特許第6474472号(P6474472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474472
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/70 20060101AFI20190218BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20190218BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20190218BHJP
   G01N 30/72 20060101ALN20190218BHJP
   G01N 27/62 20060101ALN20190218BHJP
【FI】
   C02F1/70 Z
   C02F1/72 A
   G01N30/88 H
   !G01N30/72 C
   !G01N27/62 V
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-184370(P2017-184370)
(22)【出願日】2017年9月26日
(65)【公開番号】特開2018-69227(P2018-69227A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2018年1月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-207057(P2016-207057)
(32)【優先日】2016年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄住金環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
(72)【発明者】
【氏名】天田 隼人
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−169071(JP,A)
【文献】 特開2013−226510(JP,A)
【文献】 特開2013−163144(JP,A)
【文献】 特開平01−224091(JP,A)
【文献】 特開2011−173046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/70 − 1/78
1/58 − 1/64
B01J 20/281− 20/292
G01N 30/00 − 30/96
27/60 − 27/70
27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)(CO)]3−、及び[Fe(CN)(CO)2−を含有する廃水に、過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)及び還元剤を同時期に添加して反応させ、次いで銅塩を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
【請求項2】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)(CO)]3−、及び[Fe(CN)(CO)2−を含有する廃水に、過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)及び銅塩を同時期に添加して反応させ、次いで還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
【請求項3】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)(CO)]3−、及び[Fe(CN)(CO)2−を含有する廃水に、過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)、銅塩、及び還元剤を同時期に添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
【請求項4】
遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに、鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、[Fe(CN)(CO)]3−、及び[Fe(CN)(CO)2−を含有する廃水に、過酸化水素(ただし、フェントン試薬を除く。)を添加して反応させ、次いで銅塩、及び還元剤を同時期に添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
【請求項5】
前記反応をpH5.5〜8.5の範囲内で行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項6】
前記還元剤として、チオ硫酸塩、重亜硫酸塩、及び硫化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いる請求項1〜のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項7】
前記還元剤として、チオ硫酸塩を用いる請求項1〜のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項8】
前記廃水に、さらに第4級アンモニウム化合物を添加する請求項1〜のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項9】
前記廃水に、さらに鉄塩を添加する請求項1〜のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項10】
前記廃水が、さらにチオシアン酸イオンを含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【請求項11】
前記廃水が、排出ガスの洗浄廃水である請求項1〜10のいずれか1項に記載の廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水の処理方法に関し、より詳しくは、シアン成分を含有する廃水(以下、「シアン含有廃水」と記載することがある。)の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキを行う工場、石炭工場、コークス工場、及びコークスを大量に使用する工場等から排出される廃水には、シアン成分が含有されている場合がある。そのシアン成分は、シアン化ナトリウム等のシアン化物、シアン化物イオン(遊離シアン;CN-)、並びにフェロシアン化物イオン([Fe(CN)64-)及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)63-)等の鉄シアノ錯体(錯イオン)等を含む。
【0003】
シアン含有廃水中のシアン化物イオンの処理方法としては、アルカリ塩素法等に代表される酸化分解法が古くから行われてきている。そのアルカリ塩素法では、一般的に次亜塩素酸ナトリウムをシアン含有廃水にアルカリ性下で添加することで、廃水中のシアン化物、シアン化物イオン、亜鉛シアノ錯体、銅シアノ錯体、及び銀シアノ錯体等を処理することができる。その一方、例えば鉄シアノ錯体等のように、金属イオンと大きな結合力をもって錯体化したシアン化合物の分解は難しい。
【0004】
