特許第6474734号(P6474734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474734
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】発光素子用複合基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/16 20100101AFI20190218BHJP
   C04B 35/10 20060101ALI20190218BHJP
   C30B 19/12 20060101ALI20190218BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20190218BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20190218BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20190218BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20190218BHJP
【FI】
   H01L33/16
   C04B35/10
   C30B19/12
   C30B29/38 D
   H01L21/20
   H01L21/208 Z
   H01L33/32
【請求項の数】37
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-553488(P2015-553488)
(86)(22)【出願日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】JP2014082424
(87)【国際公開番号】WO2015093335
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年7月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-260856(P2013-260856)
(32)【優先日】2013年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-71231(P2014-71231)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-112014(P2014-112014)
(32)【優先日】2014年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-199193(P2014-199193)
(32)【優先日】2014年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100202511
【弁理士】
【氏名又は名称】武石 卓
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
(72)【発明者】
【氏名】七瀧 努
(72)【発明者】
【氏名】今井 克宏
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆史
(72)【発明者】
【氏名】武内 幸久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
【審査官】 大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−359495(JP,A)
【文献】 特開平09−027636(JP,A)
【文献】 特開平09−172199(JP,A)
【文献】 特開2009−111019(JP,A)
【文献】 特開2013−014450(JP,A)
【文献】 特開2009−091175(JP,A)
【文献】 特開2009−073710(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/011407(WO,A1)
【文献】 特開昭51−014261(JP,A)
【文献】 特開昭50−124878(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0237744(US,A1)
【文献】 米国特許第06214427(US,B1)
【文献】 特許第5770905(JP,B1)
【文献】 特開2016−001738(JP,A)
【文献】 T. Sasaki, et al.,“New developments in crystal growth from solutions: Oxides, proteins, and nitrides”,Journal of Crystal Growth,2008年 4月,Vol.310,No.7-9,p.1288-1297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
C04B 35/00 − 35/84
C23C 16/00 − 16/56
C30B 1/00 − 35/00
H01L 21/20
H01L 21/205 − 21/208
H01S 5/00 − 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向多結晶アルミナ焼結体で構成される基板と、前記基板上に形成された、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上有する発光機能層と、を備えた、
又は前記基板と、前記発光機能層と、前記発光機能層と前記基板の間にバッファ層とを備えた、発光素子用複合基板であって、
記発光機能層を構成する層のうち実際に発光を生じる界面又は層よりも前記基板側に位置する層及び前記バッファ層から選択される少なくとも1層が、該少なくとも1層を構成する半導体結晶粒子の断面平均径が前記基板側から前記基板と反対側に向かって増大する大粒径化層であり、
前記発光機能層の表面を構成している前記半導体単結晶粒子が、前記大粒径化層の前記基板側の面まで粒界を介さずに連通してなり、
前記大粒径化層は、前記基板側の面を構成している半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の前記基板と反対側の面を構成している半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径Dの比D/Dが1.0よりも大きく、
前記大粒径化層は、20μm以上の厚みを有する、発光素子用複合基板。
【請求項2】
前記発光機能層の最表面における前記半導体単結晶粒子の断面平均径が0.3μm以上である、請求項1に記載の発光素子用複合基板。
【請求項3】
前記断面平均径が3μm以上である、請求項2に記載の発光素子用複合基板。
【請求項4】
前記断面平均径が20μm以上である、請求項2に記載の発光素子用複合基板。
【請求項5】
前記配向多結晶アルミナ焼結体を構成するアルミナ粒子の板面における平均粒径が0.3〜1000μmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項6】
前記発光機能層及び/又は前記バッファ層の各層が、前記配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項7】
前記発光機能層を構成する層が、n型ドーパントがドープされているn型層、p型ドーパントがドープされているp型層、及び活性層からなる群から選択される少なくとも二以上を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項8】
前記発光機能層が、発光機能を有するp−n接合及び/又はへテロ接合及び/又は量子井戸接合を備えた、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項9】
前記発光機能層及び/又は前記バッファ層を構成する各層が窒化ガリウム系材料で構成される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項10】
前記比D/Dが1.5以上である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項11】
前記大粒径化層は、前記基板と反対側の面を構成している前記半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dが0.7以上である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項12】
前記配向多結晶アルミナ焼結体が、c面に配向している、請求項1〜11のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項13】
前記配向多結晶アルミナ焼結体が50%以上の配向度を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項14】
前記発光機能層の上に電極層及び/又は蛍光体層をさらに備えた、請求項1〜13のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項15】
前記基板が直径100mm以上の大きさを有する、請求項1〜14のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項16】
前記配向多結晶アルミナ焼結体が透光性を有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板を備えた、発光素子。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板の製造方法であって、
配向多結晶アルミナ焼結体を基板として用意する工程と、
前記基板上に、MOCVD法を用いて窒化ガリウムからなる種結晶層を形成する工程と、
前記種結晶層上に、Naフラックス法を用いて、窒化ガリウムからなる層をバッファ層
として形成する工程と、
を含む、発光素子用複合基板の製造方法。
【請求項19】
前記バッファ層上に、窒化ガリウム系材料で構成される発光機能層を形成する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
配向多結晶アルミナ焼結体で構成される基板と、前記基板上に形成された、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上有する発光機能層と、を備えた、
又は前記基板と、前記発光機能層と、前記発光機能層と前記基板の間にバッファ層とを備えた、発光素子用複合基板であって、
前記発光機能層の表面を構成している前記半導体単結晶粒子が、前記発光機能層の前記基板側の面まで粒界を介さずに連通してなり、又は、前記バッファ層の前記基板側の面まで粒界を介さずに連通してなり、
前記発光機能層の表面における前記半導体単結晶粒子の断面平均径が20μm以上1000μm以下であり、
前記半導体単結晶粒子は、20μm以上の厚みを有する、発光素子用複合基板。
【請求項21】
前記断面平均径が50μm以上500μm以下である、請求項20に記載の発光素子用複合基板。
【請求項22】
前記配向多結晶アルミナ焼結体を構成するアルミナ粒子の板面における平均粒径が0.3〜1000μmである、請求項20又は21に記載の発光素子用複合基板。
【請求項23】
前記発光機能層及び/又は前記バッファ層の各層が、前記配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造を有する、請求項20〜22のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項24】
前記発光機能層を構成する層が、n型ドーパントがドープされているn型層、p型ドーパントがドープされているp型層、及び活性層からなる群から選択される少なくとも二以上を含む、請求項20〜23のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項25】
前記発光機能層が、発光機能を有するp−n接合及び/又はへテロ接合及び/又は量子井戸接合を備えた、請求項20〜24のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項26】
前記発光機能層及び/又は前記バッファ層を構成する各層が窒化ガリウム系材料で構成される、請求項20〜25のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項27】
前記発光機能層を構成する層のうち実際に発光を生じる界面又は層よりも前記基板側に位置する層及び前記バッファ層から選択される少なくとも1層が、該少なくとも1層を構成する半導体結晶粒子の断面平均径が前記基板側から前記基板と反対側に向かって増大する大粒径化層である、請求項20〜26のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項28】
前記大粒径化層は、前記基板側の面を構成している半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の前記基板と反対側の面を構成している半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径Dの比D/Dが1.0よりも大きい、請求項27に記載の発光素子用複合基板。
【請求項29】
前記大粒径化層は、前記基板と反対側の面を構成している前記半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dが0.7以上である、請求項27又は28に記載の発光素子用複合基板。
【請求項30】
前記配向多結晶アルミナ焼結体が、c面に配向している、請求項20〜29のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項31】
前記配向多結晶アルミナ焼結体が50%以上の配向度を有する、請求項20〜30のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項32】
前記発光機能層の上に電極層及び/又は蛍光体層をさらに備えた、請求項20〜31のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項33】
前記基板が直径100mm以上の大きさを有する、請求項20〜32のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項34】
前記配向多結晶アルミナ焼結体が透光性を有する、請求項20〜33のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板。
【請求項35】
請求項20〜34のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板を備えた、発光素子。
【請求項36】
請求項20〜34のいずれか一項に記載の発光素子用複合基板の製造方法であって、
配向多結晶アルミナ焼結体を基板として用意する工程と、
前記基板上に、MOCVD法を用いて窒化ガリウムからなる種結晶層を形成する工程と、
前記種結晶層上に、Naフラックス法を用いて、窒化ガリウムからなる層をバッファ層
として形成する工程と、
を含む、発光素子用複合基板の製造方法。
【請求項37】
