特許第6474382号(P6474382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6474382固体電解質、および、それを用いたリチウムバッテリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474382
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】固体電解質、および、それを用いたリチウムバッテリー
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20190218BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20190218BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190218BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20190218BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190218BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190218BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190218BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20190218BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20190218BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20190218BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20190218BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   H01B1/06 A
   H01M10/056
   H01M10/052
   H01M10/0525
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/58
   H01M4/485
   H01B1/10
   H01B1/08
   C08L63/00 C
   H01B1/12 Z
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-255958(P2016-255958)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-107095(P2018-107095A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2017年3月21日
(31)【優先権主張番号】105143317
(32)【優先日】2016年12月27日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】葉 定儒
(72)【発明者】
【氏名】張 雅淇
(72)【発明者】
【氏名】游 淑君
(72)【発明者】
【氏名】廖 世傑
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−122573(JP,A)
【文献】 特開2016−009626(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026480(WO,A1)
【文献】 特開平03−297006(JP,A)
【文献】 特開2006−086102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00− 1/24
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質であって、
無機セラミック電解質、および、
前記無機セラミック電解質に物理的に結合され、以下の式(I)に示される繰り返し単位を含む有機ポリマー
を含有し、

式(I)中、Aは、以下の式(II)を有し:

式(II)中、RおよびRは、それぞれ独立に、C−C脂肪族アルキル、任意に置換されたフェニル、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、およびビスフェノールSから成る群から選択された少なくとも一種であり、
前記有機ポリマーは、前記無機セラミック電解質の間で均一に分布して、前記固体電解質に導電性イオン経路を有させ
前記有機ポリマーの末端は、更に、開始剤が解離する求核基を含み、
前記開始剤は、求核基を解離することができるイオン化合物を含む
ことを特徴とする固体電解質。
【請求項2】
前記有機ポリマーは、更に、以下の式(III)に示される繰り返し単位を含み:

