(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記N−グリコシル化経路に関与する2つ以上のタンパク質を発現するように前記哺乳類宿主細胞をトランスフェクトし、前記タンパク質が、Mgat1及びMgat2;Mgat1及びSlc35a2によりコードされるUDP−ガラクトース輸送体;Mgat2及びSlc35a2;並びにMgat1、Mgat2及びSlc35a2からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
前記哺乳類宿主細胞が組換えタンパク質を発現するように予めトランスフェクトされており、N−グリコシル化経路に関与するタンパク質を発現するようにその後トランスフェクトされる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記哺乳類宿主細胞が最初にN−グリコシル化経路に関与するタンパク質でトランスフェクトされ、その後組換えタンパク質を発現するようにトランスフェクトされる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記組換えタンパク質が、Fc融合タンパク質、抗体、免疫グロブリン、及びペプチボディー(peptibody)からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
N結合型グリコシル化に関与するタンパク質を過剰発現するようにトランスフェクトされている前記細胞内で発現される前記組換えタンパク質の高マンノース型グリコフォーム含量が、N結合型グリコシル化に関与するタンパク質を過剰発現するようにトランスフェクトされる前の前記哺乳類宿主細胞により産生される組換えタンパク質の高マンノース型グリコフォーム含量と比較して低減されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
前記高マンノース型グリカン種が、マンノース5(Man5);マンノース6(Man6);マンノース7(Man7);マンノース8(マンノース8a及び8b(Man8a及び8b)を含む);Man8a及び8b、及びマンノース9(Man9);又はそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
前記培養が、2日目と4日目の間の日、5日目と6日目の間の日、7日目と8日目の間の日、及び8日目と10日目の間又はそれ以降に供給を受ける、請求項20に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本出願において使用される専門用語は、当技術分野において標準的なものであるが、特許請求の範囲の意味における明確性及び確定性を確実にするために、ある特定の用語の定義を本明細書に提供する。単位、接頭辞、及び記号は、それらのSI(国際単位系)に認められた形態で示され得る。本明細書に列挙される数値範囲は、その範囲を定義する数を含み、定義された範囲内のそれぞれの整数を含み、かつそれを支持する。本明細書に記載の方法及び技法は、概して、別途示されない限り、当技術分野で周知の従来の方法に従って、及び本明細書を通して引用され、論じられる様々な一般的及びより具体的な参考文献に記載されるように実行される。例えばSambrook et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)、及びHarlow and Lane Antibodies:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)を参照されたい。
【0029】
本開示の方法は、撹はん槽反応器において増殖する接着培養または懸濁培養(必須ではないが、スピンフィルターを含み得る伝統的なバッチ及び流加細胞培養を含む)、灌流系(交互接線流(「ATF」)培養、音波灌流系、深層フィルタ灌流系、及び他の系を含む)、中空糸バイオリアクター(HFB、灌流プロセスにおいて採用される場合もある)ならびに様々な他の細胞培養法に適用可能である(例えば、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、Tao et al.,(2003)Biotechnol.Bioeng.82:751−65;Kuystermans&Al−Rubeai,(2011)“Bioreactor Systems for Producing Antibody from Mammalian Cells”in Antibody Expression and Production,Cell Engineering 7:25−52,Al−Rubeai(編)Springer;Catapano et al.,(2009)“Bioreactor Design and Scale−Up”in Cell and Tissue Reaction Engineering:Principles and Practice,Eibl et al.(編)Springer−Verlagを参照されたい)。
【0030】
特許、特許出願、記事、書籍、及び論文を含むが、これらに限定されない本出願において引用される全ての文書または文書の一部は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。本発明の実施形態において説明されることは、本発明の他の実施形態と組み合わせることができる。
【0031】
定義
本明細書で用いるとき、「a」及び「an」という用語は、特に別段の指示がない限り、1つまたは複数を意味する。さらに、文脈により必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。一般に、本明細書に記載の、細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学及びタンパク質及び核酸化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法、及びこれらの技法は、当技術分野において周知のものであり、一般に使用される。
【0032】
本開示は、「目的のタンパク質」を発現する細胞培養物の特性を調節する方法を提供し;「目的のタンパク質」には、天然に生じるタンパク質、組換えタンパク質、及び操作されたタンパク質(例えば、天然に生じず、ヒトにより設計及び/または作成されたタンパク質)が含まれる。目的のタンパク質は、必須ではないが、治療的に関連すると知られるまたは疑われるタンパク質であることができる。目的のタンパク質の具体的な例には、(本明細書に記載及び定義されるような)抗原結合タンパク質、ペプチボディ(すなわち、抗体のFcドメインなどの他の分子に直接的または間接的にかのいずれかで融合するペプチド(複数可)を含む分子であり、ペプチド部分は所望の標的に特異的に結合し;ペプチド(複数可)は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開US2006/0140934に記載のように、Fc領域に融合され得るか、Fcループに挿入され得る、すなわち修飾Fc分子)、融合タンパク質(例えば、Fc融合タンパク質、ここでFc断片はペプチボディを含むタンパク質またはペプチドに融合される)、サイトカイン、増殖因子、ホルモン及び他の天然に生じる分泌タンパク質、ならびに天然に生じるタンパク質の突然変異体が含まれる。
【0033】
「抗原結合タンパク質」という用語は、その最も広い意味で使用され、抗原または標的に結合する部分、及び任意選択的に、抗原結合部分が抗原への抗原結合タンパク質の結合を促進するコンフォメーションを採択することを可能にする足場またはフレームワーク部分を含むタンパク質を意味する。抗原結合タンパク質の例には、ヒト抗体、ヒト化抗体;キメラ抗体;組換え抗体;一本鎖抗体;ダイアボディ;トリアボディ;テトラボディ;Fab断片;F(ab’)
2断片;IgD抗体;IgE抗体;IgM抗体;IgG1抗体;IgG2抗体;IgG3抗体;またはIgG4抗体、及びそれらの断片が挙げられる。抗原結合タンパク質は、例えば、CDRまたはCDR誘導体が移植された代替タンパク質足場または人工足場を含むことができる。そのような足場は、例えば、抗原結合タンパク質の3次元構造を安定化させるために導入された変異を含む抗体由来の足場、ならびに、例えば生体適合性ポリマーを含む完全に合成の足場を含むが、これに限定されない。例えば、Korndorfer et al.,2003,Proteins:Structure,Function,and Bioinformatics,53(1):121−129(2003);Roque et al.,Biotechnol.Prog.20:639−654(2004)を参照されたい。加えて、ペプチド抗体模倣体(「PAM」)、ならびにフィブロネクチン要素を足場として活用する抗体に基づく足場を、使用することができる
【0034】
抗原結合タンパク質は、例えば、天然に生じる免疫グロブリンの構造を有することができる。「免疫グロブリン」は、四量体分子である。天然に生じる免疫グロブリンでは、各四量体は、各対が1つの「軽」鎖(約25kDa)及び1つの「重」鎖(約50〜70kDa)を有する2つの同一なポリペプチド鎖対から構成されている。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識を担う約100から110以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能を担う定常領域を定義する。ヒト軽鎖は、カッパ及びラムダ軽鎖として分類される。重鎖はミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンとして分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEとして抗体のアイソタイプを定義する。
【0035】
天然に生じる免疫グロブリン鎖は、相補性決定領域またはCDRとも称される、3つ超可変領域により接合された比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を呈する。N末端からC末端まで、軽及び重鎖は両方とも、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割当は、Kabat et al.(Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH,NIH Publication no.91−3242,(1991))の定義に従ってなされることができる。所望により、CDRはまた、Chothiaのものなどの代替の命名スキームに従って再定義されることもできる(Chothia&Lesk,(1987)J.Mol.Biol.196:901−917;Chothia et al.,(1989)Nature 342:878−883またはHonegger&Pluckthun,(2001)J.Mol.Biol.309:657−670を参照されたい)。
【0036】
本開示の文脈では、抗原結合タンパク質は、解離定数(K
D)が10
−8M以下であるときに、その標的抗原に「特異的に結合する」または「選択的に結合する」と言われる。抗体は、K
Dが5×10
−9M以下であるときに「高い親和性」で、K
Dが5×10
−10M以下であるときに「非常に高い親和性」で抗原に特異的に結合する。
【0037】