上述のアルカリ塩素法では分解が困難な鉄シアノ錯体を含有する廃水を処理する方法について、種々の検討及び提案がなされている。例えば、特許文献1では、シアン化物イオン及びシアノ錯体を含有する被処理水に次亜塩素酸ナトリウムを添加する工程、被処理水に亜硫酸ナトリウムを添加して被処理水中に残存する次亜塩素酸ナトリウムを分解する工程、及び酸を添加して酸性にした被処理水に第一鉄塩を添加して不溶性の鉄シアノ錯体を得る工程等を含む排水処理方法が提案されている。また、特許文献2では、シアン化合物を含有する被処理水に、硫酸銅、及び重亜硫酸ナトリウムを添加して難溶性塩を生成させて分離する工程と、その工程の処理水にアルカリ性条件下にて次亜塩素酸ナトリウムを添加して該処理水中のシアン化合物を酸化する工程とを有する処理方法が提案されている。さらに、特許文献3では、シアン化合物含有廃物にアルカリ性条件下にて、銅塩の存在下、KMnO4を添加し、次いで加熱処理するシアン化合物の処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−254959号公報
【特許文献2】特開2008−36608号公報
【特許文献3】特開平5−337476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シアン含有廃水には、先に例示したように様々な廃水があり、中でも鉄シアノ錯体を含有する廃水に対しては、従来の方法でも廃水中のシアン成分を十分高度に除去することができない場合があり、改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、鉄シアノ錯体等のシアン化合物を含有する廃水に対し、シアン成分を十分高度に除去することが可能な廃水の処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに鉄シアノ錯体を含有する廃水に、過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉄シアノ錯体等のシアン化合物を含有する廃水に対し、シアン成分を十分高度に除去することが可能な廃水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】液体クロマトグラフィー−誘導結合プラズマ質量分析(LC−ICP−MS)により測定された、実施例及び比較例で使用した原水中の鉄化合物のクロマトグラムである。
図2】LC−ICP−MSにより測定された、実施例及び比較例で使用した原水中のニッケル化合物のクロマトグラムである。
図3】LC−ICP−MSにより測定された、実施例1で得られた処理水中の鉄化合物のクロマトグラムである。
図4】LC−ICP−MSにより測定された、実施例1で得られた処理水中のニッケル化合物のクロマトグラムである。
図5】実施例25で処理対象とした廃水が生じる、排出ガスの処理フローの一部を例示する模式図である。
図6】実施例25における処理フローを示す模式図である。
図7図6に示す処理フロー(実施例25)を一部として組み込むことを想定した場合の排出ガスの洗浄及びその洗浄廃水の処理フローの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の一実施形態の廃水の処理方法は、シアン含有廃水に、過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する方法である。この方法が処理対象とする廃水は、遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに鉄シアノ錯体を含有する廃水である。
【0013】
廃水に過酸化水素を添加することで、過酸化水素が、廃水中に含有されている可能性のある遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体と酸化反応し、それらのシアン化合物を分解すると考えられる。また、廃水に銅塩及び還元剤を添加することにより、廃水中に含有されている鉄シアノ錯体が難溶化すると考えられる。そして、本方法では、廃水に過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後に、その反応液を固液分離するため、反応液中に生じた難溶性シアン化合物をより有効に除去でき、それによって、廃水中のシアン成分を十分高度に除去することが可能となる。
【0014】
また、本方法では、廃水中のシアン成分の一部が酸化反応により分解されるため、酸化分解を行わずに、銅塩等の添加によって難溶性塩を生成させて分離除去を行う方法に比べて、生じた難溶性塩中に含有されるシアンの量を適度に低くすることができる。難溶性塩中に含有されるシアンの量が低減されるということは、処理により生じた難溶性塩を処分する際に、シアン化合物の溶出の程度が小さくなるという利点がある。
【0015】
なお、本明細書において、シアン成分の難溶化とは、廃水(原水)中に存在するシアン成分が、処理後に処理前よりも廃水に溶け難くなることをいう。また、シアン成分の難溶化には、シアン成分が廃水に溶けなくなる不溶化(シアン成分の不溶化)も含まれる。
【0016】
ここで、前述の特許文献1〜3に記載されたような従来の方法と対比して、本発明の一実施形態の廃水の処理方法を説明する。
【0017】
前述の特許文献1及び2に記載の方法のように、廃水中の遊離シアン等の酸化分解可能なシアン成分の処理としては、従来から、次亜塩素酸ナトリウムを添加して遊離シアン等を分解するアルカリ塩素法が主流となっている。中性の廃水に次亜塩素酸ナトリウムの添加による酸化反応を生じさせると有害な塩化シアンが生成される可能性があるため、通常、次亜塩素酸ナトリウムは、アルカリ性に調整された廃水に添加される。そのため、次亜塩素酸ナトリウムの添加により酸化反応を行う工程において、多量のアルカリが必要となる。さらに、特許文献1に記載の方法では、次亜塩素酸ナトリウムの添加後に、難溶性の鉄シアノ錯体を得る工程を行うため、その工程の前に、廃水に酸を添加して、廃水を酸性にする必要があり、多くの酸を必要とする上にpH調整のための複雑な設備が複数必要となる。
【0018】
一方、処理対象となる廃水が、チオシアン酸イオン(SCN-)を含有する場合、その廃水に次亜塩素酸塩を添加すると、チオシアン酸イオンと次亜塩素酸塩とが反応して、塩化シアンが生成される可能性がある。例えば、排出ガスの洗浄廃水には、チオシアン酸イオンが含有されていることが多い。さらに、排出ガスの洗浄廃水には、例えばアンモニア等のように次亜塩素酸塩と容易に反応する化合物が含まれていることが多いため、これらが共存する場合には、その反応に次亜塩素酸塩が消費されることになる結果、大量の次亜塩素酸塩の添加が必要となる。
【0019】
上述した次亜塩素酸塩を用いる方法に対し、本発明の一実施形態の方法では、過酸化水素を使用する。そのため、上述のような多量のアルカリや酸を必要とするようなpH調整を必須とせずに、廃水中に含有されている可能性のある遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体を処理することができる。なおかつ、過酸化水素の使用により、排出ガスの洗浄廃水のような、チオシアン酸イオンを含有する可能性のある廃水に対しても安全かつ有効に処理することができる。
【0020】
また、特許文献1に記載の方法では、次亜塩素酸ナトリウムによる処理後、酸を添加して酸性にした被処理水に、硫酸第一鉄(第一鉄塩)を添加して、以下の反応式(1)及び(2)に表される反応を生じさせ、鉄シアノ錯体を不溶化している。
2[Fe(CN)63-+3Fe2+ → Fe3[Fe(CN)62・・・(1)
[Fe(CN)64-+2Fe2+ → Fe2[Fe(CN)6] ・・・(2)
