【実施例】
【0013】
図1は本発明の実施の形態に係る、風速計と屋外エレベータを設置した建物の外観図である。
【0014】
図1において、1はエレベータ装置が設置された建物、2は風速計である。エレベータ装置は、建物の屋外に設置されている。建物1の外壁頂上部に建物1から張り出す形で機械室20が配置され、機械室20の下部空間にエレベータかご5が移動する昇降路21が形成されている。
【0015】
昇降路21の頂部の機械室20には巻上機3が設置され、この巻上機3に主ロープ4が巻回されている。主ロープ4の一端側はかご5、他端側はカウンターウェイト6に取り付けられている。また、機械室20には、ガバナ7が設置され、このガバナ7にガバナロープ8が巻回されている。
【0016】
また、地震時管制運転のため、昇降路21の下部のピット22には初期微動地震感知器9、機械室20には地震感知器10が設置されている。
【0017】
なお
図1のエレベータかご5には、建物側の扉23に対向する位置にエレベータ側扉24が設けられており、エレベータ側扉24を正面とする時反対側の背面25は乗客が外を見ることができるようにガラスなどの透明部材で構成されている。またエレベータかご5の側面(
図1の手前)には、ガイドローラ(図示せず)を備えた立枠26が配置されており、建物1側に固定されたガイドレールと接触対向することで昇降路内の上下動を可能としている。
【0018】
次に、
図1のように構成された屋外エレべータ装置において、強風がエレベータを納める建屋に与える影響の検討方法について述べる。
【0019】
風は地震とは異なり、風の吹く方向により、エレベータの受ける影響が変化する特徴を持っている。例えば、
図1において、+x方向、−y方向からの風を比較すると、エレベータ機器に対する影響は異なる。またこれらの影響は、建物1に対してエレベータがどのように納められているのかにもより相違する。
【0020】
そのため、本発明においては、風速計2において、風の向きを計測可能として、その向きを考慮して、主ロープ4の振れ量、ガバナロープ8の振れ量を評価する。これらのロープの振れ量が大きいと、昇降路21内に設置された各種機器や部材(以下単に昇降路機器という)にロープが絡まり、エレベータ運行に支障を与える事態が生じることから、振れ量と建物・エレベータの配置の関係(昇降路機器の配置関係)から管制運転の閾値を決めることにより、最適な管制運転を可能とする。
【0021】
ここで、主ロープ4、ガバナロープ8などのロープの振れ量fは(1)式により求めることができる。なお、ロープの振れ量の向きは、風速計2にて感知した風の向きと同じ方向とする。
[数1]
f={(1/2(w×L1)+P)×L/4H×1000・・・(1)
(1)式において、fはロープ振れ量[mm]、wは分布荷重[N/m]、Lは水平径間長[m]、L1は建屋において囲いを有しない部分の高さ[m]、Hはロープの水平張力[N]である。
【0022】
また(1)式において、分布荷重[N/m]wは、(2)式において風圧力PW[N/ m
2]とロープ径φ[m]から算出することができる。
[数2]
W=Pw×φ・・・(2)
(1)(2)式によれば、対象となるエレベータ装置の昇降路における実際の各部寸法や計測値などを反映することで、ロープの振れ量fを計算することができる。ここでは、主ロープ4とガバナロープ8の夫々についてロープの振れ量fを計算する。
【0023】
まず
図2により、主ロープ4の振れにおける長尺物の引っ掛かりの検討を行う。
図2はエレベータかご5(あるいはカウンターウェイト6。以下エレベータかご5の例で説明する)を上部から見た図である。エレベータかご5の上部には主ロープ4が巻回されている。この巻回された主ロープ4の中心Oを原点とする座標X、Yを想定する。X軸はエレベータかご5の側面方向(エレベータのレールゲージ方向)とし、Y軸はエレベータかごの前後方向(扉を正面とするとき正面と背面の方向)としている。
【0024】
ここでは、本来鉛直方向に位置すべき主ロープ4が強風で振れて、最も近い位置にある昇降路機器12に絡まる事態を想定している。この図の14が主ロープの振れる方向であり、建物1に固定されてガイドレール11を支持するブラケット30に取り付けられているガバナロープ止めなどの昇降路機器12に絡む事態を想定している。この場合に、主ロープ4と昇降路機器11間の距離がD1であり、方向aが風の方向である。
