(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る漆喰は、漆喰の材料として活性アルミナを配合していることを特徴とし、本実施形態では、室内の壁面に上塗りして使用される、室内用塗壁材としての漆喰を例に挙げて説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の実施例及び比較例に係る漆喰の組成を示した表である。
図1では、漆喰の配合成分である消石灰、活性アルミナ、結合材及び水の配合比率が、漆喰の総重量を100重量%として重量比で示されている。
【0012】
実施例Aは、粒子が板状結晶構造である消石灰が48重量%、粒径50〜500μmの粒子である活性アルミナ粉末が21重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が30重量%の比率で配合されている。
【0013】
実施例Bは、粒子が板状結晶構造である消石灰が48重量%、粒径50〜500μmの粒子である活性アルミナ粉末が21重量%、結合材としてのPVA(ポリビニルアルコール)が1重量%、水が30重量%の比率で配合されている。
【0014】
実施例Cは、粒子が板状結晶構造である消石灰が41重量%、粒径50〜500μmの粒子である活性アルミナ粉末が25重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が33重量%の比率で配合されている。
【0015】
実施例Dは、粒子が粒状結晶構造である消石灰が48重量%、粒径50〜500μmの粒子である活性アルミナ粉末が21重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が30重量%の比率で配合されている。
【0016】
実施例Eは、粒子が粒状結晶構造である消石灰が48重量%、平均粒径40μmの粒子である活性アルミナ粉末が21重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が30重量%の比率で配合されている。
【0017】
比較例Aは、粒子が板状結晶構造である消石灰が69重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が30重量%の比率で配合され、活性アルミナは配合されていない。
【0018】
比較例Bは、粒子が板状結晶構造である消石灰が64重量%、粒径50〜500μmの粒子である活性アルミナ粉末が10重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が25重量%の比率で配合されている。
【0019】
比較例Cは、粒子が板状結晶構造である消石灰が57重量%、粒径50〜500μmの粒子である活性アルミナ粉末が15重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が27重量%の比率で配合されている。
【0020】
比較例Dは、粒子が板状結晶構造である消石灰が34重量%、粒径50〜500μmの粒子である活性アルミナ粉末が28重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が37重量%の比率で配合されている。
【0021】
比較例Eは、粒子が板状結晶構造である消石灰が29重量%、粒径50〜500μmの粒子である活性アルミナ粉末が30重量%、結合材としての海藻のりが1重量%、水が40重量%の比率で配合されている。
【0022】
ここで、上記実施例等に配合されている活性アルミナについて説明する。活性アルミナ(κ−アルミナ、γ−アルミナ、η−アルミナ等)は、多孔質であり、比表面積及び細孔容積が大きく、細孔径も小さいため、一般に、吸着剤、乾燥剤、触媒担体等として使われている。
【0023】
本実施形態に係る活性アルミナ粒子の細孔容積は0.3〜0.7ml/g、比表面積は100〜280m
2/gである。また、活性アルミナ粒子の細孔は、細孔径が7〜20Åの細孔が全体の90%を占める。このため、活性アルミナは、高い吸湿性を有すると共に、気体等の非常に小さな粒子に対しても高い吸着性を示す。
【0024】
本実施形態において用いる活性アルミナ粉末は、水酸化アルミニウムAlOH
3が99.8%の粉末を約500〜700℃(例えば、600℃)で焼成してから破砕することで製造される。こうして得られた活性アルミナ粉末には、様々な粒径の粒子が含まれるが、本実施形態では、溶媒を用いたふるい(篩い)工程によって、粒径が略30〜100μmの範囲で平均粒径が40μmの活性アルミナ粉末と、粒径が50〜500μmの活性アルミナ粉末とに分けられる。
