【文献】
J. Cell. Mol. Med., 2010, Vol.14, No.6B, pp.1605-1618
【文献】
Cell Transplantation, 2012.12(online), Vol.22, pp.1369-1380
【文献】
J. Surgical Research, 2013.03, Vol.183, pp.907-915
【文献】
J. Cell. Biochem., 2007, Vol.102, pp.52-63
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成体由来ヒト肝臓幹/前駆細胞(ADHLSC)を細胞培養培地において培養し、前記細胞培養培地を前記細胞から分離することにより得ることができる、可溶性タンパク質および/または微小胞を含有する無細胞馴化培地であって、前記ADHLSCが、アルブミン陽性、ビメンチン陽性、アルファ平滑筋アクチン陽性、サイトケラチン−19陰性およびCD133陰性である、無細胞馴化培地。
請求項1または2に記載の無細胞馴化培地を分画化することによって得ることができ、前記分画化が、前記無細胞馴化培地のろ過、酵素的消化、遠心分離、吸着および/またはクロマトグラフィーによる分離を含む、無細胞組成物。
肝細胞成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、エオタキシン(CCL11)、インターロイキン−6(IL−6)およびインターロイキン−8(IL−8)からなる群から選択される可溶性タンパク質の少なくとも1つを含む、請求項1、2、もしくは4のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地または請求項3から4のいずれか一項に記載の無細胞組成物。
無細胞馴化培地を作製する方法であって、成体由来ヒト肝臓幹/前駆細胞(ADHLSC)を細胞培養培地において培養するステップ、および前記細胞培養培地を前記細胞から分離するステップを含み、前記ADHLSCが、アルブミン陽性、ビメンチン陽性、アルファ平滑筋アクチン陽性、サイトケラチン−19陰性およびCD133陰性である、方法。
肝細胞成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、エオタキシン(CCL11)、インターロイキン−6(IL−6)およびインターロイキン−8(IL−8)を少なくとも1ng/mlの濃度で含む無細胞組成物を作製する方法であって、成体由来ヒト肝臓幹/前駆細胞(ADHLSC)を細胞培養培地において培養するステップ、および前記細胞培養培地を前記細胞から分離するステップを含み、前記ADHLSCが、アルブミン陽性、ビメンチン陽性、アルファ平滑筋アクチン陽性、サイトケラチン−19陰性およびCD133陰性である、方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書において使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、特に他のことが明確に示されていない場合、単数および複数両方の指示物を含む。
【0031】
「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」および「で構成される(comprised of)」という用語は、本明細書において使用される場合、「含むこと(including)」、「含む(includes)」または「含有すること(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的または拡張可能であり、追加の列挙されていないメンバー、要素または方法ステップを排除するものではない。この用語は、「からなること(consisting)」および「本質的にからなること(consisting essentially of)」もまた包含し、特許の専門用語において十分に確立された意味を有する。
【0032】
終点による数値範囲の列挙は、個別の範囲内に含まれるすべての数および小部分ならびに列挙された終点を含む。
【0033】
「約(about)」または「およそ(approximately)」という用語は、本明細書において使用する場合、パラメーター、量、期間などの測定可能な値を指す時、指定の値およびこれからの変動、例えば、指定の値、程度または範囲およびこれから+/−10%以下、好ましくは+/−5%以下、より好ましくは+/−1以下およびさらにより好ましくは+/−0.1%以下の変動を包含することを意味し、このような変動は開示の発明における実施に適切である。修飾語句「約」がさす値は、それ自体も具体的であり、好ましく開示されることを理解されるべきである。
【0034】
「1つまたは複数の」または「少なくとも1つの」という用語、例えば、1つもしくは複数のメンバーまたはメンバーの群の少なくとも1つのメンバーは、さらなる例示を用いてそれ自体が明確であるが、この用語は、前記のメンバーのいずれか1つまたは前記のメンバーの任意の2以上、例えば、前記メンバーの≧3、≧4、≧5、≧6もしくは≧7などのいずれかおよび前記メンバーすべてまでの言及を特に包含する。別の例において、「1つまたは複数の」または「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7またはそれ以上を指してもよい。
【0035】
本明細書における本発明の背景技術の考察は、本発明の文脈を説明するために含まれる。これを、言及された材料のいずれかが、特許請求範囲のいずれかの優先権主張日を有する任意の国において公開、公知または一般常識の一部であると解釈すべきではない。
【0036】
本開示を通して、さまざまな刊行物、特許および公開された特許明細書は、引用の確認により参照される。本明細書に引用されたすべての文献は、これらの全体を参照により本明細書に組み込まれる。特に、本明細書において具体的に言及されたこのような文献の教示または項は、参照により組み込まれる。
【0037】
他のことが定義されない限り、技術用語および科学用語を含む本発明の開示に使用されるすべての用語は、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解される意味を有する。さらなるガイダンスを用いて、用語の定義が本発明の教示をより良く理解するために含まれる。特定の用語が本発明の特定の態様または本発明の特定の実施形態に関連して定義される場合、このような含意は、本明細書を通して適用されることを意味する、すなわち、特に他のことが定義されない限り、本明細書の他の態様または実施形態の文脈にも適用されることを意味する。
【0038】
下記の一節において、本発明のさまざまな態様または実施形態は、より詳細に記載される。このようにして定義された各態様または実施形態は、特に逆のことが明示されない限り、任意の他の態様または実施形態と組わせることができる。特に、好ましい、もしくは有利であることが示された任意の特色は、好ましい、もしくは有利であることが示された任意の他の1つまたは複数の特色と組み合わせることができる。
【0039】
本明細書を通して「一実施形態(one embodiment)」、「ある実施形態(an embodiment)」に対する言及は、実施形態と関連して記載される特定の特色、構造または特徴が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通してさまざまな場所における「一実施形態において(in one embodiment)」、または「ある実施形態において(in an embodiment)」という語句の出現は、必ずしも同じ実施形態を指すものではないが、同じものを指してもよい。さらに、特定の特色、構造または特徴は、本明細書から当業者に明らかな任意の適切な様式で、1つまたは複数の実施形態に組み合わせることができる。さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特色を含むが、他の特色は含まず、異なる実施形態の特色の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、このことは当業者に理解されるであろう。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求された実施形態のいずれかを任意の組み合わせで使用することができる。
【0040】
実験の項において本発明の代表的な限定されない実施形態に関して例示したように、本発明者は、細胞培養培地において成体由来ヒト肝臓幹/前駆細胞(ADHLSC;WO2007/071339;Najimi M et al., 2007; Khuu D et al., 2012)を培養し、得られた馴化培地(ADHLSC−CM)を単離することによって得られる無細胞組成物が、予想外に有利な成分および特性、例えば、抗線維化効果を有することを認めた。ADHLSC−CM、ADHLSC−CMに基づく組成物ならびに他の関連および由来する生成物は、細胞培養工程において、または医薬として使用することができ、より詳細には臓器傷害、臓器不全、組織もしくは臓器内、特に肝臓内における細胞の病理学的崩壊、炎症、変性および/または増殖に関する疾患の治療のために使用することができる。
【0041】
「成体由来ヒト肝臓幹細胞または前駆細胞」という用語は、本明細書において使用する場合「ADHLSC」と省略され、WO2007/071339に開示され、関連する文献(Najimi et al. 2007;Khuu D et al., 2012)に記載された、ヒト成体肝臓を起源とするヒト前駆細胞または幹細胞を特に表し、すべてが参照により本明細書に組み込まれる。したがって、本明細書において教示されたADHLSCの馴化培地(ADHLSC−CM)は、ADHLSCを培養することによって得られる。
【0042】
適切には、ADHLSCは成体肝臓の試料を使用することによって得られ、少なくとも1つの間葉マーカー(好ましくは、マーカーのCD90、CD73、CD44、ビメンチンおよびα−平滑筋アクチンの1つ、2つ以上またはすべて)を、肝臓マーカー(好ましくは、アルブミン、CD29、アルファ−フェトプロテイン、アルファ−1アンチトリプシン、HNF−4およびMRP2トランスポーターの1つまたは複数)と同時発現することにより特徴付けられる。特に、ADHLSCは通常、α−平滑筋アクチンおよび/またはビメンチンと、アルブミン(ALB)とを同時発現するが、形態(平坦な形態の幅広い細胞質を有する間葉様形態、単層で成長)、肝細胞または肝細胞様細胞に分化して、中胚葉細胞型には分化しない能力、およびサイトケラチン−7、サイトケラチン−19、Oct−4、CD45、CD34、CD133およびCD117のような他のマーカーの発現の欠如などの他の基準によっても特徴付けられる。したがって、ADHLSC−CMを得るために使用可能な例示的ADHLSCは、アルブミン陽性、ビメンチン陽性、アルファ平滑筋アクチン陽性、サイトケラチン−19陰性およびCD133陰性である。
【0043】
さらなるガイダンスによって、ADHLSCは、少なくとも1つの間葉マーカーを肝細胞マーカーのアルブミン(ALB)と同時発現することを特徴とし得る。より詳細には、ADHLSCは、α−平滑筋アクチン(ASMA)とALBとを同時発現することができる。さらにより詳細には、ADHLSCは、ビメンチン、ASMAおよびALBを同時発現することができる。さらにより詳細には、ADHLSCは、ASMAおよびALBまたはビメンチン、ASMAおよびALBを同時発現でき、サイトケラチン−19(CK−19)は陰性である。ADHLSCのCK−19に対する陰性は、例えば、免疫細胞化学によりタンパク質レベルで決定することができる。さらにより詳細には、ADHLSCは、CD90、CD73、CD44、ビメンチン、ASMAおよびALBを発現することができ、CK−19に関しては陰性である。ADHLSCは通常、さらなるマーカー、例えばCD29、CD13、チトクロームP450 3A4(CYP3A4)、CYP1B1、アルファフェトプロテイン(AFP)およびアルファ−アンチトリプシンもまた発現する。特定の例において、したがって、ADHLSCは、CD90、CD29およびCD44陽性、アルブミン陽性、ビメンチン陽性およびASMA陽性ならびにCD45、CD34、CD117およびCK−19に関しては陰性として特徴付けることができる。別の例において、ADHLSCは、CD90、CD73、CD29、CD44、CD13、ビメンチン、ASMA、ALB、AFP、CYP3A4およびアルファ−アンチトリプシンを発現するとして特徴付けることができる。さらなる例において、ADHLSCは、CD90、CD73、CD29、CD44、CD13、ビメンチン、ASMA、ALB、AFP、CYP3A4およびアルファ−アンチトリプシンを発現し、CK−19およびCK−7に関して陰性として特徴付けることができる。またさらなる例において、ADHLSCは、CD90、CD73、CD29、CD44、CD13、ビメンチン、ASMA、ALB、AFP、CYP3A4およびアルファ−アンチトリプシンを発現し、CK−19、CK−7、CD133、CD117、CD45、CD34およびHLA−DRに関しては陰性として特徴付けることができる。さまざまなマーカーに対するADHLSCの陽性および陰性は、好ましくは、タンパク質レベルで、例えば、免疫細胞化学により決定することができる。限定されない例としては、ADHLSCは、Universite catholique de Louvain(Professor Bernard Coulie、UCLの教区牧師が2004年から2009年に代表) により、2006年2月20日にブダペスト条約の下ベルギー微生物保存機関(Belgian Coordinated Collections of Microorganisms)(BCCM/LMBP)に寄託番号LMBP 6452CBで寄託された細胞中に見出されたマーカー発現プロファイルを示し得る。ADHLSC細胞由来の細胞系が、この用語に包含されることも理解すべきである。
【0044】
細胞が特定のマーカーに関して陽性である(または特定のマーカーを発現する、すなわち、そのマーカーの発現を含む)という場合、これは、適切な測定、適切な(陰性)対照との比較を実施した場合、そのマーカーに関する明確なシグナル、例えば、抗体−検出可能なシグナル(例えば、免疫細胞化学または免疫ブロッティング)の存在または証拠を当業者が結論付けることを意味する。この方法がマーカーの定量的評価を可能にする場合、陽性細胞は、平均して対照と有意に異なる、例えば、限定するものではないが、対照細胞により発生されるこのようなシグナルより少なくとも1.5倍高い、例えば少なくとも4倍、少なくとも5倍または少なくとも10倍高い、または(好ましくは)さらに高いシグナルを発生することができる。
【0045】
上記の細胞特異的マーカーの発現は、当分野において公知の任意の適切な免疫学的技術(免疫細胞化学またはアフィニティー吸着、ウエスタンブロット分析、FACS、ELISA、タンパク質マイクロアレイなど)または生体試料からタンパク質を同定および定量するための任意の適切なシーケンシング技術を使用して検出することができる。この開示に記載されたマーカーに関する配列データは公知であり、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)またはUniprot(http://www.uniprot.org)などの公的データベースから得ることができる。
【0046】
さらなるガイダンスとしては、「前駆体」または「前駆細胞」は同義であり、概して、非特殊化または比較的特殊化が少ない細胞および増殖コンピテント細胞を指し、増殖コンピテント細胞は、適切な条件下で少なくとも1つの比較的より特殊化された細胞型、特に比較的より特殊化された前駆細胞または最終的に高分化された細胞を発生する。例えば、前駆細胞が未だ細胞分裂されていない前記の他の細胞になるように分化した場合、または前記の他の細胞が、細胞分裂および/または前駆細胞の分化の1または複数のラウンド後に生じた場合、前駆細胞は別の比較的より特殊化された細胞を「発生する」。
【0047】
「幹細胞」という用語は、概して自己複製できる、すなわち、適切な条件下で分化せずに増殖できる前駆細胞を指す。この用語は、実質的に制限されずに自己複製できる、すなわち、幹細胞の子孫の少なくとも一部分が、非特殊化または比較的特殊化が低い表現型、母幹細胞の分化可能性および増殖能力を保持する幹細胞;ならびに限定された自己複製を示す、すなわち、さらなる増殖および/または分化に関する幹細胞の子孫の能力が、母細胞と比較して明らかに低減された幹細胞を包含する。
【0048】
「成体幹細胞または前駆細胞」という用語は、本明細書において使用する場合、胎児期または生後、例えば、一般的に「新生児」、「幼児」、「子供」、「青年」、「思春期」または「成人」と称される時期のいずれか1つにおいて、生物に存在した、または生物から得られた(例えば単離された)幹細胞もしくは前駆細胞を指す。例えば、ADHLSCは、ヒト胎児または生後の任意の時、好ましくは月満ちて生まれた、例えば、生後0−1ヶ月齢、または生後少なくとも1ヶ月齢、例えば生後少なくとも2ヶ月齢、少なくとも3ヶ月齢、例えば生後少なくとも4ヶ月齢、少なくとも5ヶ月齢、例えば少なくとも6ヶ月齢、例えば、生後1歳以上、5歳以上、少なくとも10歳以上、15歳以上、20歳以上または25歳以上のヒト対象を起源としてよい。
【0049】
ADHLSCは、WO2007/071339に教示された方法およびNajimi et al. 2007によりさらに記載された方法により、ヒト肝臓から適切に単離することができ、療法とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
ADHLSCは、WO2007/071339に教示された方法によるADHLSC−CMの作製に使用する前に、特に、ADHLSCの複製能力の上昇のため、ADHLSCの成長および/または活性の強化のため、肝細胞、抗体またはホルモンにより正常に発現される(および分泌されるまたは分泌されない)ポリペプチドの構成的または誘導的過剰発現のために、遺伝子的に改変することができる。
