特許第6474527号(P6474527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474527
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】ワイヤレス送電装置および充電器
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/10 20160101AFI20190218BHJP
   H02J 50/90 20160101ALI20190218BHJP
【FI】
   H02J50/10
   H02J50/90
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-501058(P2018-501058)
(86)(22)【出願日】2017年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2017001998
(87)【国際公開番号】WO2017145603
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-33266(P2016-33266)
(32)【優先日】2016年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 竜也
【審査官】 高橋 優斗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−130729(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/054157(WO,A1)
【文献】 特開2015−12632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J7/00−7/12,
H02J7/34−7/36,
H02J50/00−50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤレス受電装置に電力信号を送信するワイヤレス送電装置であって、
送信コイルを含む送信アンテナと、
前記送信アンテナに駆動電圧を印加するブリッジ回路を含むドライバと、
前記ドライバを制御する送電コントローラと、
前記送信コイルの近傍に、または前記送信コイルとオーバーラップして設けられた複数のセンサと、
前記複数のセンサの検出信号にもとづき、前記ワイヤレス受電装置の受信コイルと前記送信コイルの中心との高速な接近を検出する移動検出部と、
を備え、
前記送電コントローラは、前記ワイヤレス受電装置と前記送信コイルの中心との前記高速な接近が検出されると、送電を制限することを特徴とするワイヤレス送電装置。
【請求項2】
前記複数のセンサは、前記送信コイルの中心を基準に、第1方向に対称配置される第1センサおよび第2センサを含み、
前記移動検出部は、前記第1センサおよび前記第2センサの検出信号の相対的な関係にもとづいて、前記第1方向に関する高速な接近を検出することを特徴とする請求項1に記載のワイヤレス送電装置。
【請求項3】
前記移動検出部は、前記第1センサと前記第2センサの一方の検出信号が接近を、他方の検出信号が離間を示すとき、前記第1方向の近接と判定することを特徴とする請求項2に記載のワイヤレス送電装置。
【請求項4】
前記複数のセンサは、前記送信コイルの中心を基準に、第2方向に対称配置される第3センサおよび第4センサをさらに含み、
前記移動検出部は、前記第3センサおよび前記第4センサの検出信号の相対的な関係にもとづいて、前記第2方向に関する高速な接近を検出することを特徴とする請求項2または3に記載のワイヤレス送電装置。
【請求項5】
前記移動検出部は、前記第3センサと前記第4センサの一方の検出信号が接近を、他方の検出信号が離間を示すとき、前記第2方向の近接と判定することを特徴とする請求項4に記載のワイヤレス送電装置。
【請求項6】
前記第1方向と前記第2方向は直交することを特徴とする請求項4または5に記載のワイヤレス送電装置。
【請求項7】
前記移動検出部は、前記複数のセンサすべての検出信号にもとづいて、高さ方向の高速な接近を検出することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のワイヤレス送電装置。
【請求項8】
前記送電コントローラは、前記高速な接近が検出されると、送電電力に上限を設定することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のワイヤレス送電装置。
【請求項9】
前記送電コントローラは、前記高速な接近が検出されると、送信電力を低下させることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のワイヤレス送電装置。
【請求項10】
前記送電コントローラは、前記高速な接近が検出されると、送信を停止することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のワイヤレス送電装置。
【請求項11】
