(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0016】
図1は、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の一例を示す断面図である。本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90は、プラスチック成形体91と、プラスチック成形体91の表面に設けたガスバリア薄膜92とを備えるガスバリア性プラスチック成形体において、ガスバリア薄膜92は、構成元素として珪素(Si)、炭素(C)及び酸素(O)を含有し、かつ、条件(1)でX線電子分光分析すると、Si−Cの結合エネルギーのピーク出現位置に、メインピークが観察される領域を有する。
条件(1)測定範囲を95〜105eVとする。
【0017】
プラスチック成形体91を構成する樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマー樹脂、ポリ‐4‐メチルペンテン‐1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン‐ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂である。これらは、1種を単層で、又は2種以上を積層して用いることができるが、生産性の点で、単層であることが好ましい。また、樹脂の種類は、PETであることがより好ましい。
【0018】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90では、プラスチック成形体91が、容器、フィルム又はシートである形態を包含する。その形状は、目的及び用途に応じて適宜設定をすることができ、特に限定されない。容器は、蓋、栓若しくはシールして使用する容器、又はそれらを使用せず開口状態で使用する容器を含む。開口部の大きさは、内容物に応じて適宜設定することができる。プラスチック容器は、剛性を適度に有する所定の肉厚を有するプラスチック容器と剛性を有さないシート材によって形成されたプラスチック容器とを含む。本発明は、容器の製造方法に制限されない。内容物は、例えば、水、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料又は果汁飲料などの飲料、液体、粘体、粉末又は固体状の食品である。また、容器は、リターナブル容器又はワンウェイ容器のどちらであってもよい。フィルム又はシートは、長尺なシート状物、カットシートを含む。フィルム又はシートは、延伸又は未延伸であるかを問わない。本発明は、プラスチック成形体91の製造方法に制限されない。
【0019】
プラスチック成形体91の厚さは、目的及び用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。プラスチック成形体91が、例えば、飲料用ボトルなどの容器である場合には、ボトルの肉厚は、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは、100〜350μmである。また、包装袋を構成するフィルムである場合には、フィルムの厚さは、3〜300μmであることが好ましく、より好ましくは、10〜100μmである。電子ペーパー又は有機ELなどのフラットパネルディスプレイの基板である場合には、フィルムの厚さは、25〜200μmであることが好ましく、より好ましくは、50〜100μmである。容器を形成するためのシートである場合には、シートの厚さは、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは100〜350μmである。そして、プラスチック成形体91が、容器である場合には、ガスバリア薄膜92は、その内壁面若しくは外壁面のいずれか一方又は両方に設ける。また、プラスチック成形体91が、フィルムである場合には、ガスバリア薄膜92は、片面又は両面に設ける。
【0020】
ガスバリア薄膜92は、構成元素として珪素(Si)、炭素(C)及び酸素(O)を含有し、かつ、条件(1)でX線電子分光分析すると、Si−Cの結合エネルギーのピーク出現位置に、メインピークが観察される領域を有する。
条件(1)測定範囲を95〜105eVとする。
【0021】
Si−Cの結合エネルギーのピーク出現位置に、メインピークが観察される領域を有することで、ガスバリア薄膜92は透明性に優れた薄膜となる。本明細書において、メインピークとは、条件(1)において、ピーク分離して観察されるピークの中で、最も強度の高いピークを意味する。
【0022】
ガスバリア薄膜92が含有する化合物の結合態様は、Si−C結合の他に、例えば、Si‐Si結合、Si‐H結合、Si‐O結合、C‐H結合、C‐C結合、C‐O結合、C=O結合、Si‐O‐C結合、C‐O‐C結合、O‐C‐O結合、O=C−O結合である。
