【文献】
Kenta Suzuki, Shinji Kumai, Yuichi Saito, Akikazu Sato and Toshio Haga,Refined Solidification Structure and Improved Formability of A356 Aluminum Alloy Plate Produced using a High-Speed Twin-Roll Strip Caster,Materials Transaction,Materials Transactions,日本,The Japan Institute of Metals and Materials,2004年 1月15日,Vol. 45, No.2,p.403-406
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のアルミニウム合金板の製造においては、原料コストが高く、スラブの面削や均熱化などの各工程を実施しなければならず、しかも熱間及び冷間圧延にも相当な時間を要しており、原料コスト的にも製造効率上も十分とはいえなかった。
【0006】
また、従来の双ロール式連続鋳造では、双ロール材の組織制御が確立されておらず、アルミニウム合金板の板厚中心部位に偏析が生じやすく、そのため、双ロール鋳造後の冷間圧延性を低下させ、且つ成形性が低くなるため所望の製品形状が実現できないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、原料コストが低く、製造効率に優れ、且つ成形性に優れたケイ素含有アルミニウム合金板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、安価な鋳造用合金やスクラップ材を用い、所定のSi濃度分布を付与することなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のケイ素含有アルミニウム合金板は、板厚方向に変動するSi濃度分布を有するケイ素含有アルミニウム合金板である。
このケイ素含有アルミニウム合金板は、Si濃度が最大となる板厚方向位置におけるSi濃度(Si
max)と、板厚方向におけるSi濃度の平均値(Si
aver)との比率Si
max/Si
averが1.0〜1.3であ
り、
Cuを0〜0.2質量%、Siを6.5〜7.5質量%、Mgを0.2〜0.5質量%、Feを0〜0.8質量%、Mnを0〜0.6質量%の割合で含み、残部がAl及び不可避的不純物から成る、ことを特徴とする。
なお、本発明のアルミニウム含有アルミニウム合金板は、鋳造したままの鋳造板と、これに圧延処理を施した圧延板の双方を包含する。
【0010】
また、本発明のケイ素含有アルミニウム合金板の製造方法は、上述のようなケイ素含有アルミニウム合金板を製造する方法である。
この製造方法は、縦型双ロール式連続鋳造により板材を作製し、
次いで、この板材を圧下率50%以上で冷間圧延し、
しかる後、
400〜500℃の範囲で焼鈍処理を行う、ことを特徴とする。
なお、この製造方法において、対象とするアルミニウム合金板が鋳造板である場合には、上記の冷間圧延、焼鈍処理を省略し得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価な鋳造用合金やスクラップ材を用い、所定のSi濃度分布を付与することなどとしたため、原料コストが低く、製造効率に優れ、且つ成形性に優れたケイ素含有アルミニウム合金板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のアルミニウム合金板について詳細に説明する。
本発明のアルミニウム合金板は、ケイ素(Si)を含有するアルミニウム合金製の板材であって、厚さ方向(板厚方向)に変動するSi濃度分布を有している。
また、Si濃度が最大となる板厚方向位置におけるSi濃度(Si
max)と、この板厚方向におけるSi濃度の平均値(Si
aver)との比率Si
max/Si
averが1.0〜1.3である。
【0014】