前記バッファ層上に、窒化ガリウム系材料で構成される発光機能層を形成する工程をさらに含む、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子用複合基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶基板を用いた発光ダイオード(LED)として、窒化ガリウム(GaN)単結晶上に各種GaN層を形成したものや、サファイア(α−アルミナ単結晶)上に各種GaN層を形成したものが知られている。例えば、サファイア基板上に、n型GaN層、InGaN層からなる量子井戸層とGaN層からなる障壁層とが交互積層された多重量子井戸層(MQW)、及びp型GaN層が順に積層形成された構造を有するものが量産化されている。また、このような用途に適した積層基板も提案されている。例えば、特許文献1(特開2012−184144号公報)には、サファイア下地基板と、該基板上に結晶成長せしめて形成された窒化ガリウム結晶層とを含む、窒化ガリウム結晶積層基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−184144号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、このような単結晶基板は一般的に面積が小さく且つ高価なものである。特に、近年、大面積基板を用いたLED製造の低コスト化が求められてきているが、大面積の単結晶基板を量産することは容易なことではなく、その製造コストはさらに高くなる。そこで、サファイア等の単結晶基板の代替材料となりうる、大面積化にも適した安価な材料が望まれる。
【0005】
本発明者らは、今般、配向多結晶アルミナ焼結体を基板として用い、その上に略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上形成することで、発光素子を低コストで製造するのに適した大面積の発光素子用複合基板を提供できるとの知見を得た。
【0006】
したがって、本発明の目的は、大面積の発光素子を低コストで製造するのに適した発光素子用複合基板を提供することにある。
【0007】
本発明の一態様によれば、配向多結晶アルミナ焼結体で構成される基板と、
前記基板上に形成された、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上有する発光機能層と、
を備えた、発光素子用複合基板が提供される。
【0008】
本発明の他の一態様によれば、本発明による発光素子用複合基板を用いて作製された、発光素子が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の一態様によれば、配向多結晶アルミナ焼結体を基板として用意する工程と、
前記基板上に、MOCVD法を用いて窒化ガリウムからなる種結晶層を形成する工程と、
前記種結晶層上に、Naフラックス法を用いて、窒化ガリウムからなる層をバッファ層として形成する工程と、
所望により、前記バッファ層上に、窒化ガリウム系材料で構成される発光機能層を形成する工程と、
を含む、発光素子用複合基板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の発光素子用複合基板の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の発光素子用複合基板を用いて作製された横型発光素子の一例を示す模式断面図である。
図3】本発明の発光素子用複合基板を用いて作製された縦型発光素子の一例を示す模式断面図である。
図4A】発光効率が向上する場合の結晶粒界を説明するための複合基板断面の概念図である。
図4B】発光効率が低下する場合の結晶粒界を説明するための複合基板断面の概念図である。
図5】例5において測定された窒化ガリウム結晶(バッファ層)断面の逆極点図方位マッピングである。
図6】例5において測定された窒化ガリウム結晶(バッファ層)表面の逆極点図方位マッピング
図7】例5において測定された窒化ガリウム結晶(バッファ層)と配向アルミナ基板との界面付近の結晶粒マッピングである。
図8】例5において考察される窒化ガリウム結晶の成長挙動の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発光素子用複合基板
図1に、本発明の一態様による発光素子用複合基板の層構成を模式的に示す。図1に示される発光素子用複合基板10(以下、複合基板10という)は、基板12と、基板12上に形成された発光機能層14とを備えてなる。基板12は配向多結晶アルミナ焼結体で構成される。発光機能層14は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上有してなる。この発光機能層14は、電極等を適宜設けて電圧を印加することによりLED等の発光素子の原理に基づき発光をもたらすものである。したがって、このような構成の複合基板10を用いることでLED等の発光素子を作製することができる。特に、本発明において用いられる基板12は、従来広く使用されてきたアルミナ単結晶であるサファイア基板ではなく、配向多結晶アルミナ焼結体である。配向多結晶アルミナ焼結体は、種結晶から長時間育成するサファイア等の単結晶基板とは異なり、後述するように商業的に入手可能な板状アルミナ粉末を用いて成形及び焼成を経て効率的に製造できるため、低コストで製造できるだけでなく、成形しやすいが故に大面積化にも適する。つまり、配向多結晶アルミナ焼結体は、サファイア等の単結晶基板よりも格段に安価に且つ大面積で作製又は入手することができる。そして、本発明者らの知見によれば、配向多結晶アルミナ焼結体を基板として用い、その上に複数の半導体単結晶粒子を成長させることで、大面積の発光素子を低コストで製造するのに適した発光素子用複合基板を提供できる。このように、本発明の複合基板10は、大面積の発光素子を低コストで製造するのに極めて適する。
【0012】
基板12は、配向多結晶アルミナ焼結体で構成される。アルミナは酸化アルミニウム(Al)であり、典型的には単結晶サファイアと同じコランダム型構造を有するα−アルミナであり、配向多結晶アルミナ焼結体は無数のアルミナ結晶粒子が配向された状態で焼結により互いに結合されてなる固体である。アルミナ結晶粒子はアルミナを含んで構成される粒子であり、他の元素として、ドーパント及び不可避不純物を含んでいてもよいし、アルミナ及び不可避不純物からなるものであってもよい。配向多結晶アルミナ焼結体は焼結助剤としての添加物を粒界相として含んでいてもよい。また、配向多結晶アルミナ焼結体も、アルミナ結晶粒子以外に他の相又は上述したような他の元素を含んでいてもよいが、好ましくはアルミナ結晶粒子及び不可避不純物からなる。また、発光機能層が作製される配向多結晶アルミナ焼結体の配向面は特に限定がなく、c面、a面、r面又はm面等であってもよい。
【0013】
いずれにせよ、配向多結晶アルミナ焼結体は、多数のアルミナ単結晶粒子を含んで構成されるアルミナ焼結体からなり、多数の単結晶粒子が一定の方向にある程度又は高度に配向したものである。このように配向された多結晶アルミナ焼結体は、アルミナ単結晶よりも高強度で且つ安価であり、それ故、単結晶基板を用いる場合よりも非常に安価でありながら大面積の面発光素子の製造を可能にする。その上、配向多結晶アルミナ焼結体を用いることで高い発光効率も実現可能である。特に、配向された基板12上に発光機能層14の構成層をエピタキシャル成長又はこれに類する結晶成長により形成した場合、略法線方向に結晶方位が概ね揃った状態が実現されるため、単結晶基板を用いた場合と同等の高い発光効率が得られる。配向多結晶アルミナ焼結体は、透光性を有しているほうが好ましいが、この限りではない。透光性を有する場合、配向多結晶板を除去する際に、レーザーリフトオフ等の手法を用いることができる。このような配向アルミナ焼結体を得るため、大気炉、窒素雰囲気炉、水素雰囲気炉等を用いた通常の常圧焼結法に加え、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)等の加圧焼結法、及びこれらを組み合わせた方法を用いることができる。これらの様々な要因によって、板状の配向多結晶アルミナ焼結体を基板として用いる本発明によれば、発光効率が高く、均質発光が可能な発光素子用基板を安価に提供することができ、発光素子の製造コストを下げることができる。また、本発明の基板を用いることで発光素子の面積を大きくした面発光素子も実現でき、大面積な面発光照明等の用途に用いることができる。
【0014】
なお、発光素子用複合基板中の発光機能層を構成する半導体単結晶粒子の結晶性は高くなる傾向があり、転位等の欠陥の密度を低く抑えることができる。発光機能層を構成する結晶粒子の欠陥密度が低い理由は定かではないが、発光機能層の作製初期で生じた格子欠陥のうち水平方向に傾いて発展するものが成長に伴って粒界に吸収されて消滅するためと推測される。
【0015】
発光機能層中に含まれる転位等の欠陥の密度を下げるという観点においては、配向多結晶アルミナ焼結体の最表面を構成する単結晶粒子の一部乃至全てが一定の方位(例えば、c面、a面等の基準方位)よりランダムに若干傾斜した形で配置されたものとするのが、より好ましい。傾斜する粒子はその略全部又は一定量が略一定の角度で傾斜していてもよいし、あるいは一定範囲内で分布を有する様々な角度(好ましくは0.5〜20°)で及び/又は様々な方向で傾斜していてもよい。また、傾斜する粒子と傾斜していない粒子が所望の比率で混在していてもよい。あるいは、配向多結晶アルミナ焼結体の板面を、基準面に対し斜めに研磨し、一定方向に粒子の露出面を傾斜させてもよいし、波状等に加工することにより最表面の粒子の基準方位から若干傾斜した面を露出させてもよい。上記いずれの場合においても、c面、a面等の基準方位に配向した配向多結晶アルミナ焼結体の最表面を構成するアルミナ単結晶粒子の一部乃至全てが、それらの基準方位が基板法線方向より0.5〜20°の範囲内でずれるように傾斜して配置されるのが好ましい。
【0016】
一方、配向していない多結晶アルミナ焼結体を基板に用いた場合、発光機能層14の構成層を形成する際に、様々な結晶方位の粒子がランダムな方向に結晶成長する。この結果、互いの結晶相が干渉するため、基板の略法線方向に結晶方位が概ね揃った状態を形成することができない。また、結晶方位によって結晶成長速度が異なるため均質、平坦な発光機能層を形成することができず、良質な発光機能層を形成することが困難である。
【0017】
前述のとおり、配向多結晶アルミナ基板を用いることで単結晶基板を用いる場合よりも安価で大面積の面発光素子用基板の製造が可能となる。従って、基板12は直径50.8mm(2インチ)以上の大きさを有するのが好ましく、より好ましくは直径100mm(4インチ)以上であり、さらに好ましくは直径200mm(8インチ)以上である。基板12は大きければ大きいほど作製可能な発光素子の個数が増えるため、製造コストの観点で好ましく、面発光素子用との観点でも素子面積の自由度が増え面発光照明等への用途が広がる点で好ましく、その面積ないし大きさに上限は規定されるべきではない。なお、基板12は上面視で円形状あるいは実質的に円形状であることが好ましいが、これに限定されない。円形状あるいは実質的に円形状ではない場合、面積として、2026mm以上であることが好ましく、より好ましくは7850mm以上であり、さらに好ましくは31400mm以上である。もっとも、大面積を要しない用途については、上記範囲よりも小さい面積、例えば直径50.8mm(2インチ)以下、面積換算で2026mm以下としてもよい。基板12の厚みは自立する限り特に限定はないが、厚すぎると製造コストの観点では好ましくない。従って、基板12の厚さは20μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは100〜1000μmである。一方、窒化ガリウムを成膜する際にアルミナと窒化ガリウムの熱膨張差に起因した応力によって基板全体に反りが生じ、その後のプロセスに支障を来す場合がある。応力は窒化ガリウムの成膜方法や成膜条件、膜厚、基板直径等によって変化するが、応力による反りを抑制する方法の一つとして、厚い配向多結晶アルミナ基板を用いてもよい。例えば直径50.8mm(2インチ)の配向多結晶アルミナ基板上に厚さ300μmの発光機能層を含む層を作製する際に、配向多結晶アルミナ焼結体の厚みを900μm以上としてもよく、1300μm以上、あるいは2000μm以上としてもよい。このように製造コストの観点と反り抑制の観点などを勘案し、配向多結晶アルミナ基板の厚みは適宜選定すればよい。
【0018】
配向多結晶アルミナ焼結体を構成するアルミナ粒子の板面における平均粒径は、0.3〜1000μmであるのが好ましく、より好ましくは3〜1000μm、さらに好ましくは10μm〜200μm、特に好ましくは14μm〜200μmである。あるいは、後述する大粒径化層を設けて表面(基板12と反対側の面)における半導体単結晶粒子の断面平均径を裏面(基板12側の面)の断面平均径よりも大きくすることを考慮する場合には、配向多結晶焼結体を構成する粒子の板面における焼結粒径を10μm〜100μmとするのが好ましく、より好ましくは14μm〜70μmである。配向多結晶アルミナ焼結体全体の平均粒径は板面の平均粒径と相関があり、これらの範囲内であると焼結体の機械強度の点で優れる。また、配向多結晶アルミナ焼結体の上部に形成する発光機能層の発光効率の点で優れる。なお、本発明における焼結体粒子の板面における平均粒径は以下の方法により測定されるものである。すなわち、板状焼結体の板面を研磨し、走査電子顕微鏡にて画像を撮影する。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とする。得られた画像の対角線に2本の直線を引いて、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を板面の平均粒径とする。なお、板面の走査顕微鏡像で明瞭に焼結体粒子の界面を判別できない場合は、サーマルエッチング(例えば1550℃で45分間)やケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。
【0019】
配向多結晶アルミナ焼結体の配向結晶方位は特に限定されるものではなく、c面、a面、r面又はm面等であってもよく、発光機能層に窒化ガリウム系材料、酸化亜鉛系材料又は窒化アルミニウム系材料を用いる場合はc面に配向しているのが格子定数マッチングの観点で好ましい。配向度については、例えば、板面における配向度が50%以上であるのが好ましく、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上であり、特に好ましくは85%であり、特により好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。この配向度は、XRD装置(例えば、株式会社リガク製、RINT−TTR III)を用い、板状アルミナの板面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、以下の式により算出することにより得られるものである。
【0020】
【数1】
【0021】