【0023】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体では、ガスバリア薄膜92を条件(1)でX線電子分光分析すると、Si−Cの結合エネルギーのピーク出現位置に観察されるピークが、Si−Siの結合エネルギーのピーク出現位置に観察されるピークよりも大きいことが好ましい。これによって、透明性を更に高めることができる。
【0024】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90では、前記ガスバリア薄膜は、深さ方向に傾斜組成を有し、ガスバリア薄膜92を深さ方向Dに二等分し、プラスチック成形体91とは反対側を上層92aとし、プラスチック成形体91側を下層92bとしたとき、上層92aにおける(数1)で表されるC含有率が、上層92aにおける(数2)で表されるSi含有率よりも高い(条件1)ことが好ましい。これによって、透明性を更に高めることができる。
(数1)C含有率[%]={(C含有量[atomic%])/(Si,O及びCの合計含有量[atomic%])}×100
数1において、Si,O又はCの含有量は、Si,O及びCの3元素の内訳における含有量である。
(数2)Si含有率[%]={(Si含有量[atomic%])/(Si,O及びCの合計含有量[atomic%])}×100
数2において、Si,O又はCの含有量は、Si,O及びCの3元素の内訳における含有量である。
【0025】
上層92aは、ガスバリア薄膜92の膜厚をT[nm]としたとき、ガスバリア薄膜92の表面92sから厚さT/2[nm]の部分である。下層92bは、上層92aとプラスチック成形体91との間の部分であり、ガスバリア薄膜92とプラスチック成形体91との界面から厚さT/2[nm]の部分である。
【0026】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90では、ガスバリア薄膜92の膜厚Tが、5nm以上であることが好ましい。より好ましくは、10nm以上である。5nm未満では、ガスバリア性が不十分となる場合がある。また、ガスバリア薄膜92の膜厚の上限値は、200nmとすることが好ましい。より好ましくは、100nmである。ガスバリア薄膜92の膜厚が、200nmを超えると、内部応力によってクラックが生じやすくなる。
【0027】
ガスバリア薄膜92は、深さ方向Dに傾斜組成を有する。深さ方向Dとは、
図1に示すように、ガスバリア薄膜92の表面92sからプラスチック成形体91に向かう方向をいう。傾斜組成とは、Si、O又はCの少なくとも一種の含有量が、深さ方向Dにおいて連続的又は段階的に変化する組成をいう。ガスバリア薄膜92が深さ方向Dに傾斜組成を有するとは、上層92aと下層92bとがそれぞれ独立した傾斜組成を有するのではなく、上層92aと下層92bとが、両者の間に明確な境界をもたずに一連の傾斜組成を有することをいう。傾斜組成は、上層92a及び下層92bの全域にわたって傾斜しているか、又は上層92a又は下層92bの一部に傾斜していない部分を有していてもよい。なお、ガスバリア薄膜92が、深さ方向Dに傾斜組成を有することは、XPS分析においてアルゴンイオンエッチングを行いながら、深さプロファイルを測定することで確認できる。
【0028】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90では、上層92aにおける(数3)で表されるO含有率が、上層92aにおける(数2)で表されるSi含有率よりも低い(条件2)ことが好ましい。条件1に加えて条件2を有することで、上層92aにおいて、C含有率が最も高く、次いでSi含有率、O含有率となり、透明性を更に高めることができる。
(数3)O含有率[%]={(O含有量[atomic%])/(Si,O及びCの合計含有量[atomic%])}×100
数3において、Si,O又はCの含有量は、Si,O及びCの3元素の内訳における含有量である。
【0029】
上層92aのC含有率は、40〜60%であることが好ましく、43〜58%であることがより好ましい。上層92aのSi含有率は、20〜40%であることが好ましく、25〜38%であることがより好ましい。上層92aのO含有率は、5〜30%であることが好ましく、7〜28%であることがより好ましい。Si含有率、C含有率又はO含有率は、例えば、ガスバリア薄膜92をXPS分析することによって測定することができる。
【0030】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体では、下層92bにおける(数1)で表されるC含有率が、下層92bにおける(数3)で表されるO含有率よりも高い(条件3)ことが好ましい。下層92bにおいて、C含有率をO含有率よりも高くすることで、薄膜とプラスチック成形体との密着性を高めることができる。
