(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリオルガノシロキサンは、1分子中に少なくとも1個の水酸基を有することを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
前記ポリオルガノシロキサンは、1分子中に少なくとも1個の、ポリエステル基およびポリエーテル基から選択される1種類以上の有機基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
前記ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は、1000〜300000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
前記基材と前記剥離剤層との間に位置する樹脂層をさらに備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
前記樹脂層は、全酸価が0.030〜0.154mgKOH/gであり、重量平均分子量が1000〜10000であるメラミン樹脂を含有する組成物から形成されたものであることを特徴とする請求項8に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム〕
図1に示すように、第1の実施形態に係るセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム1A(以下単に「剥離フィルム1A」という場合がある。)は、基材11と、基材11の一方の面(
図1では上面)に積層された剥離剤層12とを備えて構成される。
【0023】
また、
図2に示すように、第2の実施形態に係るセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム1B(以下単に「剥離フィルム1B」という場合がある。)は、基材11と、基材11の一方の面(
図2では上面)に積層された樹脂層13と、樹脂層13の基材11とは反対側の面(
図2では上面)に積層された剥離剤層12とを備えて構成される。
【0024】
1.剥離剤層
剥離フィルム1A,1Bの剥離剤層12は、全酸価が0.030〜0.154mgKOH/gであり、重量平均分子量が1000〜10000であるメラミン樹脂と、ポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物から形成されたものである。
【0025】
剥離フィルム1A,1Bでは、剥離剤層12がポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物から形成されるため、剥離面における表面自由エネルギーが適度に低下する。さらに、剥離剤層12がメラミン樹脂を含有する剥離剤組成物から形成されるため、加熱することで剥離剤組成物を十分に硬化させることができ、その結果、形成される剥離剤層12が十分な弾性を有する。これらにより、剥離フィルム1A,1Bの剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートから剥離フィルム1A,1Bを剥離する際の剥離力が適度に低下し、良好な剥離性が発揮される。
【0026】
また、一般的に、メラミン樹脂は架橋反応を行う際、当該反応に利用される官能基の種類に応じてアルコール(R−OH)、エーテル(R−O−R)または水を脱離する。これらの脱離した成分は、剥離剤層12の形成時に、剥離剤層12から放出される。特に、高温条件下で架橋反応を行う場合には、当該放出が促進される。このような放出が原因となって、剥離剤層12の体積収縮が生じ、それに伴い剥離フィルムのカールが発生すると考えられる。
【0027】
一方、剥離フィルム1A,1Bの剥離剤層12を形成するための剥離剤組成物では、メラミン樹脂の全酸価が0.030〜0.154mgKOH/gである。このことは、当該メラミン樹脂中のメチロール基(−CH
2−OH)の量が比較的多いことを意味する。このようなメラミン樹脂が縮合反応した場合、脱離する成分として水の比率が大きくなる。これにより、当該メラミン樹脂から形成される剥離剤層12は、メチロール基の含有量が少ないメラミン樹脂から形成される剥離剤層と比較して体積収縮の程度は小さくなり、剥離フィルム1A,1Bにおけるカールの発生も抑制される。
【0028】
さらに、剥離フィルム1A,1Bの剥離剤層12を形成するための剥離剤組成物では、メラミン樹脂の重量平均分子量が1000〜10000であり、このことは、当該メラミン樹脂がメラミン化合物の多核体を多く含有することを意味する。メラミン化合物の多核体は、単核体と比べて、縮合反応がある程度進行した化学構造を有している。このようなメラミン化合物の多核体を多く含有するメラミン樹脂を含む剥離剤組成物を硬化させることで、脱離する成分の量が減る分、体積収縮も小さくなる。この点からも、剥離フィルム1A,1Bでは、カールの発生がより抑制される。
【0029】
(1)メラミン樹脂
