特許第6474173号(P6474173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474173
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】標的核酸の定量方法のためのキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20190218BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20190218BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20190218BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20190218BHJP
【FI】
   C12Q1/6876 ZZNA
   C12Q1/6851 Z
   C12Q1/686 Z
   !C12N15/11 Z
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-252866(P2017-252866)
(22)【出願日】2017年12月28日
(62)【分割の表示】特願2017-540803(P2017-540803)の分割
【原出願日】2016年11月17日
(65)【公開番号】特開2018-68317(P2018-68317A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2018年9月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-225671(P2015-225671)
(32)【優先日】2015年11月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】星野 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 史生
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/086394(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0197786(US,A1)
【文献】 特表2015−533507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68−1/6897
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列、対象配列及び第2の配列を含む一本鎖の核酸又は該一本鎖を含む二本鎖核酸である標的核酸を定量するためのキットであって、
5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列及び第1の配列に相補的な配列を含み、かつ、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマー及び核酸合成酵素を含み、かつ、ヌクレアーゼ、第2の配列を含む第2のプライマー及び特定配列を含む第3のプライマーを含まない第1の溶液と、
ヌクレアーゼを含む第2の溶液と、
前記第2のプライマー、前記第3のプライマー及び核酸合成酵素を含み、かつ、前記第1のプライマーを含まない第3の溶液と
を含、前記キット。
【請求項2】
前記第1の溶液、前記第2の溶液及び前記第3の溶液は、これらを順に入れることを特徴とする、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記標的核酸の1分子ごとに、前記ランダム配列の1種類が対応した一本鎖の核酸を得るように使用される、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記ランダム配列は4〜20のいずれかの塩基数を有するランダム配列であり;又は、前記ランダム配列の種類の数は10〜1015のいずれかの数である、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項5】
前記標的核酸は、前記ランダム配列の種類の数並びに前記キットを使用して測定された前記対象配列及び前記ランダム配列の組み合わせの数により、下記数式(1)
【数1】
(1)
(式中、Nは標的核酸の数を表わし;Cはランダム配列の種類の数を表わし;及び、Hは測定された対象配列及びランダム配列の組み合わせの数を表わす)
により定量される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存領域に囲まれた対象配列を含む標的核酸を定量する方法に使用するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
次世代シーケンシング技術の開発により、同時的に多数のシーケンシングが可能となったことから、遺伝子の網羅的解読が実用的になった。シーケンシングに際しては、通常、配列の検出が可能な程度に、標的となる遺伝子を含む核酸をPCRにより増幅する。
【0003】
次世代シーケンシング技術を応用すれば、試料における標的核酸の相対量(割合)を定量することが理論上は可能である。しかし、実際には、シーケンシングにより得られるシーケンスライブラリ中の標的核酸の割合から、試料中の標的核酸のコピー数を推測することは困難である。これは、核酸のPCRによる増幅効率が、核酸の配列、GC含量、二次構造などによって相違するからである。そこで、通常は、シーケンシングとは別に、リアルタイムPCRなどにより、標的核酸を定量する方法がとられている。
【0004】
