特許第6474779号(P6474779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6474779電池用高エネルギー物質、その製造方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474779
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】電池用高エネルギー物質、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20190218BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
【請求項の数】4
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-502809(P2016-502809)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公表番号】特表2016-516281(P2016-516281A)
(43)【公表日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】US2014028506
(87)【国際公開番号】WO2014144202
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2015年10月9日
【審判番号】不服2017-785(P2017-785/J1)
【審判請求日】2017年1月19日
(31)【優先権主張番号】61/786,602
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508034554
【氏名又は名称】ワイルドキャット・ディスカバリー・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WILDCAT DISCOVERY TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン キー
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ケオ
(72)【発明者】
【氏名】コーリー オニール
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 小川 進
【審判官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−518560(JP,A)
【文献】 特開平10−112333(JP,A)
【文献】 特開2002−237334(JP,A)
【文献】 特開2008−186595(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/048146(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
85〜90質量%のCuF2粒子と15〜10質量%のNiOまたはNiOの前駆体との反応によって形成された、CuF2粒子上のコーティング物質としてCuaNibcd{式中、0<a≦1、0<b≦1、0<c≦1、かつ0<d≦1である。}により表される物質を備える正極活物質であって、Li負極、及び1MのLiPF6のEC:EMC(体積比1:2)の電解液で構成される充電式電気化学セルにおいて使用して、2.0V〜4.0Vに亘って、1回目のサイクルには0.02Cのレートで、2回目のサイクルには0.05Cのレートで、かつ3回目のサイクルには0.5Cのレートで電気化学的特性評価試験を行った場合に、前記3回目のサイクルの放電容量が150mAh/g以上である正極活物質。
【請求項2】
前記CuF2が粉末X線回折データの粒径分析による100nmを超える粒径を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記CuF2が粉末X線回折データの粒径分析による130nmを超える粒径を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記CuaNibcdにより表される物質が、前記コーティング物質として前記CuF2粒子と共有結合する、請求項1に記載の正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池技術の分野にあり、より詳細には、フッ化金属物質を含む、電池用高エネルギー電極を形成するための物質の分野にある。
【背景技術】
【0002】
或る種の電池は、主としてリチウムから形成される負極と、主として金属及びフッ素を含む化合物から形成される正極とから成る。放電中、負極の酸化からリチウムイオン及び電子が発生するのに対して、正極の還元からフッ化物イオンが生成される。生成されたフッ化物イオンは正極付近でリチウムイオンと反応して、リチウム及びフッ素を含む化合物を形成し、その化合物は正極面で堆積するであろう。
【0003】
フッ化金属系電池は、極めて高い理論的エネルギー密度のために、魅力的なエネルギー貯蔵技術である。例えば、特定のフッ化金属活物質は、約1600Wh/kgより大きいか、又は約7500Wh/Lより大きい理論的エネルギー密度を有することができる。さらに、フッ化金属の原料コストが比較的低く、例えば約10USドル/kg未満である。しかしながら、今のところ、それらの広範な利用及びそれらの潜在的な性能の実現が、多数の技術的課題により制限されている。
【0004】
特定のフッ化金属物質のための課題の1つは、レート性能が比較的劣ることである。多くのフッ化金属活物質は、金属とフッ素の間、より詳細には遷移金属とフッ素の間での強いイオン結合により形成された比較的広いバンドギャップのために、約2.5Vを上回る電気化学ポテンシャルを有する。不幸なことに、広バンドギャップ物質の欠点の1つは、広バンドギャップに起因する本質的に低い電子伝導率である。この低い伝導率の結果として、フル理論容量を得るためには、0.1C未満の放電レートが必要とされる。より典型的には、文献では0.02C〜0.05Cの放電レートが報告されている。そのような低い放電レートによって、フッ化金属活物質の広範な利用が制限される。