剥離剤層12を形成するための剥離剤組成物において、メラミン樹脂の全酸価は、0.030〜0.154mgKOH/gであり、0.032〜0.100mgKOH/gであることが好ましく、特に0.035〜0.070mgKOH/gであることが好ましい。メラミン樹脂の全酸価とは、1gのメラミン樹脂に含まれる水酸化カリウムと反応し得る基を完全に反応させるために必要な水酸化カリウムの質量(mg)を意味する。本明細書において、メラミン樹脂の全酸価は、理論値ではなく、実際の測定値により表されるものとする。ここで、水酸化カリウムと反応し得る基とは、メチロール基(−CH
2−OH)であり、イミノ基(−NH−)およびアルキルエーテル基(−CH
2−OR)は水酸化カリウムとは反応しない。なお、メラミン樹脂の全酸価の具体的な測定方法は、後述する試験例に示すとおりである。全酸価が0.030mgKOH/g未満であると、メラミン樹脂中のイミノ基およびアルキルエーテル基の割合が比較的大きくなり、縮合反応の際に分子容の大きな成分が脱離する割合が大きくなる。これにより、縮合反応による体積収縮の程度が大きくなり、得られる剥離フィルムにおいてカールが発生してしまう。一方、全酸価が0.154mgKOH/gを超える場合、縮合反応に関与しない酸性基が過剰に存在することとなり、架橋速度を制御することが困難となり、剥離面上に形成されるセラミックグリーンシートの品質低下が懸念されることとなる。
【0030】
剥離剤層12を形成するための剥離剤組成物において、メラミン樹脂の重量平均分子量は、1000〜10000であり、1000〜5000であることが好ましく、特に1000〜4000であることが好ましい。重量平均分子量が1000未満であると、メラミン樹脂が単核体を多く含み、縮合反応によって脱離する成分の量が増える。これにより、剥離剤組成物が硬化する際の体積収縮が生じ易くなり、得られる剥離フィルム1A,1Bにはカールが生じ易くなる。一方、重量平均分子量が10000を超えると、剥離剤組成物の粘度が高くなり、基材11上に剥離剤組成物を塗工する際の塗工性が悪くなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0031】
上記メラミン樹脂は、具体的には、下記一般式(a)で示されるメラミン化合物、または2個以上の当該メラミン化合物が縮合してなる多核体を含有することが好ましい。
【化2】
【0032】
式(a)中、Xは、−H、−CH
2−OH、または−CH
2−O−Rを示す。これらの基は、上記メラミン化合物同士の縮合反応における反応基を構成する。具体的には、XがHとなることで形成される−NH基は、−N−CH
2−OH基および−N−CH
2−R基との間で縮合反応を行うことができる。また、Xが−CH
2−OHとなることで形成される−N−CH
2−OH基およびXが−CH
2−Rとなることで形成される−N−CH
2−R基は、ともに、−NH基、−N−CH
2−OH基および−N−CH
2−R基との間で縮合反応を行うことができる。式(a)中、少なくとも1個のXは−CH
2−OHである。−CH
2−OH基において縮合反応が生じた場合、体積収縮を抑制する効果が高くなり、剥離フィルム1A,1Bにおけるカールをより抑制することができる。メラミン樹脂が、上記メラミン化合物が縮合してなる多核体を含む場合、当該多核体自体が少なくとも1個の−CH
2−OH基を有する。また、−CH
2−OH基および−CH
2−O−R基は、ポリオルガノシロキサンが水酸基といった反応基を有する場合、当該反応基との間における化学結合に供される。
【0033】
上記−CH
2−O−R基において、Rは、炭素数1〜8個のアルキル基を示す。当該炭素数は、1〜6個であることが好ましく、特に1〜3個であることが好ましい。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0034】
上記Xは、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、上記Rは、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
メラミン化合物には、一般に、全てのXが−CH
2−O−Rであるフルエーテル型、少なくとも1個のXが−CH
2−OHであり且つ少なくとも1個のXがHであるイミノ・メチロール型、少なくとも1個のXが−CH
2−OHであり且つHであるXが存在しないメチロール型、および、少なくとも1個のXがHであり且つHである−CH
2−OHが存在しないイミノ型といった種類が存在する。剥離フィルム1A,1Bでは、カールを抑制し易いという観点、および全酸価が0.030〜0.154mgKOH/gであるという物性を達成し易いという観点から、上記メラミン樹脂は、イミノ・メチロール型またはメチロール型のメラミン化合物を含むことが好ましい。特に、式(a)中、より多くのXが−CH
2−OHであることが好ましく、具体的には、−CH
2−OHであるXの数が、少なくとも1個であることが好ましく、特に、少なくとも3個であることが好ましい。
【0036】
