(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6475153
(24)【登録日】2019年2月8日
(45)【発行日】2019年2月27日
(54)【発明の名称】N型熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/16 20060101AFI20190218BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20190218BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20190218BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20190218BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20190218BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20190218BHJP
【FI】
H01L35/16
H01L35/34
C22C30/00
B22F1/00 C
B22F9/24 Z
B22F3/14 D
B22F3/14 101B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-247421(P2015-247421)
(22)【出願日】2015年12月18日
(65)【公開番号】特開2017-112308(P2017-112308A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(74)【代理人】
【識別番号】100180932
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】広納 慎介
(72)【発明者】
【氏名】小暮 智也
(72)【発明者】
【氏名】村井 盾哉
(72)【発明者】
【氏名】大川内 義徳
【審査官】
柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−195359(JP,A)
【文献】
特開2013−219116(JP,A)
【文献】
特開2013−175661(JP,A)
【文献】
特開2003−243732(JP,A)
【文献】
特開2015−056416(JP,A)
【文献】
特開2012−087007(JP,A)
【文献】
特開2015−066528(JP,A)
【文献】
Jasa Ram,Formation of randomly distributed nano-tubes, -rods and -plates of n-type and p-type bismuth telluride via molecular legation,Chemical Physics Letters,2015年 8月16日,Vol.635,Page.29-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/16
B22F 1/00
B22F 3/14
B22F 9/24
C22C 30/00
H01L 35/34
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
(a)式(1):
{Bi1−xSbx}2Te3 式(1)
[式中、xは、0.1≦x≦0.2を満たす]
で表される組成を有する、Bi、Sb及びTeを含む複合粒子を、260℃以下の温度にて調製するステップ;及び
(b)工程(a)で得られた複合粒子をソルボサーマル処理により合金化するステップ
を含むN型熱電変換材料の製造方法であって、
工程(b)において、ソルボサーマル処理をエタノール中で200〜300℃、3MPa以上で行う、上記方法。
【請求項2】
工程(a)において、100℃以下の温度で複合粒子を調製する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N型熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題から二酸化炭素排出量を削減するために、化石燃料から得られるエネルギーの割合を低減する技術への関心が益々増大しており、そのような技術の1つとして未利用廃熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換し得る熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換素子が挙げられる。熱電変換材料とは、火力発電のように熱を一旦運動エネルギーに変換しそれから電気エネルギーに変換する2段階の工程を必要とせず、熱から直接に電気エネルギーに変換することを可能とする材料である。
【0003】
熱から電気エネルギーへの変換は熱電変換材料から成形したバルク体の両端の温度差を利用して行われる。この温度差によって電圧が生じる現象はゼーベックにより発見されたのでゼーベック効果と呼ばれている。この熱電変換材料の性能は、次式で求められる性能指数Zで表される。
【0004】
Z=α
2σ/κ(=PF/κ) (κ=κ
el+κ
ph)
【0005】
ここで、αは熱電変換材料のゼーベック係数、σは熱電変換材料の伝導率、κは熱電変換材料の熱伝導率、κ
elはキャリア熱伝導率、κ
phは格子熱伝導率である。α