「抗体」という用語は、別段の定めがない限り、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方への、または特異的結合についてインタクト抗体と競合するその抗原結合領域への言及を含む。加えて、「抗体」という用語は、別段の定めがない限り、インタクト免疫グロブリン、または特異的結合についてインタクト抗体と競合するその抗原結合部分を指す。抗原結合部分は、組換えDNA技術によりまたはインタクト抗体の酵素的または化学的開裂により生成することができ、目的のタンパク質の要素を形成することができる。抗原結合部分は、特に、Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fv、ドメイン抗体(dAb)、相補性決定領域(CDR)を含む断片、一本鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、及びポリペプチドに特異的抗原結合を与えるのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含有するポリペプチドを含む。
【0038】
Fab断片は、V
L、V
H、C
L及びC
H1ドメインを有する一価断片であり;F(ab’)
2断片は、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合された2つのFab断片を有する二価断片であり;Fd断片はV
H及びC
H1ドメインを有し;Fv断片は、抗体のシングルアームのV
L及びV
Hドメインを有し;dAb断片は、V
Hドメイン、V
Lドメイン、またはV
HまたはV
Lドメインの抗原結合断片を有する(米国特許第6,846,634号、同第6,696,245号、米国特許出願公開第05/0202512号、同第04/0202995号、同第04/0038291号、同第04/0009507号、同第03/0039958号、Ward et al.,(1989)Nature 341:544−546)。
【0039】
一本鎖抗体(scFv)は、V
L及びV
H領域がリンカー(例えば、アミノ酸残基の合成配列)を介して接合して、連続したタンパク質鎖を形成する抗体であり、ここでリンカーは、タンパク質鎖をそれ自身に折り重ね、一価抗原結合部位を形成させるのに十分な長さである(例えば、Bird et al.,Science 242:423−26(1988)及びHuston et al.,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−83を参照されたい)。ダイアボディは、2本のポリペプチド鎖を含む二価抗体であって、ここで各ポリペプチド鎖は、同じ鎖上の2つのドメイン間で対合させるには短すぎるリンカーによって接合されたV
H及びV
Lドメインを含み、ゆえに各ドメインが別のポリペプチド鎖上の相補的ドメインと対合することを可能にする(例えば、Holliger et al.,(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−48;及びPoljak et al.,(1994)Structure 2:1121−23を参照されたい)。ダイアボディの2本のポリペプチド鎖が同一である場合、それらの対合から生じるダイアボディは2つの同一の抗原結合部位を有しするだろう。異なる配列を有するポリペプチド鎖を使用して、2つの異なる抗原結合部位を有するダイアボディを作成することができる。同様に、トリアボディ及びテトラボディは、それぞれ3本及び4本のポリペプチド鎖を含み、それぞれ同じまたは異なることができる3つ及び4つの抗原結合部位を形成する抗体である。
【0040】
1つまたは複数のCDRを、共有結合的にまたは非共有結合的のいずれかで分子内に組み込んで抗原結合タンパク質にすることができる。抗原結合タンパク質は、CDR(複数可)をより大きなポリペプチド鎖の一部として組み込むことができ、CDR(複数可)を別のポリペプチド鎖に共有結合的に連結させることができ、またはCDR(複数可)を非共有結合的に組み込むことができる。CDRは、抗原結合タンパク質が目的の特定の抗原に特異的に結合することを可能にする。
【0041】
抗原結合タンパク質は、1つまたは複数の結合部位を有することができる。1つを超える結合部位がある場合、結合部位は互いに同一であることができるかまたは異なることができる。例えば、天然に生じるヒト免疫グロブリンは典型的に2つの同一の結合部位を有するが、一方で「二重特異性」または「二官能性」抗体は2つの異なる結合部位を有する。
【0042】
明確にする目的で、及び本明細書に記載のように、抗原結合タンパク質は、必須ではないが、ヒト起源(例えば、ヒト抗体)であることができ、いくつかの場合には、非ヒトタンパク質、例えばラットまたはマウスタンパク質を含み得、他の場合には、抗原結合タンパク質は、ヒト及び非ヒトタンパク質のハイブリッド(例えば、ヒト化抗体)を含むことができることに留意されたい。
【0043】
目的のタンパク質は、ヒト抗体を含むことができる。「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列から誘導される1つまたは複数の可変及び定常領域を有する全ての抗体を含む。一実施形態では、可変及び定常ドメインの全てが、ヒト免疫グロブリン配列から誘導される(完全ヒト抗体)。そのような抗体は、Xenomouse(登録商標)、UltiMab(商標)、またはVelocimmune(登録商標)系から誘導されるマウスなどのヒト重鎖及び/または軽鎖をコードする遺伝子から誘導された抗体を発現するように遺伝子改変されたマウスの目的の抗原での免疫付与によるものを含む、様々な方法で調製されることができる。ファージに基づいたアプローチも採用することができる。
【0044】
あるいは、目的のタンパク質は、ヒト化抗体を含むことができる。「ヒト化抗体」は、ヒト対象に投与されたときに、非ヒト種抗体と比較して、ヒト化抗体が免疫反応を誘発する可能性が低くなるように、及び/または重篤な免疫反応の誘発がより少なくなるように、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、及び/または付加により非ヒト種から誘導された抗体の配列と異なる配列を有する。一実施形態では、非ヒト種抗体の重及び/または軽鎖のフレームワーク及び定常ドメイン内のある特定のアミノ酸は、ヒト化抗体を産生するように変異している。別の実施形態では、ヒト抗体からの定常ドメイン(複数可)は、非ヒト種の可変ドメイン(複数可)に融合される。ヒト化抗体の作り方の例は、米国特許第6,054,297号、同第5,886,152号及び同第5,877,293号に見いだすことができる。
【0045】
本明細書で使用されるとき、「Fc」領域という用語は、抗体のC
H2及びC
H3ドメインを含む2つの重鎖断片を含む。2つの重鎖断片は、2つ以上のジスルフィド結合により、及びC
H3ドメインの疎水性相互作用により1つに結合される。抗原結合タンパク質及びFc融合タンパク質を含む、Fc領域を含む目的のタンパク質は、本開示の別の態様を形成する。
【0046】
「ヘミボディ(hemibody)」は、完全重鎖、完全軽鎖及び完全重鎖のFc領域と対合する第二の重鎖Fc領域を含む、免疫学的機能性免疫グロブリン構築物である。リンカーは、重鎖Fc領域及び第二の重鎖Fc領域を接合するために採用されることができるが、必ずしもそうである必要はない。特定の実施形態では、ヘミボディは、本明細書に開示の抗原結合タンパク質の一価形態である。他の実施形態では、荷電残基対を採用して、1つのFc領域を第二のFc領域と会合させることができる。ヘミボディは、本開示の文脈において目的のタンパク質であることができる。
【0047】
「宿主細胞」という用語は、核酸配列で形質転換しているまたは形質転換することが可能であり、それにより目的の遺伝子を発現する細胞を意味する。本用語は、親細胞の子孫を含み、目的の遺伝子が存在している限り、子孫が、元の親細胞と同一の形態学または遺伝子構造であるかどうかにかかわらない。細胞培養物は、1つまたは複数の宿主細胞を含むことができる。
【0048】
「ハイブリドーマ」という用語は、不死化細胞と抗体産生細胞の融合から生じる細胞または細胞の子孫を意味する。結果得られるハイブリドーマは、抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを作成するために使用される個別の細胞は、ハムスター、ラット、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、及びヒトを含むが、これらに限定されない任意の哺乳類源からであることができる。本用語は、ヒト細胞とマウス骨髄腫細胞株間の融合の産物である、ヘテロハイブリッド骨髄腫融合物の子孫が、その後形質細胞と融合したときに結果得られる、トリオーマ細胞株も包含する。本用語は、例えば、クアドローマなどの、抗体を産生する任意の不死化されたハイブリッド細胞株を含むものとする(例えば、Milstein et al.,(1983)Nature,537:3053を参照されたい)。
【0049】
「培養物」及び「細胞培養物」という用語は、互換可能に使用され、細胞集団の生存及び/または増殖に好適な条件下の培地内で維持される細胞集団を指す。当業者に明らかになるように、これらの用語は、細胞集団及び集団が懸濁される培地を含む組み合わせも指す。
【0050】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語(例えば、目的のタンパク質または目的のポリペプチドの文脈において使用されるとき)は、本明細書で互換可能に使用されて、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に生じるアミノ酸の類似体または模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に生じるアミノ酸ポリマーにも適用される。本用語は、例えば、炭水化物残基の付加によって、糖タンパク質を形成するように修飾されているか、またはリン酸化されているアミノ酸ポリマーも包含することができる。ポリペプチド及びタンパク質は、天然に生じる及び非組換え細胞により生成することができるか、またはポリペプチド及びタンパク質は、遺伝子操作または組換え細胞により生成することができる。ポリペプチド及びタンパク質は、天然タンパク質のアミノ酸配列を有する分子、または天然配列の1つまたは複数のアミノ酸からの欠失、そこへの付加及び/またはその置換を有する分子を含むことができる。
【0051】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、天然に生じるアミノ酸のみを含む分子、ならびに非天然に生じるアミノ酸を含む分子を包含する。非天然に生じるアミノ酸(所望により、本明細書に開示される任意の配列に見られる任意の天然に生じるアミノ酸と置換することができる)の例には、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、ε−N,N,N−トリメチルリジン、ε−N−アセチルリジン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、σ−N−メチルアルギニン、及び他の同様のアミノ酸及びイミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン)が挙げられる。本明細書に使用されるポリペプチドの表記において、標準的な慣用及び慣例に従って、左手方向はアミノ末端方向であり、右手方向はカルボキシル末端方向である。
【0052】
