(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474283
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】ブラシレスモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20190218BHJP
H02K 1/27 20060101ALI20190218BHJP
H02K 21/14 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
H02K1/22 A
H02K1/27 501C
H02K1/27 501A
H02K1/27 501K
H02K1/27 501M
H02K21/14 M
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-44199(P2015-44199)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-165167(P2016-165167A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2017年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100102853
【弁理士】
【氏名又は名称】鷹野 寧
(72)【発明者】
【氏名】荒尾 匠
(72)【発明者】
【氏名】宮下 直幸
(72)【発明者】
【氏名】山之内 孝光
(72)【発明者】
【氏名】大久保 雅通
(72)【発明者】
【氏名】荻原 茂
(72)【発明者】
【氏名】木村 展
【審査官】
三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−183536(JP,A)
【文献】
特開2012−253884(JP,A)
【文献】
特開2014−155357(JP,A)
【文献】
特開2001−292541(JP,A)
【文献】
特開2010−088219(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0264775(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0213780(US,A1)
【文献】
特開2004−350345(JP,A)
【文献】
特開2002−010548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 1/27
H02K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、該ステータの内側に回転自在に配置されるロータを有するブラシレスモータであって、
前記ロータは、磁性材料にて形成されたコアプレートを複数枚積層したロータコアと、該ロータコア内に固定された複数個のマグネットと、を有し、
前記ロータコアは、ロータシャフトに固定されるコア本体と、該コア本体の周方向に沿って等間隔に設けられ前記マグネットが収容配置される複数個のマグネット収容部と、前記マグネット収容部の外周側に形成され前記ロータの外周部に配される複数の突極部と、隣接する前記突極部の間にて該突極部と前記コア本体とを連結するブリッジ部と、を有し、
前記マグネット収容部は、前記マグネットの周方向への移動を規制するマグネット固定段差と、該マグネット収容部の周方向両端に形成され前記マグネット固定段差にて周方向への移動が規制された前記マグネットの両側に設けられる空隙部と、を有し、
前記マグネットの厚み方向の幅は、前記空隙部における前記マグネットの前記厚み方向と同方向の幅よりも大きくなるよう設定され、
前記コア本体は、前記ブリッジ部の径方向内側に前記空隙部に近接して前記マグネット固定段差によって形成され該コア本体を径方向に拡大する形で設けられた張出部と、隣接する前記コアプレート同士を積層固定するための固定手段と、を有し、
前記固定手段は、前記張出部を利用して、前記ブリッジ部の近傍に配置されることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項2】
請求項1記載のブラシレスモータにおいて、
前記固定手段は、前記マグネット収容部に対し、前記コアプレートの板厚以上の間隔をあけて配置されることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のブラシレスモータにおいて、