【0005】
特定のフッ化金属活物質の別の課題は、サイクル中に充電電圧と放電電圧の間で観察された有意なヒステリシスである。このヒステリシスは、典型的には約1.0V〜約1.5Vのオーダーである。このヒステリシスの原因は不確かであるが、最新の証拠によって、低い伝導率により課せられた速度論的制限が重要な役割を果たすことが示唆される。さらに、充放電時の反応経路における非対称性も或る種の役割を果たすであろう。多くのフッ化金属に関する電気化学ポテンシャルが3.0Vのオーダーであるから、この約1.0V〜約1.5Vのヒステリシスは、総合エネルギー効率を約50%へ制限する。
【0006】
特定のフッ化金属活物質のための別の課題は、制限されたサイクル寿命である。再充電性が多くのフッ化金属活物質について証明されたが、それらのサイクル寿命は、典型的には数十サイクルへ制限されるだけでなく、急速な容量フェードも受ける。今のところ、3つの作用機序(金属微粒子の凝集及び体積膨張による機械的応力)がフッ化金属活物質のサイクル寿命を制限すると考えられている。リチオ化中にLiFを覆うためのマトリクス内で連続的な金属ネットワークが形成されるため、フッ化金属活物質は循環できると考えられている。サイクル数が増加するにつれて、複数の金属粒子は、共に蓄積して更に大きな個別の粒子になる傾向がある。より大きな凝集粒子は、順々に、互いに電気的に分離した島を形成し、それ故に、フッ化金属活物質を循環させる容積及び能力を減少させる。サイクル寿命の延長に対する第二の制限は、変換反応中に起こる体積膨張の結果としてフッ化金属粒子によりバインダ物質に掛けられる機械的応力である。時間と共に、バインダは粉砕されて、正極の完全性を損なう。特に、フッ化金属CuFについては、再充電性の証明が全く報告されなかった。
【0007】
CuFについては、更なる課題が再充電性を妨げる。CuF電極を再充電するために必要な電位は3.55Vである。しかしながら、リチウムイオン電池のための典型的な電極では、Cu金属が、約3.4V(vs.Li/Li)でCu2+へ酸化される。酸化銅は、負極へ移動することができ、そこで不可逆的に還元されてCu金属へ戻る。結果として、Cu分解は、Cu+2LiF→CuFの再充電と競争し、セルのサイクル化を妨げる。負極面上に蓄積しているCu金属は、インピーダンスを増加させることがあり、かつ/又は負極上の固体電解質界面(SEI)を破壊することがある。
【0008】
フッ化金属に関する既刊文献の中でも、次の論文及び特許文献:
Badway,F.らの「Chem.Mater.,2007,19,4129」;
Badway,F.らの「J.Electrochem.Soc,.2007,150,A1318」;
米国特許第7,947,392号明細書(発明の名称「Bismuth fluoride based nanocomposites as electrode materials」);
米国特許出願公開第2008/0199772号明細書(発明の名称「Metal Fluoride And Phosphate Nanocomposites As Electrode Materials」);
米国特許出願公開第2006/0019163号明細書(発明の名称「Copper fluoride based nanocomposites as electrode materials」);及び
米国特許第8,039,149号明細書(発明の名称「Bismuth oxyfluoride based nanocomposites as electrode materials」)
において、フッ化金属の電位窓内で電気化学的に活性ではない混合伝導体が利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の特定の実施形態は、従来の電池と比べて、改良されたレート性能、改良されたエネルギー効率及び改良されたサイクル寿命を示すフッ化金属活物質含有電気化学セルを形成するために使用されることができる。したがって、後述される本発明の実施形態によって、これらの課題及び他の課題に対処することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特定の実施形態は、電池用正極の形成に使用するための組成物の製造方法を含む。その方法は、フッ化金属物質と金属錯体を混練する工程と、その混合物をアニールする工程とを含み、そしてフッ化金属物質の少なくとも一部及び金属錯体の少なくとも一部は、相変化を受ける。その方法は、フッ化金属物質の少なくとも一部の上にコーティングを形成する工程を含むことができる。好ましくは、フッ化金属物質はCuFである。金属錯体は、MoO、MoO、NiO、CuO、VO、V、TiO、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される金属酸化物でよい。好ましくは、金属酸化物はNiOである。アニール温度は、450℃未満、400℃未満、325℃未満、又は200℃未満である。好ましくは、アニール温度は約325℃である。その温度は、金属錯体をフッ化金属と反応させるほど高いが、フッ化金属を分解させるほど高くはない程度に選択される。そのような熱処理及び得られた反応なしには、物質が、本明細書に記載の実験により証明されるように再充電可能になるものではない。
【0011】
本発明の特定の実施形態は、本明細書に開示される方法により形成される組成物を含む。その組成物は、可逆容量を有することを特徴とする。その組成物は、100nm、110nm、120nm又は130nmを超える粒径を有する粒子を含むことができる。その組成物は、第一の相を有する粒子と、その粒子上の第二の相を有するコーティングとを含むことができる。好ましくは、第一の相はフッ化金属を含み、そして第二の相は金属酸化物を含む。コーティングは、粒子と共有結合することができる。
【0012】