【0021】
この第一鉄塩による処理の前に被処理水に添加される次亜塩素酸ナトリウムは、不溶性のシアノ錯体を生成させるための第一鉄塩と容易に反応し、第一鉄塩(Fe2+)を第二鉄塩(Fe3+)へと酸化させる。したがって、第一鉄塩の添加前に、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムが被処理水中に残存していると、Fe2+がFe3+へ酸化され、目的とする不溶性のシアノ錯体を生成させることができなくなる。そのために、特許文献1に記載の方法では、次亜塩素酸ナトリウムによる処理後、第一鉄塩による処理前に、被処理水に亜硫酸ナトリウムを添加して、被処理水中に残存する次亜塩素酸ナトリウムを分解する酸化剤分解工程を必須としている。これに対し、本発明の一実施形態の方法では、過酸化水素、銅塩、及び還元剤を使用するため、特許文献1に記載されているような酸化剤分解工程を必要とせずに、廃水中のシアン成分を十分高度に除去することが可能である。そのため、酸化剤分解工程を必要としない点で、設備コスト、及び処理コストを抑えることができるという利点がある。
【0022】
次に、特許文献2に記載の方法では、まず、シアン化合物を含有する被処理水に、硫酸銅及び重亜硫酸ナトリウムを添加して難溶性塩を生成させて分離した後、その分離工程の処理水にアルカリ性条件下にて次亜塩素酸ナトリウムを添加してシアン化合物を酸化する工程を行っている。この方法では、次亜塩素酸ナトリウムによる処理前に、難溶性塩を生成させて分離する工程を経るため、次亜塩素酸ナトリウムで分解可能なものも、分離工程で分離される可能性がある。そのため、特許文献2に記載の方法では、分離工程で分離された難溶性塩を含むスラッジ中のシアン化合物の量が多くなり過ぎる可能性があると考えられる。
【0023】
これに対し、本発明の一実施形態の方法は、シアン含有廃水に過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離する。この方法により、廃水中のシアン成分の一部を過酸化水素により分解しつつ、また別の一部を銅塩及び還元剤により難溶化できると考えられるため、特許文献2に記載の方法に比べて、生じた難溶性塩中に含有されるシアンの量を適度に低くすることができる。そのため、本方法では、処理により生じた難溶性シアン化合物を分離除去して処分する際に、特許文献2に記載の方法に比べて、スラッジからのシアン化合物の溶出の程度を小さくすることができると考えられる。
【0024】
なお、特許文献3に記載の方法でも、シアン化合物含有廃物にアルカリ性条件下にて、銅塩の存在下、酸化剤としてKMnO4を添加するため、前述した特許文献1及び2に記載の方法と同様、多量のアルカリが必要となる。さらに、特許文献3に記載の方法では、KMnO4の添加後、加熱処理することを必須としているため、水量が多量の廃水を処理する場合、その加熱に要する費用は甚大になると考えられる。
【0025】
上述の通り、特許文献1〜3に記載の方法に比して利点のある本発明の一実施形態の方法について、以下に本発明の目的において好ましい態様等をさらに詳述する。
【0026】
本発明の一実施形態の方法では、廃水への過酸化水素の添加を、廃水への銅塩の添加前又はその添加と同時期に、かつ、廃水への還元剤の添加前又はその添加と同時期に、行うことが好ましい。換言すれば、銅塩及び還元剤を、廃水への過酸化水素の添加後、又は過酸化水素の添加と同時期に、廃水に添加することが好ましい。廃水に銅塩や還元剤を添加する前に、又はそれらと同時期に、過酸化水素を添加することで、廃水に含有されている可能性のある遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体等を十分に分解することが可能になると考えられる。上記「同時期」とは、厳密な同時を意味するものではなく、ほぼ同時であることや同じタイミングであることを意味する。過酸化水素と還元剤の添加を例にとると、それら両方を同時に添加する場合や、過酸化水素の添加時間と還元剤の添加時間とが完全又は一部重なっている場合はもちろん、それらのうちの一方を先に添加した後に直ちに他方を添加する場合も「同時期」に含まれる。
【0027】
銅塩は、廃水中に含有される鉄シアノ錯体を還元剤と共に難溶化する狙いで廃水に添加される。銅塩としては、銅(I)塩(第一銅塩)及び銅(II)塩(第二銅塩)のいずれも用いることができる。銅(I)塩としては、例えば、塩化銅(I)、酸化銅(I)(亜酸化銅)、及び硫酸銅(I)等を挙げることができる。銅(II)塩としては、例えば、塩化銅(II)、及び硫酸銅(II)等を挙げることができる。本方法では、銅塩の1種又は2種以上を用いることができる。廃水に添加する際の銅塩の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
【0028】
還元剤は、廃水中に含有される鉄シアノ錯体を銅塩と共に難溶化する狙いで廃水に添加される。好適な還元剤としては、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、塩化第一鉄、並びに硫化ナトリウム及び四硫化ナトリウム等のアルカリ金属硫化物等を挙げることができる。チオ硫酸塩、亜硫酸塩、及び重亜硫酸塩における塩を形成する陽イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、及び有機アンモニウムイオン等を挙げることができる。本方法では、1種又は2種以上の還元剤を用いることができる。還元剤としては、チオ硫酸塩、重亜硫酸塩、及び硫化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることがより好ましく、中でもチオ硫酸塩を用いることがさらに好ましい。廃水に添加する際の還元剤の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。
【0029】
廃水への銅塩及び還元剤の添加順序は、特に限定されず、銅塩及び還元剤のうちのいずれか一方を先に廃水に添加した後、所定の間隔をおいていずれか他方を添加してもよく、廃水に銅塩及び還元剤を同時期に添加してもよい。
【0030】
本発明の一実施形態の方法では、廃水にさらに第4級アンモニウム化合物を添加することが好ましい。廃水にさらに第4級アンモニウム化合物を添加することで、前述の銅塩の添加量を少なくしても、廃水中のシアン成分を良好に処理することができる。
【0031】
第4級アンモニウム化合物は、第4級アンモニウムカチオンを有する化合物であり、モノマーでもよいし、ポリマーでもよい。本方法では、第4級アンモニウム化合物の1種又は2種以上を用いることができる。廃水に添加する際の第4級アンモニウム化合物の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等を挙げることができ、溶液状が好ましい。モノマーの第4級アンモニウム化合物は、N+4(Rは置換されていてもよいアルキル基又はアリール基を表す。)で表される。第4級アンモニウム化合物の種類は特に限定されず、例えば、テトラアルキルアンモニウム化合物、及びカチオン性ポリマー等を好適に用いることができる。
【0032】
テトラアルキルアンモニウム化合物としては、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、及びベンジルドデシルジメチルアンモニウム塩が好ましい。さらに、これらにおける第4級アンモニウムカチオンと対となる陰イオンが、ハロゲン化物イオンであるものが好ましく、塩化物イオン及び臭化物イオンであるものがより好ましい。