このようなPCR増幅効率に起因する問題を解消して、標的核酸のシーケンシングと標的核酸の定量とを兼ね備えた方法としては、標的核酸の末端に共通配列及び可変配列からなるアダプター配列をライゲーションしたものを鋳型として、該共通配列に相補的な配列を有するプライマーを用いてPCRを実施し、次いで増幅産物の配列を確認することにより、可変配列の種類及びその数を基に標的核酸のコピー数を算出する方法が記載されている(特許文献1及び非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0160078号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Glenn K. Fu et al., PNAS, May 31, 2011, vol.108, no.22, pp.9026-9031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び非特許文献1に記載の方法は、標的核酸の末端にライゲーション反応により特定の配列を付加しているところ、ライゲーション反応を実施するためには、先立って制限酵素処理をすることにより、標的核酸の末端を突出末端としなければならない。そこで、標的核酸の配列によっては突出末端化が困難又は不可能であり、さらに制限酵素による切断効率によっては突出末端化の効率に影響を受けるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ライゲーション反応を実施せずに、かつ、PCR増幅効率に起因する問題を解消して、標的核酸のシーケンシングと標的核酸の定量とを兼ね備えた方法のためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ねた結果、(1)標的核酸の配列に特異的な配列並びにその上流にランダム配列及び既知配列を導入したプライマーを用いて、シングルプライマー伸長反応を実施することにより、ランダム配列と標的核酸の配列とを有する二本鎖核酸を得て、(2)得られた二本鎖核酸を鋳型として、既知配列に特異的なプライマー及び標的核酸の配列の一部を有するプライマーを用いてPCRを実施することによりランダム配列と標的核酸の配列とを有する二本鎖核酸の増幅物を得て、(3)得られた二本鎖核酸の増幅物を用いて、シーケンシングを行い標的核酸の配列と共にランダム配列を解読する方法を創作することに成功した。さらに、本発明者らは、本方法によれば、標的核酸のシーケンシングと同時にランダム配列の多様性から標的核酸のコピー数を定量することが可能であることを見出した。
【0010】
また、本方法は、従前のシーケンスライブラリ中の標的核酸の割合から試料中の標的核酸のコピー数を推測する方法に比べて精度が高く、かつ、2種類以上の標的核酸が複数含むように調製したモデル試料だけではなく、環境試料中の複数種類の標的核酸のコピー数を高精度に定量できることを見出した。本発明はこのような成功例や知見に基づいて完成するに至った発明である。
【0011】
したがって、本発明の一態様によれば、下記工程(1)〜(4)を含む、標的核酸の定量方法が提供される。
(1)標的核酸の3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列、対象配列及び第2の配列を含む一本鎖の核酸又は二本鎖核酸から得られる該一本鎖の核酸を鋳型として、5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列及び第1の配列に相補的な配列を含み、かつ、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマーを用いて、アニーリング反応、核酸伸長反応及びヌクレアーゼ反応を実施することにより、一方の一本鎖が5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列、第1の配列に相補的な配列、対象配列に相補的な配列及び第2の配列に相補的な配列を含む第1の二本鎖核酸を得る工程
(2)工程(1)で得られた第1の二本鎖核酸を鋳型として、第2の配列を含む第2のプライマー及び特定配列を含む第3のプライマーを用いて、PCRを実施して、第2の二本鎖核酸を得る工程
(3)工程(2)で得られた第2の二本鎖核酸の配列を決定する工程
(4)工程(3)で決定された配列に基づいて、対象配列及びランダム配列の組み合わせの数を測定することにより、下記数式(1)
【数1】
(1)
(式中、Nは標的核酸の数を表わし;Cはランダム配列の種類の数を表わし;及び、Hは測定された対象配列及びランダム配列の組み合わせの数を表わす)
により、標的核酸を定量する工程
【0012】
本発明の別の一態様によれば、下記工程(1)〜(2)を含む、標的核酸の対象配列及びランダム配列を含む二本鎖核酸の増幅方法が提供される。
(1)標的核酸の3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列、対象配列及び第2の配列を含む一本鎖の核酸又は二本鎖核酸から得られる該一本鎖の核酸を鋳型として、5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列及び第1の配列に相補的な配列を含み、かつ、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマーを用いて、アニーリング反応、核酸伸長反応及びヌクレアーゼ反応を実施することにより、一方の一本鎖が5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列、第1の配列に相補的な配列、対象配列に相補的な配列及び第2の配列に相補的な配列を含む第1の二本鎖核酸を得る工程
(2)工程(1)で得られた第1の二本鎖核酸を鋳型として、第2の配列を含む第2のプライマー及び特定配列を含む第3のプライマーを用いて、PCRを実施して、第2の二本鎖核酸を得る工程
【0013】
好ましくは、本発明の一態様の方法において、前記標的核酸は、1種又は2種以上の生物に由来する核酸である。
【0014】
好ましくは、本発明の一態様の方法において、前記標的核酸は、rRNA遺伝子の一部又は全部を含む核酸である。
【0015】
好ましくは、本発明の一態様の方法において、前記対象配列はrRNA遺伝子の可変領域であり、かつ、前記第1の配列及び前記第2の配列はそれぞれ該領域の下流及び上流の保存領域である。
【0016】
好ましくは、本発明の一態様の方法において、前記標的核酸は、水、土壌、空気、生体組織、食品、医薬品及び化粧品からなる群から選ばれる試料における核酸である。
【0017】
好ましくは、本発明の一態様の方法において、前記標的核酸の数は、100〜1,000,000のいずれかの数である。
【0018】
好ましくは、本発明の一態様の方法において、前記ランダム配列は4〜20のいずれかの塩基数を有するランダム配列であり;及び、前記ランダム配列の種類の数は10〜1015のいずれかの数である。
