(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、車椅子においては、車輪をモータにより回転駆動させる電動のものが用いられている。また、老人等がもたれ掛かりながら手押しすることで歩行を補助するシルバーカー等の手押し移動体においても、モータによるアシストを行うことが検討されている。
【0003】
このような電動車椅子や手押し移動体においては、通常時はモータの回転を車輪に伝達し、モータによる推進力が不要な場合にはモータの回転が車輪に伝達されないように、モータと車輪との連結を断続するクラッチ機構を備えたものがある(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0004】
特許文献1に開示されたクラッチ機構は、スライド部材(操作部材)を操作して、モータ側のギヤを車軸方向に移動させることで、モータ側のギヤと車輪側の回転部材との噛み合いを断続する。
このような構成において、モータと車輪との連結を解除するときには、モータ側のギヤと車輪側の回転部材に形成された内歯とが噛み合った状態から、スライド部材を車軸方向に押し込む。すると、コイルバネが圧縮されるとともに、ギヤが車軸方向に移動してギヤと内歯との噛み合いが解除され、モータと車輪との連結が遮断される。車軸方向に押し込んだスライド部材は、軸回りに回転させることでロックされ、ギヤと内歯ギヤとの噛み合いが解除された状態を維持する。
【0005】
モータと車輪とを連結するときには、スライド部材を軸回りに回転させると、圧縮状態のコイルバネの押圧力によって、ギヤがスライド部材とともに車軸方向に沿って回転部材側に移動し、回転部材の内歯に噛み合う。ここで、ギヤと内歯とが噛み合わない場合、車体を揺する等して車輪を回転させ、ギヤと内歯とを相対回転させる。すると、ギヤと内歯ギヤとが合致したときに、コイルバネの押圧力によってギヤが車軸方向に沿って回転部材側に移動して内歯に噛み合う。
【0006】
特許文献2に開示されたクラッチ機構でモータと車輪との連結を断続するには、つまみを操作し、モータ側のドグメンバに形成されたドグを車軸方向に移動させることで、モータ側のドグと、車輪側の回転部材に形成された係合穴との噛み合いを断続操作する。
このような構成において、モータと車輪とを連結するときには、つまみを車軸方向に押し込みながら回すことによって、バネを圧縮する。すると、このバネのバネ力によってモータ側のドグが車輪側の係合穴に向かって押圧されて移動し、車輪側の係合穴に係合してモータと車輪とが連結される。
ここで、ドグと係合穴とが噛み合わない場合、車輪を回転させる。すると、ドグと係合穴とが合致したときに、バネの押圧力によって、ドグが係合穴に飛び込んで係合する。
【0007】
特許文献3に開示されたクラッチ機構でモータと車輪との連結を断続するには、ノブを操作し、車輪側に設けられたキーをモータ側に形成された係止溝に沿って車軸方向に移動させる。
このような構成において、モータと車輪とを連結するときには、ノブをねじ込むことによってキーを係止溝に沿って移動させ、車輪側に形成されたキー溝に係合させる。これによって、キーを介して車輪側のキー溝とモータ側の係止溝とが係合し、モータと車輪とが連結される。
ここで、ノブをねじ込んでもキーとキー溝とが合わないときには、ノブとキーとの間に設けられたコイルスプリングが圧縮し、キーをキー溝側に付勢する。そして、車輪が回転し、キーとキー溝とが合致したときに、コイルスプリングの付勢力によって、キーがキー溝に飛び込んで係合する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されたクラッチ機構においては、スライド部材、つまみ、ノブ等の操作部材を操作しても、モータ側のギヤ、ドグ、キー等の係合部材と、車輪側の内歯、係合穴、キー溝等の被係合部とが周方向にずれていて係合しないことがある。このような場合、車体を揺する等してモータに対して車輪を回転させると、モータ側の係合部材と、車輪側の被係合部との位置が合致し、バネやコイルスプリングの付勢力によってモータ側の係合部材が車輪側の被係合部に飛び込んで係合する。
つまり、スライド部材、つまみ、ノブ等の操作部材を操作することによって、操作者側ではモータ側と車輪側とが連結されていると認識しているにも関わらず、実際には、モータ側と車輪側とが連結されていないことがある。
【0010】
