【文献】
Med. Chem. Commun., 2013, Vol. 4, p. 68-79
【文献】
Antimicrob. Agents Chemother., 2009, Vol. 53, No. 2, p. 385-392
【文献】
J. Mol. Biol., 2011, Vol. 409, No. 4, p. 558-573
【文献】
Molecular Microbiology, 2008, Vol. 68, No. 6, p. 1485-1501
【文献】
PLoS ONE, 2012.03, Vol. 7, No. 3, e34039
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
病原性細菌が、サルモネラ・チフィムリウム、アクイフェックス・エオリカス(Aquifex aeolicus)、ペスト菌(Yersinia pestis)、シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)、腸管出血性大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、及び腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
7−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−1,3−ジメチル−3,7−ジヒドロ−1H−プリン−2,6−ジオン又はその薬学的に許容される塩を含む、宿主細胞の細胞質へ
の毒素の分泌を阻害するための医薬組成物。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Aizawa, S.-I. (2001). FEMS Microbiol. Lett. 202, 157-164.Ashkenazy, H., Erez, E., Martz, E., Pupko, T., Ben-Tal, N. (2010). Nucleic Acids Res. 38, W529-W533.
【非特許文献2】Blocker, A., Komoriya, K., Aizawa, S.-I. (2003). Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 3027-3030.
【非特許文献3】Minamino, T. and Macnab, R.M. (1999). J. Bacteriol. 181, 1388-1394.
【非特許文献4】Hirano, T., Minamino, T., Namba, K., Macnab, R.M. (2003). J. Bacteriol. 185, 2485-2492.
【非特許文献5】Kutsukake, K., Minamino, T., Yokoseki, T. (1994). J. Bacteriol. 176, 7625-7629.
【非特許文献6】Hirano, T., Yamaguchi, S., Oosawa, K., Aizawa, S.-I. (1994). J. Bacteriol. 176, 5439-5449.
【非特許文献7】Williams, A., Yamaguchi, S., Togashi, F., Aizawa, S.-I., Kawagishi, I., Macnab, R.M. (1996). J. Bacteriol. 178, 2960-2970.
【非特許文献8】Minamino, T., Iino, T., Kutsukake, K. (1994). J. Bacteriol. 176, 7630-7637.
【非特許文献9】Fraser, G.M., Hirano, T., Ferris, H.U., Devgan, L.L., Kihara, M., Macnab, R.M. (2003). Mol. Microbiol. 48, 1043-1057.
【非特許文献10】Zarivach, R., Deng, W., Vuckovic, M., Felise, H.B., Nguyen, H.V., Miller, S.I., Finlay, B.B., Strynadka, N.C.J. (2008). Nature, 453, 124-127.
【非特許文献11】Minamino, T., and Macnab, R.M. (2000a). J. Bacteriol. 182, 4906-4914.
【非特許文献12】Ferris, H.U., Furukawa, Y., Minamino, T., Kroetz, M.B., Kihara, M., Namba, K., Macnab, R.M. (2005). J. Biol. Chem. 280, 41236-41242.
【非特許文献13】Minamino, T., and Macnab, R.M. (2000b). Mol. Microbiol. 35, 1052-1064.
【非特許文献14】Zhu, K., Gonzales-Pedrajo, B., Macnab, R.M. (2002). Biochemistry, 41, 9516-9524.
【非特許文献15】Minamino, T., Saijo-Hamano, Y., Furukawa, Y., Gonzales-Pedrajo, B., Macnab, R.M., Namba, K. (2004). J. Mol. Biol. 341, 491-502.
【非特許文献16】Morris, D.P., Roush, E.D., Thompson, J.W., Moseley, M.A., Murphy, J.W., McMurry, J.L. (2010). Biochemistry, 49, 6386-6393.
【非特許文献17】Ferris, H.U., Minamino, T. (2006). Trends Microbiol. 14, 519-526.
【非特許文献18】Deane, J.E., Graham, S.C., Mitchell, E.P., Flot, D., Johnson, S., Lea, S.M. (2008). Mol. Microbiol. 69, 267-276.
【非特許文献19】Wiesand, U., Sorg, I., Amstutz, M., Wagner, S., van den Heuvel, J., Luhrs, T., Cornelis, G.R., Heinz, D.W. (2009). J. Mol. Biol. 385, 854-866.
【非特許文献20】Lountos, G.T., Austin, B.P., Nallamsetty, S., Waugh, D.S. (2009). Protein Sci. 18, 467-474.
【非特許文献21】Mizuno, S., Amida, H., Kobayashi, N., Aizawa, S.-I., Tate, S.-I. (2011). J. Mol. Biol. 409, 558-573.
【非特許文献22】Veenendaal A.K.J, Sundin C., Blocker A.J. (2009). J. Bacteriol. 191(2) 563-570.
【0006】
発明の目的
ニードルTTSS由来のFlhBパラログの細胞質ドメインのいくつかの構造が公開されている(非特許文献10、及び18〜20)。しかしながら、鞭毛の分泌装置由来のFlhBに関する構造的な情報は全く入手できない。従って、本発明の目的の一つは、2つの生物:サルモネラ・チフィムリウム及びアクイフェックス・エオリカスに由来する鞭毛のFlhBの細胞質ドメインの結晶構造を明らかにすることである。
【0007】
鞭毛分泌装置のFlhB
Cと宿主細胞の細胞質への毒素の分泌のために多くの病原性細菌によって利用されるニードルIII型分泌装置のFlhB
Cとの間の構造的関係に基づき、本発明の目的はまた、FlhB
Cの構造情報を使用して病原性細菌による宿主細胞の細胞質への毒素の分泌を阻害する化合物を同定するための方法を提供することである。
【0008】
発明の要約
本発明の最も重要な所見は、FlhB
Cの球状ドメインにおける大きな非保存ループの可動性が、分泌装置全体の機能にとって必要であるということである。ループの欠失又はより可動性の低いプロリン残基へのループの突然変異は、FlhB
