(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態におけるシリンダロッドを含む油圧シリンダの構造を示している。
図1を参照して、油圧シリンダ1は、棒状、より具体的には円筒状の形状を有する本体部21を含むシリンダロッド20と、シリンダロッド20の本体部21の外周面21Aを取り囲む中空円筒状の形状を有するシリンダ本体部11を含むシリンダ10と、を備える。
【0015】
シリンダロッド20は、棒状の形状を有する本体部21と、本体部21の長手方向の一方の端部に配置される接続部としてのヘッド部27と、を含む。ヘッド部27には、他の部品とシリンダロッド20とを連結するための貫通穴である接続穴27Aが形成されている。本体部21とヘッド部27とは、接合部26において接合されている。本体部21とヘッド部27とは、たとえば溶接により接合されている。接合部26は、たとえば溶接により形成された溶接部である。
【0016】
本体部21の長手方向における他方の端部には、ピストン保持部22およびねじ部23が形成されている。ピストン保持部22およびねじ部23は、本体部21の他の領域に比べて直径の小さい小径部である。ピストン保持部22から見てねじ部23はヘッド部27とは反対側に位置する。ピストン保持部22の外周面22Aに接触するように、ピストン24が配置される。ピストン24は、中空円筒状の形状を有する。
【0017】
ピストン24は、内周面24Bにおいてピストン保持部22の外周面22Aに接触するように、ピストン保持部22に嵌め込まれている。ピストン保持部22は、ピストン24を貫通している。ピストン24の外周面24Aは、シリンダ本体部11の内周面11Aに全周にわたって接触している。ピストン24は、シリンダ本体部11の内周面11Aに対してシリンダロッド20の長手方向に摺動可能となっている。ねじ部23の外周面23Aには、らせん状のねじ溝が形成されている。ねじ部23には、ナット25が螺合している。ナット25により、ピストン24はシリンダロッド20の長手方向において固定されている。
【0018】
シリンダ10は、中空円筒状の形状を有するシリンダ本体部11と、シリンダ本体部11の長手方向の一方の端部に配置され、中空円筒状の形状を有するシリンダヘッド17と、シリンダ本体部11の長手方向の他方の端部に配置されるシリンダボトム16と、を含んでいる。シリンダボトム16には、他の部品とシリンダ10とを連結するための貫通穴である接続穴16Aが形成されている。
【0019】
シリンダヘッド17の内径は、シリンダ本体部11の内径よりも小さい。シリンダヘッド17の内周面17Aは、シリンダロッド20の本体部21の外周面21Aに対して全周にわたって接触している。シリンダロッド20の本体部21は、シリンダヘッド17の内周面17Aに対してシリンダロッド20の長手方向に摺動可能となっている。
【0020】
シリンダヘッド17の外径は、シリンダ10の長手方向におけるシリンダボトム16側において他の領域に比べて小さくなっている。この領域の外周面とシリンダ本体部11の内周面11Aとが接触するように、シリンダヘッド17はシリンダ本体部11に対して固定されている。シリンダロッド20の本体部21は、シリンダヘッド17を貫通し、シリンダ本体部11内に挿入されている。
【0021】
シリンダ本体部11の外周面には、シリンダ本体部11を径方向に貫通する貫通穴である第1油路12を規定する第1油導入部13が形成されている。第1油路12は、シリンダロッド20の本体部21の外周面21Aとシリンダ本体部11の内周面11Aとの隙間であって、シリンダヘッド17とピストン24に挟まれた領域である第1油室31に連通している。
【0022】
シリンダ本体部11の外周面には、シリンダ本体部11を径方向に貫通する貫通穴である第2油路15を規定する第2油導入部14が形成されている。第2油路15は、シリンダロッド20の長手方向においてピストン24から見てシリンダヘッド17とは反対側であって、シリンダ本体部11の内壁面に囲まれた領域である第2油室32に連通している。
【0023】
第1油導入部13および第2油導入部14には、それぞれ油圧ホース(図示しない)が接続される。これにより、第1油路12および第2油路15を介して第1油室31および第2油室32に作動油を供給し、第1油室31および第2油室32から作動油を排出することが可能となっている。