また、剥離フィルム1A,1Bにおけるカールを抑制し易いという観点、および重量平均分子量が1000〜10000であるという物性を達成し易いという観点から、メラミン樹脂は、上記式(a)で表される化合物が2〜10個縮合してなる多核体であることが好ましく、特に3〜9個縮合してなる多核体であることが好ましく、さらには4〜7個縮合してなる多核体であることが好ましい。
【0037】
(2)ポリオルガノシロキサン
ポリオルガノシロキサンは、特に限定されるものではない。剥離フィルム1A,1Bの剥離剤層12が、ポリオルガノシロキサンを含有する剥離剤組成物によって形成されることで、剥離フィルム1A,1Bは良好な剥離性を発揮することができる。ポリオルガノシロキサンとしては、下記の一般式(b)で示されるケイ素含有化合物の重合体を使用することができる。
【化3】
【0038】
式(b)中、mは1以上の整数である。また、R
1〜R
8の少なくとも1個は、水酸基または水酸基を有する有機基であることが好ましい。すなわち、式(b)で表されるポリオルガノシロキサンは、1分子中に少なくとも1個の水酸基または水酸基を有する有機基を含むことが好ましい。また、上記ポリオルガノシロキサン1分子における水酸基または水酸基を有する有機基の数の上限は、特に制限されないものの、例えば20個である。ポリオルガノシロキサンが水酸基または水酸基を有する有機基を含むことで、これらの水酸基とメラミン樹脂の−CH
2−OH基または−CH
2−O−R基との間で縮合反応が生じ、ポリオルガノシロキサンがメラミン硬化物に繋がった構造が形成される。これにより、剥離フィルム1A,1Bの剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートに対して、剥離剤層12からポリオルガノシロキサンが移行することが抑制される。特に、R
3〜R
8の少なくとも1個が水酸基または水酸基を有する有機基であることが好ましい。すなわち、水酸基の少なくとも1個は、ポリオルガノシロキサンの末端に存在することが好ましい。水酸基が末端に存在することで、ポリオルガノシロキサンがメラミン樹脂との間で縮合反応し易くなり、上記移行が効果的に抑制される。
【0039】
式(b)中、R
1〜R
8のうち、水酸基以外の基の少なくとも1個は、有機基であることが好ましい。ここで、式(b)中のR
1〜R
8の少なくとも1個が水酸基である場合、その他のR
1〜R
8に含まれる有機基は、水酸基を有する有機基であってもよく、または水酸基を有しない有機基であってもよい。一方、式(b)中のR
1〜R
8のいずれもが水酸基でない場合、その他のR
1〜R
8に含まれる有機基は、水酸基を有する有機基であることが好ましい。なお、本明細書において、「有機基」は、後述するアルキル基を含まないものとする。式(b)で表されるポリオルガノシロキサンは、水酸基を有する有機基または水酸基を有しない有機基を1分子中に少なくとも1個有することが好ましく、特に1〜10個有することが好ましく、さらには1〜5個有することが好ましい。ここで、有機基は、ポリエステル基およびポリエーテル基から選択される1種類以上の有機基であることが好ましい。1分子中にポリエステル基およびポリエーテル基の両方が存在していてもよい。ポリエステル基またはポリエーテル基に水酸基が含まれる場合、当該水酸基はこれらの有機基の末端に存在していてもよく、または、これらの有機基の側鎖に存在していてもよい。ポリオルガノシロキサンが上記有機基を有することで、剥離剤組成物中においてポリオルガノシロキサンとメラミン樹脂とが良好に混合され、硬化の際においてこれらが極端に相分離することが抑制される。
【0040】
式(b)中、R
1〜R
8のうち、上述した基以外の基は、炭素数1〜12のアルキル基であることが好ましい。炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0041】
R
1〜R
8は同一であっても異なっていてもよい。また、R
1およびR
2が複数存在する場合、R
1およびR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
上記ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量は1000〜300000であることが好ましく、特に3000〜100000であることが好ましく、さらには4000〜50000であることが好ましい。ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が1000以上であることで、剥離剤層12の剥離面における表面自由エネルギーが適度に低下し、セラミックグリーンシートから剥離フィルム1A,1Bを剥離する際の剥離力を効果的に低下させることができる。ポリオルガノシロキサンの重量平均分子量が300000以下であることで、剥離剤組成物の粘度が過度に高くなることが抑制され、剥離剤組成物を基材11に塗工し易くなる。
【0043】
剥離剤組成物中におけるポリオルガノシロキサンの含有量は、メラミン樹脂100質量部に対して、0.05〜15質量部であることが好ましく、特に0.1〜10質量部であることが好ましく、さらには0.5〜8質量部であることが好ましい。剥離剤組成物中におけるポリオルガノシロキサンの含有量が0.05質量部以上であることで、剥離剤層12の剥離面の表面自由エネルギーが十分に低下し、適度な剥離力を達成することができる。一方、剥離剤組成物中におけるポリオルガノシロキサンの含有量が15質量部以下であることで、メラミン樹脂の含有量を確保することができる。これにより、剥離剤層12の弾性が向上し、適度な剥離力を達成することができる。
