(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のPC鋼素線が撚られて形成され螺旋状の撚り目を有するPC鋼撚線と、前記撚り目に設置された光ファイバ部と、を有する光ファイバ付PC鋼撚線を被定着部に定着させる光ファイバ付PC鋼撚線の定着部構造であって、
前記被定着部に削孔された定着孔の内部に設けられ、前記定着孔の内部に充填された充填材を介して前記光ファイバ付PC鋼撚線を前記定着孔に定着させる耐荷体と、
前記耐荷体に設けられ、前記耐荷体によって定着される前記光ファイバ付PC鋼撚線を前記耐荷体に固定する固定部と、を備え、
前記固定部は、
前記光ファイバ付PC鋼撚線の前端部において前記光ファイバ付PC鋼撚線の周囲に圧着される圧着部を有し、
前記光ファイバ部は、
前記撚り目に配置された光ファイバ素線と、前記圧着部の内壁面と前記PC鋼撚線との間に配置され、前記光ファイバ素線を収容する保護管と、を有する、PC鋼撚線の定着部構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PC鋼撚線は、例えば当該PC鋼撚線の端部に圧着され装着された圧着部によって耐荷体等に固定される。この耐荷体等が被定着部に定着されることにより、PC鋼撚線は、圧着部を介して緊張力等を伝達する。そのため、圧着部の位置までPC鋼撚線の張力を計測できるように、光ファイバ付PC鋼撚線を定着することが望まれる。
【0005】
ところで、複数のPC鋼素線が撚られて形成され螺旋状の撚り目を有するPC鋼撚線に光ファイバ部を取り付ける場合、撚り目に光ファイバ部を設置することがある。この場合、圧着部の位置までPC鋼撚線の張力を計測するためには、圧着部の内壁面とPC鋼撚線との間に光ファイバ部を通すこととなる。しかしながら、圧着部を用いるPC鋼撚線の定着部構造では、通常、前端部において周囲を圧着部によって圧着されたPC鋼撚線が径方向に強く圧迫されて、PC鋼撚線に圧着部が密着する。そのため、圧着部の内壁面とPC鋼撚線との間に光ファイバ部を通すことが困難である。その結果、圧着部の位置までPC鋼撚線の張力を計測することが困難である。
【0006】
そこで、本発明は、圧着部の位置までPC鋼撚線の張力を計測することが可能なPC鋼撚線の定着部構造、グラウンドアンカー、測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るPC鋼撚線の定着部構造は、複数のPC鋼素線が撚られて形成され螺旋状の撚り目を有するPC鋼撚線と、撚り目に設置された光ファイバ部と、を有する光ファイバ付PC鋼撚線を被定着部に定着させる光ファイバ付PC鋼撚線の定着部構造であって、被定着部に削孔された定着孔の内部に設けられ、定着孔の内部に充填された充填材を介して光ファイバ付PC鋼撚線を定着孔に定着させる耐荷体と、耐荷体に設けられ、耐荷体によって定着される光ファイバ付PC鋼撚線を耐荷体に固定する固定部と、を備え、固定部は、光ファイバ付PC鋼撚線の前端部において光ファイバ付PC鋼撚線の周囲に圧着される圧着部を有し、光ファイバ部は、撚り目に配置された光ファイバ素線と、圧着部の内壁面とPC鋼撚線との間に配置され、光ファイバ素線を収容する保護管と、を有する。
【0008】
このPC鋼撚線の定着部構造では、光ファイバ付PC鋼撚線は、その前端部において周囲を圧着部によって圧着されることで耐荷体に固定され、充填材を介して定着孔に定着される。この構造では、PC鋼撚線の前端部が圧着部と共に圧着されるため、圧着部の内壁面によって径方向に強く圧迫され、PC鋼撚線の前端部の外周面と圧着部とが密着する。ここで、光ファイバ素線が保護管に収容されることで、圧着部の内壁面によって径方向に強く圧迫されて圧着部の内壁面から加えられる圧迫力から光ファイバ素線を保護することができる。そのため、光ファイバ付PC鋼撚線の光ファイバ部を、光ファイバ素線が保護管に収容された状態でPC鋼撚線の撚り目に設置して、圧着部の内壁面とPC鋼撚線との間に配置することができる。従って、圧着部の内壁面とPC鋼撚線との間に光ファイバ部を通すことが可能となり、圧着部の位置までPC鋼撚線の張力を計測することが可能となる。
