【実施例】
【0021】
[実施例]
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率の推定]
普通ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)6種(試料a−1〜a−6)、早強ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)4種(試料b−1〜b−4)、中庸熱ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)8種(試料c−1〜c−8)、低熱ポルトランドセメントクリンカー(太平洋セメント社製)3種(試料d−1〜d−3)について、これら21種のポルトランドセメントクリンカーの鉱物組成を、X線回折装置(ブルカー・エイエックス社製、「D8 ADVANCE」)を用いたリートベルト解析によって測定した。リートベルト解析には、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックス社製、「DIFFRAC
plusTOPAS(Ver.3)」)を使用した。
また、これら21種のポルトランドセメントクリンカーの化学組成を、水溶性アルカリ成分以外の成分(MgO、SO
3、Na
2O、K
2O、R
2O)については、「JIS R 5204(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠し、水溶性アルカリ成分(Na
2SO
4、K
2SO
4、s−R
2O)については、セメント協会標準試験方法「JCAS I−04(セメントの水溶性成分の分析方法)」に準拠して測定した。
結果を表1及び表2に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
表1及び表2に示す実測値を用いて、重回帰分析を行った結果、以下の推定式(2)〜(3)を導き出した。また、推定式(2)〜(3)を上記式(1)に代入して、水溶性アルカリ成分の含有率の推定式(4)を導き出した。
(i) 硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)の含有率の推定式
硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)=0.019×MgO+0.058×SO
3+0.379×Na
2O+0.001×C
3S−0.002×C
4AF−0.088 ・・・(2)
(ii) 硫酸カリウム(K
2SO
4)の含有率の推定式
硫酸カリウム(K
2SO
4)=0.006×MgO+0.098×SO
3+0.782×K
2O+0.004×C
3S−0.001×C
4AF−0.324 ・・・(3)
(iii) 水溶性アルカリ成分(s−R
2O)の含有率の推定式
水溶性アルカリ成分(s−R
2O)=0.023×MgO+0.122×SO
3+0.379×Na
2O+0.514×K
2O+0.003×C
3S−0.003×C
4AF−0.302 ・・・(4)
【0025】
上記式(2)〜(4)及び表1に示すデータを用いて、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び水溶性アルカリ成分の含有率の推定値を算出した。結果を表2に示す。
硫酸ナトリウムの推定値と実測値の組み合わせから、最小二乗法を用いて、硫酸ナトリウムの推定値と硫酸ナトリウムの実測値との関係を示す関係式を導き出した。得られた関係式の決定係数は0.9233であった。
硫酸カリウムについて、硫酸ナトリウムと同様にして関係式を導き出した。得られた関係式の決定係数は、0.9647であった。
硫酸ナトリウムに関する上記関係式と、硫酸カリウムに関する上記関係式とに基いて、水溶性アルカリ成分に関する関係式を導き出した。得られた関係式の決定係数は、0.9659であった。結果を
図1に示す。
決定係数の数値から、セメントクリンカーの化学組成(MgO、SO
3、Na
2OおよびK
2O)および鉱物組成(C
3SおよびC
4AF)の各データを用いることで、セメントクリンカー中の硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び水溶性アルカリ成分の含有率を、各々、高い精度で推定できることがわかる。
【0026】
[水溶性アルカリ成分の含有率と石膏半水化率の関係式の設定]
普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)10種(試料A−1〜A−10)、早強ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)4種(試料B−1〜B−4)、中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)3種(試料C−1〜C−3)、低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)3種(試料D−1〜D−3)について、これら20種のポルトランドセメントに含まれるセメントクリンカーの化学組成を測定した。この際、水溶性アルカリ成分以外の成分(SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、MgO、SO