Cをより堅くし、そうして分泌を消失させるか又はかなり減少させる。鞭毛タンパク質とニードルタンパク質との間の類似性を考慮すると、このループは、病原菌に対する新規な薬物の創製のための有望な標的であり得、以下の本発明が完成した。
【0009】
本発明の1つの態様において、ニードルIII型分泌装置を使用する病原性細菌による宿主細胞の細胞質への毒素の分泌を阻害する化合物をスクリーニングするための方法が提供され、該方法は、
候補化合物を、サルモネラ・チフィムリウム由来の膜タンパク質FlhBのC末端細胞質ドメイン(FlhB
C)又はそのパラログのC末端細胞質ドメインと接触させる工程、
該候補化合物と、細胞質ドメインのループ領域又はその周囲との相互作用を分析する工程、及び
該ループ領域、又はFlhB若しくは該パラログの膜貫通ドメインと細胞質ドメインとを接続するリンカーの可動性を減少させる化合物を選択する工程
を含み、選択された化合物は、病原性細菌による毒素の分泌を阻害することが示される。
【0010】
好ましい実施態様において、本発明の方法における病原性細菌は、サルモネラ・チフィムリウム、アクイフェックス・エオリカス、ペスト菌、シゲラ・フレックスネリ、腸管出血性大腸菌、緑膿菌、及び腸炎ビブリオからなる群より選択される。
【0011】
特定の実施態様において、サルモネラ・チフィムリウム由来の膜タンパク質FlhBのパラログは、大腸菌由来のEscU、ペスト菌由来のYscU、サルモネラ・チフィムリウム由来のSpaS、及びシゲラ・フレックスネリ由来のSpa40である。
【0012】
他の特定の実施態様において、本発明の方法におけるFlhB又はそのパラログの細胞質ドメインのループ領域は、サルモネラ番号付けにおいて、アミノ酸残基ENKMS
281−285からなる。
【0013】
他の特定の実施態様において、本発明の方法における病原性細菌による毒素の分泌を阻害する化合物は、FlhB若しくはそのパラログの細胞質ドメインのループ領域、又はそのフランキング領域に結合することができ、該フランキング領域は、サルモネラ番号付けにおいて、保存されているアミノ酸残基Tyr279及びPro287を含む。
【0014】
他の特定の実施態様において、本発明の方法における、該化合物と、FlhB若しくはそのパラログの細胞質ドメインのループ領域又はその周辺との相互作用は、該化合物が、サルモネラ・チフィムリウム由来の膜タンパク質FlhB及びそのΔ(281−285)突然変異タンパク質に異なって(differentially)結合するか否かで決定される。
【0015】
他の特定の実施態様において、本発明の方法における病原性細菌による毒素の分泌を阻害する化合物は、抗体若しくはそのフラグメント、アプタマー又は低分子化合物である。
【0016】
本発明の別の態様において、ニードルIII型分泌装置を使用する病原性細菌による宿主細胞の細胞質への毒素の分泌を阻害する化合物をスクリーニングするための方法が提供され、該方法は、
i)サルモネラ・チフィムリウム由来の膜タンパク質FlhB又はそのパラログと、FlhB又は該パラログの細胞質ドメインのループ領域と該候補化合物との間の水素結合により、相互作用することのできる候補化合物を選択する工程、
ii)該候補化合物を、鞭毛及びニードルIII型分泌装置を有する細菌と接触させる工程、及び
iii)細菌からのタンパク質の分泌及び/又は細菌の鞭毛による運動性を減少させる化合物を選択する工程
を含み、選択された化合物は、病原性細菌による毒素の分泌を阻害することが示される。
【0017】
1つの実施態様において、本発明の方法における、FlhB膜タンパク質又はそのパラログの細胞質ドメインのループ領域と、該候補化合物との間の水素結合は、サルモネラ番号付けにおけるアミノ酸残基ENKMS
281−285の少なくとも1つの側鎖を介して形成される。
【0018】
本発明の別の態様において、本発明の方法によって同定された化合物が提供される。
【0019】
本発明の別の態様において、同定された本発明の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、宿主細胞の細胞質への毒素の分泌を阻害するための医薬組成物が提供される。
【0020】
1つの実施態様において、本発明の医薬組成物の化合物は、
7−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−1,3−ジメチル−3,7−ジヒドロ−1H−プリン−2,6−ジオン、
5−(3,4,5−トリメトキシベンジル)ピリミジン−2,4−ジアミン、
及びその薬学的に許容される塩
の群から選択される。
【0021】
本発明の別の態様において、ニードルIII型分泌装置を使用する病原性細菌によって引き起こされた疾患を処置する方法、該方法は、
該細菌を、本発明の医薬組成物と接触させること、及び
病原性細菌による毒素の分泌を阻害すること
を含む。
【0022】
本発明の別の態様において、ニードルIII型分泌装置を使用する病原性細菌による宿主細胞の細胞質への毒素の分泌を阻害するための方法が提供され、該方法は、
該細菌を本発明の医薬組成物と接触させること、及び
病原性細菌による毒素の分泌を阻害すること
を含む。
【0023】
本発明の別の態様において、宿主細胞の細胞質への毒素の分泌を阻害するための本発明の組成物の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1a】サルモネラFlhB
Cの結晶における分子のパッキング。(a)非対称分子及び対称の分子が、それぞれ、緑色及び灰色で提示されている。ナトリウムイオンが赤紫色の球体として示され、亜鉛イオンが青色の球体として示されている。(b)亜鉛結合部位の回転させた拡大図(
図1aにおける黒色のボックス)。Fo−Fc電子密度図が、5σの等高線レベルで灰色で提示され、Zn原子を含まずに計算された。
【
図1b】サルモネラFlhB
Cの結晶における分子のパッキング。(a)非対称分子及び対称の分子が、それぞれ、緑色及び灰色で提示されている。ナトリウムイオンが赤紫色の球体として示され、亜鉛イオンが青色の球体として示されている。(b)亜鉛結合部位の回転させた拡大図(
図1aにおける黒色のボックス)。Fo−Fc電子密度図が、5σの等高線レベルで灰色で提示され、Zn原子を含まずに計算された。
【
図2a】鞭毛FlhB
Cの構造。(a)サルモネラ及びアクイフェックスFlhB
Cの結晶構造のリボン表示。(b)サルモネラFlhB
Cの表面上にマッピングされた静電気ポテンシャル。静電気は、APBSソフトウェア(Baker, N.A., Sept, D., Joseph, S., Holst, M.J., McCammon, J.A. (2001). Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 10037-10041)を使用して計算され、±5kT/eでプロットされた。(c)進化的に保存されているFlhB
Cの残基。図は、ConSurf(http://consurf.tau.ac.il/) (Ashkenazy et al., 2010)を用いて準備された。残基は、200個の異なるFlhBタンパク質のアミノ酸配列における保存に従って着色されている。矢印は、β1とβ2との間の自己切断部位の位置を記す。
【
図2b】鞭毛FlhB
Cの構造。(a)サルモネラ及びアクイフェックスFlhB
Cの結晶構造のリボン表示。(b)サルモネラFlhB
Cの表面上にマッピングされた静電気ポテンシャル。静電気は、APBSソフトウェア(Baker, N.A., Sept, D., Joseph, S., Holst, M.J., McCammon, J.A. (2001). Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 10037-10041)を使用して計算され、±5kT/eでプロットされた。(c)進化的に保存されているFlhB
Cの残基。図は、ConSurf(http://consurf.tau.ac.il/) (Ashkenazy et al., 2010)を用いて準備された。残基は、200個の異なるFlhBタンパク質のアミノ酸配列における保存に従って着色されている。矢印は、β1とβ2との間の自己切断部位の位置を記す。
【
図2c】鞭毛FlhB
Cの構造。(a)サルモネラ及びアクイフェックスFlhB
Cの結晶構造のリボン表示。(b)サルモネラFlhB
