特許第6474586号(P6474586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474586
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】磁気浮上型ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 13/06 20060101AFI20190218BHJP
   F04D 7/06 20060101ALI20190218BHJP
   F04D 29/048 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   F04D13/06 H
   F04D7/06 E
   F04D29/048
   F04D13/06 E
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-223909(P2014-223909)
(22)【出願日】2014年11月4日
(65)【公開番号】特開2016-89686(P2016-89686A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正樹
(72)【発明者】
【氏名】玉置 登
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−516849(JP,A)
【文献】 特開2011−026998(JP,A)
【文献】 特開2004−284121(JP,A)
【文献】 特開2008−050980(JP,A)
【文献】 特開平07−279884(JP,A)
【文献】 特開2012−139070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/06
F04D 7/06
F04D 29/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ部材と、
前記ステータ部材と所定間隔を隔てて配置され、磁気軸受により非接触で支持されるロータ部材と、
前記ステータ部材と前記ロータ部材との隙間に連通する流体流路を有するハウジングとを備え、
前記ロータ部材を前記ステータ部材に対して回転させることによって、前記流体流路を通じて流体を移送することができるように構成された磁気浮上型ポンプにおいて、
前記ステータ部材が、
前記ステータ部材のステータ本体部の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第1の層と、
前記隙間に面するように前記第1の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第2の層とを有し、
前記ロータ部材が、
前記ロータ部材のロータ本体部の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第3の層と、
前記隙間に面するように前記第3の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第4の層とを有し
前記第1の層及び前記第3の層が、それぞれ、0.1μm〜5μmの厚みを有し、
前記第2の層及び前記第4の層が、それぞれ、0.3mm〜0.5mmの厚みを有することを特徴とする磁気浮上型ポンプ。
【請求項2】
前記ハウジングが、フッ素樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上型ポンプ。
【請求項3】
前記ハウジングが、金属製であり、
前記流体流路を形成するための内壁部分の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第5の層と、
前記流体流路に面するように前記第5の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第6の層とを有していることを特徴とする請求項1に記載の磁気浮上型ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上型ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学プラント、エッチングライン、製紙工程等で用いられる化学薬品等の流体を移送するためのポンプとして、ロータ部材を磁気軸受により非接触で支持しステータ部材に対して回転し得るように構成した磁気浮上型ポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5に示すように、特許文献1に記載の磁気浮上型ポンプ31は、ステータ部材とロータ部材とを備えている。前記ステータ部材は、コイル37及びステータ39等を含む金属製ケーシング32の一部からなる。前記ロータ部材は、概ね樹脂からなるものであって、当該樹脂の内部に永久磁石からなる界磁体42及び円筒状導体43を有しており、前記ステータ部材と所定間隔を隔てて配置され、磁気軸受46により非接触に支持されたロータ40からなる。
