特許第6474484号(P6474484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474484
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】グラビアシリンダー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41N 1/06 20060101AFI20190218BHJP
   B41C 1/045 20060101ALI20190218BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   B41N1/06
   B41C1/045
   C23C28/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-512255(P2017-512255)
(86)(22)【出願日】2016年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2016060135
(87)【国際公開番号】WO2016167115
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2017年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-82271(P2015-82271)
(32)【優先日】2015年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000131625
【氏名又は名称】株式会社シンク・ラボラトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】菅原 申太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉伸
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−515708(JP,A)
【文献】 特開2009−155169(JP,A)
【文献】 特開2002−338267(JP,A)
【文献】 特開平08−225933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/06
B41C 1/045
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
版母材と、
前記版母材の表面に設けられかつ表面に多数の凹部が形成された凹部層と、
前記凹部層の表面に形成されたバインダー層と、
前記バインダー層の表面に形成された中間層と、
前記中間層を窒化クロム又は炭化クロムで被覆してなる表面強化被覆層と、
を含み、
前記表面強化被覆層が反応性スパッタリングによって形成されてなり、
前記バインダー層がスパッタリング又はメッキで形成したニッケル層であり、
前記中間層がスパッタリング又はメッキで形成したクロム層である、グラビアシリンダー。
【請求項2】
版母材を準備する工程と、
前記版母材の表面に多数の凹部が形成された凹部層を設ける工程と、
前記凹部層の表面にバインダー層を形成する工程と、
前記バインダー層の表面に中間層を形成する工程と、
前記中間層の表面を窒化クロム又は炭化クロムで被覆する表面強化被覆層を反応性スパッタリングで形成する工程と、を含み、
前記中間層がスパッタリング又はメッキで形成したクロム層であり、前記バインダー層がスパッタリング又はメッキで形成したニッケル層である、グラビアシリンダーの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のグラビアシリンダーを用いて被印刷物に印刷してなる工程を含む、印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビアシリンダー及びその製造方法並びにそれを用いた印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷では、版母材に対し、製版情報に応じた微小な凹部(グラビアセル)を形成して版面を製作し当該グラビアセルにインキを充填して被印刷物に転写するものである。従来の一般的なグラビアシリンダー(グラビア印刷用製版ロール)においては、アルミニウムや鉄などの金属製中空ロールである版母材又はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)等のプラスチック製中空ロールである版母材の表面に版面形成用の銅メッキ層を設け、該銅メッキ層にフォトレジストを塗布し、前記フォトレジストを露光・現像せしめてレジストパターンを形成し、エッチング法又は電子彫刻法によって製版情報に応じ多数の微小な凹部(グラビアセル)を形成し、次いでグラビアシリンダーの耐刷力を増すためのクロムメッキによって硬質のクロム層を形成して表面強化被覆層とし、製版が完了したグラビアシリンダーとなる。