そこでなされた本発明の目的は、クラッチの断続状態を確実に感知することのできる車輪ユニット、およびそれを備えた手押し移動体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の車輪ユニットは、駆動軸を回転させるモータと、前記駆動軸に対して相対回転可能に支持された車輪と、前記車輪に前記駆動軸の回転力を伝達するアシスト状態と、前記車輪への前記駆動軸の回転力の伝達を遮断するフリー状態とに切替可能なクラッチ機構と、を備え、前記クラッチ機構は、前記駆動軸と一体に回転するとともに、前記駆動軸の軸方向に移動可能に設けられたクラッチプレートと、前記車輪と一体に設けられ、前記クラッチプレートに噛合可能なスプラインプレートと、前記クラッチプレートを前記駆動軸の軸方向に沿って前記スプラインプレートとの噛合位置に向かって移動させる操作部材と、前記クラッチプレートを前記操作部材に向かって付勢する付勢部材と、を備え、前記駆動軸および前記操作部材のいずれか一方に、前記クラッチプレートを移動させるときの前記操作部材の移動軌跡を案内するガイド溝が形成され、前記駆動軸および前記操作部材の他方に、前記ガイド溝に挿入される被ガイド部が設けられ
、前記ガイド溝に、前記クラッチプレートが前記スプラインプレートに噛合したときに、前記ガイド溝に沿った前記被ガイド部の移動を拘束するロック部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、ガイド溝に沿って被ガイド部が案内されることで、クラッチプレートを操作するときの操作部材の動作が、駆動軸に直接伝達される。これにより、クラッチプレートは、駆動軸に設けられているため、操作部材の操作が、駆動軸を介してクラッチプレートに伝達される。
したがって、操作部材の操作が付勢部材によって吸収されることがなく、クラッチプレートがスプラインプレートに噛み合っているか否かを確実に感知することができる。
また、クラッチプレートがスプラインプレートと噛み合ったときに、ロック部によって被ガイド部の移動が拘束されることによって、操作部材が拘束される。これによって、クラッチプレートとスプラインプレートとの噛合状態が維持される。
また、操作部材が拘束されるか否かによって、クラッチの噛合状態を確実に感知することができる。
【0015】
また、本発明は、前記操作部材に前記ガイド溝が形成され、前記駆動軸に前記被ガイド部が設けられているようにしてもよい。
【0016】
このような構成によれば、操作部材は、駆動軸に設けられた被ガイド部に対し、ガイド溝が摺動することで、所定の方向に操作される。
【0017】
また、本発明は、前記被ガイド部は、前記駆動軸から外周側に突出する凸部であり、前記凸部は、前記駆動軸の軸方向に沿って前記クラッチプレートが前記操作部材側に移動する移動量を拘束するようにしてもよい。
【0018】
このような構成によれば、凸部が、ガイド溝にガイドされる被ガイド部と、クラッチプレートのストッパとを兼ねる。これにより、部品点数を抑えることができる。
【0019】
また、本発明は、前記ガイド溝は、前記駆動軸の軸方向回りに螺旋状に形成されているようにしてもよい。
【0020】
このような構成によれば、操作部材の動作は、凸部が溝によって案内されることで、駆動軸の軸回りに回転しながらクラッチプレートを駆動軸の軸方向に沿ってスプラインプレート側に移動させるものとなる。したがって、操作者は、操作部材を回転させれば、クラッチプレートを確実に軸方向に移動させることができる。
また、このような操作部材の動作は、ガイド溝と凸部とを介して駆動軸に伝達され、操作部材とともにクラッチプレートを回転させることになる。したがって、クラッチプレートとスプラインプレートとが噛み合わない場合に、操作部材の回転にともなってクラッチプレートを回転させることで、スプラインプレートと噛み合いやすくすることができる。これにより、クラッチプレートとスプラインプレートとの噛合を確実に行うことが可能となる。
【0021】
また、本発明は、前記操作部材は、前記クラッチプレートを、前記スプラインプレート側とは反対側から、前記スプラインプレート側に向かって直接押圧し、前記付勢部材は、前記クラッチプレートを、前記スプラインプレート側から前記操作部材側に向かって付勢するようにしてもよい。
【0022】
このような構成によれば、操作部材は、クラッチプレートを直接押圧する。これによって、操作部材の操作が付勢部材によって吸収されることがなく、クラッチプレートをダイレクトに操作することができる。したがって、クラッチプレートがスプラインプレートに噛み合っているか否か、操作部材が操作終端位置に到達しているか否かを確実に感知することができる。
【0023】