前記マグネット収容部の径方向内側の周縁を延長した線分をPとし、
隣接する前記マグネット収容部の前記線分Pの交点Qをするとき、
前記固定手段が前記交点Qよりも前記ロータコア外周から離れないように、前記交点Qが前記固定手段の領域内に存在することを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項4】
請求項3記載のブラシレスモータにおいて、
前記ブリッジ部の長さをLとし、
前記マグネット固定段差を設けることなく、前記ブリッジ部の長さを最大限大きく取った場合の長さをLmaxとすると、L/Lmax≧0.36であることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のブラシレスモータにおいて、
前記固定手段は前記コアプレートに突設されたボスであり、隣接する前記コアプレートの前記ボス同士を嵌合させることにより、前記コアプレートは積層固定されることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項6】
請求項5記載のブラシレスモータにおいて、
前記ブリッジ部の円周方向の幅は、前記ボス部の外径よりも小さいことを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のブラシレスモータにおいて、
前記複数個のマグネットの夫々は、その角部が曲線形状に面取りされ、
前記マグネット固定段差は、前記マグネット収容部の内面を前記マグネットの前記角部の曲線形状に沿うように径方向に屈曲した形で形成されていることを特徴とするブラシレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータのロータコア構造に関し、特に、マグネット埋め込み式のモータ(IPMモータ:Interior Permanent Magnet Motor)に使用されるロータコアのコアプレート固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータのロータコアは一般に、鉄損低減のため、電磁鋼板にて形成された薄板状のコアプレートを多数積層して形成されている。積層されたコアプレートは、ボスやリベット等の固定手段により固定され、モータ用のロータコアが積層形成される。従来より、ロータコア外周面にマグネットが配置されたSPMモータ(Surface Permanent Magnet Motor)では、マグネットの磁路を妨げないように、コアプレート積層用のボスは、マグネットの中央でロータコアの中心寄りに設けられる場合がある。
【0003】
一方、近年、ロータ内部に磁石を埋め込み、マグネットの磁力によるマグネットトルクと、ロータの磁化によるリラクタンストルクの両方によってロータを回転させるIPMモータの利用が拡大している。IPMモータは、マグネットトルクに加えてリラクタンストルクを活用できるため、高効率で高トルクなモータとして、自動車用電動パワーステアリング装置の駆動源に使用される他、ハイブリッド自動車やエアコン等への使用も増加している。そして、このIPMモータにおいても、ロータコアには、コアプレートを多数積層した積層コアが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−350345号公報
【特許文献2】特開2002−10548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、IPMモータでは、ロータコア外周付近に磁気回路として使用される薄肉のブリッジ部が存在し、SPMタイプに比して外周部分の強度が低くなる。このため、特許文献1のように、SPMタイプと同様の位置にコアプレートの固定手段(カシメピン)を配置すると、積層時にブリッジ部にねじれが生じたり、ブリッジ部にて積層剥がれが発生したりするおそれがある。つまり、特許文献1のようなボス位置では、積層自体が難しく、また、積層後の剥がれを抑えるため、外周部の溶接やコアの接着が必要となる、などの課題があった。
【0006】
これに対し、特許文献2のように、コアプレートの固定手段(カシメピン)をマグネットの径方向外側でブリッジ部に近い位置に配置すれば、ブリッジ部のねじれや剥離は生じにくくなる。しかしながら、これらの位置にボスやピンを配置すると、マグネットの主磁束の流れが妨げられてしまい、マグネット磁束を有効活用できず、モータ効率が低下する、という問題があった。