【0031】
条件1〜3におけるSi含有率、O含有率及びC含有率の高低関係は、ガスバリア薄膜の深さプロファイルにおいて、Siのプロファイル、Oのプロファイル及びCのプロファイルの中から上層及び下層に極値を一つずつ有するプロファイルを一つ選択し、当該選択したプロファイルの上層又は下層の各極値におけるSi、O又はCの原子濃度の高低関係で判断する(判断基準1)。判断基準1において、上層及び下層に極値を一つずつ有するプロファイルが複数ある場合、選択する優先順位は、Oのプロファイル、Cのプロファイル、Siのプロファイルの順である。または、条件1〜3におけるSi含有率、O含有率及びC含有率の高低関係は、上層の全体又は下層の全体におけるSi含有率、O含有率及びC含有率の高低関係で判断する(判断基準2)。判断基準2において、上層又は下層の全体におけるSi含有率、O含有率及びC含有率は、例えば、ガスバリア薄膜の深さプロファイルにおいてSi,O及びCの各プロファイルの上層又は下層における原子濃度の積算値として求めることができる。本実施形態では、判断基準1又は判断基準2の少なくともいずれか一方において条件1を満たすとき、条件1が成立していると判断する。当然に、判断基準1及び判断基準2の両方において条件1を満たすときも、条件1が成立していると判断する。条件2又は条件3についても、条件1と同様にして条件2又は条件3の成立の成否を判断する。
【0032】
ガスバリア薄膜92は、Si、C及びO以外に、その他の元素を含んでいてもよい。その他の元素は、例えば、タンタル(Ta)などの発熱体由来の金属元素、水素(H)又は窒素(N)である。
【0033】
ガスバリア薄膜92は実質的に無色透明であることが好ましい。本明細書において、実質的に無色透明とは、JIS K 7105−1981「プラスチックの光学的特性試験方法」における色差である着色度b
*値を指標として、b
*値が2.0以下であるものをいう。b
*値は、より好ましくは1.7以下である。b
*値は数4で求めることができる。なお、数4において、Y又はZは三刺激値である。また、本発明におけるb
*値と目視との相関はおおよそ表1に示す通りである。
【0036】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90は、数5で求めるバリア性改良率(Barrier Improvement Factor,以降、BIFという。)が5以上であることが好ましい。より好ましくは、10以上である。具体例としては、500mlのペットボトル(高さ133mm、胴外径64mm、口部外径24.9mm、口部内径21.4mm、肉厚300μm及び樹脂量29g)において、酸素透過度を0.0070cc/容器/日以下とすることができる。720mlのペットボトルにおいて、酸素透過度を0.0098cc/容器/日以下とすることができる。
(数5)BIF=[薄膜未形成のプラスチック成形体の酸素透過度]/[ガスバリア性プラスチック成形体の酸素透過度]
【0037】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体は、例えば
図2に示すような従来の成膜装置で製造できる。
図2に示す成膜装置は、WO2013/099960号公報の
図3に示される装置であり、装置の詳細はWO2013/099960号公報に記載されている。ここでは、成膜装置について
図2を用いて簡単に説明する。
【0038】
成膜装置は、プラスチック成形体(
図2ではプラスチックボトル)4の成膜を行うための成膜専用チャンバ31と、プラスチック成形体4の出し入れを行うための出入用チャンバ32とを有し、成膜専用チャンバ31と出入用チャンバ32との間にゲートバルブ33が設けられている。
【0039】
成膜専用チャンバ31は、その内部にプラスチック成形体4の表面に薄膜を形成する反応室を有する。反応室には、発熱体42及び原料ガス供給管(不図示)が配置される。反応室内は、真空ポンプVP1によって排気可能である。
【0040】
出入用チャンバ32は、その内部に成膜前のプラスチック成形体4を待機させる待機室を有する。待機室内は、真空ポンプVP2によって排気可能である。出入用チャンバ32は、開閉ゲート56を有する。開閉ゲート56を開くことによって、成膜前のプラスチック成形体4を待機室内に導入したり、成膜後のプラスチック成形体4を待機室から取り出したりできるようになっている。
【0041】
ゲートバルブ33は、成膜専用チャンバ31と出入用チャンバ32との仕切りである。
【0042】
次に、
図2を参照しながら、プラスチック成形体4としてプラスチックボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成する場合を例にとって、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法を説明する。本発明は装置に限定されず、例えば、特許文献1の
