【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明の目的は、被処理部材を、炭化処理および窒化処理により熱化学的に強化するプロセスおよび装置を提供することにあり、当該プロセスおよび装置は、以下の利点を有する:
−被処理部材の表面領域の炭素分布および窒素分布を正確に設定することができる;
−生産性が高まり、かつ搬送物をフレキシブルに搬送(charging)できる;そして
−エネルギー消費量および環境汚染を減らすことができる。
【0003】
この目的は、プロセスによって達成され、該プロセスは、可変の順序で:
−1回以上の炭化ステップを含み、各炭化ステップは、50mbar未満の圧力を有する炭素含有ガス雰囲気中で行われ、前記被処理部材は900〜1050℃の温度に保持され;
−随意であるが、1回以上の拡散ステップを含み、各拡散ステップは、100mbar未満の圧力を有するガス雰囲気中で行われ;
−1回以上の窒化ステップを含み、各窒化ステップは、50mbar未満の圧力を有する窒素含有ガス雰囲気中で行われ、前記被処理部材は800〜1050℃の温度に保持され、前記窒素含有ガス雰囲気は、窒素分子(N
2)をドナーガスとして含み、かつ放電プラズマで励起され;
−前記プロセスは、2つの連続するプロセスステップの間の時間間隔が15分よりも短く、かつ前記被処理部材が、300mbar未満の圧力を有するガス雰囲気中に、これらの時間間隔の間に保持される。
【0004】
本発明のプロセスの有利な実施形態は:
−2つの連続するプロセスステップの間の時間間隔が10分よりも短く、好適には5分よりも短く、特に1分よりも短く;
−前記被処理部材が、200mbar未満、好適には100mbar未満の圧力を有するガス雰囲気中に、2つの連続するプロセスステップの間の時間間隔において保持され;
−2つの連続するプロセスステップの間の時間間隔における前記被処理部材の温度が、600℃超、好適には700℃超、特に800℃超であり;
−前記プロセスは順番に:
−炭化/窒化ステップ;
−炭化/拡散/窒化ステップ;
−窒化/炭化/窒化ステップ;
−窒化/炭化/窒化/炭化ステップ;または
−窒化/炭化/拡散/窒化ステップ、を含み;
−放電プラズマは、200〜1000Vの随意のパルスDC電圧、10〜200Aの直流電流、および2〜200kVAの直流電力で作用し;
−窒素含有ガス雰囲気は、前記窒化ステップ群のうちの1つ以上の窒化ステップにおいて、パルス直流放電プラズマを、好ましくは、火花放電インパルスと組み合わせることにより励起され;
−前記放電プラズマは、前記窒化ステップ群のうちの1つ以上の窒化ステップにおいて、活性グリッド電極を使用して発生させ;
−前記被処理部材は、10〜400V、好適には10〜200Vの絶対値を有する活性グリッド電極に対して負電位(バイアス電圧)に保持され;
−前記被処理部材は、前記活性グリッド電極に対して負電位(バイアス電圧)に保持され、前記被処理部材に印加される負電位の絶対値は、前記活性グリッド電極の負電位の絶対値の2〜12倍であり;
−プラズマ浸漬イオン注入を、前記窒化ステップ群のうちの1つ以上の窒化ステップにおいて使用し;
−前記被処理部材は、820〜1000℃、好適には920〜980℃の温度に、前記窒化ステップ群中に保持され;
−前記被処理部材は、940〜1050℃の温度に、前記炭化ステップ群中に保持され;
−前記窒化ステップ群における前記窒素含有ガス雰囲気は、N
2と、随意であるが、H
2およびアルゴンのような1種類以上のキャリアガスと、からなり;
−前記窒化ステップ群における前記窒素含有ガス雰囲気は、N
2と、CO
2またはCH
4のような1種類以上の炭素含有ガスと、随意であるが、H
2およびアルゴンのような1種類以上のキャリアガスと、からなり;
−前記窒化ステップ群においてN
2に基づく炭素含有ガスの割合は、2〜20体積%、好適には4〜15体積%、特に4〜10体積%であり;
