特許第6474991号(P6474991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6474991回転式座席装置および鉄道車両並びに座席の運用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6474991
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】回転式座席装置および鉄道車両並びに座席の運用方法
(51)【国際特許分類】
   B61D 33/00 20060101AFI20190218BHJP
   B60R 22/00 20060101ALI20190218BHJP
   B61D 1/04 20060101ALI20190218BHJP
   B60N 2/30 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
   B61D33/00 A
   B60R22/00 105
   B61D1/04
   B60N2/30
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-214133(P2014-214133)
(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公開番号】特開2016-78745(P2016-78745A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】押越 良介
【審査官】 志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−289507(JP,A)
【文献】 特開昭55−164557(JP,A)
【文献】 特開平10−244939(JP,A)
【文献】 特開2005−329102(JP,A)
【文献】 実開平06−063427(JP,U)
【文献】 実開平07−022879(JP,U)
【文献】 特表2010−514618(JP,A)
【文献】 特開平11−291824(JP,A)
【文献】 特開平04−283159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 33/00
B60N 2/30 − 2/36
B60R 22/00
B61D 1/04
B64D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数組の座部および背もたれを有する座席と、該座席の回転機構と、座席の回転を阻止/解除可能な回転ロック手段と、を備えた回転式座席装置であって、
少なくともいずれか1つの座部は背もたれ側に設けられた軸を中心にほぼ水平な姿勢とほぼ鉛直な姿勢との間で回動可能に構成され、当該回動可能な座部が前記ほぼ鉛直な姿勢にされた状態で当該座部の前方の所定空間を囲繞可能なベルトを備えていることを特徴とする回転式座席装置。
【請求項2】
前記回動可能な座部もしくは該座部に対応する前記背もたれの一方の側部には引き出し/巻取り可能なベルト装置が設けられているとともに、前記回動可能な座部に対応する前記背もたれの他方の側部には前記ベルト装置から引き出されたベルトの先端部を係止可能な係止手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転式座席装置。
【請求項3】
前記回動可能な座部を、ほぼ水平な姿勢に維持した状態で回動を阻止/解除可能な第1ロック装置を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の回転式座席装置。
【請求項4】
前記回動可能な座部を、ほぼ鉛直な姿勢に維持した状態で回動を阻止/解除可能な第2ロック装置を備えることを特徴とする請求項3に記載の回転式座席装置。
【請求項5】
前記複数組の座部および背もたれを有する座席の下部に前記複数組の座部および背もたれを支えるフレームを備え、該フレームは前記回動可能な座部に対応する部位が、前記背もたれの側に凹んだ空間を形成可能に折曲もしくは湾曲されていることを特徴とする請求
項4に記載の回転式座席装置。
【請求項6】
複数組の座部および背もたれを有する座席が車両の進行方向に沿って所定の間隔をおいて複数個配設されてなる鉄道車両であって、
前記複数個の座席は、それぞれ同一位置の1つの座部が、背もたれ側に設けられた軸を中心にほぼ水平な姿勢とほぼ鉛直な姿勢との間で回動可能に構成され、前記複数組の座部のうち前記1つの座部以外の座部は水平な姿勢から鉛直な姿勢への回動が不能に構成されていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項7】