【0051】
したがって、ADHLSCは、(a)成体肝臓またはこれらの一部を切り離し、前記成体肝臓またはこれらの一部から初代細胞の集団を得るステップ、(b)初代細胞集団を、細胞が付着できる基材上にプレーティングするステップおよび(c)前記基材に付着した初代細胞集団由来の細胞を、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10、少なくとも13または少なくとも15日間、培養された細胞集団が少なくとも40%および好ましくは少なくとも70%集密になるまで細胞を培養し、それによって細胞集団中の幹/前駆細胞を出現および増殖させるステップ、ならびに(d)細胞集団を少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回継代し、それによって好ましくは幹/前駆細胞の実質的に同種の集団を得ることによって、細胞集団中の前駆または幹細胞の割合を増加させるステップ、を含む方法によって得ることができる、または直接得られる。ステップ(b)において、好ましくは肝臓の実質細胞集団がプレーティングされる。通常細胞集団は、ステップ(d)において2から8回の間継代されてよく、その間にADHLSCは拡大され、単離および特徴付けが可能なADHLSC−CMを産生する。
【0052】
特定の例において、この方法は、(a)ヒト成体肝臓またはこれらの一部を切り離し、前記成体肝臓またはこれらの一部から初代細胞の集団を形成するステップ、(b)初代細胞集団を、細胞が付着できる基材上にプレーティングするステップ、(c)前記基材に付着した初代細胞集団由来の細胞を、少なくとも7日間、血清ならびに上皮成長因子(EGF)、デキサメタゾンおよびインスリンから選択される少なくとも2つ、好ましくは少なくともデキサメタゾンおよびインスリン、より好ましくはデキサメタゾンおよびインスリンを含み、EGFを含まない組み合わせを含む培養培地において培養するステップ、ならびに(d)培地を、3000mg/Lから6000mg/Lの間の高濃度のグルコースを含む基礎培地と交換し、さらに細胞を培養し、そこでADHLSCを出現および増殖させるステップ、を含むことができる。ステップ(b)において、好ましくは肝臓の実質細胞集団がプレーティングされる。ADHLSCの出現は、細胞を約70%集密になるようにし、細胞を少なくとも1回、通常2から8回の間継代させることによって容易にすることができる。
【0053】
別の例において、この方法は、(a)好ましくは二段階コラゲナーゼ法により、成体肝臓またはこれらの一部をヒト対象から切り離し、前記成体肝臓またはこれらの一部から初代細胞の集団を形成するステップ、(b)初代細胞集団をI型コラーゲンコーティング基材上に、胎児ウシ血清を好ましくは10%(v/v)、EGFを好ましくは25ng/ml、インスリンを好ましくは10pg/mlおよびデキサメタゾンを好ましくは1μΜ含むウイリアムス培地Eにプレーティングするステップ、(c)初代細胞集団由来の細胞を前記基材に24時間付着させ、その後培地を、(b)のような組成を有する新鮮な培地に交換するステップ、(d)細胞を(c)の前記培地において2週間、好ましくは15日培養するステップ、(e)培地を、高グルコースおよびFCSを好ましくは10%含むDMEMに交換し、さらに細胞を培養して、そこで本発明の前駆体または幹細胞を出現および増殖させるステップ、(f)細胞を約70%集密になるようにし、細胞を少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回継代させ、細胞を(b)の基材上にプレーティングし、(e)の培地中で培養するステップ、を含むことができる。ステップ(b)において、好ましくは肝臓の実質細胞集団がプレーティングされる。通常、細胞集団はステップ(f)において2から8回の間継代させることができる。
【0054】
上記の方法において、より詳細には細胞の培養および継代の間、ADHLSC細胞の出現は、ADHLSCの実質的に同種の集団が得られるまでに徐々に大きな比率を占めるようになることが理解されるべきである。したがって、この工程は、これらのステップにおいて細胞の個別のコロニーの選択を必要としない。
【0055】
Najimi et al. 2007(上記)により記載された特定の例は、下記の通りである。単一細胞懸濁液を、10%ウシ胎児血清(FCS)(Perbio、Hyclone)、25ng/ml EGF(Peprotech)、10μg/ml インスリン、1μΜ デキサメタゾンおよび1% ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)(Invitrogen)を補充したウイリアムスE培地(Invitrogen)に再懸濁した。細胞を6ウェルのラット尾I型コラーゲンコーティングプレート(Greiner Bio−one)にプレーティングし、37℃において5% CO2含有の十分に加湿された雰囲気下で培養した。24時間後、未接着細胞を除去するために培地を交換し、その後3日ごとに新しくして、培養液を毎日顕微鏡観察した。次いで培養培地を、肝細胞の除去を加速するために10% FCSおよび1% P/Sを補充した高グルコース濃度のDMEMに切り替えた。間葉様形態を有する細胞型が、その後自然発生的に出現し、増殖し、位相差顕微鏡により観察したところウェルプレートの空白に充満した。70%集密に到達した時に、細胞を0.25%トリプシンおよび1mM EDTAにより剥離し、密度1×10
4細胞/cm
2で再プレーティングした。3から8継代のADHLSC細胞を、さらに特徴付けした。
【0056】
したがって、特定の実施形態において、ADHLSCは、上記の方法のいずれかにより得ることができる、または直接得ることができる。
【0057】
したがって、本明細書に教示されるように馴化培地を作製する方法は、上記の方法のいずれかによりADHLSCを得るステップ、ADHLSCを細胞培養培地中で培養するステップおよび細胞培養培地をADHLSCから分離するステップを含むことができる。
【0058】
「無細胞(cell-free)」および「細胞を含まない(free of cells)」という類句は一般に十分に理解されており、本文脈において、馴化培地などの組成物が(ADHLSC)細胞を本質的に含有しない、特に生存(ADHLSC)細胞を本質的に含有しないことを特に意味することができる。馴化培地などの組成物が細胞を含まない程度は、細胞を培養培地から分離するための利用可能な方法、例えば、遠心分離もしくはろ過またはこのような方法の反復および/または組み合わせの有効性によって大きく決定される傾向にある。実用目的のためには、馴化培地などの組成物は、5×10
2以下細胞/ml、好ましくは100以下細胞/ml、より好ましくは50以下細胞/ml、さらにより好ましくは25以下/ml、さらにより好ましくは10以下細胞/ml、さらにより好ましくは10以下細胞/mlまたは5以下細胞/mlおよび最も好ましくは無(すなわち0)細胞/mlを含有する場合、無細胞であると考えることができ、好ましくはこれらのカウントは生存細胞を表す。従来の細胞カウント方法、例えば、光学顕微鏡法またはフローサイトメトリーまたはプレーティングおよびコロニー形成単位(CFU)決定が使用できる。従来の細胞生存能力決定方法、例えば、色素(例えば、トリパンブルーまたはヨウ化プロピジウム)排除アッセイが使用できる。
【0059】
「培地」という用語は、本明細書において使用する場合、細胞の維持および/または増殖を促す、より詳細にはADHLSCの維持を促す、好ましくはADHLSCの増殖を促す任意の細胞培養培地を広範囲に包含する。通常、この培地は、これらの簡便な操作(例えば、デカンテーション、ピペッティング、遠心分離、ろ過など)を容易にする、液体培養培地であってよい。
【0060】
適切な培養培地は、特定の文献(WO2007/071339;Khuu D et al., 2012)および実施例に定義されるが、特定の要素の濃縮(または枯渇)を得るためにも適用可能である。例えば、ADHLSC−CMは、無血清培地の使用により、および/または特定の栄養の存在下もしくは不在下で得ることができる。細胞培養液中のADHLSCの密度および数は、ADHLSC−CMの所望の体積および/またはタンパク質濃度に適合させることができる。
【0061】
通常、培地は、当分野において公知の基礎培地配合物を含む。限定するものではないが、イーグル最小必須培地(Eagle’s Minimum Essential Medium)(MEM)、ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)(DMEM)、アルファ変法最小必須培地(alpha modified Minimum Essential Medium )(アルファ−MEM)、基礎必須培地(Basal Medium Essential )(BME)、イスコフ変法ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)(IMDM)、BGJb 培地、F−12 栄養混合物(Ham)、Leibovitz L−15、DMEM/F−12、基礎変法イーグル培地(Essential Modified Eagle’s Medium)(EMEM)、RPMI−1640、199培地、ウェイマスMB(Waymouth’s MB)752/1またはウイリアムス培地Eならびにこれらの変法および/または組み合わせを含む多くの基礎培地配合物(例えば、the American Type Culture Collection、ATCCから、またはInvitrogen、Carlsbad、Californiaから入手可能)が、本明細書においてADHLSC細胞の培養に使用することができる。上記の基礎培地の組成は当分野において公知であり、培養される細胞に必要な培地および/または培地補充物の濃度を改変または調節することは当業者の範囲内である。ADHLSCの培養に特に好ましい基礎培地はDMEMであり得る。
【0062】
このような基礎培地配合物は、哺乳動物細胞の維持および増殖に必要な成分を含有し、それ自体が公知である。限定されない例示としては、これらの成分は、無機塩(特に、Na、K、Mg、Ca、CI、Pならびに場合によりCu、Fe、SeおよびZnを含有する塩)、生理学的バッファー(例えば、HEPES、重炭酸塩)、ヌクレオチド、ヌクレオシドおよび/または核酸塩基、リボース、デオキシリボース、アミノ酸、ビタミン、酸化防止剤(例えばグルタチオン)および炭素供給源(例えば、グルコース、ピルビン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)などを含む。
【0063】
例としては、ADHLSCなどの哺乳動物細胞を培養するための培地は、例えば1.0g/Lから10.0g/Lの間のD−グルコース、好ましくは3.0g/Lから6.0g/Lの間のD−グルコース、より好ましくは4.0g/Lから5.0g/Lの間のD−グルコース、および最も好ましくは4.50g/Lのグルコースを含有してよい。
【0064】
培地に使用するために、基礎培地に1つまたは複数のさらなる成分を添加することができる。例えば、さらなる補充物は、最適なADHLSCの維持、成長および/または拡大のための必要な微量元素および物質を細胞に補給するために使用することができる。さらに、酸化防止剤補充物、例えば、β−メルカプトエタノールまたはN−アセチル−L−システインは、適切な濃度で加えることができる。多くの基礎培地はアミノ酸をすでに含有しているが、いくつかのアミノ酸、例えばL−グルタミンは溶液中ではあまり安定でないことが公知であるので、後で補充してもよい。培地は、抗生物質および/または抗真菌化合物、例えば、通常、ペニシリンおよびストレプトマイシンの混合物および/または他の化合物、例としては、限定するものではないが、アンホテリシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ナリジクス酸、ネオマイシン、ナイスタチン、パロモマイシン、ポリミキシン、ピューロマイシン、リファピシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、タイロシンおよびゼオシンをさらに補充することができる。
【0065】
脂質および脂質担体は、細胞培養培地を補充するために使用することができる。このような脂質および担体としては、限定するものではないが、シクロデキストリン、コレステロール、アルブミンとコンジュゲートされたリノール酸、アルブミンとコンジュゲートされたリノール酸およびオレイン酸、非コンジュゲートリノール酸、アルブミンとコンジュゲートされたリノール酸−オレイン酸−アラキドン酸、非コンジュゲートオレイン酸およびアルブミンとコンジュゲートされたオレイン酸などが挙げられる。アルブミンは、同様に無脂肪酸配合物に使用できる。
【0066】
細胞培養培地への哺乳動物血漿または血清の補充もまた企図される。血漿または血清は多くの場合、細胞の生存能力および拡大を容易にする細胞性の因子および成分を含有する。場合により、血漿または血清は、熱不活性化されてよい。熱不活性化は、当分野において主に成分を除去するために使用される。熱不活性化は通常、血漿または血清を56℃において30から60分、例えば30分、しっかり混合しながらインキュベートし、その後血漿または血清を周囲温度に徐々に冷却するステップを伴う。当業者は、上記の手順の一般的な改変および必要条件を承知するであろう。場合により、血漿または血清は、保存または使用前に滅菌される。滅菌の普通の手段は、例えば、1μm未満、好ましくは0.5μm未満、例えば0.45μm、0.40μm、0.35μm、0.30μmまたは0.25μm未満、より好ましくは0.2μm以下、例えば0.15μm以下、0.10μm以下の細孔径を有する1つまたは複数のフィルターを介したろ過を伴ってよい。本明細書において教示される培地に使用するための適切な血清または血漿としては、ヒト血清もしくは血漿、または非ヒト動物の血清もしくは血清、好ましくは非ヒト哺乳動物、例えば非ヒト霊長類(例えば、キツネザル、サル、類人猿)、胎児もしくは成体のウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウサギ、マウスまたはラットの血清または血漿またはこのような任意の組み合わせが挙げられる。特定の好ましい実施形態において、本明細書において教示される培地は、ウシ血清または血漿、好ましくはウシ(bovine)(ウシ(calf))胎児血清または血漿、好ましくはヒト血清または血漿、例えば、自己または同種異系ヒト血清、より好ましくはウシ(bovine)(ウシ(calf))胎児血清(FCSまたはFBS)を含んでよい。他の好ましい実施形態において、本明細書において教示される培地は、ヒト血清または血漿、例えば、自己または同種異系のヒト血清または血漿、より好ましくは自己ヒト血清または血漿、さらにより好ましくは自己ヒト血清を含んでよい。
【0067】
特定の好ましい実施形態において、血清または血漿は、無血清培地(すなわち化学的に定義された培地)を提供するように、本明細書において教示された培地において血清代用品と置き換えることができる。無血清培地の提供は、培地またはこれらの分画を対象、特にヒト対象に投与する観点から特に有利である(例えば、生体安全性の改善)。「血清代用品」という用語は、細胞培養培地において動物血清の機能(例えば、細胞の維持および成長支持機能)を置き換えるために使用できる任意の組成物を広範囲に意味する。従来の血清代用品は、通常、ビタミン、アルブミン、脂質、アミノ酸、トランスフェリン、酸化防止剤、インスリンおよび微量元素を含むことができる。多くの市販の血清代用添加物、例えばKnockOut Serum Replacement(KOSR)、N2、B27、インスリン−トランスフェリン−セレン補充物(Inslin−Trandferrin−Selenium Supplement)(ITS)およびG5は周知であり、当業者が容易に利用可能である。
【0068】
血漿または血清もしくは血清代用品は、約0.5%v/vから約40.0%v/vの間、好ましくは約5.0%v/vから約20.0%v/vの間、例えば約5.0%v/vから約15.0%v/vの間、より好ましくは約8.0%v/vから約12.0%v/vの間、例えば約10.0%v/vの割合(血漿または血清もしくは血清代用品の体積/培地の体積)で本明細書において教示された培地に含まれてよい。
【0069】
ADHLSCの培養に特に好ましい培地は、3.0g/Lから6.0g/Lの間のD−グルコース、より好ましくは4.0g/Lから5.0g/Lの間のD−グルコース、最も好ましくは4.50g/LD−グルコースを含有し、5.0%v/vから15.0%v/vの間のウシ胎児血清(FCS)、好ましくは8.0%v/vから12.0%v/vの間のFCS、最も好ましくは10.0%v/vの間のFCSが補充され、抗生物質、例えばペニシリンおよびストレプトマイシンを適切に補充されたDMEMであり得る。FCSは好ましくは適切な量の血清代用品で置き換えられる。
【0070】
「馴化培地」という用語は、培地中に少なくとも1つの追加の成分を含むために十分な時間の間、培養液中で成長した細胞に曝露され(すなわち、細胞と接触させた、細胞と一緒に培養された)、前記成分が細胞により産生され、前記成分が培地を細胞に曝露する前には培地中に存在しなかった培地を指す。言い換えると、「馴化培地」は、細胞分泌生成物、例えばとりわけ細胞分泌タンパク質および細胞代謝産物を含み、細胞の維持および/または増殖をこれまでに支持してきた組成物としてみなすことができる。
【0071】