【0003】
しかし、クロムメッキ工程においては有毒な六価クロムを用いているために、作業の安全維持を図るために余分なコストがかかる。また、クロムメッキの廃液処理を行わないと公害発生の問題もあり、クロム層に替わる表面強化被覆層の出現が待望されているのが現状である。
【0004】
例えば、特許文献1には、グラビア印刷用ロールの表面に電気銅メッキを施した後、印刷用原図に対応する凹凸を付与し、次いで、クロム又はクロム化合物のコーティング膜を真空蒸着により形成することを特徴とするグラビア印刷用ロールの製造方法が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1に開示されているような銅メッキに対してクロム、窒化クロム、又は炭化クロムを真空蒸着、またはイオンプレーティングにより成膜しようとすると、グラビア印刷用ロールの温度が400℃前後まで上昇し、銅メッキに歪が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−39994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みなされたもので、グラビアシリンダーとしての耐摩耗性が良好であり、六価クロムを用いたクロムメッキと同等かそれ以上の耐摩耗性を有する表面強化被覆層を備えたグラビアシリンダー及びその製造方法並びにそれを用いた印刷物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のグラビアシリンダーは、版母材と、前記版母材の表面に設けられかつ表面に多数の凹部が形成された凹部層と、前記凹部層の表面に形成されたバインダー層と、前記バインダー層の表面に形成された中間層と、前記中間層を窒化クロム又は炭化クロムで被覆してなる表面強化被覆層と、を含み、前記表面強化被覆層が反応性スパッタリングによって形成されてなり、前記バインダー層がスパッタリング又はメッキで形成したニッケル層であり、前記中間層がスパッタリング又はメッキで形成したクロム層である、グラビアシリンダーである。
【0009】
前記凹部層と前記表面強化被覆層との間に中間層を形成してなるのが好ましい。
【0010】
前記中間層が金属中間層であるのが好ましい。前記中間層が、Ni、ステンレス鋼、真鍮、Fe、Cr、Zn、Sn、Ti、Cu、Alからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなるのが好適である。なお、少なくとも一種の材料であるから、合金であってもよいことは勿論である。
【0011】
前記金属中間層がスパッタリング又はメッキで形成したクロム層であるのが好ましい。
【0012】
前記凹部層と前記中間層との間にバインダー層を形成してなるのが好ましい。
【0013】
前記バインダー層が金属バインダー層であるのが好ましい。前記バインダー層が、Ni、ステンレス鋼、真鍮、Fe、Cr、Zn、Sn、Ti、Cu、Alからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなるのが好適である。なお、少なくとも一種の材料であるから、合金であってもよいことは勿論である。
【0014】
前記金属バインダー層がスパッタリング又はメッキで形成したニッケル層であるのが好ましい。
【0015】
本発明のグラビアシリンダーの製造方法は、版母材を準備する工程と、前記版母材の表面に多数の凹部が形成された凹部層を設ける工程と、前記凹部層の表面にバインダー層を形成する工程と、前記バインダー層の表面に中間層を形成する工程と、前記中間層の表面を窒化クロム又は炭化クロムで被覆する表面強化被覆層を反応性スパッタリングで形成する工程と、を含み、前記中間層がスパッタリング又はメッキで形成したクロム層であり、前記バインダー層がスパッタリング又はメッキで形成したニッケル層である、グラビアシリンダーの製造方法である。
【0016】
前記凹部層と前記表面強化被覆層との間に中間層を形成してなるのが好ましい。
【0017】
前記中間層が金属中間層であるのが好ましい。前記中間層が、Ni、ステンレス鋼、真鍮、Fe、Cr、Zn、Sn、Ti、Cu、Alからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなるのが好適である。なお、少なくとも一種の材料であるから、合金であってもよいことは勿論である。
【0018】
前記金属中間層がスパッタリング又はメッキで形成したクロム層であるのが好ましい。
【0019】