【0044】
(3)その他の成分
剥離剤組成物は、酸触媒をさらに含有することが好ましい。酸触媒の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、p−トルエンスルホン酸等が好ましく、特にp−トルエンスルホン酸が好ましい。剥離剤組成物が酸触媒を含有することにより、上記メラミン樹脂における縮合反応が効率よく進行する。
【0045】
剥離剤組成物中における酸触媒の含有量は、メラミン樹脂100質量部に対して、0.1〜30質量部であることが好ましく、特に0.5〜20質量部であることが好ましく、さらには1〜15質量部であることが好ましい。
【0046】
剥離剤組成物は、上記成分の他、架橋剤、反応抑制剤等を含有していてもよい。
【0047】
(4)厚さ
剥離剤層12の厚さは、0.1〜3μmであることが好ましく、特に0.2〜2μmであることが好ましく、さらには0.3〜1.5μmであることが好ましい。剥離剤層12の厚さが0.1μm以上であることで、剥離剤層12としての機能を効果的に発揮することができる。特に、メラミン硬化物を含む剥離剤層12の厚さが通常よりも厚いことにより、剥離剤層12の弾性が高まり、剥離性が向上する。また、剥離剤層12の厚さが3μm以下であることで、剥離フィルム1A,1Bをロール状に巻き取った際に、ブロッキングが発生することを抑制することができる。0.1〜3μmといった剥離剤層12の厚さは、通常の剥離剤層12と比較して厚い。通常、剥離剤層12の厚さが厚いほどカールが生じ易い。しかしながら、剥離フィルム1A,1Bでは、剥離剤層12が前述のメラミン樹脂を含む剥離剤組成物により形成されていることにより、剥離剤層12の厚さが厚い場合であってもカールの発生を抑制することができる。
【0048】
2.基材
剥離フィルム1A,1Bの基材11は、剥離剤層12または樹脂層13を積層することができれば特に限定されるものではない。かかる基材11としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルなどのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等によるセラミックスラリー塗工不良等を効果的に防止することができる。さらに、ポリエチレンテレフタレートフィルムに帯電防止処理を行うことで、有機溶剤を使用するセラミックスラリーを塗工する際の静電気による発火を防止したり、塗工不良等を防止する効果を高めることができる。
【0049】
また、この基材11においては、その表面に設けられる剥離剤層12または樹脂層13との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果及び操作性の面から好ましく用いられる。
【0050】
基材11の厚さは、通常10〜300μmであればよく、好ましくは15〜200μmであり、特に好ましくは20〜125μmである。
【0051】
3.樹脂層
剥離フィルム1Bに設けられる樹脂層13は、
図2に示されるように基材11と剥離剤層12との間に位置する。基材11と剥離剤層12との間に樹脂層13を設けることで、基材11の剥離剤層12側の面における凹凸を吸収し、剥離フィルム1Bの剥離面の粗さを低くすることができる。
【0052】
樹脂層13を形成する樹脂としては、特に限定されず、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、特にメラミン樹脂によって樹脂層13を形成することが好ましい。樹脂層13をメラミン樹脂によって形成することにより、樹脂層13と基材11との間および樹脂層13と剥離剤層12との間の接着力が向上し、さらに、剥離フィルム1Bの剥離面側における弾性が向上し、セラミックグリーンシートから剥離フィルム1Bを剥離する際の剥離力が適度に低下する。
【0053】
樹脂層13を形成するためのメラミン樹脂は、特に限定されるものではない。しかしながら、樹脂層13自体の収縮を抑制するという観点から、樹脂層13のためのメラミン樹脂として、剥離剤層12を形成するために使用される前述のメラミン樹脂を使用することが好ましく、すなわち、樹脂層13は、前述のメラミン樹脂を含有する組成物を使用して形成することが好ましい。
【0054】
また、樹脂層13は、メラミン樹脂とともに、メラミン樹脂以外の成分を含有してもよく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂といった樹脂を含有してもよい。樹脂層13がこれらの樹脂を含有する場合、その含有量は、メラミン樹脂100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、特に10〜150質量部であることが好ましく、30〜100質量部であることが好ましい。また、樹脂層13は、架橋剤、反応抑制剤、密着向上剤等を含有してもよい。
