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特許6474267多孔性構造体の製造方法及び多孔性構造体の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474267
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】多孔性構造体の製造方法及び多孔性構造体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/20 20060101AFI20190218BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20190218BHJP
   C25D 11/26 20060101ALI20190218BHJP
   C25D 11/30 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   C25D11/20 302
   B82Y40/00
   C25D11/26 302
   C25D11/30
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-22743(P2015-22743)
(22)【出願日】2015年2月6日
(65)【公開番号】特開2016-145389(P2016-145389A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2018年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】武藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】河村 剛
(72)【発明者】
【氏名】ウィ シン
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−263996(JP,A)
【文献】 特開平01−205093(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0936288(EP,A2)
【文献】 特表2006−518807(JP,A)
【文献】 特開平11−236697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00−11/38
C25D 15/00−15/02
C25D 13/00−13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口した孔を有する多孔質基材を、表面電荷を有し前記多孔質基材の孔径よりも小さな微小固体が分散された液中に浸漬する浸漬工程と、
その浸漬工程において浸漬された前記多孔質基材と一体または連接して設けられる一方の電極と、当該一方の電極と離間して前記多孔質基材の開口側に設けられる他方の電極との間に、直流電圧とその直流電圧の絶対値よりも高い交流電圧とを重畳させた電圧を印加する電圧印加工程とを備えており、
前記浸漬工程の前に、前記微小固体が分散される液体と混和する溶媒を前記多孔質基材の孔内部に導入し、孔内表面の改質を行う改質工程を備え、
前記電圧印加工程によって発生する電場により、前記微小固体を前記一方の電極側に電気泳動させて前記多孔質基材の孔内部に導入し、前記微小固体が前記多孔質基材内部に保持された多孔性構造体を製造することを特徴とする多孔性構造体の製造方法。
【請求項2】
前記改質工程は、溶媒を気化させて前記多孔質基材内部に導入することを特徴とする請求項1に記載の多孔性構造体の製造方法。
【請求項3】
前記改質工程は、前記微小固体が分散される液体よりも蒸気圧の低い溶媒を気化させて前記多孔質基材内部に導入するものであることを特徴とする請求項2に記載の多孔性構造体の製造方法。
【請求項4】
開口した孔を有する多孔質基材を、表面電荷を有し前記多孔質基材の孔径よりも小さな微小固体が分散された液中に浸漬する浸漬工程と、
その浸漬工程において浸漬された前記多孔質基材と一体または連接して設けられる一方の電極と、当該一方の電極と離間して前記多孔質基材の開口側に設けられる他方の電極との間に、直流電圧と交流電圧とを重畳させた電圧を印加する電圧印加工程と、
前記浸漬工程の前に、前記微小固体が分散される液体と混和する溶媒を気化させて前記多孔質基材の孔内部に導入し、孔内表面の改質を行う改質工程とを備え、
前記電圧印加工程によって発生する電場により、前記微小固体を前記一方の電極側に電気泳動させて前記多孔質基材の孔内部に導入し、前記微小固体が前記多孔質基材内部に保持された多孔性構造体を製造することを特徴とする多孔性構造体の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質基材は、非導電性材料であり、前記多孔質基材内部に形成される孔の底面の非導電層の厚みが100nm以下とされていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の多孔性構造体の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質基材は、導電性材料を陽極酸化して孔形成をしたものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の多孔性構造体の製造方法。
【請求項7】
多孔質基材の孔内表面を改質するための改質装置と、微小固体を電気泳動させて多孔質基材の孔内部に導入するための電気泳動装置とを備える多孔性構造体の製造装置であって、
前記改質装置は、処理槽と減圧装置とを備え、有機溶剤を気化させた蒸気により前記孔内表面を改質するものであり、
前記電気泳動装置は、
開口した孔を有する多孔質基材が浸漬される液体が貯留される貯留槽と、
その貯留槽内において多孔質基材と一体または連接して設けられる一方の電極と、
その一方の電極と離間して多孔質基材の開口側に設けられる他方の電極と、
その他方の電極と前記一方の電極との間に、直流電圧とその直流電圧の絶対値よりも高い交流電圧とを重畳させた重畳電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記貯留槽に貯留される液体に、表面電荷を有し且つ多孔質基材の孔径よりも小さな微小固体が分散された状態で、前記電圧印加手段により電圧を印加し、発生する電場によって該微小固体を前記一方の電極側に電気泳動させ多孔質基材の孔内部に導入するものである
ことを特徴とする多孔性構造体の製造装置。
【請求項8】
前記電気泳動装置の貯留槽は、前記改質装置の処理槽内に配設されるものである請求項7に記載の多孔性構造体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性構造体の製造方法及びこれに用いられる電気泳動装置に関し、特に、多孔性の基材内部に微小固体が導入された構造体の製造方法とこれに用いられる電気泳動装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーの発達により細孔を有する多孔体の多様な用途開発が進められており、多孔体に触媒や活物質等を担持させ反応場とする技術が広く普及している。
【0003】
多孔体細孔に物質を導入する手法としては、例えば化学蒸着法(CVD)が知られている。化学蒸着法は、蒸着材料を加熱または減圧により気化もしくは昇華させて、離れた位置に置かれた基板表面に蒸着材料を付着させるというものである。この化学蒸着法の一種である熱フィラメント蒸着法に電気的引力を組み合わせ、アルミナ多孔体内部にナノダイヤモンドを担持させる手法が提案されている。この提案では、負に帯電するナノダイヤモンドが、細孔の奥方に配置された正極に向かう電気的引力によって、細孔内に誘導されることが開示されている(非特許文献1参照)。