前記少なくとも1つの追加の成分を培地中に含むために十分な期間は、ADHLSCによる混合分泌生成物(分泌されたタンパク質および微小胞を含む)の培地への分泌を達成するために特に十分であり得る。例としては、前記期間は、少なくとも約1時間、好ましくは少なくとも約3時間、より好ましくは少なくとも約6時間、さらにより好ましくは少なくとも約12時間、さらにより好ましくは少なくとも約18時間、およびさらにより好ましくは少なくとも約24時間、例えば少なくとも約36時間または少なくとも約48時間であってよい。通常、前記期間は、約72時間以下、より典型的には約60時間以下、さらにより典型的には、約48時間以下である。
【0072】
ADHLSC−CMなどの馴化培地は、したがって、細胞培養培地においてADHLSCを培養し、それによって培地を馴化し、細胞培養培地を細胞から分離して、それによって馴化培地を得ることによって得ることができる、または直接得られる。「培養すること(culturing)」または「細胞培養(cell culture)」という用語は当分野において共通であり、細胞の維持およびin vitroの細胞の増殖の可能性を広範囲に指す。通常、動物細胞、例えばヒト細胞などの哺乳動物細胞は、実験目的に適切な槽または容器(例えば96−、24−または6−ウェルプレート、T−25、T−75、T−150またはT−225フラスコまたはcell factory)においてin vitro細胞培養を促す当分野において公知の条件、例えば温度37℃、5%v/v CO
2および>95%湿度において適切な細胞培養培地にこれらを曝露する(これらを接触させる)ことによって培養される。
【0073】
細胞培養条件に関して、細胞培養のための材料(例えば、プレート、フラスコまたはバイオリアクター)はWO2007/071339に定義された材料の中から選択でき、または最近では入手可能であり、細胞系医薬製品の適正製造基準の必要条件に従ってADHLSC−CMの生成を可能にする条件を特に使用して、MSCのような細胞または初代細胞を成長させるために適合された物を特定する。好ましくは、任意の適切なコーティング、処理または初代細胞もしくはMSC(および特にADHLSC)が付着および増殖する表面を調製するためのまたは他の方法が使用される。例えば、表面は、生体材料、例えば、細胞外マトリックス付着および接着タンパク質(例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ヘパリン硫酸、ヒアルロン酸(hyaluronidate)またはコンドロイチン硫酸、それぞれ個別に、または混合物として適用される)、マトリックス(例えば、Matrigel(商標);BD Biosciences)でコーティングすることができる。さもなければ、予備処理表面(例えば、CELLBIND(商標)細胞培養材料、Ultra−Web(登録商標)Synthetic Surfacesまたは合成ペプチドにより処理された表面)が使用できる。所望の組成および特性を有するADHLSC−CMを得るために細かく適合できる他の細胞培養条件としては、温度、播種の細胞密度および酸素分圧が挙げられる。
【0074】
「in vitro」という用語は、概して動物またはヒトの身体の外側または外部を表す。「ex vivo」という用語は通常、動物またはヒトの身体から取り出され、身体の外側、例えば培養槽において維持または繁殖させた組織または細胞を指す。「in vitro」という用語は本明細書において使用する場合、「ex vivo」を含むと理解すべきである。「in vivo」という用語は概して、動物またはヒトの身体の内側または内部を表す。
【0075】
馴化培地を調製する場合、馴化される培地の作用により、細胞は、さまざまな初期細胞に密度で培地と接触させることができる。例としては、接着細胞、すなわち、組織培養プラスチックまたは適切な接着基材に接着可能な細胞、例えばADHLSCは、少なくとも約50%の初期細胞集密、例えば少なくとも約55%、または少なくとも約60%、例えば少なくとも約65%、または少なくとも約70%、例えば少なくとも約75%、または少なくとも約80%、例えば少なくとも約85%、または少なくとも約90%、例えば少なくとも約95%、例えば96%、97%、98%、99%または100%の初期細胞集密で培地と接触させてよい。「集密」という用語は、細胞が互いに接触して、細胞増殖に利用可能な表面の実質的にすべてを覆う(すなわち完全に集密)培養細胞の密度を指す。
【0076】
例としては、ADHLSCなどの接着細胞は、少なくとも約1000細胞/cm
2成長表面積の初期細胞密度、例えば少なくとも約10000細胞/cm
2または少なくとも約25000細胞/cm
2または少なくとも約50000細胞/cm
2成長表面積、例えば少なくとも約75000細胞/cm
2または少なくとも約100000細胞/cm
2、例えば少なくとも約125000細胞/cm
2の初期細胞密度で培地と接触させてよい。例えば、ADHLSCなどの接着細胞は、約200000細胞/cm
2以下、通常約175000細胞/cm
2以下の初期細胞密度、より典型的には、約150000細胞/cm
2以下の初期細胞密度で培地と接触させてよい。したがって、例としては、ADHLSCなどの接着細胞は普通、約50000細胞/cm
2から約125000細胞/cm
2の間、例えば約75000細胞/cm
2から約100000細胞/cm
2の間、例えば約80000細胞/cm
2の初期細胞密度で培地と接触させてよい。
【0077】
馴化培地を調製する場合、馴化される培地は組織培養に一般的な体積で提供することができる。通常、ADHLSCなどの接着細胞は、約0.10mL/cm
2成長表面積から約0.40mL/cm
2成長表面積の間の培地、より典型的には、約0.15mL/cm
2から約0.35mL/cm
2の間、さらにより典型的には、約0.20mL/cm
2から約0.30mL/cm
2の間で接触させてよい。
【0078】
特別であるが限定されない特定の実施形態において、馴化培地またはそれに由来する(1つまたは複数の)生成物が対象、特にヒト対象への投与が意図される場合、培地は、異種血清または血漿、すなわち、馴化培地またはそこに由来する生成物が投与される対象の種とは異なる種の生物を起源とする血清または血漿を欠いていてよい。ある例において、培地に含有される任意の血漿または血清は、同種異系の血清または血漿、すなわち、馴化培地またはそこに由来する生成物が投与される対象の種と同じ種のメンバーを起源とするが、対象に由来するものではない血清または血漿だけであってよい。別の例において、培地に含有される任意の血漿または血清は、自己の血清または血漿、すなわち、馴化培地またはそこに由来する生成物が投与される対象を起源とする血清または血漿だけであってよい。さらに別の特に好ましい例において、培地は、いずれの血清または血漿も欠いていてよい、すなわち無血清培地であってよい。これらの実施形態の培地の提供は、培地の生体安全性および/または免疫学的プロファイルを改善可能である。
【0079】
無細胞馴化培地を作製する方法は、したがって、細胞培養培地において、CD90、CD73、CD44、ビメンチンおよびα−平滑筋アクチンから選択される少なくとも1つの間葉マーカーを、アルブミン、CD29、アルファ−フェトプロテイン、アルファ−1アンチトリプシン、HNF−4およびMRP2トランスポーターから選択される少なくとも1つの肝臓マーカーと同時発現するADHLSCを培養するステップ、ならびに細胞培養培地をADHLSCから分離するステップを含むことができる。この方法は、無血清培地である細胞培養培地を使用することによって、細胞培養の特定の条件を改変することによって、および/またはADHLSCを培養後、所与の時点(例えば、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間または少なくとも24時間)において、細胞培養培地をADHLSCから分離することによって、馴化培地内で分解される(または不安定である)か、または規則的ではないが一定時間時間の前後にだけADHLSCにより分泌される(したがって、ADHLSC−CM中に漸次蓄積されない)可溶性タンパク質および/または微小胞が濃縮(または枯渇)された組成を有するADHLSC−CMを得る範囲において実施できる。関連する時点は、非常に短い(例えば2時間以下)またはより長い時間、例えば24時間、(実施例のように)、36時間またはそれ以上の時間であり得る。これらの時点または中間の時点(例えば、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間または18時間)においてADHLSC−CMの試料を得、このような試料をこれらの組成および/または活性について試験することによって、所望のADHLSC−CMを得るための最適なタイミングが決定される。
【0080】
特別であるが限定されないさらなる特定の実施形態において、馴化培地またはそこに由来する生成物が、対象、特にヒト対象に投与されることを意図される場合、培地は、適正製造基準(GMP)ガイダンスに確実に追従するように製造され得る。特定の実施形態において、馴化培地は、細孔径約0.20μm、例えば0.20μmから0.25μmの間、例えば0.21μm、0.22μm、0.23μmまたは0.24μmを有する微生物学的フィルターを通過させることによって簡便に滅菌することができる。
【0081】
馴化培地を、培地を馴化するために使用する細胞から任意の利用可能な技術により分離することができる。従来の技術としては、例えば、デカンテーションまたはピペッティングによる培養槽からの培地の除去、細胞、細胞断片およびそこに存在する微粒子をペレット化するための培地の遠心分離(例えば、約100×gから約2000×gの間、例えば約500×gおよび約1500×g、例えば約1000×gにおける、約5分から約30分の間、例えば約10分から20分の間、例えば約15分間の遠心分離)、細胞、細胞断片およびそこに存在する微粒子をろ別するための培地のろ過(例えば、細孔径約1.0μm以下、好ましくは約0.8μm以下、より好ましくは約0.6μm以下、さらにより好ましくは約0.4μm以下、例えば好ましくは約0.2μmを有する標準的微生物学的フィルターを介したろ過)が挙げられる。このような方法の反復および/または組み合わせが、比較的より完全な分離を成し遂げるために採用可能であることは理解されるものであろう。
【0082】
したがって、ADHLSC−CMのADHLSCからの分離は、単にADHLSC培養容器の上清を(デカンテーションまたはピペッティングにより)別の容器に移し、場合によりろ過(例えば、細孔径約1.0μm以下、好ましくは約0.8μm以下、より好ましくは約0.6μm以下、さらにより好ましくは約0.4μm以下、例えば好ましくは約0.2μmを有する標準的微生物学的フィルターを介したろ過)もしくは任意の残存する細胞、細胞残屑または微粒子をペレット化する範囲の、この細胞培養上清の低速における短時間の遠心分離(例えば、約100×gから約2000×gの間、例えば約500×gから約1500×gの間、例えば約1000×gにおける、約5分から約30分の間、例えば約10分から20分の間、例えば約15分間の遠心分離)の反復および/または組み合わせにより実施することができる。この様式において、無細胞調製物が遠心分離の上清として得られ、これをその後、免疫アッセイ、分光分析または酵素的アッセイなどの一般的に利用可能な技術に従って、存在する生体分子、例えば下記の可溶性タンパク質または微小胞などの決定、同定および濃縮に使用できる。
【0083】
実験の項に示すように、本発明者らは、0.4μmの細孔のPTFE膜の挿入によりADHLSCが肝臓星細胞(HSC)から分離される共培養系において、ADHLSCがHSCに対して望ましい効果を発揮したことを実証した。このことは、HSCに対して効果を発揮するADHLSCの少なくともいくつかの分泌生成物が、細孔径0.4μmを有するフィルターを通過することを例示している。したがって、特定の実施形態において、馴化培地は、約0.4μm以上の細孔径を有する、例えば細孔径約0.4μmから約1.0μm以下の間、好ましくは約0.4μmから約0.8μm以下の間、より好ましくは約0.4μmから約0.6μm以下の間、例えば約0.4μm、例えば、0.40μm、0.41μm、0.42μm、0.43μm、0.44μmまたは0.45μmを有するフィルターを介してろ過することができる。
【0084】
特定の実施形態において、馴化培地は、細孔径約0.20μm、例えば0.20μmから0.25μmの間、例えば0.21μm、0.22μm、0.23μmまたは0.24μmを有する微生物学的フィルターを通過させることによって簡便に滅菌することができる。
【0085】
本発明のさらなる態様は、ADHLSC−CMを分画化することによって得られる無細胞組成物(「ADHLSC−CM分画」)である、ADHLSC−CMに由来する生成物を提供する。
【0086】
したがって、ADHLSC−CMは生体活性の評価または任意の適切な適用に直接使用できるが、さらなる処理ステップ、例えば、分画化またはADHLSCによりADHLSC−CM内に分泌されるすべて(または一部)の生体分子を含有する無細胞組成物が、特に任意の適切なタンパク質分離技術を使用して得られるように組み合わせることができる任意の他の適切な処理ステップに従って、無細胞組成物を得るために使用できる。
【0087】
ADHLSC−CMの分画化は、膜を通過する成分と、保持される成分との区別のためにろ過により実施することができる。膜の特色および所望の組成および/または使用に依存して、目的の分画はどちらか一方である。例えば、細孔径0.4μm、0.2μmまたはそれ以下を有する膜を使用して、膜を通過する分画は、可溶性タンパク質およびより小さい微小胞が濃縮され、一方、より大きい微小胞は膜に保持される。これらの2つの分画は、試験可能なADHLSC−CMに由来する異なる無細胞組成物を表すことができ、その後異なる用途に使用される。
【0088】
ADHLSC−CMを分画化する他の手段は、(ADHLSC−CMの特定の成分を除去するための)ADHLSC−CMの酵素的消化、(特に高速において、ADHLSC−CMの特に所望の成分または望ましくない成分をペレット化するための)遠心分離、(ヘパリンまたはADHLSC−CMの特に所望の成分もしくは望ましくない成分を保持する他の化合物を用いることによる)吸着および/または特定のサイズを有するマトリックスもしくはビーズ、疎水性および/またはリガンドに対するアフィニティーを使用する、クロマトグラフィーによる分離(イムノアフィニティークロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー、HPLC精製および疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む)を伴う。
【0089】
ADHLSC−CMおよびADHLSC−CM分画は、可溶性タンパク質を微小胞と一緒に、または微小胞なしで含む。このような可溶性タンパク質は、タンパク質とこれらの無水物との間の比が変動し得る特定の組み合わせを形成する。しかし、一連の成長因子およびサイトカインが、単独または好ましくはこれらの一部もしくはすべてを含む組み合わせで特に濃縮されたADHLSC−CMは、ADHLSC−CMの基本組成および少なくとも部分的に主要な生体活性の定義に寄与する。これらの可溶性タンパク質は、肝細胞成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、エオタキシン(CCL11)、インターロイキン−6(IL−6)およびインターロイキン−8(IL−8)である。これら各々、いくつかまたはすべては、少なくとも1ng/mlの濃度で存在する。同様に(しかしより低い濃度で)存在し得るさらなる可溶性タンパク質は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP−2およびMMP−1など)、成長因子(GM−CSFまたはPDGF−bb)、ケモカイン(RANTESまたはMIP−1aなど)およびサイトカイン(IFN−ガンマ、TNF−アルファ、IL−10またはインターロイキンの群に属する他のタンパク質)ならびにタンパク質のアフィニティー、活性またはサイズ(例えば、3kDa、10kDa、20kDaまたは50kDa以下)によりADHLSC−CMを分離または分析することによって同定できる他の物質から選択される。ADHLSC−CM分画内のこのような可溶性タンパク質の実際の濃度に依存して、ADHLSC−CM分画はその結果としてこのようなタンパク質のいずれかの精製に使用できる。
【0090】
ADHLSC−CM中に存在し、その生物学的および機能的特色の1つまたは複数を特徴付ける可溶性タンパク質の同定は、文献(Eichelbaum K et al. 2012; Mukherjee P and Mani S, 2013)に記載の一般的トランスクリプトームおよびプロテオームと並行して、細胞型または細胞集団のセレクトームを決定するために一般的に適用される技術を使用して実施することができる。特にADHLSC−CMにより提示されるADHLSCセレクトームの組成および活性に対する主要な発見は、肝臓を対象とする再生医療の治療のための他の型の細胞セレクトームに関する文献(Wu X and Tao R, 2012; Khuu D et al., 2012; Puglisi M et al. 2011)に示されるように、肝臓の活性と併せて決定することができる。(少なくともin vitroで)示されているこのようなセレクトームの肝臓関連の活性のいくつかとしては、肝臓腫瘍細胞の侵襲性の減少(Li G et al., 2010;Cavallari C et al., 2013;Qiao L et al., 2008;WO2011070001)、炎症性血清刺激に対する応答性の(Yagi H et al, 2009)または線維化活性に関連する上皮から間葉への移行の遮断(Ueno T et al., 2013)が挙げられる。
【0091】
