(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474214
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】靴底
(51)【国際特許分類】
A43B 17/00 20060101AFI20190218BHJP
A43B 13/12 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
A43B17/00 Z
A43B13/12 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-172042(P2014-172042)
(22)【出願日】2014年8月8日
(65)【公開番号】特開2016-36704(P2016-36704A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000167820
【氏名又は名称】広島化成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】笠原 健明
(72)【発明者】
【氏名】桑田 恒洋
【審査官】
山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−181206(JP,A)
【文献】
特開2010−017514(JP,A)
【文献】
特開2013−150797(JP,A)
【文献】
特開2006−000549(JP,A)
【文献】
特開2011−056296(JP,A)
【文献】
特開2009−247501(JP,A)
【文献】
特開2002−282012(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0167403(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 17/00
A43B 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インソールを含まない靴底(7)の底部の接地面側において、足骨を構成する載距突起(2)に対応する載距突起対応部分(8)、立方骨(4)に対応する立方骨対応部分(9)及び第一中足骨種子骨(6)に対応する第一中足骨種子骨対応部分(10)が設けられ、それぞれの対応部分の硬度を80(アスカーTYPE-C)とし、前記対応部分以外の靴底の硬度を60(アスカーTYPE-C)とし、載距突起対応部分(8)、立方骨対応部分(9)及び第一中足骨種子骨対応部分(10)が、それぞれ、載距突起(2)、立方骨(4)及び第一中足骨種子骨(6)を支持し、かつ、接地面を構成する靴底(7)。
【請求項2】
前記載距突起対応部分(8)は載距突起(2)を中心において直径25mm〜35mm、厚さ3mmの円柱形であり、前記立方骨対応部分(9)は立方骨(4)を中心において直径25〜35mm、厚さ3mmの円柱形であり、前記第一中足骨種子骨対応部分(10)は2つの第一中足骨種子骨(6、6)を中心において直径25mm〜35mm、厚さ3mmの円柱形であることを特徴とする請求項1に記載した靴底。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴底に関する。特に、本発明は、歩行運動中、過剰の内反を防止する効果がある靴底に関する。
【背景技術】
【0002】
ここで、いわゆる「内反」と内反に起因する悪影響に関して、足の骨格構造を基礎に詳細に説明する。尚、以下の説明で、足の骨格構造に関しては、[H.F.Frick,B.Kummer,R.V.Putz編、「ヴォルフ・人体解剖学アトラス・新装版・404〜407頁」(2001年4月20日西村書店発行)を参照した。また、以下の説明で、足底の方向に関して「前方」とは爪先に向かう方向を、「内側」とは、右足の場合は、左側面を、左足の場合は、右側面を言う。
【0003】
足の回内とは、アーチ、主として内側縦アーチが過度に低下して踵骨の上にある距骨が内側に回り、踵骨が内側に倒れる動きと定義する。回内は、本来、歩行運動中、踵が地面に着地したときに衝撃を吸収する、いわゆる衝撃吸収材としての機能・作用がある。然しながら、回内が過剰、即ち、過回内になると、たとえば、偏平足、外反拇趾、内反小趾、浮足、ハンマートウ、脛骨下部疲労骨折等の悪影響を及ぼす。なお、回内は、内反、外転、背屈等と同義である。
【0004】
足根骨は、3個の楔状骨、立方骨、舟状骨、距骨、及び踵骨から構成されている。踵骨の前方に立方骨が連続して配置されていて、踵骨及び立方骨の上に、距骨、舟状骨及び楔状骨が、この順番で配置されている。足の骨格を、骨格図(50%)の内側面から観察すると、距骨の前方に距骨頸があり、その前方に舟状骨、中間楔状骨、内側舟状骨、第一中足骨粗面、第一中足骨拇趾、種子骨、基節骨、末節骨と配置されている。さらに、距骨の下に、踵骨が配置されている。踵骨(100%)を内側面から観察すると、距骨の後部の後距骨関節面が踵骨の上部にかぶさっていて、載距突起が踵骨の前方上部から、オーバーハングのように内側に張り出している。載距突起の上面は中距骨関節面及び前距骨関節面となっていて、距骨を支持していると同時に、踵骨が内側に傾くのを防止するストッパーの役をしている。尚、載距突起は、足の骨格の外側面及び踵骨の外側面からは観察されない。
【0005】
