【実施例】
【0054】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料及び製造機械の詳細は以下の通りであり、得られた水中油滴型乳化物の比重は、以下の方法で評価した。
【0055】
[原料]
(豆乳)
豆乳:大豆固形分12重量%。
【0056】
(油脂類)
パーム油A:花王(株)製「エコナLS(M)」、乳化剤(大豆レシチン)0.02重量%含有、融点38℃
パーム油B:(株)カネカ製「食用精製パーム油」、融点36℃
ヤシ・パーム混合油:(株)カネカ製「ローザンアイスVS」、ヤシ油/パーム油=7/3(重量比)、乳化剤(大豆レシチン)0.03重量%含有、融点30℃
サラダ油:日清オイリオ(株)製「日清キャノーラ油」、融点0℃以下
調製ラード:(株)カネカ製「調製ラード」、融点43℃
パーム分別油:(株)カネカ製「プライモール100」、融点20℃。
【0057】
(乳化剤)
大豆レシチン:辻製油(株)製「SLPペースト」、HLB約3。
【0058】
(他の添加剤)
日持ち向上剤:ウエノフードテクノ(株)製「SM−G」(グリシン、酢酸ナトリウム製剤)
重曹:丸紅商会(株)製「炭酸水素ナトリウム」
リン酸塩:MCフードスペシャリティーズ(株)製、無水リン酸三ナトリウム
グラニュー糖:三井製糖(株)製。
【0059】
[製造機械]
ホモミキサー:特殊機化工業(株)製「TKホモミキサーMarkII」
乳化機:(株)アースシステム21製「TKミキサー」
ホモジナイザー:三和機械(株)製「H20型」。
【0060】
[豆乳クリームの評価]
得られた豆乳クリーム(コンパウンドクリーム)について、以下の条件で各種処理(冷凍保存、ボイル殺菌、レトルト殺菌)した後、乳化の状態を目視で観察し、さらに風味について官能評価した結果を以下の基準で総合評価した。
【0061】
(各種処理の条件)
冷凍保存:−20℃、48時間保存
ボイル殺菌:85℃、30分処理
レトルト殺菌(オートクレーブ処理):120℃、大気圧+0.1MPa、30分間
(総合評価の基準)
◎:コンパウンドクリームとして極めて良好
○:コンパウンドクリームとして良好
△:コンパウンドクリームとして使用できるが、コクや風味がない
×:コンパウンドクリームとして不適。
【0062】
[豆乳クリームの分散径]
豆乳クリームの分散径は、市販のUSB接続式デジタルマイクロスコープで観察し、撮影し、印刷した顕微鏡写真に基づいて、油滴20か所の平均値を算出した。
【0063】
[ホイップドクリームの比重]
90g容量のカップにホイップドクリームを完全に充填した(90g容量のカップに対して、すりきり満タンにホイップドクリームを入れた)際の重量を測定し、下記式に基づいて算出した。
【0064】
比重=ホイップ後の重量 ÷ カップ容量(90g)。
【0065】
[ホイップドクリームの食感]
ホイップドクリームの食感として、ホイップ後の口溶け感、濃厚感などについて評価した。
【0066】
[トッピングしたホイップドクリームの保形性]
ホイップしたホイップドクリームを絞り袋に詰め、口金を用いて、高さが約3cm程度となるように、ホイップドクリームをバットの上に絞り出した。その後、バットの一方を高さ5cmまで手で上げた後に離し、落下した衝撃に対する型崩れの状態を観察し、さらにその状態で冷蔵(10℃)して1日経過した状態を観察した。
【0067】
比較例1
豆乳100gを75℃に加熱し、ホモミキサーを用いて、日持ち向上剤5gを添加しながら、6000rpmの回転速度で1分間攪拌し、豆乳クリームを製造した。
【0068】
比較例2
豆乳950gを75℃に加熱し、ホモミキサーを用いて、日持ち向上剤5gを添加しながら、6000rpmの回転速度で1分間攪拌した。その後、回転速度を4000rpmに減速し、別途準備した温度73℃のパーム油A50gを添加し、5分間攪拌した。さらに、回転速度を6000rpmに上げて2分間攪拌した。得られた乳化物を冷水で冷却した後、5℃で12時間保存し、豆乳クリームを得た。
【0069】
比較例3
豆乳及びパーム油Aの配合量を豆乳800g及びパーム油A200gに変更する以外は比較例2と同様にして豆乳クリームを得た。
【0070】
比較例4