本発明の特定の実施形態は、本明細書に開示される組成物から形成される電極を有する電池と、そのような電池の製造方法と、そのような電池の使用方法とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、正極中の伝導性マトリクス物質の含有率を変化させた本発明の実施形態に係る様々なハイブリッド正極配合物の電気化学的特性評価を示す。
図2図2は、図1に由来する正極配合物の電気化学的特性評価を示し、図2では、第一及び第二サイクルに関する容量に対して、本発明の実施形態に係るハイブリッド正極の電圧がプロットされる。
図3図3は、本発明の実施形態に係る様々なハイブリッド正極配合物の電気化学的特性評価を示し、図3では、放電が10回目までのサイクル数の関数としてプロットされる。
図4図4は、特定の実施形態に係るフッ化金属及び反応物質から形成されたハイブリッド正極の電気化学的特性評価を示す。正極は再充電性を証明する。
図5図5は、再充電可能なフッ化金属正極のために使用される物質の粉末X線回折図形を示す。
図6図6は、本発明の実施形態に従って使用される各種のハイブリッド正極物質に関して第二サイクルの放電容量を示す。
図7図7は、本発明の実施形態に従って使用されるハイブリッド正極物質について、アニール温度に対する第二サイクルの放電容量を示す。
図8図8は、特定のアニール温度での85質量%のCuFと15質量%の特定の金属酸化物(この場合、NiO又はTiO)との反応から形成された正極活物質について、第二サイクルでの容量保持率及び可逆容量を示す。
図9図9は、特定のアニール時間に亘る85質量%のCuFと15質量%の特定の金属酸化物(この場合、NiO又はTiO)の反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。
図10図10は、85質量%、90質量%又は95質量%のCuFと5質量%、10質量%、15質量%のNiOとの反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。
図11図11は、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を混練エネルギーの関数として示す。
図12図12は、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を混練時間の関数として示す。
図13図13は、CuFとの反応に使用された様々な出発物質について測定された第二サイクルの可逆容量を示す。
図14図14は、様々な処理条件を用いてCuFをニッケル(II)アセチルアセトネートと反応させることにより形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。
図15図15は、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質、及び対照物質について、容量をサイクル数の関数として示す。
図16図16は、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、定電流間欠滴定法(galvanostatic intermittent titration technique,GITT)の測定を示す。
図17図17は、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、フルセル及びハーフセルの容量をサイクル数の関数として示す。
図18図18は、図17に関して記載された通りに調製されたフルセル及びハーフセルの電圧体系(voltage trace)を示す。
図19図19は、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、フルセル及びハーフセルの容量保持率をサイクル数の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の幾つかの実施形態に関して説明される幾つかの態様に次の定義を適用する。同様に、これらの定義は、本明細書に対して拡張される。各用語は、本明細書、図面及び実施例の全体を通じて、さらに説明され、かつ例示される。本明細書における用語の解釈には、本明細書の全記載、図面及び実施例を考慮するべきである。
【0015】
単数形を表す語は、その内容に別段の規定がない限り、複数形を含む。したがって、例えば、単数の対象への言及は、その内容に別段の規定がない限り、複数の対象を含むことができる。
【0016】
用語「実質的に」及び「実質的な」は、考慮すべき水準又は程度を意味する。それらの用語は、事象又は状況とともに使用されるときに、その事象又は状況が正確に起こる例だけでなく、その事象又は状況が、本明細書で説明される実施形態の典型的な許容範囲又は変形のための構成のような近似概念に対して起こる例も意味することができる。
【0017】
用語「約」は、典型的な許容範囲水準、測定精度、又は本明細書で説明される実施形態の他の変形を構成するために、所定の値とおおよそ近い値の範囲を意味する。
【0018】
用語「伝導性」、「導体」、「伝導度」等は、電子又はイオン輸送を促進する物質固有の能力と、それを行うプロセスとを意味する。それらの用語は、電気を通す能力が従来の電子技術用途にとって典型的に適したものには満たないとしても絶縁体よりは大きいであろう物質を含む。
【0019】
用語「活物質」等は、電気化学セルにおける電気化学反応中に伝導性種を吸蔵するか、放出するか、又は供給する電極(具体的には正極)内の物質を意味する。
【0020】
用語「遷移金属」は、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、水銀(Hg)、ラザホージウム(Rf)、ドブニウム(Db)、シーボーギウム(Sg)、ボーリウム(Bh)、ハッシウム(Hs)、及びマイトネリウム(Mt)を含む周期表3族〜12族の化学元素を意味する。
【0021】
用語「ハロゲン」は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、及びアスタチン(At)を含む周期表17族の化学元素のいずれかを意味する。