さらに、本発明の手押し移動体は、上記したような車輪ユニットを備えることを特徴とする。
【0024】
このような構成によれば、操作部材の操作が、駆動軸を介してクラッチプレートに伝達されるので、操作部材の操作が付勢部材によって吸収されることがなく、クラッチプレートがスプラインプレートに噛み合っているか否かを確実に感知することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、クラッチの断続状態を確実に感知することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態に係る車輪ユニット、およびそれを備えた手押し移動体について、図面を参照して説明をする。
図1は、本発明の実施形態における車輪ユニットを備えた手押し移動体の一例を示す斜視図である。
【0028】
(電動アシストシルバーカー)
図1に示すように、電動アシストシルバーカー(手押し移動体)10は、フレーム11と、収納部12と、車輪13と、を備えている。
【0029】
フレーム11は、収納部12を支持する座部フレーム11aと、座部フレーム11aの一端に設けられ、上方に向けて延びる背部フレーム11bと、座部フレーム11aから下方に向けて延びる脚部フレーム11cと、を備える。
ここで、以下の説明においては、平面視した状態で、座部フレーム11aに対して背部フレーム11bが設けられた側を後方、その反対側を前方、前後方向に向かって左右両側を側方と称することがある。
【0030】
収納部12は、内部に物品等を収容できる物品収容部12aと、物品収容部12aの上方を覆い、上面に物品を載置したり着座したりすることが可能な台部12bと、を備えている。
【0031】
車輪13は、脚部フレーム11cの下端部に設けられている。車輪13は、ホイール13wと、ホイール13wの外周部に装着されたタイヤ13tと、を備えている。
この実施形態において、脚部フレーム11cは、上方から下方に向かって、平面視した状態で電動アシストシルバーカー10の四隅に向けて延びている。これにより、車輪13は、電動アシストシルバーカー10の四隅に配されている。ここで、4つの車輪13のうち、フレーム11の前方の幅方向両側に設けられている車輪13fは、脚部フレーム11cを挟んでその両側に二個一対で設けられている。また、フレーム11の後方の幅方向両側に設けられている車輪13rは、脚部フレーム11cの側方に設けられている。
【0032】
電動アシストシルバーカー10は、例えば後方の幅方向両側の車輪13rを回転駆動させる電動アシスト機構を備えている。電動アシスト機構は、車輪13rを回転駆動する駆動ユニット(電動アシスト装置)20と、収納部12内に収納され、駆動ユニット20の動作を制御する制御部18と、を備えている。
【0033】
(駆動ユニット)
図2は、車輪ユニットに設けられた駆動ユニットの構成を示す斜視展開図である。
同図に示すように、駆動ユニット20は、減速機付モータ(モータ)21と、車輪13rと、クラッチ機構Cと、を備えている。
【0034】
(減速機付モータ)
減速機付モータ21は、ケース210と、ケース210内に設けられたモータ部220と、減速機部230と、駆動軸240を備えている。
【0035】
図3は、駆動ユニットを構成する減速機モータの構成を示す断面図である。
同図に示すように、減速機付モータ21は、ケース210内に、モータ部220と、ハイポサイクロイド減速方式により作動し、モータ部220から入力される回転を減速し、減速された回転を出力する減速機部230と、を備える。
【0036】
ケース210は、中央部に開口部211hが形成された略板状の隔壁部211と、隔壁部211の一方の側に筒状に延び、モータ部220を収容する第一ハウジング212と、隔壁部211の他方の側に筒状に延び、減速機部230を収容する第二ハウジング213と、を一体に備えている。
【0037】
隔壁部211の一方の側に形成された第一ハウジング212の端部212aは、蓋体215により閉塞されている。
【0038】
モータ部220は、第一ハウジング212の内周面に固定された円環形状のステータ221と、後述する入力軸231の一端231aに固定され、ステータ221の内側にて回転自在に配置されたロータ222と、ステータ221に外部からの制御電流を供給する配電基板214と、を備える。
【0039】
ステータ221は、鋼板を積層して形成されたステータコア221aと、インシュレータ221b、221bを介してステータコア221aに巻装されたコイル221cと、を備える。