2σの項をまとめて出力因子PFという。そして、Zは温度の逆数の次元を有し、この性能指数Zに絶対温度Tを乗じて得られるZTは無次元の値となる。そしてこのZTを無次元性能指数と呼び、熱電変換材料の性能を表す指標として用いられている。よって、熱電変換材料の性能向上には上記の式から明らかなように、より低い熱伝導率κが求められる。
【0006】
従来、BiTe系熱電変換材料は、その製造工程や熱処理工程による材料の不均一化や組成ズレによる原子欠陥の生成が問題となっていた。この問題に対し、P型のBiTe系熱電変換材料については、Teをやや過剰に仕込むことにより、主に(Bi
0.5Sb
1.5)Te
3等の組成とすることが検討されており、これにより原子欠陥の生成を抑制して電気特性の低下を抑えることにより比較的安定した性能が得られている。
【0007】
N型のBiTe系熱電変換材料については、TeサイトへのSe置換をおこなったBi
2Te
3(+Seドープ)等の組成が一般的に検討されてきた。しかしながら、Bi
2Te
3(+Seドープ)は固溶域が広く、局所的に組成ズレが生じやすいため欠陥生成による電気特性の低下が生じやすいという問題があった。これに対し、高温熱処理による均一化により高い電気特性(PF)が得られても、当該処理により結晶粒粗大化が生じて熱伝導率が増加するため、良好な電気特性と低い熱伝導率とを両立させることは困難であった。また、N型のBiTe系熱電変換材料については、Seやハロゲンなどのドープ元素とともにSbを含む組成もN型材として検討されているが、Bi
2Te
3とSb
2Te
3擬2元系のN型材となるような組成においては液固相線が離れているために材料の均一化が困難であるという問題があった。尚、Bi
2Te
3とSb
2Te
3擬2元系の組成においては、液固相線が一致するSb
2Te
3=67at%近傍の組成が主にP型材料として検討されている。上述したような従来技術の例としては、TeサイトへのSe置換をおこなった熱電変換材料が開示される特許文献1、及び母材が(Bi
0.9Sb
0.1)Te
3であるN型熱電変換材料が開示される特許文献2等が挙げられる。
【0008】
しかしながら、上述したような理由により、BiTe系のN型熱電変換材料において電気特性を低下させずに熱伝導率を大幅に低減させることが困難であり、十分に性能を向上させることができなかった。
【0009】
したがって、優れた電気特性及び十分に低減された熱伝導率を有するBiTe系のN型熱電変換材料の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015−56416号公報
【特許文献2】特開2003−243732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、優れた電気特性及び十分に低減された熱伝導率を有するBiTe系のN型熱電変換材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、BiTe系熱電材料において、特定の組成を有する、Bi、Sb及びTeを含む複合粒子を、複合粒子の液相を生成させない低い温度で合成し、これをソルボサーマル処理により合金化することにより、優れた電気特性及び十分に低減された熱伝導率を有するBiTe系のN型熱電変換材料が得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)次の工程:
(a)式(1):
{Bi
1−xSb
x}
2Te
3 式(1)
[式中、xは、0.1≦x≦0.2を満たす]
で表される組成を有する、Bi、Sb及びTeを含む複合粒子を、260℃以下の温度にて調製するステップ;及び
(b)工程(a)で得られた複合粒子をソルボサーマル処理により合金化するステップ
を含むN型熱電変換材料の製造方法。
(2)工程(a)において、100℃以下の温度で複合粒子を調製する、上記(1)に記載の方法。
(3)工程(b)において、ソルボサーマル処理を200〜300℃、3MPa以上で行う、上記(1)又は(2)に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のN型熱電変換材料の製造方法によれば、優れた電気特性及び十分に低減された熱伝導率を有するBiTe系熱電変換材料をN型材料として得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1−4及び比較例1−9の熱電変換材料におけるSb置換量とゼーベック係数αとの関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1−4及び比較例1、2、7及び8の熱電変換材料におけるSb置換量と出力因子PFとの関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1−4及び比較例1、2、7及び8の熱電変換材料におけるSb置換量と格子熱伝導率κ
phとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のBiTe系のN型熱電変換材料の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)は、次の工程:
(a)式(1):
{Bi
1−xSb
x}
2Te
3 式(1)
[式中、xは、0.1≦x≦0.2を満たす]
で表される組成を有する、Bi、Sb及びTeを含む複合粒子を、260℃以下の温度にて調製するステップ;及び(b)工程(a)で得られた複合粒子の合成をソルボサーマル処理により合金化するステップを含むことを特徴とする。本発明者らは、Biの一部をSbで置換した上記組成を有する複合粒子を特定の温度で行い、当該複合粒子をソルボサーマル処理により合金化することにより、Sbとの合金化によるフォノン散乱効果及び微細結晶による粒界散乱効果をBiTe系のN型熱電変換材料に付与できることを見出した。本発明の製造方法により得られる熱電変換材料は、熱伝導率、特に格子熱伝導率κ