【0025】
なお、上記ふるい工程では、平均粒径40μmの活性アルミナ粉末のほうがより多く得られる。本実施形態では、実施例A〜D及び比較例B〜Eにおいて粒径が50〜500μmの活性アルミナ粉末を使用し、実施例Eでのみ平均粒径40μmの活性アルミナを用いた。
【0026】
ここで、活性アルミナ粒子の結晶構造について説明する。
図2は、本実施形態に係る活性アルミナ粒子の顕微鏡写真である。同図に示すように、活性アルミナ粒子の結晶構造は、板状結晶構造であり、コテで塗る際の作業性が良く、ひび割れが少ない。
【0027】
消石灰は水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)の粉末であり、一般的な漆喰の主原料である。消石灰は、原料である石灰石を粉砕して炭酸カルシウム(CaCO
3)を生成し、この炭酸カルシウムに塩を0.2重量%の割合で混合して約1,000℃で焼成すると、生石灰(酸化カルシウム、CaO)が生成される。
【0028】
次に、この生石灰に水を加えることで、生石灰が消化反応(乾式消化、湿式消化)を起こし、消石灰が生成される。このように製造される消石灰は、通常、粒径150μm以下の粒子の粉末である。消石灰は、板状結晶構造の消石灰と、粒状結晶構造の消石灰とが存在する。本実施形態では、実施例A〜C及び比較例A〜Eにおいて板状結晶構造の消石灰を用い、実施例D,Eにおいて粒状結晶構造の消石灰を用いた。
【0029】
漆喰の結合材としては、一般的に海藻のりが用いられるが、PVA等の合成樹脂で代用することができる。本実施形態では、実施例Bのみ結合剤としてPVAを用い、他の実施例及び比較例では海藻のりを用いた。
【0030】
次に、本実施形態に係る漆喰の塗布硬化試験について説明する。
図3は、本実施形態に係る漆喰の硬化後の外観の仕上がりの評価を示している。本試験では、所定の配合比率で混合された漆喰を十分に混練した後、壁(珪酸カルシューム板、石膏ボード板等)の表面に厚さ2mmの表面層を構成するようにコテ塗りし、さらに所定期間養生して乾燥させてから、漆喰の外観を評価した。
【0031】
本塗布硬化試験では、硬化後の漆喰表面の平滑度が高く、ひび割れが少ないほど優れた外観として評価した。
図3に示すように、実施例A,B及び比較例Aは外観が良であり、実施例C,D,E及び比較例B,Cは外観がやや良であり、比較例Dは外観がやや不良、比較例Eは外観が不良であった。
【0032】
続いて、本実施形態に係る漆喰の吸放湿試験について説明する。
図4〜
図6は、吸放湿試験の結果を示す図である。本試験は、JIS A6909に準じて行っており、温度一定(23℃)で相対湿度を変化させたときの、当該雰囲気に設置された漆喰壁の重量変化から吸湿量を測定した。漆喰の塗り厚みは、全て2mmである。
【0033】
図4は、実施例A〜C及び比較例Aの試験結果を示し、
図5は、実施例D,E及び比較例A,Bの試験結果を示し、
図6は、比較例A,C,Dの試験結果を示している。なお、比較例Eに関しては、上記塗布硬化試験において外観不良と評価されたように、漆喰の粘度が足りず壁に塗り付けても良好に硬化されなかった。このため、吸放湿量の測定を正しく行うことができず、比較例Eについては吸放湿試験を行っていない。
【0034】
図4〜
図6において、縦軸は吸湿量[g/m
2]を示し、横軸は経過時間[h]を示している。本試験では、測定開始後、0〜24時間までは高湿度(90%)下に置いて吸湿させ、24〜48時間の間は低湿度(50%)下において放湿させている。
【0035】
図4に示すように、活性アルミナを含まない比較例Aに比べて、消石灰の一部を活性アルミナに置き換えた実施例A〜Cのほうが、24時間経過時の吸湿量が200[g/m
2]以上となるなど、吸放湿性能が大きく向上している。これは、同じ多孔質性の物質であっても、消石灰よりも活性アルミナのほうが吸放湿性能が優れているからであると考えられる。よって、漆喰の吸放湿性能を向上させるためには、活性アルミナの配合比率を上げるのが望ましい。
【0036】
活性アルミナの配合比率が10重量%である比較例Bや、15重量%である比較例Cについてみると、
図5や
図6に示すように、24時間経過時の吸湿量が150[g/m
2]を下回っており、実施例A等と比べて吸放湿性能が低下している。よって、吸放湿性能を大きく向上させるためには、活性アルミナの配合比率が20重量%以上であることが望ましい。
【0037】
