特許第6474383号(P6474383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノンオプトロン株式会社の特許一覧

特許6474383防汚膜付光学部材およびタッチパネル式ディスプレイ
<>
  • 特許6474383-防汚膜付光学部材およびタッチパネル式ディスプレイ 図000005
  • 特許6474383-防汚膜付光学部材およびタッチパネル式ディスプレイ 図000006
  • 特許6474383-防汚膜付光学部材およびタッチパネル式ディスプレイ 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474383
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年3月6日
(54)【発明の名称】防汚膜付光学部材およびタッチパネル式ディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/18 20150101AFI20190225BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20190225BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20190225BHJP
【FI】
   G02B1/18
   G02B1/115
   G06F3/041 460
   G06F3/041 490
   G06F3/041 495
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-503987(P2016-503987)
(86)(22)【出願日】2015年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2015000925
(87)【国際公開番号】WO2015125498
(87)【国際公開日】20150827
【審査請求日】2018年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-32960(P2014-32960)
(32)【優先日】2014年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591111112
【氏名又は名称】キヤノンオプトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】小林 健志
(72)【発明者】
【氏名】須藤 健二
(72)【発明者】
【氏名】村田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】堀江 幸弘
【審査官】 大隈 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−90454(JP,A)
【文献】 特開2013−136833(JP,A)
【文献】 特開2010−37115(JP,A)
【文献】 特開2004−170962(JP,A)
【文献】 特開2003−292342(JP,A)
【文献】 特開2002−297042(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/113966(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/18
B32B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に形成された下地膜と、前記下地膜の表面に蒸着により形成された防汚膜とを有する防汚膜付光学部材であって、
前記下地膜の表面粗さRaが0.36nm以下であり、前記下地膜の成分と前記防汚膜の成分とがシロキサン結合していることを特徴とする防汚膜付光学部材。
【請求項2】
前記防汚膜の表面に#0000のスチールウールを載せ1kg/cmの荷重をかけた状態で、該スチールウールを移動距離15mm、移動速度60往復/minで往復移動させて行う擦傷試験を6000往復行った後の、該防汚膜の表面における水の接触角が100°以上であることを特徴とする請求項1に記載の防汚膜付光学部材。
【請求項3】
前記下地膜は、SiO2からなることを特徴とする請求項1または2に記載の防汚膜付光学部材。
【請求項4】
前記防汚膜は、下式で表わされるパーフルオロアルキルエーテル化合物からなることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の防汚膜付光学部材。