配向多結晶アルミナ焼結体は、板状アルミナ粉末を原料として用いて成形及び焼結を行うことにより製造することができる。板状アルミナ粉末は市販されており、商業的に入手可能である。板状アルミナ粉末の種類及び形状は緻密な配向多結晶アルミナ焼結体が得られる限り特に限定されないが、平均粒径が0.4〜15μm、厚み0.05〜1μmとしてもよく、この範囲内で異なる平均粒径の原料を2種類以上混ぜたものとしてもよい。好ましくは、板状アルミナ粉末を、せん断力を用いた手法により配向させ、配向成形体とすることができる。せん断力を用いた手法の好ましい例としては、テープ成形、押出し成形、ドクターブレード法、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。せん断力を用いた配向手法は、上記例示したいずれの手法においても、板状アルミナ粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、基板上にシート状に吐出及び成形するのが好ましい。吐出口のスリット幅は10〜400μmとするのが好ましい。なお、分散媒の量はスラリー粘度が5000〜100000cPとなるような量にするのが好ましく、より好ましくは20000〜60000cPである。シート状に成形した配向成形体の厚さは5〜500μmであるのが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。このシート状に成形した配向成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さを有する前駆積層体とし、この前駆積層体にプレス成形を施すのが好ましい。このプレス成形は前駆積層体を真空パック等で包装して、50〜95℃の温水中で10〜2000kgf/cmの圧力で静水圧プレスにより好ましく行うことができる。また、シート状に成形した配向成形体、もしくは前駆積層体をロールプレス法(例えば加熱ロールプレスやカレンダーロールなど)による処理を施してもよい。また、押出し成形を用いる場合には、金型内の流路の設計により、金型内で細い吐出口を通過した後、シート状の成形体が金型内で一体化され、積層された状態で成形体が排出されるようにしてもよい。得られた成形体には公知の条件に従い脱脂を施すのが好ましい。上記のようにして得られた配向成形体を大気炉、窒素雰囲気炉、水素雰囲気炉等を用いた通常の常圧焼成に加え、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)等の加圧焼結法、及びこれらを組み合わせた方法にて焼成し、アルミナ結晶粒子を配向して含んでなるアルミナ焼結体を形成する。上記焼成での焼成温度や焼成時間は焼成方法によって異なるが、焼成温度は1000〜1950℃、好ましくは1100〜1900℃、より好ましくは1500〜1800℃、焼成時間は1分間〜10時間、好ましくは30分間〜5時間である。緻密化を進める観点ではホットプレスにて1500〜1800℃で2〜5時間、面圧100〜200kgf/cmの条件で焼成する第一の焼成工程と、得られた焼結体を熱間等方圧加圧法(HIP)にて1500〜1800℃で30分間〜5時間、ガス圧1000〜2000kgf/cmの条件で再度焼成する第二の焼成工程を経て行われるのがより好ましい。上記焼成温度での焼成時間は特に限定されないが、好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。なお、透光性を付与する場合は、高純度な板状アルミナ粉末を原料として使用し、大気炉、水素雰囲気炉、窒素雰囲気炉等にて1100〜1800℃で1分間〜10時間焼成する方法が好ましく例示される。得られた焼結体に対し、熱間等方圧加圧法(HIP)にて1200〜1400℃又は1400〜1950℃にて30分間〜5時間、ガス圧300〜2000kgf/cmの条件で再度焼成する方法を用いてもよい。粒界相は少ない方が良いため、板状アルミナ粉末は高純度である方が好ましく、より好ましくは純度98%以上であり、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上、最も好ましくは99.99%以上である。なお、焼成条件は上記に限定されるものではなく、緻密化と高配向の両立が可能であれば、例えば熱間等方圧加圧法(HIP)による第二の焼成工程は省略してもよい。また、極少量の添加物を焼結助剤として原料中に加えてもよい。焼結助剤の添加は粒界相の減量と逆行するが、光の散乱因子の一つである気孔を減らすことで、結果的に透光性が向上することを目的としたものである。このような焼結助剤として、MgO、ZrO、Y、CaO、SiO、TiO、Fe、Mn、La等の酸化物、AlF、MgF、YbFなどのフッ化物などから選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。これらのうち、MgO、CaO、SiO、及びLaが好ましく、MgOが特に好ましい。しかし、透光性の観点では添加物の量は必要最小限に留めるべきであり、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは700ppm以下である。
【0022】
また、配向多結晶アルミナ焼結体は、微細なアルミナ粉末及び/又は遷移アルミナ粉末に板状アルミナ粉末を適宜加えた混合粉末を原料として用いて成形及び焼結を行うことによっても製造することができる。この製法では板状アルミナ粉末が種結晶(テンプレート)となり、微細アルミナ粉末及び/又は遷移アルミナ粉末がマトリックスとなって、テンプレートがマトリックスを取り込みながらホモエピタキシャル成長する、所謂TGG(Templated Grain Growth)過程を経ることで結晶成長と緻密化が生じる。テンプレートとなる板状アルミナ粒子とマトリックスの粒径はその粒径比が大きい方が粒成長しやすく、例えばテンプレートの平均粒径が0.5〜15μmのとき、マトリックスの平均粒径0.4μm以下が好ましく、より好ましくは0.2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以下である。テンプレートとマトリックスの混合比は粒径比や焼成条件、添加物の有無によっても異なるが、例えばテンプレートに平均粒径2μmの板状アルミナ粉末、マトリックスに平均粒径0.1μmの微細アルミナ粉末を用いた場合、テンプレート/マトリックス比が50/50〜1/99wt%となるようにしてもよい。また、緻密化を進める観点では焼結助剤として、MgO、ZrO、Y、CaO、SiO、TiO、Fe、Mn、La等の酸化物、AlF、MgF、YbF等のフッ化物などから選ばれる少なくとも1種を加えてもよく、MgO、CaO、SiO、Laが好ましく、MgOが特に好ましい。このような手法においても前述した大気炉、窒素雰囲気炉、水素雰囲気炉等を用いた通常の常圧焼成に加え、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)等の加圧焼結法、及びこれらを組み合わせた方法で良質な配向多結晶アルミナ焼結体を得ることができる。
【0023】
こうして得られたアルミナ焼結体は、前述した原料となる板状アルミナ粉末の種類によりc面等の所望の面に配向した多結晶アルミナ焼結体となる。こうして得られた配向多結晶アルミナ焼結体を砥石で研削して板面を平坦にした後、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により板面を平滑化して配向アルミナ基板とするのが好ましい。
【0024】
発光機能層14が基板12上に形成される。発光機能層14は、基板12上の全面又は一部に設けられてもよいし、後述するバッファ層16が基板12上に形成される場合にはバッファ層16上の全面又は一部に設けられてもよい。発光機能層14は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される層を二以上有してなり、電極及び/又は蛍光体を適宜設けて電圧を印加することによりLEDに代表される発光素子の原理に基づき発光をもたらす公知の様々な層構成を採りうる。したがって、発光機能層14は青色、赤色等の可視光を放出するものであってもよいし、可視光を伴わずに又は可視光と共に紫外光を発光するものであってもよい。発光機能層14は、p−n接合を利用した発光素子の少なくとも一部を構成するのが好ましく、このp−n接合は、図1に示されるように、p型層14aとn型層14cの間に活性層14bを含んでいてもよい。このとき、活性層としてp型層及び/又はn型層よりもバンドギャップが小さい層を用いたダブルへテロ接合又はシングルヘテロ接合(以下、ヘテロ接合と総称する)としてもよい。また、p型層−活性層−n型層の一形態として、活性層の厚みを薄くした量子井戸構造を採りうる。量子井戸を得るためには活性層のバンドギャップがp型層及びn型層よりも小さくしたダブルへテロ接合が採用されるべきことは言うまでもない。また、これらの量子井戸構造を多数積層した多重量子井戸構造(MQW)としてもよい。これらの構造をとることで、p−n接合と比べて発光効率を高めることができる。このように、発光機能層14は、発光機能を有するp−n接合及び/又はへテロ接合及び/又は量子井戸接合を備えたものであるのが好ましい。
【0025】
したがって、発光機能層14を構成する二以上の層は、n型ドーパントがドープされているn型層、p型ドーパントがドープされているp型層、及び活性層からなる群から選択される少なくとも二以上を含むものであることができる。n型層、p型層及び(存在する場合には)活性層は、主成分が同じ材料で構成されてもよいし、互いに主成分が異なる材料で構成されてもよい。
【0026】
発光機能層14を構成する各層は、窒化ガリウム(GaN)系材料、酸化亜鉛(ZnO)系材料及び窒化アルミニウム(AlN)系材料から選択される少なくとも1種以上を主成分とする材料で構成されるのが好ましく、p型ないしn型に制御するためのドーパントを適宜含むものであってよい。特に好ましい材料は窒化ガリウム(GaN)系材料である。また、発光機能層14を構成する材料は、そのバンドギャップを制御するため、例えばGaNにAlN、InN等を固溶させた混晶としてもよい。なお、直前の段落で述べたとおり、発光機能層14は複数種の材料系からなるヘテロ接合としてもよい。例えば、p型層に窒化ガリウム(GaN)系材料、n型層に酸化亜鉛(ZnO)系材料を用いてもよい。また、p型層に酸化亜鉛(ZnO)系材料、活性層とn型層に窒化ガリウム(GaN)系材料を用いてもよく、材料の組み合わせは特に限定はない。
【0027】
発光機能層14と配向多結晶アルミナ焼結体基板12の間にバッファ層16をさらに設けてもよい。バッファ層16は基板12と発光機能層14の格子ミスマッチによる格子欠陥を低減し、結晶性を改善するための層である。また、配向多結晶アルミナ焼結体基板12の配向度が低い場合、基板12に直接発光機能層14を作製すると均質、平坦な発光機能層を形成することができず、発光機能層中に気孔が生じる可能性もある。この点、バッファ層16の形成によってこれらの均質性や平坦性を改善し、気孔等を除去することができ、良質な発光機能層14を形成することができる。バッファ層16の材質は、発光機能層14の結晶構造と同じ又は類似した高い結晶性を有するものであるのが好ましく、格子定数が同じ又は近いものを用いてもよい。好ましくは、バッファ層16は、配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造を有する。これにより、基板12である配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に概ね倣った結晶成長を促しつつ発光機能層14の各層を形成することができる。バッファ層16は、窒化ガリウム(GaN)系材料、酸化亜鉛(ZnO)系材料及び窒化アルミニウム(AlN)系材料から選択される少なくとも1種以上を主成分とする材料で構成されるのが好ましく、p型ないしn型に制御するためのドーパントを適宜含むものであってよい。特に好ましい材料は窒化ガリウム系(GaN)系材料である。また、バッファ層16を構成する材料は、そのバンドギャップを制御するため、例えばGaNにAlN、InN等を固溶させた混晶としてもよいし、ZnOにMgO、CdO等を固溶させた混晶としてもよい。
【0028】
発光機能層14を構成する各層は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成される。すなわち、各層は、水平面方向に二次元的に連結されてなる複数の半導体単結晶粒子で構成されており、それ故、略法線方向には単結晶構造を有することになる。したがって、発光機能層14の各層は、層全体としては単結晶ではないものの、局所的なドメイン単位では単結晶構造を有するため、発光機能を確保するのに十分な高い結晶性を有することができる。好ましくは、発光機能層14の各層は、基板12である配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造を有する。「配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造」とは、配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位の影響を受けた結晶成長によりもたらされた構造を意味し、必ずしも配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に完全に倣って成長した構造であるとは限らず、所望の発光機能を確保できるかぎり、配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位にある程度倣って成長した構造であってよい。すなわち、この構造は配向アルミナ焼結体と異なる結晶方位に成長する構造も含む。その意味で、「結晶方位に概ね倣って成長した構造」との表現は「結晶方位に概ね由来して成長した構造」と言い換えることもでき、この言い換え及び上記意味は本明細書中の同種の表現に同様に当てはまる。したがって、そのような結晶成長はエピタキシャル成長によるものが好ましいが、これに限定されず、それに類する様々な結晶成長の形態であってもよい。特にn型層、活性層、p型層等を構成する各層が同じ結晶方位に成長する場合は各層間でも略法線方向に関しては結晶方位が概ね揃った構造となり、良好な発光特性を得ることができる。また、バッファ層16も発光機能層14の各層と同様に略法線方向に単結晶構造を有する複数の半導体単結晶粒子で構成されるのが好ましい。特に、本発明の複合基板を用いて縦型LED構造を作製する場合、発光機能層14及び所望によりバッファ層16を構成する半導体単結晶粒子が略法線方向に単結晶構造を有するため、電流パス中に高抵抗な粒界が存在しなくなり、その結果、好ましい発光効率が見込まれる。この点、法線方向にも粒界が存在する層の場合、縦型構造としても電流パス上に高抵抗な粒界が存在するため、発光効率が低くなるおそれがある。これらの観点から、本発明の発光素子用複合基板は縦型LED構造に好ましく用いることができる。
【0029】
したがって、発光機能層14の各層及び所望によりバッファ層16は、法線方向に見た場合に単結晶と観察され、水平面方向の切断面で見た場合に粒界が観察される柱状構造の半導体単結晶粒子の集合体であると捉えることも可能である。ここで、「柱状構造」とは、典型的な縦長の柱形状のみを意味するのではなく、横長の形状、台形の形状、及び台形を逆さにしたような形状等、種々の形状を包含する意味として定義される。もっとも、上述のとおり、各層は配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位にある程度倣って成長した構造であればよく、必ずしも厳密な意味で柱状構造である必要はない。柱状構造となる原因は、前述のとおり、基板12である配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位の影響を受けて半導体単結晶粒子が成長するためと考えられる。このため、柱状構造ともいえる半導体単結晶粒子の断面の平均粒径(以下、断面平均径という)は成膜条件だけでなく、配向多結晶アルミナ焼結体の板面の平均粒径にも依存するものと考えられる。発光機能層を構成する柱状構造の界面は発光効率や発光波長に影響を与えるが、粒界があることにより断面方向の光の透過率が悪く、光が散乱ないし反射する。このため、法線方向に光を取り出す構造の場合、粒界からの散乱光により輝度が高まる効果も期待される。
【0030】