前記複数のセンサは、複数のセンシングコイルを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のワイヤレス送電装置。
【請求項12】
前記複数のセンサは、複数の磁気センサを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のワイヤレス送電装置。
【請求項13】
Qi規格とPMA規格の少なくとも一方に準拠したことを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のワイヤレス送電装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載のワイヤレス送電装置を備えることを特徴とする充電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤレス給電技術に関し、特にワイヤレス送電装置の異常検出に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器への給電方式として、ワイヤレス給電が普及の兆しを見せている。ワイヤレス給電には、電磁誘導(MI:Magnetic Induction)方式と磁気共鳴(MR:Magnetic Resonance)方式の2つの方式が存在するが、MI方式では、現在、(1)WPC(Wireless Power Consortium)が策定した規格「Qi」と、(2)PMA(Power Matters Alliance)が策定した規格(以下、PMA)が主流となっている。
【0003】
MI方式のワイヤレス給電は、送信コイルと受信コイル間の電磁誘導を利用したものである。給電システムは、送信コイルを有する給電装置と、受信コイルを有する受電装置で構成される。
【0004】
図1は、Qi規格に準拠したワイヤレス給電システム10の構成を示す図である。給電システム10は、送電装置20(TX、Power Transmitter)と受電装置30(RX、Power Receiver)と、を備える。受電装置30は、携帯電話端末、スマートホン、オーディオプレイヤ、ゲーム機器、タブレット端末などの電子機器に搭載される。
【0005】
送電装置20は、送信コイル(1次コイル)22、ドライバ24、送電コントローラ26、復調器28を備える。ドライバ24は、Hブリッジ回路(フルブリッジ回路)あるいはハーフブリッジ回路を含み、送信コイル22に駆動信号S1、具体的にはパルス信号を印加し、送信コイル22に流れる駆動電流により、送信コイル22に電磁界の電力信号S2を発生させる。送電コントローラ26は、送電装置20全体を統括的に制御するものであり、具体的には、ドライバ24のスイッチング周波数、スイッチングのデューティ比、位相などを制御することにより、送信電力を変化させる。
【0006】
受電装置30は、受信コイル(2次コイル)32、整流回路34、平滑コンデンサ36、変調器38、負荷40、受電コントローラ42、電源回路44を備える。受信コイル32は、送信コイル22からの電力信号S2を受信する。整流回路34および平滑コンデンサ36は、電力信号S2に応じて受信コイル32に誘起される電流S4を整流・平滑化し、直流電圧に変換する。
【0007】
電源回路44は、送電装置20から供給された電力を利用して図示しない二次電池を充電し、あるいは直流電圧VRECTを昇圧あるいは降圧し、受電コントローラ42やその他の負荷40に供給する。
【0008】
Qi規格では、送電装置20と受電装置30の間で通信プロトコルが定められており、受電装置30から送電装置20に対して、制御信号S3による情報の伝達が可能となっている。この制御信号S3は、後方散乱変調(Backscatter modulation)を利用して、AM(Amplitude Modulation)変調された形で、受信コイル32(2次コイル)から送信コイル22に送信される。この制御信号S3には、たとえば、受電装置30に対する電力供給量を制御する電力制御データ(パケットともいう)や、受電装置30の固有の情報を示すデータなどが含まれる。
【0009】
電力制御について説明する。受電装置30の受電コントローラ42は、送電装置20からの電力供給量(送信電力)を制御する電力制御データを生成する。たとえば受電コントローラ42は、平滑コンデンサ36の電圧VRECTがその目標値(DP:Desired Point)に近づくように電力制御パケットを生成する。変調器38は、電力制御パケットにもとづいて、受信コイル32の電流(あるいは電圧)を変調する。これにより受信コイル32が送信アンテナとなり、制御信号S3が送信される。
【0010】
送電装置20において、送信コイル22には、制御信号S3に応じた電流成分が流れる。復調器28は、送信コイル22の電流あるいは電圧に含まれる制御信号S3を復調する。送電コントローラ26は、復調された制御信号S3に含まれる電力制御データが指示する送信電力が得られるように、ドライバ24を制御する。
【0011】
このようにしてQi規格に準拠した給電システム10では、受電装置側が要求する電力と一致するように送信電力がフィードバック制御される。PMA規格においても同様に、送信電力がフィードバック制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013−38854号公報
