特許第6474207号(P6474207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6474207廃リチウムイオン電池の処理方法及びその処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474207
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池の処理方法及びその処理システム
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20190218BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20190218BHJP
   F23G 5/027 20060101ALI20190218BHJP
   F27B 9/04 20060101ALI20190218BHJP
   F27B 9/16 20060101ALI20190218BHJP
   F27B 9/26 20060101ALI20190218BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20190218BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   B09B3/00 302Z
   H01M10/54ZAB
   F23G5/027 Z
   F27B9/04
   F27B9/16
   F27B9/26
   C22B7/00 C
   C22B7/00 F
   C22B1/02
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-145791(P2014-145791)
(22)【出願日】2014年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-22395(P2016-22395A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】300078615
【氏名又は名称】広島ガステクノ・サービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514180672
【氏名又は名称】株式会社山陽火熱
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【弁理士】
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂
(72)【発明者】
【氏名】鶴崎 武志
(72)【発明者】
【氏名】沖田 公
(72)【発明者】
【氏名】常世田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 克己
(72)【発明者】
【氏名】石本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】重原 智明
【審査官】 上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−124127(JP,A)
【文献】 特開2012−204000(JP,A)
【文献】 特開2013−187142(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/169073(WO,A1)
【文献】 特開2013−253758(JP,A)
【文献】 特開2010−3512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00−5/00
C22B 1/00−61/00
F23G 5/00−7/00
F27B 9/00−9/40
H01M 10/52−10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック又は前記電池モジュールに対して前記電池セルを個々に取外すことなく加熱処理を施して有用金属を回収する廃リチウムイオン電池の処理方法であって、
前記電池パック又は前記電池モジュールを、排気口及び受け皿部が設けられた耐熱容器に格納した後、前記耐熱容器を熱処理炉に投入して前記耐熱容器の外側から前記加熱処理を、アルミニウムの融点よりも低い温度で実施することで、前記電池パック又は前記電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するとともに電池内の電解液を揮発化させ、前記揮発化された電解液を前記耐熱容器の排気口から前記熱処理炉内に排出させることを特徴とする廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項2】
前記加熱処理の温度は、プラスチックの分解温度以上であることを特徴とする請求項1に記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項3】
前記加熱処理を還元雰囲気で実施することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項4】
前記熱処理炉は、炉床が回転し、前記耐熱容器を連続投入及び連続排出可能な連続式回転炉であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項5】
