(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポスト壁導波路型のバンドパスフィルタにおいては、後述するエッジ領域がバイパス導波路として機能することによって、通過帯域外の電磁波がバンドパスフィルタを通過するバイパス現象が起こり得ることを、本願発明者らは発見した。このようなバイパス現象が起こると、バンドパスフィルタのアイソレーション性能が劣化する。
【0006】
ポスト壁導波路型のバンドパスフィルタにおいて起こり得るバイパス現象について、
図6及び
図7を参照してより具体的に説明すれば、以下のとおりである。なお、以下の説明においては、図示した座標系において、x軸正方向を「右」、x軸負方向を「左」、y軸正方向を「前」、y軸負方向を「後」、z軸正方向を「上」、z軸負方向を「下」と呼ぶ。
【0007】
図6は、バンドパスフィルタ9の分解斜視図である。
図6に示すように、バンドパスフィルタ9は、誘電体基板91と、誘電体基板91の上面に形成された上広壁92aと、誘電体基板91の下面に形成された下広壁92bと、誘電体基板91の内部に形成されたポスト壁93と、を備えている。ポスト壁93は、柵状に並べられた導体ポストP1,P2,…の集合である。
【0008】
図7は、バンドパスフィルタ9の平面図である。
図7に示すように、ポスト壁93は、右狭壁930a、左狭壁930b、前狭壁930c、及び後狭壁930dに加えて、6組の隔壁対931〜936を含んでいる。上下を広壁92a,92b(不図示)で挟まれ、前後左右を狭壁930a〜930dに囲まれた直方体状の領域D1は、電磁波を導波する方形導波路として機能する。以下、この領域D1のことを、「導波領域」と呼ぶ。
【0009】
導波領域D1は、6組の隔壁対931〜936によって7つの小領域D11〜D17に区画されている。小領域D11には、電磁波を第1マイクロストリップ線路5から導波領域D1に入力するための入力部90aが形成されている。以下、この小領域D11のことを、「入力領域」と呼ぶ。また、5個の小領域D12〜D16の各々は、共振器として機能する。以下、これらの小領域D12〜D16の各々のことを、「共振領域」と呼ぶ。また、小領域D17には、電磁波を導波領域D1から第2マイクロストリップ線路6に出力するための出力部90bが形成されている。以下、この小領域D17のことを、「出力領域」と呼ぶ。
【0010】
バンドパスフィルタ9においては、直列結合された5個の共振領域D12〜D16が、特定の通過帯域内の電磁波を選択的に通過させるチェビシェフ型のバンドパスフィルタとして機能する。このため、入力部90aを介して第1マイクロストリップ線路5から入力領域D11へと入力された電磁波のうち、特定の通過帯域内の電磁波のみが、出力部90bを介して出力領域D17から第2マイクロストリップ線路6へと出力される。
【0011】
ところが、このようなバンドパスフィルタ9においては、バイパス現象、すなわち、導波領域D1を介して第1マイクロストリップ線路5から第2マイクロストリップ線路6へと導波されるべき電磁波の一部が、導波領域D1の外部に存在するエッジ領域D2を介して第1マイクロストリップ線路5から第2マイクロストリップ線路6へと導波される現象が生じ得る。ここで、エッジ領域D2とは、
図7に示すように、誘電体基板91において、上広壁92aの外縁と下広壁92bの外縁とに挟まれた領域近傍のことを指す。
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るバンドパスフィルタは、誘電体基板と、前記誘電体基板の第1主面に形成された第1広壁と、前記誘電体基板の第2主面に形成された第2広壁と、前記誘電体基板の内部に形成された第1ショート壁、第2ショート壁、第1側壁、及び第2側壁からなるポスト壁と、を備え、前記第1広壁、前記第2広壁、及び前記ポスト壁によって、前記誘電体基板の内部に複数の共振領域を含む導波領域が形成されたバンドパスフィルタにおいて、前記第1ショート壁の近傍に設けられた、前記導波領域に電磁波を入力するための入力部と、前記第2ショート壁の近傍に設けられた、前記導波領域から電磁波を出力するための出力部と、を更に備え、前記第1側壁の壁心から前記第1広壁及び前記第2広壁の各々の縁のうち前記第1側壁に沿った部分までの距離を、それぞれ、第1の距離及び第2の距離とし、前記第2側壁の壁心から前記第1広壁及び前記第2広壁の各々の縁のうち前記第2側壁に沿った部分までの距離を、それぞれ、第3の距離及び第4の距離として、前記第1〜第4の距離のうち少なくとも何れか1つの距離は、前記導波領域の少なくとも一部区間において、前記第1側壁及び前記第2側壁を構成する複数の導体ポストのうち隣接する導体ポスト同士の中心間距離であるポスト間隔の1.5倍以下である、ことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、導波領域の少なくとも一部区間において第1〜第4のうち少なくとも何れか1つの距離がポスト間隔の1.5倍以下であることによって、入力部から出力部に向かって第1広壁及び第2広壁の少なくとも何れか一方の縁に沿って伝搬する通過帯域外の電磁波を抑制することができる。