phが十分に低減されており、かつ、N型でありながら電気特性(PF)が向上されている。
【0017】
本発明の製造方法の工程(a)において、式(1)で表される組成を有するBi、Sb及びTeを含む複合粒子を調製する。工程(a)において使用するBi、Sb及びTeの前駆体の配合量を調整することにより複合粒子の組成を上記のものとすることができる。工程(a)により調製される複合粒子は、式(1)で表される組成を有し、Biが式(1)において特定されるような少量のSbにより置換されているために、N型特性が得られ、また、得られる熱電変換材料においてフォノンの合金散乱が増え、熱伝導率が低減される。一方、Sb添加量が多い場合にはキャリア散乱による移動度の低下及びホール生成が多くなるために電気特性が低下するものと考えられる。
【0018】
上記工程(a)における複合粒子の調製は、相分離を抑制し、微細な粒子を得る観点から、Bi−Sb−Te3元系にて液相が生成しない260℃以下の温度で行う。このような温度は、Bi−Sb−Te3元系状態図上、液相が生成しない260℃以下の範囲で適宜選択することができるが、例えば、100℃以下が好ましく、70℃以下がさらに好ましく、60℃以下が特に好ましい。このような低い温度で複合粒子を調製することにより得られる熱電変換材料において低い熱伝導率を達成することが可能となる。さらには、合成時にSbの副生成物が生成することにより得られる複合粒子の組成ズレを抑制するため、合成時の温度は、好ましくは60℃以下、さらに好ましくは30℃以下、特に好ましくは10℃以下とすることができる。
【0019】
上記複合粒子を調製する方法としては、複合粒子の液相を生成させない工程によるものであれば特に制限されないが、例えば、Bi、Sb及びTeの前駆体を溶解させた溶液に、複合粒子の液相を生成させない温度にて、還元剤を添加する方法(還元合成)が挙げられる。他に、上記複合粒子は、Bi、Sb前駆体(Bi、Sbのカチオン)を溶解させた溶液とTeのアニオンを含む溶液との混合等の方法により合成してもよい。
【0020】
複合粒子を還元合成する際、上記Bi、Sb及びTeの前駆体としては、溶媒に溶解するものであれば特に制限されず、具体的には上記元素の塩、好ましくは上記元素のハロゲン化物(例えば塩化物、フッ化物及び臭化物)、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、特に好ましくは塩化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。
【0021】
上記還元剤は、Bi、Sb及びTeの前駆体を還元し得るものであれば特に制限はなく、例えば第三級ホスフィン、第二級ホスフィン及び第一級ホスフィン、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドロキシフェニル化合物、水素、水素化物、ボラン、アルデヒド、還元性ハロゲン化物、多官能性還元体等が挙げられ、その中でも水素化ホウ素アルカリ、例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム等の物質の1種類以上が挙げられる。
【0022】
上記Bi、Sb及びTeの前駆体を溶解させる溶媒としては、元素の前駆体が溶解することができる限り特に制限されないが、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール及びオクタノールの中から選ばれる1種又は2種以上の混合物が挙げられ、これらの中で、後工程である工程(b)において蒸気圧が高いものを用いることが望ましいことから、エタノール及びメタノール等が好ましい。
【0023】
本発明の製造方法は、工程(b)として工程(a)で得られた複合粒子をソルボサーマル処理により比較的低温で合金化するステップを含む。工程(b)の熱処理を行うことにより、複合粒子の組織を均一化(合金化)し、原子欠陥を低減させて電気特性を向上させることができる。ソルボサーマル処理は、有機溶媒中において、高温及び高圧下で複数の原料物質を反応させて、反応生成物を得る技術である。
【0024】
工程(b)のソルボサーマル処理の温度としては、原子欠陥を低減させて電気特性を向上させる観点から比較的低温とすることが好ましく、具体的には、200〜300℃であることが好ましく、230〜300℃であることがさらに好ましい。ソルボサーマル処理の圧力としては、原子欠陥を低減させて電気特性を向上させる観点から高圧であることが好ましく、具体的には、3MPa以上であることが好ましく、3〜20MPaであることが好ましく、5〜15MPaであることがさらに好ましい。ソルボサーマル処理の圧力は、溶媒量と温度を調整することにより適宜調整することができる。
【0025】
