(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記特許文献2及び特許文献3で提案したような凝集沈殿装置について、操業を行いながら更なる検証を進めた。その結果、上記特許文献2や特許文献3で提案したような技術を用いて原水の処理を行っていると、安定した処理水の水質を実現することはできるものの、装置内に存在する粒子濃度が増加する場合が発生した。粒子濃度の増加は、配管閉塞等が懸念されるため、粒子濃度は増加しないことが望まれる。
【0006】
粒子濃度が増加する原因について、本発明者らが検討を行った結果、原水に含有されている汚濁成分(換言すれば、懸濁物質)のうち不溶性粒状物よりも真比重の小さい成分の粒径分布の変化が原因であることが特定できた。すなわち、不溶性粒状物よりも真比重の小さい成分の粒径分布として、より大きな粒径のものも含むように拡がった場合に、装置内の粒子濃度が増加することが判明した。そのため、不溶性粒状物よりも真比重の小さい成分の粒径分布が、大きな粒径も含むように拡がった場合であっても、装置内への粒子濃度の増加を防止することが可能な技術を開発することが必要となった。
【0007】
一方で、上記特許文献1〜特許文献3に開示されているような高速凝集沈殿装置において、装置内における不溶性粒状物の濃度は重要な制御条件の一つであり、不溶性粒状物の濃度が低下するとフロックの形成が不良となって、処理水の水質が低下する。そのため、高速凝集沈殿装置における不溶性粒状物の濃度が低下した場合には、その都度、不溶性粒状物の追加添加が必要となる。
【0008】
従って、上記特許文献1〜特許文献3に開示されているような高速凝集沈殿装置では、不溶性粒状物の補充費用が生じる。特に、大規模な水処理設備の場合には、大量の不溶性粒状物が必要となるため、かかる不溶性粒状物を貯留したり切り出したりする設備が必要となって、更なるコストが生じてしまう。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、原水中の不溶性粒状物よりも真比重の小さい成分の粒径分布が大きな粒径も含むように拡がった場合であっても、装置内の粒子濃度の増加を抑制し、かつ、沈降促進材として用いられる不溶性粒状物の追加添加量を低減することが可能な、凝集沈殿方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、原水に含まれる懸濁物質を凝集沈殿処理により汚泥と処理水とに分離する凝集沈殿方法であって、前記原水は、前記懸濁物質として、粒径が0.1μm〜1000μmの範囲に分布しており、かつ、真比重が1.3〜1.5である粒子群を少なくとも含有しており、第1攪拌槽の前記原水に対して無機凝集剤を添加した上で攪拌混合し、前記第1攪拌槽の後段に設けられた第2攪拌槽の前記原水に対して、高分子凝集剤及び不溶性粒状物からなる沈降促進材を添加した上で攪拌混合し、前記第2攪拌槽の後段に設けられたフロック形成槽で、前記沈降促進材を核とした前記懸濁物質のフロックを形成させ、前記フロック形成槽の後段に設けられた沈殿槽で、前記フロックを沈降させて、前記原水を前記処理水とスラリーとに分離し、前記沈殿槽から汚泥引抜ラインにより抜き出されたスラリーをサイクロンで前記汚泥と前記沈降促進材及び前記粒子群とに分離し、分離した当該沈降促進材及び粒子群を前記第2攪拌槽に供給し、前記汚泥引抜ラインにおけるスラリーの密度が1005g/L〜1030g/Lとなるように、沈降促進材の追加添加量、及び、汚泥引抜ラインから分岐しスラリーの一部を系外へと排出するスラリー排出ラインからのスラリーの排出量を制御する、凝集沈殿方法が提供される。
【0011】
前記汚泥引抜ラインにおけるスラリーの密度が1005g/L〜1030g/Lである場合には、前記沈降促進材の追加添加は行わず、
、かつ、前記スラリー排出ラインからスラリーを系外に排出せず、前記汚泥引抜ラインにおけるスラリーの密度が1030g/L超過となった場合には、
前記沈降促進材の追加添加は行わず、かつ、前記スラリー排出ラインからスラリーを系外に排出し、前記汚泥引抜ラインにおけるスラリーの密度が1005g/L未満となった場合には、前記沈降促進材を追加添加
し、かつ、前記スラリー排出ラインからスラリーを系外に排出しないことが好ましい。
【0012】
前記粒子群の平均粒径は、200μm〜800μmであってもよい。
【0013】
前記沈降促進材は、粒径が100μm〜500μmの範囲に分布しており、かつ、真比重が2.6以上であってもよい。
【0014】