【0033】
カチオン性ポリマーとしては、第4級アンモニウムカチオンを有するポリマーであればよく、例えば、ポリアクリル酸エステル系化合物、ポリメタクリル酸エステル系化合物、ポリアミン系化合物、ポリジアリルジアルキルアンモニウム塩系化合物、ジアリルジアルキルアンモニウム塩−アクリルアミド共重合体系化合物、ジメチルアミンとエピクロロヒドリンの重縮合物、並びにジメチルアミン、エピクロロヒドリン及びアンモニアの重縮合物等を挙げることできる。
【0034】
廃水に第4級アンモニウム化合物を添加するタイミングは、反応液を固液分離する工程の前であれば特に限定されない。廃水への第4級アンモニウム化合物の添加を、廃水への過酸化水素、銅塩、及び還元剤のいずれの添加よりも先に行ってもよく、それらのうちの少なくとも1種の添加と同時期に行ってもよく、それらの全ての添加の後に行ってもよい。
【0035】
廃水への過酸化水素、銅塩、及び還元剤の各添加量、並びに必要に応じて使用される第4級アンモニウム化合物の添加量は、いずれも特に制限されず、処理対象となる廃水の性状に応じて適宜設定することができる。
【0036】
例えば、処理対象となる廃水の全シアン濃度が2〜20mg/L程度である場合、廃水への過酸化水素の添加量は、当該廃水中のH22としての濃度で、5〜300mg(H22)/Lであることが好ましく、10〜200mg(H22)/Lであることがより好ましく、20〜100mg(H22)/Lであることがさらに好ましい。また、この場合、廃水への銅塩の添加量は、当該廃水中の銅(Cu)としての濃度で、1〜100mg(Cu)/Lであることが好ましく、2〜80mg(Cu)/Lであることがより好ましく、3〜50mg(Cu)/Lであることがさらに好ましい。同様に、廃水への還元剤の添加量は、当該廃水中の還元剤の濃度として、1〜200mg/Lであることが好ましく、3〜80mg/Lであることがより好ましく、10〜50mg/Lであることがさらに好ましい。さらに、廃水への第4級アンモニウム化合物の添加量は、当該廃水中の第4級アンモニウム化合物としての濃度で、1〜100mg/Lであることが好ましく、3〜50mg/Lであることがより好ましく、5〜35mg/Lであることがさらに好ましい。
【0037】
本発明の一実施形態の方法では、廃水にさらに鉄塩を添加することが好ましい。廃水に前述の銅塩を添加することで処理水中に溶解性の銅化合物が残存する可能性がある場合に、廃水にさらに鉄塩を添加することにより、廃水中のシアン成分を除去し得る処理能を維持しつつ、溶解性の銅化合物の濃度が抑制された処理水を得ることができる。
【0038】
鉄塩としては、鉄(II)塩(第一鉄塩)及び鉄(III)塩(第二鉄塩)のいずれも用いることができ、1種又は2種以上の鉄塩を用いることができる。廃水に添加する際の鉄塩の形態としては、粉末状や溶媒に溶かした溶液状等が挙げられ、溶液状が好ましい。鉄(II)塩としては、例えば、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、及び硝酸鉄(II)、並びにグルコン酸鉄(II)等の有機酸塩等を挙げることができる。鉄(III)塩としては、例えば、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、及び硝酸鉄(III)、並びに三酢酸鉄(III)等の有機酸塩等を挙げることができる。鉄塩の中でも、鉄(II)塩を用いることがより好ましく、塩化鉄(II)を用いることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態の方法では、廃水に過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して、それらを廃水中のシアン成分と反応させることができる。この反応における廃水のpH条件は特に制限されないが、その反応をpH5.5〜8.5の範囲内で行うことが好ましく、5.5〜8.0の範囲内で行うことがより好ましく、pH5.5〜7.5の範囲内で行うことがさらに好ましい。例えば、廃水に過酸化水素を添加して反応させた後、銅塩及び還元剤を添加して反応させる場合や、廃水に過酸化水素、銅塩、及び還元剤をこの順で添加する場合等のようにそれらをそれぞれ別々に添加して反応させる場合等では、各反応を上述のpH範囲で行うことが好ましい。なお、廃水のpHを調整する際には、例えば、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、及び炭酸ナトリウム等のpH調整剤を用いることができる。
【0040】
また、上述の反応における廃水の温度条件も特に制限されない。本方法では、廃水を加熱処理する必要はなく、排出された廃水が本方法による処理系に導かれた際の廃水の温度のまま、処理することも可能である。例えば、本方法による処理を好適に採用し得る、排出ガスの洗浄廃水は、処理系に導かれる際に約60℃となることがあり、その温度下にある廃水に対して、本方法による処理を行うことが可能である。このような観点から、本方法では、上述の反応を、廃水の温度が好ましくは20〜80℃の範囲、より好ましくは35〜80℃の範囲で行うことができる。
【0041】
さらに、上述の反応を行うにあたり、廃水に過酸化水素、銅塩、又は還元剤を添加した後、各添加工程の後には、廃水を撹拌することが好ましい。撹拌時間は、例えば0.1〜2時間程度とすることができる。なお、反応液を固液分離する工程の前には、反応液に活性炭等の過酸化水素分解触媒等を添加してもよい。
【0042】
上述の通り、本発明の一実施形態の方法は、廃水に、過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離する工程を含む。これにより、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去することができる。固液分離の処理としては、凝集・沈殿処理、膜分離・ろ過処理、浮上処理のいずれも用いることができる。これらのうち、凝集・沈殿処理が好ましい。
【0043】
固液分離を行う際には、反応液中に生じた難溶性シアン化合物の凝集性の改善を目的として、凝集剤を用いることができる。凝集剤は、反応中に共存させておいてもよいし、反応終了後、固液分離を行う前に添加してもよい。凝集剤の種類は特に限定されず、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、及び塩化第二鉄等の無機凝集剤、並びに高分子凝集剤を用いることができる。
【0044】
本発明の一実施形態の処理方法は、シアン含有廃水(原水)を反応槽に移送し、その反応槽で過酸化水素、銅塩、及び還元剤、並びに必要に応じて第4級アンモニウム化合物を添加して反応させる工程を含むことが好ましい。その工程後、得られた反応液を固液分離槽に移送して固液分離する工程を行うことが好ましい。この際の固液分離の手段としては、沈殿処理が好ましく、固液分離槽には、シックナー等の沈殿槽を用いることができる。廃水を固液分離槽に移送する前、又は固液分離槽において、上述の凝集剤を添加することが好ましい。なお、反応槽の前段階には、反応槽とは別に、原水を調整するための槽(前処理槽)や原水を貯留させておく槽等を設けてもよい。それらの槽で、上述の各種剤を添加してもよく、それらの槽と反応槽とで分けて添加してもよい。また、固液分離により処理水とは分離された汚泥(懸濁物質)は、原水や汚泥の性質等に応じて、反応槽や前処理槽等に戻してもよいし、廃棄(排泥)してもよく、脱水機により脱水処理して脱水ケーキとしてもよい。本方法では、上述の各工程を実行する一連の連続式プロセスを行うこともできる。
