特許第6474951号(P6474951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474951
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】燃焼器
(51)【国際特許分類】
   F23R 3/28 20060101AFI20190218BHJP
   F02C 3/22 20060101ALI20190218BHJP
   F02C 3/28 20060101ALI20190218BHJP
   F02C 7/22 20060101ALI20190218BHJP
   F02C 9/40 20060101ALI20190218BHJP
   F23R 3/14 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   F23R3/28 B
   F23R3/28 D
   F23R3/28 F
   F02C3/22
   F02C3/28
   F02C7/22 A
   F02C7/22 B
   F02C9/40 A
   F02C9/40 B
   F23R3/14
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-81758(P2013-81758)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2014-202465(P2014-202465A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年4月1日
【審判番号】不服2018-255(P2018-255/J1)
【審判請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小泉 浩美
(72)【発明者】
【氏名】関口 達也
(72)【発明者】
【氏名】林 明典
【合議体】
【審判長】 金澤 俊郎
【審判官】 水野 治彦
【審判官】 冨岡 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−156539(JP,A)
【文献】 特開2007−33022(JP,A)
【文献】 特開2002−206741(JP,A)
【文献】 実開昭59−108055(JP,U)
【文献】 実開平5−96759(JP,U)
【文献】 特開平8−128636(JP,A)
【文献】 特開2002−206742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23R3/28
F23R3/14
F02C3/28
F02C3/22
F02C7/22
F02C9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と空気を混合して燃焼させる燃焼室と、前記燃焼室内に燃料と空気を供給して火炎を保持するバーナとを備えた燃焼器であって、
前記バーナは、前記バーナの軸心に対し半径方向内周側に傾斜した内向角と周方向に傾斜した旋回角を有する空気旋回流路と、前記空気旋回流路内に燃料ガスを噴射する複数のガス噴孔とを有するメインバーナと、前記メインバーナの半径方向内周側に配置され、前記燃焼室にパイロット燃料を供給するパイロットバーナとを備え、
前記ガス噴孔が、前記バーナの軸心に対し半径方向外周側に傾斜した外向角を有するとともに、第1のガス噴孔と第2のガス噴孔の少なくとも二つのグループから成り、
前記第1のガス噴孔と前記第2のガス噴孔に対して前記燃料ガスをそれぞれ独立して供給できるよう構成され、
前記第1のガス噴孔の外向角が前記第2のガス噴孔の外向角よりも小さく、
前記メインバーナに前記燃料ガスを供給する燃料系統が、低カロリーガスを前記燃料ガスとして前記第1のガス噴孔および前記第2のガス噴孔に供給し、前記低カロリーガスよりも発熱量の高い中カロリーガスを前記燃料ガスとして前記第2のガス噴孔に供給する燃料系統であることを特徴とする燃焼器。
【請求項2】
請求項に記載の燃焼器において、
バーナ軸方向について、前記第1のガス噴孔が前記第2のガス噴孔よりも前記バーナの燃焼室側端面に近い位置に配置されたことを特徴とする燃焼器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃焼器において、