したがって、本バンドパスフィルタは、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタを実現することができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係るバンドパスフィルタにおいて、前記第1〜第4の距離のうち少なくとも何れか1つの距離は、前記導波領域の全区間において前記ポスト間隔の1.5倍以下である、ことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、導波領域の少なくとも一部区間において、前記第1〜第4の距離のうち少なくとも何れか1つの距離がポスト間隔の1.5倍以下である場合と比較して、上述した通過帯域外の電磁波を確実に抑制することができる。したがって、本バンドパスフィルタは、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタを確実に実現することができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係るバンドパスフィルタにおいて、前記第1〜第4の距離のうち少なくとも何れか1つの距離は、前記導波領域の少なくとも一部区間において、前記ポスト間隔以下である、ことが好ましい。
【0018】
この構成によれば、導波領域の少なくとも一部区間において、前記第1〜第4の距離のうち少なくとも何れか1つの距離がポスト間隔の1.5倍以下である場合と比較して、上述した通過帯域外の電磁波を更に確実に抑制することができる。したがって、本バンドパスフィルタは、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタを更に確実に実現することができる。
【0019】
また、本発明の一態様に係るバンドパスフィルタにおいて、前記第1〜第4の距離のうち少なくとも何れか1つの距離は、前記導波領域の全区間において前記ポスト間隔以下である、ことが好ましい。
【0020】
この構成によれば、上述した各態様に係るバンドパスフィルタと比較して、上述した通過帯域外の電磁波をより一層確実に抑制することができる。したがって、本バンドパスフィルタは、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタをより一層確実に実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタを実現することにある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔実施形態〕
(バンドパスフィルタの構成)
本発明の実施形態に係るバンドパスフィルタ1の構成について、
図1〜
図3を参照して説明する。
図1は、バンドパスフィルタ1の分解斜視図である。
図2は、バンドパスフィルタ1の平面図である。
図3の(b)は、バンドパスフィルタ1の断面図である。なお、
図1においては、バンドパスフィルタ1に接続されるマイクロストリップ線路5,6を併せて示している。また、
図3に示す断面は、
図2に示すA−A’線におけるバンドパスフィルタ1の断面である。
【0024】
バンドパスフィルタ1は、
図1に示すように、誘電体基板11と、誘電体基板11の上面に形成された上広壁12aと、誘電体基板11の下面に形成された下広壁12bと、誘電体基板11の内部に形成されたポスト壁13と、を備えている。誘電体基板11の上面及び下面の各々は、それぞれ、請求の範囲に記載の第1主面及び第2主面の一態様である。
【0025】
誘電体基板11は、誘電体により構成された板状部材である。本実施形態においては、誘電体基板11として、石英基板を用いている。ただし、誘電体基板11の材料は、誘電体であればよく、石英に限定されない。例えば、誘電体基板11の材料は、樹脂(例えば、テフロン(登録商標)系樹脂や液晶ポリマー樹脂など)であっても構わない。
【0026】