−前記窒化ステップ群における前記窒素含有ガス雰囲気の圧力は、40mbar未満、好適には30mbar未満、特に20mbar未満であり;
−前記炭化ステップ群における前記炭素含有ガス雰囲気は、C
2H
2,CO
2,およびCH
4のような炭素を含む1種類以上のドナーガスと、随意であるが、H
2およびアルゴンのような1種類以上のキャリアガスと、からなり;
−前記炭化ステップ群における前記炭素含有ガス雰囲気の圧力は、40mbar未満、好適には30mbar未満、特に20mbar未満であり;
−前記プロセスは、0.9〜2barの圧力を有するN
2雰囲気中で行われる高圧拡散ステップを含む;かつ/または
−前記プロセスは、順番に:
−窒化/炭化/高圧拡散ステップ
を含むことを特徴とする。
【0005】
更に、本発明の目的は、装置を提供することにあり、前記装置を利用して、被処理部材の表面領域における炭素分布および窒素分布を正確に設定することができ、かつエネルギー消費量を減らして高い生産性を実現し、搬送物をフレキシブルに搬送でき、環境を汚染することがない。
【0006】
この目的は、装置によって達成され、該装置は:
−m=2,3,4,5,6,7,8,9,または10とした場合のm個の低圧加熱チャンバと、
−前記低圧加熱チャンバ群に接続されるガス供給源であって、該ガス供給源が、前記低圧加熱チャンバ群に、N
2と、C
2H
2,CO
2,およびCH
4のような炭素を含むドナーガスと、H
2およびアルゴンのようなキャリアガスと、からなるグループから選択される1種類以上のガスを供給するように構成される、前記ガス供給源と;
−前記低圧加熱チャンバ群の各低圧加熱チャンバ、および更には、ロックチャンバおよび急冷チャンバ、または2機能ロック−急冷チャンバの接続先の移送チャンバと;または、
−それぞれが可動であり、かつ前記低圧加熱チャンバ群の各低圧加熱チャンバに接続することができるロックチャンバおよび急冷チャンバと;または、
−可動であり、かつ前記低圧加熱チャンバ群の各低圧加熱チャンバに接続することができる2機能ロック−急冷チャンバとを備え;
前記低圧加熱チャンバ群のうちの1つ以上の低圧加熱チャンバは、電気エネルギー供給源に接続され、かつ放電プラズマを、N
2をドナーガスとして含む窒素含有ガス雰囲気中で、800℃以上の温度で、かつ100mbar未満の圧力で発生させるように構成される。
【0007】
本発明の装置の有利な実施形態は:
−前記電気エネルギー供給源は、放電プラズマを、200〜1000VのDC電圧、10〜200Aの直流電流、および2〜200kVAの直流電力で作用させるように構成され;
−前記電気エネルギー供給源は、パルスDC電圧を、好ましくは火花放電インパルスと組み合わせて動作するように構成され;かつ/または、
−前記低圧加熱チャンバ群のうちの1つ以上の低圧加熱チャンバには、活性グリッド電極が設けられることを特徴とする。
【0008】
本発明のプロセスは好適には、順番に:
−搬入/排気/炭化/窒化/急冷/搬出ステップ;
−搬入/排気/炭化/拡散/窒化/急冷/搬出ステップ;
−搬入/排気/窒化/炭化/窒化/急冷/搬出ステップ;
−搬入/排気/窒化/炭化/窒化/炭化/急冷/搬出ステップ;
または、
−搬入/排気/窒化/炭化/拡散/窒化/急冷/搬出ステップを含む。
【0009】
排気が、ロックチャンバ内、または2機能ロック−急冷チャンバ内でもたらされる。更に、簡単な表現をすると、排気プロセスステップは、ロックチャンバについてのみ説明することとする。本発明によれば、2機能ロック−急冷チャンバ内で行われる他の方式の排気も全て、本発明に含まれる。
【0010】
処理対象の被処理部材は、好ましくは、プレート状の搬送物移載装置、または網状の搬送物移載装置に直接収容され、かつ/または搬送ラック内に配置され、搬送ラックは随意であるが、搬送物移載装置に収納される。ギアボックスシャフトのような長尺の被処理部材は、宙吊り状態で搬送物移載装置内、または搬送ラック内に配置されることが好ましい。