【化1】
(式中、Rfはパーフルオロアルキルエーテル基、Xは加水分解性基を複数有する加水分解性基含有シランを含む有機基、YはRf基とX基とを連結する有機基である。)
【請求項5】
前記下地膜の表面粗さRaが0.25nm以上0.36nm以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の防汚膜付光学部材。
【請求項6】
前記下地膜は、蒸着により形成された膜であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の防汚膜付光学部材。
【請求項7】
前記基材上に形成された積層膜をさらに有し、
前記積層膜は、低屈折材料からなる膜と、高屈折材料からなる膜とが2層以上交互に積層されてなり、
前記低屈折材料からなる膜は、蒸着により形成された膜であり、
前記下地膜は、前記積層膜上に形成されてなり、且つ、前記低屈折材料からなる膜と同じ材料からなことを特徴とする請求項に記載の防汚膜付光学部材。
【請求項8】
前記防汚膜の膜厚が10〜20nmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の防汚膜付光学部材。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の防汚膜付光学部材を備えることを特徴とするタッチパネル式ディスプレイ。
【請求項10】
基材上に、その表面粗さRaが0.36nm以下の下地膜を形成する工程と、前記下地膜の表面に蒸着により防汚膜を形成する工程とを有し、前記下地膜の成分と前記防汚膜の成分とがシロキサン結合することを特徴とする防汚膜付光学部材の製造方法。
【請求項11】
基材上に、低屈折材料からなる膜と高屈折材料からなる膜とが2層以上交互に積層された積層膜を形成する工程と、前記積層膜上に、蒸着により表面粗さRaが0.36nm以下の下地膜を形成する工程と、前記下地膜の表面に、蒸着により防汚膜を形成する工程とを有し、
前記低屈折材料からなる膜は蒸着により形成され、前記下地膜は前記低屈折材料からなる膜と同じ材料からなり、前記下地膜の成分と前記防汚膜の成分とがシロキサン結合し、前記下地膜が形成される成膜速度が前記低屈折材料からなる膜が形成される成膜速度よりも遅いことを特徴とする防汚膜付光学部材の製造方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の製造方法により作製された防汚膜付光学部材を、タッチパネル式ディスプレイの表示部に、設けることを特徴とするタッチパネル式ディスプレイの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防汚膜付光学部材およびタッチパネル式ディスプレイに関し、特に、基材上に形成した下地膜の表面に防汚膜を積層してなる防汚膜付光学部材に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチックの基材に付着した指紋などの汚れを拭き取りやすくするために、基材に撥油膜のコーティングを施して、防汚性能を持たせる技術が知られている。
例えば特許文献1(特開2006−58728号公報)に記載の反射防止部材は、最上層に防汚性を有する層を備え、ディスプレイの表示画面の表面に適用可能であると記載されている。
【0003】
ここで特許文献1に記載の反射防止部材は、基材、ハードコート層および反射防止層からなる反射防止部材において、ハードコート層の表面粗さRaが以下の式(1)および式(2)で示される条件を満たす。
Ra1=1.4nm〜13nm(エリア5μm×5μm) ・・・(1)
Ra2=2.2nm〜26nm(エリア20μm×20μm)・・・(2)
なお、Ra(算術平均粗さ)とは、試料の表面粗さを表わす指標であり、JIS-B0601:2001に定義された値である。ナノスケールの微小な表面形状においては、原子間力顕微鏡(AFM=Atomic Force Microscope)を用いることにより、Raなどの数値化が可能である。
【0004】
特許文献1には、上記式(1)および(2)を満たすことで、ハードコート層に接する層(反射防止層あるいはその一部)の厚さが薄い場合においても、当該層の連続性を阻害することなく密着性を改善することができると記載されている。
また、特許文献1では、ハードコート層の表面粗さが適度に粗い反射防止部材は、耐擦傷性が非常に高いと説明されている。
【0005】