前記耐熱容器は、上蓋部を有し、前記上蓋部は前記受け皿部に対して一定の距離浮き上がり可能な状態で取付けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項6】
前記耐熱容器の受け皿部には、前記加熱処理時に溶解物を受けて溜め込む凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項7】
前記加熱処理時に発生した未燃焼ガスを二次燃焼室に導いて、前記加熱処理の温度よりも高い温度で燃焼させることを特徴とする請求項1乃至のうちいずれか一つに記載の廃リチウムイオン電池の処理方法。
【請求項8】
複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック又は前記電池モジュールに対して前記電池セルを個々に取外すことなく加熱処理を施して有用金属を回収する廃リチウムイオン電池の処理システムであって、
前記電池パック又は前記電池モジュールが格納されるとともに、排気口及び受け皿部が設けられた耐熱容器と、
還元雰囲気で加熱処理する、温度制御可能な熱処理炉とを備え、
前記熱処理炉に投入された前記耐熱容器その外側からアルミニウムの融点よりも低い温度で加熱することで前記電池パック又は前記電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するとともに電池内の電解液を揮発化させることを特徴とする廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項9】
複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック又は前記電池モジュールに対して前記電池セルを個々に取外すことなく加熱処理を施して有用金属を回収する廃リチウムイオン電池の処理システムであって、
前記電池パック又は前記電池モジュールが格納されるとともに、排気口及び受け皿部が設けられた耐熱容器と、
温度制御可能な熱処理炉と、
前記熱処理炉に前記耐熱容器を投入及び排出可能な容器搬送装置を備え、
前記熱処理炉に投入された前記耐熱容器をその外側からアルミニウムの融点よりも低い温度で加熱することで前記耐熱容器内部の前記電池パック又は前記電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するとともに電池内の電解液を揮発化して前記耐熱容器の排気口から前記熱処理炉内に排出させることを特徴とする廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項10】
前記熱処理炉の炉床を水平回転させる炉床回転装置を備え、
前記容器搬送装置を介して、前記耐熱容器を連続的に投入して複数の耐熱容器を前記炉床上に環状に載置するとともに、一回りした前記耐熱容器を前記炉床上から連続的に排出することを特徴とする請求項に記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項11】
前記耐熱容器は、上蓋部を有し、前記上蓋部は前記受け皿部に対して一定の距離浮き上がり可能な状態で取付けられていることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一つに記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項12】
前記耐熱容器の受け皿部には、前記加熱処理時に溶解物を受けて溜め込む凹部が形成されていることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一つに記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【請求項13】
前記熱処理炉の温度よりも高い温度で燃焼可能な二次燃焼室と、
前記二次燃焼室と前記熱処理炉とを連結するダクトと、
前記ダクトに設けられ、前記ダクトを介して前記熱処理炉内の未燃焼ガスを前記二次燃焼室に送るファンをさらに備え、
前記未燃焼ガスを前記二次燃焼室で燃焼させることを特徴とする請求項8乃至12のうちいずれか一つに記載の廃リチウムイオン電池の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車や電気自動車などの電源として使用された廃リチウムイオン電池の処理方法及び廃リチウムイオン電池の処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド自動車や電気自動車などの電動車両用の電源としてリチウムイオン電池が電池パックにまとめられて使用されている。
電池パックは、通常、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが樹脂製の箱型筺体内に複数収納されてなり、電池モジュール間はワイヤーハーネスなどによって電気的に接続されている。また、電池パックには電池制御システムや強電回路を遮断する回路やスイッチなどが搭載されている。
【0003】
リチウムイオン電池は、アルミ箔にリチウム、コバルト、ニッケルなどを塗布した正極材、銅箔に黒鉛などを塗布した負極材、電解液、セパレーターなどから構成されている。リチウム電池には、リチウム、コバルト、ニッケル、銅などの有価物が含まれているため、使用後廃棄されたリチウム電池からこれらを回収することは、資源の乏しいわが国にとってもとても重要である。
廃リチウムイオン電池からの有価物の回収方法として、焙焼、破砕又は粉砕、篩い分け、選別などによる分離回収が行われている。