前記凹部層と前記中間層との間にバインダー層を形成してなるのが好ましい。
【0020】
前記バインダー層が金属バインダー層であるのが好ましい。前記バインダー層が、Ni、ステンレス鋼、真鍮、Fe、Cr、Zn、Sn、Ti、Cu、Alからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなるのが好適である。なお、少なくとも一種の材料であるから、合金であってもよいことは勿論である。
【0021】
前記金属バインダー層がスパッタリング又はメッキで形成したニッケル層であるのが好ましい。
【0022】
本発明の印刷物の製造方法は、前記グラビアシリンダーを用いて被印刷物に印刷してなる工程を含む、印刷物の製造方法である。本発明の印刷物は、前記印刷物の製造方法によって印刷されてなる、印刷物である。
【0023】
前記表面強化被覆層の厚さについては、特に限定はないが、生産効率の観点から、1μm〜10μmであることが好ましく、3μm〜6μmがより好ましく、3μm〜4μmがさらに好ましい。
【0024】
前記版母材が、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、金、銀、白金、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなるのが好適である。なお、少なくとも一種の材料であるから、合金であってもよいことは勿論である。また、版母材としては、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)も適用可能である。
【0025】
前記版母材が、ゴム又はクッション性を有する樹脂からなるクッション層を備えるのが好ましい。すなわち、前記基材が、ゴム又はクッション性を有する樹脂からなるクッション層上に金属基材が形成されてなるクッション層を備えた版母材でもよい。前記クッション層としては、シリコンゴム等の合成ゴムやポリウレタン、ポリスチレン等の弾力性のある合成樹脂を使用することができる。このクッション層の厚さはクッション性即ち弾力性を付与できる厚さであればよく、特別の限定はないが、例えば、1cm〜5cm程度の厚さがあれば充分である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、グラビアシリンダーとしての耐摩耗性が良好であり、六価クロムを用いたクロムメッキと同等かそれ以上の耐摩耗性を有する表面強化被覆層を備えたグラビアシリンダー及びその製造方法並びにそれを用いた印刷物の製造方法を提供することができるという著大な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明のグラビアシリンダーの一つの実施の形態の製造工程を模式的に示す説明図で、(a)は版母材の全体断面図、(b)は版母材の表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は版母材の銅メッキ層に凹部を形成し凹部層とした状態を示す部分拡大断面図、(d)は凹部層を表面強化被覆層で被覆した状態を示す部分拡大断面図である。
図2図1に示したグラビアシリンダーの製造方法の工程順を示すフローチャートである。
図3】本発明のグラビアシリンダーの別の実施の形態の製造工程を模式的に示す説明図で、(a)は版母材の全体断面図、(b)は版母材の表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は版母材の銅メッキ層に凹部を形成し凹部層とした状態を示す部分拡大断面図、(d)は凹部層上に中間層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(e)はさらに表面強化被覆層で被覆した状態を示す部分拡大断面図である。
図4図3に示したグラビアシリンダーの製造方法の工程順を示すフローチャートである。
図5】本発明のグラビアシリンダーのさらに別の実施の形態の製造工程を模式的に示す説明図で、(a)は版母材の全体断面図、(b)は版母材の表面に銅メッキ層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(c)は版母材の銅メッキ層に凹部を形成し凹部層とした状態を示す部分拡大断面図、(d)は凹部層上にバインダー層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(e)はバインダー層上に中間層を形成した状態を示す部分拡大断面図、(f)はさらに表面強化被覆層で被覆した状態を示す部分拡大断面図である。
図6図5に示したグラビアシリンダーの製造方法の工程順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。なお、同一部材は同一符号で表される。