【0004】
一方、液中に分散させた荷電粒子を電気泳動し、液中で電極等の基板上に粒子を堆積させる電気泳動堆積法が知られている。例えば、セラミック粒子をこの方法で堆積させて焼結すれば、セラミックスの厚膜を形成することができる。溶融温度が高温で熱変形が困難なセラミックスの厚膜形成においては有用な手法である。
【0005】
ここで、この電気泳動堆積法を用いて多孔体に物質を担持させる手法が提案されており、特許文献1には、貫通孔が形成された多孔体を電極間に挟み込んで電圧を印加し、液中に分散させたカーボンナノチューブやスチレンビーズを電気泳動させて、多孔体細孔に導入、堆積する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2009/126952
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hung-Yin Tsai, Hsuan-Chun Liu, Jhih-Hong Chen and Chih-Cheng Yeh Nanotechnology, vol. 22, no. 23, 235301 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蒸着法を用いて物質担持をさせる場合、一般には、蒸着材料が多孔体表面で膜化し易く、一旦膜化が生じると、細孔内に蒸着材料を送達することができないという問題点があった。前掲の非特許文献1では、電気的引力によって細孔奥方へのナノダイヤモンドの誘導を試みているが、メタンガスと水素ガスとを反応させつつ形成されるナノダイヤモンドについて適用されたものであって、それ以外の材料へ広く適用されるものかは不明である。更には、蒸着法を用いる場合には、加熱や減圧のための大掛かりな装置が必要となりコストがかかるという問題点があった。
【0009】
また、特許文献1には、上記したように、液中に分散させたカーボンナノチューブを電気泳動によって多孔体の細孔に堆積させることが開示されているが、一方から他方に向かって一方向に進行させる通常の電気泳動を単に行うだけでは、特に、細孔径が小さくなると、細孔の入り口近傍で物質が堆積(目詰まり)しやすいという問題点があった。故に、細孔内に微小固体を十分量充填することが困難であるという問題点があった。また、カーボンナノチューブは比較的柔軟性を有しているが、微小固体の剛直性が増加すると、より一層目詰まりを生じ易く、結果として充填率の向上が困難であり、細孔内に十分量の物質が充填された良好な構造体を得難いという問題点があった。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、電気泳動によって、液中に分散する微小固体を多孔性基材中に効率的に導入できると共に、多孔性基材中への微小固体の充填率を向上させることのできる多孔性構造体の製造方法及びこれに用いられる電気泳動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、請求項1記載の多孔性構造体の製造方法は、開口した孔を有する多孔質基材を、表面電荷を有し前記多孔質基材の孔径よりも小さな微小固体が分散された液中に浸漬する浸漬工程と、その浸漬工程において浸漬された前記多孔質基材と一体または連接して設けられる一方の電極と、当該一方の電極と離間して前記多孔質基材の開口側に設けられる他方の電極との間に、直流電圧とその直流電圧の絶対値よりも高い交流電圧とを重畳させた電圧を印加する電圧印加工程とを備えており、 前記浸漬工程の前に、前記微小固体が分散される液体と混和する溶媒を前記多孔質基材の孔内部に導入し、孔内表面の改質を行う改質工程を備え、前記電圧印加工程によって発生する電場により、前記微小固体を前記一方の電極側に電気泳動させて前記多孔質基材の孔内部に導入し、前記微小固体が前記多孔質基材内部に保持された多孔性構造体を製造するものである。
【0012】
ここで、浸漬工程において、「液中に浸漬する」とは、貯留された液体に多孔質基材を導入することのみならず、多孔質基材に対し液体を注ぐことで結果的に多孔質基材が液中に配置されることも含まれる。更に、本発明において、「交流電圧」とは、正の値のピーク値(ピーク電圧)を意味している。更に、直流電圧は、ある方向(順方向)に流れる場合を正の値とし、順方向とは逆方向に流れる場合を負の値とする。このため、直流電圧は正負の値が存在することとなっている。
【0014】
請求項2記載の多孔性構造体の製造方法は、請求項1に記載の多孔性構造体の製造方法において、前記改質工程は、溶媒を気化させて前記多孔質基材内部に導入するものである。
【0015】
請求項3記載の多孔性構造体の製造方法は、請求項2に記載の多孔性構造体の製造方法において、前記改質工程は、前記微小固体が分散される液体よりも蒸気圧の低い溶媒を気化させて前記多孔質基材内部に導入するものである。
【0016】
請求項4記載の多孔性構造体の製造方法は、開口した孔を有する多孔質基材を、表面電荷を有し前記多孔質基材の孔径よりも小さな微小固体が分散された液中に浸漬する浸漬工程と、その浸漬工程において浸漬された前記多孔質基材と一体または連接して設けられる一方の電極と、当該一方の電極と離間して前記多孔質基材の開口側に設けられる他方の電極との間に、直流電圧と交流電圧とを重畳させた電圧を印加する電圧印加工程と、前記浸漬工程の前に、前記微小固体が分散される液体と混和する溶媒を気化させて前記多孔質基材の孔内部に導入し、孔内表面の改質を行う改質工程とを備え、前記電圧印加工程によって発生する電場により、前記微小固体を前記一方の電極側に電気泳動させて前記多孔質基材の孔内部に導入し、前記微小固体が前記多孔質基材内部に保持された多孔性構造体を製造するものである。
【0017】
請求項5記載の多孔性構造体の製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載の多孔性構造体の製造方法において、前記多孔質基材は、非導電性材料であり、前記多孔質基材内部に形成される孔の底面の非導電層の厚みが100nm以下とされている。
【0018】
請求項6記載の多孔性構造体の製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載の多孔性構造体の製造方法において、前記多孔質基材は、導電性材料を陽極酸化して孔形成をしたものである。
【0019】
請求項7記載の多孔質構造体の製造装置は、多孔質基材の孔内表面を改質するための改質装置と、微小固体を電気泳動させて多孔質基材の孔内部に導入するための電気泳動装置とを備える多孔性構造体の製造装置であって、前記改質装置は、処理槽と減圧装置とを備え、有機溶剤を気化させた蒸気により前記孔内表面を改質するものであり、前記電気泳動装置は、開口した孔を有する多孔質基材が浸漬される液体が貯留される貯留槽と、その貯留槽内において多孔質基材と一体または連接して設けられる一方の電極と、その一方の電極と離間して多孔質基材の開口側に設けられる他方の電極と、その他方の電極と前記一方の電極との間に、直流電圧とその直流電圧の絶対値よりも高い交流電圧とを重畳させた重畳電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記貯留槽に貯留される液体に、表面電荷を有し且つ多孔質基材の孔径よりも小さな微小固体が分散された状態で、前記電圧印加手段により電圧を印加し、発生する電場によって該微小固体を前記一方の電極側に電気泳動させ多孔質基材の孔内部に導入するものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の多孔性構造体の製造方法によれば、浸漬工程により液中に浸漬された多孔質基材と一体または連接して設けられる一方の電極と、当該一方の電極と離間して多孔質基材の開口側に設けられる他方の電極との間に、電圧印加工程によって電圧が印加されると、電極間に電場が発生する。液中に分散された微小固体は、表面電荷を有するため、反対極性を有する電極側に電気泳動される。従って、一方の電極側が、微小固体と反対極性となるように電圧を印加すれば、微小固体は多孔質基材に向かって移動し、微小固体は多孔質基材内部に導入される。