タンパク質またはポリペプチド配列に挿入することができるか、またはタンパク質またはポリペプチド配列内の野生型残基と置換することができる、非天然に生じるアミノ酸の例の非限定的なリストには、β−アミノ酸、ホモアミノ酸、環状アミノ酸、及び誘導体化側鎖を有するアミノ酸が挙げられる。例には(L型またはD型;括弧内に略記して):シトルリン(Cit)、ホモシトルリン(hCit)、Nα−メチルシトルリン(NMeCit)、Nα−メチルホモシトルリン(Nα−MeHoCit)、オルニチン(Orn)、Nα−メチルオルニチン(Nα−MeOrnまたはNMeOrn)、サルコシン(Sar)、ホモリジン(hLysまたはhK)、ホモアルギニン(hArgまたはhR)、ホモグルタミン(hQ)、Nα−メチルアルギニン(NMeR)、Nα−メチルロイシン(Nα−MeLまたはNMeL)、N−メチルホモリジン(NMeHoK)、Nα−メチルグルタミン(NMeQ)、ノルロイシン(Nle)、ノルバリン(Nva)、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(Tic)、オクタヒドロインドール−2−カルボン酸(Oic)、3−(1−ナフチル)アラニン(1−Nal)、3−(2−ナフチル)アラニン(2−Nal)、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(Tic)、2−インダニルグリシン(IgI)、パラ−ヨードフェニルアラニン(pI−Phe)、パラ−アミノフェニルアラニン(4AmPまたは4−Amino−Phe)、4−グアニジノフェニルアラニン(Guf)、グリシルリジン(「K(Nε−glycyl」または「K(glycyl)」または「K(gly)」と略記される)、ニトロフェニルアラニン(nitrophe)、アミノフェニルアラニン(aminopheまたはAmino−Phe)、ベンジルフェニルアラニン(benzylphe)、γ−カルボキシグルタミン酸(γ−carboxyglu)、ヒドロキシプロリン(hydroxypro)、p−カルボキシル−フェニルアラニン(Cpa)、α−アミノアジピン酸(Aad)、Nα−メチルバリン(NMeVal)、N−α−メチルロイシン(NMeLeu)、Nα−メチルノルロイシン(NMeNle)、シクロペンチルグリシン(Cpg)、シクロへキシルグリシン(Chg)、アセチルアルギニン(acetylarg)、α,β−ジアミノプロピオン酸(diaminopropionoic acid)(Dpr)、α,γ−ジアミノ酪酸(Dab)、ジアミノプロピオン酸(Dap)、シクロへキシルアラニン(Cha)、4−メチル−フェニルアラニン(MePhe)、β,β−ジフェニル−アラニン(BiPhA)、アミノ酪酸(Abu)、4−フェニル−フェニルアラニン(またはビフェニルアラニン、4Bip)、α−アミノ−イソ酪酸(Aib)、β−アラニン、β−アミノプロピオン酸、ピペリジン酸、アミノカプロン酸、アミノヘプタン酸、アミノピメリン酸、デスモシン、ジアミノピメリン酸、N−エチルグリシン、N−エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、アロ−ヒドロキシリジン、イソデスモシン、アロ−イソロイシン、N−メチルグリシン、N−メチルイソロイシン、N−メチルバリン、4−ヒドロキシプロリン(Hyp)、γ−カルボキシグルタミン酸、ε−N,N,N−トリメチルリジン、ε−N−アセチルリジン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、ω−メチルアルギニン、4−アミノ−O−フタル酸(4APA)、及び他の類似のアミノ酸、及び具体的に列挙されたもののいずれかの誘導体化形態が含まれる。
【0053】
「細胞培養」または「培養」は、多細胞生物または組織の外での細胞の増殖及び繁殖を意味する。哺乳類細胞に好適な培養条件は、当技術分野において既知である。例えば、Animal cell culture:A Practical Approach,D.Rickwood編,Oxford University Press,New York(1992)を参照されたい。哺乳類細胞は、懸濁液中で、または固体基質に付着している間に培養され得る。マイクロキャリアの有無にかかわらず、流動床バイオリアクター、中空糸バイオリアクター、ローラーボトル、振盪フラスコ、または攪拌槽バイオリアクターを使用することができる。一実施形態では、500Lから2000Lのバイオリアクターが使用される。一実施形態では、1000Lから2000Lのバイオリアクターが使用される。
【0054】
「細胞培養培地(cell culturing medium)」(「培養培地」、「細胞培養培地(cell culture media)」、「組織培養培地」とも称される)という用語は、細胞、例えば、動物または哺乳類細胞を増殖させるために使用される任意の栄養溶液を指し、一般に以下からの少なくとも1つまたは複数の成分を提供する:エネルギー源(通常は、グルコースなどの炭水化物の形態で);全ての必須アミノ酸のうちの1つまたは複数、及び一般的に、20種の基本的なアミノ酸と、システイン;ビタミン及び/または典型的に低濃度で必要とされる他の有機化合物;脂質または遊離脂肪酸;及び微量元素、例えば、典型的には非常に低い濃度、通常マイクロモルの範囲内で、必要とされる無機化合物または天然に生じる元素。
【0055】
栄養溶液は、任意選択的に、細胞の増殖を最適化するための追加の任意の成分、例えばホルモン及び他の増殖因子、例えば、インスリン、トランスフェリン、上皮成長因子、血清など;塩、例えば、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩、及び緩衝液、例えば、HEPES;ヌクレオシド及び塩基、例えば、アデノシン、チミジン、ヒポキサンチン;及びタンパク質及び組織加水分解物、例えば、加水分解動物性タンパク質または加水分解植物性タンパク質(ペプトンまたはペプトン混合物、これらは動物副産物、精製されたゼラチンまたは植物性材料から得ることができる);抗生物質、例えば、ゲンタマイシン;細胞保護剤または界面活性剤、例えばPluronic(登録商標)F68(Lutrol(登録商標)F68及びKolliphor(登録商標)P188とも称される;ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2本の親水性鎖が隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中心疎水性鎖からなる非イオン性トリブロックコポリマー;ポリアミン、例えば、プトレシン、スペルミジン及びスペルミン(例えば、WIPO公開番号WO2008/154014を参照されたい)及びピルビン酸塩(例えば、米国特許第8053238号を参照されたい)を、培養される細胞の要件及び/または所望の細胞培養パラメータに応じて補充され得る。
【0056】
細胞培養培地は、限定されないが、細胞の、バッチ、拡張バッチ、流加及び/または灌流または連続培養などの、任意の細胞培養プロセスにおいて典型的に採用される及び/または任意の細胞培養プロセスで使用されると知られているものを含む。
【0057】
「基本」の(またはバッチ)細胞培養培地は、典型的に、細胞培養を開始するために使用され、細胞培養を支持するのに十分に完全である細胞培養培地を指す。
【0058】
「増殖」細胞培養培地は、典型的に、対数増殖の期間である「増殖期」中の細胞培養において使用され、この期間に細胞培養を支持するのに十分に完全である、細胞培養培地を指す。増殖細胞培養培地は、宿主細胞株に組み込まれる選択可能なマーカーに耐性または生存を与える選択剤も含有し得る。そのような選択剤には、ジェネテシン(G4118)、ネオマイシン、ハイグロマイシンB、ピューロマイシン、ゼオシン、メチオニンスルホキシイミン、メトトレキサート、無グルタミン細胞培養培地、グリシンを欠く細胞培養培地、ヒポキサンチン及びチミジン、またはチミジン単独が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
「産生」細胞培養培地は、典型的に、「遷移」期及び/または「産生」期である、対数増殖が終わりタンパク質産生に引き継ぐときの遷移中の細胞培養において使用され、この期間に所望の細胞密度、生存能及び/または産生物の力価を維持するのに十分に完全である細胞培養培地を指す。
【0060】
「灌流」細胞培養培地は、典型的に、灌流または連続培養法により維持される細胞培養において使用され、このプロセス中の細胞培養を支持するのに十分に完全である細胞培養を指す。灌流細胞培養培地製剤は、使用済み培地を除去するために使用される方法を適応させるために基礎細胞培養培地製剤より濃厚であるまたはより濃縮されていてよい。灌流細胞培養培地は、増殖期及び産生期の両方の最中に使用されることができる。
【0061】
濃縮された細胞培養培地は、細胞培養を維持するに必要な栄養分のいくつかまたは全てを含有することができる;具体的には、濃縮された培地は、細胞培養の産生期の経過中に消費されると同定されているまたは知られている栄養分を含有することができる。濃縮培地は、ほぼ全ての細胞培養培地製剤に基づいてよい。そのような濃縮された供給培地は、細胞培養培地のいくつかまたは全ての成分を、それらの通常量の、例えば約2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、400倍、600倍、800倍、またはさらに約1000倍で含有することができる。
【0062】
細胞培養培地を調製するために使用される成分は、粉末培地製剤へと完全に粉砕され得る;必要に応じて細胞培養培地に液体補助剤を添加して部分的に粉砕され得る;または完全に液体形態で細胞培養に添加され得る。
【0063】
細胞培養物はまた、製剤化するのが難しいまたは細胞培養物内ですぐに枯渇し得る特定の栄養分の独立した濃縮供給を補給されることができる。そのような栄養分は、チロシン、システイン及び/またはシスチンなどのアミノ酸であり得る(例えば、WIPO公開第2012/145682を参照されたい)。一実施形態では、細胞培養物内のチロシンの濃度が8mMを超えないように、チロシンを含有する細胞培養培地内で増殖する細胞培養物に、チロシンの濃縮溶液が独立して供給される。別の実施形態では、チロシン、シスチンまたはシステインを欠く細胞培養培地内で増殖している細胞培養物にチロシン及びシスチンの濃縮溶液が供給される。独立供給は、産生期の前または開始時に始めることができる。独立供給は、濃縮供給培地と同じまたは異なる日に細胞培養培地に流加することにより達成されることができる。独立供給は、灌流培地と同じまたは異なる日に灌流されることもできる。
【0064】
「無血清」は、ウシ胎仔血清などの動物血清を含有しない細胞培養培地に適用される。定義された培養培地を含む様々な組織培養培地が市販されており、中でも、例えば、以下の細胞培養培地:RPMI−1640培地、RPMI−1641培地、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地、F−12K培地、ハムF12培地、イスコブ変法ダルベッコ培地、マッコイ5A培地、ライボビッツL−15培地、及びEX−CELL(商標)300シリーズ(JRH Biosciences、カンザス州レネックサ)などの無血清培地のうちのいずれか1つまたはそれらの組み合わせを使用することができる。そのような培養培地の無血清バージョンも利用可能である。細胞培養培地は、培養される細胞の要件及び/または所望の細胞培養パラメータに応じて、アミノ酸、塩、糖類、ビタミン、ホルモン、増殖因子、緩衝液、抗生物質、脂質、微量元素などの追加の成分または増加した濃度の成分を補充され得る。