【0024】
第2油路15を介して第2油室32に作動油が供給されると、その油圧によりピストン24がシリンダヘッド17に近づくように移動する。その結果、シリンダロッド20のヘッド部27とシリンダ10のシリンダボトム16との距離が大きくなり、油圧シリンダ1は伸びた状態となる。このとき、第1油室31内の作動油は第1油路12を介して排出される。
【0025】
第1油路12を介して第1油室31に作動油が供給されると、その油圧によりピストン24がシリンダヘッド17から離れるように移動する。その結果、シリンダロッド20のヘッド部27とシリンダ10のシリンダボトム16との距離が小さくなり、油圧シリンダ1は縮んだ状態となる。このとき、第2油室32内の作動油は第2油路15を介して排出される。
【0026】
図2は、シリンダロッド20の本体部21の外周面21A付近における外周面21Aに垂直な断面を拡大して示す概略断面図である。
図2を参照して、シリンダロッド20の本体部21には、外周面21Aを覆う皮膜92が形成されている。シリンダロッド20の本体部21は、鋼からなり、棒状の形状を有するベース部91と、ベース部91の外周面91A上に形成される皮膜92と、を含む。皮膜92は、外周面21Aに垂直な断面における面積率で56.1%以上84.4%以下の炭化クロム(Cr
3C
2)相を含み、残部がニッケル基合金相および酸化物相からなる。
【0027】
これにより、本実施の形態のシリンダロッド20は、耐摩耗性および耐食性に優れ、かつ硬質の物体の衝突に対する耐久性に優れた皮膜92を有するシリンダロッドとなっている。
【0028】
ニッケル基合金相を構成するニッケル基合金は、たとえば26質量%以上30質量%以下のモリブデンと、2質量%以上8質量%以下の鉄と、を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるもの、または13質量%以上20質量%以下のモリブデンと、13質量%以上18質量%以下のクロムと、2質量%以上8質量%以下の鉄と、2質量%以上5質量%以下のタングステンと、を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるものであってもよい。
【0029】
ニッケル基合金相を構成するニッケル基合金は、たとえば14質量%以上17質量%以下のクロムと、5質量%以上10質量%以下の鉄と、を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるものあってもよい。
【0030】
ニッケル基合金相を構成するニッケル基合金は、たとえば14質量%以上17質量%以下のクロムと、5質量%以上10質量%以下の鉄と、を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるもの、または14質量%以上17質量%以下のクロムと、5質量%以上10質量%以下の鉄と、を含有し、さらに2質量%以上3質量%以下のチタン、0.4質量%以上1質量%以下のアルミニウム、および合計で0.7質量%以上1.2質量%以下のニオブおよびタンタルの少なくともいずれか一方からなる群から選択される1つ以上を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるものであってもよい。
【0031】
ニッケル基合金相を構成するニッケル基合金は、たとえば20質量%以上23質量%以下のクロムと、8質量%以上10質量%以下のモリブデンと、を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるもの、または20質量%以上23質量%以下のクロムと、8質量%以上10質量%以下のモリブデンと、を含有し、さらに合計で3質量%以上4.5質量%以下のニオブおよびタンタルの少なくともいずれか一方と、5質量%以下の鉄と、を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるものであってもよい。
【0032】
酸化物相を構成する酸化物は、ニッケル基合金を構成する元素の酸化物である。ベース部91を構成する鋼としては、たとえば機械構造用炭素鋼または機械構造用合金鋼を採用することができる。ベース部91を構成する鋼は、たとえばJIS規格S45Cである。ベース部91を構成する鋼は、焼入硬化されている。
【0033】