また、ソルボサーマル処理の時間は、1〜24時間の範囲であることが好ましく、5〜24時間の範囲であることがより好ましく、8〜12時間の範囲であることがさらに好ましい。ソルボサーマル反応に使用される反応容器及び/又は反応制御装置等の手段は特に限定されない。本工程においては、オートクレーブのような当該技術分野でソルボサーマル反応に通常使用される装置を、反応容器及び反応制御装置として用いることができる。例えば、200〜250℃の範囲の温度でソルボサーマル反応させる場合、フッ素樹脂(例えばテフロン(登録商標))のような比較的安価な樹脂を用いたオートクレーブ装置を使用すればよく、250℃超かつ300℃以下の温度でソルボサーマル反応させる場合、ニッケル合金(例えばハステロイ(登録商標))のような耐熱・耐食合金を用いたオートクレーブ装置を使用すればよい。上記手段を用いることにより、特別な装置を準備することなく本工程のソルボサーマル反応を実施することができる。ソルボサーマル反応に使用される有機溶媒としては、蒸気圧が高いものが好ましく、例えば、エタノール若しくはメタノール又はそれらの混合物であることが好ましく、エタノール若しくはメタノール又はそれらの混合物であることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法は、上記工程(b)の後、複合粒子を含む溶液を乾燥させることが好ましい。乾燥方法としては、密閉容器中での不活性ガスフローが挙げられる。
【0027】
本発明の製造方法は、上記工程(b)の後に、構成元素を含有する熱電変換材料を焼結する焼結工程(c)を含むことができる。本工程により、上記熱電変換材料の一次粒子が凝集したバルク体の形態の熱電変換材料を形成させることができる。本工程において、上記熱電変換材料を焼結する手段は特に限定されない。例えば、放電プラズマ焼結(SPS焼結)法又はホットプレス法のような当該技術分野で通常使用される焼結手段を適用することができる。本工程は、SPS焼結法を用いて実施することが好ましい。上記手段によって上記熱電変換材料の一次粒子を焼結することにより、該一次粒子が凝集したバルク体の形態の熱電変換材料を形成させることができる。例えば、熱電変換材料を350℃〜400℃、50〜100MPa、10〜30分間SPS焼結(放電プラズマ焼結:Spark Plasma Sintering)することによって、熱電変換材料バルク体を得ることができる。SPS焼結は、パンチ(上部、下部)、電極(上部、下部)、ダイ及び加圧装置を備えたSPS焼結機を用いて行うことができる。また、焼結の際に、焼結機の焼結チャンバのみを外気から隔離して不活性の焼結雰囲気にしてもよくあるいはシステム全体をハウジングで囲んで不活性雰囲気にしてもよい。
【0028】
本発明の製造方法により得られる熱電変換材料は、通常は、微細粒径の粒子の形態であり、典型的には、ナノ粒子の形態である。一般に、約100nm超の平均粒径を有する合金粒子はサブマイクロ粒子と分類され、約100nm以下の平均粒径を有する合金粒子はナノ粒子と分類される。上記熱電変換材料は、通常は、300nm以下の平均粒径を有し、典型的には、200nm以下の平均粒径を有する。上記熱電変換材料は、通常は、50nm以上の平均粒径を有し、典型的には、70nm以上の平均粒径を有する。本発明の熱電変換材料は、上記平均粒径を有する微細粒径の粒子(以下、「一次粒子」とも記載する)を焼結等することによって得られるバルク体の形態であってもよい。
【0029】
本発明の製造方法により得られる熱電変換材料は、工程(b)の熱処理又は場合により行われる工程(c)の焼結処理により、式(2):
{Bi
1−xSb
x}
2Te
3+σ 式(2)
[式中、xは、0.1≦x≦0.2を満たし、σは、−0.1<σ<0.1を満たす]
で表される組成を有し得る。
【0030】
本発明の製造方法により得られる熱電変換材料は、好ましくは2.0mW/m/K
2以上、さらに好ましくは2.3mW/m/K
2以上の出力因子PFを有する。
【0031】
本発明の熱電変換材料は、好ましくは0.60W/mk以下、さらに好ましくは0.50W/mk以下、特に好ましくは0.45W/mk以下の格子熱伝導率κ
phを有する。
【0032】
本発明の製造方法により得られる熱電変換材料は、熱電変換素子に用いることができる。熱電変換素子は、得られた熱電変換材料を用いて、それ自体公知の方法によって、N型ナノコンポジット熱電変換材料、電極及び絶縁性基板を組み立てることによって得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。
【0034】
実施例1−4及び比較例1−9
[I:熱電変換材料の製造]
[実施例1]
(1)式(1):{Bi
0.9Sb
0.1}
2Te
3(x=0.1、すなわちSb置換量10%)となるように熱電変換材料を構成する元素の塩(塩化ビスマス、塩化テルル、塩化アンチモン)をエタノール中に溶解して溶液Aを得た。この溶液A中に還元剤(NaBH
4)を含むエタノール溶液Bを滴下して、約10℃の温度で熱電変換材料の原料粒子を還元析出させることにより、原料ナノ複合粒子を作製した。
【0035】
(2)合成したBi,Te,Sbナノ複合粒子を含むエタノール溶液の量を、エタノールを加えて250mlに調整し、500mlの耐圧容器中で6MPa、240℃で10時間熱処理を実施した。スラリーをろ過することにより試料粉末を回収し、不活性ガスフローにより乾燥粉末を得た。
【0036】
(3)上記合金粉末を焼結処理(350℃、70MPa、10分間)によりバルク化して焼結体を得た。
【0037】
[実施例2]
工程(1)において配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量とし、工程(2)の熱処理を表1に記載される条件で行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0038】
[実施例3]
工程(1)において配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量とし、工程(2)の熱処理を表1に記載される条件で行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0039】
[実施例4]