図2に示されるように、チャンバを一つだけ有する装置を用いてもよい。
【0043】
第一実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法は、真空チャンバ(
図2では成膜専用チャンバ)31の内部を排気して真空チャンバ31内を初期圧力P
0以下に調整する排気工程と、真空チャンバ31内の圧力がP
0以下に調整され、かつ、真空チャンバ31内に配置された炭化タンタル相を有する発熱体42が加熱されていないときに、珪素含有炭化水素ガスを真空チャンバ31内に導入して真空チャンバ31内の圧力をP
0に調整する準備工程と、珪素含有炭化水素ガスを継続して真空チャンバ31に導入しながら発熱体42を加熱して、真空チャンバ31内に収容されているプラスチック成形体(
図2ではプラスチックボトル)4の表面にガスバリア薄膜を形成する成膜工程と、を有する。
【0044】
排気工程では、ゲートバルブ33及び開閉ゲート56は閉の状態である。真空ポンプVP1を作動させて、真空チャンバ(成膜専用チャンバ)31内の空気を排気し、真空チャンバ31内を初期圧力P
0以下にする。初期圧力P
0は、1.5Paであることが好ましく、1.0Paであることがより好ましい。また、排気工程における真空チャンバ31内の圧力の下限は、特に限定されない。
【0045】
排気工程では、真空チャンバ31内の排気に並行して、真空ポンプVP2を作動させて、出入用チャンバ32内の空気を排気することが好ましい。このとき、出入用チャンバ32内の圧力は、真空チャンバ31内の圧力よりも高くするか、又は低くしてもよい。
【0046】
準備工程は、
図2に示す装置では、ゲートバルブ33を開けて、真空チャンバ31と出入用チャンバ32とを連通させた時に始めることが好ましい。ゲートバルブ33を開けると、真空チャンバ31内の圧力と出入用チャンバ32内の圧力とが同等になる。
【0047】
準備工程では、真空チャンバ31内を排気しながら珪素含有炭化水素ガスを導入して、真空チャンバ31内の圧力をP
0に調整する。珪素含有炭化水素ガスを導入すると真空チャンバ31内の圧力が急上昇して、準備工程の初期において真空チャンバ31内の圧力がP
0を大きく超える(例えばP
Bを超える)場合がある。この場合は、真空チャンバ31内を排気して、真空チャンバ31内の圧力を例えばP
Bを超えるような大きな圧力にならないように調整することが好ましい。また、準備工程において真空チャンバ31内の圧力が、例えばP
Bを超えるような大きな圧力にならないように、排気工程において真空チャンバ31内の圧力をP
0未満に調整しておいてもよい。真空チャンバ31内の圧力は、例えば、珪素含有炭化水素ガスの流量を制御することで調整する。珪素含有炭化水素ガスを用いることで、実質的に無色透明のガスバリ
ア薄膜を形成することができる。珪素含有炭化水素ガスは、成膜工程において原料ガスとして用いられるガスであり、例えば、四塩化ケイ素、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ビニルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン若しくはメチルトリエトキシシランなどの有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、テトラエトキシシラン若しくはヘキサメチルジシロキサンなどの有機シロキサン化合物、又は、ヘキサメチルシラザンなどの有機シラザン化合物が使用される。また、これらの材料以外にも、アミノシランなども用いられる。これらの珪素含有炭化水素のうち、酸素又は窒素を構成元素に含まない有機シラン化合物が好ましく、構成元素において珪素より炭素の割合が高く、常温常圧で気体として扱えるという利用しやすさの観点では、ビニルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシランが特に好ましい。
【0048】
準備工程が完了するまでに、出入用チャンバ32に配置されたプラスチック成形体4を下降させて発熱体42近傍の所定の位置に到達させることが好ましい。準備工程が完了する時は、真空チャンバ31内が所定の圧力に到達した時である。所定の圧力は、P
0より高い圧力P
Aであることが好ましい。また、発熱体42近傍の所定の位置に到達した状態は、例えば、プラスチック成形体4としてプラスチックボトルの内表面に成膜するときは、
図2に示すように、発熱体42及び原料ガス供給管(不図示)がプラスチックボトル内に挿入された状態である。
【0049】
成膜工程では、珪素含有炭化水素ガスを継続して真空チャンバ31に導入しながら発熱体42を加熱して、プラスチック成形体4の表面にガスバリア薄膜を形成する。