前記沈降促進材は、ケイ砂又はスラグであってもよい。
【0015】
前記原水は、石炭又はコークスを含む鉄鋼排水であってもよい。
【0016】
前記原水は、地下水であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、原水中の不溶性粒状物よりも真比重の小さい成分の粒径分布が、大きな粒径も含むように拡がった場合であっても、装置内の粒子濃度の増加を抑制し、かつ、沈降促進材として用いられる不溶性粒状物の追加添加量を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
<不溶性粒状物よりも真比重の小さい成分の粒径分布の拡がりについて>
先だって簡単に言及したように、原水に含まれる懸濁成分のうち、不溶性粒状物である沈降促進材よりも真比重の小さい成分の粒径分布が、0.1μm〜100μmという範囲から、0.1μm〜1000μmという範囲まで拡がったことが、装置内の粒子濃度の増加の原因であった。以下では、上記のような粒径分布が拡がることによる装置内の粒子濃度の増加について、詳細に説明する。
【0021】
上記特許文献1〜特許文献3に開示されているような高速凝集沈殿装置では、沈殿槽で沈殿した懸濁成分と、沈降促進材と、を含む混合液(スラリー)は、サイクロンにより懸濁物質(汚泥)と、沈降促進材と、に分離され、沈降促進材は、回収されて再利用される。
【0022】
一方で、原水に含まれる懸濁成分のうち沈降促進材よりも真比重の小さい成分の粒径分布が上記のように大きな粒径も含むように拡がった場合には、このような成分の一部(換言すれば、従来では存在しなかった粒径のより大きな成分)が沈降促進材とともにサイクロンにより回収されてしまい、装置内に滞留することで、粒子濃度が増加するようになってしまう。
【0023】
そこで、本発明者らは、上記のような装置内の粒子濃度の増加を解決するために鋭意検討した結果、後述の通り、汚泥引抜ラインにおけるスラリーの密度を適切な範囲となるように、沈降促進材の追加添加量、及び、汚泥引抜ラインから分岐しスラリーの一部を系外へと排出するスラリー排出ラインからのスラリーの排出量を制御することで、上記の課題を解決した。
以下に、その内容について詳細に説明する。
【0024】
<凝集沈殿装置の構成について>
以下では、
図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る凝集沈殿装置の構成について、詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る凝集沈殿装置の構成の一例を模式的に示した模式図である。
【0025】
本実施形態に係る凝集沈殿装置10は、原水に含まれる懸濁物質(Suspended Solid:SS)を凝集沈殿処理により汚泥と処理水とに分離する装置である。
【0026】
ここで、本実施形態に係る凝集沈殿装置10で処理対象とする原水(排水)については、粒径分布が0.1μm〜1000μmであり、かつ、真比重が1.3〜1.5である粒子群(以下では、このような粒径分布及び真比重を有する粒子群を、「粗粒子」ともいう。)を少なくとも含有している排水であれば、特に限定されるものではない。上記のような特定の粒径分布及び真比重を有する粒子群を含有する排水として、例えば、以下で挙げるような、石炭又はコークス(より詳細には、微粉炭やコークス粉)を含む鉄鋼排水や、地下水等を挙げることができる。
【0027】
(a)石炭ヤード雨水排水(真比重:1.48、粒径分布:0.1μm〜1000μm
(b)コークス製造工程で排出される集塵排水(真比重:1.37、粒径分布:0.1μm〜1000μm)
(c)地下水(真比重:1.31、粒径分布:0.1μm〜1000μm)
【0028】
ここで、上記のような粒径分布が0.1μm〜1000μmであり、かつ、真比重が1.3〜1.5である粗粒子は、沈降性促進の観点から、200μm〜800μmの平均粒径を有していることが更に好ましい。
【0029】
なお、着目する排水の粒径分布や平均粒径は、例えば、レーザを用いた粒径分布測定装置等を利用して、公知の方法により測定することが可能である。また、排水の比重についても、比重測定装置を利用して、公知の方法により測定することが可能である。
【0030】