【0022】
用語「カルコゲン」は、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)及びポロニウム(Po)を含む周期表16族の化学元素のいずれかを意味する。
【0023】
用語「アルカリ金属」は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、及びフランシウム(Fr)を含む周期表1族の化学元素のいずれかを意味する。
【0024】
用語「アルカリ土類金属」は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びラジウム(Ra)を含む周期表2族の化学元素のいずれかを意味する。
【0025】
用語「希土類元素」は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)を意味する。
【0026】
変化量「C」は、電池が(実質的にフル充電状態で)実質的に1時間で完全に放電し得る電流値「1C」に対する割合若しくは倍数としての放電電流、又は電池が(実質的にフル放電状態で)実質的に1時間で完全に充電し得る電流値「1C」に対する割合若しくは倍数としての充電電流のいずれかを(内容に応じて)意味する。
【0027】
特定の実施形態では、新規な活物質(マトリクス物質又はコーティングされた物質又はハイブリッド物質と呼ばれてもよい)が、フッ化金属(MeF)活物質とともに正極内で使用されるように調製される。幾つかの実施形態では、新規な活物質は、フッ化金属と金属錯体を合わせ、次に下記式(I):
MeF+Me’+熱 (I)
に従って、その混合物を不活性雰囲気下で熱処理することにより調製される。
【0028】
特定の実施形態によれば、フッ化金属と金属錯体の熱処理は、下記式(II):
MeF+Me’→MeMe’ (II)
{式中、x、y、z、a、b、及びcは、Me、Me’及びXの同一性及び価数に応じて決まる。幾つかの例では、0<a≦1、0<b≦1、0≦c≦1、かつ0≦d≦1である。}
に従って、反応を起こして、新たな相を形成する。他の実施形態では、熱処理は、フッ化金属と金属錯体の間で共有結合の形成を起こし、伝導性を向上させ、かつ表面を不動態化する。
【0029】
マトリクス、コーティング又は活物質の合成に使用されるための(本明細書に記載の反応のための前駆体として働くことができる)適切な金属錯体としては、限定されるものではないが、MoO、MoO、NiO、CuO、VO、V、TiO、Al、SiO、LiFePO、LiMePO(式中、Meは、1つ以上の(単数又は複数の)遷移金属である。)、金属リン酸塩、及びそれらの組み合わせが挙げられる。本発明の実施態様によれば、これらの酸化物は、式(I)に使用されることができる。
【0030】
マトリクス物質、コーティング物質、ハイブリッド物質、又はマトリクス活物質を得るための合成経路が変化してよく、かつ他のそのような合成経路が本開示内容の範囲内にあることを理解されたい。その物質は、MeMe’Fにより表されることができ、そして本明細書の実施例では、CuMoマトリクスにより具体化される。他のマトリクス及びコーティングが、本開示内容の範囲内にある。例えば、NiCuO、NiCuO、及びCuTiOである。
【0031】
本明細書で開示されるマトリクス及びコーティング物質は、他の非再充電性フッ化金属マトリクス物質に再充電性を与える。特定の理論又は作用機序に拘束されるものではないが、再充電性は、新規なマトリクスの電気化学的性質、銅溶解を抑制するフッ化金属のコーティング、又は熱処理及び反応の結果としてのフッ化金属とマトリクス物質の間のより密接な界面を原因とするであろう。さらに、新規なマトリクス物質は、Cu溶解反応に対して、又はそのような溶解反応が電気化学セルのサイクルにおいて起こるという意味では他のフッ化金属物質のための類似の溶解反応に対して、速度障壁を提供するであろう。
【0032】
酸化物を主成分とする複数のマトリクス(そのようなマトリクスとしては、式IIに従って生成されたものが挙げられる)の場合には、フッ化金属と金属錯体(又は他の適切な前駆体物質)の密接な混合、及び適度な熱処理が、再充電可能な電極物質を生成するために使用されることができる。金属酸化物を使用してフッ化金属と直接反応させることとは対照的に、他の適切な前駆体は、分解して金属酸化物(より詳細には、遷移金属酸化物)を形成する物質を含む。そのような前駆体の例としては、限定されるものではないが、金属酢酸塩、金属アセチルアセトネート、金属水酸化物、金属エトキシド、及び他の類似の有機金属錯体が挙げられる。いずれにしても、最終的な再充電性マトリクス物質は、必ずしも純酸化物又は純粋に結晶質の物質ではない。式IIの反応は、純酸化物又は純粋に結晶質の物質がないであろうことを予測するものである。幾つかの場合には、金属酸化物前駆体又は金属酸化物は、フッ化金属活物質上に、コーティング、又は少なくとも部分的なコーティングを形成することができる。特定の理論又は作用機序に拘束されるものではないが、金属酸化物前駆体又は金属酸化物とフッ化金属(より詳細にはフッ化銅)活物質の表面との反応は、再充電可能な電極活物質を生成するために重要である。
【実施例】
【0033】
当業者のための説明を例示し、かつ提供するために、以下の実施例では、本発明の幾つかの実施形態の特定の態様を説明する。本実施例は、本発明の幾つかの実施形態を理解し、かつ実施するのに有用な特定の方法論を提供するものにすぎないので、本実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0034】
実施例1 充電式セルのためのマトリクス及び/又はコーティングされた電極の製造
材料及び合成法