【0009】
また、PC鋼撚線の定着部構造では、保護管は、圧着部の降伏強度よりも高い降伏強度を有することが好ましい。この場合、圧着部の内壁面からの圧迫力から光ファイバ素線をより確実に保護することができる。
【0010】
また、PC鋼撚線の定着部構造では、光ファイバ付PC鋼撚線は、少なくとも一対の光ファイバ素線を有し、一対の光ファイバ素線は、光ファイバ付PC鋼撚線の前端部において互いに接続されていてもよい。この場合、例えば測定装置を用いて1本の光ファイバ付PC鋼撚線の歪を測定する際、往復分の歪に関する情報を取得することができる。また、一対の光ファイバ素線を互いに接続する接続作業を光ファイバ付PC鋼撚線の前端部において容易に行うことができる。
【0011】
また、本発明は、上記のPC鋼撚線の定着部構造を有するグラウンドアンカーの発明としても捉えることができる。
【0012】
このグラウンドアンカーでは、例えば測定装置を用いて1本の光ファイバ付PC鋼撚線について光ファイバ素線の歪を測定する際、往復分の歪に関する情報を取得することができるため、定着孔に設けられたグラウンドアンカーにおける光ファイバ付PC鋼撚線の歪を好適に測定することができる。
【0013】
また、本発明は、測定装置の発明としても捉えることができ、測定装置は、上記のPC鋼撚線の定着部構造における光ファイバ付PC鋼撚線の歪を測定するための測定装置であって、前端部において互いに接続された光ファイバ素線の一方の後端部に光信号を発信する光信号発信部と、前端部において互いに接続された光ファイバ素線の他方の後端部からの光信号を受信する光信号受信部と、光信号受信部で受信された光信号を解析し光ファイバ付PC鋼撚線の歪に関する情報を取得する解析部と、を備える。
【0014】
この測定装置では、光信号発信部によって光ファイバ素線の一方の後端部に光信号を発信することで、光信号受信部によって光ファイバ素線の他方の後端部からの光信号を受信することができる。そのため、2本の光ファイバ素線に対して一組の光信号発信部及び光信号受信部で済むため、光ファイバ素線の数に対する光信号発信部及び光信号受信部の数を減らすことができる。
【0015】
また、本発明は、測定方法の発明としても捉えることができ、測定方法は、上記のPC鋼撚線の定着部構造を有するグラウンドアンカーを準備し、グラウンドアンカーを斜面に複数本設置する準備工程と、光信号を発信する光信号発信部を、前端部において互いに接続された光ファイバ素線の一方の後端部に接続すると共に、光信号を受信する光信号受信部を、前端部において互いに接続された光ファイバ素線の他方の後端部に接続する接続工程と、光信号受信部で受信された光信号を解析部によって解析して光ファイバ付PC鋼撚線の歪に関する情報を取得し、斜面における地中の歪を測定する測定工程と、を備える。
【0016】
この測定方法では、設置工程において設置するグラウンドアンカーが往復分の歪に関する情報を取得することができるものであるため、光信号発信部を光ファイバ素線の一方の後端部に接続して光信号受信部を光ファイバ素線の他方の後端部に接続することで、斜面における地中の歪を容易に測定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧着部の位置までPC鋼撚線の張力を計測することが可能なPC鋼撚線の定着部構造、グラウンドアンカー、測定装置及び測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るPC鋼撚線の定着部構造、グラウンドアンカー、測定装置及び測定方法の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。以下の説明において、「前方」、「後方」、「前端」、「後端」などの前後の概念を持つ語を用いる場合には、
