(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
躯体に下地モルタルを介して貼り付けられたタイル壁面に、防水プライマー層と、前記防水プライマー層の表面に繊維補強材を含む補強樹脂塗膜層と、前記補強樹脂塗膜層の表面にトップコート層を含む外壁施工方法であって、
前記防水プライマー層は、溶剤系塗料を塗装することにより、前記タイル壁面の目地部を通って染み出してくる水分の遮断層とし、
前記補強樹脂塗膜層は、水系の樹脂エマルションを含む塗料を塗装した層であり、
前記トップコート層は、溶剤系塗料を塗装することにより、外からの水分遮断層とし、
前記防水プライマー層と前記トップコート層の端面を直接接合させて、前記補強樹脂塗膜層を密封構造とすることを特徴とする外壁施工方法。
前記密封構造は、前記防水プライマー層の端面より前記補強樹脂塗膜層の端面を短く塗装し、前記トップコート層の端面を前記補強樹脂塗膜層の端面より長くして塗装することにより形成する請求項1に記載の外壁施工方法。
前記補強樹脂塗膜層の塗料材料は、アクリル系樹脂エマルション、ポリエステル系樹脂エマルション、ポリカーボネート系樹脂エマルション、ポリアミド系樹脂エマルション、ポリイミド系樹脂エマルション、ポリエーテルスルホン系樹脂エマルション、ポリスルホン系樹脂エマルション、ポリスチレン系樹脂エマルション、ポリノルボルネン系樹脂エマルション、ポリオレフィン系樹脂エマルション及びアセテート系樹脂エマルションから選ばれる少なくとも1つである請求項1〜5のいずれかに記載の外壁施工方法。
前記補強樹脂塗膜層繊維補強材は、ネット及び/又は繊度1.1〜3.3decitex(1〜3デニール)、繊維長3〜6mmの繊維である請求項1〜6のいずれかに記載の外壁施工方法。
前記密封構造の防水プライマー層と補強樹脂塗膜層とトップコート層の透光率は、JIS Z 8722の測定で、それぞれ80%以上である請求項1〜7のいずれかに記載の外壁施工方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、補強樹脂塗膜層として水系の樹脂エマルションを含む塗料を塗装した層に起因する白化現象を防止することを目的に、様々な検討をした結果、完成した発明である。補強樹脂塗膜層は補強繊維を入れるので、厚みはかなり厚く(例えば乾燥膜厚:400〜1000μm、塗装膜の乾燥後の質量:0.7〜1.9kg/m
2)、水溶性又は水分散性(本明細書では、両者を合わせて「水系」という。)塗料を使用するのが好ましい。水系塗料は水分の乾燥が速く、養生の時間が短くて済み、臭いの問題は少なく、火気に対する安全性も高い。これに対して溶剤系塗料は、溶剤を乾燥させるために長時間の養生が必要であり、臭いの問題があり、火気厳禁等の問題があるほか、耐光性にも問題になる場合もある。
【0011】
そこで本発明では、補強樹脂塗膜層は水系の樹脂エマルションを含む塗料を塗装した層とし、防水プライマー層とトップコート層は溶剤系塗料を塗装することにより、水分遮断層とし、防水プライマー層とトップコート層の端面を直接接合させて、前記補強樹脂塗膜層を密封構造とした。これにより、長期間経過しても補強樹脂塗料の塗膜に水分が侵入せず、白化も生じにくい外壁となる。
【0012】
前記密封構造は、防水プライマー層の端面より補強樹脂塗膜層の端面を短く塗装し、トップコート層の端面を補強樹脂塗膜層の端面より長くして塗装することにより効率よく形成できる。この密閉構造は養生シート(カバーシート)の位置を変えることにより容易に実現できる。例えば、防水プライマー層を形成する際には養生シートの位置を広げて塗装面積を広くし、次に補強樹脂塗膜層を形成する際には養生シートの位置を狭くして塗装面積を狭くし、次にトップコート層を形成する際には養生シートの位置を広げて塗装面積を広くし、防水プライマー層とトップコート層の端面を直接接合させる。これにより補強樹脂塗膜層を密封構造とし、補強樹脂塗膜層に水分が侵入しないようにする。防水プライマー層とトップコート層の端面の直接接合長さは3mm以上が好ましく、さらに好ましくは5mm以上であり、より好ましくは10mm以上である。この長さであれば水分の浸入を効率よく防げる。上限値は特になく、塗装面積にもよるが目安として1m以下である。