【0019】
好ましくは、本発明の一態様の方法において、前記特定配列は、10〜50のいずれかの塩基数を有し、かつ、前記標的核酸の配列に非相補的な配列からなる特定配列である。
【0020】
本発明の別の一態様によれば、3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列、対象配列及び第2の配列を含む一本鎖の核酸又は該一本鎖を含む二本鎖核酸である標的核酸を定量するためのキットであって、
5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列及び第1の配列に相補的な配列を含み、かつ、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマー及び核酸合成酵素を含み、かつ、ヌクレアーゼ、第2の配列を含む第2のプライマー及び特定配列を含む第3のプライマーを含まない第1の溶液と、
ヌクレアーゼを含む第2の溶液と、
前記第2のプライマー、前記第3のプライマー及び核酸合成酵素を含み、かつ、前記第1のプライマーを含まない第3の溶液と
を含み、かつ、前記第1の溶液、前記第2の溶液及び前記第3の溶液はそれぞれ個別の溶液として存在する、前記キットが提供される。
【0021】
好ましくは、本発明の一態様のキットは、前記標的核酸及び前記第1の溶液を用いて核酸伸長反応を実施し、次いで該核酸伸長反応後の溶液に前記第2の溶液を加えてヌクレアーゼ反応及びヌクレアーゼ失活反応を実施し、次いで該ヌクレアーゼ失活反応後の溶液を前記第3の溶液に加えてPCRを実施して二本鎖核酸を得ることを含むように使用される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様の方法によれば、PCR増幅効率に起因する問題を解消して、標的核酸のシーケンシングと共に、標的核酸のコピー数の高精度な定量を達成することができる。本発明の一態様のキットは、本発明の一態様の方法を実施するために、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の一実施態様に係る標的核酸の定量方法の概略図である。
図2図2は、実施例の例1に記載の実験方法を模式化した図である。
図3図3は、実施例の例2に記載の定量値の直線性を示した図である。
図4図4は、実施例の例2に記載の複合系における定量結果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
本発明の具体的な一態様は、下記工程(1)〜(4)を少なくとも含む、標的核酸の定量方法(以下、本発明の一態様の定量方法とよぶ。)である。
(1)標的核酸である3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列、対象配列及び第2の配列を含む一本鎖の核酸又は二本鎖核酸から得られる該一本鎖の核酸を鋳型として、5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列及び第1の配列に相補的な配列を含み、かつ、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマーを用いて、アニーリング反応、核酸伸長反応及びヌクレアーゼ反応を実施することにより、一方の一本鎖が5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列、第1の配列に相補的な配列、対象配列に相補的な配列及び第2の配列に相補的な配列を含む第1の二本鎖核酸を得る工程
(2)工程(1)で得られた第1の二本鎖核酸を鋳型として、第2の配列を含む第2のプライマー及び特定配列を含む第3のプライマーを用いて、PCRを実施して、第2の二本鎖核酸を得る工程
(3)工程(2)で得られた第2の二本鎖核酸の配列を決定する工程
(4)工程(3)で決定された配列に基づいて、対象配列及びランダム配列の組み合わせの数を測定することにより、下記数式(1)
【数2】
(1)
(式中、Nは標的核酸の数を表わし;Cはランダム配列の種類の数を表わし;及び、Hは測定された対象配列及びランダム配列の組み合わせの数を表わす)
により、標的核酸を定量する工程
【0025】
本発明の一態様の定量方法は、標的核酸の配列解読及び解読により得られた各々の配列の定量を網羅的に行うことを可能とし、その概要は以下のとおりである。
【0026】
試料における核酸の種類を特定するような対象配列を含む一本鎖化したDNAやRNAなどの標的核酸を鋳型として、標的核酸の配列中の対象配列の下流の配列に特異的な配列並びにその上流にランダム配列及び既知のアダプター配列を有するプライマーを用いて、DNA合成酵素により、標的核酸に相補的な一本鎖核酸を合成する。合成した一本鎖核酸は上流から、アダプター配列、ランダム配列及び対象配列に相補的な配列の順となっている。一本鎖核酸合成の後、余剰プライマーはエキソヌクレアーゼIなどの一本鎖核酸に特異的な酵素で分解及び除去する。
【0027】
次にアダプター配列に特異的に結合するプライマー及び標的核酸の配列中の対象配列の上流の配列に特異的な配列を有するプライマーを用いてPCRを行い、ランダム配列及び対象配列を含む核酸断片を増幅する。増幅されたPCR産物には、少なくともランダム配列及び対象配列が含まれる。このPCR産物の配列を、例えば、イルミナ社のMiseqなどを用いた次世代シーケンサーにより網羅的に決定する。決定した配列の末端に存在するランダム配列の種類数と試料中の対象配列(を含む標的核酸)の数との関係はポアソン分布に従うことから、ランダム配列の種類数から試料中の対象配列を含む標的核酸の数を推定することが可能である。
【0028】
従前の方法として、試料中にある2種類以上の標的核酸をPCRに供し、次いでシーケンシングすることにより得られたシーケンスライブラリにおいて、各標的核酸の配列を数量的に比較した構成比は、試料中の標的核酸の数の構成比を反映していない。これはPCRに定量性がないことに起因する。そこで、定量的な解析を行うためには、各々の配列について別々のアッセイを行わなければいけない。しかし、例えば、海洋堆積物では1サンプル1mlあたりに数百〜数千の微生物種が検出されることから、これら全ての微生物種を網羅的に定量することは、従前の方法では不可能であった。
【0029】