図1及び
図4における紙面上方を後方、
図1における紙面下方を前方とする。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るPC鋼撚線の定着部構造を有するグラウンドアンカーの全体構成を示す図である。
図2(a)は、光ファイバ付PC鋼撚線の斜視図である。
図2(b)は、保護管の一例を示す斜視図である。本実施形態に係るPC鋼撚線の定着部構造100は、例えば、ダム及び斜面等において、岩盤(被定着部)R上に設けられた擁壁等の構造物101を岩盤R側に押し付けて力学的な安定性を確保するためのグラウンドアンカー50に適用される。なお、グラウンドアンカー50を構成する複数のPC鋼撚線は、必ずしも全てが光ファイバ付PC鋼撚線1である必要はなく、一部のPC鋼撚線に光ファイバ部が配置されていなくてもよい。以下の説明では、「光ファイバ付PC鋼撚線1」及び「光ファイバ部が配置されていない一部のPC鋼撚線」をまとめて「PC鋼撚線1,3」と略記することがある。
【0021】
図1に示されるように、グラウンドアンカー50は、岩盤R及び構造物101に削孔された定着孔103の内部に設けられている。定着孔103は、岩盤R及び構造物101に例えば直径90〜165mmで削孔される。グラウンドアンカー50では、PC鋼撚線1,3の前端側が例えば20〜100m程度の長さで定着孔103に挿入されており、PC鋼撚線1,3の後端側が例えば150〜350mm程度の長さで表面101aから後方に突出している。
【0022】
グラウンドアンカー50は、PC鋼撚線の定着部構造100を含む頭部51と、アンカー自由長部52と、アンカー体長部55と、複数のPC鋼撚線1,3と、を備える。頭部51は、構造物101の表面101aにおける定着孔103の開口部に設けられている。頭部51では、PC鋼撚線1,3に所定の緊張力が加えられた後、その緊張力を保持するようにPC鋼撚線1,3の後端部が構造物101に定着される。
【0023】
アンカー自由長部52は、表面101aから前方側のグラウンドアンカー50においてPC鋼撚線1,3が定着されていない部分である。アンカー自由長部52では、頭部51とアンカー体長部55とを結ぶようにPC鋼撚線1,3が延在する。アンカー自由長部52は、構造物101の定着孔103内に設けられた押え板53及び配列板54を有する。押え板53は、PC鋼撚線1,3が挿通され、表面101aと配列板54との間で定着孔103を密閉する。配列板54には、PC鋼撚線1,3が挿通されている。配列板54は、当該配列板54よりも後方においてPC鋼撚線1,3が互いに略平行となるようにPC鋼撚線1,3を整列させる。
【0024】
アンカー体長部55は、グラウンドアンカー50においてPC鋼撚線1,3の前端部を定着する部分である。アンカー体長部55は、PC鋼撚線の定着部構造100によってPC鋼撚線1,3の前端部を岩盤Rの定着孔103に定着させる。具体的には、アンカー体長部55は、アンカー自由長部52から連続して延在するPC鋼撚線1,3の前端部を定着するための耐荷体56を有する。耐荷体56は、後述の充填材5を介してPC鋼撚線1,3を定着孔103に定着させる。
【0025】
アンカー体長部55では、一例として、複数の耐荷体56が定着孔103の内部に直列的に設けられている。耐荷体56は、PC鋼撚線1,3に沿って所定のピッチ(例えば1.5mごと)で配置されている。耐荷体56の個数は、例えばPC鋼撚線1,3の設置本数を2で割った個数である。PC鋼撚線1,3の設置本数は、特に限定されないが、偶数の設置本数(ここでは4本)であってもよい。