Cの表面上にマッピングされた静電気ポテンシャル。静電気は、APBSソフトウェア(Baker, N.A., Sept, D., Joseph, S., Holst, M.J., McCammon, J.A. (2001). Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 10037-10041)を使用して計算され、±5kT/eでプロットされた。(c)進化的に保存されているFlhB
Cの残基。図は、ConSurf(http://consurf.tau.ac.il/) (Ashkenazy et al., 2010)を用いて準備された。残基は、200個の異なるFlhBタンパク質のアミノ酸配列における保存に従って着色されている。矢印は、β1とβ2との間の自己切断部位の位置を記す。
【
図3a】鞭毛FlhB
C及びそのニードルIII型分泌装置由来のパラログの比較。サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhB
C(Sal FlhB
C)(スイスプロットアクセッション番号P40727)と、アクイフェックス・エオリカス由来のFlhB
C(Aqu FlhB
C)(O67813)、大腸菌由来のEscUC(Q7DB59)、ペスト菌由来のYscUC(P69986)、チフス菌由来のSpaSC(P40702)、及びシゲラ・フレックスネリ由来のSpa40C(Q6XVW1)の多重配列アラインメント。同一残基は赤色でボックスで囲まれており;類似残基は赤色に着色されている。アラインメントは、Clustal W(Larkin, M.A., Blackshields, G., Brown, N.P., Chenna, R., McGettigan, P.A., McWilliam, H., Valentin, F., Wallace, I.M., Wilm, A., Lopez, R., Thompson, J.D., Gibson, T.J., Higgins, D.G. (2007). Bioinformatics, 23, 2947-2948; Goujon, M., McWilliam, H., Li, W., Valentin, F., Squizzato, S., Paern, J., Lopez, R. (2010). Nucleic Acids Res. 38, W695-699)を用いて実施された。(b)サルモネラFlhB
C(青色)(PDB ID:3B0Z)、アクイフェックスFlhB
C(赤色)(PDB ID:3B1S)、EscUC(オレンジ色)(PDB ID:3BZO)、YscUC(灰色)(PDB ID:2JLI)、SpaSC(緑色)(PDB ID:3C01)、及びSpa40C(紫色)(PDB ID:2VT1)の重ね合わせのステレオ図。
【
図3b】鞭毛FlhB
C及びそのニードルIII型分泌装置由来のパラログの比較。サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhB
C(Sal FlhB
C)(スイスプロットアクセッション番号P40727)と、アクイフェックス・エオリカス由来のFlhB
C(Aqu FlhB
C)(O67813)、大腸菌由来のEscUC(Q7DB59)、ペスト菌由来のYscUC(P69986)、チフス菌由来のSpaSC(P40702)、及びシゲラ・フレックスネリ由来のSpa40C(Q6XVW1)の多重配列アラインメント。同一残基は赤色でボックスで囲まれており;類似残基は赤色に着色されている。アラインメントは、Clustal W(Larkin, M.A., Blackshields, G., Brown, N.P., Chenna, R., McGettigan, P.A., McWilliam, H., Valentin, F., Wallace, I.M., Wilm, A., Lopez, R., Thompson, J.D., Gibson, T.J., Higgins, D.G. (2007). Bioinformatics, 23, 2947-2948; Goujon, M., McWilliam, H., Li, W., Valentin, F., Squizzato, S., Paern, J., Lopez, R. (2010). Nucleic Acids Res. 38, W695-699)を用いて実施された。(b)サルモネラFlhB
C(青色)(PDB ID:3B0Z)、アクイフェックスFlhB
C(赤色)(PDB ID:3B1S)、EscUC(オレンジ色)(PDB ID:3BZO)、YscUC(灰色)(PDB ID:2JLI)、SpaSC(緑色)(PDB ID:3C01)、及びSpa40C(紫色)(PDB ID:2VT1)の重ね合わせのステレオ図。
【
図4a】タンパク質の機能に対する、サルモネラFlhBの領域ENKMS281−285の突然変異の効果。(a)サルモネラFlhB
Cのリボン表示;該領域は黒色である。(b)ΔflhBサルモネラMLM50株を補完する、改変されたENKMS領域を有するFlhB変異体の能力。運動性は、303Kで5時間、半固体寒天プレート上で実施された。FlhB産物は、1)なし、空ベクター、2)野生型FlhB、3)FlhBΔ(281−285)、4)FlhB AAAAA
281−285、及び5)FlhB PPPPP
281−285であった。(c)種々のFlhB変異体を産生しているMKM50サルモネラ株に由来する完全細胞及び培養上清画分に対する、抗FlgE抗体及び抗FliC抗体を使用したイムノブロット。
【
図4b】タンパク質の機能に対する、サルモネラFlhBの領域ENKMS281−285の突然変異の効果。(a)サルモネラFlhB
Cのリボン表示;該領域は黒色である。(b)ΔflhBサルモネラMLM50株を補完する、改変されたENKMS領域を有するFlhB変異体の能力。運動性は、303Kで5時間、半固体寒天プレート上で実施された。FlhB産物は、1)なし、空ベクター、2)野生型FlhB、3)FlhBΔ(281−285)、4)FlhB AAAAA
281−285、及び5)FlhB PPPPP
281−285であった。(c)種々のFlhB変異体を産生しているMKM50サルモネラ株に由来する完全細胞及び培養上清画分に対する、抗FlgE抗体及び抗FliC抗体を使用したイムノブロット。
【
図4c】タンパク質の機能に対する、サルモネラFlhBの領域ENKMS281−285の突然変異の効果。(a)サルモネラFlhB
Cのリボン表示;該領域は黒色である。(b)ΔflhBサルモネラMLM50株を補完する、改変されたENKMS領域を有するFlhB変異体の能力。運動性は、303Kで5時間、半固体寒天プレート上で実施された。FlhB産物は、1)なし、空ベクター、2)野生型FlhB、3)FlhBΔ(281−285)、4)FlhB AAAAA
281−285、及び5)FlhB PPPPP
281−285であった。(c)種々のFlhB変異体を産生しているMKM50サルモネラ株に由来する完全細胞及び培養上清画分に対する、抗FlgE抗体及び抗FliC抗体を使用したイムノブロット。
【
図5a】分子動力学(MD)シミュレーションで観察されたサルモネラFlhB
CのN末端αヘリックスの可動性。(a)表2のMD分析に使用された重要な残基及びベクトル。残基229−238、238−256、256−264、265−269及び238−264を接続しているベクトルは、それぞれV1−V5と定義される。(b−e)(b)野生型FlhB
C、(c)FlhB
CΔ(281−285)、(d)FlhB
CAAAAA
281−285、及び(e)FlhB
CPPPPP
281−285について球状ドメインを重ね合わせた場合のMDの最中のN末端αヘリックスの構造変化。各場合について、D、θ14及びχ5の最大値及び最小値に基づいて6つのスナップ写真を選択した(その定義については表2参照)。
【
図5b】分子動力学(MD)シミュレーションで観察されたサルモネラFlhB
CのN末端αヘリックスの可動性。(a)表2のMD分析に使用された重要な残基及びベクトル。残基229−238、238−256、256−264、265−269及び238−264を接続しているベクトルは、それぞれV1−V5と定義される。(b−e)(b)野生型FlhB
C、(c)FlhB
CΔ(281−285)、(d)FlhB
CAAAAA
281−285、及び(e)FlhB
CPPPPP