それに対して、本発明の一態様の定量方法では、核酸配列の解読と同時に、各々の配列の定量を高精度で網羅的に行うことが可能である。
【0030】
すなわち、本発明の一態様の定量方法では、結果として得られる増幅産物に組み込まれるランダム配列の種類数(バラエティー)は最初のステップの一本鎖核酸合成によってのみ決まる。後段の20〜40サイクルのPCRでは、配列毎にPCR効率が変わるのでPCR産物量に相違がある可能性はあるが、組み込まれたランダム配列のバラエティーは変化しない。
【0031】
したがって、ランダム配列のバラエティーは確率論的に決定されるので、次世代シーケンサーで十分な量のシーケンスを解読すれば、最初の鋳型の標的核酸のコピー数が計算によって求めることができる。
【0032】
このことは後述する実施例によって実証されており、例えば、本発明の一態様の定量方法により、導入した2種類の標的核酸の総コピー数に対して70〜80%程度のコピー数が算出されるが、これは操作上のばらつきなどを考慮すると非常に優秀な値である。また、2種類の標的核酸の混合比については、混合比率や配列特異性によらずに、精度よく再現できている。このような結果が得られる本発明の一態様の定量方法は、生態学や生物学などの学術分野に加えて、医学分野に及ぼす影響は大きい蓋然性がある。
【0033】
以下では、本発明の一態様の定量方法を、本発明の一態様の定量方法を非限定的かつ模式的に表した図1を参照して説明する。
【0034】
図1の(1)に記載があるとおり、3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列11、対象配列12及び第2の配列13を含む一本鎖の核酸である標的核酸1を鋳型とする。ここで、標的核酸が二本鎖の核酸である場合は、該二本鎖の核酸を変性反応に供して、一本鎖の核酸とした標的核酸1を得る。
【0035】
標的核酸1に対して、5’末端側から3’末端側への方向に特定配列23、ランダム配列22及び第1の配列に相補的な配列21を含む第1のプライマー2を用いる。第1のプライマー2としては、ランダム配列22の種類の数に応じて複数種類のものを用いる。すなわち、ランダム配列22の種類が1,000種類である場合は、その種類に応じて第1のプライマー2の種類は1,000種類となる。
【0036】
標的核酸1及び第1のプライマー2の存在下でアニーリング反応に供することにより、標的核酸1の第1の配列11及び第1のプライマー2の配列21がハイブリダイズする。次いで、標的核酸1及び第1のプライマー2のハイブリッドを核酸伸長反応に供することにより、標的核酸1を鋳型として、第1のプライマー2の配列21を起点として5’→3’方向に核酸が伸長する。次いで、得られた核酸伸長反応物をヌクレアーゼ反応に供することにより、ハイブリダイズしなかった余剰の第1のプライマー2、標的核酸1の一本鎖部分、標的核酸が二本鎖である場合に核酸伸長反応において鋳型とならなかった他方の一本鎖などを消化することにより、一方の一本鎖が5’末端側から3’末端側への方向に特定配列23、ランダム配列22、第1の配列に相補的な配列21、対象配列に相補的な配列31及び第2の配列に相補的な配列32を含む第1の二本鎖核酸5を得る(図1の(2)を参照)。
【0037】
次いで、前記第1の二本鎖核酸5を鋳型として、第2の配列13を含む第2のプライマー3及び特定配列23を含む第3のプライマー4によるPCRを実施して、第2の二本鎖核酸6を得る(図1の(3)〜(5)を参照)。このPCRでは、まず第1の二本鎖核酸5のうちの5’末端側から3’末端側への方向に特定配列23、ランダム配列22、第1の配列に相補的な配列21、対象配列に相補的な配列31及び第2の配列に相補的な配列32を含む一方の一本鎖を鋳型として、第2のプライマー3を用いた核酸伸長反応が起こり(図1の(3)を参照)、結果として第2の二本鎖核酸6が得られる(図1の(4)を参照)。次いで、第2の二本鎖核酸6を鋳型として、第2のプライマー3及び第3のプライマー4によって反応が進行し(図1の(5)を参照)、結果として第2の二本鎖核酸6の増幅物が得られる。ここで得られる第2の二本鎖核酸6は、ランダム配列22の種類の数に応じて、複数種類になる。
【0038】
次いで、得られた第2の二本鎖核酸6の配列を決定し、さらに決定された配列に基づいて、対象配列12及びランダム配列22の組み合わせの数を測定することにより、上記数式(1)により、標的核酸を定量する(図1の(6)を参照)。
【0039】
標的核酸は特に限定されず、例えば、DNA、RNAなどの通常核酸として知られているものが挙げられ、好ましくは1種又は2種以上の生物に由来する核酸であり、より好ましくは1種又は2種以上の真正細菌、古細菌、ウイルス、真核生物、原生生物、植物、動物又は昆虫に由来する核酸である。
【0040】
標的核酸は、生物種ごとにバラエティーのある領域である可変領域と、該可変領域の下流及び上流に生物種間で共通する、又はよく保存された領域である保存領域とを含む核酸であることが好ましい。この場合、可変領域は対象配列に相当し、可変領域の下流(3’末端側)の保存領域は第1の領域に相当し、かつ、可変領域の上流(5’末端側)の保存領域は第2の領域に相当する。可変領域と可変領域の下流及び上流の保存領域とを含む核酸は特に限定されないが、例えば、rRNA遺伝子やその他の機能遺伝子などの遺伝子の一部又は全部を含む核酸を挙げることができる。
【0041】
機能遺伝子は特に限定されない。当業界において、機能遺伝子をPCRに基づいてシーケンシング及び定量することは技術常識としてよくなされている。例えば、既存のデータベース上に存在するターゲットとなる各生物種の機能遺伝子並びにその上流及び下流の配列を取り出し、アライメントし、PCRで使用するプライマーのターゲットとし得る共通配列(保存領域)を見出すことができる。多くの機能遺伝子には保存領域があるので、このような方法で未知の機能遺伝子の配列(ただし、機能は既知)を環境DNAから取得することができる。例えば、真核生物の場合は非遺伝子領域が多いことから、上流及び下流の共通配列をプライマーとして使うことが多い。その他の方法としては、例えば、http://togodb.biosciencedbc.jp/entry/stga_howto/5などに記載の方法を参照できる。
【0042】
なお、本明細書における「保存領域」との用語は、rRNA遺伝子における可変領域に対応する用語に限定されるものではなく、生物種間で共通する配列を含む領域ということができる。