豆乳及びパーム油Aの配合量を豆乳650g及びパーム油A350gに変更する以外は比較例2と同様にして豆乳クリームを得た。
【0071】
比較例1〜4で得られた豆乳クリームの評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
比較例5〜7
パーム油Aをパーム油Bに変更する以外は比較例2〜4と同様にして豆乳クリームを得た。比較例5〜7で得られた豆乳クリームの評価結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
実施例1〜3
パーム油Aをヤシ・パーム混合油に変更する以外は比較例2〜4と同様にして豆乳クリームを得た。実施例1〜3で得られた豆乳クリームの評価結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例1で得られた豆乳クリームのボイル処理後の油滴の平均径を測定したところ、29.4μmであった。油滴の状態は、油滴の数、分散具合にバラツキがあり、油滴は少なかった。
【0078】
実施例2で得られた豆乳クリームの冷凍保存後の油滴の平均径を測定したところ、126.9μmであった。油滴の状態は、形状が球状ではなく、いびつであり、大きさも大きかった。一方、実施例2で得られた豆乳クリームのボイル処理後の油滴の平均径を測定したところ、30.3μmであった。油滴の状態は、大きさがほぼ均一であり、万遍なく綺麗に分散しており、形状も綺麗な球状であった。
【0079】
実施例3で得られた豆乳クリームのボイル処理後の油滴の平均径を測定したところ、36.4μmであった。油滴の状態は、綺麗に分散しているが、油滴も比較的大きく、大きさにも差があった。
【0080】
比較例8〜10
パーム油Aをサラダ油に変更する以外は比較例2〜4と同様にして豆乳クリームを得た。比較例8〜10で得られた豆乳クリームの評価結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表1〜4の結果から明らかなように、各種処理の条件については、冷凍保存すると、粘度が上昇し、分離というよりはタンパクが変性し凝集している状態だった。一方、ボイル処理及びレトルト処理では、レトルト処理では熱で焼け、褐変し、外観が少しくすんだ豆乳クリームもあった。最も状態が良かったのはボイル処理であった。
【0083】
油脂類については、添加量を上げれば上げる程、状態の良い豆乳クリームと凝集している豆乳クリームとの差が大きかった。状態の変化が少なかった添加量は20重量%であった。油脂類の種類では、パーム油はタンパク質の変性が激しく、サラダ油は乳化状態が崩壊し、水分と油との分離が激しかった。一方、ヤシ・パーム混合油は分離・凝集が少なく良好であった。
【0084】
総合評価としては、20〜35重量%のヤシ・パーム混合油を含む豆乳クリームが好ましかった。
【0085】
比較例11
豆乳及びパーム油Aの配合量を豆乳800g及び調製ラード200gに変更する以外は比較例2と同様にして豆乳クリームを得た。
【0086】
比較例12
豆乳及びパーム油Aの配合量を豆乳600g及び調製ラード400gに変更する以外は比較例2と同様にして豆乳クリームを得た。
【0087】
比較例11〜12で得られた豆乳クリームの評価結果を表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
実施例4〜5
調製ラードをヤシ・パーム混合油に変更する以外は比較例11〜12と同様にして豆乳クリームを得た。実施例4〜5で得られた豆乳クリームの評価結果を表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
実施例4で得られた豆乳クリームの冷凍保存後の油滴の平均径を測定したところ、339.8μmであった。滴の状態は、形状が球状ではなく、いびつであり、大きさも大きかった。一方、実施例4で得られた豆乳クリームのボイル処理後の油滴の平均径を測定したところ、36μmであった。油滴の状態は、大きさがほぼ均一であり、万遍なく綺麗に分散しており、形状も綺麗な球状であった。
【0092】
実施例5で得られた豆乳クリームのボイル処理後の油滴の平均径を測定したところ、37.9μmであった。油滴の状態は、綺麗に分散しているが、油滴が大きく、差がある上に、形状も少しいびつな油滴があった。
