【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。以下の実施例及び比較例における履物用緩衝組成物の評価方法は下記の通りである。
【0043】
(1)硬度
JIS K6253に準拠するアスカー Cデュロメータ(SRIS 0101規格)を用いて、23±2℃の試験室内で3時間以上放置して状態調節を行った各試験片の硬度測定を行った。試験片としては、実施例及び比較例における各履物用緩衝組成物を縦60mm×横60mm×厚み12mmにそれぞれ成形したものを用いた。アスカーC50以下を良好「○」、50を超えた場合を不適「×」と判定した。
【0044】
(2)引裂強さ(強度)
JIS K6252−1 B法に準拠し、実施例及び比較例における各履物用緩衝組成物を切り込み無しアングル形状(ダンベルB型)に形成した試験片5枚について、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製オートグラフ(登録商標)、AT−100N)で引っ張り速度500mm/minにて破断に至る最大荷重値F[N]を測定し、試験片の厚さt[m]で除して引裂強さを算出した。試験片5枚の引裂強さの中央値を挟む2つの値の平均値を引裂強さ(kN/m)とした。引裂強さの値が6.5kN/m以上の場合を優良「○」、6.5kN/m未満の場合を不可「×」と判定した。
【0045】
(3)剥離接着強さ(接着強さ)
JIS K6854−3に準拠して、各試験片の剥離接着強さの測定を行った。
図3及び
図4を用いて剥離接着強さの試験方法について具体的に説明する。
図3は試料片50の構成を概略的に示しており、試験片(実施例又は比較例の緩衝部材)51と被着剤のウレタン片52と接着層53とから概略構成されている。
図3に示す試料片50は、後述する(3−1)プライマー処理層有・加圧接着、(3−2)プライマー処理層有・インサート成形及び(3−3)プライマー処理層無・インサート成形の3種類の方法でそれぞれ作製した。また、
図4は試料片50の剥離接着強さ試験方法を図示している。
図4(A)及び(B)に示すように、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製オートグラフ(登録商標)、AT−100N)により、(3−1)〜(3−3)の各試料片50の試験片51とウレタン片52とを剥離させ、剥離接着強さを測定した。なお、
図4において、54は固定側引張り治具、55は可動側引張り治具である。ロードセルは1kN(100kgf)であり、試験スピードは50mm/分、固定側引張り治具54及び可動側引張り治具55間の初期間隙は20mmであった。
【0046】
(3−1)試料片:プライマー処理層有・加圧接着
実施例及び比較例における各履物用緩衝組成物をストリップ状(幅20mm×長さ60mm×厚さ3mm)にそれぞれ成形し、ストリップ表面をウレタン系コート剤で処理して試験片51とした。この試験片51を同じくストリップ状に作製したウレタン片52(株式会社クラレ製 クラミロンU2195、幅20mm×長さ60mm×厚さ3mm)と接着剤53によって接着し、試料片50を得た。より詳しくは、試験片51及びウレタン片52の表面をメチルエチルケトン(MEK)に浸したキムワイプ(登録商標)で拭いた後、60℃で3分間乾燥させた。試験片51のウレタン系コート剤で処理された面及びウレタン片52の片面にプライマー(ノーテープ工業株式会社製、G−6626)を塗布し、60℃で5分間乾燥させた。その上に接着剤(ノーテープ工業株式会社製、No.4950)を塗布し、60℃で5分間乾燥した後、速やかに試験片51及びウレタン片52を貼り合わせた。試験片51側を上にした状態で載置し、ハンドローラにて2〜3kgf/cm
2の力を加えて圧着させることによって、試料片50を得た。この試料片50を12時間養生した後、上述した引っ張り試験機を用いて剥離接着強さを測定した。
【0047】
(3−2)試料片:プライマー処理層有・インサート成形
ストリップ状に作製したウレタン片52(株式会社クラレ製 クラミロンU2195、幅20mm×長さ60mm×厚さ3mm)の被接着面をメチルエチルケトン(MEK)に浸したキムワイプ(登録商標)で拭いた後、60℃で3分間乾燥させ、その被接着面にプライマー(ノーテープ工業株式会社製、G−6626)を塗布し、60℃で5分間乾燥させてプライマー処理したウレタン片を得た。このプライマー処理したウレタン片を射出成型金型のキャビティー(cavity)内にプライマー処理面が表出するように設置した。実施例及び比較例における各履物用緩衝組成物を、プライマー処理したウレタン片52とともに150〜190℃の条件下でインサート射出成型し、ウレタン片52のプライマー処理層上に幅20mm×長さ60mm×厚さ3mmのストリップ状の試験片51が一体形成された試料片50を得た。この試料片50を12時間養生した後、上述した引っ張り試験機を用いて剥離接着強さを測定した。