前記Rは、C−C脂肪族アルキル、任意に置換されたフェニル、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、およびビスフェノールSから成る群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記式(I)に示される繰り返し単位および前記式(III)に示される繰り返し単位は、それぞれ、秩序を有する配列またはランダムな配列であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記無機セラミック電解質の重量百分率は、前記固体電解質の重量を基準として、50〜95wt%であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質。
【請求項5】
前記無機セラミック電解質は、硫化物電解質、酸化物電解質、またはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載の固体電解質。
【請求項6】
前記硫化物電解質は、Li10GeP12(LGPS)、Li10SnP12、70LiS・30P、または50LiS−17P−33LiBHを含むことを特徴とする請求項5に記載の固体電解質。
【請求項7】
前記酸化物電解質は、LiLaZr12(LLZO)、Li6.75LaZr1.75Ta0.2512(LLZTO)、Li0.33La0.56TiO(LLTO)、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(LATP)、またはLi1.6Al0.6Ge1.4(PO(LAGP)を含むことを特徴とする請求項5に記載の固体電解質。
【請求項8】
前記求核基は、CHCOO、OH、BF、PF、ClO、TFSI、AsF、またはSbFを含むことを特徴とする請求項1に記載の固体電解質。
【請求項9】
前記イオン化合物は、リチウム塩、酢酸リチウム(LiCHCOO)、または水酸化リチウム(LiOH)を含むことを特徴とする請求項に記載の固体電解質。
【請求項10】
前記リチウム塩は、LiBF、LiPF、LiClO、LiTFSI、LiAsF、またはLiSbFを有することを特徴とする請求項に記載の固体電解質。
【請求項11】
リチウムバッテリーであって、
正極と、
負極、および、
前記正極と前記負極との間に設置された、請求項1〜10のいずれか一項に記載の固体電解質を含むイオン伝導層
を備えることを特徴とするリチウムバッテリー。
【請求項12】
前記正極の材料は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCo1−n−m,0<n<1,0<m<1,n+m<1)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リチウムマンガン酸化物(LiMnO)、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルコバルト酸化物(LiNiCo1−p,0<p<1)、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNiMn2−q,0<q<2)を含むことを特徴とする請求項11に記載のリチウムバッテリー。
【請求項13】
前記負極の材料は、グラファイト、リチウムチタン酸化物(LiTi12)、またはリチウムを含むことを特徴とする請求項11に記載のリチウムバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質、および、それを含むリチウムバッテリーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体リチウムバッテリーが使用する無機セラミック電解質は高い導電度を有するが、正負極界面との抵抗が大きい。このほか、従来の無機セラミック電解質は脆く、成膜性や機械的性質が悪く、且つ、連続生産ができない。
【0003】
上述の欠点を改善するため、現在、すでに、各種固体電解質が開発されている。しかし、有機ポリマーを無機セラミック電解質中に導入することで機械的性質は増加するものの、ポリマー自身のイオン伝導性が低いことにより、抵抗が増大し、導電度が低下する。よって、現在の固体電解質は、大部分が、疑固体電解質(Quasi−solid state Electrolyte)であり、すなわち、無機セラミック電解質の他に、さらに有機ポリマーおよび液体電解液を添加することで、従来の無機セラミック電解質が直面する界面抵抗の問題を解決している。
【0004】
しかし、液体電解液の存在は、たとえば、液漏れが生じ易い、易燃性が高い、循環寿命が悪い、空気膨張し易い、耐熱性がない等の問題を生じさせる。よって、現在、液体電解質を添加しない状況下で、優れたイオン伝導性を有する固体電解質が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高いイオン伝導性を有する固体電解質、および、それを含むリチウムバッテリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述、および、その他の目的を達成するため、一実施形態によると、本発明は、無機セラミック電解質、および、有機ポリマーを含有する固体電解質を提供する。有機ポリマーは、無機セラミック電解質に物理的に結合され、有機ポリマーは以下の式(I)に示される繰り返し単位を有する。

式(I)中、Aは、以下の式(II)を有する:

式(II)中、RおよびRは、それぞれ独立に、以下から成る群から選択された少なくとも一つである:C−C脂肪族アルキル、任意に置換されたフェニル、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、および、ビスフェノールS;
