特許第6474795号(P6474795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6474795薬物スクリーニング及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置における使用のための、ヒト多能性幹細胞からのアストロサイトの指向性分化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474795
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】薬物スクリーニング及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置における使用のための、ヒト多能性幹細胞からのアストロサイトの指向性分化
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20190218BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20190218BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20190218BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20190218BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20190218BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALN20190218BHJP
【FI】
   G01N33/50 Z
   A61K35/30
   A61P21/02
   C12Q1/02
   G01N33/15 Z
   !C12N5/0797
【請求項の数】8
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-520086(P2016-520086)
(86)(22)【出願日】2014年9月23日
(65)【公表番号】特表2016-535248(P2016-535248A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】IL2014050846
(87)【国際公開番号】WO2015049677
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2017年9月20日
(31)【優先権主張番号】61/885,018
(32)【優先日】2013年10月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/013,003
(32)【優先日】2014年6月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514033426
【氏名又は名称】カディマステム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イズラエル、ミカル
(72)【発明者】
【氏名】レヴェル、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ハッソン、アリエ
(72)【発明者】
【氏名】モラカンドブ クフィール
(72)【発明者】
【氏名】シェバス、ジュディス
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/042669(WO,A2)
【文献】 国際公開第2013/076726(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/026198(WO,A2)
【文献】 Laurent Roybon et al.,Human stem cell-derived spinal cord astrocytes with defined mature or reactive phenotypes,Cell Reports,2013年 9月,Vol.4, No.5,pp.1035-1048
【文献】 K Gupta et al.,Human embryonic stem cell derived astrocytes mediate non-cell-autonomous neuroprotection through endogenous and drug-induced mechanisms,Cell Death and Differentiation,2012年,Vol.19,pp.779-787
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
G01N 33/48 − 33/98
C12Q 1/02
A61K 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を予防又は処置するための薬剤をスクリーニングする方法であって、
(a)アストロサイトの集団を前記薬剤と接触させるステップであって、前記アストロサイトは、多能性幹細胞(PSC)からex−vivoで分化したものである、ステップ;
(b)ステップ(a)のアストロサイトの前記集団又はその馴化培地を、低酸素下、酸化ストレス下、グルタマート毒性下又は/NMDA/AMPA/カイナート毒性下にあるニューロンの集団と共培養するステップ;及び
(c)ニューロンの前記集団の生存又は神経機能を増強する前記薬剤の効果を定量するステップ、
を含む、上記方法。
【請求項2】
ステップ(b)において、アストロサイトの前記集団対ニューロンの前記集団の比率が、1:1、10:1、100:1、1000:1又は10,000:1よりも高い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アストロサイトが、GFAP、GLAST、AQP4の各々、又はそれらの組み合わせを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アストロサイトが、BDNF、GDNF及びVEGFからなる群より選択される神経栄養因子の分泌を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
酸化ストレスが、活性酸素種(ROS)、H、及びそれらの任意の誘導体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記定量するステップが、アポトーシス下にあるニューロンの数を計数することによって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アポトーシスが、カスパーゼ−3a標識、アネキシンV、チューブリン−B3、HB9又はDAPIによって検出される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記薬剤が小分子である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その一部の実施形態において、ex−vivoで分化した多能性幹細胞(PSC)を使用して、ヒトアストロサイトの機能性に影響を与える薬剤を同定する方法に関する。さらに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置のためのヒトアストロサイトの使用もまた提供される。
【背景技術】
【0002】
ALSは、上位MN及び下位MNの喪失を特徴とする運動ニューロン(MN)疾患である(Moloneyら、Front Neurosci 2014、8:252)。米国においておよそ30,000個体、世界中では約150,000患者、またイスラエルにおいてはおよそ400個体が、この疾患に罹患している。ALS症例のうち5〜10%は家族性ALSであるが、ALS症例の大部分は原因が未知の孤発性である。ALS関連変異体ヒトSOD1遺伝子を保有するトランスジェニックマウス及びラットにより、ヒト疾患の多くの特徴が再現される。今日まで、最大3ヶ月間寿命を延長させるだけのFDA承認された1種の化合物Rilutek(Riluzole)を除いて、有効な処置は利用可能でないことに留意することが重要である。
【0003】
ALSは、顕著な細胞喪失が既に生じた時点で診断される。MNの軸索の長さは、最大で1メートルである。MNの軸索は、細胞体をその標的である筋肉に接続する。MN補充療法後に機能的接続を適切に配線し直し確実にする能力は疑わしい結果を伴う困難な仕事のままであり、これがヒトにおいて可能であるという証拠は今日まで存在していない。したがって、さらなる細胞喪失を免れさせる試みは、MNの生存、並びに患者の生活の質及び診断後の長寿に対して有意な影響を有する。
【0004】
しかし、ALSにおける細胞異常は、MNに限定されない。孤発性ALS(sALS)及び家族性(fALS)の両方のALS患者において、機能不全をおこしているアストロサイトが多数観察される。正常な運動ニューロンとの、ALS患者由来のアストロサイトのin vitroでの共培養は、運動ニューロンの死を加速するようである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、これらの欠損に対処する、ヒトPSC細胞から増やして増大させたヒトアストロサイトを産生する必要性が、広く認識されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、運動ニューロン(MND)疾患、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)を予防又は処置するための薬剤をスクリーニングする方法が提供され、この方法は、
(a)アストロサイトの集団をこの薬剤と接触させるステップであって、これらのアストロサイトは、多能性幹細胞(PSC)からex−vivoで分化したものである、ステップ;
(b)ステップ(a)のアストロサイトの集団又はその馴化培地を、ニューロンの集団と共培養するステップ;及び
(c)ニューロンの集団の生存又は神経機能を増強するこの薬剤の効果を定量するステップ、
を含む。
【0007】
本発明の一部の実施形態によれば、ニューロンのこの集団は、低酸素、酸化ストレス下、グルタマート毒性下又はグルタマート/NMDA/AMPA/カイナート毒性下にある。
【0008】
本発明の一部の実施形態によれば、アストロサイトの集団対ニューロンの集団の比率は、1:1、10:1、100:1、1000:1又は10,000:1よりも高い。
【0009】
本発明の一部の実施形態によれば、これらのアストロサイトは、GFAP、GLAST、AQP4の各々、又はそれらの組み合わせを発現する。
【0010】
本発明の一部の実施形態によれば、これらのアストロサイトは、BDNF、GDNF及びVEGFからなる群より選択される神経栄養因子の分泌を示す。
【0011】
本発明の一部の実施形態によれば、この酸化ストレスは、活性酸素種(ROS)、過酸化水素(H)、及びそれらの任意の誘導体からなる群より選択される。
【0012】
本発明の一部の実施形態によれば、この定量するステップは、アポトーシス下にあるニューロンの数を計数することによって実施される。
【0013】
本発明の一部の実施形態によれば、これらのニューロンのアポトーシスは、カスパーゼ−3a標識、アネキシンV、チューブリン−B3、HB9又はDAPIによって検出される。
【0014】
本発明の一部の実施形態によれば、この薬剤は小分子である。
【0015】
本発明の一部の実施形態によれば、正常ヒト前駆体アストロサイト又はアストロサイトは、運動ニューロンの死を予防するための環境を提供するはずである。
