特許第6474295号(P6474295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474295
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20190218BHJP
【FI】
   C04B7/02
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-63123(P2015-63123)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-183060(P2016-183060A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】扇 嘉史
(72)【発明者】
【氏名】馬場 智矢
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 秀幸
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−051411(JP,A)
【文献】 特開2014−162711(JP,A)
【文献】 特開2007−045647(JP,A)
【文献】 特開2010−001196(JP,A)
【文献】 特開2004−196624(JP,A)
【文献】 特開2013−189342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカーの粉砕物および石膏を含むセメントの製造方法であって、
上記セメントの製造方法は、上記セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の大きさに応じて、上記石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合を決定するものであり、
上記セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率が、上記セメントクリンカーの化学組成および鉱物組成の各測定値に基いて、推定値として算出されたものであることを特徴とするセメントの製造方法。
【請求項2】
上記化学組成が、MgO、SO3、Na2OおよびK2Oの各含有率であり、かつ、上記鉱物組成が、エーライトおよびフェライト相の各含有率である請求項1記載のセメントの製造方法。
【請求項3】
上記半水石膏の割合が、上記水溶性アルカリ成分の含有率を、水溶性アルカリ成分の含有率と半水石膏の割合の関係式である予め定められた近似式に適用することによって決定される請求項1又は2に記載のセメントの製造方法。
【請求項4】
セメントの連続的な製造のために供給中のセメントクリンカーを対象にして、該セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を、1時間当たり、1回以上の頻度で求め、その結果に応じて、該セメントクリンカーと混合される石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合を適宜変更する請求項1〜のいずれか1項に記載のセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、セメント、水等を混練して調製した直後のコンクリートの流動性は、セメント混和剤(例えば、減水剤)の添加量や単位水量を調整する等の方法によって制御することができる。
しかし、スランプロスやスランプフローロスとして評価されるコンクリートの流動性の経時変化については、使用されるセメントの特性に因るところが大きいため、上述したセメント混和剤の添加量の調整等のみによって制御することは困難である。
ここで、コンクリートの流動性の混練直後の状態が良好(スランプロスが大きい又はフロー値が高いこと)でかつ経時変化(混練直後からの流動性の経時的な低下の度合い)が小さいほど、良好な作業性を有する時間をより長く確保することができ、コンクリートの物性が良好であると言える。
【0003】
流動性の経時変化が小さいセメント含有組成物として、例えば、特許文献1には、ポリカルボン酸系の減水剤を配合した水硬性配合物において、水硬性結合材が、水溶性アルカリ含有量が0.25%以下のポルトランドセメントであることを特徴とする水硬性配合物が記載されている。
また、特許文献2には、2水石膏及び半水石膏の合量に占める半水石膏の割合がSO3換算で70質量%以上で、かつ半水石膏含有量がSO3換算で1.2質量%を越えるポルトランドセメント、ポリカルボン酸系高性能減水剤及び水を含むことを特徴とする水硬性組成物が記載されている。
さらに、特許文献3には、セメントクリンカーと石膏とを含有するセメント組成物であって、前記セメント組成物中の半水石膏量が0.2〜3.5質量%、半水石膏と二水石膏の合量に対する半水石膏の割合が50〜95質量%、及び水溶性アルカリ量が0.17〜0.32質量%であることを特徴とするセメント組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−302062号公報
【特許文献2】特開2004−196624号公報
【特許文献3】特開2007−045647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3に記載されたセメント含有組成物は、セメント含有組成物中の水溶性アルカリ成分の量や、石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合(以下、「石膏半水化率」ともいう。)が特定の数値範囲内となるように調整されたものである。
しかし、水溶性アルカリ成分の量や石膏半水化率が特定の数値範囲内であるセメント含有組成物であっても、該組成物に含まれるセメントクリンカーの鉱物組成等によって、該組成物を用いてなるコンクリート等の流動性の経時変化が異なるため、流動性の経時変化が最も小さなセメント含有組成物を確実に得ることは、困難である。
【0006】