【0011】
本発明の装置は、1つ以上のモジュールにより構成される搬送物搬送システムを備え、各モジュールは、移送チャンバおよび/または1つ以上のロックチャンバ、急冷チャンバ、および低圧加熱チャンバに割り当てられる。搬送物搬送システムの各モジュールには、アクチュエータ群が配設され、これらのアクチュエータは、電気ケーブルを介して装置の中央制御システムに、例えばプログラマブルロジックコントローラ(PLC)に接続される。
【0012】
本発明の装置の好適な実施形態は、固定の2機能ロック−急冷チャンバと、m=2,3,4,5,6,7,8,9,または10とした場合に垂直方向に積み重なるm個の低圧加熱チャンバと、更には、移送チャンバとを備え、前記2機能ロック−急冷チャンバおよび前記低圧加熱チャンバ群は、前記移送チャンバに接続される。これらの低圧加熱チャンバの各低圧加熱チャンバには、真空スライドバルブまたは真空ドアが設けられ、該真空スライドバルブまたは該真空ドアを利用して、前記低圧加熱チャンバの内部空間を、前記移送チャンバの内部空間から気密遮断することができる。前記2機能ロック−急冷チャンバには、互いに反対側に配置される2つの真空スライドバルブまたは真空ドアが設けられる。
【0013】
本発明による全ての装置では、垂直方向または水平方向に移動可能な真空スライドバルブおよび/または回動可能な真空ドアが、必要に応じて使用される。多種多様な開閉方式および寸法の真空スライドバルブおよび真空ドアが市販されている。
【0014】
本発明の装置の別の好適な実施形態は、固定ロックチャンバと、固定急冷チャンバと、m=2,3,4,5,6,7,8,9,または10とした場合に垂直方向に積み重なるm個の低圧加熱チャンバと、更には、移送チャンバとを備え、前記ロックチャンバ、前記急冷チャンバ、および前記低圧加熱チャンバ群は、前記移送チャンバに接続される。これらの低圧加熱チャンバの各低圧加熱チャンバには、真空スライドバルブまたは真空ドアが設けられ、前記真空スライドバルブまたは前記真空ドアを利用して、前記低圧加熱チャンバの内部空間を、前記移送チャンバの内部空間から気密遮断することができる。前記ロックチャンバおよび前記急冷チャンバにはそれぞれ、互いに反対側に配置される2つの真空スライドバルブまたは真空ドアが設けられる。
【0015】
2つの上記装置では、前記搬送物搬送システムは基本的に、前記移送チャンバ内に配置され、かつ昇降機を備え、該昇降機は、伸縮自在機構と一体となって垂直方向に移動して、前記被処理部材を載せた搬送物移載装置および/または搬送ラックを収容して水平方向に移動させる。
【0016】
本発明の装置の別の好適な実施形態は、固定ロックチャンバと、固定急冷チャンバと、m=2,3,4,5,6,7,8,9,または10とした場合に水平姿勢で互いに隣接して円形状に配置されるm個の低圧加熱チャンバと、更には、移送チャンバとを備え、前記ロックチャンバ、前記急冷チャンバ、および前記低圧加熱チャンバ群は、前記移送チャンバに接続される。これらの低圧加熱チャンバの各低圧加熱チャンバには、真空スライドバルブまたは真空ドアが設けられ、前記真空スライドバルブまたは前記真空ドアを利用して、前記低圧加熱チャンバの内部空間を、前記移送チャンバの内部空間から気密遮断することができる。前記ロックチャンバおよび前記急冷チャンバにはそれぞれ、互いに反対側に配置される2つの真空スライドバルブまたは真空ドアが設けられる。このようにして構成される装置では、前記移送チャンバ内に配置される搬送物搬送システムは、伸縮自在機構と組み合わせた駆動回転プレートを備えることにより、前記被処理部材を載せた搬送物移載装置および/または搬送ラックを収容して水平方向に移動させる。
【0017】