ここで特許文献1では、防汚性については接触角測定の実験により評価を行い、密着性については碁盤目法により評価を行い、耐擦傷性については基材表面をスチールウールで20回擦ったときの傷の有無の目視判定で評価を行っている。この特許文献1に記載の評価によれば、防汚性を有する層を含む反射防止層が形成される下地膜(ハードコート層)の表面粗さRaの値が、上述した式(1)および(2)の範囲を満たすことで、密着性および耐擦傷性に優れる反射防止部材が得られることが記載されている。
【0006】
一方、特許文献2(特許5036827号公報)に記載の撥油性基材は、各種ディスプレイ、ショーケース、時計や計器のカバーガラスのほか、銀行ATMや切符券売機などのタッチパネル式電子機器のタッチ面などに適用可能であると記載されている。
特許文献2では、撥油性を有する膜が形成される第1の膜の表面粗さに関するパラメータRa(中心線平均粗さ)、Rz(十点平均高さ)およびPv(最大谷深さ)が適切な範囲となるように、エネルギーを持つ粒子を第1の膜に照射している。そして特許文献2には、これらのパラメータを適切な範囲とすることで第1の膜の表面に適切な凹部が形成され、その後に形成される撥油性を有する膜の耐摩耗性を実用に耐え得るレベルにまで向上させることができると記載されている。
なお、特許文献2では、第1の膜のRaが好ましくは0.1〜1000nmであり、より好ましくは1〜100nm、さらに好ましくは3〜20nmであることが開示されている。また、耐摩耗性に優れる撥油性基材として、第1の膜のRaが1〜13nmである例が具体的に開示されている。
【0007】
ここで特許文献2に記載の擦傷試験では、撥油性を有する第2の膜の表面をスチールウールで擦った後、試験面(第2の膜の表面)に油性マジックペンで線を描き、インクを乾燥布で拭き取れるか否かを評価している。特許文献2に記載の撥油性基材は、この擦傷試験の結果、下地膜(第1の膜)の表面粗さRaの値が1nmの場合に最大擦傷回数はわずか200回程度であるのに対し、Raの値が2nmおよび3nmの場合には最大擦傷回数が2200回、Raの値が5nmの場合には最大擦傷回数が2800回であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−58728号公報
【特許文献2】特許5036827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の実験では、防汚性を有する層(反射防止層を構成する低屈折率層)の表面をスチールウールで擦った後の防汚性については評価(接触角測定)を行っていない。すなわち、防汚性能の耐久性について充分な検討が為されていない。したがって、下地膜(ハードコート層)上に防汚膜(反射防止層を構成する低屈折率層)が成膜された状態で当該防汚膜の表面をスチールウールで20回擦った場合に、防汚性が損なわれずに確保されているか否かが不明である。また、近年における防汚性能の耐久性に対する市場からの要求は非常に高く、例えばタッチパネルのタッチ面に適用する場合には防汚膜表面に対する接触回数は極めて多くなることから、上述したような20回程度の摩擦に耐えられる程度では不充分である。
また、特許文献2に記載された発明では、接触回数が極めて多くなるタッチパネルのタッチ面などに適用する場合、実用上の耐摩耗性を考慮すると、最大で2800回の摩擦に耐えられる程度では未だ不充分と言える。
【0010】
このように、特許文献1および2に記載された発明では長期的な耐久性について未だ充分であるとは言えない。特に近年、スマートフォンなどのタッチパネル式ディスプレイ等の用途では衝撃や摩擦に晒される頻度が高いため、防汚性能の耐久性に対する市場からの要求が非常に高度になってきている。したがって、例えばより厳しいスチールウール摩擦試験に耐え得るような、より高い耐久性が求められる。
【0011】
そこで本発明は上記した問題を解決するために為されたものであり、耐摩耗性がより向上し、長期にわたり優れた防汚性を発揮する防汚膜付光学部材およびタッチパネル式ディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明の一実施形態における防汚膜付光学部材は、基材と、前記基材上に形成された下地膜と、前記下地膜の表面に蒸着により形成された防汚膜とを有する防汚膜付光学部材であって、前記下地膜の表面粗さRaが0.76nm以下であり、前記防汚膜の膜厚が10〜20nmであることを特徴とする。
また、上記した課題を解決するために、本発明の一実施形態における防汚膜付光学部材は、基材と、前記基材上に形成された下地膜と、前記下地膜の表面に蒸着により形成された防汚膜とを有する防汚膜付光学部材であって、前記下地膜の表面粗さRaが0.36nm以下であることを特徴とする。