全ての反応物を高純度アルゴン充填グローブ・ボックス(M−Braun社、O及び湿気含有率<0.1ppm)内で調製した。特別の定めのない限り、材料は、更なる精製なしに、商業的供給源(例えば、シグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)、アドバンス・リサーチ・ケミカルズ(Advanced Research Chemicals)社、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)、ストレム(Strem))から得られた。
【0035】
CuF/マトリクスの調製
複数のミリング容器に約85質量%〜約95質量%のCuF及び約5質量%〜約15質量%の反応物質(金属酸化物又は金属酸化物前駆体)を充填して、それらの容器を封止した。混合物を混練した。混練後、N気流下、約200℃から約575℃までの温度で1時間〜12時間に亘って複数の試料をアニールした。具体的なマトリクス反応物は、後述される通りに処理された。
【0036】
CuF/CuMoの調製
複数のミリング容器にCuF(85質量%)及びMoO(15質量%)を充填し、封止し、次に混練した。混練後、N気流下、450℃で6時間に亘って複数の試料をアニールした。
【0037】
CuF/NiOの調製
複数のミリング容器にCuF(85質量%)及びNiO(15質量%)を充填し、封止し、次に混練した。混練後、N気流下、325℃で6時間に亘って複数の試料をアニールした。
【0038】
CuF/ニッケル(II)アセチルアセトネートの調製
THFの存在下(40〜120mgのCuF/THFのmL)で混練することによってCuFの微細分散液を調製した。次に、分散された試料をNi(AcAc)のTHF溶液へ、ニッケル(II)アセチルアセトネートが溶液中の固形分の15質量%を占めるように加えた。次に、約1時間〜約12時間に亘って、振とう、超音波処理又は低エネルギー混練のいずれかによって、その溶液を撹拌した。次に、その溶液を真空下、室温で乾燥させて、得られた固体を乾燥空気下、450℃で6時間に亘ってアニールした。
【0039】
電極設計
次の配合法に従って、80:15:5(活物質:バインダ:伝導性添加剤)の配合組成物を用いて、複数の正極を調製した:
133mgのPVDF(シグマ・アルドリッチ社)及び約44mgの「Super P(登録商標)」Li(ティムカル(Timcal)社)を10mLのNMP(シグマ・アルドリッチ社)に終夜で溶解させた。この溶液1mLへ、コーティングされた複合粉70mgを加え、終夜で撹拌した。約70μLのスラリーを複数のステンレス鋼集電体上へ滴下して150℃で約1時間に亘って乾燥させることによって、複数の膜をキャストした。乾燥した複数の膜を冷却させて、次に1トン/cmでプレスした。さらに、複数の電極を、電池組み立て用グローブ・ボックス中に持ち込む前に、真空下150℃で12時間に亘って乾燥させた。
【0040】
実施例2 再充電可能な電極を含む電気化学セルの電気化学的特性評価
特別の定めのない限り、高純度アルゴン充填グローブ・ボックス(M−Braun社、O及び湿気含有率<0.1ppm)内で全ての電池を組み立てた。負極としてのリチウム、セルガード(Celgard)2400セパレータ、及び1MのLiPFのEC:EMC(1:2)電解液90μL用いて、複数のセルを形成した。4.0Vと2.0Vの間で定電流C/50充放電レートを用いて、複数の電極及び複数のセルを30℃で電気化学的に特性評価した。各充電の最後に3時間の定電圧工程を用いた。幾つかの場合には、電解液(EC:EMC(1:2)中の1MのLiPF)の存在下で約15分間に亘ってリチウム箔を電極へプレスして、複数の正極をリチウム化した。次に、電極をEMCで濯ぎ、リチウムではなくグラファイトを負極として使用したこと以外は上記のようにして複数のセルに組み込んだ。
【0041】
図1は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示す。具体的には、図1では、LiFePOマトリクスを含む3つの異なる正極配合物の第二サイクルの放電容量を、正極中のLiFePO(LFPとして標示した)含有率の関数としてプロットした。点線は、LiFePOの理論容量を示す。1つの正極配合物は、100%LiFePOである。別の正極配合物は、CuFとLiFePOの組み合わせであり、その中のLiFePOの含有率を伝導性物質の全質量の10%から50%まで変化させた。第三の正極配合物は、CuFと従来の伝導性酸化物MoOとLiFePOの組み合わせであり、その中のLiFePOの含有率を伝導性物質の全質量の10%から50%まで変化させた。これは第二サイクルのデータであるため、図1によって、CuF/LiFePOマトリクスの全てが再充電可能であることが証明される。なお、LiFePOを50%含む(CuF/MoO)/LiFePOハイブリッド正極も再充電可能である。さらに、図1によって、容量とLiFePO含有率(%)の間の直接的な関係が証明される。
【0042】
図2は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示す。具体的には、ハイブリッド正極の電圧を第一及び第二サイクルの容量に対してプロットする。点線は、正極中のLiFePO含有率から予想される理論容量を示す。正極配合物は、図1に由来するCuF(70%)/LiFePO(30%)ハイブリッド正極である。第一サイクル中、放電容量がほとんど観察されないことは、このサイクルでLiFePO物質は充電を受けることができないことを示す。特定の理論又は作用機序に拘束されるものではないが、混練中に導入された欠陥の結果として、LiFePO物質は充電を受けないであろう。このデータは、第一及び第二サイクル中に観察された容量の全てが、単にCuFに起因すると考えられることを示唆する。
【0043】
図3は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示す。具体的には、セルの放電容量を、LiFePO含有率の範囲とともに、10回目のサイクルまでのサイクル数の関数としてプロットする。正極配合物は、伝導性物質の全質量の10%〜50%の範囲内の含有率でLiFePOを有するCuFである。図4によって、ハイブリッド正極は、サイクル数の全域で連続して再充電可能であることが証明される。図2由来のデータに基づくと、放電容量は、単にCuFに起因するが、LiFePOに起因するものではないことが予想される。CuFがそのような有意な可逆容量を有することは以前には示されなかったので、この点は重要な発見である。伝導性マトリクス物質とCuFの組み合わせは、CuF正極物質を再充電可能にする。