【0026】
耐荷体56は、PC鋼撚線1,3の前端部が配置される耐荷体本体57と、耐荷体本体57の後方でPC鋼撚線1,3を取り巻くように設けられる補強筋58と、を有する。
耐荷体本体57は、例えばアルミ合金等の鋳造により形成された柱状の部材である。耐荷体本体57には、当該耐荷体本体57によって定着されるPC鋼撚線1,3を耐荷体本体57に固定するための固定部60と、当該耐荷体本体57によって定着されないPC鋼撚線1,3を挿通可能な貫通孔57a(
図1参照)と、が設けられている。耐荷体本体57には、例えば2つの固定部60が設けられ、PC鋼撚線1,3の設置本数よりも2だけ少ない数の貫通孔57aが設けられている。固定部60の詳細については、後述する。
【0027】
アンカー体長部55の最前端以外の耐荷体本体57では、当該耐荷体本体57によって定着されるPC鋼撚線1,3が固定部60に固定されると共に、当該耐荷体本体57の前方側に延長されるPC鋼撚線1,3が貫通孔に挿通される。アンカー体長部55の最前端の耐荷体本体57では、当該耐荷体本体57によって定着されるPC鋼撚線1,3が固定部60に固定される。
【0028】
補強筋58は、それぞれの耐荷体本体57の後方に設けられた金属製のバネ状部材である。補強筋58は、それぞれの耐荷体本体57の後方の充填材5内において三次元的に延在し、その周囲の充填材5の強度を補強する。補強筋58は、その前端部が耐荷体本体57の段付部57f(
図4参照)に配置される。
【0029】
アンカー自由長部52における定着孔103の内部には、押え板53よりも前方側において充填材5が充填されている。アンカー体長部55における定着孔103には、アンカー自由長部52から連続して充填材5が充填されている。充填材5は、例えばセメントミルク及びモルタル等であり、PC鋼撚線1,3を定着孔103に定着させるために定着孔103に充填されて硬化される。
【0030】
図2に示されるように、光ファイバ付PC鋼撚線1は、PC鋼撚線3と、PC鋼撚線3の表面に配置された光ファイバ部20と、を有する。光ファイバ付PC鋼撚線1は、少なくとも一対の光ファイバ部20を有することが好ましい。PC鋼撚線3は、例えばストランド鋼材からなる同一径の複数本(本実施形態では19本)のPC鋼素線4a〜4cが撚られて形成された撚線である。PC鋼素線4aは、PC鋼撚線3の最外周に配置された素線である。PC鋼素線4bは、PC鋼素線4aの内側に配置された素線である。PC鋼素線4cは、PC鋼素線4bの内側に配置され、PC鋼撚線3の中心に配置された素線である。
【0031】
PC鋼撚線3の表面には、互いに隣接する2本のPC鋼素線4a,4a同士の間の谷間として、PC鋼撚線3の撚り目3aが形成されている。この谷間は、PC鋼撚線3の表面においてPC鋼撚線3の中心軸線Aに平行に延びる母線に対して所定の角度で傾斜しており、中心軸線Aを中心とした螺旋状に延在する。つまり、PC鋼撚線3は、螺旋状の撚り目3aを有する。PC鋼撚線3の表面には、腐食防止等のための被覆としてシース2が設けられている。
【0032】
光ファイバ部20は、上記撚り目3aのうちの2つにそれぞれ設置され螺旋状に延在している。この一対の光ファイバ部20のそれぞれは、光ファイバ本体21と、光ファイバ本体21を収容する保護管25と、を有する。光ファイバ本体21は、光信号を伝送する光ファイバ素線23と、光ファイバ素線23を覆う被覆24を有する。被覆24は、例えばポリアミド系材料からなる。保護管25は、光ファイバ本体21を収容し、収容した光ファイバ本体21を、圧着部30の内壁面から加えられる圧迫力から保護する。
【0033】
保護管25は、上記撚り目3aのうちの2つにそれぞれ設置され螺旋状に延在している。保護管25は、上記の谷間に埋め込まれるように設置され、互いに隣接するPC鋼素線4a,4a同士の間において当該隣接するPC鋼素線4a,4aに沿って螺旋状に延在するように設置されている。従って、保護管25に収容された光ファイバ本体21(光ファイバ素線23)は、撚り目3aに沿って螺旋状に延在する。