前記第1のガス噴孔と前記第2のガス噴孔が、前記バーナの周方向について交互に配置されていることを特徴とする燃焼器。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の燃焼器において、
前記メインバーナに前記燃料ガスを供給する前記燃料系統に、供給する燃料ガスの流量を制御するための制御弁を設けたことを特徴とする燃焼器。
【請求項5】
請求項1乃至4項の何れか一項に記載の燃焼器において、
前記メインバーナに前記燃料ガスを供給する前記燃料系統が、前記低カロリーガスとして、製鉄プロセスで発生する高炉ガス、石炭を空気でガス化した石炭ガス化低カロリーガス、あるいは、木材等を空気でガス化したバイオマスガス化ガスを供給する燃料系統であることを特徴とする燃焼器。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の燃焼器において、
前記メインバーナに前記燃料ガスを供給する前記燃料系統が、前記中カロリーガスとして、製鉄プロセスにおいて高炉の原料となるコークス製造の際に発生するコークス炉ガス、または石炭を酸素でガス化した石炭ガス化中カロリーガスを供給する燃料系統であることを特徴とする燃焼器。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか一項に記載の燃焼器において、
前記パイロットバーナは、前記パイロット燃料として気体燃料を噴射可能な気体燃料噴孔を備えていることを特徴とする燃焼器。
【請求項8】
請求項1乃至の何れか一項に記載の燃焼器において、
前記パイロットバーナは、前記パイロット燃料として液体燃料を噴射可能な液体燃料ノズルを備えていることを特徴とする燃焼器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に発熱量の低い燃料は、ガスタービンの主要燃料であるLNG(Liquefied Natural Gas)に比べて火炎温度が低く燃焼速度が遅いため、燃えにくい燃料である。また、燃焼の際にNOx排出量が少ないことも特徴の一つである。このような低カロリーガスの代表例として、高炉ガスが挙げられる。高炉ガスは製鉄プロセスにおいて高炉から発生する副生ガスであり、近年、このガスをガスタービン燃料として利用したいというニーズが高まっている。
【0003】
高炉ガスは一酸化炭素(CO)や水素(H2)を主要可燃成分とし、その他に窒素(N2)や二酸化炭素(CO2)を多量に含む難燃性のガスである。このため、ガスタービンの着火から定格負荷範囲を高炉ガス専焼で運転することは難しく、着火から燃焼温度の低い部分負荷範囲を安定に運転(燃焼)するには、水素を含むコークス炉ガスや高カロリーガスであるLNGまたはLPGなどを高炉ガスに混合し増熱して運転するか、起動用の高カロリー燃料系統を別に設ける必要がある。
【0004】
また、低カロリーガスはLNGなどの高カロリー燃料に比べて火炎温度が低く燃焼速度が遅いため、燃えにくい燃料である。したがって、ガスタービン燃焼器においては、低カロリーガスの安定燃焼技術が重要な課題となる。また、発熱量が低いために、LNGなどの高カロリーガスと同等の燃焼ガス温度を得るためには、燃焼器に供給する燃料流量を増加させる必要がある。このため、低カロリーガス焚き燃焼器では供給する燃料流量が多くなることも特徴の一つである。
【0005】
低カロリーガス焚きバーナの構造例としては、特許文献1(特開平5-86902)が挙げられる。特許文献1には、バーナの半径方向中心部に起動用の油ノズルを備え、その外周にガス噴孔を配置し、さらにその外周にガス噴孔と空気噴孔を交互に配置した構造が開示されている。このバーナは、石炭ガス化ガスなどのN2を多量に含む低カロリーガスを対象としたものである。
【0006】
一般に、旋回噴流によって保炎するバーナにおいて、火炎を保持するためにはバーナの半径方向中心部近傍に循環ガス領域を形成し、バーナより噴出する燃料と空気に熱エネルギーを与える必要がある。特許文献1は、循環ガス領域を形成するために低カロリーガスを積極的に利用したものである。内周スワラにガス噴孔を配置し大部分の燃料を供給することで、大量の低カロリーガスの運動量を利用して強い旋回流を形成し、保炎を強化することを特徴としている。内周スワラから噴出した燃料は、外周スワラから噴出する空気と混合しながら循環ガス領域内に取り込まれるため、その領域内の酸素が不足することもなく、低カロリーガスの安定燃焼が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-86902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガスタービン燃料として副生ガスの利用が増加する中、近年では、高炉ガス焚きガスタービンにおいて、高炉設備のメンテナンスの際にガスタービンも長期間停止するのではなく、代わりにコークス炉ガスを主要燃料として発電したいというニーズも高まっている。この場合、ガスタービン燃焼器においては、発熱量の異なる2種類のガスを同一バーナで安定に燃焼することが要求される。
