【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の磁気浮上型ポンプにおいては、フッ素樹脂のみからなる保護層33の厚みW8が比較的薄い(具体的には例えば、約0.3mm〜約0.5mm)場合には、移送中の流体が流体流路32cからステータ部材とロータ部材と隙間55に流れ込んだとき、そこに形成される流体層から流体の一部が前記保護層33に浸透して、前記ステータ部材の金属部分、即ち鋳鉄からなる金属製ケーシング32のロータ収容凹部32dの内側表面に接することがある(
図6参照)。
【0008】
このような場合、前記ステータ部材の金属部分と流体との関係によっては、前記ステータ部材の金属部分と流体との接触により金属イオンが発生することがある。前記ステータ部材の金属部分に由来するこの金属イオンは、前記保護層33を透過し得るものとなる。したがって、前記金属イオンが、前記隙間55内の流体に溶出する可能性があった。
【0009】
また、前記ロータ部材の界磁体42及び円筒状導体43を内包する樹脂部分の厚みW9が薄い場合も、前記保護層33の厚みW8が薄い場合と同様に、界磁体42及び円筒状導体43に由来する金属イオンが、前記隙間55内の流体に溶出する可能性があった。
【0010】
よって、前記磁気浮上型ポンプを用いた場合、前記ステータ部材の金属部分に由来する金属イオンが前記流体流路32cの流体に混入し、その金属イオンを混入させた流体が目的箇所に移送されるおそれがあった。そのため、前記磁気浮上型ポンプは、これが移送する流体に金属イオンが極力混入しないことを要求される場合(例えば、半導体の製造工程)には、好適に利用可能なものであるとはいえなかった。
【0011】
また、特許文献1に記載の磁気浮上型ポンプにおいて、フッ素樹脂のみからなる前記保護層33の厚みW8及び前記樹脂部分の厚みW9が射出インサート成形等を用いて形成され比較的厚い厚み(具体的には例えば、約2〜約3mm)を有する場合には、前述のような金属イオンの溶出はある程度は防止することはできる。しかし、この場合には、前記ステータ部材のコイル37及びステータ39と前記ロータ部材の界磁体42及び円筒状導体43との間隔幅であるギャップ長W10が大きくなってしまう。その場合、前記磁気軸受の軸支持力を同等に確保するのにはより大きな磁力を発生させる必要が生じ、前記コイル37にその分多く電流を流さなければならない。その結果、前記磁気浮上型ポンプの消費電力が増大してしまうという問題が生じる(
図6参照)。
【0012】
前記磁気浮上型ポンプの消費電力が増大した場合、前記ステータ部材に備えられたコイル37の発熱が多くなり、前記コイル37からの放熱によって流体の温度が上昇しやすくなる。つまり、前記磁気浮上型ポンプにより移送される流体の温度を所定温度に維持することが困難となる。その結果、前記磁気浮上型ポンプが例えば半導体の製造工程に用いられた場合には、その製造工程に悪影響が及ぶ可能性がある。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、消費電力の低減を図りながら、移送中の流体への金属イオンの混入を抑制することができる磁気浮上型ポンプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、
ステータ部材と、
前記ステータ部材と所定間隔を隔てて配置され、磁気軸受により非接触で支持されるロータ部材と、
前記ステータ部材と前記ロータ部材との隙間に連通する流体流路を有するハウジングとを備え、
前記ロータ部材を前記ステータ部材に対して回転させることによって、前記流体流路を通じて流体を移送することができるように構成された磁気浮上型ポンプにおいて、
前記ステータ部材が、
前記ステータ部材のステータ本体部の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第1の層と、
前記隙間に面するように前記第1の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第2の層とを有し、
前記ロータ部材が、
前記ロータ部材のロータ本体部の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第3の層と、
前記隙間に面するように前記第3の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第4の層とを有し