【0045】
以上詳述した本実施形態の廃水の処理方法では、シアン含有廃水に過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離するため、酸化分解し難い鉄シアノ錯体を含有する廃水に対しても、シアン成分を十分高度に除去することができる。そのため、本方法は、鉄シアノ錯体として、鉄とシアンが安定な錯体を形成しているために分解し難いフェロシアン化物イオン([Fe(CN)64-)及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)63-)を含有する廃水の処理に好適である。また、本方法は、過酸化水素を使用するため、チオシアン酸イオン(SCN-)を含有する廃水の処理にも好適である。
【0046】
さらに、本発明者らの検討の結果、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン、並びにそれら以外の他の鉄シアノ錯体を含有する廃水に対しては、従来の方法では、シアン成分の十分な除去がより困難であることが分かった。そのような他の鉄シアノ錯体を含有する廃水に対しても、本実施形態の処理方法によって、シアン成分を十分高度に除去することができる。よって、本実施形態の処理方法は、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン、並びにそれら以外の他の鉄シアノ錯体を含有する廃水の処理により好適である。
【0047】
廃水中のフェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及びそれら以外の他の鉄シアノ錯体の存在は、廃水について、液体クロマトグラフィー−誘導結合プラズマ質量分析(LC−ICP−MS)装置を用いた分析により、確認することができる。このLC−ICP−MS装置は、液体クロマトグラフィー(LC)の検出器として、金属を種類別に定量可能な分析装置である誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)装置を備えるため、金属の種類ごとにクロマトグラムを得ることができるものである。
【0048】
LC−ICP−MSにより以下の測定条件で測定される、廃水中の鉄化合物のクロマトグラムにおいて、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及びそれら以外の他の鉄シアノ錯体のそれぞれに由来するピークを有する。上記クロマトグラムにおいて、他の鉄シアノ錯体としては、例えば、フェロシアン化物イオンに由来するピークに対応する保持時間と、フェリシアン化物イオンに由来するピークに対応する保持時間との間に検出されるものを挙げることができる。
【0049】
LC−ICP−MSの測定条件は次の通りである。
カラム;ODSカラム(粒子径5μm、内径4.6mm、カラム長150mm、2連)
移動相;アセトニトリルと25mMリン酸緩衝液(pH7.0、イオンペア試薬として15mMリン酸二水素テトラブチルアンモニウムを含む)との体積比40:60の混合物
流速;0.8mL/分
カラム温度;40℃
注入量;50〜100μL
【0050】
より具体的には、上記クロマトグラムにおいて、フェロシアン化物イオンは、保持時間390〜410秒の間に検出され、フェリシアン化物イオンは保持時間600〜620秒の間に検出される。また、上記クロマトグラムにおいて、他の鉄シアノ錯体は、1種のみ検出されてもよく、2種以上検出されてもよい。他の鉄シアノ錯体は、少なくとも2種検出されることが好ましい。すなわち、本実施形態の処理方法では、他の鉄シアノ錯体の除去処理にも有効であることから、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン以外の他の鉄シアノ錯体を少なくとも2種含有する廃水がより好適である。この場合、上記クロマトグラムにおいて、他の鉄シアノ錯体は、保持時間460〜520秒の間に検出される鉄シアノ錯体Aと、保持時間540〜600秒の間に検出される鉄シアノ錯体Bとを含むことが好ましい。
【0051】
なお、本発明者らの分析の結果、鉄シアノ錯体Aは、[Fe(CN)5(CO)]3-と考えられ、鉄シアノ錯体Bは、[Fe(CN)4(CO)22-と考えられる。これらを同定した際の分析方法の概略は次の通りである。まず、移動相を「アセトニトリルと25mMリン酸緩衝液(pH7.0、イオンペア試薬として15mMジブチルアンモニウムアセタート(DBA)を含む)との体積比40:60の混合物」に変更したこと以外は、上記の測定条件と同条件の液体クロマトグラフィーにより、クロマトグラムを得た。このクロマトグラムにおいて、上記LC−ICP−MSで測定された鉄シアノ錯体A及びBに由来するピーク(ピークA及びBという。)を、それぞれのピークのUVスペクトルの比較から確認した。次いで、ピークAとピークBをそれぞれ含む画分をそれぞれ試験管に採取した。得られたそれぞれの画分について、ESI−MS(エレクトロスプレーイオン化−質量分析法)を用いて質量分析を行った。この質量分析の結果から、鉄シアノ錯体Aは、[Fe(CN)5(CO)]3-と同定され、鉄シアノ錯体Bは、[Fe(CN)4(CO)22-と同定された。
【0052】
上記クロマトグラムにおいて、廃水中のフェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン等の存在は、それらの標準試料を用いて上記測定条件で測定されるクロマトグラムを予め得ておくことで確認することができる。また、廃水中のシアン化物イオンの存在は、JIS K0102:2013に規定される方法で測定されるシアン化物イオン濃度及び全シアン濃度により、確認することができる。
【0053】
本発明の一実施形態の処理方法は、処理対象である原水(シアン含有廃水)として、メッキを行う工場、石炭工場、コークス工場、及びコークスを大量に使用する工場等から排出される廃水に好適である。廃水としては、フェロシアン化物イオン、フェリシアン化物イオン、及びそれら以外の他の鉄シアノ錯体、並びにチオシアン酸イオンを含有する可能性が高いことから、排出ガスの洗浄廃水がさらに好適である。排出ガスの洗浄廃水には、排ガス処理装置から生じる廃水も含まれる。
【0054】
以上の通り、本発明の一実施形態の廃水の処理方法は、次の構成をとることが可能である。
[1]遊離シアン、亜鉛シアノ錯体、ニッケルシアノ錯体、及び銅シアノ錯体のうちの少なくとも1種を含有するとともに鉄シアノ錯体を含有する廃水に、過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液を固液分離し、前記反応液中に生じた難溶性シアン化合物を分離除去する廃水の処理方法。
[2]前記銅塩及び前記還元剤を、前記廃水への前記過酸化水素の添加後、又は前記過酸化水素の添加と同時期に、前記廃水に添加する前記[1]に記載の廃水の処理方法。
[3]前記反応をpH5.5〜8.5の範囲内で行う前記[1]又は[2]に記載の廃水の処理方法。