【0007】
本発明の目的は、IPMタイプのブラシレスモータにおいて、磁気回路への影響を最小限に抑えつつ、ブリッジ部のねじれや剥がれを防止し得るコアプレートの積層固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のブラシレスモータは、ステータと、該ステータの内側に回転自在に配置されるロータを有するブラシレスモータであって、前記ロータは、磁性材料にて形成されたコアプレートを複数枚積層したロータコアと、該ロータコア内に固定された複数個のマグネットと、を有し、前記ロータコアは、ロータシャフトに固定されるコア本体と、該コア本体の周方向に沿って等間隔に設けられ前記マグネットが収容配置される複数個のマグネット収容部と、前記マグネット収容部の外周側に形成され前記ロータの外周部に配される複数の突極部と、隣接する前記突極部の間にて該突極部と前記コア本体とを連結するブリッジ部と、を有し、前記マグネット収容部は、前記マグネットの周方向への移動を規制する
マグネット固定段差と、該マグネット収容部の周方向両端に形成され前記
マグネット固定段差にて周方向への移動が規制された前記マグネットの両側に設けられる空隙部と、を有し、
前記マグネットの厚み方向の幅は、前記空隙部における前記マグネットの前記厚み方向と同方向の幅よりも大きくなるよう設定され、前記コア本体は、前記ブリッジ部の径方向内側に前記空隙部に近接して
前記マグネット固定段差によって形成され該コア本体を径方向に拡大する形で設けられた張出部と、
隣接する前記コアプレート同士を積層固定するための固定手段と、を有
し、前記固定手段は、前記張出部を利用して、前記ブリッジ部の近傍に配置されることを特徴とする。
【0009】
本発明にあっては、ブリッジ部の径方向内側に空隙部に近接して形成された張出部に、コアプレート同士を積層固定するための固定手段を配置する。この張出部の部位は、固定手段を配してもマグネットの主磁束流れに対する影響が少なく、張出部を利用することにより、固定手段をより外周側に配置することができる。このため、当該位置に固定手段を配することにより、磁気回路に影響を与えることなく、積層時のねじれ等を効果的に抑制できる。
【0010】
前記ブラシレスモータにおいて、前記固定手段を、前記マグネット収容部に対し、前記コアプレートの板厚以上の間隔をあけて配置するようにしても良く、これにより、固定手段を形成したり、取り付けたりする際の加工性が向上する。
【0011】
また、前記マグネット収容部の径方向内側の周縁を延長した線分をPとし、隣接する前記マグネット収容部の前記線分Pの交点Qをするとき、
前記固定手段が前記交点Qよりも前記ロータコア外周から離れないように、前記交点Qが前記固定手段の領域内に存在するようにしても良い。このように、固定手段配置の指標として交点Qを設定し、少なくとも交点Qが固定手段領域内に入るという基準を設けることにより、固定手段が交点Qよりもロータコア外周から離れない位置に配置することができる。
この場合、前記ブリッジ部の長さをLとし、前記マグネット固定段差を設けることなく、前記ブリッジ部の長さを最大限大きく取った場合の長さをLmaxとしたとき、LとLmaxの比L/LmaxをL/Lmax≧0.36に設定しても良い。
【0012】
さらに、前記固定手段として、前記コアプレートにボスを突設し、隣接する前記コアプレートの前記ボス同士を嵌合させることにより、前記コアプレートを積層固定するようにしても良い。これにより、リベットやピン等の別部品を用いることなくコアプレートを積層固定でき、部品点数の削減が図られる。
この場合、前記ブリッジ部の円周方向の幅を、前記ボス部の外径よりも小さく形成しても良い。加えて、前記複数個のマグネットの夫々について、その角部を曲線形状に面取りすると共に、前記マグネット収容部の内面を前記マグネットの前記角部の曲線形状に沿うように径方向に屈曲させる形で前記マグネット固定段差を形成しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明のブラシレスモータにあっては、ロータ内にマグネットを埋設したIPMタイプのブラシレスモータにて、コアプレート同士を積層固定するための固定手段を、ロータコアに設けられたブリッジ部の径方向内側に形成された張出部に配置する。ブリッジ部の径方向内側近傍位置は、固定手段を配してもマグネットの主磁束流れに対する影響が少なく、しかも、張出部に固定手段を配することにより、より外周側に固定手段を配置することが可能となる。従って、モータ効率の低下を最小限に抑えつつ、コアプレート積層時におけるブリッジ部のねじれや剥がれを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態であるブラシレスモータの断面図である。