なお、以下の説明においては、誘電体基板11の表面を構成する6つの面のうち、面積が最も大きな2つの面を「主面」と呼ぶ。特に、これら2つの主面を区別する必要がある場合は、第1の主面を「上面」と呼び、第1の主面に対向する第2の主面を「下面」と呼ぶ。また、誘電体基板11の表面を構成する6つの面のうち、主面以外の4つの面を「側面」と呼ぶ。特に、これら4つの側面を区別する必要がある場合には、第1の側面を「右側面」と呼び、第1の側面に対向する第2の側面を「左側面」と呼び、第1の側面及び第2の側面に直交する第3の側面を「前側面」と呼び、第3の側面に対向する第4の側面を「後側面」と呼ぶ。ただし、これらの呼称は、説明の便宜上のものであり、バンドパスフィルタ1の配置に制約を課すものではない。また、以下の説明においては、誘電体基板11の左側面から右側面に向かう方向をx軸正方向とし、誘電体基板11の後側面から前側面に向かう方向をy軸正方向とし、誘電体基板11の下面から上面に向かう方向をz軸正方向とする直交座標系を利用する。
【0027】
上広壁12aは、誘電体基板11の上面に形成された長方形の膜状導体であり、下広壁12bは、上広壁12aと対向するように、誘電体基板11の下面に形成された長方形の膜状導体である。
図1に示すように、上広壁12aの外縁を構成する4つの辺のうち右方(x軸正方向側)の長辺を長辺12a1と称し、左方(x軸負方向側)の長辺を長辺12a2と称し、前方(y軸正方向側)の短辺を短辺12a3と称し、後方(y軸負方向側)の短辺を短辺12a4と称する。同様に、下広壁12bの外縁を構成する4つの辺のうち右方(x軸正方向側)の長辺を長辺12b1と称し、左方(x軸負方向側)の長辺を長辺12b2と称し、前方(y軸正方向側)の短辺を短辺12b3と称し、後方(y軸負方向側)の短辺を短辺12b4と称する。上広壁12a及び下広壁12bの各々は、それぞれ、請求の範囲に記載の第1広壁及び第2広壁の一態様である。上広壁12aの外縁及び下広壁12bの外縁の各々は、それぞれ、請求の範囲に記載の1広壁の縁及び前記第2広壁の縁の一態様である。
【0028】
本実施形態においては、上広壁12a及び下広壁12bとして、銅膜を用いる。ただし、上広壁12a及び下広壁12bの材料は、導体であればよく、銅に限定されない。例えば、上広壁12a及び下広壁12bの材料は、銅以外の金属(例えば、アルミニウムや金など)であっても構わない。また、上広壁12a及び下広壁12bは、十分な厚みを有する板状導体であっても構わない。
【0029】
以下、ポスト壁13の構成について、
図1〜
図3を参照して説明する。ポスト壁13は、誘電体基板11の内部に形成された複数の導体ポストP1,P2,…の集合である。各導体ポストPi(i=1,2,…)は、
図3に示すように、誘電体基板11を上下に貫通する貫通孔の内壁を覆う膜状(円筒状)導体である(
図3においては、導体ポストPi一態様である導体ポスト133a1〜P133a3,P133b1〜P133b3を例示している)。各導体ポストPiの上端及び下端は、それぞれ、上広壁12a及び下広壁12bに接触しており、各導体ポストPiは、上広壁12aと下広壁12bとを短絡している。本実施形態においては、各導体ポストPiの材料として、銅を用いている。ただし、各導体ポストPiの材料は、導体であればよく、銅に限定されない。例えば、各導体ポストPiの材料は、銅以外の金属(例えば、アルミニウムや金など)であっても構わない。また、各導体ポストPiは、誘電体基板11を上下に貫通する貫通孔に充填された塊状(円柱状)の導体であっても構わない。これらの導体ポストP1,P2,…は、柵状に並べられており、これらの導体ポストP1,P2,…により構成されるポスト壁13は、ポスト間隔よりも十分に長い波長を有する電磁波を反射する導体壁として機能する。
【0030】
ポスト壁13は、
図2に示すように、右狭壁130a、左狭壁130b、前狭壁130c、及び後狭壁130dに加えて、6組の隔壁対131〜136を含んでいる。なお、前狭壁130c及び後狭壁130dは、ショート壁と呼ばれることもある。前狭壁130c及び後狭壁130dの各々は、それぞれ、請求の範囲に記載の第1ショート壁及び第2ショート壁の一態様である。
【0031】
右狭壁130a及び左狭壁130bは、それぞれ、導体ポストP1,P2,…の部分集合であって、y軸に沿って柵状に並べられた複数の導体ポストからなる。右狭壁130aは、yz面と平行に、誘電体基板11の中心よりも右側(x軸正方向側)に配置されている。一方、左狭壁130bは、yz面と平行に、誘電体基板11の中心よりも左側(x軸負方向側)に配置されている。右狭壁130a及び左狭壁130bの各々は、それぞれ、請求の範囲に記載の第1側壁及び第2側壁の一態様である。
【0032】
前狭壁130c及び後狭壁130dは、それぞれ、導体ポストP1,P2,…の部分集合であって、x軸に沿って柵状に並べられた複数の導体ポストからなる。前狭壁130cは、zx面と平行に、誘電体基板11の中心よりも前側(y軸正方向側)に配置されている。一方、後狭壁130dは、zx面と平行に、誘電体基板11の中心よりも後側(y軸負方向側)に配置されている。
【0033】