有機ポリマーは、無機セラミック電解質の間に均一に分布し、且つ、固体電解質は導電性イオン経路を有する。
【0007】
もう一つの実施形態によると、本発明は、正極、負極、および、正極と負極との間に設置されたイオン伝導層を備えるリチウムバッテリーを提供する。当該イオン伝導層は、前述の固体電解質を含む。
【発明の効果】
【0008】
結合剤および液体電解質を余分に添加する必要がない状況下で、有機ポリマーを、無機セラミック電解質に緊密に結合するとともに、固体電解質中で、導電性イオン経路を形成し、同時に、固体電解質の機械的性質を改善するとともに、イオン導電度を増加させる。
【0009】
本発明の上述の内容とその他の目的、特徴、および、長所をさらにわかりやすくするため、好ましい実施形態と合わせて、図面とともに、以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】実施例によるエポキシ樹脂における架橋前後のフーリエ変換赤外分光(FT−IR)スペクトル図である。
図1B】実施例によるエポキシ樹脂における架橋前後のフーリエ変換赤外分光(FT−IR)スペクトル図である。
図2】一実施例による本発明により提供される固体電解質を含むリチウムバッテリー電流放電テスト結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態は固体電解質を提供し、開始剤を利用して、エポキシ基を有する有機オリゴマーを開環重合させるとともに、有機オリゴマーにより実施される三次元方向の網状重合により、有機ポリマーと無機セラミック電解質とを緊密に連結させ、有機−無機複合固体電解質を形成する。本発明により提供される有機−無機複合固体電解質中の有機ポリマーは、三次元網状結合構造および高いイオン伝導性を有し、粘着剤となり、同時にリチウムイオン伝導性を有する。よって、この種の有機ポリマーを導入することで、液体電解質を添加しない状況下であっても、固体電解質に、高いイオン伝導性、および、改良された脆性、成膜性、および、機械的性質を付与することができる。さらに、形成される固体電解質は連続生産でき、製造コストを減少させる。
【0012】
本発明の一実施形態において、固体電解質が提供される。この固体電解質は、無機セラミック電解質、および、有機ポリマーを含有する。当該有機ポリマーは、無機セラミック電解質に物理的に結合される。本発明の一実施形態において、無機セラミック電解質の重量百分率は、固体電解質の重量を基準として、50〜95wt%であり、たとえば80〜90wt%である。有機ポリマーは、無機セラミック電解質の間に均一に分布し、且つ、固体電解質は導電性イオン経路を有する。具体的には、当該導電性イオン経路は、固体電解質中で連続分布する導電性イオン経路である。
【0013】
本発明の一実施形態において、無機セラミック電解質は、硫化物電解質、酸化物電解質またはそれらの組み合わせを含んでよい。上述の硫化物電解質は、Li10GeP12(LGPS)、Li10SnP12、70LiS・30P、または50LiS−17P−33LiBHを含んでよい。上述の酸化物電解質は、LiLaZr12(LLZO)、Li6.75LaZr1.75Ta0.2512(LLZTO)、Li0.33La0.56TiO(LLTO)、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(LATP)、またはLi1.6Al0.6Ge1.4(PO(LAGP)を含んでよい。
【0014】
本発明の一実施形態において、有機ポリマーは以下の式(I)に示される繰り返し単位を含んでよい:

式(I)中、Aは、以下の式(II)を含む:

式(II)中、RおよびRは、それぞれ独立に、以下から成る群から選択された少なくとも一つである:C−C脂肪族アルキル、任意に置換されたフェニル、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、および、ビスフェノールS。
【0015】
この実施形態において、この有機ポリマーを形成する有機オリゴマーの二個の末端は、どちらも、エポキシ基を有し、開始剤により開環重合が進行し、三次元網状構造を有する有機ポリマーを形成する。注意すべきことは、上述の式(I)の繰り返し単位は、有機ポリマー中で、秩序を有する配列またはランダムな配列であってよく、秩序を有する配列の網状分子に制限されない。
【0016】
このほか、有機オリゴマーの誘電率Dは、10または10以上であってよい。誘電率が高いほど、リチウムイオンを吸着する能力、および、リチウムイオンを伝達する能力がよくなる。注意すべきことは、有機ポリマーは、式(II)のようなソフトセグメント、たとえば、エーテル、アルキル基を有するため、リチウムイオンは、この高極性分子中でホッピング(hopping)方式で伝達され、導電性は無機セラミック材料ほどではないが、効果的に界面抵抗を低下させることができる。また、有機ポリマー自身が弾性体であるので、無機セラミック電解質と混合後、さらに無機セラミック電解質の脆性を減少させて、最終的な固体電解質の密着レベルを増加させることができる。
【0017】