【0034】
保護管25は、PC鋼撚線1,3の中心軸線方向に直交する断面内において、隣接するPC鋼素線4a,4aのそれぞれの表面と、PC鋼撚線1,3を構成するPC鋼素線4a〜4cの共通の外接円と、で囲まれた領域内に収容されている(
図3参照)。すなわち、光ファイバ部20は、光ファイバ素線23が保護管25に収容された状態でPC鋼撚線3の撚り目3aに設置されて、圧着部30の内壁面(後述する挿入部32の32d)とPC鋼撚線3との間に配置される。保護管25は、圧着される前の圧着部30(後述の本体部31及び挿入部32)の降伏強度よりも高い降伏強度を有する。保護管25の材質としては、例えば窒化チタン、高速度工具鋼鋼材、又は合金工具鋼鋼材等の材料が好ましい。
【0035】
図4は、
図1におけるアンカー体長部を示す一部断面図である。
図5(a)は、圧着部の中心軸線に沿っての断面図である。
図5(b)は、挿入部の中心軸線に沿っての一部断面図及び挿入部の平面図である。
【0036】
図4に示されるように、PC鋼撚線の定着部構造100では、耐荷体本体57に設けられた固定部60によってPC鋼撚線1,3が耐荷体本体57に固定される。固定部60は、耐荷体本体57に設けられた2つの係止部57bと、PC鋼撚線1,3と共に圧着された状態で係止部57bに係止される圧着部30と、を有する。係止部57bは、圧着後の圧着部30の外径よりも大きい内径を有する円筒状の孔である。係止部57bの後側には、内径が光ファイバ付PC鋼撚線1の外径よりも大きく且つ係止部57bの内径よりも小さい貫通孔57gが係止部57bと同軸に形成されている。当該貫通孔57gに対してPC鋼撚線1,3が後側から挿通されており、貫通孔57gの前側においてPC鋼撚線1,3の前端部の周囲を囲む圧着部30が装着されていることで、PC鋼撚線1,3は貫通孔57gから後側に抜けないようになっている。このような構造により、圧着部30が係止部57bに係止されるため、圧着部30と共に圧着されたPC鋼撚線1,3が耐荷体本体57に固定され、PC鋼撚線1,3の緊張力が耐荷体本体57によって支持される。
【0037】
図5に示されるように、圧着部30は、円筒状の本体部31と、本体部31の内壁面31dに重ねられる円筒状の挿入部32と、を有する。
図5の例では、圧着される前の状態の圧着部30が示されている。本体部31は、例えば材質がSCM435である円筒状部材である。本体部31が係止部57bに係止されている状態において、本体部31の外壁面31aは、係止部57bの内壁面に対向し、本体部31の後端部31bは、係止部57bの後方の面57hと当接する。本体部31の内壁面31dには、その後端部31b側において周方向に延在する溝31eが形成されている。
【0038】
挿入部32は、例えば材質がSCM415である円筒状部材である。挿入部32は、本体部31よりも中心軸線方向に短い全長を有する。本体部31が係止部57bに係止されている状態において、挿入部32の外壁面32aは、本体部31の内壁面31dにおける前方に当接し、挿入部32の後端部32bは、本体部31の後端部31bよりも前方側に位置し、挿入部32の前端部32cは、本体部31の前端部31cと略面一に位置する。挿入部32の内壁面32dは、圧着によりPC鋼撚線1,3の最外周のPC鋼素線4aに密着する。挿入部32には、後端部32bから前方に向かって中心軸線に沿って延びる一対の切欠部32eが設けられている。なお、本体部31の内壁面31dの後方側には、挿入部32が配置されない領域が存在する。この領域は、圧着によりPC鋼撚線1,3のシース2の外周面に密着する(
図4参照)。
【0039】