【0065】
「バイオリアクター」という用語は、細胞培養物の増殖に有用な任意の容器を意味する。本開示の細胞培養物は、バイオリアクター内で増殖することができ、それはバイオリアクター内での細胞増殖により産生される目的のタンパク質の適用性に基づいて選択されることができる。バイオリアクターは、細胞の培養に有用である限り、任意のサイズであることができ;典型的に、バイオリアクターは、その内側で増殖している細胞培養物の体積に適切なサイズである。典型的に、バイオリアクターは、少なくとも1リットルであり得、2、5、10、50、100、200、250、500、1,000、1500、2000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットルまたはそれ以上、またはこの間の任意の容量であり得る。pH及び温度を含むがこれらに限定されないバイオリアクターの内部条件は、培養期間中、制御されることができる。当業者は、関連する考察に基づき、本発明の実施における使用に好適なバイオリアクターに気づき、それを選択することが可能であるだろう。
【0066】
「細胞密度」は、培養培地の所与の体積内の細胞の数を指す。「生存細胞密度」は、培養培地の所与の体積内の生きている細胞の数を指し、これは標準的な生存率アッセイ(トリパンブルー色素排除法など)により決定される。
【0067】
「細胞生存能」という用語は、培養中の細胞が所与のセットの培養条件下または実験変動下で生存する能力を意味する。本用語は、その時に培養内で生きている及び死んでいる細胞の総数に関連して特定の時に生きている細胞のその部分も指す。
【0068】
「血中血球容積」(PCV)は、「血中血球容積率(%)」(PCV率(%))とも称され、細胞培養物の総体積に対して細胞が占める体積の比率であり、割合(%)で表現される(Stettler,et al.,(2006)Biotechnol Bioeng.Dec 20:95(6):1228−33を参照されたい)。血中血球容積は、細胞密度及び細胞直径の関数であり;血中血球容積における増加は、細胞密度または細胞直径のいずれかまたは両方における増加から生じ得る。血中血球容積は、細胞培養物における固形分の尺度である。固形物は、回収及び下流の精製ステップ中に取り除かれる。より多くの固形物は、回収及び下流の精製ステップ中に所望の産生物から固形材料を分離するためのより多くの努力を意味する。また、所望の産生物は、固形物内に捕捉され回収プロセス中に失われ得、結果として産生物収率の低減がもたらされ得る。宿主細胞のサイズが変動し、細胞培養物が死細胞及び死にかけている細胞及び他の細胞残屑も含有するため、血中血球容積は、細胞密度または生存細胞密度より、細胞培養物内の固形分を説明するのに正確な方法である。例えば、50×10
6細胞/mlの細胞密度を有する2000L培養物は、細胞のサイズに依存して大いに異なる血中血球容積を有するだろう。加えて、増殖停止状態にあるとき、いくつかの細胞は、サイズが増大し得、細胞のサイズ増大の結果としてバイオマスを増加させるために、増殖停止前及び増殖停止後の血中血球容積は異なる可能性が高いだろう。
【0069】
「増殖停止」は、「細胞増殖停止」とも称され得、細胞の数における増加が停止する点または細胞周期がもはや進行しないときである。増殖停止は、細胞培養物の生存細胞密度を決定することによりモニターすることができる。増殖停止状態にあるいくつかの細胞は、サイズが増大し得るが数は増大せず、ゆえに増殖停止した培養物の血中血球容積は増加し得る。増殖停止は、細胞の健康状態が低下しない場合、増殖停止をもたらす条件を逆転させることにより、ある程度逆転し得る。
【0070】
「力価」という用語は、所与の量の培地体積中で細胞培養により産生された目的のポリペプチドまたはタンパク質(天然に生じる目的のタンパク質または組換えられた目的のタンパク質であり得る)の総量を意味する。力価は、培地のミリリットル(または体積のほかの尺度)あたりのポリペプチドまたはタンパク質のミリグラムまたはマイクログラムの単位で表すことができる。「累積力価」は、培養の経過中に細胞により産生された力価であり、例えば、日々の力価を測定し、それらの値を使用して累積力価を算出により決定することができる。
【0071】
「流加培養」という用語は、懸濁培養の形態を指し、培養プロセスを開始した後の時点(複数可)で培養に追加の成分が提供される細胞を培養する方法を意味する。提供される成分は、典型的には、培養プロセス中に枯渇している細胞のための栄養補助剤を含む。加えてまたはあるいは、追加の成分は補助成分(例えば、細胞周期阻害化合物)を含み得る。流加培養は、典型的にはある時点で停止され、培地内の細胞及び/または成分は回収され任意選択的に精製される。
【0072】
「積算生存細胞密度(integrated viable cell density)」または「IVCD」という用語は、互換可能に使用され、培養の経過にわたる生存細胞の平均密度に培養運転時間の量を掛けたものを意味する。
【0073】
「累積生存細胞密度」(CVCD)は、2つの時点間の平均生存細胞密度(VCD)とその2つの時点間の時間分を掛けることにより算出される。CVCDは、時間に対してVCDをプロットすることにより形成される曲線下面積である。
【0074】
細胞培養プロセスの説明
組換えタンパク質産生中、所望の密度まで細胞が増殖し、次いで細胞の生理学的状態が、増殖停止した、より多くの細胞を作成する代わりに目的の組み換えタンパク質を産生するために細胞がエネルギーと基質を使用する高生産性状態に切り替えられる、制御システムを有することが望ましい。この目的を達成するための様々な方法が存在し、それには温度変化及びアミノ酸飢餓、ならびに細胞周期阻害剤または細胞死を引き起こさずに細胞増殖を停止することができる他の分子の使用が含まれる。
【0075】
組換えタンパク質の産生は、培養プレート、フラスコ、管、バイオリアクターまたは他の好適な容器内で、該タンパク質を発現する細胞の哺乳類細胞産生培養を確立することで始まる。より小さい産生バイオリアクターが典型的に使用され、一実施形態では、バイオリアクターは500Lから2000Lである。別の実施形態では、1000L〜2000Lのバイオリアクターが使用される。バイオリアクターに播種するために使用される種細胞密度は、産生される組換えタンパク質のレベルに正の影響を与え得る。一実施形態では、バイオリアクターは、無血清培養培地中、少なくとも0.5×10
6から3.0×10
6生存細胞/mL以上まで及びそれを超えて播種される。別の実施形態では、播種は、1.0×10
6生存細胞/mLである。
【0076】
次いで、哺乳類細胞は、対数増殖期を経る。細胞培養物は、所望の細胞密度が達成されるまで補充供給なしに維持されることができる。一実施形態では、細胞培養物は、補充供給があってもなくても最大3日まで維持される。別の実施形態では、培養物は、短い増殖期を伴わずに産生期を開始するために所望の細胞密度で播種されることができる。本明細書に記載の任意の実施形態では、増殖期から産生期への切り替えは、任意の前述の方法によって開始されることもできる。
【0077】
増殖期と産生期との間の遷移時、及び産生期中では、血中血球容積率(%)(PCV率(%))は、35%以下である。産生期中に維持される所望の血中血球容積は、35%以下である。一実施形態では、血中血球容積は、30%以下である。別の実施形態では、血中血球容積は、20%以下である。なおも別の実施形態では、血中血球容積は、15%以下である。さらなる実施形態では、血中血球容積は、10%以下である。
【0078】
増殖期と産生期との間の遷移時での所望の生存細胞密度であり、かつ産生期中に維持される生存細胞密度は、プロジェクトに応じて様々であることができる。過去のデータからの同等の血中血球容積に基づいて決定することができる。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10
6生存細胞/mLから80×10
6生存細胞/mLである。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10
6生存細胞/mLから70×10
6生存細胞/mLである。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10
6生存細胞/mLから60×10
6生存細胞/mLである。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10
6生存細胞/mLから50×10
6生存細胞/mLである。一実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10
6生存細胞/mLから40×10
6生存細胞/mLである。別の実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10
6生存細胞/mLから30×10
6生存細胞/mLである。別の実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約10×10
6生存細胞/mLから20×10
6生存細胞/mLである。別の実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約20×10
6生存細胞/mLから30×10
6生存細胞/mLである。別の実施形態では、生存細胞密度は、少なくとも約20×10
6生存細胞/mLから少なくとも約25×10
6生存細胞/mL、または少なくとも約20×10
6生存細胞/mLである。
【0079】
産生期中のより少ない血中血球容積は、より高い細胞密度の灌流培養を妨害し得る溶存酸素散布問題を軽減するのに役立つ。より少ない血中血球容積は、より小さい培地保存容器の使用を可能にするより小さい培地体積も可能にし、より遅い流量と組み合わせられ得る。より少ない血中血球容積は、より高い細胞バイオマス培養物と比較して、回収及び下流処理への影響も少ない。これらは全て、組換えタンパク質治療薬の製造に関連する費用を減少させる。
【0080】
典型的には、哺乳類細胞培養による組換えタンパク質の産生のための商業的プロセスにおいて、3つの方法:バッチ培養、流加培養、及び灌流培養が使用される。バッチ培養とは、細胞を固定体積の培養培地中で短期間増殖させ、その後、完全に回収する不連続な方法である。バッチ法を用いて増殖させた培養物は、最大細胞密度に達するまで細胞密度の増加を経験し、その後、培地成分が消費され、代謝副産物(乳酸塩及びアンモニア等)のレベルが蓄積するにつれて生存細胞密度が減退する。回収は、典型的には、最大細胞密度(培地製剤、細胞株等に応じて、典型的には、5〜10×10
6細胞/mL)が達成された時点で生じる。バッチプロセスは、最も単純な培養方法であるが、しかしながら生存細胞密度は、栄養分利用能によって制限され、細胞が一度最大密度になると、培養は減退し、産生が低減する。廃棄産物の蓄積及び栄養枯渇が培養減退に迅速につながるため(典型的には、約3〜7日)、産生期を延長する能力はない。
【0081】
流加培養は、ボーラスまたは連続的な培地供給を提供して、消費されたそれらの培地成分を補給することによって、バッチプロセスを改善する。流加培養が運転期間を通して追加の栄養分を受容するため、バッチ法と比較したとき、より高い細胞密度(培地製剤、細胞株等に応じて、10超〜30×10