【0044】
図4は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示す。具体的には、フッ化金属及び新規なマトリクス物質から形成された正極を含むセルについて、第一及び第二サイクルの電圧をトレースする。この場合、フッ化金属活物質はCuFであり、かつマトリクス物質はCuMoである。図4によって、セルは約140mAh/gの可逆容量を有することが証明される。CuFを含む既知の正極は、そのような有意な可逆容量を有することが証明されていなかった。
【0045】
図5は、本明細書で開示された特定の実施形態の構造特性評価の結果を示す。具体的には、CuFとCuMoの粉末X線回折図形とともに、図4で試験された正極を形成する物質の粉末X線回折図形を示す。図5によって、その物質は、複数のCuFリッチ相と複数のCuMoリッチ相を含むことが証明される。したがって、図5によって、フッ化金属活物質と組み合わせられる新規なマトリクス物質が証明される。さらに、この粉末X線回折データの粒径分析が、CuFは、130nmを超える粒径を有することを示す。そのような比較的大きな粒子は、良好な電気化学的性能を提供するには大きすぎると考えられていたので、この点は重要な発見である。
【0046】
本明細書に記載された多くの再充電可能なマトリクス(より詳細には、Mo、Ni又はTiを含む複数のマトリクス)については、本明細書で記載された反応によって、新規なマトリクス物質が、フッ化金属活物質粒子の少なくとも表面で得られる。フッ化金属活物質粒子の少なくとも表面に存在する新規物質は、本明細書で開示された利点の多くを提供すると考えられる。
【0047】
図6は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示す。具体的には、様々なマトリクスを有するCuFの第二サイクルの放電容量及びアニール温度が示される。図6は、100mAh/gより大きい容量により実証された再充電容量を提供する多くの酸化物マトリクスを示す。
【0048】
表1は、本明細書で開示された特定の実施形態の更なる電気化学的特性評価の結果を示す。表1では、多くの金属酸化物及び金属酸化物前駆体出発物質が、再充電可能なフッ化金属電極物質を得るために、本明細書で記載された反応に使用され得ることが示される。表1中の物質としては、金属酸化物、金属リン酸塩、フッ化金属、及び分解して酸化物になることが予期される前駆体が列挙される。より詳細には、酸化ニッケルが、優秀な性能を示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
【表8】
【0057】
図7は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示す。具体的には、フッ化金属と、異なる温度で処理されたマトリクス物質とから形成された正極を含む複数のセルについて第二サイクルの放電容量を示す。この場合、フッ化金属活物質はCuFであり、かつマトリクス物質はNiOである。図7では、NiOマトリクスに関する約325℃でのサイクル2の容量について、ほぼ250mAh/gの放電容量のピークが示される。
【0058】
図8は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、特定のアニール温度での85質量%のCuFと15質量%の特定の金属酸化物(この場合、NiO又はTiO)の反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。混合物を約20時間に亘って高エネルギーで混練する。アニール温度は、約225℃〜約450℃の範囲であり、かつアニール時間は6時間であった。NiO出発物質のための325℃のアニール温度が、最良の性能を出した。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って0.02Cのレートで試験を行なった。
【0059】
図9は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、特定のアニール時間に亘る85質量%のCuFと15質量%の特定の金属酸化物(この場合、NiO又はTiO)の反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。混合物を高エネルギーで約20時間に亘って混練した。アニール温度は325℃であり、かつアニール時間は、1時間、6時間、又は12時間であった。6時間のアニール時間が、NiO出発物質とTiO出発物質の両方にとって最良の結果を出し、そしてNiO出発物質は、より良い性能を出した。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って0.02Cのレートで試験を行なった。
【0060】
図10は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、85質量%、90質量%又は95質量%のCuFと5質量%、10質量%、15質量%のNiOとの反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。混合物を約20時間に亘って高エネルギーで混練した。アニール温度は325℃であり、かつアニール時間は6時間であった。10質量%又は15質量%のNiO出発物質の使用が、より良い性能を出した。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って0.02Cのレートで試験を行なった。
【0061】