凝集沈殿処理の対象となる原水は、原水流入ライン21を介して、第1攪拌槽11に流入する。原水流入ライン21には流量計や濁度計(図示せず。)が設けられており、第1攪拌槽11に流入する原水の流量や汚濁濃度が管理されている。第1攪拌槽11では、無機凝集剤添加ラインを介して無機凝集剤が原水に対して添加され、モータ駆動の攪拌機101により原水が攪拌混合される。添加された無機凝集剤により原水に含まれる懸濁粒子が凝集していくことで、微細なフロックが生成していく。
【0031】
無機凝集剤の種類は、特に限定されるものではなく、原水の性状にあわせて公知のものを使用可能である。このような無機凝集剤として、例えば、ポリ塩化アルミニウム(Poly Aluminum Chioride:PAC)、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等といった公知のアルミニウム塩や鉄塩を挙げることができる。
【0032】
ここで、無機凝集剤の添加量については、特に限定されるものではなく、処理対象とする原水の性状等に応じて、適宜決定すればよい。
【0033】
第1攪拌槽11において無機凝集剤が添加された原水は、生成した微細な凝集フロックとともに、第2攪拌槽13へと流入する。第2攪拌槽13では、原水に対して、高分子凝集剤添加ラインを介して高分子凝集剤が添加されるとともに、沈降促進材添加ライン23を介して沈降促進材が添加され、モータ駆動の攪拌機101により原水が攪拌混合される。添加された高分子凝集剤により原水に含まれる懸濁粒子が凝集することで、微細なフロックが少しずつ成長していくとともに、成長しつつあるフロックと添加された沈降促進材とが混合される。なお、沈降促進材添加ライン23には、第2攪拌槽13へと添加される沈降促進材の量を調整するための沈降促進材添加量コントロール弁103が設けられている。
【0034】
高分子凝集剤の種類は、特に限定されるものではなく、原水の性状にあわせて公知のものを使用可能である。このような高分子凝集剤として、例えば、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、又は両性の高分子凝集剤を利用することが可能である。
【0035】
アニオン性の高分子凝集剤としては、例えば、アクリル酸又はその塩の重合物、アクリル酸又はその塩とアクリルアミドとの共重合物、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸塩の共重合物、アクリル酸又はその塩とアクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩の3元共重合物、ポリアクリルアミドの部分加水分解物等を利用することが可能である。ノニオン性の高分子凝集剤としては、例えばポリアクリルアミドを利用することが可能である。両性の高分子凝集剤としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの3級塩及び4級塩(塩化メチル塩等)等の少なくとも1種のカチオン性単量体と、アクリル酸及びその塩(ナトリウム、カルシウム等の塩類)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸塩(ナトリウム、カルシウム等の塩類)等の少なくとも1種のアニオン性単量体の共重合物、又は、上記の少なくとも1種のカチオン性単量体及び上記の少なくとも1種のアニオン性単量体とアクリルアミド等の少なくとも1種のノニオン性単量体との三元もしくは四元以上の共重合物等を利用することが可能である。ここで、高分子凝集剤の分子量は特に限定されるものではないが、例えば500万〜2000万の範囲が好ましい。これらの高分子凝集剤は、単独で又は混合物として用いることができる。
【0036】
原水に添加される沈降促進材は、不溶性粒状物からなるものである。沈降促進材として利用可能な不溶性粒状物として、例えば、天然砂や人工砂やケイ砂等の砂粒(以下、単に「砂」という。)や各種スラグ(例えば高炉水砕スラグ等)を挙げることができる。この沈降促進材は、粒径分布が100μm〜500μmであり、真比重が2.6以上であることが好ましい。粒径分布が100μm〜500μmである沈降促進材は、利用する沈降促進材を例えば篩分けすることにより得ることが可能である。このような沈降促進材を用いることで、後段の沈殿槽17において、所望の沈降速度を実現することが可能となる。
【0037】
ここで、高分子凝集剤の添加率については、特に限定されるものではなく、処理対象とする原水の性状等に応じて、適宜決定すればよい。
【0038】