焙焼処理は、電解液に含まれるプロピレンカーホーネート、エチレンカーボネートなどの有機溶媒、六フッ化リン酸リチウムの支持塩、ポリエチレンやポリプロピレンなどのセパレーターを熱分解し、除去することを目的としている。
リチウムイオン二次電池の焙焼処理について、特許文献1〜5などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−346160号公報
【特許文献2】特開平7−245126号公報
【特許文献3】特開2012−79630号公報
【特許文献4】特開昭55−152138号公報
【特許文献5】特開2012−112027号公報
【0005】
特許文献1と特許文献2の焙焼は、大気雰囲気で行われている。特許文献3は、大気雰囲気、酸化雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気などが例示されていて、この中から炉内雰囲気のコントロールが容易な大気雰囲気(空気雰囲気)が好ましいとされている。これらに記載の大気雰囲気で焙焼処理を行うと、電解液やセパレーターの有機物が分解されて、着火して、燃焼を起こすため、炉内の温度が急激に上昇する。
このような急激な温度上昇を抑えるためには、特許文献4において、窒素ガス、アルゴンガス、CO、CO2などのガスを通風させて、非酸化雰囲気、還元性雰囲気にすることにより、急激な燃焼による温度上昇を防ぐことができると記載されている。
特許文献5には、木材、木炭、石炭、コークス、活性炭などのカーボン源を使用して、炉内雰囲気を還元雰囲気とすることが記載されている。しかし、カーボン源も可燃性であり、還元性雰囲気にしてリチウム電池の着火、燃焼を抑えるためには、大量のカーボン源が必要となる。
小型のリチウムイオン二次電池の少量の処理であれば、処理炉を大きくしたり、通風速度を変えることにより、急激な燃焼による温度の上昇を抑制することは可能だが、大型のリチウムイオン二次電池の大量処理は、焙焼雰囲気の調整が困難であり、例えば、大型ユニットの場合は、有機化合物が大量にあるため、著しい燃焼により急激な温度上昇が起こる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的とするところは、極めて簡易な作業でリサイクル処理しうる廃リチウムイオン電池の処理方法及びその処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の廃リチウムイオン電池の処理方法は、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック(100)又は前記電池モジュールに対して前記電池セルを個々に取外すことなく加熱処理を施して有用金属を回収する廃リチウムイオン電池の処理方法であって、
前記電池パック(100)又は前記電池モジュールを、排気口(23)及び受け皿部(20B)が設けられた耐熱容器(20)に格納した後、前記耐熱容器(20)を熱処理炉(10)に投入して前記耐熱容器(20)の外側から前記加熱処理を、アルミニウムの融点(660度(℃))よりも低い温度(650度(℃))で実施することで、前記電池パック(100)又は前記電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するとともに電池内の電解液を揮発化させ、前記揮発化された電解液を前記耐熱容器(20)の排気口(23)から前記熱処理炉(10)内に排出させることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記加熱処理の温度は、プラスチックの分解温度(300度(℃))以上であることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記加熱処理を還元雰囲気で実施することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記熱処理炉(10)は、炉床(12)が回転し、前記耐熱容器(20)を連続投入及び連続排出可能な連続式回転炉であることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記耐熱容器(20)は、上蓋部(20A)を有し、前記上蓋部(20A)は前記受け皿部(20B)に対して一定の距離(L)浮き上がり可能な状態で取付けられていることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記耐熱容器(20)の受け皿部(20B)には、前記加熱処理時に溶解物を受けて溜め込む凹部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記加熱処理時に発生した未燃焼ガスを二次燃焼室(50)に導いて、前記加熱処理の温度(650度(℃))よりも高い温度(800度(℃))で燃焼させることを特徴とする。
【0015】
本発明の廃リチウムイオン電池の処理システムは、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック(100)又は前記電池モジュールに対して前記電池セルを個々に取外すことなく加熱処理を施して有用金属を回収する廃リチウムイオン電池の処理システムであって、
前記電池パック(100)又は前記電池モジュールが格納されるとともに、排気口(23)及び受け皿部(20B)が設けられた耐熱容器(20)と、
還元雰囲気で加熱処理する、温度制御可能な熱処理炉(10)を備え、