【
図3】ブリッジ部の近傍の構成を示す拡大説明図である。
【
図4】ブリッジ部の構成例を示す説明図であり、(a)はブリッジ部がない場合(L=0)、(b)はブリッジ部最大限大きく取った場合(L=Lmax)をそれぞれ示している。
【
図5】ブリッジ部の長さLと出力トルクの変化との関係を示すグラフである。を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるブラシレスモータ1(以下、モータ1と略記する)の断面図、
図2は、
図1のA−A線に沿った断面図である。モータ1は、インダクタンス差に基づくリラクタンストルクと、マグネットの磁力によるマグネットトルクによりロータを回転させるIPM型のブラシレスモータである。モータ1は、
図1に示すように、外側にステータ(固定子)2、内側にロータ(回転子)3を配したインナーロータ型のブラシレスモータとなっている。
【0016】
ステータ2は、有底円筒形状のモータケース4(以下、ケース4と略記する)の内側に固定されている。ステータ2は、ステータコア5と、ステータコア5の複数のティース部9にインシュレータ11を介して巻装されたステータコイル6(以下、コイル6と略記する)及びステータコア5に取り付けられコイル6と電気的に接続されるバスバーユニット(端子ユニット)7とから構成されている。なお、本実施の形態においては、ティース部9は9本からなり、コイル6は隣接するティース部9間の9つのスロット内に配置されている。ケース4は、鉄等にて有底円筒状に形成されており、その開口部には、図示しない固定ネジによってアルミダイキャスト製のブラケット8が取り付けられる。
【0017】
ステータコア5は、鋼製の薄板材であるステータコアプレート17(例えば、板厚0.5mmの電磁鋼板)を積層して形成されている。ステータコア5には、複数個のティース部9が径方向内側に向かって突設されている。隣接するティース部9の間にはスロット10が形成され、その中にはコイル6が収容されている。ステータコア5には合成樹脂製のインシュレータ11が取り付けられており、インシュレータ11の外側にコイル6が巻装されている。ステータコア5の軸方向一端側には、インシュレータ11によって位置決めされたバスバーユニット7が取り付けられている。バスバーユニット7は、合成樹脂製の本体部内に銅製のバスバーがインサート成形された構成となっている。
【0018】
バスバーユニット7の周囲には、複数個の接続端子12が径方向に突設されている。バスバーユニット7の取り付けに際し、接続端子12は、ステータコア5から引き出された各コイル6の端部6aが溶接される。バスバーユニット7では、バスバーはモータ1の相数に対応した個数(ここでは、U相,V相,W相分の3個と各相同士の接続用の1個の計4個)設けられている。各コイル6は、その相に対応した接続端子12と電気的に接続される。ステータコア5は、バスバーユニット7を取り付けた後、ケース4内に圧入又は接着等の固定手段により固定される。
【0019】
ステータ2の内側にはステータ2と同芯状にロータ3が挿入されている。ロータ3はロータシャフト13を有しており、ロータシャフト13はベアリング14a,14bによって回転自在に軸支されている。ベアリング14aはケース4の底部中央に、ベアリング14bはブラケット8の中央部にそれぞれ固定されている。ロータシャフト13には、円筒形状のロータコア15と、回転角度検出手段であるレゾルバ21のロータ(レゾルバロータ)22が取り付けられている。レゾルバ21のステータ(レゾルバステータ)23は、レゾルバホルダ24aに収納され、合成樹脂製のレゾルバブラケット24bを介して、取付ネジ25によってブラケット8の内側に固定される。
【0020】