ADHLSC−CMおよびADHLSC−CMを分画化することによって得られる無細胞組成物がさらに微小胞(またはそれだけ)を含有する場合、これらは、これらのサイズ(1、0.8、0.4または0.2μm以下)、分子量(100kDa以上、300kDa、500kDaまたは1000kDa以上)、および/または組成(タンパク質、脂質または核酸に関して)により、ろ過、(超)遠心分離(例えば、約20,000から300,000gの間、好ましくは約80,000から200,000gの間を含むGの力において)またはクロマトグラフィーなどの技術を使用して特徴付けおよび必要に応じて選択することができる。
【0092】
「分画」という用語は、本明細書において使用する場合、混合物(例えば、固体、液体、溶質または懸濁液)が、組成が変化する2以上のより小さい量(「分画」)に分配、すなわち分離される分離工程の結果を広範囲に表すことを目標としている。したがって、分画の組成は、分画化に供された混合物の組成と比較して改変され、すなわち異なる。
【0093】
ADHLSCの馴化培地の「活性」分画(「ADHLSC−CM分画」)、すなわち、ADHLSCの馴化培地の所望の(1つまたは複数の)活性を少なくとも部分的に保持する分画が、本明細書において特に意図される。例えば、ADHLSC−CMの活性分画は、いくつかの、例えば1つまたは複数であるがすべてではないADHLSC−CMの活性を保持することができる。別の例において、ADHLSC−CMの活性分画は、ADHLSC−CMのすべての活性を、ADHLSC−CMより低い程度に保持することができる。さらに別の例において、ADHLSC−CMの活性分画は、ADHLSC−CMのすべての活性をADHLSC−CMと同じ程度に保持することができる。ADHLSC−CM分画中の所与の(1つまたは複数の)活性の保持は、適切なin vitroまたはin vivoアッセイにより容易に評価することができる。
【0094】
本明細書において意図されるように、ADHLSC−CMの「分画」は、好ましくは複数の成分を未だ含有できる。例えば、ADHLSC−CMの「分画」は、好ましくは複数の、限定されない例としては、少なくとも約5または少なくとも約10または少なくとも約20または少なくとも約30または少なくとも約40または少なくとも約50または少なくとも約100またはそれ以上の異なる可溶性タンパク質を含有できる。
【0095】
さらなる説明としては、任意の公知の分画化方法を使用して、ADHLSC−CMを分画化することができる。例えば、タンパク質の構成要素は、標準的方法、例えば膜構造および大型核酸を除去するための遠心分離および超遠心分離ならびに核酸を除去するためのヌクレアーゼ(DNAse、RNAse)処理を使用して、タンパク質分画としてADHLSC−CMから分離することができる。ADHLSC−CMのタンパク質構成要素が富化された、または主にこれらを含む(例えば、本質的にこれらからなる、または均一にこれらからなる)分画を、それによって得ることができる。このようなタンパク質分画は、(1)電荷(例えば、pH段階的ゲルまたはイオン交換カラムを使用する等電点に基づく分画化)、(2)サイズまたは分子量(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーまたはゲル電気泳動を使用する分画化)、(3)極性/疎水性(例えば、高速液体クロマトグラフィーまたは逆相クロマトグラフィーを使用する分画化)、(4)基材に対するアフィニティー(例えば、イムノアフィニティークロマトグラフィーを使用する分画化)または(5)ヘパリン硫酸結合(例えば、ヘパリンカラムを使用する分画化)の任意の1つまたは複数に基づき、2以上のタンパク質の亜分画にさらに分画化することができる。本明細書において意図されるように、ADHLSC分泌タンパク質の分画は、好ましくは複数の成分、例えば複数の分泌タンパク質を未だ含有できる。
【0096】
このような分画化は、したがって、当分野において公知の1つまたは複数の技術、例えば、ろ過、酵素的消化、遠心分離、吸着および/またはクロマトグラフィーによる分離をADHLSC−CMに適用するステップを含んでよい。
【0097】
したがって、ADHLSCの馴化培地の単離された分画がさらに提供され、前記分画は、馴化培地の組成とは異なる組成を有する。関連する態様は、ADHLSCの馴化培地の分画を作製する方法であって、分画を馴化培地から単離するステップを含む方法を提供する。
【0098】
特定の成分に関する「単離された」という用語は、概してこのような成分がその天然環境の1つまたは複数の他の成分から分離されて存在する、例えば、分離されているまたは分離されて調製および/または維持されることを表す。本明細書において使用する場合、「単離された」という用語は、好ましくは修飾語句「精製された」もまた包含し得る。例としては、物質に関する「精製された」という用語は、絶対的な純度を必要としない。その代わりに、「精製された」という用語は、このような物質が、他の関連する物質と比較したその存在度(質量または重量または濃度に関して簡便に表される)が、精製に供された材料中より多い個別の環境にあることを表す。個別の環境は、単一の培地、例えば、単一の溶液、ゲル、沈殿、凍結乾燥物を表す。
【0099】
例えば、微小胞は、標準的方法を使用して微小胞分画としてADHLSC−CMから分離することができる。細胞由来微小胞(MV)は、起源とする細胞の特徴的な抗原を発現する細胞により放出される小型のビヒクルであり、膜および細胞質構成成分を持ち、細胞情報伝達の新しい機序として記載されている。MVは、組織の再生および修復に寄与することができる。MVは、通常球状の形態であり、50nmから5μm、より典型的には0.2から1μmの間の範囲内の直径を有する。粒子が球状の形態でない場合、上述の値は、粒子の最も大きい寸法を指す。微小胞は、細胞の細胞膜を直接起源とするほぼすべての細胞型から放出され、起源である細胞の抗原性内容物を反映する。微小胞は、細胞間の細胞内情報伝達において、遠位部位であっても役割を果たすことができ、mRNA、miRNAおよびこれらと相互作用する細胞に対して、例えば免疫調製または増殖などに対してさまざまな効果を有し得るタンパク質を輸送することができる。MV分画を単離する方法としては、超遠心分離、例えば100,000gにおける1時間、4℃のADHLSC−CMの超遠心分離(の反復)および適切な培地またはバッファーへのペレットの再懸濁が挙げられる。CMのMVが富化された、または主にこれを含む(例えば本質的にこれからなる、または均一にこれからなる)ADHLSC−CM分画が、この方法によって得られる。
【0100】
混合分泌タンパク質の組成とは異なる組成を有する、前記混合分泌タンパク質の単離ADHLSC−CM分画が、本明細書においてさらに提供される。「混合分泌タンパク質」という用語は、ADHLSC−CM中に見出されるADHLSCのタンパク質生成物のコレクションまたは複数の該タンパク質生成物を簡便に指すように本明細書において費消される。
【0101】
「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合により連結されたアミノ酸残基の単鎖で構成された化合物を指す。「タンパク質」という用語は、本明細書において使用する場合、「ペプチド」および「ポリペプチド」と同義であるか(すなわち、後者の2つの用語は、「タンパク質」という用語の範囲内である)、または、加えて、1つまたは複数の同一または他のポリペプチドと複合体化されたポリペプチド(ペプチド結合により連結されたアミノ酸残基の単鎖で構成された化合物)を指してもよい。この複合体は、非共有結合相互作用および/または共有結合、例えばジスルフィド結合により、構成成分のポリペプチドの間で保持されている。加えて、「タンパク質」という用語は、ペプチド、ポリペプチドまたは1つまたは複数のアミノ酸残基が、限定するものではないが、グルコシル化、リン酸化、分子内もしくは分子間ジスルフィド結合などを含む翻訳後修飾により改変されたタンパク質を指すことができる。
【0102】
「混合分泌タンパク質」という語句は、タンパク質のコレクションが、細胞の分泌機構により分泌されたものに限定されることを指示するものであると理解すべきではない。その代わりに、この語句は、培地に進入した任意の細胞タンパク質に及ぶことが意図される。しかし、細胞の分泌機構により分泌されたタンパク質は、優勢で好ましいメンバーのコレクションを構成し得る。
【0103】
ADHLSCにより産生された単離混合微小胞の調製物は、初期のADHLSC−CMの組成とは異なる組成を有するADHLSC−CM分画を表す。「混合微小胞」という用語は、ADHLSCにより産生される、ADHLSC−CM中に見出される、および好ましくはADHLSC−CM分画として単離される、微小胞のコレクションまたは複数の微小胞を簡便に指すように、本明細書において使用される。
【0104】
特定の実施形態において、ADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画は、馴化に使用された細胞から直接分離された培地と比較して、またはADHLSC−CMを分画化することによって得られる無細胞組成物と比較して、濃縮され得る。例えば、この生成物は、少なくとも約5倍または少なくとも約10倍または少なくとも約15倍または少なくとも約20倍または少なくとも約25倍または少なくとも約50倍または少なくとも約100倍に濃縮され得る。任意の適切な技術、例えば、限定するものではないが、限外ろ過、蒸発、透析、凍結乾燥などが、過剰な液体成分を排除するため、およびADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画を濃縮するために採用可能である。例えば、液体生成物は、非常に小さい細孔径および/または重量カットオフを有する膜を用いる、遠心分離のための限外ろ過ユニットを使用して濃縮することができる。液体生成物のタンパク質および他の可溶性成分は、3kDの分子量カットオフを有する限外ろ過ユニット(Amicon Ultra−PL 3、Millipore、Bedford、MA、USA)を使用することより濃縮することができる。限外ろ過により濃縮された液体生成物は、フィルターを通過しないその成分により、そのタンパク質および一般生体活性の大部分を保持する。さもなければ、より大きなカットオフおよび/または予備的な分画遠心分離ステップを使用することにより、濃縮を、(例えば、より小さい分子サイズおよび重量の成分を除去することにより)ADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画のさらなる分画化に結び付けることができる。
【0105】
特定の実施形態において、ADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画は、馴化に使用された細胞から直接分離された培地と比較して、またはADHLSC−CMを分画化することによって得られる無細胞組成物と比較して、希釈され得る。例えば、この生成物は、少なくとも約5倍または少なくとも約10倍または少なくとも約15倍または少なくとも約20倍または少なくとも約25倍に希釈され得る。例としては、生成物は、約50倍以下、例えば約40倍以下または約30倍以下に希釈され得る。したがって、例としては、生成物は約5倍から約50倍の間、約10倍から約40倍の間または約20倍から約30倍の間、例えば約25倍に希釈され得る。液体生成物は、この液体生成物を水性溶媒、例えば、蒸留水、生理溶液(0.90%w/vのNaCl)、培地、バッファーなどと混合することによって適切に希釈することができる。液体生成物のすでに凍結乾燥された、またはさもなければ(冷凍)保存調製物の希釈または再構成は、必要量の非馴化培地または任意の適切な無細胞溶液、例えばバッファー(例えばPBS)またはさらなる使用(例えば患者における投与)と適合性である他の生理溶液を加えることによって実施できる。
【0106】
したがって、分画化の前、その間またはその後の任意の時点において、ADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画内の所望の濃度の可溶性タンパク質および/または微小胞は、前記調製物を少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍または任意の適切な中間様式(例えば少なくとも約3倍、7倍、15倍、25倍、30倍または75倍)に適切に濃縮(または希釈)することによって得ることができる。必要に応じて、濃縮および希釈ステップは、さらなる使用のための適切な活性、体積および/または組成を提示するADHLSC−CM由来生成物を得るために改変されてよい。
【0107】
治療使用に適切な前述の生成物のいずれか、特にADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または他の生成物とのこれらの組み合わせのいずれかがさらに提供される。したがって、一態様は、医薬としての使用のための、ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画またはこのような生成物とADHLSCまたは治療活性を得るために投与可能な他の細胞調製物の組み合わせを含む、本明細書に開示の任意の他の適切な生成物(の組み合わせ)を提供する。ADHLSC−CMに由来する生成物の有用な作用、例えばこれらの栄養性、免疫調節性および/または抗線維化作用の多様性を考えると、これらの生成物は、さまざまな医療適用において有利性を提供することができ、この医療適用の例は本明細書の別のところで示す。
【0108】
このようなADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画が、初めは他の外因性化合物を含まずに試験される場合、このような化合物の添加は、特定の濃度における治療効果の改善を有するために(相乗的でないとしても)適切であり得る。ADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画と組み合わせることができる、活性成分である外因性化合物のリストは、細胞(特に、肝臓起源および/または間葉特色を有する細胞、例えばADHLSCまたはex vivoまたはin vivo適用に適切な他の細胞)、タンパク質(例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ、成長因子、ケモカイン、サイトカイン、ホルモン、抗原または抗体)、栄養(例えば、糖またはビタミン)および/または最初はADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画中に存在せず、所与の兆候に関して医薬として有効であることが公知の化学物質(例えば、免疫調節、抗線維化、抗ウイルスまたは他の治療特性を有する薬物)が挙げられる。特定の動物モデルおよび臨床データの使用ならびに根底にある生体機序の理解は、追加の化合物がどのような濃度で、および最後にどのような投与方法または投与スケジュールで投与できるかの定義に寄与し得る。
【0109】
したがって、このような医学的、例えば予防的または治療的使用は、ADHLSC−CM、ADHLSC−CM分画、または本明細書に開示の他の適切な(1つまたは複数の)生成物(の組み合わせ)を、単独または適切に添加可能な1つまたは複数の外因性活性成分との組み合わせで使用することができる。
【0110】
ADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画は、医薬的有効量の任意のADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画を含む、医薬製剤として適切に製剤化することができる。
【0111】
したがって、さらなる態様は、医薬有効量の、ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)を含む医薬製剤を提供する。この医薬製剤は、医薬的有効量の1つまたは複数の外因性活性成分を、場合によりさらに含むことができ、外因性活性成分は、上述のタイプ、例えば、細胞、タンパク質、栄養および/または化学物質であってよい。
【0112】
医薬製剤は、1つまたは複数の医薬として許容される賦形剤を含んでよい。医薬製剤は、組成物または部品のキットとして簡便に製剤化することができる。
【0113】
医薬有効量のADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画を含む医薬製剤は、賦形剤および医薬組成物の正しい保存、安定性または投与を可能にする他の化合物を含有することができる。さらに、医薬有効量の1つまたは複数のさらなる外因性活性成分(細胞、タンパク質、栄養および/または化学物質)は、上記に簡単に定義された予備分析に従った医薬製剤で提供することができる。
【0114】
「医薬として許容される」という用語は、本明細書において使用する場合、当分野と一致し、医薬組成物の他の成分と適合性であり、これらのレシピエントに対して有害でないことを意味する。
【0115】
本明細書において使用する場合、「担体」または「賦形剤」は、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、バッファー(例えば中性緩衝食塩水またはリン酸緩衝食塩水など)、可溶化剤、コロイド、分散媒体、ビヒクル、増量剤、キレート化剤(例えば、EDTAまたはグルタチオンなど)、アミノ酸(例えばグリシンなど)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、着色剤、香味料、芳香剤、増粘剤、デポー効果を得るための薬剤、コーティング、抗真菌剤、防腐剤、酸化防止剤、毒性調節剤、吸収遅延剤などが挙げられる。このような媒体および薬剤の医薬活性物質としての使用は、当分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が活性物質と不適合性である場合を除いて、治療用組成物におけるその使用が企図される。
【0116】