ロータ222は、椀形状のロータ本体222aと、ロータ本体222aの外周面に取り付けられたマグネット222bと、を備える。
【0040】
このようなモータ部220は、配電基板214から供給される制御電流をステータ221に印加することにより、その内側でロータ222が入力軸231とともに中心軸回りに回転駆動される。
【0041】
減速機部230は、ハイポサイクロイド減速方式により作動し、モータ部220から入力される回転を減速し、減速された回転を出力する。この減速機部230は、入力軸231と、第一内歯歯車232と、回転部材233と、第一外歯歯車234と、第二内歯歯車235と、第二外歯歯車236と、出力部材237と、を備える。
【0042】
入力軸231は、ケース210の隔壁部211に形成された開口部211hに、ベアリングB1を介してその中心軸回りに回転自在に支持されている。入力軸231は、一端231aが隔壁部211の一方の側に突出し、他端231bが隔壁部211の他方の側に突出するよう設けられている。入力軸231の一端231aには、前記ロータ222が設けられている。これにより、モータ部220の駆動により、入力軸231は、ロータ222とともに、その中心軸CL回りに回転駆動される。
【0043】
第一内歯歯車232は、円環形状で、第二ハウジング213に内嵌されている。第一内歯歯車232の内周面に沿って、複数の内歯232gが形成されている。
【0044】
回転部材233は、略円盤形状で、入力軸231の中間部に形成された偏心軸部231hに、ベアリングB2、B2を介して回転自在に設けられている。偏心軸部231hは、入力軸231の中心軸CLに対し、所定寸法δだけ離れて平行に位置する偏心軸心ELを有している。これにより、回転部材233は、入力軸231が回転すると、半径δの円弧回りに公転する。
【0045】
第一外歯歯車234は、円環形状で、回転部材233の外周に一体的に取り付けられている。この第一外歯歯車234は、第一内歯歯車232の内周側に配置されている。第一外歯歯車234は、その外周部に沿って、第一内歯歯車232の内歯232gに噛み合う複数の外歯234gが形成されている。この第一外歯歯車234は、外歯234gのピッチ円半径が、第一内歯歯車232の内歯232gのピッチ円半径よりも大きく設定されている。
このような第一外歯歯車234は、入力軸231の回転により、回転部材233と一体に公転しつつ、第一内歯歯車232との噛み合いにより自転する。
【0046】
第二内歯歯車235は、円環状で、第一外歯歯車234と一体的に設けられ、第一外歯歯車234から隔壁部211に対向する側とは反対側に延びるように形成されている。この第二内歯歯車235の内周面に沿って、複数の内歯235gが形成されている。
この第二内歯歯車235は、第一外歯歯車234と一体に公転しつつ自転し、いわゆる遊星動作する。
【0047】
第二外歯歯車236は、円環形状で、第二内歯歯車235の内側に配置されている。第二外歯歯車236は、その外周面に沿って、複数の外歯236gが形成されている。第二外歯歯車236は、そのピッチ円半径が、第二内歯歯車235のピッチ円半径よりも大きく設定されている。この第二外歯歯車236は、出力部材237に形成された筒状の歯車保持部237aに外嵌されている。
第二外歯歯車236の外歯236gは、その内側で入力軸231の回転によって遊星動作する第二内歯歯車235の内歯235gに噛み合う。
【0048】
出力部材237は、略円盤形状で、その外周部が、第二ハウジング213の内周部に、ベアリングB3を介し、入力軸231の中心軸CLと同軸回りに回転自在に保持されている。出力部材237は、隔壁部211に対向する側に設けられたベアリングB4を介して、入力軸231の他端231bを中心軸CL回りに回転自在に支持している。
【0049】
この出力部材237は、第二外歯歯車236が、入力軸231の回転によって遊星動作する第二内歯歯車235に噛み合うことで、第二外歯歯車236と一体に入力軸231の中心軸CL回りに回転する。このようにして、出力部材237は、第二外歯歯車236および第二内歯歯車235を介して、第一外歯歯車234に連係される。
【0050】
このとき、モータ部220の作動による入力軸231への回転入力により、第一外歯歯車234は入力軸231の回転数にて公転運動するとともに、公転運動に対し所定の比率にて減速された回転数にて自転運動を行う。第二内歯歯車235は、第一外歯歯車234に一体的に設けられていることにより、第一外歯歯車234と同一の回転数にて公転および自転運動を行う。