前記熱処理炉(10)に投入された前記耐熱容器(20)その外側からアルミニウムの融点(660度(℃))よりも低い温度(650度(℃))で加熱することで前記電池パック(100)又は前記電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するとともに電池内の電解液を揮発化させることを特徴とする。
【0016】
また本発明の廃リチウムイオン電池の処理システムは、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック(100)又は前記電池モジュールに対して前記電池セルを個々に取外すことなく加熱処理を施して有用金属を回収する廃リチウムイオン電池の処理システムであって、
前記電池パック(100)又は前記電池モジュールが格納されるとともに、排気口(23)及び受け皿部(20B)が設けられた耐熱容器(20)と、
温度制御可能な熱処理炉(10)と、
前記熱処理炉(10)に前記耐熱容器(20)を投入及び排出可能な容器搬送装置(30)を備え、
前記熱処理炉(10)に投入された前記耐熱容器(20)をその外側からアルミニウムの融点(660度(℃))よりも低い温度(650度(℃))で加熱することで前記耐熱容器(20)内部の前記電池パック(100)又は前記電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するとともに電池内の電解液を揮発化して前記耐熱容器(20)の排気口(23)から前記熱処理炉(10)内に排出させることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記熱処理炉(10)の炉床(12)を水平回転させる炉床回転装置(40)を備え、
前記容器搬送装置(30)を介して、前記耐熱容器(20)を連続的に投入して複数の耐熱容器(20)を前記炉床(12)上に環状に載置するとともに、一回りした前記耐熱容器(20)を前記炉床(12)上から連続的に排出することを特徴とする。
【0018】
また本発明は、前記耐熱容器(20)は、上蓋部(20A)を有し、前記上蓋部(20A)は前記受け皿部(20B)に対して一定の距離(L)浮き上がり可能な状態で取付けられていることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記耐熱容器(20)の受け皿部(20B)には、前記加熱処理時に溶解物を受けて溜め込む凹部が形成されていることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、前記熱処理炉(10)の温度(650度(℃))よりも高い温度(800度(℃))で燃焼可能な二次燃焼室(50)と、
前記二次燃焼室(50)と前記熱処理炉(10)とを連結するダクト(61)と、
前記ダクト(61)に設けられ、前記ダクト(61)を介して前記熱処理炉(10)内の未燃焼ガスを前記二次燃焼室(50)に送るファン(62)をさらに備え、
前記未燃焼ガスを前記二次燃焼室(50)で燃焼させることを特徴とする。
【0021】
なお、括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0022】
本発明の廃リチウムイオン電池の処理方法及びその処理システムによれば、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック又は電池モジュールに対して電池セルを個々に取外すことなく加熱処理を施すことで電池パック又は電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するようにしたので、電池パックの樹脂製の筺体や、あるいは電池モジュールの各電池セルを挟み込む樹脂製のフレームや、リチウムイオン電池の負極材料に使用されるカーボンなどが炭化混合物として有用金属が含まれる金属から分離される。
このときの加熱処理は、熱源として電気,重油,ガスを使用した各種炉で達成することができる。また、既存の製造設備、例えば、セメント製造時に出る廃熱を利用するなどすれば熱エネルギーの有効利用が図れる。
また、そのときの加熱温度は、アルミニウムの融点よりも低い温度でアルミニウムは溶けないように設定されているので、アルミニウムが溶け出した場合と比較して、その後の処理として有用金属が含まれる金属から有用金属を分離する処理を容易に行うことができる。
【0023】
また、このときの加熱処理の温度は、プラスチックの分解温度(300度(℃))以上であるので樹脂製材料は確実に金属から分離される。
【0024】
そして、加熱処理を還元雰囲気で実施することによれば、プラスチックなどの可燃性物質を燃焼させることはないのでダイオキシン類も生成されず、しかも金属の酸化によるスラグ化も抑えるものであるので、廃リチウムイオン電池を無害化することができる。また、プラスチックなどが燃焼することによる温度暴走を防止することができる。
【0025】
また、本発明によれば、電池パック又は電池モジュールを、排気口が設けられた耐熱容器に格納した後、熱処理炉に投入して耐熱容器の外側から加熱するようにしたので、耐熱容器内部を還元雰囲気とし、内部の電池パック又は電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離することができる。