医薬組成物の製剤化に使用するための例示的な限定されない担体としては、例えば、水中油または油中水エマルジョン、静脈内(IV)使用または他の場所への注射に適切な有機共溶媒を含むか、または含まない水性組成物、リポソームまたは界面活性剤含有ビヒクル、ミクロスフェア、マイクロビーズおよびミクロソーム、粉末、錠剤、カプセル、坐薬、水性懸濁液、エアロゾル、および当業者に明らかな他の担体が挙げられる。
【0117】
本明細書において意図される医薬組成物、特には、ADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画などは、本質的に任意の投与経路、限定するものではないが、例えば、経口投与(例えば経口摂取または吸入など)、鼻腔内投与(例えば、鼻腔内吸入または鼻腔粘膜内適用など)、非経口投与(例えば、皮下、静脈内、筋肉内、肝臓内、脾臓内、腹腔内または胸骨内の注射または注入など)、経皮または経粘膜(例えば、経口、舌下、鼻腔内)投与、局所投与、直腸、膣または気管内点滴注入などのために製剤化することができる。このようにして、本発明の方法および組成物により達成できる治療効果は、本発明の所与の適用の特定の必要性に依存して、例えば、全身、局所、組織特異的などであり得る。
【0118】
例えば、経口投与のために、医薬組成は、丸薬、錠剤、ラッカーかけ錠剤(lacquered tablets)、コーティング(例えば糖コーティング)錠、顆粒、硬および軟ゼラチンカプセル、水性、アルコール性または油性の溶液、シロップ、エマルジョンまたは懸濁液の形態で製剤化することができる。一実施形態において、限定するものではないが、経口剤形の調製物は、粉末形態の適切な量の活性化合物を、場合により細かく分配された1つまたは複数の固体担体も含めて均一によく一緒にブレンドすること、および1つまたは複数の丸薬、錠剤またはカプセル中にブレンドを製剤化することによって適切に達成することができる。例示的な限定されない固体担体としては、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖(例えば、グルコース、マンノース、ラクトースまたはスクロースなど)、糖アルコール(例えばマンニトールなど)、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス(low melting waxes)およびイオン交換樹脂が挙げられる。医薬組成物を含有する圧縮錠剤は、活性成分と上記のような固体担体とを均一によく混合して、必要な圧縮特性を有する混合物を提供すること、およびその後適切な機械において、混合物を所望の形状およびサイズに圧縮することによって、調製することができる。湿製錠剤は、適切な機械において、不活性な液体希釈剤で湿らせた粉末化化合物の混合物を鋳型成形することによって作製できる。軟ゼラチンカプセルおよび坐薬に適切な担体は、例えば、脂肪、ワックス、半固体および液体のポリオール、天然または硬化された油である。
【0119】
例えば、経口または経鼻のエアロゾルまたは吸入投与のために、医薬組成物は、例示的担体と、例えば、食塩水、ポリエチレングリコールまたはグリコール、DPPC、メチルセルロースとの溶液で、または粉末化された分散剤、ベンジルアルコールまたは他の適切な防腐剤、生体利用能を強化するための吸収促進剤、フルオロカーボンおよび/または当分野において公知の他の可溶化剤または分散剤との混合物で製剤化することができる。エアロゾルまたはスプレーの形態での投与に適切な医薬製剤は、例えば、本発明の化合物の溶液、懸濁液もしくはエマルジョンまたは医薬として許容される溶媒、例えばエタノールもしくは水またはこのような溶媒の混合物中の生理学的に許容できるこれらの塩である。必要に応じて、製剤は他の医薬補助剤、例えば、界面活性剤、乳化剤および安定剤ならびにスプレー用高圧ガスをさらに追加で含有することもできる。例示的には、送達は、単回使用の送達デバイス、ミストネブライザー、呼吸活性化粉末吸入器、エアロゾル定量噴霧式吸入器(MDI)または当分野において利用可能な任意の他の多数のネブライザー送達装置の使用により可能である。さらに、ミストテントまたは気管内チューブを介した直接投与もまた使用可能である。
【0120】
粘膜表面を介した投与のための担体の例は、特定の経路、例えば経口、舌下、鼻腔内などに依存する。経口投与の場合、実例としては、医薬グレードのマンニトール、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカライド(sodium saccharide)、セルロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられ、マンニトールが好ましい。鼻腔内投与の場合、実例としては、ポリエチレングリコール、リン脂質、グリコールおよび糖脂質、スクロースおよび/またはメチルセルロース、ラクトースなどの増量剤および、塩化ベンザルコニウム、EDTAなどの防腐剤を含むか、または含まない粉末懸濁液が挙げられる。特に例示的な実施形態において、リン脂質、1,2ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)が、約0.1から3.0mg/mlの濃度の本発明の化合物の鼻腔内投与のために、約0.01−0.2%で等張水性担体として使用される。
【0121】
例えば、非経口投与のために、医薬組成物は、適切な溶媒、希釈剤、可溶化剤または乳化剤などを含む溶液、懸濁液またはエマルジョンとして有利に製剤化することができる。適切な溶媒は、限定するものではないが、水、生理食塩水またはアルコール、例えばエタノール、プロパノール、グリセロール、さらに糖溶液、例えばグルコース、転化糖、スクロースまたはマンニトール溶液または上述のさまざまな溶媒の別の混合物である。注射可能な溶液または懸濁液は、適切な非毒性、非経口として許容される希釈剤または溶媒、例えばマンニトール、1,3−ブタンジオール、水、リンゲル液または等張塩化ナトリウム溶液、または適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤、例えば合成モノ−またはジグリセリドおよび脂肪酸を含む滅菌油、無刺激油、不揮発性油およびオレイン酸を含む脂肪酸を使用して、公知の技術に従って製剤化することができる。本発明の薬剤およびこれらの医薬として許容される塩は、凍結乾燥することができ、得られた凍結乾燥物は、例えば注射または注入用調製物の作製のために使用される。例えば、静脈内使用のための担体の1つの実例としては、10%USPエタノール、40% USPポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール600およびバランスとしてUSP注射用水(WFI)の混合物が挙げられる。静脈内使用のための他の例示的担体としては、10% USPエタノールおよびUSP WFI;USP WFI中0.01〜0.1% トリエタノールアミン;またはUSP WFI中0.01〜0.2% ジパルミトイルジホスファチジルコリン;および1〜10% スクアレンまたは非経口の水中植物油エマルジョンが挙げられる。皮下または筋肉内使用のための担体の実例としては、リン酸緩衝食塩水(PBS)溶液、WFI中5%デキストロースおよび5%デキストロース中0.01〜0.1%トリエタノールアミンまたはUSP WFI中0.9%塩化ナトリウム、または10%USPエタノール、40% ポリエチレングリコールおよび5% デキストロースもしくは0.9% 塩化ナトリウムなどのバランスとして許容される等張溶液の1から2もしくは1から4の混合物;またはUSP WFI中0.01〜0.2% ジパルミトイルジホスファチジルコリンおよび1から10%のスクアレンまたは水中非経口植物油エマルジョンが挙げられる。
【0122】
水性製剤が好ましい場合、該水性製剤は1つまたは複数の界面活性剤を含み得る。例えば、組成物は、少なくとも1つの適切な界面活性剤、例えばリン脂質界面活性剤を含むミセル分散液の形態であってよい。リン脂質の実例としては、ジアシルホスファチジルグリセロール、例えばジミリストイルホスファチジルグリセロール(DPMG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)およびジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジアシルホスファチジルコリン、例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DPMC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC);ジアシルホスファチジン酸、例えば、ジミリストイルホスファチジン酸(DPMA)、ジパルミトイル(dipahnitoyl)ホスファチジン酸(DPPA)およびジステアロイルホスファチジン酸(DSPA);ならびにジアシルホスファチジルエタノールアミン、例えば、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DPME)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)が挙げられる。通常、水性製剤中の界面活性剤:活性物質のモル比は約10:1から約1:10、より典型的には、約5:1から約1:5であるが、対象となる特定の目的に最も合うように任意の有効量の界面活性剤が水性製剤に使用できる。
【0123】
坐薬の形態で直腸投与される場合、これらの製剤は、本発明に従った化合物と、適切な非刺激性の賦形剤、例えばココアバター、合成グリセリドエステルまたはポリエチレングリコールとを混合することによって調製することができ、この非刺激性賦形剤は普通の温度において固体であるが、直腸腔において液化およびまたは溶解して、薬物を放出する。
【0124】
マクロカプセル、インプラントまたはロッドのための適切な担体は、例えば、コポリマーまたはグリコール酸および乳酸である。
【0125】
当業者は、上記の説明が例示であって、網羅的ではないことを認識するであろう。実際に、多くの追加の製剤技術および医薬として許容される賦形剤および担体溶液が、当業者に周知であり、本明細書に記載の特定の組成物をさまざまな治療レジメンに使用するための適切な投薬および治療レジメンの開発となる。
【0126】
投与されるべき1つまたは複数の他の活性化合物と場合により組み合わせて使用される本活性物質の投薬または量は、個別の事象に依存し、習慣的に、最適な効果を達成するために個別の状況に適合される。したがって、治療されるべき障害の性質および重症度、さらに治療されるヒトまたは動物の性別、年齢、体重、全体の健康、食餌、投与の様式および時間ならびに個別の応答性に依存し、使用する化合物の作用の投与経路または有効性、代謝安定性および期間に、療法が急性もしくは慢性もしくは予防的であるかどうか、または他の活性化合物が本発明の(1つまたは複数の)薬剤に加えて投与されるかどうかに依存する。
【0127】
限定するものではないが、疾患のタイプおよび重症度に依存して、本明細書に開示の生成物の典型的な毎日の投薬量は、約1μg/kgから1g/kg体重以上の範囲であり得、上述の因子に依存する。例えば、本明細書に開示の生成物の毎日の投薬量は、約1mg/kgから1g/kg体重の範囲であり得る。数日以上にわたる反復投与のために、条件に依存して、治療は疾患症状の所望の抑制が起こるまで持続される。したがって、約10.0mg/kg、20.0mg/kg、50.0mg/kg、100mg/kg、200mg/kg、300mg/kg、400mg/kgまたは500mg/kg体重の1つまたは複数の用量(またはこれらの任意の組み合わせ)を、患者に投与することができる。このような用量は、断続的に、例えば毎日、1日おき、毎週または2から3週間ごとに投与される。
【0128】
特定の実施形態において、活性成分が微小胞を含むか、またはこれからなる場合、医薬製剤は、約1から約500μg/kg、約10から約250μg/kgまたは約30から約120μg/kg体重の量で、微小胞の投与に適切な剤形であってよい。
【0129】
本明細書に開示の生成物は、単独または標的とされる病態の治療に有用な任意の他の活性成分と組み合わせて(「併用療法」)使用することができる。本明細書において企図される併用療法は、少なくとも1つの本発明の活性物質と、少なくとも1つの他の医薬的または生物学的活性成分との投与を含み得る。前記の本活性物質および前記の医薬的または生物学的活性成分は、同じまたは異なる医薬製剤のいずれかで、同時または任意の順番で連続的に投与することができる。
【0130】
本生成物および医薬組成物は、患者の治療に有用である。「対象」または「患者」という用語は同じ意味で使用され、動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくは霊長類および最も好ましくはヒト患者を指す。「哺乳動物」という用語は、限定するものではないが、ヒト、家庭内および農場の動物、動物園の動物、スポーツ用動物、ペットの動物、コンパニオン動物およびメウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ならびに霊長類など、例えばサルおよび類人猿に分類される任意の動物を含む。両方の性別およびこれらのすべての年齢カテゴリーを含むヒト対象が特に好ましい。非ヒト動物対象はさらに、動物の出生前の形態、例えば胚または胎児を含んでよい。ヒト対象は、さらに胎児を含むが、好ましくは胚ではない。
【0131】
本明細書において使用する場合、「治療を必要とする対象」などの語句は、所与の病態の治療から利益を受ける対象を含む。このような対象は、限定するものではないが、前記病態と診断された対象、前記病態を発症しやすい対象および/または前記病態が防止されるべき対象を含むことができる。
【0132】
「治療する」または「治療」という用語は、すでに発症した疾患または病態の治療的処置、例えば、すでに発症した増殖性疾患の療法と、望ましくない苦痛の出現の可能性の防止または低減、例えば増殖性疾患の発生、発症および進行の防止を目的とする予防的または防止的手段との両方を包含する。有益または望ましい臨床結果としては、限定するものではないが1つもしくは複数の症状または1つもしくは複数の生物学的マーカーの緩和、疾患範囲の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化させない)、疾患進行の遅延または緩慢化、疾患状態の改善または寛解などが挙げられる。「治療」は、治療を受けなかった場合に予想される生存と比較した生存の延長もまた意味することができる。
【0133】
「医薬有効量」という用語は、対象に薬効、例えば予防的または治療的利益を達成する活性化合物または医薬品の量を指す。したがって、「予防有効量」は研究者、獣医、医師または他の臨床医により探求される障害の発症を対象において阻害または遅延する活性化合物または医薬品の量を指す。「治療有効量」という用語は、本明細書において使用する場合、研究者、獣医、医師または他の臨床医により探求される生物学的または医学的応答を対象において引き出す活性化合物または医薬品の量を指し、この生物学的または医学的応答は治療される疾患または病態の症状の特に緩和を含み得る。本生成物の治療的および予防的有効用量を決定する方法は、当分野において公知である。
【0134】
ADHLSC−CMおよびADHLSC−CM分画は、複数の病理において貴重な治療効果を発揮することができる。特に、限定するものではないが、栄養作用(例えば、細胞の生存、増殖、成長および分化の制御)、生成物の免疫調節作用および/または抗線維化作用が優勢な役割を果たす。
【0135】
ADHLSC−CMまたはADHLSC−CM分画は、静脈内(例えば門脈内)、肝臓内、脾臓内または腹腔内に、他の医薬と同時または別々に、馴化培地を標的組織または臓器に送達するために操作可能なディスペンサーと一緒に、選択された無細胞組成物の供給源を含む送達系を使用して、投与することができる。この送達系は、流体処理コンパートメントおよび細胞培養コンパートメントならびに流体処理コンパートメントと細胞コンパートメントを分離する選択的透過性障壁(例えば、膜、限外ろ過カートリッジまたは中空繊維の束)を含み、細胞培養コンパートメントがADHLSCを含む、体外バイオリアクター(または任意の他の適切な装置)においてADHLSCを培養することを伴う。この系は、生物流体入口および生物流体出口をさらに含み、生物流体の入口および出口は、流体処理コンパートメントと対象の血流との間の流体連通を可能にする。
【0136】
ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)は、一連の障害、例えば線維化障害、肝臓障害、臓器の傷害もしくは不全または任意の他の障害または臓器もしくは組織内の病理学的崩壊、炎症、変性および/または増殖の治療に(予防または療法として)使用可能である。ADHLSC−CMまたはADHLSC−CMを分画化することによって得られる無細胞組成物は、対象に自己(同じ対象由来のADHLSCがADHLSC−CMの作製に使用された場合)であっても、または対象に同種異系(別の対象由来のADHLSCがADHLSC−CMの作製に使用された場合)であってもよい。
【0137】
さらに、ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)は、移植の前後または移植を実施する時に投与可能な補助治療として、臓器(特に肝臓)または細胞の移植(特にADHLSC、肝細胞または臓器および/または分化特異的MSCの移植)を支援するために使用可能である。
【0138】
ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)は、好ましくは臓器が肝臓である臓器傷害または臓器不全の治療に使用でき、または好ましくは肝臓を侵す線維組織の過剰な蓄積の治療に使用するため、または好ましくは肝臓を侵す増殖性疾患の治療に使用することができる。
【0139】
ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)は、肝臓障害、特に、肝臓細胞の病理学的崩壊、炎症、変性および/または増殖を伴う障害、例えば、肝臓線維化障害、肝不全または急性もしくは慢性肝不全、急性肝臓感染症、胆管炎、胆汁性肝硬変を防止または治療するためにも使用できる。肝臓線維化障害は、糖尿病、メタボリックシンドローム、ウイルス性肝炎、慢性持続性もしくは活動性肝炎、自己免疫肝炎、アルコール性肝臓疾患、脂肪性肝臓疾患、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、慢性肝不全の急性増悪(ACLF)、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、胆管閉鎖、先天的肝臓疾患、肝細胞がんまたは慢性または反復性アルコール摂取、感染症、肝臓移植または薬物誘導性肝臓損傷と同時に起こる肝線維症と関連する、またはこれにより引き起こされる可能性がある。
【0140】
ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)は、初回診断、リスク評価もしくは特定の疾患の進行が、生検分析により、または肝臓損傷、機能不全、線維化、改変もしくは壊死のいくつかのマーカーの血漿中レベルの上昇に基づき確立された後に投与することができる。肝臓の活動および状態に関連するこれらの生化学マーカーは、文献に開示されたマーカー、特にアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(Aspartate aminotransfersase)(ASAT)、アルカリホスファターゼ(AP)、ガンマグルタルトランスペプチダーゼ(GGT)、サイトケラチン−18(CK−18)またはレジスチンから選択できる。特定の実施形態において肝臓障害は、肝臓生検により確認することができるこれらのマーカーの1つまたは複数の上昇が、多かれ少なかれ肝臓の脂肪症に有意に関連している脂肪性肝臓疾患である。
【0141】
ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)は、線維化障害の予防または治療に使用でき、該線維化障害は、限定するものではないが、肝臓線維化障害、肺線維症、腎臓線維症、前立腺線維症、乳房線維症、心筋線維症および線維症の特異的マーカーの上昇に関与する他の障害を含み、該マーカーは、線維化疾患の存在と相関し得る、任意の生化学的、血清学的マーカーまたは任意の他の臨床的もしくは超音波検査的特徴である。生化学的または血清学的マーカーの例としては、これもまた限定するものではないが、細胞外マトリックス成分(ラミニン、テネイシン、フィブロネクチン、特定のタイプのコラーゲンなど)が挙げられる。
【0142】
本明細書において意図される臓器不全は、肝不全、例えば慢性肝不全および急性肝不全を包含し得る。限定されない例としては、肝不全は、肝臓の大部分が損傷され、肝臓がその正常な生理学的機能を実施できない場合に起こる。いくつかの態様において、肝不全は、肝臓機能の任意のアッセイを使用して診断することができる。いくつかの実施形態において、肝不全は、対象の症状に基づき診断(例えば初回診断)することができる。肝不全に伴う症状としては、例えば、下記の吐き気、食欲不振、倦怠感、下痢、黄疸、異常/過剰な出血(例えば凝固障害)、腹部膨満、精神の失見当識または混乱(例えば、肝性脳症)、眠気および昏睡の1つまたは複数が挙げられる。慢性肝不全は、数か月から数年にわたって起こり、最も一般的にはウイルス(例えば、HBVおよびHCV)、長期/過剰なアルコール消費、肝硬変、ヘモクロマトーシスおよび栄養不良によって引き起こされる。
【0143】
急性肝不全は、肝臓疾患の最初の兆候(例えば黄疸)の後の重症な合併症の出現である。急性肝不全は、多数の病態を含み、そのすべては重症な幹細胞の損傷または壊死を伴う。急性肝不全の大部分の症例において、肝細胞の大量壊死が起こるが、壊死を伴わない肝細胞不全は、妊娠およびライ症候群の脂肪肝の特徴である。肝臓疾患の設定において精神状態の変化(肝性脳症)および凝固障害は、概して急性肝不全と定義される。結論として、急性肝不全は、以前に肝硬変を有さず、病気の継続期間が26週間未満である患者における凝固障害、普通、国際標準化比(INRの平均値と比較した、血液が凝固するまでにかかる時間の量)が1.5超およびどのような程度でも精神状態の変化(脳症)の発症として臨床的に定義される。急性肝不全(または慢性肝不全の急性増悪)は、肝臓が、肝臓細胞の80〜90%の機能不全をもたらす重要な損傷を持続していることを示す。
【0144】
急性肝不全は、肝臓が急速に機能しなくなる場合に起こる。超急性肝不全は、1週間以内の肝臓の不全として特徴付けられる。急性肝不全は8〜28日以内の肝臓の不全として特徴付けられる。亜急性肝不全は、4〜12日以内の肝臓の不全として特徴付けられる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物および方法は、超急性、急性および亜急性の肝不全の治療に特に適切であり、これらはすべて、本明細書において「急性肝不全」と称される。急性肝不全の一般的原因としては、例えば、ウイルス性肝炎、特定の薬物および毒素(例えば、フッ素化炭化水素(例えば、トリクロロエチレンおよびテトラクロロエタン)への曝露、タマゴテングダケ(amanita phalloides)(例えば、「シロタマゴテングダケ」に一般的に見出される)、アセトアミノフェン(パラセタモール)、ハロセン、スルホンアミド、フェニトイン(henytoins))、心臓関連の肝虚血(例えば、心筋梗塞、心臓停止、心筋症および肺塞栓)、腎不全、肝静脈流出の閉塞(例えば、バッド・キアリ症候群)、ウイルソン病、妊娠による急性脂肪肝、アメーバ性膿瘍および播種性結核が挙げられる。
【0145】
急性肝不全は、劇症肝不全(FHF)および亜劇症肝不全(または遅発性肝不全)の両方を包含する。FHFは概して、以前は健康な肝臓を有した患者において症状の発症の8週以内に脳症が発生することを説明するために使用される。亜劇症肝不全は、肝性脳症の発症の前に26週まで間の肝疾患を有する患者に保留される。
【0146】
FHFは普通、既存の肝臓疾患の不在下の肝機能の重症な機能障害として定義される。FHFは、重篤な肝臓損傷を生み出し得る薬剤への感受性個体の曝露からもたらされることがある。このような薬剤の例としては、感染因子、過剰なアルコール、肝臓毒性代謝産物および肝臓毒性化合物(例えば薬物)が挙げられる。他の原因としては、先天性異常、自己免疫疾患および代謝性疾患が挙げられる。多くの症例において、病態の正確な病因は未知である(例えば突発性疾患)。FHFは、例えば、上記の肝臓機能アッセイを使用して診断することができる。
【0147】
別の例としては、概して多臓器不全が、局所および全身性炎症応答に関連する実質細胞喪失として定義される。より詳細には、臓器不全は、医療介入を必要とする体内の基本系の不全である。多臓器機能障害症候群(MODS)は、恒常性機能を実施するための医療介入を必要とする急性の病気の患者における臓器機能の変化である。MODSは普通、1以上の機能に関係する。
【0148】
MODSは通常、感染症、損傷(自己、外科手術)、低潅流および代謝亢進からもたらされる。初期事象の後で、調節不能な炎症応答が続き、これが組織損傷を引き起こし、局所および全身応答を誘発する。呼吸不全は最初の72時間が一般的であり、元々の損傷の後で、肝不全は最初の5−7日が一般的であり、胃腸の出血が10−15日に起こり、腎不全は11−17日が一般的である。MODSによる死亡率は、30%から100%までで変動する。確率されたMODSを逆行させるために利用可能な有効な治療レジメンは現在のところ存在しない。
【0149】
限定されない例としては、肝臓線維症は、慢性肝臓疾患の大部分のタイプに出現するコラーゲンを含む細胞外マトリックスタンパク質の過剰な蓄積である。進行した肝臓線維症は肝硬変、肝不全および門脈高血圧症をもたらし、多くの場合、肝臓移植を必要とする。肝臓線維症の病因の鍵となる事象は、不適切または過剰な肝臓星細胞活性化である。
【0150】
「肝臓疾患」という用語は、肝臓を不適切に機能させるか、または機能を停止させる多くの疾患および障害に適用され、肝臓機能のこの喪失は、肝臓疾患を示している。したがって、肝臓機能のアッセイは、肝臓疾患を診断するために頻繁に使用される。このようなアッセイの例としては、限定するものではないが以下のものが挙げられる:
(1)血清酵素、例えば乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、アルカリホスファターゼ(ALP)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血清レベルを決定するための、酵素レベルの上昇が肝臓疾患を示すアッセイ。当業者は、これらの酵素アッセイは肝臓が損傷されていることだけを示すことを合理的に理解するであろう。これらは肝臓機能の能力を評価しない。他の試験は、肝臓機能の能力を評価するために使用可能である。
(2)血清のビリルビンレベルを決定するためのアッセイ。血清ビリルビンレベルは、ビリルビンと直接ビリルビンとの合計として報告される。合計血清ビリルビンの正常値は0.1−1.0mg/dL(例えば、約2−18mmol/L)である。直接ビリルビンの正常値は0.0−0.2mg/dL(0−4mmol/L)である。血清ビリルビンの上昇は肝臓疾患を示す。
(3)血清タンパク質レベル、例えばアルブミンおよびグロブリン(例えば、アルファ、ベータ、ガンマ)を決定するためのアッセイ。合計血清タンパク質の正常値は6.0−8.0g/dl(60−80g/L)である。血清アルブミンの低下は肝臓疾患を示す。グロブリンの上昇は肝臓疾患を示す。
【0151】
他の試験としては、プロトロンビン時間、国際標準化比、活性化全血凝固時間(activated clotting time)(ACT)、部分トロンボプラスチン時間(PTT)、プロトロンビン消費時間(PCT)、フィブリノーゲン、凝固因子;アルファ−フェトプロテインおよびアルファ−フェトプロテイン−L3(パーセント)が挙げられる。
【0152】
別の態様において、ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画もしくはこれらを含む医薬製剤またはこれらの組み合わせは、増殖性疾患の治療に使用することができる。
【0153】
「増殖性の疾患または障害」という用語は、概して、良性、前悪性または悪性のいずれであろうと、新生細胞の成長および増殖を特徴とする任意の疾患または障害を指す。増殖性疾患という用語は、概して、すべての形質転換された細胞および組織ならびにすべてのがん性の細胞および組織を含む。増殖性の疾患および障害としては、限定するものではないが、異常な細胞成長、良性腫瘍、前悪性もしくは前がん性病巣、悪性腫瘍およびがんが挙げられる。
【0154】
増殖性の疾患および/または障害の例は、任意の組織または臓器、例えば前立腺、結腸、腹部、骨、乳房、消化系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、精巣、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭部および頸部、神経(中枢および末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部または尿生殖路に位置する良性、前悪性および悪性の新生物である。好ましくは侵される臓器は肝臓である。
【0155】
本発明の態様が及ぶさらなる主題は、線維形成および線維症のin vivoにおける阻害に使用するための、ADHLSC(または他の適切なタイプの細胞、例えば、初代肝細胞または肝臓もしくは他の起源の適切な幹細胞または前駆細胞)、ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)のいずれか1つまたは2以上の組み合わせ、または本明細書に開示の医薬製剤を含む。
【0156】
線維形成および線維症のin vivoにおける阻害は、線維化疾患の治療に有利に採用可能であり、線維化疾患は、線維組織が過剰に蓄積して実質細胞が損傷することにより、したがって実質細胞の喪失による機能の低下により一般的に象徴化される。
【0157】
線維形成をin vitroにおいて阻害するための、ADHLSC、ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CM分画または本明細書に開示の他の適切な生成物(の組み合わせ)のいずれか1つもしくは2以上の組み合わせまたは本明細書に開示の医薬組成物の、使用がさらに提供される。さらに、in vitroにおいて線維形成を阻害する、対応する方法もまた提供される。
【0158】
生体生成物のこのような組み合わせは、HSCを使用する培養系において、参照として実施例に記載のようなADHLSC系共培養系、例えば、細胞の交換を防止するが、大部分の細胞外成分が通過可能な半透過膜により細胞が分離される、Transwell(登録商標)系における共培養を使用して試験することができる。実験の項において示すように、本発明者らは、0.4μmの細孔のPTFE膜の挿入によりADHLSCがHSCから分離される共培養系において、ADHLSCがHSCに対して望ましい効果を発揮したことを実証した。このことは、少なくともこのような組み合わせ製品が、細孔径0.4μmを有するフィルターを通過させることにより、特に0.4μmより小さい微小胞を含有するADHLSC−CM分画を得、HSCに対して効果を発揮するADHLSCの分泌生成物を比較可能にするやり方を例示している。
【0159】
「肝臓星細胞」または「HSC」という用語は、当分野において十分理解されている。さらなるガイダンスとしては、これらの用語は、肝臓小循環単位内のディッセ腔に留まる非実質肝臓細胞を表し、これらの細胞内ビタミンA由来の自己蛍光により、生体内蛍光顕微鏡法(IVFM)を使用して識別することができる。
【0160】
HSCおよびADHLSC、ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CMを分画化することによって得られる無細胞組成物または本明細書に開示の他の適切な生成物のいずれか1つまたは2以上の組み合わせを含む医薬製剤がさらに提供される。この医薬製剤は、肝細胞、例えば初代肝細胞または適切な前駆細胞、例えばMSCまたはADHLSCからin vitroで分化された肝細胞をさらに含み得る。
【0161】
肝細胞と、ADHLSC、ADHLSC−CMもしくはADHLSC−CMを分画化することによって得られる無細胞組成物または本明細書に開示の他の適切な生成物のいずれか1つまたは2以上の組み合わせを含む医薬製剤がさらに提供される。
【0162】
これらの医薬製剤は、上で詳細に説明したように適切に製剤化することができる。肝臓細胞を含む医薬製剤の組成物は特定の必要条件を課すことができ、例えばこの組成物は、望ましいpH、より普通にはほぼ中性のpHを得るために適切なバッファー系(例えば、リン酸または炭酸のバッファー系)を含むことができ、細胞に対す等浸透圧条件を確実にして浸透圧を防止するために十分な塩を含んでよい。例えば、これらの目的に適切な溶液は、当分野において公知のように、リン酸緩衝食塩水(PBS)、塩化ナトリウム溶液、リンゲル液、乳酸加リンゲル液であり得る。さらに、組成物は、担体タンパク質、例えばアルブミンを含んでよく、これらは細胞の生存能力を増加することができる。このような必要条件は、当業者には十分理解されている。
【0163】
本明細書を通して製剤化される医薬製剤が細胞、限定するものではないが、例えば肝細胞もしくはADHLSCまたは肝臓(または他の)起源の他の幹細胞もしくは前駆細胞を含む場合、細胞は、約1×10
5から1×10
12細胞の範囲の用量、例えば、好ましくは約1×10
6から1×10
10細胞の用量、または約1×10
7から約1×10
9細胞の用量、例えば約1×10
7、約1×10
8または約1×10
9細胞でヒト対象に投与することができる。しかし、治療有効用量の正確な決定は、各患者のサイズ、年齢、組織損傷のサイズおよび損傷が起こってからの時間の量を含む各患者に個別の因子に基づき、本開示および当分野における教示から当業者には容易確認できる。
【0164】
このような医薬製剤は、本明細書の他の場所で述べられた疾患、より詳細には肝臓疾患の治療に特に有用であり得る。より詳細には、細胞を含む医薬製剤は、肝臓への移植を意図することができる。
【0165】
さらに、ADHLSC−CMは、肝臓疾患の治療のための生体活性化合物を同定する方法に使用でき、該方法は、
(a)ADHLSC−CMの1つまたは複数の分画を得るステップ、
(b)肝臓に見出される1つまたは複数の細胞(肝細胞、肝臓星細胞、肝臓筋線維芽細胞または肝臓類洞細胞など)の1つまたは複数の生体活性(代謝、増殖、生存、活性化、アポトーシス、遊走、生着または分化など)を、in vivo、in vitro、および/またはex vivoで増加または低下させる該分画の1つまたは複数の能力をアッセイするステップ、
(c)1つの、またはこのような活性を増加または低下させるADHLSC−CMの分画を選択するステップ、ならびに
(d)選択された分画に存在する1つまたは複数の分子を同定するステップ、
を含む。
【0166】
次の各項は、本開示に従って開示された特定の態様および実施形態のさらなる例示を提供する:
1.成体由来ヒト肝臓幹/前駆細胞(ADHLSC)を細胞培養培地において培養し、細胞培養培地を細胞から分離することにより得ることができる無細胞馴化培地。
2.培地が無血清である、条項1に記載の無細胞馴化培地。
3.条項1または2に記載の無細胞馴化培地を分画化することによって得ることができる無細胞組成物。
4.前記分画化が、無細胞馴化培地のろ過、酵素的消化、遠心分離、吸着および/またはクロマトグラフィーによる分離を含む、条項3に記載の無細胞組成物。
5.可溶性タンパク質および/または微小胞を含有する、条項1または2に記載の無細胞馴化培地または条項3または4に記載の無細胞組成物。