【0016】
本発明の別の一態様によれば、ALSの進行を処置又は予防することを必要とする対象において、ALSの進行を処置又は予防するための方法が提供され;この方法は、それを必要とする対象への、ヒト前駆体アストロサイト(hAPC)又はアストロサイトの投与を含み、このヒト前駆体アストロサイト及びアストロサイトは、多能性幹細胞(PSC)からex−vivoで分化したものである。
【0017】
本発明の一部の実施形態によれば、この投与は、それを必要とする対象の脳脊髄液、脳又は脊髄実質に指向される。
【0018】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、活性薬剤としての本発明の細胞集団と、医薬的に許容可能な担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0019】
本発明の一部の実施形態によれば、この細胞集団は、遺伝子操作されていない。
【0020】
本発明の一部の実施形態によれば、これらのヒト前駆体アストロサイト又はアストロサイトは、この対象にとって非自己である。
【0021】
本発明の一部の実施形態によれば、これらのヒト前駆体アストロサイト又はアストロサイトは、この対象にとって同種である。
【0022】
本発明の一部の実施形態によれば、ALSを処置するために同定された医薬の製造のための、ヒト前駆体アストロサイト又はアストロサイトの使用が提供され、これらのヒトアストロサイト又はアストロサイトは、多能性幹細胞(PSC)からex−vivoで分化したものである。
【0023】
特記しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び/又は科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と類似又は等価な方法及び材料が、本発明の実施形態の実施又は試験において使用され得るが、例示的な方法及び/又は材料は、以下に記載されている。矛盾する場合、定義を含む本特許明細書が支配する。さらに、これらの材料、方法及び例は、例示のみであって、必ずしも限定を意図しない。
【0024】
特許又は出願ファイルは、カラーで作製された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面(単数又は複数)を伴うこの特許又は特許出願公報のコピーは、請求及び必要な手数料の支払いに応じて、特許庁によって提供される。
【0025】
本発明の一部の実施形態は、添付の図面及び画像を参照して、単なる例として本明細書に記載される。ここで、図面を詳細に具体的に参照すると、示される項目は、例としてであり、本発明の実施形態の例示的な議論を目的としていることが強調される。これに関して、図面と共に解釈される説明により、本発明の実施形態が如何に実施され得るかが、当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】hESC由来アストロサイトによるアストロサイト系統遺伝子発現の動態を示す図である。各遺伝子についての0日目、7日目、14日目、21日目、28日目及び35日目の発現が示される。ヒト成人及び胎児脳を、対照として使用した。以下の色、橙色、青色、緑色、黄色、赤色及び明青色は、それぞれ、GFAP、BDNF、PDGFRα、GLAST、GDNF及びALDH1L1の遺伝子発現動態を示す。各遺伝子について、胎児脳発現が、参照遺伝子として機能した(相対定量、RQ=1)。
図2】hESC由来アストロサイトがアストロサイトマーカーを発現することを示す図である。A.CD44、B.CXCR4及びC.GLASTを、0日間、7日間、14日間、21日間、28日間、35日間及び43日間にわたり、FACSによって測定した。PDGF及びCNTFは、APC傾倒及び分化を促進することが公知の因子である。hESC−APC分化に対する非処理(NT)、PDGF、CNTF及びPDGF+CNTF処理の影響を試験した(マーカー発現の%)。青色の線:NT、赤色の線:CNTF、緑色の線:CNTF+PDGF、及び明青色:PDGF。hPSC由来アストロサイトプロトコールによって取得された集団は、アストロサイトの富化された集団を生じる。
図3】hESC由来アストロサイトが、成熟アストロサイトのマーカーを発現することを示す図である。A.GFAP陽性細胞の階調レベル。B.GLAST陽性細胞の階調レベル。C.A+Bのオーバーレイモンタージュ画像、赤色のGFAP陽性細胞、緑色のGLAST陽性細胞及び青色のDapi陽性細胞。黄色の染色は、GFAP及びGLASTについての同時染色を示唆する。D.Cのインサートの拡大(黄色染色に関しては同じ言及)。E.緑色のアクアポリン−4陽性細胞(AQP4)及び赤色のGLAST陽性細胞。A〜C及びEのスケールバー:100μm、及びDのスケールバー:30μm。
図4】hPSC由来アストロサイトが、それぞれ、アストロサイト活性化後の細胞内容物中及び培地中で測定した場合、神経栄養因子を産生及び分泌することを示す図である。A.IFN−γ活性化後のGDNF細胞内容物及び分泌(赤色)。B.IFN−γ活性化後のBDNF細胞内容物及び分泌(橙色)。C.LPS活性化後のVEGF細胞内容物及びVEGF分泌(紫色)。
図5】hESC由来アストロサイトによる500μM及び2mMのグルタマート取り込みの動態を示す図である。A.左から右に(緑色のバー):分化の100日目におけるhESC由来アストロサイトへの500μMグルタマートの添加の、0分後、10分後、30分後、60分後、90分後及び120分後。明赤色のバー:第1の陰性対照、500μMグルタマートを有する培地、アストロサイトの存在なしで60分間。暗い赤色のバー−第2の陰性対照、120分後のヒト線維芽細胞と共に増殖させた培地中のグルタマートのレベル。右のバー(青色):ヒト脊髄由来アストロサイトと共に増殖させた培地中のグルタマートの陽性対照レベル。B.左から右に(明緑色のバー):分化の100日目におけるhESC由来アストロサイトへの2mMグルタマートの添加の、0分後、10分後、30分後、60分後、90分後及び120分後。青色のバー:陰性対照、アストロサイトの存在なしで60分間後の、2mMグルタマートを有する培地。
図6】酸化ストレス下にある運動ニューロンに対するヒトPSC由来アストロサイトの神経保護効果を示す図である。A.MNに、6時間にわたって、H(50μM及び150μM)を補充したか、又はMNを未処理のままにした。この期間の間、MNを、単独のままにしたか、又はMNに、アストロサイト上清(24時間の馴化培地)若しくはアストロサイトを補充した。A:HなしのMN中の%カスパーゼ−3aを、灰色のバーによって示す(右)。H単独と共にインキュベートしたMN中の%カスパーゼ−3aを、赤色(50μM H)及びオリーブグリーンのバー(150μM H)によって示し、又は、アストロサイト馴化培地の添加後を橙色及び淡緑色のバーによって示し、アストロサイトの存在下を桃色及び淡緑色のバーによって示す。B及びCでは、カスパーゼ−3活性化(赤色)。運動ニューロンは、ベータ3チューブリンで染色し(緑色)、核はDAPIで染色する。D.画像の定量及び分析に使用したハイコンテント分析デバイスの画像。
図7】ヒト前駆体アストロサイト(hAPC)の注射が、hSOD1マウスの生存を増加させたことを示す図である。A.2つの時点(130日目及び140日目)におけるhSOD1マウスの生存を比較する表。「7日目」細胞(7日間にわたって増殖因子の非存在下で増殖させた)を移植したマウスの生存は、140日目に示したように増加した。B.全ての実験群を比較するKaplan−Meir生存グラフ。C.全ての実験群を比較する、ロータロッド<106によって測定される、疾患発症について生成したKaplan−Meierグラフ。
図8】若いヒト由来アストロサイトが、hSOD1マウスにおいて運動性能を増加させたことを示す図である。A.全ての群を比較する、BBBスコアによって記載される、疾患進行の動態。0=正常マウス、5=麻痺したマウス。B.全ての実験群を比較する、ロータロッドスコアによって記載される、疾患進行の動態、180秒=正常マウス、0=ロッドを掴んでいられないマウス。C.ロータロッド装置上のマウス。
図9】若いヒト由来アストロサイトが、移植されたhSOD1の体重を維持したことを示す図である。全ての群を比較する、疾患進行を通じた体重における変化の動態。
図10】Kapaln Meierログランク統計分析を示す図である。ログランク生存分析を、集団の50%に対して実施した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、その一部の実施形態において、ex−vivoで分化した多能性幹細胞(PSC)を使用して、ヒトアストロサイトの機能性に影響を与える薬剤を同定する方法に関する。さらに、ヒト対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置のためのヒトアストロサイト又はヒト前駆体アストロサイトの使用もまた開示される。
【0028】
大量のヒトアストロサイトを取得するために、本発明者らは、分化前に無制限に増やすことができるヒト多能性幹細胞(PSC)細胞から、それらを分化させることを提唱する。
【0029】
本発明は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から、アストロサイトの高度に均質な集団(>90%GFAP、S100b)を生成するための、独自且つ堅固なプロトコールをさらに開示した。拡大縮小可能な培養技術と共に、この分化プロトコールは、in vitroでの大量のアストロサイトの産生を可能にする。これらのhPSC由来アストロサイトは、初代ヒトアストロサイトと類似の遺伝子発現パターン、並びに以下を含む機能的特性を示す:I)運動ニューロンを保護する神経栄養因子(BDNF、GDNF及びVEGF)の分泌。II)グルタマート取り込みの能力、及びIII)in vitroでの酸化ストレスからのニューロンの保護。これらのhPSC由来アストロサイトは、凍結して維持され得、必要に応じて使用され得る。
【0030】
これらの細胞を、G93A高コピー数hSOD1マウス(ALS疾患のマウスモデル)中にくも膜下腔内移植することを目的として、これらのヒトアストロサイトの治療特性を、in−vivoで評価した。ヒトアストロサイト移植は、全ての機能的試験において、運動性能における有意な改善(P<0.05)を生じた。さらに、生存及び疾患持続時間に対する正の効果が、移植されたマウスにおいて観察された。
【0031】
ALSは、皮質、脳幹及び脊髄中の運動ニューロンの死を特徴とする。ALSは、症例の約5〜10%が家族性であり、残りが孤発性である。この疾患の過程は、家族性ALSと孤発性ALSとの間で区別不能である。この疾患は、平均年齢56歳の高齢で顕在化し、一旦診断されると、2〜5年間以内の完全な麻痺及び死をもたらす。家族性患者のサブセットでは、変異が、銅−亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)をコードする遺伝子において見出されている。SOD1は、フリーラジカルの解毒に関与する細胞質酵素である。さらに、運動ニューロンにおける病原性ヒトSOD1タンパク質コード対立遺伝子の過剰産生は、後期発症型の進行性の神経変性疾患をもたらす。研究は、タンパク質凝集物の形成、細胞骨格異常、プロテアソーム機能不全、及び細胞死シグナルに対する増加した感受性を含む、ALS運動ニューロンの固有の病原性特徴の同定を導いてきた。さらに、in vivoで運動ニューロンと関連してしばしば見出される、グリア細胞(例えば、アストロサイト、シュワン細胞など)などであるがこれらに限定されない他の細胞における病原性ヒトSOD1タンパク質コード対立遺伝子の過剰産生は、非細胞自律的運動ニューロン病理を生じ得る。病原性SOD1タンパク質コード対立遺伝子の例には、SOD1G93A、SOD1G85R及びSOD1G37Rが含まれるがこれらに限定されない。