前記回動可能な座部を有する座席は、3組の座部および背もたれを有する3人掛け座席であって、3個の座部のうち中央の座部がほぼ水平な姿勢とほぼ鉛直な姿勢との間で回動可能に構成され、前記3個の座部のうち前記中央の座部以外の座部は水平な姿勢から鉛直な姿勢への回動が不能に構成されていることを特徴とする請求項6に記載の鉄道車両。
【請求項8】
請求項6または7に記載の鉄道車両における前記回動可能な座部を有する座席の運用方法であって、
営業運転開始前に1車両のすべての前記回動可能な座部を、混雑が予想されるときはほぼ水平な姿勢に設定した状態で、また混雑が予想されるとき以外はほぼ鉛直な姿勢に設定した状態で列車の運行を開始することを特徴とする座席の運用方法。
【請求項9】
前記回動可能な座部を有する座席が設置されている車両を指定席車両として運用することを特徴とする請求項8に記載の座席の運用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、公共輸送手段特に鉄道車両に利用して好適な車両用回転座席および鉄道車両並びに座席の運用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の客車、特に座席が進行方向に向いた状態もしくは進行方向および逆方向に向いた状態(向かい合わせ状態)で設置されている客車においては、座席の頭上に荷物用の棚が設けられているものの、座席周りには、スーツケースのような大型の荷物を置くスペースが設けられていないのが一般的である。なお、車両端部のデッキ部分に大型の荷物を置くスペースが設けている列車はある。
一方、通勤時間帯における乗車率を高めるため、一部の座席の座部を上方へ跳ね上げることができるようにした車両が実用化されている。また、自動車の分野においては、大型荷物を搭載できるスペースを確保するため、座部を上方へ跳ね上げることができるようにしたシートに関する発明が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−327027号公報
【特許文献2】特開平10−157619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の鉄道車両においては、客室部に大型の荷物を置くスペースがないため、大型荷物を携帯する旅行者やスキーや登山などのレジャーに出掛ける乗客は、荷物を座席近傍に置いて着席することができないので、身近に荷物を置いて座席に座りたいという利用者からの要望があることが明らかとなった。
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたもので、大型の荷物であっても座席近傍に置いて着席することができる車両用回転座席および鉄道車両並びにそのような車両の好適な座席の運用方法を提供することを目的とする。
【0005】
なお、鉄道車両には、乗客が全員進行方向に向かって着席できるようにするため、回転座席が設けられているものがあり、鉄道車両用回転座席に関する発明としては、例えば特許文献2に開示されているものがあるが、大型荷物を載置できるスペースを確保することができるように構成されたものはない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、複数組の座部および背もたれを有する座席と、該座席の回転機構と、座席の回転を阻止/解除可能な回転ロック手段と、を備えた回転式座席装置において、
少なくともいずれか1つの座部は背もたれ側に設けられた軸を中心にほぼ水平な姿勢とほぼ鉛直な姿勢との間で回動可能に構成され、当該回動可能な座部が前記ほぼ鉛直な姿勢にされた状態で当該座部の前方の所定空間を囲繞可能なベルトを備えるようにした。 上記した手段によれば、座席の一部に大型荷物を載置できるスペースを確保することができるため、乗客は身近に荷物を置いて座席に座ることができるとともに、該スペースに載置された荷物をベルトで固定することができるので、載置した荷物が車両の揺れで移動するのを防止することができる。
【0007】
ここで、望ましくは、前記回動可能な座部もしくは該座部に対応する前記背もたれの一方の側部に引き出し/巻取り可能なベルト装置を設けるとともに、前記回動可能な座部に対応する前記背もたれの他方の側部に前記ベルト装置から引き出されたベルトの先端部を係止可能な係止手段を設けるようにする。
かかる構成によれば、回動可能な座部が設けられている席を座席として使用する場合に、ベルトを巻き取った状態することができ、それによって乗客が着席する際に異物が体に触れて座り心地が悪くなるようなことがないようにすることができる。