【0013】
防水プライマー層は、溶剤を含むアクリル−シリコン系塗料又はアクリル−ウレタン系塗料であるのが好ましい。これにより、防水プライマー層はタイル壁面の目地部を通って染み出してくる水分の遮断層として機能する。防水プライマー層は、塗装膜の乾燥後の固形分質量:40〜200g/m
2、乾燥膜厚:40〜200μmであるのが好ましい。 アクリル−シリコン系塗料としては、例えば、神東塗料株式会社製の商品名“マイルドハイテンクリヤー”等を用いることができ、アクリル−ウレタン系塗料としては、例えば、セラスター塗料株式会社製の二液反応硬化形アクリルウレタン系塗材である商品名“フォック・LC185クリア”』等を用いることができる。尚、防水プライマー層の材料としては透光率の高いもの(透明であるもの)が好ましいが、透明にこだわらなければ、アクリル−ウレタン系塗料としてセラスター塗料株式会社製の二液反応硬化形アクリルウレタン系塗材である商品名“フォック・LC185” 各色等を使用することもできる。
【0014】
トップコート層の塗料は、下記A液とB液を含むのが好ましい。
[A液]
(a1)フルオロオレフィンとアルキルビニルエーテルの共重合体を含むフッ素樹脂
(a2)親水性付与剤として、アルコキシル基の加水分解によるシラノール基を含むシラン系化合物、光触媒酸化チタン、アルカリシリケート系無機塗材、金属アルコキシド系無機材から選ばれる少なくとも一つの物質
(a3)紫外線吸収剤
(a4)溶剤
[B液]
(b1)硬化剤
(b2)溶剤
【0015】
(a1)成分のフッ素樹脂のフルオロオレフィンは、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンが好適に選ばれるが、併用することも可能である。前記フッ素樹脂の共重合割合は30〜70モル%が好ましい。アルキルビニルエーテル単量体は、CH
2 =CRO(CH
2 )
n OH(RはHまたはCH
3 、nは7〜18の整数)で表わされる水酸基含有長鎖アルキルビニルエーテルが好ましい。前記アルキルビニルエーテル単量体の共重合割合は5〜50モル%が好ましい。上記2成分の他に共重合可能なビニルモノマーが共重合されていても良い。さらに、水酸基と反応する官能基を有する硬化剤(e)は、(a1)成分と(b1)成分の合計に対し、(a1)成分が50〜95重量%、(b1)成分が5〜50重量%の割合で含有するのが好ましい。
【0016】
(b1)成分の硬化剤は、被膜の強度と耐久性を高く保持するために加える。この硬化剤は多価イソシアナート類などの常温硬化型のものが好ましい。多価イソシアナートとしては、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート等の無黄変ジイソシアナート類ならびにその付加物が特に有用である。イソシアナート類を用いて常温硬化を行わせる場合には、ジブチルチンジラウレート等の硬化触媒の添加によって硬化を促進させることも可能である。(b1)成分の硬化剤により、常温(0〜40℃程度)硬化させることができる。
【0017】
(a2)成分の親水性付与剤は、上塗り(トップコート)被膜に親水性を与え、雨などの水により汚れ成分を洗い流し、常に美装状態を保つために混合する。この親水性付与剤は、アルコキシル基の加水分解によるシラノール基を含むシラン系化合物、光触媒酸化チタン、アルカリシリケート系無機塗材、金属アルコキシド系無機材から選ばれる少なくとも一つの物質を使用する。このうちアルコキシル基の加水分解によるシラノール基を含むシラン化合物を使用するのかさらに好ましい。シラン化合物としては、1分子中に平均2個以上のアルコキシシリル基、シラノール基およびアシロキシシリル基から選ばれる官能基を有するシラン化合物が好適に採用される。このようなシラン化合物は、シランカップリング剤、シラン系硬化剤、シリコーン系硬化剤、アルコキシシラン、シランアルコキサイドなどの名称で市販されている。親水性付与剤(a2)は(a1)成分と(b1)成分の合計量100重量部に対して5〜50重量部加えるのが好ましい。
【0018】
