(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474270
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】レーザドップラ速度計
(51)【国際特許分類】
G01S 17/58 20060101AFI20190218BHJP
G01P 3/36 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
G01S17/58
G01P3/36 E
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-24793(P2015-24793)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-148561(P2016-148561A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】大島 良太
【審査官】
安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−021849(JP,A)
【文献】
特開2014−228552(JP,A)
【文献】
特開2000−245699(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/094431(WO,A1)
【文献】
特開平05−040176(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0323074(US,A1)
【文献】
特開平07−325096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48− 7/51,
G01S 17/00−17/95,
G01B 9/00− 9/10,
G01B 11/00−11/30,
G01P 1/00− 3/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の移動速度を測定するレーザドップラ速度計であって、
1400nm以上2600nm以下の波長のレーザ光である測定光を出射する測定用レーザ光源と、
波長が可視領域内のレーザ光である照準光を出射する照準用レーザ光源と、
前記測定光と前記照準光とを波長合成し、合成光として出力する波長合成器と、
前記合成光を第1分割光と第2分割光とに分割するビームスプリッタと、
前記第1分割光と第2分割光とが、異なる方向から前記被測定物上に設定した照射領域に照射されるように、前記第1分割光と第2分割光のうちの少なくとも一方の進行方向を変化させる進路変更光学系と、
前記照射領域における前記測定光の散乱光の強度を検出し検出信号として出力する光検出器と、
前記検出信号のビート周波数に基づいて前記被測定物の移動速度を計測する計測部とを有することを特徴とするレーザドップラ速度計。
【請求項2】
請求項1記載のレーザドップラ速度計であって、
前記波長合成器は、ファイバ型WDM光カプラであり、
前記測定光は測定用レーザ光源から第1の光ファイバを介して前記ファイバ型WDM光カプラに入力されると共に、前記照準光は照準用レーザ光源から第2の光ファイバを介して前記ファイバ型WDM光カプラに入力されることを特徴とするレーザドップラ速度計。
【請求項3】
請求項2記載のレーザドップラ速度計であって、
前記ファイバ型WDM光カプラは、前記測定光の波長帯で低損失となる二本の偏波保持光ファイバを中央部で融着延伸して形成されたものであることを特徴とするレーザドップラ速度計。
【請求項4】
請求項1記載のレーザドップラ速度計であって、
前記波長合成器は、ダイクロイックミラーであり、
前記測定光は測定用レーザ光源からダイクロイックミラーに出射されると共に、前記照準光は前記照準用レーザ光源からダイクロイックミラーに出射されることを特徴とするレーザドップラ速度計。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載のレーザドップラ速度計であって、
前記測定光として、波長1550nmのレーザ光を用いることを特徴とするレーザドップラ速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザドップラ速度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザドップラ速度計としては、レーザ光を分岐した二つの光束を、被測定物上の同じ領域に異なる方向から照射すると共に、照射した二つの光束によって被測定物上で生じる散乱光を検出し、散乱光のビート周波数をヘテロダイン検波して、被測定物の移動速度を算出するレーザドップラ速度計が知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-61928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなレーザドップラ速度計において、高精度な速度測定を実現する上では、高出力のレーザ光を用いて散乱光の検出感度を向上することが望ましいが、レーザ光を高出力化することは、人間の目に対する安全性の観点からは好ましくない。
そこで、レーザ測定に用いるレーザ光として、アイセーフレーザと呼ばれる人の目に損傷を与えにくい近赤外レーザ光を用い、レーザ光の出力を増加しつつ、近赤外レーザ光に可視光を波長合成して測定対象物に出射することにより、測定対象物上の近赤外レーザ光の照射箇所を視認可能とすることが考えられる。このように、近赤外レーザ光に可視光を合成して視認可能とすることで、より高い出力の近赤外レーザ光をレーザ測定に用いることができる。