【0043】
標的核酸の具体例としてはrRNA遺伝子が挙げられ、例えば真正細菌及び古細菌のrRNA遺伝子である16S rRNA遺伝子については、16S rRNA遺伝子の可変領域であるV1〜V9領域のいずれかの領域(対象配列)及び該領域の下流及び上流の保存領域(第1の配列及び第2の配列)を含む核酸を標的核酸とすることができる。
【0044】
標的核酸における第1の配列、対象配列及び第2の配列の塩基数については特に限定されず、例えば、第1の配列及び第2の配列であれば、それぞれ第1のプライマーと特異的にハイブリダイズする程度及び第2のプライマーとして機能する程度の塩基数であればよく、好ましくは10〜50塩基程度である。
【0045】
標的核酸は核酸そのものでも試料中に含まれる核酸でもよく、例えば、水、土壌、空気、生体組織、食品、医薬品、化粧品などの試料における核酸であってもよい。標的核酸が試料中に含まれる核酸である場合は、当業界の技術常識を勘案して、事前に試料中から核酸を抽出することが好ましい。
【0046】
標的核酸の数は定量できる程度の数であれば特に限定されず、例えば、本発明の一態様の定量方法の感度や検出下限及び上限を考慮すれば、100〜1,000,000の範囲内にあることが好ましい。
【0047】
ランダム配列は塩基の並びがランダムになるように設計された配列であれば特に限定されない。ランダム配列がA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)及びG(グアニン)の4種類の塩基からなるものである場合は、定量しようとする標的核酸の種類や数及び設計の容易性を考慮すれば、ランダム配列の塩基数は4〜20のいずれかの数であることが好ましい。同様に、ランダム配列の種類の数は10〜1015のいずれかの数であることが好ましい。
【0048】
特定配列の配列や塩基数は特に限定されない。特定配列を有する第3のプライマーがプライマーとしての機能を有することや設計の容易性を考慮すれば、特定配列は10〜50のいずれかの塩基数であることが好ましく、さらに標的核酸の配列に非相補的な配列からなることがより好ましい。
【0049】
第1の配列に相補的な配列は、第1の配列に特異的にハイブリダイズする程度の塩基数を含むものであれば特に限定されない。
【0050】
本発明の一態様の定量方法の工程(1)では、標的核酸を鋳型として、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマーを用いて、アニーリング反応、核酸伸長反応及びヌクレアーゼ反応を実施する。第1のプライマーの種類の数は、ランダム配列の種類の数と同一であっても、ランダム配列の種類の数よりも多くても、又は少なくてもよい。
【0051】
本発明の一態様の定量方法の工程(1)は、アニーリング反応、核酸伸長反応及びヌクレアーゼ反応は当業者によって通常用いられている方法によって実施され得る。本発明の一態様の定量方法において、アニーリング反応は特に限定されないが、例えば、前段における加熱反応(変性反応)の有無に関係なく、第1のプライマーと標的核酸とがハイブリダイズするような条件下に第1のプライマー及び標的核酸をおく反応ということができる。前段に変性反応(例えば、第1のプライマー及び標的核酸を90℃〜100℃で数十秒〜数分間に加熱する反応)がある場合は、アニーリング反応は、例えば、急速に冷却して50℃〜65℃程度に数十秒間〜数分間おく反応であることができる。前段に変性反応がない場合は、アニーリング反応は、例えば、30℃〜65℃程度に数十秒間〜数分間おく反応であることができる。
【0052】
核酸伸長反応は特に限定されず、例えば、DNAポリメラーゼなどの核酸合成酵素を用い、該核酸合成酵素の酵素活性に適した温度で実施する反応をいうことができる。ヌクレアーゼ反応は特に限定されず、例えば、エキソヌクレアーゼやエンドヌクレアーゼなどのヌクレアーゼを用い、該ヌクレアーゼに適した温度で実施する反応をいうことができる。ヌクレアーゼ反応後は、加熱するなどして、後段のPCRに影響しない程度にヌクレアーゼの活性を失活させることが好ましい。
【0053】
本発明の一態様の定量方法の工程(1)を実施することによって、一方の一本鎖が5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列、第1の配列に相補的な配列、対象配列に相補的な配列及び第2の配列に相補的な配列を含む第1の二本鎖核酸が得られる。
【0054】
本発明の一態様の定量方法の工程(2)では、工程(1)で得られた第1の二本鎖核酸を鋳型として、第2の配列を含む第2のプライマー及び特定配列を含む第3のプライマーを用いて、PCRを実施して、第2の二本鎖核酸を得る。
【0055】
第2のプライマーは第2の配列を含む限り特に限定されず、例えば、第2の配列それ自体又は第2の配列に加えて他の配列を含むものであり得る。他の配列としては、例えば、ランダム配列を挙げることができる。第2のプライマーにおける第2の配列の塩基長は、第2のプライマーが第2の配列と相補的な配列と特異的に結合し得るというプライマーとしての機能を発揮する程度の長さであれば特に限定されない。
【0056】
第3のプライマーは特定配列を含む限り特に限定されず、例えば、特定配列それ自体又は特定配列に加えて他の配列を含むものであり得る。第3のプライマーにおける特定配列の塩基長は、第3のプライマーが特定配列と相補的な配列と特異的に結合し得るというプライマーとしての機能を発揮する程度の長さであれば特に限定されない。
【0057】
PCRの条件は特に限定されず、当業界における技術常識を勘案して、二本鎖核酸を一本鎖化する変性反応、アニーリング反応及びDNAポリメラーゼなどの核酸合成酵素による核酸伸長反応が生じる温度及び時間を適宜設定し、これらの反応を数十サイクル繰り返すことにより実施することができる。PCRで使用する核酸合成酵素は、工程(1)における核酸伸長反応で用いる酵素と同一のものでも、それとは異なるものでも、どちらでもよい。
【0058】
工程(2)においてPCRを実施することにより得られる第2の二本鎖核酸は、5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列、第1の配列に相補的な配列、対象配列に相補的な配列及び第2の配列に相補的な配列を含む一方の一本鎖と、5’末端側から3’末端側への方向に第2の配列、対象配列、第1の配列、ランダム配列に相補的な配列及び特定配列に相補的な配列含む他方の一本鎖からなる二本鎖の核酸である。