【0032】
ALS、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患は、集合的に主要な医療負担になる、処置不能な状態である。これらの疾患の生物学の改善された理解が、神経保護的処置及び最終的には修復的な処置を開発するために必要とされる。最近まで、神経変性疾患は、排他的にニューロン性の障害であると主にみなされてきた。しかし、最近の知見は、この概念に異議を申し立てており、急性及び慢性の障害においてアストロサイトによって媒介される神経変性の非細胞自律的機構をほのめかしている。ヒト幹細胞生物学は、生理学的パラダイム及び傷害パラダイム下でのヒトアストロサイト−ニューロン相互作用のモデル化を可能にする。神経幹細胞及び機能的ニューロンの生成のための堅固なプラットフォームが存在しているが、富化され且つ機能的なヒトアストロサイトの生成は比較すると研究の途上にある。ヒトアストロサイトが罹患ニューロンを保護し得、それらの生存を増加させ得る機構は、グルタマート神経毒性の予防、神経栄養因子(NTF)、例えばBDNF及びGDNFの分泌、並びにVEGF分泌による神経血管改変を含むと仮説を立てられる。
【0033】
本発明は、in−vitroでのヒト多能性幹細胞由来前駆体アストロサイト及びアストロサイトの富化され且つ機能的な集団の生成、並びにALSに対する薬物スクリーニングプラットフォームの樹立に一部基づき、ここで、酸化ストレス下にある運動ニューロンに対するヒトアストロサイトの神経保護効果を試験した。
【0034】
本発明の一部の実施形態では、方法及び組成物が、神経保護効果を示し、ヒトアストロサイトの機能性を増強するリード化合物の同定、特徴付け及び最適化のために提供される。
【0035】
本発明のアッセイを使用して試験され得る薬剤には、小分子薬剤、化学物質、ペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド薬剤(例えば、siRNA薬剤)が含まれる。
【0036】
細胞を薬剤と接触させるステップは、例えば、この薬剤が細胞と直接接触するように細胞に薬剤を添加することを含む、当該分野で公知の任意のin−vitro方法によって実施され得る。本発明の一部の実施形態によれば、これらの細胞は、薬剤と共にインキュベートされる。細胞をインキュベートするために使用される条件は、期間/細胞の濃度/薬剤の濃度/細胞と薬剤との間の比率などに関して選択され、これにより、薬剤は、分析される特定の遺伝子の転写及び/又は翻訳速度における変化などの細胞変化を誘導することが可能になる。特定の一実施形態によれば、これらの細胞は、少なくとも1日間、3日間、5日間、7日間、10日間、14日間又は少なくとも21日間にわたって、薬剤と接触させられる。
【0037】
候補神経保護的リード化合物は、本発明の細胞の培養培地に添加され得、所望の特性についてアッセイされ得る。所望の特性を示す化合物、例えば、候補神経保護的リード化合物の非存在下での生存運動ニューロンの数と比較して、培養物中の生存運動ニューロンの数を増加させる化合物が、さらなる特徴付け及び最適化のために選択され得る。化合物は、ヒトアストロサイトとの共培養物中で、又はその馴化培地中で、運動ニューロンの生存度を増加させるそれらの能力について選択され得る。
【0038】
ハイスループットスクリーニングもまた、任意の疾患関連表現型、例えば、生存、アポトーシス、壊死、軸索変性、軸索ガイダンス、軸索形態、樹状突起形態、受容体密度、シナプス形成、神経形成、シナプス密度、シナプス伝達、シナプスシグナル伝達、受容体輸送、タンパク質輸送、タンパク質凝集、プロテアソーム活性、受容体発現、酸化ストレス(ROS)、FGFRシグナル伝達及びFGFシグナル伝達を修正することが可能な化合物を同定するために使用され得る。
【0039】
細胞表現型(例えば、神経保護効果)をモジュレートするそれらの能力について選択された候補リード化合物の特徴付け及び最適化には、さらなるスクリーニング、誘導体及びアナログの生成、吸収・分布・代謝・排泄(ADME)特徴の分析、安全性試験並びに有効性試験が含まれるがこれらに限定されない。特に、最適化の試みは、血液脳関門を横切るように設計された化合物を開発することを含み得る。
【0040】
薬物候補化合物(又は「試験薬剤」)は、選択された個々の小分子(例えば、以前の薬物スクリーニングからのリード化合物)、又は一部の場合には、コンビナトリアルライブラリー、即ち、いくつかの化学的「基本単位」を組み合わせることによって、化学的合成若しくは生物学的合成のいずれかによって生成された多様な化学的化合物のコレクションからの、スクリーニングされる薬物候補化合物であり得る。例えば、直線的コンビナトリアル化学物質ライブラリー、例えば、ポリペプチドライブラリーは、所与の化合物長さ(即ち、ポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)にわたって、全ての可能な方法で、アミノ酸と呼ばれる化学的基本単位のセットを組み合わせることによって形成される。何百万もの化学的化合物が、このような化学的基本単位のコンビナトリアル混合を介して、合成され得る。実際、理論的には、100の相互交換可能な化学的基本単位の体系的なコンビナトリアル混合は、1億のテトラマー化合物又は100億のペンタマー化合物の合成を生じる。
【0041】
本明細書で使用する場合、用語「生存」は、細胞が死を回避する任意のプロセスを意味する。用語生存は、本明細書で使用する場合、壊死、アポトーシスによって明らかな細胞喪失の予防、又は他の機構の細胞喪失の予防もまた指す。生存を増加させるとは、本明細書で使用する場合、未処理の対照と比較して、少なくとも10%、25%、50%、75%、100%又はそれ超の、細胞死の割合における減少を示す。生存の割合は、培養物中の死細胞に対して特異的な色素(例えば、ヨウ化プロピジウム)を用いて染色されることが可能な細胞を計数することによって、測定され得る。
【0042】
本発明のアッセイにおいて使用される細胞は、多能性幹細胞からex−vivoで分化したアストロサイト細胞を含む。
【0043】
例えば、ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚盤胞又は遅延胚盤胞段階から単離され得る(WO2006/040763に記載される)。ヒト胚盤胞は、典型的には、ヒトin−vivo着床前胚から、又は体外受精(IVF)胚から、取得される。或いは、単細胞のヒト胚は、胚盤胞段階へと増大され得る。ヒトES細胞の単離のために、透明帯が、胚盤胞から除去され、内部細胞塊(ICM)が、免疫手術によって単離され、このとき、栄養外胚葉細胞は、溶解され、穏やかなピペッティングによってインタクトなICMから除去される。次いで、このICMは、その成長を可能にする適切な培地を含む組織培養フラスコ中にプレートされる。9〜15日後、ICM由来の成長物は、機械的解離又は酵素的分解のいずれかによって、凝集塊へと解離され、次いで、それらの細胞は、新鮮な組織培養培地に再度プレートされる。未分化の形態を示しているコロニーが、マイクロピペットによって個々に選択され、凝集塊へと機械的に解離され、再度プレートされる。次いで、得られたES細胞は、1〜2週間毎にルーチンで分割される。ヒトES細胞の調製方法に関するさらなる詳細については、Thomsonら[米国特許第5,843,780号;Science 282:1145、1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133、1998;Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7844、1995];Bongsoら[Hum Reprod 4:706、1989];Gardnerら[Fertil.Steril.69:84、1998]を参照のこと。
【0044】
市販の幹細胞もまた、本発明のこの態様で使用され得ることが理解される。ヒトES細胞は、NIHヒト胚性幹細胞レジストリー(<http://escr.nih.gov>)から購入され得る。市販の胚性幹細胞系の非限定的な例は、BG01、BG02、BG03、SA01、TE03(I3)、TE04、TE06(I6)、HES−1、HES−2、HES−3、UC01、UC06、WA01、WA07及びWA09である。
【0045】
本発明によって使用される幹細胞は、誘導多能性幹細胞(IPSc)からも誘導され得る。
【0046】
それらの起源に関わりなく、本発明に従って使用される幹細胞は、少なくとも50%精製されている、75%精製されている又は少なくとも90%精製されている。ヒト胚性幹細胞系が使用される場合、ヒトES細胞コロニーは、実質的に純粋な幹細胞集団を提供するために、機械的手段及び/又は酵素的手段などによって、それらのフィーダー層(x線照射した線維芽細胞様細胞)から、分離される。
【0047】
一旦ヒト幹細胞が取得されると、これらは、アストロサイトへと分化するように処理され得る。例示的な方法は、以下の材料及び方法のセクションに記載される。しかし、本発明の方法が、当該分野で公知のアストロサイトを生成するためのさらなる方法を企図することが理解される。
【0048】
使用される培養培地は、使用される幹細胞に従って選択される。したがって、例えば、ES細胞の増殖に適切な培地は、例えば、支持的な酵素及びホルモンが補充された、DMEM/F12(Sigma−Aldrich、St.Lewis、MO)又はアルファMEM培地(Life Technologies Inc.、Rockville、MD、USA)であり得る。これらの酵素は、例えば、インスリン(ActRapid;Novo Nordisk、Bagsvaerd、DENMARK)、プロゲステロン及び/又はアポトランスフェリン(Biological Industries、Beit Haemek、Israel)であり得る。他の成分は、実施例のセクションに列挙される。
【0049】
本明細書で使用する場合、語句「レチノイン酸」とは、神経細胞分化を誘導することが可能な、ビタミンAの活性形態(合成又は天然)を指す。本発明に従って使用され得るレチノイン酸の形態の例には、レチノイン酸、レチノール、レチナール、11−シス−レチナール、オール−トランスレチノイン酸、13−シスレチノイン酸及び9−シス−レチノイン酸(全てSigma−Aldrich、St.Lewis、MOで入手可能)が含まれるがこれらに限定されない。
【0050】
本発明の一部の実施形態では、レチノイン酸は、1〜50μMの濃度範囲で使用される。
【0051】
培養培地には、細胞増殖を促進し、ニューロングリア系統への分化を促進するために、培養期間の少なくとも一部において存在し得る増殖因子が、さらに補充され得る。本発明のこの態様の一実施形態によれば、このような増殖因子には、例えば、EGF(5〜50ng/ml)及びbFGF(5〜50ng/ml)(R&D Systems、Minneapolis、MN、Biotest、Dreieich、Germany)が含まれる。
【0052】
本明細書で使用する場合、語句「ニューロスフェア」とは、ニューロン、オリゴデンドロサイト及びアストロサイト並びに他のグリア細胞へと分化できる神経幹細胞及び初期多分化能前駆体を主に含む、準球状のクラスター又はスフェアを指す。
【0053】
これらの細胞は、熟化したニューロスフェアが形成されるまで培養される。
【0054】