また、上記した課題を解決するために、本発明の一実施形態におけるタッチパネル式ディスプレイは、上記した本発明の一実施形態における防汚膜付光学部材を備えることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態における防汚膜付光学部材の製造方法は、基材上に、その表面粗さRaが0.76nm以下の下地膜を形成する工程と、前記下地膜の表面に蒸着により膜厚が10〜20nmの防汚膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
また、本発明の一実施形態における防汚膜付光学部材の製造方法は、基材上に、その表面粗さRaが0.36nm以下の下地膜を形成する工程と、前記下地膜の表面に蒸着により防汚膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
また、本発明の一実施形態におけるタッチパネル式ディスプレイの製造方法は、上記した本発明の一実施形態における防汚膜付光学部材の製造方法により作成される防汚膜付光学部材を、タッチパネル式ディスプレイの表示部に、設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐摩耗性がより向上し、長期にわたり優れた防汚性を発揮する防汚膜付光学部材およびタッチパネル式ディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る防汚膜付光学部材の第1の実施形態における構成を示す概略図であって、基材上に他の膜を介して下地膜が形成されている防汚膜付光学部材の構成例を示す。
図2】本発明に係る防汚膜付光学部材の第2の実施形態における構成を示す概略図であって、基材上に下地膜が直接形成されている防汚膜付光学部材の構成例を示す図である。
図3】本発明に係るタッチパネル式ディスプレイの一実施形態における構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<防汚膜付光学部材>
本発明に係る防汚膜付光学部材は、基材上に下地膜が形成され、前記下地膜表面に防汚膜が形成された防汚膜付光学部材であって、前記下地膜の表面粗さRaが0.76nm以下である。
【0016】
本発明に係る防汚膜付光学部材の構成について具体的に説明をするに先立ち、本発明の理解のため、まず、その効果を奏するメカニズムの推定について以下に述べる。
【0017】
本発明では、下地膜の表面粗さRaを0.76nm以下の範囲内とし、充分に凹凸を小さくすることで下地膜が平滑化され、下地膜の表面上のシラノール基をほぼ同一平面上に近い位置に配置させることができる。そのため、下地膜の表面に対して防汚膜を形成する際に、シランカップリング反応が起こる過程において、下地膜表面のシラノール基と防汚膜の成分の分子とが反応しやすい状態、つまり水素結合よりも強固なシロキサン結合が起こる状態になると推測される。
【0018】
ここでシランカップリング反応とは、防汚膜の成分の分子のアルコキシシランが加水分解し、下地膜表面のシラノール基と水素結合を形成し、脱水縮合により下地膜と強固な共有結合、つまりシロキサン結合を形成し、強固な密着性を発現するものである。防汚膜の成分の個々の分子が下地膜のシラノール基と化学結合可能な距離は限りがあるため、下地膜の表面のシラノール基が同一平面上に近い位置に配置されている方がより多くの反応基と結合しやすくなる。しかし、下地膜の表面の凹凸が大きいと下地膜のシラノール基の位置が適正な位置から外れ、防汚膜の成分の分子とシロキサン反応を形成するに至らずに弱い水素結合の状態のままで存在する部分ができてしまう。
【0019】
これに対して本発明では、下地膜の表面を平滑にし、下地膜上のシラノール基をほぼ同一平面上に近い位置に配置させることができる。そのため、前述のとおりシロキサン結合が起きやすい状態とすることができると推測される。これにより、下地膜と防汚膜との間においてより強固な密着性が得られ、防汚膜付光学部材の耐摩耗性を大きく向上させることができる。
【0020】
ついで、本発明に係る防汚膜付光学部材の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
≪第1の実施形態≫
図1は、本発明に係る防汚膜付光学部材の第1の実施形態における構成を示す概略図であって、基材上に他の膜を介して下地膜が形成されている防汚膜付光学部材の構成例を示す。