なお、本実施形態に係る凝集沈殿装置10では、後述するように、沈降促進材及び粗粒子を循環させて利用しているため、第2攪拌槽13では沈降促進材を常時添加する必要は無い。以下で詳述するように、本実施形態に係る凝集沈殿装置10では、凝集沈殿装置10全体で存在している沈降促進材及び粗粒子の合計量が、維持すべき量よりも少なくなった場合に、新たな沈降促進材を追加添加すればよい。
【0039】
第2攪拌槽13において高分子凝集剤及び沈降促進材が添加された原水は、フロック形成槽15へと流入する。フロック形成槽15では、高分子凝集剤添加ラインを介して高分子凝集剤が添加されるとともに、モータ駆動の攪拌機101により原水を攪拌することで、沈降促進材及び粗粒子を核とするフロックを形成させる。より詳細には、第1攪拌槽11にて形成された微細なフロックは、第2攪拌槽13にて添加された高分子凝集剤により架橋されて、フロック形成槽15において、より大きなフロックが形成されることとなる。フロック形成槽15で形成されたフロックは、サイズが比較的大きく、沈殿しやすいフロックとなる。
【0040】
なお、上記の無機凝集剤や高分子凝集剤として用いる化合物は、pH、温度、粘性などといった水質全体の物性に応じて決まる上記フロックの表面電荷に応じて、適宜選択すればよい。
【0041】
フロック形成槽15においてフロックが形成された原水は、沈殿槽17へと流入する。沈殿槽17では、上記フロックを沈降させて、原水を処理水とスラリーとに分離させる。沈殿槽17には汚泥掻寄機105が設けられており、沈殿槽17内で沈降したフロックを効率良く掻き寄せることが可能となる。また、本実施形態に係る沈殿槽17の内部には傾斜板107が設けられており、沈殿槽17内に存在するフロックを更に効率良く沈降させることが可能となっている。
【0042】
ここで、本実施形態に係る凝集沈殿装置10では、砂やスラグ等の比重の大きな沈降促進材を利用することでフロックの沈降速度を速めることができるため、沈殿槽17の表面負荷率(沈殿槽への流入水量/沈殿槽の底面積)を小さくすることが可能となる。これにより、本実施形態では、一般的な凝集沈殿装置に比べ、凝集沈殿装置10の小型化を図ることができる。ここで、一般的な凝集沈殿装置における沈殿槽17の滞留時間は、定格流量時で120〜180分程度であるのに対し、本実施形態では、数分(例えば、4〜5分)程度である。このような値からも、本実施形態に係る沈殿槽17での沈降速度が速いことがわかる。
【0043】
沈殿槽17の底部には、沈殿したフロックを含むスラリーを引き抜くための汚泥引抜ライン25が接続されており、汚泥引抜ライン25に設けられた汚泥引抜ポンプ109により、スラリーが連続的に沈殿槽17から引き抜かれる。また、汚泥引抜ライン25には、密度計111が設けられており、汚泥引抜ライン25を流れるスラリーの密度が計測されている。また、汚泥引抜ライン25からは、汚泥引抜ライン25を流れるスラリーの一部を系外へと排出するためのスラリー排出ライン27が分岐しており、スラリー排出ライン27には、系外へと排出するスラリーの量を調整するための排出スラリー量コントロール弁117が設けられている。一方、汚泥引抜ライン25の末端はサイクロン113の入口に接続されており、沈殿槽17から引き抜かれたスラリーは、所定の圧力や流速等を有した状態でサイクロン113へと移送される。
【0044】
なお、本実施形態に係る凝集沈殿装置10では、汚泥引抜ライン25に設けられた密度計111の計測結果に応じて、スラリーの密度が1005g/L〜1030g/Lとなるように、沈降促進材添加ライン23に設けられた沈降促進材添加量コントロール弁103や、スラリー排出ライン27に設けられた排出スラリー量コントロール弁117が制御される。沈降促進材添加量コントロール弁103や排出スラリー量コントロール弁117は、各種のコンピュータ等を利用した制御装置(図示せず。)によって開閉が自動制御されていてもよいし、凝集沈殿装置10の監視員によって開閉が行われても良い。
【0045】
サイクロン113は、汚泥引抜ライン25により移送されてきたスラリーを、汚泥と、沈降促進材及び粗粒子と、に分離する。分離された沈降促進材及び粗粒子は、サイクロン113の底部に接続されたサイクロン下部出口ライン29を介して、第2攪拌槽13へと供給される。また、分離された汚泥は、サイクロン113の頂部に接続されたサイクロン上部出口ライン31により移送され、汚泥として排出される。このように、本実施形態に係る凝集沈殿装置10では、汚泥引抜ライン25及びサイクロン下部出口ライン29により、沈降促進材及び粗粒子の循環ラインが形成されており、サイクロン上部出口ライン31が汚泥排出ラインとして機能する。
【0046】