さらに、出力部材237は、出力部材237と一体に設けられた第二外歯歯車236の自転運動により所定の比率にて減速(増速)された回転数の回転出力により回転する。
【0051】
図2に示すように、出力部材237には、駆動軸240が取り付けられている。
図4は、上記駆動ユニットを構成するクラッチ機構を示す斜視図である。
同図に示すように、駆動軸240は、出力部材237(
図2参照)に固定される円盤状のベース部241と、ベース部241の中心から突出する出力軸部242と、を一体に備えている。
【0052】
ベース部241は、周方向に間隔を空けて配置された複数のボルト243によって、出力部材237に固定されている。
【0053】
図5は、上記クラッチ機構を構成する駆動軸を示す斜視図である。
同図に示すように、出力軸部242は、ベース部241側の一定長が断面視円形の支持軸部242aとされ、先端部側の一定長が二方取り加工されて断面視略長円形とされたガイド軸部242bとされている。
【0054】
図2に示すように、減速機付モータ21は、車輪13rの一方の側に配される。減速機付モータ21は、駆動軸240のベース部241を車輪13rの中央部に形成されたセンターハブ部13Cに、円環状のスペーサ27を介して押し当てるとともに、センターハブ部13Cに形成された貫通孔13hに出力軸部242を挿通して設けられる。
【0055】
(クラッチ機構)
クラッチ機構Cは、ベアリング22と、スプラインプレート23と、ホルダー24と、クラッチプレート25と、操作ノブ(操作部材)36と、を備える。
【0056】
ベアリング22は、ホイール13wの中央部に形成された貫通孔13hの周囲に装着されている。このベアリング22の内側に、出力軸部242の支持軸部242a(
図5参照)が挿入され、これによって、ホイール13wは、ベアリング22を介して出力軸部242に回転自在に支持される。
ここで、駆動軸240の出力軸部242は、先端部のガイド軸部242bが、ベアリング22を貫通して、ホイール13wの他方の側に突出するよう設けられる。
【0057】
スプラインプレート23は、略円盤状で、その中央部に開口23hが形成されている。開口23hの内周面には、周方向に複数の内歯23gが形成されている。このスプラインプレート23は、ホイール13wのセンターハブ部13Cに形成された凹部13dに収容される。
【0058】
図6は、上記クラッチ機構を構成するホルダーを示す斜視図である。
ホルダー24は、スプラインプレート23に対し、ホイール13w側とは反対側に配される。
図6に示すように、ホルダー24は、円環状のベース部24aと、ベース部24aの内周部からスプラインプレート23と反対側に向かって延びる筒状部24tと、を一体に備えている。
図2に示すように、このホルダー24は、センターハブ部13Cの凹部13dに収容されたスプラインプレート23にベース部24aを突き当てた状態で、周方向に間隔を空けて配置された複数のボルト28を、スプラインプレート23に形成された図示しない貫通孔を通してセンターハブ部13Cの凹部13dにねじ込むことで固定される。これにより、ホルダー24およびスプラインプレート23は、ホイール13wのセンターハブ部13Cに固定される。
【0059】
クラッチプレート25は、円盤状で、その外周部に沿って複数の外歯25gが形成されている。クラッチプレート25の中央部には、出力軸部242のガイド軸部242bが挿通される断面略長円形状の軸挿通穴25hが形成されている。クラッチプレート25は、軸挿通穴25hに出力軸部242のガイド軸部242bが挿通されることで、ガイド軸部242bに回転不能、かつガイド軸部242bに沿ってその軸方向にスライド移動可能に保持される。
【0060】
出力軸部242のガイド軸部242bの先端部には、ガイド軸部242bの中心軸に直交する径方向に貫通するガイドピン30が設けられている。このガイドピン30は、クラッチプレート25に対し、ホイール13w側とは反対側に設けられ、その両端部(被ガイド部、凸部)30tがガイド軸部242bから径方向に突出するよう設けられている。このガイドピン30により、クラッチプレート25がガイド軸部242bに沿ってホイール13wから離間する方向に移動するストロークを規制する。
【0061】
また、クラッチプレート25とベアリング22との間には、スナップリング29が配されている。このスナップリング29は、出力軸部242のガイド軸部242bの外周面に固定されている。
スナップリング29と、クラッチプレート25との間には、コイルスプリング(付勢部材)31が圧縮状態で設けられている。このコイルスプリング31により、クラッチプレート25は、ガイドピン30側、つまりホイール13wから離間する方向に押圧されている。