【0004】
さらに、前記磁気浮上型ポンプ31は、ハウジングを備えている。前記ハウジングは、化学薬品等の流体を流すための流体流路32cを有し、前記金属製ケーシング32の残部からなる。前記磁気浮上型ポンプ31は、前記ロータ部材を前記ステータ部材に対して回転させることで、インペラ40bにより流体を前記流体流路32cを通じて移送することができるように構成されている。
【0005】
そして、前記磁気浮上型ポンプ31においては、図5図6に示すように、前記ステータ部材と前記ロータ部材との間に形成される隙間55に流れ込んだ流体との接触によって前記ステータ部材が腐食することを防止するため、前記流体流路32cに連通するロータ収容凹部32dの内側表面に、耐薬品性を有するフッ素樹脂からなる保護層33が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−50980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の磁気浮上型ポンプにおいては、フッ素樹脂のみからなる保護層33の厚みW8が比較的薄い(具体的には例えば、約0.3mm〜約0.5mm)場合には、移送中の流体が流体流路32cからステータ部材とロータ部材と隙間55に流れ込んだとき、そこに形成される流体層から流体の一部が前記保護層33に浸透して、前記ステータ部材の金属部分、即ち鋳鉄からなる金属製ケーシング32のロータ収容凹部32dの内側表面に接することがある(図6参照)。
【0008】
このような場合、前記ステータ部材の金属部分と流体との関係によっては、前記ステータ部材の金属部分と流体との接触により金属イオンが発生することがある。前記ステータ部材の金属部分に由来するこの金属イオンは、前記保護層33を透過し得るものとなる。したがって、前記金属イオンが、前記隙間55内の流体に溶出する可能性があった。
【0009】
また、前記ロータ部材の界磁体42及び円筒状導体43を内包する樹脂部分の厚みW9が薄い場合も、前記保護層33の厚みW8が薄い場合と同様に、界磁体42及び円筒状導体43に由来する金属イオンが、前記隙間55内の流体に溶出する可能性があった。
【0010】
よって、前記磁気浮上型ポンプを用いた場合、前記ステータ部材の金属部分に由来する金属イオンが前記流体流路32cの流体に混入し、その金属イオンを混入させた流体が目的箇所に移送されるおそれがあった。そのため、前記磁気浮上型ポンプは、これが移送する流体に金属イオンが極力混入しないことを要求される場合(例えば、半導体の製造工程)には、好適に利用可能なものであるとはいえなかった。
【0011】
また、特許文献1に記載の磁気浮上型ポンプにおいて、フッ素樹脂のみからなる前記保護層33の厚みW8及び前記樹脂部分の厚みW9が射出インサート成形等を用いて形成され比較的厚い厚み(具体的には例えば、約2〜約3mm)を有する場合には、前述のような金属イオンの溶出はある程度は防止することはできる。しかし、この場合には、前記ステータ部材のコイル37及びステータ39と前記ロータ部材の界磁体42及び円筒状導体43との間隔幅であるギャップ長W10が大きくなってしまう。その場合、前記磁気軸受の軸支持力を同等に確保するのにはより大きな磁力を発生させる必要が生じ、前記コイル37にその分多く電流を流さなければならない。その結果、前記磁気浮上型ポンプの消費電力が増大してしまうという問題が生じる(図6参照)。
【0012】
前記磁気浮上型ポンプの消費電力が増大した場合、前記ステータ部材に備えられたコイル37の発熱が多くなり、前記コイル37からの放熱によって流体の温度が上昇しやすくなる。つまり、前記磁気浮上型ポンプにより移送される流体の温度を所定温度に維持することが困難となる。その結果、前記磁気浮上型ポンプが例えば半導体の製造工程に用いられた場合には、その製造工程に悪影響が及ぶ可能性がある。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、消費電力の低減を図りながら、移送中の流体への金属イオンの混入を抑制することができる磁気浮上型ポンプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、
ステータ部材と、
前記ステータ部材と所定間隔を隔てて配置され、磁気軸受により非接触で支持されるロータ部材と、
前記ステータ部材と前記ロータ部材との隙間に連通する流体流路を有するハウジングとを備え、