本発明の一実施形態において、固体電解質の製造は、まず、上述の無機セラミック電解質と、二個の末端がともにエポキシ基を有する有機オリゴマーとを均一に混合した後、開始剤を添加して、有機オリゴマー末端のエポキシ基を開環させ、架橋網状重合を進行させて、有機ポリマーを形成する。前述の有機オリゴマーは、たとえば、アルキル基エーテル樹脂であってよく、たとえば、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエポキシ樹脂またはビスフェノールSエポキシ樹脂であってよく、開始剤により、有機オリゴマーに三次元方向の網状重合を実行させることで、結合剤を余分に添加することなく、有機ポリマーと無機セラミック電解質とを物理的に巻き付ける方式で緊密に連結して、固体電解質中に、連続分布した導電性イオン経路を形成させることができる。本発明の実施形態において、前述の有機オリゴマーは、一種以上の種類の有機オリゴマーであってもよい。
【0018】
よって、上述の有機ポリマーの末端は、さらに、開始剤が解離する求核基、たとえば:CHCOO、OH、BF、PF、ClO、TFSI、AsFまたはSbFを含んでもよい。本発明の一実施形態において、開始剤は、求核基を解離することができるイオン化合物を含んでもよい。前述のイオン化合物は、リチウム塩、酢酸リチウム(LiAc)、水酸化リチウム(LiOH)、またはその他の求核基を解離することができるイオン化合物を含んでもよい。前述のリチウム塩は、LiBF、LiPF、LiClO、LiTFSI、LiAsFまたはLiSbFを含んでもよい。
【0019】
本発明の一実施形態において、開始剤と有機オリゴマーとのモル比は、1:4〜1:26であってよく、たとえば、1:4、1:8、1:13、または1:26であってもよい。上述のように、開始剤の添加は、有機オリゴマー中のエポキシ基に、開環重合を生じさせ、三次元網状構造を形成することができる。しかし、開始剤の比率が高すぎると、有機ポリマーの網状構造の比率が高くなりすぎ、有機ポリマーがリチウムイオンのホッピングを滞らせ、イオン伝導が困難になる。開始剤の比率が低すぎると、有機ポリマーの網状構造の比率が低すぎて、有機ポリマーの機械的性質および粘着力に影響する。
【0020】
注意すべきことは、本発明において、求核基を解離することができるイオン化合物であれば、本発明が使用する開始剤となることができ、有機オリゴマー中のエポキシ基に、開環重合を生じさせると同時に、粘着剤の役割とイオン導体の機能を達成することができる。しかし、リチウムイオンを有するイオン化合物を開始剤とする場合、有機オリゴマー中のエポキシ基に、開環重合を生じさせる以外に、リチウム源を導入し、さらに、イオン伝導性を向上させてもよい。
【0021】
本発明のもう一つの実施形態において、有機ポリマーは、更に、以下の式(III)に示される繰り返し単位を含んでもよい。

式(III)中、Rは、以下から成る群から選択された少なくとも一種であってもよい:C−C脂肪族アルキル、任意に置換されたフェニル、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、および、ビスフェノールS。
【0022】
この実施形態において、この有機ポリマーを形成する有機オリゴマーが有する二個の末端は、どちらも、エポキシ基のエポキシ樹脂、たとえば、アルキル基エーテル樹脂、たとえば、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエポキシ樹脂、またはビスフェノールSエポキシ樹脂を有してもよい。開始剤により開環重合した後、形成される有機ポリマーは、部分的な直鎖構造および部分的な網状構造を有してもよい。この実施形態中で使用する開始剤は、本明細書中に示す開始剤以外のその他の従来の開始剤を含んでもよい。上述の式(I)および式(III)の繰り返し単位は、有機ポリマー中で、秩序を有する配列またはランダムな配列であってもよく、そのため、有機ポリマーは、秩序を有する配列の直鎖状分子または網状分子に限定されない。
【0023】
本発明の一実施形態において、固体電解質の製造は、先ず、上述の無機セラミック電解質と、二個の末端がどちらもエポキシ基を有する有機オリゴマーとを均一に混合した後、さらに開始剤を添加して、有機オリゴマー末端のエポキシ基を開環させ、三次元網状の架橋重合を進行させて、有機ポリマーを形成する。有機ポリマー中の直鎖状構造は、鎖の柔軟度を増加させて、リチウムイオンがホッピング(hopping)しやすいようにすることができるが、機械的性質を低下させて、無機セラミック電解質との粘着力を悪くする。それに対し、有機ポリマー中の網状構造は機械的性質を向上させて、粘着力を増加する。開始剤と有機オリゴマーとの比率は、網状架橋レベルに影響し、開始剤が多いほど、架橋レベルが高く、よって、開始剤と有機オリゴマーとの比率を制御することにより、固体電解質に、高いイオン導電度と高い機械性質とを同時に有させることができる。本発明の一実施形態において、有機オリゴマーと開始剤とのモル比は、4:1〜26:1であってよい。
【0024】
架橋重合反応過程において、開始剤の種類の違いに応じて、反応時間および反応温度を調整することができる。たとえば、LiBF、LiPF等を開始剤とする場合は、約90〜100℃の温度で、約5〜10分間反応させて、架橋反応を完了させてもよい。LiClO、LiTFSI等を開始剤とする場合は、約170〜180℃の温度で、約120分間反応させて、架橋反応を完了させてもよい。しかし、上述の各架橋反応のパラメータ条件は、実際の要求によって調整することができ、上述したものに限られない。
【0025】