本明細書で使用する場合、語句「熟化したニューロスフェア」とは、神経幹細胞の一部が、オリゴデンドロサイト系統の後天的なマーカー(例えば、Sox10、Nkx2.2.、NG2、A2B5)を有する特殊化したオリゴデンドロサイト前駆体になるように分化しており、他が、神経前駆体又はアストロサイト前駆体になるように分化している、ニューロスフェアを指す。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、これらの細胞は、例えば、10〜30(例えば、20〜30)日間にわたって培養することが可能であり、その最後に、脱離したニューロスフェアが形成される。次いで、これらのスフェア、又はそれらから解離された細胞は、接着性基材(例えば、matrigel又は細胞外マトリックス構成要素(例えば、コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチン)に接着され、増殖因子を用いたさらなる増大に供され、最終的に、増殖因子の除去後に、カチオン性接着性基材(例えば、フィブロネクチン(FN)を伴うポリ−D−リシン若しくはポリオルニチン又は接着性基材(例えば、matrigel又は細胞外マトリックス構成要素(例えば、コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチン)上での分化に供される。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「ヒトアストロサイト前駆体細胞(hAPC)」又は「ヒト前駆体アストロサイト」は、成熟アストロサイトである子孫を生成できる細胞を意味する。典型的には、これらの細胞は、アストロサイト系統に特徴的な表現型マーカーの一部を発現する。
【0057】
用語「投与する」及び「投与」とは、本明細書で企図される治療有効量のアストロサイト又は医薬が、予防及び/又は処置目的のために対象に送達されるプロセスを指す。これらのアストロサイト及び医薬は、対象の臨床状態、投与の部位及び方法、投薬量、患者の年齢、性別、体重、並びに医師にとって既知の他の因子を考慮して、良好な医療実務に従って投与される。
【0058】
用語「処置する」とは、このような用語が適用される疾患の進行、又はこのような疾患の1つ若しくは複数の症状を、逆転すること、軽減すること、又は阻害することを指す。処置するには、診断時又はそれ以降における対象の管理及び看護が含まれる。処置は、急性又は慢性の方法のいずれかで実施され得る。対象の状態に依存して、この用語は、疾患を予防することを指し得、これには、疾患の発症を予防すること、又は疾患に関連する症状を予防することが含まれる。この用語は、疾患による苦痛の前の、疾患又はこのような疾患に関連する症状の重症度を低減させることも指す。苦痛前の疾患の重症度の、このような予防又は低減とは、アストロサイト又はそれを含む医薬の、投与の時点ではその疾患に苦しんでいない対象への投与を指す。「予防する」とは、疾患又はこのような疾患に関連する1つ若しくは複数の症状の再発を予防することもまた指す。処置の目的は、疾患と闘うことであり、症状若しくは合併症の発症を予防若しくは遅延するため、又は症状若しくは合併症を軽減するため、又は疾患を排除若しくは部分的に排除するための、アストロサイトの投与が含まれる。用語「処置」及び「治療的に」とは、「処置する」が上に定義される場合、処置する行為を指す。
【0059】
本発明は、無数の神経変性疾患を処置するために患者中に移植され得る、細胞及びそれらの集団に関する。
【0060】
本発明の一部の実施形態によれば、これらの細胞及びそれらの集団は、本明細書に記載される細胞及び細胞集団を生成するために、遺伝子操作されていない(即ち、発現構築物で形質転換されていない)。
【0061】
用語又は語句「移植」、「細胞補充」又は「グラフティング」は、本明細書で相互交換可能に使用され、標的組織への本発明の細胞の導入を指す。
【0062】
これらの細胞は、中枢神経系中に、又は室腔中に、又は硬膜下で宿主脳の表面上に若しくは宿主脳脊髄液上に、グラフトされ得る。首尾よい移植のための条件は、(i)インプラントの生存度;(ii)移植の部位におけるグラフトの保持;及び(iii)移植の部位における最小量の病理学的反応を含み得る。宿主脳中に種々の神経組織、例えば胚性脳組織を移植するための方法は、「哺乳動物CNSにおける神経グラフティング(Neural grafting in the mammalian CNS)」、Bjorklund及びStenevi編(1985);Freedら、2001;Olanowら、2003)に記載されている。これらの手順には、移植の時点において、脳実質と反対になるように、宿主脳内の組織の注射又は堆積によって達成される、実質内移植、即ち、宿主脳内(脳の外側又は実質外移植と比較した場合)が含まれる。実質内移植は、以下の2つのアプローチを使用してもたらされ得る:(i)宿主脳実質中への細胞の注射、又は(ii)宿主脳実質を露出させるために、外科的手段によって腔を準備し、次いで、この腔中にグラフトを堆積させること。両方の方法が、グラフティングの時点においてグラフトと宿主脳組織との間での実質堆積を提供し、両方とも、グラフトと宿主脳組織との間の解剖学的統合を促進する。これは、グラフトが、宿主脳の一体的な一部となり、宿主の生涯にわたって生存することが必要とされる場合に、重要である。或いは、このグラフトは、室、例えば、脳室中に、又は脳脊髄液上に硬膜下に、即ち、宿主脳の表面上に配置され得、ここで、介在している脳軟膜又はくも膜及び脳軟膜によって、宿主脳実質から分離される。室へのグラフティングは、細胞の注射によって達成され得る。硬膜下グラフティングのために、これらの細胞は、硬膜中にスリットを作製した後に、脳の表面周囲に注射され得る。宿主脳の選択された領域中への注射は、マイクロシリンジの針が挿入されるのを可能にするために、ドリルで穴をあけ、硬膜を貫通することによって、行われ得る。このマイクロシリンジは、好ましくは、定位フレーム中にマウントされ、三次元定位座標が、脳又は脊髄の所望の位置中に針を配置するために選択される。これらの細胞は、脳の被殻、基底核、海馬皮質、線条体、黒質又は尾状核領域、並びに脊髄中にも導入され得る。
【0063】
これらの細胞は、組織の健常な領域にも移植され得る。一部の場合には、損傷した組織エリアの正確な位置は、未知であってもよく、これらの細胞は、健常な領域に不注意に移植され得る。他の場合には、健常な領域に細胞を投与することが好ましい場合があり、それによって、その領域への任意のさらなる損傷を回避する。いずれの場合にも、移植後、これらの細胞は、損傷したエリアへと遊走し得る。
【0064】
移植するために、細胞懸濁物は、シリンジ中に引き込まれ、麻酔した移植レシピエントに投与される。複数回の注射が、この手順を使用して行われ得る。
【0065】
したがって、細胞懸濁手順は、脳又は脊髄中の任意の所定の部位への細胞のグラフティングを可能にし、比較的非外傷性であり、同じ細胞懸濁物を使用した、いくつかの異なる部位中又は同じ部位中への、同時に複数回のグラフティングを可能にする。
【0066】
脊髄グラフティングのために好まれ得る腔中への移植のために、例えばSteneviら(Brain Res.114:1〜20.、1976)に記載されるように、脳を覆っている骨を除去し、gelfoamなどの材料を用いて出血を停止させることによって、移植腔を形成するために、組織が、中枢神経系(CNS)の外部表面に近位の領域から除去される。吸引が、腔を作るために使用され得る。次いで、グラフトが、腔中に配置される。
【0067】
非自己細胞は、身体に投与された場合に免疫反応を誘導する可能性が高いので、いくつかのアプローチが、非自己細胞の拒絶の可能性を低減させるために開発されてきた。これらには、レシピエントの免疫系を抑制することが含まれる。免疫抑制薬剤の例には、メトトレキサート、シクロホスファミド、シクロスポリン、シクロスポリンA、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン(スルファサラゾピリン(sulphasalazopyrine))、金塩、D−ペニシラミン、レフルノミド、アザチオプリン、アナキンラ、インフリキシマブ、エタネルセプト、TNF.アルファブロッカー、炎症性サイトカインを標的化する生物学的薬剤、及び非ステロイド性抗炎症薬物(NSAID)が含まれるがこれらに限定されない。NSAIDの例には、アセチルサリチル酸、コリンマグネシウムサリチル酸、ジフルニサル、サリチル酸マグネシウム、サルサラート、サリチル酸ナトリウム、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナマート、ナプロキセン、ナブメトン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、タクロリムス、トルメチン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、Cox−2インヒビター及びトラマドールが含まれるがこれらに限定されない。
【0068】
用語「対象」、「個体」又は「患者」は、本明細書で相互交換可能に使用され、哺乳動物などの温血動物を含む動物を指す。
【0069】
本明細書で利用する場合、用語「健常な対象」とは、ALSと診断されていない、又はALSの症状を有さない、対象、特に哺乳動物を意味する。
【0070】
本明細書で使用する場合、「医薬組成物」とは、生理学的に適切な担体及び賦形剤などの他の化学的構成要素を伴う、本明細書に記載される活性成分又は細胞のうちの1つ又は複数の調製物を指す。医薬組成物の目的は、生物への細胞又は化合物の投与を促進することである。
【0071】
本明細書で、用語「活性成分」とは、運動ニューロンの集団の生存又は神経機能を増強する薬剤を指す。
【0072】
本明細書で以後、相互交換可能に使用され得る語句「生理学的に許容可能な担体」及び「医薬的に許容可能な担体」とは、生物への顕著な刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物学的活性及び特性を抑止しない、担体又は希釈剤を指す。アジュバントは、これらの語句に含まれる。
【0073】
本明細書では、用語「賦形剤」とは、活性成分の投与をさらに促進するために医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の例には、限定でなく、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖及びデンプンの型、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが含まれる。
【0074】
「治療有効量」は、1つ又は複数の所望の効果、特に、1つ又は複数の有益な効果をもたらす、アストロサイト又はその医薬の量又は用量に関する。治療有効量の物質は、対象の疾患段階、年齢、性別及び重量、並びに対象において所望の応答を惹起するその物質の能力などの因子に従って変動し得る。投薬レジメンは、最適な治療応答(例えば、有益な効果、より具体的には、持続性の有益な効果)を提供するために調整され得る。例えば、いくつかの分割された用量が、毎日投与され得るか、又は用量は、治療状況の緊急の要求によって示される場合、比例的に低減され得る。
【0075】
誘導多分化能及び多能性幹細胞系は、本明細書で「誘導幹細胞系」(iSC系)と称される。誘導多能性幹細胞は、iPS細胞又はiPSCと称される。
【0076】
表現型を「修正する」とは、本明細書で使用する場合、正常な表現型により緊密に接近するように、表現型を変更することを指す。
【0077】
薬物の製剤化及び投与のための技術は、参照によって本明細書に組み込まれる「レミングトンの薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」、Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版中に見出すことができる。