上述したとおり、本発明の複合基板を用いて縦型LED構造とする場合、発光機能層14の表面と、基板12が除去されて電極が形成されることになる発光機能層14又はバッファ層16の基板12側の面は粒界を介さずに連通していることが発光効率の観点で好ましい。すなわち、発光機能層14の表面(基板12と反対側の面)を構成している半導体単結晶粒子が、発光機能層14の基板12側の面及び/又はバッファ層16の基板12側の面に粒界を介さずに連通してなるのが好ましい。粒界が存在すると通電時に抵抗をもたらすため、発光効率を低下させる要因となる。なお、層と層の間の界面はここでいう粒界ではない。実際、エピタキシャル成長を用いて形成された層と層の間の界面には粒界は実質的に存在しない。
【0031】
ところで、気相や液相を介したエピタキシャル成長を用いて窒化ガリウム結晶を成長させる場合、成膜条件にもよるが、法線方向だけでなく、水平方向にも成長が生じる。このとき、成長の起点となる粒子やその上に作製した種結晶の品質にばらつきがあると、十分に厚い膜を作製する場合、図8に概念的に示されるように、個々のGaN結晶の成長速度が異なり、高速成長する粒子が成長速度の遅い粒子を覆うようにして成長する場合がある。このような成長挙動をとる場合、それにより形成される層は、裏面側(基板12側)より、表面側(基板12と反対側)の粒子の方が大粒径化しやすくなる。この場合、成長が遅い結晶は成長が途中で停止しており、ある一断面で観察すると法線方向にも粒界が観測されうる。しかし、層の表面に露出した粒子は層の裏面と粒界を介さずに連通しており、電流を流す上での抵抗相はない。例えば、発光機能層14の一部又は全部に厚い膜を用いる場合や発光機能層14と配向多結晶アルミナ焼結体基板12の間にNaフラックス法などを用いてバッファ層16を設ける場合などが挙げられる。しかし、発光機能層14の一部ないし全ての層がこのような成長挙動を取る場合、発光特性を低下させるおそれがある。すなわち、活性層14bやp−n接合界面等の実際に発光する層又は界面よりも表面側(基板12と反対側)の層(図4Bではp型層14a)において、図4Bに示されるように、活性層14bやp−n接合界面等の実際に発光する層又は界面の断面平均径よりも、層の裏面側(基板12側)より表面側(基板12と反対側)の断面平均径が大きいと、発光効率が低下する。例えば、図4Bにおいて点線で囲まれたような領域では、p型層14a中に粒界があるため、電流が他の領域よりも流れにくくなるものと考えられる。すなわち、活性層14bやp−n接合界面等の実際に発光する層又は界面よりも表面側(基板12と反対側)の領域で成長に伴って大粒径化するような成長挙動となる場合、発光効率が低下するため好ましくない。
【0032】
一方、図4Aに示されるように、活性層14bやp−n接合界面よりも基板12側の領域で成長に伴って大粒径化する場合、そのように大粒径化した層(以下、大粒径化層という)の表面側(基板12と反対側)の粒子の断面平均径が裏面側(基板12側)の粒子の断面平均径よりも大きいと、発光効率が高まるため好ましい(このことは、大粒径化層の表面を構成している半導体単結晶粒子の個数が、大粒径化層の裏面を構成している窒化ガリウム系単結晶粒子の個数よりも少ないことが好ましいと言い換えることもできる)。すなわち、発光機能層14を構成する層のうち実際に発光を生じる界面又は層よりも基板12側に位置する層及びバッファ層16から選択される少なくとも1層が、該少なくとも1層を構成する半導体結晶粒子の断面平均径が裏面側(基材12側)から表面側(基材12と反対側)に向かって増大する大粒径化層であるのが好ましい。具体的には、この大粒径化層は、基板12側の面を構成している半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径D(以下、層裏面の断面平均径Dという)に対する、大粒径化層の基板12と反対側の面を構成している半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径D(以下、層表面の断面平均径Dという)の比D/Dが1.0よりも大きいのが好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、特に好ましくは3.0以上が好ましく、最も好ましくは5.0以上である。ただし、上記比D/Dが高すぎると逆に発光効率が低下する場合があるため、20以下が好ましく、10以下がさらに好ましい。発光効率が向上する原因は定かではないが、上記比D/Dが高いと大粒径化によって発光に寄与しない粒界面積が減少すること、あるいは成長に伴って大粒径化することで結晶欠陥が低減するためと考えられる。結晶欠陥が減少する原因も定かではないが、欠陥を含む粒子は成長が遅く、欠陥が少ない粒子は高速成長するためではないかとも考えられる。一方、上記比D/Dが高すぎると、粒界を介さずに電流が流れるパスが配向多結晶アルミナ基側12側では小さくなりすぎる。この結果、十分な電流パスが得られず発光効率が低下する原因となり得るとも考えられるが、その詳細は定かではない。
【0033】
もっとも、発光機能層14を構成する柱状構造同士の界面は結晶性が低下するため、発光効率が低下し、発光波長が変動し、発光波長がブロードになる可能性がある。このため、柱状構造の断面平均径は大きいほうが良い。好ましくは、発光機能層14の最表面における半導体単結晶粒子の断面平均径は0.3μm以上であり、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは20μm以上、特に好ましくは50μm以上、最も好ましくは70μm以上である。この断面平均径が大きい方が、発光効率が高くなるため好ましい。したがって、この断面平均径の上限は特に限定されないが、1000μm以下が現実的であり、より現実的には500μm以下であり、さらに現実的には200μm以下である。また、このような断面平均径の半導体単結晶粒子を作製するには、基板12である配向多結晶アルミナ焼結体を構成するアルミナ粒子の板面における焼結粒径を0.3μm〜1000μmとするのが望ましく、より望ましくは3μm〜1000μm、さらに望ましくは10μm〜200μm、特に望ましくは14μm〜200μmである。あるいは、大粒径化層を設けて表面(基板12と反対側の面)における半導体単結晶粒子の断面平均径を裏面(基板12側の面)の断面平均径よりも大きくすることを念頭に置く場合には、配向多結晶焼結体を構成する粒子の板面における焼結粒径を10μm〜100μmとするのが望ましく、より望ましくは14μm〜70μmである。
【0034】
なお、発光機能層14の断面平均径の評価は以下のようにして行うことができる。成膜した発光機能層14の各層における半導体単結晶粒子の表面側及び裏面側の断面平均径を測定するため、発光機能層14の断面を走査電子顕微鏡にて画像を撮影する。具体的には発光機能層14を成膜した試料を切断し、板面と垂直な面(断面)をCP研磨機にて研磨した後、走査電子顕微鏡にて所望の発光機能層14の表面側と裏面側の界面付近を観察する。観測視野は、該界面を構成する発光機能層14の半導体単結晶粒子が10個から30個となるような範囲とする。得られた画像の界面部分における個々の半導体単結晶粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を、表面側又は裏面側における半導体単結晶粒子の断面平均径とする。なお、サーマルエッチングやケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。バッファ層16の断面平均径の評価も上記同様にして行えばよい。
【0035】
前述のように、発光機能層14を構成する層のうち実際に発光を生じる界面又は層よりも基板12側に位置する層及びバッファ層16から選択される少なくとも1層が大粒径化層であるのが好ましい。この大粒径化層は、基板12と反対側の面を構成している半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径Dに対する、大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dが大きい方が発光効率を高める観点から好ましく、より好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは1.0以上であり、特に好ましくは3以上である。このアスペクト比がLEDとする場合に発光効率を高める観点から好ましい。発光効率が高まる原因として、大粒径化層(例えばバッファ層16)を高アスペクト比の粒子とすることでその上に設けられる層(例えば発光機能層14)中の欠陥密度が低下すること、及び光の取り出し効率が高まること等が考えられるが、その詳細は定かではない。
【0036】
発光機能層14及び/又はバッファ層16を構成する各層が窒化ガリウム系材料で構成されるのが好ましい。例えば、配向多結晶アルミナ焼結体基板12上にノンドープの窒化ガリウム層からなるバッファ層16を設け、さらにn型窒化ガリウム層及びp型窒化ガリウム層を成長させてもよく、p型窒化ガリウム層とn型窒化ガリウム層の積層順序は逆であってもよい。p型窒化ガリウム層に使用されるp型ドーパントの好ましい例としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、亜鉛(Zn)及びカドミウム(Cd)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、n型窒化ガリウム層に使用されるn型ドーパントの好ましい例としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)及び酸素(O)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、p型窒化ガリウム層及び/又はn型窒化ガリウム層は、AlN及びInNからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化された窒化ガリウムからなるものであってもよく、p型層及び/又はn型層はこの混晶化された窒化ガリウムにp型ドーパント又はn型ドーパントがドープされていてもよい。例えば、窒化ガリウムとAlNの混晶であるAlGa1−xNにMgをドーピングすることでp型層、AlGa1−xNにSiをドーピングすることでとしてn型層として使用することができる。窒化ガリウムをAlNと混晶化することでバンドギャップが広がり、発光波長を高エネルギー側にシフトさせることができる。また、窒化ガリウムをInNとの混晶としてもよく、これによりバンドギャップが狭まり、発光波長を低エネルギー側にシフトさせることができる。p型窒化ガリウム層とn型窒化ガリウム層との間に、両層のいずれよりもバンドギャップが小さいGaN、又はAlN及びInNからなる群から選択される1種以上とGaNとの混晶からなる活性層を少なくとも有してもよい。活性層はp型層及びn型層とダブルへテロ接合された構造であり、この活性層を薄くした構成はp−n接合の一態様である量子井戸構造の発光素子に相当し、発光効率をより一層高めることができる。また、活性層は両層のいずれか一方よりもバンドギャップが小さくGaN、又はAlN及びInNからなる群から選択される1種以上とGaNとの混晶からなるものとしてもよい。このようなシングルヘテロ接合にても発光効率をより一層高めることができる。窒化ガリウム系バッファ層は、ノンドープのGaN、又はn型若しくはp型ドーピングされたGaNからなるものであってもよいし、格子定数が近いAlN、InN、或いはGaNとAlN及びInNからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化されたものであってもよい。
【0037】
もっとも、発光機能層14及び/又はバッファ層16は窒化ガリウム(GaN)系材料、酸化亜鉛(ZnO)系材料、窒化アルミニウム(AlN)系材料から選ばれる複数の材料系で構成してもよい。例えば配向多結晶アルミナ焼結体基板12上にノンドープの窒化ガリウム層からなるバッファ層16を設け、さらにp型窒化ガリウム層、n型酸化亜鉛層を成長させてもよく、p型窒化ガリウム層とn型酸化亜鉛層の積層順序は逆であってもよい。n型酸化亜鉛層をバッファ層上に形成する場合は、バッファ層16の材質はノンドープ、又はn型の酸化亜鉛層で構成された層としてもよい。また、配向多結晶アルミナ焼結体基板12上にノンドープの窒化ガリウム層からなるバッファ層16を設け、さらにn型窒化ガリウム層、p型酸化亜鉛層を成長させてもよく、n型窒化ガリウム層とp型酸化亜鉛層の積層順序は逆であってもよい。p型酸化亜鉛層をバッファ層上に形成する場合は、バッファ層16の材質はノンドープ、又はp型の酸化亜鉛層で構成された層としてもよい。p型酸化亜鉛層に使用されるp型ドーパントの好ましい例としては、窒素(N)、リン(P)、砒素(As)、カーボン(C)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、銀(Ag)及び銅(Cu)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。また、n型酸化亜鉛層に使用されるn型ドーパントの好ましい例としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、硼素(B)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及びシリコン(Si)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0038】
発光機能層14及びバッファ層16の作製方法は特に限定されないが、MOCVD(有機金属気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)、HVPE(ハライド気相成長法)、スパッタリング等の気相法、Naフラックス法、アモノサーマル法、水熱法、ゾルゲル法等の液相法、粉末の固相成長を利用した粉末法、及びこれらの組み合わせが好ましく例示される。例えばMOCVD法を用いて窒化ガリウム系材料からなる発光機能層14及びバッファ層16を作製する場合においては、少なくともガリウム(Ga)を含む有機金属ガス(例えばトリメチルガリウム)と窒素(N)を少なくとも含むガス(例えばアンモニア)を原料として基板上にフローさせ、水素、窒素又はその両方を含む雰囲気等において300〜1200℃程度の温度範囲で成長させてもよい。この場合、バンドギャップ制御のためインジウム(In)、アルミニウム(Al)、n型及びp型ドーパントとしてシリコン(Si)及びマグネシウム(Mg)を含む有機金属ガス(例えばトリメチルインジウム、トリメチルアルミニウム、モノシラン、ジシラン、ビス−シクロペンタジエニルマグネシウム)を適宜導入して成膜を行ってもよい。
【0039】
バッファ層16や発光機能層14の一部又は/及び全部を成膜する場合、配向アルミナ焼結体基板上に種結晶層を作製した後、バッファ層16及び発光機能層14を成膜させてもよい。種結晶層、バッファ層及び発光機能層の各成膜方法は特に限定されず、基板12である配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に概ね倣った結晶成長を促すものであればよい。例えば、Naフラックス法、アモノサーマル法等の液相法を用いて、窒化ガリウム系材料からなるバッファ層及び発光機能層を作製する場合、配向多結晶アルミナ焼結体基板12上にMOCVD法、MBE法、HVPE法、スパッタリング法等の気相成長法を用いて極薄い窒化ガリウムの種結晶を作製した後に、液相法による成膜を行ってもよい。全て同じ成膜法で行ってもよく、例えばMOCVD法を用いて種結晶、バッファ層16、発光機能層14の各層を成膜してもよい。なお、種結晶層の材質は窒化ガリウム系材料に限定されるものではなく、その上に形成されることになる層に基板12である配向多結晶アルミナ焼結体の結晶方位に概ね倣った結晶成長を促すものであればよい。例えば、MOCVD法、MBE法、HVPE法、スパッタリング法等の気相成長法を用いて極薄い酸化亜鉛の種結晶を作製した後に、液相法、気相成長法、固相成長法等を用いて酸化亜鉛系材料の成膜を行ってもよいし、酸化亜鉛からなる種結晶上に窒化ガリウム系材料の成膜を行ってもよい。