【0021】
ここで、電圧印加工程は、直流電圧と交流電圧とを重畳させて電圧を印加するが、直流電圧の絶対値よりも高い電位を有する交流電圧を、直流電圧に重畳させるので、微小固体は後進動作を伴いつつ多孔質基材内部へ進行することができる。つまり、微小固体が、行きつ戻りつしながら、多孔質基材内部へ導入されるので、単純に直進動作をさせる場合に比べて、孔入口近傍での堆積(目詰まり)を抑制し、円滑に孔内へ導入することができるという効果がある。また、例えば、孔内に突起などの障害物が存在する場合に、微小固体がかかる障害物を回避して進行することを容易とし、更に、孔が迂曲している状況でも、微小固体に孔内を円滑に進行させることができるという効果がある。故に、微小固体の孔内充填率を向上させることができる。
【0022】
また、上記の多孔性構造体の製造方法によれば、上述の効果に加え、浸漬工程の前に、微小固体が分散される液体と混和する溶媒を多孔質基材の孔内部に導入して孔内表面の改質を行うので、より円滑に、微小固体を孔内に導入することができるという効果がある。
【0023】
請求項2記載の多孔性構造体の製造方法によれば、請求項1に記載の多孔性構造体の製造方法の奏する効果に加え、改質工程は、溶媒を気化させて多孔質基材内部に導入し改質を行うものであるので、多孔質基材を溶媒に浸漬する場合に比べて、孔内の表面改質を一層良好に行うことができるという効果がある。
【0024】
請求項3記載の多孔性構造体の製造方法によれば、請求項2に記載の多孔性構造体の製造方法の奏する効果に加え、改質工程は、微小固体が分散される液体よりも蒸気圧の低い溶媒を気化させて多孔質基材内部に導入するものであるので、例えば、改質工程に用いられる溶媒と電圧印加工程で用いられる液体とが、同じチャンバーの中に納置された状態で溶媒を気化させる処理を行っても、電圧印加工程で用いられる液体の気化は抑制される。故に、電圧印加工程で用いられる液体を、予めチャンバー内に準備した状態で改質工程を行うことができ、その後に、直ちに電圧印加工程を同じチャンバーの中で実行できる。これにより、作業効率を向上させ、効率良く多孔性構造体を作製することができるという効果がある。
【0025】
請求項4記載の多孔性構造体の製造方法によれば、浸漬工程により液中に浸漬された多孔質基材と一体または連接して設けられる一方の電極と、当該一方の電極と離間して多孔質基材の開口側に設けられる他方の電極との間に、電圧印加工程によって電圧が印加されると、電極間に電場が発生する。液中に分散された微小固体は、表面電荷を有するため、反対極性を有する電極側に電気泳動されるが、直流に交流が重畳された電圧によって泳動されるため、進行速度に緩急を伴わせつつ一方の電極側、即ち孔内部へと誘導することができる。更に、改質工程において、微小固体が分散される液体と混和する溶媒を気化させて孔内部に導入することで、多孔質基材の孔内表面に分散液に対する十分な親和性が付与されているので、分散液中の微小固体を孔内へ円滑に侵入させることができる。よって、効率よく微小固体を孔内へ導入することができる上、充填率を向上させることができるという効果がある。
【0026】
請求項5記載の多孔性構造体の製造方法によれば、請求項1から4のいずれかに記載の多孔性構造体の製造方法の奏する効果に加え、多孔質基材は、非導電性材料であり、多孔質基材内部に形成される孔の底面の非導電層の厚みが100nm以下とされているので、多孔質基材と電極との間の電気的な障壁を低く抑制し、多孔質基材と電極とを容易に導通させることができる。故に、多孔質基材が非導電性であっても電極間に印加する電圧レベルを抑制することができる。これにより、液体の電解を抑制しつつ、安全かつ省電力で、微小固体を電気泳動して多孔質基材の孔内に導入することができるという効果がある。
【0027】
請求項6記載の多孔性構造体の製造方法によれば、請求項1から4のいずれかに記載の多孔性構造体の製造方法の奏する効果に加え、多孔質基材は、導電性材料を陽極酸化して孔形成をしたものであるので、電極を別体で設ける必要がなく、効率的に多孔性構造体を製造できるという効果がある。また、陽極酸化で形成される酸化物層の厚みは制御可能なものであるので、形成される酸化物層が薄層化された多孔質基材を選択すれば、電気泳動時に印加する印加電圧のレベルを抑制でき、液体の電解を抑制しつつ、安全かつ省電力で、微小固体を電気泳動して孔に導入することができるという効果がある。
【0028】
請求項7記載の多孔性構造体の製造装置によれば、電気泳動装置の効果として、電圧印加工程により、直流電圧と交流電圧とが重畳された電圧が電極間に印加され、その重畳電圧が直流電圧の絶対値よりも高い電位を有する交流電圧を、直流電圧に重畳させたものであるので、貯留槽内に分散する微小固体に後進動作を伴わせつつ一方の電極側に設けられた多孔質基材内部へ進行させることができる。つまり、本電気泳動装置を用いれば、微小固体を、行きつ戻りつさせながら、多孔質基材内部へ導入することができるので、単純に直進動作をさせる場合に比べて、孔入口近傍での堆積(目詰まり)を抑制し、円滑に孔内へ導入することができる。故に、その充填率を向上させるという効果がある。よって、微小固体が良好に充填された多孔性構造体を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の多孔性構造体の製造方法の一実施形態を説明する工程フロー図である。
図2】第1実施形態において用いられる改質装置を説明する図である。
図3】第1実施形態において用いられる泳動装置を説明する図である。
図4】第1実施形態の泳動工程における重畳電圧について説明する図である。
図5】陽極酸化工程で得られた多孔体の一例を示す電子顕微鏡写真である。
図6】第1実施例において作製した多孔性構造体の断面の電子顕微鏡写真である。
図7図6に示した多孔性構造体の全体図(a)と部分拡大図(b)である。
図8】第2実施例において作製した多孔性構造体のアセトン蒸気による改質効果を説明する図である。
図9】第3実施例において作製した多孔性構造体の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。尚、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図2図3は、構成の概念を模式的に図示したものであり、各部分の形状、大きさ及び尺度は、実際の構成部分に対応するものではない。また、同一又は同様の構成部分同士において図示の形状、大きさ、形態の相異がある場合でも、それらは意図的なものではない。
【0031】
本発明は、多孔体に微小固体が導入された多孔性構造体を作製するものであって、多孔体を液中に浸漬し、電気泳動によって微小固体を多孔体内に導入することで多孔性構造体を作製するものである。
【0032】
ここで、多孔体は、微小固体が導入される基材(多孔質基材)となるものであって、液体および微小固体が、孔内部に侵入することが可能な程度の大きさの多数の細孔を有するものである。多孔体の細孔は、一端を多孔体表面にて開口し他端は多孔体内にて閉塞されたものであっても良く、多孔体表面から裏面まで貫通形成(両端が開口)されたものであっても良い。また、当該多孔体は、基体の一部に細孔が形成されたものであっても、全体に細孔が形成されたものであっても良い。