【0059】
本発明の一態様の定量方法における工程(3)では、工程(2)で得られた第2の二本鎖核酸の配列を決定する。第2の二本鎖核酸の配列を決定する方法は特に限定されず、例えば、当業界の技術常識を勘案したシーケシング技術を適用できる。シーケシング技術としては、例えば、同時的に多数の配列を解読することができる次世代型シーケシング技術を適用することができる。具体的なシーケシング技術としては、後述する実施例に記載があるような、シーケンス用のインデックスを付加したDNAの配列を、DNAシーケンサーmiseq(Illumina社)で解読する技術を挙げることができる。配列を決定する核酸は、第2の二本鎖核酸のうちの一方の一本鎖、他方の一本鎖又はこれらの両鎖の核酸とすることができる。
【0060】
本発明の一態様の定量方法における工程(4)では、工程(3)で決定された配列に基づいて、対象配列及びランダム配列の組み合わせの数を測定することにより、上記数式(1)により、標的核酸を定量する。
【0061】
対象配列及びランダム配列の組み合わせの数を測定する方法は特に限定されず、例えば、決定された配列情報に基づいて、例えば対象生物由来の配列ごとにランダム配列の種類の数を計上することにより算出することができる。
【0062】
標的核酸の数は、上記数式(1)に従って、対象配列及びランダム配列の組み合わせの数とランダム配列の数とから算出できる。
【0063】
本発明の一態様の定量方法では、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。例えば、工程(3)の後、工程(4)を実施する前に、工程(3)によって得られたPCR産物を、アガロースゲル電気泳動に供して目的のバンドを切り出すことなどの通常のDNA精製手段を利用して、第2の二本鎖核酸を精製してもよい。
【0064】
本発明の具体的な別の一態様は、下記工程(1)〜(2)を少なくとも含む、標的核酸の対象配列及びランダム配列を含む二本鎖核酸の増幅方法(以下、本発明の一態様の増幅方法とよぶ。)である。
(1)標的核酸の3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列、対象配列及び第2の配列を含む一本鎖の核酸又は二本鎖核酸から得られる該一本鎖の核酸を鋳型として、5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列及び第1の配列に相補的な配列を含み、かつ、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマーを用いて、アニーリング反応、核酸伸長反応及びヌクレアーゼ反応を実施することにより、一方の一本鎖が5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列、第1の配列に相補的な配列、対象配列に相補的な配列及び第2の配列に相補的な配列を含む第1の二本鎖核酸を得る工程
(2)工程(1)で得られた第1の二本鎖核酸を鋳型として、第2の配列を含む第2のプライマー及び特定配列を含む第3のプライマーを用いて、PCRを実施して、第2の二本鎖核酸を得る工程
【0065】
本発明の一態様の増幅方法における工程(1)及び(2)は、上記した本発明の一態様の定量方法の工程(1)及び(2)を参照して実施することができる。
【0066】
本発明の具体的な別の一態様は、3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列、対象配列及び第2の配列を含む一本鎖の核酸又は該一本鎖を含む二本鎖核酸である標的核酸を定量するためのキット(以下、本発明の一態様のキットとよぶ。)であり、該キットは以下の成分(1)〜(4)を少なくとも含む。
(1)5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列及び第1の配列に相補的な配列を含み、かつ、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマー
(2)ヌクレアーゼ
(3)第2の配列を含む第2のプライマー
(4)特定配列を含む第3のプライマー
さらに、本発明の一態様のキットは、3’末端側から5’末端側への方向に第1の配列、対象配列及び第2の配列を含む一本鎖の核酸又は該一本鎖を含む二本鎖核酸である標的核酸を定量するためのキットであって、
5’末端側から3’末端側への方向に特定配列、ランダム配列及び第1の配列に相補的な配列を含み、かつ、ランダム配列の種類の数に応じて複数種類の第1のプライマー及び核酸合成酵素を含み、かつ、ヌクレアーゼ、第2の配列を含む第2のプライマー及び特定配列を含む第3のプライマーを含まない第1の溶液と;ヌクレアーゼを含む第2の溶液と;前記第2のプライマー、前記第3のプライマー及び核酸合成酵素を含み、かつ、前記第1のプライマーを含まない第3の溶液とを含み、かつ、前記第1の溶液、前記第2の溶液及び前記第3の溶液はそれぞれ個別の溶液として存在する、前記キットである。
本発明の一態様のキットは、例えば、前記標的核酸及び前記第1の溶液を用いて核酸伸長反応を実施し、次いで該核酸伸長反応後の溶液に前記第2の溶液を加えてヌクレアーゼ反応及びヌクレアーゼ失活反応を実施し、次いで該ヌクレアーゼ失活反応後の溶液を前記第3の溶液に加えてPCRを実施して二本鎖核酸を得ることを含むように使用される。
【0067】
第1のプライマー、第2のプライマー及び第3のプライマーは、それぞれ特定されている配列を含むものであれば、その入手方法については特に限定されない。例えば、第1の配列に相補的な配列を含む市販されているプライマーを修飾して、5’末端側にランダム配列及び特定配列を順次付加することにより合成することができる。
【0068】
第1のプライマーは、ランダム配列の種類の数よりも多い若しくは少ない、又はランダム配列の種類の数と同一の種類数のプライマーである。第2のプライマー及び第3のプライマーは、それぞれ、第2の配列及び特定配列を含む限り、一種類又は複数種類であり得る。
【0069】
ヌクレアーゼは、一本鎖核酸を分解することができる活性を有する酵素であれば特に限定されず、エンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼのいずれか又は両方であり得る。ヌクレアーゼの入手方法は特に限定されず、例えば、市販されているものを用いることができる。