しかしながら、この場合には、被測定物を異なる方向から照射する二つの光束の各々について、それぞれ可視光を波長合成する構成が必要となってしまうため、レーザドップラ速度計の構造が複雑化してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、人間の目に対する安全性を確保しつつ、より精度良く速度測定を行えるレーザドップラ速度計を簡易な構造で実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題達成のために、本発明は、被測定物の移動速度を測定するレーザドップラ速度計に、1400nm以上2600nm以下の波長のレーザ光である測定光を出射する測定用レーザ光源と、波長が可視領域内のレーザ光である照準光を出射する照準レーザ光源と、前記測定光と前記照準光とを波長合成し、合成光として出力する波長合成器と、前記合成光を第1分割光と第2分割光とに分割するビームスプリッタと、前記第1分割光と第2分割光とが、異なる方向から前記被測定物上に設定した照射領域に照射されるように、前記第1分割光と第2分割光のうちの少なくとも一方の進行方向を変化させる進路変更光学系と、前記照射領域における前記測定光の散乱光の強度を検出し検出信号として出力する光検出器と、前記検出信号のビート周波数に基づいて前記被測定物の移動速度を計測する計測部とを備えたものである。
【0007】
ここで、このレーザドップラ速度計では、前記波長合成器として、ファイバ型WDM光カプラを用い、前記測定光を測定用レーザ光源から第1の光ファイバを介して前記ファイバ型WDM光カプラに入力すると共に、前記照準光を照準用レーザ光源から第2の光ファイバを介して前記ファイバ型WDM光カプラに入力するように構成してもよい。
【0008】
また、この場合には、前記ファイバ型WDM光カプラとしては、前記測定光の波長帯で低損失となる二本の偏波保持光ファイバを中央部で融着延伸して形成されたものを用いるようにしてよい。
または、以上のレーザドップラ速度計は、前記波長合成器を、ダイクロイックミラーとし、前記測定光を測定用レーザ光源からダイクロイックミラーに出射されると共に、前記照準光を前記照準用レーザ光源からダイクロイックミラーに出射するようにしてもよい。
なお、以上の各レーザドップラ速度計においては、前記測定光として、波長1550nmのレーザ光を用いるようにしてもよい。
以上のようなレーザドップラ速度計によれば、速度測定用のレーザとして、人の目に損傷を与えにくいアイセーフレーザ(波長1400nmから2600nmのレーザ)を用いつつ、測定光の照射位置を視認できるように可視光の照準光を測定光と波長合成してレーザドップラ速度計から出射するので、安全性を確保しつつ測定光の出力を大きくして測定精度の向上を図ることができる。
【0009】
また、ビームスプリッタで、測定光を分割する前に、照準光を測定光に合成するので、レーザドップラ速度計から出射する二つの測定光のそれぞれについて、測定光に照準光を合成する構成を設ける必要がなく、レーザドップラ速度計の構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、人間の目に対する安全性を確保しつつ、より精度良く速度測定を行えるレーザドップラ速度計を簡易な構造で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るレーザドップラ速度計の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るファイバ型WDM光カプラを示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るレーザドップラ速度計の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るレーザドップラ速度計の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係るレーザドップラ速度計の構成を示す。
図示するようにレーザドップラ速度計は、測定用レーザ光源1、照準用レーザ光源2、ファイバ型WDM光カプラ3、コリメータレンズ4、ビームスプリッタ5、ミラー6、対物レンズ7、光検出器8、計測装置9を備えている。
ここで、測定用レーザ光源1は、計測装置9によって駆動され、近赤外レーザ光を測定光として出射する。測定用レーザ光源1が出射する近赤外レーザ光の波長としては、1400nmから2600nmまでのアイセーフレーザと呼ばれるレーザの波長範囲の波長を用いる。以下では、測定光として波長1550nmの近赤外レーザを用いるものとして説明を行う。
【0013】
また、照準用レーザ光源2は、計測装置9によって駆動され、可視レーザ光を照準光として出射する。以下では、照準光として波長635nmの赤色のレーザを用いるものとして説明を行う。
測定用レーザ光源1から出射された測定光は、波長1550nm用の光ファイバ11によってファイバ型WDM光カプラ3に導入され、照準用レーザ光源2から出射された照準光は、波長635nm用の光ファイバ21によってファイバ型WDM光カプラ3に導入される
ファイバ型WDM光カプラ3は、導入された測定光と照準光とを波長合成し、コリメータレンズ4に出射する。
【0014】
コリメータレンズ4は、ファイバ型WDM光カプラ3から入射する測定光と照準光とを平行光束に変換してビームスプリッタ5に出射する。