【0093】
比較例13〜14
調製ラードをサラダ油に変更する以外は比較例11〜12と同様にして豆乳クリームを得た。比較例13〜14で得られた豆乳クリームの評価結果を表7に示す。
【0094】
【表7】
【0095】
表5〜7の結果から明らかなように、各種の処理条件については、表1〜4と同様に、冷凍保存における分離及び凝集が激しかった。色については、レトルト処理の方がボイル処理及び冷凍保存よりも白っぽく仕上がっていた。粘度についても、ボイル処理とレトルト処理とを比較するとレトルト処理の方が粘度が上がっていた。
【0096】
油脂類については、添加量を上げれば上げる程、状態の変化の差が大きかった。液油では添加量が少ない方が分離が少なく、固体脂では多い方が分離、凝集が少ない傾向であった。しかし、固体脂の添加量が多いタイプでは液状ではなく、固体になっていた。油脂類の種類では、ヤシ・パーム混合油が好ましく、調製ラードでは固体化や液体と固体が分離した状態の豆乳クリームもあった。サラダ油では冷凍時の変性が激しく、ボイル及びレトルト処理では油脂の分離が起きていた。
【0097】
総合評価としては、20重量%のヤシ・パーム混合油を含む豆乳クリームが、分離及び凝集がなく、液体であるため、作業性にも優れ、豆乳クリームに向いていた。
【0098】
実施例6
豆乳950gを75℃に加熱し、ホモミキサーを用いて、日持ち向上剤5gを添加しながら、6000rpmの回転速度で1分間攪拌した。その後、回転速度を4000rpmに減速し、別途準備した温度73℃のヤシ・パーム混合油50g及び大豆レシチン2gを添加し、5分間攪拌した。さらに、回転速度を6000rpmに上げて2分間攪拌した。得られた乳化物を冷水で冷却した後、5℃で12時間保存し、豆乳クリームを得た。
【0099】
実施例7
豆乳及びヤシ・パーム混合油の配合量を豆乳800g及びヤシ・パーム混合油200gに変更する以外は実施例6と同様にして豆乳クリームを得た。
【0100】
実施例8
豆乳及びヤシ・パーム混合油の配合量を豆乳500g及びヤシ・パーム混合油500gに変更する以外は実施例6と同様にして豆乳クリームを得た。
【0101】
実施例6で得られた豆乳クリームのボイル処理後の油滴の平均径を測定したところ、23μmであった。油滴の状態は、油滴の数、分散具合にバラツキがあり、油滴の数も少なく、小さかった。
【0102】
実施例7で得られた豆乳クリームの冷凍保存後の油滴の平均径を測定したところ、29μmであった。油滴の状態は、形が変形している油滴もあるが、大きさは小さく、少し凝集しているものの、概ね分散していた。一方、実施例7で得られた豆乳クリームのボイル処理後の油滴の平均径を測定したところ、38μmであった。油滴の状態は、所々に大きな油滴があったものの、大きさはほぼ均一であり、万遍なく綺麗に分散していた。また、実施例7で得られた豆乳クリームのレトルト処理後の油滴の平均径を測定したところ、25μmであった。油滴の状態は、油滴が球状で小さく、万遍なく分散していた。
【0103】
実施例8で得られた豆乳クリームのボイル処理後の油滴の平均径を測定したところ、44μmであった。油滴の状態は、殆ど油滴で見た目は真っ白であり、各油滴も大きい上に、大きさにも差があった。
【0104】
比較例15
ヤシ・パーム混合油をパーム分別油に変更する以外は実施例7と同様にして豆乳クリームを得た。
【0105】
実施例6〜8及び比較例15で得られた豆乳クリームの評価結果を表8に示す。
【0106】
【表8】
【0107】
表8の結果から明らかなように、各種の処理条件については、冷凍保存では全て粘度が上昇し、分離というよりはタンパク質が変性し、凝集している状態だった。ボイル及びレトルト処理での差はあまりなかった。
【0108】
油脂類については、添加量では冷凍の場合、添加量が少ないと凝集がひどく、多いと凝集が少なかった。また、ボイル及びレトルト処理では添加量が多い程、油脂、水分(豆乳)が分離している豆乳クリームも多かった。種類では、全ての加熱・冷凍条件において、ヤシ・パーム混合油の方が凝集・分離も少なく、状態が良かった。さらに、実施例6〜8の豆乳クリームでは、実施例1〜5の豆乳クリームと比べて、乳化剤の配合により状態が向上していた。