このとき、電池内の低沸点な電解液は揮発化され、耐熱容器の排気口から熱処理炉内に排出されるとともに耐熱容器内の空気が排出され、電池パック又は電池モジュールは還元雰囲気の耐熱容器によって保護されるので、炉内で廃リチウムイオン電池が爆発する危険性を抑えることができる。また、廃リチウムイオン電池を耐熱容器に入れて、加熱処理することで耐熱容器から揮発ガスが排出されることで、耐熱容器内は何もしなくても還元となり耐熱容器の内圧は炉内より高くなるため、他の焙焼処理の技術(先行技術文献、特許文献3,4,5)のように還元剤や還元ガスによる雰囲気制御をしなくても還元雰囲気を維持することができ、また従来例で示したように大量のカーボン源の導入も必要ない。
さらに、耐熱容器の排気口からは、電解液が揮発化することによって発生したガスと、プラスチックなどの可燃性物質が熱分解することによって発生したガスの2種類の有機ガスが熱処理炉内に排気され、これらは加熱処理用の燃料として使用されるので燃料コストを削減することができる。なお、これらの有機ガスを炉内で燃焼して温度を調節するにあたっては、酸素量をコントロールすることで温度の制御が容易になる。
【0026】
このように本発明によれば、例えば、ハイブリッド自動車から取外された電池パックをそのままの状態で、すなわち電池パックの内部を分解することもなく、還元雰囲気で加熱処理するだけでよいので、極めて簡易な作業でリサイクル処理を実施することができる。また、電池パックの内部を分解するものであっても電池モジュールまでとし電池セルを個々に取外す必要はないのでリサイクル処理を簡易に実施することができる。
【0027】
また、本発明によれば、熱処理炉を連続式回転炉とすることで熱ガスが旋回しながら炉内を循環し、これにより炉内温度の均一化が図れるので、温度ムラに起因して安全上処理温度を低めに設定する必要はなく、処理温度をより高く設定することができる。特に処理温度はアルミニウムが溶融しない範囲で極力高温である方が処理時間を短くすることができるので好都合である。
また、炉床上に複数の耐熱容器を互いに間をおいた状態で環状に載置するようにすれば、熱処理炉内において耐熱容器は均一に加熱させられるので温度バラツキは少ない。
また廃リチウムイオン電池を処理する際には処理の始めと終わりで発生するガス種やガス量が違ってくることが多いが、連続処理することで熱処理炉から排気される未燃焼ガスの種類や量が安定するため、その後、未燃焼ガスを処理するための制御を容易に行うことができる。
【0028】
また、本発明によれば、耐熱容器の内部の圧力が高まる事態が発生しても耐熱容器を構成する上蓋部は受け皿部に対して一定の距離浮き上がるようにされているので耐熱容器が損傷などすることが防止される。
【0029】
また、本発明によれば、耐熱容器の受け皿部には、加熱処理時に溶解物を受けて溜め込む凹部が形成されているので、プラスチックなどの溶解物が耐熱容器から外にこぼれ出すことが防止される。
【0030】
また、本発明によれば、熱処理炉から未燃焼ガスを二次燃焼室に導いて、熱処理炉の温度よりも高い温度で燃焼させるようにしたので、臭気の発生を抑えることができる。また、未燃焼ガスを既存の製造設備を利用して、例えば、セメント工場の製造プロセスに戻して処理するなどすれば二次燃焼室として新規な施設を設ける必要はないし、未燃焼ガスを完全に無害化することも可能である。
【0031】
なお、本発明の廃リチウムイオン電池の処理方法及びその処理システムのように、電池パックや電池モジュールに対して直接、加熱処理を施すことによって電池パックや電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するような処理方法については、上述した特許文献1乃至5には全く記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態に係る廃リチウムイオン電池の処理システムの概要を示す横断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る廃リチウムイオン電池の処理システムの概要を示す縦断面図である。
図3図1の廃リチウムイオン電池の処理システムにおける熱処理炉に投入される直前の耐熱容器を示す横断面図である。
図4図1の廃リチウムイオン電池の処理システムにおける熱処理炉に投入される直前の耐熱容器を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1乃至図4を参照して、本発明の実施形態に係る廃リチウムイオン電池の処理システム及びそのシステムを使用した処理方法について説明する。
この廃リチウムイオン電池の処理システムは、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック100に加熱処理を施して有用金属を回収するものであって、主に電池パック100が格納される複数の耐熱容器20と、温度制御可能な熱処理炉10と、熱処理炉10に耐熱容器20を投入及び排出可能な容器搬送装置30を備えている。
【0034】
熱処理炉10は、図1及び図2に示すように、耐火材で覆われた鋼板で炉壁11が構成された略円筒状の縦型炉であり、ガスバーナー15によって加熱される。ガスバーナー15の近傍にはファン16を介して送られる、燃焼用及び冷却用として使用されるエアーを炉内に供給するためのノズル17が設けられている。炉内の温度及び圧力は温度センサー18A及び圧力センサー19Aによって検知され、温度調節計18B及び圧力調節計19Bによって調節管理されている。なお、図1ではガスバーナー15を一台設けた構成にしたが、四台など複数台設けるようにしてもよい。
