(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記注入効果は、前記対象地盤が砂質土地盤である場合は、注入された薬液によって固結した体積に基づいて表され、前記対象地盤が粘性土地盤である場合は、薬液注入によって形成された割裂脈の本数に基づいて表されることを特徴とする請求項1に記載の薬液注入工法。
前記最適な振幅は、対象地盤に対して水注入による振幅の大きさを変化させた試験を行った結果に基づいて決定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬液注入工法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の薬液注入工法を説明するために、砂質土地盤における動的係数dと注入効果との関係を示した図である。
【0017】
一方、
図2は、本実施の形態の薬液注入工法に使用される装置の概略構成を示した図である。まず、
図2を参照しながら、動的注入ポンプ2及びその周辺の構成について説明する。
【0018】
薬液を注入するための準備工程として、ボーリングマシン4を利用して地盤Gに注入管1が設置される。ここで、注入管1が削孔用ロッドを兼ねている場合は、注入管1の頭部にボーリングマシン4のスイベルヘッド11が接続されて、対象地盤まで打ち込まれた注入管1は、そのまま薬液注入に使用される。
【0019】
これに対して、専用の削孔用ロッド(図示せず)を使用する場合は、最初にボーリングマシン4のスイベルヘッド11に削孔用ロッドを接続し、削孔終了後に削孔用ロッドを注入管1と入れ替えて、薬液注入を行うことになる。
【0020】
スイベルヘッド11には、薬液の注入速度、注入流量又は注入圧力を時間の経過に伴って増減させるという薬液の注入方法が実施可能な動的注入ポンプ2が接続される。すなわち、この動的注入ポンプ2は、経時的に注入速度、注入流量又は注入圧力を変化させる動的注入が可能なポンプである。
【0021】
動的注入ポンプ2は、電動モータを駆動部とする注入ポンプ21と、ファンクションジェネレータとなる波形発生装置22と、流量・圧力測定装置23とによって主に構成される。
【0022】
注入ポンプ21は、電動モータの回転数を任意に変更することで、吐出流量(注入流量)を変更することができる。ここで、吐出流量を薬液の圧送に使用される配管の断面積で除した値が注入速度となる。
【0023】
このため、電動モータの回転数を下げると、それに伴って注入速度が低下することになる。他方、電動モータの回転数を上げると、それに伴って注入速度が増加することになる。
【0024】
また、波形発生装置22は、例えばSIN波(正弦波)などの制御波形を造成する装置である。波形発生装置22では、波形の周波数f及び振幅Bを調整することができる。ここで、振幅Bは、最大注入速度と最小注入速度との差(最大流量と最少流量との差、最大注入圧力と最小注入圧力との差)となる。
【0025】
さらに、流量・圧力測定装置23は、注入管1によって対象地盤(地盤G)に注入される薬液の流量及び注入圧力を測定する装置である。この流量・圧力測定装置23で測定される流量値(L/min)から、対象地盤に注入された薬液の注入流量(注入速度)を把握することができる。
【0026】
また、流量・圧力測定装置23で測定される圧力値(kPa)から、地中圧力を推定することができる。例えば、流量・圧力測定装置23で測定される圧力値が上昇しているときには、対象地盤中の地中圧力も同じく上昇しているものと推定することができる。
【0027】
動的注入ポンプ2によって注入する薬液には、水ガラス系溶液型薬液、ベントナイト、超微粒子セメントを含有する高濃度微粒グラウト、粗粒分が混合されたモルタル系グラウトなどの、既知の薬液注入工法に使用される様々な種類の薬液が使用できる。
【0028】
また、注入される薬液には、その種類によって、二液を混合した直後に圧送させるもの、一液の状態のままで圧送させるものなどがある。
図2では、二液(A液、B液)を混合した直後に圧送する構成について説明する。
【0029】