【0040】
本発明の特に好ましい態様によれば、バッファ層を備えた発光素子用複合基板を以下のようにして製造することができる。すなわち、(1)配向多結晶アルミナ焼結体を基板12として用意し、(2)基板12上に、MOCVD法を用いて窒化ガリウムからなる種結晶層を形成し、(3)この種結晶層上に、Naフラックス法を用いて、窒化ガリウムからなる層をバッファ層16として形成し、所望により(4)バッファ層16上に、窒化ガリウム系材料で構成される発光機能層14を形成する。この手順によれば高品質な窒化ガリウム系の発光素子用複合基板10を作製できる。この方法はバッファ層の形成をNaフラックス法により行うことを特徴としている。Naフラックス法によるバッファ層16の形成は、種結晶基板を設置した坩堝に金属Ga、金属Na及び所望によりドーパントを含む融液組成物を充填し、窒素雰囲気中で830〜910℃、3.5〜4.5MPaまで昇温加圧した後、温度及び圧力を保持しつつ回転することにより行うのが好ましい。保持時間は目的の膜厚によって異なるが、10〜20時間程度、あるいは20〜100時間程度としてもよい。また、こうしてNaフラックス法により得られた窒化ガリウム結晶を砥石で研削して板面を平坦にした後、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により板面を平滑化してバッファ層16とするのが好ましい。
【0041】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、バッファ層を備えた発光素子用複合基板を以下のようにして製造することができる。すなわち、(1)配向多結晶アルミナ焼結体を基板12として用意し、(2)基板12上に、MOCVD法を用いて窒化ガリウムからなる種結晶層を形成し、(3)この種結晶層上にNaフラックス法を用いて、窒化ガリウム系材料からなる層をバッファ層16として形成し、(4)バッファ層16上に、MOCVD法を用いて窒化ガリウム系材料からなるp型層(n型層)を形成し、(5)p型層(n型層)上にMBE法を用いて酸化亜鉛系材料からなる活性層を形成し、(6)活性層上に、水熱法を用いて酸化亜鉛系材料からなるn型層(p型層)を形成する。ただし、所望により、これらの工程の一部(例えば工程(2)、(3)、(4)及び/又は(5))は省略されてもよい。この手順によれば高品質な窒化ガリウム系と酸化亜鉛系のヘテロ接合からなる発光素子用複合基板10を作製できる。なお、窒化ガリウム系材料の成膜方法は全てMOCVD法又はNaフラックス法で行ってもよく、酸化亜鉛系材料の成膜方法は全て水熱法、又はMBE法、MOCVD法、スパッタリング法等の気相成長法で行ってもよい。
【0042】
発光機能層14の上に電極層及び/又は蛍光体層をさらに備えていてもよい。こうすることで発光素子用複合材料をより発光素子に近い形態で提供することができ、発光素子用複合材料としての有用性が高まる。電極層が設けられる場合、発光機能層14上に設けられるのが好ましい。電極層は公知の電極材料で構成すればよいが、ITO等の透明導電膜、又は格子構造等の開口率が高い金属電極とすれば、発光機能層で発生した光の取り出し効率を上げられる点で好ましい。
【0043】
発光機能層14が紫外光を放出可能なものである場合には、紫外光を可視光に変換するための蛍光体層を電極層の外側に設けてもよい。蛍光体層は紫外線を可視光に変換可能な公知の蛍光成分を含む層であればよく特に限定されない。例えば、紫外光により励起されて青色光を発光する蛍光成分と、紫外光により励起されて青〜緑色光を発光する蛍光成分と、紫外光により励起されて赤色光を発光する蛍光成分とを混在させて、混合色として白色光を得るような構成とするのが好ましい。そのような蛍光成分の好ましい組み合わせとしては、(Ca,Sr)(POCl:Eu、BaMgAl1017:Eu、及びMn、YS:Euが挙げられ、これらの成分をシリコーン樹脂等の樹脂中に分散させて蛍光体層を形成するのが好ましい。このような蛍光成分は上記例示物質に限定されるものではなく、他の紫外光励起蛍光体、例えばイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)やシリケート系蛍光体、酸窒化物系蛍光体等の組み合わせでもよい。
【0044】
一方、発光機能層14が青色光を放出可能なものである場合には、青色光を黄色光に変換するための蛍光体層を電極層の外側に設けてもよい。蛍光体層は青色光を黄色光に変換可能な公知の蛍光成分を含む層であればよく特に限定されない。例えばYAG等の黄色発光する蛍光体との組み合わせたものとしてもよい。このようにすることで、蛍光体層を透過した青色発光と蛍光体からの黄色発光は補色関係にあるため、擬似的な白色光源とすることができる。なお、蛍光体層は、青色を黄色に変換する蛍光成分と、紫外光を可視光に変換するための蛍光成分との両方を備えることで、紫外光の可視光への変換と青色光の黄色光への変換との両方を行う構成としてもよい。
【0045】
発光素子
上述した本発明による発光素子用複合基板を用いて高品質の発光素子を作製することができる。本発明の複合基板を用いた発光素子の構造やその作製方法は特に限定されるものではなく、ユーザーが複合基板を適宜加工して発光素子を作製すればよい。
【0046】
(1)横型構造の発光素子
本発明の複合基板を用いて、発光機能層14の法線方向だけでなく、水平面方向にも電流が流れる、いわゆる横型構造の発光素子を作製することができる。図2に横型構造の発光素子の一例を示す。図2に示される発光素子20は、複合基板10を用いて作製されたものである。具体的には、複合基板10の発光機能層14の表面(図示例ではp型層14aの表面)に透光性アノード電極24が設けられ、所望により透光性アノード電極24の一部の上にアノード電極パッド25が設けられる。一方、発光機能層14の他の部分ではフォトリソグラフィープロセス及びエッチング(好ましくは反応性イオンエッチング(RIE))が施されてn型層14cが部分的に露出され、この露出部分にカソード電極22が設けられる。このように、本発明の複合基板を用いることで、簡単な加工を施すだけで、高性能な発光素子を製造することができる。前述のとおり、複合基板10には電極層及び/又は蛍光体層が予め設けられていてもよく、その場合には、より少ない工程で高性能の発光素子を製造することができる。
【0047】
(2)縦型構造の発光素子
また、本発明の複合基板を用いて、発光機能層14の法線方向に電流が流れる、いわゆる縦型構造の発光素子も作製することができる。本発明の複合基板10は絶縁材料の多結晶アルミナ焼結体を基板12として用いているため、そのままの形態であると、基板12側に電極を設けることができず、縦型構造の発光素子を構成することができない。しかしながら、複合基板10を実装基板に接合させた後に基板12を除去すれば縦型構造の発光素子も作製可能である。図3にそのような縦型構造の発光素子の一例を示す。図3に示される発光素子30は、複合基板10を用いて作製されたものである。具体的には、予め必要に応じて複合基板10の最表面(図示例ではp型層14aの表面)にアノード電極層32を設けておく。そして、別途用意した基板36(以下、実装基板36という)に複合基板10の発光機能層14の最表面のアノード電極層32を接合する。その後、研削加工、レーザーリフトオフ、エッチング等の公知の方法で基板12を除去する。最後に、基板12を除去して露出したバッファ層16(バッファ層16が無い場合には発光機能層14)の表面にカソード電極層34を設ける。なお、このような構造とする場合はバッファ層16にp型ないしn型ドーパントのドーピング等により導電性を持たせる必要がある。こうして、実装基板36上に発光機能層14が形成された発光素子30を得ることができる。実装基板36の種類には特に限定がないが、実装基板36に導電性がある場合は実装基板36自体を電極とした縦型構造の発光素子30とすることもできる。この場合の実装基板36には発光機能層14への拡散等の影響がない限り、p型ないしn型ドーパントをドーピングした半導体材料でもよいし、金属材料としてもよい。また、発光機能層14は発光に伴って発熱する可能性があるが、高熱伝導性の実装基板36を用いることで発光機能層14及びその周辺温度を低く保つことができる。
【0048】
また、厚いバッファ層を作製することで実装基板を用いずに縦型構造の発光素子を作製することもできる。具体的には、バッファ層16を自立化可能なレベル(例えば厚さ20μm以上)まで厚肉に形成した後に発光機能層14を作製した複合基板を作製する。また、必要に応じて複合基板10の最表面にアノード電極層32を設けておく。その後、研削加工、レーザーリフトオフ、エッチング等の公知の方法で基板12を除去する。最後に、基板12を除去して露出したバッファ層16の表面にカソード電極層34を設ける。なお、このような構造とする場合はバッファ層16にp型ないしn型ドーパントのドーピング等により導電性を持たせる必要がある。こうして、発光機能層14が形成された自立する発光素子30を得ることができる。
【0049】
バッファ層16が前述した大粒径化層であるのが特に好ましい。この場合、バッファ層16は、発光機能層14側の面を構成している半導体単結晶粒子の当該面における断面平均径Dに対する、バッファ層16の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dが大きい方が発光効率を高める観点から好ましく、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは1.0以上であり、特に好ましくは3以上である。このアスペクト比がLEDとする場合に発光効率を高める観点から好ましい。発光効率が高まる原因として、バッファ層16を高アスペクト比の粒子とすることでその上に設けられる発光機能層14中の欠陥密度が低下すること、及び光の取り出し効率が高まること等が考えられるが、その詳細は定かではない。
【0050】
これまでに述べたとおり、発光効率を高める観点では、(1)活性層14bやp−n接合界面等の実際に発光する層又は界面よりも配向多結晶アルミナ基板12側の領域に大粒径化層を有し、この層を構成する粒子の表面と裏面の平均断面粒径の比は適度な値をとるのが良く、(2)発光機能層14の最表面の断面平均径は大きい方が良く、(3)大粒径化層(例えばバッファ層16)を構成する粒子のアスペクト比が大きい方が良い。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0052】
例1
(1)c面配向アルミナ基板の作製
原料として、板状アルミナ粉末(キンセイマテック株式会社製、グレード00610)を用意した。板状アルミナ粒子100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)7重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)3.5重量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)を混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるように、シート状に成形した。得られたテープを口径50.8mm(2インチ)の円形に切断した後150枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、円盤状の成形体を得た。
【0053】
得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1600℃で4時間、面圧200kgf/cmの条件で焼成した。得られた焼結体を熱間当方圧加圧法(HIP)にてアルゴン中1700℃で2時間、ガス圧1500kgf/cmの条件で再度焼成した。
【0054】
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、口径50.8mm(2インチ)、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは1nmであった。
【0055】
(2)配向アルミナ基板の評価
(配向度の評価)
得られた配向アルミナ基板の配向度を確認するため、XRDにより本実験例における測定対象とする結晶面であるc面の配向度を測定した。XRD装置(株式会社リガク製、RINT−TTR III)を用い、配向アルミナ基板の板面に対してX線を照射したときの2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。c面配向度は、以下の式により算出した。この結果、本実験例におけるc面配向度の値は97%であった。
【数2】
【0056】
(焼結体粒子の粒径評価)
配向アルミナ基板の焼結体粒子について、板面の平均粒径を以下の方法により測定した。得られた配向アルミナ基板の板面を研磨し、1550℃で45分間サーマルエッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。得られた画像の対角線に引いた2本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を板面の平均粒径とした。この結果、板面の平均粒径は100μmであった。
【0057】
(3)発光素子用基板の作製
(3a)種結晶層の成膜
次に、加工した配向アルミナ基板の上に、MOCVD法を用いて、種結晶層を形成した。具体的には、530℃にて低温GaN層を40nm堆積させた後に、1050℃にて厚さ3μmのGaN膜を積層させて種結晶基板を得た。
【0058】
(3b)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜
上記工程で作製した種結晶基板を、内径80mm、高さ45mmの円筒平底のアルミナ坩堝の底部分に設置し、次いで融液組成物をグローブボックス内で坩堝内に充填した。融液組成物の組成は以下のとおりである。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
【0059】
このアルミナ坩堝を耐熱金属製の容器に入れて密閉した後、結晶育成炉の回転が可能な台上に設置した。窒素雰囲気中で870℃、4.0MPaまで昇温加圧後、10時間保持しつつ溶液を回転することで、撹拌しながら窒化ガリウム結晶をバッファ層として成長させた。結晶成長終了後、3時間かけて室温まで徐冷し、結晶育成炉から育成容器を取り出した。エタノールを用いて、坩堝内に残った融液組成物を除去し、窒化ガリウム結晶が成長した試料を回収した。得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上に窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.1mmであった。クラックは確認されなかった。
【0060】
こうして得られた配向アルミナ基板上の窒化ガリウム結晶を、基板ごとセラミックスの定盤に固定し、窒化ガリウム結晶の板面を#600及び#2000の砥石によって研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、窒化ガリウム結晶の板面を平滑化した。このとき、砥粒のサイズを3μmから0.1μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。こうして、配向アルミナ基板上に厚み約50μmの窒化ガリウム結晶層を形成した基板を得た。なお、本例では、後述する発光機能層の結晶性を高めるため、このような窒化ガリウムバッファ層を形成したが、目標特性や用途によってはバッファ層自体を省略してもよい。また、窒化ガリウムバッファ層中にゲルマニウム、シリコン、酸素等をドーピングして導電性を持たせた構造としてもよい。