人の足を垂直方向に観察すると、地面に接地する踵骨の上に距骨下関節を介して距骨、さらに距骨の上に足関節を介して脛骨と腓骨が、それぞれ積木のように積み上げられ、動きやすい構造になっている。足の骨格を構成する7個の足根骨、5個の中足骨及び14個の趾骨自体の形状から、足の骨自体、特に足の骨を構成する踵骨が内側に傾き易くなっている。載距突起が、踵骨が内側に傾くのを防止するストッパーの役をしていることは前述した通りである。従って、本発明者は、過剰回内を防止するには、載距突起を支持することが重要であると推断した。ところで、従来から、過剰回内を防止する方法として、たとえば、内側縦ア−チ、横アーチ及び外側縦アーチを支持する解剖学的構造のインソール等多種多様なインソールが提案され、且つ、上市されてきた。
【0006】
たとえば、特許文献1は、第一中足骨種子骨と第五中足骨粗面と踵骨隆起の三点を足の裏から支持し、三点バランスにより重心安定を可能にして足の裏からの身体連動を調芯して正常な姿勢に復帰しようとする刺激を与えることができる靴用インソールを開示している。然しながら、特許文献1に記載されたインソールは、載距突起を支持する構造ではない。特許文献1に記載されたインソールが支持する踵骨隆起は、足の骨(70%)の足底面からも、足の骨(50%)の外側面及び内側面の両方から、及び踵骨(100%)の近位面、内側面及び外側面から観測可能な部位で、踵骨の後方端部の全縁に渡って形成された隆起である(以上、前掲の[H.F.Frick,B.Kummer,R.V.Putz編、「ヴォルフ・人体解剖学アトラス・新装版・404〜407頁」による)。踵骨隆起は、アキレス腱を介してふくらはぎの腓腹筋及びヒラメ筋が付着される箇所である。アキレス腱自体は、歩行或いは跳躍運動の際に必要であるが、踵骨隆起を含む第一中足骨種子骨と第五中足骨粗面の三点を足の裏から支持しても、足の回内現象の大きな要因である踵骨の低下を防止する効果は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−150797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、楔状骨、立方骨、舟状骨、距骨、及び踵骨から構成されている足根骨の一構成要素である載距突起の構造と機能に着眼し、過剰回内を防止する効果を奏功する靴底を提供することである。
本発明が解決しようとする別の課題及び利点は以下逐次明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来、載距突起対応部分の構造と機能、即ち、載距突起が(1)踵骨の前方上部から、オーバーハングのように内側に張り出していて、載距突起の上面は中距骨関節面及び前距骨関節面となっていて、距骨を支持していること、及び(2)踵骨が内側に傾くのを防止するストッパーの役をしていることに着眼して過剰回内を防止する靴底及びインソールの研究・開発が行われたことはなかった。本発明者は、前述した載距突起の構造と機能に着眼して新規な過剰回内を防止する靴底の研究・開発を行ってきた。その過程で、靴底を、載距突起だけが低下しないような構造にしただけでは、所望の効果が奏功されないことが分かった。さらに、検討した結果、載距突起、立方骨及び第一中足種子骨(拇趾種子骨)を同時に或はほぼ同時に支持することにより過剰の回内が防止できることを発見した。従って、課題は下記の各項に記載した手段によって解決される。なお、本発明において、載距突起、立方骨及び第一中足種子骨(拇趾種子骨)とは、載距突起、立方骨或は第一中足種子骨(拇趾種子骨)の特定箇所を規定するものではなく、載距突起、立方骨或は第一中足種子骨(拇趾種子骨)の中央部分を中心に、たとえば、直径25mmの円形領域と定義する。尚、当該円形領域は、年齢、性別等を考慮した足のサイズによって適宜変更される。
【0007】
従って、前記課題は下記の各項に記載した手段によって解決される。
1.靴内に装着する靴底において、足骨を構成する載距突起、立方骨及び第一中足骨種子骨を支持する構造とした靴底。
【0008】
2.前記1項における靴底において、載距突起に対応する部分、立方骨に対応する部分及び第一中足骨種子骨に対応する部分の材料の硬度を、その余の部分の材料の硬度より大きくすることにより、載距突起、立方骨及び第一中足骨種子骨を支持する。
【0009】
3.前記1項または2項において、靴の靴底に所定の形状の意匠を形成する。
【0010】
4.前記3において、意匠を円柱形とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載した発明により、下記に例示する効果を奏功する。
従来技術の一つに土踏まず部分を直接支持する解剖学的構造にしたインソールがある。然しながら、土踏まず部分は、複数個の細かな骨から構成されているので、土踏まず部分を直接支持しても、部分的にしか支持することができない。踵骨の前方上部から、オーバーハングのように内側に張り出していて、上面は中距骨関節面及び前距骨関節面となっていて、距骨を支持しており、踵骨が内側に傾くのを防止するストッパーの役をしている載距突起を支持することにより、踵骨が内側に傾くのを防止することができる。然しながら、その反面、足が外側に傾き易くなるという副次的反作用が起こる。そこで、立方骨を支持することにより、足が外側に傾き易くなる副次的反作用を抑制することができる。他方、その反作用として足が前方に傾き易くなるという更なる副次的反作用が起こる。そこで、第一中足骨種子骨、即ち拇趾の付け根を支持することにより前記足が内側に傾き易くなる副次的反作用を抑制することができる。前記三つの行程を前記の順序でほぼ同時に連続して行うことにより、過剰の回内を防止し、足骨のバランスを整え、正常な立位姿勢に戻すことができる。この効果は、従来の内側縦ア−チ、横アーチ及び外側縦アーチを支持する解剖学的構造の靴底及びインソール、或は特許文献1に記載されているインソールからは奏功され得ない効果である。