また、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分は、複雑な過程を経て生成されるため、水硬性配合物(セメント組成物)中の水溶性アルカリ成分の量を、特許文献1、3に記載されている数値範囲内(例えば、0.25%以下)となるように調整することは、実際には困難である。
すなわち、セメントクリンカーの製造工程において、原料および燃料によって焼成工程に持ち込まれたアルカリ(Na、K)および硫黄は、CaO、Al23、Fe23、MgO等と液相を形成した後、まず、2CaO・SiO2(ビーライト;以下、「C2S」ともいう。)および3CaO・SiO2(エーライト;以下、「C3S」ともいう。)の生成過程において、それらの結晶構造中に固溶する。次いで、C2SやC3Sに固溶せずに、液相中に残ったアルカリおよび硫黄は、セメントクリンカーの冷却過程において生成する3CaO・Al23(アルミネート相;以下、「C3A」ともいう。)および4CaO・Al23・Fe23(フェライト相;以下、「C4AF」ともいう。)の結晶構造中に固溶する。このような過程を経た後、液相中に残存するアルカリおよび硫黄から水溶性アルカリ成分(硫酸アルカリ)が形成される。
このように、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分は、複雑な過程を経て生成されるものであり、それゆえ、水溶性アルカリ成分の量を自在に調整することは、実際には困難である。
【0007】
さらに、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の量は、蛍光X線分析によって直接的に測定することができないため、リアルタイムで短時間毎に調整することができない。
すなわち、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の量を測定するための方法としては、セメント協会標準試験方法「JCAS I−04(セメントの水溶性成分の分析方法)」に記載された方法が挙げられる。この方法を用いた測定には、試料の煩雑な前処理を含めて、約1時間が必要である。このため、この方法は、セメント製造工場における品質管理に必要なリアルタイムな測定方法としては適当でない。
【0008】
一方、石膏半水化率は、直接的な指標として、セメント製造工場のオンライン分析システムにおいて得られた鉱物組成を用いたり、間接的な指標として、ミルから排出された粉体の温度等に基いて、セメントの仕上粉砕工程におけるミル内の通風量や散水量等を制御することなどによって、高い精度で調整することができる。
なお、現在、多くのセメント製造工場では、蛍光X線分析装置やX線回折分析装置等を用いて、セメントクリンカーやセメント等を、オンラインで分析するシステムが構築されている。このシステムにおいては、リアルタイムでセメントクリンカー等の化学組成や鉱物組成等を測定することができる。セメントの石膏半水化率も、セメント中の二水石膏量と半水石膏量をX線回折−リートベルト法等によって測定することで、リアルタイムに算出することができる。
【0009】
本発明の目的は、混練直後の流動性が良好でかつ流動性の経時変化が小さい点で最適化されたコンクリート等を調製しうるセメントを製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントクリンカーの粉砕物および石膏を含むセメントの製造方法であって、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率に応じて、石膏半水化率(石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合)を決定するセメントの製造方法によれば、本発明の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] セメントクリンカーの粉砕物および石膏を含むセメントの製造方法であって、上記セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の大きさに応じて、上記石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合を決定することを特徴とするセメントの製造方法。
[2] 上記セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率が、上記セメントクリンカーの化学組成および鉱物組成の各測定値に基いて、推定値として算出されたものである前記[1]に記載のセメントの製造方法。
[3] 上記化学組成が、MgO、SO3、Na2OおよびK2Oの各含有率であり、かつ、上記鉱物組成が、エーライト(3CaO・SiO2;C3S)およびフェライト相(4CaO・Al23・Fe23;C4AF)の各含有率である前記[1]又は[2]に記載のセメントの製造方法。
[4] 上記半水石膏の割合が、上記水溶性アルカリ成分の含有率を、水溶性アルカリ成分の含有率と半水石膏の割合の関係式である予め定められた近似式に適用することによって決定される前記[1]〜[3]のいずれかに記載のセメントの製造方法。
[5] セメントの連続的な製造のために供給中のセメントクリンカーを対象にして、該セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を、1時間当たり、1回以上の頻度で求め、その結果に応じて、該セメントクリンカーと混合される石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合を適宜変更する前記[1]〜[4]のいずれかに記載のセメントの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、調整の困難な水溶性アルカリ成分の含有率を調整せずに、調整の容易な石膏半水化率(石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合)を調整するだけで、混練直後の流動性が良好でかつ流動性の経時変化が小さい点で最適化されたコンクリート等を調製しうるセメントを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】水溶性アルカリ成分の含有率の推定値と水溶性アルカリ成分の含有率の実測値との関係を示すグラフである。