【0008】
また、望ましくは、前記回動可能な座部を、ほぼ水平な姿勢に維持した状態で回動を阻止/解除可能な第1ロック装置を備えるようにする。 かかる構成によれば、回動可能な座部が設けられている席を乗客が勝手に荷物置き場として使用するのを防止することができる。
【0009】
さらに、望ましくは、前記回動可能な座部を、ほぼ鉛直な姿勢に維持した状態で回動を阻止/解除可能な第2ロック装置を備えるようにする。
かかる構成によれば、ベルトで固定された車両の揺れで荷物が座席ごと揺れて移動してしまうのを防止することができる。
【0010】
さらに、望ましくは、前記複数組の座部および背もたれを有する座席の下部に前記複数組の座部および背もたれを支えるフレームを備え、該フレームは前記回動可能な座部に対応する部位が、前記背もたれの側に凹んだ空間を形成可能に折曲もしくは湾曲した構成となるようにする。
かかる構成によれば、座席の前方に、より大型の荷物を載置できるスペースを生じさせることができる。
【0011】
本出願の他の発明は、複数組の座部および背もたれを有する座席が車両の進行方向に沿って所定の間隔をおいて複数個配設されてなる鉄道車両において、
前記複数個の座席は、それぞれ同一位置の1つの座部が、背もたれ側に設けられた軸を中心にほぼ水平な姿勢とほぼ鉛直な姿勢との間で回動可能に構成され、前記複数組の座部のうち前記1つの座部以外の座部は水平な姿勢から鉛直な姿勢への回動が不能に構成されているようにしたものである。
上記した手段によれば、縦に並んだ複数の座席の同一位置に大型荷物を載置できるスペースを確保することができるため、乗客は荷物を置くことができるスペースを見つけ易くなる。
【0012】
ここで、望ましくは、前記回動可能な座部を有する座席は、3組の座部および背もたれを有する3人掛け座席であって、3個の座部のうち中央の座部がほぼ水平な姿勢とほぼ鉛直な姿勢との間で回動可能に構成し、前記3個の座部のうち前記中央の座部以外の座部は水平な姿勢から鉛直な姿勢への回動が不能に構成する。
かかる構成によれば、乗客は身近に荷物を置いて座席に座ることができるとともに、大型荷物を携帯する乗客にとって席の選択の自由度が高くなる。
【0013】
本出願のさらに他の発明は、上記のように構成された鉄道車両の運用に際して、営業運転開始前に1車両のすべての前記回動可能な座部を、混雑が予想されるときはほぼ水平な姿勢に設定した状態で、また混雑が予想されるとき以外はほぼ鉛直な姿勢に設定した状態で列車の運行を開始するようにしたものである。
上記した方法によれば、混雑が予想される最繁忙期には回動可能な座部をすべて下げた状態にして乗客が着席可能な座席数を増やして1編成で輸送可能な乗客数を多くし、輸送力アップによる一般乗客に対する利便性の向上と鉄道会社の収益の向上を図りつつ、最繁盛期以外の期間には回動可能な座部をすべて跳ね上げた状態にしておくことで大型荷物を携帯する乗客が、座部のあった位置に生じた空間を大型荷物の載置スペースとして利用可能となり、収益を低下させることなく大型荷物を携帯する乗客に対する利便性を向上させることができる。
【0014】
また、望ましくは、前記回動可能な座部を有する座席が設置されている車両を指定席車両として運用するようにする。
かかる方法によれば、大型荷物を携帯する乗客に対する利便性を向上させることができるとともに、座席の一部を荷物置き場として利用することが可能な利用券を販売することで鉄道会社の収益の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大型の荷物であっても座席近傍に置いて着席することができる車両用回転座席を実現することができる。また、大型の荷物を座席近傍に置いて着席することができる鉄道車両およびそのような車両の好適な運用方法を実現することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る回転座席の一実施例を示す斜視図である。
図2図1の実施例の回転座席における大型荷物を固定する手段の一例としてのベルト装置を示す斜視図である。
図3】実施例の回転座席における回転機構の構成例を示す平面図および正面図である。
図4】実施例の回転座席を使用した鉄道車両における制御システムの構成例を示すブロック図である。
図5】鉄道車両における実施例の回転座席の運用方法の例を示す車両の構成図である。
図6】実施例の回転座席において中央の座部を跳ね上げて大型の手荷物を固定した様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明に係る回転座席を3人掛けの座席に適用した場合の一実施例を示す斜視図、図2図1の回転座席における大型荷物の固定装置の具体例を示す斜視図である。