工程(1)において配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量とし、工程(2)の熱処理を表1に記載される条件で行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0040】
[比較例1]
工程(1)において配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量とし、工程(2)の熱処理を表1に記載される条件で行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0041】
[比較例2]
工程(1)において配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量とし、工程(2)の熱処理を表1に記載される条件で行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0042】
[比較例3]
工程(1)の還元合成の代わりに、配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量として高温溶解により複合粒子を作成し、また工程(2)の熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0043】
[比較例4]
工程(1)の還元合成の代わりに、配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量として高温溶解及び350℃アニール処理によるSeドープを行って複合粒子を作成し、また工程(2)の熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0044】
[比較例5]
工程(1)の還元合成の代わりに、配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量として高温溶解及び350℃アニール処理によるSeドープを行って複合粒子を作成し、また工程(2)の熱処理の代わりに400℃にて乾式熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0045】
[比較例6]
工程(1)において配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量とし、工程(2)の熱処理を表1に記載される条件で行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0046】
[比較例7]
工程(1)において配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量とし、工程(2)の熱処理を表1に記載される条件で行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0047】
[比較例8]
工程(1)において配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量とし、工程(2)の熱処理を表1に記載される条件で行った以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0048】
[比較例9]
工程(1)の還元合成の代わりに、配合する各原料の配合量を下の表1に記載される量として高温溶解により複合粒子を作成し、また工程(2)の熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
【0049】
[II:分析]
上記手順によって得られた実施例1−4及び比較例1−9の焼結体について、出力因子PF及び格子熱伝導率を測定した。
【0050】
<1.出力因子PFの算出>
熱電半導体の特性である出力因子PFを以下:
出力因子PF=(ゼーベック係数α)
2×電気伝導率σ
の式に基づき算出した。
【0051】
<2.格子熱伝導率の測定>
定常法熱伝導率評価法及びフラッシュ法(非定常法)(ネッチ社製フラッシュ法熱伝導率測定装置)による。
【0052】
格子熱伝導率κ
phは、全体の熱伝導率からキャリア熱伝導率(Kel)を差し引いて算出した。K
el=LσT(L:ローレンツ数、σ:電気伝導率(=1/比抵抗)、T:絶対温度)。
【0053】
<3.焼結体の元素組成の測定>
焼結体のICP分析により測定した。
装置:島津製作所製 ICPS−8000
分析結果を表1に示す。
【0054】
[III:結果]
実施例1−4及び比較例1−9の焼結体についての分析結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1及び
図1より、Sb置換量が10又は20%であり、低温合成及び低温高圧熱処理を行った実施例1−4の焼結体はN型特性を有することがわかる。
【0057】
表1及び
図2より、低温合成及び低温高圧熱処理を行った場合、Sb置換量が10又は20%である実施例1−4の焼結体は高い出力因子PFを有することがわかる。また表1及び
図3より、低温合成及び低温高圧熱処理を行った場合、Sb置換量が10又は20%である実施例1−4の焼結体は低減された格子熱伝導率κ
phを有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の製造方法により得られるN型熱電変換材料を用いた熱電変換素子は、自動車の排熱や地熱を用いた発電及び人工衛星用の電源に利用することができる。また、本発明の製造方法により得られるN型熱電変換材料を用いた熱電変換素子は、電化製品及び自動車等の温度調節素子に利用することができる。