(a3)成分の紫外線吸収剤は、紫外線を吸収し被膜の光劣化を防ぐために加える。一例としてベンゾトリアゾール系化合物(BASF(旧チバガイギー)社製、商品名“チヌビン900”)がある。この紫外線吸収剤には光安定剤(同社製、商品名“チヌビン144”)及び/又は表面調整剤(BYKケミー社製、商品名“BYK300”)を併用することもできる。紫外線吸収剤(a3)は(a1)成分と(b1)成分の合計量100重量部に対して0.1〜5重量部加えるのが好ましい。
【0019】
(a4)成分の溶剤は上塗り材塗料の粘度を調整し、ローラー塗装しやすくするために加える。溶剤はトルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、シクロヘキサン、ソルベッソ#100(エクソン社製)、ソルベッソ#150(エクソン社製)、スワゾール#1000(丸善石油化学社製)、スワゾール#1500(丸善石油化学社製)、スワゾール#1800(丸善石油化学社製)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジアセトンアルコール、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、エチルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、ベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、エチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、高沸点芳香族ナフサなどがある。これらの溶剤は適宜混合して使用しても良い。溶剤(a4)は(a1)成分と(b1)成分の合計量100重量部に対して30〜200重量部加えるのが好ましい。
【0020】
上記上塗り材は、株式会社ハマキャスト製、商品名“ニューハマトップ”、あるいはトウペ社製、商品名“ニューガーメットDC#500”が市販されている。この塗料を使用してローラー塗装するのが好ましい。ローラー塗装の利点は、外壁表面に凹凸があっても均一膜厚に塗装でき、塗装むらがなく、空気泡も含まず、塗装効率も高いためである。塗装後は常温(0〜40℃程度)硬化させる。
【0021】
前記A液とB液を混合して上塗り材とし、ローラー塗装により2度塗りするのが好ましい。ピンホールなどを無くすためである。A液とB液の混合割合は、重量比でA液:B液=70〜95:30〜5が好ましく、さらに好ましくはA液:B液=75〜90:10〜25であり、とくに好ましくはA液:B液=80〜85:20〜15である。
【0022】
前記A液とB液を混合し、塗装膜の乾燥後の固形分質量:50〜200g/m
2、乾燥膜厚:30〜120μmであるのが好ましい。このトップコート膜は、塵埃が付着し難く、一旦付着した塵埃も雨水等によって容易に洗い流すことができることから、補強樹脂塗膜層の白化を防止できるうえ、塗装膜全体の長期間美装状態を保てる。より具体的には、50年耐用もしくは50年を超える耐用が可能な外壁とすることができる。
【0023】
補強樹脂塗膜層の塗料材料は、アクリル系樹脂エマルション、ポリエステル系樹脂エマルション、ポリカーボネート系樹脂エマルション、ポリアミド系樹脂エマルション、ポリイミド系樹脂エマルション、ポリエーテルスルホン系樹脂エマルション、ポリスルホン系樹脂エマルション、ポリスチレン系樹脂エマルション、ポリノルボルネン系樹脂エマルション、ポリオレフィン系樹脂エマルション及びアセテート系樹脂エマルションから選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。中でも、比較的低温で硬化し、かつ、良好な耐候性、耐水性、耐酸性、高い平滑性及び高い硬度などの塗膜特性が容易に得られる点で、ポリエステル−ウレタン樹脂エマルション等のポリエステル系樹脂エマルションあるいはアクリル−シリコン樹脂エマルション又はアクリル−ウレタン樹脂エマルション等のアクリル系樹脂エマルションが好ましい。
【0024】
補強樹脂塗膜層の繊維補強材は、ネット及び/又は繊度1.1〜3.3decitex(1〜3デニール)、繊維長3〜6mmの繊維であるのが好ましい。補強繊維としては、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン及びポリエチレンから選ばれる少なくとも1つであるのが好ましい。