また、熱処理炉10の炉床12は、炉壁11と同様に耐火材で覆われた鋼板からなり、モーター41,動力を伝えるチェーン42,スプロケット43などからなる炉床回転装置40によって水平方向に回転させられる。
熱処理炉10には、耐熱容器20が複数個、ここでは8個投入され、炉床12上で環状にかつ隣接する耐熱容器20に対しては一定の間隔をおいた状態で載置されている。
【0035】
熱処理炉10の炉壁11の一部には、上下に開閉式の炉体扉11Bで外部と仕切られた開口部11Aが形成され、その開口部11Aの外周には、開口部11Aから熱処理炉10内に耐熱容器20を投入するとともに、熱処理炉10内を一周した後の耐熱容器20を熱処理炉10から排出する容器搬送装置30が設けられている。
容器搬送装置30の構成は特に限定されるものではないが、ここでは、図3及び図4に示すように、熱処理炉10の開口部11Aと熱処理炉10の中心を結ぶ線上の方向(図1では上下方向)に延びるとともに、モーター31の正回転によって耐熱容器20に当接して耐熱容器20を熱処理炉10内に押し入れるプッシャー部30Aと、耐熱容器20の外周に設けられたハンガー21を係止する爪32が先端に設けられ、モーター31の負回転によって耐熱容器20を熱処理炉10内から引っ張り出すプルアウト部30Bを備えている。プッシャー部30Aはプルアウト部30Bの真上に配置されている。
【0036】
また、耐熱容器20は熱処理炉10内に投入される直前には、すなわち、開閉式の炉体扉11Bの外周では熱処理炉10の接線方向(図1では左右方向)に移動自在のスライドベース35上に載置され、スライドベース35の端部に接続されたベース移動装置36によってスライドベース35は、炉体扉11Bの前位置に設けられた炉前室38(図1の位置)と、開閉式の炉前室扉37を隔てて外側に位置するスタンド39の間を移動可能にされている。炉前室38は外部に対しては炉前室扉37で隔てられるとともに、熱処理炉10に対しては炉体扉11Bで隔てられ、炉体扉11Bを開放したときの温度変化を抑えるようにしている。また、炉前室38を設けることで熱処理炉10内の雰囲気が保持されるとともに危険なガスが漏れることや熱風が吹き出すことが防止される。
スライドベース35がスタンド39上に移動されたときにクレーン(図示しない)で加熱される前の耐熱容器20がスライドベース35上に載せられ、その後、炉前室38までベース移動装置36によって運ばれ、加熱された後の耐熱容器20は炉前室38からスタンド39まで同じくベース移動装置36によって運ばれ、その後、冷却室(図示しない)まで自動的に移動するようにされている。ベース移動装置36は、モーター36Aの駆動によってシャフト36Bを伸縮させることでシャフト36Bの先端に接続されたスライドベース35を移動させるようになっている。
【0037】
電池パック100が格納される耐熱容器20は、図3及び図4に示すように、全体的には円筒形状であり、内部には4段に積層された電池パック100が2組、計8個の電池パック100が格納されている。電池パック100はいずれもハイブリッド自動車や電気自動車などから取外されたままの状態のものを複数段(4段)重ねたものである。
耐熱容器20は、上蓋部20Aと受け皿部20Bからなり受け皿部20Bの外周に設けられた溝部22に上蓋部20Aの下端が嵌め込まれるとともに、溝部22には砂が埋設されてサンドシールが構成されている。このとき、耐熱容器20の上蓋部20Aの上部には排気口23が設けられていて、下部容器20Bにはハンガー21が設けられている。また、上蓋部20Aは受け皿部20Bに対して一定の距離L分、浮き上がり可能な状態で取付けられている。
なお、ここでは耐熱容器20を上蓋部20Aと下部容器20Bにより2分割されるものとサンドシール構造を利用して受け皿部20Bに対して上蓋部20Aが浮き上がり可能にしたが、受け皿部20Bに対して上蓋部20Aが浮き上がり高まった圧力を逃がす構造であれば、例えば、緩衝機構を設けたものなどどのようなものであってもよい。
また、複数個の電池パック100を格納することができしかも耐熱性に優れるもので上部に排気口23が設けられたものであれば特に分割されていないものでも使用することができる。
【0038】
特に耐熱容器20については、その上蓋部20Aが受け皿部20Bに対して一定の距離L分、浮き上がり可能な状態で取付けられる構成にしたものであるので、加熱処理時の反応によって耐熱容器20の内部の圧力が高まる事態が発生したとしても上蓋部20Aの浮き上がりによって高まった圧力が下げられるので耐熱容器20が損傷などすることが防止される。
なお、耐熱容器20の受け皿部20Bに、加熱処理時にプラスチックなどの溶解物を受けて溜め込む凹部(図示しない)を形成してプラスチックなどの溶解物が耐熱容器20から外にこぼれ出すことを防止するようにしてもよい。
本実施形態では、耐熱容器20はステンレス鋼(SUS304)で少なくとも650度(℃)の温度に耐えることができるものを採用した。
【0039】
また、熱処理炉10より離れた位置には、二次燃焼室50が設けられ、二次燃焼室50と熱処理炉10間はダクト61によって連結されている。またダクト61には、ダクト61を介して熱処理炉10内の未燃焼ガスを二次燃焼室50に送るファン62が設けられている。
二次燃焼室50もガスバーナー51によって加熱され、二次燃焼室50内で未燃焼ガスを燃焼するために使用されるエアーがファン52を介して二次燃焼室50内に供給されている。また、二次燃焼室50内の温度も熱処理炉10と同様に温度センサー53によって検知され、温度調節計(図示しない)によって調節管理されている。
また、二次燃焼室50には排気用の煙突54が設けられている。