前記ロータ部材を前記ステータ部材に対して回転させることによって、前記流体流路を通じて流体を移送することができるように構成された磁気浮上型ポンプにおいて、
前記ステータ部材が、
前記ステータ部材のステータ本体部の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第1の層と、
前記隙間に面するように前記第1の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第2の層とを有し、
前記ロータ部材が、
前記ロータ部材のロータ本体部の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第3の層と、
前記隙間に面するように前記第3の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第4の層とを有し
前記第1の層及び前記第3の層が、それぞれ、0.1μm〜5μmの厚みを有し、
前記第2の層及び前記第4の層が、それぞれ、0.3mm〜0.5mmの厚みを有するものである。
【0015】
この構成によれば、前記磁気浮上型ポンプの駆動時に、前記流体流路から前記隙間に流体が流れ込んで、その流体の一部がフッ素樹脂層である前記第2の層及び前記第4の層に浸透した場合であっても、ダイヤモンドライクカーボン層である前記第1の層及び前記第3の層によって、前記フッ素樹脂層に浸透した流体が前記ステータ本体部及び前記ロータ本体部に到達することを極力阻止することが可能となる。
【0016】
したがって、流体が前記ステータ本体部及び前記ロータ本体部のそれぞれの金属部分に接し、これにより金属イオンが発生するのを抑えることができる。しかも、前記金属イオンが発生した場合であっても、前記ダイヤモンドライクカーボン層によって、前記金属イオンが前記フッ素樹脂層ひいては前記隙間に到達することを極力阻止することが可能となる。よって、前記金属イオンが前記隙間内の流体に溶出して前記流体流路内の流体に混入する可能性を低減することができる。
【0017】
そのため、前記磁気浮上型ポンプにおいて、移送中の流体に対する前記ステータ部材及び/又は前記ロータ部材由来の金属イオンの溶出量を抑制することができる。すなわち、金属イオンが移送中の流体に混入するのを抑制することができる。
【0018】
さらに、前記ダイヤモンドライクカーボン層及び前記フッ素樹脂層を薄型化(膜状に)するとともに、流体が流れ込んだときに流体層を形成する前記隙間の隙間幅を小さくして、前記ステータ本体部と前記ロータ本体部との間隔幅であるギャップ長を小さく(具体的には、従来一般的な6mmに対して1.5mm程度に)することが可能となる。したがって、前記磁気軸受が制御型磁気軸受(例えば、5軸制御型磁気軸受)である場合、前記ロータ部材を精度よく制御することができる。
【0019】
また、バリア性に優れる前記ダイヤモンドライクカーボン層の設置に伴い、コーティングによる成膜により前記フッ素樹脂層の薄肉化を実現し、前記ステータ本体部と前記ロータ本体部との間における前記ギャップ長を縮小化することができ、前記磁気軸受の軸支持力を確保するのに必要な磁力が小さくて済むので、前記磁気浮上型ポンプの消費電力の低減を図ることができる。そのため、前記ステータ部材に備えられるコイルの発熱の低減を図ることもできる。したがって、流体に対する前記コイルからの放熱が抑制されることになり、前記磁気浮上型ポンプにより移送される流体の温度を所定温度に維持しやすくなる。すなわち、前記磁気浮上型ポンプの消費電力の低減を図りつつも、前記磁気軸受において比較的大きな軸支持力を得ることができる。
【0020】
しかも、前記隙間の隙間幅を小さくできるので、前記隙間に入り込む流体の流量の減少を図り、流体が前記ステータ部材及び/又は前記ロータ部材に備えられる磁石に及ぼす影響を緩和することができる。具体的には、流体が高温の場合に、この高温の流体の影響を受けて前記磁石の温度が上昇する際の上昇幅を小さくすることができる。これにより、前記磁石の磁力を低下しにくくして、前記ロータ部材の回転数の低下を抑制することが可能となる。よって、前記磁気浮上型ポンプの駆動時に流体の吐出量が所定量よりも減ることを極力防止することができる。
【0021】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の磁気浮上型ポンプにおいて、
前記ハウジングが、フッ素樹脂製であるものである。
【0022】
この構成によれば、前記磁気浮上型ポンプにおいて、前記ハウジング由来の金属イオンが、移送中の流体に混入するおそれがない。
【0023】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の磁気浮上型ポンプにおいて、
前記ハウジングが、金属製であり、