【0048】
(3−3)試料片:プライマー処理層無・インサート成形
ストリップ状に作製したウレタン片52(株式会社クラレ製 クラミロンU2195、幅20mm×長さ60mm×厚さ3mm)の被着面上にプライマー処理を行わないこと以外は、上記の(3−2)の試料片の作製方法と同様にしてウレタン片52の表面に幅20mm×長さ60mm×厚さ3mmのストリップ状の試験片51が一体形成された試料片50を得た。この試料片50を12時間養生した後、上述した引っ張り試験機を用いて剥離接着強さを測定した。
【0049】
(4)接着状態
上述した(3−1)〜(3−3)の剥離接着強さ試験を行った後の各試料片の剥離状態について、目視または顕微鏡観察により、各試験片の接着状態を評価した。材料破壊(被着体破壊)が生じていた場合を「AF」とし、履物用緩衝組成物の成形体と被着体との界面で界面剥離が生じた場合を「IP」とした。さらに、接着性の評価としては、(3−1)のプライマー処理層有・加圧接着した試料片及び(3−2)のプライマー処理層有・インサート成形の試料片については、剥離接着強さが2.5kgf/20mm以上かつ材料破壊した試料片を接着性が優良「○」と評価し、剥離接着強さが2.5kgf/20mm未満または界面剥離した試料片を接着性が不良「×」と評価した。また、(3−3)のプライマー処理層無・インサート成形の試料片については、剥離接着強さが1.0kgf/20mm以上の試料片を接着性が優良「○」と評価し、剥離接着強さが1.0kgf/20mm未満の試料片を接着性が不良「×」と評価した。
【0050】
(5)表面外観
硬度試験に用いた試験片について、商品価値の観点から、目視にて、傷、気泡、曇り及びムラの有無を確認し、表面外観を評価した。傷、気泡、曇り及びムラが無い場合を優良「〇」、傷、気泡、曇り及びムラのうち、少なくとも一つが確認されるが商品価値が許容される場合を良「△」、商品価値が無い場合を不可「×」と判断した。
【0051】
以下の実施例及び比較例で使用した各構成成分の仕様を表1に示す。ここで、表1中の分子量Mwは、成分NO.A301を除き、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定された重量平均分子量である。具体的には、分子量Mwは、測定装置としてSHODEX(登録商標)GPC−104(昭和電工株式会社製品)[分離カラムLF−404(3本連結)、ガードカラムLF−G、RI検出器RI−74S(いずれも昭和電工株式会社製品)]を用いて、溶離液をテトラヒドロフランとして、サンプル濃度10mg/4mL、溶離液流量0.3mL/min及びカラム温度40℃の条件で測定した。また、成分NO.A301の分子量は、数平均分子量Mnで示されている。
【0052】
【表1】
【0053】
[実施例1]
以下の手順で本実施例の履物用緩衝組成物を製造し、その効果の評価を行った。表1に示すスチレン系熱可塑性エラストマー(A成分)のうち、S−EB/S−Sで表されるブロック共重合体(a1)として、スチレン含有量42%、重量平均分子量150000のブロック共重合体(A101)を600g(20重量%)、アミン変性S−EB−S(a2)として、スチレン含有量30%、重量平均分子量67000のブロック共重合体(A201)を600g(20重量%)、それぞれ個別に秤量した。次に、表1に示す軟化剤(B成分)のうち、重量平均分子量1200のパラフィンオイル(B103)を1800g(60重量%)秤量した。このパラフィンオイルのうち、1200g(40重量%)をa1成分に、600g(20重量%)をa2成分に、それぞれ添加した。各ブロック共重合体とパラフィンオイルとを室温でそれぞれ混合した後、100℃で12時間加熱し、a1、a2の各成分にパラフィンオイルをそれぞれ分散させた(予備分散工程)。パラフィンオイルを吸収させたa1、a2のブロック共重合体を手攪拌でドライブレンドした後、バッチ式の二軸混練機(株式会社トーシン製 TD3−10MDX型)でa1成分とa2成分の分子量に応じて120〜200℃の範囲において、回転数40rpmで15分間混練し(混練工程)、3000gの履物用緩衝組成物を得た。この組成物を上述した履物用緩衝組成物の各評価方法で用いる所定の試験片形状に130〜190℃の条件下で射出成形し、得られた試験片を用いて物性等の評価を行った。
【0054】
[実施例2〜20]