ロータコア15もまた、鋼製の薄板材であるロータコアプレート18(例えば、板厚0.5mmの電磁鋼板)を積層して形成されている。ロータコア15の外周部には、周方向に沿って、マグネット取付用のスリット(マグネット収容部)31が複数個設けられている。スリット31は、ロータコア15を軸方向に貫通している。スリット31の周方向左右の端部には、一対のマグネット固定段差(マグネット移動規制部)32が形成されている。マグネット16は、左右のマグネット固定段差32の間に、周方向への移動が規制された状態で挟持固定される。スリット31に収容された各マグネット16の外周側には、弓形の突極部33が形成される。マグネット16は、周方向に沿って6個配置されており、モータ1は6極9スロット構成となっている。スリット31内には、マグネット16の周方向両側に空隙部34が形成されている。空隙部34は、磁束が通りにくいフラックスバリアとして機能する。
【0021】
マグネット16としてネオジム磁石等の希土類磁石を使用する際、磁束を有効に使用するには、マグネットはなるべくロータコア15の径方向外側へ配置することが好ましい。そのため、モータ1では、フラックスバリアとしての空隙部34をマグネット16の両側部に配しつつ、マグネット16がよりロータコア15の径方向外周側に配置されるように、スリット31の両端部の径方向内側にマグネット固定段差32を設け、その間にマグネット16を配置するようにしている。この場合、空隙部34は、スリット31の両端に略台形状に形成され、隣接する空隙部34の間にはブリッジ部35が形成されている。ブリッジ部35は、隣接する突極部33の間に配置され、中央側のコア本体15aと外周側の突極部33とを連結している。
【0022】
図3は、ブリッジ部35の近傍の構成を示す拡大説明図である。
図3に示すように、ブリッジ部35のロータ中心側には、ロータコアプレート18を積層固定するための積層ボス(固定手段)36が設けられている。発明者らの磁場解析によると、ブリッジ部35の両側は空隙部34となっていることもあり、ブリッジ部35の近傍に積層ボス36を配してもマグネット16の主磁束流れに対する影響が少ないことが分かった。また、ブリッジ強度を上げるには、強度的に最弱部となるブリッジ部35に近い部位に積層ボス36を設けることが最適である。そこで、モータ1では、空隙部34の配置や形状を工夫することによりマグネット16を外周寄りに配置しつつ、積層時のねじれ等を防止できる位置で、且つ、磁気回路に影響しない最良の位置に積層ボス36を配置している。
【0023】
積層ボス36は円筒状に形成されており、軸方向に向かって突出する様ボス出し加工によって形成されている。ロータコアプレート18を積層する際には、隣接層の積層ボス36同士を嵌合させる。これにより、複数枚のロータコアプレート18が積層状態で固定される。また、モータ1では、マグネット固定段差32によってブリッジ部35の内側にできたデッドスペースを活用して積層ボス36が設けられている。
図3に示すように、スリット31の端部にマグネット固定段差32を形成すると、スリット31の内縁部31aが径方向に屈曲した形となる。マグネット固定段差32は、マグネット16の加工仕上がりの面取り(R0.4mm程度)を考慮し、0.7mm程度の段差(高さ:H)となっており、段差部分には、中心側から見たとき、コア本体15aが段差分だけ径方向に拡大した形で凸状の張出部37が形成される。張出部37はブリッジ部35よりも広幅となっており、この張出部37を利用して、ブリッジ部35の近傍に積層ボス36が設けられている。
【0024】
ここで、スリット31の内縁部31aと積層ボス36との間には、積層ボス36をプレス加工する関係から、ロータコアプレート18の板厚(ここでは0.5mm)以上の間隔を設けることが望ましい。その一方、積層時のねじれ等に対しては、できる限りロータコア15の外周側に積層ボス36を配置することが望まれる。そこで、モータ1では、内縁部31aとの間に板厚以上の間隔を確保しつつ、積層ボス36ができるだけ外周側に配されるように、隣接するスリット31の径方向内側の周縁である内縁部31aを延長した線分Pの交点Qが、積層ボス36内に存在する位置に積層ボス36を配置している。つまり、積層ボス配置の指標として交点Qを設定し、少なくとも交点Qがボス領域内に入るという基準を設けている。当該基準により、積層ボス36は、交点Qよりもロータコア外周から離れない位置に配置される。
【0025】
このように、モータ1では、交点Qを指標としてボス位置を外周寄りに設定しているが、積層時のねじれ等に対しては積層ボス36をなるべく外周側に設けた方が良いという観点からすると、ブリッジ部35の長さLは0とすることが好ましいことになる。しかしながら、ブリッジ部35には、前述のようなロータ3の内外周部分をつなぐ機能のみならず、磁気抵抗となることにより磁束の漏れを抑制し、極間の磁束の漏れを低減する機能も有している。このため、