皮膜92の断面における炭化クロム相の面積率は61.7%以上であってもよい。このようにすることにより、皮膜92を一層耐摩耗性に優れ、かつ硬質の物体の衝突に対する耐久性に優れたものとすることができる。
【0034】
本実施の形態のシリンダロッド20は、土砂および水が存在する環境下において用いられる油圧シリンダのシリンダロッドとして好適である。シリンダロッド20は、たとえばダンプトラックのステアリングロッド、ダンプトラックのサスペンション、油圧ショベルのバケットなどを駆動するために用いられる作業機械用油圧シリンダのシリンダロッドとして好適である。
【0035】
次に、本実施の形態のシリンダロッド20の製造方法について、その一例を説明する。
図3は、シリンダロッドの製造方法の概略を示すフローチャートである。
図3を参照して、本実施の形態におけるシリンダロッド20の製造方法では、まず工程(S10)として素材準備工程が実施される。この工程(S10)では、たとえば素材として機械構造用炭素鋼であるS45Cの棒材が準備される。
【0036】
次に工程(S20)として切削加工工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において準備された棒材が切削加工される。具体的には、
図1を参照して、準備された棒材がシリンダロッド20の本体部21に適した長さに切断される。本体部21の一方の端部にピストン保持部22およびねじ部23が形成される。
【0037】
次に、工程(S30)としてヘッド部接合工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)においてピストン保持部22およびねじ部23が形成された側とは反対側の本体部21の端部に、別途準備されたヘッド部27が、たとえば溶接により接合される。
【0038】
次に、工程(S40)として焼入硬化工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)においてヘッド部27が接合された本体部21に対して焼入硬化処理が実施される。焼入硬化処理は、たとえば高周波焼入により実施することができる。焼入硬化処理が実施された後、適切な温度にて焼戻処理が実施される。これにより、適切な硬度に調整された本体部21が得られる。
【0039】
次に、工程(S50)としてアンダーカット工程が実施される。この工程(S50)では、後述する工程(S70)において皮膜92が形成される領域に対応する本体部21の外周面21Aを含む部分が切削により除去されて、当該領域の本体部21の直径が小径化される。この工程(S50)は必須の工程ではないが、これを実施することにより溶射後の本体部21の直径を調整することが容易となる。
【0040】
次に、工程(S60)としてショットブラスト工程が実施される。この工程(S60)では、後述する工程(S70)において皮膜92が形成される領域に対応する本体部21の外周面21Aにショットブラスト処理が実施される。これにより、本体部21の外周面21Aの表面粗さが大きくなる。この工程(S60)は必須の工程ではないが、これを実施することにより、後述する工程(S70)において溶射により形成される皮膜92がベース部91から剥離することを抑制することができる。
【0041】
次に、工程(S70)として溶射工程が実施される。この工程(S70)では、溶射が実施されることにより、本体部21の外周面21A(ベース部91の外周面91A)を覆うように皮膜92が形成される。溶射は、たとえばHVOF(High Velocity Oxygen Fuel)溶射により実施することができる。
【0042】
溶射材としては、炭化クロム粉末にバインダーとして上記ニッケル基合金を添加して作成した粉末(溶射粉末)を使用することができる。溶射粉末には、15.9質量%以上68.6質量%以下の上記ニッケル基合金を添加することができる。
【0043】
溶射粉末としては、15.9質量%以上68.6質量%以下の上記ニッケル基合金を含み、残部が炭化クロムからなる粉末を採用することができる。この溶射粉末を用いてHVOF溶射を実施することにより、炭化クロムとニッケル基合金を含み、ニッケル基合金の一部が酸化された溶射膜としての皮膜92が形成される。
【0044】
外周面21Aに垂直な断面における面積率で56.1%以上84.4%以下の炭化クロム(Cr
3C