【0050】
発熱体42は、例えば通電することで加熱する。発熱体42は、炭化タンタル相を有する。炭化タンタル相を有する発熱体42を用いることで、実質的に無色透明のガスバリ
ア薄膜を形成することができる。炭化タンタル相は、例えば、タンタル、タンタル基合金、又は添加剤を含有させたタンタル若しくはタンタル基合金が炭化した炭化物である。また、炭化タンタル相は、例えば、Ta
2C及びTaCを含んでいてもよい。炭化タンタル相は、発熱体42の全体にわたって存在するか、又は発熱体42の一部に存在してもよい。炭化タンタル相が発熱体42の一部に存在する形態は、例えば、発熱体42が中心部と周縁部とを有し、炭化タンタル相が発熱体42の周縁部だけに存在する形態である。このとき、中心部は金属タンタル相を有することが好ましい。発熱体42の加熱温度は、特に限定されないが、1600℃以上2400℃未満であることが好ましく、1850℃以上2350℃未満であることがより好ましく、2000℃以上2200℃以下であることがさらに好ましい。
【0051】
第一実施形態では、成膜工程で初めて発熱体42を加熱するのであって、排気工程及び準備工程では発熱体42を加熱しない。準備工程が完了する前は、真空チャンバ31内に残存する気体は大気だけであり、そのような雰囲気下で発熱体42を加熱すると、発熱体42が酸化劣化しやすい。また、発熱体CVD法を、例えばプラスチックボトルのコーティングなどの実製造ラインで利用可能とするためには、発熱体を繰返し使用することが求められる。発熱体を例えば1万回を超えて繰り返し使用すると、酸化劣化によって変形したり、発熱体の触媒活性が失われてガスバリア性の高い薄膜が形成できなくなったりする問題があった。そこで、第一実施形態では、真空チャンバ31内が珪素含有炭化水素ガスで適度に満たされた雰囲気下で発熱体42を加熱することで、発熱体42の酸化劣化を抑制することができる。その結果、発熱体を例えば1万回を超えて繰り返し使用した場合であっても、発熱体42が酸化劣化によって変形することを防止することができる。
【0052】
図3は、本実施形態に係る製造方法における真空チャンバ内の圧力変化及び発熱体の温度変化の一例を示した概念図である。第一実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、
図3に示すように、準備工程において、真空チャンバ31内の圧力をP
0に調整後、真空チャンバ31内の圧力をP
0より高い圧力P
Aに到達させ、成膜工程において、真空チャンバ31内の圧力をP
Aより高い圧力P
Bに到達させることが好ましい。高い透明性及び高いガスバリア性を有するガスバリア薄膜を形成することができる。
【0053】
第一実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、(P
B−P
A)/P
0が0.11以上であることが好ましい。より好ましくは、0.15以上である。高い透明性及び高いガスバリア性を有するガスバリア薄膜を形成することができる。(P
B−P
A)/P
0の上限は、特に限定されないが、0.67以下であることが好ましく、0.34以下であることがより好ましい。
【0054】
圧力P
0,P
A及びP
Bは圧力検出部80で検出した圧力である。圧力検出部80は、
図2に示すように、下チャンバーポート部Pに設けることが好ましい。
【0055】
プラスチック成形体4の表面に所定の膜厚の薄膜が形成されたところで、発熱体42の加熱を停止し、得られたガスバリア性プラスチック成形体を出入用チャンバ32に戻した後、ゲートバルブ33を閉じ、成膜工程を終了する。
【0056】
成膜工程後、出入用チャンバ32に設置された真空破壊弁(不図示)を作動させて出入用チャンバ32内を大気開放する。このとき、真空チャンバ31内は常に真空状態とし、真空チャンバ31内に配置された発熱体42が常に真空状態で保持されることが好ましい。
【0057】
次に、開閉ゲート56を開いてガスバリア性プラスチック成形体を取り出し、新たな未処理のプラスチック成形体を導入する。そして、開閉ゲート56を閉じて、前記排気工程、準備工程及び成膜工程が繰り返される。
【0058】
ここまで、実質的に無色透明なガスバリ
ア薄膜を有するガスバリア性プラスチック成形体の製造方法について説明してきたが、ガスバリア
薄膜の透明性の高さがさほど要求されない(例えばb
*が2を超え6以下)場合について説明する。
【0059】
第二実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法は、真空チャンバ31の内部を排気して真空チャンバ31内を初期圧力P
0以下に調整する排気工程と、真空チャンバ31内の圧力がP