【特許文献2】特許第5071574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図2は、充電器50と電子機器60を示す図である。電子機器60は、充電器50の充電台52の上に載置される。充電器50の充電台52の下には、図1の送信コイル22が設けられている。
【0014】
充電中(送電中)に電子機器60が図中矢印の方向に移動し、充電器50の送信コイル22と電子機器60の受信コイル32の距離が小さくなったとする。このとき、コイル間の結合係数が大きくなるため、充電器50からの送信電力が一定であるとすれば、電子機器60の受信電力は増加することとなる。
【0015】
Qi規格あるいはPMA規格では、電子機器60の移動速度が、送信電力のフィードバック制御の応答速度よりも十分に遅ければ、電子機器60の移動の最中に、充電器50からの送信電力が適切に抑制され、その結果、電子機器60の受信電力も適切なレベルを維持する。
【0016】
ところが、電子機器60が、電力フィードバック制御の応答速度より速い速度で移動すると、送信電力の調節が遅れることとなる。その結果、電子機器60に過剰な電力が供給されることとなる。その結果、図1の平滑コンデンサ36の電圧VRECTが跳ね上がる。整流電圧VRECTの跳ね上がりが大きすぎると、回路の素子耐圧を超えて信頼性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0017】
同様の問題は、充電中に電子機器60が充電器50に向かって落下した場合にも生じうる。あるいはユーザが充電器50のケーブルを引っかけた場合、電子機器60は対地で静止したまま、充電器50のみがスライドし、送受信のコイル間が急速に接近し、同様の問題が生じうる。
【0018】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、電子機器60の高速な移動に起因する問題を解決可能な送電装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のある態様は、ワイヤレス受電装置に電力信号を送信するワイヤレス送電装置に関する。ワイヤレス送電装置は、送信コイルを含む送信アンテナと、送信アンテナに駆動電圧を印加するブリッジ回路を含むドライバと、ドライバを制御する送電コントローラと、送信コイルの近傍に、または前記送信コイルとオーバーラップして設けられた複数のセンサと、複数のセンサの状態にもとづき、ワイヤレス受電装置と送信コイルの中心との高速な接近を検出する移動検出部と、を備える。送電コントローラは、ワイヤレス受電装置の受信コイルと送信コイルの中心との高速な接近が検出されると、送電を制限する。
【0020】
高速な接近とは、給電システムの送信電力のフィードバック制御の応答速度より速い接近を含む。この態様によれば、送受信コイル間の高速な接近が検出されると、受電装置からの電力制御データ(パケット)に関わらず、送信電力を制限することで、受電装置への過剰な電力供給を防止し、回路を保護することができる。
【0021】
複数のセンサは、複数のセンシングコイルを含んでもよい。各センシングコイルは、受信コイルとの相互作用により、それ自身と受信コイルとの距離に応じた検出信号を生成する。複数のセンシングコイルの位置は既知であるため、複数の検出信号にもとづいて、受電装置の高速な移動を検出できる。
【0022】
複数のセンサは、複数の磁気センサを含んでもよい。各磁気センサは、受信コイルとの相互作用により、それ自身と受信コイルとの距離に応じた検出信号を生成する。複数の磁気センサの位置は既知であるため、複数の検出信号にもとづいて、受電装置の高速な移動を検出できる。
【0023】
複数のセンサは、送信コイルの中心を基準に、第1方向に対称配置される第1センサおよび第2センサを含んでもよい。移動検出部は、第1センサおよび第2センサの検出信号の相対的な関係にもとづいて、第1方向への高速な移動を検出してもよい。
検出信号の大きさは、送受信コイル間の距離のみでなく、受電装置の受信コイルのインダクタンスにも依存する。そこで、各センサの検出信号の絶対値ではなく、複数の検出信号の相対的な関係(波形の関係、大小関係、差分、あるいは比率)を利用することにより、さまざまなインダクタンスの受信コイルの接近を検出できる。
【0024】
たとえば第1センサと第2センサの一方の検出信号が接近を、他方の検出信号が離間を示すとき、中心に第1方向に近づく移動と判定してもよい。
【0025】
複数のセンサは、送信コイルの中心を基準に、第2方向に対称配置される第3センサおよび第4センサをさらに含んでもよい。移動検出部は、第3センサおよび第4センサの検出信号の相対的な関係にもとづいて、第2方向への高速な移動を検出してもよい。
たとえば第3センサと第4センサの一方の検出信号が接近を示し、他方の検出信号が離間を示すとき、中心に第2方向に近づく移動と判定してもよい。
【0026】
第1方向と第2方向は直交してもよい。
【0027】