281−285について球状ドメインを重ね合わせた場合のMDの最中のN末端αヘリックスの構造変化。各場合について、D、θ14及びχ5の最大値及び最小値に基づいて6つのスナップ写真を選択した(その定義については表2参照)。
【
図5c】分子動力学(MD)シミュレーションで観察されたサルモネラFlhB
CのN末端αヘリックスの可動性。(a)表2のMD分析に使用された重要な残基及びベクトル。残基229−238、238−256、256−264、265−269及び238−264を接続しているベクトルは、それぞれV1−V5と定義される。(b−e)(b)野生型FlhB
C、(c)FlhB
CΔ(281−285)、(d)FlhB
CAAAAA
281−285、及び(e)FlhB
CPPPPP
281−285について球状ドメインを重ね合わせた場合のMDの最中のN末端αヘリックスの構造変化。各場合について、D、θ14及びχ5の最大値及び最小値に基づいて6つのスナップ写真を選択した(その定義については表2参照)。
【
図5d】分子動力学(MD)シミュレーションで観察されたサルモネラFlhB
CのN末端αヘリックスの可動性。(a)表2のMD分析に使用された重要な残基及びベクトル。残基229−238、238−256、256−264、265−269及び238−264を接続しているベクトルは、それぞれV1−V5と定義される。(b−e)(b)野生型FlhB
C、(c)FlhB
CΔ(281−285)、(d)FlhB
CAAAAA
281−285、及び(e)FlhB
CPPPPP
281−285について球状ドメインを重ね合わせた場合のMDの最中のN末端αヘリックスの構造変化。各場合について、D、θ14及びχ5の最大値及び最小値に基づいて6つのスナップ写真を選択した(その定義については表2参照)。
【
図5e】分子動力学(MD)シミュレーションで観察されたサルモネラFlhB
CのN末端αヘリックスの可動性。(a)表2のMD分析に使用された重要な残基及びベクトル。残基229−238、238−256、256−264、265−269及び238−264を接続しているベクトルは、それぞれV1−V5と定義される。(b−e)(b)野生型FlhB
C、(c)FlhB
CΔ(281−285)、(d)FlhB
CAAAAA
281−285、及び(e)FlhB
CPPPPP
281−285について球状ドメインを重ね合わせた場合のMDの最中のN末端αヘリックスの構造変化。各場合について、D、θ14及びχ5の最大値及び最小値に基づいて6つのスナップ写真を選択した(その定義については表2参照)。
【
図6】候補化合物の存在下における細菌増殖。縦軸は、600nmにおける光学密度(OD600)を示す。横軸は、測定された時点を示す(2、4、6、8及び10時間後)。
【
図7a】FlgD分泌に対する、スクリーニングされた化合物の阻害効果。(a)及び(b)スクリーニングされた化合物と共に8時間インキュベートされたサルモネラ・チフィムリウムSJW1103株の懸濁液のウェスタンブロット。
【
図7b】FlgD分泌に対する、スクリーニングされた化合物の阻害効果。(a)及び(b)スクリーニングされた化合物と共に8時間インキュベートされたサルモネラ・チフィムリウムSJW1103株の懸濁液のウェスタンブロット。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明をより詳細に以下に記載する前に、本明細書に記載の特定の方法、プロトコール及び試薬は変更され得るので、本発明はこれに限定されないことが理解されるべきである。また、本明細書に使用された用語は、特定の実施態様を記載する目的のためだけのものであり、本発明の範囲を限定する意図はなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが理解されるべきである。特記しない限り、本明細書に使用された全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の目的のために、本明細書に引用された全ての参考文献のその全体が参照により組み入れられる。
【0026】
本明細書に使用される「FlhB
C」という用語は、鞭毛のIII型分泌装置の不可欠な膜タンパク質であるFlhBのC末端細胞質ドメインを指す。本発明の文脈においては、サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhBが好ましい。サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhB及びそのFlhB
Cは、例えば、非特許文献11に記載されている。サルモネラ・チフィムリウムのFlhBのアミノ酸配列の典型例が、スイスプロットアクセッション番号P40727(配列番号1)に提供されている。本発明の目的のために、「FlhB」という用語はまた、サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhBの変異体がその生理学的活性及びその結晶化特性を維持する限り、サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhBの変異体も指す。このような変異体のアミノ酸配列は、配列番号1に対して少なくとも80%、90%又は95%同一であるアミノ酸配列を有し得る。FlhB
Cのアミノ酸配列は、上記に定義されたFlhBから容易に決定される。好ましくは、FlhB
Cのアミノ酸配列は、配列番号1の219位から383位のアミノ酸又はその変異体である。
【0027】
サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhBのパラログもまた、本発明に包含される。より具体的には、該パラログは、アクイフェックス・エオリカス由来のFlhB(典型的なアミノ酸配列は、スイスプロットアクセッション番号O67813(配列番号2)に提供されている)、大腸菌由来のEscU(典型的なアミノ酸配列はスイスプロットアクセッション番号Q7DB59(配列番号3)に提供されている)、ペスト菌由来のYscU(典型的なアミノ酸配列はスイスプロットアクセッション番号P69986(配列番号4)に提供されている)、サルモネラ・チフィムリウム由来のSpas(典型的なアミノ酸配列は、スイスプロットアクセッション番号P40702(配列番号5)に提供されている)、及びシゲラ・フレックスネリ由来のSpa40(典型的なアミノ酸配列はスイスプロットアクセッション番号Q6XVW1(配列番号6)に提供されている)が挙げられるがこれらに限定されない。パラログの細胞質ドメインは、このようなパラログの完全長アミノ酸配列から容易に決定される。
【0028】
本明細書において使用される「病原性細菌」という用語は、ニードルIII型分泌装置を有する任意の細菌を指す。このような細菌は、AB毒素をはじめとする毒素を分泌し得る。病原性細菌の例としては、サルモネラ・チフィムリウム、アクイフェックス・エオリカス、ペスト菌、シゲラ・フレックスネリ、腸管出血性大腸菌、緑膿菌、及び腸炎ビブリオが挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
本発明のFlhB
C又はそのパラログのループ領域は、FlhB
C又はそのパラログにおけるβ2ストランドとβ3ストランドとを接続している長い可動性のループを構成する、連続アミノ酸残基を指す。ループの長さは、2つのβストランドを単に接続するのに必要な長さよりも長い。このループ領域は、FlhB
C又はそのパラログの結晶から得られた構造情報を使用して決定され得る。これに関して、例示的な結晶は、P4
22
12空間群及びC2群にそれぞれ属する、サルモネラ・チフィムリウムのFlhB
Cから結晶化されたもの、並びに、FlhB
Cアクイフェックス・エオリカスから結晶化されたものである。このような結晶の結晶情報は表1及び2に示されている。上記の結晶から得られた構造情報の原子座標及び構造因子は、PDBに、サルモネラ・チフィムリウム及びアクイフェックス・エオリカスについてそれぞれアクセッションコード3B0Z及び3B1Sで寄託されている。好ましいループ領域は、サルモネラ番号付けのアミノ酸残基ENKMS
281−285からなる。
【0030】
本発明のFlhB
C又はそのパラログのループ領域は、FlhB
C又はそのパラログのN末端αヘリックスの可動性に影響を及ぼし得る。FlhB
C又はそのパラログの「可動性」は、当技術分野において公知の任意の方法によって決定され得る。1つの実施態様において、FlhB