図2】水溶性アルカリ成分の含有率と、セメントの流動性の経時変化を最も良好にすることができる石膏半水化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のセメントの製造方法は、セメントクリンカーの粉砕物および石膏を含むセメントの製造方法であって、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の大きさに応じて、石膏半水化率(石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合)を決定するものである。
本発明の製造方法において用いられるセメントクリンカーは、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメントクリンカー、早強ポルトランドセメントクリンカー、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー、及び、低熱ポルトランドセメントクリンカー等の各種ポルトランドセメントクリンカーを使用することができる。
【0015】
本発明の製造方法では、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の大きさに応じて、セメントの石膏半水化率を決定し、セメントの製造工程(セメントクリンカーへの石膏の添加の工程)において、この決定された石膏半水化率を満たすようにセメントの粉砕工程を制御することによって、得られるセメントの物性(具体的には、水等と混練してコンクリート等を調製した場合における混練直後の流動性が良好でかつその後の経時変化が小さいこと)を最適化することができる。
【0016】
セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分(硫酸ナトリウムおよび硫酸カリウム)の含有率は、セメントクリンカーの化学組成および鉱物組成の各測定値に基いて、推定値として算出することができる。
この推定値の算出は、セメントクリンカーの化学組成および鉱物組成の各測定値を、セメントクリンカーの化学組成および鉱物組成の各測定値とセメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の関係式である、予め定められた推定式に適用することによって行われる。
【0017】
上記推定式は、予め、複数の種類のセメントクリンカーを用いて定めることができる。具体的には、セメントクリンカーの化学組成および鉱物組成の各測定値と、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の実測値から、重回帰分析を用いて、上記各測定値と上記水溶性アルカリ成分の含有率の実測値の関係式である、水溶性アルカリ成分の含有率の推定式を得ることができる。
ここで、水溶性アルカリ成分の含有率の推定式は、硫酸ナトリウムの含有率の推定式と硫酸カリウムの推定式をそれぞれ定めた後、下記式(1)から求めることができる。
[水溶性アルカリ成分(s−R2O)の含有率](質量%)=[硫酸ナトリウム(Na2SO)の含有率](質量%)+[硫酸カリウム(K2SO)の含有率](質量%)×0.658・・・(1)
水溶性アルカリ成分の含有率の推定式を定めるために用いられる、セメントクリンカーの化学組成および鉱物組成の測定値としては、例えば、化学組成として、MgO、SO3、Na2O、K2Oが挙げられ、また、鉱物組成として、C3S(エーライト)、C4AF(アルミネート相)が挙げられる。
また、推定式を定めるために用いられるセメントクリンカーの種類の数は、より高い精度で水溶性アルカリ成分の含有率を推定する観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である。
【0018】
従来、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率は、セメント製造工場のオンライン分析システムにおいてリアルタイムに直接、測定することができないものである。この点、本発明では、予め定められた推定式を用いることで、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を、セメントクリンカーの化学組成(MgO、SO3、Na2O、K2O)および鉱物組成(C3S、C4AF)の各測定値(セメント製造工場のオンライン分析システムにおいてリアルタイムで測定することができるもの)のみに基いて、高い精度でかつ短時間(リアルタイム)で推定値として算出することができる。
【0019】
セメントの石膏半水化率(石膏における二水石膏と半水石膏の合計量中の半水石膏の割合)の決定は、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を、水溶性アルカリ成分の含有率とセメントの石膏半水化率の関係式である予め定められた近似式に適用することによって行われる。
近似式は、予め、複数の種類のセメントを用いて定めることができる。具体的には、セメントの物性(具体的には、コンクリート等の混練直後の流動性が良好でかつその後の経時変化が小さいこと)が最も良好となるセメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率と、石膏半水化率の組み合わせから、重回帰分析を用いて、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率とセメントの石膏半水化率の関係式である近似式を得ることができる。
近似式を定めるために用いられるセメントの種類の数は、より高い精度で、本発明が目的とするセメントを得る観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である。