図1に示すように、本実施形態の防汚膜付光学部材は、基材11上に、低屈折率材料からなる低屈折率材料膜14a,14cと高屈折率材料からなる高屈折率材料膜14b,14dとが交互に積層された積層膜14が形成された構成である。そして、積層膜14上に設けられた低屈折率材料からなる膜である下地膜12の表面に、防汚膜13が成膜された構成となっている。この積層膜14と、下地膜12と、で反射防止機能を発揮する(積層膜14と、下地膜12と、が反射防止膜を構成する)。
なお、図1は防汚膜付光学部材の膜構成を模擬的に表わしたものであり、基材11、積層膜14、下地膜12および防汚膜13の実際の厚みを正確な比率で表したものではない。
【0022】
(基材11)
基材11は下地膜12および防汚膜13等を積層形成可能なものであればよく、例えば、ガラスやプラスチック等からなる。防汚膜付光学部材をタッチパネル式ディスプレイ等に用いる場合、基材は可視光あるいは特定の波長の光を透過し得るものであることが好ましい。
【0023】
(積層膜14)
図1に示すように、積層膜14は、基材11側から数えて奇数番目に積層された膜14a,14cが低屈折率材料からなり、偶数番目に積層された膜14b,14dが高屈折率材料からなる。
なお、本実施形態では下地膜12も低屈折率材料膜14a,14cと同様に低屈折率材料からなり、積層膜14上に積層され、積層膜14と共に反射防止機能を発揮してなる。本実施形態では一例として積層膜14を4層としているので、防汚膜13を成膜するための下地膜12は低屈折率材料となる。
【0024】
低屈折率材料としては、例えば、SiO2(二酸化ケイ素)、Al23添加SiO2(アルミナ添加二酸化珪素)が挙げられる。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
高屈折率材料としては、例えば、アルミナ含有酸化チタン−酸化ランタン系混合材料、酸化チタンを主成分とする他の混合酸化物、酸化ニオブあるいは酸化ニオブを主成分とする混合材料等が挙げられる。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
積層膜14および積層膜14を構成する各膜の膜厚については特に制限はないが、例えば、積層膜14を構成する各膜の膜厚を10〜200nmとし、必要な数を積層して積層膜14を構成することができる。
なお、本実施形態における積層膜14は4層構成(反射防止機能を発揮する防汚膜13を含めると、5層の反射防止膜構成)であるが、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、層数は何層であってもよい。
【0026】
また、本実施形態では上述のように低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層して形成された反射防止膜の一部としての積層膜14を備えてなるが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。例えば、他のフィルタやミラー、帯電防止等から選ばれる機能を有する少なくとも1つの膜を基材11と下地膜12との間に形成してもよい。
【0027】
(下地膜12)
下地膜12は、防汚膜13を形成する下地となる層であり、当該下地膜12の下層に設けられたもの(本実施形態の場合、積層膜14)と、防汚膜13との密着性を良好ならしめるものである。
本実施形態では、下地膜12の表面に成膜する防汚膜13の耐摩耗性をより向上させるために、下地膜12をその表面粗さRaが0.76nm以下となるように形成し、当該下地膜12の表面に防汚膜13を蒸着加工(例えば、真空蒸着)により成膜させて構成する。なお、本発明は蒸着加工に限られるものではなく、ディッピング法、塗布法、スプレー法、スピンコート法など蒸着加工以外の製法により防汚膜13を形成してもよい。
表面粗さRaが0.76nmを超えると耐摩耗性が悪化し、長期に亘り優れた防汚性が発揮されず、好ましくない。
【0028】
0.76nm以下の表面粗さRaを達成するには、種々の製造条件、下地膜12以外の部材の条件など、様々な要因が影響するものであり、これらを好適な範囲に調整することが必要である。例えば、下地膜12の成膜速度を0.5〜数Å/sec、即ち通常よりも成膜速度を遅くすること、下地膜12の厚さを調整すること、下地膜12の成膜時の温度を調整すること、基板11の表面粗さをなめらかにすることなどが0.76nm以下の表面粗さRaを達成するために必要である。この他、下地膜12を成膜しながらイオンを照射するイオンアシストを行うようにしてもよい。このとき、イオンアシストの条件も表面粗さRaに影響を与え得るため、調整することが望ましい。このような各種条件を調整し、0.76nm以下の表面粗さRaを有する下地膜12が得られる。