【0018】
図1(A)に示すように、本実施例の回転座席10は、3個の座部11A,11B,11Cと、3個の背もたれ12A,12B,12Cと、4個の肘掛13A,13B,13C,13Dとを備え、中央の座部11Bの下方に設けられた回転機構により、鉛直な軸の回りに回転可能に構成されている。また、3個の座部11A,11B,11Cのうち中央の座部11Bは、背もたれ側の端部の側面に設けられたピン軸14(図2参照)を中心に上下回動可能に構成され、図1(B)に示すように、背もたれ12Bとほぼ鉛直の姿勢となる位置まで跳ね上げることで、大型荷物の載置スペースを形成可能に構成されている。
【0019】
また、図2(A)に示すように、座部11Bに対応した中央の背もたれ12Bの側部であって例えば肘掛13Bの台座19のような部位にはベルト巻取り装置15が設けられ、背もたれ12Bの反対側の側部にはベルト15aの先端のタング15bと結合可能なピンもしくはバックルのような係止手段15cが設けられており、座部11Bを跳ね上げることで生じたスペースの床にスーツケース等の大型荷物を載置し、図2(B)に示すように、ベルト15aを引き出して捲回させ、先端のタング15bを係止手段15cに係合させることで大型荷物を固定できるように構成されている。なお、ベルト巻取り装置15は、中央の背もたれ12Bの側部ではなく、座部11Bの側部に設けても良い。
【0020】
さらに、肘掛け13B(13C)の側面には、図1(A)に示すように、電磁ソレノイド等で駆動されるロックピン16aが設けられているとともに、図2(A)に示すように、座部11Bの側面には、上記ロックピン16aが係合可能な係合穴を有するプレート16bが設けられており、跳ね上げられた座部11Bを回動不能な状態に維持できるように構成されている。
また、座部11Bの底面には、図2(A)に示すように、後述の座席フレーム側に設けられたロック装置を構成する係止用のフックの先端が係合可能な一対の係止部17aが設けられており、押し下げられた座部11Bを跳ね上げ不能な状態に維持できるように構成されている。
【0021】
図3には、図1の回転座席における回転機構を備えた座席支持機構20の構成例が示されている。このうち、(A)は平面図、(B)は正面図である。
図3(A)に示すように、座席支持機構20は、全体としてほぼ長方形をなす支持フレーム21と、支持フレーム21のほぼ中央に位置するように設けられた円板状をなすなターンテーブル22と、該ターンテーブル22を回転駆動するためのモータ23および該モータ23の回転駆動力をターンテーブル22へ伝達するための回転力伝達機構24とを備える。また、座席支持機構20は、支持フレーム21の回転を阻止/解除可能な回転ロック装置25と、該回転ロック装置25によるロック状態を解除するためのロック解除ペダル26と、車両の床に固定される3本の脚部27A,27B,27Cを有しターンテーブル22を介して支持フレーム21を支持する基台27とを備え、上記支持フレーム21上に、3個の座部11A,11B,11Cが搭載され、ターンテーブル22により180度回転可能に構成されている。
【0022】
ターンテーブル22とその回転駆動機構は公知であり、詳しい構成の図示は省略するが、例えばターンテーブル22の周縁部の下面に円形のラックを設けるとともに、基台27側に、このラックと噛み合い上記モータ23によって回転されるピニオンを設けた構成が考えられる。
回転ロック装置25のロック及び解除機構も公知であるので、詳しい構成の図示は省略する。ロック解除ペダル26を踏み込むとロックが解除され、背もたれを介して手動でターンテーブル22を回転させることができるように構成されている。また、回転ロック装置25にはロックを解除するためのソレノイド等の駆動手段(図示省略)を設け、該駆動手段を動作させてロックを解除させた後にモータ23の回転指令信号を与えると、自動で座席が回転するように構成することもできる。ロック解除ペダル26を踏み込むとロックが解除されかつモータ23が駆動されるように構成しても良い。
【0023】
上記支持フレーム21は、座席の長手方向に配設された横フレーム部材21A,21Bと、横フレーム部材21A,21Bの端部に結合された縦フレーム部材21C,21Dとを備え、横フレーム部材21A,21Bには中央の座部11Bに対応して中央部分が内側に折曲されることで、凹部を形成している。支持フレーム21の中央に凹部を形成することで、中央の座部11Bを跳ね上げた際に、荷物を置くスペースを大きくすることができるようになっている。
【0024】
