加える。
【0184】
1mLの3MのNaOH溶液を加え、次に、過酸化水素(35%、10mmol)の1mLの水溶液をゆっくりと加え、混合物を90℃で撹拌する。
【0185】
反応の進行をSEC(上述される条件)によって追跡する。
【0186】
【表4】
【0187】
ラッカーゼ/ABTS系の作用を用いて予め処理される場合より低い、メチル化リグニンの解重合が観察される。
【0188】
特定の理論に制約されるものではないが、この部分的な解重合は、リグニン中(ひいてはメチル化リグニン中)、ラッカーゼ/メディエータ系を組み込むことによって酸化されることが意図されるヒドロキシル官能基の特定の割合が既に酸化された状態で、すなわちケトンとして存在することによって説明される。これらのケトン官能基の近傍のC−C結合が酸化により破断すると、部分的な解重合が生じる。
【0189】
それにもかかわらず、この例は、本方法の第1の工程が、過酸化水素の解重合作用を最適化するのに必要とされることを示す。
【0190】
例2B、3Bの終了時に得られたバガスリグニンと、比較例3の終了時に得られたバガスリグニンとの比較分析は、メチル化リグニンをラッカーゼ/ABTS系の作用、次に、過酸化水素の作用に連続して供する場合、リグニンの分解が最も効率的であることを示す。
【0191】
【表5】