【0009】
コークス炉ガスは、高炉の原料であるコークスを製造する際に発生する副生ガスであり、水素とメタンを主成分とした発熱量が16.7〜21MJ/Nm3(4000〜5000kcal/Nm3、高炉ガスの4〜5倍)の中カロリーガスである。コークス炉ガスは水素を含み発熱量が高炉ガスよりも高いため、高炉ガス焚きガスタービンの増熱用のガスや、コークス炉ガス焚きガスタービンの主要燃料として用いられる。
【0010】
しかしながら、低カロリーガスを主要燃料として発電するガスタービンプラントにおいて、例えば高炉設備のメンテナンスの際に発電用燃料を高炉ガスからコークス炉ガスに変更した場合、コークス炉ガスは高炉ガスなどの低カロリーガスに比べて発熱量が約5倍高いために、燃焼器に供給する燃料流量は発熱量の増加に見合って少なくなり、低カロリーガスの5分の1程度となる。そのため、低カロリーガス焚きバーナのガス噴孔を利用してコークス炉ガスを燃焼しようとした場合、燃料の噴出流速が極端に遅くなることでバーナの旋回が弱くなり、保炎性能が著しく低下するなどの課題があった。
【0011】
一方で、例えばコークス炉ガス仕様のバーナのガス噴孔から高炉ガスを供給した場合、燃料流量が約5倍多くなるために燃料ノズルの圧力比(燃料供給圧力/燃焼器内圧力)が高くなる。このため、燃料の供給圧力を通常よりも高圧条件にせざるを得なくなり、その結果、コストがアップするなどの課題があった。さらに、高炉ガスなどの低カロリーガスは、燃料中のCO2含有量が多く可燃性ガスの含有量が少ないために反応性が低く、パイロットバーナの周囲から大量の高炉ガスを供給すると火炎が吹き飛びやすくなるといった課題もあった。
【0012】
そこで本発明は、発熱量の異なる燃料ガスを同一のバーナで安定に燃焼できる燃焼器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、燃料と空気を混合して燃焼させる燃焼室と、前記燃焼室内に燃料と空気を供給して火炎を保持するバーナとを備えた燃焼器であって、前記バーナが、前記バーナの軸心に対し半径方向内周側に傾斜した内向角と周方向に傾斜した旋回角を有する空気旋回流路と、前記空気旋回流路内にガス燃料を噴射する複数のガス噴孔とを有するメインバーナと、前記メインバーナの半径方向内周側に配置され、前記燃焼室にパイロット燃料を供給するパイロットバーナとを備え、前記ガス噴孔が、前記バーナの軸心に対し半径方向外周側に傾斜した外向角を有するとともに、第1のガス噴孔と第2のガス噴孔の少なくとも二つのグループから成り、前記第1のガス噴孔と前記第2のガス噴孔に対して前記ガス燃料をそれぞれ独立して供給できるよう構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発熱量の異なる燃料ガスを同一のバーナで安定に燃焼できる燃焼器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例に係る燃焼器構造、およびシステム系統図である。
図2】本発明の第1の実施例を示すバーナの正面図(低カロリーガス燃焼時)である。
図3】本発明の第1の実施例を示すバーナの断面図(低カロリーガス燃焼時)である。
図4】本発明の第1の実施例を示すバーナの正面図(中カロリーガス燃焼時)である。
図5】本発明の第1の実施例を示すバーナの断面図(中カロリーガス燃焼時)である。
図6】本発明の第1の実施例を示すバーナの構造図である。
図7】本発明の第2の実施例を示すバーナの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に説明する本発明の各実施例の構成は、低カロリーガスと中カロリーガスを噴射するためのバーナのガス噴孔を燃料に応じて使い分けることを特徴とする。そして、バーナには、供給する燃料流量が多くなる低カロリーガス用に第1と第2の複数のガス噴孔を設け、低カロリーガスよりも燃料流量が少なくなる中カロリーガス燃焼の際には、前記第2のガス噴孔を利用して燃料を噴射することを特徴とする。すなわち、低カロリーガス燃焼で使用する第2のガス噴孔と、中カロリーガスで使用するガス噴孔を共通化することを特徴とする。