また、横フレーム部材21Aのターンテーブル22の近傍には、座部11Bの底面に設けられた前記係止部17aと係合可能なフックと、該フックを回動させるソレノイドおよびリンク機構からなる駆動手段とを備えたロック装置28が、一対の係止部17a,17aに対応して2個設けられている。なお、ロック装置28は、ソレノイドを有する電子ロックの代わりに、バネを備え手動で操作可能なロック装置として構成しても良い。前記ロックピン16aも同様に手動操作可能な構成としても良い。電子ロックとして構成した場合には、乗客が勝手にロック装置のロックを解除して回動可能な座部がある席を荷物置き場として利用したり座席として使用するのを確実に防止することができる。
【0025】
上述したような構成によれば、中央の座部11Bを跳ね上げることで座席の一部に大型荷物を載置できるスペースを確保することができるため、乗客は身近に荷物を置いて座席に座ることができるとともに、図6に示すように、該スペースに載置された荷物60をベルト15aで固定することができるので、載置した荷物が車両の揺れで移動するのを防止することができる。また、跳ね上げた座部を回動不能な状態にするロック装置(ロックピン16a)が設けられているため、ベルトで固定された荷物をより安定した状態に維持させることができる。
なお、モータ23および回転力伝達機構24を設けずに、手動による回転方式の座席として構成した座席に対して、上記と同じような跳ね上げ式の座部を設けて、大型荷物の載置スペースを形成可能にすることも可能である。
【0026】
図4には、上記実施例の回転座席を使用した鉄道車両における制御システムの構成例が示されている。
図4に示すように、この実施例では、回転座席の回転駆動用のモータ23と、上記回転ロック装置25の駆動手段としてのソレノイド25Aと、ロックピン16aを備えた中央座席側部の肘掛内のロック装置の駆動手段としてのソレノイド18Aと、座部11Bの底面の係止部17aに対応して設けられた下部ロック装置28の駆動手段としてのソレノイド28Aとを制御する制御装置40によって制御されるように構成されている。
【0027】
この制御装置40には操作パネル41が接続されており、操作パネル41を操作することによって、制御装置40からモータ23やソレノイド18A,28A等に対して動作指令信号を送り、所望の座席を回転させて向きを変えたり、ロック装置を作動させて座部11Bを跳ね上げた位置もしくは通常の着座可能な位置に下げた位置に固定できるように構成されている。
【0028】
また、中央座席側部の肘掛13Bには、座部11Bを跳ね上げた位置に固定すなわち大型荷物を設置可能な状態にしているか否かを示すランプ43が設けられており、該ランプ43も制御装置40によって点灯制御するように構成されている。
なお、図4においては、制御対象のモータやソレノイド、ランプが1つの座席分のみ示したが、他の座席についても同様な制御対象が設けられており、ケーブル42を介して制御装置40に接続されている。
【0029】
図5には、上記実施例の座部跳ね上げ式座席を備えた鉄道車両の構成例が示されている。図5に示されている車両は、3人掛け座席と2人掛け座席とが横並びに設けられた新幹線のような車両を想定し適用したものである。
図5の実施例の車両においては、車両50の片側半分に、前述した中央座部が跳ね上げ可能に構成された3人掛け座席10を、車両の進行方向に沿って所定の間隔を置いて複数個配置されている。各座席10は、図4を用いて説明した制御システムにより、座席回転用のモータや座部の位置を固定するためのロック装置を駆動制御するように構成され、制御装置40および操作パネル41は乗務員室51に配設されており、乗務員による遠隔操作が可能に構成されている。また、3人掛け座席10の列52Aの横には、2人掛け座席30の列52Bが設けられている。
【0030】
上記のように、1車両すべての3人掛け座席の中央1列の座部を跳ね上げ可能な構成とすることにより、乗客は荷物を身近において着席することができ、大型荷物を携帯した乗客に対する利便性を向上させることができるとともに、目の届かない場所に荷物を置きたくないという乗客の心理からもともと利用率の低かったデッキの大型荷物置き場を設ける必要がなくなるという利点がある。
また、跳ね上げ可能な座部を3人掛け座席の窓側または通路側に設定すると、大型荷物を携帯する乗客が1人で乗車する際には3人掛け座席の中央に着席するしかなく、選択肢が狭まってしまうが、跳ね上げ可能な座部を3人掛け座席の中央とすることにより、大型荷物を携帯する乗客にとって席の選択の自由度が高くなる。
【0031】
なお、上記のように跳ね上げ可能な座席を配設した車両は、1編成のすべての車両ではなく、1部の車両に限定するように構成しても良い。これにより、乗車率をそれほど低下させることなく、乗客に対する利便性を向上させることが可能となる。