[4]前記還元剤として、チオ硫酸塩、重亜硫酸塩、及び硫化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いる前記[1]〜[3]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[5]前記還元剤として、チオ硫酸塩を用いる前記[1]〜[4]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[6]前記廃水に、さらに第4級アンモニウム化合物を添加する前記[1]〜[5]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[7]前記廃水に、さらに鉄塩を添加する前記[1]〜[6]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[8]前記廃水が、前記鉄シアノ錯体として、フェロシアン化物イオン及びフェリシアン化物イオン、並びにそれら以外の他の鉄シアノ錯体を含有し、前記他の鉄シアノ錯体が、LC−ICP−MSにより前述の測定条件で測定される、前記廃水中の鉄化合物のクロマトグラムにおいて、前記フェロシアン化物イオンに由来するピークに対応する保持時間と、前記フェリシアン化物イオンに由来するピークに対応する保持時間との間に検出されるものである前記[1]〜[7]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[9]前記廃水は、前記他の鉄シアノ錯体を少なくとも2種含有し、前記他の鉄シアノ錯体は、前記クロマトグラムにおいて、保持時間460〜520秒の間に検出される鉄シアノ錯体Aと、保持時間540〜600秒の間に検出される鉄シアノ錯体Bとを含む前記[8]に記載の廃水の処理方法。
[10]前記廃水が、さらにチオシアン酸イオンを含有する前記[1]〜[9]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
[11]前記廃水が、排出ガスの洗浄廃水である前記[1]〜[10]のいずれかに記載の廃水の処理方法。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
<原水>
後述する実施例1〜24及び比較例1〜8では、処理対象となる原水として、所定の工場における排出ガスの洗浄を行う排ガス処理装置から排出された廃水を用いた。この原水について、JIS K0102:2013に規定される方法により、シアン化物イオン(遊離シアン)濃度及び全シアン濃度を測定したところ、シアン化物イオン(F−CN)濃度は8.6mg/L、全シアン(T−CN)濃度は11.0mg/Lであった。また、高速液体クロマトグラフ法により測定した、チオシアン酸イオン濃度は28.0mg/Lであった。さらに、原水のpHは8.2で、原水の採取時の温度は60℃であった。実施例1〜24及び比較例1〜8では、バッチ式の試験を行った例であるが、実際の廃水が生じる現場での処理を考慮して、原水(被処理水)のpHを7.0〜8.0、温度を約60℃に維持して試験を行った。pH調整には、塩酸又は硫酸と、水酸化ナトリウムを用いた。また、この原水中にはホスホン酸系化合物及びポリカルボン酸からなるスケール防止剤が添加されている。
【0057】
上記原水について、液体クロマトグラフィー(LC;商品名「Alliance 2695」、日本ウォーターズ社製)に、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS;商品名「ICP−MS7500」、アジレント・テクノロジー社製)を検出器として結合させた装置(LC−ICP−MS)を用い、以下の測定条件で、原水中の鉄化合物のクロマトグラムを測定した。また、予め、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、及びトリシアノ銅(I)酸ジカリウムのそれぞれの標準試料について、同条件でクロマトグラムを測定し、標準試料における保持時間と、原水中の鉄化合物のクロマトグラムの保持時間とを比較することで、それらを同定した。原水中の鉄化合物のクロマトグラムを図1に示す。
(測定条件)
カラム;ODSカラム(商品名「L−Column2」;粒子径5μm、内径4.6mm、カラム長150mm、2連;化学物質評価研究機構製)
移動相;アセトニトリルと25mMリン酸緩衝液(pH7.0、イオンペア試薬として15mMリン酸二水素テトラブチルアンモニウムを含む)との体積比40:60の混合物
流速;0.8mL/分
カラム温度;40℃
検出器;ICP−MS及びフォトダイオードアレイ(PDA)(検出波長:210〜400nm)
ICP−MSにおける検出対象元素:Fe(原子量56)、Cu(原子量63)、Ni(原子量60)、Co(原子量59)、Zn(原子量66)
注入量;50〜100μL
【0058】
図1に示すように、原水中にフェロシアン化物イオン([Fe(CN)64-)及びフェリシアン化物イオン([Fe(CN)63-)が含有されていることが確認された。また、クロマトグラムにおいて、フェロシアン化物イオンに由来するピークに対応する保持時間(390〜410秒)と、フェリシアン化物イオンに由来するピークに対応する保持時間(600〜620秒)との間に、それら以外の他の鉄−シアン化合物が少なくとも2種検出された。すなわち、原水に、上記クロマトグラムにおける保持時間460〜520秒の間に検出された鉄シアノ錯体Aと、保持時間540〜600秒の間に検出された鉄シアノ錯体Bとが含有されていることが確認された。これらについて分析した結果、鉄シアノ錯体Aは、[Fe(CN)5(CO)]3-と同定され、鉄シアノ錯体Bは、[Fe(CN)4(CO)22-と同定された。なお、図1に示すクロマトグラムにおいて、保持時間650〜700秒の間にみられるピークは、シアンを含有しない水溶性の鉄化合物に由来するものである。
【0059】
さらに、上記原水について、上記LC−ICP−MS装置を用いて、上述の測定条件で原水中のニッケル化合物のクロマトグラムを測定した。また、予め、ニッケルシアノ錯体([Ni(CN)42-)の標準試料について、同条件でクロマトグラムを測定し、標準試料における保持時間と、原水中のニッケル化合物のクロマトグラムの保持時間とを比較することで、同定した。ニッケルシアノ錯体の標準試料のクロマトグラムにおいて、ニッケルシアノ錯体は保持時間590〜610秒の間に検出されることが確認された。原水中のニッケル化合物のクロマトグラムを図2に示す。図2に示すように、原水にニッケルシアノ錯体(テトラシアノニッケル(II)酸イオン、[Ni(CN)42-)が含有されていることが確認された。
【0060】
<実施例1>
300mL容量の容器に上記廃水を300mL入れ、その廃水に過酸化水素水を廃水中の過酸化水素としての濃度が40mg(H22)/Lとなる量にて添加し、マグネティックスターラーを用いて30分間撹拌した。次いで、塩化銅(I)を廃水中のCuとしての濃度が20mg(Cu)/Lとなる量にて添加し、また、チオ硫酸ナトリウムを廃水中の濃度が20mg/Lとなる量にて添加し、マグネティックスターラーを用いて30分間撹拌した。このようにして廃水中のシアン成分に過酸化水素、銅塩、及び還元剤を添加して反応させた後、その反応液にアニオン性高分子凝集剤(商品名「KEA−520」、日鉄住金環境株式会社製)を1mg/L添加した。凝集剤を添加した反応液を静置させ、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を沈殿させることで固液分離し、得られた上澄水を処理水とした。なお、上記塩化銅(I)として、7.79gの粉末状の塩化銅(I)(和光純薬工業社製)を17.5質量%塩酸で全量が100gになるように溶解した塩化銅(I)溶液を用いた(以下の塩化銅(I)も同様である)。
【0061】
<実施例2>
実施例2では、実施例1における塩化銅(I)の添加量を20mg(Cu)/Lから10mg(Cu)/Lに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0062】