【0040】
ダクト61の熱処理炉10側は、図2に示すように、熱処理炉10の上面中央から熱処理炉10内に導かれ、その先端61a位置は、耐熱容器20内の電池パック100の上面位置より低くなるように設定されている。ここでは、ダクト61の先端(下端)61aの位置を耐熱容器20内で4段重ねにされた電池パック100の上から3段目と4段目の間の高さと同じ位置にしている。このように、ダクト61の熱処理炉側先端を、耐熱容器20内の電池パックの上面位置より低く設定することで、熱処理炉10内で熱風は上方から下方へまた下方から上方へ大きく対流するので、内部の電池パック100は効率的に乾留される。よって、特に、電池パック100を耐熱容器20内において複数積層(本実施形態では4段)しても十分リサイクル処理することができるので仮に処理すべき電池パック100の数が大量であっても短時間で処理することができる。
【0041】
このように構成された廃リチウムイオン電池の処理システムを使用した廃リチウムイオン電池の処理方法について説明する。
【0042】
(1)最初に、熱処理炉10内の残留ガスを炉外に排出するプレパージを5分間行い、その後、ガスバーナー15を点火して炉温を650度(℃)まで昇温して温度を一定に保持する制御を行う。
【0043】
(2)次に、炉前室扉37を開放してベース移動装置36を介してスライドベース35を炉前室38の外側に設けられたスタンド39の位置まで前進させる。そして、クレーン(図示しない)を使用して、図3及び図4で示したように使用済みの8個の電池パック100が格納された(4段重ねのものが2組突き合わされた状態で格納)耐熱容器20をスタンド39の位置に移動させられたスライドベース35上に設置する。
(3)次に、ベース移動装置36を介してスライドベース35をスタンド39の位置から炉前室38内まで後退させ、炉前室扉37を閉鎖する。
(4)そして、炉体扉11Bを開放した後、容器搬送装置30のプッシャー部30Aを前進させて耐熱容器20を熱処理炉10内に投入する。
これにより、耐熱容器20は熱処理炉10の炉床12上、図1では6時の位置に載置させられる。
【0044】
(5)次に、容器搬送装置30のプッシャー部30Aを後退させた後、炉体扉11Bを閉鎖する。
(6)次に、炉床回転装置40を介して炉床12を45度(°)、左回転させる。この45度(°)の回転は、特に限定されるものではないが、例えば、37.5分の間に一回、回転し、5時間で1周するように設定している。
【0045】
(7)そして、(1)〜(6)の処理を7回繰り返す。
これにより、熱処理炉10の炉床12上には、図1に示したように、8個の耐熱容器20が環状に載置される。
このとき、耐熱容器20は熱処理炉10内で1周する間に外側から加熱されることで、耐熱容器20内は還元雰囲気とされるので、耐熱容器20に格納された電池パック100の樹脂製の筺体などプラスチック類は乾留により炭化混合物として、リチウム,コバルト,ニッケル,マンガンなどの有用金属が含まれた材料から分離された状態となっている。なお、耐熱容器20はアルミニウムの融点(660度(℃))よりも低い温度(650度(℃))で加熱されるので電池パック100内で使用されたアルミニウム成分が溶け出すことはない。また、電池内の電解液は揮発化され、プラスチックなどの可燃性物質が熱分解することによって発生したガスとともに、耐熱容器20の排気口23から熱処理炉10内に排出される。耐熱容器20の排気口23から排出された2種類のガスは可燃性ガスであり熱処理炉10内で熱源として再利用される。
このとき、熱処理炉10内の温度制御は、ノズル17を介して供給されるエアーの酸素量を調整することにより耐熱容器20の排気口23から熱処理炉10内に放出される可燃性ガスの燃焼量を制御することによって行われる。
また、熱処理炉10内の未燃焼ガスは二次燃焼室50に導かれ、熱処理炉10の温度(650度(℃))よりも高い温度(800度(℃))で燃焼させられる。
【0046】
(8)耐熱容器20が熱処理炉10内で1周すると、炉体扉11Bを開放して容器搬送装置30のプルアウト部30Bを耐熱容器20の位置まで前進させ、図3に示すように、プルアウト部30B先端に設けられた爪32を、耐熱容器20に設けられたハンガー21に係止させる。
(9)そして、プルアウト部30Bを後退させて耐熱容器20を熱処理炉10から引き出してスライドベース35上に載置し、炉体扉11Bを閉鎖する。
【0047】
(10)次に、炉前室扉37を開放した後、ベース移動装置36を介して加熱処理済みの耐熱容器20が載置されたスライドベース35をスタンド39の位置まで前進させる。そして、この状態で炉前室扉37を半分閉鎖し、スライドベース35を元の位置に戻すと耐熱容器20は半分閉鎖状態の炉前室扉37に当接してスタンド39上に載せられる。そして、炉前室扉37は全閉される。
【0048】
(11)その後、スタンド39の位置まで移動させられたスライドベース35上の加熱処理済みの耐熱容器20は、移送コンベア(図示しない)に載せられ冷却室(図示しない)に運ばれる。なお、(10)で耐熱容器20が半分閉鎖状態の炉前室扉37に当接することによって、移送コンベア上に載せられ自動的に搬送されるようにすることもできる。そして、その加熱処理済みの耐熱容器20の代わりにスライドベース35上には、(2)で示したものと同様に、クレーン(図示しない)を使用して、使用済みの8個の電池パック100が格納された新たな耐熱容器20が設置され、(3)以下の処理が繰り返して行われる。