前記流体流路を形成するための内壁部分の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第5の層と、
前記流体流路に面するように前記第5の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第6の層とを有しているものである。
【0024】
この構成によれば、前記ハウジングが金属製である場合であっても、前記同様に、前記ハウジング由来の金属イオンが、前記流体流路内を流れる流体に溶出して混入することを防止することができる。したがって、前記ハウジング由来の金属イオンが流体に混入するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、消費電力の低減を図りながら、移送中の流体への金属イオンの混入を抑制することができる磁気浮上型ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る磁気浮上型ポンプの一部概略構成を示す断面図である。
図2図1の磁気浮上型ポンプの一部拡大断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る磁気浮上型ポンプの一部概略構成を示す断面図である。
図4図3の磁気浮上型ポンプの一部拡大断面図である。
図5】従来の磁気浮上型ポンプの一例の断面図である。
図6図5に示す磁気浮上型ポンプの一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0028】
本実施形態に係る磁気浮上型ポンプは、ロータ部材5を磁気軸受により非接触で支持しつつステータ部材1に対して回転させることによって、流体を移送することができる構造を有している。この構造としては従来公知のものを採用することができるので、その詳細な説明は省略する。
【0029】
図1に示すように、前記磁気浮上型ポンプにおいては、前記ステータ部材1が、円形穴を内側に形成する凹部2を有するように構成されたステータ本体部3を備えている。このステータ本体部3は、コイル等を有し、このコイル等又はこれを被覆するケーシング等により形成された金属製の表面を前記凹部2の内側表面に含むように構成されている。
【0030】
前記ロータ部材5が、円柱状に形作られたロータ本体部6を備えている。このロータ本体部6は、永久磁石等を有し、この永久磁石又はこれを被覆するケーシング等により形成された金属製の表面を当該ロータ本体部6の外周面に含むように構成されている。そして、前記ロータ部材5の軸心方向一端部を覆うように、ハウジング10が前記ステータ部材1に連結されている。
【0031】
前記ハウジング10は、フッ素樹脂製のものであり、前記磁気浮上型ポンプが移送する流体(例えば、塩酸又は硝酸)を流すための流体流路11を有している。前記流体流路11は、前記ハウジング10の外周部に設けられた吸入口12と吐出口13とをつなぐように設けられている。前記流体流路11において、前記吸入口12と前記吐出口13との間に、前記ロータ部材5に取り付けられたインペラ14が配置されている。
【0032】
また、前記ロータ部材5は、前記ステータ部材1と所定間隔を隔てて配置され、前記磁気軸受により非接触で支持されている。本実施形態において、前記ロータ部材5は、前記ステータ部材1における前記凹部2に収容され、この凹部2と同軸上に配置されている。前記ステータ部材1と前記ロータ部材5との間には、隙間15が前記流体流路11と連通するように形成されている。
【0033】
前記ロータ部材5は、前記磁気浮上型ポンプの駆動時において、その径方向(ラジアル方向)及び軸心方向(スラスト方向)に関して、前記ステータ本体部3と前記ロータ本体部6との間隔幅であるギャップ長(図2に示すW6)が略一定の値を維持し得るように、前記ステータ部材1に対して設けられている。そして、前記磁気浮上型ポンプにより流体が移送される際、流体が前記流体流路11と前記隙間15との間で流通するようになっている。
【0034】
このような構成において、図1図2に示すように、前記ステータ部材1が、第1の層21と第2の層22とからなる2層の第1積層部20Aを有している。前記第1の層21は、前記ステータ本体部3上に配置され、ダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCという)で形成されている。前記第2の層22は、前記隙間15に面するように前記第1の層21の上に配置され、フッ素樹脂で形成されている。
【0035】
本実施形態において、前記第1の層21は、前記ステータ本体部3の表面のうち少なくとも前記凹部2の内側表面を覆うように設けられている。そして、このように設けられた前記第1の層21の略全体にわたって積層されるように、前記第2の層22が設けられている。前記第2の層22は、前記1の層21が前記隙間15内の流体と接しないように前記第1の層21を被覆する構成とされている。