動的注入ポンプ2には、薬液ミキサ3が接続される。この薬液ミキサ3の中で、二液(A液、B液)が混合される。すなわち、硬化材置き場31から搬送された硬化材(B液の原料)と、貯水槽32から送水された水と、貯液槽33から送られた溶液(A液)とを、薬液ミキサ3内で混合する。
【0030】
硬化材置き場31には、運搬車両311などによって現場に運ばれてきた硬化材が、適宜補給される。また、貯水槽32に溜められた水は、送水ポンプ321によって薬液ミキサ3に供給される。
【0031】
さらに、貯液槽33には、タンクローリ333などによって搬送されてきた溶液が貯留され、送液ポンプ331によって薬液ミキサ3に供給される。ここで、薬液ミキサ3に供給される溶液の量は、流量計332によって管理される。
【0032】
次に、本実施の形態の薬液注入工法について、順を追って説明する。
【0033】
まず、薬液注入を行う対象地盤における限界注入速度を求める。この限界注入速度とは、薬液注入工法においてこの値以下とすれば充分に改良効果が得られるといわれる値をいう。
【0034】
限界注入速度の決定方法は、様々な手法が提案されている。例えば、地盤Gに水注入を行う原位置試験(限界注入速度試験)の結果から求めることができる。
【0035】
図3に、限界注入速度試験を説明するための概念図を示した。地盤Gに対して水注入を行うと、最初は注入速度に比例して注入圧力が線形的に増加していくST1区間が現れる。このST1区間は、浸透注入が主体となっていると考えられ、この区間の初期勾配の直線をLN1とする。
【0036】
ST1区間に続くST2区間における注入速度と注入圧力の関係は、放物線状のなだらかなピークを迎えた後に、徐々に注入圧力が減少していく状態になる。この注入圧力の減少は、間隙水圧の高まりによって地盤Gに割裂が発生するためと考えられる。
【0037】
そこで、直線LN1の初期勾配の3割の勾配の直線LN2を原点から引き、曲線と交わる位置でST2区間とST3区間とに分ける。このST3区間は、割裂注入が主体となる区間となり、ST2区間は、浸透注入から割裂注入への遷移状態の区間となる。そして、ST2区間とST3区間の境界となる注入速度を、限界注入速度LS0として決定する。
【0038】
続いて、薬液の注入速度(又は注入流量)を増減させる振幅の最適な値を、薬液注入を行う対象地盤について決定する。この最適な振幅は、対象地盤に対して水注入による振幅の大きさを変化させた試験を行った結果に基づいて決定される。対象地盤ごとに、限界注入速度及び最適振幅を求めるようにすれば、地盤の不均一性を考慮することができるようになる。
【0039】
これらの試験を行うには、まず、
図2に示すように、ボーリングマシン4を使って、注入管1を地盤Gの所定の深度まで打ち込む。そして、この注入管1を使って、対象地盤に水を注入する限界注入速度試験を行って限界注入速度LS0を求める。
【0040】
さらに注入管1からは、経時的に注入速度を増減させる水注入試験が行われる。ここで、水の圧送に使用される配管の断面積が一定であれば、注入速度の変化は注入流量(L/min)の変化と同じになる。
【0041】
図4は、水注入試験の結果を概念的に示した説明図である。水注入試験は、平均注入速度S0を限界注入速度LS0に設定して行われる。また、注入速度を増減させる振幅Bは、時間tの経過とともに徐々に大きくなるようにする。
【0042】
一方、水注入中の地盤Gの地中圧力を示す注入圧力Pを流量・圧力測定装置23によって測定し、
図4の下部に示すように図示する。この図に示されているように、水注入を続けると、地盤Gの隙間に水が充填されていくので、徐々に注入圧力Pが上昇していくことになる。
【0043】
ところが、ある程度まで注入圧力Pが上昇すると、急激に圧力が低下する状況が発生する。これは、注入圧力Pの上昇によって、対象地盤に新たに割裂が発生して圧力が低下したものと考えられる。
【0044】
ここで、振幅Bを平均注入速度S0で無次元化した振幅係数αを定義する。すなわち振幅係数αは、次の式で示すことができる。
振幅係数=(最大注入速度−最小注入速度)/平均注入速度
すなわち、α=B/S0
【0045】
そして、急激に注入圧力Pが低下する直前の頂点となる注入圧力P1の発生時刻をt1とする。また、この時刻t1における最大注入速度S1と最小注入速度S2との差分を、この対象地盤の最適振幅B1とする。要するに、割裂注入が主体となる直前の振幅Bが、最適振幅B1となる。