6.(a)肝細胞成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、エオタキシン(CCL11)、インターロイキン−6(IL−6)およびインターロイキン−8(IL−8)からなる群から選択される可溶性タンパク質の少なくとも1つ、および場合により
(b)マトリックスメタロプロテアーゼ、成長因子、ケモカインおよびサイトカインからなる群から選択される可溶性タンパク質の少なくとも1つ、
を含む、条項1、2もしくは5のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地または条項3から5のいずれか一項に記載の無細胞組成物。
7.可溶性タンパク質が少なくとも1ng/mlの濃度で存在する、条項5または6に記載の無細胞馴化培地または条項3から6に記載の無細胞組成物。
8.前記微小胞が、それらのサイズ、分子量、および/または組成に従って選択される、条項1、2もしくは5から7のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地または条項3から7のいずれか一項に記載の無細胞組成物。
9.少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍または少なくとも約100倍に濃縮された、条項1、2もしくは5から8のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地または条項3から8のいずれか一項に記載の無細胞組成物。
10.少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍または少なくとも約100倍に希釈された、条項1、2もしくは5から8のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地または条項3から8のいずれか一項に記載の無細胞組成物。
11.無細胞馴化培地を作製する方法であって、ADHLSCを細胞培養培地において培養するステップ、および細胞培養培地をADHLSCから分離するステップを含む、方法。
12.(a)細胞培養培地が無血清培地であり、かつ/または
(b)ADHLSCを細胞培養培地において少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間もしくは少なくとも24時間培養した後で、細胞培養培地がADHLSCから分離される、条項11に記載の無細胞馴化培地を作製する方法。
13.医薬としての使用のための、条項1、2、もしくは5から10のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地または条項3から10のいずれかに記載の無細胞組成物。
14.1つまたは複数の外因性活性成分と組み合わせた医薬としての使用のための、条項1、2もしくは5から10のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地または条項3から10のいずれかに記載の無細胞組成物。
15.医薬有効量の、条項1、2もしくは5から10のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地または条項3から10のいずれかに記載の無細胞組成物のいずれか1つを含む医薬製剤。
16.医薬有効量の、条項1、2もしくは5から10のいずれかに一項に記載の無細胞馴化培地および/または条項3から10のいずれかに記載の無細胞組成物のいずれか1つと、1つまたは複数の外因性活性成分との組み合わせを含む医薬製剤。
17.線維化障害の治療における使用のための、条項1、2もしくは5から10のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地、条項3から10のいずれか一項に記載の無細胞組成物または条項15もしくは16のいずれか一項に記載の医薬製剤またはこれらの2以上の組み合わせ。
18.肝臓障害の治療における使用のための、条項1、2もしくは5から10のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地、条項3から10のいずれか一項に記載の無細胞組成物または条項15もしくは16のいずれか一項に記載の医薬製剤またはこれらの2以上の組み合わせ。
19.臓器の傷害もしくは不全の治療における使用のための、条項1、2もしくは5から10のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地、条項3から10のいずれか一項に記載の無細胞組成物または条項15もしくは16のいずれか一項に記載の医薬製剤またはこれらの2以上の組み合わせ。
20.臓器もしくは細胞の移植における使用のための、条項1、2もしくは5から10のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地、条項3から10のいずれか一項に記載の無細胞組成物または条項15もしくは16のいずれか一項に記載の医薬製剤またはこれらの2以上の組み合わせ。
21.治療的または予防的有効量の、条項1、2、5から10のいずれか一項に記載の無細胞馴化培地、条項3から10のいずれか一項に記載の無細胞組成物または条項15もしくは16に記載の医薬製剤またはこれらの2以上の組み合わせの対象への投与を含む、前記治療を必要とする対象において障害を治療する方法。
【0167】
本発明をこれらの特定の実施形態と併せて記載してきたが、多数の改変、改良および変形が、前述の説明の観点から当業者には明らかであろう。したがって、このような改変、改良および変形はすべて、以下の通り添付の特許請求の範囲の精神および広い範囲に包含されることが意図される。
【0168】
本明細書に開示された本発明の態様および実施形態は、下記の限定されない実施例によりさらに裏付けられる。
[実施例]
【実施例1】
【0169】
馴化培地において確立されるADHLSCおよびHSCセレクトームのプロファイル
材料および方法
ADHLSCおよびHSCの単離および培養
プロトコルおよび実験は、St−Luc HospitalおよびUniversite catholique de Louvainの医学部の倫理委員会により承認された。Hepatocytes and Hepatic Stem Cells Bankのための協定をBelgian Ministry of Healthから入手した。本研究に使用されるそれぞれのヒト肝臓に対して、記入および署名済みのインフォームドコンセントが得られている。表1に示すように、4人のドナーが本研究に使用された。
【0170】
【表1】
【0171】
ADHLSCを、前記のように、2段階コラゲナーゼ潅流、ろ過および低速遠心分離の後にあらかじめ得ていた肝臓実質分画の初代培養の後に得た(Najimi M et al., 2007;WO2007/071339)。HSCを、前記(Guimaraes E et al. 2010)のNycodenz(登録商標)勾配遠心分離ステップ(Myegaard、Oslo、Norway)を使用して、対応する非実質分画から単離した。
【0172】
両方の細胞型を、4.5g/Lグルコース(Invitrogen)を含有し、10%v/vウシ胎児血清(PAA)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を補充したDMEMを使用して、37℃において十分に加湿した雰囲気下(5%C02)で培養した。80%集密になった時に、細胞を0.05%トリプシン−EDTA(Invitrogen)を用いて剥離し、5000細胞/cm
2の密度で再プレーティングした。回収した細胞の生存能力を、トリパンブルー排除アッセイを使用して評価した。
【0173】
フローサイトメトリー
細胞を、2×l0
5細胞/mlの濃度で市販のダルベッコリン酸緩衝食塩水(D−PBS)に再懸濁した。細胞内免疫染色のために、細胞の透過処理を、cytofix/cytoperm(BD Pharmingen)を用いて20分間4℃において実施した。その後細胞を洗浄し、30分間、4℃において蛍光標識された抗体と一緒にインキュベートした(表2を参照されたい)。対応する対照アイソタイプを並行して使用し、非特異的結合を評価した。洗浄後、細胞をStabilizing Fixative(BD Pharmingen)に再懸濁し、その後CANTOIIフローサイトメーターにより読み取った。BD FACSDiva Softwareを使用して分析を実施した。
【0174】
【表2】
【0175】
ADHLSCおよびHSCのための馴化培地(ADHLSC−CMおよびHSC−CM)の作製
60−70%の集密に到達した時に、細胞を洗浄し、馴化培地を、10%v/vウシ胎児血清を含まない新鮮な培地に交換した。インキュベーションの24時間後、上清を回収し、さらなるアッセイのために保存した。対応する細胞をカウントおよび生存能力評価のために剥離した。分泌されたタンパク質の濃度は、24時間において10
5細胞により24時間の間に分泌されたナノグラム(ng)またはピコグラム(pg)で表した。
【0176】
ELISA
ELISA分析を、無血清培地とのインキュベーションの24時間後に回収された培養上清に対して実施した。成長因子およびサイトカインの濃度を、10
5細胞に対して計算した。450nmにおける吸光度の測定を、Victor X4プレートリーダー(PerkinElmer)を用いて行った。
【0177】
コラーゲン分泌分析を、I型プロコラーゲンC−ペプチドのためのELISAキット(Takara Bio Inc、Japan)を使用することによって実施した。培養上清中の肝細胞成長因子(HGF)および形質転換成長因子ベータ1(TGFβ1)のレベルを、Quantikine ELISA Kits、R&D Systemsを使用することによってアッセイした。HGFおよびTGFβ1キットのために、570nmにおける読み取り値を450nmの読み取り値から差し引き、プレートの光学的欠点を補正した。実験は、製造業者の取扱説明書に従って実施した。Quantikine TGFβ1免疫アッセイを使用することによって潜伏性TGFβ1を検出可能にするために、TGFβ1 ELISAに関しては、試料を、酸性化、それに続く中和により活性化した。
【0178】
ルミネックス分析
Bio−Plex Pro Human Cytokine 27−plex Assay kit(IL−1b、IP−10、IL−2、IL−4、IL−6、IL−7、IL−188 9、IL−10、IL−13、IL−15、エオタキシン、FGF、GM−CSF、インターフェロン−ガンマ(IFN−γ)、MIP−1a、MIP−1b、RANTES、TNF−α、IL−1ra、IL−5、IL−8、IL−12、IL−17、G−CSF、MCP−1、PDGF−bbおよびVEGFを含む;Bio−Rad)およびLuminex technology(Bio−Plex200、Biorad)を使用して、両方の肝臓細胞型のセレクトームを調査した。この技術の原理は色分けされたビーズに基づき、100種のサイトカインを同時に検出可能である。標的タンパク質に対する一次抗体を染色されたビーズとコンジュゲートする。数回洗浄して未結合のタンパク質を除去した後で、二次ビオチン化抗体を反応液に加える。ストレプトアビジン−フィコエリトリン(ストレプトアビジン−PE)を次いで加え、ビオチン化抗体を結合する。相対蛍光強度を測定することによって、抗原−抗体反応を測定することができる。
【0179】
このアッセイは、製造業者の取扱説明書に従って実施した。簡潔に言うと、プレートをあらかじめ湿らせた後で、50μlのビーズを各ウェルに加え、2回洗浄した。50μlの試料(培養24時間後に回収された無血清培養上清)をプレートに加えた。このプレートを30秒間振とうし、その後プレートシェーカー上で120rpmにおいて室温で45分間インキュベートした。プレートをBio−Plex洗浄バッファーで3回洗浄し、25μlの検出抗体を各ウェルに加え、プレートシェーカー上で120rpmにおいて30分間インキュベートした。プレートをその後Bio−Plex洗浄バッファーで3回洗浄し、50μlのストレプトアビジン−PE溶液を各ウェルに加えた。このプレートを30秒間振とうし、その後プレートシェーカー上で120rpmにおいて10分間インキュベートした。最後に、プレートをBio−Plex洗浄バッファーで3回洗浄後、ビーズを125μlのBio−Plex Assay Buffeに再懸濁した。プレートをLuminex machineにより読み取り、データをBio−Plex Manager6.0.Statisticsを使用して分析した。
【0180】
結果は平均±平均値の標準誤差(SEM)として表した。統計的有意差を、2つの群の比較のためのスチューデントt検定により決定した。試料または条件の間の差の統計的有意差を、p値、*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001により立証した。
【0181】
結果
ADHLSCおよびHSCを、4人の独立した肝臓ドナーから単離した。これらのそれぞれに関して、HSCおよびADHLSCを並行して得て、同じ培養条件下で培養して、同時に後に続けた。両方の細胞型により示される線維芽細胞の形態は、さまざまな研究過程にわたって安定なままであり、集団の累積倍加は2つの細胞型で同様であった。両方の細胞型の間葉表現型を、いくつかの適切な特異的マーカーの発現を、フローサイトメトリーを使用して探索することによって調査した。両方の細胞型は、間葉幹細胞を特徴付けるために広く使用される大部分の膜マーカーに対して免疫陽性であった。これは、発現レベルがADHLSCとHSCとの間で、分析過程の間有意に異ならなかった間葉幹細胞マーカー(CD73およびCD90など)および細胞外マトリックスマーカー(CD29およびCD44など)の場合である。両方の細胞型の間葉表現型はまた、フローサイトメトリーを使用して実証されるように、CD45、CD117およびCD133のような造血性マーカーの陰性発現により裏付けられた。したがって、このデータにより、以前に報告されたように、ADHLSCおよびHSCの両方における間葉マーカーの存在が確認された(Kordes C et al., 2007; Kordes C et al., 2013; Najimi M et al., 2007)。
【0182】
4人のドナーにわたるADHLSCおよびHSCセレクトームを、タンパク質特異的免疫アッセイにおいて細胞培養の馴化培地を使用することによって部分的に分析した。実験を、無血清と一緒にインキュベートした24時間後に回収された上清に対して実施し、それぞれADHLSC−CMおよびHSC−CMと呼ばれる馴化培地を得た。
【0183】
分析は、活性化HSCにより発現されることが公知のタンパク質を検出することによって開始した。分泌されたI型プロコラーゲンC−ペプチド(約130ng/ml/10
5細胞/24時間、)および最も強力な前線維化サイトカインの1つであり、炎症および免疫応答に関与するTGFβ1(約90ng/ml/10
5細胞/24時間)の濃度においてHSC−CMとADHLSC−CMとの間に有意差は観察されなかった。HSC−CMとADHLSC−CMとの間の有意差は、肝細胞成長因子(HGF)、抗炎症特性を有し、臓器の保護および再生を含む重要な生理学的機能を有する肝細胞有糸分裂促進因子の分泌に観察される。肝臓損傷後、HGFは、脾臓、肺および腎臓のような遠位臓器により、ならびにクッパー細胞およびHSCなどの類洞細胞により分泌されることが公知である。ADHLSC−CMは、HSCより約3倍多いHGFを含有する(
図1A)。
【0184】
主要な成長因子、ケモカインおよびサイトカインのより大きなパネルの分泌を、マルチプレックス技術を使用して実施した。ADHLSCは、HSCと比較して統計的に有意に高いレベルのVEGF、IFN−g、エオタキシン(CXCL11)、IL−8およびIL−10の分泌を明らかに表し、ADHLSC−CMにおいて1ng/ml/10
5/24時間を上回る濃度であった。より低い絶対レベル(すなわち、1ng/ml/10
5/24時間以下)において、PDGF−bb、TNF−a、IP−10、IL−5、IL−7、IL−9、IL−12およびIL−13もまた、ADHLSC−CMにおいてより高い濃度で存在した(
図1Bおよび1C)。ADHLSC−CM中の特異的サイトカインおよび成長因子の統計的に有意な上昇は、HSC−CMより約2倍(IL−5、IL10およびIL−13に関して)から10倍またはさらに30倍(エオタキシン、VEGFおよびIL−8など)に変動し得る。他のサイトカインは、両方の細胞型においていずれも検出不可であり(bFGFなど)、ドナーにわたってより可変である。
【0185】
このようなデータを、異なる肝臓多能性前駆体(HLSC−CM;WO2009/150199に記載)または骨髄間葉幹細胞(MSC−CM;WO2009/150199に記載)から得られた馴化培地に関して先に決定されたデータと比較した場合、表3に示すように、ADHLSC−CMの組成物がこれらの馴化培地と質的に異なることが明白である。
【0186】
【表3】
【0187】
表3に引用されたタンパク質が最も代表的な例のいくつかしか表していないとしても、公開されたデータとADHLSC−CMを使用して得られたデータとの間の差は、HLSC−CMおよびMSC−CMの濃度がWO2009/150199において10倍多い細胞に関して示されているという事実を考慮すればさらに顕著である。ADHLSCセレクトームは、異なる比および量で存在する、成長因子、ケモカインおよびサイトカインなどの有用な分泌タンパク質の組み合わせが他の公知の馴化培地中より特に富化されていることは明白である。
【0188】