【0109】
総合評価としては、ヤシ・パーム混合油が豆乳クリームに向いている。添加量については5重量%では凝集が見られ、50%重量ではボイル及びレトルト処理で分離、冷蔵で固くなるため、20重量%が良い結果となった。
【0110】
実施例9
豆乳26kgを75℃に加熱し、乳化機を用いて、別途準備した温度73℃のヤシ・パーム混合油13.9kg及び大豆レシチン0.08kgを添加しながら、7200rpmの回転速度で1分間攪拌し、予備乳化した。得られた予備乳化物をホモジナイザーのタンクに移し、圧力3MPaで均質化処理した。得られた水中油滴型乳化物の状態(原液状態)は、とろみのあるクリーム状であった。得られた水中油滴型乳化物を袋に充填し、真空包装した後、90℃で90分間ボイル殺菌した。さらに、ボイル殺菌した水中油滴型乳化物を約3℃の冷却水で120分以上冷却した。得られた水中油滴型乳化物を5℃で3日間冷蔵した。
【0111】
冷蔵後の水中油滴型乳化物200gに、グラニュー糖30gを添加し、5℃の温度下、卓上型ミキサーを用いてホイッピング操作を行い、硬さなどの状態を確認しながら、最適点でホイップを停止し(ホイップ時間2分55秒)、比重0.55のホイップドクリームを調製した。
【0112】
実施例10
予備乳化におけるホモジナイザーの圧力を4MPaに変更し、かつ水中油滴型乳化物の冷蔵時間を2日に変更する以外は実施例9と同様の方法で均質化処理した。得られた水中油滴型乳化物の状態(原液状態)は、とろみのあるクリーム状であった。得られた水中油滴型乳化物を実施例9と同様の方法でボイル殺菌及び冷却した後、ホイップし、比重0.63のホイップドクリームを調製した。得られたホイップドクリームは、5℃で2日間冷蔵した。
【0113】
実施例11
豆乳25.84kgを75℃に加熱し、乳化機を用いて、別途準備した温度73℃のヤシ・パーム混合油13.9kg及び大豆レシチン0.08kgと、さらに別途準備した温度50℃のリン酸塩0.04kg及び水0.16kgとを添加しながら、7200rpmの回転速度で1分間攪拌し、予備乳化した。得られた予備乳化物をホモジナイザーのタンクに移し、圧力3MPaで均質化処理した。得られた水中油滴型乳化物の状態(原液状態)は、トロトロの液状であった。得られた水中油滴型乳化物を実施例10と同様の方法でボイル殺菌及び冷却・冷蔵した後、ホイップし、比重0.49のホイップドクリームを調製した。
【0114】
実施例12
水中油滴型乳化物の冷蔵時間を7日に変更し、かつホイップ時間を2分40秒に変更する以外は実施例9と同様の方法で比重0.61のホイップドクリームを調製した。
【0115】
実施例13
水中油滴型乳化物の冷蔵時間を7日に変更し、かつホイップ時間を2分15秒に変更する以外は実施例10と同様の方法で比重0.65のホイップドクリームを調製した。
【0116】
実施例14
水中油滴型乳化物の冷蔵時間を8日に変更し、かつホイップ時間を3分15秒に変更する以外は実施例11と同様の方法で比重0.48のホイップドクリームを調製した。
【0117】
実施例9〜14で得られたホイップドクリームの食感を評価した結果を表9に示す。
【0118】
【表9】
【0119】
表9の結果から、均質化処理における圧力は、比重や食感の点から、4MPaよりも3MPaの方が良かった。
【0120】
また、市販の乳製品のホイップドクリームに比べると、比重は大きく、ホイップ時間は短いが、乳製品のホイップクリーム製品の中でも乳脂肪分が多い純生クリームの状態に近いことが分かった。
【0121】
さらに、リン酸塩を添加すると、比重が軽くなってふんわり食感になり、ホイップ時間が長くなった。そのため、乳製品のホイップドクリームの状態に近づいたと言える。しかし、保形性の部分は少し問題があることが分かった。
【0122】
なお、実施例9及び11で得られたホイップドクリームの保形性について評価した結果、実施例9で得られたホイップドクリームは、衝撃付与後及び冷蔵保存1日後のいずれに対しても型崩れはなかったが、実施例11で得られたホイップドクリームは、衝撃付与後の型崩れはなかったものの、冷蔵保存1日後は、実施例9と比較すると、比重が軽いため、全体が少し広がり、やや型崩れしていた。