【0029】
下地膜12の膜厚については特に制限はないが、例えば、2nm〜150nm、好ましくは5〜125nmである。下地膜12の膜厚が厚くなると、表面粗さRaが大きくなる傾向がある。
【0030】
下地膜12を形成する材料はSiO2が望ましいが、表面にヒドロキシル基が存在する物質であればよい。例えば、表面にヒドロキシル基を有するITO膜などの金属酸化物薄膜でもよい。好ましくはITO膜などの金属酸化物膜の上にSiO2を2〜3nm程度成膜したものがよい。
【0031】
なお、本発明では下地膜12の表面粗さRaが0.25nm以上である。表面粗さRaが0.25nm未満であると、より凹凸が少なくなり、より平滑な下地膜が得られる一方で、生産性の悪化をもたらす。また、表面粗さRaを0.25nm未満としても、測定する際にノイズが発生するためばらつきが生じ、良好な精度の測定結果が得られないという問題もある。
【0032】
・表面粗さRaの測定方法
表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(日立ハイテクサイエンス製、SPI3800N)を用いて、測定スケール2μm×2μm、バネ定数15N/m、共振周波数110−150kHzの条件にて測定を行い算出した。
【0033】
(防汚膜13)
防汚膜13は、積層膜14や下地膜12の表面の指紋付着防止や滑り性の向上、汚れ拭き取り性の向上、水ヤケ防止などを目的として形成されるものである。
また、防汚膜13は、例えば、アルコキシシランを有する分子からなり、好ましくはアルコキシシランを有するフッ素系化合物からなる。フッ素系化合物としては、例えば、下式で表されるパーフルオロアルキルエーテル化合物が用いられる。
【0034】
【化1】
(式中、Rfはパーフルオロアルキルエーテル基、Xは加水分解性基を複数有する加水分解性基含有シランを含む有機基、YはRf基とX基とを連結する有機基である。)
【0035】
Xは、加水分解性基を複数、好ましくは2〜18個、より好ましくは2〜9個有する加水分解性基含有シリル基を含む有機基である。
加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2〜10のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基等の炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲン基やアミノ基などが挙げられる。中でも、メトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好適である。
【0036】
Yは、2価の有機基であり、Rf基とX基との連結基である。好ましくは、アミド結合、エーテル結合、エステル結合、ビニル結合、及びジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基から成る群より選ばれる1種又は2種以上の構造を含んでよい非置換、又は置換の炭素数2〜12の2価の有機基、好ましくは前記構造を含んでよい非置換又は置換の炭素数2〜12の2価の炭化水素基である。
【0037】
フッ素系化合物としてより具体的には、パーフルオロアルキルエーテル基を有するトリメトキシシラン、ジメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロペノキシシラン、トリクロロシランおよびトリアミノシランなどが挙げられる。これらの中でもパーフルオロアルキルエーテル基を有するトリメトキシシランが好ましい。
【0038】
防汚膜13の膜厚については特に制限はないが、例えば、10〜20nmである。膜厚が薄すぎると充分な防汚性が得られない場合があり、また、膜厚が厚すぎると透明性を損なう場合がある。
【0039】
≪第2の実施形態≫
図2は、本発明に係る防汚膜付光学部材の第2の実施形態における構成を示す概略図であって、基材上に下地膜が直接形成されている防汚膜付光学部材の構成例を示す図である。
図2に示す防汚膜付光学部材は、基材11上に直接下地膜12を形成した構成である。この下地膜12は低屈折率材料を用いて単層で形成し、当該下地膜12の表面に防汚膜13を成膜した構成となっている。本実施形態では一例として、下地膜12の低屈折率材料はSiO2であるとする。