【0061】
(3c)MOCVD法による発光機能層の成膜と断面平均径の評価
MOCVD法を用いて、基板上にn型層として1050℃でSi原子濃度が5×1018/cmになるようにドーピングしたn−GaN層を3μm堆積した。次に活性層として750℃で多重量子井戸層を堆積した。具体的にはInGaNによる2.5nmの井戸層を5層、GaNによる10nmの障壁層を6層にて交互に積層した。次にp型層として950℃でMg原子濃度が1×1019/cmになるようにドーピングしたp−GaNを200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行い、発光素子用基板を得た。
【0062】
(発光機能層の断面平均径の評価)
成膜した発光機能層の最表面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径を測定するため、発光機能層の表面を走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、10個から30個の柱状組織と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。得られた画像の対角線に2本の直線を引き、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を、発光機能層の最表面におけるGaN単結晶粒子の断面平均径とした。この結果、断面平均径は約100μmであった。なお、本例では表面の走査顕微鏡像で明瞭に柱状組織の界面を判別できたが、サーマルエッチングやケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。
【0063】
(4)横型発光素子の作製と評価
作製した発光素子用基板の発光機能層側においてフォトリソグラフィープロセスとRIE法とを用い、n型層の一部を露出した。続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、n型層の露出部分に、カソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型層に透光性アノード電極としてNi/Au膜をそれぞれ6nm、12nmの厚みにパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、透光性アノード電極としてのNi/Au膜の上面の一部領域に、アノード電極パッドとなるNi/Au膜をそれぞれ5nm、60nmの厚みにパターニングした。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、横型構造の発光素子を得た。
【0064】
(発光素子の評価)
カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0065】
例2
(1)発光素子用基板の作製
(1a)Naフラックス法による種結晶基板上へのGaNバッファ層の成膜
例1の(1)〜(3)と同様にして、配向アルミナ基板上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、融液組成物を下記組成としたこと以外は例1の(3b)と同様にしてGaNバッファ層を成膜した。
・金属Ga:60g
・金属Na:60g
・四塩化ゲルマニウム:1.85g
【0066】
得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にゲルマニウムがドープされた窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.1mmであった。クラックは確認されなかった。その後、例1(3b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ基板上に厚み約50μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶層を形成した基板を得た。
【0067】
(体積抵抗率の評価)
ホール効果測定装置を用い、ゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶層の面内の体積抵抗率を測定した。その結果、体積抵抗率は1×10−2Ω・cmであった。
【0068】
(1b)MOCVD法による発光機能層の成膜と断面平均径の評価
例1の(3c)と同様の方法を用いて、基板上へ発光機能層を形成し、発光素子用基板を得た。また、例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果、発光機能層の板面の平均粒径は約100μmであった。
【0069】
(2)縦型発光素子の作製と評価
本例で作製した発光素子用基板に、真空蒸着法を用いて、p型層に反射性アノード電極層としてAg膜を200nmの厚みに堆積した。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。次に、Sn−Agはんだを用いて、p型層上の反射性アノード電極層となるAg膜と、別途用意した50.8mm(2インチ)厚さ280μmのp型Si基板(実装基板)を貼り合わせて、250℃で60秒間リフローすることで接合した。次に、配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去し、ゲルマニウムドープ窒化ガリウムで構成されたGaNバッファ層を露出した。次に、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、GaNバッファ層にカソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。カソード電極のパターンは、電極が形成されていない箇所から光が取り出せるように開口部を有する形状とした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、縦型構造の発光素子を得た。
【0070】
(発光素子の評価)
カソード電極とアノード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0071】
例3
(1)発光素子用基板の作製
(1a)MOCVD法によるp型層の成膜
例1の(1)〜(3)と同様にして、配向アルミナ基板上に厚み約50μmの窒化ガリウム結晶層を形成した基板を得た。次にMOCVD法を用いて、基板上にp型層として950℃でMg原子濃度が1×1019/cmになるようにドーピングしたp−GaNを200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行った。
【0072】
(1b)RS−MBE法及び水熱法によるn型層の成膜
(1b−1)RS−MBE法による種結晶層の成膜
RS−MBE(ラジカルソース分子線成長)装置にて、金属材料である亜鉛(Zn)とアルミニウム(Al)をクヌーセンセルで照射し、p型層上に供給した。ガス材料である酸素(O)は、RFラジカル発生装置にてそれぞれOガスを原料とし、酸素ラジカルとして供給した。各種原料の純度はZnが7N、Oが6Nのものを用いた。基板は抵抗加熱ヒーターを用いて700℃に加熱し、膜中のAl濃度が2×1018/cmとなり、ZnとO原子濃度の比が1対1となるように各種ガスソースのフラックスを制御しながら厚さ20nmのAlがドープされたn−ZnOからなる種結晶層を成膜した。
【0073】
(1c−2)水熱法によるn型層の成膜
硝酸亜鉛を純水中に0.1Mとなるように溶解させて溶液Aとした。次に1Mのアンモニア水を準備し、溶液Bとした。次に硫酸アルミニウムを純水中に0.1Mとなるように溶解させて溶液Cとした。これらの溶液を容積比で、溶液A:溶液B:溶液C=1:1:0.01となるように混合及び撹拌して、育成用水溶液を得た。
【0074】
種結晶層を成膜した配向アルミナ基板を懸垂させて育成用水溶液中1リットル中に設置した。次に、防水加工を施したセラミックス製ヒーターとマグネチックスターラーを水溶液中に設置し、オートクレーブに入れて270℃で3時間の水熱処理を行い、種結晶層上にZnO層を析出させた。ZnO層が析出した配向アルミナ基板を純水洗浄した後、大気中500℃でアニール処理を行い、厚さ約3μmのAlがドープされたn−ZnO層を形成した。試料中に気孔やクラックは検出されず、テスターにてZnO層の導電性が確認された。また、例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果、発光機能層の板面の平均粒径は約100μmであった。
【0075】
(2)横型発光素子の作製と評価
本例で作製した発光素子用基板の発光機能層側においてフォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、n型層層にカソード電極としてTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。カソード電極のパターンは、電極が形成されていない箇所から光が取り出せるように開口部を有する形状とした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスとRIE法とを用い、p型層の一部を露出させた。続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型層の露出部分に、アノード電極としてのNi/Au膜をそれぞれ5nm、100nmの厚みにパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、横型構造の発光素子を得た。
【0076】
(発光素子の評価)
アノード電極とカソード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長約380nmの発光が確認された。
【0077】
例4
(1)発光素子用基板の作製
(1a)MOCVD法によるp型層層の成膜
例1の(1)〜(3)と同様にして、配向アルミナ基板上に厚み約50μmの窒化ガリウム結晶層を形成した基板を得た。次にMOCVD法を用いて、基板上にp型層層として950℃でMg原子濃度が1×1019/cmになるようにドーピングしたp−GaNを200nm堆積した。その後、MOCVD装置から取り出し、p型層のMgイオンの活性化処理として、窒素雰囲気中で800℃の熱処理を10分間行った。
【0078】
(1b)RS−MBE法による活性層の成膜
RS−MBE(ラジカルソース分子線成長)装置にて、金属材料である亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)をクヌーセンセルで照射し、p型層上に供給した。ガス材料である酸素(O)は、RFラジカル発生装置にてそれぞれOガスを原料とし、酸素ラジカルとして供給した。各種原料の純度はZn、Cdが7N、Oが6Nのものを用いた。基板は抵抗加熱ヒーターを用いて700℃に加熱し、Cd0.2Zn0.8O層となるように各種ガスソースのフラックスを制御しながら厚さ1.5nmの活性層を成膜した。
【0079】
(1c)RFマグネトロンスパッタリング法によるn型層の成膜
次にRFマグネトロンスパッタ法を用いて、活性層上にn型層としてn−ZnO層を500nm成膜した。成膜にはAlが2重量部添加されたZnOターゲットを使用し、成膜条件は純Ar雰囲気、圧力0.5Pa、投入電力150W、成膜時間5分間とした。また、例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果、発光機能層の板面の平均粒径は約100μmであった。
【0080】
(2)横型発光素子の作製と評価
本例で作製した発光素子用基板の発光機能層側においてフォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、n型層にカソード電極としてTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。カソード電極のパターンは、電極が形成されていない箇所から光が取り出せるように開口部を有する形状とした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。さらに、フォトリソグラフィープロセスとRIE法とを用い、p型層の一部を露出した。続いて、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、p型層の露出部分に、アノード電極としてのNi/Au膜をそれぞれ5nm、60nmの厚みにパターニングした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、横型構造の発光素子を得た。
【0081】
(発光素子の評価)
アノード電極とカソード電極間に通電し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長約400nmの発光が確認された。
例5
(1)c面配向アルミナ焼結体の作製
例1の(1)と同様にして円盤状の成形体を得た。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1700℃で4時間、面圧200kgf/cmの条件で焼成した。
【0082】
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、口径50.8mm(2インチ)、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは4nmであった。また、例1と同様の方法でc面配向度と板面の平均粒径を評価したところ、c面配向度は99%、平均粒径は18μmであった。
【0083】
(2)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜
例1の(3a)と同様の方法で配向アルミナ基板の上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、保持時間を20時間とした以外は例2(1a)と同様にしてGeドープGaN膜を成膜した。得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.2mmであった。クラックは確認されなかった。その後、例1(3b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ基板上に厚み約50μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶からなるバッファ層を形成した基板を得た。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。
【0084】
(GeドープGaNバッファ層の断面EBSD測定)