このような固定部60では、PC鋼撚線1,3の前端部1aに挿入された圧着部30と共に当該前端部1aが圧着されることで、PC鋼撚線1,3が耐荷体本体57に固定される。これにより、PC鋼撚線1,3が充填材5を介して定着孔103に定着される。この構造では、圧着部30が圧着されると、圧着部30の内壁面(本体部31の内壁面31d及び挿入部32の内壁面32d)によってPC鋼撚線1,3が径方向に強く圧迫され、圧着部30の内壁面とPC鋼撚線1,3の前端部1aの外周面とが密着する。
【0040】
ここで、PC鋼撚線3の撚り目3aに保護管25が設置されていることにより、圧着によって圧着部30の内壁面とPC鋼撚線1,3の前端部1aの外周面とが密着したとしても、保護管25によって保護管25の内部空間が潰れることが回避される。このように、圧着部30の内壁面とPC鋼撚線1,3との間に光ファイバ本体21を通す経路が確保されると共に、圧着部30の内壁面から加えられる圧迫力から光ファイバ本体21が保護される。その結果、圧着部30の位置まで光ファイバ付PC鋼撚線1の張力を計測することが可能となる。
【0041】
なお、耐荷体本体57には、前端部を封止するキャップ57cが取り付けられる。キャップ57cは、キャップ固定ボルト57dが固定ボルト孔57eに螺合することで耐荷体本体57に取り付けられる。キャップ57cには、一対のボルトBが螺合される貫通孔が設けられており、当該貫通孔を介して係止部57bの前方の空間57vに防錆油等が注入される。空間57vでは、光ファイバ付PC鋼撚線1の前端部1aにおいて一対の光ファイバ部20の各光ファイバ素線23が互いに接続されている。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係るPC鋼撚線の定着部構造100では、光ファイバ付PC鋼撚線1は、その前端部1aにおいて周囲を圧着部30によって圧着されることで耐荷体本体57に固定され、充填材5を介して定着孔103に定着される。この構造では、光ファイバ付PC鋼撚線1の前端部1aが圧着部30と共に圧着されるため、圧着部30の内壁面によって径方向に強く圧迫され、光ファイバ付PC鋼撚線1の前端部1aの外周面と圧着部30とが密着する。ここで、光ファイバ本体21が保護管25に収容されることで、圧着部30の内壁面によって径方向に強く圧迫されて圧着部30の内壁面から加えられる圧迫力から光ファイバ本体21を保護することができる。そのため、光ファイバ付PC鋼撚線1の光ファイバ部20を、光ファイバ本体21が保護管25に収容された状態でPC鋼撚線3の撚り目3aに設置して、圧着部30の内壁面とPC鋼撚線3との間に配置することができる。従って、圧着部30の内壁面とPC鋼撚線3との間に光ファイバ部20を通すことが可能となり、圧着部30の位置まで光ファイバ付PC鋼撚線1の張力を計測することが可能となる。
【0043】
また、PC鋼撚線の定着部構造100では、保護管25は、圧着される前の圧着部30の降伏強度よりも高い降伏強度を有する。これにより、圧着部30の内壁面からの圧迫力から光ファイバ本体21をより確実に保護することができる。
【0044】
また、PC鋼撚線の定着部構造100では、光ファイバ付PC鋼撚線1は、少なくとも一対の光ファイバ素線23を有し、一対の光ファイバ素線23は、光ファイバ付PC鋼撚線1の前端部1aにおいて互いに接続されている。これにより、例えば後述する測定装置70を用いて1本の光ファイバ付PC鋼撚線1の歪を測定する際、往復分の歪に関する情報を取得することができる。また、一対の光ファイバ素線23を互いに接続する接続作業を光ファイバ付PC鋼撚線1の前端部1aにおいて容易に行うことができる。
【0045】
本実施形態に係るグラウンドアンカー50では、例えば後述する測定装置70を用いて1本の光ファイバ付PC鋼撚線1について光ファイバ素線23の歪を測定する際、往復分の歪に関する情報を取得することができるため、定着孔103に設けられたグラウンドアンカー50における歪を好適に測定することができる。