上下を広壁12a,12bで挟まれ、前後左右を狭壁130a〜130dに囲まれた直方体状の領域D1は、後述する入力部10aを介して入力された電磁波を導波する方形導波路として機能する。以下、この領域D1のことを、「導波領域」と呼ぶ。
【0034】
第1隔壁対131は、第1右隔壁131a及び第1左隔壁131bにより構成される。第1右隔壁131a及び第1左隔壁131bは、それぞれ、導体ポストP1,P2,…の部分集合であって、x軸に沿って柵状に並べられた複数(本実施形態においては2つ)の導体ポストからなる。第1右隔壁131aは、前狭壁130cの後方において、zx面と平行に、誘電体基板11の中心よりも右側(x軸正方向側)に配置されている。一方、第1左隔壁131bは、前狭壁130cの後方において、zx面と平行に、誘電体基板11の中心よりも左側(x軸負方向側)に配置されている。前狭壁130cから第1右隔壁131aまでの距離と前狭壁130cから第1左隔壁131bまでの距離とは、互いに一致している。また、第1右隔壁131aの左端(x軸負方向側の端部)と第1左隔壁131bの右端(x軸正方向側の端部)とは、互いに離間している。
【0035】
第2隔壁対132は、第2右隔壁132a及び第2左隔壁132bにより構成される。第2右隔壁132a及び第2左隔壁132bは、それぞれ、導体ポストP1,P2,…の部分集合であって、x軸に沿って柵状に並べられた複数(本実施形態においては3つ)の導体ポストからなる。第2右隔壁132aは、第1右隔壁131aの後方において、zx面と平行に、誘電体基板11の中心よりも右側(x軸正方向側)に配置されている。一方、第2左隔壁132bは、第1左隔壁131bの後方において、zx面と平行に、誘電体基板11の中心よりも左側(x軸負方向側)に配置されている。前狭壁130cから第2右隔壁132aまでの距離と前狭壁130cからから第2左隔壁132bまでの距離とは、互いに一致している。また、第2右隔壁132aの左端(x軸負方向側の端部)と第2左隔壁132bの右端(x軸正方向側の端部)とは、互いに離間している。
【0036】
第3隔壁対133は、第2隔壁対132の後方において、第2隔壁対132と同様に構成されている。第4隔壁対134は、第3隔壁対133の後方において、第2隔壁対132と同様に構成されている。第5隔壁対135は、第4隔壁対134の後方において、第2隔壁対132と同様に構成されている。第6隔壁対136は、第5隔壁対135の後方において、第1隔壁対131と同様に構成されている。これら6組の隔壁対131〜136は、y軸に沿って等間隔に並べられている。
【0037】
上述した導波領域D1は、これら6組の隔壁対131〜136によって、7つの小領域D11〜D17に区画される。
【0038】
導波領域D1のうち、前後を前狭壁130cと第1隔壁対131とで挟まれた小領域D11には、入力部10aが形成されている。入力部10aは、上広壁12aに形成された開口10a1と、開口10a1を通って誘電体基板11に挿入されたブラインドビア10a2と、により構成されている。ブラインドビア10a2は、上広壁12aからも下広壁12bからも絶縁されている。ブラインドビア10a2は、
図1に示すように、第1マイクロストリップ線路5の誘電体層51を貫通して、第1マイクロストリップ線路5の信号ライン52と接続される。この場合、第1マイクロストリップ線路5を導波された電磁波は、入力部10aを介して小領域D11に入力される。以下、この小領域D11のことを、「入力領域」と呼ぶ。ブラインドビア10a2は、誘電体基板11を貫通しておらず、その一方の端部(z軸負方向側の端部)が誘電体基板11の内部に位置することを除いて、各導体ポストPiと同様に構成されている。
【0039】
導波領域D1のうち、前後を第1隔壁対131と第2隔壁対132とで挟まれた小領域D12は、第1共振器として機能する。以下、この小領域D12のことを、「第1共振領域」と呼ぶ。第1共振領域D12は、第1右隔壁131aと第1左隔壁131bとの間の隙間を結合窓として、上述した入力領域D11と結合している。
【0040】
導波領域D1のうち、前後を第2隔壁対132と第3隔壁対133とで挟まれた小領域D13は、第2共振器として機能する。以下、この小領域D13のことを、「第2共振領域」と呼ぶ。第2共振領域D13は、第2右隔壁132aと第2左隔壁132bとの間の隙間を結合窓として、上述した第1共振領域D12と結合している。
【0041】
導波領域D1のうち、前後を第3隔壁対133と第4隔壁対134とで挟まれた小領域D14は、第3共振器として機能する。以下、この小領域D14のことを、「第3共振領域」と呼ぶ。第3共振領域D14は、第3右隔壁133aと第3左隔壁133bとの間の隙間を結合窓として、上述した第2共振領域D13と結合している。
【0042】