【0029】
図1図3及び図5において、符号10は版母材であるアルミニウム製の円筒状中空ロールを示す。
【0030】
本発明のグラビアシリンダーの一つの実施の形態の製造工程を、図1及び図2に基づいて、説明する。まず、版母材10を準備する(図1(a)及び図2のステップ100)。次に、版母材10の表面にメッキ処理によって銅メッキ層12を形成する(図1(b)及び図2のステップ102)。
【0031】
前記銅メッキ層12の表面には多数の微小な凹部(グラビアセル)が形成された凹部層14が形成される(図1(c)及び図2のステップ104)。凹部層14の形成方法としては、エッチング法(版胴面に感光液を塗布して直接焼き付けた後、エッチングしてグラビアセルを形成する)や電子彫刻法(デジタル信号によりダイヤモンド彫刻針を機械的に作動させ銅表面にグラビアセルを彫刻する)等の公知の方法を用いることができるが、エッチング法が好適である。
【0032】
次に、前記凹部層14の表面に窒化クロム又は炭化クロムの表面強化被覆層16を形成し、被覆する(図1(d)及び図2のステップ110)。表面強化被覆層16の形成は、反応性スパッタリングで行う。
【0033】
上記した表面強化被覆層16で被覆することによって、毒性がなくかつ公害発生の心配も皆無となるとともに耐刷力に優れたグラビアシリンダー18aを得ることができる。
【0034】
ここで、スパッタリングは、薄膜にしたい材料(ターゲット材料)にイオン化したスパッタガス(不活性ガス)をぶつけると材料がはね飛ばされるが、このはね飛ばされた材料を基板上に堆積させ薄膜を作製する方法であり、ターゲット材料の制約が少なく、薄膜を大面積に再現性よく作製できるなどの特徴がある。
【0035】
本発明では、スパッタリングとして、反応性スパッタリングを用いる。即ち、スパッタガスに加え、反応性ガスをチャンバ内に導入してスパッタリングを行う。
【0036】
次に、本発明のグラビアシリンダーの別の実施の形態の製造工程を図3及び図4に基づいて説明する。
【0037】
まず、版母材10を準備する(図3(a)及び図4のステップ100)。次に、版母材10の表面に銅の金属メッキ処理によって金属メッキ層12を形成する(図3(b)及び図4のステップ102)。
【0038】
前記金属メッキ層12の表面には多数の微小な凹部(グラビアセル)が形成された凹部層14が形成される(図3(c)及び図4のステップ104)。グラビアセルの形成方法としては、エッチング法(版胴面に感光液を塗布して直接焼き付けた後、エッチングしてグラビアセルを形成する)や電子彫刻法(デジタル信号によりダイヤモンド彫刻針を機械的に作動させ銅表面にグラビアセルを彫刻する)等の公知の方法を用いることができるが、エッチング法が好適である。
【0039】
次に、前記凹部層14の表面に、中間層15を形成する(図3(d)及び図4のステップ108)。
【0040】
前記中間層15としては金属中間層が好ましく、Ni、ステンレス鋼、真鍮、Fe、Cr、Zn、Sn、Ti、Cu、Alからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなるのが好適である。なお、少なくとも一種の材料であるから、合金であってもよいことは勿論である。また、前記中間層15がスパッタリング又はメッキで形成したクロム層であるのが好ましい。
【0041】
次に、窒化クロム又は炭化クロムの表面強化被覆層16を形成する(図3(e)及び図4のステップ110)。表面強化被覆層16の形成は、反応性スパッタリングで行う。
【0042】
上記した表面強化被覆層16で被覆することによって、毒性がなくかつ公害発生の心配も皆無となるとともに耐刷力に優れたグラビアシリンダー18bを得ることができる。
【0043】
次に、本発明のグラビアシリンダーのさらに別の実施の形態の製造工程を図5及び図6に基づいて説明する。
【0044】
まず、版母材10を準備する(図5(a)及び図5のステップ100)。次に、版母材10の表面に銅の金属メッキ処理によって金属メッキ層12を形成する(図5(b)及び図6のステップ102)。
【0045】
前記金属メッキ層12の表面には多数の微小な凹部(グラビアセル)が形成された凹部層14が形成される(図5(c)及び図5のステップ104)。グラビアセルの形成方法としては、エッチング法(版胴面に感光液を塗布して直接焼き付けた後、エッチングしてグラビアセルを形成する)や電子彫刻法(デジタル信号によりダイヤモンド彫刻針を機械的に作動させ銅表面にグラビアセルを彫刻する)等の公知の方法を用いることができるが、エッチング法が好適である。
【0046】
次に、前記凹部層14の表面に、バインダー層17を形成する(図5(d)及び図6のステップ106)。
【0047】