図11は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。フリッチュ(Fritch)社の「Pulverisette 7」遊星型ミルによる305、445、595及び705RPMでの約20時間に亘る混練に相当する各種のエネルギーで、混合物を混練した。アニール温度は325℃であり、かつアニール時間は6時間であった。混練エネルギーを増加させるにつれて性能が向上するので、複数の物質の密接な物理的相互作用が必要であることが示唆される。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って0.05Cのレートで試験を行なった。
【0062】
図12は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。様々な時間(3時間、20時間、又は40時間)に亘って(フリッチュ社の「Pulverisette 7」における705RPMに相当する)高エネルギーで混合物を混練した。アニール温度は325℃であり、かつアニール時間は6時間であった。混練が20時間を経過すると、性能が向上しない。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って0.05Cのレートで試験を行なった。
【0063】
図13は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示す。具体的には、図13は、CuFとの反応に使用された様々な出発物質について測定された第二サイクルの可逆容量を示す。出発物質としては、NiO、ニッケル(II)アセチルアセトネート、酢酸ニッケル、水酸化ニッケル、NiCO・Ni(OH)、Ni(C)、Ni(CP)、及びNiが挙げられる。幾つかの例では、出発物質が反応して新たな相を形成する。それらの物質は、CuF粒子の表面と反応する。なお、アニール雰囲気は、N又は乾燥空気のいずれかであった。前駆体型出発物質は(幾つかの前駆体については雰囲気に依存するとしても)反応のために用いられるアニール温度で、又はそのアニール温度より低い温度でNiOへと分解する。可溶性であるか、又は低沸点を有する前駆体は、溶液処理法又は蒸着処理法を可能にすることができる。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って0.05Cのレートで試験を行なった。幾つかの物質は、NiOベースラインに対して類似の性能を示す。
【0064】
図14は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、様々な処理条件を用いてCuFをニッケル(II)アセチルアセトネートと反応させることにより形成された正極活物質について、第二サイクルの容量保持率及び可逆容量を示す。幾つかの場合には、本明細書に記載の方法を用いてCuFを分散させた。ミル・コーティング技術(すなわち、混練装置内での混合物の撹拌)又は溶液コーティング技術(物理吸着により導かれる溶液コーティングなど)を用いて、コーティングを適用した。乾燥空気下で全ての試料をアニールした。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って0.05Cのレートで試験を行なった。試験によって、溶液コーティング法はミル・コーティング技術と類似の性能を提供できることが証明される。
【0065】
図15は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質、及び対照物質について、容量をサイクル数の関数として示す。NiO/CuF混合物を高エネルギーで約20時間に亘って混練した。アニール温度は325℃であり、かつアニール時間は6であった。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って、1回目のサイクルには0.02Cのレートで、2回目のサイクルには0.05Cのレートで、かつ3回目〜25回目のサイクルには0.5Cのレートで試験を行なった。反応したNiO/CuFを活物質として用いると、セルは、25回のサイクルで100mAh/gより大きな容量を有して、長いサイクル期間に亘って可逆的にサイクルする。さらに、反応したNiO/CuF活物質によって、第三サイクルの容量の80%の保持率を第15サイクルまで保てることが証明される。Badway,F.らの「Chem.Mater.,2007,19,4129」に記載された方法に従って調製された対照物質は、いかなる再充電可能な容量も証明しない。したがって、本明細書に記載された実施形態に従って調製された物質は、既知の方法に従って処理された既知の物質よりも有意に優れる。
【0066】
図16は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質、及び対照物質について、定電流間欠滴定法(GITT)の測定を示す。NiO/CuF混合物を高エネルギーで約20時間に亘って混練した。アニール温度は325℃であり、かつアニール時間は6時間であった。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って0.1Cのレートで、かつ緩和時間を10時間として試験を行なった。GITT測定緩和点は低電圧ヒステリシス(約100mV)を示し、その低電圧ヒステリシスは、過電圧及び/又は電圧不足が速度論的に起こる可能性が高く、熱力学的制限ではないことを示す。これは、反応したNiO/CuF活物質について観察された他の性質及び特性と一致する。
【0067】
図17は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、フルセル及びハーフセルの容量をサイクル数の関数として示す。NiO/CuF混合物を高エネルギーで約20時間に亘って混練した。アニール温度は325℃であり、かつアニール時間は6時間であった。ラベル「Cu+2LiF」によって、NiO/CuF電極は、上記電解液の存在下でLi箔をCuF電極へプレスすることによりリチウム化されたことが示された。他のハーフセルは、初期サイクルにおいて電気化学的にリチウム化された。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って試験を行なった。ハーフセル性能が、第二サイクル以降、2つのリチオ化法の間で本質的に同じであるのに対して、フルセルは、2つのハーフセルと比べて、さらなる不可逆容量損失を示すが、類似の容量保持率を示す。