ここで、Si濃度分布は、典型的には、板厚中心から当該合金板の両側に位置する最表面の方向において、Si濃度が漸次減少した濃度勾配を有する傾向にあるが、これに限定されるものではない。例えば、板厚中心から片側の最表面の方向に隣接する任意の2つの位置において、板厚中心側の位置におけるSi濃度が最表面側の位置におけるSi濃度よりも必ずしも大である必要はなく、同一又は小であってもよい。
【0015】
なお、通常、上記のSi濃度分布は、Si濃度が同一か又はほぼ同一の相(Si濃度均一相)が複数層隣接(積層)した形式で構成されている。代表的には、板厚中心から一方の最表面方向に、板厚に対して約8%(双ロール式連続鋳造で作製したアルミニウム合金板では約200μm厚)のSi濃度均一相が隣接(積層)した形式で構成されている。
この場合、Si濃度分布は、板厚中心を通り厚さ方向に垂直な線(板厚中心線)に関してほぼ線対称となっており、よって、板厚中心を含む板厚中心相が構成するSi濃度均一相は、板厚に対して約8%(上記の双ロール式連続鋳造アルミニウム合金板では約200μm)の厚さを有することになる。
【0016】
上述のような構造を有するケイ素含有アルミニウム合金板においては、板厚中心ないし板厚中心相がSi
maxを有することが多いが、これら板厚中心相などのSi濃度が高くなり過ぎると、冷間圧延及び焼鈍後においても、板厚中心相などのSi濃度が高いままであり、冷間圧延性や成形性が劣化することがある。
これに対し、本発明は、典型的には、板厚方向に形成されるSi濃度均一相において、Si濃度の最大値(Si
max)とSi濃度の平均値(Si
aver)との比率Si
max/Si
averを所定範囲内に制御することにより、当該合金板の冷間圧延性や成形性を向上させるものである。
【0017】
即ち、本発明のケイ素含有アルミニウム合金板において、Si濃度が最大となる板厚方向位置におけるSi濃度(Si
max)と、板厚方向におけるSi濃度の平均値(Si
aver)との比率Si
max/Si
averが1.3を超えると、板厚中心相のSi濃度が高くなりすぎ、冷間圧延性に劣り、圧延時に破断が起きることがある。
【0018】
さらに、本発明のケイ素含有アルミニウム合金板としては、冷間圧延と焼鈍処理を施したもので、X線回折による(111)面強度I
111、(200)面強度I
200、(220)面強度I
220、(311)面強度I
311につき、I
111がI
311以下で且つI
220以下であり、I
220/I
111とI
311/I
111が3.0以下、I
200/I
220が0.6〜2.0であることが好ましい。
上記のX線強度比から逸脱すると、従来の一般的なアルミニウム合金板よりも成形性、特に張出性が劣化することがある。従来、(200)面と等価な面である(100)面を発達させることでアルミニウム合金板の成形性を向上させてきたが、本発明のように適切な冷間圧延と焼鈍を施すことにより、(220)面に加えて、(220)面及び(311)面をバランスよく発達させることが可能であり、これにより、良好な成形性を実現できる。
【0019】
本発明のケイ素含有アルミニウム合金板は、Cuを0〜0.2質量%、Siを6.5〜7.5質量%、Mgを0.2〜0.5質量%、Feを0〜0.8質量%、Mnを0〜0.6質量%、必要に応じて、Znを0〜0.3質量%、Tiを0〜0.3質量%の割合で含み、残部がAl及び不可避的不純物から成
る。
上記の各種構成元素の作用及び数値限定理由は、下記の通りである。
【0020】
Cu(銅):0〜0.2質量%
Cuは、耐力及び引張強さを向上させるために含有させる。Cuの含有量が0.2質量%を超えると、耐食性が悪化することがある。
【0021】
Si(ケイ素):6.5〜7.5質量%
Siは、湯流れ性などの鋳造性を向上させるために含有させる。Siの含有量が6.5質量%未満では、流動性が低く鋳造性が悪くなることがあり、7.5質量%を超えると、流動性は高くなるが伸びと成形性が低下することがある。
【0022】
Mg(マグネシウム):0.2〜0.5質量%
Mgは、耐力及び引張強さを向上させるために含有させる。Mgの含有量が0.2質量%未満では、耐力及び引張強さの向上が認められないことがあり、0.5質量%を超えると、伸びと成形性が低下することがある。
【0023】
Fe(鉄):0〜0.8質量%
Feは、焼き付き防止のために含有させる。Feの含有量が0.8質量%を超えると、伸びと成形性が低下することがある。
【0024】