また、中央座席側部の肘掛13Bに、座部11Bのスペースに大型荷物を載置しているか否か検出する光電センサを設けるとともに、当該座席上方の荷物棚の下面や側面もしくは窓の上方あるいは肘掛の上面に、荷物載置スペースの使用状態を示すランプを設けるようにしても良い。これにより、乗客は遠方から大型荷物を載置可能な座席を把握することができる。
【0032】
次に、上記のように座部跳ね上げ式座席を設置した車両を有する列車における座席の運用方法の一例について説明する。
第1の運用方法は、跳ね上げ可能な座部を有する座席を配設した車両を指定席車両として扱う場合のもので、年末年始、お盆、大型連休期間のような最繁盛期には、跳ね上げ可能な座席をすべて下げて着席可能な状態にして当該座席を指定席座席として販売する一方、最繁盛期以外の期間には、跳ね上げ可能な座席をすべて跳ね上げて大型荷物を載置可能な状態にして当該座席を指定席座席として販売しないという運用を行う。
【0033】
かかる運用を行うことで、混雑する時期には座席定員数を増やして1編成で輸送可能な乗客数を多くして、輸送力アップによる一般乗客に対する利便性の向上と鉄道会社の収益の向上を図ることができるとともに、最繁盛期以外の期間には大型荷物を携帯する乗客が跳ね上げ可能な座部の座席を大型荷物の載置スペースとして利用可能となり、収益を低下させることなく大型荷物を携帯する乗客に対する利便性を向上させることができる。
また、すべての跳ね上げ式座席を一斉に跳ね上げた状態または下げた状態に設定することで、跳ね上げ可能な座部の使用形態(荷物スペースとするか席とするか)を巡る乗客同士のトラブルを未然に回避することができる。なお、この運用方法は、跳ね上げ可能な座部を有する座席は回転式の座席を配設した車両に限定されず、回転不能な座席の一部の座部を跳ね上げ可能に構成したものを配設した車両に対しても適用することができる。
【0034】
第2の運用方法は、跳ね上げ可能な座席を有料席として扱う場合のものである。跳ね上げ可能な座席を配設した車両が指定席車両の場合には、既存の指定席販売システムを改良して、着席のための指定席料金よりも低い料金で席を荷物置き場として使用するのを許可する利用券を販売する方式が考えられる。跳ね上げ可能な座部を有する座席を配設した車両が指定席でない普通車両の場合には、車掌が利用券の販売を行う方式や、座席上方の荷物棚の下面や側面もしくは窓の上方にICカードのリーダライタ(カード読取り装置)を設け、カードからの料金の引き落としで利用する権利を販売する方式、該方式と駅や車内に設けた券売機による利用券販売との兼用方式などが考えられる。
【0035】
なお、ICカード用のリーダライタを設ける場合、リーダライタの近傍に青色ランプと赤色ランプとを設け、利用前は青色ランプを点灯しておくとともに、カードで利用権利を購入した場合には、青色ランプを消灯し赤色ランプを点灯させることで、利用中であることおよび購入を行なって利用していることを表示させるようにしても良い。また、通常は跳ね上げ可能な座部を下げた状態にしておいて、ICカードによる利用権利の購入がなされた場合には、跳ね上げ可能な座部の電子ロックを解除するように構成することも可能である。この第2の運用方法も、回転式の座席を配設した車両に限定されず、回転不能な座席を配設した車両に対しても適用することができる。
【0036】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、3人掛けの座席の中央席を跳ね上げ可能な座部を有する座席としたが、窓側または通路側の席を跳ね上げ可能な座部を有する座席として構成しても良い。また、2人掛けの座席の一方の席を跳ね上げ可能な座部を有する座席として構成しても良い。また、前記実施形態では、座席のリクライニング機能について説明を省略したが、前記実施形態の座席にあっては、公知のリクライニング機構を適用して背もたれの角度を調整可能に構成できることはいうまでもない。
さらに、前記実施形態においては、本発明を鉄道車両に適用した場合について説明したが、本発明はバスなど他の公共輸送手段にも利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 回転座席
11A,11B,11C 座部
12A,12B,12C 背もたれ
13A,13B,13C,13D 肘掛
15 ベルト巻取り装置
15a ベルト
16a ロックピン
17a 係止部
21 支持フレーム
22 ターンテーブル
23 モータ
24 回転力伝達機構
25 回転ロック装置
26 ロック解除ペダル
27 基台
図1
図2
図3
図4
図5
図6