【0055】
樹脂層13の厚さは、通常0.1〜3μmであればよく、好ましくは0.2〜2μmであり、特に好ましくは0.3〜1.5μmである。
【0056】
4.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの物性
剥離フィルム1A,1Bの剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートから、当該剥離フィルム1A,1Bを剥離する際に要する剥離力は、適宜設定することができるが、2.5〜50mN/20mmであることが好ましく、特に5〜25mN/20mmであることが好ましい。剥離フィルム1A,1Bにおける剥離剤層は、上記メラミン樹脂とポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物によって形成されるため、2.5〜50mN/20mmといった剥離力に適宜設定することが可能である。
【0057】
5.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造方法
剥離フィルム1Aを製造する場合、基材11の一方の面に、前述した剥離剤組成物及び所望により有機溶剤を含有する塗工液を塗工した後、乾燥および加熱することで剥離剤組成物を硬化させ、剥離剤層12を形成する。これにより剥離フィルム1Aが得られる。塗工方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法などが使用できる。
【0058】
また、剥離フィルム1Bを製造する場合には、基材11の一方の面に、例えば、メラミン樹脂の原料となるメラミン樹脂を含有する塗工液を塗工した後、乾燥および加熱することで樹脂層13を形成する。さらに、樹脂層13の基材11とは反対側の面に、前述した剥離剤組成物及び所望により有機溶剤を含有する塗工液を塗工した後、乾燥および加熱することで剥離剤組成物を硬化させ、剥離剤層12を形成する。これにより剥離フィルム1Bが得られる。これらの塗工方法としては、上述の塗工方法と同様のものを使用することができる。
【0059】
上記有機溶剤としては特に制限はなく、様々なものを用いることができる。例えばトルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素化合物をはじめ、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びこれらの混合物等が用いられる。特に、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとの混合液を使用することが好ましい。
【0060】
上記のように塗工した剥離剤組成物は、熱硬化させることが好ましい。この場合の加熱温度は90〜140℃であることが好ましく、特に110〜130℃であることが好ましい。また、加熱時間は10〜120秒程度であることが好ましく、特に50〜70秒程度であることが好ましい。
【0061】
剥離フィルム1A,1Bでは、剥離剤層12が、前述のメラミン樹脂とポリオルガノシロキサンとを含有する剥離剤組成物によって形成されることにより、優れた剥離性を発揮しつつ、カールの発生が抑制される。特に、高温条件下で剥離剤層12を形成する場合であっても、カールの発生が効果的に抑制される。
【0062】
6.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの使用方法
剥離フィルム1A,1Bは、セラミックグリーンシートを製造するために使用することができる。具体的には、剥離剤層12の剥離面に対し、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを塗工した後、当該セラミックスラリーを乾燥させることでセラミックグリーンシートを得ることができる。塗工は、例えば、スロットダイ塗工方式やドクターブレード方式等を用いて行うことができる。
【0063】
セラミックスラリーに含まれるバインダー成分の例としては、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。また、セラミックスラリーに含まれる溶媒の例としては、有機溶媒、水系溶媒等が挙げられる。
【0064】
剥離フィルム1A,1Bは、前述の通り、良好な剥離性を発揮し、さらにカールの発生が抑制されている。そのため、当該剥離フィルム1A,1Bを使用してセラミックグリーンシートを成形すると、セラミックグリーンシートから剥離フィルム1A,1Bを剥離する場合に適度な剥離力で剥離することが可能であり、また、湾曲のない、平面状のセラミックグリーンシートを得ることができる。
【0065】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0066】
例えば、基材11における剥離剤層12の反対側の面、剥離フィルム1Aにおける基材11と剥離剤層12との間、または、剥離フィルム1Bにおける基材11と樹脂層13との間もしくは樹脂層13と剥離剤層12との間には、帯電防止層等の他の層が設けられてもよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0068】