6細胞/mL)及び産生力価の増加を達成する可能性がある。バッチプロセスとは異なり、所望の細胞密度を達成するための細胞増殖の期間(増殖期)を、中止したまたは遅い細胞増殖の期間(産生期)から区別するように供給戦略及び培地製剤を操作することにより二相培養を作製及び持続することができる。したがって、流加培養は、バッチ培養と比較して、より高い産生力価を達成する可能性を有する。典型的には、バッチ法は増殖期中に使用され、流加法は産生期中に使用されるが、流加供給戦略は、全プロセスを通して使用することができる。しかしながら、バッチプロセスとは異なり、バイオリアクター容量は、供給の量を制限する制限因子である。また、バッチ法と同様に、代謝副産物の蓄積は、約1.5〜3週間に産生期の期間を制限する培養減退につながるだろう。流加培養は不連続であり、回収は、典型的には、代謝副産物レベルまたは培養物生存能が所定のレベルに達したときに生じる。供給が生じないバッチ培養と比較したとき、流加培養は、より多くの量の組換えタンパク質を産生することができる。例えば、米国特許第5,672,502号を参照されたい。
【0082】
灌流法は、新鮮な培地を添加し、同時に使用済みの培地を除去することによって、バッチ法及び流加法に対する改善の可能性を提供する。典型的な大規模の商業的な細胞培養戦略は、リアクター容量のほぼ1/3〜1/2超がバイオマスである高い細胞密度(60〜90(+)×10
6細胞/mL)に達することを目指す。灌流培養により、1×10
8細胞/mLを超える非常に高い細胞密度が達成されており、さらにより高い密度が予想される。典型的な灌流培養は、1日間または2日間続くバッチ培養スタートアップで始まり、その後、培養物に新鮮な供給培地を連続的、段階的、及び/または断続的に添加し、使用済みの培地を同時に除去し、培養の増殖期及び産生期を通して、細胞及びタンパク質などの追加の高分子量化合物を保持する(フィルタ分子量カットオフに基づく)。沈降、遠心分離、または濾過などの様々な方法を用いて、細胞密度を維持しながら使用済みの培地を除去することができる。1日当たりのわずかの作業量〜1日当たり多くの複数作業量までの灌流流量が報告されている。
【0083】
灌流プロセスの利点は、産生培養がバッチ培養法または流加培養法よりも長期間維持されることである。しかしながら、培地調製、使用、保存、及び廃棄の増加が、長期の灌流培養、特に高細胞密度での灌流培養を支持するのに必要であり、これはさらにより多くの栄養分も必要とし、この全てが、バッチ法及び流加法と比較して、産生コストをさらに高くする。加えて、より高い細胞密度は、溶存酸素レベルの維持、及びより多くの発泡及び消泡戦略への変更の必要性をもたらし得る、より多くの酸素の供給及びより多くの二酸化炭素の除去を含むガス処理の増加に関連する問題等の産生中の問題;ならびに、過剰な細胞物質の除去に必要とされる努力が産生物の損失をもたらし得るという回収及び下流処理中の問題を引き起こし得、細胞塊の増加のために増加する力価の利益を打ち消し得る。
【0084】
増殖期中の流加供給、それに続く産生期中の連続灌流を組み合わせる大規模な細胞培養戦略も提供する。本方法は、細胞培養が35%以下の血中血球容積で維持される産生期を標的とする。
【0085】
一実施形態では、ボーラス供給を伴う流加培養は、増殖期中の細胞培養を維持するために使用される。次いで、灌流供給は産生期中に使用することができる。一実施形態では、灌流は、細胞が産生期に達したときに開始される。別の実施形態では、灌流は、細胞培養の3日目またはその前後から9日目またはその前後で開始される。別の実施形態では、灌流は、細胞培養の5日目またはその前後から7日目またはその前後で開始される。
【0086】
増殖期中にボーラス供給を使用することで、細胞が産生期に遷移することが可能となり、結果として産生期を開始する及び制御する手段としての温度変化への依存が少なくなるが、しかしながら、36℃から31℃への温度変化が増殖期と産生期との間で起こり得る。一実施形態では、変化は36℃から33℃である。別の実施形態では、流加培養における細胞増殖停止の開始は、流加培養物を細胞周期阻害剤に暴露することにより開始される。別の実施形態では、流加培養における細胞増殖停止の開始は、細胞周期阻害剤を含む無血清灌流培地での灌流により達成することができる。
【0087】
本明細書に記載のように、バイオリアクターは、無血清培養培地中、少なくとも0.5×10
6から3.0×10
6以上までの生存細胞/mL、例えば1.0×106生存細胞/mLで播種されることができる。
【0088】
灌流培養は、細胞培養物が、同時に使用済みの培地を除去しながら新鮮な灌流供給培地を受容する培養である。灌流は、連続的、段階的、断続的、またはこれらのうちのいずれかまたはこれらのうちの全ての組み合わせであり得る。灌流量は、1日当たり1作業量未満〜多くの作業量であり得る。細胞は、培養物中に保持され、除去される使用済みの培地は、細胞を実質的に含まないか、または培養物よりもはるかに少ない細胞を有する。細胞培養によって発現される組換えタンパク質も、培養物中に保持されることができる。灌流は、遠心分離、沈降、または濾過を含むいくつかの手段によって達成されることができ、例えば、Voisard et al.,(2003),Biotechnology and Bioengineering 82:751−65を参照されたい。濾過方法の一例は、交互接線流濾過である。交互接線流は、中空糸フィルタモジュールを通して培地をポンピングすることによって維持される。例えば、米国特許第6,544,424号;Furey(2002)Gen.Eng.News.22(7),62−63を参照されたい。
【0089】
「灌流流量」は、バイオリアクターから通過する(添加する及び除去される)培地の量であり、典型的には、所与の時間内の、いくらかのまたは複数の作業量として表される。「作業量」は、細胞培養に使用されるバイオリアクター容量の量を指す。一実施形態では、灌流流量は、1日あたり1作業量またはそれ以下である。灌流供給培地は、灌流栄養分濃度を最大化し、灌流量を最小限にするように製剤化されることができる。
【0090】
細胞培養物は、細胞培養の産生期の経過中に消費される栄養分及びアミノ酸などの成分を含有する濃縮供給培地を補充されることができる。濃縮供給培地は、ほぼ全ての細胞培養培地製剤に基づき得る。そのような濃縮供給培地は、細胞培養培地の成分の大半を、その通常量の、例えば、約5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、400倍、600倍、800倍、またさらには約1000倍で含有することができる。濃縮供給培地は、しばしば流加培養プロセスにおいて使用される。
【0091】
本発明に係る方法を用いて、多段階培養プロセスにおける組換えタンパク質の産生を改善し得る。多段階プロセスでは、細胞は2つ以上の異なる段階において培養される。例えば、細胞は、まず細胞増殖及び生存能を最大化する環境条件下の1つまたは複数の増殖期において培養され、次いでタンパク質産生を最大化する条件下の産生期へと移行する。哺乳類細胞によるタンパク質の産生のための商業的プロセスでは、最終産生培養の前に異なる培養容器内で生じる、通常複数、例えば、少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9、または10の増殖期がある。
【0092】
増殖期及び産生期は、1つまたは複数の遷移期に先行されるか、またはそれによって分けられ得る。多段階プロセスにおいて、本発明に係る方法を、商業的な細胞培養の最終産生期の少なくとも増殖期及び産生期中に採用することができるが、先行する増殖期で採用してもよい。産生期は、大規模に行われることができる。大規模プロセスは、少なくとも約100、500、1000、2000、3000、5000、7000、8000、10,000、15,000、20,000リットルの容量で行うことができる。一実施形態では、産生は、500L、1000L、及び/または2000Lのバイオリアクター内で行われる。
【0093】
増殖期は、産生期よりも高い温度で生じ得る。例えば、増殖期は、約35℃〜約38℃の第一の温度で生じ得、産生期は、約29℃〜約37℃、任意選択的に、約30℃〜約36℃または約30℃〜約34℃の第二の温度で生じ得る。加えて、例えば、カフェイン、酪酸塩、及びヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)などのタンパク質産生の化学誘導物質は、温度変化と同時に、温度変化の前に、及び/または温度変化の後に添加され得る。誘導物質が温度変化後に添加される場合、それらは、温度変化の1時間〜5日間後、任意選択的に、温度変化の1〜2日後に添加され得る。細胞培養は、細胞が所望のタンパク質(複数可)を産生する間、数日間またはさらには数週間維持されることができる。
【0094】
細胞培養からの試料は、当技術分野で既知の解析技法のいずれかを用いてモニター及び評価することができる。組換えタンパク質及び培地の質及び特徴を含む様々なパラメータは、培養期間中モニターすることができる。試料を採取し、連続モニタリング、リアルタイム、ほぼリアルタイムを含む、所望の頻度で断続的にモニターすることができる。
【0095】
典型的には、最終産生培養前の細胞培養物(N−x〜N−1)を用いて、産生バイオリアクターであるN−1培養物に播種するために使用され得る種子細胞を生成する。種子細胞密度は、産生される組換えタンパク質のレベルに正の影響を有し得る。産生物レベルは、種子密度の増加とともに増加する傾向にある。力価における改善は、より高い種子密度に関連するだけでなく、産生される細胞の代謝及び細胞周期状態によっても影響される可能性が高い。
【0096】
種子細胞は、任意の培養方法により産生することができる。1つのかかる方法は、交互接線流濾過を用いる灌流培養である。N−1バイオリアクターは、交互接線流濾過を用いて稼働されて高密度で細胞を提供し産生バイオリアクターに播種することができる。N−1段階を使用して90×10
6細胞/mLを超える密度まで細胞を増殖し得る。N−1バイオリアクターを、ボーラス種子培養物を生成するために使用することができる、または複数の産生バイオリアクターに高い種子細胞密度で播種するために維持され得る回転種子ストック培養物として使用することができる。産生の増殖段階の期間は、7〜14日間まで変動し得、産生バイオリアクターの播種前に細胞を対数的増殖状態に維持するように指定することができる。灌流量、培地製剤及びタイミングは、細胞を増殖させ、それらの産生の最適化を最も助長する状態でそれらを産生バイオリアクターに送達するために最適化される。15×10
6細胞/mLを超える種子細胞密度は、産生バイオリアクターに播種するために達成されることができる。播種時のより高い種子細胞密度は、所望の産生密度に達するのに必要な時間を低減させるかまたは排除させることさえできる。
【0097】
本発明は、組換えタンパク質のグリコシル化の存在及び/または量の制御において特定の有用性を見出す。本発明において使用される細胞株(「宿主細胞」とも称される)は、商業的または化学的目的のポリペプチドを発現するように遺伝子操作されている。細胞株は、典型的には、培養内で無期限にわたって維持されることができる初代培養物から生じる系統から誘導される。細胞株を遺伝子操作することは、組換えポリヌクレオチド分子で細胞をトランスフェクトすること、形質転換すること、または形質導入すること、及び/またはそうでなければ宿主細胞に所望の組換えポリペプチドを発現させるように(例えば、非組換え細胞と組換え細胞との相同組換え及び遺伝子活性化または融合により)変化させることを必然的に含む。目的のポリペプチドを発現するように細胞及び/または細胞株を遺伝子操作するための方法及びベクターは、当業者に周知であり;例えば、様々な技術が、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.,編、(Wiley&Sons,New York,1988,及び4半期毎の更新物);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Laboratory Press,1989);Kaufman,R.J.,Large Scale Mammalian Cell Culture,1990,pp.15−69に示されている。