本発明のさらなる実施形態において、正極、負極、および、正極と負極との間に設置されるイオン伝導層を備えるリチウムバッテリーを提供する。当該イオン伝導層は、前述の固体電解質を含む。本発明の一実施形態において、正極の材料は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCo1−n−m,0<n<1,0<m<1,n+m<1)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リチウムマンガン酸化物(LiMnO)、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルコバルト酸化物(LiNiCo1−p,0<p<1)、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNiMn2−q,0<q<2)を含んでよい。本発明の一実施形態において、負極の材料は、グラファイト、リチウムチタン酸化物(LiTi12)、またはリチウムを含んでもよい。
【0026】
無機セラミック電解質自身のイオン伝導性は有機ポリマーより優れているが、界面抵抗の問題が存在するので、本発明の目的は、できるだけ、最少の有機ポリマーを使用して最多の無機セラミック電解質を捕捉し、有機ポリマーが、粘着剤およびイオン導体の役割を同時に果たして、固体電解質が高いイオン伝導性を有すると同時に、脆度、成膜性、および機械的性質を改善することである。このほか、本発明により提供される固体電解質は、液体電解質を添加する必要がなく、環境に対する敏感度が低く、製造工程の容易性を向上させる。本発明により提供される固体電解質は導電度がよく(10−4S/cmより大きい)、且つ、この固体電解質を含むリチウムバッテリーは、100℃より低い条件下で、正常に充放電を行うことができる。
【0027】
以下で、各実施例と比較例を列挙して、本発明により提供される固体電解質、リチウムバッテリー、および、その特性を説明する。
【0028】
〔異なる開始剤の架橋エポキシ樹脂の導電度に対する影響〕
同じ容量の四種のリチウム塩(LiBF、LiPF、LiClO、LiTFSI)を開始剤として、それぞれ、エポキシ樹脂としての1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4−Butanediol Dyglycidyl Ether)中に添加し、表1に示される架橋条件に基づいて、架橋重合反応を実行した。開始剤と有機オリゴマーとのモル比は1:13とした。四種の異なる開始剤を添加して形成される架橋エポキシ樹脂のイオン導電度を測定し、その結果を表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1から分かるように、四種のリチウム塩の中で、LiClOおよびLiTFSIを開始剤として形成される架橋エポキシ樹脂は、好ましいイオン導電度を有していた。そのため、以下では、架橋エポキシ樹脂に高イオン導電度を有させるLiClOを、開始剤として使用して、その他の分析を実行した。
【0031】
〔異なる含量の開始剤の架橋エポキシ樹脂に対する導電度、FT−IRスペクトル分析〕
LiClOを開始剤とし、表2に示される比率にしたがって、それぞれ、エポキシ樹脂としての1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4−Butanediol Dyglycidyl Ether)中に添加し、140℃で、架橋重合反応を10時間行った。四種の異なる含量のLiClOを添加して形成される架橋エポキシ樹脂のイオン導電度をテストした。結果を表2に示した。
【0032】
【表2】
【0033】
表2から分かるように、開始剤(LiClO)含量の増加に伴い、形成される架橋エポキシ樹脂のイオン導電度も増加するものの、開始剤(LiClO)とエポキシ樹脂(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)とのモル比が1:4に達した場合には、イオン導電度は増加せずに減少した。この主な原因は、過剰の開始剤によって、有機ポリマーが、高度な網状結合構造を形成し、イオン伝導を困難させたためだと考えられる。
【0034】
このほか、架橋前のエポキシ樹脂、および、架橋後のエポキシ樹脂に対しても、フーリエ変換赤外分光(FT−IR)の比較分析を実行した。図1Aおよび図1Bにおいて、(a)は架橋前エポキシ樹脂、(b)は開始剤(LiClO)とエポキシ樹脂とのモル比が1:26(重量比2:98)である場合、(c)は開始剤(LiClO)とエポキシ樹脂とのモル比が1:13(重量比4:96)である場合、(d)は開始剤(LiClO)とエポキシ樹脂とのモル比が1:8(重量比6:94)である場合、(e)は開始剤(LiClO)とエポキシ樹脂とのモル比が1:4(重量比10:90)である場合に得られたFT−IRを示す。
【0035】
図1Aから分かるように、910cm−1および840cm−1がエポキシ基の吸収ピークであるが、表2に示される比較によれば、異なる含量を添加した開始剤(LiClO)を、140℃で10時間架橋重合反応した場合、910cm−1および840cm−1の吸収ピークが消失することがわかり、開始剤によりエポキシ基が開環し、架橋反応が生じたことが表されている。
【0036】
図1Bから分かるように、1094cm−1はエーテル吸収ピーク(C−O−C)であり、開始剤による開環に起因した架橋反応により、新しい吸収ピーク1066cm−1が生成している。これは、エーテルキレートリチウムイオン(coupling)の吸収ピークであり、リチウムイオンが、エポキシ樹脂の分子鎖上で移動し、両者が相互作用することが示されている。この結果と、固体電解質のイオン導電度が増加した結果とは対応している。