<実施例3>
実施例3では、実施例1における塩化銅(I)の添加量を20mg(Cu)/Lから10mg(Cu)/Lに変更したこと、及び実施例1における塩化銅(I)及びチオ硫酸ナトリウムの添加に次いで、さらにジデシルジメチルアンモニウムクロリド(後記表中「DDAC」と記載する。)を廃水中の濃度が20mg/Lとなる量にて添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0063】
<実施例4>
実施例4では、実施例1における塩化銅(I)の添加量を20mg(Cu)/Lから10mg(Cu)/Lに変更したこと、及び実施例1における塩化銅(I)及びチオ硫酸ナトリウムの添加に次いで、さらにカチオン性ポリマーであるポリアミン系高分子化合物(商品名「ケーイーリリーフE−166」、日鉄住金環境株式会社製、後記表中「CP」と記載する。)を廃水中の濃度が20mg/Lとなる量にて添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0064】
<実施例5>
実施例5では、実施例1におけるチオ硫酸ナトリウムを重亜硫酸ナトリウムに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0065】
<実施例6>
実施例6では、実施例1におけるチオ硫酸ナトリウムを硫化ナトリウムに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0066】
<実施例7>
実施例7では、実施例1における塩化銅(I)を硫酸銅(II)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。なお、上記硫酸銅(II)として、19.6gの粉末状の硫酸銅(II)五水和物(和光純薬工業社製)を純水で全量が100gになるように溶解した硫酸銅(II)水溶液を用いた(以下の硫酸銅(II)も同様である)。
【0067】
<実施例8>
実施例8では、実施例2における塩化銅(I)を硫酸銅(II)に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0068】
<実施例9>
実施例9では、実施例3における塩化銅(I)を硫酸銅(II)に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0069】
<実施例10>
実施例10では、実施例5における塩化銅(I)を硫酸銅(II)に変更したこと以外は、実施例5と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0070】
<実施例11>
実施例11では、実施例6における塩化銅(I)を硫酸銅(II)に変更したこと以外は、実施例6と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0071】
<比較例1>
比較例1では、実施例1における塩化銅(I)及びチオ硫酸ナトリウムを使用しなかったこと、すなわち、それらを添加して撹拌する作業を除いたこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0072】
<比較例2>
比較例2では、実施例1における塩化銅(I)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0073】
<比較例3>
比較例3では、実施例1における過酸化水素を使用せず、過酸化水素水を添加して撹拌する作業を除いたこと、及び実施例1におけるチオ硫酸ナトリウムを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0074】
<比較例4>
比較例4では、実施例1における過酸化水素を使用しなかったこと、すなわち、過酸化水素水を添加して撹拌する作業を除いたこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0075】
<比較例5>
比較例5では、実施例1におけるチオ硫酸ナトリウムを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0076】
<比較例6>
比較例6では、実施例7における過酸化水素を使用せず、過酸化水素水を添加して撹拌する作業を除いたこと、及び実施例7におけるチオ硫酸ナトリウムを使用しなかったこと以外は、実施例7と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0077】
<比較例7>
比較例7では、実施例7における過酸化水素を使用しなかったこと、すなわち、過酸化水素水を添加して撹拌する作業を除いたこと以外は、実施例7と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0078】
<比較例8>
比較例8では、実施例7におけるチオ硫酸ナトリウムを使用しなかったこと以外は、実施例7と同様の方法で上記廃水を処理し、処理水を得た。
【0079】
上記のようにして得られた各処理水について、JIS K0102:2013に規定される方法で、処理水中の全シアン濃度を測定した。その結果を表1に示す。なお、表中、処理水の全シアン(T−CN)濃度の欄における「<0.1」は、測定下限値(0.1mg/L)未満であったことを表す。
【0080】
【0081】
表1に示す通り、処理水の全シアン濃度は実施例1〜11では0.3mg/L以下、比較例1〜8では0.7〜3.6mg/Lであり、実施例の方法は、比較例の方法に比べて、廃水中のシアン成分を高度に除去できたことが確認された。例として、実施例1で得られた処理水の鉄化合物のクロマトグラムを図3に、その処理水のニッケル化合物のクロマトグラムを図4に示す。
【0082】
また、実施例1〜4の結果及び実施例7〜9の結果から、第4級アンモニウム化合物の使用により、銅塩の添加量を少なくしても、シアン成分を高度に除去できたことが確認された。そのため、過酸化水素、銅塩、及び還元剤に加えて、第4級アンモニウム化合物を併用することにより、銅塩の使用量の削減に寄与できることが確認された。
【0083】
さらに、実施例1、5、6及び比較例5の結果、並びに実施例7、10、11及び比較例8の結果から、チオ硫酸塩、重亜硫酸塩、及び硫化ナトリウムは、廃水中のシアンの除去に有効であることが確認された。そして、これらの還元剤のうち、特にチオ硫酸塩がより有効であることが確認された。
【0084】
<実施例12〜24>
実施例12〜24では、上記原水への過酸化水素、銅塩、及び還元剤(チオ硫酸ナトリウム)、並びに一部の実施例で使用したDDACの添加及び反応の順序、並びにそれらの添加量を表2に示す条件として、実施例1〜11で述べた方法に準拠した方法で原水の処理を行った。前記順序は以下に示す3通りとした。
・順序1:原水に、過酸化水素及びチオ硫酸ナトリウムを添加して30分間撹拌した後、銅塩(及び実施例15及び21ではさらにDDAC)を添加して30分間撹拌した。
・順序2:原水に、過酸化水素及び銅塩を添加して30分間撹拌した後、チオ硫酸ナトリウム(及び実施例16及び22ではさらにDDAC)を添加して30分間撹拌した。
・順序3:原水に、過酸化水素、銅塩、及びチオ硫酸ナトリウム(並びに実施例17及び23ではさらにDDAC)を添加して30分間撹拌した。
【0085】