なお、本実施形態の防汚膜付光学部材は、層構成が上記第1の実施形態とは異なるが、これ以外の構成については上記第1の実施形態と同様である。したがって、本実施形態における防汚膜付光学部材は、層構成以外の構成については上記第1の実施形態において説明したものとすることができる。換言すると、本実施形態の防汚膜付光学部材は、上記第1の実施形態から積層膜14を除いた構成である。
また、この図2も防汚膜付光学部材の膜構成を模擬的に表わしたものであり、基材11、下地膜12および防汚膜13の実際の厚みを正確な比率で表したものではない。
【0040】
<タッチパネル式ディスプレイ>
図3は本発明に係るタッチパネル式ディスプレイの一実施形態における構成を示す概略図である。
本実施形態ではスマートフォンに用いられるタッチパネル式ディスプレイであり、ディスプレイ用カバーガラス31に用いられる防汚膜付ガラスとして上述した本発明に係る防汚膜付光学部材が設けられてなる。
ディスプレイ用カバーガラス31は、透明電極を備えた表示部32上に設けられ、表示部32のディスプレイ用カバーガラス31と反対側には主基板33が設けられてなる。
【0041】
なお、本発明に係るタッチパネル式ディスプレイはスマートフォンに用いられるものに限らず、例えば、その他の携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、ポータブルオーディオプレイヤー、ゲーム機器、カーナビゲーション、カーオーディオ、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、その他各種表示機器、複写機、銀行ATM、切符券売機等に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
基材11である厚さ0.8mmのガラス上に、SiO2からなる低屈折率材料膜14a,14c、及び、アルミナ含有酸化チタン−酸化ランタン系混合材料からなる高屈折率材料膜14b,14dを交互に成膜し、4層構成の積層膜14を形成した。積層膜14を構成する各層は蒸着によって形成し、膜厚は低屈折率材料膜14aが15nm、高屈折率材料膜14bが16.5nm、低屈折率材料膜14cが35nm、高屈折率材料膜14dが136.5nmであった。なお、低屈折率材料膜14aがガラスからなる基材11に接するように設けられている。
【0044】
次いで、積層膜14(最上部に位置する高屈折率材料膜14d)上にSiOからなる下地膜12を蒸着によって成膜した。所望の表面粗さRaが得られるように、下地膜12の成膜速度は1Å/S(積層膜14の低屈折率膜の成膜速度は7Å/S)、成膜時の温度は約150℃とした。なお、所望の表面粗さRaにすることを要する下地膜12のみ成膜速度を遅くし、積層膜14の各膜の成膜速度を速くした。こうすることで生産性を高めることができる。なお、下地膜12の膜厚は91nmであった。
【0045】
そして、下地膜12の上にフッ素系化合物からなる防汚膜13を蒸着によって形成し、防汚膜付光学部材を作製した。フッ素系化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル含有トリメトキシシランを含むSURFCLEAR100(キヤノンオプトロン株式会社製)を用い、膜厚12〜14nmの防汚膜13を形成した。また、得られた防汚膜付光学部材の構成は、図1に示す防汚膜付光学部材の構成と同様である。
【0046】
(実施例2、比較例)
下地膜12の成膜速度を変えた以外は実施例1と同様にして防汚膜付光学部材を作製した。
【0047】
(実施例3〜5)
積層膜14を形成せず、また、下地膜12の成膜速度を変えた以外は実施例1と同様にして防汚膜付光学部材を作製した。また、得られた防汚膜付光学部材の構成は、図2に示す防汚膜付光学部材の構成と同様である。
【0048】
(耐摩耗性試験)
上記のように作製した実施例1〜5および比較例の防汚膜付光学部材について、下記の方法に従い耐摩耗性試験を行った。
スチールウール#0000(径:約0.012mm、日本スチールウール株式会社製)を防汚膜付光学部材の防汚膜13表面に載せ、1kg/cmの荷重をかけた状態で、往復移動させて耐摩耗性試験を行った。往復移動は移動速度60往復/min、移動距離15mmの条件で行った。
【0049】
また、スチールウールによる摩擦後、対水接触角の測定により耐摩耗性の評価を行った。具体的には、スチールウールで1000回摩擦を行う毎に摩擦後の防汚膜13の表面に液滴を作り、対水接触角を測定した。