【0070】
本発明の一態様のキットは、上記成分(1)〜(4)の他に、緩衝液や核酸合成酵素などの他の成分を含んでもよい。本発明の一態様のキットは、本発明の一態様の定量方法や増幅方法を実施するために使用することができる。
【0071】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0072】
[例1.2種の微生物を用いた各微生物の存在量評価]
1.標的DNA
標的DNAとして、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ(Methanocaldococcus jannaschii)及びストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)のゲノムDNA(RIKEN BRCから提供)を用いた。これら2種のゲノムDNAのそれぞれを、表1の割合で混合したものをサンプルDNAとした。サンプルDNAにおけるDNA濃度は10コピー/μlとなるように調製した。
【0073】
【表1】
【0074】
2.プライマー
真正細菌(バクテリア)及び古細菌(アーキア)の16S rRNA遺伝子のV4領域を増幅するために通常使用されている515Fプライマー及び806Rプライマーを修飾した515F_modプライマー(表2の配列番号1を参照)及び806R_modプライマー(表2の配列番号2を参照)を用いた。なお、表2中において、下線部の配列はIllumina社のシーケンサー用のアダプター配列を示し;NはA、T、G又はCを示し;及び、小文字の配列は鋳型DNAに結合する配列をそれぞれ示す。また、515F_modプライマーの一部の配列を有するPrimer−Fプライマー(表2の配列番号3を参照)を用いた。515F_modプライマー及び806R_modプライマーは、ランダム配列(NNNNNNNN)の種類数(65,536種類)に応じて、それぞれ65,536種類のプライマーを用いた。
【0075】
【表2】
【0076】
3.シングルプライマー伸長(Single Primer Extension(SPE);図2の手順1を参照)
まず、515F_modプライマー(表2;配列番号1)を用いて、16S rRNA遺伝子の相補鎖の合成反応を行った。すなわち、表3に示す組成の各サンプルDNAを含むシングルプライマー伸長反応液を調製し、98℃で2分、55℃で30秒及び68℃で10分の反応を1サイクル行うことにより、SPE産物を得た。次いで、反応後の溶液に10〜20Uのエキソヌクレアーゼ I(タカラバイオ社) 1μlを加えて全量を21μlとし、37℃で120分間インキュベーションすることにより、反応に用いられなかった余剰プライマーを消化した。次いで、エキソヌクレアーゼ Iを80℃で30分間のインキュベーションにより失活させた。
【表3】
【0077】
4.PCR及びシーケンシングテンプレートの合成(図2の手順2を参照)
上記3のシングルプライマー伸長によって得られたSPE産物を鋳型として、806R_modプライマー及びPrimer−Fプライマーを用いて、PCRを実施した。すなわち、表4に示すSPE産物 5μlを含むPCR反応液を調製し、初期変性を98℃で2分間行ったのち、98℃で10秒、55℃で15秒及び68℃で30秒の反応を40サイクルすることにより、PCRを実施した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、目的のバンドを切り出すことによりDNAを精製した。精製DNAに対し、nextera index kit(Illumina社)を用いてシーケンス用のインデックスを付加した。次いで、インデックスを付加したDNAの配列を、DNAシーケンサーmiseq(Illumina社)を用いて解読した。
【0078】
【表4】
【0079】
5.標的DNAコピー数の算出
解読した配列のデータをMothur(http://www.mothur.org)により処理し、M.jannaschii及びS.avermitilisに分類し、16S rRNA配列の最上流に付加されている8塩基のランダム配列の種類数を計数した。標的DNAのコピー数に対して導入したランダム配列の種類数(本実験例の場合は4=65,536種類)が十分に多い場合、ランダム配列の種類数は、ポアソン分布に従うと考えられることから、ランダム配列の種類数から標的DNAのコピー数を下記の式により求めた。
【0080】
【数3】
(N=標的DNA配列のコピー数、C=ラベルの種類数(本実験では65,536)、H=計測されたラベルの種類数)
【0081】
6.評価
標的DNAコピー数を算出した結果をまとめたものを表5に示す。シーケンス反応に導入した標的DNAの配列のコピー数は4,761コピーであるのに対し、実験の結果として得られたコピー数はそれよりも僅かに少ない3,333〜3,923コピーであった。ただし、期待値は、吸光光度計により測定されたOD値から算出したDNA量であり、実際に反応に用いられたDNA量とは相違する可能性がある。また、M.jannaschii及びS.avermitilisの比率に関してはほぼ期待値どおりとなったことから、本方法により複合微生物系における個々の微生物を正しく定量可能であることが示された。
【0082】
【表5】
【0083】
[例2.複合系における各微生物の存在量評価]
1.標的DNA
シーケンシング後のライブラリ中の配列の数による定量結果とランダム配列の種類数による定量結果とを比較評価するために、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ(Methanocaldococcus jannaschii)及びハロモナス・エロンガタ(Halomonas elongata)のゲノムDNA(RIKEN BRCから提供)を用いた。表6の割合でM.jannaschii及びH.elongataのゲノムDNAを混合したものをサンプルDNAとして用いた。サンプルDNAにおけるDNA濃度は10コピー/μlとなるように調製した。
【0084】
また、定量値の直線性を確認するために、スルフォロブス・トーコーダイ(Sulfolobus tokodaii)のゲノムDNA(RIKEN BRCから提供)を段階希釈して、サンプルDNAとして用いた。サンプルDNAにおけるDNA濃度は10コピー/μlとなるように調製した。