履物用緩衝組成物の構成成分である、スチレン系熱可塑性エラストマー(A成分)と軟化剤(B成分)及びその配合比を以下表2〜表4に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各実施例の履物用緩衝組成物を得た。実施例1と同様に、得られた履物用緩衝組成物を用いて物性評価用の試験片を成形し、物性等の評価を行った。
【0055】
実施例1〜7の結果を表2に、実施例8〜13の結果を表3に、実施例14〜20の結果を表4に示す。ここで、表中の「予備分散後のMFR差」とは、軟化剤(B成分)が分散された状態における成分a1及びa2の溶融粘度(MFR:メルトマスフローレート)の値の差のことである。具体的には、予備分散処理後のa1及びa2成分について、JIS K7210−1B法に準拠した190℃におけるメルトマスフローレートを測定し、a1成分の溶融粘度とa2成分の溶融粘度の差を算出した値である(以降の表5〜7も同じ)。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
[比較例1〜20]
スチレン系熱可塑性エラストマー(A成分)と軟化剤(B成分)及びその配合比を以下表5〜7に示すように夫々変更した以外は、実施例1と同様にして、各比較例の組成物を得た。実施例1と同様に、得られた組成物を用いて物性評価用の試験片を成形し、物性等の評価を行った。比較例1〜9の結果を表5に、比較例10〜17の結果を表6に、比較例18〜20の結果を表7にそれぞれ示す。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
表2〜4に示した実施例1〜20と、表5〜7に示した比較例1〜20との比較結果から、本発明の組成物の構成とすることによって、柔軟性、機械的強度を有すると共に接着性にも優れた履物用緩衝部材の形成に好適な履物用緩衝組成物が得られることがわかった。また、これらの履物用緩衝組成物から形成された緩衝部材は、プライマー処理の有無に拘わらず、同じ接着条件の比較において他部材との接着性が比較例に比べて優れることもわかった。以下に詳細に結果を述べる。
【0064】
ブロック共重合体(a1)としてS−EB/S−Sを用いた実施例1、4及び5の結果と、実施例1、4及び5におけるブロック共重合体(a1)をS−EB−S(a3)に置き換えた比較例1〜9の結果の比較から、接着性・柔軟性・機械強度のいずれも優れた物性を示す緩衝部材を得るためには、中間ブロックがEB/S構造であるブロック共重合体(a1)が有効であることが分かった。また、比較例11のようにスチレン系熱可塑性エラストマー(A)が、成分a1を含まず、ブロック共重合体(a2)のみから構成された場合には、引裂強度が低下するため、本発明の効果を得るためには成分a1が必須成分であることがわかった。また、実施例5、6、16、17、19及び20と比較例10、11、14及び15との比較から、ブロック共重合体(a1)と変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(a2)の配合割合が重量比で、a2/(a1+a2)=0.25〜0.95の範囲の下限から外れると剥離接着強さが低下して接着性に劣り、上限から外れると引裂強さが低下して機械強度に劣ることがわかった。また、実施例1、4、5及び6と実施例14〜17の結果から、変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(a2)は、アミン変性体と無水マレイン酸変性体の何れも有効であることがわかった。さらに、実施例1、5、6と実施例18〜20の結果から、ブロック共重合体(a1)が酸変性体、すなわち、無水マレイン酸変性体であるものも好ましいことがわかった。また、実施例8〜11と比較例12〜13との比較から、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と軟化剤(B)の配合割合について、重量比でA/(A+B)の値が0.5未満では硬度が高くなり柔軟性に乏しく、0.7を超えると軟化剤(B)が過剰添加のため、接着性及び機械強度が低下することから、A/(A+B)=0.5〜0.7の範囲が有効であることがわかった。なお、表1の実施例1と表2の実施例12、13の結果から、軟化剤(B)としてパラフィンオイルを適用した場合には、パラフィンオイルの分子量が少なくとも400〜1200の範囲において、接着性・柔軟性・機械強度のいずれも優れた物性を示す緩衝部材が得られることが確認された。
【0065】
[実施例21〜23]