一方、沈殿槽17により分離された処理水は、処理水ピット19へと流入する。処理水ピット19では、処理水が一時的に保持された上で、処理水移送ポンプ115により処理水ピット19から引き抜かれ、処理水移送ライン33により移送される。なお、処理水移送ライン33から流出する処理水の汚濁濃度は、本実施形態に係る凝集沈殿装置10での原水処理を制御する際の管理値として利用される。
【0047】
なお、上記説明では、高分子凝集剤添加ラインを介して高分子凝集剤を第2攪拌槽13及びフロック形成槽15の双方に添加する場合について記載したが、第2攪拌槽13及びフロック形成槽15に添加する高分子凝集剤の添加割合は、処理対象とする原水の性状等に応じて、適宜決定すればよい。また、処理対象とする原水の性状等によっては、高分子凝集剤を、第2攪拌槽13又はフロック形成槽15のいずれか一方に対して添加してもよい。
【0048】
<凝集沈殿装置の制御方法について>
続いて、
図1に示したような凝集沈殿装置10の制御方法について、詳細に説明する。
本実施形態に係る凝集沈殿装置10では、水質低下の原因である粒径分布が0.1μm〜1000μmであり、かつ、真比重が1.3〜1.5である粗粒子を、沈降促進材として利用することで、装置内の粒子濃度の増加を抑制し、かつ、沈降促進材として用いられる不溶性粒状物の追加添加量を低減することを可能とした。
【0049】
凝集沈殿装置10における粒子沈降性は、以下の式101で表わされるストークスの式に従っていると考えられる。
【0051】
ここで、上記式101において、
V:粒子の沈降速度[m・sec
−1]
ρ
s:粒子の密度[kg・m
−3]
ρ:水の密度[kg・m
−3]=1000kg・m
−3
g:重力加速度[m・sec
−2]=9.8m・sec
−2
μ:水の粘性係数[g・cm
−1・sec
−1]=0.01g・cm
−1・sec
−1(20℃での値)
d:粒子の直径[m]
である。
【0052】
上記式101から明らかなように、粒子沈降性は、粒子の密度に比例し、粒子の直径(すなわち、粒径)の2乗に比例する。従って、比重が沈降促進材よりも軽い粒子であっても、粒径がある程度大きければ沈降促進材に近い沈降速度となり、沈降促進材の代わりに利用することが可能であると考えた。
【0053】
そこで、本発明者らは、粒径分布が0.1μm〜1000μmであり、真比重が1.3〜1.5である粒子群を沈降促進材の代替として積極的に利用することで、装置内の粒子濃度の増加を抑制し、かつ、コストのかかる沈降促進材の追加添加量を低減可能な制御方法に想到したのである。
【0054】
図1に示した凝集沈殿装置10を制御するために、本実施形態に係る制御方法では、密度計111で測定されるスラリーの密度に着目した。凝集沈殿装置10を最初に稼働させる際には、沈降促進材添加ライン23を介して適切な量の沈降促進材が添加されるが、その後は、サイクロン113により分離された沈降促進材及び粗粒子が第2攪拌槽13へと添加されて、凝集沈殿装置10内を循環することとなる。従って、密度計111で測定されるスラリーの密度は、装置内に存在する沈降促進材及び粗粒子の量を反映した値となる。
【0055】
そこで、本実施形態に係る凝集沈殿装置10の制御方法では、密度計111の測定値に着目し、汚泥引抜ライン25におけるスラリーの密度が1005g/L〜1030g/Lとなるように、沈降促進材の追加添加量、及び、スラリー排出ライン27からのスラリーの系外への排出量を制御したところ、装置内の粒子濃度の増加を抑制し、かつ、沈降促進材の追加添加量を低減できることが確認された。汚泥引抜ライン25におけるスラリーの密度が1005g/L未満である場合には、原水に対する処理性が低下するため、好ましくない。また、汚泥引抜ライン25におけるスラリーの密度が1030g/L超過である場合には、汚泥引抜ライン25中のスラリーの濃度が高くなりすぎ、汚泥引抜ライン25の閉塞といった状態が生じる可能性が高くなるため、好ましくない。
【0056】
より詳細には、汚泥引抜ライン25におけるスラリーの密度が1005g/L〜1030g/Lである場合には、沈降促進材の追加添加は行わずに、装置内に存在している沈降促進材及び粗粒子を利用して、原水に対する処理が実施される。また、汚泥引抜ライン25におけるスラリーの密度が、粗粒子の滞留によって1030g/L超過となった場合には、排出スラリー量コントロール弁117を開放して、スラリー排出ライン27を介してスラリーの一部を系外へと強制的に排出させる。また、汚泥引抜ライン25におけるスラリーの密度が1005g/L未満となった場合には、沈降促進材添加量コントロール弁103を開いて、所定の管理値となるまで、沈降促進材添加ライン23を介して沈降促進材を装置に追加添加する。