なお、冷却室に運ばれた加熱処理済みの耐熱容器20は、内部の電池パック100において炭化混合物が取り除かれたものからリチウム,コバルト,ニッケル,マンガンなどの有用金属をさらに分離する処理が行われる。
【0049】
以上のように構成された廃リチウムイオン電池の処理方法及びその処理システムによれば、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パック100を、排気口23が設けられた耐熱容器20に格納した後、熱処理炉10に投入して耐熱容器20の外側から加熱することで耐熱容器20内部の電池パック100を乾留して炭化混合物を分離するようにしたので、電池パック100の樹脂製の筺体やリチウムイオン電池の負極材料に使用されるカーボンなどが炭化混合物として有用金属が含まれる金属から分離される。また、そのときの加熱温度は650度(℃)で、アルミニウムの融点(660度(℃))よりも低い温度でアルミニウムは溶けないように設定されているので、アルミニウムが溶け出した場合と比較して、その後の処理として有用金属が含まれる金属から有用金属を分離する処理を容易に行うことができる。
【0050】
このとき、電池内の電解液は揮発化され、耐熱容器20の排気口23から揮発ガスが熱処理炉10内に排出されることで耐熱容器20内は何もしなくても還元となり、従来技術のように還元ガスやカーボン源を導入しなくても良いとともに、電池パック100は還元雰囲気にした耐熱容器20によって保護されるので、熱処理炉10内で廃リチウムイオン電池が爆発する危険性を抑えることができる。また、プラスチックなどの可燃性物質を燃焼させることはないので、温度暴走を防止することができ、しかも金属の酸化によるスラグ化も抑えるものであるので、廃リチウムイオン電池を無害化することができる。
これによれば、ハイブリッド自動車から取外された電池パック100をそのままの状態で、すなわち電池パック100の内部を分解して電池セルを個々に取外すことなく、耐熱容器20に格納し、熱処理炉10で外側から加熱するだけでよいので、極めて簡易な作業でリサイクル処理を実施することができる。
【0051】
また、熱処理炉10から未燃焼ガスを二次燃焼室50に導いて、熱処理炉10の温度(650度(℃))よりも高い温度(800度(℃))で燃焼させるようにしたので、臭気の発生を抑えることができる。
【0052】
本実施形態では、炉床12が回転する熱処理炉10を使用することで均一的な加熱処理を行ったが、耐熱容器20をその外側からアルミニウムの融点よりも低い温度で加熱することで内部の電池パック100を乾留して炭化混合物を分離することが可能な熱処理炉であれば、必ずしも炉床12が回転するものでなくてもよい。また、熱処理炉10内に複数の耐熱容器20を連続して投入・排出するようにしたがバッチ式のものでも適用可能である。
【0053】
また、本実施形態では、熱処理炉10内の炉温を650度(℃)まで昇温して温度を一定に保持するように、アルミニウムが溶融しない範囲で極力高温にして処理時間を短くするようしたが、加熱処理の温度は、プラスチックの分解温度(300度(℃))以上であれば樹脂製材料は分解され金属から分離されるので特に限定されるものではない。
【0054】
さらに、本実施形態では、電池パック100を格納した耐熱容器20を酸化雰囲気下の熱処理炉10に投入して加熱処理するようしたが、還元雰囲気下あるいは不活性雰囲気下としても適用可能である。
特に、熱処理炉10内を還元雰囲気にすれば耐熱容器20を使用することなく直接投入された電池パック100に対して加熱処理することで電池パック100を乾留して炭化混合物を分離するとともに電池内の電解液を揮発化させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、加熱処理として、熱源としてガスを使用した熱処理炉10を使用したものについて説明したが、熱源として電気や重油を使用した各種炉を使用することもできる。また、既存の製造設備、例えば、セメント製造時に出る廃熱を利用するなどすれば熱エネルギーの有効利用が図れる。
また、本実施形態では、電池パック100を電池セルを個々に取外すことなくそのままの状態のものに対して加熱処理したものであったが、電池パック100から分解した電池モジュール(この場合も電池セルを個々に取外したものではない)単位のものを格納した耐熱容器20を熱処理炉10に投入して加熱処理したり、あるいは、電池モジュール単位のものを還元雰囲気の炉に直接投入して加熱処理することでも電池モジュールを乾留して炭化混合物を分離するとともに電池内の電解液を揮発化させることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 熱処理炉
11 炉壁
11A 開口部
11B 炉体扉
12 炉床
15 ガスバーナー
16 ファン
17 ノズル
18A 温度センサー
18B 温度調節計
19A 圧力センサー
19B 圧力調節計
20 耐熱容器
20A 上蓋部
20B 受け皿部
21 ハンガー
22 溝部
23 排気口
30 容器搬送装置
30A プッシャー部
30B プルアウト部
31 モーター
32 爪
35 スライドベース
36 ベース移動装置
36A モーター
36B シャフト
37 炉前室扉
38 炉前室
39 スタンド
40 炉床回転装置
41 モーター
42 チェーン
43 スプロケット
50 二次燃焼室
51 ガスバーナー
52 ファン
53 温度センサー
54 煙突
61 ダクト
61a 先端
62 ファン
100 電池パック
図1
図2
図3
図4