【0017】
また、低カロリーガス燃焼で使用する第1のガス噴孔の外向角(軸心に対する角度)を、第2のガス噴孔の外向角よりも小さくすることを特徴とする。これらのガス噴孔は、バーナの保炎を担う空気旋回流路内の出口部近傍に設けるとともに、前記第1、および第2のガス噴孔に供給する燃料系統(第1、および第2の燃料系統)に、それぞれの燃料流量を制御するための制御弁を設けたことを特徴とする。
【0018】
このような特徴を備えた本発明の各実施例の構成によれば、供給する燃料を第1と第2の2つの系統に分け、燃料の発熱量に応じてバーナより噴出する複数のガス噴孔を使い分けることが可能となるため、高炉ガスやコークス炉ガスなどのように低カロリーガスと中カロリーガスに燃料が変化しても、バーナ出口の燃料噴出流速を最適化でき、安定燃焼が可能となる。
【0019】
また、低カロリーガス用に設けた第1と第2の複数のガス噴孔において、第1のガス噴孔の外向角を第2のガス噴孔の外向角よりも小さくしたため、第1のガス噴孔より噴出した燃料は起動用のパイロットバーナの熱エネルギーを受けやすくなり、低カロリーガス焚きにおいて保炎を強化できる。さらに、燃料を2系統に分けるため、燃料を1系統で供給した場合に比べてパイロットバーナの周囲から供給する低カロリーガスの流量が減少し、低カロリーガスによってパイロットバーナの火炎が冷却され、温度低下によって不安定燃焼となることを防止できる。
【0020】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0021】
(系統および燃焼器の構成)
図1に、本発明の第1の実施例であるガスタービンの系統と燃焼器の拡大断面図を示す。本実施例では低カロリーガスとして高炉ガス、中カロリーガスとしてコークス炉ガス、起動用燃料としてLNGを用いた例を示す。
【0022】
ガスタービン5は、圧縮機2、燃焼器3、タービン4、発電機6、及び起動用モータ8等で構成される。ガスタービン5は、圧縮機2が大気より吸込んだ空気101を圧縮して燃焼空気102をガスタービン燃焼器3に供給し、燃焼器3において燃料と空気の混合・燃焼により熱エネルギーを発生させ、タービン4に燃焼ガス140を供給する。タービン4は燃焼ガス140の供給により回転動力が与えられ、タービン4の回転動力が圧縮機2及び発電機6に伝達される。圧縮機2に伝えられた回転動力は圧縮動力に用いられ、発電機6に伝えられた回転動力は電気エネルギーに変換される。
【0023】
本実施例において、燃焼器3にはガスタービン5の起動に用いる高カロリーガス80(ここではLNG)と高炉ガス60の系統が接続されている。高炉ガス60の系統には、第1の系統261(高炉ガス60a)と第2の系統262(高炉ガス60b)を有し、それぞれの系統には、制御弁として、圧力調整弁150、151と、燃料流量調整弁160、161が設けられており、制御装置200によって負荷条件に応じた燃料流量の制御が可能である。また、高炉ガス60の発熱量低下による不安定燃焼を回避するため、高炉ガス60に水素含有量の多いコークス炉ガス70の混合が可能な増熱系統170も備えている。さらに、高炉ガス60の第2の燃料系統262には、高炉設備のメンテナンス等の際に高炉ガス60の供給が停止しても代わりの発電用燃料であるコークス炉ガス70を供給可能とする系統270を接続している。
【0024】
一方、燃焼器3においては、圧力容器である外筒10内に燃焼室12を備え、燃焼室12の外周に燃焼室冷却用のフロースリーブ11を備える。また、燃焼室12の上流には燃焼室内に燃料と空気を噴出し火炎を保持するためのバーナ300を配置している。燃焼器3に供給された燃焼空気102は、フロースリーブ11と燃焼室12との間の空間内を流れ、燃焼室12を冷却しながら燃焼室12の側壁に設けた空気孔13、および燃焼室12の上流であって半径方向中心部に配置したバーナ300の空気噴孔(空気旋回流路)402等より燃焼室12内に供給される。バーナ300の半径方向中心部には、ガスタービンの着火、起動から部分負荷範囲を安定に燃焼するLNG専用のパイロットバーナを備え、その外周に低カロリーガスと中カロリーガスの噴射が可能な複数のガス噴孔を備える。