送電コントローラは、複数のセンサすべての検出信号にもとづいて、高さ方向の高速な移動を検出してもよい。
すべての検出信号が接近を示すとき、受電装置の落下を検出してもよい。
【0028】
送電コントローラは、高速な移動が検出されると、送電電力に上限を設定してもよい。送電コントローラは、高速な移動が検出されると、送信電力を低下させてもよい。送電コントローラは、高速な移動が検出されると、送信を停止してもよい。
【0029】
ワイヤレス送電装置は、Qi規格とPMA規格の少なくとも一方に準拠してもよい。
【0030】
本発明の別の態様は、充電器に関する。この充電器は、上述のいずれかのワイヤレス送電装置を備える。
【0031】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0032】
本発明のある態様によれば、電子機器の高速な移動に起因する問題を解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】Qi規格に準拠したワイヤレス給電システムの構成を示す図である。
図2】充電器と電子機器を示す図である。
図3】実施の形態に係る送電装置を備える給電システムのブロック図である。
図4図4(a)、(b)は、送信コイルと受信コイルの接近を模式的に示す図である。
図5図4(a)の移動に関連する検出信号、差分信号および接近信号を示す波形図である。
図6図4(b)の移動に関連する検出信号、差分信号および接近信号を示す波形図である。
図7】送信コイルと受信コイルの接近を示す図である。
図8図7の移動に関連する検出信号および接近信号を示す波形図である。
図9】送電装置を備える充電器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0035】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0036】
図3は、実施の形態に係る送電装置200を備える給電システム100のブロック図である。給電システム100は、送電装置200(TX、Power Transmitter)と受電装置300(RX、Power Receiver)とを備える。受電装置300は、携帯電話端末、スマートホン、オーディオプレイヤ、ゲーム機器、タブレット端末などの電子機器に搭載される。
【0037】
送電装置200は、たとえば充電台を有する充電器に搭載される。送電装置200は、送信アンテナ201、ドライバ204、送電コントローラ206、復調器208、DC電源210、移動検出部230を備える。送電装置200は、Qi規格とPMA規格の少なくとも一方に準拠する。本実施の形態では、Qi規格にもとづいて構成および動作を説明する。
【0038】
送信アンテナ201は、直列に接続された送信コイル202および共振コンデンサ203を含む。ドライバ204は、Hブリッジ回路(フルブリッジ回路)あるいはハーフブリッジ回路を含み、送信コイル202に駆動信号S1、具体的にはパルス信号を印加し、送信コイル202に流れる駆動電流により、送信コイル202に電磁界の電力信号S2を発生させる。本実施の形態では、フルブリッジ回路が使用される。ブリッジ回路205の上側電源端子P1には、DC電源210からの電源電圧VDDが供給され、下側電源端子P2は接地される。上側電源端子P1には平滑キャパシタCが接続されてもよい。
【0039】
送電コントローラ206は、送電装置200全体を統括的に制御するものであり、具体的には、ドライバ204のスイッチング周波数fSW、あるいはスイッチングのデューティ比、ブリッジ回路の動作モード(ハーフブリッジ/フルブリッジ)、フルブリッジモードにおけるレッグ間の位相差を制御することにより、送信電力を変化させる。
【0040】
Qi規格では、送電装置200と受電装置300の間で通信プロトコルが定められており、受電装置300から送電装置200に対して、制御信号S3による情報の伝達が可能となっている。この制御信号S3は、後方散乱変調(Backscatter modulation)を利用して、AM(Amplitude Modulation)変調された形で、受信コイル302(2次コイル)から送信コイル202に送信される。この制御信号S3には、たとえば、受電装置300に対する電力供給量を制御する電力制御データ(パケットともいう)、受電装置300の固有の情報を示すデータなどが含まれる。また制御信号S3には、送信アンテナ201のQ値の適正範囲を規定するしきい値が含まれてもよい。
【0041】
復調器208は、送信コイル202の電流あるいは電圧に含まれる制御信号S3を復調する。送電コントローラ206は、復調された制御信号S3に含まれる電力制御データにもとづいてドライバ204を制御し、受電装置300が要求した電力を送信する。
【0042】
送信コイル202の近傍、もしくは送信コイル202とオーバーラップする領域に、複数のセンサ220_1〜220_4が設けられる。センサ220の個数は特に限定されないが、最低2個、好ましくは4個もしくはそれ以上が好ましい。各センサ220_x(x=1,2,3,4)は、自分自身と受電装置300の受信コイル302との距離に応じた検出信号S1xを生成する。
【0043】