【0025】
なおここではエレベータかご5において主ロープ4が絡まることを説明したが、カウンターウェイト6において主ロープ4が絡まることも同様に検討、解析することができる。
【0026】
この検討からは、主ロープ4の方向aの振れ量fが距離D1以上となる風の強さ(風速)、及び風速が求められることになる。この検討によれば、主ロープ4に関して、方向aに向かわない風であれば強風であっても強風管制運転の対象ではなく、逆にさほどの強風でなくても方向aに向かう風について強風管制運転上は要注意ということが言える。
【0027】
次に、ガバナロープ8の振れにおける長尺物の引っ掛かりの検討を行う。
図3は、ガバナロープ8を高さ方向に見た図である。ガバナロープ8は、高さ方向の各所に設けられたガバナ振れ止め15(建物1から張り出したブラケット30に設けられている)の内部を通り、本来は鉛直方向に配置されている。然るに、方向17の強風に煽られて、上下のガバナ振れ止め15の中間部においてはエレベータかご5の外法ライン5Aを越えて触れることが想定される。この場合にはエレベータかご5との接触が想定される。
【0028】
この検討からは、ガバナロープ8の方向bの振れ量fが距離D2以上となる風の強さ(風速)、及び風速が求められることになる。この検討によれば、ガバナロープ8に関して、方向bに向かわない風であれば強風であっても強風管制運転の対象ではなく、逆にさほどの強風でなくても方向bに向かう風について強風管制運転上は要注意ということが言える。
【0029】
このように、ガバナロープ8の振れにおける長尺物の引っ掛かりの検討は、
図3に示すように(1)式により算出したガバナロープ振れ量がガバナロープ8と最も近い昇降路機器(
図3の例ではエレベータかご5の外法ライン5A)との距離を確認することによって行う。また、主ロープ4同様、昇降路機器に向かって吹く風の向きをb方向と定義する。なお、ガバナロープ振れ量は、ガバナロープ振れ止め15間における振れ量にて評価する。
【0030】
ここで、一般的にテールコードはピット22から昇降路頂部までダクトで覆われるため、ガバナロープ8と昇降路機器12(
図3の例ではエレベータかご5の外法ライン5A)との干渉を最悪条件として閾値を決定する。もし、テールコード等でガバナロープ8よりも近接する構造のものがあれば、最も昇降路機器に近接するとして考えてもよい。
【0031】
なお上記説明においては、方向a、bが予め定められている必要があるが、この場合の方向は、エレベータにおけるロープの位置と、これに近接している昇降路機器の位置により定まるものである。
【0032】
本検討結果をガバナロープ8についてまとめた例を
図4に示す。
図4より、ガバナロープ8についてのb方向の風速を検討した結果、b方向に風速V1m/sまでは長尺物の引っ掛かりの干渉は無いことがわかる。b方向に風速V2m/s以上では、ガバナロープ8が、かご5に当たる可能性がある。
【0033】
なお、図示していないが、主ロープ4についてまとめた例では、主ロープ48についてのa方向の風速を検討した結果、a方向に風速V3m/sまでは長尺物の引っ掛かりの干渉は無いことがわかる。a方向に風速V4m/s以上では、主ロープ4が、ガバナロープ振れ止12に当たる可能性がある。
【0034】
以上の解析結果から、本発明においては風速計2を設置して風速と風向を判定し、主ロープ4についてa方向の風速成分を求め、この風速成分が風速V4m/s以上であれば、主ロープの絡まり、接触の可能性ありと判断し、強風管制運転に入る。また同様に風速計2を設置して風速と風向を判定し、ガバナロープ8についてb方向の風速成分を求め、この風速成分が風速V2m/s以上であれば、ガバナロープ8の絡まり、接触の可能性ありと判断し、強風管制運転に入る。
【0035】
さらに、塔内に設置した地震感知器10にて感知する地震における影響を組み合わせることにより、
図5のフローチャートを得る。
【0036】
図5のフローチャートにおいては、強風と地震の観点からの強風管制運転を実施する。但し、これらの条件(強風と地震)は互いに独立であり、一方の条件成立で強風管制運転に入り、双方の条件成立で強風管制運転に入るというものではない。
【0037】