C又はそのパラログの可動性は、本明細書の以下の実施例に開示されているように、FlhB
C又はそのパラログの構造情報を使用して、分子動力学シミュレーション(MDS)によって決定され得る。別の実施態様において、FlhB
C又はそのパラログの可動性の変化は、実施例に開示されているような分泌アッセイ又は運動性アッセイによって調べられ得る。分泌アッセイにおける細菌の分泌活性の減少は、FlhB
Cの可動性の減少を示す。同様に運動性アッセイにおいて、細菌の運動活性の減少は、FlhB
Cの可動性の減少を示す。
【0031】
本明細書において使用されるループ領域の「フランキング領域」という用語は、ループ領域のN末端又はC末端にフランキングしたいくつかのアミノ酸配列を含む領域を指す。フランキング領域の長さは、1〜20、好ましくは2〜15、より好ましくは5〜10アミノ酸長であり得る。好ましくは、フランキング領域は、サルモネラ番号付けにおける、保存されているアミノ酸残基Tyr279及びPro287を含む。
【0032】
上記に示されているように、本発明は、ニードルIII型分泌装置を使用する病原性細菌による宿主細胞の細胞質への毒素の分泌を阻害する化合物をスクリーニングするための方法を提供し、該方法は、
候補化合物を、サルモネラ・チフィムリウム由来の膜タンパク質FlhB又はそのパラログのC末端細胞質ドメイン(FlhB
C)と接触させる工程、
該候補化合物と、細胞質ドメイン(FlhB
C)のループ領域又はその周辺との相互作用を分析する工程、
該ループ領域、又はFlhBの膜貫通ドメインと細胞質ドメインとを接続するリンカーの可動性を減少させる化合物を選択する工程
を含み、選択された化合物は、病原性細菌による毒素の分泌を阻害することが示される。
【0033】
候補化合物をFlhB
C又はそのパラログと接触させるために、候補化合物及びFlhB
C又はそのパラログを同じ場所に存在させることを可能とする、当技術分野において公知の任意の技術を使用することができる。候補化合物を、固体中で、溶液中で、又は大気中でFlhB
Cと接触させることができる。接触工程はまた、本明細書において以下に詳細に記載されているようにインシリコで(in silico)実施されてもよい。
【0034】
候補化合物と、FlhB
C若しくはそのパラログのループ領域又はその周辺との相互作用を分析するために。本発明に従って、候補化合物とFlhB
C又はそのパラログとの間の相互作用のしかたの決定を可能とする当技術分野において公知の任意の技術を使用することができる。このような技術としては、Biacoreなどの表面プラズモン共鳴、等温滴定熱量測定(ITC)、及び蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が挙げられるがこれらに限定されない。接触工程はまた、本明細書において以下に詳細に記載されているようにインシリコで実施されてもよい。
【0035】
ループ領域、又はFlhBの膜貫通ドメインと細胞質ドメインとを接続するリンカーの可動性を減少させる化合物を選択するために、FlhB
Cの可動性の決定を可能とする当技術分野において公知の任意の技術を使用することができる。実施例に開示されたMDSアッセイ、分泌アッセイ、及び運動性アッセイをこの工程のために使用することができる。
【0036】
本発明の方法の各工程について、本明細書において開示されたFlhB
Cの構造情報を使用する、当技術分野において公知のインシリコ技術も使用することもできる。例えば、コンピューターモデリングを、GRAM、DOCK、HOOK、又はAUTODOCKなどのドッキングプログラムを使用して実施することができる(Dunbrack, et al. (1997) Folding & Design 2:27-42)。あるいは、GRID(Molecular Discovery Ltd., UK)ソフトウェアパッケージを使用して、化学プローブアプローチを実施することができる。これらの技術は、FlhB
C若しくはそのパラログのループ領域又はその周辺との強い親和性を有する化合物のシミュレーションを可能とする。
【0037】
あるいは、フラグメントベースドリードディスカバリー(FBLD)法(Rees D.C., Congreve M., Murray C.W., Carr R. (2004). Nature Reviews Drug Discovery 3, 660-672)を、本発明のためのインシリコ技術として使用することができる。この方法は、市販されている化合物の「フラグメント情報」及び目的のタンパク質の構造情報を使用した、コンピュータースクリーニング法である。この方法で主に考慮される力は、水素結合であり得る。FBLD法の詳細は、本明細書の以下の実施例に説明されるだろう。
【0038】
本発明においてスクリーニングしようとする候補化合物は、任意の化学実体(chemicalentity)であり得る。候補化合物としては、抗体、そのフラグメント、アプタマー及び低分子化合物が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0039】
上記のスクリーニング法によって同定された化合物も、本発明に包含される。選択された市販されている化合物の例が、以下の表に列挙されている:
【0040】
【表1】
【0041】
同定された化合物は、医薬組成物へと製剤化され得る。
【0042】
医薬組成物の生産は、同定された化合物及び/又はその薬学的に許容される塩を、場合により他の治療上価値ある物質と組み合わせて、適切な無毒性で不活性の治療上適合する固体又は液体の担体材料、及び所望であれば、通常の薬学的アジュバントと一緒に、ガレノス投与剤形とすることにより、当業者によく知られた方法で行なわれ得る。
【0043】
適切な担体材料は、無機担体材料だけでなく、また有機担体材料でもある。従って、例えば、乳糖、コーンスターチ又はその誘導体、タルク、ステアリン酸又はその塩は、錠剤、コーティング錠、糖衣錠、及び硬ゼラチンカプセル剤のための担体材料として使用され得る。軟ゼラチンカプセル剤に適した担体材料は、例えば、植物油、ワックス、脂肪、並びに半固体及び液体のポリオールである(しかしながら、活性成分の性質次第では、軟ゼラチンカプセル剤の場合には担体が必要とされない事もあり得る)。液剤及びシロップ剤の製造のための適切な担体材料は、例えば、水、ポリオール、スクロース、転化糖などである。注射液のための適切な担体材料は、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセロール及び植物油である。坐剤のための適切な担体材料は、例えば、天然油又は硬化油、ワックス、脂肪、及び半液体又は液体のポリオールである。局所製剤のための適切な担体材料は、グリセリド、半合成及び合成グリセリド、水素添加油、液体ワックス、流動パラフィン、液体脂肪族アルコール、ステロール、ポリエチレングリコール、及びセルロース誘導体である。
【0044】
通常の安定化剤、保存剤、湿潤剤及び乳化剤、粘度改善剤、芳香改善剤、浸透圧を変化させるための塩、緩衝物質、可溶化剤、着色剤及びマスキング剤、並びに抗酸化剤が、薬学的アジュバントとして考慮される。
【0045】
投与量は、幅広い範囲内で変化し得、勿論、各々の特定の症例において個々の必要条件に合わせられる。一般的に、経口投与の場合、1人あたり同定された化合物約10〜1000mgの1日投与量が適切であるが、上記の上限は必要であれば超えてもよい。
【0046】
同定された化合物又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物は、ニードルIII型分泌装置を使用する病原性細菌によって引き起こされた疾患を治療又は予防するために使用され得る。該疾患としては、胃痛、下痢、悪心、嘔吐及び痙攣が挙げられ得るがこれらに限定されない。医薬組成物はまた、病原性細菌による宿主細胞の細胞質への毒素の分泌を阻害するために使用され得る。
【0047】
治療又は予防は、典型的には、処置の必要な被験体に、本発明のスクリーニング法において同定された化合物の有効量を含む医薬組成物を投与することを含む。大半の場合において、これはヒトであるが、農業用動物、例えば家畜及び家禽、並びにコンパニオン・アニマル、例えばイヌ、ネコ及びウマの治療も、本明細書において明示的に包含されている。化合物の投与量又は有効量の選択は、処置される疾患の少なくとも1つの兆候又は症状を予防、低減又は逆転するという望ましい転帰を有するものである。