導波領域D1のうち、前後を第4隔壁対134と第5隔壁対135とで挟まれた小領域D15は、第4共振器として機能する。以下、この小領域D15のことを、「第4共振領域」と呼ぶ。第4共振領域D15は、第4右隔壁134aと第4左隔壁134bとの間の隙間を結合窓として、上述した第3共振領域D14と結合している。
【0043】
導波領域D1のうち、前後を第5隔壁対135と第6隔壁対136とで挟まれた小領域D16は、第5共振器として機能する。以下、この小領域D16のことを、「第5共振領域」と呼ぶ。第5共振領域D16は、第5右隔壁135aと第5左隔壁135bとの間の隙間を結合窓として、上述した第4共振領域D15と結合している。
【0044】
導波領域D1のうち、前後を第6隔壁対136と後狭壁130dとで挟まれた小領域D17には、出力部10bが形成されている。出力部10bは、上広壁12aに形成された開口10b1と、開口10b1を通って誘電体基板11に挿入されたブラインドビア10b2と、により構成されている。ブラインドビア10b2は、上広壁12aからも下広壁12bからも絶縁されている。ブラインドビア10b2は、
図1に示すように、第2マイクロストリップ線路6の誘電体層61を貫通して、第2マイクロストリップ線路6の信号ライン62と接続される。この場合、小領域D17を導波された電磁波は、出力部10bを介して第2マイクロストリップ線路6に出力される。以下、この小領域D17のことを、「出力領域」と呼ぶ。出力領域D17は、第6右隔壁136aと第6左隔壁136bとの間の隙間を結合窓として、上述した第5共振領域D16と結合している。ブラインドビア10b2は、ブラインドビア10a2と同一に構成されている。
【0045】
バンドパスフィルタ1においては、直列結合された5個の共振領域D12〜D16が、特定の通過帯域内の電磁波を選択的に通過させるチェビシェフ型のバンドパスフィルタとして機能する。このため、入力部10aを介して第1マイクロストリップ線路5から入力領域D11へと入力された電磁波のうち、特定の通過帯域内の電磁波のみが、出力部10bを介して出力領域D17から第2マイクロストリップ線路6へと出力される。
【0046】
なお、本実施形態においては、導波領域D1を6組の隔壁対131〜136で区画することによって、5個の共振領域D12〜D15を含むバンドパスフィルタを実現しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、nを3以上の任意の自然数として、導波領域D1をn組の隔壁対で区画することによって、n−1個の共振領域を含むバンドパスフィルタを実現することができる。例えば、(1)導波領域D1を3組の隔壁対で区画することによって、2個の共振領域を含むバンドパスフィルタを実現してもよいし、(2)導波領域D1を4組の隔壁対で区画することによって、3個の共振領域を含むバンドパスフィルタを実現してもよいし、(3)導波領域D1を5組の隔壁対で区画することによって、4個の共振領域を含むバンドパスフィルタを実現してもよい。
【0047】
また、本実施形態においては、第1マイクロストリップ線路5を導波された電磁波をバンドパスフィルタ1に入力するために、入力部10aを開口10a1とブラインドビア10a2とにより実現しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、導波管を導波された電磁波をバンドパスフィルタ1に入力するために、入力部10aを開口10a1のみにより実現しても構わない。この場合、開口10a1の形状及びサイズは、導波管の出力開口の形状及びサイズに応じて決められる。なお、コプレーナ線路を導波された電磁波をバンドパスフィルタ1に入力する場合には、本実施形態と同様、入力部10aを開口10a1とブラインドビア10a2とにより構成すればよい。
【0048】
同様に、本実施形態においては、バンドパスフィルタ1を通過した電磁波を第2マイクロストリップ線路6に出力するために、出力部10bを開口10b1とブラインドビア10b2とにより実現しているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、バンドパスフィルタ1を通過した電磁波を導波管に出力するために、出力部10bを開口10b1のみにより実現しても構わない。この場合、開口10b1の形状及びサイズは、導波管の入力開口の形状及びサイズに応じて決められる。なお、バンドパスフィルタ1を通過した電磁波をコプレーナ線路に入力する場合には、本実施形態と同様、出力部10bを開口10b1とブラインドビア10b2とにより構成すればよい。
【0049】
また、バンドパスフィルタ1は、第3共振領域D14の中央を通り、且つ、zx面に平行な面を対称面として、鏡映対称な構造を有する。したがって、(1)入力部10aを含む入力領域D11と出力部10bを含む出力領域D17とは同じ構造であり、(2)共振領域D12と共振領域D16とは同じ構造であり、(3)共振領域D13と共振領域D15とは同じ構造であり、共振領域D14は、上記対称面に対して鏡映対称な構造を有する。