2)相を含み、残部がニッケル基合金相および酸化物相からなる皮膜92が外周面21Aを覆うように形成される。HVOF溶射のフレームは、還元フレーム(完全燃焼の状態を含む)とすることが好ましい。これにより、酸化物相の面積率を適切な範囲(16.2%以下)とすることが容易となる。
【0045】
次に、工程(S80)として平滑化工程が実施される。この工程(S80)では、工程(S70)において形成された皮膜92の表面が平滑化される。たとえば皮膜92に対して研削加工および超仕上げ加工が実施される。研削加工は、たとえばダイヤモンドホイール(ダイヤモンド粒が研削面に配置された研削ホイール)を用いて実施することができる。また、超仕上げ加工は、たとえばダイヤモンドフィルム(ダイヤモンド粒が表面に配置された研磨フィルム)を用いて実施することができる。
【0046】
次に、工程(S90)として封孔処理工程が実施される。この工程(S90)では、工程(S80)において表面が平滑化された皮膜92の封孔処理が実施される。封孔処理は、たとえば無機系高分子からなる封孔剤を用いて実施することができる。無機系高分子としては、たとえばアルコキシシランポリマーを採用することができる。
【0047】
その後、
図1を参照して、ピストン24をピストン保持部22に取り付け、ナット25によりこれを固定することにより、本実施の形態のシリンダロッド20が完成する。また、このシリンダロッド20を別途準備されたシリンダ10と組み合わせることにより、本実施の形態の油圧シリンダ1を得ることができる。
【実施例1】
【0048】
上記実施の形態において説明した製造方法と同様の方法で皮膜を形成し、その耐久性を調査する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。縦50mm、横10mmの長方形形状の表面を有し、焼入処理および焼戻処理が実施されて当該表面の硬度が50HRC以上に調整されたS45Cからなるベース部材を準備した。表面の粗さは3.2sとした。そして、当該表面上に上記実施の形態の工程(S70)と同様の手順でHVOF溶射により皮膜を形成してサンプルとした。
【0049】
溶射粉末に含まれるニッケル基合金は、13質量%以上20質量%以下のモリブデンと、13質量%以上18質量%以下のクロムと、2質量%以上8質量%以下の鉄と、2質量%以上5質量%以下のタングステンと、を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるものとした。
【0050】
ニッケル基合金の割合は、15.9質量%、26.5質量%、31.8質量%、37.1質量%、52.8質量%および68.6質量%とした(実施例A、B、C、D、EおよびF)。
【0051】
比較のため、同様のベース部材の表面にクロムめっきにより皮膜を形成したサンプルも準備した。皮膜の厚みは、40μm、100μmおよび200μmとした(比較例A、BおよびC)。皮膜の表面が鉛直方向に対して45°傾斜するように上記実施例および比較例のサンプルを固定し、当該表面に衝突するように直径20mmの鋼球を自由落下させ、皮膜に割れまたは変形が生じない限界の落下高さ(限界高さ)を調査した。
【0052】
実施例のサンプルについては、皮膜を表面に垂直な面で切断し、断面における炭化クロム(Cr
3C
2)相、酸化物相、ニッケル(Ni)基合金相の面積率を調査するとともに、皮膜の硬度(マイクロビッカース硬さ)を測定した。実験結果を表1および
図4〜
図8に示す。
【0053】
【表1】
図4において、横軸は炭化クロム相の面積率を示している。
図5において、横軸はニッケル基合金相の面積率を示している。また、
図4および
図5において、縦軸は限界高さおよび硬度を示している。
【0054】
図4および
図5における破線は、40μm、100μmおよび200μmの厚みのクロムめっきを形成した比較例A、BおよびCの限界高さを示している。
図4、
図5および表1を参照して、限界高さは、炭化クロム相の面積率が増加し、ニッケル基合金相の面積率が低下するにしたがって高くなっている。
【0055】
一方、クロムめっきを施した比較例においては、クロムめっきの厚みが増加するにしたがって限界高さが高くなっている。厚み200μmのクロムめっきは、クロム厚めっきに相当する。実施例A〜Fのいずれにおいても、クロム厚めっきに相当する比較例Cよりも高い限界高さが得られている。
【0056】
また、