0以下に調整され、かつ、真空チャンバ31内に配置された発熱体42が加熱されていないときに、原料ガスを真空チャンバ31内に導入して真空チャンバ31内の圧力をP
0に調整する準備工程と、原料ガスを継続して真空チャンバ31に導入しながら発熱体42を加熱して、真空チャンバ31内に収容されているプラスチック成形体4の表面にガスバリア薄膜を形成する成膜工程と、を有する。
【0060】
この第二実施形態に係る製造方法が、第一実施形態に係る製造方法と異なる点は、次の2点である。第一点は、発熱体42の種類である。第一実施形態では、発熱体42が炭化タンタル相を有するのに対して、第二実施形態では、発熱体42の材質が限定されていない。第二点は、用いる原料ガスの種類である。第一実施形態では珪素含有炭化水素ガスであるのに対し、第二実施形態では珪素含有炭化水素ガスに限定されていない。第二実施形態の製造方法は、上記2点の以外は第一実施形態に係る製造方法と基本的な構成を同じくする。このため、ここでは、共通する構成については説明を省略し、異なる点だけについて説明する。
【0061】
第二実施形態では、発熱体の材質は、特に限定されないが、C,W,Ta,Nb,Ti,Hf,V,Cr,Mo,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd及びPtの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上を含むことが好ましい。このうち、発熱体は、例えば、Ta,W,Mo及びNbの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含むことが好ましい。金属元素を含む材料は、純金属、合金、添加剤を含有させた金属若しくは合金又は金属間化合物である。合金又は金属間化合物を形成する金属は、前記した金属の中から二つ以上を組合せるか、又は前記した金属とその他の金属との組合せであってもよい。その他の金属は、例えば、クロムである。合金又は金属間化合物は、Ta,W,Mo及びNbの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を合計で80原子%以上含有することが好ましい。添加剤は、例えば、ジルコニア、イットリア、カルシア又はシリカなどの酸化物である。添加剤の添加量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0062】
第二実施形態では、上述した珪素含有炭化水素ガス以外の原料ガスは、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンなどのアルカン系ガス類、エチレン、プロピレン、ブチンなどのアルケン系ガス類、ブタジエン、ペンタジエンなどのアルカジエン系ガス類、アセチレン、メチルアセチレンなどのアルキン系ガス類、ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素ガス類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロアルカン系ガス類、シクロベンテン、シクロヘキセンなどのシクロアルケン系ガス類、メタノール、エタノールなどのアルコール系ガス類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系ガス類、フォルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド系ガス類であってもよい。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
図2に示す成膜装置を用いてガスバリア性プラスチック成形体を製造した。プラスチック成形体としてPET製のプラスチックボトル(内容量500ml)、珪素含有炭化水素ガスとしてビニルシラン、発熱体として炭化タンタル線(φ0.5mm)を用いた。まず、排気工程を次のとおり行った。排気工程では、真空チャンバの内部を排気して真空チャンバ内を初期圧力P
0=1.5Pa以下に調整した。次いで、準備工程を次のとおり行った。準備工程では、ゲートバルブを開けた後、真空チャンバ内に珪素含有炭化水素ガスを導入して真空チャンバ内の圧力をP
0Paに調整した後、P
0Paより高いP
APaに到達させた。また、プラスチックボトルを出入用チャンバから降下させて発熱体及び原料ガス供給管をプラスチックボトルの内部に挿入した。次に、成膜工程を次のとおり行った。成膜工程では、珪素含有炭化水素ガスの導入を継続しながら発熱体の加熱を開始し、2100〜2200℃まで加熱して、プラスチックボトルの内表面に堆積した薄膜が20nmに到達したところで、発熱体の加熱を停止した。その後、プラスチックボトルを出入チャンバに戻してゲートバルブを閉じるとともに、ガスの供給を停止した。また、成膜工程では、真空チャンバ内の圧力をP
APaより高いP