【0025】
前記密封構造の防水プライマー層と補強樹脂塗膜層とトップコート層の透光率は、JIS Z 8722の測定で、それぞれ80%以上であるのが好ましい。これにより、内部の壁面タイルの美観を保つことができる。
【0026】
また、本発明の好ましい実施形態しては、躯体に下地モルタルを介して貼り付けられた複数のタイルからなるタイル壁面に、透明性プライマーを塗布して透明な防水プライマー層を形成する工程と、前記防水プライマー層が乾燥した後に、当該防水プライマー層の表面に、透明な樹脂塗膜を形成するための第1層目の樹脂塗膜材料を塗布する工程と、前記第1層目の樹脂塗膜材料の上に、透明な補強材を貼り付ける工程と、前記第1層目の樹脂塗膜材料が乾燥した後に、前記透明な補強材、前記第1層目の樹脂塗膜材料及び前記タイル壁面を貫いて前記躯体にアンカーピンを打ち込む工程と、前記透明な補強材を貼り付けた後の前記第1層目の樹脂塗膜材料の上に、前記透明な樹脂塗膜を形成するための第2層目の樹脂塗膜材料を塗布する工程とを含む。この際に、プライマー層とトップコート層の端面を直接接合させて、前記補強樹脂塗膜層を密封構造とする。この施工方法によれば、タイル壁面の持つ色調や色合いの外観を残したまま、タイルの剥離・脱落防止効果を付与することのできる建築物の外壁の施工方法を提供することができる。
【0027】
本発明の施工方法においては、透明な補強材を貼り付けた後に、前記第1層目の樹脂塗膜材料に埋め込む工程をさらに備えているのが好ましい。また、前記第2層目の樹脂塗膜材料の上に、前記透明な樹脂塗膜を形成するための第3層目の樹脂塗膜材料を塗布する工程をさらに備えているのが好ましい。
【0028】
また、前記アンカーピンを打ち込んだ後、前記第2層目の樹脂塗膜材料を塗布する前に、前記アンカーピンの頭部及びその周辺に前記透明な樹脂塗膜の材料を用いて下塗りする工程をさらに備えているのが好ましい。この好ましい例によれば、アンカーピンの頭部及びその周辺に樹脂塗膜の材料を十分に行き渡らせることができる。また、前記第1層目の樹脂塗膜材料が乾燥した後に、前記アンカーピン用の穴を穿孔する工程をさらに備えているのが好ましい。前記アンカーピンとして、その頭部が前記タイルと同色のものを用いるのが好ましい。
【0029】
また、前記補強材として、透明ネットを用いるのが好ましい。これにより、補強材を樹脂塗膜材料中に埋め込み、補強材と樹脂塗膜とを一体化することができる。前記透明ネットはPVA系変性透明割布ネット等が好ましい。
【0030】
また、前記樹脂塗膜の材料に、第2の補強材として透明なフィラーが分散されていてもよく、前記フィラーの材料はナイロン及び/又はガラスであるのが好ましい。
【0031】
以下、図面を用いてさらに具体的に説明する。図面中、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施の形態における建造物(パラペット廻り)の外壁構造を示す断面図である。コンクリート躯体1には、下地モルタル(「貼付けモルタル」を含む)2を介して複数のタイル3が貼り付けられており、これによりタイル壁面が形成されている。凹みがある部分にはシーリング材8を充填して平坦化しておく。タイル壁面の表面には透明な防水プライマー層4が形成されている。この防水プライマー層4は、コンクリート躯体1からタイル3の目地部を通って染み出してくる水分を遮断するためのものである。防水プライマー層4の表面には、透明な補強樹脂塗膜層5が形成されている。補強樹脂塗膜5には透明なネット等の繊維補強材6が埋設されており、これにより引っ張り強度の高い補強樹脂塗膜となる。補強樹脂塗膜層5の表面には、トップコート層7が形成されている。
【0032】
各塗料は次のように塗装する。
(1)防水プライマー層4は、タイル3の面全体を塗装するとともに、壁の上辺を超えて裏面の垂直部まで塗装しておく。
(2)補強樹脂塗膜層5はタイル3の面を覆うように塗装する
。