3)については、「JIS R 5204(セメントの蛍光X線分析方法)」に準拠して測定を行った。また、水溶性アルカリ成分については、セメント協会標準試験方法「JCAS I−04(セメントの水溶性成分の分析方法)」に準拠して測定を行った。結果を表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
また、これら20種のポルトランドセメントの鉱物組成を、X線回折装置(ブルカー・エイエックス社製、「D8 ADVANCE」)を用いたリートベルト解析によって測定した。リートベルト解析には、解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックス社製、「DIFFRAC
plusTOPAS(Ver.3)」)を使用した。
また、得られた二水石膏と半水石膏の含有率(質量%)から、石膏半水化率(質量%)を算出した。
さらに、各種ポルトランドセメントの粉末度を、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定した。
結果を表4に示す。
【0029】
【表4】
【0030】
次に、以下に示す材料を用いて、混練直後のモルタルの流動性が良好でかつその後の流動性の経時変化が小さい点で、最も良好であるセメントクリンカーの石膏半水化率と、水溶性アルカリ成分の含有率との関係式を求めた。
(1)高性能AE減水剤A(ポリカルボン酸エーテル系;標準形(I種)):BASFジャパン社製、商品名「マスターグレニウムSP8N」
(2)高性能AE減水剤B(ポリカルボン酸エーテル系):BASFジャパン社製、商品名「マスターグレニウムSP8HV
S」
(3)硫酸カリウム(K
2SO
4):関東化学株式会社製;特級試薬
(4)硫酸ナトリウム(Na
2SO
4):関東化学株式会社製;特級試薬
(5)水溶性アルカリ成分:硫酸カリウムと硫酸ナトリウムをその質量比(硫酸カリウム/硫酸ナトリウムの質量比)が2となるように混合したもの
(6)細骨材:一般社団法人セメント協会製、セメント強さ試験用標準砂
【0031】
上記20種の各ポルトランドセメントに、上記水溶性アルカリ成分を、表5に示す添加率で添加し、得られた各セメントを用いてなるモルタルの流動性を、以下のモルタルフロー試験による評価方法によって評価した。
[モルタルフロー試験]
水/セメント(質量比)が0.35であり、細骨材/セメント(質量比)が2.0であり、高性能AE減水剤を表5に示す種類及び配合で加えたものを、「JIS R 5201(セメントの物理試験方法)」に規定される機械練り用練り混ぜ機を用いて、5分間混練したモルタルについて、「JIS A 1171(ポリマーセメントモルタルの試験方法)」に規定されているスランプコーン(上端内径:50±0.5mm;下端内径:100±0.5mm;高さ:150±0.5mm)を用いて、モルタルフロー試験を行い、モルタルフロー値を測定した。
【0032】
[セメントの流動性の評価]
ポルトランドセメントの流動性の評価は、次のようにして行った。
上記20種のポルトランドセメントの各々について、水と混練直後のモルタルフロー値の中で、セメントの試験水準の中で最も良かった値から、10mmを減じた値以上のモルタルフロー値を有する試験水準を「○」とした。
また、「○」と評価された試験水準のうち、混練直後のモルタルフロー値と、混練から30分後のモルタルフロー値との差(モルタルフロー値の減少の幅)が最も小さい試験水準を、流動性(混練直後の値と経時変化の値とを総合的に評価した物性)が最も良好である試験水準として、「◎」とした。
上記20種のポルトランドセメントの各々について、石膏半水化率と、流動性が最も良好である試験水準(表5において、「◎」で示された試験水準)における水溶性アルカリ成分の含有率(表6中、「最も良好である水溶性アルカリ成分の含有率」と示す。)を、表6に示す。
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
流動性が最も良好である水溶性アルカリ成分の含有率と、石膏半水化率の組み合わせから、重回帰分析を用いて、水溶性アルカリ成分の含有率と石膏半水化率との関係を示す近似式(下記式(5))を導き出した。得られた近似式は累乗式であった。その式を
図2に示す。
得られた累乗近似式の決定係数は0.8816であった。決定係数から、水溶性アルカリ成分の含有率(質量%)と石膏半水化率は、高い相関関係を有することがわかる。
y=0.0043×x
−7.638 ・・・(5)
(式(5)中、yは石膏半水化率(質量%)であり、xは水溶性アルカリ成分の含有率(質量%)である。)
【0036】
以上より、セメントクリンカー中の水溶性アルカリ成分の含有率を上記式(5)に代入することによって、流動性が最も良好となる石膏半水化率を求めることができることがわかる。
例えば、上記試料a−1(普通ポルトランドセメントクリンカー)の場合、試料a−1中の水溶性アルカリ成分の含有率(0.26;推定値)と上記式(5)から、流動性が最も良好である石膏半水化率の値(29%)を得ることができる。
つまり、普通ポルトランドセメントクリンカーとして試料a−1を用いてセメントを製造する際に、セメントの石膏半水化率が29%となるようにセメントの仕上粉砕工程におけるミル内の通風量や散水量等を制御することによって、流動性(混練直後、経時変化)が総合的に最も良好であるセメントを製造することができる。