【0050】
このように、バンドパスフィルタ1は、入力部10aからみた場合の構造と、出力部10bからみた場合の構造とが等価である。したがって、バンドパスフィルタ1においては、電磁波を入力ポートとして入力部10a及び出力部10bの何れを採用した場合であっても同じ機能を発揮する。
【0051】
(バンドパスフィルタの特徴)
バンドパスフィルタ1において注目すべきは、導波領域D1の全区間である区間S
1において、距離X11,X21の各々がポスト間隔dの1.5倍以下であることである。
図2に示したバンドパスフィルタ1は、距離X11,X21の各々がポスト間隔d以下となるように構成されている。このように、距離X11,X21の各々は、ポスト間隔d以下であることが更に好ましい。
【0052】
距離X11,X21の各々は、それぞれ、請求の範囲に記載の第1の距離及び第3の距離の一態様である。距離X11は、右狭壁130aの壁心(
図2に示すB−B’線)から上広壁12aの外縁のうち右狭壁130aに沿った部分、すなわち長辺12a1(
図2に示すC−C’線)までの距離である。距離X21は、左狭壁130bの壁芯(
図2に示すD−D’線)から上広壁12aの外縁のうち左狭壁130bに沿った部分、すなわち長辺12a2(
図2に示すE−E’線)までの距離である。
【0053】
本実施形態においては、上広壁12aと下広壁12bとは合同であり、且つ、平面視した場合にそれぞれの外縁が一致するように配置されている(
図1参照)。したがって、
図2において下広壁12bは図示されていないものの、長辺12b1の位置は、長辺12a1の位置(すなわちC−C’線の位置)と一致しており、長辺12b2の位置は、長辺12a2の位置(E−E’線の位置)と一致している。したがって、右狭壁130aの壁心から下広壁12bの外縁のうち右狭壁130aに沿った部分、すなわち長辺12b1までの距離X12は距離X11に等しい。また、左狭壁130bの壁芯から下広壁12bの外縁のうち左狭壁130bに沿った部分、すなわち長辺12b2までの距離X22はX21に等しい。距離X12,X22の各々は、それぞれ、請求の範囲に記載の第2の距離及び第4の距離の一態様である。
【0054】
ポスト間隔dは、右狭壁130a及び左狭壁130bを構成する複数の導体ポストのうち隣接する導体ポスト同士の中心間距離である。本実施形態においては、右狭壁130a及び左狭壁130bの各々に共通するポスト間隔dとして、d=200μmを採用している。また、本実施形態においては、距離X11(X12),X21(X22)としてX11(X12),X21(X22)=200μmを採用している。すなわち、距離X11(X12),X21(X22)の各々は、ポスト間隔dを下回る。
【0055】
以上のように、バンドパスフィルタ1は、導波領域D1の全区間である区間S
1において、距離X11(X12),X21(X22)の両方がポスト間隔dの1.5倍以下であることによって、入力部10aから出力部10bに向かって上広壁12a及び下広壁12bの外縁に沿って伝搬する通過帯域外の電磁波を抑制することができる。したがって、バンドパスフィルタ1は、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタを実現することができる。
【0056】
また、区間S
1において、距離X11(X12),X21(X22)の両方がポスト間隔d以下であることによって、上述した通過帯域外の電磁波をより一層抑制することができる。したがって、バンドパスフィルタ1は、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタをより一層確実に実現することができる。
【0057】
なお、バンドパスフィルタ1は、区間S
1において、距離X11、距離X12、距離X21、及び距離X22の全てがポスト間隔dを下回るように構成されている。しかし、本発明の一態様に係るバンドパスフィルタにおいては、区間S
1において、距離X11、距離X12、距離X21、及び距離X22の全てがポスト間隔dを下回る必要はない。本発明の一態様に係るバンドパスフィルタにおいては、区間S
1において、距離X11、距離X12、距離X21、及び距離X22のうち少なくとも何れか1つの距離が、ポスト間隔dの1.5倍以下となるように構成されていればよく、ポスト間隔d以下となるように構成されていれば更に好ましい。
【0058】
(変形例)
本発明の一実施形態に係るバンドパスフィルタ1においては、導波領域D1の少なくとも一部区間において距離X11(X12),X21(X22)がポスト間隔dの1.5倍以下となるように構成されていれば、入力部10aと出力部10bとの間において生じ得るバイパス現象を抑制することができる。バンドパスフィルタ1に対してこの変形を施したバンドパスフィルタ1Aについて、