最初に地震検知時の処理について説明する。この例では、処理ステップS1においてP波の感知を確認し、処理ステップS2においてS波の感知を確認する。この場合にP波を感知していない状態では、正常と判断して運転を継続(処理ステップS11)している。双方感知している状態では処理ステップS4でエレベータ走行中を確認する。
【0038】
処理ステップS4の判断処理で、走行中であれば、処理ステップS6において最寄階に停止する。その後処理ステップS8において保守員点検後に手動復帰する。なお、走行中でない場合には処理ステップS6を経ずに直に処理ステップS8に移り、保守員点検後に手動復帰する。
【0039】
処理ステップS3において、P波は感知したがS波を感知しないという状態では、処理ステップS4でエレベータ走行中を確認する。
【0040】
走行中であれば、処理ステップS5において最寄階に停止する。その後処理ステップS7において一定時間経過後に自動復帰する。なお、走行中でない場合には処理ステップS5を経ずに直に処理ステップS7に移り、一定時間経過後に自動復帰する。
【0041】
次に、本発明により設けられた強風時の対応について説明する。この場合における強風判断は、処理ステップS10、S12に示した所定方向での風速の条件である。
【0042】
処理ステップS10では、ガバナロープ8について方向bの風速がV1を超えているかを判断する。同じく処理ステップS12では、ガバナロープ8について方向bの風速がV2を超えているかを判断する。そのうえで、方向bの風速がV1以下であれば、正常と判断して運転を継続(処理ステップS11)している。
【0043】
処理ステップS12の判断処理において、ガバナロープ8について方向bの風速がV2を超えているとされた場合には、処理ステップS4に移り、方向bの風速がV2を超えていない(方向bの風速はV1とV2の中間)ときには処理ステップS13に移る。
【0044】
なお
図5の処理ステップS10、S12では、ガバナロープ8についての判断を示したが、これはこのまま主ロープの判断に応用が可能である。主ロープについて判断する場合には、処理ステップS10では、主ロープ4について方向aの風速がV3を超えているかを判断する。同じく処理ステップS12では、主ロープ4について方向aの風速がV4を超えているかを判断する。そのうえで、方向aの風速がV3以下であれば、正常と判断して運転を継続(処理ステップS11)すればよい。
【0045】
要するに、主ロープ4とガバナロープ8の双方について対策するのであれば、いずれかが制限の風速(V2、またはV4)を超過しているという条件の成立で処理ステップS4、S13に入ればよい。
【0046】
当該方向の風速が制限の風速(V2、またはV4)を超過している時の処理ステップS4では、エレベータの走行中を確認する。
【0047】
処理ステップS4の判断処理で、走行中ということであれば、処理ステップS6において最寄階に停止する。その後処理ステップS8において保守員点検後に手動復帰する。なお、走行中でない場合には処理ステップS6を経ずに直に処理ステップS8に移り、保守員点検後に手動復帰する。
【0048】
処理ステップS12の判断において、制限の風速に至らない(方向bの風速がV1とV2の中間、または方向aの風速がV3とV4の中間)場合の処理ステップS13の処理では、とりあえず避難階に待機し、以後一定時間、所定以上の風速を検知しないという条件で、通常運転に自動復帰する。
【0049】
上記の
図5の実施例の説明において、処理ステップS10、S12、S4の部分が、予め定められた所定方向に向かう風速計の風速が制限風速を超過することを検知する判断手段に相当している。また処理ステップS13、S14、S6、S8の部分が、判断手段に応じてエレベータの避難運転を実行する回避手段に相当している。なお、この場合の制限風速は事前の検討により予め
図5の処理フローを実行する例えば計算機の中にプリセットの形で取り込まれている。
【0050】
以上の本発明の強風管制運転によれば、単に強風の大きさで強風管制運転が定まるわけではない。主ロープ4、ガバナロープ8毎の所定方向に向かう風の大きさが考慮される。a方向またはb方向への風のベクトル成分が考慮された風の大きさが評価されることになる。この結果、従来よりも安全に、かつ真に必要な場面での強風管制運転が期待できる。