好適には、これらの低圧加熱チャンバを設けて、1〜10個の水平階層、特に1,2,3,4,または5個の水平階層を有する積層搬送物として配置される被処理部材を熱化学的に強化し、複数の被処理部材はそれぞれ、互いに隣接配置されて、或る領域に亘って、好適には互いに距離を置いて水平階層に分散配置される。従って、これらの低圧加熱チャンバは、空の搬送物搬送容積が、或る幅と、当該幅に無関係のそれぞれ、400〜1000mm、好適には400〜800mmの長さと、100〜300mm、好適には100〜200mmの高さとを、前記搬送物搬送容積と前記低圧加熱チャンバの内壁との間の空き間隔に有し、更には、20〜40mmの加熱部材を有するように寸法設定される。
【0018】
これらの低圧加熱チャンバのうちの少なくとも1つの低圧加熱チャンバを設けて窒化処理を、放電プラズマを利用して行い、そして少なくとも1つの低圧加熱チャンバは電気エネルギー供給源に接続される。負電位を、被処理部材を載せた搬送物移載装置に印加することができるようにするために、前記低圧加熱チャンバには、或る面積を有する電気接点を設けることが好ましい。前記電気接点は、前記低圧加熱チャンバの接点から、または内部から、前記低圧加熱チャンバの壁を経て外部に至る電気導体に結合されて、前記電気エネルギー供給源に接続される。
【0019】
基本的に、負電位をこれらの被処理部材に印加する必要はない。必要があるのではなく、これらの被処理部材は、低圧加熱チャンバの内壁から、高電位に基づいて、電気的に絶縁することができる、または放電プラズマ中に、自動的に形成される浮遊電位とすることができる。
【0020】
しかしながら、前記被処理部材に対する負電位の印加は、本発明に関連して行われる。有利な実施形態では、前記搬送物移載装置は、4つの位置決め脚を有する支持プレートを備える。前記支持プレート、およびこれらの位置決め脚のうちの少なくとも1つの位置決め脚は、金属、金属合金、グラファイト、または炭素繊維強化グラファイト(CFC)のような導電性材料により形成される。導電性位置決め脚を設けて、前記低圧加熱チャンバ内に或る面積を有する電気接点に位置決めする。
【0021】
本発明の装置の別の実施形態は、モジュール群を有する搬送物搬送システムを備え、これらのモジュールは、ロックチャンバ内、急冷チャンバ内、低圧加熱チャンバ内、および随意であるが、移送チャンバ内に配置される。このような搬送物搬送システムに対応して構成される搬送物移載装置は、第1接続部材と、随意であるが、ローラ群とを下側領域に有する。ロックチャンバ内、急冷チャンバ内、低圧加熱チャンバ内、および随意の移送チャンバ内に配置される前記搬送物搬送システム、または搬送物搬送システムの種々のモジュールには、第2接続部材群が設けられ、これらの第2接続部材は、前記第1接続部材に嵌合するように構成され、かつ前記第1接続部材に脱着可能に接続することができる。前記搬送物搬送システムのこれらのモジュールは、被処理部材を載せた搬送物移載装置を、1つのチャンバから隣接するチャンバに、電動リニア駆動装置のようなアクチュエータを利用して搬送することができるように構成される。窒化処理に用いる前記低圧加熱チャンバ群の前記搬送物搬送システムの第2接続部材は、導電性である。例えば、前記第2接続部材は、金属、金属合金、グラファイト、または炭素繊維強化グラファイト(CFC)のような導電性材料からなる。別の構成として、前記第2接続部材には、電気ケーブルが設けられ、かつ搬送物移載装置に接続されるように、または搬送物移載装置に配置される第1接続部材に接続されるように引き回されるケーブルに接続される電気接点が設けられる。前記電気接点は、バネ、摺動接点またはブラシ接点として構成されることが好ましい。
【0022】