ここで、スナップリング29とベアリング22との間、スナップリング29とコイルスプリング31との間には、それぞれ、円環状のシム33が挟み込まれ、クリアランス調整、付勢力調整等がなされている。
【0062】
このような構成において、クラッチプレート25は、通常状態においては、コイルスプリング31の押圧力によって、出力軸部242のガイド軸部242b上においてホイール13wから離間してガイドピン30に突き当たるよう位置している。この状態で、クラッチプレート25は、スプラインプレート23とは噛み合わず、クラッチ「断」の状態とされている。
また、クラッチプレート25は、コイルスプリング31の押圧力に抗して出力軸部242のガイド軸部242bに沿ってホイール13w側に移動させると、スプラインプレート23と噛み合い、クラッチ「続」の状態とされる。
【0063】
図7は、クラッチ機構を構成する操作ノブを示す斜視図である。
同図に示すように、操作ノブ36は、クラッチプレート25の位置を出力軸部242のガイド軸部242bに沿って移動させることで、クラッチプレート25とスプラインプレート23の噛み合いを断続する。
図4、
図7に示すように、操作ノブ36は、外形略円筒状をなし、一端36a側が閉塞され、他端36b側が開口した有底筒状をなしている。操作ノブ36の一端36a側には、径方向において互いに対向する平面部36c,36cを有した操作部36dが形成されている。操作ノブ36の他端36b側は円筒状で、出力軸部242の先端部が挿入されている。また、操作ノブ36は、他端36bがクラッチプレート25の軸挿通穴25hの外周側に突き当たるよう設けられている。この操作ノブ36の他端36b側には、その内外を貫通するガイド溝37が形成されている。
【0064】
ガイド溝37は、クラッチプレート25を出力軸部242のガイド軸部242bに沿って移動させるもので、操作ノブ36の他端36b側において周方向で互いに対向する位置に、二個一対で形成されている。
各ガイド溝37は、操作ノブ36の軸方向に連続して他端36bに一端が開口する導入溝部37aと、導入溝部37aの他端の端部から周方向に延びるスライド溝部37bと、スライド溝部37bに連通するとともに、スライド溝部37bに対して操作ノブ36の周方向に間隔を空けた位置に形成された案内溝部37cと、を備える。
【0065】
案内溝部37cは、スライド溝部37bから操作ノブ36の軸方向に連続し、ベース部24aから離間する方向に延びる第一端部37mと、第一端部37mに対して操作ノブ36の周方向に間隔を空けた位置に形成され、操作ノブ36の軸方向に連続する第二端部37nと、第一端部37mと第二端部37nとの間に形成された螺旋状部37h、凸部37j、およびロック部37kと、を有する。
螺旋状部37hは、第一端部37m側から第二端部37n側に向かって、操作ノブ36の一端36a側に接近するよう形成された螺旋状に形成されている。螺旋状部37hの第二端部37n側の端部には、操作ノブ36の軸方向に沿って一端36a側に突出する凸部37jが形成されている。さらに、凸部37jに隣接して、案内溝部37cの第二端部37nには、操作ノブ36の軸方向に沿って他端36b側に延出するロック部37kが形成されている。
【0066】
この操作ノブ36は、ホルダー24の筒状部24t内に挿入配置される。筒状部24tの内側で、出力軸部242のガイド軸部242bの先端部に設けられたガイドピン30の両端部30tが、操作ノブ36に形成されたガイド溝37に係合している。
操作ノブ36は、ガイドピン30の端部30tが、案内溝部37cの螺旋状部37hで第一端部37m側に位置している状態では、クラッチプレート25および操作ノブ36が、コイルスプリング31の押圧力によって、出力軸部242のガイド軸部242bに沿ってホイール13wから離間する方向にスライドし、クラッチプレート25がガイドピン30に突き当たる。この状態で、クラッチプレート25は、スプラインプレート23に対して噛み合わず、クラッチ「断」の状態とされる。
【0067】
この状態から操作ノブ36を所定方向に回すと、ガイドピン30が、ガイド溝37の案内溝部37c内で、第一端部37m側から第二端部37n側に向かって周方向に相対的に移動する。すると、ガイドピン30が案内溝部37cの螺旋状部37hによって軸方向に押圧される。これにより、操作ノブ36を回転させるにしたがって、操作ノブ36がホルダー24内でホイール13w側に引き込まれ、操作ノブ36とともにクラッチプレート25が出力軸部242のガイド軸部242bに沿ってスプラインプレート23側に接近する。