【0048】
本発明は、以下の非制限的な実施例によってより詳細に記載される。
【0049】
実施例
実施例1:材料及び方法
1.1. 構造の決定
サルモネラ及びアクイフェックスFlhB
Cの精製、結晶化及びデータ収集の詳細は記載された(Meshcheryakov, V.A. and Samatey, F.A. (2011). Acta Cryst. F67, 808-811; Meshcheryakov, V.A., Yoon, Y.-H. and Samatey, F.A. (2011). Acta Cryst. F67, 280-282)。両方の構造が、プログラムSHELXD(Sheldrick, G.M. (2008). Acta Cryst. A64, 112-122)を使用して多波長異常分散(MAD)法によって解析された。初期タンパク質モデルは、CCP4パッケージ(Winn, M.D., Ballard, C.C., Cowtan, K.D., Dodson, E.J., Emsley, P., Evans, P.R., Keegan, R.M., Krissinel, E.B., Leslie, A.G.W., McCoy, A., McNicholas, S.J., Murshudov, G.N., Pannu, N.S., Potterton, E.A., Powell, H.R., Read, R.J., Vagin, A., Wilson, K.S. (2011) Acta Cryst. D67, 235-242)のBuccaneer(Cowtan, K. (2006). Acta Cryst. D62, 1002-1011)を用いて自動的に構築された。モデルは、Refmac5を用いての精密化(Murshudov, G.N., Skubak, P., Lebedev, A.A., Pannu, N.S., Steiner, R.A., Nicholls, R.A., Winn, M.D., Long, F., Vagin, A.A. (2011) Acta Cryst. D67, 355-367)及びCOOTでのマニュアルモデル構築(Emsley, P., Lohkamp, B., Scott, W.G., Cowtan, K. (2010). Acta Cryst. D66, 486-501)の反復組合せを通して精密化された。サルモネラFlhB
Cの場合、TLS精密化は、1つのFlhB
C分子につき2つのTLSグループを用いて最終段階で実施された(残基229−269及び270−353)(Painter, J. and Merritt, E.A. (2006) Acta Cryst. D62, 439-450)。構造図はPyMOL(http://www.pymol.org)で作成した。
【0050】
1.2. DNA操作及び運動性アッセイ
プラスミドpMM26によって担持されるサルモネラ・チフィムリウムflhBの突然変異は(非特許文献11)、以前に記載されているように実施された(Wang, W., Malcolm, B.A. (1999). BioTechniques, 26, 680-682)。運動性アッセイのために、新しく形質転換されたサルモネラ細胞を、0.35%(w/v)寒天を含有する軟トリプトン寒天に直接コロニーとして接種し、303Kでインキュベートした。
【0051】
1.3. 完全細胞及び培養上清画分の調製、並びにイムノブロット
適切なプラスミドを担持するサルモネラ細胞MKM50(ΔflhB株)(非特許文献9)を、光学密度OD600が1.4〜1.5に到達するまで、100μg/mlのアンピシリンを含有するLB培地中で310Kでインキュベートした。一定量の細胞を含有する培養液のアリコートを遠心分離にかけた。細胞ペレットを、等容量のSDSローディング緩衝液に懸濁した。培養上清中のタンパク質を、10%トリクロロ酢酸によって沈殿させ、SDSローディング緩衝液中に懸濁した。SDS−PAGE後、タンパク質を、抗FlgE抗体及び抗FliC抗体を用いて、WesternBreeze(登録商標)発色免疫検出キット(Invitrogen)を使用して検出した。
【0052】
1.4. 分子動力学シミュレーション
分子動力学(MD)シミュレーションを、SCUBA(Simulation Codes for hUge Biomolecular Assembly)プログラムパッケージ(Ishida, H., Higuchi, M., Yonetani, Y., Kano, T., Joti, Y., Kitao, A., Go, N. (2006). Annual Report of the Earth Simulator Center, 237-239)を使用して実施した。AMBER ff99SB力場(Hornak, V., Abel, R., Okur, A., Strockbine, B., Roitberg, A., Simmerling, C. (2006) Proteins: Structure, Function and Bioinformatics, 65, 712-725)をタンパク質用に使用した。シミュレーションされる系は、初期段階で、FlhB
C分子から少なくとも12Å離れた周期的境界において、100mM KClを含むSPC/E水分子(Berendsen, H. J.C., Grigera, J.R., Straatsma, T.P. (1987). J. Phys. Chem. 91, 6269-6271)を用いて溶媒和された。エネルギー最小化及び0.27ナノ秒のMDシミュレーションにより、系の温度及び圧力を位置拘束して300K及び1気圧に調整した後、40ナノ秒のMDシミュレーションを、拘束なしにカノニカル分布で実施した。最後の20ナノ秒の軌道は分析のために使用した。実空間非結合エネルギーのシフトフォース(shifted-force)のカットオフ距離は12Åに設定され、粒子-粒子・粒子-格子(particle-particle-particle-mesh) (PPPM)法(Deserno, M., Holm, C. (1998). J. Chem. Phys. 109, 7678-7693)が、フーリエ空間における静電気エネルギー計算のために使用された。運動方程式の積分が、カノニカル分布でのマルチ時間ステップ法XORESPA(Martyna, G.J., Tuckerman, M.E., Tobias, D.J., Klein, M.L. (1996). Mol. Phys. 87, 1117-1157)を使用して実施された。速いエネルギー項(結合及び角度)、中程度のエネルギー項(ねじれ及び実空間非結合)並びに遅いエネルギー項(フーリエ空間非結合)の積分は、それぞれ0.5、1.0及び2.0フェムト秒毎に実施された。
【0053】
1.5. アクセッション番号
原子座標及び構造因子が、PDBに、サルモネラ及びアクイフェックスFlhB
Cについて、それぞれアクセッションコード3B0Z及び3B1Sで登録されている。ここに報告された構造は、インタラクティブ3Dでhttp://Proteopedia.Org/w/Samateyで説明されている。
【0054】
結果
実施例2:鞭毛FlhB
C構造の記載
サルモネラ(Sal FlhB
C)及びアクイフェックス(Aqu FlhB
C)FlhB
Cの構造を、セレノメチオニン誘導体を使用して多波長異常分散(MAD)法によって解いた(Meshcheryakov et al., 2011; Meshcheryakov and Samatey, 2011)(表1)。
【0055】
【表2】
【0056】
Sal FlhB
C及びAqu FlhB
C結晶は、異なる空間群、それぞれ、P42212及びC2に属していた。Aqu FlhB
C結晶の場合、非対称単位中に3つのタンパク質分子が存在した。非対称単位中の3つの分子は非常に類似し、ペアワイズな重ね合わせについてのRMSDは0.40〜0.76Åの範囲であった。各分子は、Asn263の後のタンパク質分解的切断から生じた2つのポリペプチド鎖から構成されていた。全ての分子について、N末端の残基213−231に電子密度は見られず;分子によっては、C末端の2〜6残基は構造が欠如していた(disordered)。
【0057】
Sal FlhB