本発明の装置の有利な実施形態では、窒化処理用に設けられる前記低圧加熱チャンバ群には、回転駆動部が設けられる。前記回転駆動部により、前記被処理部材を載せた前記搬送物移載装置を放電プラズマ中で窒化処理中に継続的に回転させて、前記被処理部材を確実に前記放電プラズマで均一に(窒化処理の期間に亘って平均的に)処理することができる。前記被処理部材を載せた前記搬送物移載装置を回転させると、低圧加熱チャンバの3つ、または2つの側壁に沿ってのみ、かつ/または上面に沿ってのみ、延設される活性グリッド電極を使用して放電プラズマを発生させる場合に、特に有利であることが判明している。窒化処理のために低圧加熱チャンバに対して搬入搬出を行う場合、1つの開口部、または随意であるが、互いに反対側にある2つの開口部を有する活性グリッド電極を使用すると有利である。別の構成として、前記低圧加熱チャンバに対して搬入搬出を行う場合に、前記搬送物移載装置および前記被処理部材との衝突を回避するように、配置され、または調整される可動活性グリッド電極または折り曲げ活性グリッド電極が、本発明に関連して提供される。
【0023】
第1搬入ステップでは、前記被処理部材を載せた前記搬送物移載装置をロックチャンバに導入する(または、2機能ロック−急冷チャンバに導入する)。前記ロックチャンバを閉じて、ポンプで真空気密状態になるように排気する。前記被処理部材を覆うガス雰囲気の圧力を300mbar未満、好適には200mbar未満、特に100mbar未満の値に下げた後、本発明の装置の該当する構成によって異なるが、前記被処理部材を前記ロックチャンバから搬出して移送チャンバに搬入し、そして前記移送チャンバから搬出して低圧加熱チャンバに搬入する、または前記ロックチャンバを、既に排気されている低圧加熱チャンバの前面に配置して、真空気密状態を保ちながら、前記低圧加熱チャンバに接続する。
【0024】
可動ロックチャンバを、真空気密状態を保ちながら、低圧加熱チャンバに接続するために、前記ロックチャンバ、および随意であるが、前記低圧加熱チャンバには、1個または2個の真空接続部からなる接続部材を設ける。有利には、前記真空接続部は、嵌合シール面を有する2つのフランジを有し、これらのフランジのうちの一方のフランジのシール面には、O−リングを設け、そしてこれらのフランジのうちの一方のフランジは、外周面突起を有し、この外周面突起は、これらのシール面を放熱から遮熱し、高温残留ガスを前記低圧加熱チャンバから遮断する。
【0025】
前記被処理部材を載せた前記搬送物移載装置が低圧加熱チャンバに搬入されると直ぐに、前記低圧加熱チャンバを、真空気密状態を保って閉じて、50mbar未満、40mbar未満、30mbar未満、好適には20mbar未満の圧力まで排気する。前記低圧加熱チャンバは電気加熱され、そして前記被処理部材を載せた前記搬送物移載装置を搬入すると、600℃超、好適には700℃超、特に800℃超の温度を有するようになる。生産工程(プロダクションラン)の第1搬送物を搬入すると、前記低圧加熱チャンバは、600℃未満の温度を有することもできる。前記搬送物移載装置を搬入したときの初期温度に依存して、前記低圧加熱チャンバに、特定の時間長に亘って、一定量の電気エネルギー(kWh)を供給して、前記被処理部材の温度を800〜1050℃に設定して窒化処理を行う、900〜1050℃に設定して炭化処理を行う、または800〜1050℃に設定して拡散処理を行う。これらの低圧加熱チャンバの各低圧加熱チャンバが、パイロメータ、ボロメータ、または熱電対を備えることにより、前記被処理部材の温度を測定することが好ましい。前記被処理部材が所望の処理温度になってこの温度に所定の滞留時間に亘って保持された後、N
2,C
2H
2,CH
4,CO
2,H