(3)トップコート層7は防水プライマー層4と同様にタイル3の面全体を塗装するとともに、壁の上辺を超えて裏面の垂直部まで塗装する。これにより、防水プライマー層4とトップコート層7は直接接合し、補強樹脂塗膜層5を密封した構造となる。この密封構造部9により、補強樹脂塗膜層5には水分が侵入せず、白化することも防げる。
【0033】
図2は同、建造物(金物廻り)の外壁構造を示す断面図である。外壁から金属製や樹脂製のパイプ10が外部に向かって引き出されているような箇所は、防水プライマー層4とトップコート層7の末端はパイプ10に沿う位置まで引き出し、密封構造部9とする。
【0034】
図3は同、建造物(ボックス廻り)の外壁構造を示す断面図である。外壁に金属製や樹脂製のボックス11がある場合、防水プライマー層4とトップコート層7の末端はボックス11に沿う位置まで引き出し、密封構造部9とする。
【0035】
図4は同、建造物(サッシュ廻り)の外壁構造を示す断面図である。外壁に窓ガラス14などのサッシュ13がある場合、防水プライマー層4とトップコート層7の末端はサッシュ13のシーリング材12まで延ばし、密封構造部9とする。
【0036】
図5は同、建造物(外壁土間との境界箇所)の外壁構造を示す断面図である。土間15がある場合は下から湿気が上がってくるので、下部の補強樹脂塗膜層5は短くし、プライマー層4とトップコート層7の末端は長くして密封構造部9とする。
【0037】
図6は同、建造物の外壁の基本構造を示す断面図である。コンクリート躯体1には、タイル4を貫いて、ワッシャ18が取り付けられた状態のアンカーピン17が打ち込まれている。ここで、アンカーピン17の頭部及びワッシャ18は、樹脂塗膜5に固定されている。また、アンカーピン17としては、引抜き強度が高くなるように、下端部分(コンクリート躯体1に打ち込まれる部分)が湾曲した、ステンレス鋼(SUS304)製のいわゆる“コブラアンカーピン”(日本パワーファスニング株式会社製)が用いられている。尚、
図1においては、タイル3を貫いてアンカーピン17が打ち込まれているが、タイルの目地部16を貫いてアンカーピン17を打ち込んでもよい。この構造により、繊維補強材6が埋設された補強樹脂塗膜5はコンクリート躯体1に強固に固定され、建築物の外壁面にタイル3の剥離・脱落防止となる。
【0038】
図7Aは比較例の建造物の外壁下部を示す断面図、
図7Bは同外壁上部を示す断面図である。
図7Aにおいては、防水プライマー層4は目地19を覆わない位置で止めている。すなわち、開放構造21となっている。そうすると、コンクリート躯体1からの水分が矢印20のように移動し、目地19から補強樹脂塗膜5内に侵入し、補強樹脂塗膜5を白化させてしまう。
図7Bにおいては、トップコート層7の先端が短く、補強樹脂塗膜5が露出した状態である。すなわち、開放構造23となっている。そうすると、雨水が矢印22のように降りかかり、補強樹脂塗膜5内に侵入し、補強樹脂塗膜5を白化させてしまう。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。尚、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
(1)防水プライマー層4として神東塗料株式会社製、商品名“マイルドハイテン”(少量の溶剤を含む)を使用し、中心部が
図6、周辺部が
図1に示す構造の建造物のタイル面に、乾燥膜厚:50μm、塗装膜の乾燥後の質量:0.15kg/m
2で塗装した。
(2)防水プライマー層4が乾燥した後、第1層目の樹脂塗膜材料(塗布量約0.5kg/m
2)を塗布した。第1層目の樹脂塗膜材料としては、補強材として繊維の繊度1.9decitex(1.7デニール)、長さ約3mmのナイロン繊維が1〜5質量%の割合で均一に分散された旭化成ケミカルズ株式会社製の商品名“ポリトロンE−2050”を用いた。次いで、第1層目の樹脂塗膜材料の上に、コテやローラを用いて、透明な樹脂塗膜を形成するための第2層目の樹脂塗膜材料(塗布量約0.5kg/m
2)を塗布した。第2層目の樹脂塗膜材料は、第1層目の樹脂塗膜材料と同じものである。 次に、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料を塗布した後、直ちに、ダイオ化成株式会社製のPVA系変性透明割布ネット・DT550からなる複数枚の補強材(各補強材の大きさ1.05m×1.05m)を、50mmずつ重ねた状態で縦横に貼り付け、金ゴテでしごいて、当該補強材を第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料に埋め込んだ。