【0046】
なお、従来のPC鋼撚線の定着部構造では、圧着部による光ファイバ部の圧迫を避けようとする場合、圧着部の内壁面とPC鋼撚線との間に光ファイバ部を通さないように、圧着部よりも前方側で光ファイバ付PC鋼撚線から光ファイバ部を引き出して光ファイバ付PC鋼撚線を定着する必要がある。そうすると、圧着部の位置までPC鋼撚線の張力を計測することができず、圧着部の直近の歪に関する情報を取得することができない。本来は、圧着部の直近が最もPC鋼撚線の不具合等が出易いため、圧着部の直近部分こそ最もPC鋼撚線の張力を計測(つまり光ファイバ素線の歪を計測)することが望まれる部分である。これに対しPC鋼撚線の定着部構造100では、圧着部30の内壁面とPC鋼撚線3との間に光ファイバ部20を通して光ファイバ付PC鋼撚線1の端面から光ファイバ部20を引き出すことができるので、圧着部30の直近部分まで光ファイバ付PC鋼撚線1の張力を計測することが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
【0048】
例えば、本発明は、上記実施形態のような19本のPC鋼素線4a〜4cを有するPC鋼撚線3に適用する場合に限定されず、例えば7本撚りのPC鋼撚線、あるいは他のPC鋼撚線にも同様に適用することができる。
【0049】
上記実施形態に係るPC鋼撚線の定着部構造100においては、現場で、その前端部1aにおいて周囲を圧着部30で圧着した光ファイバ付PC鋼撚線1を準備してもよいし、その前端部1aにおいて周囲を圧着部30で圧着した光ファイバ付PC鋼撚線1を予め工場で製造してもよい。
【0050】
上記実施形態では、耐荷体本体57は、2つの固定部60を有していたが、固定部60の数はこれに限定されない。また、圧着部30は、本体部31及び挿入部32を有していたが、圧着部30の構造はこれに限定されない。また、光ファイバ付PC鋼撚線1には、光ファイバ部20として保護管25に収容された光ファイバ本体21が2つ配置されていたが、光ファイバ部20の数はこれに限定されない。
【0051】
続いて、本発明の測定装置の実施形態として、上記光ファイバ付PC鋼撚線1の歪を測定するための測定装置70を説明する。
【0052】
図6は、測定装置の例を示すブロック図である。
図6に示されるように、測定装置70は、光ファイバ素線23の両端からレーザ光を入出力するタイプの測定装置である。測定装置70は、前端部23a,23bにおいて互いに接続された一対の光ファイバ素線23の一方の後端部23cに光信号を発信する光信号発信部73と、前端部23a,23bにおいて互いに接続された一対の光ファイバ素線23の他方の後端部23dからの光信号を受信する光信号受信部74と、光信号受信部74で受信された光信号を解析し光ファイバ付PC鋼撚線1の歪を取得する解析部71と、解析部71で取得された歪状態を表示する表示部72と、を備える。
【0053】
光信号発信部73と光信号受信部74とは例えば一体の測定器として構成されてもよい。解析部71は例えばコンピュータ等の演算装置であり、表示部72は例えば演算装置による演算結果を画面表示するディスプレイモニタである。解析部71と表示部72とを一体で備えるパーソナルコンピュータ等を採用してもよい。光信号発信部73、光信号受信部74、及び光ファイバ素線23は、光分岐器75、カプラ等を介しながら適宜接続される。
図6の方式の測定装置の詳細は、例えば、特許第5192742号公報に示されている。具体的には、入出力される光信号に基づいて光ファイバ素線23の長手方向の歪分布を測定することにより、PC鋼撚線3の長手方向の各位置に発生している歪を間接的に知ることができる。
【0054】