【0037】
[対照例1〜2]
〔市販の粘着剤CMCと架橋エポキシ樹脂との導電度の差異〕
表3には、本実施形態において使用される架橋エポキシ樹脂を形成したものと、市販の粘着剤であるカルボキシメチルセルロース(Carboxymethyl−Cellulose;CMC)とのイオン導電度の比較が示されており、これによると、市販のCMCのイオン導電度は2.8×10−11(S/cm)であり、架橋エポキシ樹脂(6.8×10−6S/cm)と比べて、導電性能を有さないことがわかる。
【0038】
架橋エポキシ樹脂および市販の粘着剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)の特性分析を実行した後、有機オリゴマー、開始剤、および無機セラミック電解質を混合して、固体電解質を形成し、そのイオン導電度、付着力、および形成されたリチウムバッテリーの充放電特性をテストした。
【0039】
[比較例1]
市販の粘着剤CMCと無機セラミック電解質LLZOとを、表3に示される比率で配合した。形成された固体電解質のイオン導電度はわずか1.7×10−10(S/cm)であった。市販の粘着剤CMCと無機セラミック電解質LLZOとの比率は、付着力>0.1Kgfを基準とする。
【0040】
[実施例1]固体電解質
6gの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4−Butanediol Dyglycidyl Ether)と23.64gの無機セラミック電解質LLZOとを均一に混合し、0.36gの開始剤(LiClO)を添加して、170℃に加熱し、架橋重合反応を2時間実行して、固体電解質を得た。
【0041】
[実施例2]固体電解質
4.5gの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4−Butanediol Dyglycidyl Ether)と25.32gの無機セラミック電解質LLZOとを均一に混合し、0.27gの開始剤(LiClO)を添加して、170℃に加熱し、架橋重合反応を2時間実行して、固体電解質を得た。
【0042】
[実施例3]固体電解質
3gの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4−Butanediol Dyglycidyl Ether)と26.82gの無機セラミック電解質LLZOとを均一に混合して、0.18gの開始剤(LiClO)を添加して、170℃に加熱して、架橋重合反応を2時間実行して、固体電解質を得た。
【0043】
[実施例4]固体電解質
2.1gの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(1,4−Butanediol Dyglycidyl Ether)と27.774gの無機セラミック電解質LLZOとを均一に混合し、0.126gの開始剤(LiClO)を添加して、170℃に加熱して、架橋重合反応を2時間実行して、固体電解質を得た。
【0044】
【表3】
【0045】
上述の比較例および実施例から分かるように、本実施形態に係る無機セラミック電解質が、固体電解質全体の重量百分率の約70〜95wt%を占める場合、固体電解質はいずれも、優れたイオン導電度を有するものとなり、比較例1のイオン導電度の10〜700倍となっている。しかし、無機セラミック電解質が占める比率が高過ぎる場合(たとえば、92wt%より大きい場合)、固体電解質の付着力が悪くなる。実施例1のイオン導電度1.9×10−6S/cmは、対照例2の6.8×10−6S/cmより小さいが、これは、主に、無機セラミック電解質(LLZO)の導入がエポキシ樹脂の自由体積(Free volume)を減少させ、鎖部分の揺動を困難にし、イオン導電度を低下させるからである。しかし、実施例1において、無機セラミック電解質(LLZO)をエポキシ樹脂に導入することで、固体電解質として、リチウムバッテリーに応用することができる。
【0046】
[実施例5]リチウムバッテリー
実施例3の固体電解質をリチウムバッテリーシステムに組み込んだ。ここで、リチウムバッテリーが使用する正極材料は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)とし、負極材料は、リチウムとした。図2に示されるように、60℃で、充放電テスト(4.3V−2.0V)を実行したところ、測定された充電容量は181mAh/g、放電容量は132mAh/gであった。
【0047】
上述の実施例の結果から、本発明は、無機セラミック電解質と高いイオン伝導性を有する有機オリゴマーとを均一に混合した後、開始剤を添加して、有機オリゴマーに、三次元網状構造の有機ポリマーを形成させ、結合剤と液体電解質を余分に添加する必要がない状況下で、有機ポリマーを、無機セラミック電解質に緊密に結合させるとともに、固体電解質中で、導電性イオン経路を形成し、同時に、固体電解質の機械的性質を改善するとともに、イオン導電度を増加させる目的を達成することが証明された。
【0048】
本発明では好ましい実施例を前述の通り開示したが、これらは決して本発明に限定するものではなく、当該技術を熟知する者なら誰でも、本発明の精神と領域を脱しない範囲内で各種の変動や潤色を加えることができ、従って本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。
図1A
図1B
図2