【0078】
本明細書で使用する場合、用語「約」とは、±10%を指す。
【0079】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」及びそれらの変化形は、「〜を含むがそれらに限定されない」ことを意味する。
【0080】
用語「〜からなる」とは、「〜を含みそれらに限定される」ことを意味する。
【0081】
用語「本質的に〜からなる」とは、さらなる成分、ステップ及び/又は部分が、特許請求された組成物、方法又は構造の基本的な特徴及び新規特徴を著しく変更しない場合に限り、その組成物、方法又は構造が、さらなる成分、ステップ及び/又は部分を含み得ることを意味する。
【0082】
本出願を通じて、本発明の種々の実施形態が、範囲の形式で提示され得る。範囲の形式での記載は、単に簡便さ及び簡潔さのためであり、本発明の範囲に対する確固たる限定として解釈すべきでないことを、理解すべきである。したがって、範囲の記載は、全ての可能な下位範囲並びにその範囲内の個々の数値を具体的に開示したとみなすべきである。例えば、1〜6などの範囲の記載は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6などの下位範囲、並びにその範囲内の個々の数字、例えば、1、2、3、4、5及び6を具体的に開示したとみなすべきである。これは、範囲の広がりに関わらず適用される。
【0083】
数値範囲が本明細書に示される場合はいつでも、示された範囲内の任意の列挙された数値(分数又は整数)を含む意味である。語句、第1の示された数字と第2の示された数字「との間の範囲である/との間の範囲」及び第1の示された数字「から」第2の示された数字「までの範囲である/までの範囲」は、本明細書で相互交換可能に使用され、第1の示された数字及び第2の示された数字、並びにそれらの間の全ての分数及び整数を含む意味である。
【0084】
本明細書で使用する場合、用語「方法」とは、化学、薬理学、生物学、生化学及び医学分野の従事者にとって公知であるか、又はこのような従事者によって公知の様式、手段、技術及び手順から容易に開発されるかのいずれかの、様式、手段、技術及び手順が含まれるがこれらに限定されない、所与の課題を達成するための様式、手段、技術及び手順を指す。
【0085】
明確さのために別々の実施形態に関して記載される本発明の特定の特徴が、単一の実施形態において組み合わせても提供され得ることが、理解される。逆に、簡潔さのために、単一の実施形態に関して記載される本発明の種々の特徴も、別々に、又は任意の適切な下位組み合わせで、又は本発明の任意の他の記載された実施形態において適切なように、提供され得る。種々の実施形態に関して記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしには働かない場合を除き、それらの実施形態の必須の特徴とみなすべきではない。
【0086】
本明細書で上に記述され以下の特許請求の範囲のセクションにおいて特許請求される本発明の種々の実施形態及び態様は、以下の実施例において実験的支持を見出す。
【実施例】
【0087】
以下、参照が、上記説明と共に、非限定的な方式で本発明の一部の実施形態を例示する以下の実施例に対してなされる。
【0088】
一般に、本明細書で使用される命名法及び本発明で利用される実験室手順には、分子技術、生化学的技術、微生物学的技術及び組換えDNA技術が含まれる。このような技術は、文献中で完全に説明されている。例えば、「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A laboratory Manual)」Sambrookら、(1989);「分子生物学における現代のプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」第I〜III巻 Ausubel,R.M.編(1994);Ausubelら、「分子生物学における現代のプロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、John Wiley and Sons、Baltimore、Maryland(1989);Perbal、「分子クローニングのための実務ガイド(A Practical Guide to Molecular Cloning)」、John Wiley & Sons、New York(1988);Watsonら、「組換えDNA(Recombinant DNA)」、Scientific American Books、New York;Birrenら(編)「ゲノム分析:実験室マニュアルシリーズ(Genome Analysis:A Laboratory Manual Series)」、第1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1998);米国特許第4,666,828号;同第4,683,202号;同第4,801,531号;同第5,192,659号及び同第5,272,057号に示される方法論;「細胞生物学:実験室ハンドブック(Cell Biology:A Laboratory Handbook)」、第I〜III巻 Cellis,J.E.編(1994);「動物細胞の培養−基礎技術のマニュアル(Culture of Animal Cells−A Manual of Basic Technique)」、Freshney、Wiley−Liss、N.Y.(1994)、第3版;「免疫学における現代のプロトコール(Current Protocols in Immunology)」第I〜III巻 Coligan J.E.編(1994);Stitesら(編)、「基礎及び臨床免疫学(Basic and Clinical Immunology)」(第8版)、Appleton & Lange、Norwalk、CT(1994);Mishell及びShiigi(編)、「細胞免疫学における選択された方法(Selected Methods in Cellular Immunology)」、W.H.Freeman and Co.、New York(1980);利用可能なイムノアッセイは、特許及び科学文献中に広範に記載されている、例えば、米国特許第3,791,932号;同第3,839,153号;同第3,850,752号;同第3,850,578号;同第3,853,987号;同第3,867,517号;同第3,879,262号;同第3,901,654号;同第3,935,074号;同第3,984,533号;同第3,996,345号;同第4,034,074号;同第4,098,876号;同第4,879,219号;同第5,011,771号及び同第5,281,521号を参照のこと;「オリゴヌクレオチド合成(Oligonucleotide Synthesis)」Gait,M.J.編(1984);「核酸ハイブリダイゼーション(Nucleic Acid Hybridization)」Hames,B.D.及びHiggins S.J.編(1985);「転写及び翻訳(Transcription and Translation)」Hames,B.D.及びHiggins S.J.編(1984);「動物細胞培養(Animal Cell Culture)」Freshney,R.I.編(1986);「固定化された細胞及び酵素(Immobilized Cells and Enzymes)」IRL Press、(1986);「分子クローニングのための実務ガイド(A Practical Guide to Molecular Cloning)」Perbal,B.、(1984)並びに「酵素学における方法(Methods in Enzymology)」第1〜317巻、Academic Press;「PCRプロトコール:方法及び適用のためのガイド(PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications)」、Academic Press、San Diego、CA(1990);Marshakら、「タンパク質の精製及び特徴付けのための戦略−実習コースマニュアル(Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual)」CSHL Press(1996)を参照のこと;これらは全て、本明細書に完全に示されたと同様に、参照によって組み込まれる。他の一般的な参考文献は、この文書を通じて提供される。それらの中の手順は、当業者に周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。それらの中に含まれる全ての情報は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0089】
材料及び方法
アッセイに使用するアストロサイトの生成
ヒトES細胞系を、ヒト新生児包皮線維芽細胞(HEF)のフィーダー層上で5%CO中で37℃で培養した。増殖培地(ES1)は、DMEM/F12(Sigma)、14%ノックアウト血清代用品(KSR)、非必須アミノ酸(1/100)、0.1mMベータ−メルカプトエタノール(3つ全て、Invitrogen/Gibcoから)、1mMピルビン酸Na、2μg/mlヘパリン(Sigma)及び8ng/mlヒト組換え塩基性FGF(FGF−2;Preprotech)からなった。播種の5日後、hES細胞コロニーを、1.2mg/mlコラゲナーゼIV(Worthington)で37℃で45〜90分間脱離させた。凝集物を、上記のようにさらに培養し、又は記載されたように(Izraelら、Mol Cell Neurosci 34、310〜323(2007)、分化に供した。
【0090】
ステップ1−移行:この移行ステップのために、hES細胞コロニーを、50%(v/v)ES1培地及び50%(v/v)のITTSPP/B27培地からなる培地T(Transition(移行))中で、組織培養プレートに移した。ITTSPP/B27はそれ自体、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含む、2%B27サプリメント(Invitrogen)を含むDMEM/F12の1体積と、25μg/mlヒトインスリン(ActRapid、Novo Nordisk)、50μg/mlヒトアポトランスフェリン(Biological Industries、Israel)、6.3ng/mlプロゲステロン、10μg/mlプトレシン、50ng/ml亜セレン酸ナトリウム及び40ng/mlトリヨードサイロニン(T3)(全てSigmaから)を含むDMEM/F12の1体積との混合物である。培地Tには、20ng/ml r−ヒトEGF(R&D Systems)及び4ng/ml r−ヒトbFGFを補充した。1日後、非接着性hES細胞コロニー及び凝集物のバルクを、6cm細菌(非接着性)プレートに移し、20ng/ml r−ヒトEGF(R&D Systems)及び2ng/ml r−ヒトbFGFを補充したT培地中で増殖させた。
【0091】
ステップ2:オール−トランスレチノイン酸(ATRA)処理:培地を、20ng/ml EGF及び10μM ATRAを添加したITTSPP/B27に切り替えた。培地を、7日間毎日交換した。
【0092】
ステップ3:懸濁培養:ニューロスフェア(NS)の熟化を可能にするこのステップの間に、培養を、20ng/ml EGFを含むITTSPP/B27培地中で18日間継続した。培地を、1日おきに交換した。
【0093】
神経幹細胞の増殖及び分化