、
前記第1の層及び前記第3の層が、それぞれ、0.1μm〜5μmの厚みを有し、
前記第2の層及び前記第4の層が、それぞれ、0.3mm〜0.5mmの厚みを有するものである。
【0015】
この構成によれば、前記磁気浮上型ポンプの駆動時に、前記流体流路から前記隙間に流体が流れ込んで、その流体の一部がフッ素樹脂層である前記第2の層及び前記第4の層に浸透した場合であっても、ダイヤモンドライクカーボン層である前記第1の層及び前記第3の層によって、前記フッ素樹脂層に浸透した流体が前記ステータ本体部及び前記ロータ本体部に到達することを極力阻止することが可能となる。
【0016】
したがって、流体が前記ステータ本体部及び前記ロータ本体部のそれぞれの金属部分に接し、これにより金属イオンが発生するのを抑えることができる。しかも、前記金属イオンが発生した場合であっても、前記ダイヤモンドライクカーボン層によって、前記金属イオンが前記フッ素樹脂層ひいては前記隙間に到達することを極力阻止することが可能となる。よって、前記金属イオンが前記隙間内の流体に溶出して前記流体流路内の流体に混入する可能性を低減することができる。
【0017】
そのため、前記磁気浮上型ポンプにおいて、移送中の流体に対する前記ステータ部材及び/又は前記ロータ部材由来の金属イオンの溶出量を抑制することができる。すなわち、金属イオンが移送中の流体に混入するのを抑制することができる。
【0018】
さらに、前記ダイヤモンドライクカーボン層及び前記フッ素樹脂層を薄型化(膜状に)するとともに、流体が流れ込んだときに流体層を形成する前記隙間の隙間幅を小さくして、前記ステータ本体部と前記ロータ本体部との間隔幅であるギャップ長を小さく(具体的には、従来一般的な6mmに対して1.5mm程度に)することが可能となる。したがって、前記磁気軸受が制御型磁気軸受(例えば、5軸制御型磁気軸受)である場合、前記ロータ部材を精度よく制御することができる。
【0019】
また、バリア性に優れる前記ダイヤモンドライクカーボン層の設置に伴い、コーティングによる成膜により前記フッ素樹脂層の薄肉化を実現し、前記ステータ本体部と前記ロータ本体部との間における前記ギャップ長を縮小化することができ、前記磁気軸受の軸支持力を確保するのに必要な磁力が小さくて済むので、前記磁気浮上型ポンプの消費電力の低減を図ることができる。そのため、前記ステータ部材に備えられるコイルの発熱の低減を図ることもできる。したがって、流体に対する前記コイルからの放熱が抑制されることになり、前記磁気浮上型ポンプにより移送される流体の温度を所定温度に維持しやすくなる。すなわち、前記磁気浮上型ポンプの消費電力の低減を図りつつも、前記磁気軸受において比較的大きな軸支持力を得ることができる。
【0020】
しかも、前記隙間の隙間幅を小さくできるので、前記隙間に入り込む流体の流量の減少を図り、流体が前記ステータ部材及び/又は前記ロータ部材に備えられる磁石に及ぼす影響を緩和することができる。具体的には、流体が高温の場合に、この高温の流体の影響を受けて前記磁石の温度が上昇する際の上昇幅を小さくすることができる。これにより、前記磁石の磁力を低下しにくくして、前記ロータ部材の回転数の低下を抑制することが可能となる。よって、前記磁気浮上型ポンプの駆動時に流体の吐出量が所定量よりも減ることを極力防止することができる。
【0021】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の磁気浮上型ポンプにおいて、
前記ハウジングが、フッ素樹脂製であるものである。
【0022】
この構成によれば、前記磁気浮上型ポンプにおいて、前記ハウジング由来の金属イオンが、移送中の流体に混入するおそれがない。
【0023】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の磁気浮上型ポンプにおいて、
前記ハウジングが、金属製であり、
前記流体流路を形成するための内壁部分の上に配置され、ダイヤモンドライクカーボンで形成された第5の層と、
前記流体流路に面するように前記第5の層の上に配置され、フッ素樹脂で形成された第6の層とを有しているものである。
【0024】
この構成によれば、前記ハウジングが金属製である場合であっても、前記同様に、前記ハウジング由来の金属イオンが、前記流体流路内を流れる流体に溶出して混入することを防止することができる。したがって、前記ハウジング由来の金属イオンが流体に混入するのを抑制することができる。