対水接触角とは、固体と水とが接触する点における水表面に対する接線と固体表面とがなす角度のことである。ここでは、この対水接触角の値が大きいほど、防汚膜13の表面に傷が少ないことを表す。
対水接触角の測定は、防汚膜13の表面の9ヵ所(測定箇所No.1〜9)において対水接触角を測定し、9点全てにおいて対水接触角が100°以上である場合を合格、9点のうち1点でも対水接触角が100°未満となる箇所がある場合を不合格とした。なお、摩擦回数0回における対水接触角の測定では、いずれの箇所においても摩擦による傷が生じていないため、5点のみ測定した。
【0050】
実施例1〜5および比較例の防汚膜付光学部材の耐摩耗性試験の結果を下記表1に示す。また、実施例1〜5および比較例の防汚膜付光学部材を作製する際、防汚膜13を形成する前の下地膜12の表面粗さRaを前述した測定方法により測定し、これを下記表1にあわせて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1は、下地膜12の表面粗さRaの値が0.31である。上記表1から明らかなように、最初に不合格となったときの磨耗回数は14000回であり、少なくとも磨耗回数が13000回の時点では合格の条件を満たしている。したがって、耐摩耗性に関する合格の条件を満たす最大磨耗回数は、13000回以上14000回未満の何れかの値ということがわかる。
実施例2は、下地膜12の表面粗さRaの値が0.75である。実施例2における耐摩耗性に関する合格の条件を満たす最大磨耗回数は、8000回以上9000回未満の何れかの値である。
これに対し、比較例は、下地膜12の表面粗さRaの値が1.25(特許文献2で示されている範囲の値)である。比較例における耐摩耗性に関する合格の条件を満たす最大磨耗回数は、1000回未満であり、耐摩耗性に劣り、長期に亘って優れた防汚性が得られないことがわかる。
【0053】
実施例3は、下地膜12の表面粗さRaの値が0.36である。実施例3における耐摩耗性に関する合格の条件を満たす最大磨耗回数は、9000回以上10000回未満の何れかの値である。
実施例4は、下地膜12の表面粗さRaの値が0.25である。実施例4における耐摩耗性に関する合格の条件を満たす最大磨耗回数は、9000回以上10000回未満の何れかの値である。
実施例5は、下地膜12の表面粗さRaの値が0.76である。実施例5における耐摩耗性に関する合格の条件を満たす最大磨耗回数は、6000回以上7000回未満の何れかの値である。
【0054】
(実施例6)
基材として厚さ0.7mmの4インチにカッティングされた強化ガラス(Corning社製Gorillaガラス)を用い、この強化ガラスの縁部に塗装を施し、ディスプレイ用カバーガラス31を作製した。さらにディスプレイ用カバーガラス31を、透明電極を備える表示部32と貼り合わせた。
【0055】
このディスプレイ用カバーガラス31を洗浄後、表示部32の貼り付け側と反対側の面に蒸着可能となるように真空蒸着機にセットした。
次いで、真空度1.0×10−3[Pa]の圧力まで真空引きした後、Nb(五酸化ニオブ)とSiO(二酸化ケイ素)とを交互に7層作成した。さらに、7層目のNb層の上に、6層目までと比較して成膜速度が遅い成膜速度1[Å/sec]でSiO層(下地膜)を蒸着成膜した。ディスプレイ用カバーガラス31上に積層された積層膜(下地膜を含めて合計8層)は、膜厚306nmであった。
そして、このSiO膜上にパーフルオロアルキルエーテル含有トリメトキシシランを含むSURFCLEAR100を用いて12〜16nmの膜厚で蒸着によって成膜し、防汚膜を形成した。
【0056】
この表示部32を備えたコーティング済みのディスプレイ用カバーガラス31を主基板33と組み合わせて、タッチパネルディスプレイを作製した。
このタッチパネルディスプレイは優れた防汚性能を持ち、高い耐久性を維持することができた。
【0057】
以上説明した実施例1〜6の構成によれば、下地膜12の凸凹が平滑化され、防汚膜13の耐摩耗性を大きく向上させることができ、長期に亘り優れた防汚性を発揮できることがわかった。
【0058】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0059】
この出願は2014年2月24日に出願された日本国特許出願第2014−032960からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。
【符号の説明】
【0060】
11 基材
12 下地膜
13 防汚膜
14 積層膜
31 ディスプレイ用カバーガラス
32 表示部
33 主基板
図1
図2
図3