【0036】
また、図1図2に示すように、前記ロータ部材5が、第3の層23と第4の層24とからなる2層の第2積層部20Bを有している。前記第3の層23は、前記ロータ本体部6上に配置され、DLCで形成されている。前記第4の層24は、前記隙間15に面するように前記第3の層23の上に配置され、フッ素樹脂で形成されている。
【0037】
本実施形態において、前記第3の層23は、前記ロータ本体部6の表面(前記インペラ14取付部分を含む方が好ましいが、少なくとも前記ロータ本体部6の外側表面)を覆うように設けられている。そして、このように設けられた前記第3の層23の略全体にわたって積層されるように、前記第4の層24が設けられている。前記第4の層24は、前記3の層23が前記隙間15内の流体と接しないように前記第3の層23を被覆しつつ、前記隙間15を介して前記第2の層22と対向するように配置されている。
【0038】
ここで、前記ステータ部材1の表面部に設けられた前記第1積層部20Aと、前記ロータ部材5の表面部に設けられた前記第2積層部20Bとは略同様の構造を有している。
【0039】
DLC層である前記第1の層21及び前記第3の層23は、それぞれ、薄膜状に、好ましくは0.1μm〜5μm程度の厚みW1・W3を有するように形成されている。一方、フッ素樹脂層である前記第2の層22及び前記第4の層24は、それぞれ、前記第1の層21及び前記第3の層23よりも厚く、好ましくは0.3mm〜0.5mm程度の厚みW2・W4を有するように形成されている。
【0040】
フッ素樹脂層を形成するために用いられるフッ素樹脂としては、例えば、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、又は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が挙げられる。
【0041】
前述のようなDLC層及びフッ素樹脂層は、例えば以下のような方法を用いて、前記ステータ部材と前記ロータ部材とに備えることができる。
【0042】
すなわち、まず、ステータ本体部及びロータ本体部のそれぞれの表面のうちの所定領域に、サンドブラスト処理を施す。このサンドブラスト処理を施された前記所定領域を、超純水で洗浄する。次に、前記所定領域に、DLCコーティングをPVD法又はCVD法により通常150℃〜200℃で行う。つづいて、DLCコーティングが施された部分に、フッ素樹脂の静電塗装を行う。
【0043】
そして、フッ素樹脂塗装の焼成処理を、フッ素樹脂の種類に応じた所定温度(フッ素樹脂がETFEであれば約300℃、FEPであれば約380℃、PFAであれば約400℃、PTFEであれば約400℃)で行う。この焼成処理後、フッ素樹脂塗装が施された部分を、超純水で洗浄してから酸で洗浄する。最後に、着磁処理を行う。こうして、DLC層及びフッ素樹脂層を前記ロータ部材及び前記ステータ部材に備えることができる。
【0044】
なお、前述の方法においては、焼成処理時の温度を考慮すると、焼成処理前の、DLCコーティングを行う工程で、CVD法に比べて、より耐熱性のあるDLC層を形成可能なPVD法を採用することが好ましい。また、焼成処理を行う工程では、DLC層とフッ素樹脂層とを密着させるために、真空焼成を行うことが好ましい。
【0045】
以上のような構成により、前記磁気浮上型ポンプの駆動時に、前記流体流路11から前記隙間15に流体が流れ込んで、その流体の一部が前記フッ素樹脂層である前記第2の層22及び前記第4の層24を浸透した場合であっても、前記DLC層である前記第1の層21及び前記第3の層23によって、前記フッ素樹脂層を浸透した流体が前記ステータ本体部3及び前記ロータ本体部6に到達することを極力阻止することが可能となる。
【0046】
したがって、流体が前記ステータ本体部3及び前記ロータ本体部6のそれぞれの金属部分に接し、これにより金属イオンが発生するのを抑えることができる。しかも、前記金属イオンが発生した場合であっても、前記DLC層によって、前記金属イオンが前記フッ素樹脂層ひいては前記隙間15に到達することを極力阻止することが可能となる。よって、前記金属イオンが前記隙間15内の流体に溶出して前記流体流路11内の流体に混入する可能性を低減することができる。
【0047】
そのため、前記磁気浮上型ポンプにおいて、移送中の流体に対する前記ステータ部材1及び/又は前記ロータ部材5由来の金属イオンの溶出量を抑制することができる。すなわち、前記金属イオンが移送中の流体に混入するのを抑制することができる。
【0048】