【0068】
図18は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、図17に関して記載された通りに調製されたフルセル及びハーフセルの電圧体系を示す。フルセルは、ハーフセルと類似する充電容量を有するが、より大きな不可逆容量損失及びより低い放電電圧(増加したセルインピーダンスを示すことができる)を有する。図18によって、フルセルは、約250mAh/gの可逆容量、及び充電プラトー電圧と放電プラトー電圧の間の約500mVのヒステリシスを有することが証明される。
【0069】
図19は、本明細書で開示された特定の実施形態の電気化学的特性評価の結果を示し、具体的には、85質量%のCuFと15質量%のNiOの反応から形成された正極活物質について、フルセル及びハーフセルの容量保持率をサイクル数の関数として示す。対照物質の結果も示す。図17に関して記載した通りにフルセル及びハーフセルを調製した。セルは、Li負極、及び1MのLiPFのEC:EMC液を含む電解液を使用した。1回目のサイクルでは0.1Cのレートで、かつ2.0V〜4.0Vの電圧範囲に亘って試験を行なった。容量保持率は、NiO/CuF活物質のフルセル及びハーフセルについて本質的に同じである。対照物質は、再充電可能な容量を本質的に示さない。
【0070】
本発明は、その特定の実施形態に関して説明されたが、当業者にとって、特許請求の範囲に規定される発明の真の理念及び範囲から逸脱せずに、様々な変形を行なったり、均等箇所を置換したりし得ることを理解されたい。なお、特定の状況、物質、組成物、方法又はプロセスを本発明の対象、理念及び範囲に適合させるために、多くの改良を行ない得る。そのような改良の全ては、特許請求の範囲の範囲内にあることを意図する。より詳細には、本明細書で開示された方法は、特定の順序で行われた特定の操作に関して説明されたが、本発明の教示から逸脱せずに、均等な方法を形成するために、これらの操作を組み合わせるか、さらに分割するか、又は並べ替えてもよいことが理解されるであろう。したがって、本明細書で特に示されない限り、これらの操作の順序及び分類は、本発明を制限するものではない。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[18]に記載する。
[1]
フッ化金属を含む粒子;及び
前記粒子上のコーティング;
を含む組成物であって、
前記フッ化金属は、第一の金属を含み、
前記コーティングは、前記フッ化金属と金属錯体の反応により形成されたハイブリッド物質を含み、
前記金属錯体は、第二の金属を含み、かつ
前記ハイブリッド物質は、前記第一の金属及び前記第二の金属を含む、
前記組成物。
[2]
前記反応は、熱処理を含む、項目1に記載の組成物。
[3]
前記反応は、前記フッ化金属と前記金属錯体を混練する工程をさらに含む、項目1に記載の組成物。
[4]
前記フッ化金属は、CuFを含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[5]
100nmを超える粒径を有する粒子を含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[6]
130nmを超える粒径を有する粒子を含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[7]
前記粒子は、第一の相を有し、かつ前記コーティングは、第二の相を有する、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[8]
前記第一の相は、前記フッ化金属を含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[9]
前記第二の相は、金属錯体の分解から形成された物質を含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[10]
前記金属錯体は、金属酸化物を含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[11]
前記金属錯体は、Al、SiO、MoO、MoO、NiO、CuO、VO、V、TiO、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される金属酸化物を含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[12]
前記金属錯体は、NiOを含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[13]
前記金属錯体は、金属リン酸塩を含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[14]
前記金属錯体は、LiFePOを含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[15]
前記コーティングは、前記粒子と共有結合する、項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[16]
前記熱処理は、450℃未満の温度で行われる、項目2に記載の組成物。
[17]
前記熱処理は、325℃未満の温度で行われる、項目2に記載の組成物。
[18]
CuFを含む粒子;及び
前記粒子上のコーティング;
を含む組成物であって、前記コーティングは、下記式(1):
CuMe’ (1)
{式中、0<a≦1、0<b≦1、0≦c≦1、かつ0≦d≦1である。}
により表される物質を含む、前記組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19