【0057】
このような制御を行うことで、沈降促進材よりも真比重の小さい成分の粒径分布が、大きな粒径も含むように拡がった場合であっても、装置内の粒子濃度の増加を抑制し、かつ、沈降促進材の追加添加量を低減することができる。
【0058】
なお、沈降促進材の追加添加量やスラリーの排出量の決定方法については、特に限定されるものではなく、公知のあらゆる方法が利用可能である。例えば、汚泥引抜ライン25におけるスラリーの密度と、沈降促進材の追加添加量やスラリーの排出量と、が互いに関連付けられたルックアップテーブルのようなデータベース等を凝集沈殿装置10の制御装置(図示せず。)に予め準備しておくことで、沈降促進材の追加添加量やスラリーの排出量を決定することが可能である。
【0059】
以上、本実施形態に係る凝集沈殿装置10の制御方法について、詳細に説明した。
【実施例】
【0060】
続いて、実験例を示しながら、本発明に係る凝集沈殿方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実験例は、本発明の係る凝集沈殿方法を具体的に説明するための一例にすぎず、本発明に係る凝集沈殿方法が下記の例に限定されるわけではない。
【0061】
(実験例1)
コークス粉を主体とする鉄鋼排水であるコークス集塵排水(真比重:1.3〜1.5)を原水として利用し、
図1に示した本発明の実施形態に係る凝集沈殿装置10により凝集沈殿処理を行った。この際、無機凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を利用し、添加率は50mg/Lとした。また、高分子凝集剤として、弱アニオン性高分子凝集剤(分子量:1600万)を利用し、添加率は1.0mg/Lとした。なお、弱アニオン性高分子凝集剤は、第2攪拌槽13に対して全添加率の10%を添加し、フロック形成槽15に対して全添加率の90%を添加した。更に、沈降促進材として、ケイ砂を利用した。用いたケイ砂の粒径分布は、100μm〜500μmであり、真比重は2.6であった。これらを利用し、凝集沈殿装置10の制御を行った。
【0062】
本実施例において、従来例として、粒径分布(0.1μm〜100μm)を有しているコークス集塵排水を、上記の沈降促進材のみを利用して処理していた際の沈殿槽の水面積負荷(overflow rate:OFR)と、実施例として、粒径分布(0.1μm〜1000μm)を有するコークス集塵排水を、沈降促進材及び粗粒子を利用して処理した場合の沈殿槽の水面積負荷とを、以下の表1に併せて示した。
【0063】
なお、以下の表1において、従来例の欄に記載した平均粒径は、沈降促進材であるケイ砂の平均粒径を示しており、実施例の欄に記載した平均粒径は、コークス集塵排水に含まれる粗粒子の平均粒径を示している。また、従来例の欄に記載した真比重は、沈降促進材であるケイ砂の真比重を示しており、実施例の欄に記載した真比重は、粗粒子の真比重を示している。ここで、粗粒子の平均粒径は、粒径分布測定装置を用いて事前に測定した値であり、粗粒子の真比重は、比重測定装置を用いて事前に測定した値である。また、以下の表1において、粒子の沈降速度は、上記式101に示したストークスの式により算出した値である。
【0064】
【表1】
【0065】
表1から明らかなように、コークス集塵排水に含まれる粗粒子を利用することで、沈降促進材のみを利用した場合の沈降速度よりも大きな沈降速度を得ることが可能となることが確認された。また、沈殿槽17の能力を示すOFRについても、従来の沈降促進材のみを利用した場合と同等の値にできた。
【0066】
また、サイクロンへスラリーを供給するための汚泥引抜ラインでスラリーをサンプリングし、粒子濃度を測定したところ、実施例では従来例とほぼ同様の濃度であった。すなわち、実施例においても、従来例と同様に、装置内の粒子濃度の増加は確認されなかった。
更に、沈降促進材としてのケイ砂の使用量としては、実施例は従来例の10%程度にまで大幅に低減することができた。
【0067】
このように、本発明に係る凝集沈殿方法を利用することで、装置内の粒子濃度の増加を抑制し、かつ、沈降促進材として用いられる不溶性粒状物の追加添加量を低減することが可能となることが判った。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。