BPaに到達させた。各工程での圧力P
A,P
Bは、(P
B−P
A)/P
0が0.16となるように調整した。成膜工程が完了した後、出入チャンバ内を大気解放して、得られたガスバリア性プラスチック成形体を取り出し、新たな未処理のプラスチックボトルを投入して開閉ゲートを閉じた。これら一連の成膜作業を繰り返し行った。
【0065】
(実施例2)
各工程での圧力P
A,P
Bを(P
B−P
A)/P
0が0.15となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性プラスチック成形体を製造した。
【0066】
(実施例3)
各工程での圧力P
A,P
Bを(P
B−P
A)/P
0が0.11となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性プラスチック成形体を製造した。
【0067】
(比較例1)
発熱体として炭化処理していないタンタル線(φ0.5mm)を用い、準備工程を行わなわず、薄膜の膜厚を36nmに変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性プラスチック成形体を製造した。
【0068】
(XPS分析−組成分析)
実施例1及び比較例1について一連の成膜作業1回目で得られたプラスチックボトルの薄膜の表面をXPS装置(型式:QUANTERASXM、PHI社製)を用いて分析した。薄膜表面の構成元素の比率を表2に示す。XPS分析の条件は、次の通りである。
測定条件
励起X線:Al mono
検出領域:100μmφ
取出角:90deg
検出深さ:約8nm
【0069】
【表2】
【0070】
(XPS分析−結合エネルギー)
実施例1及び比較例1について一連の成膜作業1回目で得られたプラスチックボトルの薄膜の表面を前記したXPS装置を用いて条件(1)で分析した。試験片及び分析条件は、組成分析と同様とした。
【0071】
図4は、薄膜表面を条件(1)でXPS分析したSi2pのナロースキャンスペクトルであり、(a)は実施例1の薄膜、(b)は比較例1の薄膜である。
図4に示すとおり、実施例1は、Si−Cの結合エネルギーのピーク出現位置にメインピークが観察されたのに対して、比較例1は、Si−Siの結合エネルギーのピーク出現位置にメインピークが観察された。
【0072】
(XPS分析‐深さプロファイル分析)
前記したXPS装置を用いて、アルゴンイオンエッチングを行いながら、実施例1及び比較例1について一連の成膜作業1回目で得られたプラスチックボトルの薄膜の深さプロファイルを分析した。試験片及び分析条件は、組成分析と同様とした。ここで、ガスバリア薄膜を深さ方向に二等分して考えたとき、実施例1ではプラスチック成形体とは反対側の10nmを上層とし、プラスチック成形体側の10nmを下層とし、比較例1ではプラスチック成形体とは反対側の18nmを上層とし、プラスチック成形体側の18nmを下層とした。
【0073】
図5は、実施例1の深さプロファイルである。
図5では、O及びCのプロファイルが上層及び下層に極値を一つずつ有していたため、優先順位が最も高いOのプロファイルを選択して、Oのプロファイルの極値におけるSi,C及びOの含有率を比較した。
図5では、Oのプロファイルの極値は、上層に含まれるSputter Time1.5minに極小値があり、下層に含まれるSputter Time6.0minに極大値があった。実施例1は、
図5に示すように、Sputter Time1.5minにおけるC含有率が、Sputter Time1.5minにおけるSi含有率よりも高かった。また、実施例1は、
図5に示すように、Sputter Time1.5minにおけるO含有率が、Sputter Time1.5minにおけるSi含有率よりも低かった。以上より、実施例1では、上層のOのプロファイルの極値における組成は、C含有率が最も高く、次いでSi含有率、O含有率であることが確認できた。
【0074】
図6は、比較例1の深さプロファイルである。
図6では、O及びCのプロファイルが上層及び下層に極値を一つずつ有していたため、優先順位が最も高いOのプロファイルを選択して、Oのプロファイルの極値におけるSi,C及びOの含有率を比較した。
図6では、Oのプロファイルの極値は、上層に含まれるSputter Time6.0minに極小値があり、下層に含まれるSputter Time13.5minに極大値があった。比較例1は、
図6に示すように、Sputter Time6.0minにおけるC含有率が、Sputter Time6.0minにおけるSi含有率よりも低かった。また、比較例1は、
図6に示すように、Sputter Time6.0minにおけるO含有率が、Sputter Time6.0minにおけるSi含有率よりも低かった。以上より、比較例1では、上層のOのプロファイルの極値における組成は、Si含有率が最も高いことが確認できた。