【0098】
動物細胞株は、その祖先が多細胞動物から誘導された細胞から誘導される。動物細胞株の1つのタイプは、哺乳類細胞株である。培養における増殖に好適な多種多様な哺乳類細胞株は、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(バージニア州マナサス)及び商業的供給者から入手可能である。当業界において一般的に使用される細胞株の例には、VERO、BHK、HeLa、CV1(Cosを含む)、MDCK、293、3T3、骨髄腫細胞株(例えば、NSO、NS1)、PC12、WI38細胞、及びチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が含まれる。CHO細胞は、複合組換えタンパク質、例えば、サイトカイン、凝固因子、及び抗体の産生に広く使用されている(Brasel et al.(1996),Blood 88:2004−2012;Kaufman et al.(1988),J.Biol Chem 263:6352−6362;McKinnon et al.(1991),J Mol Endocrinol 6:231−239;Wood et al.(1990),J.Immunol.145:3011−3016)。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠乏変異体細胞株(Urlaub et al.(1980),Proc Natl Acad Sci USA 77:4216−4220)、DXB11及びDG−44は、効率的なDHFR選択可能及び増幅可能な遺伝子発現系が、これらの細胞における高レベルの組換えタンパク質発現を可能にするために、望ましいCHO宿主細胞株である(Kaufman R.J.(1990),Meth Enzymol185:537−566)。加えて、これらの細胞は、接着または懸濁培養物として操作が容易であり、比較的良好な遺伝的安定性を呈する。CHO細胞及びそれらの中に組換え的に発現されるタンパク質は、広く特徴づけされており、規制当局により臨床商業的製造における使用が承認されている。
【0099】
別の態様では、本発明は、組換え発現ベクターが導入されている宿主細胞を提供する。宿主細胞は任意の原核生物細胞(例えば、大腸菌)または真核生物細胞(例えば、酵母、昆虫、または哺乳類細胞(例えば、CHO細胞))であることができる。ベクターDNAは、原核生物または真核生物細胞内に、従来の形質転換またはトランスフェクション技術を介して導入されることができる。多くのトランスフェクション方法が当技術分野で知られており、脂質(例えば、Lipofectamin(登録商標))、リン酸カルシウム、カチオンポリマー、DEAE−デキストラン、活性化デンドリマー及び磁性ビーズの使用を含む。追加のトランスフェクション方法は、機器ベースの技術を活用する。例として、エレクトロポレーション、微粒子銃技術、マイクロインジェクション、及び核酸を宿主細胞内に導入するために光(例えば、レーザー)を使用するレーザーフェクション(laserfection)/オプトインジェクション(optoinjection)が挙げられる。
【0100】
哺乳類細胞の安定したトランスフェクションのために、使用される発現ベクター及びトランスフェクション技術に応じて、ほんのわずかの細胞のみが外来性DNAをそのゲノム内に組み込み得ることが知られている。これらの組み込み体を同定及び選択するために、(例えば抗生物質に対する耐性について)選択可能なマーカーをコードする遺伝子を、通常、目的の遺伝子とともに宿主細胞内に導入する。好ましい選択可能マーカーには、G418、ハイグロマイシン及びメトトレキサートなどの、薬物に耐性を与えるものが含まれる。他の方法のなかでも、導入された核酸と安定的にトランスフェクトされる細胞を、薬物選択により同定することができる(例えば、ほかの細胞が死亡する一方で、選択可能マーカー遺伝子を組み込んでいる細胞は生存する)。
【0101】
目的のタンパク質
本発明の方法は、目的の組換えタンパク質を発現する細胞を培養するために使用することができる。発現された組換えタンパク質は、回復及び/または採取されることができる培養培地に分泌され得る。加えて、タンパク質は、そのような培養物または成分から(例えば、培養培地から)、既知のプロセス及び商業的供給者から入手可能な製品を使用して精製または部分的に精製されることができる。次いで、精製されたタンパク質は「製剤化」されることができ、これは、緩衝液が交換され、滅菌され、バルク包装され、及び/または最終使用者用に包装されることを意味する。医薬組成物に好適な製剤には、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第18版.1995,Mack Publishing Company,Easton,PAに記載の製剤が含まれる。
【0102】
本発明の方法で産生することができるポリペプチドの例には、以下のタンパク質のうちの1つの全てまたは一部と同一であるまたは実質的に類似するアミノ酸配列を含むタンパク質が含まれる:腫瘍壊死因子(TNF)、flt3リガンド(WO94/28391)、エリトロポエチン、トロンボポエチン、カルシトニン、IL−2、アンジオポエチン−2(Maisonpierre et al.(1997)、Science 277(5322):55−60)、NF−κBの受容体活性化因子のリガンド(RANKL、WO01/36637)、腫瘍壊死因子(TNF)関連アポトーシス誘発リガンド(TRAIL、WO97/01633)、胸腺間質由来リンホポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF、豪国特許第588819号)、マスト細胞増殖因子、幹細胞増殖因子(米国特許第6,204,363号)、上皮成長因子、ケラチノサイト成長因子、巨核球増殖分化因子、RANTES、ヒトフィブリノゲン様2タンパク質(FGL2;NCBI受託番号.NM_00682;Ruegg and Pytela(1995)、Gene 160:257−62)成長ホルモン、インスリン、インスリノトロピン(insulinotropin)、インスリン様成長因子、副甲状腺ホルモン、α−インターフェロン、γ−インターフェロン、及びコンセンサスインターフェロンを含むインターフェロン(米国特許第4,695,623号及び同第4,897,471号)、神経成長因子、脳由来神経栄養因子、シナプトタグミン様タンパク質(SLP1−5)、ニューロトロフィン−3、グルカゴン、インターロイキン、コロニー刺激因子、リンホトキシン−β、白血病抑制因子、及びオンコスタチン−M。本発明の方法に従って産生することができるタンパク質の説明は、例えば、Human Cytokines:Handbook for Basic and Clinical Research,全巻(Aggarwal and Gutterman,編.Blackwell Sciences,Cambridge,MA,1998);Growth Factors:A Practical Approach(McKay and Leigh,編、Oxford University Press Inc.,New York,1993);及びThe Cytokine Handbook,第1及び2巻(Thompson and Lotze編,Academic Press,SanDiego,CA,2003)内に見出され得る。
【0103】
さらに、本発明の方法は、上記のタンパク質のいずれかの受容体のアミノ酸配列の全てまたは一部を含むタンパク質、かかる受容体または上記のタンパク質のいずれかに対するアンタゴニスト、及び/またはかかる受容体またはアンタゴニストに実質的に類似するタンパク質を産生するのに有用であるだろう。これらの受容体及びアンタゴニストには:両形態の腫瘍壊死因子受容体(TNFR、p55及びp75と称される、米国特許第5,395,760号及び米国特許第5,610,279号)、インターロイキン−1(IL−1)受容体(I型及びII型;欧州特許第0460846号、米国特許第4,968,607号、及び米国特許第5,767,064号)、IL−1受容体アンタゴニスト(米国特許第6,337,072号)、IL−1アンタゴニストまたは阻害剤(米国特許第5,981,713号、同第6,096,728号、及び同第5,075,222号)IL−2受容体、IL−4受容体(欧州特許第0367566号及び米国特許第5,856,296号)、IL−15受容体、IL−17受容体、IL−18受容体、Fc受容体、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子受容体、顆粒球コロニー刺激因子受容体、オンコスタチン−M及び白血病抑制因子の受容体、NF−κB受容体活性化因子(RANK、WO01/36637及び米国特許第6,271,349号)、オステオプロテゲリン(米国特許第6,015,938号)、TRAILの受容体(TRAIL受容体1、2、3、及び4を含む)、及びFasまたはアポトーシス誘発受容体(AIR)などの死ドメインを含む受容体が含まれる。
【0104】
本発明を使用して産生することができる他のタンパク質は、分化抗原(CDタンパク質と称される)のアミノ酸配列の全てまたは一部を含むタンパク質またはそのリガンドまたはこれらのいずれかに実質的に類似するタンパク質を含む。かかる抗原は、Leukocyte Typing VI(Proceedings of the VIth International Workshop and Conference,Kishimoto,Kikutani et al.,編、Kobe,Japan,1996)に開示されている。同様のCDタンパク質が、それに続くワークショップにおいて開示されている。そのような抗原の例には、CD22、CD27、CD30、CD39、CD40、及びそれらに対するリガンド(CD27リガンド、CD30リガンド、等)が含まれる。CD抗原のいくつかは、41BB及びOX40も含むTNF受容体ファミリーのメンバーである。リガンドは、多くの場合、TNFファミリーのメンバーであり、41BBリガンド及びOX40リガンドもそうである。
【0105】
酵素的に活性なタンパク質またはそれらのリガンドも、本発明を使用して産生することができる。例として、以下のタンパク質のうちの1つの全てまたは一部を含むタンパク質またはそのリガンドまたはこれらのうちの1つに実質的に類似するタンパク質を含む:TNF−α変換酵素を含むディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼドメインファミリーメンバー、種々のキナーゼ、グルコセレブロシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子、第VIII因子、第IX因子、アポリポ蛋白E、アポリポ蛋白A−I、グロビン、IL−2アンタゴニスト、α−1アンチトリプシン、上記の酵素のいずれかのリガンド、及び多くの他の酵素及びそれらのリガンド。
【0106】