Mn(マンガン):0〜0.6質量%
Mnは、Feによる延性の低下などの悪影響を緩和するとともに、焼き付き防止のために含有させる。Mnの含有量が0.6質量%を超えると、析出相や粗大な晶出物を生ぜしめて、伸びと成形性を低下させることがある。
【0025】
なお、不可避的不純物としては、Zn、Ti、Ni、Pb、Sn、Cr、Sb、Ca及びNaなどがある。通常、これらの不純物は0.1質量%以下で含まれる。
【0026】
以上に説明した本発明のケイ素含有アルミニウム合金板は、成形性に優れる。特に張出性に優れており、後述する張出高さは、代表的に27mm以上である。
【0027】
次に、本発明の自動車用部品について説明する。
本発明の自動車用部品は、上述の本発明のケイ素含有アルミニウム合金板を用いて製造されたものである。当該アルミニウム合金板の優れた成形性により、製造効率や加工精度に優れている。
自動車用部品としては、特に限定されるものではないが、外板パネルや内板パネルなどのパネル材、遮熱板、遮音板及びブラケットなどを例示することができる。
【0028】
次に、本発明のケイ素含有アルミニウム合金板の製造方法について説明する。
本発明のケイ素含有アルミニウム合金板の製造方法は、上述の本発明のケイ素含有アルミニウム合金板を製造する方法である。
この製造方法では、まず、縦型双ロール式連続鋳造により板材を作製し、次いで、この板材を圧下率50%以上で冷間圧延し、しかる後、
400〜500℃の範囲で焼鈍処理を行う。
【0029】
ここで、双ロール式連続鋳造は、スラブの作製などを介さずに溶湯から板材を直接製造できる手法であって、縦型に配置した2つのローラーとコイラーにより溶湯を延伸ないし圧延する手法であり、従来公知の手法を適用できる。
溶湯原料としては、いわゆるバージン原料を使用することも可能であるが、スクラップ材やスクラップ材に安価な鋳造用合金、例えばホイールスクラップ、サッシ屑、缶スクラップなどを混合したものを用いることができる。
【0030】
また、双ロール式連続鋳造により作製した板材について、圧下率50%以上で冷間圧延した後、350〜550℃の範囲で焼鈍処理を行うが、圧下率が50%未満では、焼鈍後の再結晶粒が粗大化して、伸び、張出高さ等の高い成形ができないことがある。
また、焼鈍温度が350℃未満では、再結晶が不完全となり、伸び、張出性が低下し、目的とする成形性が得られないことがあり、550℃を超えると、再結晶粒が粗大化するため、強度が低下して成形性が低下する可能性がある。
なお、上記の冷間圧延に続く焼鈍処理を350℃から550℃の温度範囲内で行えば、上記X線強度比を満足し、成形性、特に張出性に優れたケイ素含有アルミニウム合金板が得られる。より好ましくは焼鈍処理を400℃から500℃の温度範囲内で行うことで、上記のようにI
220/I
111とI
311/I
111が3.0以下、I
200/I
220が0.6〜2.0となり、よりいっそう成形性が向上する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1及び2、比較例3)
表1に示す各種の化学成分組成を有するAl合金溶湯を、表2に示す双ロール連続鋳造又はDC鋳造法により鋳造した。
実施例1及び2については、表1中の番号Aの合金溶湯を用い、比較例3についても番号Aの合金溶湯を用いた。
なお、表1において、Mg量が2.54%である合金(番号B)、Mn量が0.97%である合金(番号C)は、本発明では好適範囲外の原料例である。
【0033】
双ロール式連続鋳造(実施例1及び2)の際には、ケイ素を含有するAl合金溶湯を、耐火物製の給湯ノズルから、10m/min以上で回転する一対の銅鋳型等の双ロールの間に、液相線温度+5℃以上で注湯し、100℃/s以上の冷却速度で凝固させ、板厚2mm以上の鋳造板を作製した。
なお、双ロール式連続鋳造機で作製した鋳造材は、必要に応じて凝固完了後に板厚1mm以下まで冷間圧延した。次いで、冷延板に350〜550℃の温度で5分以上の焼鈍処理を施し、各例のアルミニウム合金板を得た。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
得られた実施例1及び2、比較例3の合金板の厚さ方向における断面(板厚断面)の光学顕微鏡により撮影した組織写真をそれぞれ