前記バインダー層17としては金属バインダー層が好ましく、Ni、ステンレス鋼、真鍮、Fe、Cr、Zn、Sn、Ti、Cu、Alからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなるのが好適である。なお、少なくとも一種の材料であるから、合金であってもよいことは勿論である。また、前記バインダー層17がスパッタリング又はメッキで形成したニッケル層であるのが好ましい。
【0048】
次に、前記バインダー層17の表面に、中間層15を形成する(図5(e)及び図6のステップ108)。
【0049】
前記中間層15としては金属中間層が好ましく、Ni、ステンレス鋼、真鍮、Fe、Cr、Zn、Sn、Ti、Cu、Alからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料からなるのが好適である。なお、少なくとも一種の材料であるから、合金であってもよいことは勿論である。また、前記中間層15がスパッタリング又はメッキで形成したクロム層であるのが好ましい。
【0050】
次に、前記中間層15の表面に窒化クロム又は炭化クロムの表面強化被覆層16を形成する(図5(f)及び図6のステップ110)。表面強化被覆層16の形成は、反応性スパッタリングで行う。
【0051】
上記した表面強化被覆層16で被覆することによって、毒性がなくかつ公害発生の心配も皆無となるとともに耐刷力に優れたグラビアシリンダー18cを得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0053】
(実施例1)
円周600mm、面長1100mmの版母材(アルミ中空ロール)を準備し、NewFX(株式会社シンク・ラボラトリー製全自動レーザーグラビア製版システム)を用いて後述するグラビアシリンダー(グラビア製版ロール)の製造を行った。まず、被処理ロールである版母材(アルミ中空ロール)を銅メッキ槽に装着し、中空ロールをメッキ液に全没させて30A/dm2、6.0Vで40μmの銅メッキ層を形成した。メッキ表面はブツやピットの発生がなく、基材となる均一な銅メッキ層を得た。この銅メッキ層の表面を2ヘッド型研磨機(株式会社シンク・ラボラトリー製研磨機)を用いて研磨して当該銅メッキ層の表面を均一な研磨面とした。
【0054】
次いで、前記銅メッキ層を形成した被処理ロールの表面に感光材(サーマルレジスト:TSER2104E4(株式会社シンク・ラボラトリー製))を塗布(ファウンテンコーター)、乾燥した。得られた感光材の膜厚は膜厚計(FILLMETRICS社製F20、松下テクノトレーデイング社販売)で計ったところ、4.5μmであった。ついで、画像をレーザー露光し現像した。上記レーザー露光は、Laser Stream FXを用い露光条件300mJ/cm2で所定のパターン露光を行った。また、上記現像は、TLD現像液(株式会社シンク・ラボラトリー製現像液)を用い、現像液希釈比率(原液1:水7)で、24℃90秒間行い、所定のレジストパターンを形成した。次いで、上記形成したレジストパターンをエッチングマスクとして、銅メッキ層を腐食した。腐食液には塩化第二銅液を用い、35℃100秒間スプレーにて行いた。次いで、水酸化ナトリウムを用い、希釈比率20g/Lで40℃180秒間行い、レジストパターンのレジスト剥離を行った。このようにして、深度が20μmで1辺が145μmの正方形の多数の凹部(グラビアセル)を形成した。
【0055】
バインダー層を形成するため、表面に多数の凹部が形成された被処理ロールをニッケルメッキ槽に装着し、被処理ロールをメッキ液に全没させて3A/dm2、6.0Vで2μmのニッケルメッキ層を形成した。メッキ表面はブツやピットの発生がなく、均一なニッケルメッキ層のバインダー層を得た。
【0056】
そして、スパッタリング装置内のチャンバを1.0×10−3Pa以下まで真空排気し、ニッケルメッキ層を形成した被処理ロールに対して、成膜対象物の表面酸化膜除去のため、Arボンバードを行った(表面温度100℃)。
【0057】
次に、版母材との密着力を向上させるため、中間層としてCr層をスパッタリングで形成した。前記中間層形成の条件を表1に示す。Cr層の厚さは0.05μmであった。
【0058】
【表1】
【0059】
次に、中間層の上に表面強化被覆層として窒化クロム層を反応性スパッタリングで形成した。前記表面強化被覆層形成の条件を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示したように、プロセスガスのArガスとNガスの流量及び分圧比やプロセス圧力を変化させながら、傾斜膜1から順に傾斜膜4までを形成した。このように、Nガスの量を徐々に多くすることにより、強固な窒化クロム層を形成した。前記表面強化被覆層の膜厚は、4μmであった。
【0062】