この測定装置70によれば、光信号発信部73によって光ファイバ素線23の一方の後端部23cに光信号を発信することで、光信号受信部74によって光ファイバ素線23の他方の後端部23dからの光信号を受信することができる。そのため、一対の2本の光ファイバ素線23に対して一組の光信号発信部73及び光信号受信部74で済むため、光ファイバ素線23の数に対する光信号発信部73及び光信号受信部74の数を減らすことができる。
【0055】
続いて、本発明の測定方法の実施形態として、上記PC鋼撚線3の歪を測定するための測定方法の例を説明する。
【0056】
(準備工程)
上述したグラウンドアンカー50を準備し、当該グラウンドアンカー50を斜面に複数本設置する。このとき、PC鋼撚線の定着部構造100を有するグラウンドアンカー50を準備する。具体的には、光ファイバ部20を光ファイバ付PC鋼撚線1から引き剥がし、光ファイバ本体21を保護管25に収容する。このように光ファイバ本体21を保護管25に収容した光ファイバ部20を少なくとも一対準備する。そして、グラウンドアンカー50のアンカー体長部55において、1本の光ファイバ付PC鋼撚線1に少なくとも一対の光ファイバ部20を、光ファイバ本体21が保護管25に収容された状態で、PC鋼撚線3の撚り目3aに設置する。この一対の光ファイバ本体21を光ファイバ付PC鋼撚線1の前端部1a(
図4参照)の端面から引き出すと共に、光ファイバ本体21を当該前端部1aで互いに繋いで2倍の長さの往復の光ファイバ部20とする。
【0057】
(接続工程)
次に、光ファイバ付PC鋼撚線1の前端部1a(
図4及び
図6参照)において、一対の光ファイバ部20のそれぞれの光ファイバ素線23の前端部23a,23bを互いに接続する。また、PC鋼撚線3の後端部1b(
図6参照)において、光信号を発信する光信号発信部73を、前端部23a,23bを互いに接続された一対の光ファイバ素線23の一方の後端部23cに接続する。PC鋼撚線3の後端部1bにおいて、光信号を受信する光信号受信部74を、当該一対の光ファイバ素線23の他方の後端部23dに接続する。これにより、光ファイバ付PC鋼撚線1のほぼ全長分を往復する1本の光ファイバ部20,20が形成される。
【0058】
(測定工程)
その後、測定装置70を用い、光信号受信部74で受信された光信号を解析部71によって解析して光ファイバ付PC鋼撚線1の歪に関する情報(歪分布)を取得し、斜面における地中の歪を測定する。これにより、光ファイバ部20,20の全長分の各箇所の歪の分布が測定される。ここでは、光ファイバ部20,20の前半部分の歪分布と後半部分の歪分布は、互いにPC鋼撚線3の中心軸線Aを挟む対称位置の歪を示すことになる。従って、例えば、PC鋼撚線3が屈曲している箇所があった場合、当該箇所の屈曲内側の歪と屈曲外側の歪との両方の情報を得ることができる。よって、このような2つの歪分布の情報を用いることにより、PC鋼撚線3の歪状態をより正確に知ることができる。なお、上述したとおり、光ファイバ部20を一対のみならず2対以上設置することにより、更にPC鋼撚線3の歪状態を詳細に知ることもできる。
【0059】
以上説明したように、この設置工程によれば、斜面に設置するグラウンドアンカー50が往復分の歪分布を測定することができるものであるため、光信号発信部73を光ファイバ素線23の一方の後端部23cに接続して光信号受信部74を光ファイバ素線23の他方の後端部23dに接続することで、斜面における地中の歪を容易に測定することができる。このとき、上述のとおり2本の光ファイバ部20を光ファイバ付PC鋼撚線1の前端部1aの端面から引き出すことができることから、上記前端部1a側において一対の光ファイバ素線23を互いに繋ぐ作業を容易に行うことができる。
【0060】
上記実施形態の測定方法では、光ファイバ素線23の本数が一対2本の例を示したが、この例に限られず、光ファイバ素線23の本数は所望の本数であればよい。