こうして得られた試料を切断して板面と垂直方向の面を露出させ、CP研磨機(日本電子株式会社製、IB−09010CP)を用いて研磨した後、電子線後方散乱回折装置(EBSD)(TSLソリューションズ製)にてGaNバッファ層の逆極点図方位マッピングを実施した。図5に逆極点図方位マッピングを示す。また、図6に板面(表面)で測定した逆極点図方位マッピングを、図7に配向アルミナ基板と窒化ガリウム結晶(バッファ層)の界面を拡大した結晶粒マッピング像を示す。図5より、窒化ガリウム結晶は配向アルミナ基板側より表面側(配向アルミナ基板と反対側)の方が粒径大きい大粒径化層であり、窒化ガリウム結晶の形状は断面像上、台形、三角形など、完全な柱状ではないことが分かる。また、厚膜化に伴って粒径が増大して表面まで成長が進む粒子と、表面まで成長が進まない粒子が存在することが分かる。図6より、窒化ガリウム結晶を構成する各粒子は概ねc面が法線方向に配向していることが示される。また、図7より、下地となる配向アルミナ基板を構成する結晶粒子を起点として窒化ガリウム結晶の粒子が成長していることが分かる。図5のような成長挙動となる原因は不明だが、図8に概念的に示されるように、成長が遅い粒子を成長が速い粒子が覆うようにして成長が進行したためではないかと考えられる。したがって、窒化ガリウム結晶を構成する窒化ガリウム粒子のうち、表面側に露出している粒子は裏面と粒界を介さずに連通しているが、裏面側に露出した粒子の一部は途中で成長が停止したものも含まれる。
【0085】
次に、走査電子顕微鏡にてCP研磨したGaNバッファ層の表面付近及び裏面付近を観察した。観測視野は、構成するバッファ層のGaN粒子が10個から30個となるような範囲とした。得られた画像の界面部分における個々のGaN粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を、表面側ないし裏面側におけるGaN単結晶粒子の断面平均径とした。その結果、表面の断面平均径は約50μm、裏面の断面平均径は約18μmであった。このように断面平均径は表面の方が裏面よりも大きく、この大粒径化層の裏面の断面平均径Dに対する表面の断面平均径Dの比D/Dは約2.8となった。また、配向多結晶アルミナ焼結体基板と反対側の面を構成している断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dは約1.0であった。なお、サーマルエッチングやケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。例2の(1a)と同様の方法で体積抵抗率を測定したところ、体積抵抗率は1×10−2Ω・cmであった。
【0086】
(3)縦型発光素子の作製と評価
例1の(3c)と同様の方法を用いて、バッファ層を成膜した基板上へ発光機能層を形成し、発光素子用基板を得た。また、例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果、発光機能層の板面の平均粒径は約50μmであった。また、例2(2)と同様の方法を用いて縦型構造の発光素子を作製し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0087】
参考のため、上述した(1)及び(2)と同様にして作製したバッファ層の表面側を研削し、厚さ20μmとした窒化ガリウムバッファ層も準備した。このときの最表面における単結晶粒子の断面平均径は約35μmであり、裏面の断面平均径Dに対する表面の断面平均径Dの比D/Dは1.9、アスペクト比T/Dは約0.6であった。この試料を用いて上記と同様の発光機能層を作製し、縦型の発光素子とした後に順方向に電流を流したところ、整流性、波長450nmの発光共に確認され、発光輝度もある程度高かったが、上記の素子より発光輝度は低下した。
【0088】
例6
(1)c面配向アルミナ焼結体の作製
原料として、板状アルミナ粉末(キンセイマテック株式会社製、グレード02025)、微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)、及び酸化マグネシウム粉末(宇部マテリアルズ株式会社、グレード500A)を用意し、板状アルミナ粉末5重量部、微細アルミナ粉末95重量部、酸化マグネシウム粉末0.025重量部を混合してアルミナ原料を得た。次に、アルミナ原料100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)8重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部と、分散媒(キシレンと1−ブタノールを重量比1:1で混合したもの)を混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるように、シート状に成形した。得られたテープを口径50.8mm(2インチ)の円形に切断した後30枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、円盤状の成形体を得た。
【0089】
得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1800℃で4時間、面圧200kgf/cmの条件で焼成した。
【0090】
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、口径50.8mm(2インチ)、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは4nmであった。また、例1と同様の方法でc面配向度と板面の平均粒径を評価したところ、c面配向度は96%、平均粒径は約20μmであった。
【0091】
(2)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜
例1の(3a)と同様にして配向アルミナ基板の上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、保持時間を40時間とした以外は例2の(1a)と同様にしてGeドープGaN膜を成膜した。得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.4mmであった。クラックは確認されなかった。
【0092】
その後、例1の(3b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ基板上に厚み約260μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶からなるバッファ層を形成した基板を得た。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。
【0093】
(GeドープGaNバッファ層の断面EBSD測定)
次に、例5と同様の方法を用いてGaNバッファ層の断面の逆極点図方位マッピングを実施したところ、窒化ガリウム結晶は配向アルミナ基板側より表面側(配向アルミナ基板と反対側)の方が粒径大きい大粒径化層であり、窒化ガリウム結晶の形状は断面像上、台形、三角形など、完全な柱状ではないことが分かった。また、厚膜化に伴って粒径が増大して表面まで成長が進む粒子と、表面まで成長が進まない粒子が存在することが分かった。このような挙動となる原因は定かではないが、図8で示したように成長が遅い粒子を成長が速い粒子が覆うようにして成長が進んだ結果と考えられる。したがって、大粒径化層を構成する窒化ガリウム粒子のうち、表面側(配向アルミナ基板と反対側)に露出している粒子は裏面と粒界を介さずに連通しているが、裏面側(配向アルミナ基板側)に露出した粒子の一部は途中で成長が停止したものも含まれる。
【0094】
次に、例5と同様の方法にてGaNバッファ層の表面付近及び裏面付近を観察した。その結果、表面の断面平均径は約220μm、裏面の断面平均径は約20μmであった。このように断面平均径は表面の方が裏面よりも大きく、本大粒径化層の裏面の断面平均径Dに対する表面の断面平均径Dの比D/Dは約11.0となった。また、配向多結晶アルミナ焼結体基板と反対側の面を構成している断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dは約1.2であった。なお、サーマルエッチングやケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。例2の(1a)と同様の方法で体積抵抗率を測定したところ、体積抵抗率は1×10−2Ω・cmであった。
【0095】
(3)縦型発光素子の作製と評価
例1の(3c)と同様の方法を用いて、バッファ層を成膜した基板上へ発光機能層を形成し、発光素子用基板を得た。また、例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果、発光機能層の板面の平均粒径は約220μmであった。また、例2(2)と同様の方法を用いて縦型構造の発光素子を作製し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。しかし、発光輝度はある程度高かったが、例5より弱いことが分かった。
【0096】
例7
(1)c面配向アルミナ焼結体の作製
ホットプレスでの焼成温度を1750℃とした以外は例6と同様にしてc面配向アルミナ基板を作製した。得られた焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、口径50.8mm(2インチ)、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは4nmであった。また、例1と同様の方法でc面配向度と板面の平均粒径を評価したところ、c面配向度は96%、平均粒径は14μmであった。
【0097】
(2)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜
例1の(3a)と同様にして配向アルミナ基板の上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、保持時間を30時間とした以外は例2の(1a)と同様にしてGeドープGaN膜を成膜した。得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.3mmであった。クラックは確認されなかった。
【0098】
その後、例1(3b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ基板上に厚み約90μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶からなるバッファ層を形成した基板を得た(例7−1)。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。
【0099】
また、上記と同様にしてGeドープ窒化ガリウム結晶を作製し、その板面(表面)を#600及び#2000の砥石を用いて研削して、窒化ガリウム結晶からなるバッファ層の厚みが70、50、30、20μmとなる試料(例7−2〜例7−5)をそれぞれ作製し、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により板面を平滑化した。各試料加工後の表面の平均粗さRaはいずれも0.2nmであった。
【0100】
(GeドープGaNバッファ層の断面EBSD測定)
次に、例5及び6と同様の方法を用いて、各試料のGaNバッファ層の断面の逆極点図方位マッピングを実施したところ、いずれも窒化ガリウム結晶は配向アルミナ基板側より表面側(配向アルミナ基板と反対側)の方が粒径大きい大粒径化層であり、窒化ガリウム結晶の形状は断面像上、台形、三角形など、完全な柱状ではないことが分かった。また、厚膜化に伴って粒径が増大して表面まで成長が進む粒子と、表面まで成長が進まない粒子が存在することが分かった。このような挙動となる原因は定かではないが、図8で示したように成長が遅い粒子を成長が速い粒子が覆うようにして成長が進んだ結果と考えられる。したがって、大粒径化層を構成する窒化ガリウム粒子のうち、表面側(配向アルミナ基板と反対側)に露出している粒子は裏面と粒界を介さずに連通しているが、裏面側(配向アルミナ基板側)に露出した粒子の一部は途中で成長が停止したものも含まれる。
【0101】
次に、例5及び6と同様の方法にてGaNバッファ層の表面付近及び裏面付近を観察した。バッファ層の厚みと表面の断面平均径(D)、裏面の断面平均径(D)、及び本大粒径化層の裏面の断面平均径Dに対する表面の断面平均径Dの比D/D、及び配向多結晶アルミナ焼結体基板と反対側の面を構成している断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dは表1のとおりであった。また、例2の(1a)と同様の方法で体積抵抗率を測定したところ、いずれの試料も体積抵抗率は1×10−2Ω・cmであった。
【0102】
【表1】
【0103】
(3)縦型発光素子の作製と評価
例1の(3c)と同様の方法を用いて、基板上へ発光機能層を形成し、発光素子用基板を得た。例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果を表1に示す。また、例2(2)と同様の方法を用いて縦型構造の発光素子を作製した結果、いずれの試料もI−V測定より整流性が確認され、順方向の通電により波長450nmの発光が確認された。発光輝度はいずれもある程度高かったが、例7−1>例7−2>例7−3>例7−4>例7−5の関係であった。
【0104】
例8
(1)c面配向アルミナ焼結体の作製
原料として、板状アルミナ粉末(キンセイマテック株式会社製、グレード02025)、微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)、フッ化アルミニウム(関東化学製)、及び酸化マグネシウム粉末(宇部マテリアルズ株式会社、グレード500A)を用意し、板状アルミナ粉末5重量部、微細アルミナ粉末95重量部、フッ化アルミニウム粉末0.05重量部、酸化マグネシウム粉末0.025重量部を混合してアルミナ原料を得た。次に、アルミナ原料100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)8重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部と、分散媒(キシレンと1−ブタノールを重量比1:1で混合したもの)を混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるように、シート状に成形した。得られたテープを口径50.8mm(2インチ)の円形に切断した後30枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、円盤状の成形体を得た。
【0105】
得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1800℃で4時間、面圧200kgf/cmの条件で焼成した。
【0106】
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、口径50.8mm(2インチ)、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは4nmであった。また、例1と同様の方法でc面配向度と板面の平均粒径を評価したところ、c面配向度は92%、平均粒径は約64μmであった。
【0107】
(2)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜
例1の(3a)と同様にして配向アルミナ基板の上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、保持時間を30時間とした以外は例2の(1a)と同様にしてGeドープGaN膜を成膜した。得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.3mmであった。クラックは確認されなかった。
【0108】
その後、例1(3b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ基板上に厚み約90μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶からなるバッファ層を形成した基板を得た。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。