Cの場合、最終モデルは、結晶化タンパク質の219−383の中の残基229−353を含んでおり、Asn269の後に切断があった。残基219−228及び354−383について電子密度は見られなかった。サルモネラFlhB
Cのモデルは、2つのZnイオン及び2つのNaイオンを含んでいた(
図1a)。これらの原子は全て、結晶格子における分子間相互作用を媒介していた。Zn
2+を結晶化溶液に加えたが、これは十分に回折する結晶を得るために必要であった。結晶学的パッキングの分析は、亜鉛イオンの1つが、3つの対称なSalFhB
C分子に由来する3つのグルタミン酸残基:Glu230、Glu258及びGlu307に配位していたことを示した(
図1b)。この相互作用は、サルモネラFlhB
Cの最も可動性が高い部分の1つであるN末端ヘリックスα1を(以下参照)、2つの対称分子間に固定させる。
【0058】
サルモネラ及びアクイフェックスFlhB
C構造の両方が、非常に類似した折り畳みを示し、102個のCα原子についてのRMSDは1.03Åであった(
図2a)。鞭毛FlhB
Cは、4本のα−ヘリックスによって囲まれた、4本鎖β−シート1つから構成された、球状ドメインからなっていた。球状ドメインに先行して、FlhBの細胞質球状部分を膜貫通ドメインに接続する長いN末端α−ヘリックス(α1)が存在していた。α1ヘリックスは、サルモネラ及びアクイフェックスFlhB
C結晶の両方において結晶コンタクトに関与し、これは、球状ドメインに対するその配向に影響を及ぼし得る。しかしながら、これらの結晶コンタクトは異なっていた。Sal FlhB
C結晶では、α1は、主に、隣接する分子のα1及びα2に接触していたが、Aqu FlhB
C結晶では、α1は、主に、α4、及びβ1とβ2との間の切断部位と接触していた。
【0059】
Sal FlhB
CとAqu FlhB
Cの間の主な差異は、N末端領域である。Sal FlhB
Cのモデルでは、ヘリックスα1がより長く、かつ、よく保存されている残基Gly236において屈曲(kink)を有していた。しかしながら、Aqu FlhB
Cにおいては、結晶化タンパク質には構造が欠如したセグメント213−231に2残基だけ入り込んだ位置に高度に保存されているGly230が存在するのにもかかわらず、モデルには欠けているので、Aqu FlhB
Cに屈曲を有するより長いヘリックスが存在する可能性が排除されたわけではない。屈曲は結晶パッキングに起因し得るが、本発明者らのデータは、この保存されているグリシン残基の周辺でのリンカーが可動性である可能性を示した。このような可動性の重要性は、ニードルTTSSのFlhBパラログであるEscUについて以前に示されている。EscUにおけるGly229(SalFlhBのGly236に相当する)からより可動性の低いプロリンへの突然変異は、分泌を完全に消失させた(非特許文献10)。
【0060】
保存されているNPTH自己切断部位は、ストランドβ1とストランドβ2の間の表面上に露出していた。サルモネラ及びアクイフェックスFlhB
Cの両方が、PTH領域の異なるコンフォメーションを示し、これはその可動性を示唆した。これは、ニードルパラログとは非常に異なっていた。全ての公知のパラログ構造において、PTH領域は同じ配向を有し、そしてこれは周辺の残基との接触によって安定化されている(非特許文献10;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20)。鞭毛FlhB
CにおけるPTH部位のより大きな可動性が、何らかの機能的な意味を有するかどうかを述べることはさしあたり困難であった。Sal FlhB
Cにおいては、PTH領域は、球状ドメイン中の隣接残基及びリンカーα−ヘリックスのC末端部分と一緒に、正に荷電した溝状構造を形成していた(
図2b)。類似の正に荷電した溝状構造がAqu FlhB
Cにも存在していた。このような溝状構造は、鞭毛分泌装置によって分泌されるタンパク質の認識部位である可能性があり得る。FlhBの自己切断は、III型分泌装置の他の構成部分のための相互作用部位を作ると示唆されている(非特許文献10;非特許文献18)。特に、FlhBの切断されたNPTHループへのFliKの結合を記述したモデルが存在する(非特許文献21)。しかしながら、FlhBタンパク質の最もよく保存されている部分の1つであったリンカーヘリックス(
図2c)もまた、分泌タンパク質の認識に関与しているかもしれない。なぜなら、FlhBのこの領域における欠失又は点突然変異は、分泌を完全に遮断するからである(非特許文献9;非特許文献10)。
【0061】
実施例3:ニードルパラログ構造との比較
低い配列同一性にも関わらず(
図3a)、鞭毛FlhB
Cの全体的な構造は、ニードル分泌装置のパラログの構造と非常に類似していた:EscUC、SpaSC、YscUC、及びSpa40C(
図3b)。これらのタンパク質間の明白な差異は、N末端膜貫通ドメインと球状細胞質ドメインとの間のリンカー領域であった。全てのタンパク質が、そのN末端部分のコンフォメーションに大きな差異を示し、このことは、該分子のこの領域の可動性を示す。本発明者らの構造では、Sal FlhB
Cの残基219−228及びAqu FlhB
Cの残基213−231については電子密度が観察されなかったが、これはFlhB
Cのこの部分の可動性と矛盾がない。しかしながら、リンカーの残りの残基は、明確な構造を持つα−ヘリックスを形成し、これはSal FlhB
Cの場合には、Gly236位において屈曲していた。ニードルパラログとは対照的に、より安定なリンカーヘリックスを有するということは鞭毛FlhBの一般的な特性かもしれない。
【0062】
FlhBファミリーのタンパク質は、主にC末端における差異のために、長さに大きなばらつきを示す。例えば、サルモネラFlhBは、33アミノ酸だけアクイフェックスタンパク質より長い。しかしながら、これらの追加の残基(残基354−383)は、電子密度マップには見えず、このことはそれらが折り畳まれていないことを示唆する。SalFlhBにおけるこの領域は、プロリン残基に富むので、何らかの安定な構造を形成しそうにない。FlhBの伸張されたC末端部分の機能は不明であるが、運動性にとっては不要である(非特許文献5)。サルモネラFlhBのC末端の切断短縮は、ΔfliKの表現型を部分的に抑制し得るから(非特許文献5及び7)、それは分泌の調節に関与しているようである。しかしながら、切断短縮は、野生型fliKバックグラウンドにおいてほとんど作用を及ぼさないから(非特許文献7)、FliKとは直接相互作用しなさそうである。
【0063】
実施例4:TTSS機能に対する、サルモネラFlhBの残基281−285の突然変異の効果
2本のストランドβ2及びβ3は、長い可動性ループによって接続されていた。このループは、FlhBファミリー内で保存されていなかったが、それは、高度に保存されている残基であるTyr279及びPro287(サルモネラ番号付けにおいて)によってフランキングされている。ループの長さは、2本のβストランドを単に接続するのに必要な長さよりも長かったが、このことから本発明者らはこれは機能的重要性があり得ると考えた。この仮説を調べるために、サルモネラFlhBの3つの突然変異体を作成した。第一の突然変異体では、ループの残基281−285を欠失させた(
図4a)。第二及び第三の突然変異体では、残基281−285をそれぞれAla又はPro残基によって置換した。その後、軟寒天プレート上でのスウォーミングアッセイ(swarming assay)を実施することにより、突然変異したFlhBを含有するサルモネラ細胞が依然として運動性であるかどうかを調べた。ループの欠失は、運動性を完全に消失させたことが観察された(
図4b)。同時に、Ala残基による置換は運動性に対して効果を及ぼさず、Proによる置換は運動性を低下させた。これらの運動性の変化が、輸送活性の変化のためであるかどうかを調べるために、フックタンパク質FlgE及び繊維タンパク質FliCの分泌を、突然変異したFlhBを含有する鞭毛分泌装置によって分析した(
図4c)。運動性は、FlgE及びFliCの分泌と相関することが観察された。FlhBのループ(281−285)が欠失した場合には、FlgEもFliCも分泌されず、プロリンによる置換は、両方のタンパク質の分泌を減少させた。野生型FlhB及びAla置換についての分泌の差異は観察されなかった。
【0064】
実施例5:分子動力学シミュレーション
FlhB
C分子に対するループ突然変異の効果をさらに調べるために、野生型Sal FlhB