産生されることができる抗体の例には、上記のタンパク質及び/または以下の抗原:CD2、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD14、CD18、CD20、CD22、CD23、CD25、CD33、CD40、CD44、CD52、CD80(B7.1)、CD86(B7.2)、CD147、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−7、IL−4、IL−5、IL−8、IL−10、IL−1受容体、IL−2受容体、IL−4受容体、IL−6受容体、IL−13受容体、IL−18受容体サブユニット、FGL2、PDGF−β及びその類似体(米国特許第5,272,064号及び同第5,149,792号を参照されたい)、VEGF、TGF、TGF−β2、TGF−β1、EGF受容体(米国特許第6,235,883号を参照されたい)VEGF受容体、肝細胞増殖因子、オステオプロテゲリンリガンド、インターフェロンγ、Bリンパ球刺激因子(BlyS、これはBAFF、THANK、TALL−1、及びzTNF4としても知られる;Do and Chen−Kiang(2002),Cytokine Growth Factor Rev.13(1):19−25を参照されたい)、C5補体、IgE、腫瘍抗原CA125、腫瘍抗原MUC1、PEM抗原、LCG(肺癌と関連して発現される遺伝子産物)、HER−2、HER−3、腫瘍関連糖タンパク質TAG−72、SK−1抗原、結腸癌及び/または膵癌を有する患者の血清内に上昇したレベルで提示される腫瘍関連エピトープ、乳房、結腸、扁平細胞、前立腺、膵臓、肺、及び/または腎臓癌細胞上で、及び/または黒色腫、神経膠腫、または神経芽細胞腫細胞上で発現される癌関連エピトープまたはタンパク質、腫瘍の壊死性コア、インテグリンアルファ4ベータ7、インテグリンVLA−4、インテグリン(アルファ4ベータ7を含むインテグリンを含む)、TRAIL受容体1、2、3、及び4、RANK、RANKリガンド、TNF−α、接着分子VAP−1、上皮細胞接着分子(EpCAM)、細胞間接着分子−3(ICAM−3)、ロイコインテグリン付着因子、血小板糖タンパク質gp IIb/IIIa、心筋ミオシン重鎖、副甲状腺ホルモン、rNAPc2(第VIIa因子組織因子の阻害剤)、MHCI、癌胎児性抗原(CEA)、アルファ−フェトプロテイン(AFP)、腫瘍壊死因子(TNF)、CTLA−4(細胞傷害性Tリンパ球関連抗原)、Fc−γ−1受容体、HLA−DR10ベータ、HLA−DR抗原、スクレロスチン、L−セレクチン、呼吸器合胞体ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、ミュータンスレンサ球菌、及び黄色ブドウ球菌を含むがこれらに限定されない、タンパク質のいずれか1つまたはタンパク質の組み合わせを認識するものが含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
本発明の方法を使用して産生することができる既知の抗体の特定の例には、アダリムマブ、ベバシズマブ、インフリキシマブ、アブシキシマブ、アレムツズマブ、バピネオズマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ブリアキヌマブ、ブロダルマブ、カナキヌマブ、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、コナツムマブ、デノスマブ、エクリズマブ、エトロリズマブ、エボロクマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、ラベツズマブ、マパツムマブ、マツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ムロモナブCD3、ナタリズマブ、ニモツズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、オレゴボマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムツモマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、ロベリズマブ、トシリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、ザルツムマブ、及びザノリムマブが含まれるが、これに限定されない。
【0108】
本発明を使用して、例えば、上記のタンパク質のいずれかを含む、組換え融合タンパク質を産生することもできる。例えば、上記のタンパク質の1つに加えて、多量体化ドメイン、例えばロイシンジッパー、コイルドコイル、免疫グロブリンのFc部分、または実質的に類似するタンパク質を含む組換え融合タンパク質を、本発明の方法を使用して産生することができる。例えば、WO94/10308;Lovejoy et al.(1993),Science 259:1288−1293;Harbury et al.(1993),Science 262:1401−05;Harbury et al.(1994),Nature 371:80−83;Hakansson et al.(1999),Structure 7:255−64を参照されたい。そのような組換え融合タンパク質の中でも具体的に含まれるものは、受容体の一部が、エタネルセプト(p75TNFR:Fc)アバタセプト及びベラタセプト(CTLA4:Fc)などの抗体のFc部分に融合されているタンパク質である。
【0109】
本発明は、本発明の個々の態様の1つの例として意図される本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲を限定されず、機能的に同等の方法及び構成要素は、本発明の範囲内である。実際に、本明細書に示され記載される変更に加え、本発明の様々な変更が、前述の説明及び添付の図面から当業者に明らかになるであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲内に入ることが意図される。
【実施例】
【0110】
実施例1
低レベルの高マンノース型(HM)発現を歴史的に呈した組換えヒト抗体(MAb A)を発現する、モノクローナル抗体産生チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株をsiRNA実験に使用した。細胞株は、DHFRベースの選択を使用してクローン的に誘導された;通例の培養については、細胞は、懸濁液内、メトトレキサート(MTX)を含有する選択培地内で培養された。培養物は、通気性125mLまたは250mLエルレンマイヤー振とうフラスコ(Corning Life Sciences、マサチューセッツ州ローウェル)または50mL通気性スピンチューブ(TPP、スイス、トラザーディンゲン)内で36℃、5%CO
2及び85%相対湿度で維持された。エルレンマイヤーフラスコを、120rpm、25mm軌道直径で大容量自動式CO
2インキュベーター(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)内で振とうし、スピンチューブを225rpm、50mm軌道直径で大容量ISF4−Xインキュベーター(Kuhner AG、スイス、バーゼル)内で振とうした。
【0111】
8つの異なる19mer siRNAを、Mgat1、Mgat2及びSlc35a2について試験した。siRNAは、製造業者のプロトコルに従ってLipofectamine(登録商標)RNAiMAX(Invitrogen;Life Technologies;核酸と複合し、核酸を有する細胞のトランスフェクションを促進する脂質ベースのトランスフェクション試薬)を使用してMAb A細胞株内へと一過性にトランスフェクトされた。簡潔には、細胞は、ウェルあたり2×10
5で、500マイクロリットル培地を有する6ウェルプレート(Corning)上に、トランスフェクション当日に播種された。トランスフェクションのために、10pmolのsiRNAを、100マイクロリットルOpti−Mem I培地中1.5マイクロリットルのLipofectamine RNAiMAXに複合し、室温で10分間インキュベートした。次いで、RNAi−Lipofectamine RNAiMax試薬複合体を各ウェルに添加した。プレートを3日間36℃でCO
2インキュベーター内でインキュベートした。細胞を1X溶解緩衝液(Affymetrix Inc.,カリフォルニア州サンタクララ)を使用して、50℃で1時間溶解した。溶解物を、FLEXMAP 3D(登録商標)システム(Luminex、テキサス州オースティン;タンパク質及びゲノムのマルチプレックスビーズアレイアッセイ)を使用するQuantiGene(登録商標)マルチプレックスアッセイによるmRNA発現解析のために使用した。
【0112】
mRNA発現解析のために、QuantiGene Plex2.0試薬システム(Affymetrix Inc.、カリフォルニア州サンタクララ)を活用した。簡潔には、5×10
5生存細胞由来の細胞ペレットを、プロテイナーゼK(原液濃度50mg/mL)を補充した1X溶解緩衝液(QS0100)(Affymetrix Inc.、カリフォルニア州サンタクララ)を使用して溶解し、50℃で1時間インキュベートした。細胞溶解物を、使用する際まで−80℃で保管した。Mgat1、Mgat2、及びSlc35a3を標的とするカスタマイズされた遺伝子特異的プローブセット、ならびに標準化遺伝子を使用した(Affymetrix,Inc.カリフォルニア州サンタクララ)。凍結された溶解物を、mRNA発現レベル解析のための標準的なAffymetrixプロトコルを使用して、解凍し処理した。
【0113】
データは、アッセイされたウェルあたり遺伝子あたり100ビーズからレポーター蛍光中央値を測定することから得られ、蛍光強度中央値(MFI)として表された。バックグラウンドシグナルを、ブランク試料から標的mRNAの非存在下で決定し、標的mRNAの存在下で得られたシグナルから引いた。目的の遺伝子の蛍光強度を2つのハウスキーピング遺伝子:GusB及びTBPに対して正規化した。
正規化率=(目的の遺伝子のMFI)/(ハウスキーピング遺伝子のMFI)
各標的RNAについてのアッセイの感受性は、シグナルがバックグラウンドを3標準偏差超えた標的濃度として定義される、検出限界(LOD)を決定することにより評価された。変動係数(CV)は、アッセイの精度を測定し、標準偏差と平均値の比率である。
【0114】
全ての試料は3重で行われ、溶解緩衝液はブランクとして使用した。試料をBio−Plex3Dプレートリーダー(Luminex Corporation)を用いて解析し、データはBio−Plex Data Manager5.0ソフトウェア(Bio−Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を使用して獲得した。
【0115】
各遺伝子について、有意なオフターゲット効果を伴わずに85%超のノックダウンを達成した2つのsiRNAを選択した。次いで、選択されたsiRNAを、MAb A細胞株内にトランスフェクトし、10日間の流加培養による抗体産生運転を実施した。流加産生試験では、細胞を3.5×10
5細胞/mLで産生培地内に播種した。3mL作業量を24ディープウェルプレート(Axygen Scientific、カリフォルニア州ユニオンシティ)内で、または25mL作業量を125mL通気性振とうフラスコ内で使用した。培養物に初回培養容量の7%の単回ボーラス供給を3、6、8日目に供給した。グルコースを10g/L標的に3、6及び8日目に供給した。遠心分離された馴化培地を産生運転の10日目に回収した。試料も、増殖、生存能及び代謝データについて3、6、8及び10日目に、力価及びHM解析について6、8及び10日目に採取した。