したがって、ADHLSCのセレクトームは概して、および特にADHLSC−CMとして得られ、特徴付けられた場合、HSCに由来するADHLSCだけでなく、他の肝臓または間葉細胞およびこれらのセレクトームに由来するADHLSCも識別する特色を表す。これらの分子の特色は、ADHLSCこれら自体を増殖し、生物学的に活性であり、他の細胞とin vivoおよびin vitroで相互作用するやり方に対するだけなく、生物内、特に肝臓内の他の細胞型により発揮される生物学的活性に影響を与え得るやり方にも実質的に独特の効果を有し得る。実際には、医学的対象の潜在的に有利な効果はADHLSC−CMにより、したがって、またはこれらの所与の分画により、単独、ADHLSCもしくは任意の他の適切な細胞系、タンパク質系および/または化学的薬物系の治療と組み合わせて、または組み合わせずに提供される。
【実施例2】
【0189】
HSCの増殖および分泌プロファイルに対するADHLSCの効果
材料および方法
ADHLSC/HSC共培養モデル
間接的共培養系(Transwell(登録商標)COL Collagen−Coated 0.4μm Pore PTFE Membrane Insert)を使用した。簡潔に言うと、HSCを下方のチャンバーに10000細胞/cm
2の密度で播種し、ADHLSCを膜インサート上に配置し、ADHLSC/HSC比(細胞数/細胞数)は0/1(対照)および1/100であった。HSCを、表示の時点において回収し、分析した。
【0190】
ADHLSCおよびADHLSC−CMのHSCに対する効果を比較するアッセイ
ADHLSC−CMおよびHSC−CMを上記のように、血清不在下の培養の24時間後、ADHLSCおよびHSCの上清を回収することによって得た。HSCを、ADHLSC(2つの共培養系を使用して)、HSC−CMまたはADHLSC−CMと一緒に24時間インキュベートした。実験は、同じドナーに由来するADHLSC、ADHLSC−CM、HSCおよびHSC−CMを使用して実施したが(自己条件)、異なるドナー由来の細胞または馴化培地を組み合わせることによっても反復して、質的に同様の結果を得た。
【0191】
CCK−8生化学アッセイを、Cell Counting Kit−8 BioChemika(Fluka;カタログ番号96992)を使用して実施した。ヨウ化プロピジウムアッセイを一般的文献に従って実施した。
【0192】
細胞周期分析のために、HSCを0.05% トリプシン−EDTA(Invitrogen)により共培養の24時間後に剥離した。遠心分離後、細胞をPBSで2回洗浄し、700μlの冷エタノールを用いて固定し、氷上で30分間インキュベートした。細胞をPBSにより再度洗浄し、その後、100μg/mlのヨウ化プロピジウム(PI、Invitrogen)、0.1mg/mlのRNase(Sigma)および0.01% Triton X−100(Sigma)を含有する溶液と一緒に30分間、37℃においてインキュベートし、その後氷上で15分間インキュベートし、その後CANTO IIフローサイトメーターにより読み取った。分析は、BD FACSDiva Softwareを使用して実施した。細胞周期のさまざまな期を、FlowJo Softwareにより曲線化面積を測定することによって決定した。
【0193】
Ki−67免疫細胞化学のために、HSCを24時間、馴化培地と一緒にインキュベートし、その後パラホルムアルデヒド3.5%を使用して15分間室温において固定した。内在性ペルオキシダーゼを、過酸化水素3.3%を3分間使用して除外した。すべてのステップは室温において実施した。細胞を、1% Triton X−100(Sigma)含有PBSを10分間使用して透過処理した。非特異的免疫染色を、1%ウシ血清アルブミン(Sigma)含有PBS中で1時間インキュベートすることによって防止した。その後、細胞をKi67抗体(Dako)と一緒に1時間インキュベートした。洗浄後、細胞を二次抗体(EnVision−Dako)と一緒に30分間インキュベートした。液体DABおよび基質色素(Dako)と一緒に5分間インキュベート後、検出を行った。対比染色を、マイヤーのヘマトキシリンを使用して10分間実施した。調製物をその後顕微鏡分析(DMIL、Leica、Belgium)に供した。各条件に関して、4つの異なる視野を分析し、合計2500の染色/未染色核を、ImageJ Softwareを使用してカウントした。
【0194】
結果
活性化HSCによる線維形成は、肝臓組織の線維症をもたらす工程に大きく寄与する。HSCは肝臓損傷の間にin vivoで「活性化され」、筋線維芽細胞様細胞に進化し、結果として、細胞増殖および細胞外マトリックスタンパク質の堆積が増加する。構造レベルにおいて活性化HSCはこれらの大型のビタミンA含有脂質液滴を失い、いくつかの細胞接着分子の発現および炎症促進性サイトカインの分泌が上方制御された。In vitroで、この活性化工程の線維化部分は、HSCをプラスチック培養皿状で培養することによって模倣される。HSCの活性化および線維形成に対するADHLSCの効果は概して(および特にADHLSC−CMの効果)は、特定の組成、表面および細孔径を有する膜を介してのみ情報伝達する2つの細胞培養チャンバーにおいてHSCおよびADHLSCを培養する、間接的共培養系を使用することによってin vitroで研究することができる。
【0195】
活性化HSCは、増殖速度の上昇により特徴付けられるので、第1の分析は、ADHLSCと一緒の共培養後のHSCの増殖に関係した。細胞数の分析を、播種後24時間、4日および7日にHSCを回収後、手作業のカウントを使用して実施した。4人の異なるドナー由来の細胞を使用してHSCの数の有意な減少を記録した。この実験において、HSCの数の統計的に関連する減少が、ADHLSCとHSCとの間の比率1/100を使用して、ADHLSCの不在下で培養されたHSCと比較することによって得られた(
図2A)。増殖速度の指標の変化はすべての細胞群の間で記録されなかったので、このような低比率におけるこの阻害効果は、最初の24時間に開始されたと思われる。
【0196】
この効果は、同じ比率のADHLSCおよびHSCならびに、細胞増殖アッセイにおける生存細胞の数の決定を可能にする高感度熱量測定アッセイであるCCK−8生化学アッセイを使用して確認した(
図2B)。
【0197】
接着および浮遊HSCに対する効果を評価する場合、浮遊HSCの数が有意に増加されるので、低比率のADHLSC/HSCの1/100により、HSCプレーティングの統計的に関連する減少がすでに提供されていることを実証している(
図3A)。
【0198】
このような実験を、HSCの馴化培養培地(HSC−CM)を対照として使用して、HSCの増殖および付着に対するその効果を評価するために、ADHLSCの馴化培養培地(ADHLSC−CM)だけを使用して反復する。ADHLSC−CMの効果は、共培養系においてADHLSCにより観察された効果と質的に同様であり、ADHLSCにより分泌され、2つのチャンバーを分離する膜を通過する可溶性因子の関与を示唆した(
図3B)。フローサイトメトリーおよびヨウ化プロピジウム染色を使用して、ADHLSC−CMと一緒に培養されたHSCとHSC−CMと一緒に培養されたHSCとの間の細胞死の誘導に有意差はなかった(データ未掲載)。
【0199】
ADHLSC−CMによるHSC数の減少に関与する機序を調査するために、ADHLSC−CMまたはHSC−CMのいずれかの存在下のHSCプレーティングの動態を、播種後2、4、8および24時間後に接着および浮遊細胞をカウントすることによってさらに分析し、すべての時点を通して維持されるHSC−CMと比較した場合、ADHLSC−CMと一緒に培養するとHSCのプレーティングが遅延することを実証した(
図4Aおよび4B)。
【0200】
HSC細胞周期に対するADHLSC−CMまたはADHLSCの効果を、ヨウ化プロピジウム(PI)染色およびフローサイトメトリーを使用することによって試験した。G0/G1期にブロックされたHSCの数の増加およびG2/M期のHSCの数の減少が、HSCを、ADHLSCと一緒に共培養系において(
図5A)、またはADHLSC−CMと一緒(
図5B)のいずれかでインキュベートした場合に明確に観察される。このような証拠は、免疫細胞化学を使用したKi67染色により確認した。染色されたHSC核の数の有意な減少が、ADHLSC−CMと一緒に24時間インキュベーション後に、HSC−CMと一緒にインキュベートされたHSCと比較して観察されている(
図5C)。
【0201】
まとめると、これらのデータは、ADHLSCまたはADHLSC−CMとの共培養後に観察されたHSCの数の明らかな減少を実証しており、これはHSCのプレーティング効率および細胞増殖の両方の阻害に起因し得る。ADHLSCと異なるドナーに由来するHSCとを組み合わせること、ならびにADHLSC−CMを直接HSCと一緒に、共培養系を使用せずに含有することによって得られることを指摘することが重要である。この観察は、選択された膜を通過可能なADHLSC−CMの成分が、実際にHSCに対してこの効果を提供していることを示唆している。活性化HSCは、細胞外マトリックスの主要な成分の1つであるI型コラーゲンを分泌することが公知である。したがって、HSCのコラーゲン分泌能力に対するADHLSCの影響を、I型プロコラーゲン(I型コラーゲンの先駆体)の分泌を測定することによって、ELISAアッセイを使用して試験した。HSCをADHLSCまたはADHLSC−CMと一緒に24時間インキュベートした。培養培地を24時間後に変更し、無血清培地と置き換えた。上清を24時間に回収し、HSCを、カウントおよび生存能力の評価のために剥離した。ADHLSC/HSC比1/100でADHLSCと一緒に共培養した後のHSCにより分泌されたI型プロコラーゲンの量の、対照群と比較した有意な減少を観察した(
図6A)。さらに、マルチプレックス・ルミネックス・アッセイを使用することによって、抗線維化特性を有することが公知の成長因子であるHGFおよびIL−6の分泌が、ADHLSCと一緒に共培養系を使用してすでに24時間インキュベートしたHSCの培養上清において増加したことを実証することができる(
図6B;同様のデータをADHLSC−CMを使用して得た)。同時に、細胞外マトリックスの分解に関与する酵素であるメタロプロテイナーゼMMP1およびMMP2の分泌レベルもまた、すべての被験ドナーにおいて少なくとも1.5倍上昇した(上記のマルチプレックス技術を使用して決定)。線維形成に関与するタンパク質のこれらすべての上方制御および下方制御の組み合わせは、ADHLSC−CM(および特に、共培養系に使用した膜を通過可能な成分)が、肝臓線維化障害の治療などの治療適用のために利用可能な、HSCに対する広範囲な抗線維化効果を有することを示唆している。
【0202】
上記のデータは、ADHLSC−CM(および調製方法、分子量または他の関連する特色に従って定義される特定の成分)が、医薬組成物中の成分または治療方法内の成分として使用可能であり、成長因子、サイトカイン、ケモカインおよび他の生理学的活性のメディエーターなどの有用な細胞分泌生成物の、生物学的にバランスの取れた混合物を提供するために使用可能であることを裏付ける。ADHLSC−CMは実施例1に記載のアプローチと同様のアプローチを適用して無細胞組成物として得ることができ、その後さらにADHLSCにより放出される可溶性タンパク質および/または小胞構造(例えば、直径1μm以下(例えば詳細には1.0μm以下)、0.4μm以下、0.1μm以下の直径を有する、または1μm(例えば詳細には1.0μm)から0.1μmの間、または0.4μmから0.1μmの間に含まれる直径を有する微小胞)を含む、その特定の成分のすべて、大部分またはいくつかが富化されたADHLSC−CM調製物を得る範囲において、(例えばろ過、分画化、クロマトグラフィー、酵素的消化、遠心分離、吸着またはこれらの任意の組み合わせによる)さらに精製および/または濃縮される。
【実施例3】
【0203】
ADHLSC−CMおよびこれに由来する無細胞組成物のIn vivoモデルおよび医薬的使用
ADHLSC−CM、ADHLSC−CMに由来する無細胞組成物およびこのような組成物を分画化し、必要に応じて濃縮(または希釈)することによって得られる任意の他の組成物は、成体肝臓から単離される前駆細胞(すなわちADHLSC)の公知の生体活性に基づき選択される一連のモデルに使用可能であり、したがって、このような調製物を使用することによって治療され得るヒト肝臓疾患のモデルがより好ましい。
【0204】
動物(例えば、ラット、ウサギ、マウス)を選択し、最終的に所望のモデルを確立するために処置し、その後、腹腔内、静脈内(頸部、大腿部、門脈または尾部の静脈)、動脈内(頸動脈または大腿動脈を介して大動脈へ)、肝内または脾臓内に、所与の体積(例えば0.01−1ml)のADHLSC−CM、またはADHLSC−CMのタンパク質分画の同等量、またはADHLSC−CMの微小胞分画の同等量を注射する。適切な対照としては、いずれの細胞によっても馴化されない同一の細胞培養培地、または肝臓星細胞、間葉幹細胞(骨髄MSCなど)もしくは任意の他の細胞型もしくは集団を培養することによって馴化された同一の培地、したがってまたは対応するこれらの分画および単独または任意の他の適切な薬物もしくはADHLSC−CMの投与と同時、先または続いて適用される治療、またはADHLSC−CMのタンパク質分画の同等量、またはADHLSC−CMの微小胞分画の同等量(ADHLSCまたは任意の他の細胞に基づく細胞系療法の使用を含む)との組み合わせを挙げることができる。この様式において、ADHLSC−CMと相乗的に作用し得る任意の治療もしくは薬物レジメン、またはADHLSC−CMのタンパク質分画の同等量、またはADHLSC−CMの微小胞分画の同等量が決定できる。寛解、生存、防止または任意の他の適切なエンドポイントまたは動物に投与される調製物の治療効果を決定するためにin vivo(または組織、臓器または体液から選択される)で測定されるマーカーは、利用可能な陽性または陰性対照の処置により得られる結果を考慮して所定の時間を通してモニターされる。
【0205】
このようなモデルおよび関連する兆候の非網羅的リストは、背景技術に引用された文献に記載されたモデルならびに劇症肝不全(FHF)のD−ガラクトサミン/エンドトキシン誘導性マウスモデル、LPS注射によるLPS誘導性多−臓器不全のラット種モデル(概して、高齢のラットにおいて、LPSが注射され、盲腸が穿孔され、細菌性腹膜炎および臨床的多臓器不全のすべての症状がもたらされる)、急性腎不全のグリセロール誘導性マウスモデル(例えば、C57B 1/6マウスにおける急性毒性細管損傷は、50%v/vグリセロール溶液の7.5ml/kg体重の筋肉内注射により誘導される)、急性腎不全の虚血/再潅流誘導性ラットモデル(例えば、ARFの虚血/再潅流型は、両方の腎茎を区切られた時間内クランプし、それによって虚血侵襲を引き起こす腎臓への血液供給の中断により腎臓機能の急性喪失、すなわちARFがもたらされることによって、麻酔をかけたラットにおいて誘導される)、虚血の動脈結紮誘導性マウスモデル(例えば、マウスを、当分野において公知の方法を使用して右遠位大腿動脈結紮に供し、後肢に虚血を引き起こす)、糸球体腎炎の抗Thyl−1抗体誘導性ラットモデル(例えば、糸球体腎炎(GN)は、0日目に250μg/100g抗Thyl−1抗体(Ab)重量を6週齢の雌Lewisラットの大腿静脈に静脈内投与することにより誘導される)、腫瘍増殖の化学的または細胞系マウスモデル、肝臓線維症の四塩化炭素(CCl
4)誘導性マウスモデルなどの他のモデルを含む。
【0206】
より詳細な例としては、FHFの誘導のための、D−ガラクトサミン(2−アミノ−2−デオキシ−D−ガラクトシド)によるSCID(重症複合型免疫不全)マウスの処置に対するリポ多糖類(LPS)の致死毒性が前述(Lehmann V et al., 1987)の通りに発症される。LPSおよびD−ガラクトサミンの量は、所望の実験時間枠、例えば注射後8、16または24時間以内に100%の致死率を得るために最適化される。より詳細な例としては、慢性肝臓疾患および肝臓線維症は、四塩化炭素(CCl
4)で少なくとも3−4週間、潜在的には20週間ほど処理することによって、前述の通りにSCID−Beigeマウスにおいて模倣される(Perez Tamayo R, 1983)。マウスは、1週間に数回、例えば1週間に3回処理してよい。マウスは0.04ccの40パーセント溶液オリーブ油中CCl
4またはビヒクルを経口強制栄養により投与され得る。上記のモデルのようなモデルにおいて、動物の生存の仕方、または他の適切な予防的または治療的関連エンドポイントまたは利益は、ビヒクル単独、他のタイプの(非)馴化培地および/または他の関連する陽性または陰性対照と比較した場合、ADHLSC−CMまたはADHLSC−CMのタンパク質分画またはADHLSC−CMの微小胞分画の投与により有意に改善できることが観察される。
【0207】
これらのモデルにおいて得られた結果に基づき、ADHLSC−CMまたはADHLSC−CMのタンパク質分画またはADHLSC−CMの微小胞分画の実際の医薬有効量は、適切に製剤化され、注入される合計タンパク質濃度および/またはADHLSC−CM系調製物が得られた元々の細胞の細胞数を考慮して、その後、医薬組成物を対象の体重、病態および進行中の治療に適合させて、注入または1つもしくは複数の注射により、特にヒト対象に投与することができる。投与の部位は、治療される病態または臓器に依存するものである。全身投与が適切である場合、組成物は静脈内に注入することができる。局所投与が望ましい場合、局所注射により達成することができる。例としては、肝臓への送達は、門脈を介して実施することができる。門脈へのアクセスは、放射線および/または超音波のガイダンスの下直接穿刺により、穿刺針を介して、または経皮カテーテルを介して、またはPort−a−cath R装置を介して、または門脈に流れ出る任意の血管、好ましくは下腸間膜静脈もしくは結腸静脈に外科的に挿入されたBroviac R装置を介して行われる。カテーテルは、数時間、好ましくは数日、好ましくは数週間もしくは好ましくは数か月から2年まで、または好ましくは注入の反復が必要な限り長くその場に残しておいてよい。
【0208】
参考文献