2、アルゴンのような1種類以上のプロセスガスを制御性良く前記低圧加熱チャンバに継続的に導入して、窒化処理、炭化処理、または拡散処理に適するガス雰囲気を生成する。同時に、前記低圧加熱チャンバを1つ以上の真空ポンプで継続的に排気して、圧力を50mbar未満、40mbar未満、30mbar、好適には20mbar未満の所定の値に保持する。プロセスガス(複数種類のプロセスガス)が前記低圧加熱チャンバに短時間に流入する流入量は、1500l/h(リットル/時間)以下、好適には150〜800l/hである。窒化処理チャンバでは、プロセスガスの最大流量は、1000l/h、好適には20〜600l/h、20〜400l/h、特に20〜300l/hである。
【0026】
窒化ステップ、炭化ステップ、または拡散ステップの時間長さは、5〜150分の範囲である。次の窒化ステップ、炭化ステップ、または拡散ステップが行われる場合、このステップは、同じ低圧加熱チャンバ内、または異なる低圧加熱チャンバ内で行うことができる。本発明によれば、窒化ステップおよび炭化ステップを異なる低圧加熱チャンバ内で行って、特定の低圧加熱チャンバを窒化処理にのみ用いる、または炭化処理にのみ、および随意であるが、拡散処理にのみ用いることが好ましい。窒化ステップおよび炭化ステップを別々の低圧加熱チャンバ内で行うことにより、相互汚染による問題、例えばシアン化水素酸(HCN)が生成される問題を極力回避することができる。更に、窒化プラズマが炭素で汚染されるのを回避することができる。
【0027】
次の窒化ステップ、炭化ステップ、または拡散ステップが、異なる低圧加熱チャンバ内で、このプロセスステップに関して行われる場合、前記被処理部材を載せた前記搬送物移載装置を元の移送チャンバに搬入する、または元の可動ロックチャンバに搬入し、そしてこのチャンバから搬出して前記低圧加熱チャンバに搬入する。別の構成として、2つの低圧加熱チャンバが、互いに隣接して配置され、かつ互いに真空スライドバルブまたは真空ドアを有する開口部を介して接続することができる構成の装置が更に、本発明に関連して提供される。このような構成を有する装置では、第1低圧加熱チャンバを設けて、例えば炭化処理および/または拡散処理を行い、そして第2低圧加熱チャンバを設けて、拡散処理および/または窒化処理を行う。
【0028】
全ての窒化ステップ、炭化ステップ、および拡散ステップを行った後、前記被処理部材を載せた前記搬送物移載装置を上述の通りに、急冷チャンバ(または、2機能ロック−急冷チャンバ)に搬入して、既知の方法で、好適にはガスを利用して急冷する。ガスを利用して急冷する別の方法として、オイルまたはポリマーを利用して急冷する方法が更に、本発明に関連して提供される。
【0029】
本発明の装置は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個,9個,または10個の電気加熱可能な低圧加熱チャンバを備え、これらの低圧加熱チャンバはそれぞれ、ガス配管を介して別々のガス供給源に、または中央ガス供給源に接続される。これらのガス供給源は、複数のプロセスガス収納容器を備え、プロセスガスは、N
2、例えばC
2H
2,CO
2,およびCH
4のような炭素を含むドナーガス、例えばH
2およびアルゴンのようなキャリアガスからなるグループから選択される。マスフローコントローラは、これらのガス配管内に配置されて、単位時間当たりに前記低圧加熱チャンバ群に導入されるガスの量を調整することができる。これらのマスフローコントローラは、電気ケーブルを介して装置の中央制御システム、例えばプログラマブルロジックコントローラ(PLC)に接続される。各低圧加熱チャンバには、1つ以上の加熱部材が設けられ、これらの加熱部材は、グラファイトまたは炭素繊維強化グラファイト(CFC)からなることが好ましく、電気的に加熱される。各低圧加熱チャンバは、1つ以上の真空ポンプに、または中央ポンプに接続される。
【0030】
ロックチャンバおよび急冷チャンバ、および更には、これらの低圧加熱チャンバ、および随意であるが、移送チャンバにはそれぞれ、圧力センサが設けられるので有利であり、これらの圧力センサは、電気ケーブルを介して装置の中央制御システム、例えばプログラマブルロジックコントローラ(PLC)に接続される。