予め求めた近似式に、本発明の対象であるセメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を適用することによって、得られるセメントの物性(具体的には、コンクリート等の混練直後の流動性およびその後の経時変化)を最適化するための石膏半水化率を求めることができる。
【0020】
セメント製造工場において、セメントの連続的な製造のために供給中のセメントクリンカーを対象として、該セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を、1時間当たり、1回以上、より好ましくは2回以上、さらに好ましくは3回以上の頻度で、本発明を適用して、目標とする石膏半水化率を短い周期で確認することは、本発明が目的とするセメントを安定的に製造する観点から、望ましい。
また、セメントを製造する際には、まずセメントクリンカーサイロに貯蔵された、粉砕に供するセメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の代表値から、セメント粉砕工程開始段階における目標とする石膏半水化率を定め、セメントの粉砕が開始された後には、セメント製造工場のオンライン分析システムにおいてリアルタイムで得られる、粉砕されたセメントの化学組成(MgO、SO3、Na2O、K2O)および鉱物組成(C3S、C4AF)の各測定値を用いて、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を算出し、得られた含有率の大きさに応じて、適宜、目標とする石膏半水化率を更新し、その更新された目標値となるようにセメントの粉砕工程において必要な制御をすればよい。
【実施例】
【0021】
[実施例]
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の推定]
普通ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)6種(試料a−1〜a−6)、早強ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)4種(試料b−1〜b−4)、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)8種(試料c−1〜c−8)、低熱ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)3種(試料d−1〜d−3)について、これら21種のポルトランドセメントクリンカーの鉱物組成を、X線回折装置(ブルカー・エイエックス社製、「D8 ADVANCE」)を用いたリートベルト解析によって測定した。リートベルト解析には、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックス社製、「DIFFRACplusTOPAS(Ver.3)」)を使用した。
また、これら21種のポルトランドセメントクリンカーの化学組成を、水溶性アルカリ成分以外の成分(MgO、SO3、Na2O、K2O、R2O)については、「JIS R 5204(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠し、水溶性アルカリ成分(Na2SO4、K2SO4、s−R2O)については、セメント協会標準試験方法「JCAS I−04(セメントの水溶性成分の分析方法)」に準拠して測定した。
結果を表1及び表2に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
表1及び表2に示す実測値を用いて、重回帰分析を行った結果、以下の推定式(2)〜(3)を導き出した。また、推定式(2)〜(3)を上記式(1)に代入して、水溶性アルカリ成分の含有率の推定式(4)を導き出した。
(i) 硫酸ナトリウム(Na2SO)の含有率の推定式
硫酸ナトリウム(Na2SO)=0.019×MgO+0.058×SO3+0.379×Na2O+0.001×C3S−0.002×C4AF−0.088 ・・・(2)
(ii) 硫酸カリウム(K2SO)の含有率の推定式
硫酸カリウム(K2SO)=0.006×MgO+0.098×SO3+0.782×K2O+0.004×C3S−0.001×C4AF−0.324 ・・・(3)
(iii) 水溶性アルカリ成分(s−R2O)の含有率の推定式
水溶性アルカリ成分(s−R2O)=0.023×MgO+0.122×SO3+0.379×Na2O+0.514×K2O+0.003×C3S−0.003×C4AF−0.302 ・・・(4)
【0025】
上記式(2)〜(4)及び表1に示すデータを用いて、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び水溶性アルカリ成分の含有率の推定値を算出した。結果を表2に示す。
硫酸ナトリウムの推定値と実測値の組み合わせから、最小二乗法を用いて、硫酸ナトリウムの推定値と硫酸ナトリウムの実測値との関係を示す関係式を導き出した。得られた関係式の決定係数は0.9233であった。
硫酸カリウムについて、硫酸ナトリウムと同様にして関係式を導き出した。得られた関係式の決定係数は、0.9647であった。
硫酸ナトリウムに関する上記関係式と、硫酸カリウムに関する上記関係式とに基いて、水溶性アルカリ成分に関する関係式を導き出した。得られた関係式の決定係数は、0.9659であった。結果を図1に示す。
決定係数の数値から、セメントクリンカーの化学組成(MgO、SO3、Na2OおよびK2O)および鉱物組成(C3SおよびC4AF)の各データを用いることで、セメントクリンカー中の硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び水溶性アルカリ成分の含有率を、各々、高い精度で推定できることがわかる。
【0026】
[水溶性アルカリ成分の含有率と石膏半水化率の関係式の設定]