【0109】
(GeドープGaNバッファ層の断面EBSD測定)
次に、例5〜7と同様の方法を用いて、各試料のGaNバッファ層の断面の逆極点図方位マッピングを実施したところ、いずれも窒化ガリウム結晶は配向アルミナ基板側より表面側(配向アルミナ基板と反対側)の方が粒径大きい大粒径化層であり、窒化ガリウム結晶の形状は断面像上、台形、三角形など、完全な柱状ではないことが分かった。また、厚膜化に伴って粒径が増大して表面まで成長が進む粒子と、表面まで成長が進まない粒子が存在することが分かった。このような挙動となる原因は定かではないが、図8で示したように成長が遅い粒子を成長が速い粒子が覆うようにして成長が進んだ結果と考えられる。したがって、大粒径化層を構成する窒化ガリウム粒子のうち、表面側(配向アルミナ基板と反対側)に露出している粒子は裏面と粒界を介さずに連通しているが、裏面側(配向アルミナ基板側)に露出した粒子の一部は途中で成長が停止したものも含まれる。
【0110】
次に、例5〜7と同様の方法にてGaNバッファ層の表面付近及び裏面付近を観察した。その結果、表面の断面平均径は約80μm、裏面の断面平均径は約64μmであった。このように断面平均径は表面の方が裏面よりも大きく、本大粒径化層の裏面の断面平均径Dに対する表面の断面平均径Dの比D/Dは約1.3となった。また、配向多結晶アルミナ焼結体基板と反対側の面を構成している断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dは約1.1であった。なお、サーマルエッチングやケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。例2の(1a)と同様の方法で体積抵抗率を測定したところ、体積抵抗率は1×10−2Ω・cmであった。
【0111】
(3)縦型発光素子の作製と評価
例1の(3c)と同様の方法を用いて、基板上へ発光機能層を形成し、発光素子用基板を得た。また、例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果、発光機能層の板面の平均粒径は約80μmであった。また、例2(2)と同様の方法を用いて縦型構造の発光素子を作製し、I−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。
【0112】
例9
(1)c面配向アルミナ焼結体の作製
フッ化アルミニウム粉末の量を0.02重量部とした以外は例8と同様にしてc面配向アルミナ基板を作製した。このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、口径50.8mm(2インチ)、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは4nmであった。また、例1と同様の方法でc面配向度と板面の平均粒径を評価したところ、c面配向度は94%、平均粒径は41μmであった。
【0113】
(2)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜と縦型発光素子の作製
例1の(3a)と同様にして配向アルミナ基板の上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、保持時間を30時間とした以外は例2の(1a)と同様にしてゲルマニウムドープGaN膜を成膜した。得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.3mmであった。クラックは確認されなかった。
【0114】
その後、例1(3b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ基板上に厚み約140μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶からなるバッファ層を形成した基板を得た。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。
【0115】
次に、例1の(3c)と同様の方法を用いて、発光素子用基板を得た。また、例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果、発光機能層の板面の平均粒径は約81μmであった。
【0116】
こうして得られた発光素子用基板に真空蒸着法を用いて、p型層に反射性アノード電極層としてAg膜を200nmの厚みに堆積した。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。次に、Sn−Agはんだを用いて、p型層上の反射性アノード電極層となるAg膜と、別途用意した50.8mm(2インチ)厚さ280μmのp型Si基板(実装基板)を貼り合わせて、250℃で60秒間リフローすることで接合した。次に、配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去し、GaNバッファ層を露出した。更にGaNバッファ層を約80μm研削加工により薄肉化し、バッファ層の厚みを60μmとした。露出したバッファ層を#600及び#2000の砥石によって研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、バッファ層の板面を平滑化した。このとき、砥粒のサイズを3μmから0.1μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。GaNバッファ層の板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。次に、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、GaNバッファ層にカソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。カソード電極のパターンは、電極が形成されていない箇所から光が取り出せるように開口部を有する形状とした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、縦型構造の発光素子を得た。
【0117】
(GeドープGaNバッファ層の断面EBSD測定)
上記と同様の方法で別途作製した縦型発光素子を切断して板面と垂直方向の面を露出させ、CP研磨機(日本電子株式会社製、IB−09010CP)を用いて研磨した後、電子線後方散乱回折装置(EBSD)(TSLソリューションズ製)にてGaNバッファ層の逆極点図方位マッピングを実施した。その結果、GaNバッファ層は発光機能層側(表面側)の方が粒径大きい大粒径化層であり、窒化ガリウム結晶の形状は断面像上、台形、三角形など、完全な柱状ではないことが分かった。また、厚膜化に伴って粒径が増大して表面まで成長が進む粒子と、表面まで成長が進まない粒子が存在することが分かった。このような挙動となる原因は定かではないが、図8で示したように成長が遅い粒子を成長が速い粒子が覆うようにして成長が進んだ結果と考えられる。したがって、大粒径化層を構成する窒化ガリウム粒子のうち、発光機能層側(表面側)の界面に露出している粒子は裏面と粒界を介さずに連通しているが、カソード電極側(裏面側)に露出した粒子の一部は途中で成長が停止したものも含まれる。
【0118】
次に、例5〜8と同様の方法にてGaNバッファ層の発光機能層が形成されている表面付近及びカソード電極が形成されている裏面付近を観察した。その結果、表面の断面平均径は約81μm、裏面の断面平均径は約61μmであった。このように断面平均径は表面の方が裏面よりも大きく、本大粒径化層の裏面の断面平均径Dに対する表面の断面平均径Dの比D/Dは約1.3となった。また、配向多結晶アルミナ焼結体基板と反対側の面を構成している断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dは約0.7であった。なお、サーマルエッチングやケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。
【0119】
(3)縦型発光素子の評価
例2(2)と同様の方法を用いてI−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。しかし、発光輝度はある程度高かったが、例8より弱いことが分かった。
【0120】
例10
(1)c面配向アルミナ焼結体の作製
原料として、板状アルミナ粉末(キンセイマテック株式会社製、グレード10030)、微細アルミナ粉末(大明化学工業株式会社製、グレードTM−DAR)、及び酸化マグネシウム粉末(宇部マテリアルズ株式会社、グレード500A)を用意し、板状アルミナ粉末5重量部、微細アルミナ粉末95重量部、酸化マグネシウム粉末0.025重量部を混合してアルミナ原料を得た。次に、アルミナ原料100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)8重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部と、分散媒(キシレンと1−ブタノールを重量比1:1で混合したもの)を混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが100μmとなるように、シート状に成形した。得られたテープを口径50.8mm(2インチ)の円形に切断した後30枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cmの圧力にて静水圧プレスを行い、円盤状の成形体を得た。
【0121】
得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1800℃で4時間、面圧200kgf/cmの条件で焼成した。
【0122】
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、板面を平滑化し、口径50.8mm(2インチ)、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは4nmであった。また、例1と同様の方法でc面配向度と板面の平均粒径を評価したところ、c面配向度は99%、平均粒径は約24μmであった。
【0123】
(2)Naフラックス法によるGaNバッファ層の成膜と縦型発光素子の作製
例1の(3a)と同様にして配向アルミナ基板の上に厚さ3μmのGaN膜を積層させた種結晶基板を作製した。この種結晶基板上に、保持時間を30時間とした以外は例2の(1a)と同様にしてゲルマニウムドープGaN膜を成膜した。得られた試料は、50.8mm(2インチ)の種結晶基板の全面上にGeドープ窒化ガリウム結晶が成長しており、結晶の厚さは約0.3mmであった。クラックは確認されなかった。
【0124】
その後、例1(3b)と同じ方法を用いて試料を加工し、配向アルミナ基板上に厚み約130μmのゲルマニウムドープ窒化ガリウム結晶からなるバッファ層を形成した基板を得た。窒化ガリウム結晶板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。
【0125】
次に、例1の(3c)と同様の方法を用いて、発光素子用基板を得た。また、例1の(3c)と同様の方法を用いて発光機能層の断面平均径を評価した結果、発光機能層の板面の平均粒径は約75μmであった。
【0126】
こうして得られた発光素子用基板に真空蒸着法を用いて、p型層に反射性アノード電極層としてAg膜を200nmの厚みに堆積した。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために窒素雰囲気中で500℃の熱処理を30秒間行った。次に、Sn−Agはんだを用いて、p型層上の反射性アノード電極層となるAg膜と、別途用意した50.8mm(2インチ)厚さ280μmのp型Si基板(実装基板)を貼り合わせて、250℃で60秒間リフローすることで接合した。次に、配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去し、GaNバッファ層を露出した。更にGaNバッファ層を約90μm研削加工により薄肉化し、バッファ層の厚みを40μmとした。露出したバッファ層を#600及び#2000の砥石によって研削して板面を平坦にした。次いで、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により、バッファ層の板面を平滑化した。このとき、砥粒のサイズを3μmから0.1μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。GaNバッファ層の板面の加工後の平均粗さRaは0.2nmであった。次に、フォトリソグラフィープロセスと真空蒸着法とを用いて、GaNバッファ層にカソード電極としてのTi/Al/Ni/Au膜をそれぞれ15nm、70nm、12nm、60nmの厚みでパターニングした。カソード電極のパターンは、電極が形成されていない箇所から光が取り出せるように開口部を有する形状とした。その後、オーム性接触特性を良好なものとするために、窒素雰囲気中での700℃の熱処理を30秒間行った。こうして得られたウェハーを切断してチップ化し、さらにリードフレームに実装して、縦型構造の発光素子を得た。
【0127】
(GeドープGaNバッファ層の断面EBSD測定)
上記と同様の方法で別途作製した縦型発光素子を切断して板面と垂直方向の面を露出させ、CP研磨機(日本電子株式会社製、IB−09010CP)を用いて研磨した後、電子線後方散乱回折装置(EBSD)(TSLソリューションズ製)にてGaNバッファ層の逆極点図方位マッピングを実施した。その結果、GaNバッファ層は発光機能層側(表面側)の方が粒径大きい大粒径化層であり、窒化ガリウム結晶の形状は断面像上、台形、三角形など、完全な柱状ではないことが分かった。また、厚膜化に伴って粒径が増大して表面まで成長が進む粒子と、表面まで成長が進まない粒子が存在することが分かった。このような挙動となる原因は定かではないが、図8で示したように成長が遅い粒子を成長が速い粒子が覆うようにして成長が進んだ結果と考えられる。したがって、大粒径化層を構成する窒化ガリウム粒子のうち、発光機能層側(表面側)の界面に露出している粒子は裏面と粒界を介さずに連通しているが、カソード電極側(裏面側)に露出した粒子の一部は途中で成長が停止したものも含まれる。
【0128】
次に、例5〜9と同様の方法にてGaNバッファ層の発光機能層が形成されている表面付近及びカソード電極が形成されている裏面付近を観察した。その結果、表面の断面平均径は約75μm、裏面の断面平均径は約60μmであった。このように断面平均径は表面の方が裏面よりも大きく、本大粒径化層の裏面の断面平均径Dに対する表面の断面平均径Dの比D/Dは約1.3となった。また、配向多結晶アルミナ焼結体基板と反対側の面を構成している断面平均径Dに対する、前記大粒径化層の厚さTの比として規定されるアスペクト比T/Dは約0.5であった。なお、サーマルエッチングやケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。
【0129】
(3)縦型発光素子の評価
例2(2)と同様の方法を用いてI−V測定を行ったところ、整流性が確認された。また、順方向の電流を流したところ、波長450nmの発光が確認された。しかし、発光輝度はある程度高かったが、例9より弱いことが分かった。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8