〔実施例1〕
イミノ型メチル化メラミン樹脂(a1)(日本カーバイド社製,商品名:MX−730,重量平均分子量1508)100質量部(固形分として換算した量、以下同じ)と、ポリエーテル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(b1)(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−377)1.0質量部と、酸触媒としてのp−トルエンスルホン酸(日立化成社製,商品名:ドライヤー900)4.0質量部とを、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとイソブチルアルコールとの混合溶剤にて混合し、固形分20質量%の剥離剤組成物の塗布液を得た。
【0069】
得られた塗布液を、基材としての二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:25μm)における、最大突起高さRpが452nmである面の上にマイヤーバー♯6により均一に塗布した。次いで、120℃で1分間加熱乾燥し、剥離剤組成物を硬化させ、基材上に厚さ1.2μmの剥離剤層が積層された剥離フィルムを得た。
【0070】
なお、基材および剥離剤層の厚さは、反射式膜厚計(フィルメトリックス社製,製品名:F20)を用いて測定した。
【0071】
〔実施例2〜4〕
ポリエーテル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(b1)(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−377)を、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(b2)(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−370)に変更し、当該b2の質量部数を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0072】
〔実施例5〕
酸触媒の質量部数を表1に示すように変更した以外は、実施例2と同様にして剥離フィルムを得た。
【0073】
〔実施例6〕
イミノ型メチル化メラミン樹脂(a1)(日本カーバイド社製,商品名:MX−730,重量平均分子量1508)を、イミノ・メチロール型メチル化メラミン樹脂(a2)(日本カーバイド社製,商品名:MS−001,重量平均分子量3987,分子量分布(Mw/Mn)1.51)に変更した以外は、実施例2と同様にして剥離フィルムを得た。
【0074】
〔実施例7および8〕
剥離剤層の厚さを表1に示すように変更した以外は、実施例2と同様にして剥離フィルムを得た。
【0075】
〔実施例9〕
ポリエーテル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(b1)(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−377)を、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン(b3)(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−325)に変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0076】
〔実施例10〕
ポリエーテル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(b1)(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−377)を、ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン(b4)(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−UV3500)に変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0077】
〔比較例1〕
イミノ型メチル化メラミン樹脂(a1)(日本カーバイド社製,商品名:MX−730,重量平均分子量1508)を、フルエーテル型メチル化メラミン樹脂(a3)(日本カーバイド社製,商品名:MW−30,重量平均分子量608,分子量分布(Mw/Mn)1.01)に変更した以外は、実施例2と同様にして剥離フィルムを得た。
【0078】
〔比較例2〕
イミノ型メチル化メラミン樹脂(a1)(日本カーバイド社製,商品名:MX−730,重量平均分子量1508)を、フルエーテル型メチル化メラミン樹脂(a4)(DIC社製,商品名:L−105−60,重量平均分子量684,分子量分布(Mw/Mn)1.52)に変更した以外は、実施例2と同様にして剥離フィルムを得た。
【0079】
〔試験例1〕(全酸価の測定)