【0031】
これらの低圧加熱チャンバの各低圧加熱チャンバは、1つ、または2つの開口部と、更には、これらの低圧加熱チャンバの一方の端面、または互いに反対側にある2つの端面に配置される1つ、または2つの真空スライドバルブまたは真空ドアとを有する。
【0032】
本発明の装置の別の実施形態では、これらの低圧加熱チャンバには、2つの反対側にある端面に位置するように、第1および第2開口部、ならびに第1および第2真空スライドバルブまたは第1および第2真空ドアが設けられる。これにより、被処理部材を載せた搬送物移載装置を、第1開口部を介して低圧加熱チャンバに搬入することができ、窒化ステップ、炭化ステップ、および拡散ステップを完了した後、第1開口部の反対側にある第2開口部を介して搬出することができる。本発明の装置の有利な実施形態は、1つ以上の固定または可動ロックチャンバと、1つ以上の固定または可動急冷チャンバとを備え、これらのチャンバは、これらの低圧加熱チャンバの反対側に配置される、または反対側で移動することができる。このような装置では、被処理部材を載せた搬送物移載装置を空間内で一方の方向にのみ移動させる、すなわちロックチャンバから第1開口部を介して搬出して低圧加熱チャンバに搬入し、窒化ステップ、炭化ステップ、または拡散ステップを完了した後、低圧加熱チャンバから第2開口部を介して通過させて、急冷チャンバに搬入する。このようにして材料を単一方向に移動させる構成の装置では、これらの低圧加熱チャンバに対する搬入および搬出は、互いに切り離して行われ、かつ本発明のプロセスの生産効率またはスループットの観点から、実質的に互いに独立して最適化することができる。
【0033】
これらの低圧加熱チャンバは、チャンバ外壁またはチャンバ内壁、またはチャンバ外壁群またはチャンバ内壁群と、更には、チャンバ外壁とチャンバ内壁との間に配置される断熱材と、を備えているので有利である。チャンバ外壁は、金属材料からなり、特にスチール板からなり、そしてチャンバ外壁には、随意であるが、水冷手段が設けられる。チャンバ内壁は、グラファイトまたは炭素繊維強化グラファイト(CFC)のような耐熱材料からなる。耐熱材料は、グラファイトフェルトからなることが好ましい。各低圧加熱チャンバには、1つ以上の加熱部材が設けられ、これらの加熱部材は、グラファイトまたは炭素繊維強化グラファイト(CFC)からなることが好ましく、電気的に操作される。これらの加熱部材は、チャンバ内壁に近接する低圧加熱チャンバの上側領域に配置されることが好ましい。
【0034】
これらの低圧加熱チャンバには随意であるが、モジュール式搬送物搬送システムのアクチュエータ群、例えば電動リニア駆動装置を設ける。低圧加熱チャンバにおける熱放射によるこれらのアクチュエータの過熱を回避するために、これらのアクチュエータは、好ましくは低圧加熱チャンバの下側領域の水冷断熱構造の内部に配置される。低圧加熱チャンバに、被処理部材を載せたプレート状の搬送物移載装置を搬入した後、搬送物移載装置は、更に別の遮熱構造として機能する。本発明の装置の有利な実施形態では、搬送物搬送システムのこれらの駆動装置は、これらの低圧加熱チャンバの外部に配置され、かつシャフトおよび真空フィードスルーを介して、これらの低圧加熱チャンバ内の機械式アクチュエータに接続される。
【0035】
これらの低圧加熱チャンバのうちの少なくとも1つの低圧加熱チャンバは、窒化処理用に設けられ、かつ電気エネルギー供給源に接続される。電気エネルギー供給源は、DC電圧源を備え、DC電圧源の正極は、低圧加熱チャンバの導電性内壁に、または低圧加熱チャンバ内に配置されるアノードに電気接続される。DC電圧源の負極は、搬送物移載装置に設けられる電気接点に、低圧加熱チャンバ内に配置される活性グリッド電極に、または2つの取り出し端子を有する分圧器に望ましくは電気接続され、これらの取り出し端子に、活性グリッド電極、および搬送物移載装置用の電気接点が接続されて、DC電圧源が動作すると、搬送物移載装置および被処理部材が、活性グリッド電極に対して負の電位を有するようになる。