さらに、前記DLC層及び前記フッ素樹脂層を薄型化(膜状に)するとともに、流体が流れ込んだときに流体層を形成する前記隙間15の隙間幅W5を小さくして、前記ステータ本体部3と前記ロータ本体部6との間隔幅である前記ギャップ長W6を小さく(具体的には、従来一般的な6mmに対して1.5mm程度に)することが可能となる。ここで、ギャップ長W6には、前記ステータ本体部3に備えられているコイル等の内側表面がケーシング等で被覆されている場合にはそのケーシング等幅W01を含み、前記ロータ本体部6に備えられている永久磁石の外側表面がケーシング等で被覆されている場合にはそのケーシング等幅W02を含む。つまり、ギャップ長W6は、詳しくは、前記ステータ本体部3のコイル等と前記ロータ本体部6の永久磁石との間隔幅である。したがって、前記磁気軸受が制御型磁気軸受(例えば、5軸制御型磁気軸受)である場合、前記ロータ部材5を精度よく制御することができる。
【0049】
また、バリア性に優れる前記DLC層の設置に伴い、コーティングによる成膜により前記フッ素樹脂層の薄肉化を実現し、前記ステータ本体部3と前記ロータ本体部6との間における前記ギャップ長W6を縮小化することができ、前記磁気軸受の軸支持力を確保するのに必要な磁力が小さくて済むので、前記磁気浮上型ポンプの消費電力の低減を図ることができる。そのため、前記ステータ部材1に備えられた前記コイルの発熱の低減を図ることもできる。したがって、流体に対する前記コイルから放熱が抑制されることになり、前記磁気浮上型ポンプにより移送される流体の温度を所定温度に維持しやすくなる。すなわち、前記磁気浮上型ポンプの消費電力の低減を図りつつも、前記磁気軸受において比較的大きな軸支持力を得ることができる。
【0050】
しかも、前記隙間15の隙間幅W5を小さくできるので、前記隙間15に入り込む流体の流量の減少を図り、流体が前記ロータ部材5の永久磁石等の磁石に及ぼす影響を緩和することができる。具体的には、流体が高温の場合に、この高温の流体の影響を受けて前記磁石の温度が上昇する際の上昇幅を小さくすることができる。これにより、前記磁石の磁力を低下しにくくして、前記ロータ部材5の回転数の低下を抑制することが可能となる。よって、前記磁気浮上型ポンプの駆動時に流体の吐出量が所定量よりも減ることを極力防止することができる。
【0051】
なお、本発明に係る磁気浮上型ポンプにおいては、ステータ部材及び/又はロータ部材がこれら両者の隙間だけでなく流体流路に面する金属製の対面部分を有するものである場合には、前述のようなDLC層とフッ素樹脂層とからなる2層の積層部を前記対面部分に備えることが好ましい。
【0052】
また、前記ハウジング10が、前述のようにフッ素樹脂製ではなく、鋳鉄等の金属からなる金属製である場合には、図3に示すように、前記ハウジング10の金属部分が前記流体流路11を流れる流体と直接接しないように、DLC層とフッ素樹脂層とからなる2層の第3積層部20Cを、前記ハウジング10内における前記流体流路11の設置部分に設けてもよい。
【0053】
この場合、図4にも示すように、前記ハウジング10に、第5の層25と第6の層26とからなる、前述の2層の第3積層部20Cが設けられる。前記第5の層25は、前記ハウジング10における前記流体流路11を形成するための内壁部分27の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成される。前記第6の層26は、前記流体流路11に面するように前記第5の層25の上に配置され、フッ素樹脂で形成される。
【0054】
前記第5の層25は、前記吸入口12から前記吐出口13にいたる前記流体流路11の略全域にわたって前記内壁部分27を覆うように設けられる。そして、このように設けられた前記第5の層25の略全体にわたって積層されるように、前記第6の層26が設けられる。前記第6の層26は、前記5の層25が前記流体流路11内の流体と接しないように前記第5の層25を被覆する構成とされる。
【0055】
ここで、前記第3積層部20Cは、前記第1積層部20Aと前記第2積層部20Bと略同様の構造を有するものとされる。
【0056】
したがって、前記ハウジング10が金属製の場合であっても、前記ハウジング10由来の金属イオンが、前記流体流路11内を流れる流体に溶出して混入することを防止することができる。したがって、前記ハウジング由来の金属イオンが流体に混入するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 ステータ部材
3 ステータ本体部
5 ロータ部材
6 ロータ本体部
10 ハウジング
11 流体流路
21 第1の層
22 第2の層
23 第3の層
24 第4の層
25 第5の層
26 第6の層
27 内壁部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6