【0033】
この多孔体は、塊状、板状、シート状、薄片状などの多様な外形であることができる。シート状の多孔体には、繊維部材を用いたメッシュ構造体や、織布、不織布などが含まれる。また、細孔の態様としては、溶媒や微小固体が通過できる空間であれば、特に制限はなく、直線的であっても湾曲したものであっても良い。このため、多孔体の内部構造としては、規則正しくチューブが整列したチューブアレイ構造や、スポンジ構造、三次元網目構造に加え、織布や不織布の繊維部材間や、パッキングされた固形物の間に形成される規則的またはランダムな間隙構造など、各種の態様が例示される。更には、これらの構造が組み合わされたものであっても良い。
【0034】
かかる細孔の形成方法としては、公知の技術が適用でき、例えば、レーザ加工や放電加工等の機械的な穴あけ加工や、陽極酸化などの電気的手法が適用できる。また、溶剤、酸、アルカリで溶解する化学的なエッチング手法や、ドライエッチングなどで細孔形成を行っても良い。更には、繊維状部材を構成部材に用いた織成や不織布作製により付随的に生じる間隙にて細孔形成するものとしても良い。加えて、気相成長法や分子鋳型法(ゾルゲル法)による三次元造形にてポーラス材料を形成することで細孔形成を行っても良い。樹脂材料で多孔体を形成する場合には、公知の発泡技術を適用してスポンジ構造体を作製してもよく、3Dプリンタを用いた三次元造形などを用いても良い。更には、セラミックス材料で多孔体を形成する場合には、焼結条件の調整を行うことで多孔体を形成しても良い。加えて、粒状物質を所定の空間に装填(パッキング)することで細孔(間隙)を形成してもよい。尚、天然物の多孔体をそのまま用いることも当然に可能である。
【0035】
かかる多孔体は、導電性材料で形成されたものであっても良く、非導電性材料で形成されたものであっても良い。電気泳動は、液体中で両極間に電場が形成されて(液体に通電して)実行できるものである。後述するように、多孔体が非導電性材料で形成されている場合、電極上に固定して使用される。細孔が貫通孔であれば、電極は貫通孔を通じて直接液体に暴露されるので、非導電性材料で形成された多孔体を用いても、通電可能となる。一方で、細孔が多孔体内で閉じた閉塞孔を有する多孔体であれば、多孔体が非導電性材料で形成される場合には、電気泳動によって多孔体に微小固体を導入するために、電極(一方の電極)と重ねた多孔体とを導通させる必要がある。このため、多孔体が非導電材料で形成されている場合、細孔の底面(即ち液相との界面)から電極までの間の非導電性材料の厚みは薄いほど良く、好適には、非導電性材料が半導体性である場合には、300nm以下であれば良く、好適には100nm以下であり、より好適には70nm以下である。また、非導電性材料が絶縁性である場合には、80nm以下であれば良く、好適には20nm以下である。かかる厚みであれば、電気泳動時の印加電圧のレベルを十分に抑制でき、泳動槽に貯留する液体の電気分解が生じない程度の電圧で電気泳動を実現することができる。
【0036】
金属を陽極酸化して多孔体が作製された場合には、表面層に非導電性(酸化物)の細孔が形成された多孔体となる。表面層以外は、導電性の金属の状態のままとすることができるため、電極と一体で形成された多孔体となる。この場合においても、陽極酸化によって形成される酸化物層の厚みが100nm以下のものを用いることで、金属部分と表面層(酸化物)とを比較的低い電圧で導通させることができ、泳動槽に貯留する液体の電気分解が生じない程度の電圧で電気泳動を実現することができる。
【0037】
多孔体の細孔径は、導入する微小固体よりも大きければ特に制限されないが、好適には、走査型または透過型電子顕微鏡で観測した場合における平均孔径(例えば、視野内における100個以上の細孔の平均値)が8nm以上のものである。更に好適には10nm〜1mmであり、より好適には、10nm〜5μmであり、特に好適には、10nm〜500nmであり、最も好適には50nm〜150nmである。尚、本発明の製造方法は、メソポーラス孔またはメソポーラス孔よりもわずかに大きな細孔を有する多孔体に微小固体を導入する場合に特に優位である。
【0038】
尚、後述する微小固体の粒径との関係においては、微小固体の粒径の2〜3倍程度の細孔径を有するものが好適に用いられる。
【0039】
かかる細孔を有する多孔体の具体例としては、例えば、ゼオライト、メソポーラスシリカ、メソポーラスカーボン、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスアルミナ、メソポーラスチタニア、メソポーラスジルコニアなどのメソポーラス材料や、チタニアナノチューブアレイ、アルミナナノチューブアレイなどの各種金属の陽極酸化物、カーボンナノチューブアレイ、ポーラスシリコン、活性炭、カーボンシート、カーボンペーパー、スチールウールなどの金属ウール、グラスウール、金属メッシュや樹脂フィルター、素焼きのセラミックスなどが例示できる。
【0040】
多孔体の大きさ、厚みは、多孔体の種類、製造方法によって広い範囲で選択が可能である。泳動槽に導入できる限りにおいて、多孔体の大きさは制限されるものでなく、取り扱い可能な範囲において所望の大きさものが使用される。細孔が貫通形成されている場合には、泳動槽22内に通電することは容易であるため、多孔体の厚みに特に制限はない。
【0041】
多孔体の厚みは、微小固体を導入した後に用いられる用途によって様々であるが、例えば、多孔体がメソポーラス材料である場合には、その厚みは、40nm〜100μmであり、好適には100nm〜50μmであり、更に好適には200nm〜10μmである。ナノチューブアレイである場合には、チューブの高さが50nm〜500μmであり、好適には200nm〜100μmであり、更に好適には500nm〜20μmである。セラミックス、樹脂を後加工して多孔体とする場合や、天然物を用いる場合には、ハンドリングが可能な厚みが好適であり、例えば1μm〜10mmのものが用いられ、好適には3μm〜5mm、より好適には5μm〜2mmである。また、カーボンシートやカーボンペーパー、スチールウールなどの金属ウール、グラスウール、金属メッシュや樹脂フィルターなど公知材料や汎用品である場合には、規定の厚みのものが適宜選択可能であり、かかる中から電気泳動の通電が可能な範囲において適切なものが用いられる。
【0042】
微小固体は、多孔性構造体に付加する機能に応じて適宜選択されるものであり、液体中で、正または負の電荷を有し、固形状態を維持できるものであれば特に制限されず、金属、セラミックス、ガラス、樹脂、カーボン材料などの各種材料を用いることができる。好適には、液体に対する濡れ性を有するものが用いられる。また、分散させる液体に比べて比重が同等程度以上のものが、より好適に用いられる。
【0043】
特に、微小固体が金属である場合には、金、銀、白金、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、タングステンなどが好適である。
【0044】
電気泳動できる限りにおいて、微小固体の形状に特に制限はなく、例えば、粒状、板状、繊維状、不定形状、塊状のものであってよい。また、一次粒子であっても二次粒子であってもよい。
【0045】
微小固体の大きさは、平均粒径が好適には2nm〜500nmであり、更に好適には5nm〜200nmであり、より好適には5nm〜40nmである。かかる粒径の範囲で多孔体の細孔径に応じて適切な範囲のものが選定される。尚、平均粒径は、例えば、走査型または透過型電子顕微鏡により微小固体の直径(不定形の場合には相当径、繊維状の場合には繊維長)を測定して、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0046】