【0025】
(バーナ構造1:低カロリーガス燃焼時)
次に、バーナの構造について説明する。図2、および図3に、本発明の第1の実施例であるバーナの正面図と断面図をそれぞれ示す。図2に示すように、本バーナは、ガスタービンの着火から部分負荷範囲を燃焼するパイロットバーナ310と、低・中カロリーガスを燃焼するメインバーナ320で構成される。パイロットバーナ310にはLNGの噴孔500を複数備え、空気旋回器402から供給される空気102(ここでは図示せず)とLNG80(矢印で示す)が混合、燃焼することで火炎が形成される。パイロットバーナ310は、ガスタービンの着火起動から部分負荷範囲の運転(燃焼)を賄うのと同時に、部分負荷条件(たとえば50%負荷)において、LNG焚きから低・中カロリーガス焚きに燃料を切替える際の保炎を担っている。
【0026】
一方、メインバーナ320はパイロットバーナ310の外周に設けられ、バーナの軸心に対し半径方向内周側に傾斜した内向角と周方向に傾斜した旋回角を有する空気旋回器402と、空気旋回器40の流路内に低・中カロリーガスを噴射するためのガス噴孔を備える。低カロリーガスの燃焼では、空気旋回流路内に設けたガス噴孔を介し、第1の系統261より供給する高炉ガス60aと、第2の系統262より供給する高炉ガス60bを、バーナ300の周方向について交互に噴出するように燃料噴孔を配置している。
【0027】
次に、図3にバーナの断面図を示す。本バーナは、空気旋回流路402内に通じるように、バーナの軸心に対し半径方向外周側に傾斜した外向角を有するガス噴孔510、520が配置される。供給する燃料は、バーナのボディー400内で流路が分けられていることにより、ガス噴孔510、520に対してそれぞれ独立して供給することが可能である。また、本実施例では、第1の燃料60aの外向角αを第2の燃料60bの外向角βよりも小さくしている。但し、本実施例では、ガス噴孔510、520のバーナ端面からの軸方向距離はほぼ同じである。
【0028】
バーナでは空気旋回流路402より供給された燃焼空気102に旋回が与えられるため、バーナの半径方向中心部近傍が負圧となり、燃焼ガスが逆流する循環ガス領域50が形成される。この循環ガス領域50によって、バーナから供給される燃料と空気に熱エネルギーが与えられるため保炎を強化することができる。しかしながら、低カロリーガスである高炉ガス60の燃焼においては、燃料流量が多いために循環ガス領域50内の熱がガス全体に伝わりにくく、保炎性能が低下することもあった。そこで、本実施例のように燃料を2系統に分けることで循環ガス領域50に接するガス流量が少なくなり、燃料を1系統で供給した場合に比べガス全体に熱が伝わりやすくなる。このため、燃焼安定性を向上することができる。
【0029】
しかも、本実施例においては、第1の燃料60aを噴射するガス噴孔510の外向角αを第2の燃料60bを噴射するガス噴孔520の外向角βよりも小さくしている。これにより、第1の燃料60aが第2の燃料60bよりもバーナの内周側に噴射されるため、パイロット火炎600の熱を受けやすく、燃焼安定性の向上に有利である。また、高炉ガスの第1の燃料で内周火炎610が形成されることで、第2の燃料60bにも熱が伝わりやすくなり、外周火炎620が形成されやくなる。本実施例の構成によれば、これらの火炎の熱の授受、すなわち相互作用によって燃焼安定性を向上させることができ、高炉ガスなどの低カロリーガスを安定に燃焼させることが可能となる。
【0030】
なお、本実施例のように第1の燃料60aと第2の燃料60bをそれぞれ交互に隣接して噴射することで、内周火炎610と外周火炎620の熱の伝達はより効果的なものとなるため、燃焼安定性をさらに向上させることができる。
【0031】
(バーナ構造1:中カロリーガス燃焼時)
次に、図4および図5に中カロリーガス燃焼の場合の燃料の様子を示す。中カロリーガス焚きにおいては、発熱量の違いから低カロリーガスに比べて燃料流量が少なくなるため、図4のバーナの正面図に示すように、本実施例では中カロリーガス燃焼の際に第2の燃料系統262で使用したガス噴孔520のみを利用してコークス炉ガス70を噴射することを特徴とする。これにより、低カロリーガス噴孔の全てではなく一部を利用してコークス炉ガス70を噴射するため、ガス噴孔出口の燃料噴出流速が極端に低下することによる不安定燃焼を防止できる。
【0032】