図4(a)のように、ブリッジ部35を無くすと(L=0)、磁気抵抗が減少し磁束が漏れ易くなり、出力トルクが低下する。従って、磁束を漏れにくくするという観点では、Lは大きい方が良く、少なくとも0より大きくしなくてはならない(L>0)。但し、その分、積層ボス36は中心側に寄ることになり、積層時のねじれ等に関しては不利に働く。
【0026】
そこで、ブリッジ部35の長さLと出力トルクの変化との関係を見ると、
図5に示すように、L=0.7程度ではほとんどトルクには影響はないが、Lが0.6mmを下回るとトルクが低下し始め、0.2mmを下回ると急激に低下する。この結果から、ブリッジ部35の長さLは、少なくとも0.2mm以上、好ましくは、トルクの落ち込みが実用上ほとんどない0.5mm以上に設定することが望ましいことが分かる。これは、仮にマグネット固定段差32を設けることなく、
図4(b)に示したような形でブリッジ部35を最大限大きく取った場合(Lmax、ここでは1.4mm)に対し、L/Lmaxを、少なくとも0.2/1.4(=0.14)以上、好ましくは、0.5/1.4(=0.36)以上に設定する方が良いことを意味しており、これを受けて当該モータ1では、L=0.5mmに設定されている。
【0027】
以上のように、本発明によるモータ1では、磁気回路にできるだけ影響を与えない位置で、且つ、できる限り外周側に積層ボス36を配置したので、ボス形成によるトルク低下を招来することなく、強度的に弱いブリッジ部35の可能な限り近傍に積層ボス36を配することができる。このため、従来と同様の形態のボスであるにもかかわらず、積層ボス36により、ロータコア積層時におけるブリッジ部のねじれや積層剥がれを抑えることが可能となる。その結果、コアプレートの積層が容易になると共に、外周部の溶接やコアの接着など、積層剥がれを抑えるためだけの加工が不要となり、ロータコアの製造コストを低減させることが可能となる。また、磁気回路への影響が小さい位置に積層ボス36が配されるため、トルクの低減も抑えられ、モータ効率を低下させることなく、ロータコア積層時の課題を解決することが可能となる。
【0028】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施の形態では、ロータコアプレート18を積層固定する手段として積層ボス36を用いた例を示したが、コアプレート固定手段としては、例えば、リベットやピンなど、ボス以外の部材を用いることが可能である。また、スリット31内にマグネット16を保持する構成としては、段状のマグネット固定段差32のみならず、周方向両端に向かって幅が狭くなるようなテーパ形状の固定部を採用することも可能である。さらに、ロータコアの外径の大きく、積層ボス36のみではロータコアプレート18の固定強度に不足が生じるおそれがある場合は、積層ボス36と共に、SPMタイプと同様の位置にも併せて積層ボスを設けても良い。加えて、ロータの磁極部分は、ロータコアの中心より径方向外側に中心を持って円弧状に形成された突極部からなる異形形状のロータのみならず、外周が真円形状のロータを採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、電動パワーステアリング装置の駆動源、他の車載電動装置や、ハイブリッド自動車、電気自動車、エアコン等の電気製品等に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 ブラシレスモータ
2 ステータ
3 ロータ
4 モータケース
5 ステータコア
6 ステータコイル
6a 端部
7 バスバーユニット
8 ブラケット
9 ティース部
10 スロット
11 インシュレータ
12 接続端子
13 ロータシャフト
14a,14b ベアリング
15 ロータコア
15a コア本体
16 マグネット
17 ステータコアプレート
18 ロータコアプレート
21 レゾルバ
22 レゾルバロータ
23 レゾルバステータ
24a レゾルバホルダ
24b レゾルバブラケット
25 取付ネジ
31 スリット(マグネット収容部)
31a 内縁部
32 マグネット固定段差(マグネット移動規制部)
33 突極部
34 空隙部
35 ブリッジ部
36 積層ボス(固定手段)
37 張出部
L ブリッジ部長さ
H マグネット固定段差高さ
P スリットの径方向内側の周縁(内縁部)を延長した線分
Q 線分Pの交点