【0046】
そこで、この最適振幅B1を、平均注入速度S0によって無次元化した値を、最適振幅係数α1とする。
最適振幅係数(α1)=最適振幅(B1)/平均注入速度(S0) (1)
【0047】
一方、振幅係数αと周波数fとをパラメータとする管理指標を、動的係数dとして定義する。
d=F(α,f)=α×f (2)
【0048】
図1は、砂質土地盤である対象地盤に薬液を注入して実験を行った結果を、整理した図である。この実験は、複数の対象地盤について行われた。また、動的注入だけでなく、比較のために静的注入(平均注入速度による一定速度注入)による実験も行った。
【0049】
砂質土地盤における薬液の注入効果の確認は、注入された薬液によって固結した地盤の体積に基づいて表される。ここで、動的注入によって形成された固結体積をVとし、静的注入によって形成された固結体積をV
0とする。
【0050】
そして、動的注入と静的注入の固結体積比RV(=V/V
0)を、各対象地盤において行われた実験結果として算出する。また、それぞれの固結体積Vの結果が得られたときの動的注入の振幅係数αと周波数fとを記録しておく。
【0051】
図1は、振幅係数αと周波数fとの積である動的係数dを横軸とし、動的注入と静的注入の注入効果の比較結果を示す固結体積比RVを縦軸として、動的係数dと固結体積比RVとの関係を示している。
【0052】
そこで、プロットされた実験結果に基づいて、最小二乗法により関係式を導くと、次のような式が導かれた。
RV=K・d+1=1.19d+1 (3)
【0053】
この
図1に示した結果から、静的注入と比べて動的注入の方が固結体積が大きくなることがわかる。すなわち、動的注入を行うことによって、薬液の浸透性が向上して、浸透範囲が広がるという注入効果が得られることがわかる。また、注入効果としても、d=0.168で約20%の固結体積の増加が見込めるというように、定量的な評価を行うことができる。
【0054】
一方、
図5は、粘性土地盤である対象地盤に薬液を注入して実験を行った結果を、整理した図である。この実験でも、動的注入だけでなく、比較のために静的注入による実験を行った。
【0055】
粘性土地盤における薬液の注入効果の確認は、注入された薬液によって地盤に形成された割裂脈の本数に基づいて表される。ここで、動的注入によって形成された割裂脈の本数をNとし、静的注入によって形成された割裂脈の本数をN
0とする。
【0056】
そして、動的注入と静的注入の割裂脈の本数比RN(=N/N
0)を、対象地盤において行われた実験結果として算出する。また、割裂脈の本数Nという結果が得られたときの動的注入の振幅係数αと周波数fとを記録しておく。
【0057】
図5は、振幅係数αと周波数fとの積である動的係数dを横軸とし、動的注入と静的注入の注入効果の比較結果を示す割裂脈の本数比RNを縦軸として、動的係数dと割裂脈の本数比RNとの関係を示している。
【0058】
そこで、プロットされた実験結果に基づいて、最小二乗法により関係式を導くと、次のような式が導かれた。
RN=K・d+1=14.6d+1 (4)
【0059】
この
図5に示した結果から、静的注入と比べて動的注入の方が割裂脈の本数が増加することがわかる。すなわち、動的注入を行うことによって、割裂脈数が多くなって、強固で均一の複合地盤が構築できるという注入効果が得られることがわかる。また、注入効果としても、d=0.027で約40%の割裂脈数の増加が見込めるというように、定量的な評価を行うことができる。
【0060】
そこで、このような定量的な評価を生かした薬液注入が行われる。まず、
図2に示すように、ボーリングマシン4を使って、注入管1を地盤Gの所定の深度まで打ち込む。図示されていないが、実際には面的な広がりをもって多数の注入管1,・・・が地盤Gに設置されることになる。
【0061】
そして、設置された注入管1を使って、地盤G中に薬液を注入することになる。この時点で、薬液の注入を行う対象地盤に対しては、上述したように最適振幅係数α1が判明している。
【0062】