C並びにΔ(281−285)、AAAAA
281−285、及びPPPPP
281−285突然変異体のMDシミュレーションを実施した。MDの最中に、全ての場合において球状ドメインは比較的堅固であるが、野生型FlhB
CのN末端αヘリックスは非常に可動性であり、突然変異体においては可動性がより低くなることが観察された(
図5b−e)。Gly236−Pro238の周囲の屈曲に加えて(
図2a)、MDの最中にMet256の付近に大きな屈曲が観察された。N末端α−ヘリックスの可動性を特徴付けるために、距離D、角度θ12、θ23、θ34、θ14並びにねじれ角χ3及びχ5が定められた(
図5a及び表2の説明を参照)。
【0065】
【表3】
【0066】
顕著な構造的差異が、ねじれ角χ3によって実証され、これは球状ドメインに対するN末端αヘリックスのV2領域の方向を決定する。χ3値は、野生型FlhB
C及びAAAAA
281−285突然変異体については正であったが、Δ(281−285)及びPPPPP
281−285突然変異体については負であり、これは、
図5b〜eに示される構造的な差異と一致した。後者の突然変異はサルモネラの運動性を減少させたので、この構造変化は、何等かの機能的効果を有し得る。別の顕著な差異は、PPPPP281−285突然変異体におけるθ12、θ23、θ14、χ3及びχ5の揺らぎの減少として見られ、このことは、N末端αヘリックスの大きな構造変化及び可動性の減少を示す。
【0067】
実施例6:サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhB
Cのループ領域と相互作用する候補化合物のインシリコのスクリーニング
FlhB
Cと相互作用する候補化合物を、フラグメントベースドリードディスカバリー(FBLD)法(日本のファルマデザイン株式会社によって提供)を使用することによってインシリコでスクリーニングした。この方法は、標的タンパク質と、公知の化合物の部分(本明細書において以後、スキャホールド(Scaffold)と呼ぶ)との間の相互作用をインシリコで分析する。
【0068】
6.1 スキャホールドデータベースの構築(スキャホールドDB)
スキャホールドの情報は、以下の手順によって作成された。まず、345,099種の市販されている化合物(キシダ化学株式会社によって取り扱われている)を、薬らしさ(drug-like)、回避すべき構造、及び分子量の観点から選択した。第二に、タンパク質データバンク(PDB)のリガンド情報を、PDBのリガンド情報を整理しているLigand Expo (http://ligand-expo.rcsb.org/)から入手した。その後、LIGPLOT相互作用分析(http://www.ebi.ac.uk/thornton-srv/software/LIGPLOT/)を実施して、タンパク質の主鎖/側鎖の原子とリガンドの原子との間の水素結合の情報を、タンパク質−リガンド相互作用情報として入手した。上記の市販されている化合物の情報をクエリーとして、及びタンパク質−リガンド相互作用情報をデータベースとして使用して、OEChemTK(OpenEye: http://www.eyesopen.com/oechem-tk/によって提供)(これは部分構造をスクリーニングすることができる)を実施して、リガンドの部分構造を模倣し得る候補化合物の情報を入手した。その後、Small Molecule Subgraph Detector (SMSD: http://www.ebi.ac.uk/thornton-srv/software/SMSD/)を使用して、候補化合物の情報をPDBリガンドに重ね合わせた。SMSDの結果及び上記のタンパク質−リガンド相互作用情報の結果を比較及び検討することによって、889種の化合物が最終的にスキャホールドDBとして抽出された。
【0069】
6.2 FlhB
Cの構造情報を使用してのループ領域周辺のアミノ酸を認識するスキャホールドの決定
サルモネラ・チフィムリウム由来のFlhB
Cのループ領域のアミノ酸配列ENKMSの中で、ENKSの残基が水素結合に関与していた。従って、これらのENKS残基と水素結合によって結合する化合物を、スキャホールドDBから選択した。選択された化合物を、StarDrop (Optibrium: http://www.optibrium.com/stardrop/によって提供)によって計算された分配係数及び溶解度の観点から順位付けした。
【0070】
さらに、Aqu FlhB
Cエオリカスのループ領域のアミノ酸配列PEKDKは、Aqu FlhB
Cの構造情報においてループの内側に向かって配向するアスパラギン残基を含んでいるので、アスパラギン残基と水素結合によって結合する化合物もまた、スキャホールドDBから選択された。選択された化合物を、MOEのASEDock(Chemical Computing Group: http://www.optibrium.com/stardrop/によって提供)を使用してドッキングシミュレーションによって順位付けした。結果として、237回の化合物が最終的に選択された。
【0071】
実施例7:スクリーニングされた化合物の阻害活性の検証
毒素の分泌に対する、上記の選択された化合物の阻害活性を評価するために、以下のアッセイを以前記載されている通りに実施した(非特許文献22)。
【0072】
7.1. 細菌増殖アッセイ
まず、細菌培養の生存能力に対する候補化合物の効果を、FlhB
Cの可動性に対するその効果を分析する前に、試験した。237種の化合物中80種の化合物を、順位付けに従ってキシダ化学株式会社から購入した。サルモネラ・チフィムリウムSJW1103株を、303KでLB培地中で増殖させた。一晩培養した培養液を、新たなLB培地中に、600nmにおける光学密度(OD600)が0.1となるように希釈した。DMSO中に可溶化した100mM候補化合物又は対照としてのDMSO単独の各5μlを、50mlの容量のポリプロピレンコニカルチューブ中の10mlLB培地に加えた。各化学物質の存在下における細胞の増殖曲線を得るために、0.2mlの培養液の容量を、2時間毎に取り出し(2、4、6、8及び10時間後)、1mlのLBを用いて希釈し、OD600の吸光度を測定した。結果として、80種全ての化合物が、深刻な増殖不全には至らなかった(
図6)。2種の化合物(化合物47及び化合物64)が僅かな増殖の遅延を示したが、その僅かな遅延は、その後の実験にとって影響はないと判断された。
【0073】
7.2. 分泌アッセイ
その後、種々のIII型分泌表現型に対する選択された化合物の効果を評価した。上記の増殖アッセイにおいて8.0時間培養した細胞懸濁液1mlを、13,200rpm(16,100g)で10分間遠心分離にかけた。上清画分(0.9ml)を新しいチューブに分画化し、100%トリクロロ酢酸と十分に混合した。画分を氷上で少なくとも1時間維持して、分泌タンパク質を沈降させた。15,400rpmで30分間遠心分離した後、沈降した上清画分を、1Mトリス塩基0.02mlに再懸濁し、使用するまで−30℃で保存した。SDS−PAGE分析のための試料を、5×SDSローディング緩衝液を加え、その後95℃で5分間加熱することによって調製した。SDS−PAGE分析は、Bio-radから購入した予製ゲルを使用して200Vの条件で30分間実施された。PVDFメンブランへのエレクトロブロットは、InvitrogenのiBlotを用いて実施され、メンブランを発色免疫検出キット(Invitrogen)を用いて、鞭毛タンパク質のFlgDに対して特別に作成された抗体(大阪大学の難波啓一教授からの)を使用して展開した。画像を、ChemDoc(Bio-rad)を用いてグレースケールカラーとしてデジタル化した。カレイドスコープ(Bio-rad)を分子マーカーとして使用した。結果として、7−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−1,3−ジメチル−3,7−ジヒドロ−1H−プリン−2,6−ジオン(化合物47:ジフィリンとしても知られる)及び5−(3,4,5−トリメトキシベンジル)ピリミジン−2,4−ジアミン(化合物64:トリメトプリムとしても知られる)は、TTSSによって分泌される典型的なタンパク質(非特許文献11及び非特許文献13)であるFlgDの分泌を阻害することが実証された(
図7a及び7b)。該化合物のこの阻害活性は、FlhB
Cの可動性の阻害に対する該化合物の効果を示唆した。