(3)次に、アンカーピン用の孔から発泡スチロール製の栓を抜き取り、当該アンカーピン用の孔に、ワッシャが取り付けられた状態のアンカーピン(ハイタップアンカーピン)をインパクトドリルで打ち込み(捩じ込み)、ワッシャで補強材を押え付けた。すなわち、補強材、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料並びにタイル壁面を貫いてコンクリート躯体にアンカーピンを打ち込んだ。アンカーピンの頭部及びワッシャは、タイルの色と同一の色に塗装した。
(4) 次に、コンクリート躯体に打ち込んだアンカーピンの頭部、ワッシャ及びその周辺に透明な樹脂塗膜の材料(第2の補強材として繊維の繊度1.9decitex(1.7デニール)、長さ約3mmのナイロン繊維が1〜5質量%の割合で均一に分散された旭化成ケミカルズ株式会社製の商品名“ポリトロンE−2050”を用いて下塗りした。下塗りするのは、アンカーピンの頭部、ワッシャ及びその周辺にも透明な樹脂塗膜の材料を十分に行き渡らせるためである。
(5)次に、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料の上に、コテやローラを用いて、透明な樹脂塗膜を形成するための第3層目の樹脂塗膜材料(塗布量約0.5kg/m
2)を塗布した。第3層目の樹脂塗膜材料は、第1層目及び第2層目の樹脂塗膜材料と同じものである。以上により、補強樹脂塗膜層が得られた。この補強樹脂塗膜層の乾燥塗布量は約1.3kg/m
2、乾燥膜厚は約700μmであった。このようにして得られた樹脂塗膜の透光率は約80%であった。
(6)最後に、トップコート塗料として、株式会社ハマキャスト製、商品名“ニューハマトップ”をローラ塗装で2度塗りした。トップコート塗料の乾燥塗布量は約0.2kg/m
2、乾燥膜厚は約100μmであった。
(7)以上の方法で
図1に示すパラペット廻りの塗装をした。この塗装物体は密封構造9を有し、防水アンカー層4とトップコート層7の直接接合長さは500mmであった。この塗装物体は、3年経過しても補強樹脂塗膜層には白化現象は見られなかった。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様な方法により、
図2に示すパイプ廻りの塗装をした。この塗装物体は密封構造9を有し、防水アンカー層4とトップコート層7の直接接合長さは15mmであった。この塗装物体は、3年経過しても補強樹脂塗膜層には白化現象は見られなかった。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同様な方法により、
図3に示すボックス廻りの塗装をした。この塗装物体は密封構造9を有し、防水アンカー層4とトップコート層7の直接接合長さは10mmであった。この塗装物体は、3年経過しても補強樹脂塗膜層には白化現象は見られなかった。
【0043】
(実施例4)
実施例1と同様な方法により、
図4に示すサッシュ廻りの塗装をした。この塗装物体は密封構造9を有し、防水アンカー層4とトップコート層7の直接接合長さは100mmであった。この塗装物体は、3年経過しても補強樹脂塗膜層には白化現象は見られなかった。
【0044】
(実施例5)
実施例1と同様な方法により、
図5に示す外部土間と壁との境界部分の塗装をした。この塗装物体は密封構造9を有し、防水アンカー層4とトップコート層7の直接接合長さは50mmであった。この塗装物体は、3年経過しても補強樹脂塗膜層には白化現象は見られなかった。
【0045】
(比較例1)
図7Aに示す防水プライマー層下部を開放構造とした以外は実施例1と同様な方法により塗装したところ、3年経過後には白化現象が生じ、見栄えが悪くなった。
【0046】
(比較例2)
図7Bに示すトップコート層上部を開放構造とした以外は実施例1と同様な方法により塗装したところ、3年経過後には白化現象が生じ、見栄えが悪くなった。