各順序において、最後の撹拌後、実施例1の説明で述べた凝集剤の添加を経て、反応液中に生じた難溶性シアン化合物を沈殿させることで固液分離し、得られた上澄水を処理水とした。得られた各処理水について、JIS K0102:2013に規定される方法で、処理水中の全シアン濃度を測定した。その結果を表2に示す。なお、実施例24では、酸化銅(I)(亜酸化銅)として、5.63gの粉末状の酸化銅(I)(和光純薬工業社製)を17.5質量%塩酸で全量が100gになるように溶解した酸化銅(I)溶液を用いた(以下の酸化銅(I)も同様である)。
【0086】
【0087】
実施例12〜24のいずれの条件においても、処理水中の全シアン濃度が0.1mg/L未満と良好な結果が得られ、原水中のシアン成分を十分高度に除去できたことが確認された。
【0088】
<実施例25>
実際の廃水処理の現場において、本処理方法による廃水中のシアン成分の除去処理能を確認するために、小スケールでのベンチ試験を22日間にわたって行った。
【0089】
(処理対象)
本実施例では、排出ガスを図5に示すような処理フロー1で洗浄している排ガス洗浄設備から発生したブロー水W1を処理対象(原水)とした。具体的には、排出ガスを連続的に湿式集塵機(ベンチュリスクラバー)2で洗浄し、得られた集塵水W2を沈殿槽3で沈降分離し、沈降分離により得られた上澄み液W3を処理水槽4に送り、その処理水槽4から流れ出るブロー水W1を処理対象とした。この処理フローでは、処理水槽4に送られた上澄み液W3の一部は、循環水W4として、補給水W5が加えられつつ湿式集塵機2に戻されて、排出ガスの洗浄に循環使用される。また、沈殿槽3で沈降分離により得られた沈殿物Sは、脱水機5に送られて脱水処理され、その一部は脱水ケーキとして処理され、また別の一部は脱水ろ液W6として沈殿槽3に再送される。なお、上記排出ガスには、シアン化水素(HCN)、一酸化炭素、及び二酸化炭素に加え、SOxが含まれることが確認されている。ベンチ試験を行った22日間(day1〜22)の原水の水質を表3に示す。また、循環水W4には、循環水系におけるスケール発生を防止するためにホスホン酸系化合物及びポリカルボン酸からなるスケール防止剤が含有させられており、したがって、ブロー水W1にもこのスケール防止剤が含有されている。
【0090】
【0091】
図6に実施例25で行った処理フローの模式図を示す。図6に示す通り、原水W1を第1の反応槽6Aに送り、そこで過酸化水素、及びチオ硫酸ナトリウムを各薬剤タンク61、62から添加する工程と、それらが添加された液を第2の反応槽6Bに送り、そこで酸化銅(I)及びDDACを各薬剤タンク63、64から添加する工程とを行った。そして、各薬剤が添加された液を凝集槽7に送り、その凝集槽7にて凝集剤タンク71から凝集剤を添加する工程と、薬剤及び凝集剤が添加された液を沈殿槽8に送り、沈殿槽8で固液分離する工程とを行った。実施例25では、これらの工程を連続的に行った。
【0092】
具体的には、各試験日において、原水(上記ブロー水)W1を流入量16L/時間にて第1の反応槽6A(容量約8L)に送った。その第1の反応槽6Aにおいて、過酸化水素及びチオ硫酸ナトリウムを、液中の濃度がそれぞれ表4に示す濃度となるように薬剤タンク61、62から添加し、回転速度可変式小型撹拌装置67で撹拌した(回転速度:120rpm)。この際、pHコントローラー66と連動したポンプPを用いて、pH調整剤タンク65から硫酸を適宜添加し、第1の反応槽6A中の液のpHが6.5になるように調整した。次いで、過酸化水素及びチオ硫酸ナトリウムが添加された液を第2の反応槽6B(容量約8L)に送った。その第2の反応槽6Bにおいて、酸化銅(I)及びDDACを、液中の濃度がそれぞれ表4に示す濃度となるように薬剤タンク63、64から添加し、回転速度可変式小型撹拌装置68で撹拌した(回転速度:120rpm)。この際、第2の反応槽6B内の液のpHは5.8〜6.3の間であった。各薬剤が添加された液を凝集槽7(容量約1.5L)に送り、その凝集槽7にて、凝集剤タンク71から実施例1等で使用したものと同じアニオン性高分子凝集剤を1mg/L添加し、マグネティックスターラー72で撹拌した。なお、各薬剤、及び凝集剤の添加には、ポンプPを用いた。そして、各薬剤及び凝集剤が添加された液を撹拌機81付きの沈殿槽8(容量約12L)に送り、沈殿処理による固液分離を行った。沈殿槽8で生じた沈殿物は、各日の通水終了後、排泥した。このベンチ試験による処理方法は、図7に示すような、実際の現場における排出ガスの処理フローの一部として組み込まれることを想定して行われたものである。図7に示す処理フローにおいて、凝集剤は、第1の反応槽16Aから沈殿槽18に至る過程のいずれか(例えば、第1の反応槽16A、第2の反応槽16B、中継槽17、又は沈殿槽18)で添加することができる。
【0093】
【0094】
実施例25の処理フローにおいて、第1の反応槽6Aにて薬剤を添加してから、第1の反応槽6A、第2の反応槽6B、凝集槽7、及び沈殿槽8内の水が入れ替わったと考えられる2時間経過後に、沈殿槽8の上澄みを処理水として採取し始めた。その処理水の採取を始めてから、通水を5時間後まで継続し、この間、処理水をすべて貯留した。この貯留した処理水を混合したものについて、JIS K0102:2013に規定される方法により、全シアン(T−CN)濃度を測定した。実施例25の結果を表5に示す。なお、原水W1のシアン濃度の測定は、原水W1を第1の反応槽6Aに送ってから通水の終了までの間に連続的に採取した原水を混合したものについて行った。この原水について、LC−ICP−MS装置を用いて、原水中の鉄化合物のクロマトグラムを測定したところ、実施例1等で処理した原水と同様、[Fe(CN)64-、[Fe(CN)63-、鉄−シアン化合物A及びBが含有されていることが確認された(図1参照)。
【0095】
【0096】
表5に示す通り、実施例25で行った方法は、シアン化物イオン及び鉄シアノ錯体に対して優れた低減性能を示し、かつ、安定した処理水質が得られる、非常に有用な方法であることが確認された。
【0097】
<実施例26、27>
実施例26及び27では、シアン含有廃水に銅塩を添加することにより、処理水中に溶解性の銅化合物が残存する可能性がある場合を想定し、廃水中のシアン成分を除去し得る処理能を維持しつつ、溶解性の銅化合物の濃度を抑制可能な方法を確認する試験を行った。
【0098】
具体的には、実施例26及び27では、実施例25における試験の11、16、19、及び20日目(day11、16、19、及び20)の各日の原水を採取しておき、これらの原水それぞれを処理対象とした。実施例26では、実施例25で行った処理における酸化銅(I)及びDDACの添加と同時期に、さらに塩化鉄(II)を25mg(Fe)/L添加したこと以外は、実施例25と同様の方法で原水を処理し、処理水を得た。また、実施例27では、実施例25で行った処理における酸化銅(I)及びDDACの添加と同時期に、さらに塩化鉄(III)を25mg(Fe)/L添加したこと以外は、実施例25と同様の方法で上記原水を処理し、処理水を得た。得られた各処理水中の全シアン(T−CN)濃度の測定に加えて、ICP発光分光分析法により、処理水中の全溶解性銅化合物(S−Cu)濃度を測定した。これらの測定結果を表6に示す。
【0099】
【0100】
実施例26及び27で得られた各処理水中のS−Cu濃度は、実施例25で得られた処理水中のS−Cu濃度よりも低かった。そのため、処理水中のS−Cu濃度を低減することが必要である場合には、過酸化水素、銅塩、及び還元剤に加えて、さらに鉄塩(好ましくは第一鉄塩)を併用することで、廃水中のシアン成分を除去し得る処理能を維持しつつ、溶解性の銅化合物の濃度を抑制できることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7