図4を用いて説明する。
図4は、バンドパスフィルタ1の変形例であるバンドパスフィルタ1Aの平面図である。
【0059】
図4に示すように、バンドパスフィルタ1Aが備えている上広壁12aAは、バンドパスフィルタ1が備えている上広壁12aと比較して、その幅を広げられている。そのうえで、上広壁12aAの区間S
14には、切り欠き12aA5が長辺12aA1からx軸負方向へ向かって形成されており、且つ、切り欠き12aA6が長辺12aA2からx軸正方向へ向かって形成されている。上広壁12aAにおいて、区間S1のうち区間S
14を除いた区間における距離X11,X21を距離X11
1,X21
1とし、区間S
14における距離X11,X21を距離X11
2,X21
2とする。区間S
14は、導波領域D1のうち第3共振領域D14に対応する区間である。したがって、区間S
14は、区間S1の一部区間である。
【0060】
バンドパスフィルタ1Aにおいては、X11
1,X21
1>X11
2,X21
2であり、距離X11
2,X21
2は、何れもポスト間隔dの1.5倍以下である。本変形例では、距離X11
2,X21
2として、X11
2,X21
2=200μmを採用している。すなわち、距離X11
2,X21
2は、何れもポスト間隔d以下である。このように、本変形例においても、距離X11
2,X21
2は、何れもポスト間隔d以下であることが更に好ましい。
【0061】
なお、本変形例においても、上広壁12aと下広壁12bとは合同であり、且つ、平面視した場合にそれぞれの外縁が一致するように配置されている。したがって、
図4において下広壁12bは図示されていないものの、距離X12(距離X12
1,X12
2)及び距離X22(距離X22
1,X22
2)の各々は、距離X11(距離X11
1,D11
2)及び距離X21(距離X21
1,X21
2)に等しい。
【0062】
以上のように、バンドパスフィルタ1Aは、区間S
1のうち一部区間である区間S
14において、X11
2(X12
2),X21
2(X22
2)の両方がポスト間隔dの1.5倍以下であることによって、上述した通過帯域外の電磁波を抑制することができる。したがって、バンドパスフィルタ1は、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタを実現することができる。
【0063】
また、区間S
14において、距離X11
2(X12
2),X21
2(X22
2)の両方がポスト間隔d以下であることによって、上述した通過帯域外の電磁波を確実に抑制することができる。したがって、バンドパスフィルタ1は、バイパス現象が生じ難いポスト壁導波路型のバンドパスフィルタを確実に実現することができる。
なお、バンドパスフィルタ1は、区間S
14において、距離X11、距離X12、距離X21、及び距離X22の全てがポスト間隔dを下回るように構成されている。しかし、本発明の一態様に係るバンドパスフィルタにおいては、区間S
14において、距離X11、距離X12、距離X21、及び距離X22の全てがポスト間隔dを下回る必要はない。本発明の一態様に係るバンドパスフィルタにおいては、区間S
14において、距離X11、距離X12、距離X21、及び距離X22のうち少なくとも何れか1つの距離が、ポスト間隔dの1.5倍以下となるように構成されていればよく、ポスト間隔d以下となるように構成されていれば更に好ましい。
【0064】
〔実施例〕
次に、
図2に示したバンドパスフィルタ1の構成をモデルとして用い透過特性をシミュレーションした。以下において、透過係数(S21ともいう)の周波数依存性のことを透過特性と称する。
【0065】
バンドパスフィルタ1において、距離X11,X12,X21,X22としてX11=X12=X21=X22=200μmを採用したモデルを第1の実施例とし、X11=X12=X21=X22=300μmを採用したモデルを第2の実施例とする。これらの実施例群では、ポスト間隔dとしてd=200μmを採用している。したがって、第1の実施例の距離X11,X12,X21,X22は、ポスト間隔d以下であり、第2の実施例の距離X11,X12,X21,X22は、ポスト間隔dの1.5倍以下である。
【0066】
まず、第1の実施例及び第2の実施例に共通する設計パラメータについて説明する。各実施例は、Eバンドに含まれるローバンド(71GHz以上76GHz以下の帯域)を通過帯域とするように設計されている。
【0067】
各実施例は、誘電体基板11として厚さが520μmである石英基板を採用している。誘電体基板11の2つの主面上には、厚さが10μmである銅製の導体膜が形成されている。これらの導体膜の各々は、上広壁12a及び下広壁12bとして機能する。