【0068】
操作ノブ36をさらに回転させると、ガイドピン30が螺旋状部37hに沿って周方向に移動して凸部37jを乗り越え、第二端部37nでロック部37kに入り込む。ガイドピン30がロック部37kに入り込んだ状態で、クラッチプレート25がスプラインプレート23の内側に位置し、クラッチプレート25の外歯25gがスプラインプレート23の内歯23gに噛み合う。このとき、ガイドピン30がロック部37kに入り込むと、ガイドピン30が第二端部37nに突き当たることによって、操作ノブ36のそれ以上の回転が規制される。また、操作ノブ36の操作者は、ガイドピン30がロック部37kに入り込むとともに、ガイドピン30が第二端部37nに周方向から突き当たることを感知することができる。
このようにして、クラッチプレート25をスプラインプレート23にかみ合わせて、クラッチを「続」の状態とすることができる。
【0069】
ここで、
図4に示すように、操作ノブ36の向きが、クラッチを「続」の状態にあることを使用者が認識出来るよう、ホルダー24の筒状部24tにおいて操作ノブ36の外周側に位置する部分に、「ON」といった表示部24Nを形成することができる。すなわち、ガイドピン30の端部30tがロック部37kに位置しているときに、操作ノブ36の平面部36cが、「ON」の表示部24Nに一致するようにする。これにより、操作者は、操作ノブ36の向きと表示部24Nとを視認することで、クラッチが「続」の状態にあるか否かを容易に認識することができる。
【0070】
このようにして操作ノブ36を所定方向に回転させるとき、クラッチプレート25の外歯25gとスプラインプレート23の内歯23gの位相が周方向にずれていて、外歯25gと内歯23gとが干渉して噛み合わないことがある。この場合、ガイドピン30は、ロック部37kに入り込む手前に位置し、螺旋状部37hの第二端部37nに突き当たらない。したがって、操作ノブ36の操作者は、ガイドピン30がロック部37kに入り込んで回転がロックされたことを感知することができない。
【0071】
言い換えると、クラッチプレート25がスプラインプレート23の内側に入り込んでクラッチプレート25の外歯25gがスプラインプレート23の内歯23gに噛み合わない限り、ガイドピン30がロック部37kに入り込まない。したがって、操作ノブ36がロックされず、操作者が操作ノブ36を離すと、コイルスプリング31の押圧力によって、操作ノブ36が回転して元の位置に戻ってしまう。したがって、操作ノブ36の操作者は、ガイドピン30の両端部30tがロック部37kに入り込んで回転がロックされていないことを容易に感知することができる。
【0072】
また、クラッチを「続」の状態とするために操作ノブ36を所定方向に回転させても、クラッチプレート25の外歯25gとスプラインプレート23の内歯23gの位相が周方向にずれていて、外歯25gと内歯23gとが干渉して噛み合わない場合、操作ノブ36をさらに回転させる。すると、ガイド溝37とガイド溝36内のガイドピン30の端部30tとの間に生じる周方向の押圧力、および操作ノブ36とクラッチプレート25との間に生じる摩擦力によって、操作ノブ36とともにクラッチプレート25を回転させ、スプラインプレート23と噛み合いやすくすることができる。
【0073】
クラッチを「続」の状態から「断」の状態に移行させるには、操作ノブ36を一旦ホイール13w側に押し込んだ後、上記とは反対方向に回転させる。すると、ガイドピン30が操作ノブ36の一端36a側に移動してロック部37kから抜け出した後、凸部37jを乗り越えて螺旋状部37hに移動する。さらに操作ノブ36を回転させれば、ガイドピン30が螺旋状部37hに沿って周方向に移動しながら操作ノブ36の他端36b側に相対的に移動する。
【0074】
これにより、操作ノブ36およびクラッチプレート25が、コイルスプリング31の押圧力によって押圧されながら、スプラインプレート23から離脱してホイール13wから離間する方向にスライドする。ガイドピン30が螺旋状部37hで第一端部37mに突き当たると、操作ノブ36のそれ以上の回転が規制される。これにより、操作ノブ36の操作者は、操作ノブ36の回転が規制されることによって、クラッチが「断」状態となったことを感知することができる。
【0075】
ガイドピン30が案内溝部37cで第一端部37mに突き当たった状態にあるとき、操作ノブ36を押し込んで回転させると、ガイドピン30がスライド溝部37bを通り、導入溝部37aに入り込む。これにより、操作ノブ36を、ホルダー24の筒状部24t内から引き出すことができる。これによって、操作ノブ36をホルダー24から取り外して、メンテナンス等を行うことができる。