ステップ4:Matrigel接着1:スフェア/クラスターを、DMEM/F12中に1:30希釈したBD Matrigel(増殖因子低減Matrigel、BD Biosciences)で室温(RT)で1.5時間にわたって被覆した6ウェル組織培養プレートに移した。培養培地は、20ng/ml EGFを含むITTSPP/B27であり、1日後に、いずれの非接着性凝集物をも廃棄した。培地を、7〜9日間にわたって1日おきに交換した。
【0094】
ステップ5:Matrigel接着2:線維芽細胞及び上皮細胞を含まないニューロスフェア/クラスターを、選択し、新たなMatrigelプレート上に採取した。ニューロスフェア(10個以下のNS)を、脱離させ、PBS(Ca+及びMg2+を含まない)中0.025%のトリプシン(InVitrogen)で37℃で2〜3分間、部分的に解離させた(継代1)。トリプシンを、1体積のトリプシンインヒビター(Invitrogen)及び4体積のITTSPP/B27中2mg/ml BSAによって中和した。細胞を、Eppendorf遠心分離において5分間1200rpmでスピンした。解離された小さいクラスターを、20ng/ml EGFを含むITTSPP/B27中でMatrigel被覆プレート上に(1:1〜1:3の比率で)再度播種した(ステップ4)。2〜3週間後、これらの細胞を、上記のようにトリプシン処理によって解離させ(継代2)、得られたhES−NS細胞を、ポリ−D−リシン(PDL、100μg/ml)で被覆したプレート、又はMatrigel被覆プレート、並びに20ng/ml EGFを含むITTSPP/B27中のマウスラミニン(20μg/ml)若しくはPDL(20μg/ml)及びフィブロネクチン5μg/ml上に、1日間播種した。各新たな播種の時点において、1μg/mlマウスラミニン(Sigma)を、培地に添加した。
【0095】
ステップ6及び7:ポリ−D−リシン又はMatrigel上で増大する:1日後、培地を、0.5%(v/v)N2サプリメント(Invitrogen)、1%(v/v)B27サプリメントを含むDMEM/F12からなるN2/B27培地に交換した。増殖因子EGF及びbFGFを、各々10ng/mlで添加した。7〜14日後、細胞を、トリプシン処理によって分割し(1:2又は1:3、継代2(P2))、単層を得た。1週間後、細胞を、トリプシンを用いて収集し、0.5×10細胞アンプル中で凍結させた(P3)。さらなる継代を、示された場合に、毎週実施した。
【0096】
アストロサイトを富化し、アストロサイト傾倒を促進するために、細胞を、Matrigel、Cultrex又はGeltrex上で増殖させてもよい。
【0097】
ステップ8:GF除去:異なる継代において、最終分化を、増殖因子を除去することによって開始した。増殖因子を除去した場合には、常に50μg/mlビタミンCをN2/B27培地に添加した。細胞を、増殖因子bFGF及びEGFを補充したN2/B27培地中で解凍した。分割及び96ウェルプレート中での播種の1日前に、増殖因子を除去した。
【0098】
アストロサイト馴化培地又はアストロサイト添加を使用した、神経保護アッセイ
【0099】
【化1】
【0100】
化合物の効果は、以下のステップ(黄色の丸)において試験することができる:
1.化合物は、成熟アストロサイトに向かうhAPC分化の間に添加され得、その後、化合物曝露したアストロサイト又はそれらの馴化培地が、ニューロンに添加され得る。
2.酸化ストレスを誘導する前の、24〜72時間にわたる最後の培地交換の時点。
3.酸化ストレスの間の共培養中。
4.組み合わせ、即ち1+2、1+3、2+3などが実施され得る。
【0101】
ステップ1:げっ歯類の脊髄からの運動ニューロンの生成
ラット胚(E15)由来の脊髄を、各実験に使用した。髄膜を、全ての脊髄から除去した。これらの脊髄組織を、小さい断片へと切り刻み、15mlチューブへと分割した(チューブ1つ当たり5つの胚)。トリプシン(2ml、0.25%)(Gibco #250050014)を、各チューブに添加し、37℃で15分間インキュベートした。細胞を、NB培地(7ml)及びFCS(1ml)中に再懸濁し、300gで5分間遠心分離し、上清を吸引した。ペレットを、NB培地(2ml)中に再懸濁した。単一細胞を計数し、matrigel(BD #FAL354230)被覆96ウェルプレート(Costar #cc−3596)上に播種した(120K細胞/ウェル)。細胞を、2日の培地交換で、50ng/ml NGF(Alomone #n−100)を補充したNB培地中で培養した。運動ニューロンの特徴付けを、3日間の培養後に実施した。ニューロンを、チューブリン−b3、ニューロフィラメント及びHB9(運動ニューロン特異的転写因子)で染色した。ニューロンの少なくとも70%が、これらの抗体について陽性であった。
【0102】
ステップ2:アストロサイト播種
アストロサイトを、(脊髄手術後)8〜10日目に播種した。細胞を、50ng/ml NGF(Alomone #n−100)を補充したNB培地を用いて培養した。
【0103】
ステップ3:アストロサイト馴化培地の生成
hPSC由来アストロサイト(30〜150日齢のアストロサイト)由来の培地を収集し;ビタミンCを補充した新鮮なN2B27で1:1希釈した。この培地を、ACM(アストロサイト馴化培地)と命名した。
【0104】
ステップ4:酸化ストレス誘導(9〜10日目に実施した)
50μM又は150μMのH2O2(Sigma #216763)を、ビタミンCを補充したN2B27、即ちACM(150μl)中に希釈し、アストロサイトを播種したプレートの各ウェルに添加した。これらのプレートを、37℃で6時間インキュベートした。
【0105】
これらのプレートを、4%PFA、100μl/ウェルで10分間固定し、次いで、これらのプレートを、2回洗浄し、染色まで4℃で貯蔵した。
【0106】
ステップ5:運動ニューロン細胞死の分析:
染色:
細胞を、Tx−100 0.3%(sigma)を補充したブロッキング緩衝液と共に室温(RT)で1時間インキュベートし、PBS(−/−)で洗浄した。
【0107】
細胞を、以下の抗体と共に、RTで1時間インキュベートした:
第1の抗体−Rb−抗カスパーゼ−3a(Promega #G7481)(1:250)
M−抗β−Tub3(Convence #MMS−435P)(1:500)
Rb−抗HB9(Abeam #AB−ab92606)(1:100)
【0108】
細胞を、PBS(−/−)を使用して2回洗浄し、以下の抗体と共に、RTで1時間インキュベートした:
第2の抗体−ヤギ−抗Rb−568(Invitrogen #A11036)(1:1000)
ヤギ−抗マウス−488(Invitrogen #A11029)(1:1000)
【0109】
細胞を、PBS(−/−)を使用して2回洗浄し、DAPI(1:1000)で標識し、5分間インキュベートし、PBS(−/−)を使用して2回洗浄した。HCS分析を、Scan Array−Cellomics(Thermo−scientific inc)を使用して実施した。
【0110】
ACM、又はhPSC由来アストロサイトの添加の効果は、以下などの他のストレス誘導因子に対して試験することができる:
− 運動ニューロン興奮毒性。具体的には、グルタマート毒性(運動ニューロン細胞の生存度に加えて、グルタマート取り込み能力を試験する)
− さらなる活性酸素種毒性
− AMPA/カイナート毒性
【0111】
培地組成:
N2B27培地:
− DMEM/F12(Sigma #01−170)96.5%。
− N2(Invitrogen #17502−048)0.5%。
− B27(Invitrogen #17504044)1%。
− Pen/Srep/Ampho B(Biological ind.#03−033−lB)1%。
− GlutaMAX(Invitrogen #35050038)1%。
【0112】
NB培地:
− Neurobasal培地(Gibco #21103049)97%。
− B27(Invitrogen #17504044)1%。
− Pen/Srep/Ampho B(Biological ind.#03−033−1B)1%。
− GlutaMAX(Invitrogen #35050038)1%。
【0113】
FACS分析を使用した、ヒトPSC由来アストロサイトの特徴付け:
FACSに使用したサンプル:
異なる発生段階におけるhPSC由来アストロサイト由来のサンプルを染色した;
0日目=EGF及びbFGFの存在下で増殖させたhPSC由来アストロサイト
7〜14日目=EGF及びbFGFの非存在下で7〜14日間増殖させたhPSC由来アストロサイト
14〜28日目=EGF及びbFGFの非存在下で14〜28日間増殖させたhPSC由来アストロサイト
28〜42日目=EGF及びbFGFの非存在下で28〜42日間増殖させたhPSC由来アストロサイト
42〜56日目=EGF及びbFGFの非存在下で42〜56日間増殖させたhPSC由来アストロサイト
【0114】
FACS染色:
試薬:
FACS緩衝液:PBS(Gibco #14190−094)99.5%
BSA(sigma #A9418)0.5%
抗体:
− GLAST(Miltenyi)
− A2B5(Miltenyi)
− CD44(Miltenyi)
− CXCR4(Miltenyi)
− CD140(BD)
− CD9(Miltenyi)
− CD133(Miltenyi)
− TRA1−60(Miltenyi)
− EpCAM(Miltenyi)
− ALDH1L1(Miltenyi)
− GFAP(固定後)(Sigma)
− Aqua4(固定後+Tx−100)
【0115】
接着性細胞のための細胞調製物:
細胞を、トリプシン(Gibco)を使用して3分間トリプシン処理し、DMEM/F12(Sigma)中の2mg/ml BSA(Sigma、Cat#:A9418)を補充したDTI(Gibco)で不活性化した。細胞を、コニカルチューブ中に培地と共に収集し、300gでRTで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、冷PBS緩衝液(Gibco、Cat#:14190−094)で再懸濁し、300gでRTで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。
【0116】
固定:
細胞を、PFA 0.5%(希釈、EMC)で再懸濁し、4℃で30分間インキュベートした。細胞を、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、1ml PBS中で洗浄し、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。
【0117】
細胞内抗原の染色のための透過処理:
細胞を、Tx−100 0.5%と共に4℃で30分間インキュベートして、細胞膜を透過処理した。細胞を、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、PBS中に再懸濁し、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。
【0118】
免疫染色:
細胞を、FACS緩衝液(FB)で再懸濁した(1×10細胞/チューブ、100ulの体積中)。
【0119】
非コンジュゲート化一次抗体について:
非コンジュゲート化一次抗体及び非コンジュゲート化アイソタイプ対照抗体を、FB中に別々に希釈した。一次抗体を、製造者の指示に従って、最適な希釈で希釈した。細胞を、希釈した一次抗体又は希釈したアイソタイプ対照抗体と共に再懸濁し、4℃で30分間インキュベートした。細胞を、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、FBで洗浄し、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。対応する蛍光色素コンジュゲート化二次抗体を、FB中に希釈した。細胞を、希釈した二次抗体と共に再懸濁し、4℃で30分間インキュベートした。二次抗体を、製造者の指示に従って、最適な希釈で希釈したが、このインキュベーションは、暗所で実施しなければならない。細胞を、FBで再懸濁し、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、0.5ml FB中に再懸濁し、フローサイトメーターで分析した。
【0120】
蛍光色素コンジュゲート化一次抗体について:
蛍光色素コンジュゲート化一次抗体を、製造者の指示に従って、FB中に希釈した。細胞を、コンジュゲート化一次抗体と共に再懸濁し、暗所で4℃で15分間インキュベートした。細胞を、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、FBで再懸濁し、300gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞を、0.5ml FB中に再懸濁し、フローサイトメーターで分析した。
【0121】
ヒトPSC由来アストロサイトの遺伝子発現:
RNA抽出に使用したサンプル:
RNAサンプルを、異なる発生段階において、hPSC由来アストロサイトから抽出した;
0日目=EGF及びbFGFの存在下で増殖させたhPSC由来アストロサイト
7〜14日目=EGF及びbFGFの非存在下で7〜14日間増殖させたhPSC由来アストロサイト
14〜28日目=EGF及びbFGFの非存在下で14〜28日間増殖させたhPSC由来アストロサイト
28〜42日目=EGF及びbFGFの非存在下で28〜42日間増殖させたhPSC由来アストロサイト
42〜56日目=EGF及びbFGFの非存在下で42〜56日間増殖させたhPSC由来アストロサイト
【0122】
hPSC由来アストロサイトからのRNAの抽出:
0.05%トリプシン(Invitrogen #25200−056)を、細胞サンプル(1×10〜10×10細胞)に添加した。細胞を、37℃で5分間インキュベートした。トリプシンを、2体積の2mg/ml BSA(Sigma)の添加によって不活性化した。細胞を、300rpmで遠心分離し、上清を除去した。ペレットを、1mlのRLT(Qiagen)及び10μlベータ−メルカプトエタノール中に再懸濁し、−80Cで貯蔵した。
【0123】
リアルタイムRT−PCR
試薬及び装置
TaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイプローブ:
− A2B5(ABI、Life technologies)
− GFAP Hs00909236(life technologies)
− BDNF(ABI、Life technologies)
− PDGFR Hs00998018(life technologies)
− GLAST(ABI、Life technologies)
− GDNF(ABI、Life technologies)
− ALDH1L1 Hs00201836(life technologies)
− TRA−1−60(ABI、Life technologies)
− Nanog Hs04260366(life technologies)
− Oct4(ABI、Life technologies)
− Glu1 Hs00365928(life technologies)
− IGF−1(ABI、Life technologies)
− NGF(ABI、Life technologies)
− Aqua4(ABI、Life technologies)
− コネキシン30(ABI、Life technologies)
− CD44(ABI、Life technologies)
【0124】
・Human total RNA(Ambion)。
・Human Fetal RNA(Clontech)。
・TaqMan PCRマスターミックス、50ml(Applied Biosystems)。
・Fast Optical 96ウェル反応プレート(Applied Biosystems)。
・RT−PCR用T−Professionalベーシックグラジエント(Biometra)。
・High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(200反応)(Applied Biosystems)。
・Step One PlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)。
【0125】
逆転写
逆転写を、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems)及びT−Professionalベーシックグラジエントを使用して実施した。以下の手順は、Invitrogenのプロトコールに基づいた。
【0126】
以下のRNA/プライマー混合物を、各チューブにおいて調製した:
RT緩衝液 2μl
総RNA 1μg
RTランダムプライマー 1μl
RNaseインヒビター 1μl
逆転写酵素 1μl
100mM dNTPミックス 0.8μl
DEPC HO 10μlまで
【0127】
自動サーモサイクラーを、以下のようにプログラムした:
1. 25℃ 10分間
2. 37℃ 120分間
3. 85℃ 5分間
4. 4℃ ポーズ
【0128】
cDNAを、リアルタイムPCRに使用するまで、−20℃で貯蔵した。
【0129】
リアルタイムPCR
以下の混合物を、光学プレートの各ウェルにおいて調製した(10μlの反応混合物について)。
5μl TaqMan Mix
0.5μl プローブ+プライマー
0.5μl cDNA
4μl H
【0130】
遺伝子の各々についてqPCRによって得られたデータを、参照として成人胎児脳RNAを使用して分析した。
【0131】
hPSC由来アストロサイトの神経栄養因子分泌アッセイ
Elisaプロトコール:
使用した市販のキット:− BDNF(promega #G7610)
− GDNF(promega #G7620)
− IGF−1(R&D Systems #DG100)
− VEGF(R&D Systems #DVE00)
− NGF(promega #G7630)
【0132】
hPSC由来アストロサイトを、増殖因子(EGF+bFGF)の非存在下で少なくとも20日間増殖させた。hPSC由来アストロサイト上清培地(馴化培地)及び/又は細胞内容物(24時間〜72時間)を、最後の培地補給の後に収集した。
【0133】
因子の各々について、Elisaを、製造者のプロトコール指示に従って実施した。
【0134】
グルタマート取り込みプロトコール:
市販のキット:− EnzyChrom Glutamate Assay Kit(Bioassay Systems #EGLT−100)を使用した。
【0135】
使用した細胞培養物サンプル:少なくとも20日間の増殖因子枯渇(EGF+bFGF)hPSC由来アストロサイト、陽性対照ヒトアストロサイト(Gibco)、陰性対照ヒト線維芽細胞。グルタマート(0.5〜3mM)を、各実験ウェルに添加した。
【0136】
試験した細胞由来の培地サンプルの少なくとも0.5mlを、以下の時点:T=0分、10分、30分、60分、90分、120分、において採取し、さらなる処理まで4℃でそれらを貯蔵した。グルタマート取り込みを、製造者のプロトコールに従って実施した(Bioassay Systems #EGLT−100)。
【0137】
移植に使用したヒトアストロサイト:
ヒトアストロサイトを、ステップ1〜8を経て、上記のように(「アッセイに使用するアストロサイトの生成」)、生成した。移植のために、ヒトアストロサイト先駆体細胞を、増殖因子の除去によって分化させた。2つの細胞集団を実験に使用した:一方は、増殖因子の非存在下で7日間増殖させ(「7日目」)、他方は、42日間増殖させた(「42日目」)。「7日目」及び「42日目」のヒトアストロサイトを、2.85×10細胞/μLの濃度でDMEM/F12中に懸濁した。
【0138】
細胞移植
実験設計
5つの移植実験群を試験した。群番号1では、67±2日齢のSOD1G93Aマウスに、「42日目」の分化したヒトアストロサイトを移植した(n=10匹のSOD1G93Aマウス)。群番号2では、67±2日齢のSOD1G93Aマウスに、「7日目」の分化したヒトアストロサイトを移植した(n=12匹のSOD1G93Aマウス)。群番号3では、「7日目」細胞の2回の注射を、67±2日齢のSOD1G93Aマウス及び97±2日目のSOD1G93Aマウス(n=13)に対して実施した。群番号4には、67±2日齢のSOD1G93Aマウス(n=10)にビヒクルのみを注射し(DMEM/F12偽注射群)、群番号5は、いずれの処置も受けなかった(インタクト群、n=4)。これらのマウスを、移植の3日前に開始して実験の最後までの、10mg/Kgシクロスポリン(Sandimmun、Novartis)の毎日のI.P.注射を介して免疫抑制し、さらに、15mg/kg CellCept(Roche)(O.S当たり)を、移植の3日前に開始して移植の7日後まで、1日2回与えた。
【0139】
ヒトアストロサイト移植
免疫抑制した動物は、67±2日(全ての群)及び97±2(群番号3)において移植を受けた。7μlの培地、又は7μlの総体積中の2.0×10細胞を、大槽を介してくも膜下腔内注射した。細胞を、30ゲージの45°斜角針(Hamilton;Reno、NV)を取り付けたHamilton Gastightシリンジ(10μL)を使用して送達した。移植セッションの完了後、細胞生存度を、Nucleocounterを使用して評価したところ、85%よりも高いことが見出された。
【0140】
SOD1G93Aマウス
G93A変異を有するヒトSOD1遺伝子を保有するトランスジェニックマウスを使用した(B6SJL−Tg(SOD1G93A)1Gur/J)。雄性及び雌性マウスを、実験群間で均等に分けた。マウスは、The Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME)から取得し、社内コロニーとして維持した。
【0141】
動物の看護及び処置
全ての手順を、イスラエルのガイドラインに厳格に従って実施した:任意の潜在的な疼痛又は動物の不快感を最小化するために、手段を講じた。マウスを、食物及び水を自由に摂取させ、標準的な温度(21℃)で光制御された環境に収容し、同じ部屋に位置付けられた換気ケージのラック中で維持した。脱水症を回避するために、ケージの水皿へのアクセスを、動物が疾患症状を示し始めた場合に提供した。
【0142】
行動及び運動性能の分析
前肢握力
動物の計量及び全ての行動データ収集を、移植の1週間前に開始し、最終段階まで1週間に2回実施した。前肢筋握力を、「握力メーター」を使用して別々に決定した。握力試験を、動物に、力計測器に取り付けた細いバーを握らせることによって実施した。その後、後肢又は前肢がバーを放すまで、計測器から動物を引き離した。これにより、最大握力の力についての値が提供される。力の測定は、3つの別々の試験で記録し、分析において平均を使用した。
【0143】
ロータロッド性能試験
運動機能を、1週間に2回実施した。運動機能を、加速Rota−Rodデバイス(180秒間、Rota−Rod 7650;Ugo Basile、Comerio、Italy)を使用して試験した。マウスがロッドから落ちた時間を記録した。動物を、記録する前に1週間トレーニングした。記録は、インプランテーションの1週間前に開始した。
【0144】
BBB臨床スコアリング