微小固体は、液中に分散された場合に表面電荷を有する荷電粒子となるものである。一般に微小固体は何らかの電荷を有している場合が多く液中で正または負に帯電する荷電粒子となることが多い。微小固体が十分な表面電荷を有している場合には、そのまま液中に分散させても良く、また、予め公知の手法で表面処理を行って表面電荷を付与、またはその絶対値を向上させた後に分散させても良い。更には、微小固体が分散される液体のpHを調整することで、微小固体に表面電荷を付与しても良い。
【0047】
電気泳動を行うためには液体が用いられるが、かかる液体としては、沸点が室温より高いものであって、電解電圧が1V以上であることが望ましい。具体的には、例えば、水、プロパノール、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトンなどが例示できる。また、これらの混合溶媒を用いても良い。
【0048】
尚、作製された多孔性構造体(微小固体が導入された多孔体)は、多孔体と導入する微小固体との組み合わせによって各種の用途に供することができるが、例えば、太陽電池の用途に好適に用いることができる。また、電極材料、触媒材料、抗菌材料等の各種用途に用いることができる。
【0049】
次に、本発明の多孔性構造体の製造方法の1実施形態について説明する。
【0050】
図1は、第1実施形態の多孔性構造体の製造方法の工程を示す工程フロー図である。図1に示すように、本実施形態においては、多孔体を準備する陽極酸化工程(S1)、陽極酸化工程(S1)にて作製した多孔体の細孔内の濡れ性を改善するための改質工程(S2)、多孔体を泳動槽に設置して液体に浸漬すると共に、泳動槽に電圧を印加して液中の微小固体を多孔体中に導入する泳動工程(S3)、微小固体の導入が終了した後の多孔体を回収する回収工程(S4)を経て、多孔性構造体が製造される。
【0051】
陽極酸化工程(S1)は、金属に通電して細孔を形成する処理を行う工程である。具体的には、金属箔(金属板)の一方の端部を把持して電解液中に浸漬し、この金属箔を陽極(正極)として通電することによりその表面に細孔形成を行うことができる。このときの陰極(負極)としては、例えば白金等が用いられる。処理を行う金属、電解液、温度、電圧等の条件を選択することにより、金属が酸化されて陽イオンとなって溶液中に溶解すると共に、酸化被膜が金属表面に形成される。また、酸化皮膜形成の進行と並行して皮膜の一部が溶解し、細孔が形成されて多孔質状となる。多孔質部分(皮膜)の厚さや孔径などは、陽極酸化処理条件を変更することで制御することができる。
【0052】
かかる陽極酸化に好適に用いられる金属としては、例えば、チタン、アルミニウム、鉄、マグネシウム、ジルコニウムなどが例示できる。更には、陽極酸化に用いる電解液としては、例えば水、エチレングリコール、グリセリン及びフッ化アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、有機酸アンモニアの混合溶液などを用いることができる。また、陽極酸化の際の電圧としては、例えば5V以上500V以下とすることができる。
【0053】
陽極酸化に際しては、好適には、金属箔の一方の端部が電解液の液面より上に突出するように把持される。このため、金属箔の一方の端部は酸化されず、原料の金属状態が維持される。また、陽極酸化においては、負極側に対面する金属箔の一方の面(表面)に細孔が形成され、金属箔の裏面側には僅かに酸化が生じるだけである。このため、金属箔の裏面側は金属状態が維持され、導電性を有する。
【0054】
尚、陽極酸化以外の手法で多孔体を作製する場合には、陽極酸化工程(S1)に代えて、その作製工程が実行される。また、予め準備された多孔体を用いる場合には、この陽極酸化工程(S1)は省略される。
【0055】
改質工程(S2)は、多孔体細孔内の表面状態を改質するための工程であり、本実施形態においては、溶媒(有機溶剤)の蒸気に暴露することで細孔内表面の濡れ性の改善を行っている。本発明においては液中での電気泳動により微小固体を多孔体内部に導入するが、細孔内がこの液体に対して濡れ性が不良であると導入効率を低下させてしまう。このため、本実施形態においては、細孔内表面を電気泳動に用いる液体と混和する溶媒を用いて処理することによって濡れ性の改善を行っている。
【0056】
ここで、図2を参照して、この改質工程(S2)について説明する。図2は、本実施形態の改質工程(S2)にて用いられる改質装置1の概略を示した図である。
【0057】
改質装置1は、処理槽2と減圧装置3とを備えて構成されており、有機溶剤を気化させた蒸気にて多孔体細孔内表面の改質を行うためのものである。
【0058】
この改質装置1の処理槽2は、台座4と、台座4上に着脱可能に載置される上面が閉塞された円筒状のケース体5とを有し、台座4上にケース体をセットすることで密閉可能な減圧チャンバーである。台座4は略円板上の外形を有し、その内部に排気用の配管6が配設されている。
【0059】
配管6の一端は、台座4の側面において突設された中空の排気口7と連結されている。この配管6は、台座4の側面から内部中央まで延設されると共に上方に向かって湾曲した母管と、かかる母管から放射状に分岐した複数の分岐管とを備えており、分岐管の先端は台座4の天井に達し、処理槽2内部に連通する開口6aを形成している。この配管6によって、密閉された処理槽2内部の空気は外部へと排出される。
【0060】
また、台座4の天井部において、その外周近傍にはケース体の下面が挿入される所定の深さの溝4aが周設されている。この溝は、ケース体5の下面の開口と同じ径(円周)で形成されると共に、差し込まれたケース体5の側壁と隙間なく嵌合する幅で凹設されている。これにより、台座4(溝4a)にケース体5の下面が差し込まれると、ケース体5が台座4上に縦立されるとともに処理槽2内が密閉される。
【0061】
処理槽2内には、有機溶剤の入った容器8を保持するためのホルダー9が固定されている。本実施形態においては、電気泳動用の液体(溶媒)には水もしくはイソプロパノールなどを用いる。かかる場合には、改質処理に用いる溶媒としては、電気泳動用の溶媒と混和する有機溶剤が好適に選択される。水もしくはイソプロパノールを電気泳動用の液体に用いる場合には、改質処理用の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、1,2−ジメトキシエタン、tert−ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、酢酸などが例示される。好適にはアセトンが用いられる。
【0062】
尚、電気泳動用の液体を水またはイソプロパノール以外の溶媒を用いる場合には、当該溶媒と混和するものが、改質処理用の溶媒として適宜選択される。
【0063】
ケース体5の内側天井部には、天井部に固定された円柱10と、この円柱10に回転可能に軸支された円板11とを有するリール12が設けられている。円板11には下方に向かって突設された複数の突起部13が同心円上に配設されている。この突起部13には糸14が捲回されている。
【0064】
ケース体5には、支柱の先端部にリングが固定された2のガイド部材15,16が設けられている。ガイド部材15は、ケース体5の内側側面であって、リール12より下方の位置に取着されている。ガイド部材16は、天井から真下に向かって吊設されており、支柱の後端部は、リール12の円板11の中心部および円柱10の中心部を貫通してケース体5の天井内側に取着されている。ガイド部材16の支柱は、円板11および円柱10に遊挿されているので、リール12の回転とは無関係に静止状態が維持されるようになっている。