反応性スパッタリングの終了後、被処理ロールを冷却し、チャンバから取り出した。このようにしてグラビアシリンダーを製造した。このグラビアシリンダーの表面を光学顕微鏡で観察したところ、表面に多数の凹部が形成された高精細なグラビアセルが観察された。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様にして、版母材の表面に多数の凹部(グラビアセル)を形成した後、バインダー層としてニッケルメッキ層を形成し、中間層としてCr層をスパッタリングで形成した。その後、プロセスガスをNガスとメタンガスに変え、中間層の上に表面強化被覆層として炭化クロム層を反応性スパッタリングで形成した。前記表面強化被覆層形成の条件を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
反応性スパッタリングの終了後、被処理ロールを冷却し、チャンバから取り出した。このようにしてグラビアシリンダーを製造した。このグラビアシリンダーの表面を光学顕微鏡で観察したところ、表面に多数の凹部が形成された高精細なグラビアセルが観察された。前記表面強化被覆層の膜厚は、4μmであった。
【0066】
(比較例1)
円周600mm、面長1100mmの版母材(アルミ中空ロール)を準備し、NewFX(株式会社シンク・ラボラトリー製全自動レーザーグラビア製版システム)を用いて後述するグラビアシリンダー(グラビア製版ロール)の製造を行った。まず、被処理ロールである版母材(アルミ中空ロール)を銅メッキ槽に装着し、中空ロールをメッキ液に全没させて30A/dm2、6.0Vで40μmの銅メッキ層を形成した。メッキ表面はブツやピットの発生がなく、基材となる均一な銅メッキ層を得た。この銅メッキ層の表面を2ヘッド型研磨機(株式会社シンク・ラボラトリー製研磨機)を用いて研磨して当該銅メッキ層の表面を均一な研磨面とした。
【0067】
次いで、前記銅メッキ層を形成した被処理ロールの表面に感光材(サーマルレジスト:TSER2104E4(株式会社シンク・ラボラトリー製))を塗布(ファウンテンコーター)、乾燥した。得られた感光材の膜厚は膜厚計(FILLMETRICS社製F20、松下テクノトレーデイング社販売)で計ったところ、4.5μmであった。ついで、画像をレーザー露光し現像した。上記レーザー露光は、Laser Stream FXを用い露光条件300mJ/cm2で所定のパターン露光を行った。また、上記現像は、TLD現像液(株式会社シンク・ラボラトリー製現像液)を用い、現像液希釈比率(原液1:水7)で、24℃90秒間行い、所定のレジストパターンを形成した。次いで、上記形成したレジストパターンをエッチングマスクとして、銅メッキ層を腐食した。腐食液には塩化第二銅液を用い、35℃100秒間スプレーにて行いた。次いで、水酸化ナトリウムを用い、希釈比率20g/Lで40℃180秒間行い、レジストパターンのレジスト剥離を行った。このようにして、深度が20μmで1辺が145μmの正方形の多数の凹部(グラビアセル)を形成した。
【0068】
表面に多数の凹部が形成された被処理ロールをクロムメッキ槽に装着し、被処理ロールをメッキ液に全没させて30A/dm2、6.0Vで4μmの六価クロムのクロムメッキ層を形成した。メッキ表面はブツやピットの発生がなく、均一なクロムメッキ層を得た。このようにしてグラビアシリンダーを製造した。このグラビアシリンダーの表面を光学顕微鏡で観察したところ、表面に多数の凹部が形成された高精細なグラビアセルが観察された。クロムメッキ層の膜厚は、4μmであった。
【0069】
<評価試験方法>
実施例及び比較例によって製造されたグラビアシリンダー表面の耐摩耗性の評価として、ボールオンディスク法による磨耗試験を試験片を用いて実施した。
実施例1及び2並びに比較例と同様の手法により、各試験片(銅メッキ80μm)に表面強化被覆層をそれぞれ4μm成膜した。
試験装置は、Anton Paar社(スイス)製の「トライボメーター」を用い、測定装置に各試験片をセットし、相手材として直径6mmのアルミナボールをホルダーにセットし、荷重:1N、回転速度:10cm/sec、回転半径3mm、回転数20000rap、無潤滑条件で試験を行った。
【0070】
磨耗量は磨耗幅と磨耗深さの積で数値化した。
測定装置は、菱化システム社製の「白色干渉計(VertScan)」を用い、磨耗断面より、磨耗幅と磨耗深さを測定した。評価結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
【符号の説明】
【0072】
10:版母材、12:金属メッキ層、14:グラビアセル、15:中間層、16:表面強化被覆層、17:バインダー層、18a,18b,18c:グラビアシリンダー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6