図4を参照して、炭化クロム相の面積率が56.1%未満になると、限界高さがクロム厚めっきよりも低くなると考えられる。
【0057】
このことから、クロム厚めっき以上の限界高さを得るためには、炭化クロム相の面積率は56.1%以上(ニッケル基合金相の面積率は37.6%以下;
図5参照)とすべきであるといえる。
【0058】
一方、炭化クロム相の面積率が84.4%を超えるようにすることは、溶射粉末のバインダーであるニッケル基合金の割合が小さくなりすぎて溶射粉末の製造が難しくなるため、困難である。そのため、炭化クロム相の面積率は84.4%以下(ニッケル基合金相の面積率は10.4%以上)とすることが妥当であるといえる。
【0059】
また、
図4および
図5を参照して、炭化クロム相の面積率を61.7%以上(ニッケル基合金相の面積率を16.2%以下)とすることにより、クロム厚めっきに対して明確に高い限界高さが得られるとともに、より高い硬度が得られることが分かる。
【0060】
図6、
図7および
図8は、実施例Bの皮膜の表面に垂直な断面におけるEPMA(Electron Probe Micro Analysis)像を白黒二値化したものである。
図6において白く見える部分が炭化クロム相、
図7において白く見える部分が酸化物相、
図8において黒く見える部分がニッケル基合金相に対応する。
図6〜
図8を参照して、皮膜は、炭化クロム相の隙間をニッケル基合金相および酸化物相が充填する構造となっている。
【0061】
図9は、実施例Bの皮膜の表面に垂直な断面の光学顕微鏡写真である。
図9を参照して、皮膜において、炭化クロム相αは炭化クロム粒が緻密に積層して構成され、炭化クロム相αの隙間をニッケル基合金相βおよび酸化物相γが充填している。
【0062】
これは、溶射により溶射粉末に含まれる炭化クロム粒がその形状を維持しつつベース部材の表面に付着して炭化クロム相を構成するとともに、炭化クロム相の隙間を軟化したニッケル基合金が充填する際、その一部が酸素と反応して酸化物相となるためである。このような構造を有する皮膜は、耐摩耗性および耐食性に優れ、かつ硬質の物体の衝突に対する耐久性に優れたものとなる。
【実施例2】
【0063】
上記実施の形態において説明した製造方法と同様の方法で皮膜を形成したサンプルを作製し、その耐食性を確認する実験を行った。具体的には、上記実施例1の実施例Bと同様の条件で溶射を行うことにより皮膜を形成し、キャス試験(CASS test;copper−accelerated acetic acid salt spray test)を実施し、さびが発生するまでの時間(さび発生時間)を調査した(実施例)。比較のため、クロムめっき(皮膜の厚み40μm)についても同一条件でキャス試験を実施した(比較例)。実験の結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
表2を参照して、比較例のサンプルには50時間経過後にさびが発生した。実施例のサンプルには324時間経過後においてもさびは発生しなかった。実施例のさび発生時間は、少なくとも比較例の6倍以上である。
【0065】
このことから、本発明のシリンダロッドに形成される皮膜は、耐摩耗性に優れ、かつ硬質の物体の衝突に対する耐久性に優れるだけでなく、耐食性においてもクロムめっきに比べて大幅に優れたものであることが確認される。
【実施例3】
【0066】
皮膜を構成するニッケル基合金相の組成を変更した場合の皮膜の耐久性を確認する実験を行った。具体的には、上記実施例2と同様の方法において、ニッケル基合金を20質量%以上23質量%以下のクロムと、8質量%以上10質量%以下のモリブデンと、を含有し、さらに合計で3質量%以上4.5質量%以下のニオブおよびタンタルの少なくともいずれか一方と、5質量%以下の鉄と、を含有し、残部がニッケルおよび不可避的不純物からなるものに変更し、皮膜の硬度を測定するとともに、実施例2と同様の条件でキャス試験に供した。
【0067】
その結果、皮膜の硬度は実施例1の場合と同等であった。また、本実施例のサンプルについても、324時間経過後にさびは発生しなかった。このことから、ニッケル基合金相の組成を変更した場合においても、同等の耐久性を有する皮膜が得られることが確認された。
【0068】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。