センサ220としては、磁気センサあるいはセンシングコイルを用いることができる。磁気センサは、受信コイル302に電流が流れることにより受信コイル302が発生する磁界を検出する。センシングコイルは、受信コイル302が発生する磁界を受け、磁界に応じて流れるそれ自身に流れる誘導電流、あるいは誘導電流に応じて生ずる起電力を、検出信号として出力してもよい。
【0044】
あるいはセンサ220は、市販される誘導型、磁気式などの公知の近接センサを用いてもよい。
【0045】
移動検出部230は、複数のセンサ220_1〜220_4からの検出信号S11〜S14(検出信号S10と総称する)を受ける。移動検出部230は、検出信号S10にもとづき、ワイヤレス受電装置300の受信コイル302と送信コイル202の中心222との高速な接近を検出する。
【0046】
たとえば移動検出部230は、受信コイル302と送信コイル202の高速な接近を検出すると、接近信号S21をアサート(たとえばハイレベル)する。送電コントローラ206は、ワイヤレス受電装置300の受信コイル302と送信コイル202の中心222との高速な接近が検出されると、送電を制限する。
【0047】
複数のセンサ220は、送信コイル202の中心222を基準に、第1方向(図中、X方向)に対称配置される第1センサ220_1および第2センサ220_2を含む。さらに複数のセンサ220は、送信コイル202の中心222を基準に、第2方向(図中、Y方向)に対称配置される第3センサ220_3および第4センサ220_4をさらに含んでもよい。第2方向は第1方向と垂直であることが好ましい。
【0048】
移動検出部230は、第1センサ220_1および第2センサ220_2からの検出信号S11,S12の相対的な関係にもとづいて、受信コイル302の第1方向への高速な移動を検出する。たとえば移動検出部230は、検出信号S11とS12の差分ΔXにもとづいて、第1方向の高速な接近を検出してもよい。
【0049】
移動検出部230は、第3センサ220_3および第4センサ220_4からの検出信号S13,S14にもとづいて、受信コイル302の第2方向への高速な移動を検出する。たとえば移動検出部230は、検出信号S13とS14の差分ΔYにもとづいて、第2方向の高速な接近を検出してもよい。
【0050】
また移動検出部230は、第1センサ220_1から第4センサ220_4すべての検出信号にもとづいて、受信コイル302の高さ方向の高速な移動を検出する。
【0051】
移動検出部230は、アナログ回路で構成してもよいし、デジタル回路で構成してもよい。アナログ回路の場合、公知の加算器、減算器、微分回路、コンパレータなどを用いることができる。デジタル回路の場合、検出信号をデジタル値に変換するA/Dコンバータと、デジタル値を演算処理するプロセッサなどを用いることができる。
【0052】
送電コントローラ206は、高速な接近を検出すると、送電電力に上限を設定してもよい。あるいは送電コントローラ206は、高速な接近を検出すると、送信電力を低下させてもよいし、送信を停止してもよい。
【0053】
以上が送電装置200の構成である。続いてその動作を説明する。図4(a)、(b)は、送信コイル202と受信コイル302の接近を模式的に示す図である。図4(a)では、受信コイル302が第1方向に移動する。図5は、図4(a)の移動に関連する検出信号S11,S12、差分信号ΔX(=S11−S12)および接近信号S21を示す波形図である。時刻t0より前において受信コイル302は静止しており、検出信号S11,S12はとある値を有している。
【0054】
時刻t0に受信コイル302が動き始めると、それに応じて検出信号S11,S12が変動する。具体的には一方の検出信号S11は減少、つまり離間を示し、他方の検出信号S12は増加、すなわち近接を示す。移動検出部230は、2つの検出信号S11,S12の差分S11−S12の傾きβが、所定のしきい値αを超えると、高速な近接と判定し、接近信号S21をアサートしてもよい。
【0055】
接近信号S21がアサートされると直ちに、すなわち受信コイル302が送信コイル202の中心222に最近接する時刻t1より前の時刻t2に、送信電力が制限される。これにより過剰な送信電力によって受電装置300側の整流電圧VRECTが跳ね上がるのを防止できる。
【0056】
図4(b)では、受信コイル302が第1および第2方向に移動する。図6は、図4(b)の移動に関連する検出信号S11〜S14、差分信号ΔX(=S11−S12),ΔY(=S13−S14)および接近信号S21を示す波形図である。この例では2つの差分信号ΔX,ΔYは、実質的に同じ波形を有している。移動検出部230は、差分信号ΔX,ΔYの傾きβx,βyの少なくとも一方がしきい値を超えると、接近信号S21をアサートしてもよい。
【0057】
あるいは移動検出部は、2つの差分信号ΔXとΔYそれぞれの傾きβx,βyを加算し、加算値βx+βyがしきい値を超えたときに、接近信号S21をアサートしてもよい。あるいは2つの差分信号ΔXとΔYの傾きベクトルβx,βyのノルム√(βx+βy)がしきい値を超えたときに、接近信号S21をアサートしてもよい。
【0058】