【0116】
細胞ペレット試料を、mRNA発現解析のために培養物から3、6、8、及び10日目に採取した;結果を下記の表1に示す。
【0117】
【表1】
【0118】
mRNA発現解析は、Mgat1及びMgat2転写レベルが10日間の産生運転にわたって50%超減少したことを示した。Slc35a2の発現レベルは、3日目から6日目で50%超減少したが、しかしながら8日目及び10日目までには7〜14%のみの減少が見られた。
【0119】
抗体力価及びHM率(%)は、流加の10日目に決定された。力価は、Waters UPLCを使用することにより、親和性プロテインA POROS PA IDセンサーカートリッジにより測定した。高マンノース型含量を、Caliper GX II HMアッセイ(Caliper Life Sciences Inc.、PerkinElmer社)を使用して、またはUPLC HILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー)(Acquity UPLC BEHグリカンカラムとともに使用されるUPLC蛍光(FLR)検出器を備えたWaters Acquity UPLC)を使用して測定した。結果を下記の表2に示す(結果は平均値±標準偏差として表す)。
【0120】
【表2】
【0121】
これらの結果の分析は、Mgat1siRNAで処理された細胞では、HMのレベルが70%増加し、一方でMgat2またはSlc35a2いずれかのノックダウンはHMに有意に影響しなかったことを示した。しかしながら、10日目までに、Slc35a2のレベルは対照値の90%まで回復し、そのためこの実験でHMの調節にこの遺伝子が果たす役割を除外することはできない。siRNA処理に伴う産生された抗体の力価における有意な変化は観察されなかった。さらには、siRNA処理は、生産性または細胞生存能に影響するようには見えず、これは減少したMgat1 mRNA発現とともに観察された増加したHMレベルが、低減したMgat1活性に直接関連する可能性があることを示す。
【0122】
実施例2
高レベル(すなわち、10%超)の高マンノース型グリカンを歴史的に呈した組換えヒト抗体(MAb B)を発現する、モノクローナル抗体産生チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株をトランスフェクション実験に使用した。細胞株は、DHFRベースの選択を使用してクローン的に誘導された;通例の培養については、細胞は懸濁液内、MTXを含有する選択培地内で培養された。培養物は、通気性125mLまたは250mLエルレンマイヤー振とうフラスコ(Corning Life Sciences、マサチューセッツ州ローウェル)または50mL通気性スピンチューブ(TPP、スイス、トラザーディンゲン)内で、実質的に前述の通りに維持された。
【0123】
MAb B細胞を、null発現ベクター対照、フューリンpep2Aと結合したMgat1及びMgat2を含有するバイシストロニックな発現ベクター(M1M2)、Slc35a2(S)を含有するベクターまたはMgat1、Mgat2及びSlc35a2ベクターの同時トランスフェクト物(M1M2S)のいずれかとトランスフェクトした。選択培地内で80%を超える生存能までこれらの細胞が回復した後、これらをフローサイトメトリーを使用して単一細胞クローニングした。単一細胞から誘導されたこれらの細胞株について、目的の遺伝子の発現レベルを解析した。4つの異なるベクター配置のそれぞれについて、40個を超えるクローンを目的の遺伝子の発現について解析し、この解析に基づいて、20個の過剰発現細胞株及び10個の対照細胞株を、実質的に前述の通りに実施された、2つの別々の10日間の流加産生運転におけるさらなる特徴づけのために選出した。
【0124】
第一の流加産生の開始時に、平均で、より高いPDLを伴う対照(25時間未満)と比較して、過剰発現細胞株での倍加時間はより高く(25時間超)、PDLはより低かった(
図1)。それゆえ、第二の10日間流加実験は、全て同様の倍加時間を呈するより小さいサブセットのクローンについて実施した(
図2)。
【0125】
第二の流加実験からの、選択されたクローンにおけるmRNA発現の統計学的解析は、過剰発現における倍数変化が対照と比較して有意であることを確かにした。Mgat2遺伝子は、Mgat1遺伝子と比較して発現においてより大きな増加倍数を有した。結果を下記の表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
誘発される過剰発現のレベルをさらに調査するために、Mgat1及びMgat2のタンパク質レベルを液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)を使用して定量化した。空ベクター(EV)でトランスフェクトされた対照細胞株ならびにMgat1及びMgat2を両方とも過剰発現する2つの株(B1及びB2)を解析した。結果を下記の表4に示す。相対的なタンパク質発現を百万分率(ppm)で測定する。
【0128】
【表4】
【0129】
表4が示すように、EVは、基底発現レベルのMgat1及びMgat2を呈し、一方でこれらのタンパク質の発現レベルは、B1及びB2細胞株において有意に増加した。さらには、B1及びB2細胞株において、Mgat2は、Mgat1と比較して上昇した発現レベルを示した。これらのデータは、10日目にMgat1及びMgat2のmRNA発現レベルについて観察されたデータと良好に相関する。
【0130】
対照的に、ハウスキーピング対照タンパク質(GAPDH;データは示さず)の発現レベルは、8及び10日目(タンパク質発現が解析された2日間)にこれらの3つの細胞株について一定のままだった。
【0131】
図3、4、及び5は、増殖及び特異的生産性が群間で類似したことを示す;しかしながら、力価は、2つの他の群と比較してMgat1及び2過剰発現クローンについて有意に増加した。Mgat1及びMgat2を過剰発現する細胞株(M1M2)、ならびに全3つの遺伝子を過剰発現するそれらのクローン(M1M2S)は、対照細胞と比較して高マンノース型レベルにおける減少を示した(それぞれ70%及び29%(
図6))。しかしながら、Slc35a2(S)を過剰発現する細胞株は、対照と比較したときに統計学的に有意な変化を示さなかった(
図6)。UDP−ガラクトース輸送体(Slc35A2によりコードされるタンパク質)の役割は、UDP−GlcNAcを含むヌクレオチド糖基質を、ゴルジ内腔へと輸送することであるため、UDP−GlcNAcのレベルが限定されている場合、Slc35a2のレベルの増加は、後続のグリカン処理に影響しないだろう。
【0132】
分泌された、組換えMAb Bのグリコフォームプロファイルを、過剰発現細胞株(M1M2、M1M2S及びS)のそれぞれについて評価した。M1M2細胞株は、対照細胞株と比較して、M5、M6、M7及びM8bなどの全てのHM種において有意な低減を示した。結果を下記の表5に示す。
【0133】
【表5】
【0134】
対照空ベクター細胞株では、A2G0Fは、評価された8種の複合グリカン種の中で支配的な種(49.17%)であり、次にA2G1F(16.46%)及び他の複合グリコフォームが続く。様々な種の割合(%)に関して同様の傾向が、M1M2及びM1M2Sについて見られた。しかしながら、M1M2細胞株の場合には、A2G0Fグリコフォームの量は、対照と比較して27%有意に増加した(有意値p=0.0076)。これは、Mgat2の過剰発現により、対照細胞株と比較して、ハイブリッドグリカン(A1G0M5)からA2G0への効率的な転換があり、それゆえより多くの基質がフコシルトランスフェラーゼ8(Fut8)に利用可能であり、より多くのA2G0F産物を作成することを示す。この実験においてSlc35a2の過剰発現は、複合グリカンレベルにおける有意な増加をもたらさないように見えるが、これらの結果は、Mgat1及びMgat2の過剰発現がHMグリカンから複合グリコフォームへの転換を増加させ、それによりHMレベルを低下させることができることを示す。
【0135】
実施例3
CHO宿主細胞を、Mgat1、またはMgat2のいずれかで個別にトランスフェクトした、またはMgat1及びMgat2発現ベクターの両方で同時トランスフェクトした。選択培地において80%を超える生存能までこれらの細胞を回復させた後、これらを、フローサイトメトリーを使用して単一細胞クローニングした。合計で291個のクローンを、Mgat1及びMgat2の遺伝子の発現について解析した。これらの中で、良好な増殖及び生存能に基づいて、歴史的に低レベル(すなわち5%未満)の高マンノース型グリカンを伴うヒトモノクローナル抗体(MAb A)を発現する組換えCHO細胞株において検出されるレベルを超えるMgat1及びMgat2レベルを発現する48個のクローンを選択した。
【0136】
全ての48個のクローンを少なくとも60PDL(集団倍加レベル)に増殖させ、この時間経過中に、3つの異なる時点でMgat1及びMgat2のmRNA発現レベルを解析した。それぞれのmRNAの安定した発現レベルに基づいて、16個のクローンを選択した。これらのクローンのトランスフェクション能力(transfectability)をさらに評価するために、実質的にRemy and Michnick(1999),Proc.Natl.Acad.Sci.,96:5394−5399により記載されるように、全ての48個のクローンをタンパク質断片相補アッセイにおいて緑色蛍光タンパク質(GFP)含有ベクターで一過的にトランスフェクトした。
【0137】
最も高いトランスフェクション効率を呈する7個のクローンをさらなる解析のために選択した。対照CHOと比較した上位7個のクローンのMgat1及びMgat2のmRNAの倍数変化を表6に示す。
【0138】
【表6】
【0139】
高レベル(すなわち、15%超)の高マンノース型グリカンを歴史的に呈するモノクローナル抗体(MAbC)を、Mgat1及び/またはMgat2を過剰発現する操作された宿主細胞または対照の操作されていないCHO宿主細胞におけるトランスフェクションに使用した。前述のように、安定プールを作製し、10日間の流加産生運転におけるさらなる特徴付けのために選出した。分泌された、組換えMAbCのグリコフォームプロファイル及び力価を、それぞれの過剰発現細胞株について評価した。生産力(すなわち、力価)に影響することなく、MAbCの対照宿主と比較して、宿主38C2において有意に低いレベルの高マンノース型グリカンが検出された。結果を表7に示す;値は、流加産生アッセイから得られた10日目の力価及びグリカンレベルを反映する。
【0140】
【表7】
【0141】
同様に150nM及び300nM増幅プールを生成し、10日間の流加産生アッセイにおいて解析した。150nMプールの場合、全ての過剰発現宿主細胞は、力価に影響することなく、対照宿主細胞と比較して、有意に低減された高マンノース率(%)を呈した。結果を表8及び9に示す。
【0142】
【表8】
【0143】
300nM増幅では、表9に示すように、有意に低減したレベルの高マンノース型グリカンレベルが5つのプール(61A9、45F2、63C5、38C2、及び2B8)について検出された。
【0144】
【表9】
【0145】
これらの結果は、Mgat1及び/またはMgat2を過剰発現するように形質転換された宿主細胞は、複合グリコフォームへのHMグリカンの増加した転換、及びゆえにより低いHMレベルを有する組換えタンパク質を調製するために使用することができることを示す。