【0012】
請求項2に記載した発明により、請求項1に記載した靴底において、載距突起に対応する分、立方骨に対応する部分及び第一中足骨種子骨に対応する部分の材料の硬度を、その余の箇所の材料の硬度より大きくすることにより、載距突起、立方骨及び第一中足骨種子骨を支持する構造にしたので、特許文献1に記載されているインソールのようにインソールの表面に凹凸部を形成する構造と異なり、本発明の靴底を用いると、インソールの表面は略平坦にすることができるので、歩行中違和感がない。さらに、年齢、性別、健康度等諸条件に併せた硬度を選定することにより、品ぞろえが豊富になり、マーチャンダイジングに資する効果を奏功する。
【0013】
請求項3に記載した発明により、請求項1又は2に記載した靴底において、靴底底部に所定の形状の意匠を形成することにより、特許文献1に記載されているインソールのようにインソールの表面に凹凸部を形成する構造と異なり、本発明の靴底を用いると、インソールの表面は略平坦にすることができるので、歩行中違和感がなく、且つ靴の本底底部に設ける意匠が、足底面を下から押圧し、靴底の載距突起対応部分、立方骨対応部分及び第一中足骨種子骨対応部分に形成された硬質部分との相乗効果が発揮される。さらに、本底底部に設ける意匠を年齢、性別、健康度等諸条件に併せた意匠にすることにより、品ぞろえが豊富になり、マーチャンダイジングに資する効果を奏功する。
【0014】
請求項4に記載した発明により、靴の本底底部に設ける意匠を円柱形にしたので、請求項3に記載した発明による効果に加えて、足底面を下から押圧する力が他の形状のそれより大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1において、靴底に形成される載距突起対応部分、立方骨対応部分及び第一中足骨種子骨対応部分を足の骨格図で示した透視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、添付した図面に基づいて実施例を説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明における靴底に形成される載距突起対応部分、立方骨対応部分及び第一中足骨種子骨対応部分を足の骨格図で示した透視図で、それぞれの範囲を概念的に示している。載距突起対応部分1は、載距突起2をほぼ中心において直径約25mm〜35mmの円形である。立方骨対応部分3は、立方骨4をほぼ中心において直径約25〜35mmの円形である。第一中足骨種子骨対応部分5は、2つの第一中足骨種子骨6、6をほぼ中心において直径約25mm〜35mmの円形である。載距突起対応部分1、立方骨対応部分3、及び第一中足骨種子骨対応部分5は、それぞれ、直径約25mm〜35mmの範囲で年齢、性別ごとに足のサイズに併せて選定される。
【0018】
図2は、本発明の実施例1の底面図、
図3は、
図2のA−A’面断面図である。材料としてEVA(ethylene−vinyl acetate copolymer)を使用してサイズ19cm、厚さ10mmの靴底7を製造した。載距突起対応部分8は、載距突起2をほぼ中心において直径25.0mm、厚さ3mmの円形、立方骨対応部分9は、立方骨4をほぼ中心において直径25.0mm、厚さ3mmの円形、第一中足骨種子骨対応部分10は、2つの第一中足骨種子骨6をほぼ中心において直径25.0mm、厚さ3mmの円形に製造した。
載距突起対応部分8は、
図3に示した通り、靴底7の材料であるEVAの底部に直径25.0mm、厚さ3mm部分の硬度を80(アスカーTYPE−C)として製造した。断面図は示していないが、立方骨対応部分9は、靴底7の材料であるEVAの底部に直径25.0mm、厚さ3mm部分の硬度を80(アスカーTYPE−C)として製造した。同じく、断面図は示していないが、第一中足骨種子骨対応部分10は、靴底7の材料であるEVAの底部に直径25.0mm、厚さ3mm部分の硬度を80(アスカーTYPE−C)として製造した。実施例において、靴底7の載距突起対応部分8、立方骨対応部分9及び第一中足骨種子骨対応部分10以外の部分の硬度を60(アスカーTYPE−C)とした。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上詳述したように、本発明の靴底は、載距突起の構造と機能、即ち、載距突起が距骨を支持していること、及び踵骨が内側に傾くのを防止するストッパーの役をしていることに着眼して研究開発した結果、靴底において、足骨を構成する載距突起、立方骨及び第一中足骨種子骨を支持する構造とし、特に、載距突起に対応する部分、立方骨に対応する部分及び第一中足骨種子骨に対応する部分の材料の硬度を、その余の部分の材料の硬度より大きくすることにより、載距突起、立方骨及び第一中足骨種子骨を支持する構造としたので、従来のような、内側縦ア−チ、横アーチ及び外側縦アーチを支持する解剖学的構造の靴底、或は特許文献1に記載されているインソールとは、構造において根本的に異なっており、歩行運動中過剰の回内を防止し、もって過剰の回内に直接或いは間接的に起因する悪影響を防止または軽減することができるので、靴底として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0020】
1 載距突起対応部分
2 載距突起
3 立方骨対応部分
4 立方骨
5 第一中足骨種子骨対応部分
6 第一中足骨種子骨
7 靴底
8 靴底の載距突起対応部分
9 靴底の立方骨対応部分
10靴底の第一中足骨種子骨対応部分
L 靴底の載距突起対応部分の厚さ