また、ガスを噴射している空気旋回流路と隣りあう空気旋回流路からは燃料ガス(第1の燃料系統261から供給される燃料)の噴射がないため、空気のみが供給される。コークス炉ガスはメタンを約30%含有する燃料のため、メタンを含有しない高炉ガスに比べると燃焼に必要な空気流量(理論空気量)が多くなる。このため、コークス炉ガスの燃焼においては、燃焼性の良い燃料ではあるもののバーナの空気不足により火炎がリフトする恐れがあった。しかし本実施例のバーナでは、ガスを噴射している空気旋回流路と隣りあう空気旋回流路から空気のみが供給されるため、コークス炉ガスの燃焼においてもバーナの空気不足による火炎リフトの発生を防止でき、燃焼安定性を確保することができる。
【0033】
図5は、バーナの断面を示したものである。本実施例の特徴は、図3と同じ構造のバーナを用いた中カロリーガスの燃焼において、低カロリーガス燃焼の際に第2の燃料系統262として使用したガス系統およびガス噴孔520を利用できることにある。本実施例の構成に拠れば、LNG用パイロット火炎の熱エネルギーを利用し、コークス炉ガスに熱を伝えることで、コークス炉ガスの温度が上昇し燃焼が可能となる。このように、本実施例の構成によれば、コークス炉ガスなどの中カロリーガスをも安定に燃焼させることができる。
【0034】
(運転方法)
以上で述べてきた燃焼器の運転方法について、図1を用いて説明する。始動時、ガスタービンは起動用モータ8などの外部動力によって駆動される。ガスタービンの回転数を燃焼器の着火条件相当の回転数に保持することで、燃焼器3には着火に必要な燃焼空気102が供給され、着火条件が成立する。LNG80をバーナ300に供給することで、燃焼器3の着火が可能となる。燃焼器3の着火後、燃焼ガス140がタービン4に供給され、LNG80の流量増加とともにタービン4が昇速、起動用モータ8の離脱によりガスタービンは自立運転に入り、無負荷定格回転数に到達する。ガスタービンが無負荷定格回転数に到達後は、発電機6の併入、さらにはLNG80の流量増加によりタービン4の入口ガス温度が上昇し、負荷が上昇する。負荷の上昇に伴い、燃焼器出口ガス温度が高くなると燃焼安定性が増加するため、LNG80から高炉ガス60への燃料切替えが可能となる。
【0035】
バーナ300においては、第1の燃料系統261より高炉ガス60aを供給することで、LNGのパイロット火炎600の熱エネルギーを利用し高炉ガスの温度上昇とともに内周火炎610が形成される。さらに、高炉ガスの第2の系統262より燃料60bを供給することで、高炉ガスの内周火炎610から高炉ガス60bへ熱が伝わり外周火炎620が形成される。その後、高炉ガスの流量を増加させLNGの流量を低下させることで、LNG焚きから高炉ガス焚き(専焼)に運転モードを切替えることが可能となる。燃料切替え後は、高炉ガス60の流量を増加させることで負荷が上昇し、定格負荷に到達する。
【0036】
なお、本実施例では、高炉ガスの供給手順として第1の燃料60aを供給した後に第2の燃料60bを供給したが、第1、および第2の燃料を同時に供給しても同様に運転(燃焼)は可能である。高炉ガス60の発熱量が計画条件よりも低い場合には、高炉ガスの増熱系統170よりコークス炉ガス70を高炉ガス60に混合することで燃えやすくなり、ガスタービン燃焼器では安定に燃焼することができる。また、燃料切替えに関しては、部分負荷条件でLNG焚きから高炉ガス焚きに燃料を切替え後に負荷を上昇する説明をしたが、LNGと高炉ガスの混焼で定格負荷条件に到達することも可能である。
【0037】
以上、LNGと低カロリーガスを例に本願の運転方法について説明したが、高炉設備のメンテナンス等により高炉ガスの供給が停止した場合でも、本発明では高炉ガスの代わりにコークス炉ガスで運転することが可能である。この場合、第2の燃料系統262よりコークス炉ガス70をバーナ300に供給することで、LNGのパイロット火炎からの熱を受けコークス炉ガスの燃焼が可能となる。LNGからコークス炉ガスへの燃料の切替えや、その後の負荷上昇に関しても高炉ガス焚きと同様の運転方法となる。また、本実施例では起動用燃料としてLNGを用いた場合の運転、バーナ構造について説明したが、液体燃料を噴射する液体燃料ノズルをパイロットバーナに配置した構成とすれば、液体燃料による起動や負荷運転も可能である。
【0038】