図1〜
図3に示す。
また、板厚中心(6)から最表面(1)の方向に所定間隔の位置におけるSi濃度を、下記性能評価における面分析の要領でよって測定し、得られた結果を表3、
図4に示す。
実施例1の合金板では、Si濃度が最大となる厚さ方向位置におけるSi濃度(Si
max)と、板厚方向のSi濃度の平均値(Si
aver)との比率Si
max/Si
averは、7.5/
7.0=1.1となる。
【0037】
表3は、縦型双ロール鋳造により作製したケイ素含有アルミニウム合金板の板厚中心から一方の最表面方向にそれぞれ板厚に対して約8%厚の間隔でSi濃度分布を測定し、その区間のSi濃度、Si濃度比(Si
max/Si
aver)、及び当該合金板の冷間圧延性試験の結果を示したものである。
ここで、冷間圧延性試験結果において、「○」は板厚0.5mmまでの冷間圧延が可能だったもの、「×」は大きな割れが発生して板厚0.5mmまでの冷間圧延が不可能だったものを示す。
また、得られた実施例1及び2、比較例3の合金板のSi濃度比(Si
max/Si
aver)、及び当該合金板の冷間圧延性試験の結果を
図5に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
表3より、実施例1は、上述のようにSi濃度比が1.1であり、板厚方向でSi偏析が少なく、且つ板厚中心相のSi濃度が低いため、良好な冷間圧延性が得られた。
実施例2は、Si濃度比が1.2であり、板厚中心相のSi偏析は多いが、Si濃度比が適切に制御されているので、冷間圧延が可能であった。
比較例3は、Si濃度比が1.8と高く、板厚中心相のSi偏析が多いため、冷間圧延時に割れが多数発生するとともに圧延途中に破断し、圧延が不可能であった。
【0040】
(実施例5〜9、比較例10及び11)
表1に示す化学成分組成を有する材料を表2に示す双ロール鋳造法又はDC鋳造法により鋳造し、必要に応じて、表2に示す各種冷間圧延加工及び焼鈍熱処理を施し、各例のアルミニウム合金板を作製した。
【0041】
<性能評価>
上述のようにして得られた各例の合金板につき下記の性能評価を行った。得られた結果を表4、
図6に示す。なお、アルミニウム合金板の圧延平行方向に対しX線を照射することで、面強度及び回折強度比を調べた。
【0042】
[引張試験]
Z2201:1998に規定されるJIS5号試験片を、試験片長手方向が圧延方向と一致するように作製し、室温での引張試験により、0.2%耐力、引張強さ、伸びの各特性値を測定する。
【0043】
[張出試験]
・試験条件
試験片形状 :200mm(長さ)×200mm(幅)×0.5mm(板厚)
しわ押さえ荷重:450kN
ポンチ速度 :10mm/min
ポンチ型 :φ100mm
・試験手順
張出試験については、直径100mmの球頭張出ポンチを用い、板厚0.5mm、長さ200mm、幅200mmの試験片に潤滑剤としての防錆油を塗布し、成形速度10mm/min、しわ押さえ荷重450kNで張出成形を行い、試験片が割れた際の高さ(mm)を測定する。
【0044】
[面分析]
・試験条件
加速電圧:20kV
測定領域:200×260μm
測定時間:200sec
・試験手順
各例の合金板における板厚断面方向(圧延方向に対して平行な方向)を樹脂埋めし、鏡面状態になるまで研磨する。X線分析装置SEM−EDX(JEOL JSM−5910L)(日本電子社製)、走査型電子顕微鏡(アメテック社製、商品名EDAX)を用い、合金板鏡面の200×260μmの領域にX線を照射し、AlとSiの濃度分析を行う。
【0045】
【表4】
【0046】
表4に示すとおり、表3に示す本発明所定のSi濃度比を満足して製造されたアルミニウム合金板では、本発明所定のSi濃度比を満足しない比較例10及び11と比較して成形性に優れる結果が得られた。
また、X線回折強度比について、(111)面強度I
111、(200)面強度I
200、(220)面強度I
220、(311)面強度I
311につき、I
111がI
311以下で且つI
220以下であり、I
220/I
111とI
311/I
111が3.0以下、I
200/I
220が0.6〜2.0を満足すれば、実施例6〜8のように、比較例10及び11に対して更に優れた成形性が得られることも分かった。