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)10種(試料A−1〜A−10)、早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)4種(試料B−1〜B−4)、中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)3種(試料C−1〜C−3)、低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)3種(試料D−1〜D−3)について、これら20種のポルトランドセメントに含まれるセメントクリンカーの化学組成を測定した。この際、水溶性アルカリ成分以外の成分(SiO2、Al23、Fe23、CaO、MgO、SO3)については、「JIS R 5204(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠して測定を行った。また、水溶性アルカリ成分については、セメント協会標準試験方法「JCAS I−04(セメントの水溶性成分の分析方法)」に準拠して測定を行った。結果を表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
また、これら20種のポルトランドセメントの鉱物組成を、X線回折装置(ブルカー・エイエックス社製、「D8 ADVANCE」)を用いたリートベルト解析によって測定した。リートベルト解析には、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックス社製、「DIFFRACplusTOPAS(Ver.3)」)を使用した。
また、得られた二水石膏と半水石膏の含有率(質量%)から、石膏半水化率(質量%)を算出した。
さらに、各種ポルトランドセメントの粉末度を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定した。
結果を表4に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
次に、以下に示す材料を用いて、混練直後のモルタルの流動性が良好でかつその後の流動性の経時変化が小さい点で、最も良好であるセメントクリンカーの石膏半水化率と、水溶性アルカリ成分の含有率との関係式を求めた。
(1)高性能AE減水剤A(ポリカルボン酸エーテル系;標準形(I種)):BASFジャパン社製、商品名「マスターグレニウムSP8N」
(2)高性能AE減水剤B(ポリカルボン酸エーテル系):BASFジャパン社製、商品名「マスターグレニウムSP8HVS
(3)硫酸カリウム(K2SO4):関東化学株式会社製;特級試薬
(4)硫酸ナトリウム(Na2SO4):関東化学株式会社製;特級試薬
(5)水溶性アルカリ成分:硫酸カリウムと硫酸ナトリウムをその質量比(硫酸カリウム/硫酸ナトリウムの質量比)が2となるように混合したもの
(6)細骨材:一般社団法人セメント協会製、セメント強さ試験用標準砂
【0031】
上記20種の各ポルトランドセメントに、上記水溶性アルカリ成分を、表5に示す添加率で添加し、得られた各セメントを用いてなるモルタルの流動性を、以下のモルタルフロー試験による評価方法によって評価した。
[モルタルフロー試験]
水/セメント(質量比)が0.35であり、細骨材/セメント(質量比)が2.0であり、高性能AE減水剤を表5に示す種類及び配合で加えたものを、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に規定される機械練り用練り混ぜ機を用いて、5分間混練したモルタルについて、「JIS A 1171(ポリマーセメントモルタルの試験方法)」に規定されているスランプコーン(上端内径:50±0.5mm;下端内径:100±0.5mm;高さ:150±0.5mm)を用いて、モルタルフロー試験を行い、モルタルフロー値を測定した。
【0032】
[セメントの流動性の評価]
ポルトランドセメントの流動性の評価は、次のようにして行った。
上記20種のポルトランドセメントの各々について、水と混練直後のモルタルフロー値の中で、セメントの試験水準の中で最も良かった値から、10mmを減じた値以上のモルタルフロー値を有する試験水準を「○」とした。
また、「○」と評価された試験水準のうち、混練直後のモルタルフロー値と、混練から30分後のモルタルフロー値との差(モルタルフロー値の減少の幅)が最も小さい試験水準を、流動性(混練直後の値と経時変化の値とを総合的に評価した物性)が最も良好である試験水準として、「◎」とした。
上記20種のポルトランドセメントの各々について、石膏半水化率と、流動性が最も良好である試験水準(表5において、「◎」で示された試験水準)における水溶性アルカリ成分の含有率(表6中、「最も良好である水溶性アルカリ成分の含有率」と示す。)を、表6に示す。
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
流動性が最も良好である水溶性アルカリ成分の含有率と、石膏半水化率の組み合わせから、重回帰分析を用いて、水溶性アルカリ成分の含有率と石膏半水化率との関係を示す近似式(下記式(5))を導き出した。得られた近似式は累乗式であった。その式を図2に示す。
得られた累乗近似式の決定係数は0.8816であった。決定係数から、水溶性アルカリ成分の含有率(質量%)と石膏半水化率は、高い相関関係を有することがわかる。
y=0.0043×x−7.638 ・・・(5)
(式(5)中、yは石膏半水化率(質量%)であり、xは水溶性アルカリ成分の含有率(質量%)である。)
【0036】
以上より、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を上記式(5)に代入することによって、流動性が最も良好となる石膏半水化率を求めることができることがわかる。
例えば、上記試料a−1(普通ポルトランドセメントクリンカー)の場合、試料a−1中の水溶性アルカリ成分の含有率(0.26;推定値)と上記式(5)から、流動性が最も良好である石膏半水化率の値(29%)を得ることができる。
つまり、普通ポルトランドセメントクリンカーとして試料a−1を用いてセメントを製造する際に、セメントの石膏半水化率が29%となるようにセメントの仕上粉砕工程におけるミル内の通風量や散水量等を制御することによって、流動性(混練直後、経時変化)が総合的に最も良好であるセメントを製造することができる。
図1
図2