一方、消石灰よりも活性アルミナのほうが吸収する水分が多いため、消石灰の代わりに活性アルミナの配合比率が大きくなると、漆喰が適切な粘度を出すのに十分な水分量を維持するには、活性アルミナの配合比率に合わせて、水の配合比率も大きくする必要がある。
【0038】
しかし、活性アルミナ及び水の配合比率が大きくなり過ぎると、相対的に漆喰の主たる固化材である消石灰の配合比率が下がってしまい、硬化時に漆喰の強度が不足したり、外観が悪化したりする。
【0039】
ここで、活性アルミナの配合比率が25重量%で消石灰の配合比率が41重量%である実施例Cによれば、実施例A,Bと比べて吸放湿性能が優れているが、
図3に示す塗布硬化試験において、やや良好な外観となって少し外観が荒れてくる。よって、活性アルミナの配合比率は25重量%以下であることが望まれる。
【0040】
これに対して、活性アルミナの配合比率が28重量%である比較例Dや、30重量%である比較例Eについてみると、
図3に示す塗布硬化試験において、やや不良や不良となっており、漆喰としての強度が不足していると考えられる。よって、漆喰の強度等を確保するためには、活性アルミナの配合比率が25重量%以下であることが望ましい。
【0041】
以上、漆喰の吸湿性を向上させると共に、漆喰の強度等を確保するためには、活性アルミナの配合比率が20〜25重量%であるのが望ましい。ここで、消石灰についてみると、消石灰の配合比率が低下すると、上述したように、漆喰の強度が不十分となる。また、消石灰の配合比率が大きくなると、相対的に活性アルミナの配合比率が小さくなって漆喰の吸湿性が低下する。
【0042】
また、水についてみると、水の配合比率が低下すると、漆喰の粘度が大きくなって、コテ塗りにおける作業性が大きく低下すると共に、塗られた漆喰の平滑度も低下して外観が悪化する。また、水の配合比率が大きくなると、硬化時にひび割れが発生して外観が悪化する。
【0043】
よって、これらの点を考慮しながら、上記塗布硬化試験及び吸放湿試験の結果に鑑みれば、活性アルミナの配合比率が20〜25重量%の場合には、消石灰の配合比率が40〜55重量%、水の配合比率が25〜35重量%であるのが望ましい。
【0044】
次に、実施例Dと実施例Eとを比較すると、消石灰、活性アルミナ、結合材及び水の配合比率は同じであるが、実施例Dでは、粒径50〜500μmの活性アルミナ粉末を配合しているのに対して、実施例Eでは、平均粒径が40μmの活性アルミナ粉末を配合している点で、両者は異なる。
【0045】
図5を参照して、実施例Dと実施例Eの吸放湿試験結果を比較すると、実施例Dの方が、実施例Eよりも少し高い吸放湿性能を示している。したがって、漆喰の吸放湿性能を向上させるためには、平均粒径が40μmの活性アルミナ粉末よりも粒径50〜500μmの活性アルミナ粉末を配合したほうが望ましい。
【0046】
次に、実施例Aと実施例Dとを比較すると、消石灰、活性アルミナ、結合材及び水の配合比率は同じであるが、実施例Aは板状結晶構造の消石灰を配合し、実施例Dは粒状結晶構造の消石灰が配合されている点で、両者は異なる。
【0047】
図4と
図5を参照して、実施例Aと実施例Dの吸放湿試験結果を比較してみると、実施例Aの方が、実施例Dよりも高い吸放湿性能を示している。したがって、漆喰の吸放湿性能を向上させるためには、消石灰は、粒状結晶構造よりも板状結晶構造のものを用いるほうが望ましい。これは、粒状結晶構造は、板状結晶構造に比べて結晶同士の隙間が大きくなってしまい、その分密度が低下してしまうからであると考えられる。
【0048】
さらに、このように隙間が小さな板状結晶構造の消石灰であれば、混合時に隙間を充填するための水の量も少なくて済み、水の配合比率を抑えることができる。よって、硬化時の収縮率が小さくなり、漆喰の硬化に伴うひび割れを防ぐこともできる。また、板状結晶構造の消石灰の場合は、コテで塗る際に、板状結晶が一様に壁と平行に配列されるようになり、仕上りがよくなる。
【0049】
続いて、本実施形態に係る断熱性試験結果について説明する。本試験では、実施例Aと比較例Aの熱伝導率を測定した。測定結果は、実施例Aが0.4460kcal/mh℃であり、比較例Aが0.5619kcal/mh℃であった。
【0050】
これによると、活性アルミナ粉末を加えた漆喰の方が、熱伝導率が低くなっており、断熱性に優れているということがいえる。したがって、活性アルミナ粉末を配合した漆喰を壁材に用いることによって、夏は涼しく、冬は暖かい室内空間を実現することができる。
【0051】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、消石灰、活性アルミナ、結合材及び水の配合比率は適宜変更可能であり、また、他の材料をさらに加えても良い。