一方、波形発生装置22では、通常、1Hz以下で周波数fを調整する。例えば、対象地盤が砂質土地盤で、水注入試験によって、限界注入速度が10(L/min)、最適振幅係数α1が0.5と決定されていたとする。
【0063】
これらの値を上式(1)に当てはめると、注入速度の最適振幅B1は5(L/min)となる。また、周波数fを0.1Hzに設定すると、動的係数dは0.05となる。この動的係数dを上式(3)に当てはめると、固結体積比RVは1.06となって、静的注入に比べて6%の注入効果の改善が図れることが判明する。
【0064】
ここで、注入管1,・・・の施工ピッチが、静的注入の注入効果に基づいて設計されていたとする。このような場合に、動的注入によって注入効果が6%向上すると定量的に示すことができれば、その分、施工ピッチを拡げることができるようになる。
【0065】
そして、注入管1からは、最適振幅B1によって経時的に注入速度を増減させた注入が行われる。ここで、薬液の圧送に使用される配管の断面積が一定であれば、注入速度の変化は注入流量(L/min)の変化と同じになる。
【0066】
このため、「注入速度で管理する」と「注入流量(吐出流量)で管理する」とは、同義とすることができる。このため注入速度は、流量・圧力測定装置23の測定値によって管理することができる。
【0067】
平均注入速度S0は、注入ポンプ21の回転数を変更することによって、調整することができる。この平均注入速度S0は、ここでは限界注入速度LS0=10(L/min)に設定する。
【0068】
一方、注入速度の増減は、波形発生装置22によって調整する。すなわち、最大注入速度S1と最小注入速度S2との差分を振幅(最適振幅B1=5(L/min))とした正弦波を、制御波形とする。また、波形発生装置22によって、周波数f(0.1Hz)の設定も行われる。
【0069】
次に、本実施の形態の薬液注入工法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の薬液注入工法は、平均注入速度S0と最適振幅B1との関係を無次元化した最適振幅係数α1と周波数fとを演算した動的係数dと注入効果との関係を利用して設定された条件で薬液注入を行う。
【0070】
このため、薬液の注入効果を定量的に把握することができる。薬液の注入効果が定量的に把握できれば、注入管1,・・・の施工ピッチを拡げるなど、注入効果の高い工法の利点を生かした実施を行うことができる。
【0071】
このような注入効果は、予め実験を行って、砂質土地盤であれば薬液によって固結した固結体積V又は固結体積比RVによって、定量的に示すことができる。また、粘性土地盤であれば薬液注入によって形成された割裂脈の本数N又は割裂脈の本数比RNという指標を使って、定量化しておくことができる。
【0072】
さらに、最適振幅B1を決定するに際して、対象地盤に対して水注入による振幅Bの大きさを変化させた試験を行うことによって、精度の高い注入効果の推定を行うことができるようになる。
【0073】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0074】
例えば、前記実施の形態では、注入速度で注入管理を行う場合について説明したが、これに限定されるものではなく、注入流量によっても同様に注入管理を行うことができる。
【0075】
また、前記実施の形態では、注入速度を正弦波で増減させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、矩形波形、鋸刃波形など様々な波形を制御波形とすることができる。
【0076】
さらに前記実施の形態では、動的係数dを振幅係数αと周波数fとの積として表したが、これに限定されるものではなく、振幅係数αと周波数fとを使って演算される関数F(α,f)であればよい。
【0077】
また、前記実施の形態では、薬液注入の対象地盤に対して水注入による試験を行うことで最適振幅B1及び最適振幅係数α1を決定する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、対象地盤と類似した地盤の結果がある場合には、その地盤から得られた値を使って最適振幅B1及び最適振幅係数α1を決定することもできる。