実施例および比較例で使用したメラミン樹脂を、固形分濃度が50質量%となるようにイソプロピルアルコールによって希釈し、この希釈液を200mLビーカに10g採取した。これに対して、トルエン、純水および2−プロパノールを500:5:495の質量比で混合した溶液を125mL添加し、測定サンプルを得た。なお、実施例および比較例で使用したメラミン樹脂の各商品が、溶剤としたイソプロピルアルコール以外のものを使用している場合、乾燥させて溶剤を除去した後、イソプロピルアルコールによって希釈し、固形分濃度を50質量%とした。
【0080】
当該測定サンプルに対して、電位差自動滴定装置(京都電子工業社製,製品名:AT−610 EBU−610−20B)を用いて、水酸化カリウム標準2−プロパノール溶液による滴定を行い、中和に要する水酸化カリウム標準2−プロパノール溶液の量を測定した。測定は3回行い、その平均値を算出した。この平均値から、1gのメラミン樹脂を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)を算出し、全酸価(mgKOH/g)とした。結果を表1に示す。
【0081】
〔試験例2〕(カール量の測定)
実施例および比較例で製造した剥離フィルムを、10cm角に切り出し、測定サンプルを得た。当該測定サンプルを、70℃の恒温槽に2時間静置した。その後、当該測定サンプルを平らなガラスに置いた。測定サンプルが湾曲している場合、凸になっている面が当該ガラスに向くように置いた。測定サンプルの4つの頂点について、当該ガラスからの高さを測定し、その合計をカール量の測定値(mm)とした。結果を表1に示す。
【0082】
〔試験例3〕(剥離力の測定)
チタン酸バリウム(BaTiO
3;堺化学工業社製,商品名:BT−03)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学工業社製,商品名:エスレックB・KBM−2)10質量部、およびフタル酸ジオクチル(関東化学社製,商品名:フタル酸ジオクチル鹿1級)5質量部に、トルエン69質量部およびエタノール46質量部を加え、ボールミルにて混合分散させて、セラミックスラリーを調製した。
【0083】
実施例および比較例にて製造してから常温で48時間保管した剥離フィルムにおいて、剥離剤層の剥離面に、アプリケーターを用いて上記セラミックスラリーを均一に塗工し、その後、乾燥機にて80℃で1分間乾燥させた。これにより、剥離フィルム上に厚さ3μmのセラミックグリーンシートが得られた。このようにして、セラミックグリーンシート付剥離フィルムを製造した。
【0084】
このセラミックグリーンシート付剥離フィルムを、室温23度、湿度50%の雰囲気下に24時間静置した。次に、セラミックグリーンシートにおける剥離フィルムとは反対側の面に対し、アクリル粘着テープ(日東電工社製,商品名:31Bテープ)を貼付し、その状態で20mm幅に裁断した。これを測定サンプルとした。
【0085】
当該測定サンプルの粘着テープ側を平板に固定し、引張試験機(島津製作所社製,製品名:AG−IS500N)を用いて180°の剥離角度、100mm/分の剥離速度でセラミックグリーンシートから剥離フィルムを剥離し、剥離するのに必要な力(剥離力;mN/20mm)を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[メラミン樹脂]
a1:イミノ型メチル化メラミン樹脂(日本カーバイド社製,商品名:MX−730,重量平均分子量1508,分子量分布(Mw/Mn)1.18)
a2:イミノ・メチロール型メチル化メラミン樹脂(日本カーバイド社製,商品名:MS−001,重量平均分子量3987,分子量分布(Mw/Mn)1.51)
a3:フルエーテル型メチル化メラミン樹脂(日本カーバイド社製,商品名:MW−30,重量平均分子量608,分子量分布(Mw/Mn)1.01)
a4:フルエーテル型メチル化メラミン樹脂(DIC社製,商品名:L−105−60,重量平均分子量684,分子量分布(Mw/Mn)1.52)
[ポリオルガノシロキサン]
b1:ポリエーテル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−377)
b2:ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−370)
b3:ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−325)
b4:ポリエーテル変性アクリル基含有ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン社製,商品名:BYK−UV3500)
【0087】
【表1】
【0088】
表1から明らかなように、実施例で得られた剥離フィルムでは、カールの発生が抑制され、さらに、セラミックグリーンシートから剥離する際に適度な剥離力で剥離することが可能であった。なお、実施例で得られた剥離シートでは、剥離面の最大突起高さRpが比較的低く、平滑性にも優れていることも確認された。
【0089】
一方、比較例で得られた剥離フィルムでは、大きなカールが発生した。