【0068】
また、各実施例において、ポスト壁を構成する右狭壁130a、左狭壁130b、前狭壁130c、後狭壁130d、及び6組の隔壁対131〜136における導体ポストの各々は、誘電体基板11を貫通する貫通ビアの内壁に銅製の導体膜を形成することによって構成されている。また、これらの導体ポストの直径は100μmであり、ポスト間隔dは200μmである。上述したように、ポスト間隔dは、隣接する導体ポスト同士の中心間距離である(例えば
図3参照)。
【0069】
また、各実施例において、第1マイクロストリップ線路5を構成する誘電体層51、及び、第2マイクロストリップ線路6を構成する誘電体層61として、厚さが17.5μmであるポリイミド樹脂を採用している。
【0070】
また、各実施例において、入力部10aを構成する開口10a1は、直径340μmの円形である。また、ブラインドビア10a2は、誘電体基板11に形成されたブラインドビアの内壁に銅製の導体膜を形成することによって構成されている。また、出力部10bを構成する開口10b1は、直径340μmの円形である。また、ブラインドビア10b2は、誘電体基板11に形成されたブラインドビアの内壁に銅製の導体膜を形成することによって構成されている。
【0071】
また、各実施例において、誘電体層51の上側の表面上には、銅製の帯状薄膜からなる信号ライン52が形成されている。信号ライン52の端部のうちブラインドビア10a2に接する端部には、直径200μmであり、円形のランドが形成されている。このランドは、開口10a1の内部であって、且つ、平面視したときにブラインドビア10a2と重なる位置に形成されている。また、誘電体層61の上側の表面上には、銅製の帯状薄膜からなる信号ライン62が形成されている。信号ライン62の端部のうちブラインドビア10b2に接する端部には、直径200μmであり、円形のランドが形成されている。このランドは、開口10b1の内部であって、且つ、平面視したときにブラインドビア10b2と重なる位置に形成されている。
【0072】
(比較例)
上述した実施例群に対する比較例群として、
図6及び
図7に示したバンドパスフィルタ9の構成、すなわち、距離X11,X12,X21,X22としてポスト間隔dの1.5倍を上回る距離を採用した構成をシミュレーションのためのモデルとして用いた。
図6は、バンドパスフィルタ9の分解斜視図である。
図7は、バンドパスフィルタ9の平面図である。
【0073】
本比較例群では、距離X11,X12,X21,X22としてポスト間隔dの1.5倍を上回る距離を採用した点を除いて、上述した実施例群のバンドパスフィルタ1と同一の設計パラメータを採用した。距離X11,X12,X21,X22として、X11=X12=X21=X22=400μmを採用したモデルを第1の比較例とし、X11=X12=X21=X22=500μmを採用したモデルを第2の比較例とし、X11=X12=X21=X22=600μmを採用したモデルを第3の比較例とし、X11=X12=X21=X22=800μmを採用したモデルを第4の比較例とした。
【0074】
(透過特性)
以上のように、距離X11,X12,X21,X22を200μm以上800μm以下の範囲で変化させた結果、各バンドパスフィルタ1及び各バンドパスフィルタ9について
図5に示す透過特性が得られた。
図5は、上述した実施例群及び比較例群の透過特性を示すグラフである。
【0075】
図5に示すように、第1〜第4の比較例であるバンドパスフィルタ9に関しては、低周波側の遮断帯域(65GHz近傍)において透過係数が大きくなることが分かった。この透過係数の増大は、バイパス現象に起因するものと考えられる。
【0076】
それに対して、第1,第2の実施例であるバンドパスフィルタ1に関しては、低周波側の遮断帯域(65GHz近傍)における透過係数の増大がよく抑制されていることが分かった。この透過係数の抑制は、距離X11,X12,X21,X22がポスト間隔dの1.5倍以下であることによってバイパス現象が抑制されたためと考えられる。
【0077】
なお、本実施例群においては、Eバンドのうちローバンド(71GHz以上76GHz以下の帯域)を通過帯域とするようにバンドパスフィルタ1を設計した。しかし、これらのバンドパスフィルタ1は、本発明の一例に過ぎず、他の帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタにも本発明の構成を適用可能である。たとえば、Eバンドのうちハイバンド(81Ghz以上86GHz以下の帯域)を通過帯域とするバンドパスフィルタにも本発明の構成を適用可能である。
【0078】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。