スコアリングは、以下の表に従って、0〜5の尺度である。マウスには、臨床像が2つの規定されたスコアの間にある場合、「中間」スコア(即ち、0.5、1.5、2.5、3.5)が与えられ得る。
【0145】
【表1-1】

【表1-2】
【0146】
体重
体重を、1週間に2回測定した。
【0147】
生存/最終段階及び発症分析
信頼性がある倫理的な方式で疾患の最終段階を決定するために、最終段階を、横向きに寝かせた場合にマウスが30秒以内に正しい位置に戻ることができないことによって規定した。
【0148】
疾患発症を、160秒を下回る、ロータロッド性能における減少によって規定した。
【0149】
統計分析
SOD1G93AマウスのKaplan−Meier分析を、統計ソフトウェアSigmastat(SAS Software)を使用して実施して、生存、疾患発症及び持続時間のデータを分析した。Weight Rotarod、BBB及び握力の結果を、反復測定ANOVAを介して分析した。一部の場合には、Student t検定を実施して、動物の群間のデータを比較した。全てのデータを、平均±S.E.M.として示し、有意性のレベルをp≦0.05に設定した。
【0150】
組織学的分析及び生化学的分析
組織処理
動物を、0.3%生理食塩水とその後の氷冷4%パラホルムアルデヒド(Fisher Scientific;Pittsburgh、PA)とによる経心腔的灌流によって、最終段階で屠殺した。脊髄を、動物から取り出し、その後、30%スクロース(Fisher)/.1Mホスファート塩緩衝液中で4℃で3日間、凍結保護した。この組織を、OCT(Fisher)中に包埋し、ドライアイスで素早く凍結させ、処理するまで−80℃で貯蔵した。脊髄組織ブロックを、30μmの厚さで、矢状面又は横断面において切断した。切片を、スライドガラス上に収集し、分析するまで−20℃で貯蔵した。脊髄スライスのサブセットを、自由浮遊組織化学のためにPBS中に収集した。
【0151】
移植片の生存及び遊走の定量
HuNA(ヒト核抗原;Millipore;Temecula、CA;モノクローナル;1:400)を使用して、移植片由来のヒト細胞を選択的に同定した(hGRP及びhFの両方)。
【0152】
(例1)
in−vitroでのヒト多能性幹細胞(PSC)由来アストロサイトの生成及び特徴付け。
【0153】
成熟アストロサイトに向かうヒトアストロサイト先駆体細胞(APC)の分化を、以下によって、各アストロサイト系についてin−vitroで試験した:
a.リアルタイムPCR(qPCR)。以下のプローブ(mRNA)を試験した:BDNF、GDNF、PDGFR、GFAP、GLAST及びALDH1L1。図1は、hESC由来アストロサイトのアストロサイト系統遺伝子発現の動態を実証した。成熟表現型に向かうアストロサイト先駆体細胞の分化を促進するために、増殖因子を、培地から除去した。サンプルを、0日目(増殖因子あり)、及び増殖因子を除去した状況で1週間毎に、収集及び試験した。ヒト胎児脳を、陽性対照として機能したヒト成人脳と一緒に、全ての試験した遺伝子について参照サンプルとして使用した(相対定量(RQ)=1)。ヒト成人脳は、50%を超えるアストロサイトからなることに留意することが重要である。この研究では、有意な増加が、細胞分化に際して全ての試験したアストロサイト遺伝子において見出され、多くの場合には、アストロサイト遺伝子(即ち、GFAP、BDNF、PDGFRα及びGLAST)の発現は、ヒト胎児脳よりも有意に高かった(図1)。これらの結果は、このプロトコールが、ヒトアストロサイトの富化された集団を生じることを証明している。
【0154】
b.以下のような初期及び後期グリア限定マーカーを使用した、蛍光励起細胞ソーティング(FACS、フローサイトメトリー)分析:CD44、CXCR4及びGLAST。提示されたFACS分析の時点で(図2)、CD44及びCXCR4などの初期アストロサイトマーカー並びに後期アストロサイトマーカーとしてのGLASTの動態を、試験した。フーシン又はCD184としても公知のCXCR4は、CNSにおいて強力な走化性活性を有するケモカイン受容体である。これらの細胞の95%超が、0日目から21日目までCXCR4及びCD44を発現し、これらのレベルが、アストロサイトの成熟化の際に減少したことが見出された。並行して、GLASTのレベルは、アストロサイトの成熟化の際に増加した(図2)。CXCR4発現は、hESC由来アストロサイト先駆体細胞の高い遊走能の潜在力、細胞がそれらの目的地に到達するのに必要とされる能力を示す。
【0155】
c.アストロサイト特異的抗体:GFAP、GLAST、S100b及びアクアポリン4を使用した免疫組織化学(IHC)。染色を、本発明者らのScanArrayハイコンテントスクリーニングデバイス(HCS)によって定量する。図3上で、hPSC由来アストロサイトを、in−vitroでの分化の50日目に染色した。画像中に見ることができるように、細胞の大多数は、アストロサイト特異的マーカー;GFAP、GLAST及びAQP4について陽性である。
【0156】
(例2)
hPSC由来アストロサイト生物学的機能性の試験
いくつかの実験を実施して、hPSC由来ヒトアストロサイトが、成熟健常アストロサイトの機能的特性を示すことを証明した。in−vitroでの結果は、作用の可能性のあるin−vivo機構に光明を投じた。その目的のために、以下の機能的機構を試験した:
【0157】
a.神経栄養因子(NTF)分泌:BDNF、GDNF及びVEGFについてのElisaを、アストロサイト上清培地及び界面活性剤抽出物に対して実施した。IFN−γ及びLPSなどの異なるアストロサイト活性化因子を使用した。図4は、hPSC由来アストロサイトの活性化の際に、GDNF、BDNF及びVEGFが培地に分泌されることを実証した(図4、それぞれ、中央の柱)。
【0158】
b.グルタマート取り込み:アストロサイトのグルタマート取り込み能力を、アストロサイト上清培地中のグルタマートのレベルを測定することによって試験した。比色アッセイ(Enzychrom)を、培地中のグルタマートのレベルを測定するために使用した。線維芽細胞を陰性対照として使用し、成人ヒト組織由来のアストロサイトは、陽性対照として機能した。データは、ヒトPSC由来アストロサイトによるグルタマート取り込みを示している(図5)。この研究では、2つのグルタマート濃度(0.5mM及び2mM)のグルタマート取り込みの動態を、グルタマートの添加の、0分後、10分後、30分後、60分後、90分後及び120分後の時点で試験した。hPSC由来アストロサイトが、時間依存的様式で両方の濃度の培地からグルタマートを取り込むことが見出された。これは、アストロサイトの特定のサンプルがグルタマートを取り込む能力を示す。
【0159】
c.MN神経保護アッセイ:このアッセイでは、マウス又はヒト由来のMNを、過酸化水素(H)でチャレンジした。hPSC由来アストロサイト馴化培地及び/又はアストロサイトの添加の、MNの生存に対する効果を、酸化ストレスの誘導後に試験した。生/死MNの数を、ハイコンテントスクリーニングデバイス(Cellomics−Scan Array)を使用することによって評価した。このアッセイは、ALS疾患においてMNの生存に影響を与える新たな薬物を見出すための価値あるツールとして機能し得る。データは、酸化ストレス(Hによる)下にあるげっ歯類脊髄MNに対する、hPSC由来アストロサイト組織培養物由来の馴化培地の神経保護効果を示した。図6に示すように、Hの2つの濃度(50μM及び150μM)において、hPSC由来アストロサイト由来の馴化培地の保護効果、及びマウスMN培養物に直接hPSC由来アストロサイトを添加することの効果を、試験した。MNの死における有意な減少が、両方のH濃度でhPSC由来アストロサイト馴化培地を添加した後に見出された。著しいことに、酸化ストレス下にあるMN培養物にhPSC由来アストロサイトを添加することの神経保護効果は、それらの馴化培地を添加する場合よりもさらに高く(図6)、このことは、それらの存在が、単なるそれらが分泌するものよりも、酸化ストレスを低下させることにおいてより有意であることを示唆している。これらの結果は、本発明者らのhPSC由来アストロサイトの神経保護能をin vitroでさらに実証している。hPSC由来アストロサイトのプロトコールは、高い純度のヒトアストロサイトを生じる。これらのヒトアストロサイトは、神経栄養因子の分泌及びグルタマート取り込み、運動ニューロンの生存を増加させることが公知の特性などの機能的アストロサイト特性をin−vitroで示す。in vitroモデルを使用して、酸化ストレス下にある運動ニューロンを保護することにおけるhPSC由来アストロサイトの潜在力を直接検証した。このアッセイは、in−vivoでのヒトアストロサイトの神経保護的潜在力を増加させる薬物を見出すことにおいて、価値あるツールである。
【0160】
(例3)
hPSC由来アストロサイトの移植のための最適な条件の発見
異なる移植態様のための最適化実験を、SOD1動物に対する実験の前に実施した。
【0161】
a.細胞注射方法を最適化する
i.異なる移植位置を試験した(即ち、脊髄前角中に直接、くも膜下腔内に、又は側脳室内に)。
ii.hPSC由来アストロサイトの数を試験した(注射(単数又は複数)部位(単数又は複数)当たり)。
【0162】
b.大規模有効性研究を最適化するために使用した、ニューロン損傷を測定するため及びインプラントされた細胞の検出のための組織学的方法を評価する。
【0163】
c.疾患を追跡するための行動試験及び電気生理学試験の有用性を評価する。
【0164】
d.hPSC由来アストロサイト生存の動態;移植後の遊走及び細胞分化を、免疫組織化学を使用して試験した。
【0165】
(例4)
ALS動物モデル−SOD1マウスへのhPSC由来アストロサイトの移植
MNに対するhPSC由来アストロサイトの神経保護効果を、in vivoで、即ち、動物の運動改善及び生存に対して試験した。その目的のために、hSOD1 G93A C57BL6/SJLバックグラウンド(高コピー数)マウスモデルを、材料及び方法に記載したように、使用及び処置した。
【0166】
図7に示すように、若いヒト由来アストロサイトの注射は、hSOD1マウスの生存を増加させた。図8は、偽注射に対する、BBBロータロッド性能「7日目(プールした)」における有意な改善(P<0.05)を実証している。
【0167】
図9に示すように、「7日目」群は、偽注射群と比較して、それらの体重を有意に維持した(P<0.05)。
【0168】
図10に示すように、T1/2統計分析により、生存における有意な増加が、偽注射群と比較して、「7日目」の2回の注射群において観察されたことが明らかになった(P=0.046)。
【0169】
本発明を、その特定の実施形態と併せて記載してきたが、多くの代替物、改変及びバリエーションが当業者に明らかであることは、明白である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神及び広い範囲内に入る全てのこのような代替物、改変及びバリエーションを包含することが意図される。
【0170】
本明細書中で言及される全ての刊行物、特許及び特許出願は、各個々の刊行物、特許又は特許出願が、具体的に且つ個々に参照によって本明細書に組み込まれると示されるのと同程度まで、本明細書中に参照によってその全体が組み込まれる。さらに、本出願における任意の参考文献の引用又は識別は、このような参考文献が本発明に対する先行技術として利用可能であることの承認と解釈すべきではない。セクション見出しが使用される範囲に対し、これら見出しを必然的に限定として解釈すべきではない。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10