ビームスプリッタ5は、コリメータレンズ4から入射する測定光と照準光とをそれぞれ二つに分岐し、分岐した一方の測定光と照準光とよりなる第1レーザ光群を被測定物100に照射し、分岐した他方の測定光と照準光とよりなる第2レーザ光群をミラー6に向けて出射する。
【0015】
そして、ミラー6は、ビームスプリッタ5から入射する第2レーザ光群を反射し被測定物100に照射する。
ここで、ビームスプリッタ5から出射された第1レーザ光群とミラー6から出射された第2レーザ光群は、被測定物100の同じ領域を照射する。また、ビームスプリッタ5から出射された第1レーザ光群は、被測定物100の移動方向と垂直な方向から被測定物100の正の移動方向にθ傾けた方向から被測定物100を照射し、ミラー6から出射された第2レーザ光群は、被測定物100の移動方向と垂直な方向から被測定物100の負の移動方向にθ傾けた方向から被測定物100を照射する。なお、移動方向の正負は、測定の目的に応じて任意に設定してよい。
【0016】
したがって、第1レーザ光群の測定光と第2レーザ光群の測定光が照射されている領域には、第1レーザ光群の照準光と第2レーザ光群の照準光による可視の光スポットも形成される。
次に、対物レンズ7は、被測定物100で散乱された第1レーザ光群と第2レーザ光群の散乱光を光検出器8に集光し、光検出器8は集光された散乱光の測定光の成分を光電変換し、測定光の成分の強度を表す検出信号を計測装置9に出力する。
ここで、第1レーザ光群の測定光の散乱光の周波数と第2レーザ光群の測定光の散乱光の周波数には、被測定物100の移動速度に応じた大きさのドップラーシフトが生じており、光検出器8が出力する検出信号には、ドップラーシフトの大きさに応じた周波数のビートが生じている。
【0017】
そこで、計測装置9は、光検出器8から出力された検出信号のビート周波数を計測し、計測したビート周波数から被測定物100の移動速度vを算定する。
次に、
図2にファイバ型WDM光カプラ3の構成を示す。
図示するように、ファイバ型WDM光カプラ3は、二本の波長1550nm用の偏波保持光ファイバ(PANDAファイバ)31、32を溶融延伸して中央部で融着延伸した波長1550nm用のファイバ型WDM光カプラであり、二本の偏波保持光ファイバの入力側端にはそれぞれ光コネクタ33、34が設けられており、各光コネクタ33、34には、測定用レーザ光源1から出射された測定光を伝送する光ファイバ11と、照準用レーザ光源2から出射された測定光を伝送する光ファイバ21が、それぞれ接続される。なお、波長1550nm用の偏波保持光ファイバとは、波長1550nmの光に対して低損失となる偏波保持光ファイバである。
【0018】
また、融着延伸した二本の偏波保持光ファイバ31、32のうちの一方の偏波保持光ファイバ32の出力側端は終端されており、他方の偏波保持光ファイバ31の出力側端には出力端子35が接続されている。
そして、このようなファイバ型WDM光カプラ3において、二本の偏波保持光ファイバ31、32の入力側端から偏波保持光ファイバ31、32に導入された測定光と照準光は、二本の偏波保持光ファイバ31、32の中央の融着延伸部で結合して波長合成され、波長合成された測定光と照準光が出力端子35から、コリメータレンズ4に出射される。
【0019】
ここで、以上のように、ファイバ型WDM光カプラ3を波長1550nm用の偏波保持光ファイバを用いて形成しているので、波長635nmの照準光は比較的大きく減衰しながらファイバ型WDM光カプラ3内を伝送されることとなるが、ある程度の距離は伝送されるので、波長635nmの照準光と波長1550nmの測定光との波長合成は実現できる。
【0020】
また、照準光は速度の測定精度には関わらず、照準光の出射レベルは、測定光の照射位置に視認できる光スポットを形成できるレベルであれば足りる。よって、ファイバ型WDM光カプラ3における照準光の減衰は実用上問題とはならない。
以上、本発明の実施形態について説明した。
ところで、以上の実施形態では、測定光と照準光の波長合成にファイバ型WDM光カプラ3を用いたが、照準光の波長合成には、導波路型光カプラやダイクロイックキューブ(ダイクロイックプリズム)やダイクロイックミラーや、その他の波長合成器を用いるようにしてもよい。
【0021】
すなわち、たとえば、ダイクロイックミラーを用いる場合には、
図3に示すように、測定用レーザ光源1から測定光をダイクロイックミラー30に出射すると共に、照準用レーザ光源2から照準光をダイクロイックミラー30に出射することにより、ダイクロイックミラー30によって、測定光と照準光とが同軸状に波長合成されて、コリメータレンズ4に出射されるようにする。
【0022】
以上のように、本実施形態に係るレーザドップラ速度計によれば、速度測定用のレーザとして、人の目に損傷を与えにくいアイセーフレーザ(波長1400nmから2600nmのレーザ)を用いつつ、測定光の照射位置を視認できるように可視光の照準光を測定光と波長合成してレーザドップラ速度計から出射するので、安全性を確保しつつ測定光の出力を大きくして測定精度の向上を図ることができる。
【0023】
また、ビームスプリッタ5で、測定光を分割する前に、照準光を測定光に合成するので、レーザドップラ速度計から出射する二つの測定光のそれぞれについて、測定光に照準光を合成する構成を設ける必要がなく、レーザドップラ速度計の構成を簡素化することができる。
【符号の説明】
【0024】
1…測定用レーザ光源、2…照準用レーザ光源、3…ファイバ型WDM光カプラ、4…コリメータレンズ、5…ビームスプリッタ、6…ミラー、7…対物レンズ、8…光検出器、9…計測装置、30…ダイクロイックミラー、33…光コネクタ、34…光コネクタ、35…出力端子、100…被測定物。