この例においても、接近信号S21がアサートされると直ちに、すなわち受信コイル302が送信コイル202の中心222に最近接する時刻t1より前の時刻t2に、送信電力が制限される。これにより過剰な送信電力によって受電装置300側の整流電圧VRECTが跳ね上がるのを防止できる。
【0059】
図7は、送信コイル202と受信コイル302の接近を示す図である。この例では送信コイル202と受信コイル302が高さ方向に接近する。これはたとえば受電装置300を充電台の上に落下させた状況などに対応する。図8は、図7の移動に関連する検出信号S11〜S14および接近信号S21を示す波形図である。時刻t0に受信コイル302が落下すると、すべてのセンサ220_1〜220_4との距離が一斉に近づくため、複数の検出信号S11〜S14はすべて同じ方向に変化する。そこで移動検出部230は、複数の検出信号S11〜S14が同じ方向に変化し、かつそれらの変化速度がしきい値を超えるときに落下と判定し、接近信号S21をアサートしてもよい。
【0060】
接近信号S21がアサートされると直ちに、すなわち受電装置300が着地する時刻t1より前の時刻t2に、送信電力が制限される。これにより過剰な送信電力によって受電装置300側の整流電圧VRECTが跳ね上がるのを防止できる。
【0061】
比較技術として、送信コイル202の中心222に、単一のセンサを配置することも考えられる。この場合、単一のセンサの検出信号は、中心222と受信コイル302の距離を表すこととなる。しかしながら検出信号の大きさは、送受信コイル間の距離のみでなく、受信コイル302のインダクタンスにも依存しており、インダクタンスは電子機器ごとにばらつきがある。したがって、単一のセンサでは、電子機器ごとの受信コイル302のインダクタンスのばらつきによって、高速な接近の検出を逃したり、低速な検出を高速な検出と誤判定するおそれがある。これに対して本実施の形態では、複数のセンサ220の出力を利用するため、受信コイル302のインダクタンスのばらつきを許容して、高速な近接を検出できる。
【0062】
続いて送電装置200の用途を説明する。図9は、送電装置200を備える充電器400を示す図である。充電器400は、受電装置300を備える電子機器(不図示)を充電する。充電器400は、筐体402、充電台404、回路基板406、を備える。給電対象の電子機器は、充電台404上に載置される。ドライバ204や送電コントローラ206、復調器208、移動検出部230などの回路部品は、回路基板406上に実装される。送信コイル202は、充電台404の直下にレイアウトされ、その周辺には、複数のセンサ220が配置される。
【0063】
充電器400は、AC/DCコンバータ410からの直流電圧を受けてもよいし、AC/DCコンバータを内蔵してもよい。あるいは充電器400は、USB(Universal Serial Bus)などの給電線を備えるバスを介して、外部からDC電力の供給を受けてもよい。
【0064】
実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例を説明する。
【0065】
移動検出部230の演算速度が十分に速い場合には、複数の検出信号S11〜S14にもとづいて、送信コイル202の中心222と受信コイル302の距離、あるいは、中心222に対する受信コイル302の相対座標を演算してもよい。
【0066】
実施の形態では、送信コイル202が1個の場合を示したが、複数の送信コイル202が切りかえ可能な充電器400も存在する。この場合、送信コイルごとに、複数のセンサのセットを設けてもよい。
【0067】
実施の形態では、送電装置200が静止し、受電装置300が移動する場合を説明したが、その逆、つまり受電装置300が静止し、送電装置200が移動する場合についても本発明は有効である。
【0068】
実施の形態では、第1方向の移動を検出する際に、2つの検出信号S11,S12の差分ΔXに着目したが、本発明はそれには限定されず、それらの比、大小関係などにもとづいて、急速な接近を検出してもよい。あるいは、複数の検出信号S11,S12の波形のパターンマッチングにより、急速な接近を検出してもよい。第2方向についても同様である。
【0069】
実施の形態では、4個のセンサを設ける場合を説明したが、さらに多くのセンサを配置してもよい。
【0070】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0071】
100…給電システム、200…送電装置、201…送信アンテナ、202…送信コイル、203…共振コンデンサ、204…ドライバ、205…ブリッジ回路、206…送電コントローラ、208…復調器、210…DC電源、220…センサ、230…移動検出部、S1…駆動信号、S2…電力信号、S3…制御信号、S11〜S14…検出信号、S21…接近信号、300…受電装置、302…受信コイル、400…充電器、402…筐体、404…充電台、406…回路基板。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、ワイヤレス給電に利用できる。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9