【0065】
糸14は、2つのガイド部材15、16のそれぞれに設けられたリングを通って案内され多孔体20を着脱可能に把持する把持具19に結着されている。
【0066】
円板11の裏面には磁石17が取着されている。磁石17の高さは円板11の裏面からケース体15の天井までの距離と略同寸で形成されている。この磁石17とケース体5の天井を挟んで対向する位置に磁石18が配置される。磁石18をスライドさせると磁石17が磁力でけん引され、これにより磁石17が固定された円板11(即ちリール12)が回転する。このため、処理槽2の外部から、リール12を回転させてリール12に捲回された糸14の巻取りと巻出しとを行うことができ、これに伴い、多孔体20を処理槽2内で上下させることができるようになっている。
【0067】
このように構成された処理槽2は、排出口7に連結されるホース21を介して、減圧装置3と接続されている。減圧装置3は、一般的な真空ポンプで構成されており、動作させることで処理槽内2を減圧するものである。処理槽2を密閉した状態で減圧装置3を稼働させ処理槽2内を減圧すると、容器8に貯留される有機溶剤が蒸発する。これによって、処理槽2内に有機溶剤の蒸気を充満させ、吊設された多孔体20の細孔内部に有機溶剤を導入することができる。
【0068】
本処理装置1は、改質工程(S2)の終了後、直ちに泳動工程(S3)を実施できるように、処理槽2内には、泳動槽22が配設されている。吊設された多孔体20は、リール12を動作させることで泳動槽22内へと下降される。かかる場合には、泳動槽22内に貯留される液体(分散液の溶媒)は、容器8に貯留される有機溶剤よりも蒸気圧の高いものとされるので、減圧条件を適正に調整することで、泳動槽22の液体の蒸発は抑制しつつ、容器8に貯留される有機溶剤については、改質処理に必要な十分量を気化させることができる。
【0069】
尚、泳動槽22は、必ずしも改質装置1の処理槽2に配設される必要はなく、この改質装置1を改質工程(S2)のみを行う装置としてもよい。かかる場合には、改質に用いる有機溶剤に、泳動工程(S3)で用いられる液体(溶媒)よりも蒸気圧の低いものを用いる必要はない。また、泳動槽22への導入を行うためのリール12等の機構を不要とし、単に処理槽22内に多孔体20を静置するだけのものとしても良い。
【0070】
この改質工程(S2)は、改質処理用の有機溶剤に多孔体を浸漬することで行っても良いが、好適には、気化させた有機溶剤に暴露することで改質を実行する。これにより、浸漬した場合よりも細孔内部に溶剤分子を到達させることができると考えられ、優れた改質効果を得ることができる。
【0071】
尚、泳動に用いる液体に対する濡れ性が良好な多孔体を用いる場合には、この改質工程(S2)は省略される。
【0072】
図1に戻って説明する。
【0073】
泳動工程(S3)は、多孔体を泳動槽22に設置し液体(分散液)に浸漬する浸漬工程と、その後に、直流電圧と交流電圧とを重畳した電圧を泳動槽22に印加する電圧印加工程とを有しており、分散液中の微小固体を電気泳動させて多孔体内部に導入する工程である。
【0074】
ここで、図3を参照して、この泳動工程にて用いられる泳動装置30について説明する。図3は、本実施形態で用いられる泳動装置30の概略を説明する図である。図3(a)は、泳動装置30の概要を示しており、図3(b)は、図3(a)における部分Aの拡大図である。
【0075】
図3(a)に示すように、泳動装置30は、泳動槽22と、2の電極24,25と、電極24,25に電圧を印加する電源装置27とを備えて構成される。泳動槽22は、分散液を貯留するものであって上面を開放する有底円筒状の絶縁性容器である。泳動槽22内には上記した多孔体20が導入されている。
【0076】
ここで、図3においては、陽極酸化工程(S1)で作製した多孔体20を用いて説明を行う。陽極酸化工程(S1)で陽極酸化された金属箔は、上記したように、表面層に非導電性の細孔が形成された多孔体であると共に、表面層よりも深い部分は金属であり、また、裏面も金属である。言い換えれば、陽極酸化された金属箔は、金属と酸化物との複合材料であり、材料全体では導電性を備えている。このため、本実施形態においては、多孔体20が、そのまま電極24(一方の電極)として用いられる。
【0077】
また、上述の陽極酸化工程(S1)では、金属箔の端部に陽極酸化されていない部分を残している。このため、多孔体20の一方の端部に直接、金属製の端子を取着し、かかる部分を上方にして泳動槽22内に多孔体20が導入される。また、多孔体20は細孔の開口(表層側)を対極に向けて配置される。図3においては、多孔体20を側面視にて表示すると共に一部断面図で示している。
【0078】
泳動槽22内には、多孔体20と所定の距離を隔てて対極側の電極25が配設されている。電極25は、多孔体20の開口に対向して配置される。尚、電極25の配設位置は、電極24,25間に形成される電気力線(電場)が多孔体の開口面を経由するように形成される限りにおいて制限されないが、好適には、多孔体20の開口面に対向して配置される。
【0079】
多孔体20(電極24)と電極25とが配設された泳動槽22内には、多孔体20の上方を超える高さまで分散液が満たされており、分散液中には微小固体として粒子Xが分散されている。
【0080】
尚、図3(a)において図示を省略しているが、この多孔体20の上方側の端部および電極25には、端子が接続されており、多孔体20および電極25は、端子を介して接続される導線26によって電源装置27に電気的に接続される。
【0081】
また、多孔体20が、カーボンシートや金属材料などの導電性材料そのもので構成されている場合には、上記と同様、電極24を兼ねることができるが、かかる場合にも、電極24には、多孔体20と別体の電極を用いても良い。また、多孔体が非導電性材料で構成されている場合には、必ず、別体で独立に電極が必要となる。別体で電極を設けた場合には、当該電極表面に多孔体の裏面(細孔の開口部とは反対側)を固定し、電極と多孔体とを電気的に接続した状態で、泳動槽22内に多孔体と電極(一方の電極)とがセットされる。尚、電極表面上への多孔体の固定は、電極と多孔体20とを導通させることができる限りにおいて、任意の方法が採用でき、例えば、粘着テープでの固定や、導電性の接着剤やハンダでの固定、更には、焼結による固定など、各種の方法を用いることができる。また、多孔体の細孔が(厚み方向に)貫通孔である場合には、多孔体は両面に開口部を有しているが、いずれか一方の面を裏面として電極表面上へ固定すればよい。
【0082】
尚、泳動槽22内に多孔体20(電極24)および電極25をセットした後に分散液を注入して多孔体20を分散液中に浸漬しても良く、分散液が貯留された泳動槽22内に多孔体20(電極24)および電極25をセットしてもよい。分散液中の粒子Xの沈降を抑制するために、分散液には、粘度調整剤を加えて分散液の粘度を増大させたものを用いても良い。
【0083】
上記したように、分散液中の微小固体の表面電荷は、分散液(溶媒)のpHを変更することで調整してもよい。かかる場合には、pHを調整するための試薬が分散液に添加される。かかる試薬としては、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、クエン酸、リン酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどが例示できる。
【0084】