【0085】
【表6】
【0086】
2.環境DNA
大分県由布市の活火山である伽藍岳の火口の泥及びその近辺から湧出する熱水からPowerMax soil DNA isolateon kit(MOBIO社)を用いてDNAを抽出し、これを環境DNAとした。
【0087】
3.シングルプライマー伸長(SPE)
例1の「3.シングルプライマー伸長」と同様にして、シングルプライマー伸長反応を実施した。
【0088】
4.PCR及びシーケンシングテンプレートの合成
例1の「4.PCR及びシーケンシングテンプレートの合成」と同様にして、PCR及びDNAの精製を実施した。精製したDNAを用いて、表7に示す組成のインデックス付加反応液を用いてシーケンス用のインデックスを付加した。反応は95℃で3分の初期変性後、95℃で30秒、55℃で30秒及び72℃で30秒を8サイクル行い、最後に伸長反応を72℃で5分間行った。次いで、インデックスを付加したDNAの配列を、DNAシーケンサーmiseq(Illumina社)を用いて解読した。
【0089】
【表7】
【0090】
5.標的DNAコピー数の算出
例1の「5.標的DNAコピー数の算出」と同様にして、得られた標的DNAの配列データをMothur(http://www.mothur.org)により処理し、必要に応じて配列を微生物系統ごとにソートして、16S rRNA配列の最上流に付加されている8塩基のランダム配列の種類数を計数し、次いで標的DNAのコピー数を算出した。
【0091】
6.ランダム配列の種類数に基づく定量の精度評価
上記のようにしてランダム配列の種類数に基づいて算出した標的DNAのコピー数から求めたM.jannaschii及びH.elongataのコピー数の割合と、M.jannaschii及びH.elongataの2種のゲノムDNAを混合し、通常の方法でシーケンシングを行い、得られたシーケンシングライブラリ中の各菌種の配列数の割合とを比較した。なお、通常の方法でのシーケンシングは、表8に示す組成の反応溶液を調製し、次いで初期変性98℃×2分間、(98℃、10s;55℃、15s;68℃、30s)×30サイクルの条件でPCRを実施し、得られたPCR産物についてMiseqを用いてシーケンスすることにより実施した。
【0092】
【表8】
【0093】
上記のようにして比較した結果を表9に示す。表9から、ランダム配列の種類数に基づく定量では理論値に近い割合となったのに対して、シーケンスライブラリ中の割合はM.jannaschiiが小さくなる傾向を示した。このような傾向がみられた理由としては、今回用いた微生物種の間に16S rRNA遺伝子の領域のGC含量の相違があったことに一因があると推測される。すなわち、MJのGC含量が65%であり、HEのGC含量が56%であることから、MJの16S rRNA遺伝子の増幅効率が低下したと推測される。それに対して、ランダムタグ定量は、対象遺伝子の配列特異性に依らずに定量できた。これらの結果より、ランダム配列の種類数に基づく定量は、高精度で環境中に存在する微生物の存在数を確認できることが示された。
【0094】
【表9】
【0095】
7.ランダム配列の定量値の直線性評価
既知コピー数の1.0×10、2.0×10、6.3×10及び1.0×10のS.tokodaiiの16S rRNA遺伝子をテンプレートとして定量を行った結果を図3に示す。
【0096】
1.0×10では、過剰な結果となったが、2.0×10、6.3×10及び1.0×10の範囲においては良好な直線性を示し、理論値と近い結果が得られた。ラベルの種類を8塩基以上に増やすことで、さらにダイナミックレンジは広がると推測される。
【0097】
8.複合系への適用評価
自然界の環境DNAにおける16S rRNA遺伝子の定量を行った。バクテリア及びアーキアの16S rRNA遺伝子のコピー数はBiomark HD(フリューダイム社)によるdigital PCRで事前に測定した結果を理論値とし、通常の方法でシーケンシングを行い、得られたシーケンシングライブラリ中の細菌数の割合とランダム配列の種類数に基づいて定量した細菌数の割合とを比較した結果を図4に示す。
【0098】
図4に示すとおり、ランダム配列の種類数に基づいて定量した場合のアーキア/バクテリア比は、シーケンシングライブラリ中のアーキア/バクテリア比と比較して、digital PCRで測定したアーキア/バクテリア比と近い値になることが示された。これらの結果より、ランダム配列の種類数に基づく定量は、高精度で環境中に存在する微生物の存在数を確認できることが示された。
【0099】
配列表に記載の配列は以下のとおりである:
[配列番号1]515F_modプライマー
tcgtcggcagcgtcagatgtgtataagagacagnnnnnnnntgycagcmgccgcggtaa
[配列番号2]806R_modプライマー
gtctcgtgggctcggagatgtgtataagagacagnnnnnnnnggactachvgggtwtctaat
[配列番号3]Primer−Fプライマー
tcgtcggcagcgtcagat
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の一態様の方法やキットによって、簡便かつ高精度に、標的核酸のシーケンシングと共に、標的核酸のコピー数の定量が可能である。これにより、本発明の一態様の方法及びキットは、例えば、海洋などの環境における生物資源の種類及び数量の解析、腸内などの生体組織内の細菌叢の種類及び数量の解析、感染性及び非感染性ウイルスの網羅的かつ定量的解析、食品や医薬品などの製品の微生物限度試験などの、生物体の種類及び数を把握することが求められる技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 標的核酸
2 第1のプライマー
3 第2のプライマー
4 第3のプライマー
5 第1の二本鎖核酸
6 第2の二本鎖核酸
11 第1の配列
12 対象配列
13 第2の配列
21 第1の配列に相補的な配列
22 ランダム配列
23 特定配列
31 対象配列に相補的な配列
32 第2の配列に相補的な配列
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]