このように、本実施例では、空気旋回流路内にガス燃料を噴射する複数のガス噴孔510、520がガス噴孔510とガス噴孔520という二つのグループに分かれ、ガス噴孔510とガス噴孔520に対して燃料をそれぞれ独立して供給できるよう構成されていることにより、燃料の発熱量に応じて燃料を噴射するガス噴孔の数を変化させる事ができるため、発熱量の異なる燃料を燃焼させる場合にも発熱量の異なる燃料ガスを同一のバーナで安定に燃焼させることができる。
【0039】
以上の通り、本実施例の構成によれば、高炉ガスなどの低カロリーガスを安定に燃焼しつつ、低カロリーガスとコークス炉ガスなどの中カロリーガスを同一のバーナで安定に燃焼できるガスタービン燃焼器を提供することができる。
【実施例2】
【0040】
(バーナ構造2)
図7に、本発明の第2の実施例であるバーナの部分拡大図を示す。図3および図6に示す第1の実施例のバーナ構造に対し、本実施例の特徴は第1の燃料噴出用のガス噴孔の軸方向位置を、第2の燃料を噴出するガス噴孔よりも下流側(燃焼室側)に配置したことにある。なお、ガス燃料の外向角α、βや図2に示した第1のガス噴孔510と第2のガス噴孔520の交互配置といった構成は、第1の実施例と同様であるため、説明を省略する。
【0041】
図6に示すように、第1の実施例では、バーナの軸方向について、バーナの燃焼室側端面Oよりも上流の軸方向位置L0にガス噴孔510、520を配置し、燃料を噴射していた。このような構成において、パイロットバーナの火炎600からの熱エネルギーを用いて高炉ガスの内周火炎610を形成させた場合、特に、高炉ガスの発熱量が計画よりも低く可燃成分が少ない場合には内周火炎610の温度が十分に上昇する前に燃料60bが混合し、内周火炎610の温度が低下する可能性がある。
【0042】
これに対し、本実施例では、図7に示すように、第1のガス噴孔510の軸方向位置を、L0から、バーナ端面O側のL1に変更している。これにより、内周火炎610と燃料60bとの距離を確保することができるため、内周火炎610の温度が上昇したあとに燃料60bが混合する。したがって、高炉ガスの発熱量が低下した場合でも、内周火炎610の温度低下が防止でき、安定燃焼が可能である。さらに、第1のガス噴孔をL1に変更したことで、たとえばバーナの燃焼室側端面Oより燃焼室側の距離X1の位置において、パイロットバーナの火炎600と第1の燃料60aとの距離が、Y1からY2のように短くなる。この場合、パイロット火炎600から熱を受けやすくなるため、燃焼安定性が向上する。
【0043】
このように、バーナ軸方向について、ガス噴孔510をガス噴孔520よりもバーナの燃焼室側端面0に近い位置に配置した本実施例の構成によれば、外周火炎620を形成するための燃料の内周火炎610への早期の混合を抑制することができ、燃焼安定性の向上を図ることができる。
【0044】
なお、以上の説明では、気体燃料であるLNGを利用するパイロットバーナを備えた燃焼器を例に説明を行ったが、液体燃料を利用する場合には、液体燃料を噴射が可能な液体燃料ノズルを備えたパイロットバーナだけではなく、気体燃料噴孔と液体燃料ノズルの双方を備えたパイロットバーナとしてもよい。このような構成とした場合にも、上述した各実施例と同様に、発熱量の異なる燃料ガス(中カロリーガスおよび低カロリーガス)を同一のバーナで安定に燃焼させることができる。
【符号の説明】
【0045】
2 圧縮機
3 燃焼器
4 タービン
5 ガスタービン
6 発電機
8 起動用モータ
10 外筒
11 フロースリーブ
12 燃焼室
13 燃焼空気孔
50 循環ガス領域
60 高炉ガス
60a 第1の燃料(高炉ガス)
60b 第2の燃料(高炉ガス)
70 コークス炉ガス
80 高カロリーガス(LNG)
101 空気
102 燃焼空気
140 燃焼ガス
151 第1の燃料系統の圧力調整弁(遮断弁)
152 第2の燃料系統の圧力調整弁(遮断弁)
161 第1の燃料系統の流量調整弁
162 第2の燃料系統の流量調整弁
170 コークス炉ガスによる増熱の系統
200 燃料系統の制御装置
261 第1の燃料系統
262 第2の燃料系統
270 発電用燃料系統(コークス炉ガス)
300 バーナ
310 パイロットバーナ
320 メインバーナ
402 空気旋回器
500 LNG噴孔
510 第1のガス噴孔
520 第2のガス噴孔
600 パイロット火炎
610 高炉ガスの内周火炎
620 高炉ガスの外周火炎(コークス炉ガスの火炎)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7