【0036】
電気エネルギー供給源は、200〜1000VのDC電圧、10〜200Aの直流電流、および2〜200kVAの直流電力を利用して動作するように構成される。電気エネルギー供給源は、数百ヘルツ〜1メガヘルツ、特に200ヘルツ〜5キロヘルツの範囲で可変に調整可能なパルス周波数、および更には、1.0〜0.001の範囲で可変に調整可能なパルスデューティファクタ(pdf)を有するパルスDC電圧を生成するように構成されることが好ましい。パルスデューティファクタ(pdf)は、周期に対する、すなわちパルス時間長(pd)およびデッドタイム(dt)の和に対するパルス時間長(pd)の比であり、デッドタイム(dt)の間は、DC電圧が、pdf=pd/(pd+dt)の関係に従って遮断される。パルス時間長(pd)は、100μs以下であることが好ましいのに対し、デッドタイムは、100μs以上であることが好ましい。特に好適な実施形態では、電気エネルギー供給源は更に、火花放電発生手段を備え、この火花放電発生手段は、通常パルスの開始時点では、数メガワットの高ピーク電力、および数マイクロ秒の短時間長を有する火花放電を発生させる。このような火花放電により、パルス放電プラズマが低圧加熱チャンバ内に形成され易くなる。上記種類の電気エネルギー供給源は、既知であり市販されている。このような電気エネルギー供給源は通常、マイクロコントローラを利用した電子制御システム、キャパシタ、および高速高出力スイッチ、好適にはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistors:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を有する。更に、電気エネルギー供給源は、保護回路を備えていると有利であり、この保護回路は、電気アークを、放電プラズマ中の電圧降下、および電流を利用して検出して、電源を短時間に亘って、通常100マイクロ秒〜1ミリ秒の時間に亘って遮断する。
【0037】
窒化処理用に設けられるこれらの低圧加熱チャンバのうちの1つ以上の低圧加熱チャンバが、最大1200℃の温度に耐えられる導電性材料、特に金属、金属合金、グラファイト、または炭素繊維強化グラファイト(CFC)からなる活性グリッド電極を備えることが好ましい。活性グリッド電極は、動作位置において、活性グリッド電極が、被処理部材を載せた搬送物移載装置を殆ど、または完全に取り囲むように構成される。動作位置では、活性グリッド電極は、例えば球面シェル、半球シェル、立方体の部分表面または全表面の形状を有する。活性グリッド電極は、トンネル状形状を有することが好ましく、かつ2つの側方グリッドが互いに対向し、1つの被覆グリッドが、これらの側方グリッドを連結する構成の矩形または半円形輪郭を有する。
【0038】
本発明の装置の更に別の実施形態では、窒化処理用に設けられるこれらの低圧加熱チャンバは、プラズマ浸漬イオン注入を行うように構成される。この目的のために、これらの窒化処理用加熱チャンバは、電気パルス発生器に接続され、この電気パルス発生器を利用して、1〜300kVの振幅、および可変パルス時間長を有する負電圧パルスを被処理部材に印加することができる。更に、これらの窒化処理用加熱チャンバはプラズマ発生装置に接続される。プラズマ発生装置は、10〜100MHz(無線周波数)または約1〜4GHz(マイクロ波)の範囲の周波数で動作する。プラズマを発生させるために必要なエネルギーは、誘導的、容量的、または導波管を介して、窒化処理用加熱チャンバ内のガス内に導入される。プラズマ浸漬イオン注入用の種々の装置が、先行技術において既知になっている。
【0039】
本発明は、これらの図を援用して以下に更に説明される。