電源装置27は、泳動槽22内にセットされた2の電極24,25間に電圧を印加するものであり、直流電圧と交流電圧とを重畳させた電圧を電極24,25の間に印加するものである。この電源装置27は、操作者の操作に応じて電圧レンジの切替および出力電圧設定ができるようになっており、重畳する直流電圧および交流電圧をそれぞれ変更できるように構成されている。
【0085】
例えば、図3(b)に示すように、粒子Xが負に帯電した荷電粒子であれば、電極24、即ち多孔体20側が正極(プラス極)、電極25が負極(マイナス極)となるように電源装置27から電圧が印加されれば、粒子Xの進行方向は、電極25から電極24へ向かう方向(図3(b)において矢印で示す方向)となり、負極側から正極側へと泳動され、また、多孔体細孔の開口からその内部へと泳動される。一方、粒子が正に帯電した荷電粒子であれば、電極24が負極、電極25が正極となるように電源装置27から電圧が印加されれば、粒子は電極24から電極25へ向かう方向に進行する。尚、電源装置27からの出力状態を固定し、粒子の極性に応じて多孔体を配置する位置(電極24側とするか電極25側とするか)を選択することで、多孔体内へ粒子を導入することは当然のことながら可能である。
【0086】
本実施形態においては、重畳電圧は、分散液に用いる溶媒の電解電圧以下で設定され、ピーク値において0.5V〜100Vの範囲であり、好適には1V〜20Vである。溶媒が水(水溶液を含む)の場合には、好適には1V〜10Vであり、具体的には、交流電圧が1V〜5V、直流電圧が1V〜5Vであることが好ましい。
【0087】
更に、本実施形態においては、直流電圧に重畳する交流電圧は、直流電圧の絶対値よりも高い電圧とされる。これにより、周期的に電極24,25の極性に反転が生じ、微小固体に後進動作を伴わせつつ多孔体内部に進行させることができる。つまり、微小固体が、行きつ戻りつしながら、多孔性構造体内部へ導入されるのである。ここで、重畳する直流電圧と交流電圧との関係について図4を参照して説明する。
【0088】
図4は、本実施形態の泳動工程(電圧印加工程)において印加する重畳電圧について説明する図である。泳動槽22に設けられた両極間に印加する電圧は、直流電圧に交流電圧が重畳されたものであるが、重畳される交流電圧は、直流電圧の絶対値よりも高い電圧値とされている。尚、かかる交流電圧は、ピーク値(ピーク電圧、正のピーク電圧)を意味するものである。
【0089】
図4において、実線で示される真ん中の波形は、通常の交流波形であり、4Vの交流電圧を示している。直流電圧と交流電圧を重畳すると、波形のベースラインが変動する。ここで、順方向に電流を流す場合の直流電圧をプラスの値とし、逆方向に電流を流す場合の直流電圧をマイナスの値とすると、プラスの直流電圧と交流電圧とを重畳すれば、交流波形は上側(プラス側)にシフトする。即ち、電流の向きが順方向の側に長時間化してピーク値が正に大きくなる一方、逆方向への反転時間は短くなって更に反転時の負の電圧値が小さくなる。直流電圧の値が交流電圧の値と等しくなれば、正負の反転は消失する。
【0090】
同様に、マイナスの直流電圧と交流電圧とを重畳すると、交流波形は下側(マイナス側)にシフトする。即ち、電流の向きが逆方向の側に長時間化してピーク値が負に大きくなる一方、順方向への反転時間は短くなって更に反転時の正の電圧値が小さくなる。かかる場合においても、マイナスの直流電圧の絶対値が、交流電圧の値と等しくなれば、正負の反転は消失する。
【0091】
本実施形態では、微小固体を、進退(行きつ戻りつ)させながら間欠的に多孔体内部に導入し、細孔の奥方に移動させるものである。このため、直流電圧の絶対値よりも交流電圧の値が高くなければ、泳動する微小固体に後退運動をさせることができない。即ち、「|直流電圧値|<交流電圧値」であることが要件となる。図4の例にあっては、交流電圧が4Vであるので、直流電圧は絶対値において4V未満となる。
【0092】
具体的には、例えば、微小固体の表面電荷が負である場合には、順方向の直流電圧とその電圧値よりも大きなピーク値を有する交流電圧を重畳すれば、微小固体は、負極側に後退する動作を伴いつつ正極側に向かって進行する。逆に、微小固体の表面電荷が正である場合には、逆方向の直流電圧(負の値)とその電圧値の絶対値よりも大きなピーク値を有する交流電圧を重畳すれば、微小固体は、正極側に後退する動作を伴いつつ負極側に向かって進行する。従って、多孔体は、進行方向側の電極に配置される。
【0093】
尚、前進運動に比して後進運動が大きくなりすぎると、時間当たりの微小固体の導入量が低下する。このため、交流電圧(ピーク値)に対する直流電圧(絶対値)の比は、交流電圧に対し直流電圧が0.1〜1未満の値となるように設定され、好適には0.5〜1未満である。これにより、微小固体が多孔体表面(開口部)に堆積して目詰まりしてしまうといった事態を回避できる。
【0094】
図1に戻って説明する。
【0095】
かかる泳動工程(S3)において、電圧印加時間は、1分〜600分である。好適には、5分〜120分であり、より好適には10分〜60分であり、特に好適には10分〜30分である。
【0096】
上述した泳動工程(S3)の後は、泳動槽22から多孔体20を引き上げ、必要に応じて洗浄等を行う回収工程が実施され(S4)、多孔体内部に微小固体が導入された多孔性構造体を得る。
【0097】
以上、実施形態に基づき、本発明を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0098】
例えば、本実施形態おいては、泳動工程(S3)において、電圧の印加に際しては、常に直流電圧と交流電圧を重畳して出力するものとして説明したが、これに代えて、初期段階では直流電圧のみ印加して多孔体20近傍まで大部分の微小固体を移動させた後、直流電圧に交流電圧を重畳して出力する構成としてもよい。これにより、多孔性構造体の製造にかかる時間を短縮することができる。
【0099】
更には、多孔体の改質工程(S2)は、分散液に混和する溶媒を気化させて多孔体の孔内を改質するものとし、泳動工程(S3)は、単に、直流電圧と交流電圧とが重畳された重畳電圧にて泳動を行う構成としても良い。即ち、上記実施形態においては、直流電圧の絶対値よりも高い交流電圧を直流電圧に重畳させて泳動工程(S3)の電気泳動を行ったが、これに代えて、交流電圧と同じ電圧又はそれ以上の電圧の直流電圧(絶対値)を交流電圧に重畳して電気泳動を行う構成としても良い。蒸気(気化した溶媒)で改質された多孔体内には分散液が極めて良好に導入されるため、多孔体側へ微小固体が泳動可能な程度に交流電圧と直流電圧とを重畳し、泳動速度に緩急を伴った状態で多孔体側へ微小固体を進行させれば、十分量の微小固体を多孔体内部に導入できるからである。
【0100】
ここで、交流電圧と直流電圧(絶対値)との比は、1:0.1〜1:10が好ましく、1:0.5〜1:3がより好ましく、1:1が特に好ましい。例えば、分散液の溶媒が水である場合には、交流電圧が1V〜5V、直流電圧が1V〜5Vであることが好ましく、更には、交流電圧が1V〜3V、直流電圧が1V〜3Vであることがより好ましい。
【実施例】
【0101】
次に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実験例1>
以下の手順で、チタンの陽極酸化処理を行い多孔体を作製した。エチレングリコール(和光純薬工業(株)製)、水及びNHF(和光純薬工業(株)製)を重量比で0.3:2:97.7の割合で混合し、陽極酸化処理用の電解液とした。負極(陰極)として白金プレート((株)ニラコ製、白金箔、30mm×20mm×0.1mm)を用い、正極(陽極)としてチタン箔((株)ニラコ製、30mm×20mm×0.15mm)を用いた。室温下、電解液中で、40Vで40分間、陽極酸化処理を行った。陽極酸化後のチタン箔を、2−プロパノールにて洗浄し、450℃で3時間加熱(アニール)処理を行った。得られた多孔体の表面部分の構造を走査型電子顕微鏡(SEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、S-480)で観測した。その観察結果を図5に示す。尚、SEM観察条件は、印加電圧5〜20kV、2次電子像と反射電子像のコンポジット像(複合像)とした。