【0075】
図5において、上層におけるSi,C及びOの各原子濃度の積算値を求めたところ、実施例1では、上層は、C含有率が最も高く、次いでSi含有率、O含有率であることが確認できた。また、
図6において、上層におけるSi,C及びOの各原子濃度の積算値を求めたところ、比較例1では、上層は、Si含有率が最も高く、次いでC含有率、O含有率であることが確認できた。
【0076】
また、実施例1は、
図5に示すように、Sputter Time6.0minにおけるC含有率が、Sputter Time6.0minにおけるSi含有率よりも高く、Sputter Time6.0minにおけるO含有率が、Sputter Time6.0minにおけるSi含有率よりも高かった。これに対して、比較例1は、
図6に示すように、Sputter Time13.5minにおけるC含有率が、Sputter Time13.5minにおけるSi含有率よりも低く、Sputter Time13.5minにおけるO含有率が、Sputter Time13.5minにおけるSi含有率よりも高かった。
【0077】
図5において、下層におけるSi,C及びOの各原子濃度の積算値を求めたところ、実施例1では、下層は、C含有率が最も高く、次いでO含有率、Si含有率であることが確認できた。また、
図6において、下層におけるSi,C及びOの各原子濃度の積算値を求めたところ、比較例1では、下層は、O含有率が最も高く、次いでSi含有率、C含有率であることが確認できた。
【0078】
(透明性評価)
実施例及び比較例について一連の成膜作業1回目で得られたプラスチックボトルと用いて透明性を評価した。透明性はb
*値で評価した。b
*値は、自記分光光度計(U‐3900形、日立社製)に同社製60Φ積分球付属装置(赤外可視近赤外用)を取り付けたものを用いて測定した。検知器としては、超高感度光電子増倍管(R928:紫外可視用)と冷却型PbS(近赤外域用)を用いた。測定波長は、380nmから780nmの範囲で透過率を測定した。ペットボトルの透過率を測定することによって、ガスバリア薄膜のみの透過率測定を算出することができるが、本実施例のb
*値は、ペットボトルの吸収率も含めた形で算出したものをそのまま示している。測定には、光沢度の測定で用いた試験片を使用した。3枚の平均値をb
*値として表3に示した。
【0079】
(ガスバリア性評価)
実施例及び比較例について一連の成膜作業の繰返し回数が1回目、100回目、200回目で得られた各プラスチックボトルを用いてガスバリア性を評価した。ガスバリア性はBIFで評価した。まず、実施例又は比較例の各プラスチックボトルについて酸素透過度を測定した。酸素透過度は、酸素透過度測定装置(型式:Oxtran 2/20、Modern Control社製)を用いて、23℃、90%RHの条件にて測定し、測定開始から24時間コンディションし、測定開始から72時間経過後の値とした。BIFは、数5において、未成膜ボトルの酸素透過度の値を薄膜未形成のプラスチック成形体の酸素透過度とし、実施例又は比較例の各プラスチックボトルの酸素透過度の値をガスバリア性プラスチック成形体の酸素透過度として算出した。評価基準は、次のとおりである。評価結果を表3に示す。
◎:各プラスチックボトルのBIFが10以上である(実用レベル)。
○:各プラスチックボトルのBIFが5以上10未満である(実用下限レベル)。
×:各プラスチックボトルのBIFが5未満である(実用不適レベル)。
【0080】
(機械的耐久性評価)
一連の成膜作業を1万回繰り返した後、発熱体を成膜装置から外して、返し部から40〜80mm部分を指で把持し、強度を確認した。評価基準は次のとおりである。評価結果を表3に示す。
○:発熱体直線部が±1.5mmの範囲を維持し、指で把持しても破損しない(実用レベル)。
△:発熱体直線部が±3.0mmの範囲を維持し、指で把持しても破損しない(実用下限レベル)。
×:発熱体直線部が±3.0mmの範囲を超え、指把持により破損する(実用不適レベル)。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、各実施例はいずれも実質的に無色透明で、かつ、高いガスバリア性を有していた。また、比較例1と比較して、発熱体の触媒活性及び強度ともに耐久性に優れた製造方法であることが確認できた。特に、実施例1及び実施例2は、発熱体を1万回以上繰り返し使用しても、発熱体の触媒活性が失われること無く、ガスバリア性の高い薄膜を形成することができた。また、各実施例は、(P
B−P
A)/P
0が0.11以上であり、高い透明性及び高いガスバリア性を有するガスバリア薄膜を形成することができた。実施例1,2は、(P
B−P
A)/P
0が0.15以上であり、発熱体を繰返し使用してもガスバリア性が高い状態を保持していた。