実施例1において、予備分散工程でスチレン系熱可塑性エラストマー(A)を構成する成分a1及びa2それぞれに対して個々に吸収させる軟化剤(B)の分配割合を表8の通りとした以外は、実施例1と同様にして各実施例の履物用緩衝組成物を得た。表8中におけるBi/ai(ここでi=1,2)の値は、a1及びa2の各成分に対する軟化剤(B)の配合割合を示している。また、表中のMFRはa1及びa2成分の溶融粘度(メルトマスフローレート、JIS K7210−1B法)であり、a1成分及びa2成分それぞれの溶融粘度を測定した。軟化剤(B)を分散させる前(処理前)の溶融粘度の測定条件は、温度230℃、荷重2.16kgとし、分散させた後(処理後)の溶融粘度の測定条件は、温度190℃、荷重2.16kgとした。また、分散処理後の溶融粘度(MFR)について、a1成分とa2成分の溶融粘度の値の差を算出した。得られた履物用緩衝組成物を用いて、混練工程後の組成物の分散性(外観)について評価を行った。分散性の評価は目視による外観評価とし、分散が不十分な不均一相が無い場合を良好「○」、不均一相を含んでいたり白濁して透明性が著しく悪い場合を不適「×」とした。また、この履物用緩衝組成物を上述した履物用緩衝組成物の各評価方法で用いる所定の試験片形状に130〜190℃の条件下で射出成形し、得られた試験片を用いて物性等の評価を行った。
【0066】
[比較例21]
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を構成する成分a1及びa2をよく混合してから、その混合物に対して軟化剤(B)を添加して分散させた以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同様にして本比較例の組成物を得た。すなわち、本比較例では、軟化剤(B)を予めスチレン系熱可塑性エラストマー(A)を構成する成分a1及びa2に分散させる工程(予備分散工程)を経ていない。実施例21〜23と同様に、得られた組成物を用いて混練工程後の組成物の分散性(外観)について評価を行った。また、この組成物を上述した履物用緩衝組成物の各評価方法で用いる所定の試験片形状に130〜190℃の条件下で射出成形し、得られた試験片を用いて物性等の評価を行った。
【0067】
実施例21〜23及び比較例21の結果を実施例1の結果とともに表8に示す。
【0068】
【表8】
【0069】
表8に示されるように、実施例1並びに実施例21〜23の履物用緩衝組成物は、加熱混練後の各成分の分散性が良好であり、外観、引裂強さ、硬度及び接着性の何れも良好な結果であった。一方、比較例21の組成物は、混練後の組成物にマクロな不均一相が生じており、その不均一相によって引裂強度、剥離接着強度、外観の全ての物性値においてばらつきが大きく、品質が不安定であることがわかった。このことから、予備分散工程において、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を構成する各成分に軟化剤(B)を予め分散させておくことにより、混練工程で均一に分散されやすくなって、接着性・柔軟性・機械強度のいずれの物性にも優れ、品質が安定した履物用緩衝組成物が得られることがわかった。また、実施例1、21及び22と実施例23との比較から、予備分散工程でスチレン系熱可塑性エラストマー(A)を構成するa1とa2成分それぞれに軟化剤(B)を吸収させるにあたり、同一温度における溶融粘度が高い成分ほど、単位重量当たりの軟化剤(B)の分配割合を大きくした配合とすることにより、さらに引裂強度と外観(透明性)に優れた履物用緩衝部材が得られることがわかった。これは、上述のような配合とすることにより、ブロック共重合体a1とa2との固有の溶融粘度の差が小さくなり、加熱混練工程で均一に各成分が分散されやすくなるためと考えられる。なお、表2〜7にはa1成分及びa2成分の予備分散処理前の溶融粘度の値は記載していないが、実施例2〜20において、a1成分及びa2成分の溶融粘度の大小関係は、a2≦a1である。さらに、実施例1及び21と、実施例22との比較から、軟化剤(B)を吸収させた後の成分a1と成分a2のMFR(g/10min)の差が150以下となるように、各成分に吸収させる軟化剤(B)の量を調整することによって、透明度の点で外観がより向上することがわかった。これは、混練工程での均一分散性が一層向上したことを示唆しており、予備分散工程後のa1成分とa2成分のMFR(g/10min)の差を150以下とすることによって、透明性をはじめとした各物性のバラツキが少ない高品質の履物用緩衝部材が得られることがわかった。
【0070】
本発明は、上記の実施形態又は実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態も技術的範囲に含まれるものである。