【0102】
図5のSEM画像より、多孔質状の酸化チタン膜が形成されていることが確認された。また、酸化チタン膜は、中空のチューブが密に立設されたアレイ状(チューブアレイ)になっていることが確認された。電子顕微鏡の観察視野内で200個の細孔の口径を平均して細孔径を算出したところ、細孔の平均径は51nmであった。また、酸化チタン膜厚(チューブ長)は、3.9μmであった。チューブ底の酸化チタン膜厚は30nmであった。
【0103】
<実施例1>
次に、実験例1にて作製した多孔体を用い、微小固体として銀ナノ粒子(平均粒径20〜25nm、ゼータ電子−43mV)を用いて多孔性構造体の作製を行った。銀ナノ粒子は硝酸銀のクエン酸還元法により作製した。具体的には、100mlの水に50mgの硝酸銀を溶かし、95℃に温めた溶液に2mlの5%クエン酸水溶液を加えて10分間撹拌することで銀ナノ粒子分散液を得た。
【0104】
そして、図2に示した処理装置1と同様の装置を用い、実験例1にて作製した多孔体について、アセトンで改質処理を行った。改質条件は、0.1kPaで15分とした。
【0105】
その後、図3に示したのと同様の泳動装置に、調整した分散液を注入し、電極((株)ニラコ製、白金箔、30mm×20mm×0.1mm)を他方の電極として挿入し、更に、改質後の多孔体の端部を金属クリップで把持した状態で、多孔体の開口面を他方の電極側に向けて分散液中に浸漬した。金属クリップには導線を接続しており、かかる導線を電源装置(アジレント・テクノロジー(株)製、3647A)に接続することにより、多孔体および電極を電源装置と電気的に接続し、回路を形成した。
【0106】
そして、多孔体が主に正極となり、他方の電極が主に負極となるように、電極間に電圧を印加した。具体的には、直流電圧2Vに交流電圧4Vを重畳した電圧を、印加した。これにより、分散液中の銀ナノ粒子が、進退しつつ多孔体方向に泳動されると共に、多孔体内部に導入された。電圧の印加時間(泳動時間)は、15分、30分、60分とし、それぞれチタニアチューブアレイに銀ナノ粒子が導入された多孔性構造体が得られた。
【0107】
得られた多孔性構造体をSEMにより観察を行った。観察条件は、印加電圧5〜20kV、2次電子像と反射電子像のコンポジット像とした。その結果を図6図7に示す。図6は、実施例1で得られた多孔性構造体の断面観察結果であり、図6(a)に泳動時間15分のものを示し、図6(b)に、泳動時間30分のものを示し、図6(c)に泳動時間30分のものを示している。図6(a)(b)(c)それぞれにおいて、紙面上側方向が多孔体細孔の開口側(表面側)に相当し、紙面下側方向が細孔の奥方側(多孔体裏面側)に相当する。また、図6中において白い粒状で観察されるものが銀ナノ粒子である。かかる観察結果から解るように、実施例1で作製された多孔性構造体には、銀ナノ粒子が多孔体内部に担持されていることが示された。また、泳動時間が長くなるほど銀ナノ粒子の充填量が向上することが示された。
【0108】
図7(a)は、図6(b)に示した多孔性構造体断面の全体像であり、図7(b)は図6(b)に示した多孔性構造体の部分拡大図である。図7(a)においては、紙面上側方向が多孔体細孔の開口側(表面側)に相当し、紙面下側方向が細孔の奥方側(多孔体裏面側)に相当する。図7(a)においては、多孔体表面から極浅い領域に銀ナノ粒子(白い粒)が密に存在する領域(図7(a)において「Rich Area1」として表示する範囲)が形成されており、かかる領域の奥方には銀ナノ粒子の濃度が疎密になる領域(図7(a)において「Poor Area」として表示する範囲)が形成されていることが認められた。かかる疎密領域のさらに奥方においては、再び銀ナノ粒子が密になる領域(図7(a)において「Rich Area2」として表示する範囲)が形成されており、膜厚方向において略半分以上の領域に銀ナノ粒子の高密度(高充填)領域が形成されていることが確認できた。更に図7(b)に示すように、チューブ内に、銀ナノ粒子が高充填されている状態が確認できた。
【0109】
<実施例2>
多孔体の改質処理を、アセトン蒸気処理に代えて、アセトンへの浸漬にて行った以外は実施例1と同様に手法により、多孔性構造体の作製を行った。尚、泳動時間は30分とした。作製した多孔性構造体の断面観察はSEMにて行った。SEMでの観察状況は、実施例1と同様とした。観察結果を図8に示す。
【0110】
図8は、実施例2で作製した多孔性構造体(図8(b))を、実施例1で30分間電気泳動を行って作製した多孔性構造体(図8(a))と比較した図である。他の観察結果を示した図と同様に、紙面上側方向が多孔体細孔の開口側(表面側)に相当し、紙面下側方向が細孔の奥方側(多孔体裏面側)に相当するように示している。また、白い粒が銀ナノ粒子に該当する。
【0111】
これによれば、多孔体の奥方に銀ナノ粒子が認められた。即ち、多孔体奥方まで銀ナノ粒子が運搬されたことが示された。また、アセトンを用いた改質処理では、蒸気処理にて行う方が、多孔体を溶剤に浸漬するよりも微小固体の充填率を向上させること、即ち、多孔質体に対する改質効果が高いことが示された。
【0112】
<実施例3>
実験例1にて作製した多孔体について、実施例1と同条件で改質処理を行った。また、直流電圧2Vに交流電圧2Vを重畳した電圧を15分印加して電気泳動した以外は、実施例1と同様の手法にて多孔性構造体作製した。作製した多孔性構造体の断面観察はSEMにて行った。SEMでの観察状況は、実施例1と同様とした。観察結果を図9に示す。
【0113】
図9は、実施例3で作製した多孔性構造体を示した図である。他の観察結果を示した図と同様に、紙面上側方向が多孔体細孔の開口側(表面側)に相当し、紙面下側方向が細孔の奥方側(多孔体裏面側)に相当するように示している。また、白い粒状で観察されるものが銀ナノ粒子に該当する。
【0114】
図9からも分かるように、実施例3で作製された多孔性構造体には、銀ナノ粒子が多孔体内部に担持されていることが示された。
【0115】
尚、上記実施例1〜3のいずれの場合にも、多孔性構造体開口部近傍における、開口部を閉鎖するほどの過剰な銀ナノ粒子の堆積は認められなかった。
【0116】
<比較例1、2>
次に、多孔体の分散液への浸漬時間を15分とし、更に銀ナノ粒子の多孔体への導入条件を、電圧印加なし(比較例1)又は2Vの直流電圧を印加して電気泳動(比較例2)とした以外は、実施例1と同様の手法にて多孔性構造体の作製を行い、上記実施例と同様の観察を行った。その結果、比較例1では、多孔体内への銀ナノ粒子の充填は認められなかった。
【0117】
比較例2においては、構造体の全体的な比較において、銀ナノ粒子の導入量が、実施例1〜3で作製した多孔性構造体よりも少ないものであった。また、実施例1〜3に比べて、開口部近傍でより多くの銀ナノ粒子の堆積が認められた。
【符号の説明】
【0118】
20 多孔体(多孔質基材、一方の電極の一部)
22 泳動槽(貯留槽)
24 電極(一方の電極)
25 電極(他方の電極)
27 電源装置(電圧印加手段)
30 泳動装置(電気泳動装置)
S3 泳動工程(浸漬工程、電圧印加工程)
S2 改質工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9