【0076】
(効果)
本実施形態によれば、操作ノブ36にガイド溝37が形成され、駆動軸240に、ガイド溝37に挿入されるガイドピン30の端部30tが設けられている。
このような構成によれば、ガイド溝37に沿ってガイドピン30の端部30tが案内されることで、クラッチプレート25を操作するときの操作ノブ36の動作が、駆動軸240に直接伝達される。クラッチプレート25は、駆動軸240に設けられているため、操作ノブ36の操作が、駆動軸240を介してクラッチプレート25に伝達される。したがって、操作ノブ36の操作がコイルスプリング31によって吸収されることがなく、クラッチプレート25がスプラインプレート23に噛み合っているか否かを確実に感知することができる。
【0077】
また、クラッチプレート25がスプラインプレート23と噛み合ったときに、ロック部37kによって操作ノブ36が拘束されることで、クラッチプレート25とスプラインプレート23との噛合状態が維持される。
さらに、操作ノブ36がロック部37kによって拘束されるか否かによって、クラッチの噛合状態を確実に感知することができる。
【0078】
また、ガイドピン30の端部30tは、駆動軸240から外周側に突出し、クラッチプレート25が駆動軸240の軸方向に沿って操作ノブ36側に移動する移動量を拘束する。このようにして、ガイドピン30が、ガイド溝37にガイドされる被ガイド部と、クラッチプレート25のストッパとを兼ねることとなる。これにより、部品点数を抑えることができる。
【0079】
また、ガイド溝37は、駆動軸240の軸方向回りに螺旋状に形成されている。このような構成によれば、操作ノブ36の動作は、駆動軸240の軸回りに回転しながらクラッチプレート25を駆動軸240の軸方向に沿ってスプラインプレート23側に移動させるものとなる。したがって、操作者は、操作ノブ36を回転させれば、クラッチプレート25を確実に軸方向に移動させることができる。
【0080】
さらに、このような操作ノブ36の動作は、ガイド溝37とガイド溝36内のガイドピン30の端部30tとの間に生じる周方向の押圧力、および操作ノブ36とクラッチプレート25との間に生じる摩擦力によって、操作ノブ36とともにクラッチプレート25を回転させることになる。したがって、クラッチプレート25とスプラインプレート23とが噛み合わない場合に、操作ノブ36の回転にともなってクラッチプレート25を回転させることで、スプラインプレート23と噛み合いやすくすることができる。これにより、クラッチプレート25とスプラインプレート23との噛合を確実に行うことが可能となる。
【0081】
また、操作ノブ36は、クラッチプレート25を直接押圧する。これによって、操作ノブ36の操作がコイルスプリング31によって吸収されることがなく、クラッチプレート25をダイレクトに操作することができる。したがって、クラッチプレート25がスプラインプレート23に噛み合っているか否か、操作ノブ36が操作終端位置に到達しているか否かを確実に感知することができる。
【0082】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【0083】
例えば、上記実施形態において、操作ノブ36を螺旋状に回転させることで、クラッチプレート25を押圧するようにしたが、これに限らない。クラッチプレート25を、スプラインプレート23に向かって接離するよう、操作ノブ36を、プランジャ等によって、直動動作させることも可能である。
【0084】
また、上記実施形態では、ガイド溝37を操作ノブ36に形成し、ガイドピン30を駆動軸240に設けるようにしたが、これに限らない。駆動軸240側にガイド溝を形成し、操作ノブ36側に、ガイド溝に挿入される凸部を設けるようにしてもよい。
【0085】
さらに、上記実施形態では、操作ノブ36がクラッチプレート25に直接接するようにしたが、ガイド溝37に沿ってガイドピン30が案内されるのであれば、操作ノブ36でクラッチプレート25を直接押圧しない構成とすることも可能である。
【0086】
また、上記各実施形態では、手押し移動体として電動アシストシルバーカー10を例に挙げたが、もちろん、これに限らず、ベビーカーや、ショッピングカート、リハビリテーション用歩行車、台車等にも本発明を同様に適用することができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。